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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20230411BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P27/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020117519
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2021093901
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019215716
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100131521
【弁理士】
【氏名又は名称】堀口 忍
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-169590(JP,A)
【文献】特開2011-83068(JP,A)
【文献】特開2011-120322(JP,A)
【文献】特開2009-261198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波と電圧指令値との比較結果により電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、
制御周期毎に、前記電動機に流れる電流を用いて前記回転子の回転速度及び位置を推定し、前記回転子の回転速度及び位置を用いてベクトル制御により前記電圧指令値を求める制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記回転子の回転速度、または、前記回転子の回転速度に応じた変調率が大きくなるに従って前記電動機に流れる電流を取得する取得処理及びその取得した電流を用いて前記位置を推定する推定処理の制御周期を小さくする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記制御回路は、前記取得処理及び前記推定処理以外の処理の制御周期を一定にする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機の回転子の位置を用いて、電動機に流れる3相の交流電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、そのd軸電流及びq軸電流が電流指令値に近づくように電圧指令値を求め、その電圧指令値と搬送波との比較結果に応じた駆動信号により電動機の駆動を制御するもの、いわゆる、ベクトル制御により電動機の駆動を制御するものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-169590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制御装置では、回転子の回転速度(回転数)、または、回転子の回転速度に応じた変調率が比較的大きくなると、駆動信号のデューティ比が電圧指令値に合わせて変化せず、電動機の駆動の制御性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の一側面に係る目的は、ベクトル制御により電動機の駆動を制御する制御装置において、電動機の回転子の回転速度や変調率が比較的大きい場合、電動機の駆動の制御性が低下することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、電圧指令値と搬送波との比較結果により電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、制御周期毎に、電動機に流れる電流、並びに、回転子の回転速度及び位置を用いてベクトル制御により電圧指令値を求める制御回路とを備える。
【0007】
制御回路は、回転子の回転速度、または、回転子の回転速度に応じた変調率が大きくなるに従って制御周期を小さくする。
【0008】
これにより、電動機の回転子の回転速度、または、変調率が比較的大きくなっても、駆動信号のデューティ比が電圧指令値に合わせて変化しなくなることを抑制することができるため、電動機の制御性が低下することを抑制することができる。
【0009】
また、制御回路は、制御周期毎に、電動機に流れる電流を用いて回転子の回転速度及び位置を推定するように構成してもよい。
【0010】
また、本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、電圧指令値と搬送波との比較結果により電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、電動機に流れる電流、並びに、回転子の回転速度及び位置を用いてベクトル制御により電圧指令値を求める制御回路とを備える。
【0011】
制御回路は、回転速度または変調率が大きくなるに従って、制御回路の全ての処理のうち、電動機に流れる電流を取得する取得処理及びその取得した電流を用いて位置を推定する推定処理の制御周期を小さくするとともに、取得処理及び推定処理以外の処理の制御周期を一定にするように構成してもよい。
【0012】
これにより、回転速度または変調率が大きくなるに従って、電動機に流れる電流のサンプリング数を増加させることができ、位置の推定精度を高めることができる。そのため、その位置を用いて電圧指令値を算出することにより、電動機の制御性の低下を抑制することができる。また、制御回路の全ての処理のうちの一部の処理の制御周期を小さくし、その他の処理の制御周期を一定にするため、制御回路の処理負荷を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベクトル制御により電動機の駆動を制御する制御装置において、電動機の回転子の回転速度や変調率が比較的大きい場合、電動機の駆動の制御性が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】第1実施形態の電動機の制御装置の他の例を示す図である。
図3】搬送波、電圧指令値、及び駆動信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0016】
図1は、第1実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mの駆動を制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3と、電流センサSe1~Se3とを備える。
【0018】
インバータ回路2は、直流電源Pから供給される直流電力により電動機Mを駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が直流電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が直流電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電流センサSe3を介して電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0019】
コンデンサCは、直流電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0020】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、直流電源Pから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それら交流電力が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に入力され電動機Mの回転子が回転する。
【0021】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成される。電流センサSe1は電動機MのU相に流れる電流Iuを検出して制御回路3に出力し、電流センサSe2は電動機MのV相に流れる電流Ivを検出して制御回路3に出力し、電流センサSe3は電動機MのW相に流れる電流Iwを検出して制御回路3に出力する。
【0022】
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5とを備える。
【0023】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、制御周期毎に、演算部5から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。例えば、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、電圧指令値Vu*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vv*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、電圧指令値Vv*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vw*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、電圧指令値Vw*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0024】
なお、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値より小さい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフする制御(PWM(Pulse Width Modulation)制御)を行うものとする。
【0025】
また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値より大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期のうちの一部の期間においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフし、残りの期間においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御(過変調制御)を行うものとする。
【0026】
また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値よりさらに大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフし、残りの半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御(矩形波制御)を行うものとする。
【0027】
また、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を特に区別しない場合、単に、電圧指令値V*とする。また、駆動信号S1~S6を特に区別しない場合、単に、駆動信号Sとする。
【0028】
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、推定部6と、減算部7と、速度制御部8と、減算部9、10と、電流制御部11と、座標変換部12と、座標変換部13とを備える。例えば、マイクロコンピュータが不図示の記憶部に記憶されているプログラムを実行することにより、推定部6、減算部7、速度制御部8、減算部9、10、電流制御部11、座標変換部12、及び座標変換部13が実現される。
【0029】
推定部6は、制御周期毎に、電流制御部11から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*並びに座標変換部13から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、電動機Mの回転子の回転速度(回転数)ω^及び位置θ^を推定する。
【0030】
例えば、推定部6は、下記式1及び式2により、逆起電力ed^及び逆起電力eq^を演算する。なお、Rは電動機Mの抵抗を示し、Lは電送機Mが有するコイルのインダクタンスを示す。
【0031】
ed^=Vd*-R×Id+ω^×L×Id ・・・式1
eq^=Vq*-R×Iq-ω^×L×Iq ・・・式2
【0032】
次に、推定部6は、下記式3により、誤差θe^を演算する。
【0033】
θe^=tan-1(ed^/eq^) ・・・式3
【0034】
次に、推定部6は、下記式4において誤差θe^がゼロになるような回転速度ω^を求める。なお、KpはPI(Proportional Integral)制御の比例項の定数を示し、KiはPI制御の積分項の定数を示す。
【0035】
ω^=Kp×θe^+Ki×∫(θe^)dt ・・・式4
【0036】
そして、推定部6は、下記式5により、位置θ^を演算する。なお、sはラプラス演算子を示している。
【0037】
θ^=(1/s)×ω^ ・・・式5
【0038】
減算部7は、制御周期毎に、外部から入力される回転速度指令値ω*と推定部6から出力される回転速度ω^との差Δωを算出する。
【0039】
速度制御部8は、制御周期毎に、減算部7から出力される差Δωを、q軸電流指令値Iq*に変換する。
【0040】
例えば、速度制御部8は、下記式6において差Δωがゼロになるようなq軸電流指令値Iq*を求める。
【0041】
Iq*=Kp×Δω+Ki×∫(Δω)dt ・・・式6
【0042】
減算部9は、制御周期毎に、予め決められているd軸電流指令値Id*と、座標変換部13から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0043】
減算部10は、制御周期毎に、速度制御部8から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部13から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0044】
電流制御部11は、制御周期毎に、減算部9から出力される差ΔId及び減算部10から出力される差ΔIqを、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に変換する。
【0045】
例えば、電流制御部11は、下記式7を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式8を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、Lqは電動機Mが有するコイルのq軸インダクタンスを示し、Ldは電動機Mが有するコイルのd軸インダクタンスを示し、Keは誘起電圧定数を示す。
【0046】
Vd*=Kp×ΔId+Ki×∫(ΔId)dt-ωLqIq・・・式7
Vq*=Kp×ΔIq+Ki×∫(ΔIq)dt+ωLdId+ωKe・・・式8
【0047】
座標変換部12は、制御周期毎に、推定部6から出力される位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vv*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*に変換する。
【0048】
例えば、座標変換部12は、下記式9に示す変換行列C1を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*に変換する。
【0049】
【数1】
【0050】
例えば、座標変換部12は、下記式10の計算結果を、位相角δとする。
【0051】
δ=tan-1(-Vq*/Vd*) ・・・式10
【0052】
次に、座標変換部12は、位相角δと、位置θ^との加算結果を、目標位置θvとする。
【0053】
次に、座標変換部12は、下記式11の計算結果を、変調率´とする。なお、0<変調率´<1とする。なお、Vinは、直流電源Pの電圧とする。
【0054】
【数2】
【0055】
次に、座標変換部12は、下記式12の計算結果を、変調率とする。なお、-1<変調率<1とする。
【0056】
変調率=2×変調率´-1 ・・・式12
【0057】
そして、座標変換部12は、不図示の記憶部に予め記憶されている、目標位置θvと、電圧指令値Vu*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*との対応関係を示す情報を参照して、目標位置θvに対応する電圧指令値Vu*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*を求める。
【0058】
座標変換部13は、制御周期毎に、推定部6から出力される位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出される電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0059】
例えば、座標変換部13は、下記式13に示す変換行列C2を用いて、電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0060】
【数3】
【0061】
図2は、第1実施形態の電動機Mの制御装置1の他の例を示す図である。なお、図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
図2に示す制御装置1において、図1に示す制御装置1と異なる点は、電動機Mの回転子の位置θを検出し、その検出した位置θを制御回路3に出力する位置検出部Sp(レゾルバなど)を備えている点である。
【0063】
また、図2に示す制御装置1において、図1に示す制御装置1と異なる他の点は、演算部5の代わりに、演算部5´を備えている点である。
【0064】
演算部5´は、マイクロコンピュータなどにより構成され、推定部6´と、減算部7と、速度制御部8と、減算部9、10と、電流制御部11と、座標変換部12´と、座標変換部13´とを備える。例えば、マイクロコンピュータが不図示の記憶部に記憶されているプログラムを実行することにより、推定部6´、減算部7、速度制御部8、減算部9、10、電流制御部11、座標変換部12´、及び座標変換部13´が実現される。
【0065】
推定部6´は、制御周期毎に、位置検出部Spにより検出される位置θを用いて、電動機Mの回転子の回転速度ω^を推定する。
【0066】
例えば、推定部6´は、位置θを制御回路3の制御周期で除算することにより回転速度ω^を推定する。
【0067】
また、座標変換部12´は、制御周期毎に、位置検出部Spにより検出される位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、電圧指令値Vu*、及び電圧指令値Vw*に変換する。
【0068】
例えば、座標変換部12´は、上記式9に示す変換行列C1を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*に変換する。なお、上記式9において、位置θ^を位置θに置き換える。
【0069】
例えば、座標変換部12´は、上記式10~式12及び不図示の記憶部に予め記憶されている情報を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、電圧指令値Vv*、及び電圧指令値Vw*に変換する。なお、目標位置θvを求める際、位置θ^を位置θに置き換える。
【0070】
座標変換部13´は、制御周期毎に、位置検出部Spにより検出される位置θを用いて、電流センサSe1~Se3により検出される電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0071】
例えば、座標変換部13は、上記式13に示す変換行列C2を用いて、電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。なお、上記式13において、位置θ^を位置θに置き換える。
【0072】
図1または図2に示す制御回路3は、回転速度ω^が閾値ωth以下である場合または変調率が閾値Mth以下である場合、制御回路3の制御周期を制御周期T1にし、回転速度ω^が閾値ωthより大きい場合または変調率が閾値Mthより大きい場合、制御回路3の制御周期を制御周期T1より小さい制御周期T2にする。閾値ωthは、回転速度ω^の推定精度が低下していないときの回転速度ω^の最大値とする。また、閾値Mthは、回転速度ω^の推定精度が低下していないときの変調率の最大値とする。
【0073】
なお、図1または図2に示す制御回路3は、回転速度ω^が閾値ωth1以下である場合または変調率が閾値Mth1以下である場合、制御回路3の全ての処理の制御周期を制御周期T1にし、回転速度ω^が閾値ωth1より大きい場合または変調率が閾値Mth1より大きい場合、制御回路3の全ての処理の制御周期を制御周期T2にし、回転速度ω^が閾値ωth2以上である場合または変調率が閾値Mth2以上である場合、制御回路3の全ての処理の制御周期を制御周期T3にするように構成してもよい。閾値ωth1<閾値ωth2とする。また、閾値Mth1<閾値Mth2とする。また、制御周期T1>制御周期T2>制御周期T3とする。また、閾値ωth1は、回転速度ω^の推定精度が低下していないときの回転速度ω^の最大値とする。また、閾値Mth1は、回転速度ω^の推定精度が低下していないときの変調率の最大値とする。すなわち、図1または図2に示す制御回路3は、回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、制御回路3の全ての処理の制御周期を小さくするように構成してもよい。
【0074】
図3(a)及び図3(b)は、搬送波、電圧指令値Vu*、及び駆動信号S1の一例を示す図である。なお、図3(a)及び図3(b)に示す2次元座標の横軸は目標位置θvを示し、縦軸は電圧を示している。また、位置θ2~θ5における電圧指令値Vu*の周波数は、位置θ1~θ2における電圧指令値Vu*の周波数より高いものとする。すなわち、位置θ1~θ2における回転速度ω^が閾値ωth以下であり、位置θ2~θ5における回転速度ω^が閾値ωthより大きいものとする。または、位置θ1~θ2における変調率が閾値Mth以下であり、位置θ2~θ5における変調率が閾値Mthより大きいものとする。また、図3(a)に示す制御回路3の制御周期T1は、位置θ1~θ5において一定とする。また、図3(b)において、位置θ2~θ5における制御回路3の制御周期T2は、位置θ1~θ2における制御回路3の制御周期T1より小さいものとする。また、図3(a)及び図3(b)に示す搬送波の振幅値及び周波数は、位置θ1~θ5において一定とする。
【0075】
図3(a)に示す位置θ1~θ2では、電圧指令値Vu*の振幅値の変化に追従して、駆動信号S1のデューティ比(搬送波の1周期に対する駆動信号S1のハイレベル期間の割合)が変化している。すなわち、図3(a)に示す位置θ1~θ2では、電圧指令値Vu*の振幅値が正側に大きくなると、駆動信号S1のデューティ比が大きくなり、電圧指令値Vu*の振幅値が負側に大きくなると、駆動信号S1のデューティ比が小さくなっている。
【0076】
一方、図3(a)に示す位置θ2~θ5では、位置θ1~θ2に比べて、回転速度ω^または変調率が大きくなり、駆動信号S1のデューティ比が電圧指令値Vu*の振幅値の変化に応じた値にならない場合がある。すなわち、図3(a)に示す例では、位置θ3~θ4の期間において駆動信号S1がローレベルになることが望ましいが、位置θ3において電圧指令値Vu*が搬送波以上であるため、位置θ3~θ4の期間において駆動信号S1がハイレベルになっている。このように、回転速度ω^または変調率が比較的大きくなると、電圧指令値Vu*の振幅値の変化に応じて、駆動信号S1のデューティ比が変化しなくなる場合がある。
【0077】
そこで、第1実施形態の制御装置1では、図3(b)に示すように、位置θ2~θ5における制御周期T2を、位置θ1~θ2における制御周期T1より小さくしている。そのため、位置θ2~θ5における電流Iu、Iv、Iw及び位置θ^または位置θの単位時間あたりのサンプリング数が、位置θ1~θ2における電流Iu、Iv、Iw及び位置θ^または位置θの単位時間あたりのサンプリング数より増加し、位置θ2~θ5における単位時間あたりの搬送波と電圧指令値Vu*との比較回数が、位置θ1~θ2における単位時間あたりの搬送波と電圧指令値Vu*との比較回数より増加する。これにより、電圧指令値Vu*の振幅値の変化に応じて、駆動信号S1のデューティ比が変化しなくなることを抑制することができる。すなわち、図3(b)に示す例では、位置θ3~θ4の期間において駆動信号S1がローレベルになることが望ましいところ、位置θ3~θ4の一部において駆動信号S1がローレベルになっている。
【0078】
このように、第1実施形態の制御装置1では、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、制御周期を小さくする構成であるため、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が比較的大きくなっても、駆動信号Sのデューティ比が電圧指令値V*に合わせて変化しなくなることを抑制することができるため、電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【0079】
また、第1実施形態の制御装置1では、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が比較的小さい場合、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が比較的大きい場合に比べて、制御周期が大きくなるため、制御回路3の単位時間あたりの処理回数が低減され、制御回路3にかかる負荷を低減することができる。
【0080】
<第2実施形態>
第2実施形態の制御装置では、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、制御回路3の全ての処理のうち、電動機Mに流れる電流を取得する処理やその電流を用いて位置θ^を推定する処理の制御周期を小さくし、その他の処理の制御周期を一定にする。なお、第2実施形態の制御装置の構成は、図1に示す制御装置1の構成と同様とする。
【0081】
すなわち、座標変換部13は、第1の制御周期毎に、電動機Mの各相に流れる電流Iu、Iv、Iwを取得するとともに、推定部6から出力される位置θ^を用いて、電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0082】
また、推定部6は、第1の制御周期毎に、電流制御部11から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*並びに座標変換部13から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、回転子の回転速度ω^及び位置θ^を推定する。
【0083】
また、減算器7は、第2の制御周期毎に、外部から入力される回転速度指令値ω*と推定部6から出力される回転速度ω^との差Δωを算出する。
【0084】
また、速度制御部8は、第2の制御周期毎に、差Δωをq軸電流指令値Iq*に変換する。
【0085】
また、減算部9は、第2の制御周期毎に、予め決められているd軸電流指令値Id*と、座標変換部13から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0086】
また、減算部10は、第2の制御周期毎に、速度制御部8から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部13から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0087】
また、電流制御部11は、第2の制御周期毎に、差ΔId及び差ΔIqを、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に変換する。
【0088】
また、座標変換部12は、第2の制御周期毎に、推定部6から出力される位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電動機Mの各相に対応する電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【0089】
また、ドライブ回路4は、第2の制御周期毎に、演算部5から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と搬送波とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0090】
そして、制御回路3は、回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、第1の制御周期を小さくするとともに第2の制御周期を一定のままにする。
【0091】
例えば、回転速度ω^が閾値ωth以下であるとき、第1及び第2の制御周期を制御周期T1とし、回転速度ω^が閾値ωthより大きいとき、第1の制御周期を制御周期T2とするとともに第2の制御周期を制御周期T1のままとする場合を想定する。なお、制御周期T2は制御周期T1より小さいものとする。
【0092】
この場合、回転速度ω^が閾値ωthより大きいとき、回転速度ω^が閾値ωth以下であるときに比べて、電動機Mに流れる電流Iu、Iv、Iwの単位時間(例えば、電流Iu、Iv、Iwの1周期)あたりのサンプリング数が増加するため、d軸電流Id及びq軸電流Iqの単位時間あたりのサンプリング数も増加する。これにより、d軸電流Id及びq軸電流Iqの増加分を用いてd軸電流Id及びq軸電流Iqの移動平均を算出することなどによりd軸電流Id及びq軸電流Iqに含まれる誤差を減少させることができる。そのため、d軸電流Id及びq軸電流Iqに含まれる誤差の減少に伴って、d軸電流Id及びq軸電流Iqが用いられて推定される位置θ^の推定精度を高めることができる。
【0093】
このように、第2実施形態の制御装置では、回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、電動機Mに流れる電流を取得する取得処理及びその取得した電流を用いて位置θ^を推定する推定処理の制御周期を小さくする構成である。これにより、回転速度ω^または変調率が大きくなるに従って、電動機Mに流れる電流のサンプリング数を増加させることができ、位置θ^の推定精度を高めることができる。そのため、その位置θ^を用いて電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を高精度に算出することができるため、電動機Mの制御性の低下を抑制することができる。すなわち、第2実施形態の制御装置によれば、電動機Mの回転子の回転速度ω^または変調率が比較的大きくなっても、電圧指令値V*の算出精度を高めることができるため、電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【0094】
また、第2実施形態の制御装置では、制御回路3の全ての処理のうちの一部の処理の制御周期を小さくし、その他の処理の制御周期を一定のままにするため、制御回路3の処理負荷を抑えることができる。
【0095】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 ドライブ回路
5、5´ 演算部
6、6´ 推定部
7 減算部
8 速度制御部
9 減算部
10 減算部
11 電流制御部
12、12´ 座標変換部
13、13´ 座標変換部
図1
図2
図3