(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極電極、リチウムイオン二次電池用電極ペースト、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230411BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230411BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230411BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230411BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230411BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019565481
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045400
(87)【国際公開番号】W WO2020116160
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018227889
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 博昭
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105449269(CN,A)
【文献】特開2018-063191(JP,A)
【文献】特開2012-043682(JP,A)
【文献】特開2013-089522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 - 60
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:z(0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70、0.10≦z≦0.40、x+y+z=1)で含有し、
該リン酸マンガン鉄リチウムはLiMn
α
Fe
β
PO
4
(α+β=1,かつ0.6≦α≦1)で表される化合物であり、該層状酸化物系正極活物質はLi(Ni
xaCo
yaMn
za)O
2(ただし、xa+ya+za=1、0≦xa、ya、za、≦1)もしくはLi(Ni
xbCo
ybAl
zb)O
2(ただし、xb+yb+zb=1、0.7≦xb<1,0≦yb≦0.2、0≦zb≦0.2)で表される化合物であるリチウムイオン二次電池用正極電極。
【請求項2】
z≦0.30である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極電極。
【請求項3】
0.20≦x≦0.45かつ0.30≦y≦0.60である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極電極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極電極を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:z(0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70、0.10≦z≦0.40、x+y+z=1)で含有し、
該リン酸マンガン鉄リチウムはLiMn
α
Fe
β
PO
4
(α+β=1,かつ0.6≦α≦1)で表される化合物であり、該層状酸化物系正極活物質はLi(Ni
xaCo
yaMn
za)O
2(ただし、xa+ya+za=1、0≦xa、ya、za、≦1)もしくはLi(Ni
xbCo
ybAl
zb)O
2(ただし、xb+yb+zb=1、0.7≦xb<1,0≦yb≦0.2、0≦zb≦0.2)で表される化合物であるリチウムイオン二次電池用電極ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極電極、リチウムイオン二次電池用電極ペースト、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度を有する反面、不具合が生じると貯蔵されているエネルギーが短時間に放出され、電池が発火・炎上する危険性がある。そのためリチウムイオン二次電池にとっては、エネルギー密度の向上とともに、安全性の向上が重要な課題である。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性を大きく左右するのが正極活物質であることはよく知られている。特にスマートフォンや電気自動車などに用いられることが多い層状酸化物系と呼ばれる正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質の中でも高エネルギー密度を有する活物質である。しかし、過充電によって電池内で酸素を放出し、発火に至る危険性があるなど、安全性に課題がある。
【0004】
一方で、定置用電池などに用いられることが多いオリビン系正極活物質、例えばリン酸鉄リチウムは酸素がリンと共有結合しているために容易には酸素を放出せず、高温でも比較的安定であることが知られている。
【0005】
そこでエネルギー密度に優れる層状酸化物系正極活物質と安全性に優れるオリビン系正極活物質を混合することで、エネルギー密度と安全性を両立することが検討されている(例えば特許文献1~2)。電気抵抗が大きいオリビン系正極活物質を層状酸化物系正極活物質と混合することで、電池が内部短絡したときなどに流れる電流を、層状酸化物系正極活物質のみを用いた場合に比べて小さくすることが期待できる。これは、リチウムイオン電池の正負極間の電圧が3~4.4V程度であり、オームの法則(I=V/R)をそのまま当てはめると、内部短絡時の短絡電流の大きさが内部抵抗に反比例することから説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2010/053174号
【文献】特開2006-252895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、オリビン系正極活物質は安全性に優れるというメリットがあるものの、放電電圧が一定であるため、放電電圧から電池の残容量を推定することが困難であるという課題がある。
【0008】
特許文献1においては、層状酸化物系正極活物質とリン酸マンガン鉄リチウムを混合することによるクーロン効率の向上が試みられている。しかしながら、活物質の混合割合によって放電特性を制御する思想はなく、安全性を向上させるためにリン酸マンガン鉄リチウムの割合を多くした場合には、電池の残容量管理が困難であるという課題があった。
【0009】
特許文献2においては3種類の活物質を混合し、添加剤を加えることで低温特性を向上させることが開示されている。しかし、開示されている例においてはリン酸鉄リチウムが最大で20%混合されているだけであり、安全性はなお課題があった。
【0010】
本発明の目的は、高い安全性を有しつつも、残容量管理の精度を向上させたリチウムイオン電池を作製できるリチウムイオン二次電池用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明は、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:z(0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70、0.10≦z≦0.40、x+y+z=1)で含有するリチウムイオン二次電池用正極電極である。本発明は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極電極を用いてなるリチウムイオン二次電池である。本発明は、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:z(0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70、0.10≦z≦0.40、x+y+z=1)で含有するリチウムイオン二次電池用電極ペーストである。本発明は、放電電圧と放電容量からなる放電曲線において、2つのプラトー領域の間に1つの非プラトー領域を有し、非プラトー領域の幅がSOC換算で20%以上であるリチウムイオン2次電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、安全性が高く、さらに電池の残容量の推定が可能なリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】放電曲線における非プラトー領域が放電曲線中央に位置する場合の概念図である。
【
図2】放電曲線における非プラトー領域が放電曲線末期に位置する場合の概念図である。
【
図3】放電曲線においてSOC50%が非プラトー領域に含まれる場合の概念図である。
【
図4】放電曲線においてSOC50%が非プラトー領域に含まれない場合の概念図である。
【
図5】実施例1で作製した電極板の、測定例Aによって得られた放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書におけるリン酸鉄リチウムとはLiFePO4で表される化合物である。ただし、ドーピングとしてFe以外の金属が0.5wt%以上5wt%以下の範囲で添加されている化合物もリン酸鉄リチウムに含めるものとする。
【0015】
本明細書におけるリン酸マンガン鉄リチウムとはLiMnαFeβPO4(α+β=1,かつ0.6≦α≦1)で表される化合物である。α=1の場合は鉄を含まないため、該化合物はリン酸マンガンリチウムとなるが、本明細書ではこれをリン酸マンガン鉄リチウムと区別せず、リン酸マンガン鉄リチウムと表すことがある。また、上記一般式を満たす限り、ドーピングとしてMn及びFe以外の金属が0.5wt%以上5wt%以下の範囲で添加されている化合物もリン酸マンガン鉄リチウムに含めるものとする。
【0016】
本明細書における層状酸化物系正極活物質とはLi(Nixa
Coya
Mnza
)O2(ただし、xa+ya+za=1、0≦xa、ya、za、≦1)もしくはLi(Nixb
Coyb
Alzb
)O2(ただし、xb+yb+zb=1、0.7≦xb<1,0≦yb≦0.2、0≦zb≦0.2)で表される化合物である。ただし、上記一般式を満たす限り、ドーピングとして上記以外の金属が0.5wt%以上5wt%以下の範囲で添加されている化合物も層状酸化物系正極活物質に含めるものとする。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極電極(以下、単に「正極電極」という場合がある)は、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:z(0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70,0.10≦z≦0.40、x+y+z=1)で含有することが好ましい。このような割合で活物質粒子を混合することにより、高い安全性を有し、高精度な電池の残容量管理を実現したリチウムイオン二次電池を作製することができる。なお、本発明においては、全体として上記の重量比を満たす限り、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムおよび層状酸化物系活物質のそれぞれの粒子は、異なる組成の粒子の混合物であってもよい。例えば、リン酸マンガン鉄リチウムとしては組成式LiMnαFeβPO4においてαおよびβが異なる2種類以上の活物質粒子を用いることもでき、その場合それらの合計重量をリン酸マンガン鉄リチウム粒子の重量と考える。
【0018】
電池の残容量(State of charge:以下「SOC」とする)を推定するには、電池の残容量に応じて放電電圧が変化することが必要である。しかしながら、放電曲線が長いプラトー領域を有すると、SOCが変化しても放電電圧がほとんど変化しないため、放電電圧からのSOCの推定が困難となる。
【0019】
層状酸化物系活物質は、一般に放電曲線にプラトー領域がなく、4.1V付近から2.5Vまで放電電圧が徐々に低下していくため、放電電圧からSOCを容易に推定することができる。一方、リン酸鉄リチウムの放電曲線は放電電圧3.4V付近に長いプラトー領域を有する。リン酸マンガン鉄リチウムはマンガンの酸化に対応する4V付近と鉄の酸化に対応する3.4V付近に2段のプラトー領域を有する。したがってリン酸鉄リチウムとリン酸マンガン鉄リチウムを組み合わせても放電カーブは2段のプラトー領域を有したままであり、放電電圧からSOCを推定することは困難である。
【0020】
なお、本発明書において放電電圧のプラトー領域とは、1mAh/gの放電あたりに電圧の変化量が4mV以下である部分と定義される。また、電池おける放電電圧は正極と負極の組み合わせで決定されるものであるため、本明細書における放電電圧とは負極にリチウム金属を用いたハーフセル評価での電圧をいうものとする。
【0021】
オリビン系活物質の割合が半分以上を占める本発明の正極電極を用いたリチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」という場合がある)において、放電電圧からSOCを正確に推定するには、放電曲線において、
図2に示すように、放電曲線の末期、すなわちSOC0%付近に非プラトー領域が位置するのではなく、
図1に示すように、放電曲線の中央部に非プラトー領域が位置する、すなわち放電開始直後の4V付近のプラトーと放電完了直前の3.4V付近のプラトーの間に非プラトー領域を設けることが必要である。該非プラトー領域の電圧をSOCと対応させることで電池の残容量管理の精度が向上するだけなく、該プラトー領域が放電曲線の中央部にあることで最も使用頻度の高い容量域でSOCを高精度に推定することが可能となる。
【0022】
本発明においてはまず、電池の安全性を確保するため、層状酸化物系活物質粒子の割合が一定以下であることが好ましい。従って、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を重量比x:y:zとすると、zは0.40以下、すなわちx+yを0.60以上とすることが好ましい。より電池を安全にできる点において、zは0.30以下であることが好ましい。
【0023】
一方、放電曲線中央部の非プラトー領域での放電は層状酸化物系活物質の酸化反応に対応する部分が多いため、層状酸化物系活物質の割合が高いことは該非プラトー領域の拡大につながる。該非プラトー領域が短いと正確に測定できるSOCの範囲も狭まり、電池の残容量管理を困難にする。電池の残容量を精度よく管理していくためには該非プラトー領域の幅はSOC換算で20%以上を占める必要があり、そのためにはzは0.10以上であることが好ましい。電池の残容量を精度よく管理していくためには、該非プラトー領域の幅はSOC換算で30%以上であることが好ましい。
【0024】
ここで、非プラトー領域の幅を表すためのSOC換算とは、非プラトー領域の両端のSOCの差を求めることである。
【0025】
また、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子および層状酸化物系活物質粒子を含有する正極を用いた電池において、非プラトー領域が放電曲線の中央部に位置するようにするためには、正極電極中におけるリン酸鉄リチウムおよびリン酸マンガン鉄リチウムの割合が重要であり、本発明においては0.10≦x≦0.60、0.10≦y≦0.70とすることが好ましい。
【0026】
本発明の正極電極を用いた電池は、非プラトー領域が放電曲線の中央部に位置するが、
図4に示すように、SOC50%時の放電電圧が非プラトー領域に含まれていないよりも、非プラトー領域が使用頻度の最も高い容量領域となるように、
図3に示すように、SOC50%時の放電電圧が非プラトー領域に含まれていることが好ましい。
【0027】
SOC50%時の放電電圧が非プラトー領域に含まれるようにするためには、3.4V付近にプラトー領域を有するリン酸鉄リチウム、主に4V付近にプラトー領域を有するリン酸マンガン鉄リチウム、プラトー領域を持たない層状酸化物の3種類の活物質粒子を適切な割合で混合することが好ましい。特に、xが大きければ非プラトー領域は高SOC側に寄り、yが大きければ低SOC側に寄ることを考慮して、その混合重量比は0.20≦x≦0.45かつ0.30≦y≦0.60、であることが好ましい。
【0028】
本発明のリチウムイオン2次電池は、放電電圧と放電容量からなる放電曲線において、2つのプラトー領域の間に1つの非プラトー領域を有するリチウムイオン2次電池である。オリビン系活物質及び/もしくは層状酸化物系活物質を用いない正極についても、互いに異なるプラトー領域を持つ正極活物質を2種類及びプラトー領域を持たない正極活物質1種類を組み合わせて用いることで、SOC管理を容易とした電池を得ることができる。
【0029】
放電曲線において、放電曲線の中央部に非プラトー領域が位置する、すなわち放電開始直後のプラトーと放電完了直前のプラトーの間に非プラトー領域が設けられた場合、2つのプラトー領域の間に1つの非プラトー領域を有すると解される。放電曲線において、放電曲線の末期、すなわちSOC0%付近に、非プラトー領域が位置する場合、2つのプラトー領域の間に1つの非プラトー領域を有するとは解されない。
【0030】
リン酸鉄リチウムは電子電導性及びリチウムイオン電導性が低いため、本発明に用いるリン酸鉄リチウム粒子は、平均1次粒径が50nm以上300nm以下であることが好ましい。平均1次粒径が50nm未満であると比表面積が大きくなりサイクル耐性が劣化する場合がある。また、平均1次粒径が300nmを超えると電子電導性及びイオン電導性が高速充放電を律速し始める場合がある。リン酸鉄リチウム粒子は固相法、液相法らの公知の手法によって得ることができる他、市販のリン酸鉄リチウムを用いることもできる。
【0031】
リン酸マンガン鉄リチウムはリン酸鉄リチウムと比較してさらに電子電導性及びリチウムイオン電導性が低いため、本発明に用いるリン酸マンガン鉄リチウム粒子は、平均1次粒径が30nm以上100nm以下であることが好ましい。平均1次粒径が30nm未満であると比表面積が大きくなりサイクル耐性が劣化する場合がある。また、平均1次粒径が100nmを超えると電子電導性及びイオン電導性が高速充放電を律速し始める場合がある。
【0032】
リン酸マンガン鉄リチウム粒子は、固相法、液相法らの公知の手法によって得ることができるが、粒径が30nm以上100nm以下の粒子をより簡便に得られる点において液相法が好適である。液相には水の他、粒径をナノ粒子まで微細化するために有機溶媒を用いることも好適であり、その溶媒種としてはアルコール系溶媒、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-プロパノール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールもしくはジメチルスルホキシドを含むことが好ましい。また合成の過程で粒子の結晶性を高めるために加圧してもかまわない。
【0033】
層状酸化物系活物質粒子については公知の方法に従って固相法で得ることもできるが、市販の活物質も用いることができる。層状酸化物系粒子は平均1次粒子径が100nm以上10μm以下であることが好ましい。平均1次粒径が100nm未満であると比表面積が大きくなりサイクル耐性が劣化する場合がある。また、平均1次粒径が1μm超えると電子電導性及びイオン電導性が高速充放電を律速し始める場合がある。
【0034】
リン酸鉄リチウム及びリン酸マンガン鉄リチウムは、電子電導性の低さを補うために、1次粒子表面をカーボンコーティングして用いることが好ましい。カーボンコーティングを施すには、活物質粒子と糖類を混合した後に600℃から750℃で焼成する方法が好ましく用いられる。糖類としては、焼成後の灰分が少ない点から、グルコースもしくはスクロースが好ましい。
【0035】
本発明において、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子、層状酸化物系活物質粒子は、それぞれ平均2次粒径1μm以上20μm以下に造粒されていることが好ましい。平均2次粒径が1μm未満の場合、活物質粒子を電極ペーストにするために大量の溶媒が必要となる。平均2次粒径が20μmを超える場合、リチウムイオン二次電池用として一般的に用いられる電極厚みである50~100μmにて平滑な電極を得ることが難しくなる。造粒には種々の方法を用いることができるが、得られる造粒体の粒度分布をできるだけ狭くするためにスプレードライヤーを用いることが好適である。なお、層状酸化物形活物質粒子については、リン酸鉄リチウムよりも電子電導性及びリチウムイオン電導性に優れるため、造粒せずに用いることも好ましい態様である。
【0036】
なお、本明細書における活物質粒子の平均1次粒径および平均2次粒径は、走査型電子顕微鏡で100個の粒子の1次粒径を測定した平均値とする。この場合において、球形でない粒子は、2次元像で測定できる長軸と短軸の平均値をその粒径とする。
【0037】
本発明の正極電極は、リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子、層状酸化物系活物質粒子を所定の割合で含有する限り、その他の構成は特に限定されないが、典型的には、活物質粒子の他バインダーや導電助剤などの添加剤をN-メチルピロリジノンや水などの分散媒に分散させて電極ペーストとした後に、アルミ箔等の集電体への塗工し、乾燥及びプレスすることによって得ることができる。
【0038】
正極電極中におけるバインダーの重量割合は0.3%以上10%以下であることが好ましい。0.3%未満であると添加の効果が低く好ましくない。また絶縁体であるバインダーが10%よりも大きい量を添加されると電極の電導性を大きく低下させるため好ましくない。バインダーとしてはポリフッ化ビニルデンの他、スチレンブタジエンゴムなどを用いることができる。
【0039】
また、正極電極中における導電助剤の重量割合は0.3%以上10%以下であることが好ましい。0.3%未満であると添加の効果が低く好ましくない。また、10%よりも大きい量を添加するとリチウムイオンの移動を阻害する効果が顕著となるため好ましくない。導電助剤としてはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェンなどを用いることができる。
【0040】
電極ペーストの固形分濃度は塗工プロセスに合わせて適宜調整可能であるが、塗膜厚みが均一となる適度な粘性をもたせるために、30%以上80以下であることが好適である。
【0041】
プレス後に電極ペーストが固化して生じる合剤層の厚みは10μm以上200μm以下であることが好適である。10μm未満では電池のエネルギー密度が低下する傾向があり、200μmよりも大きいと高速充放電特性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0043】
[測定A]正極電極の放電特性の測定
各実施例および比較例で作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極電極とし、直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極電極とし、直径20mmに切り出したセティーラ(登録商標)(東レ株式会社製)セパレータとして、LiPF6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の溶液を電解液として、2032型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。
【0044】
測定は、カットオフ電位を2.5V、最大充電電圧4.3Vとし、充放電を0.1Cレートで3回行い、3回目の放電における放電曲線において非プラトー領域が放電曲線の中央部、すなわち4.0V付近のプラトーと3.4V付近のプラトーに挟まれる部分に存在するか否かを判断した。非プラトー領域がSOC25%以下から形成される場合については、電池の残容量管理には適さない位置であるため、非プラトー領域の位置は「放電末期」として中央部に位置する場合と区別した。また、放電曲線全体に渡って非プラトー領域が続く場合は「放電曲線全体」とした。
【0045】
また、該放電曲線から、非プラトー領域がSOC換算で何%続くか、SOC50%が放電曲線の非プラトー領域内に存在するかについても評価した。非プラトー領域とプラトー領域の区別については、放電開始から1mAh/g放電する度に低下する電圧を測定し、4mV以上低下した領域を非プラトー領域とした。
【0046】
[測定B]圧壊試験時の最大セル温度
測定Aと同様に作製した正極電極と、負極電極として市販のカーボン系負極(負極活物質:日立化成株式会社製 人造黒鉛MAG)、セパレータとしてセティーラ(登録商標)、電解液としてLiPF6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)を用いて3Ahセルの積層ラミネートセルを作製した。積層数は正極(サイズ:70mm×40mm)を21層、負極(サイズ:74mm×44mm)を22層とし、対向する正極と負極の容量比率(NP比)は1.05とした。
【0047】
作製した電池を0.1Cで3回充放電させた後、0.1Cで再度満充電状態にし、圧壊試験に供した。圧壊試験は半径10mmの丸棒を10mm/秒の速度で満充電状態の電池の中央部に最大荷重10kNで押しつけることで行った。また、丸棒が押しつけられる場所から10mm離れた箇所に熱電対を貼り付け、圧壊時の最大温セル温度を測定した。また、発火および発煙の有無を目視にて確認した。
【0048】
[実施例1]
純水350gに水酸化リチウム1水和物を360ミリモル添加した。得られた溶液に、85%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、さらに硫酸鉄(II)7水和物を120ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が190℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸鉄リチウムを得た。得られたリン酸鉄リチウムは純水にて洗浄した後に、遠心分離にて上澄みを除去することを5回繰り返し、最後に再度純水を加えて分散液とした。
【0049】
続いて分散液中のリン酸鉄リチウムの12重量%と同重量のグルコースを分散液に添加して溶解させた後、純水を加えることで分散液の固形分濃度を50%に調整した。得られた分散液をスプレードライヤー(藤崎電機社製 MDL-050B)にて200℃の熱風を用いて乾燥・造粒した。得られた粉体をロータリーキルン(高砂工業社製 デスクトップロータリーキルン)にて窒素雰囲気下700℃4時間加熱し、カーボンコートされたリン酸鉄リチウムを得た。
【0050】
純水150gにジメチルスルホキシド200gを加え、水酸化リチウム1水和物を360ミリモル添加した。得られた溶液に、85%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、さらに硫酸マンガン1水和物を84ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物を36ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が150℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸マンガン鉄リチウムを得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウムは純水にて洗浄した後に、遠心分離にて上澄みを除去することを5回繰り返し、最後に再度純水を加えて分散液とした。
【0051】
続いて分散液中のリン酸マンガン鉄リチウムの15重量%と同重量のグルコースを分散液に添加して溶解させた後、純水を加えることで分散液の固形分濃度を50%に調整した。得られた分散液をスプレードライヤー(藤崎電機社製 MDL-050B)にて200℃の熱風を用いて乾燥・造粒した。得られた粉体をロータリーキルン(高砂工業社製 デスクトップロータリーキルン)にて窒素雰囲気下700℃4時間加熱し、カーボンコートされたリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
【0052】
得られたリン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子(ユミコア社製LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2 平均粒径13μmの造粒体)を重量比にて0.30:0.50:0.20で自転公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎(登録商標)ARE-310)を用いて攪拌モード2000rpm5分間の条件で混合した。
【0053】
アセチレンブラック(デンカ株式会社製 Li-400)とバインダー(株式会社クレハKFポリマー L#9305)を混合した後、混合した活物質を添加して乳鉢で固練りを実施した。その際、含まれる各材料の質量比は活物質:アセチレンブラック:バインダーが90:5:5となるようにした。その後、N-メチルピロリジノンを添加して固形分が45質量%となるように調整し電極スラリーを得た。得られたスラリーに流動性がない場合には、N-メチルピロリジノンをスラリーに流動性が得られるまで、適宜追加した。
【0054】
得られた電極スラリーをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、80℃30分間の乾燥後、プレスを施し電極板を作製した。
【0055】
当該電極板を、測定Aに従って放電特性を測定した結果得られた放電曲線を
図5に示す。
【0056】
[実施例2]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.30:0.55:0.15とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0057】
[実施例3]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.40:0.40:0.20とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0058】
[実施例4]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.30:0.35:0.35とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0059】
[実施例5]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.55:0.20:0.25とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0060】
[実施例6]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.23:0.65:0.12とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0061】
[比較例1]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を1:0:0、すなわちリン酸鉄リチウムの単体とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0062】
[比較例2]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0:1:0、すなわちリン酸マンガン鉄リチウムの単体とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0063】
[比較例3]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.00:0.00:1.00、すなわち層状酸化物の単体とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0064】
[比較例4]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.50:0.50:0.00とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0065】
[比較例5]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.00:0.80:0.20とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0066】
[比較例6]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.80:0.10:0.10とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0067】
[比較例7]
リン酸鉄リチウム粒子、リン酸マンガン鉄リチウム粒子及び層状酸化物系活物質粒子の混合割合を0.10:0.80:0.10とした以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0068】
[実施例7]
リン酸マンガン鉄リチウム粒子の代わりにマンガン酸リチウムLiMn2O4(宝泉株式会社製)粒子を用いた以外は実施例1と同様にして電極板を作製した。
【0069】
各実施例、比較例で得られた正極電極について測定A及びBを実施し、得られた結果を表1に示す。
【0070】