(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20230411BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/17 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20230411BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230411BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230411BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K31/137
A61K31/192
A61K31/17
A61K31/445
A61K31/495
A61K31/704
A61K31/047
A61K47/10
A61K47/04
A61K9/20
(21)【出願番号】P 2021069661
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2016173226の分割
【原出願日】2016-09-06
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2015178110
(32)【優先日】2015-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美和子
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲央
(72)【発明者】
【氏名】桑田 亜矢
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-501235(JP,A)
【文献】特開2005-162713(JP,A)
【文献】特開2000-159691(JP,A)
【文献】特開2002-255797(JP,A)
【文献】特開平11-335280(JP,A)
【文献】特開2013-203690(JP,A)
【文献】特開2004-269513(JP,A)
【文献】特開2011-001324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61K31/00-31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プソイドエフェドリンまたはその塩、ロキソプロフェンまたはその塩、ブロモバレリル尿素、フェキソフェナジンまたはその塩、メクリジンまたはその塩、ソファルコン、グリチルリチンまたはその塩、及びグアイフェネシンからなる群から選ばれる医薬有効成分、(b)マンニトール、(c)スクラロース、(d)メントール、及び(e)二酸化ケイ素を含有し、前記(c)の含有量が0.5質量%~20質量%であることを特徴とする、水なしで服用可能な製剤
(但し、マグネシウムアルミニウムシリケートとプロラミンのいずれも含まない)。
【請求項2】
二酸化ケイ素が、軽質無水ケイ酸である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
口腔内崩壊錠又はチュアブル錠である請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
(a)プソイドエフェドリンまたはその塩、ロキソプロフェンまたはその塩、ブロモバレリル尿素、フェキソフェナジンまたはその塩、メクリジンまたはその塩、ソファルコン、グリチルリチンまたはその塩、及びグアイフェネシンからなる群から選ばれる医薬有効成分、(b)マンニトール、(c)スクラロース、(d)メントール、及び(e)二酸化ケイ素を含有し、前記(c)の含有量が0.5質量%~20質量%であることを特徴とする、日本薬局方第十六改正の崩壊試験法による崩壊試験を行ったとき崩壊時間が60秒以内である錠剤
(但し、マグネシウムアルミニウムシリケートとプロラミンのいずれも含まない)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水なしで服用可能な固形製剤に関し、崩壊遅延を引き起こす特定の有効成分を含有するにもかかわらず、特殊な製法を使用せずに優れた崩壊性を有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水なしで服用できる口腔内崩壊錠やチュアブル錠は、特に小児や高齢者など嚥下能力の低い人達にも服用しやすい優れた製剤であり、服用シーンを選ばず水がない状況下でも服用できるというメリットがある(非特許文献1)。
従来の口腔内崩壊錠は、ゼラチン等の物質を用いて容器中で凍結乾燥することにより成型されたものや、湿った粉体もしくは造粒物を湿式打錠したもの等が知られているが、これらの錠剤は輸送の際に錠剤の割れ、欠けが発生することもしばしばあり、充分な硬度を有するとは言い難く、また専用の製造設備を要するなど製造方法も煩雑となることから、広く求められている剤型にもかかわらず未だ十分に普及しているとはいい難い(非特許文献2)。
一方、通常の錠剤製造設備を用いた口腔内崩壊錠またはチュアブル錠の製造では、口腔内での優れた崩壊性と製造及び輸送に耐えうる錠剤の硬度を両立する工夫が必要となる。さらに、口腔内で崩壊するため、薬物に由来する苦味のマスキングやざらつきの低減など服用性にも配慮した設計が求められる。
【0003】
一部の有効成分においては錠剤の崩壊性に大きく影響し、遅延させることが報告されている(非特許文献3)。例えば、プソイドエフェドリンやロキソプロフェンまたはその塩、フェキソフェナジンなどは崩壊を遅延させることが報告されている(特許文献1)。そのため、これら医薬有効成分を配合する場合は、通常にも増して崩壊性の改善が必要となる。
これまでに、速やかな崩壊性と高い硬度を有する口腔内崩壊錠を得るべく種々検討がなされてきた。例えば、デンプン粉末と糊化したデンプン、マンニトールを含む水溶性賦形剤、フマル酸ステアリルナトリウム及び薬効成分を含有する口腔内崩壊錠剤(特許文献2)、成形性の低い糖類及び成形性の高い糖類を含有してなる、口腔内において速やかな崩壊性、溶解性を有する口腔内溶解型圧縮成型物(特許文献3)、マンニトール、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも1種を含有する口腔内崩壊錠の製造方法(特許文献4)等が報告されている。
しかしながら、特許文献2は、デンプン粉末と糊化したデンプンを用いると製造装置への貼り付き等が生じ易く、製造上の取り扱いが困難である。また、特許文献2の方法では、口腔内崩壊錠を製造するためには低圧で打錠した後の加湿・乾燥工程が必須条件のため、製造工程数が多くなり、操作も煩雑である。特許文献3はマンニトールをベースとして実質的にクロスポビドン、クロスカルメロースなどのスーパー崩壊剤を含有する口腔内崩壊錠であるが、崩壊剤の増量は錠剤の大型化,服用性の悪化,また吸湿に伴う外観変化に配慮する必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-169641号公報
【文献】特許第4435424号公報
【文献】特許第3122141号公報
【文献】特開2000-273039号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】第十六改正日本薬局方解説書 株式会社廣川書店 第A-33-34頁
【文献】PHARM TECH JAPAN,28(2),197-201,2012
【文献】粉体工学会 製剤と粒子設計部会編 すぐに役立つ粒子設計・加工技術 株式会社じほう p.p.187-198 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、崩壊遅延を誘発する特定の医薬有効成分を含有する水なし服用製剤を製造するにあたり、崩壊性、服用性に優れるD-マンニトールを主体に、崩壊性の観点から種々のスーパー崩壊剤を、さらに服用性の観点から甘味度が200以上の高甘味度甘味剤の配合を試みた。しかし、これらの成分を組み合わせて使用しても、十分な崩壊時間の短縮には至らず、さらには打錠障害も引き起こすことが分かった。
【0007】
本発明の目的は、崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分を含有する固形製剤に関し、特殊な製法を使用せずに口腔内で速やかに崩壊あるいは噛み砕け、打錠障害がない優れた水なしで服用可能な製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の検討を行ったところ、本発明の崩壊遅延を誘発する特定の医薬有効成分、すなわちプソイドエフェドリンまたはその塩、メチルエフェドリンまたはその塩、チペピジンまたはその塩、イブプロフェン、ロキソプロフェンまたはその塩、ブロモバレリル尿素、フェキソフェナジンまたはその塩、メクリジンまたはその塩、ソファルコン、グリチルリチンまたはその塩、又はグアイフェネシンと、マンニトールと甘味度が200以上の高甘味度甘味剤を含む水なし服用製剤に、二酸化ケイ素及びメントールを配合すると、驚くべきことに、打錠障害がなく、速やかな崩壊性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は,
(1) プソイドエフェドリンまたはその塩、メチルエフェドリンまたはその塩、チペピジンまたはその塩、イブプロフェン、ロキソプロフェンまたはその塩、ブロモバレリル尿素、フェキソフェナジンまたはその塩、メクリジンまたはその塩、ソファルコン、グリチルリチンまたはその塩、及びグアイフェネシンからなる群から選ばれる医薬有効成分、マンニトール、甘味度が200以上の高甘味度甘味剤、メントール及び二酸化ケイ素を含有することを特徴とする、水なしで服用可能な製剤、
(2)甘味度が200以上の高甘味度甘味剤がスクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムからなる群から選ばれる1種以上である(1)に記載の製剤、
(3)二酸化ケイ素が、軽質無水ケイ酸である、(1)に記載の製剤、
(4)口腔内崩壊錠又はチュアブル錠である(1)~(3)のいずれかに記載の製剤、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分を含有しているにもかかわらず口腔内で速やかに崩壊する、優れた水なしで服用可能な製剤の製造が可能となった。また、打錠障害も防止できるので、本製剤の製造性も向上可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分」とは、固形製剤に配合することでその崩壊性に支障をきたす物理化学的特性を有する医薬有効成分であり、本発明においてはプソイドエフェドリンまたはその塩、メチルエフェドリンまたはその塩、チペピジンまたはその塩、イブプロフェン、ロキソプロフェンまたはその塩、ブロモバレリル尿素、フェキソフェナジンまたはその塩、メクリジンまたはその塩、ソファルコン、グリチルリチンまたはその塩、グアイフェネシンを意味する。このうち好ましいのは、プソイドエフェドリン又はその塩である。
本発明における上記の崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分の含有量は、本発明の製剤全質量に対し、好ましくは0.5質量%~80質量%、より好ましくは1.0質量%~70質量%である。
【0012】
本発明のマンニトールの含有量は、本発明の製剤全質量に対し、好ましくは30質量%~95質量%、より好ましくは40質量%~85質量%である。
【0013】
本発明の高甘味度甘味剤は、甘味度が200以上(非特許文献:甘味料の総覧 精糖工業会)の甘味剤であり、例えばスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム等が挙げられる。 本発明の甘味度が200以上の甘味剤の含有量は、本発明の製剤全質量に対し、好ましくは0.5質量%~20質量%、より好ましくは1質量%~10質量%である。
【0014】
本発明に用いられるメントールは日本薬局方に記載されており、市販のものを使用することも可能である。天然精油及び合成品のいずれも使用することができる。本発明のメントールはl体、dl体のいずれを使用してもよく、メントール成分を含有するペパーミント油、ミント油、スペアーミント油、ハッカ油、ユーカリ油といったメントールを含有する精油などを使用してもよい。これらのうち、好ましくはl-メントール及びハッカ油である。またメントールの含有量は本発明の製剤全質量に対して、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.05~1%である。また、本発明の崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分1質量部に対して、好ましくは1質量%~15質量%である。
【0015】
本発明の崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分とマンニトールと甘味度が200以上の高甘味度甘味剤を配合した水なし服用製剤において、崩壊性の改善、及び打錠障害の防止のためには、二酸化ケイ素の配合が必須である。本発明の二酸化ケイ素としては、例えば軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素などが挙げられるが、好ましくは軽質無水ケイ酸である。また、本発明の二酸化ケイ素の含有量は、本発明の崩壊遅延を引き起こす特定の医薬有効成分1質量部に対して、好ましくは0.1質量部~100質量部、特に好ましくは1質量部~50質量部である。さらに二酸化ケイ素の含有量は、本発明の製剤全質量に対して、好ましくは0.01質量%~20質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%となる。
【0016】
本発明の水なしで服用な可能な製剤としては、例えば口腔内崩壊錠やチュアブル錠が挙げられる。口腔内崩壊錠とは、通常の咀嚼条件での口腔内における崩壊時間が極めて速い錠剤を意味する。また、チュアブル錠とは、噛み砕いて服用する錠剤を意味する。口腔内崩壊錠またはチュアブル錠は服用しやすく、例えば、通常の錠剤を服用しにくい、小児や老人への投与にも、好適な剤型である。
【0017】
本発明の水なしで服用可能な製剤の製造方法は特に制限されず、造粒する場合は、湿式造粒法及び乾式造粒法のどちらで製造しても良い。造粒過程あるいは造粒製造後に適宜乾燥しても良い。湿式造粒法としては、例えば、流動層造粒法、攪拌造粒法、練合造粒法、転動造粒法、溶融溶媒法が挙げられ、乾式造粒法としては、スラッグ法、ローラーコンパクター法が挙げられるが、流動層造粒法、攪拌造粒法で製造するのが好ましい。得られた造粒物に適宜後末添加成分を添加し、打錠などの一般的な圧縮成型を行うことにより本発明の水なしで服用可能な製剤が得られる。
また造粒工程を必要としない直接打錠法で製造してもよい。打錠装置としては、一般に錠剤の成型に使用される装置が用いられ、例えば、単発式打錠機、回転式打錠機等が用いられる。
【0018】
本発明の製剤には、本発明の効果に支障のない限り、水なしで服用可能な製剤の製造に一般に用いられる種々の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤として、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、酸味剤、発泡剤、甘味剤、嬌味剤、香料、滑沢剤、着色剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の口腔内崩壊錠またはチュアブル錠の大きさ、形状は、特に限定されず、また、割線を有する分割錠としてもよい。
【0020】
本発明の製剤の製造に当たっては、特に制約なく従来から行われている製造方法を使用することができる。本発明の水なしで服用可能な製剤は、口腔内で優れた崩壊性を示すものである。本発明の水なしで服用な可能な製剤の崩壊時間は、日本薬局方による崩壊試験法において、1~60秒、好ましくは1~40秒、より好ましくは1~30秒、口腔内での口溶け時間は、60秒以内、好ましくは30秒以内である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0022】
【0023】
(実施例1~4、比較例1~3)
表1の組成となるように、各成分を秤量し混合した。混合物の全量を篩に通過させ打錠用顆粒を得た。卓上簡易錠剤成型機(商品名:HANDTAB;市橋精機)を用いて5kNで打錠し、錠剤径11mmの錠剤を得た。
【0024】
(試験例)
<評価方法>
実施例及び比較例の錠剤について、以下の各試験方法により崩壊時間の測定を行った。
【0025】
(1)崩壊試験
日本薬局方第十六改正に記載されている崩壊試験法に従い測定した。それぞれの錠剤の崩壊時間を3回ずつ測定し、その平均値を求めた。
(結果)
評価結果を表2に示す。
【0026】
【0027】
表2に示すように、実施例1~4の錠剤は、崩壊時間が60秒以内であった。特に、実施例2では、崩壊時間が30秒と優れた崩壊性を示した。一方、処方中に二酸化ケイ素及びメントールを含有していない比較例1~3では、60秒を超える崩壊時間となった。
また、比較例1、2は打錠障害を発生したが、実施例1~4の錠剤は、打錠障害は起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、特殊な設備、製造方法、賦形剤を使用せず、口腔内で水がなくても速やかに崩壊あるいは溶解し、打錠障害も抑制した優れた水なしで服用可能な製剤の提供が可能となる。