(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】ガス分析システム及びガス分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20230411BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20230411BHJP
G01N 21/39 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/61
G01N21/39
(21)【出願番号】P 2020130550
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄真
(72)【発明者】
【氏名】猿谷 敏之
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 敦彦
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-151683(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変調周波数で変調されたレーザ光を射出する発光素子と、
測定対象ガスを介した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力される受光信号に含まれる前記変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分
の振幅及び位相を検出する検出部と、
前記発光素子から前記受光素子に至る前記レーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの前記第1成分と同じ周波数の成分である第2成分
の振幅及び位相を記憶する記憶部と、前記第1成分から前記第2成分を除去して得られる第3成分の大きさに基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める
演算部と、備える処理部と、
を備え
、
前記演算部は、前記検出部で検出された前記第1成分の振幅及び位相と、前記記憶部に記憶された前記第2成分の振幅及び位相とを用いて、前記第1成分から前記第2成分を除去する演算を行って前記第3成分を求める、
ガス分析システム。
【請求項2】
前記検出部は、前記第1成分に加えて、前記受光信号に含まれる前記変調周波数と同じ周波数を有する成分である基本成分を検出し、
前記演算部は、前記基本成分の振幅に対する前記第3成分の振幅の比に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める、
請求項1記載のガス分析システム。
【請求項3】
前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相は、前記レーザ光の光路上に前記測定対象ガスが存在しない状態又は前記レーザ光の光路上における前記測定対象ガスの濃度が十分低い状態のときに、前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相である、
請求項1又は請求項2記載のガス分析システム。
【請求項4】
前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相は、前記レーザ光の光路上に既知の第1濃度の前記測定対象ガスが存在する状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相と、前記レーザ光の光路上に既知の第2濃度の前記測定対象ガスが存在する状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相とを用いて所定の演算を行って得られる振幅及び位相である、
請求項1又は請求項2記載のガス分析システム。
【請求項5】
前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相は、前記レーザ光の光路長が予め規定された基準長に設定された状態のときに、前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相であり、
前記演算部は、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定されない状態のときに前記検出部で検出される前記基本成分の位相と、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定された状態のときに前記検出部で検出される前記基本成分の位相との差に基づいて、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定されない状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の位相を補正した上で、前記第1成分から前記第2成分を除去する演算を行って前記第3成分を求める、
請求項2記載のガス分析システム。
【請求項6】
所定の変調周波数で変調されたレーザ光を射出する第1ステップと、
測定対象ガスを介した前記レーザ光を受光して受光信号を得る第2ステップと、
前記受光信号に含まれる前記変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分
の振幅及び位相を検出する第3ステップと、
前記レーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの前記第1成分と同じ周波数の成分である第2成分
の振幅及び位相を記憶する第4ステップと、
前記第1成分から前記第2成分を除去して第3成分を得る
第5ステップと、
前記第3成分の大きさに基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める
第6ステップと、
を有
し、
前記第5ステップは、前記第3ステップで検出された前記第1成分の振幅及び位相と、前記第4ステップで記憶された前記第2成分の振幅及び位相とを用いて、前記第1成分から前記第2成分を除去する演算を行って前記第3成分を求める、
ガス分析方法。
【請求項7】
前記測定対象ガスの測定に先立って、予め前記第2成分を求めるステップを更に備える、
請求項6記載のガス分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析システム及びガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象ガスを分析するガス分析システムの1つに、測定対象ガスに照射した光の吸光度に基づいて、測定対象ガスの濃度を測定するものがある。このようなガス分析システムでは、測定精度(感度)を高めるために、波長変調分光法(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)が用いられることがある。波長変調分光法は、変調周波数fで変調されたレーザ光を測定対象ガスに照射し、測定対象ガスを透過したレーザ光を検出して得られる2倍波成分(2f成分)に基づいて測定対象ガスの濃度を測定する手法である。
【0003】
波長変調分光法では、検出される変調周波数fの成分(1f成分)に対する2f成分の比を求めて受光光量の規格化を行った上で、測定対象ガスの濃度の測定が行われることが多い。これは、測定対象ガス以外の要因によるレーザ光の受光光量の変動の影響を低減するためである。尚、波長変調分光法は、2f検波法と言われることもある。以下の特許文献1には、波長変調分光法を用いてガス濃度の測定を行う従来のガス分析システムの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したガス分析システムにおいて、レーザ光が、レンズ等の光学素子、窓、薄膜等を通過する際に、光学干渉ノイズが発生することがある。この光学干渉ノイズは、例えば、光学素子等の内部において多重反射したレーザ光が干渉することによって生ずるものであり、その大きさは、レーザ光の波長に依存して周期的に変化する。例えば、ファブリペローエタロンの透過率が波長に対して周期的になるように、光学干渉ノイズの大きさも波長に対して周期的になる。このような光学干渉ノイズがあると、測定対象ガスの濃度の検出限界が悪化してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、測定対象ガスの濃度の検出限界を改善できるガス分析システム及びガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によるガス分析システム(1)は、所定の変調周波数(f)で変調されたレーザ光を射出する発光素子(13)と、測定対象ガス(GS)を介した前記レーザ光を受光する受光素子(17)と、前記受光素子から出力される受光信号に含まれる前記変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分から、前記発光素子から前記受光素子に至る前記レーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの前記第1成分と同じ周波数の成分である第2成分を除去して得られる第3成分の大きさに基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める処理部(20)と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記受光信号に含まれる前記第1成分の振幅(R2f)及び位相(θ2f)を検出する検出部(19)を備えており、前記処理部が、前記第2成分の振幅(R0、R02f)及び位相(θ0、θ02f)を記憶する記憶部(21)と、前記検出部で検出された前記第1成分の振幅及び位相と、前記記憶部に記憶された前記第2成分の振幅及び位相とを用いて、前記第1成分から前記第2成分を除去する演算を行って前記第3成分を求める演算部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記検出部が、前記第1成分に加えて、前記受光信号に含まれる前記変調周波数と同じ周波数を有する成分である基本成分を検出し、前記演算部は、前記基本成分の振幅(R1f)に対する前記第3成分の振幅(R′2f)の比(R′2f/R1f)に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める。
【0010】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相が、前記レーザ光の光路上に前記測定対象ガスが存在しない状態又は前記レーザ光の光路上における前記測定対象ガスの濃度が十分低い状態のときに、前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相である。
【0011】
或いは、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相が、前記レーザ光の光路上に既知の第1濃度の前記測定対象ガスが存在する状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相と、前記レーザ光の光路上に既知の第2濃度の前記測定対象ガスが存在する状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相とを用いて所定の演算を行って得られる振幅及び位相である。
【0012】
或いは、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記記憶部に記憶される前記第2成分の振幅及び位相が、前記レーザ光の光路長が予め規定された基準長に設定された状態のときに、前記検出部で検出される前記第1成分の振幅及び位相であり、前記演算部が、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定されない状態のときに前記検出部で検出される前記基本成分の位相と、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定された状態のときに前記検出部で検出される前記基本成分の位相との差に基づいて、前記レーザ光の光路長が前記基準長に設定されない状態のときに前記検出部で検出される前記第1成分の位相を補正した上で、前記第1成分から前記第2成分を除去する演算を行って前記第3成分を求める。
【0013】
本発明の一態様によるガス分析方法は、所定の変調周波数(f)で変調されたレーザ光を射出する第1ステップと、測定対象ガス(GS)を介した前記レーザ光を受光して受光信号を得る第2ステップと、前記受光信号に含まれる前記変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分から、前記レーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの前記第1成分と同じ周波数の成分である第2成分を除去して第3成分を得る第3ステップ(S14、S25)と、前記第3成分の大きさに基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める第4ステップ(S15,S26)と、を有する。
【0014】
また、本発明の一態様によるガス分析方法は、前記測定対象ガスの測定に先立って、予め前記第2成分を求めるステップ(S11,S12,S21,S22)を更に備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象ガスの濃度の検出限界を改善できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態において、演算部で行われる処理を説明するための図である。
【
図3】本発明の第1実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第1実施形態によるガス分析システムの測定結果を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態における2fノイズ成分を求める方法を説明するための図である。
【
図6】本発明の第3実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態によるガス分析システム及びガス分析方法について詳細に説明する。以下では、まず本実施形態の概要について説明し、その後に各実施形態の詳細について説明する。
【0018】
〔概要〕
本発明の実施形態は、測定対象ガスの濃度の検出限界を改善できるようにするものである。具体的には、測定対象ガスの濃度が低い場合であっても、測定対象ガスの濃度を高い精度で測定することができるようにするものである。つまり、理論的に求められる検出限界付近においても、測定対象ガスの濃度を高い精度で測定することができるようにするものである。
【0019】
波長変調分光法において、検出される2倍波成分(2f成分)の振幅の大きさは以下の(1)式で表される。
【数1】
【0020】
上記(1)式において、Isは2f成分の振幅の大きさ(RMS:二乗平均平方根)である。また、sは受光素子の感度を示す係数であり、Pdcはレーザ光の受光パワーであり、k2はレーザ光の変調周波数で決まる定数である。また、α0は測定対象ガスの中心波長における吸光度であり、CRは測定対象ガスのガス濃度である。
【0021】
また、検出される2f成分のノイズI
Nは、以下の(2)式で表される。
【数2】
【0022】
上記(2)式において、RINはレーザ光源の相対強度雑音(Relative Intensity Noise)であり、Idarkは受光素子の暗電流である。また、eは電気素量であり、kBはボルツマン定数であり、Tは受光素子の温度であり、Rshは受光素子の並列抵抗であり、Δtは2f成分の検出に用いられるロックインアンプの時定数である。
【0023】
信号対雑音比(SN比:Signal-Noise ratio)が「1」であるときの、測定対象ガスの濃度の検出限界C
R
limitは、以下の(3)式で示される。
【数3】
【0024】
ここで、2f成分のノイズINを示す上記(2)式、測定対象ガスの濃度の検出限界CR
limitを示す上記(3)式では、光学干渉ノイズが考慮されていない。光学干渉ノイズは、レーザ光が、レンズ等の光学素子、窓、薄膜等を通過する際に発生するものである。例えば、光学干渉ノイズは、光学素子等の内部において多重反射したレーザ光が干渉することによって生ずるものであり、その大きさは、レーザ光の波長や光学素子等の厚みに依存して周期的に変化する。このため、例えば、光学素子等の厚みによって、光学干渉ノイズの半値全幅と測定対象ガスの吸収スペクトルの半値全幅とが同程度になる場合には、光学干渉ノイズと測定対象ガスの吸収スペクトルとを分離することが困難になる。
【0025】
このような光学干渉ノイズは、例えば、以下に示す対策(光学的な対策)を施すことによって、取り除く(或いは、低減する)ことが可能である。
・原因となる光学素子等の入射面及び射出面に反射防止膜(AR膜)を形成する
・原因となる光学素子等のレーザ光の光路に対する入射面及び射出面を傾ける
・吸収スペクトルのFWHM(Full Width at Half Maximum:半値全幅)と光学干渉の周期が同程度にならないように設計する
しかしながら、これらの対策を施すには、コストの増加、構成の複雑化、設計自由度の低下、調整の煩雑化等のデメリットが生ずる。
【0026】
本発明の実施形態では、まず、所定の変調周波数で変調されたレーザ光を射出し、測定対象ガスを介したレーザ光を受光して受光信号を得る。次に、受光信号に含まれる変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分から、レーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの第1成分と同じ周波数の成分である第2成分を除去して第3成分を得る。そして、第3成分の大きさに基づいて測定対象ガスの濃度を求める。これにより、コストの増加、構成の複雑化、設計自由度の低下、調整の煩雑化等のデメリットが生ずることなく、測定対象ガスの濃度の検出限界を改善できる。
【0027】
〔第1実施形態〕
〈ガス分析システム〉
図1は、本発明の第1実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態のガス分析システム1は、ガス分析装置10及び信号処理装置20(処理部)を備えており、波長変調分光法を用いて測定対象ガスGSの濃度を測定する。具体的に、本実施形態のガス分析システム1は、変調周波数fで変調されたレーザ光を測定対象ガスGSに照射し、検出される2倍波成分(2f成分)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定する。
【0028】
ガス分析装置10は、信号発生器11、駆動回路12、半導体レーザ13(発光素子)、光増幅器14、レンズ15、レンズ16、光検出器17(受光素子)、アンプ18、及びロックインアンプ19(検出部)を備える。このようなガス分析装置10は、測定対象ガスGSに照射するレーザ光の射出、測定対象ガスGSを介したレーザ光の受光、受光信号に含まれる変調周波数fの成分(1f成分)及び2f成分の検出等を行う。
【0029】
信号発生器11は、信号処理装置20の制御の下で、駆動回路12を制御するための制御信号CSと、ロックインアンプ19で用いられる参照信号RSとを出力する。信号発生器11から出力される参照信号RSは、信号発生器11から出力される制御信号CSに同期している。この信号発生器11としては、例えば、任意波形発生器やファンクションジェネレータ等を用いることができる。
【0030】
駆動回路12は、信号発生器11から出力される制御信号CSに基づいて、半導体レーザ13を駆動するための駆動信号を出力する。駆動回路12から出力される駆動信号は、例えば、一定の大きさ(振幅)を有する直流電流に対し、変調周波数fの交流電流が重畳された信号である。尚、変調周波数fの交流電流は、例えば、正弦波状のものであっても、正弦波状以外のものであっても良い。
【0031】
半導体レーザ13は、駆動回路12から出力される駆動信号によって駆動され、測定対象ガスGSに照射するレーザ光を射出する。半導体レーザ13から射出されるレーザ光は、例えば、変調の中心波長が測定対象ガスGSの吸収スペクトルの中心波長とされ、波長変調幅(変調周波数f)が測定対象ガスGSの吸収スペクトルのFWHMの2.2倍とされたレーザ光である。半導体レーザ13から射出されるレーザ光の波長変調幅(変調周波数f)は、測定対象ガスGSの吸収スペクトルのFWHMの1倍以上、好ましくは2倍以上、又は10倍以上でも良い。尚、半導体レーザ13として、例えば、QCL(Quantum Cascade Laser:量子カスケードレーザ)、又はICL(Interband Cascade Laser:インターバンドカスケードレーザ)を用いることができる。
【0032】
光増幅器14は、半導体レーザ13から射出されたレーザ光を増幅する。この光増幅器14としては、例えば、光ファイバ増幅器(OFA:Optical Fiber Amplifier)又は半導体光増幅器 (SOA: Semiconductor Optical Amplifiers) 等を用いることができる。レンズ15は、光増幅器14を介したレーザ光を、平行光に変換する。このようなレンズ15としては、コリメートレンズを用いることができる。尚、光増幅器14を介したレーザ光を平行光に変換できるのであれば、レンズ15に代えて、他の光学素子(例えば、放物面鏡)を用いることもできる。
【0033】
レンズ15でコリメートされたレーザ光は、測定対象ガスGSに照射される。測定対象ガスGSに照射されたレーザ光のうち、測定対象ガスGSを透過したレーザ光は、壁等の散乱体SMで反射された後に、測定対象ガスGSを再び透過してレンズ16に入射する。尚、ガス分析装置10と散乱体SMとの間の距離は、任意の距離で良いが、例えば、100[m]程度以下に設定される。
【0034】
レンズ16は、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17に集光する。このようなレンズ16としては、集光レンズを用いることができる。尚、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17に集光できるのであれば、レンズ16に代えて、他の光学素子(例えば、放物面鏡)を用いることもできる。光検出器17は、レンズ16で集光されたレーザ光を電気信号に変換し、受光信号として出力する。この光検出器17として、例えば、PD(PhotoDiode)を用いることができる。
【0035】
アンプ18は、光検出器17から出力される受光信号を増幅する。アンプ18の増幅率は、例えば、光検出器17に入射するレーザ光の強度に応じて、適切な増幅率に設定される。光検出器17がPDである場合には、アンプ18として、光検出器17から受光信号として出力される光電流を電圧に変換するIV変換回路を用いることができる。
【0036】
ロックインアンプ19は、信号発生器11から出力される参照信号RSを用いて、アンプ18で増幅された受光信号から特定の周波数成分を検出する。具体的に、ロックインアンプ19は、信号発生器11から出力される参照信号RSを用いて、位相敏感検波(PSD:Phase Sensitive Detection)を行って、アンプ18で増幅された受光信号から1f成分(基本成分)と2f成分(第1成分)とを検出する。
【0037】
信号処理装置20は、記憶部21、演算部22、及び出力部23を備えており、ガス分析装置10の動作を制御し、ガス分析装置10の検出結果(ロックインアンプ19の検出結果)を用いて測定対象ガスGSの濃度を測定する。信号処理装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータによって実現される。
【0038】
記憶部21は、半導体レーザ13から光検出器17に至るレーザ光の光路で生ずる光学干渉ノイズの所定の成分(第2成分)を記憶する。具体的に、記憶部21は、光学干渉ノイズの成分のうち、2f成分と同じ周波数の成分(以下、「2fノイズ成分」という)の振幅R0及び位相θ0を記憶する。尚、位相θ0は、信号発生器11から出力される参照信号RSの位相を基準とした位相である。ここで、記憶部21に記憶される振幅R0及び位相θ0は、例えば、ガス分析装置10から射出されるレーザ光の光路上に測定対象ガスGSが存在しない(或いは、レーザ光の光路上における測定対象ガスGSの濃度が十分低い)状態のときに、ロックインアンプ19で検出される2f成分の振幅及び位相である。ここで「測定対象ガスGSの濃度が十分低い」とは、レーザ光の光路上における測定対象ガスGSの濃度が、濃度測定時におけるレーザ光の光路上における測定対象ガスGSの濃度よりも十分低いことをいい、ガス分析システム1の検出限界よりも低い濃度であることが好ましい。
【0039】
演算部22は、ガス分析装置10の検出結果(ロックインアンプ19の検出結果)と、記憶部21に記憶された2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0とを用いて、測定対象ガスGSの濃度を求める。具体的に、演算部22は、ロックインアンプ19で検出された2f成分の振幅R2f及び位相θ2fから、記憶部21に記憶された2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0を除去する演算を行う。これにより、演算部22は、2f成分から2fノイズ成分が除去された成分(以下、「ノイズ除去2f成分」という:第3成分)の振幅R′2fを求める。
【0040】
例えば、演算部22は、以下の(4)式に示される演算を行って、ノイズ除去2f成分の振幅R′
2fを求める。
【数4】
【0041】
図2は、本発明の第1実施形態において、演算部で行われる処理を説明するための図である。
図2示すグラフは、ロックインアンプ19のX出力を横軸にとり、Y出力を縦軸にとったグラフである。尚、
図2に示すグラフは、横軸が実軸であり、縦軸が虚軸である複素平面のグラフと見ることもできる。
図2において、2f成分はベクトルV
2fで表されており、2fノイズ成分はベクトルV
0で表されている。また、ノイズ除去2f成分はベクトルV′
2fで表されている。
【0042】
尚、ベクトルV2fの長さは2f成分の振幅Rを示しており、正の実軸に対するベクトルV2fの反時計回りの回転角度は2f成分の位相θを示している。また、ベクトルV0の長さは2fノイズ成分の振幅R0を示しており、正の実軸に対するベクトルV0の反時計回りの回転角度は2f成分の位相θ0を示している。同様に、ベクトルV′2fの長さはノイズ除去2f成分の振幅R′2fを示しており、正の実軸に対するベクトルV′2fの反時計回りの回転角度はノイズ除去2f成分の位相を示している。
【0043】
図2に示す通り、ロックインアンプ19で検出される2f成分(
図2中のベクトルV
2f)は、ノイズ除去2f成分(
図2中のベクトルV′
2f)と、2fノイズ成分(ベクトルV
0)との和で表される。尚、ノイズ除去2f成分(
図2中のベクトルV′
2f)は、2fノイズ成分の影響を受けていない本来の2f成分である。演算部22は、前述した(4)式を用いて、ロックインアンプ19で検出される2f成分(
図2中のベクトルV
2f)からベクトルV
0を減算して、本来の2f成分(
図2中のベクトルV′
2f)の長さ(ノイズ除去2f成分の振幅R′
2f)を求めている。
【0044】
また、演算部22は、ロックインアンプ19で検出された1f成分の振幅R1fに対する、ノイズ除去2f成分の振幅R′2fの比(R′2f/R1f)に基づいて、測定対象ガスGSの濃度を測定する。ここで、上記の比に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定するのは、測定対象ガス以外の要因によるレーザ光の受光光量の変動の影響を低減するためである。
【0045】
出力部23は、演算部22の演算結果を外部に出力する。例えば、出力部23は、演算部22で測定された測定対象ガスGSの濃度を示す情報を出力する。尚、出力部23は、測定対象ガスGSの濃度を示す情報以外に、2f成分を示す情報、1f成分を示す情報、2fノイズ成分を示す情報、その他の各種情報を出力しても良い。出力部23は、これらの情報を示す信号を外部に出力するものであっても良く、これらの情報を表示することで外部に出力するものであっても良い。
【0046】
〈ガス分析方法〉
図3は、本発明の第1実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。まず、測定対象ガスGSの測定に先立って、2fノイズ成分の振幅R
0及び位相θ
0を取得する処理が行われる。
【0047】
具体的には、測定対象ガスGSが存在しない状態のときに、変調周波数fで変調されたレーザ光を射出し、散乱体SMで反射されたレーザ光を光検出器17で検出し、光検出器17から出力される受光信号をロックインアンプ19で検出する処理が、ガス分析装置10で行われる。そして、ロックインアンプ19で検出された2f成分の振幅及び位相を取得し(ステップS11)、取得した2f成分の振幅及び位相を振幅R0及び位相θ0として記憶部21に記憶させる処理が信号処理装置20で行われる(ステップS12)。
【0048】
次に、測定対象ガスGSの測定が行われる。具体的には、測定対象ガスGSが存在している状態で、変調周波数fで変調されたレーザ光を射出し(第1ステップ)、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17で検出して受光信号を得て(第2ステップ)、受光信号をロックインアンプ19で検出する処理が、ガス分析装置10で行われる。そして、ロックインアンプ19で検出された測定対象ガスの1f成分の振幅R1fと、2f成分の振幅R2f及び位相θ2fとを取得する処理が信号処理装置20で行われる(ステップS13)。
【0049】
次いで、前述した式(4)式に示される演算を行って、ノイズ除去2f成分の振幅R′2fを算出する処理が演算部22で行われる(ステップS14:第3ステップ)。具体的には、ステップS12で記憶部21に記憶された振幅R0及び位相θ0と、ステップS13で取得した2f成分の振幅R2f及び位相θ2fとを、前述した式(4)式に代入してノイズ除去2f成分の振幅R′2fを算出する処理が演算部22で行われる。
【0050】
続いて、ステップS13で得られた1f成分の振幅R1fに対するノイズ除去2f成分の振幅R′2fの比(R′2f/R1f)を求めて、測定対象ガスGSの濃度を算出する処理が演算部22で行われる(ステップS15:第4ステップ)。そして、演算部22で測定された測定対象ガスGSの濃度を示す情報が出力部23から出力される。以降、ステップS13~S15の処理が、予め規定された一定の時間間隔をもって繰り返し行われる。
【0051】
図4は、本発明の第1実施形態によるガス分析システムの測定結果を示す図である。
図4に示す測定結果は、測定対象ガスとしてメタン(CH
4)ガスを測定した結果であって、
図4(a)は、本実施形態のガス分析システム1の測定結果を示す図であり、
図4(b)は、従来のガス分析システムの測定結果を示す図である。尚、
図4(a)に示す測定結果は、ノイズ除去2f成分と1f成分との振幅比(R′
2f/R
1f)とメタンガスの濃度との関係を示すものであり、
図4(b)に示す測定結果は、2f成分と1f成分との振幅比(R
2f/R
1f)とメタンガスの濃度との関係を示すものである。
【0052】
図4(b)に示す測定結果を参照すると、濃度が100[ppmm]以下になると、2f成分と1f成分との振幅比(R
2f/R
1f)とメタンガスの濃度との関係を示すグラフの直線性が崩れている。これにより、従来は、濃度が100[ppmm]以下になると測定対象ガスの濃度を精度良く測定できていないことが分かる。これに対し、
図4(a)に示す測定結果を参照すると、濃度が100[ppmm]以下であってもノイズ除去2f成分と1f成分との振幅比(R′
2f/R
1f)とメタンガスの濃度との関係を示すグラフの直線性が保たれている。これにより、本実施形態では、測定対象ガスの濃度が低くとも、測定対象ガスの濃度を高い精度で測定できていることが分かる。
【0053】
以上の通り、本実施形態では、まず、所定の変調周波数fで変調されたレーザ光を射出し、測定対象ガスGSを介したレーザ光を受光して受光信号を得ている。次に、受光信号に含まれる2f成分から、レーザ光の光路で生ずる2fノイズ成分を除去してノイズ除去2f成分を得ている。そして、ノイズ除去2f成分の大きさに基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めている。これにより、コストの増加、構成の複雑化、設計自由度の低下、調整の煩雑化等のデメリットが生ずることなく、測定対象ガスGSの濃度の検出限界を改善できる。
【0054】
このように、本実施形態では、振幅の情報だけでなく位相の情報も用いることで、光学干渉ノイズ等の位相が決まった成分を除去することが可能となる。これにより、半導体レーザ13のRIN(相対強度雑音)やアンプ18等の回路の白色雑音で決まる検出限界レベルまで、測定対象ガスGSの濃度を精度良く測定することができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態におけるガス分析システムは、
図1に示すガス分析システム1と同様の構成である。本実施形態と上述した第1実施形態とが異なる点は、2fノイズ成分の振幅R
0及び位相θ
0の取得方法である。つまり、本実施形態と第1実施形態とは、
図3に示すステップS11,S12の処理が異なる。
【0056】
上述した第1実施形態では、
図3に示すステップS11の処理にて、ガス分析装置10から射出されるレーザ光の光路上に測定対象ガスGSが存在しない状態のときに、ロックインアンプ19で検出される2f成分の振幅及び位相を取得していた。そして、
図3に示すステップS11の処理にて、取得した2f成分の振幅及び位相を、2fノイズ成分の振幅R
0及び位相θ
0として記憶部21に記憶していた。
【0057】
これに対し、本実施形態では、レーザ光の光路上に既知の第1濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときにロックインアンプ19で検出される2f成分の振幅及び位相を取得する。また、レーザ光の光路上に既知の第2濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときにロックインアンプ19で検出される2f成分の振幅及び位相を取得する。そして、取得した2つの振幅及び位相と、測定対象ガスGSの濃度(第1濃度、第2濃度)とを用いて演算により、2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0を求めるものである。
【0058】
尚、2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0を求める際には、測定対象ガスGSが封入された2種類のガスセルを、レーザ光の光路上に配置するのが望ましい。具体的には、上述した第1濃度の測定対象ガスGSが封入されたガスセルと、上述した第2濃度の測定対象ガスGSが封入されたガスセルとを交互にレーザ光の光路上に配置して、ロックインアンプ19で検出される2f成分の振幅及び位相を取得するのが望ましい。
【0059】
図5は、本発明の第2実施形態における2fノイズ成分を求める方法を説明するための図である。尚、
図5においては、
図2と同様に、ロックインアンプ19のX出力を横軸にとり、Y出力を縦軸にとってある。尚、
図5に示すグラフは、
図2と同様に、横軸が実軸であり、縦軸が虚軸である複素平面のグラフと見ることもできる。
【0060】
図5において、レーザ光の光路上に既知の第1濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときにロックインアンプ19で検出される2f成分は、ベクトルV1
2fで表されている。また、レーザ光の光路上に既知の第2濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときにロックインアンプ19で検出される2f成分は、ベクトルV2
2fで表されている。また、2fノイズ成分はベクトルV
0で表されている。
【0061】
尚、
図5中のベクトルV1′
2fは、第1濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときの、2fノイズ成分の影響を受けていない本来の2f成分を示している。また、ベクトルV2′
2fは、第2濃度の測定対象ガスGSが存在する状態のときの、2fノイズ成分の影響を受けていない本来の2f成分を示している。ベクトルV1′
2fの長さ(振幅)は、測定対象ガスGSの第1濃度に応じた長さになる。同様に、ベクトルV2′
2fの長さ(振幅)は、測定対象ガスGSの第2濃度に応じた長さになる。測定対象ガスGSの第1濃度をd1、測定対象ガスGSの第2濃度をd2とする。
【0062】
信号処理装置20は、以下に示す(5)式に示される演算を行って、2fノイズ成分(ベクトルV
0)を求めている。
【数5】
【0063】
尚、ベクトルV0の長さが2fノイズ成分の振幅R0であり、正の実軸に対するベクトルV0の反時計回りの回転角度が2fノイズ成分の位相θ0である。このようにして求められた2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0は、記憶部21に記憶される。
【0064】
以上の通り、本実施形態と上述した第1実施形態とは、2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0の取得方法が異なるのみである。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、受光信号に含まれる2f成分から、レーザ光の光路で生ずる2fノイズ成分を除去してノイズ除去2f成分を得て、ノイズ除去2f成分の大きさに基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めている。これにより、コストの増加、構成の複雑化、設計自由度の低下、調整の煩雑化等のデメリットが生ずることなく、測定対象ガスGSの濃度の検出限界を改善できる。
【0065】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態におけるガス分析システムは、
図1に示すガス分析システム1と同様の構成である。本実施形態と上述した第1実施形態とが異なる点は、2fノイズ成分の振幅R
0及び位相θ
0の取得方法と、演算部22で行われるノイズ除去2f成分の振幅R′
2fを算出する処理とが異なる。本実施形態は、変調周波数が高く、且つ測定距離(レーザ光の光路長)が様々に変化する場合に対応したものである。
【0066】
変調周波数が高く、且つ測定距離(レーザ光の光路長)が様々に変化する場合には、ロックインアンプ19で用いられている参照信号RSに対するレーザ光(光検出器17で検出されるレーザ光)の位相が変化する。本実施形態は、このような位相変化を補正することで、測定対象ガスGSの濃度の検出限界を改善できるようにしたものである。
【0067】
本実施形態において、記憶部21は、レーザ光の光路長が、予め規定された基準長(例えば、0[m])に設定された場合の1f成分の位相θ01fと、2fノイズ成分の振幅R02f及び位相θ02fとを記憶する。尚、本実施形態では、第1,第2実施形態における2fノイズ成分の振幅R0及び位相θ0と特別するために、2fノイズ成分の振幅及び位相を振幅R02f及び位相θ02fと表記している。位相θ01f,θ02fは、信号発生器11から出力される参照信号RSの位相を基準とした位相である。
【0068】
本実施形態において、演算部22は、レーザ光の光路長が基準長に設定されないときに得られる1f成分の位相θ1fと、レーザ光の光路長が基準長に設定されたときに得られる1f成分の位相θ01fとの位相差φを算出する。また、演算部22は、ガス分析装置10の検出結果(ロックインアンプ19の検出結果)と、記憶部21に記憶された2fノイズ成分の振幅R02f及び位相θ02fとを用いて、測定対象ガスGSの濃度を求める。
【0069】
具体的に、演算部22は、ロックインアンプ19で検出された2f成分の振幅R2f及び位相θ2fから、記憶部21に記憶された2fノイズ成分の振幅R02f及び位相θ02fを除去する演算を行う。このとき、演算部22は、上記の1f成分の位相差φを考慮して、2f成分の位相θ2fの補正を行う。
【0070】
例えば、演算部22は、以下の(6)式に示される演算を行って、ノイズ除去2f成分の振幅R′
2fを求める。
【数6】
【0071】
図6は、本発明の第3実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。まず、測定対象ガスGSの測定に先立って、レーザ光の光路長が基準長に設定されたときの1f成分の位相θ
01fと、2fノイズ成分の振幅R
02f及び位相θ
02fを取得する処理が行われる。尚、レーザ光の光路長を基準長にする方法としては、例えば、レーザ光の光路上に治具を配置する方法が挙げられる。
【0072】
具体的には、レーザ光の光路長が基準長に設定された状態で、変調周波数fで変調されたレーザ光を射出し、例えば、治具によって反射されたレーザ光を光検出器17で検出し、光検出器17から出力される受光信号をロックインアンプ19で検出する処理が、ガス分析装置10で行われる。そして、ロックインアンプ19で検出された1f成分の位相と、2f成分の振幅及び位相とを取得する処理が信号処理装置20で行われる(ステップS21)。また、取得した1f成分の位相を位相θ01fとして記憶部21に記憶させ、取得した2f成分の振幅及び位相を振幅R02f及び位相θ02fとして記憶部21に記憶させる処理が信号処理装置20で行われる(ステップS22)。
【0073】
次に、測定対象ガスGSの測定が行われる。例えば、上述した治具がレーザ光の光路上から取り除かれ、レーザ光の光路上に測定対象ガスGSが存在している状態で、変調周波数fで変調されたレーザ光を射出し(第1ステップ)、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17で検出して受光信号を得て(第2ステップ)、受光信号をロックインアンプ19で検出する処理が、ガス分析装置10で行われる。そして、ロックインアンプ19で検出された測定対象ガスの1f成分の振幅R1f及び位相θ1fと、2f成分の振幅R2f及び位相θ2fとを取得する処理が信号処理装置20で行われる(ステップS23)。
【0074】
次いで、ステップS23で取得された1f成分の位相θ1fと、記憶部21に記憶された1f成分の位相θ01fとの位相差φを算出する処理が演算部22で行われる(ステップS24)。続いて、前述した式(6)式に示される演算を行って、1f成分の位相差φを考慮しつつ、ノイズ除去2f成分の振幅R′2fを算出する処理が演算部22で行われる(ステップS25:第3ステップ)。具体的には、ステップS22で記憶部21に記憶された振幅R02f及び位相θ02fと、ステップS23で取得した2f成分の振幅R2f及び位相θ2fと、ステップS14で算出した位相差φとを、前述した式(6)式に代入してノイズ除去2f成分の振幅R′2fを算出する処理が演算部22で行われる。
【0075】
続いて、ステップS23で得られた1f成分の振幅R1fに対するノイズ除去2f成分の振幅R′2fの比(R′2f/R1f)を求めて、測定対象ガスGSの濃度を算出する処理が演算部22で行われる(ステップS26:第4ステップ)。そして、演算部22で測定された測定対象ガスGSの濃度を示す情報が出力部23から出力される。以降、ステップS23~S26の処理が、予め規定された一定の時間間隔をもって繰り返し行われる。
【0076】
以上の通り、本実施形態と上述した第1実施形態とは、2fノイズ成分の振幅R02f及び位相θ02fの取得方法と、演算部22で行われるノイズ除去2f成分の振幅R′2fを算出する処理とが異なるのみである。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、受光信号に含まれる2f成分から、レーザ光の光路で生ずる2fノイズ成分を除去してノイズ除去2f成分を得て、ノイズ除去2f成分の大きさに基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めている。これにより、コストの増加、構成の複雑化、設計自由度の低下、調整の煩雑化等のデメリットが生ずることなく、測定対象ガスGSの濃度の検出限界を改善できる。
【0077】
また、本実施形態では、レーザ光の光路長が基準長に設定されないときに得られる1f成分の位相θ1fと、レーザ光の光路長が基準長に設定されたときに得られる1f成分の位相θ01fとの位相差φを算出し、2f成分の位相θ2fの補正を行ようにしている。これにより、変調周波数が高く、且つ測定距離(レーザ光の光路長)が様々に変化する場合であっても、測定対象ガスGSの濃度の検出限界を改善ができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態によるガス分析システム及びガス分析方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、レーザ光の変調周波数fの2倍波成分(2f成分)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定する場合について説明した。しかしながら、レーザ光の変調周波数fのn倍波成分(nは3以上の整数)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定しても良い。
【0079】
また、上記実施形態では、光検出器17から出力される受光信号に含まれる1f成分及び2f成分をロックインアンプ19で検出する例について説明した。しかしながら、ロックインアンプ19を省略するとともに、ロックインアンプ19の機能を信号処理装置20に実装し、受光信号に含まれる1f成分及び2f成分を信号処理部で検出するようにしても良い。或いは、ロックインアンプ19の機能に代えて、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)の機能を信号処理装置20に実装し、受光信号に含まれる1f成分及び2f成分を信号処理部で検出するようにしても良い。
【0080】
尚、上述した実施形態のガス分析システムに設けられる信号処理装置20の機能は、それらの機能を実現するプログラムをコンピュータにインストールすることによりソフトウェア的に実現されても良い。つまり、信号処理装置20の機能は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現されても良い。尚、信号処理装置20の機能は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 ガス分析システム
13 半導体レーザ
17 光検出器
19 ロックインアンプ
20 信号処理装置
21 記憶部
22 演算部
f 変調周波数
GS 測定対象ガス