(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】強化繊維マットならびに繊維強化樹脂成形材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20230411BHJP
D06M 15/59 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08J5/06 CFG
C08J5/06 CER
C08J5/06 CEZ
D06M15/59
(21)【出願番号】P 2019512690
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001219
(87)【国際公開番号】W WO2019146484
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018011437
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018011449
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】舘山 勝
(72)【発明者】
【氏名】布施 充貴
(72)【発明者】
【氏名】平野 宏
(72)【発明者】
【氏名】松井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】浦 和麻
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221657(WO,A1)
【文献】特開2014-205354(JP,A)
【文献】特開2013-127420(JP,A)
【文献】国際公開第2011/089929(WO,A1)
【文献】特開2013-104156(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115337(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
D04H 1/00-18/04
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂で被覆された平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維束からなり、前記強化繊維束の束内繊維数が86本以上の束の重量割合が99重量%を超え100重量%以下、束内平均繊維数が50本以上2,000本以下、単位幅あたりの単糸数が500本/mm以上1,600本/mm以下、ドレープ値が120mm以上240mm以下であることを特徴とする、強化繊維マット。
【請求項2】
前記強化繊維束の束硬度が39g以上200g以下であることを特徴とする、請求項
1に記載の強化繊維マット。
【請求項3】
前記強化繊維束の平均束厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることを特徴とする、請求項1
または2に記載の強化繊維マット。
【請求項4】
前記強化繊維束の平均束幅が0.03mm以上3mm以下であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載の強化繊維マット。
【請求項5】
前記強化繊維束の幅変化率W2/W1が0.5以上1.1以下であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれかに記載の強化繊維マット。
【請求項6】
前記強化繊維束のサイジング剤付着量が0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の強化繊維マット。
【請求項7】
前記強化繊維束の切断角度θが、3°以上30°以下である、請求項1~
6のいずれかに記載の強化繊維マット。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の強化繊維マットおよび熱可塑性樹脂からなることを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学特性と複雑形状成形性、生産性に優れる、強化繊維マットおよび繊維強化樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材料(CFRP)は比強度・比剛性に優れており、近年、自動車部材向けのCFRPの開発も活発化している。
【0003】
CFRPの自動車への適用例としては、航空機やスポーツ材料で実績のある熱硬化性樹脂を用いたプリプレグ、レジントランスファーモールディング(RTM)、フィラメントワインディング(FW)による部材が上市されている。一方、熱可塑性樹脂を用いたCFRPは、高速成形が可能で、リサイクル性に優れることから、量産車向け材料として注目されている。その中でもプレス成形は生産性が高く、複雑な形状や大面積の成形にも対応できることから、金属成形の代替としての期待が高まっている。
【0004】
プレス成形に用いる中間基材は、不連続強化繊維を用いたシート状の材料が主流である。代表的なものとして、シートモールディングコンパウンド(SMC)、ガラスマットサーモプラスチック(GMT)がある(特許文献1、特許文献2)。いずれの中間基材も金型キャビティ内で材料が流動して充填される、いわゆるフロースタンピング成形に用いられ、比較的長い強化繊維がチョップドストランド状および/またはスワール状になって熱可塑樹脂中に分散した形態をとる。単糸数が多い繊維束からなるため、成形の際の流動性には優れるが成形品の力学特性に劣る傾向がある。また生産コスト低減や生産性向上のため、強化繊維束を連続的に供給する、中間基材の連続生産が要求されている。
【0005】
力学特性と流動性の両立を図ったものとして、繊維長や濃度パラメータの異なるシートからなる多層構造の成形材料(特許文献3)がある。また、力学特性と流動性に優れる成形材料の構成材料となる分繊処理区間と未分繊処理区間を含む繊維束(特許文献4)がある。繊維束の厚みや幅等を調整することで力学特性を高めた成形材料(特許文献5)がある。このように力学特性と成形の際の流動性をバランス良く両立させるための改善が進められているが、さらなる向上が要求されている。また、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の品位や連続生産性の向上が重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-141502号公報
【文献】特開2003-80519号公報
【文献】特許第5985085号公報
【文献】国際公開WO2016/104154号
【文献】特許第5512908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記要求に鑑み、生産性に優れた繊維強化樹脂成形材料であって、かかる繊維強化樹脂成形材料を用いた成形体には高い力学特性を付与でき、さらに成形時の流動性に優れる強化繊維マットおよび繊維強化樹脂成形材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記課題を解決することができる強化繊維マットおよび繊維強化樹脂成形材料を発明するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1] 平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維束からなり、前記強化繊維束の束内繊維数が86本以上の束の重量割合が99重量%を超え100重量%以下であることを特徴とする、強化繊維マット。
[2]前記強化繊維束の単位幅あたりの単糸数が500本/mm以上1,600本/mm以下、ドレープ値が120mm以上240mm以下であることを特徴とする、前記強化繊維マット。
[3] 前記強化繊維束にエポキシ樹脂が被覆されていることを特徴とする、前記強化繊維マット。
[4] 前記強化繊維束にポリアミド樹脂が被覆されていることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[5] 前記強化繊維束の束硬度が39g以上200g以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[6] 前記強化繊維束の平均束厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[7] 前記強化繊維束の平均束幅が0.03mm以上3mm以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[8] 前記強化繊維束の幅変化率W2/W1が0.5以上1.1以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[9] 前記強化繊維束のサイジング剤付着量が0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[10] 前記強化繊維束の束内平均繊維数が50本以上4,000本以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[11] 前記強化繊維束の切断角度θが、3°以上30°以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の強化繊維マット。
[12] 前記いずれかに記載の強化繊維マットおよび熱可塑性樹脂からなることを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
[13] 熱可塑性樹脂および強化繊維束を含み、空隙率が5体積%以上30体積%以下であり、前記強化繊維束は、単位幅あたりの単糸数が500本/mm以上1600本/mm以下、ドレープ値が120mm以上240mm以下の強化繊維束であることを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
[14] 下記工程[A]~[D]を含むことを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
[A]単位幅あたりの単糸数が500本/mm以上1600本/mm以下、ドレープ値が120mm以上240mm以下の強化繊維束のマット基材を作製する工程。
[B]熱可塑性樹脂を前記マット基材上に散布、あるいは、積層する工程。
[C]前記熱可塑性樹脂を溶融する工程。
[D]溶融した前記熱可塑性樹脂を、完全樹脂含浸時の基材厚みより5%以上厚い盤面間で冷却・固化する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、力学特性と成形時の流動性、生産性に優れる強化繊維マットおよび繊維強化樹脂成形材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様に係る強化繊維マットを構成する強化繊維束を示す平面図である。
【
図2】本発明の他の実施態様に係る強化繊維マットを構成する強化繊維束を示す平面図である。
【
図3】部分分繊繊維束の製造方法におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図4】繊維束拡幅工程を含む部分分繊繊維束の製造方法におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図5】部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図6】部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示す工程図である。
【
図7】繊維束拡幅工程を含む部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図8】繊維束拡幅工程を含む部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
強化繊維の種類としては制限がないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維が好ましい。なかでも炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、繊維強化樹脂の軽量化効果の観点から好ましく使用でき、これらは1種または2種以上を併用しても良い。中でも、得られる繊維強化樹脂の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。
【0012】
強化繊維の単繊維径は0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。また、強化繊維の単繊維径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度は3.0GPa以上が好ましく、4.0GPa以上がより好ましく、4.5GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド弾性率は200GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましく、240GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度または弾性率がそれぞれ、この範囲であれば、本発明の強化繊維マットと樹脂からなる成形品の力学特性を高めることができる。
【0013】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束内の平均繊維数の上限は4,000本以下が好ましく、3,000本以下がより好ましく、2,000本以下がさらに好ましい。この範囲であれば強化繊維マットの力学特性を高めることができる。また束内平均繊維数下限は50本以上が好ましく、100本以上がより好ましく、200本以上がさらに好ましい。この範囲であれば本発明の強化繊維マットと樹脂からなる成形材料の流動性を高めることができる。平均繊維数の導出方法は後述する。
【0014】
本発明の強化繊維マットを構成する強化繊維に付着されるサイジング剤は特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。水溶性ポリアミドを主成分として含有している強化繊維の水溶性集束剤とする場合、水溶性ポリアミドは主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとカルボン酸より重縮合して得られるポリアミド樹脂であり、前記ジアミンとして、ピペラジン環を有するN、N′-ビス(γ―アミノプロピル)ピペラジン、N-(β―アミノエチル)ピペラジン等主鎖中に三級アミノ基を含むモノマ、オキシエチレンアルキルアミン等の主鎖中にオキシエチレン基を含むアルキルジアミンが有用である。又、ジカルボン酸としてはアジピン酸、セバシン酸等がある。
【0015】
水溶性のポリアミドは共重合体であってもよい。共重合成分としては、例えばα-ピロリドン、α-ピペリドン、ε-カプロラクタム、α-メチル-ε-カプロラクタム、ε-メチル-ε-カプロラクタム、ε-ラウロラクタムなどのラクタムをあげることができ、二元共重合もしくは多元共重合も可能であるが、共重合比率は水溶性という物性を妨げない範囲において決定される。好ましくはラクタム環を持つ共重合成分比率を30重量%以内にしないとポリマーが水に完溶しなくなる。
【0016】
しかしながら、前記範囲外の共重合成分比率に難水溶性のポリマーであっても、有機及び無機酸を用いて溶液を酸性にした場合溶解性が増大し、水可溶性になり使用が可能になる。有機酸としては、酢酸、クロル酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、しゅう酸、フルオロ酢酸等があり、無機酸としては、一般的な鉱酸類である塩酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。
【0017】
この水溶性ポリアミドはサイジング剤が付与されていない強化繊維に1次サイジング剤として用いても良いし、サイジング剤が前もって付与されている強化繊維に2次サイジング剤として用いてもよい。
【0018】
サイジング剤の付着量は、サイジング剤が付着した強化繊維束を100重量%とした場合、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。サイジング剤の付着量が5重量%を超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想のチョップド繊維束形態が得られない可能性が生じる。サイジング剤の付着量は0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。サイジング剤の付着量が0.1重量%未満の場合、成形品を作製しようとすると、マトリックスと強化繊維との接着性が低下する傾向にあり、成形品の力学特性が低くなる可能性がある。また、フィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性が低下したり、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。サイジング剤の付着量の導出方法は後述する。
【0019】
サイジング剤の付着量を上記範囲にすることで、繊維束を例えばカッターで切断する際に、ボビンからの巻き出し性の向上、ニップローラー、カッター刃への巻きつき低減といった効果が得られ、生産性の向上をはかることができる。さらに、切断された繊維束が割れたり単糸分散することを抑制でき、所定の束形態への保持性が向上する。すなわち、切断された繊維束が散布された不連続強化繊維束からなる強化繊維マットで不連続強化繊維束を形成する単糸本数の分布が狭くなり、均一かつ最適な形態の不連続強化繊維束が得ることが可能である。これにより、繊維束が面配向するため、さらに力学特性の向上をはかることができる。さらに、成形品の力学特性のバラつきを低減化することが可能である。
【0020】
これらのサイジング剤は、強化繊維表面に均質に付着したものであることが好ましい。そのように均質に付着させる方法としては特に限定されるものではないが、例えば、これらサイジング剤を水またはアルコール、酸性水溶液0.1重量%以上、好ましくは1重量%~20重量%に濃度に溶解して、その高分子溶液にローラーを介して繊維束をサイジング剤処理液に浸漬する方法、サイジング剤処理液の付着したローラーに繊維束を接する方法、サイジング剤処理液を霧状にして繊維束に吹き付ける方法などがある。この際、繊維束に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング剤処理液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に繊維束を超音波で加振させることはより好ましい。前記サイジング剤付着方法で付与してもよい。
【0021】
なお、強化繊維に付着したサイジング剤中の水やアルコールなどの溶剤を除去するには、熱処理や風乾、遠心分離などのいずれの方法を用いても良いが、中でもコストの観点から熱処理が好ましい。熱処理の加熱手段としては、例えば、熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーターなどを使用することができる。この加熱処理条件も重要であり、取り扱い性、マトリックス材との接着性の良否に関わってくる。すなわち、サイジング剤を繊維束に付与した後の加熱処理温度と時間はサイジング剤の成分と付着量によって調整すべきである。前記水溶性ポリアミドの場合、熱劣化を防止する観点から、室温~180℃下で乾燥し、水分を除去した後、熱処理する。熱処理温度の下限は130℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。熱処理温度の上限は350℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。この熱処理温度は、前記水溶性ポリアミドが空気中の酸素によって自己架橋したり、水溶性を失う温度である。この処理により、水溶性ポリマーが不溶になり吸湿性も失うため、フィラメントを集束したストランドのべたつきがなくなり、後加工の作業性が向上するだけでなく、マトリックス材への密着性がよくなり取り扱いやすい繊維束を提供できる。また、溶剤に架橋促進剤を添加し、熱処理温度を低くしたり、時間を短縮したりすることも可能である。また、23±5℃の雰囲気下でエイジング処理を行うことで、繊維束の硬度を高めることもできる。
【0022】
この水溶性ポリアミド樹脂を用いたサイジング剤は各種マトリックス材との親和性に優れておりコンポジット物性を著しく向上せしめるが、特にポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、及びポリエーテルアミドイミド系樹脂において優れた密着性の改善効果がある。
【0023】
前記水溶性ポリアミドを2次サイジング剤として用いる場合は、1次サイジング剤が付与された強化繊維に前記方法と同様のつけ方でもよいし、強化繊維束の製造工程において付与してもよい。特定の強化繊維束の製造において、該強化繊維束の製造工程中のいずれかのタイミングで行われるサイジング剤の付与について例示すると、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解(分散も含む)したサイジング剤処理液を調製し、該サイジング剤処理液を繊維束に塗布した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去することにより、サイジング剤を繊維束に付与することが一般的に行われる。ここで、後に詳しく述べる通り、この塗布工程と乾燥工程の間に部分分繊処理や、繊維束の拡幅処理を行っても良い。
【0024】
本発明におけるサイジング剤の熱分解開始温度は200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。熱分解開始温度の導出方法は後述する。
【0025】
次に本発明におけるサイジング剤付与のタイミングについて説明する。
図3は、本発明に係る強化繊維マットを構成する強化繊維束の製造方法において、強化繊維束の製造工程中におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示している。
図3には、繊維束100が部分分繊処理工程300を経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程400が、部分分繊処理工程300よりも前に行われるパターンAと、部分分繊処理工程300よりも後に行われるパターンBとが示されている。パターンA、パターンBのいずれのタイミングも可能である。
【0026】
図4は、本発明に係る繊維束拡幅工程301を含む強化繊維束の製造方法において、強化繊維束の製造工程中におけるサイジング剤付与工程400のタイミング例を示している。
図4には、繊維束100が繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程400が、繊維束拡幅工程301よりも前に行われるパターンCと、繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300との間で行われるパターンDと、部分分繊処理工程300よりも後に行われるパターンEとが示されている。パターンC、パターンD、パターンEのいずれのタイミングも可能であるが、最適な部分分繊処理を達成できる観点から、パターンDのタイミングが最も好ましい。
【0027】
図5は、本発明に係る強化繊維マットを構成する強化繊維束の製造方法において、強化繊維束の製造工程中における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示している。サイジング剤付与工程400は、サイジング剤塗布工程401と乾燥工程402を含むが、
図5には、これらサイジング剤塗布工程401と乾燥工程402を含むサイジング剤付与工程400が、繊維束100が部分分繊処理工程300を経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、部分分繊処理工程300よりも前に行われるパターンFと、部分分繊処理工程300よりも後に行われるパターンGとが示されている。パターンF、パターンGのいずれのタイミングも可能である。パターンFは、
図3におけるパターンAと、パターンGは、
図3におけるパターンBと実質的に同一である。
【0028】
図6は、本発明に係る強化繊維マットを構成する強化繊維束の製造方法において、強化繊維束の製造工程中における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示している。
図6に示すタイミング例におけるパターンHでは、サイジング剤付与工程400におけるサイジング剤塗布工程401と乾燥工程402とが分離されてそれぞれ別のタイミングで行われる。サイジング剤塗布工程401は、部分分繊処理工程300よりも前に行われ、乾燥工程402は、部分分繊処理工程300よりも後に行われる。
【0029】
図7は、本発明に係る繊維束拡幅工程を含む強化繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示しており、繊維束100が繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、繊維束拡幅工程301よりも前に行われ、乾燥工程402については、繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300との間で行われるパターンIと、部分分繊処理工程300よりも後に行われるパターンJが示されている。
【0030】
図8は、本発明に係る繊維束拡幅工程を含む強化繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示しており、繊維束100が繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、繊維束拡幅工程301と部分分繊処理工程300との間で行われ、乾燥工程402が、部分分繊処理工程300よりも後に行われるパターンKが示されている。
【0031】
このように、本発明に係る強化繊維束の製造方法においては、各種のタイミングでサイジング剤を付与することが可能である。
【0032】
本発明の強化繊維マットを構成する強化繊維束のうち、束内繊維数が86本以上の束の重量割合は99重量%を超え100重量%以下がよい。束内繊維数が86本以上の束の重量割合が99重量%以下の場合、成形材料の流動性に劣る懸念がある。
【0033】
本発明の強化繊維マットを構成する強化繊維束のドレープ値は120mm以上が好ましく、145mm以上がより好ましく、170mm以上がさらに好ましい。ドレープ値が120mmより小さくなるとフィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。240mm以下であることが好ましく、230mm以下がより好ましく、220mm以下がさらに好ましい。ドレープ値が240mmを超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想のチョップド繊維束形態が得られない可能性が生じる。強化繊維マットを構成する強化繊維束のドレープ値の導出方法は後述する。
【0034】
本発明の強化繊維マットを構成する強化繊維束の束硬度は39g以上が好ましく、70g以上がより好ましく、120g以上がさらに好ましい。硬度が39g未満の場合、フィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。強化繊維マットを構成する強化繊維束の束硬度は200g以下であることが好ましく、190g以下がより好ましく、180g以下がさらに好ましい。強化繊維束の硬度が200gを超えると、繊維束が硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想のチョップド繊維束形態が得られない可能性が生じる。強化繊維マットを構成する強化繊維束の束硬度の導出方法は後述する。
【0035】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の単位幅あたり単糸数は500本/mm以上が好ましく、600本/mm以上がより好ましく、700本/mm以上がさらに好ましい。500本/mm未満の場合、成形材料の流動性に劣る懸念がある。1,600本/mm以下が好ましく、1,400本/mm以下がより好ましく、1,200本/mm以下がさらに好ましい。1,600本/mmを超える場合、成形品の力学特性が劣る懸念がある。強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の単位幅あたり単糸数の導出方法は後述する。
【0036】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の重量平均繊維長は、5mm以上がよく、7mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。不連続強化繊維束の重量平均繊維長は、100mm以下がよく、50mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましい。強化繊維束の重量平均繊維長が5mm未満であると、成形品の力学特性が低下する。一方、強化繊維束の重量平均繊維長が100mmを超えると、成形性が低下する。なお、重量平均繊維長は、20個の不連続強化繊維束における、
図1あるいは
図2に示す繊維長Lfの平均値である。
また、
図1、2に示すように、強化繊維束102の繊維方向に対する切断面の角度(切断角度θ)は、3°以上が好ましく、4°以上がより好ましく、5°以上がさらに好ましい。この範囲であれば、安定的に繊維束を切断できる。また、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、15°以下がさらに好ましい。この範囲であれば、成形の際の良好な流動性と成形品の高い力学特性を実現できる。なお、θは絶対値で表される。
【0037】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の厚みは0.01mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましく、0.05mm以上がさらに好ましい。0.01mm未満の場合、成形材料の流動性に劣る懸念がある。強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の厚みは0.2mm以下が好ましく、0.18mm以下がより好ましく、0.16mm以下がさらに好ましい。0.2mmを超える場合、成形品の力学特性が劣る懸念がある。
【0038】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の数平均束幅は0.03mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.07mm以上がさらに好ましい。0.03mm未満の場合、成形材料の流動性に劣る懸念がある。強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の平均束幅は3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。3mmを超える場合、成形品の力学特性が劣る懸念がある。
【0039】
本発明の強化繊維マットを構成する不連続強化繊維束の水への浸漬前における幅をW1、強化繊維束を25℃の水に、5分間浸漬した後、取り出し、1分間水を切った後における幅をW2とすると、強化繊維束の幅変化率W2/W1は0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。前記サイジング剤が塗布された不連続強化繊維束の幅変化率W2/W1が0.5より小さいと不連続強化繊維束に付着されているサイジング剤の水可溶の物性が残っていることにより、分繊処理をした後、分繊された繊維束が再凝集することがあり、再凝集すると、最適な単糸数に調整された繊維束の形態を保持することが困難になる。最適な単糸数に調整された繊維束の形態に保持できないと、複合材料成形に用いられる成形材料作製のために該分繊繊維束を切断/散布し、不連続繊維束の中間基材とする際に、最適な形態の中間基材にすることが困難となり、成形の際の流動性と成形品の力学特性をバランスよく発現させることが困難となる。また幅変化率W2/W1は1.1以下であることが好ましい。幅変化率W2/W1が1.1を超えると繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想のチョップド繊維束形態が得られない可能性が生じる。強化繊維束の幅変化率W2/W1の導出方法は後述する。
【0040】
本発明において、不連続強化繊維束の強化繊維マットに含浸するマトリックス熱可塑性樹脂〔M〕としては特に限定されず、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどが挙げられる。特に、上記熱可塑性樹脂としてポリアミド系樹脂を使用することが好ましく、さらにポリアミドに無機系の酸化防止剤を配合させることが好ましい。本発明に用いる熱可塑性ポリアミド樹脂としては、例えば、環状ラクタムの開環重合またはω-アミノカルボン酸の重縮合で得られるナイロン6、ナイロン11、ナイロン12やジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られるナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMFD6、2種以上のジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られるナイロン66・6・6I、ナイロン66・6・12などの共重合ナイロンなどが好適に使用することができる。特にナイロン6、66、610は機械的特性とコストの観点から好ましい。
【0041】
また、本発明に用いるハロゲン化銅あるいはその誘導体としては、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、メルカプトベンズイミダゾールとヨウ化銅との錯塩などが挙げられる。なかでもヨウ化銅、メルカプトベンズイミダゾールとヨウ化銅との錯塩を好適に使用できる。ハロゲン化銅あるいはその誘導体の添加量としては、熱可塑性ポリアミド樹脂100重量部に対し0.001~5重量部の範囲にあることが好ましい。添加量が0.001部未満では予熱時の樹脂分解や発煙、臭気を抑えることができず、5重量部以上では改善効果の向上が見られなくなる。更に0.002~1重量部が熱安定化効果とコストのバランスから好ましい。
【0042】
本発明において、不連続強化繊維束の強化繊維マットにマトリックス樹脂を含浸する方法は特に限定するものではなく、上記熱可塑性樹脂を含浸する方法を例示すると、熱可塑性樹脂繊維を含有する強化繊維マットを作製し、強化繊維マットに含まれる熱可塑性樹脂繊維をそのままマトリックス樹脂として使用してもかまわないし、熱可塑性樹脂繊維を含まない強化繊維マットを原料として用い、強化繊維マットを製造する任意の段階でマトリックス樹脂を含浸してもかまわない。
【0043】
また、熱可塑性樹脂繊維を含有する強化繊維マットを原料として用いる場合であっても、強化繊維マットを製造する任意の段階でマトリックス樹脂を含浸することもできる。このような場合、熱可塑性樹脂繊維を構成する樹脂とマトリックス樹脂は同一の樹脂であってもかまわないし、異なる樹脂であってもかまわない。熱可塑性樹脂繊維を構成する樹脂とマトリックス樹脂が異なる場合は、両者は相溶性を有するか、あるいは、親和性が高い方が好ましい。
【0044】
本発明の繊維強化樹脂成形材料は、主に強化繊維束と熱可塑性樹脂からなり、5体積%以上の空隙を有する。空隙率は、7体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましい。空隙率が5体積%未満の場合、強化繊維束の基材が流動し高速生産ができない恐れがある。一方空隙率の上限は30体積%であるが、25体積%以下が好ましく、20体積%以下がより好ましい。30体積%を超えるということは、熱可塑性樹脂の含浸性が悪くなり、力学特性が低下する可能性があることを意味する。空隙率の導出方法については後述する。
【0045】
なお、繊維強化樹脂成形材料の空隙率、および、強化繊維束の単位幅あたりの単糸数、ドレープ値を同時に上述した範囲にすることで力学特性と流動性、生産性を大幅に向上させることができる。
【0046】
繊維強化樹脂成形材料を製造するに際し、強化繊維マットへの、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の含浸を、含浸プレス機を用いて実施することができる。プレス機としてはマトリックス樹脂の含浸に必要な温度、圧力を実現できるものであれば特に制限はなく、上下する平面状のプラテンを有する通常のプレス機や、1対のエンドレススチールベルトが走行する機構を有するいわゆるダブルベルトプレス機を用いることができる。かかる含浸工程においてはマトリックス樹脂を、フィルム、不織布又は織物等のシート状とした後、不連続繊維マットと積層し、その状態で上記プレス機等を用いてマトリックス樹脂を溶融・含浸することができるし、粒子状のマトリックス樹脂を強化繊維マット上に散布し積層体としても良いし、もしくは不連続強化繊維束を散布する際に同時に散布し、強化繊維マット内部に混ぜても良い。
【0047】
以上のような構成の本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、例えば下記工程[A]~[D]によって製造される。
[A]単位幅あたりの単糸数が500本/mm以上1600本/mm以下、ドレープ値が120mm以上240mm以下の強化繊維束のマット基材を作製する工程。
[B]熱可塑性樹脂を前記マット基材に散布、あるいは、積層する工程。
[C]熱可塑性樹脂を溶融する工程。
[D]溶融した前記熱可塑性樹脂を、完全樹脂含浸時の基材厚みより5%以上厚い盤面間で冷却・固化する工程。
【0048】
上記工程[A]においては、上述したような物性を有する強化繊維束を、たとえば所望する長さに切断し、シート状に散布することで、不連続繊維の強化繊維束からなるマット基材とする。
【0049】
工程[B]においては、前記工程[A]で得られたマット基材にマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂の粒子を散布したり、フィルム、不織布又は織物等のシート状の熱可塑性樹脂を、マット基材上に積層する。なお、工程[A]において、所望の繊維長に切断したチョップド繊維束をシート状に散布する際に同時に熱可塑性樹脂の粒子を散布し、マット基材内部に熱可塑性樹脂を混ぜても良い。
【0050】
そして、上記工程[C] 、[D]は、プレス機を用い行うことができ、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂をマット基材へ含浸させる。プレス機としてはマトリックス樹脂の含浸に必要な温度、圧力を実現できるものであれば特に制限はなく、上下する平面状のプラテンを有する通常のプレス機や、1対のエンドレススチールベルトが走行する機構を有するいわゆるダブルベルトプレス機を用いることができる。盤面間の隙間は、完全樹脂含浸時の基材厚みより5%以上空けることがよい。完全樹脂含浸時の基材厚みについては後述する。
【0051】
以上のような一連の工程によって得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、特定の物性を有する強化繊維束を用い、かつ、成形材料における空隙率が上記したような範囲になるので、生産性を高めることができるうえに、かかる成形材料を用いた成形体としては高い力学特性を発現でき、さらに成形時の流動性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0052】
以下実施例を用いて本発明の詳細を説明する。各種測定方法、計算方法および評価方法は以下のとおりである。
【0053】
(1)繊維強化樹脂成形材料の空隙率測定方法
繊維強化樹脂成形材料の空隙率はJIS K-7075(1991年)に準じて下記数式(4)より導出される10サンプルの平均値とする。なお、繊維質量含有率Wf(%)は500℃、15分、窒素雰囲気条件の燃焼法により測定され下記数式(1)で導出できる。また繊維強化樹脂成形材料の比重ρcはJIS K-7112(1999年)のA法(水中置換法)に準じ測定される。
数式(1)
Wf=M1/M0×100(質量%)
(M1:燃焼後の強化繊維質量(mg)、M0:燃焼前の繊維強化樹脂成形材料の質量(mg))
数式(2)
Vf=(Wf/ρf)/(Wf/ρf+(100-Wf)/ρr)×100(%)
(Vf:完全含浸時の繊維強化樹脂成形材料の繊維体積含有率、ρf:強化繊維の比重、ρr:熱可塑性樹脂の比重)
数式(3)
Vr=100-Vf(%)
(Vr:完全含浸時の繊維強化樹脂成形材料の樹脂体積含有率、ρr:熱可塑性樹脂の比重)
数式(4)
空隙率=(1-100×ρc/(ρf×Vf+ρr×Vr))×100(%)
【0054】
(2)繊維強化樹脂成形材料の完全樹脂含浸時の基材厚みの測定方法
繊維強化樹脂成形材料の完全樹脂含浸時の基材厚みは、繊維強化樹脂成形材料の単位面積あたりの質量P(g/m2)、完全樹脂含浸時の繊維強化樹脂成形材料の繊維体積含有率Vf、完全樹脂含浸時の繊維強化樹脂成形材料の樹脂体積含有率Vr、強化繊維の比重ρf、熱可塑性樹脂の比重ρrを含む下記数式(5)より導出され、10サンプルの平均値とする。なお、繊維強化樹脂成形材料の単位面積あたりの質量P(g/m2)は100mm角の成形材料から導出する。
数式(5)
繊維強化樹脂成形材料の完全含浸厚み=P/(ρf×Vf+ρr×Vr)
【0055】
なお、「完全樹脂含浸時」とは、成形材料に樹脂が隙間なく含浸したと想定される場合のことをいう。
【0056】
(3)平均繊維数の測定方法
1mあたりの強化繊維束の重量と強化繊維束を構成するフィラメント数からフィラメント1mあたりの重量a(mg/m)を導出する。次に、10mm程度の長さにカットした強化繊維束の繊維長さc(mm)と重量b(mg)を測定し、下記数式(6)により束を構成する繊維数を導出する。平均繊維数は計20個のカットした強化繊維束の繊維数の平均値とする。
数式(6)
強化繊維束の繊維数=(b×1,000/(a×c))
【0057】
(4)サイジング剤の付着量の測定方法
サイジング剤が付着している強化繊維束を5gほど採取し、耐熱製の容器に投入した。次にこの容器を80℃、真空条件下で24時間乾燥し、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した強化繊維束の重量をm1(g)とし、続いて容器ごと、窒素雰囲気中、500℃、15分間の灰化処理を行った。吸湿しないように注意しながら室温まで冷却し、秤量した強化繊維束の重量をm2(g)とした。以上の処理を経て、強化繊維束へのサイジング剤の付着量を下記数式(7)により求めた。測定は10本の繊維束について行い、その平均値を算出した。
数式(7)
付着量(重量%)=100×{(m1-m2)/m1}
【0058】
(5)熱分解開始温度の測定法
サイジング剤の熱分解開始温度は下記のように測定される。まず、サイジング剤が塗布された強化繊維束を5mgほど採取し、110℃で2時間乾燥後、デシケーター内で室温で1時間、冷却する。その後、秤量し、空気雰囲気中でTGA測定する。空気流量を50ml/分、昇温速度を10℃/分とし、室温から650℃までの重量減少を測定する。縦軸を初期重量に対するサイズ糸の重量比(%)、横軸を温度(℃)とするTGA曲線において、重量減少速度(%/℃)の最大となる温度及びそれより低温側で最も隣接する、重量減少速度が極小となる温度を探し、各々の接線の交点の温度を熱分解開始温度と定義する。
【0059】
ただし熱分解開始温度の定義は、サイジング剤の化学変性後、マトリックス樹脂含浸前の状態に適用される。サイジング剤が塗布された強化繊維束の熱分解開始温度が測定できない場合、サイジング剤を強化繊維束の代わりに使用できる。
【0060】
(6)ドレープ値の測定
30cmに切断した強化繊維束をまっすぐ伸ばして平らな台に載せ、湾曲したり撚れたりしないことを確認する。湾曲あるいは撚れが発生した場合、100℃以下の加熱、あるいは、0.1MPa以下の加圧によって除くことが好ましい。
図9に示すように、23±5℃の雰囲気下、直方体の台の端に、30cmに切断した強化繊維束を固定し、この時、強化繊維束は台の端から25cm突き出るように固定、すなわち、強化繊維
束の端から5cmの部分が、台の端に来るようにし、この状態で5分間静置した後、台に固定していない方の強化繊維束の先端と、台の側面との最短距離を測定した値をドレープ値とした。測定本数はn=5とし、平均値を採用した。
【0061】
(7)束硬度の測定
強化繊維束の硬度は、JIS L-1096 E法(ハンドルオメータ法)に準じ、HANDLE-O-Meter(大栄科学精機製作所製「CAN-1MCB」)を用いて測定した。束硬度測定に用いる試験片の長さは10cm、幅はフィラメント数1600本で1mmとなるように強化繊維束を開繊調整した。また、スリット幅は20mmに設定した。このスリット溝が設けられた試験台に試験片となる強化繊維束を1本乗せ、ブレードにて溝の一定深さ(8mm)まで試験片を押し込むときに発生する抵抗力(g)を測定した。強化繊維束の硬度は3回の測定の平均値から得た。
【0062】
(8)平均束厚みの測定法
束厚みを繊維束長手方向(繊維方向)に30cm間隔で20点ほど測定し、その平均値を平均繊維束厚み、変動係数を束厚み斑とした。
【0063】
(9)平均繊維束幅の測定法
束幅を繊維束長手方向(繊維方向)に30cm間隔で20点ほど測定し、その平均値を平均繊維束幅、変動係数を束幅斑とした。
【0064】
(10)単位幅あたりの単糸数
平均繊維数を平均繊維束幅で割ることで単位幅あたりの単糸数とした。
【0065】
(11)サイジング剤が塗布された強化繊維束の幅変化率測定
強化繊維束の分繊処理を施す前の幅40mmから50mmに拡幅されサイジング剤が塗布された炭素繊維束を長さ230mmにカットし、その一端を端から30mmの位置をクリップで挟み、逆端から100mmの間で幅を5点測定し、その平均値を浸漬前における幅W1とした。その後、25℃の水に、5分間浸漬した後、取り出し、クリップで挟んだ側が上に来るように吊るした状態で1分間水を切った後、クリップで挟んだ逆端から100mmの間における幅を5点測定し、その平均値を浸漬後における幅W2とした。以上の処理を経て、サイジング剤が塗布された強化繊維束の幅変化率を下記数式(8)により求めた。
数式(8)
幅変化率=W2/W1
【0066】
(12)工程通過性
強化繊維束を分繊する工程、および、分繊した強化繊維束を連続でカットし散布する工程通過性について下記A~Cの通り判定した。
A:強化繊維束を分繊できる。分繊した強化繊維束をボビンから巻き出し、問題なくカット、散布できる。
B:強化繊維束を分繊できる。しかし、分繊した強化繊維束がボビンやカッター部で1000mに1~7回、巻き付く。
C:強化繊維束を分繊できない。あるいは、分繊繊維できるが、分繊した強化繊維束がボビンやカッター部で1000mに8回以上巻き付く。
【0067】
(13)力学特性の評価方法
強化繊維マットを後記する方法により成形し、500×400mmの平板成形品を得た。平板長手方向を0°とし、得られた平板より0°と90°方向から、それぞれ100×25×2mmの16個の試験片(合計32片)を切り出し、JIS K7074(1988年)に準拠し測定を実施した。力学特性としては、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ強度のCV値(%)、曲げ弾性率のCV値(%)を求めた(CV:変動係数)。曲げ強度が200MPa未満をC、200MPa以上350MPa未満をB、350MPa以上をAと判定した。曲げ強度のCV値(%)15%を超える場合をC、10%以上15%以下をB、10%未満をAと判定した。
【0068】
(14)流動性試験(スタンピング成形)
・樹脂シート1の場合
寸法150mm×150mm×2mmの成形材料を2枚重ねた状態で、基材中心温度(二枚重ねた間の温度)が260℃となるように予熱後、150℃に昇温したプレス盤に配し、10MPaで30秒間加圧した。この圧縮後の面積A2(mm2)と、プレス前の基材の面積A1(mm2)を測定し、A2/A1×100を流動率(%)とした。流動率が200%未満をC、200%以上300%未満をB、300%以上をAと判定した。
【0069】
・樹脂シート2の場合
寸法150mm×150mm×2mmの成形材料を2枚重ねた状態で、基材中心温度(二枚重ねた間の温度)が220℃となるように予熱後、120℃に昇温したプレス盤に配し、10MPaで30秒間加圧した。この圧縮後の面積A2(mm2)と、プレス前の基材の面積A1(mm2)を測定し、A2/A1×100を流動率(%)とした。流動率が200%未満をC、200%以上300%未満をB、300%以上をAと判定した。
【0070】
[使用原料]
・強化繊維束1:炭素繊維束(ZOLTEK社製“PX35”、単糸数50,000本、“13”サイジング剤)を用いた。
・強化繊維束2:ガラス繊維束(日東紡績製240TEX、単糸数1,600本)を用いた。
・樹脂シート1: ポリアミド6樹脂(東レ(株)社製、“アミラン”(登録商標)CM1001)からなるポリアミドマスターバッチを用いて、シートを作製した。
・樹脂シート2: 未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)社製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるポリプロピレンマスターバッチを用いて、シートを作製した。
・サイジング剤1: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“T-70”)を用いた。
・サイジング剤2: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“A-90”)を用いた。
・サイジング剤3: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“P-70”)を用いた。
・サイジング剤4: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“P-95”)を用いた。
【0071】
[強化繊維マットの製造方法]
繊維束を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0072】
その後、拡幅繊維束を、精製水で希釈したサイジング剤に連続的に浸漬させた。次いで250℃のホットローラと250℃の乾燥炉(大気雰囲気下)にサイジング剤を塗布した拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去し、1.5分間熱処理を施した。
【0073】
得られた拡幅繊維束に対して、厚み0.2mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅繊維束に対して、間欠的に抜き挿しし、任意の分割数の強化繊維束を得た。
【0074】
この時、分繊処理手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間分繊処理手段を突き刺し分繊処理区間を生成し、0.2秒間で分繊処理手段を抜き、再度突き刺す動作を繰り返し行なった。
【0075】
得られた強化繊維束は、狙いの平均繊維数になるように分繊処理区間で繊維束が幅方向に対して分繊されており、少なくとも1つの分繊処理区間の少なくとも1つの端部に、単糸が交絡した絡合部が蓄積されてなる絡合蓄積部を有していた。続いて、得られた強化繊維束を、ロータリーカッターへ連続的に挿入して繊維束を任意の繊維長に切断、均一分散するように散布することにより、繊維配向が等方的である強化繊維マットを得た。
【0076】
任意の隙間を有するダブルベルトプレス機で樹脂シートを強化繊維マットの上下から挟み込み、樹脂を含浸させることにより、成形材料を得た。
【0077】
この繊維強化樹脂成形材料の生産性について、表層の樹脂が基材に含浸していない状態、あるいは、表層の繊維が撚れた状態をC、表層の樹脂が基材に含浸し、繊維が撚れていない状態をAと判定した。
【0078】
(参考例1)
表1に示す通り、束内平均繊維数990本、単位幅あたりの繊維数1,540本/mm、サイジング剤1を含むトータルサイジング剤付着量3.2重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.5重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0079】
(参考例2)
表1に示す通り、束内平均繊維数1030本、単位幅あたりの繊維数1,480本/mm、サイジング剤1を含むトータルサイジング剤付着量4.0重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.7重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維束を作製した。
【0080】
(参考例3)
表1に示す通り、束内平均繊維数1,880本、単位幅あたりの繊維数1,220本/mm、サイジング剤1を含むトータルサイジング剤付着量3.1重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.8重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0081】
(参考例4)
表1に示す通り、束内平均繊維数5,230本、単位幅あたりの繊維数1,540本/mm、サイジング剤2を含むトータルサイジング剤付着量2.8重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.6重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0082】
(参考例5)
表1に示す通り、束内平均繊維数410本、単位幅あたりの繊維数550本/mm、サイジング剤2を含むトータルサイジング剤付着量3.3重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.7重量%である、強化繊維束2からなる強化繊維マットを作製した。
【0083】
(参考例6)
表1に示す通り、束内平均繊維数1,540本、単位幅あたりの繊維数2,580本/mm、サイジング剤3を含むトータルサイジング剤付着量3.3重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.3重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0084】
(参考例7)
表1に示す通り、束内平均繊維数1,120本、単位幅あたりの繊維数3,940本/mm、サイジング剤4を含むトータルサイジング剤付着量4.7重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.2重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0085】
(参考例8)
表1に示す通り、束内平均繊維数930本、単位幅あたりの繊維数4,380本/mm、サイジング剤4を含むトータルサイジング剤付着量3.1重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.4重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0086】
(参考例9)
表1に示す通り、束内平均繊維数1070本、単位幅あたりの繊維数1510本/mm、サイジング剤4を含むトータルサイジング剤付着量2.4質量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.7重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維束を作製した。
【0087】
(参考例10)
表1に示す通り、束内平均繊維数1030本、単位幅あたりの繊維数1490本/mm、サイジング剤4を含むトータルサイジング剤付着量1.7質量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.8重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維束を作製した。
【0088】
(参考例11)
表1に示す通り、束内平均繊維数300本、単位幅あたりの繊維数400本/mm、サイジング剤2を含むトータルサイジング剤付着量3.0質量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.6重量%である、強化繊維束2からなる強化繊維束を作製した。
【0089】
(参考例12)
表1に示す通り、束内平均繊維数1,010本、単位幅あたりの繊維数1,510本/mm、サイジング剤1を含むトータルサイジング剤付着量4.0重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が95.0重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維束を作製した。
【0090】
(参考例13)
表1に示す通り、束内平均繊維数930本、単位幅あたりの繊維数1,480本/mm、サイジング剤3を含むトータルサイジング剤付着量5.5重量%、束内繊維数が86本以上である束の重量割合が99.2重量%である、強化繊維束1からなる強化繊維マットを作製した。
【0091】
(実施例1)
参考例1で作製した強化繊維マットと樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより8.7%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0092】
(実施例2)
参考例2で作製した強化繊維マットと樹脂シート2を厚み制御された、220℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより13.6%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0093】
(実施例3)
参考例3で作製した強化繊維マットと樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより28.2%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0094】
(実施例4)
参考例4で作製した強化繊維マットと樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより22.0%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0095】
(実施例5)
参考例5で作製した強化繊維マットと樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより16.3%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
(比較例1)
参考例6で作製した強化繊維束と樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより4.2%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0096】
(比較例2)
参考例7で作製した強化繊維束と樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより66.7%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0097】
(比較例3)
参考例8で作製した強化繊維束と樹脂シート2を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより16.3%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0098】
(比較例4)
参考例9で作製した強化繊維束と樹脂シート2を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより26.3%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0099】
(比較例5)
参考例10で作製した強化繊維束と樹脂シート2を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより31.3%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0100】
(比較例6)
参考例11で作製した強化繊維束と樹脂シート1を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより17.6%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0101】
(比較例7)
参考例12で作製した強化繊維マットと樹脂シート2を厚み制御された、220℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより13.6%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0102】
(比較例8)
参考例13で作製した強化繊維マットと樹脂シート2を厚み制御された、280℃の金型にセットし、1MPaの面圧で5分間ホールドした。その後、面圧をかけながら、-20℃/分で100℃未満になるまで冷却し、繊維強化樹脂成形材料を作製した。盤面間の距離に相当する成形材料の厚みは、完全樹脂含浸時の厚みより16.3%ほど厚かった。成形材料の力学特性、流動性を評価し、結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の強化繊維マットは不連続強化繊維コンポジットの材料であり、不連続強化繊維コンポジットは自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、航空機内装材、輸送用箱体など等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
100 繊維束
102 強化繊維束
180 部分分繊繊維束
300 部分分繊処理工程
301 繊維束拡幅工程
400 サイジング剤付与工程
401 サイジング剤塗布工程
402 乾燥工程
A~K パターン