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特許7259891電子線照射装置及び電子線照射装置のメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】電子線照射装置及び電子線照射装置のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
G21K5/04 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021104146
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003145
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2022-09-07
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 寿男
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194392(JP,A)
【文献】特開平09-092495(JP,A)
【文献】特開平11-224799(JP,A)
【文献】特開2001-160500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置と、
前記電源装置からの電力供給により、電子を加速させて電子線を生じさせる加速管と、
前記電源装置及び前記加速管を収容する圧力タンクと、
を備える電子線照射装置であって、
前記圧力タンクは、前記電源装置を収容する第1分割体と、前記加速管を収容する第2分割体とに分割可能に構成され、
前記第2分割体は、前記加速管から出射される前記電子線を前記圧力タンクの外部に出射するための出射口を有し、
前記電源装置は、前記第2分割体に連結される連結部を有し、
前記第1分割体と前記第2分割体とは、前記圧力タンクの軸線に沿う方向に分離されるものであり、
前記軸線を中心とする周方向において、前記第1分割体に対する前記第2分割体の固定角度を変更可能に構成されている、
電子線照射装置。
【請求項2】
前記電源装置は、前記第1分割体に対して相対移動可能に支持されるベースと、前記ベースに固定された電源本体と、を有し、
前記第1分割体と前記第2分割体とが組み合わされて前記圧力タンクを構成する状態において、前記電源本体の全体が前記第1分割体の内部に収容されている、
請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記連結部は、前記第2分割体に対して着脱可能に連結される、
請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記第1分割体と前記第2分割体とが互いに離間する方向において、前記第2分割体が固定側とされ、前記第1分割体が可動側とされている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置のメンテナンス方法であって、
前記連結部が前記第2分割体に連結された状態で前記第1分割体を前記第2分割体から分離することで、前記電源装置を前記圧力タンクから露出させる露出工程を含む、
電子線照射装置のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置及び電子線照射装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、高電圧を発生させるための電源装置を圧力タンク内に備えた電子線照射装置について記載されている。電子線照射装置には、圧力タンク内において電源装置の他に加速管が収容されるものがある。加速管は、電源装置からの電力供給により、電子を加速させて電子線を生じさせる。加速管で加速された電子線は、圧力タンクに形成された出射口を介して圧力タンクの外部に出射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-92495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、圧力タンク内に電源装置及び加速管を備えた電子線照射装置において、圧力タンク内の部品のメンテナンスを如何に簡素化できるかを検討していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電子線照射装置は、電源装置と、前記電源装置からの電力供給により、電子を加速させて電子線を生じさせる加速管と、前記電源装置及び前記加速管を収容する圧力タンクと、を備える電子線照射装置であって、前記圧力タンクは、前記電源装置を収容する第1分割体と、前記加速管を収容する第2分割体とに分割可能に構成され、前記第2分割体は、前記加速管から出射される前記電子線を前記圧力タンクの外部に出射するための出射口を有し、前記電源装置は、前記第2分割体に連結される連結部を有している。
【0006】
この構成によれば、電源装置のメンテナンスを行う際、電源装置が連結部によって第2分割体に連結された状態で、第1分割体を第2分割体から分離させる。これにより、第1分割体を第2分割体から分離させるだけで、電源装置を圧力タンクから露出させてメンテナンス可能な状態とすることが可能となる。すなわち、圧力タンクを開放すべく第1分割体と第2分割体とを分離する工程と、圧力タンクから電源装置を露出させる工程とが1つの工程となるため、電源装置のメンテナンス作業の簡素化が可能である。また、第1分割体と第2分割体とを分離させた状態では、作業者が第2分割体内に立ち入らずとも腕だけを第2分割体内に入れて加速管のメンテナンスが可能である。
【0007】
上記電子線照射装置において、前記電源装置は、前記第1分割体に対して相対移動可能に支持されるベースと、前記ベースに固定された電源本体と、を有し、前記第1分割体と前記第2分割体とが組み合わされて前記圧力タンクを構成する状態において、前記電源本体の全体が前記第1分割体の内部に収容されている。
【0008】
この構成によれば、電源本体の全体が第1分割体の内部に収容されている。すなわち、電源本体が第2分割体には入り込んでいない構成である。したがって、第1分割体を第2分割体から外すことで、電源本体のより広い範囲を圧力タンクから露出させることが可能となる。
【0009】
上記電子線照射装置において、前記連結部は、前記第2分割体に対して着脱可能に連結される。
この構成によれば、連結部を第2分割体から外すことによって、電源装置を第2分割体から分離させることが可能となる。
【0010】
上記電子線照射装置において、前記第1分割体と前記第2分割体とが互いに離間する方向において、前記第2分割体が固定側とされ、前記第1分割体が可動側とされている。
この構成によれば、走査管などの機構を加速管に接続した状態のまま、第1分割体を第2分割体から離すことが可能となる。これにより、電源装置を圧力タンクから露出すべく、第1分割体と第2分割体とを分離する工程を簡素化することが可能となる。
【0011】
上記電子線照射装置において、前記第1分割体と前記第2分割体とは、前記圧力タンクの軸線に沿う方向に分離されるものであり、前記軸線を中心とする周方向において、前記第1分割体に対する前記第2分割体の固定角度を変更可能に構成されている。
【0012】
この構成によれば、第1分割体に対する第2分割体の固定角度を変更することにより、第2分割体の出射口の方向、すなわち加速管の出射方向を変更することが可能となる。したがって、同一の圧力タンクを用いることで設計を簡素化しつつ、加速管の出射方向を変更することが可能となる。
【0013】
上記課題を解決する電子線照射装置のメンテナンス方法は、上記の電子線照射装置のメンテナンス方法であって、前記連結部が前記第2分割体に連結された状態で前記第1分割体を前記第2分割体から分離することで、前記電源装置を前記圧力タンクから露出させる露出工程を含む。
【0014】
この態様によれば、露出工程において第1分割体を第2分割体から分離させるだけで、電源装置を圧力タンクから露出させてメンテナンス可能な状態とすることが可能となる。すなわち、圧力タンクを開放すべく第1分割体と第2分割体とを分離する工程と、圧力タンクから電源装置を露出させる工程とが1つの工程となるため、電源装置のメンテナンス作業の簡素化が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子線照射装置及び電子線照射装置のメンテナンス方法によれば、圧力タンク内の部品におけるメンテナンスの簡素化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態における電子線照射装置の概略構成図。
図2】同形態における圧力タンク付近の構成を示す模式図。
図3】同形態における圧力タンクを第2分割体側から見た側面図。
図4】同形態における圧力タンクの第2分割体を開口側から見た側面図。
図5】同形態の電子線照射装置におけるメンテナンスの態様を説明するための模式図。
図6】同形態の電子線照射装置におけるメンテナンスの態様を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、電子線照射装置及び電子線照射装置のメンテナンス方法の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。また、本明細書における「垂直」や「直交」は、厳密に垂直や直交の場合のみでなく、本実施形態における作用ならびに効果を奏する範囲内で概ね垂直や直交の場合も含まれる。
【0018】
(電子線照射装置10の概略構成)
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、電源装置31に含まれるフィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の上端側に設けられている。
【0019】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端側が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の管軸方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、電源装置31に含まれる加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、管軸方向の下方に向く電子流、すなわち電子線eが生じるようになっている。加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。
【0020】
走査管16は、上端側が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向、すなわち電子線eの走査を行う。走査管16の下端部には例えば略長方形状の開口窓部19が設けられており、開口窓部19には略長方形状の窓箔20が取り付けられている。窓箔20は、電子線eを透過させつつも、開口窓部19を密閉させるものである。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間にて構成されている。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0021】
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18及び真空ポンプ21は、制御装置22にて制御される。制御装置22は、フィラメント用電源12及び加速電極用電源15を通じて電子線eの出力調整を行ったり、走査コイル18を通じて電子線eの走査制御を行ったり、真空ポンプ21を通じて加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整を行ったりする。
【0022】
そして、開口窓部19に装着の窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置23により搬送方向xに搬送される被照射物24に対して照射され、被照射物24に所定処理を行う。なおこの場合、電子線照射装置10は、略長方形状の開口窓部19の長手方向が搬送装置23の搬送直交方向yに向く配置である。そして、搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われて、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAの照射が行われる。電子線eの被照射物24への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0023】
(圧力タンク32)
電源装置31及び加速管13は、圧力タンク32の内部に収容されている。圧力タンク32の内部には、例えばSF6ガスなどの絶縁ガスが充填される。圧力タンク32の内部の気圧は例えば0.5MPa程度の高気圧に設定される。圧力タンク32は、例えば、金属などの導体からなる。なお、圧力タンク32は、例えば、電気的に接地されている。
【0024】
図2に示すように、圧力タンク32は、方向X1に沿って延びる形状をなしている。圧力タンク32は、方向X1に沿う軸線Lを中心とする筒状をなす周壁33と、方向X1における周壁33の両端部にそれぞれ設けられる底壁34,35と、を備えている。周壁33は、軸線Lを中心とする例えば円筒状をなしている。圧力タンク32内は高圧とされるため、軸線Lに沿った方向から見た周壁33の形状は、円筒状とするのが好ましい。
【0025】
圧力タンク32は、第1分割体40及び第2分割体50を有してなる分割構造をなしている。本実施形態では、第1分割体40と第2分割体50とが互いに組み合わされることで、圧力タンク32が構成される。
【0026】
第1分割体40は、周壁33の一部を構成する第1周壁部41と、前記底壁34とを有している。第2分割体50は、周壁33の一部を構成する第2周壁部51と、前記底壁35とを有している。第1周壁部41及び第2周壁部51の各々は、例えば円筒状をなしている。圧力タンク32の周壁33において、第1周壁部41と第2周壁部51の境は、例えば軸線Lに直交する平面状をなしている。また、第1周壁部41と第2周壁部51の境は、例えば、方向X1において圧力タンク32の中心からずれた位置に設定されている。方向X1における寸法について、第2周壁部51は第1周壁部41よりも小さくなっている。
【0027】
第1分割体40は、第1周壁部41における底壁34とは反対側の端部に第1フランジ部42を有している。第1フランジ部42は、第1周壁部41の当該端部の全周にわたって設けられている。なお、方向X1における第1フランジ部42の厚さは、例えば、第1周壁部41の径方向の厚さよりも厚く設定されている。
【0028】
第2分割体50は、第2周壁部51における底壁35とは反対側の端部に第2フランジ部52を有している。第2フランジ部52は、第2周壁部51の当該端部の全周にわたって設けられている。なお、方向X1における第2フランジ部52の厚さは、例えば、第2周壁部51の径方向の厚さよりも厚く設定されている。
【0029】
第1フランジ部42と第2フランジ部52とは、互いに接する状態で例えば図示しないボルトなどにより連結される。そして、第1フランジ部42と第2フランジ部52とが互いに連結されることで、圧力タンク32の内部に密閉空間が形成される。
【0030】
第1分割体40は、支持台61に支持されている。第1分割体40は、脚部43を有している。脚部43は、例えば、第1周壁部41の外周面に設けられている。脚部43は、支持台61の上面に設けられた第1レール62に支持されている。第1レール62は、軸線Lに沿って延びている。脚部43は、第1レール62に対して、軸線Lに沿った方向に移動可能である。すなわち、第1分割体40は、支持台61に対して、軸線Lに沿った方向に移動可能に構成されている。また、軸線Lを中心とする回転方向において、支持台61に対する第1分割体40の固定向きは、脚部43が支持台61側を向く向きで一定である。
【0031】
第2分割体50は、軸線Lに沿って移動可能である第1分割体40に対し、固定側として構成されている。第2分割体50は、例えば支持台61に対して固定される。例えば、第2分割体50は、底壁35に固定座53を有している。固定座53は、底壁35の外表面に固定されている。固定座53は、支持台61が有する支持部63に例えばボルト締結にて固定される。
【0032】
(圧力タンク32の内部の構成)
第1分割体40は、その内部において、軸線Lに沿って延びる第2レール44を有している。第2レール44は、第1周壁部41の内周面に固定されている。第2レール44は、例えば、軸線Lに直交する水平方向に並んで一対設けられている。
【0033】
電源装置31は、ベース36と、ベース36に支持された電源本体37とを有している。ベース36は、第2レール44に支持されている。ベース36は、第2レール44に対して、軸線Lに沿った方向に相対移動可能に構成されている。なお、第2レール44は、軸線Lに沿った方向においてベース36を固定可能な図示しないロック部を有している。
【0034】
ベース36に支持された電源本体37は、フィラメント用電源12及び加速電極用電源15を含んで構成されている。電源本体37の少なくとも一部は、第1分割体40の内部に収容される。図2は、一例として、第1分割体40の内部に電源本体37の全体が収容される構成を示している。電源本体37は、方向X1における全長が第1周壁部41の内側に収まっている。軸線Lに沿う方向において、電源本体37の寸法は、ベース36の寸法よりも短く設定されている。
【0035】
第2分割体50の内部には、加速管13が収容されている。加速管13は、第2周壁部51の内周面に設置されている。第2周壁部51には、圧力タンク32の内外を連通する出射口54が設けられている。圧力タンク32の内部において、加速管13の電子線出射口は、第2周壁部51の出射口54に接続されている。圧力タンク32の外部において、第2周壁部51の出射口54には、走査管16が接続されている。
【0036】
電源本体37と加速管13とは、電線38にて接続されている。電線38は、フィラメント用電源12とフィラメント11とを接続する電線と、加速電極用電源15と加速電極14とを接続する電線とを含む。電線38は、導体からなるシールドパイプ39内に通されている。シールドパイプ39は電線38を保護する。なお、第1周壁部41と第2周壁部51の境は、軸線Lに沿った方向において、圧力タンク32内に収容される電源本体37と加速管13との間の位置に設定されている。
【0037】
図3に示すように、第2分割体50の第2フランジ部52には、例えば、複数の第1ボルト挿通孔55が形成されている。各第1ボルト挿通孔55は、第2フランジ部52を軸線Lに沿って貫通する。複数の第1ボルト挿通孔55は、例えば、軸線Lを中心とする周方向において互いに等間隔に設けられている。また、第1分割体40の第1フランジ部42においても、第1ボルト挿通孔55と同様の図示しないボルト挿通孔が形成されている。そして、第1フランジ部42のボルト挿通孔及び第2フランジ部52の第1ボルト挿通孔55を共に貫通する図示しないボルトの締結により、第1フランジ部42と第2フランジ部52とが互いに固定される。
【0038】
第2分割体50の固定座53は、軸線Lを中心とする例えば環状をなしている。なお、本明細書の説明で使用される「環状」という用語は、端部のない連続形状、並びに、C字形のようなギャップを有する非連続的な形状の両方を含む。また、本明細書の説明で使用される「環状」という用語は、1つの部品で構成されるものだけではなく、複数の部品を組み合わせて環状をなすものも含む。固定座53は、方向X1視において、例えば円環状をなしている。固定座53には、複数の第2ボルト挿通孔56が形成されている。各第2ボルト挿通孔56は、固定座53を軸線Lに沿って貫通する。複数の第2ボルト挿通孔56は、例えば、軸線Lを中心とする周方向において互いに等間隔に設けられている。固定座53は、第2ボルト挿通孔56に挿通される図示しないボルトによって支持部63に固定される。
【0039】
軸線Lを中心とする周方向において、第1分割体40に対する第2分割体50の固定角度は1つに定められておらず、少なくとも2つの角度で変更可能である。
図2及び図3に示す例では、第2分割体50は、加速管13の出射方向が支持台61側、すなわち鉛直方向の下側を向くように、第1分割体40に固定されている。図3では、鉛直方向の下側を向く加速管13の出射方向をD1としている。この第2分割体50の固定角度を第1の位置として、第2分割体50を第1の位置から軸線Lを中心に45°回転させた第2の位置に角度変更して、第2分割体50を第1分割体40に固定可能である。図3では、第2分割体50を第2の位置で固定した場合の加速管13を2点鎖線で示している。第2の位置における加速管13の出射方向D2は、水平に対して平行である。
【0040】
なお、第2分割体50の固定位置の変更角度は、周方向における第1ボルト挿通孔55の形成間隔で決まる。本実施形態では、第1分割体40に対する第2分割体50の固定角度を、第1の位置及び第2の位置以外の向きに変更可能である。例えば、加速管13の出射方向を、第2の位置の180°反対向きや、鉛直方向上向き、または、第1の位置の出射方向D1及び第2の位置の出射方向D2に対して傾斜する方向に変更可能である。
【0041】
図2及び図4に示すように、電源装置31は、第2分割体50に連結される連結部71を有している。連結部71は、電源装置31のベース36に設けられている。連結部71は、例えば、軸線Lに沿う方向におけるベース36の一端部に設けられている。連結部71は、例えば、ベース36に対して別部品とされた連結プレート72を介して第2分割体50に連結される。
【0042】
第2分割体50は、連結プレート72が固定される被連結部57を有している。被連結部57は、例えば、第2周壁部51の内周面から内径側に突出する鍔状をなしている。被連結部57は、例えば、軸線Lを中心とする周方向に沿った連続的または断続的な環状をなしている。軸線Lに沿った方向において、被連結部57の形成位置は、例えば第2フランジ部52の厚さの範囲内に設定されている。すなわち、被連結部57は、第2フランジ部52の径方向内側に位置している。被連結部57には、例えばボルトなどによって連結プレート72が着脱可能に固定される。
【0043】
連結プレート72には、例えばボルトなどによってベース36の連結部71が着脱可能に固定される。被連結部57に対する連結プレート72の固定位置は、軸線Lを中心とする周方向において変更可能である。これにより、周方向における第2分割体50の固定角度によらず、連結部71を連結プレート72に固定することが可能である。
【0044】
図2に示すように、ベース36において、連結部71とは反対側の端部36aには、図示しないストッパが設けられている。当該ストッパは、軸線Lに沿った方向において、第2レール44の被係止部位に係止される。これにより、軸線Lに沿った方向において、ベース36が第2レール44から脱落しないようになっている。
【0045】
次に、電子線照射装置10における圧力タンク32内の部品のメンテナンス方法について説明する。
電源装置31のメンテナンス時には、まず、圧力タンク32の内部に充填された絶縁ガスを取り除くガス回収工程を行う。
【0046】
次に、電源装置31を圧力タンク32から露出させる露出工程を行う。露出工程では、まず、第1フランジ部42と第2フランジ部52の連結を解除する。その後、図5に示すように、第1分割体40を第2分割体50から離す方向、すなわち方向X1に移動させる。このとき、ベース36の連結部71は第2分割体50の被連結部57に連結された状態であるため、ベース36及び電源本体37は、第1分割体40と共に移動しない。これにより、第1分割体40を方向X1に移動させることで、電源本体37の大部分が圧力タンク32から露出される。このように、電源本体37が圧力タンク32から露出された状態で、電源本体37のメンテナンスが可能である。これにより、作業者が圧力タンク32内の閉所に立ち入って行う作業を不要とすることが可能である。
【0047】
本実施形態では、第2分割体50は主に加速管13を収容する部位であり、軸線Lに沿う寸法において第2分割体50は第1分割体40よりも短い。したがって、第2分割体50の開口50aから加速管13までの距離が短いため、第1分割体40を第2分割体50から離した状態では、加速管13、シールドパイプ39及び電線38のメンテナンスも容易に行うことが可能である。したがって、作業者が第2分割体50内の閉所に立ち入って行う作業を不要とすることが可能である。
【0048】
次に、周方向における第2分割体50の固定角度の変更態様について説明する。
被連結部57に対する連結部71の連結を解除するとともに、前記ロック部によってベース36を第2レール44に固定する。本実施形態では、例えば、連結プレート72を被連結部57に固定したままの状態とし、連結プレート72に対する連結部71の固定を外す。また、電線38と電源本体37との接続を外す。この状態で、図6に示すように、第1分割体40を方向X1に移動させる。すると、第1分割体40は電源装置31と共に第2分割体50から分離される。
【0049】
次に、支持部63に対する固定座53の固定を外す。これにより、第2分割体50が支持台61から外される。この状態では、周方向における第2分割体50の固定角度を、加速管13、シールドパイプ39及び電線38ごと変更可能である。そして、周方向における第2分割体50の固定角度を変更した後、固定座53を支持部63に固定する。これにより、第2分割体50の出射口54の向き、すなわち加速管13の出射方向が変更される。周方向における連結プレート72の固定位置は、周方向における第2分割体50の固定角度に応じて、ベース36の連結部71に固定可能な位置に変更される。
【0050】
なお、図6に示すように、被連結部57に対する連結部71の連結を解除し、第1分割体40を電源装置31と共に第2分割体50から分離した状態において、加速管13、シールドパイプ39及び電線38のメンテナンスを行うことも可能である。
【0051】
本実施形態の効果について説明する。
(1)電子線照射装置10は、電源装置31と、電源装置31からの電力供給により電子を加速させて電子線eを生じさせる加速管13と、電源装置31及び加速管13を収容する圧力タンク32と、を備える。圧力タンク32は、電源装置31を収容する第1分割体40と、加速管13を収容する第2分割体50とに分割可能に構成される。第2分割体50は、加速管13から出射される電子線eを圧力タンク32の外部に出射するための出射口54を有する。電源装置31は、第2分割体50に連結される連結部71を有する。そして、電子線照射装置10のメンテナンス方法は、連結部71が第2分割体50に連結された状態で第1分割体40を第2分割体50から分離することで、電源装置31を圧力タンク32から露出させる露出工程を含む。
【0052】
この態様によれば、電源装置31のメンテナンスを行う際、電源装置31が連結部71によって第2分割体50に連結された状態で、第1分割体40を第2分割体50から分離させる。これにより、第1分割体40を第2分割体50から分離させるだけで、電源装置31を圧力タンク32から露出させてメンテナンス可能な状態とすることが可能となる。すなわち、圧力タンク32を開放すべく第1分割体40と第2分割体50とを分離する工程と、圧力タンク32から電源装置31を露出させる工程とが1つの工程となるため、電源装置31のメンテナンス作業の簡素化が可能である。また、第1分割体40と第2分割体50とを分離させた状態では、作業者が第2分割体50内に立ち入らずとも腕だけを第2分割体50内に入れて加速管13のメンテナンスが可能である。
【0053】
(2)電源装置31は、第1分割体40に対して相対移動可能に支持されるベース36と、ベース36に固定された電源本体37と、を有する。そして、第1分割体40と第2分割体50とが組み合わされて圧力タンク32を構成する状態において、電源本体37の全体が第1分割体40の内部に収容されている。この構成によれば、電源本体37の全体が第1分割体40の内部に収容されている。すなわち、電源本体37が第2分割体50には入り込んでいない構成である。したがって、第1分割体40を第2分割体50から外すことで、電源本体37のより広い範囲を圧力タンク32から露出させることが可能となる。
【0054】
(3)連結部71は、第2分割体50に対して着脱可能に連結される。この構成によれば、連結部71を第2分割体50から外すことによって、電源装置31を第2分割体50から分離させることが可能となる。第2分割体50に対する連結部71の連結を外した状態では、第1分割体40を電源装置31と共に移動させて、第1分割体40及び電源装置31を第2分割体50から分離させることが可能となる。第1分割体40及び電源装置31が第2分割体50から分離させた状態では、加速管13、シールドパイプ39及び電線38のメンテナンスを容易に行うことが可能である。さらに、第1分割体40及び電源装置31が第2分割体50から分離させた状態では、周方向における第2分割体50の固定角度を変更することが可能となる。
【0055】
(4)第1分割体40と第2分割体50とが互いに離間する方向、すなわち軸線Lに沿う方向において、第2分割体50が固定側とされ、第1分割体40が可動側とされている。この構成によれば、走査管16などの機構を加速管13に接続した状態のまま、第1分割体40を第2分割体50から離すことが可能となる。これにより、電源装置31を圧力タンク32から露出すべく、第1分割体40と第2分割体50とを分離する工程を簡素化することが可能となる。
【0056】
(5)第1分割体40と第2分割体50とは、圧力タンク32の軸線Lに沿う方向に分離されるものである。そして、電子線照射装置10は、軸線Lを中心とする周方向において、第1分割体40に対する第2分割体50の固定角度を変更可能に構成されている。この構成によれば、第1分割体40に対する第2分割体50の固定角度を変更することにより、第2分割体50の出射口54の方向、すなわち加速管13の出射方向を変更することが可能となる。したがって、同一の圧力タンク32を用いることで設計を簡素化しつつ、加速管13の出射方向を変更することが可能となる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態の露出工程では、第2分割体50に対する連結部71の連結を解除するとき、連結プレート72を被連結部57に固定したままの状態として、連結プレート72に対する連結部71の固定を外す。しかしながら、これに特に限定されるものではなく、被連結部57に対する連結プレート72の固定を外すことによって、第2分割体50に対する連結部71の連結を解除してもよい。また例えば、連結プレート72を、ベース36に対して分離不能に設けてベース36の一部位として構成してもよい。この場合、連結プレート72は、第2分割体50に連結される連結部を構成する。
【0058】
・上記実施形態では、第2分割体50が支持台61に対して固定されるが、これ以外に例えば、支持台61とは関連性のない設備の壁に第2分割体50が固定される構成としてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、周方向における第2分割体50の固定角度が変更可能とされるが、これに限らず、周方向における第2分割体50の固定角度が変更不可である構成としてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、第2分割体50は、軸線Lに沿って移動可能である第1分割体40に対し、固定側として構成されるが、この関係性を逆にした構成、すなわち第1分割体40を固定側とし、第2分割体50を可動側としてもよい。
【0061】
・上記実施形態の連結部71は、第2分割体50に対して着脱可能とされるが、これに限らず、連結部71が第2分割体50に対して分離不能に固定されるものであってもよい。
【0062】
・上記実施形態では、第1分割体40と第2分割体50とが組み合わされて圧力タンク32を構成する状態において、電源本体37の全体が第1分割体40の内部に収容されるが、これに特に限定されるものではない。例えば、第1分割体40と第2分割体50とが組み合わされて圧力タンク32を構成する状態において、電源本体37の軸線L方向の一端部が第2分割体50内に入り込む構成であってもよい。
【0063】
・上記実施形態では、第1分割体40と第2分割体50との連結構造として、第1フランジ部42と第2フランジ部52とをボルト締結しているが、これに特に限定されるものではない。例えば、第1フランジ部42と第2フランジ部52とを、クランプなどで軸線L方向に挟む連結構造としてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、第1周壁部41と第2周壁部51の境は、例えば軸線Lに直交する平面状をなすが、これ以外に例えば、軸線Lに対して傾斜する平面状や、非平面状としてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、電子線eを走査コイル18にて走査して照射エリアAの照射を行う走査型の電子線照射装置10に適用したが、照射エリアに対応して複数のフィラメントを用い走査コイルを省略した態様のエリア型の電子線照射装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…電子線照射装置
13…加速管
31…電源装置
32…圧力タンク
36…ベース
37…電源本体
40…第1分割体
50…第2分割体
54…出射口
71…連結部
e…電子線
L…軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6