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特許7259959銅被覆鋼線、撚線、絶縁電線およびケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】銅被覆鋼線、撚線、絶縁電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/02 20060101AFI20230411BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230411BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230411BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20230411BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20230411BHJP
   C21D 9/52 20060101ALN20230411BHJP
   C21D 7/02 20060101ALN20230411BHJP
【FI】
H01B5/02 A
H01B7/18 D
C22C38/00 301Y
C22C38/04
C22C38/46
C21D9/52 103Z
C21D7/02 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021529599
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026315
(87)【国際公開番号】W WO2021001928
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】赤田 匠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大五
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/041132(WO,A1)
【文献】特開平06-081099(JP,A)
【文献】特開昭62-018771(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212770(WO,A1)
【文献】特開2005-317463(JP,A)
【文献】特開平1-283707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/02
H01B 7/18
H01B 5/08
H01B 7/00
C22C 38/00
C22C 38/04
C22C 38/46
C21D 9/52
C21D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の芯線と、
前記芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、を備える銅被覆鋼線であって
前記芯線の長手方向に垂直な断面において、前記芯線の外周面の十点平均粗さRzjisの値が前記被覆層の厚みの50%以上250%以下であり、
前記銅被覆鋼線の導電率は5%IACS以上90%IACS以下である、銅被覆鋼線。
【請求項2】
前記芯線の長手方向に垂直な断面において、前記芯線の外周面の算術平均粗さRaの値が前記被覆層の厚みの25%以上70%以下である、請求項1に記載の銅被覆鋼線。
【請求項3】
前記芯線を構成する鋼は、フェライト系ステンレス鋼である、請求項1または請求項2に記載の銅被覆鋼線。
【請求項4】
前記芯線を構成する鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である、請求項1または請求項2に記載の銅被覆鋼線。
【請求項5】
オーステナイト系ステンレス鋼の成分組成が、下記式(1)を満たす、請求項4に記載の銅被覆鋼線。
【数1】
(式中、Aは炭素の含有量[質量%]であり、Bは窒素の含有量[質量%]であり、Cは珪素の含有量[質量%]であり、Dはマンガンの含有量[質量%]であり、Eはニッケルの含有量[質量%]であり、Fはクロムの含有量[質量%]である。)
【請求項6】
前記芯線を構成する鋼は、パーライト組織を有する、請求項1または請求項2に記載の銅被覆鋼線。
【請求項7】
前記芯線を構成する鋼は、0.5質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.1質量%以上2.5質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含有し、残部が鉄および不可避的不純物である、請求項6に記載の銅被覆鋼線。
【請求項8】
前記芯線を構成する鋼は、0.1質量%以上0.4質量%以下のニッケルと、0.1質量%以上1.8質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.4質量%以下のモリブデンおよび0.05質量%以上0.3質量%以下のバナジウムからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含有する、請求項7に記載の銅被覆鋼線。
【請求項9】
前記芯線の長手方向に垂直な断面において、前記被覆層は、前記芯線の周方向に隣り合うように前記被覆層の厚みが極大値および極小値となり、前記極大値をh、前記極小値をh、前記被覆層の厚みの平均値をt、hとhとの差の最大値をhとした場合、下記式(2)を満たす第1領域を複数含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の銅被覆鋼線。
【数2】
【請求項10】
線径が0.01mm以上1mm以下である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の銅被覆鋼線。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の銅被覆鋼線が複数撚り合わされて構成される、撚線。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の銅被覆鋼線、または請求項11に記載の撚線と、
前記銅被覆鋼線または前記撚線の外周を覆うように配置される絶縁層と、を含む、絶縁電線。
【請求項13】
線状の導体部と、
前記導体部の外周面を覆うように配置される絶縁層と、
前記絶縁層の外周面を取り囲むように配置されるシールド部と、を含み、
前記シールド部は、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の複数の銅被覆鋼線を含む、ケーブル。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の銅被覆鋼線、または請求項11に記載の撚線と、
前記銅被覆鋼線または前記撚線の外周を覆うように配置される絶縁層と、
前記絶縁層の外周面を取り囲むように配置されるシールド部と、を含む、ケーブル。
【請求項15】
前記シールド部が、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の複数の銅被覆鋼線を含む、請求項14に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅被覆鋼線、撚線、絶縁電線およびケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性と強度との両立が求められる部材として、鋼材の表面が銅で被覆された銅被覆鋼線が採用される場合がある(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-270039号公報
【文献】特開平1-289021号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に従った銅被覆鋼線は、鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、を備える。芯線の長手方向に垂直な断面において、芯線の外周面の十点平均粗さRzjisの値が被覆層の厚みの50%以上250%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施の形態1における銅被覆鋼線の構造を示す概略断面図である。
図2図2は、銅被覆鋼線の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図3図3は、銅被覆鋼線の製造方法を説明するための概略断面図である。
図4図4は、銅被覆鋼線の製造方法を説明するための概略断面図である。
図5図5は、銅被覆鋼線の製造方法を説明するための概略断面図である。
図6図6は、実施の形態1における銅被覆鋼線の第1変形例を示す概略断面図である。
図7図7は、実施の形態1における銅被覆鋼線の第2変形例を示す概略断面図である。
図8図8は、実施の形態2における撚線の構造を示す斜視図である。
図9図9は、実施の形態3における絶縁電線の構造を示す概略断面図である。
図10図10は、実施の形態4におけるケーブルの構造を示す概略断面図である。
図11図11は、屈曲試験装置の概略斜視図である。
図12図12は、屈曲試験の測定方法を説明するための概略図である。
図13図13は、屈曲試験の測定方法を説明するための概略図である。
図14図14は、屈曲試験の結果を示す図である。
図15図15は、屈曲試験の結果を示す図である。
図16図16は、屈曲試験の結果を示す図である。
図17図17は、屈曲試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
上記銅被覆鋼線は、芯線と、銅製または銅合金製の被覆層と、を備える。銅被覆鋼線は、捩じられて所定の形状に加工される用途に用いられる場合がある。銅被覆鋼線が捩じられて加工されると、被覆層の芯線との界面において割れが生じ、導電性の低下や鋼線の破断が発生する場合がある。そこで、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる銅被覆鋼線を提供することを目的の1つとする。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の銅被覆鋼線によれば、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の銅被覆鋼線は、銅被覆鋼線は、鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、を備える。芯線の長手方向に垂直な断面において、芯線の外周面の十点平均粗さRzjisの値が被覆層の厚みの50%以上250%以下である。
【0009】
本開示の銅被覆鋼線においては、鋼製の芯線により高い強度が確保される。銅製または銅合金製の被覆層により、優れた導電性が確保される。さらに、芯線の長手方向に垂直な断面において、芯線の外周面の十点平均粗さRzjisの値が被覆層の厚みの50%以上250%以下に設定される。このように、芯線の表面に凹凸を形成することで、芯線と被覆層との結合強度が上昇する。その結果、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。Rzjisの値を50%以上とすることで、芯線と被覆層との結合強度を確実に向上させることができる。Rzjisの値が250%を超えると、被覆層の導電性が低下する可能性がある。したがって、Rzjisの値は、被覆層の厚みの250%以下であることが好ましい。以上のように本開示の銅被覆鋼線によれば、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。
【0010】
上記銅被覆鋼線においては、芯線の長手方向に垂直な断面における、芯線の外周面の算術平均粗さRaの値が被覆層の厚みの25%以上70%以下であってもよい。Raの値を被覆層の厚みの25%以上とすることで、芯線と被覆層との結合強度をより確実に向上させることができる。Raの値を被覆層の厚みの70%以下とすることで、芯線の強度を十分に維持することができる。
【0011】
上記銅被覆鋼線において、芯線を構成する鋼は、フェライト系ステンレス鋼であってもよい。フェライト系ステンレス鋼を用いることにより、上記芯線の腐食を抑制することができる。
【0012】
上記銅被覆鋼線において、芯線を構成する鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。オーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、上記芯線の腐食を抑制することができる。
【0013】
上記銅被覆鋼線において、オーステナイト系ステンレス鋼の成分組成が、下記式(1)を満たしてもよい。下記式(1)を満たす成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼は、上記芯線を構成する材料として好適である。
【数1】

(式中、Aは炭素の含有量[質量%]であり、Bは窒素の含有量[質量%]であり、Cは珪素の含有量[質量%]であり、Dはマンガンの含有量[質量%]であり、Eはニッケルの含有量[質量%]であり、Fはクロムの含有量[質量%]である。)
【0014】
上記銅被覆鋼線において、芯線を構成する鋼は、パーライト組織を有してもよい。パーライト組織を有する鋼は、上記芯線を構成する材料として好適である。
【0015】
上記銅被覆鋼線において、芯線を構成する鋼は、0.5質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.1質量%以上2.5質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含有し、残部が鉄および不可避的不純物であってもよい。
【0016】
上記銅被覆鋼線において、芯線を構成する鋼は、0.1質量%以上0.4質量%以下のニッケルと、0.1質量%以上1.8質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.4質量%以下のモリブデンおよび0.05質量%以上0.3質量%以下のバナジウムからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含有してもよい。
【0017】
芯線を構成する鋼の成分組成が上記範囲であることが好ましい理由について、以下に説明する。
【0018】
炭素:0.5質量%以上1.0質量%以下
炭素は、鋼の強度に大きな影響を与える元素である。銅被覆鋼線の芯線として十分な強度を得る観点から、炭素含有量は0.5質量%以上とすることが好ましい。一方、炭素含有量が多くなると靱性が低下し、加工が困難になるおそれがある。十分な靱性を確保する観点から、炭素含有量は1.0質量%以下とすることが好ましい。強度をさらに向上させる観点から、炭素含有量は0.6質量%以上とすることがより好ましく、0.8質量%以上とすることがさらに好ましい。靱性を向上させて加工を容易とする観点から、炭素含有量は0.95質量%以下とすることがより好ましい。
【0019】
珪素:0.1質量%以上2.5質量%以下
珪素は、鋼の精錬において脱酸剤として添加される元素である。脱酸剤としての機能を果たすため、珪素の含有量は0.1質量%以上とすることが好ましく、0.12質量%以上とすることがより好ましい。また、珪素は、鋼中において炭化物生成元素として機能し、加熱による軟化を抑制する性質である軟化抵抗性を有する。銅被覆鋼線の製造時および使用時における加熱による軟化を抑制する観点から、珪素含有量は0.8質量%以上とすることが好ましく、1.8質量%以上としてもよい。一方、珪素は過度に添加すると靱性を低下させる。十分な靱性を確保する観点から、珪素含有量は2.5質量%以下とすることが好ましく、2.3質量%以下とすることがより好ましく、さらには2.2質量%以下としてもよい。靱性を重視する観点からは、珪素含有量は1.0質量%以下としてもよい。
【0020】
マンガン:0.3質量%以上0.9質量%以下
マンガンは、珪素と同様に鋼の精錬において脱酸剤として添加される元素である。脱酸剤としての機能を果たすため、マンガンの含有量は0.3質量%以上とすることが好ましい。一方、マンガンは過度に添加すると、靱性や熱間加工における加工性を低下させる。そのため、マンガン含有量は0.9質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
不可避的不純物
芯線の製造工程において、リンおよび硫黄が不可避的に芯線を構成する鋼中に混入する。リンおよび硫黄は、過度に存在すると粒界偏析を生じたり、介在物を生成したりして、鋼の特性を悪化させる。そのため、リンおよび硫黄の含有量は、それぞれ0.025質量%以下とすることが好ましい。また、不可避的不純物の含有量は、合計で0.3質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
ニッケル:0.1質量%以上0.4質量%以下
ニッケルを添加することにより、芯線の伸線加工時における断線の発生が抑制される。この機能を確実に発揮させる観点から、ニッケルは0.1質量%以上添加されてもよい。一方、0.4質量%を超えて添加してもニッケルの上記効果は飽和する。また、高価な元素であるニッケルが0.4質量%を超えて添加されると、芯線の製造コストが上昇する。そのため、ニッケルの添加量は0.4質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
クロム:0.1質量%以上1.8質量%以下
クロムは、鋼中において炭化物生成元素として機能し、微細な炭化物の生成による金属組織の微細化や加熱時の軟化抑制に寄与する。このような効果を確実に発揮させる観点から、クロムは0.1質量%以上添加されてもよく、0.2質量%以上、さらには0.5質量%以上添加されてもよい。一方、クロムの過度の添加は靱性低下の原因となる。そのため、クロムの添加量は1.8質量%以下とすることが好ましい。クロムの添加による上記効果は、珪素、バナジウムとの共存によって、特に顕著となる。そのため、クロムは、これらの元素とともに添加されることが好ましい。
【0024】
モリブデン:0.1質量%以上0.4質量%以下
モリブデンを添加することにより、鋼の強度を上昇させることができる。この機能を確実に発揮させる観点から、モリブデンは0.1質量%以上添加されてもよい。一方、0.4質量%を超えて添加してもモリブデンの上記効果は飽和する。また、高価な元素であるモリブデンが0.4質量%を超えて添加されると、芯線の製造コストが上昇する。そのため、モリブデンの添加量は0.4質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
バナジウム:0.05質量%以上0.3質量%以下
バナジウムは、鋼中において炭化物生成元素として機能し、微細な炭化物の生成による金属組織の微細化や加熱時の軟化抑制に寄与する。このような効果を確実に発揮させる観点から、バナジウムは0.05質量%以上添加されてもよい。一方、バナジウムの過剰な添加は、靱性を低下させる。十分な靱性を確保する観点から、バナジウムの添加量は0.3質量%以下とすることが好ましい。バナジウムの添加による上記効果は、珪素、クロムとの共存によって、特に顕著となる。そのため、バナジウムは、これらの元素とともに添加されることが好ましい。
【0026】
上記銅被覆鋼線では、芯線の長手方向に垂直な断面において、被覆層は、芯線の周方向に隣り合うように被覆層の厚みが極大値および極小値となり、極大値をh、極小値をh、被覆層の厚みの平均値をt、hとhとの差の最大値をhとした場合、下記式(2)を満たす第1領域を複数含んでもよい。このような第1領域を複数含むことで、芯線と被覆層との結合力を増大させ、被覆層の芯線との界面における割れの発生をより確実に抑制することができる。
【数2】
【0027】
上記銅被覆鋼線において、線径が0.01mm以上1mm以下であってもよい。本開示の銅被覆鋼線は、この範囲の線径を有する鋼線に特に好適である。なお、本願において「線径」とは、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面が円形である場合、その直径を意味する。上記断面が円径以外である場合、断面に外接する円のうち面積が最小となる円の直径を意味する。
【0028】
本開示の撚線は、上記銅被覆鋼線が複数撚り合わされて構成される。本開示の撚線によれば、上記銅被覆鋼線が撚り合わされた構造を有することにより、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。したがって、耐久性に優れた撚線を提供することができる。
【0029】
本開示の絶縁電線は、上記銅被覆鋼線または上記撚線と、銅被覆鋼線または撚線の外周を覆うように配置される絶縁層と、を含む。本開示の絶縁電線によれば、上記銅被覆鋼線または上記撚線を含むことにより、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。したがって、耐久性に優れた絶縁電線を提供することができる。
【0030】
本開示のケーブルは、線状の導体部と、導体部の外周面を覆うように配置される絶縁層と、絶縁層の外周面を取り囲むように配置されるシールド部と、を含んでもよい。シールド部は、複数の上記銅被覆鋼線を含む。本開示のケーブルによれば、シールド部が複数の上記銅被覆鋼線を含むことにより、シールド部の耐久性を向上させることができる。
【0031】
本開示のケーブルは、上記銅被覆鋼線または上記撚線と、銅被覆鋼線または撚線の外周を覆うように配置される絶縁層と、絶縁層の外周面を取り囲むように配置されるシールド部と、を含む。本開示のケーブルによれば、上記銅被覆鋼線または上記撚線を含むことにより、被覆層の芯線との界面における割れの発生を抑制することができる。したがって、耐久性に優れたケーブルを提供することができる。
【0032】
上記ケーブルにおいて、シールド部が、複数の上記銅被覆鋼線を含んでもよい。シールド部が複数の上記銅被覆鋼線を含むことにより、シールド部の耐久性を向上させることができる。
【0033】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示にかかる銅被覆鋼線の実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、芯線の長手方向に垂直な断面における断面図である。図1を参照して、本実施の形態における銅被覆鋼線1は、芯線10と、被覆層20と、を備える。本実施の形態における銅被覆鋼線1の線径は、0.01mm以上1mm以下である。本実施の形態において、芯線10を構成する鋼は、パーライト組織を有する。被覆層20は、芯線10の外周面11を覆う。被覆層20は、銅製または銅合金製である。銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面は円形である。
【0035】
本実施の形態において、芯線10を構成する鋼は、0.5質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.1質量%以上2.5質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含有し、残部が鉄および不可避的不純物である。
【0036】
長手方向に垂直な断面において、芯線10の外周面11の十点平均粗さRzjisの値が、被覆層20の厚みの50%以上250%以下である。芯線10の外周面11のRzjisの値は、好ましくは75%以上190%以下であり、より好ましくは90%以上160%以下である。ここで、上記十点平均粗さRzjisの測定は、たとえば以下の方法により実施される。まず、銅被覆鋼線1からサンプルが採取される。そして、得られたサンプルの長手方向に垂直な断面が研磨される。次に、研磨された面の芯線10の被覆層20との界面を観察して、芯線10の外周面11のRzjisが導出される。Rzjisは、JIS B 0601:2013に基づき、芯線10の外周面11全体を測定することにより求められる。また、被覆層20の厚みは、以下のように決定することができる。まず、長手方向に垂直な断面における芯線10の面積を測定する。次に、得られた面積に対応する円(図1において破線で示す)の半径(円相当半径)を算出する。そして、銅被覆鋼線1の半径と芯線10の円相当半径との差を被覆層20の厚みtとする。被覆層20の厚みtは、被覆層20の厚みの平均値である。
【0037】
本実施の形態において、長手方向に垂直な断面において、芯線10の外周面11の算術平均粗さRaの値が被覆層20の厚みtの25%以上70%以下である。芯線10の外周面11のRaの値は、好ましくは30%以上70%以下であり、より好ましくは35%以上55%以下である。ここで、上記算術平均粗さRaの測定は、たとえば以下の方法により実施される。まず、銅被覆鋼線1からサンプルが採取される。そして、得られたサンプルの長手方向に垂直な断面が研磨される。次に、研磨された面の芯線10の被覆層20との界面を観察して、芯線10の外周面11のRaが導出される。Raは、JIS B 0601:2013に基づき、芯線10の外周面11全体を測定することにより求められる。
【0038】
次に、銅被覆鋼線1の製造方法の一例について説明する。図2を参照して、本実施の形態の銅被覆鋼線1の製造方法においては、まず工程(S10)として原料鋼線準備工程が実施される。この工程(S10)では、芯線10となるべき鋼線が準備される。具体的には、0.5質量%以上1.0質量%以下のCと、0.1質量%以上2.5質量%以下のSiと、0.3質量%以上0.9質量%以下のMnとを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼から構成される鋼線が準備される。鋼線を構成する鋼は、0.1質量%以上0.4質量%以下のNi、0.1質量%以上1.8質量%以下のCr、0.1質量%以上0.4質量%以下のMoおよび0.05質量%以上0.3質量%以下のVからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【0039】
次に、工程(S20)としてパテンティング工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された原料鋼線に対してパテンティングが実施される。具体的には、原料鋼線がオーステナイト化温度(A1点)以上の温度域に加熱された後、MS点よりも高い温度域まで急冷され、当該温度域で保持される熱処理が実施される。これにより、原料鋼線の金属組織がラメラ間隔の小さい微細パーライト組織となる。ここで、上記パテンティング処理において、原料鋼線をA1点以上の温度域に加熱する処理は、脱炭の発生を抑制する観点から不活性ガス雰囲気中で実施される。
【0040】
次に、工程(S30)として第1伸線工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)においてパテンティングが実施された原料鋼線の伸線が実施される。これにより、図3を参照して、パーライト組織を有し、長手方向に垂直な断面が円形である芯線10が得られる。
【0041】
次に、工程(S40)として粗面化工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において伸線加工が実施されて得られた芯線10に対して、表面粗さを増大させる粗面化処理が実施される。具体的には、図3および図4を参照して、芯線10の外周面11を、塩酸、硫酸などの酸に接触させることにより表面粗さを増大させる。濃度がたとえば35%である塩酸を用いることができる。硫酸の濃度は、たとえば65%とすることができる。鋼線の製造プロセスにおいて、鋼線の表面の清浄化や酸化被膜の除去を目的として、酸洗処理が実施される場合がある。しかし、工程(S40)における粗面化処理は一般的な酸洗処理とは異なり、高濃度の酸や腐食性の高い酸を用いることや、酸に接触させる時間を長くすることにより、粗面化を達成する。この時点における表面粗さRaは、たとえば0.8μm以上とすることができる。粗面化処理としては、酸に接触させる処理に代えて、または酸に接触させる処理に加えて、研磨用不織布を芯線10の外周面11に押し付けつつ相対的に移動させる等の処理により機械的に粗面化を達成する処理を実施してもよい。
【0042】
次に、工程(S50)として被覆層形成工程が実施される。この工程(S50)では、図4および図5を参照して、工程(S40)において粗面化処理が実施された芯線10の外周面11を覆うように、CuまたはCu合金からなる被覆層20が形成される。工程(S50)において形成される被覆層20の厚みは、たとえば30μm以上90μm以下である。被覆層20は、たとえばめっきにより形成されてもよいし、別途準備された被覆層20となるべき部材を芯線10に対して機械的に一体化して得られるクラッド層として形成してもよい。
【0043】
次に、工程(S60)として第2伸線工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において被覆層20が形成された芯線10が伸線加工される。これにより、所望の線径を有する銅被覆鋼線1が得られる。工程(S60)における加工度(減面率)および真歪は、たとえばそれぞれ90%以上および2.3以上とすることができる。以上の手順により、本実施の形態における銅被覆鋼線1の製造が完了する。
【0044】
本実施の形態における銅被覆鋼線1では、芯線10の長手方向に垂直な断面において、芯線10の外周面11の十点平均粗さRzjisの値が被覆層20の厚みの50%以上250%以下に設定される。このように、芯線10の外周面11に凹凸を形成することで、芯線10と被覆層20との結合強度が上昇する。その結果、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制することができる。Rzjisの値が50%以上とすることで、芯線10と被覆層20との結合強度を確実に向上させることができる。Rzjisの値が250%を超えると、被覆層20の導電性が低下する可能性がある。したがって、Rzjisの値は、被覆層20の厚みの250%以下であることが好ましい。以上のように本実施の形態における銅被覆鋼線1によれば、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制することができる。
【0045】
上記実施の形態においては、芯線10の長手方向に垂直な断面における、芯線10の外周面11の算術平均粗さRaの値が被覆層20の厚みの25%以上70%以下である。Raの値を上記範囲に設定することは必須ではないが、Raの値が被覆層20の厚みの25%以上とすることで、芯線10と被覆層20との結合強度をより確実に向上させることができる。Raの値が被覆層20の厚みの70%以下とすることで、芯線10の強度を十分に維持することができる。
【0046】
上記実施の形態においては、芯線10を構成する鋼がパーライト組織を有する場合について説明したが、これに限られず、フェライト系ステンレス鋼またはオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。フェライト系ステンレス鋼またはオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、上記芯線の腐食を抑制することができる。芯線10を構成する鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である場合には、ステンレス鋼の成分組成が下記式(1)を満たすことが好ましい。
【数1】

(式中、Aは炭素の含有量[質量%]であり、Bは窒素の含有量[質量%]であり、Cは珪素の含有量[質量%]であり、Dはマンガンの含有量[質量%]であり、Eはニッケルの含有量[質量%]であり、Fはクロムの含有量[質量%]である。)
【0047】
上記実施の形態においては、芯線10を構成する鋼は、0.55質量%以上0.7質量%以下の炭素と、1.35質量%以上2.3質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンと、0.2質量%以上1.8質量%以下のクロムと、0.05質量%以上0.30質量%以下のバナジウムと、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であってもよい。芯線10を構成する鋼としてこのような成分組成の鋼を採用することにより、より確実に高い耐久性を得ることができる。
【0048】
上記実施の形態においては、芯線10を構成する鋼の珪素の含有量が、1.35質量%以上2.3質量%以下であってもよい。珪素の含有量を1.35質量%以上とすることにより、銅被覆鋼線1の加工の際の熱処理における軟化を抑制することができる。珪素の含有量を2.3質量以下とすることにより、靱性の低下を抑制することができる。
【0049】
上記実施の形態においては、芯線10を構成する鋼は、0.6質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンと、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であってもよい。
【0050】
上記実施の形態においては、芯線10を構成する鋼は、0.6質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.7質量%以上1.0質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンと、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であってもよい。
【0051】
芯線10を構成する鋼としてこのような成分組成の鋼を採用することにより、より確実に高い耐久性を得ることができる。
【0052】
上記実施の形態の銅被覆鋼線1において、被覆層20がめっき層であり、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける酸素濃度は10質量%以下であってもよい。このようにすることにより、芯線10と被覆層20との結合力を増大させ、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生をより確実に抑制することができる。被覆層20の芯線10との界面20Aにおける酸素濃度は5質量%以下とすることが好ましく、3質量%以下とすることがより好ましい。なお、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける酸素濃度は、たとえば銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面において被覆層20の芯線10との界面20Aを含む一辺300μmの正方形領域に対してEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)による定量分析を実施することにより測定することができる。
【0053】
上記実施の形態の銅被覆鋼線1では、図1を参照して、芯線10の長手方向に垂直な断面において、被覆層20は、芯線10の周方向に隣り合うように被覆層20の厚みが極大値および極小値となり、極大値をh、極小値をh、被覆層の厚みの平均値をt、hとhとの差の最大値hとした場合、下記式(2)を満たす第1領域12を複数含んでもよい。このような第1領域12を複数含むことで、芯線10と被覆層20との結合力を増大させ、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生をより確実に抑制することができる。
【数2】
【0054】
上記実施の形態の銅被覆鋼線1において、引張強さが、500MPa以上3800MPa以下であってもよい。引張強さを500MPa以上することにより、銅被覆鋼線1として十分な強度を得ることができる。引張強さを3800MPa以下とすることにより、十分な靱性を確保することができる。上記引張強さは、例えば、JIS Z 2241に基づいて測定される。
【0055】
上記実施の形態の銅被覆鋼線1において、導電率が、5%IACS以上90%IACS以下であってもよい。なお、IACSは、International Annealed Copper Standardを略したものである。このようにすることにより、種々の用途において十分な導電性を確保することができる。
【0056】
次に、実施の形態1における銅被覆鋼線1の第1変形例について説明する。図6は、芯線10の長手方向に垂直な断面において、被覆層20の芯線10との界面20A付近を拡大して示す図である。図6を参照して、本変形例における被覆層20は、芯線10との界面20Aを含む領域に配置される中間層19を含む。中間層19は、芯線10を構成する鋼に含まれる金属元素と、被覆層20を構成する銅または銅合金に含まれる金属元素との合金層、および芯線10を構成する鋼に含まれる金属元素と、被覆層20を構成する銅または銅合金に含まれる金属元素と、を含む酸化物層の少なくともいずれか1つを含む。本願の銅被覆鋼線において中間層19の存在は必須ではないが、上記中間層19を形成することで、芯線10と被覆層20との結合力を増大させ、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生をより確実に抑制することができる。
【0057】
次に、実施の形態1における銅被覆鋼線1の第2変形例について説明する。図7は、芯線10の長手方向に垂直な断面における断面図である。図7を参照して、本変形例における銅被覆鋼線1は、銅被覆鋼線1の表面を含むように配置される表面層30を含む。表面層30は、金層、銀層、スズ層、パラジウム層、ニッケル層およびこれらの金属の合金層からなる群から選択される少なくとも1つを含む。本願の銅被覆鋼線において表面層30の存在は必須ではないが、表面層30を含むことで、銅被覆鋼線1の表面における耐食性、はんだ付け性、導電性を向上させることができる。
【0058】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2として、本開示の撚線の一実施の形態について説明する。図8には、銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面が併せて図示されている。図8を参照して、本実施の形態における撚線100は、複数の上記実施の形態1の銅被覆鋼線1が撚り合わされて構成されている。本実施の形態においては、7本の銅被覆鋼線1が撚り合わされた構造を有している。撚線100に含まれる各銅被覆鋼線1は、上記実施の形態1の銅被覆鋼線である。本実施の形態における撚線100は上記実施の形態1の銅被覆鋼線1が撚り合わされた構造を有することにより、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制することができる。したがって、耐久性に優れた撚線100を提供することができる。
【0059】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3として、本開示の絶縁電線の一実施の形態について説明する。図9は、銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面における断面図である。図9を参照して、本実施の形態における絶縁電線200は、上記実施の形態1の銅被覆鋼線1と、銅被覆鋼線1の外周1Aを覆うように配置される絶縁層40と、を含む。本開示の絶縁電線200によれば、上記実施の形態1の銅被覆鋼線1を含むことにより、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制することができる。したがって、耐久性に優れた絶縁電線200を提供することができる。なお、本実施の形態においては、銅被覆鋼線1を用いる場合について説明したが、これに限られず、銅被覆鋼線1に代えて、実施の形態2の撚線100を用いてもよい。
【0060】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4として、本開示のケーブルの一実施の形態について説明する。図10には、撚線、絶縁層、シールド部および保護層の長手方向に垂直な断面が併せて図示されている。図10を参照して、ケーブル300は、実施の形態2の撚線100と、撚線100の外周100Aを覆うように配置される絶縁層40と、絶縁層40の外周面40Aを取り囲むように配置されるシールド部50と、シールド部50の外周50Aを覆うように配置される保護層60と、を含む。シールド部50は、複数の上記実施の形態1の銅被覆鋼線1を含む。本実施の形態におけるシールド部50は、複数の上記実施の形態1の銅被覆鋼線1が編まれた形状を有する。本開示のケーブル300によれば、撚線100を含む構造を有することにより、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制することができる。また、シールド部50が複数の上記銅被覆鋼線1を含むことにより、シールド部50の耐久性を向上させることができる。したがって、耐久性に優れたケーブル300を提供することができる。なお、本実施の形態においては、導体部として撚線100を用いる場合について説明したが、これに限られず、撚線100に代えて、実施の形態1における銅被覆鋼線1を用いてもよい。また、シールド部50は複数の銅被覆鋼線1を含む場合について説明したが、これに限られず、シールド部50が本実施の形態以外の線材から構成されていてもよい。また、導体部は本実施の形態以外の線材から構成され、シールド部50のみが複数の上記実施の形態1の銅被覆鋼線1を含むようにしてもよい。
【実施例
【0061】
長手方向に垂直な断面における被覆層20の厚みに対する芯線10の十点平均粗さRzjisの値が銅被覆鋼線1の特性に与える影響を調査する実験を行った。工程(S10)において準備される原料鋼線を構成する鋼としては、0.82質量%のCと、0.22質量%のSiと、0.45質量%のMnとを含有し、残部が鉄および不可避的不純物である鋼を採用した。不可避的不純物として含まれる元素の量を分析した結果、Pは0.011質量%、Sは0.008質量%、Cuは0.000質量%であった。工程(S50)においては、めっきにより純銅からなる被覆層20を形成した。このようにして銅被覆鋼線1を作製した。そして、作製した銅被覆鋼線1を50本撚り合わせてサンプルAを作製した。サンプルAの撚り合わせる前の素線の線径は0.45mmであり、銅被覆率は30%である。上記銅被覆率は、銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面において、銅被覆鋼線1全体の面積に対する被覆層20の面積の割合である。サンプルAにおける芯線10の外周面11のRzjisの値は、被覆層20の厚みtの54%である。サンプルAにおける芯線10の外周面11のRaの値は、被覆層20の厚みtの19%である。
【0062】
素線の線径、撚本数、芯線10の外周面11のRzjisの値および芯線10の外周面11のRaの値の少なくとも1つがサンプルAとは異なるサンプルB~サンプルLを作製した。比較のため、銅被覆鋼線ではなく、銅合金線のサンプルM,Nを作製した。銅合金線を構成する銅合金は、銅-スズ合金とした。
【0063】
次に、サンプルA~サンプルNの撚り合わせる前の素線の引張強さを測定した。また、サンプルA~サンプルF、サンプルI~サンプルKおよびサンプルMの撚り合わせる前の素線に対してねじり試験を実施して、それぞれのサンプルの降伏せん断応力および最大せん断応力を測定した。素線の引張強さの1%に相当する重りを各サンプルに取り付けて、捻回速度を30rpm、測定間距離を素線の線径の100倍の長さに設定して、ねじり試験を実施した。これらの測定結果を表1に示す。
【0064】
また、サンプルA~サンプルNの屈曲試験を実施した。図12および図13においては、マンドレルの長手方向に垂直な断面が併せて図示されている。図11を参照して、屈曲試験装置70は、マンドレル71,72と、一対の治具73a,73bと、おもり74と、を含む。サンプルAの長手方向における一方の端部には、おもり74が取り付けられる。本試験では、荷重を100gとした。一対の治具73a,73bが、サンプルAの長手方向における他方の端部を含む領域を挟むように取り付けられる。おもり74と治具73a,73bとの間には、円柱状の形状を有するマンドレル71,72が配置される。マンドレル71の外周面711と、マンドレル72の外周面721とに接触するようにサンプルAが取り付けられる。マンドレル71,72は、長手方向においてサンプルAと直交するように配置される。マンドレル71,72の径Qは、同一である(図12および図13参照)。図11の状態を初期状態とする。図11および図12を参照して、まず、マンドレル71の外周面711に沿って、サンプルAが矢印Rの向きに屈曲される。サンプルAの最大屈曲角度θは、90°である。図11および図13を参照して、サンプルAが初期状態の位置に戻された後に、マンドレル72の外周面721に沿って、サンプルAが矢印Rの向きに屈曲される。サンプルAの最大屈曲角度θは、90°である。サンプルAが矢印Rの向きに屈曲された後に、矢印Rの向きに屈曲されることで、サンプルには1回の屈曲が実施されたものとする。上記のようなサンプルAの屈曲を繰り返し実施して、サンプルが破断するまでの屈曲回数を測定した。サンプルB~サンプルNについても同様に測定した。さらに、マンドレル71,72の径Qを変化させて、マンドレル71,72の径Qごとにサンプルが破断するまでの屈曲回数を測定した。測定結果を図14図17に示す。図14図17の縦軸はサンプルが破断するまでの屈曲回数を示し、横軸はマンドレル71,72の径Qを示す。なお、マンドレル71,72の径Qの単位は、mmである。図14図17における「マンドレルの径Q」は、マンドレル71,72の径Qを意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
表1を参照して、引張強さに関して、Rzjisの割合が50%以上250%以下の範囲内であるサンプルA~サンプルHは、Rzjisの割合が上記範囲外であるサンプルI~サンプルLを明確に上回っている。さらに、降伏せん断応力および最大せん断応力に関して、Rzjisの割合が上記範囲内であるサンプルA~サンプルFは、Rzjisの割合が範囲外であるサンプルI~サンプルKを明確に上回っている。図14図17を参照して、破断に至るまでの屈曲回数に関しても、Rzjisの割合が上記範囲内であるサンプルA~サンプルHは、Rzjisの割合が上記範囲外であるサンプルI~サンプルLを明確に上回っている。これは、Rzjisの割合が上記範囲内であるサンプルA~サンプルHにおいて、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生が抑制されたためであると考えられる。
【0067】
表1および図14図17を参照して、銅被覆鋼線を用いたサンプルA~サンプルHは、引張強さおよび破断に至るまでの屈曲回数に関して、銅合金線を用いたサンプルM,Nを大きく上回っている。また、表1を参照して、銅被覆鋼線であるサンプルA~サンプルHは、降伏せん断応力および最大せん断応力に関して、サンプルMを大きく上回っている。したがって、銅被覆鋼線を用いたサンプルA~サンプルHは、十分な強度を有していることが確認される。
【0068】
以上の実験結果より、本開示の銅被覆鋼線1によれば、被覆層20の芯線10との界面20Aにおける割れの発生を抑制可能な銅被覆鋼線を提供できることが確認される。
【0069】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 銅被覆鋼線、1A,50A,100A 外周、10 芯線、11,40A,711,721 外周面、12 第1領域、19 中間層、20 被覆層、20A 界面、30 表面層、40 絶縁層、50 シールド部、60 保護層、70 屈曲試験装置、71,72 マンドレル、73a,73b 治具、74 おもり、100 撚線、200 絶縁電線、300 ケーブル、Q 径、R,R 方向、h 極大値、h 極小値、t 厚み、A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N サンプル、θ,θ 最大屈曲角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17