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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】半導体光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20230411BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20230411BHJP
   H01S 5/50 20060101ALI20230411BHJP
   H01S 5/042 20060101ALI20230411BHJP
   H01S 5/10 20210101ALI20230411BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20230411BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20230411BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H01S5/026 618
H01S5/323
H01S5/50 610
H01S5/042 612
H01S5/10
G02B6/12 301
G02B6/125
G02B6/125 301
G02B6/12 371
G02B6/122 311
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019195931
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072299
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】八木 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小路 元
(72)【発明者】
【氏名】平谷 拓生
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健彦
(72)【発明者】
【氏名】新田 俊之
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509370(JP,A)
【文献】特表2018-527746(JP,A)
【文献】特開2009-238902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0141836(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0269800(US,A1)
【文献】特開2002-185082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの導波路を有するSOI基板と、
前記SOI基板に接合され、III-V族化合物半導体で形成され、光学利得を有する利得領域と、
前記SOI基板の上に設けられた第1電極および第2電極と、を具備し、
前記導波路は、屈曲部と、前記屈曲部を介して互いに接続され直線状に延伸する複数の直線部と、を含み、
前記利得領域は前記複数の直線部それぞれの上に位置し、
前記利得領域は、前記SOI基板側から順に積層されたn型半導体層、コア層、およびp型半導体層を有し、
前記n型半導体層、前記コア層、および前記p型半導体層はそれぞれIII-V族化合物半導体で形成され、
複数の前記利得領域はそれぞれ前記コア層および前記p型半導体層を有し、
前記n型半導体層は前記複数の利得領域に共有され、かつ前記複数の利得領域を電気的に接続し、
前記第1電極は前記n型半導体層に接続され、前記第2電極は前記p型半導体層に接続され、
前記第1電極は前記n型半導体層の上に設けられ、前記n型半導体層に接続される第1接続部および第1パッド部を有し、
前記第1接続部は前記複数の利得領域の間に位置し、
前記第1パッド部は前記第1接続部に接続され、前記第1接続部より大きな幅を有し、
前記第2電極は前記p型半導体層に接続される第2接続部および第2パッド部を有し、
前記第2接続部は前記複数の利得領域それぞれの前記p型半導体層の上に設けられ、
前記第2パッド部は前記第2接続部に接続され、前記第2接続部より大きな幅を有する半導体光素子。
【請求項2】
前記導波路の曲げ角度は90°以上である請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記屈曲部の両側に設けられる第1絶縁膜を具備する請求項1または請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記利得領域の側面を覆う第2絶縁膜を具備し、
前記利得領域の幅は前記導波路の幅よりも大きい請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記屈曲部の曲率半径は10μm以上である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記導波路は3つ以上の前記直線部を含み、
前記3つ以上の直線部のそれぞれの上に前記利得領域が位置する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記利得領域は前記導波路の上に位置するテーパ部を有する請求項1から請求項のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項8】
前記SOI基板は、前記導波路と光結合し、シリコンで形成された共振器を有する請求項1から請求項のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III-V族化合物半導体で形成された利得領域を、導波路を形成したSOI(Silicon On Insulator)基板(いわゆるシリコンフォトニクス)に接合する技術が知られている(例えば非特許文献1)。SOI基板にはシリコン(Si)で形成される導波路および共振器などを設ける。III-V族化合物半導体は直接遷移型であり、高い光学利得を有する。利得領域が出射する光をSOI基板の導波路で伝搬する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】M. A. Tran et al. “Ultra-low Noise Widely-Tunable Semiconductor Lasers Fully Integrated on Silicon”, Compound Semiconductor Week 2019, TuA3-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スペクトル線幅を狭くしレーザ光の単色性を高め、かつ高出力化するためには、長い利得領域が有効である。しかし利得領域が長くなることで半導体光素子も大型化してしまう。そこで、良好な特性が得られ、かつ小型化が可能な半導体光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る半導体光素子は、シリコンの導波路を有するSOI基板と、前記SOI基板に接合され、III-V族化合物半導体で形成され、光学利得を有する利得領域と、を具備し、前記導波路は、屈曲部と、前記屈曲部を介して互いに接続され直線状に延伸する複数の直線部と、を含み、前記利得領域は前記複数の直線部それぞれの上に位置するものである。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば良好な特性が得られ、かつ小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(a)は実施例1に係る半導体光素子を例示する平面図である。図1(b)は利得領域付近を拡大した平面図である。
図2図2(a)から図2(d)は半導体光素子を例示する断面図である。
図3図3は比較例に係る半導体光素子を例示する平面図である。
図4図4(a)は実施例2に係る半導体光素子を例示する平面図であり、図4(b)は半導体光素子を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0009】
本願発明の一形態は、(1)シリコンの導波路を有するSOI基板と、前記SOI基板に接合され、III-V族化合物半導体で形成され、光学利得を有する利得領域と、を具備し、前記導波路は、屈曲部と、前記屈曲部を介して互いに接続され直線状に延伸する複数の直線部と、を含み、前記利得領域は前記複数の直線部それぞれの上に位置する半導体光素子である。導波路を曲げることで半導体光素子を小型化することができる。また、複数の利得領域によって狭いスペクトル線幅および高い出力など良好な特性を得ることができる。
(2)前記導波路の曲げ角度は90°以上でもよい。半導体光素子を小型化することができる。
(3)前記屈曲部の両側に設けられる第1絶縁膜を具備してもよい。屈曲部と第1絶縁膜との屈折率差が大きく、光閉じ込めが強い。したがって屈曲部における光の損失は抑制される。
(4)前記利得領域の側面を覆う第2絶縁膜を具備し、前記利得領域の幅は前記導波路の幅よりも大きくてもよい。導波路と比較して、横方向における利得領域の光閉じ込めは弱い。利得領域が直線部に設けられ、屈曲しないため、光の損失が抑制される。
(5)前記屈曲部の曲率半径は10μm以上でもよい。これにより半導体光素子を小型化することができる。
(6)前記導波路は3つ以上の前記直線部を含み、前記3つ以上の直線部のそれぞれの上に前記利得領域が位置してもよい。これにより良好な特性を得ることができ、かつ小型化が可能である。
(7)前記SOI基板の上に設けられた第1電極および第2電極を具備し、前記利得領域は、前記SOI基板側から順に積層されたn型半導体層、コア層、およびp型半導体層を有し、前記n型半導体層、前記コア層、および前記p型半導体層はそれぞれIII-V族化合物半導体で形成され、前記第1電極は前記n型半導体層に接続され、前記第2電極は前記p型半導体層に接続されてもよい。第1電極および第2電極を用いてコア層にキャリアを注入することができる。
(8)複数の前記利得領域はそれぞれ前記コア層および前記p型半導体層を有し、前記n型半導体層は前記複数の利得領域に共有され、かつ前記複数の利得領域を電気的に接続し、前記第1電極は前記n型半導体層の上に設けられ、前記n型半導体層に接続される第1接続部および第1パッド部を有し、前記第1接続部は前記複数の利得領域の間に位置し、前記第1パッド部は前記第1接続部に接続され、前記第1接続部より大きな幅を有し、前記第2電極は前記p型半導体層に接続される第2接続部および第2パッド部を有し、前記第2接続部は前記複数の利得領域それぞれの前記p型半導体層の上に設けられ、前記第2パッド部は前記第2接続部に接続され、前記第2接続部より大きな幅を有してもよい。第1電極および第2電極を用いてコア層にキャリアを注入することができる。また、第1接続部および第2接続部により電気抵抗を低くすることができる。
(9)前記利得領域は前記導波路の上に位置するテーパ部を有してもよい。利得領域と導波路との間で光結合の効率を高めることができる。
(10)前記SOI基板は、前記導波路と光結合し、シリコンで形成された共振器を有してもよい。共振器により光の波長を選択することができる。
【0010】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明の実施形態に係る半導体光素子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例1】
【0011】
図1(a)は実施例1に係る半導体光素子100を例示する平面図である。図1(b)は利得領域付近を拡大した平面図である。図2(a)から図2(d)は半導体光素子100を例示する断面図である。
【0012】
図1(a)および図1(b)に示すように、半導体光素子100は、基板10および利得領域20を有し、シリコンフォトニクスを用いたハイブリッド型の波長可変レーザ素子である。基板10の表面には3つの利得領域20、2つのリング共振器19、電極17、30および32が設けられている。半導体光素子100の表面は不図示の絶縁膜に覆われる。
【0013】
図2(a)に示すように、利得領域20は導波路11の上に位置し、順に積層されたn型半導体層22、コア層24およびp型半導体層26を有する。図2(a)から図2(d)に示すように、基板10は順に積層された基板12、酸化シリコン(SiO)層14、シリコン(Si)層16を含むSOI基板である。SiO層14の厚さは例えば2μmである。Si層16の厚さは例えば220nmである。基板10のうちSi層16には図1(a)に示す導波路11、リング共振器19が設けられている。基板10の端面には光の反射を防止するコーティングを施す。半導体光素子100のX軸方向の長さL1は例えば1700μmであり、Y軸方向の長さL2は例えば600μmである。
【0014】
図1(a)および図1(b)に示すように、導波路11は屈曲部11aおよび直線部11bを有する。屈曲部11aは例えば半円弧状である。屈曲部11aは、クロソイド曲線やレイズドコサイン曲線を組み合わせた形状でもよい。屈曲部11aの両端から1つずつ直線部11bがX軸方向に延伸する。3つの直線部11bはY軸方向に並び、互いに離間し、屈曲部11aを介して互いに接続される。すなわち、基板10のうち2つのリング共振器19に挟まれた領域に、屈曲部11aにおいて180°屈曲した導波路11が配置される。
【0015】
3つの直線部11bのうち+Y側のものは基板10の-X側端部付近で2つに分岐する。当該2つの導波路11はリング共振器19に光結合し、基板10の-X側端部に到達する。3つの直線部11bのうち-Y側のものは基板10の+X側端部付近で2つに分岐する。当該2つの導波路11はリング共振器19に光結合し、基板10の+X側端部に到達する。3つの直線部11bのうち中央のものの両端は屈曲部11aに接続される。
【0016】
3つの直線部11bそれぞれの上に利得領域20が接合され、屈曲部11aの上には接合されない。1つの利得領域20は1つの直線部11bに重なり、かつ光結合する。利得領域20は直線部11bと同様にX軸方向に延伸する直線形状を有する。利得領域20のX軸方向の長さL3は例えば800μmである。
【0017】
電極30はn型のオーミック電極であり、パッド30aおよび3つの接続部30bを有する。電極32はp型のオーミック電極であり、パッド32aおよび3つの接続部32bを有する。パッド30aは3つの利得領域20の-Y側に位置する。接続部30bはパッド30aに電気的に接続され、利得領域20に隣接しかつ離間し、X軸方向に延伸する。パッド32aは3つの利得領域20の+Y側に位置する。接続部32bはパッド32aに電気的に接続され、利得領域20の上に配置され、X軸方向に延伸する。
【0018】
電極30は例えば金、ゲルマニウムおよびNiの合金(AuGeNi)などの金属で形成される。電極32は例えば例えばチタン、白金および金の積層体(Ti/Pt/Au)である。電極30および32の厚さは例えば1μmである。パッド30aおよび32aそれぞれのY軸方向の幅は例えば100μm以上である。接続部30bの幅は例えば15μmである。電極30および32にAuのメッキ層などを設けてもよい。電極17はリング共振器19の上に設けられ、例えばTiなどの金属で形成される。
【0019】
図1(b)に示すように利得領域20およびn型半導体層22はテーパ部21および23をそれぞれ有する。テーパ部21および23はX軸方向に沿って先細りであり、導波路11の上に位置する。テーパ部21はn型半導体層22のX軸方向の端部に設けられている。テーパ部23はテーパ部21よりも上側、かつ利得領域20のコア層24およびp型半導体層26のX軸方向の端部に設けられている。テーパ部21および23それぞれの長さは例えば150μm、先端の幅は0.4μmである。利得領域20の-X側端部側にもテーパ部21および23が設けられる。
【0020】
図2(a)は図1(a)の線A-Aに沿った断面図である。図2(b)は図1(a)の線B-Bに沿った断面図である。図2(c)は図1(a)の線C-Cに沿った断面図である。図2(d)は図1(a)の線D-Dに沿った断面図である。
【0021】
図2(a)に示すように、基板10のSi層16に導波路11および溝13が設けられる。1つの導波路11のY軸方向の両側に溝13が位置する。導波路11の幅W2および溝13の幅はそれぞれ例えば1μmである。溝13においてSiO層14が露出してもよいし、Si層16が溝13の底面を形成してもよい。導波路11の利得領域20と重なる部分では、導波路11の側面は空気に露出する。
【0022】
基板10の表面に絶縁膜34が設けられている。図2(b)から図2(d)に示すように、導波路11のうち利得領域20と重ならない部分は絶縁膜34に覆われ、両側は絶縁膜34で埋め込まれる。図2(b)および図2(c)に示すように、パッド30aおよび32aと導波路11との間には絶縁膜34が介在し、パッドと導波路11とは接触しない。図2(d)に示すように、導波路11の屈曲部11aの側面および上面は絶縁膜34で覆われる。屈曲部11aはパッドに重ならなくてもよいし、重なってもよい。
【0023】
図2(a)に示すように、利得領域20は導波路11の上に位置し、順に積層されたn型半導体層22、コア層24およびp型半導体層26を有する。1つの利得領域20におけるコア層24およびp型半導体層26のY軸方向の幅W1は例えば2μmである。n型半導体層22は3つの導波路11の上にわたって設けられ、3つの利得領域20に共有される。3つの利得領域20はn型半導体層22により電気的に接続される。コア層24およびp型半導体層26の側面は絶縁膜28で覆われる。絶縁膜28間の距離D1は例えば20μmである。
【0024】
n型半導体層22は例えば厚さ0.3μmのn型インジウムリン(n-InP)で形成される。コア層24は例えばノンドープのガリウムインジウム砒素リン(i-GaInAsP)で形成された複数の井戸層およびバリア層を含み、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)を有する。コア層24の厚さは例えば0.3μmである。p型半導体層26は例えば厚さ2μmのp-InPで形成される。p型半導体層26はp-InPの上部にp型ガリウムインジウム砒素(p-GaInAs)の層をさらに含んでもよい。絶縁膜28および34は例えばSiOなどの絶縁体で形成される。絶縁膜28の厚さは例えば0.5μmであり、絶縁膜34の厚さは例えば1.5μmである。
【0025】
図2(a)に示すように、パッド30aおよび接続部30bはn型半導体層22の表面に設けられ、n型半導体層22に電気的に接続される。図2(b)および図2(c)に示すように、パッド30aおよび32aは絶縁膜34の表面に位置し、導波路11から離間する。図2(a)に示すように、接続部32bはp型半導体層26の表面に設けられ、p型半導体層26に電気的に接続される。
【0026】
各利得領域20はZ軸方向に沿ってpin構造を有している。電極30および32に電圧を印加することで、3つの利得領域20のコア層24にキャリアを注入し、光を出射させる。光は導波路11を伝搬しリング共振器19に入射する。リング共振器19は光の一部を利得領域20側に反射させ、一部を透過させる。基板10の端部に達する4つの導波路11のうちいずれか1つから光を出射することができる。2つのリング共振器19の半径は互いに異なり、反射スペクトルも異なる。2つのリング共振器19の反射ピークが一致する波長が発振波長となる。電極17は電力の入力により発熱するヒータとして機能する。電極17によりリング共振器19の温度を変化させることで、リング共振器19の屈折率を変化させ、発振波長を例えば40nmの範囲内で可変とする。発振波長は例えば1550nm±20nmである。
【0027】
半導体光素子100の製造方法を説明する。ウェハ状の基板10の表面に導波路11およびリング共振器19を形成する。基板10には変調器などの光回路を設けてもよい。化合物半導体のウェハに有機金属気相成長法(OMVPE:Organometallic Vapor Phase Epitaxy)などでp型半導体層26、コア層24およびn型半導体層22を順にエピタキシャル成長する。ウェハを切断して複数の小片を形成する。例えば小片および基板10の表面にプラズマを照射することで活性化し、小片を基板10に接合する。小片にエッチングを行い図1(a)および図2(a)に示すような利得領域20を形成する。ウェハをダイシングし、複数の半導体光素子100を取得する。
【0028】
図3は比較例に係る半導体光素子100Cを例示する平面図である。半導体光素子100Cの導波路11は屈曲部を有さず、X軸方向に延伸し、リング共振器19に光結合する。半導体光素子100Cは1つの利得領域40を有する。
【0029】
スペクトル線幅を狭くし、かつ高い光出力を得るためには利得領域40を長くする。例えば実施例1の3つの利得領域20と同程度のスペクトル線幅および光出力を1つの利得領域40で得るため、利得領域40の長さL6は実施例1における長さL3より長く、例えば2400μmである。長い利得領域40を搭載するため、基板10のX軸方向の長さL4は実施例1の長さL1より大きく、例えば3300μmである。基板10のY軸方向の長さL5は例えばL2と同じく600μmである。このように比較例においては半導体光素子100Cが大型化する。この結果、1つのウェハから得られる半導体光素子の個数が少なくなり、コストが増加する。
【0030】
一方、実施例1によれば、導波路11は屈曲部11aおよび直線部11bを含む。3つの直線部11bのそれぞれに利得領域20を接合する。3つの利得領域20により、1つの長い利得領域40と同程度に狭いスペクトル線幅および高い光出力を得ることができる。導波路11が屈曲しているため、半導体光素子100を小型化することができる。
【0031】
図1(a)および図1(b)に示すように導波路11は屈曲部11aにおいて180°折り返し、ジグザグ状である。これにより基板10上に3つの直線部11bを並列させることができる。直線部11bと同じく、3つの利得領域20が並列する。この結果、半導体光素子100を効果的に小型化することができる。具体的には、1つの利得領域20の長さL3は利得領域40の長さL6の1/3程度である。半導体光素子100のX軸方向の長さL1を比較例の長さL4の半分程度にすることができる。したがって半導体光素子100の大きさを比較例の50%程度まで小さくすることができる。1つのウェハから得られる半導体光素子100の個数を1.4倍などに増加させることができ、コストの低下が可能となる。
【0032】
導波路11はSiで形成される。図2(a)に示すように導波路11のうち利得領域20に重なる部分の両側は空気に露出する。図2(b)から図2(d)に示すように導波路11の他の部分は絶縁膜34に露出する。Siの屈折率はおよそ3.5であり、空気の屈折率は1であり、SiOの絶縁膜34の屈折率はおよそ1.5である。導波路11と外側との屈折率差が大きく、導波路11の光閉じ込めは強い。したがって屈曲部11aを含む導波路11における光の損失は小さい。
【0033】
屈曲部11aの両側の絶縁膜34はSiO以外にSiN(xは組成を表す)、ポリマーなど絶縁体で形成されてもよい。光閉じ込めを強めるため、Siとの屈折率差が大きな絶縁膜であることが好ましい。屈曲部11aの両側は空気に露出してもよい。導波路11のうち利得領域20に重なる部分の両側は絶縁膜34に埋め込まれてもよい。
【0034】
屈曲部11aの曲率半径は例えば50μmであり、直線部11b間の距離を小さくすることができる。このため半導体光素子100の効果的な小型化が可能である。曲率半径は50μm以下、30μm以下、20μm以下でもよく、10μm以上である。曲率半径を小さくすることで小型化が可能である。また、導波路11の光閉じ込めが強いため、曲率半径が小さくても光の損失は抑制される。
【0035】
一方、利得領域20はIII-V族化合物半導体で形成される。III-V族化合物半導体の屈折率はSiに比べて低く、利得領域20と側面の絶縁膜28との屈折率差が、Siと絶縁膜との屈折率差に比べて小さい。横方向の光閉じ込めが弱いため、利得領域20を小さい曲率半径で曲げると光の損失が増加してしまう。実施例1では利得領域20を直線状とし、導波路11を屈曲させる。これにより光の損失を抑制する。
【0036】
利得領域20のコア層24およびp型半導体層26を幅の細いハイメサ構造とし側面を屈折率の小さい空気に露出させれば、小さい曲率半径での曲げによる損失増加を抑制することができる。しかし導波路11と同程度まで細く加工したハイメサ構造のコア層24は、長期間キャリア注入を続けたときの経時劣化が起こりやすい。空気に露出する利得領域20もMQWの側面からの経時劣化が起こりやすい。実施例1の利得領域20の幅は導波路11より大きく、側面を絶縁膜28で覆うため経時劣化が起こりにくい。その一方で、横方向の光閉じ込めが弱く、曲げによる損失は大きくなる。光の損失増加を抑制するためには、曲率半径が200μm以上になってしまい、小型化が困難である。実施例1では、光閉じ込めの強い導波路11を屈曲させ、かつ複数の利得領域20を直線状とすることで、光の損失の抑制と小型化の両立させることができる。
【0037】
利得領域20はn型半導体層22、コア層24およびp型半導体層26を有するpin構造である。電極30および32に電圧を印加することでコア層24にキャリを注入し、発光させることができる。
【0038】
n型半導体層22は3つの利得領域20に共有される。電極30のパッド30aおよび接続部32bはn型半導体層22に接続されるパッド30aおよび接続部30bに設けられる。電極32はパッド32aおよび接続部32bを有する。接続部32bは各利得領域20の上に位置し、p型半導体層26に接続される。それぞれ一つのパッド30aおよび32aの間に電圧を印加することで、複数の利得領域20のそれぞれにキャリアを注入し、発光させることができる。利得領域20のそれぞれに一対のパッド30aおよび32aを設ける場合に比べて、半導体光素子100を小型化することができる。
【0039】
利得領域20の間に金属の接続部30bを設け、かつ基板10上に幅広のパッド30aおよび32aを設ける。これにより放熱性が向上し、電気抵抗も低減される。なお、図2(a)に示すように電極30のパッド30aはn型半導体層22に接続されている。したがって利得領域20に隣接して延伸する接続部30bは設けなくとも、利得領域20の発光は可能である。
【0040】
金属の電極30および32に光が乗り移ると、光が大きく損失する。電極30および32は導波路11に接触させないことが好ましい。図2(b)および図2(c)に示すように、導波路11を絶縁膜34で覆い、電極との接触を防ぐ。
【0041】
利得領域20およびn型半導体層22が、先端の幅が0.4μmと細いテーパ部21および23をそれぞれ有するため、利得領域20と導波路11との光結合の効率は90%以上まで向上する。利得領域20およびn型半導体層22はテーパ部21および23を有さなくてもよいし、いずれか一方がテーパ部を有してもよい。テーパ部を省略すると光結合の効率は低下するが、細い先端の加工を省略できるため製造は容易になる。
【0042】
直線部11bおよび利得領域20の数はそれぞれ3つでもよいし、2つでもよいし、4つ以上でもよい。これらの数を増やすことで半導体光素子100をより小型化することができる。ただし、結合効率が90%の場合であっても、利得領域20と導波路11との結合部分では光がロスする。このため直線部11bおよび利得領域20の数を増やすほど結合部分も増加し、光の損失も増大する。小型化と光の損失の抑制を両立するように、直線部11bおよび利得領域20の数を定める。導波路11はリング共振器19と光結合する。このため小型化した半導体光素子100において波長を選択することができる。リング共振器19の代わりに、波長選択のために、シリコンの導波路11で形成された回折格子型の分布反射器を設けてもよい。また、2本の導波路11を、基板10の+X側の端部に到達させる代わりに、ループミラー導波路などの光を戻す屈曲した導波路に接続させてもよい。
【実施例2】
【0043】
図4(a)は実施例2に係る半導体光素子200を例示する平面図である。図4(b)は半導体光素子200を例示する断面図であり、図4(a)の線E-Eに沿った断面を示す。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
【0044】
図4(a)に示すように、導波路11は2つの屈曲部11aおよび3つの直線部11bを有する。屈曲部11aは円弧の1/4に相当し、両端に直線部11bが接続される。導波路11の曲げ角度は90°である。3つの直線部11bのうち2つはX軸方向に延伸する。当該2つの直線部11bの一端は基板10の-X側端部付近でリング共振器19と光結合し、他端は屈曲部11aに接続する。3つの直線部11bのうち1つはY軸方向に延伸する。当該1つの直線部11bの両端は屈曲部11aに接続される。3つの直線部11bのそれぞれに直線形状の利得領域20が接合される。屈曲部11aには利得領域20が接合されない。
【0045】
図4(a)に示すように基板10上の3つの直線部11bに囲まれた位置に電極30および32が設けられている。図4(b)に示すように電極32は電極30よりも+X側に位置し、絶縁膜34の上から利得領域20の上にかけて設けられる。実施例2によれば、導波路11を90°屈曲させることで、実施例1と同様に半導体光素子200の大きさを比較例の50%程度まで小さくすることができる。
【0046】
実施例1の導波路11は180°屈曲し、X軸方向に往復する形状を有する。実施例2の導波路11は90°屈曲し、X軸方向およびY軸方向に延伸するU字形状を有する。導波路11はこれら以外の形状を有してもよい。半導体光素子を小型化するため、導波路11の曲がる角度は90°以上であることが好ましい。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10、12 基板
11 導波路
11a 屈曲部
11b 直線部
13 溝
14 SiO
16 Si層
17、30、32 電極
19 リング共振器
20 利得領域
21、23 テーパ部
22 n型半導体層
24 コア層
26 p型半導体層
30a、32a パッド
30b、32b 接続部
28、34 絶縁膜
100、200 半導体光素子
図1
図2
図3
図4