(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】廃インクケース及び描画装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20230411BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/17 203
B41J2/165 303
B41J2/165 305
(21)【出願番号】P 2022011404
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2018000940の分割
【原出願日】2018-01-09
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0180828(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画ヘッドから吐出されるインクを内部に貯留する廃インクケースであって、
前記描画ヘッドから重力方向に落下するインクを内部に導入するためのインク導入口と、内部の空気を排出するための排気口とが設けられている容器と、
前記インク導入口から前記排気口までの通気路に沿って設けられ、前記インクを吸収するインク吸収体と、
前記インク導入口と前記排気口との間の一部を遮ることで、前記インク導入口から前記排気口までの通気路を重力方向と直交する水平方向に迂回させるように前記容器内に設けられた隔壁と、
を有する廃インクケース。
【請求項2】
前記インク吸収体は、前記通気路に沿って前記隔壁を水平方向に迂回するように設けられている、請求項1に記載の廃インクケース。
【請求項3】
前記隔壁が設けられていない場合の前記インク導入口から前記排気口までの直線的な通気路よりも、前記隔壁が設けられている場合の前記インク導入口から前記排気口までの迂回した通気路の方が長く、前記隔壁が設けられていない場合と比較して、前記描画ヘッドから吐出されたインクを含む空気がより長い距離に亘って前記インク吸収体と触れるようになっている、請求項2に記載の廃インクケース。
【請求項4】
前記隔壁が設けられていない場合と比較して、前記通気路の経路長をより長く確保し、かつ、インク吐出時の流入空気をより減速させる、請求項3に記載の廃インクケース。
【請求項5】
前記隔壁は、前記通気路と隔絶された空間を画成しており、
前記空間には、前記描画ヘッドのメンテナンス用の部材が設けられている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の廃インクケース。
【請求項6】
前記空間には、前記描画ヘッドのインク吐出面を拭くワイプ部材を着脱可能に支持するワイプ支持部が設けられている
請求項5に記載の廃インクケース。
【請求項7】
前記容器に、前記ワイプ部材に付着したインクを除去するスクレープ部が着脱可能に設けられている
請求項6に記載の廃インクケース。
【請求項8】
前記通気路のうち通気方向と略直交する断面積が最小の部分の断面積と、前記排気口の面積とは、前記インク導入口の面積と同等に形成されている請求項1から
請求項7のいずれか一項に記載の廃インクケース。
【請求項9】
前記容器内のうち、インクを貯留可能な空間には、下側にインク吸収体が収容され、当該インク吸収体の上側に前記通気路が形成されている請求項1から
請求項8のいずれか一項に記載の廃インクケース。
【請求項10】
請求項1から
請求項9のいずれか一項に記載の廃インクケースと、
前記排気口との間に隙間を介在させつつ当該排気口を覆うように立設された衝立板と、
を備える描画装置。
【請求項11】
前記描画ヘッドと、
前記描画ヘッドを移動させる移動機構と、
を備え、
前記移動機構が、前記廃インクケースのうち前記排気口が形成されていない面と対向する位置に設けられている
請求項10に記載の描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃インクケース及び描画装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを微細な液滴としてインク吐出面から吐出させ描画対象に描画を施すインクジェット方式の描画装置が知られている。
こうしたインクジェット方式の描画装置の場合、使用に伴って、描画ヘッドのインク吐出面やノズル内等にインクが付着したり、気泡や異物が混入してノズルが詰まってしまったりすることがある。また長期間描画動作を行わなかった場合には、ノズル内のインクが乾燥して吐出されにくくなったり、インク吐出面に付着したインク等が固まってインク吐出口を塞いでしまったりすることもある。
これを放置したまま描画動作を続けると、インクの吐出方向が曲がって正確な位置に着弾できなかったり、インク吐出口からインクを吐出できなくなったりする等の吐出不良等が生じ、高精細な描画を行うことが困難となる。
【0003】
このため、インクジェット方式の描画装置では、インク吐出面から廃インクケースに強制的にインクを吐出させるパージ処理が行われる。このパージ処理により、ノズル内及びインク吐出口に付着・流入した気泡や異物等をインクによって押し流し、インクの吐出不良を解消することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来の廃インクケースでは、インク入口用の開口部が形成された密閉容器内にインク吸収体が収容されており、このインク吸収体に向けて開口部からインクを噴射していた。しかし、この構造では、開口部以外に内部の空気の逃げ場がないため、開口部からインクの逆流が発生してしまっていた。
そこで、例えば特許文献2に記載の廃インクケースでは、インク入口用の開口部とは別に、内部空気を逃がすための排気口を設けている。これにより、ケース内部の空気が排気口から排出されるため、開口部からのインクの逆流を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-021726号公報
【文献】特開平11-198413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、容器に排気口を設けて内部に通気路を形成しただけでは、その通気路内でのインク吸収体の配置等によっては、インク吸収体に好適にインクを吸収させることができない。インク吸収体が好適にインクを吸収できないと、排気口からインクのミストが吹き出して周囲の部品を汚してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、内部のインク吸収体に好適にインクを吸収させることができる廃インクケース及びこれを備える描画装置を提供することを利点とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、描画ヘッドから吐出されるインクを内部に貯留する廃インクケースであって、前記描画ヘッドから重力方向に落下するインクを内部に導入するためのインク導入口と、内部の空気を排出するための排気口とが設けられている容器と、前記インク導入口から前記排気口までの通気路に沿って設けられ、前記インクを吸収するインク吸収体と、前記インク導入口と前記排気口との間の一部を遮ることで、前記インク導入口から前記排気口までの通気路を重力方向と直交する水平方向に迂回させるように前記容器内に設けられた隔壁と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部のインク吸収体に好適にインクを吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態におけるネイルプリント装置の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態におけるネイルプリント装置の内部構成を示す要部斜視図である。
【
図3】本実施形態におけるネイルプリント装置の基台の構成を示す平面図である。
【
図4】本実施形態における廃インクケースの平面図である。
【
図5】本実施形態における廃インクケースの分解斜視図である。
【
図6】(a)は、
図4のVI-VI線での廃インクケースの断面図であり、(b)は、廃インクケースのうちケース本体及びインク吸収体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1から
図6を参照しつつ、本発明に係る廃インクケース及び描画装置の一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の実施形態では、描画装置が手の指の爪を描画対象としてこれに描画するネイルプリント装置である場合を例に説明するが、本発明における描画装置の描画対象は手の指の爪に限るものではなく、例えば足の指の爪を描画対象としてもよい。また、ネイルチップや各種アクセサリの表面等、爪以外のものを描画対象としてもよい。
【0012】
図1は、本実施形態におけるネイルプリント装置1の外観構成を示す斜視図である。
この図に示すように、ネイルプリント装置1は、ほぼ箱形に形成された筐体11を有している。
筐体11の上面(天板)には操作部12が設置されている。
操作部12は、ユーザが各種入力を行う入力部である。
操作部12には、例えば、ネイルプリント装置1の電源をONする電源スイッチ釦、動作を停止させる停止スイッチ釦、爪に描画するデザイン画像を選択するデザイン選択釦、描画開始を指示する描画開始釦等、各種の入力を行うための操作釦が配置されている。
【0013】
また、筐体11の上面(天板)には表示装置13が設置されている。
表示装置13は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイその他のフラットディスプレイ等で構成されている。
本実施形態において、この表示装置13には、例えば、指を撮影して得た爪画像(爪の画像を含む指画像)、この爪画像中に含まれる爪の輪郭線等の画像、爪に描画すべきデザイン画像を選択するためのデザイン選択画面、デザイン確認用のサムネイル画像、各種の指示を表示させる指示画面等が適宜表示される。
なお、表示装置13の表面に各種の入力を行うためのタッチパネルが一体的に構成されていてもよい。この場合には、タッチパネルが操作部12として機能する。
【0014】
また、筐体11の上面(天板)の内側であって、後述する指固定部3の窓部33の上方位置には、窓部33から露出する爪を撮影して爪画像を取得する撮影機構(図示省略)が設けられている。
【0015】
さらに、筐体11の前面であって左右方向のほぼ中央部には、描画対象である爪に対応する指が挿入される開口部14が形成されている。
開口部14の内側には、後述するように、爪(爪を含む指)を固定する指固定部3が配置されている。
【0016】
図2は、
図1に示すネイルプリント装置1から筐体11を外してネイルプリント装置1の内部構成を示した要部斜視図である。
図2に示すように、筐体11内には、各種の内部構造物が組み込まれた基台2が設けられている。
基台2の上面は、ほぼ平坦な基台上面20となっている。
【0017】
基台上面20のうちの前側(手前側)部分であって左右方向のほぼ中央部であり、筐体11の開口部14に対応する位置には、指固定部3が配置されている。
指固定部3は前面に開口部31を有する箱状の部材であり、指固定部3内部には指を固定する指固定部材32が配置されている。
指固定部材32は、指を下側から押し上げ支持するものであり、例えば柔軟性を有する樹脂等で形成されている。本実施形態では、指固定部材32は、幅方向(左右方向)のほぼ中央部が窪んだ形状となっており、指を指固定部材32上に載置した際に、指の腹部分を指固定部材32が受けて、左右方向に指がガタつくのを防止することができる。
【0018】
指固定部3の天面後側(奥側)は開口した窓部33となっている。窓部33からは指固定部3内に挿入された指の爪が露出するようになっている。
本実施形態では、窓部33の設けられている領域が、後述の描画機構により描画が行われる描画領域21(
図3参照)となっている。
【0019】
また、指固定部3の天面前側は指の浮き上がりを防止して指の上方向の位置を規制する指押え34となっている。指及びその爪は、下側から指固定部材32によって支持され、指の上側が指押え34によって押さえられることで、高さ方向の位置が所定の位置に位置決めされる。
【0020】
また、
図2に示すように、筐体11の内部には、描画対象面に描画を施す描画機構40が設けられている。ここで描画対象面とは、描画対象の表面であり、本実施形態では、指の爪の表面である。
描画機構40は、描画機構本体である描画ヘッド41、描画ヘッド41を支持するヘッドキャリッジ42、描画ヘッド41を左右方向に沿ったX方向に移動させるためのX方向移動ステージ45、X方向移動モータ(図示省略)、描画ヘッド41を前後方向に沿ったY方向に移動させるためのY方向移動ステージ47、Y方向移動モータ(図示省略)等を備えて構成されている。
【0021】
Y方向移動ステージ47は、基台上面20における左右方向の両側部に、それぞれ前後方向に延在して設けられた支持部材471を有している。
これら一対の支持部材471の延在方向における両端部にはそれぞれプーリー477が取り付けられている。装置左側及び装置右側のプーリー477には、前後方向に延在する駆動ベルト474がそれぞれ巻回されている。
装置後側に設けられているプーリー477は、駆動軸部476(
図3参照)の両端部に取り付けられている。この駆動軸部476には、図示しないY方向移動モータが接続されており、このY方向移動モータが駆動することで駆動軸部476及びこれに取り付けられているプーリー477が適宜正逆方向に回転する。
プーリー477の回転により、プーリー477に巻回されている駆動ベルト474も回転し、これによりX方向移動ステージ45(及びX方向移動ステージ45に搭載されている描画ヘッド41)がY方向に移動可能となっている。
また、支持部材471上には駆動ベルト474と平行して前後方向に延在するガイド軸475が設けられている。
【0022】
X方向移動ステージ45は、左右方向に延在する矩形箱状に形成され、基台上面20の後端部に設けられている。
X方向移動ステージ45の左右両端部にはそれぞれガイド軸475が挿通されており、図示しないY方向駆動モータが駆動して駆動ベルト474が回転することによって、このX方向移動ステージ45は、ガイド軸475に沿ってY方向に移動可能となっている。
【0023】
また、X方向移動ステージ45の内側には図示しないプーリーが設けられており、このプーリーには、左右方向に延在する駆動ベルト454が巻回されている。また、X方向移動ステージ45の内側には、この駆動ベルト454とほぼ平行して左右方向に延在するガイド軸455が設けられている。
X方向移動ステージ45には、描画ヘッド41を支持するヘッドキャリッジ42が搭載されている。
ヘッドキャリッジ42の後面側には、ガイド軸455が挿通された図示しないキャリッジ支持部材が設けられている。
ヘッドキャリッジ42にガイド軸455が挿通され、X方向駆動モータが駆動して駆動ベルト454が回転することによって、ヘッドキャリッジ42は、X方向移動ステージ45内をガイド軸455に沿ってX方向に移動可能となっている。
【0024】
本実施形態の描画ヘッド41は、インクジェット方式で描画を行うインクジェットヘッドである。
描画ヘッド41は、例えば、イエロー(Y;YELLOW)、マゼンタ(M;MAGENTA)、シアン(C;CYAN)のインクに対応する図示しないインクカートリッジと、各インクカートリッジにおける描画対象(爪の表面)に対向する面(本実施形態では下面)に設けられたインク吐出面411(
図6(a)参照)とが一体に形成されたインクカートリッジ一体型のヘッドである。インク吐出面411には、それぞれの色のインクを噴射する複数のノズルからなるノズルアレイの吐出口(インク吐出口、図示せず)が列状に形成されている。描画ヘッド41は、インクを微滴化し、インク吐出面411(インク吐出面411のインク吐出口)から描画対象の描画対象面(すなわち、爪の表面)に対して直接にインクを吹き付けて描画を行う。なお、描画ヘッド41は、上記3色のインクを吐出させるものに限定されない。その他のインクを貯留するインクカートリッジ及びインク吐出口を備えていてもよい。
【0025】
図3は、描画機構40のX方向移動ステージ45及びヘッドキャリッジ42に支持された描画ヘッド41を取り除いて、基台上面20の構成を示した平面図である。
図2及び
図3に示すように、基台上面20のうちの前側部分であって左右方向のほぼ中央部には、前述のように指固定部3が配置されており、本実施形態では、この指固定部3の窓部33に対応する領域が、描画時において描画ヘッド41が描画動作を行う描画領域21となっている。
また、基台上面20のうちの後部右側は、非描画時において描画ヘッド41が配置される待機領域22となっている。この待機領域22は、描画領域21とは異なる位置に配置される。
待機領域22には、インク吐出面411を覆うキャップ部221が設けられている。
キャップ部221は、非描画時においてインク吐出面411を覆って乾燥等から保護するものであり、例えば柔軟性のある樹脂等で形成されている。
【0026】
また、基台上面20のうちの後部左側は、描画ヘッド41のメンテナンスが行われるメンテナンス領域23となっている。
メンテナンス領域23では、インク吐出面411のインク吐出口からインクを強制的に吐出させ、ノズル内等のインク流路内のエアや不純物、粘度の上がったインク等をインクとともに外部に排出させるパージ処理と、インク吐出面411をワイプするワイプ処理とが行われる。
このメンテナンス領域23には、描画ヘッド41から強制的に吐出されたインクを貯留する廃インクケース7が、その上面を基台上面20から露出させつつ基台2内に着脱可能に埋設されている。
【0027】
図4及び
図5は、廃インクケース7の平面図及び分解斜視図である。また、
図6(a)は、
図4のVI-VI線での廃インクケース7の断面図であり、
図6(b)は、廃インクケース7のうち後述するケース本体71及びインク吸収体73の平面図である。なお、
図4~
図6では、後述するワイプ部材75やスクレープ部76の図示を省略している。
図4及び
図5に示すように、廃インクケース7は、上面が開口したケース本体71と、ケース本体71の上面開口を覆う蓋部材72とを、容器として備えている。
【0028】
ケース本体71は、前後方向に長尺な略矩形状に形成されている。
ケース本体71の前端部は、その底部が、中程の高さまで底上げされるとともに、前方に向かうに連れて高くなるように傾斜したテーパ部711となっている。
ケース本体71の右側壁のうち、その後部の上端部には、当該ケース本体71の内部(後述のインク貯留部71a)と外部とを連通する排気口714が形成されている。排気口714は、インクが廃インクケース7内に吐出されたときに当該廃インクケース7内の空気を外部へ排出するための排気口である。この排気口714は、後述する蓋部材72のインク導入口721の面積と同等(本実施形態では、80~100%)の面積であることが好ましい。
また、排気口714からは、後述するインク吸収体73で吸収しきれなかったインクがミスト状になって放出され、外部の部品を汚してしまうおそれがある。
そこで本実施形態では、廃インクケース7の右側方に、排気口714との間に所定の隙間を介在させつつ当該排気口714を覆うように、衝立板8が立設されている(
図2及び
図3参照)。より詳しくは、衝立板8は、廃インクケース7の直ぐ右側を、その前後方向の全長に亘り、前後方向に沿って立設されている。
なお、排気口714は、衝立板8の有無に関わらず、汚れを嫌う部品が当該排気口714の先に配置されないように、その位置や向きが設定されることが好ましい。例えば本実施系形態では、ケース本体71(廃インクケース7)の左側面にはヘッドキャリッジ42を移動させるための移動機構(Y方向移動ステージ47、Y方向移動モータ)が対向し、後面には同様の移動機構(X方向移動ステージ45、X方向移動モータ)が対向し、上面にはインクカートリッジを動かす図示しない部品が対向している。そのため、汚れを嫌うこれらの機構や部品と対向していないケース本体71の右側璧に排気口714が形成されている。
【0029】
ケース本体71内のうち、前後方向の中央よりやや前側部分であってその右側半部は、その前後と左側に立設された3つの隔壁712によって、当該ケース本体71内の他の空間(後述のインク貯留部71a)と仕切られている。
これら3つの隔壁712とケース本体71の右側壁に囲まれた空間は、平面視で廃インクケース7の前端右側に設けられた後述のインク導入口721と、排気口714との間を遮るように設けられている。この空間内には、H形柱状のワイプ支持部713が立設されている。このワイプ支持部713には、後述するワイプ部材75(
図3参照)が取り付けられている。
なお、隔壁712は、インク導入口721と排気口714との間を完全に隔絶することなく遮るように設けられていれば、その数量や配置等は特に限定されず、例えば1つの隔壁712だけがインク導入口721と排気口714との間に設けられていてもよい。
【0030】
また、ケース本体71内のうち、3つの隔壁712とケース本体71の右側壁に囲まれた空間を除いた、右方に開口する平面視略コ字状の部分が、インクを貯留可能な空間であるインク貯留部71aとなっている。
インク貯留部71aには、インクを吸収するインク吸収体73が収容されている。インク吸収体73は、インクを素早く吸収できるものであればよく、例えば多孔性の材料であるフェルトやスポンジ状の樹脂等が適用される。
このインク吸収体73は、インク貯留部71aの平面視形状に対応した平面視略コ字状に形成されている。より詳しくは、インク吸収体73は、テーパ部711に対応する前端部731と、この前端部731を除く主部732とが一体的に構成された形状に形成されている。
このうち、インク吸収体73の主部732は、平面視で、左側前端部が突出した略L字状に形成され、インク貯留部71aのうちテーパ部711に対応する部分を除く部分に収容されている。この主部732は、上面が排気口714よりもやや低い位置となるような高さに形成されている。但し、主部732の高さは、少なくとも排気口714を閉塞させず、かつ所定のインク吸収量を確保できるものであればよい。
一方、インク吸収体73の前端部731は、ケース本体71のテーパ部711に倣って前上がりに傾斜した平板状に形成されている。この前端部731は、ケース本体71のテーパ部711上に載った状態で、主部732の前端部のうちの上端部に連なっている。
【0031】
蓋部材72は、ケース本体71に対応した平面視形状の略平板状に形成されている。
蓋部材72のうち、前端部の右側部分には、インク吐出面411から吐出されたインクを廃インクケース7内(後述の内部空間7a)に導入するためのインク導入口721が形成されている。インク導入口721は、前後に長尺な形状であってインク吐出面411よりも多少大きなサイズに形成されている。インク導入口721の周囲には、インクの飛散を防ぐための飛散防止壁721aが立設されている。
【0032】
また、蓋部材72のうち、前後方向の中央よりやや前側部分であって左右方向の中央よりやや右側部分には、開口部722が形成されている。この開口部722は、ケース本体71の右側壁と3つの隔壁712とに囲まれた部分に対応している。
開口部722にはケース本体71のワイプ支持部713が挿通されて上方に露出しており、当該ワイプ支持部713の先端(上端)には、
図2及び
図3に示すように、ワイプ部材75の基端部が着脱可能に取り付けられている。
ワイプ部材75は、基端部から立設された複数のワイプ片75aを有しており、本実施形態では、千鳥状に位置をずらして配置された4つのワイプ片75aを有している。ただし、複数のワイプ片75aの配置や大きさ、設ける数量等は特に限定されない。
ワイプ片75aは、インク吐出面411に付着したインク等を拭き取るクリーニングブレードであり、例えばゴム等の弾性体によって形成されている。このワイプ片75aはインクに繰り返し触れても腐食等が発生しにくい耐腐食性の材料で形成されることが好ましい。
このワイプ片75aは、描画ヘッド41の移動方向と直交する方向(本実施形態では左右方向)に扁平な板状部材であり、描画ヘッド41が複数のワイプ片75aの上方を通る際に、その先端(上端)がインク吐出面411と接触する位置及び高さに設けられている。そして、ワイプ片75aは、描画ヘッド41との接触程度に応じて柔軟に撓み、先端部分をインク吐出面411に摺接させることによって、インク吐出面411に付着したインク等を除去できるようになっている。
【0033】
また、
図2及び
図3に示すように、蓋部材72の上面には、インク吐出面411のワイプに伴ってワイプ片75aに付着したインクを除去するスクレープ部76が着脱可能に設けられている。
スクレープ部76は、蓋部材72の上面に設けられた2条のガイドレール723に沿って、インク導入口721よりも後方で前後方向に移動可能に設けられている。スクレープ部76の前端には、ワイプ片75aに摺接してその先端部等に付着したインクを掻き落とすスクレープ部材761が設けられている。
また、スクレープ部76の上面には、前端に山折の屈曲部を有する薄い板状の連結ばね762が設けられている。この連結ばね762前端の屈曲部がヘッドキャリッジ42の下面に設けられた図示しない凹部に嵌まり込むことで、スクレープ部76がヘッドキャリッジ42と係脱可能に連結されるようになっている。
つまり、ヘッドキャリッジ42をY方向に沿ってスクレープ部76の上方に移動させることにより、連結ばね762の屈曲部がヘッドキャリッジ42の凹部に嵌まって、スクレープ部76とヘッドキャリッジ42とが連結する。この連結状態でヘッドキャリッジ42を移動させることで、ワイプ片75aをスクレープできる位置までスクレープ部76を移動させることができる。
スクレープ部76を後方からワイプ片75a上を通過させると、スクレープ部76がインク導入口721の周囲の飛散防止壁721aに突き当たり、連結ばね762の屈曲部がヘッドキャリッジ42の凹部から脱落する。これにより、スクレープ部76とヘッドキャリッジ42との連結が解除される。スクレープ部76は図示しない付勢ばねにより後方に付勢されており、ヘッドキャリッジ42との連結が解除されると、この付勢ばねの付勢力によって初期位置(本実施形態では、蓋部材72上面の後端位置)に復帰する。
【0034】
図6(a),(b)に示すように、ケース本体71の上面開口が蓋部材72に閉塞されることにより、ケース本体71のインク貯留部71aの上方が蓋部材72に閉塞されてなる廃インクケース7の内部空間7aが構成される。
廃インクケース7の内部空間7aは、廃インクケース7においてインクを貯留可能な空間であり、インク導入口721と排気口714のみが外部と連通している。
【0035】
廃インクケース7の内部空間7aでは、インク吸収体73が下側に収容されており、このインク吸収体73の上側の空間が通気路7bとなっている。
通気路7bは、描画ヘッド41からインクとともに吹き込まれる流入空気の通り路である。具体的に、本実施形態の通気路7bは、図中に矢印で示すように、平面視で、廃インクケース7の前端右側のインク導入口721から、3つの隔壁712によって内部空間7a(通気路7b)と隔絶された空間を左側に迂回して、右側璧後端の排気口714に至る経路となっている。
【0036】
このような内部空間7aに、描画ヘッド41のインク吐出面411からインクが吐出されると、このインクは、インク導入口721からインク吸収体73の前端部731の傾斜に倣って後方へ伝いつつ、通気路7bに沿った流入空気の流れによって左側へ伝っていきながら、インク吸収体73に吸収されていく。また、流入空気に含まれるインクは、この空気とともに通気路7bに沿って流されながら、当該通気路7bの下側のインク吸収体73に吸収されていく。
このように、内部空間7aでは、通気路7bの全長に亘り、当該通気路7bに沿ってインク吸収体73が設けられている。そのため、ケース内部の特定箇所のみにインク吸収体が配置されている場合に比べ、描画ヘッド41から吐出されたインクを含む空気が長い距離に亘ってインク吸収体73と触れることになり、当該インク吸収体73に好適にインクが吸収される。
また、通気路7bを流れる空気に含まれるインクは、空気より重いため、通気路7bの下側のインク吸収体73に好適に吸収される。
【0037】
ここで、通気路7bのうち、通気方向と略直交する断面積が最小の部分(本実施形態では、平面視でケース本体71の左側壁と隔壁712の間の部分)は、インク導入口721の面積と同等(本実施形態では、80~100%)の断面積となるように形成されている。また、上述したように、排気口714の面積もインク導入口721の面積と同等に形成されている。そのため、排気口714を含む通気路7bの全長に亘り、特に圧力損失の大きくなる箇所がなく、当該通気路7bに好適に空気を流すことができる。
さらに、通気路7bの断面積は、流入空気量に対して小さすぎることのない所定以上の大きさに形成されていることが好ましい。これにより、流入空気を好適に減速させることができる。
さらに、通気路7bは、90°を超える急峻な角度の曲り角を有しない滑らかな流路に形成されていることが好ましい。例えば本実施形態では、通気路7bの左前端の角部が、平面視で面取り状に形成されて段階的に屈曲している。これにより、通気路7b内の空気を、滞留させることなく好適に流すことができる。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、廃インクケース7の内部に収容されたインク吸収体73が、インクを内部に導入するインク導入口721から、内部の空気を排出する排気口714までの通気路7bに沿って設けられている。
これにより、容器内の特定箇所のみにインク吸収体が配置されている場合に比べ、描画ヘッド41から吐出されたインクを含む空気が長い距離に亘ってインク吸収体73と触れることになるため、当該インク吸収体73に好適にインクを吸収させることができる。
【0039】
また、廃インクケース7の内部は、隔壁712で囲まれた空間によって、インク導入口721と排気口714との間が遮られており、通気路7bは、インク導入口721から隔壁712で囲まれた空間を迂回して排気口714に至る経路となっている。
これにより、このような隔壁712を設けない場合に比べて、通気路7bの経路長を確保することができ、ひいては、インク吐出時の流入空気を十分に減速させるとともに、インク吸収体73に好適にインクを吸収させることができる。
【0040】
また、隔壁712は通気路7bと隔絶された空間を画成しており、この空間には、描画ヘッド41のインク吐出面411を拭くワイプ部材75(ワイプ片75a)を着脱可能に支持するワイプ支持部713が設けられている。
つまり、定期的なメンテナンスの必要なワイプ部材75と廃インクケース7とが一体的に構成されているので、これらのメンテナンスを同時に行うことができ、メンテナンス性を向上させることができる。
さらに、ワイプ部材75に付着したインクを除去するスクレープ部76が蓋部材72に着脱可能に設けられているので、スクレープ部76のメンテナンスも廃インクケース7と同時に行うことができ、より一層メンテナンス性を向上させることができる。
【0041】
また、通気路7bのうち通気方向と略直交する断面積が最小の部分の断面積と、排気口714の面積とは、インク導入口721の面積と同等に形成されている。
そのため、排気口714を含む通気路7bの全長に亘り、特に圧力損失の大きくなる箇所がなく、当該通気路7bに好適に空気を流すことができる。
【0042】
また、通気路7bが90°を超える角度の曲り角を有しないように形成されることにより、通気路7b内の空気を滞留させることなく好適に流すことができる。
【0043】
また、インクを貯留可能な廃インクケース7の内部空間7aには、下側にインク吸収体73が収容され、当該インク吸収体73の上側に通気路7bが形成されている。
これにより、空気よりも重いインクを、通気路7bの下側のインク吸収体73に好適に吸収させることができる。
【0044】
また、排気口714との間に隙間を介在させつつ当該排気口714を覆うように衝立板8が立設されているので、排気口714からインクのミストが放出された場合でも、その飛散を防止することができる。
【0045】
また、廃インクケース7のうち排気口714が形成されていない面(本実施形態では、左側面及び後面)と対向する位置に、描画ヘッド41を移動させる移動機構が設けられている。
これにより、排気口714から放出されるインクのミストによるこれらの移動機構の汚れを防止し、ひいては当該移動機構の不具合の発生を抑制することができる。
【0046】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0047】
例えば、本実施形態では、インク吸収体73が廃インクケース7の内部空間7aのうちの下側に配置されている場合を例示したが、インク吸収体73は通気路7bに沿って設けられていればよい。
【0048】
また、本実施形態では、通気路7bが、廃インクケース7前端右側のインク導入口721から右側璧後端の排気口714に至る経路である場合を例示したが、当該通気路7bの経路や経路長等は特に限定されず、例えば、鉛直面や傾斜面内で延在する経路であってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、廃インクケース7にワイプ部材75やスクレープ部76が設けられている場合を例示したが、廃インクケース7にはワイプ部材75やスクレープ部76が設けられていなくともよいし、他のメンテナンス部が設けられていてもよい。
他のメンテナンス部としては、例えば、フェルト等の高吸収性の材料で形成された吸収部材をインク吐出面411に押し当てて、インク吐出面411に付着したインク等を吸収・吸着させて除去するものなどが挙げられる。
【0050】
以上本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
〔付記〕
<請求項1>
インクを吸収するインク吸収体を容器内に収容し、描画ヘッドから吐出されるインクを内部に貯留する廃インクケースであって、
前記容器には、前記描画ヘッドからのインクを内部に導入するためのインク導入口と、内部の空気を排出するための排気口とが設けられ、
前記インク吸収体が、前記インク導入口から前記排気口までの通気路に沿って設けられている廃インクケース。
<請求項2>
前記容器内には、前記インク導入口と前記排気口との間を遮る隔壁が設けられ、
前記通気路は、前記インク導入口から前記隔壁を迂回して前記排気口に至る経路である請求項1に記載の廃インクケース。
<請求項3>
前記隔壁は、前記通気路と隔絶された空間を画成しており、
当該空間には、前記描画ヘッドのインク吐出面を拭くワイプ部材を着脱可能に支持するワイプ支持部が設けられている請求項2に記載の廃インクケース。
<請求項4>
前記容器に、前記ワイプ部材に付着したインクを除去するスクレープ部が着脱可能に設けられている請求項3に記載の廃インクケース。
<請求項5>
前記通気路のうち通気方向と略直交する断面積が最小の部分の断面積と、前記排気口の面積とは、前記インク導入口の面積と同等に形成されている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の廃インクケース。
<請求項6>
前記通気路が、90°を超える角度の曲り角を有しない請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の廃インクケース。
<請求項7>
前記容器内のうち、インクを貯留可能な空間には、下側にインク吸収体が収容され、当該インク吸収体の上側に前記通気路が形成されている請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の廃インクケース。
<請求項8>
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の廃インクケースと、
前記排気口との間に隙間を介在させつつ当該排気口を覆うように立設された衝立板と、
を備える描画装置。
<請求項9>
前記描画ヘッドと、
前記描画ヘッドを移動させる移動機構と、
を備え、
前記移動機構が、前記廃インクケースのうち前記排気口が形成されていない面と対向する位置に設けられている請求項8に記載の描画装置。
【符号の説明】
【0051】
1 ネイルプリント装置
41 描画ヘッド
411 インク吐出面
42 ヘッドキャリッジ
45 X方向移動ステージ
47 Y方向移動ステージ
7 廃インクケース
7a 内部空間
7b 通気路
71 ケース本体
71a インク貯留部
711 テーパ部
712 隔壁
713 ワイプ支持部
714 排気口
72 蓋部材
721 インク導入口
722 開口部
73 インク吸収体
75 ワイプ部材
76 スクレープ部
8 衝立板