(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230411BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230411BHJP
C08K 5/25 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/00
C08K5/25
(21)【出願番号】P 2022563874
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2022021740
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021167596
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】河端 崇
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008735(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008736(WO,A1)
【文献】特開2017-105983(JP,A)
【文献】特開2019-178216(JP,A)
【文献】特開2010-111714(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0176538(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0225009(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む樹脂組成物であって、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比が(A):(B)=1:0.01~1.0であり、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合が(A):(C)=1~60:99~40(質量%)であり、ジヒドラジド化合物(B)が、融点150℃~250℃の範囲である
ジヒドラジド化合物であり、熱可塑性樹脂(C)が、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンより選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
セルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む樹脂組成物であって、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比が(A):(B)=1:0.01~1.0であり、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合が(A):(C)=1~60:99~40(質量%)であり、ジヒドラジド化合物(B)が、融点150℃~250℃の範囲である
ジヒドラジド化合物であり、熱可塑性樹脂(C)が、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンより選ばれる少なくとも一種であり、ジヒドラジド化合物(B)と熱可塑剤樹脂(C)との存在下でセルロース繊維(A)を溶融混練することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維複合樹脂成形体の強度、色目、及び繊維分散性を向上させることのできる樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体の強度を向上させる目的で、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維など、繊維状添加物が利用されている。中でもセルロース繊維は、密度が小さい、弾性率が高い、線熱膨張係数が小さいなどの特徴を有する。また、セルロース繊維は「カーボンニュートラル」であり持続可能な資源であることから、環境負荷の低減に資する素材になると期待されている。しかしながら、セルロース繊維は親水性、樹脂は疎水性であり、セルロース繊維と樹脂との接着性が悪いためかセルロース繊維の強度が成形体に充分反映させられていない。また、セルロース繊維を樹脂中に高度に分散させることが困難であるため、成形体への充分な補強効果が得られていない場合があった。
【0003】
また、セルロースは熱分解開始温度が200~250℃であり上述の繊維状添加物の中では非常に熱劣化し易い。例えばセルロースを樹脂と複合化する際の熱により、セルロースが一部分解しフルフラール類が生じるため、成形体が黄色~濃褐色に着色することがある。このためセルロース繊維複合樹脂成形体は明るい色調の調色が難しいなど意匠性に課題を抱えている。
【0004】
セルロース繊維複合樹脂においてセルロース繊維の添加効果即ち強度を充分に発揮させる手段として、種々のアミド化合物を含む樹脂組成物や樹脂組成物の製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含み、前記解繊助剤が、尿素、ビウレット、ビウレア、ヒドラジド、糖、糖アルコール、有機酸、及び有機酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である樹脂組成物についての発明が開示されている。実施例では、解繊助剤として尿素やビウレットを用いた場合に、組成物中のセルロースが良好に分散し、成形体の強度を向上させることが示されているが、樹脂組成物の混練工程で熱により発生する尿素やビウレットの分解物(アンモニア、イソシアン酸)は、セルロースの劣化を助長するうえ、成形体の着色を招くため、得られる成形体の強度や意匠性の面において満足のいくものではなかった。
【0006】
更に、特許文献3には、ナノセルロース繊維、少なくとも1つの炭化水素基を有するアミド化合物、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、セルロース繊維とアミド化合物を熱可塑性樹脂と混練し、熱可塑性樹脂中でセルロース繊維をナノセルロース繊維へ解繊することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が、安価で効率的に熱可塑性樹脂の強度を飛躍的に向上させることが示されているが、熱可塑性樹脂、特にポリオレフィンに利用するにあたり、セルロース繊維の分散効果が充分ではなく、成形品の機械的強度においてセルロース繊維による補強効果も満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/094812号公報
【文献】特開2017-105983号公報
【文献】国際公開第2019/221029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに対して本発明は、セルロース繊維を含む樹脂組成物を用いた成形体の強度、色目、及び繊維分散性を飛躍的に向上させることのできる樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジヒドラジド化合物存在下でセルロース繊維と熱可塑性樹脂を溶融混練することで、高弾性率なセルロース複合樹脂を得ることを見出した。
【0010】
すなわち、上記の課題を解決しようとする本発明の手段は、
<1>セルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む樹脂組成物であって、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比が(A):(B)=1:0.01~1.0であり、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合が(A):(C)=1~60:99~40(質量%)であり、ジヒドラジド化合物(B)が、融点150℃~250℃の範囲であるヒドラジド化合物であることを特徴とする樹脂組成物、
<2>熱可塑性樹脂(C)が、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンより選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする前記<1>に記載の樹脂組成物、
<3>セルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む樹脂組成物であって、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比が(A):(B)=1:0.01~1.0であり、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合が(A):(C)=1~60:99~40(質量%)であり、ジヒドラジド化合物(B)が、融点150℃~250℃の範囲であるヒドラジド化合物であり、ジヒドラジド化合物(B)と熱可塑剤樹脂(C)との存在下でセルロース繊維(A)を溶融混練することを特徴とする樹脂組成物の製造方法、
<4>熱可塑性樹脂(C)が、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンより選ばれる少なくとも一種であること特徴とする前記<3>に記載の樹脂組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物の製造方法によれば、ないしは本発明の樹脂組成物を用いることで、得られる樹脂組成物の成形体の強度、色目、及び繊維分散性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の記載は本発明の実施形態の一例であり、本記載に限定されるものではない。
【0013】
<樹脂組成物の原料>
本発明の樹脂組成物は、少なくともセルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、及び熱可塑性樹脂(C)とを原料とする。
【0014】
セルロース繊維(A)は、植物(例えば、木材、竹、麻、コットン、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは、植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは、植物由来のセルロース繊維である。植物由来のセルロース繊維の中でも、パルプ(特に針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が特に好ましい。
【0015】
また、原料セルロース繊維はセルロースの官能基を置換修飾したような変性セルロースでもよい。例えば、セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水ヘキサン酸、無水デカン酸、無水安息香酸、無水ステアリン酸などの酸無水物や無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、アルキル若しくはアルケニルコハク酸無水物、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリブタジエンなどの多塩基酸無水物等でエステル化した変性セルロース繊維でもよい。更に、(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を含むアクリル樹脂および/またはスチレンアクリル樹脂を用いて、セルロース表面に吸着変性させた変性セルロース繊維を用いても良い。セルロース繊維原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0016】
ジヒドラジド化合物(B)とは、分子中に2個のヒドラジド基を有する化合物であり、本発明においては、融点は150℃以上あり、混練時の均一な分散の観点から250℃以下の範囲である必要がある。融点(以下、「mp」と記載することがある)が150~250℃のジヒドラジド化合物(B)としては、アゼライン酸ジヒドラジド(mp:182~187℃)、イソフタル酸ジヒドラジド(mp:227℃)、オキサリルジヒドラジド(mp:242~244℃)、アジピン酸ジヒドラジド(mp:179~184℃)、セバシン酸ジヒドラジド(mp:186℃)、ドデカン二酸ジヒドラジド(mp:186~191℃)、イソフタル酸ジヒドラジド(mp:227℃)、コハク酸ジヒドラジド(mp:168℃)、及びサリチル酸ジヒドラジド(mp:150℃)などが挙げられる。好ましくは融点が170℃~240℃、さらには180℃~230℃の範囲にあるジヒドラジド化合物(B)である。
【0017】
ジヒドラジド化合物はセルロースの表面に吸着することで疎水性を付与する。ヒドラジド基を2つ有することで、1つしか有しないモノヒドラジド化合物よりもセルロースの親水基とより相互作用し、ヒドラジド基の間に位置する疎水性基が、セルロースに疎水性を付与すると考えられる。この疎水性により、後述する熱可塑性樹脂との複合化過程において、セルロース繊維が均一に分散することが可能となり、成形体の力学特性を低下させる未分散繊維由来の異物を著しく減少させる。疎水性付与の観点から、ジヒドラジド化合物の炭素数は6~12であることが好ましく、アジピン酸ジヒドラジド、及びセバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドが好適である。
【0018】
また、セルロース表面に吸着したジヒドラジド化合物は、セルロースの熱劣化を抑制することができる。例えばセルロースの熱分解開始温度付近である200~250℃において熱可塑性樹脂と複合化する場合、セルロースの分解によるフルフラール類の生成により茶色く焦げた色調の樹脂組成物となるが、ジヒドラジド化合物を併用することで明るい色目を持つ樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
熱可塑性樹脂(C)は、成形体に通常用いられているものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合物などのポリオレフィン、及びそれらのポリオレフィンと無水マレイン酸を反応させた変性ポリオレフィン;ポリアセタール、6ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド;ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂;ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリスチレン;ABS樹脂;石油樹脂、クマロン樹脂;テルペン樹脂;ロジン樹脂;オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリプロピレンカーボネート、ポリカーボネートジオールなどのポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、メチルペンテン樹脂などが上げられる。前記、変性ポリオレフィンとしては、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
【0020】
前記熱可塑性樹脂(C)のうち好ましいものとして、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンが挙げられる。更に好ましくは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンが挙げられる。とりわけ、ポリオレフィン単独で、あるいはポリオレフィンと変性ポリオレフィンを組み合わせて用いることが好ましい。ポリオレフィンと変性ポリオレフィンを組み合わせて用いる場合の割合は、ポリオレフィン:変性ポリオレフィン=99~50:1~50であることが好ましく、95~80:5~20であることがより好ましく、95~90:5~10であることが特に好ましい。これらの好ましい熱可塑性樹脂(C)のうち、融点または軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂(C)であると、セルロース繊維への熱による影響が少ないため更に好ましい。
【0021】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法は、ジヒドラジド化合物(B)と熱可塑剤樹脂(C)との存在下でセルロース繊維(A)を溶融混練する工程を有する。溶融状態にある熱可塑剤樹脂(C)中にジヒドラジド化合物(B)が均一に分散した状態でセルロース繊維(A)が解砕され微細化することで、本発明の効果が良好に発揮される。
【0022】
このときセルロース繊維(A)は絶乾状態で添加してもよいが、溶融混練時に良好な分散性を得る観点から、セルロース繊維(A)に水や有機溶剤等を混合しても構わない。混合溶媒に特に制限はなく、従来公知な化合物を使用することができる。また、溶融混練時、セルロース繊維(A)以外にフィラーや架橋剤等を混合していてもよい。
【0023】
混練機は加圧ニーダー、バンバリーミキサー等のバッチ式、1軸、または多軸混練機などの連続式いずれでもよいが、水分を除去できる設備やベント孔等を有しているものが好ましい。
【0024】
混練時の温度は、樹脂組成物中の水分を除去できる温度で、かつセルロース繊維が熱により劣化しない温度が好ましい。具体的には100~250℃の範囲で混練することが好ましい。得られる樹脂組成物中の水は、混練中に1%以下まで除去することが好ましい。水が最終組成物中に残っていると経時的に着色するなど、品質の劣化を引き起こしやすくなる。
【0025】
また、一般的に尿素やビウレットなどのような窒素化合物と比較して、ジヒドラジド化合物は酸やアルカリが混入しない限り耐熱性を示すあることが知られており、ジヒドラジド化合物はセルロース-ジヒドラジド化合物-熱可塑性樹脂との混練において熱分解し、セルロースの劣化を助長するアンモニアやイソシアン酸のような分解物が発生することは少ない。
【0026】
本発明の樹脂組成物の製造方法においては、本発明の効果を妨げない範囲でセルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)と熱可塑性樹脂(C)とを混練する際に、予めセルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)が混合されたセルロース繊維組成物を得たうえで熱可塑性樹脂(C)と溶融混練しても構わない。
【0027】
もちろん、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサーのような高速分散装置を用いて、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)と熱可塑性樹脂(C)とを動的に攪拌混合することで、緩く一体化した顆粒を得た後に溶融混練することで樹脂組成物を得ても良い。
【0028】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比は、(A):(B)=1:0.01~1.0である必要がある。
【0029】
本発明の効果を得るためには、セルロース繊維(A)1質量部に対し、ジヒドラジド化合物(B)0.01質量部以上である必要がある。また、余剰なジヒドラジド化合物(B)は遊離して樹脂組成物中に相溶せずに不均一な樹脂組成物を形成し、その結果、破断の起点となり得るので、セルロース繊維(A)1質量部に対し、ジヒドラジド化合物(B)は1.0質量部以下である必要がある。セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比は、(A):(B)=1:0.03~0.5が好ましく、(A):(B)=1:0.03~0.3がより好ましい。
【0030】
また、本発明の樹脂組成物は、セルロース樹脂組成物を成形体とした際のセルロース繊維(A)による補強効果を十分に発揮するためにも、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合は、(A):(C)=1~60:99~40(質量%)である必要がある。セルロース繊維(A)の割合が1質量(%)以上であれば、樹脂単独の成形体が有する強度よりも優れた強度が付与されるため、補強効果を発揮し得るが、良好な溶融混練状態を得る観点においてセルロース繊維(A)の質量比が60質量%を超えると、混練不十分となり分散不良に伴う補強効果の低減や、溶融混練時のハンドリングの問題が懸念される。
セルロース繊維(A)の割合が増えるほど、上記範囲内では補強効果が高まるが、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合は、所望される強度や分散性、その他物性とのバランスを考慮して、上記範囲内で適宜選択される。
【0031】
セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との好ましい割合は熱可塑性樹脂の種類によって異なり、ポリエステル系エラストマーおよびポリアミド系エラストマーの場合は(A):(C)=1~20:99~80(質量%)が好ましく、(A):(C)=2~10:98~90(質量%)が更に好ましい。また、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンの場合は(A):(C)=15~40:85~60(質量%)が好ましく、(A):(C)=17~30:83~70(質量%)が更に好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、熱可塑性樹脂(C)以外の樹脂;無機、有機、金属などの繊維状、粉粒状、板状の充填剤;結晶化核剤;架橋剤;加水分解防止剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;界面活性剤;滑剤;ワックス類;着色剤;安定剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
【0033】
<成形体>
本発明の樹脂組成物は、従来公知の成形方法(例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形などの方法)で、種々の成形品を成形することができる。特に、射出成形に好適である。また本発明の樹脂組成物を用いた成形体の用途としては特に限られることはないが、例えば、自動車、バイク、自転車、鉄道、ドローン、ロケット、航空機、船舶等の輸送機械用の内外装材や筐体等、風力発電機、水力発電機等のエネルギー機械、エアコン、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、AV機器、ディジタルカメラ、パソコン等の家電筐体、電子基板、携帯電話、スマートホン等の通信機器筐体、松葉づえ、車いす等の医療用器具、スニーカーやビジネスシューズ等の靴、タイヤ、球技スポーツ用のボール、スキーブーツ、スノーボード板、ゴルフクラブ、プロテクタ、釣り糸、疑似餌等のスポーツ用品、テントやハンモックなどのアウトドア用品、電線被覆材、水道管、ガス管等の土木建築資材、柱材、床材、化粧板、窓枠、断熱材等の建築材、本棚、机、椅子等の家具、産業用ロボット、家庭用ロボット、ホットメルト接着剤、積層式3Dプリンタ用フィラメントやサポート剤、塗料、インク、トナー等の記録材料用バインダー樹脂、フィルムやテープなどの包装材、ペットボトル等の樹脂容器、メガネフレーム、ごみ箱、シャープペンシルケース等の生活雑貨等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[セルロース繊維(A)]
本実施例に使用の原料のセルロース繊維(A)は、一般に購入可能な針葉樹漂白クラフトパルプ(A-1;以下、単に「セルロース繊維(A-1)」と称する)、または一般に購入可能なコットンリンターパルプ(A-2)を用いた。
【0036】
[ポリオレフィン樹脂組成物の製造](実施例1~12、参考例、比較例1~7)
(実施例1)
セルロース繊維(A)としてセルロース繊維(A-1)20質量部と、ジヒドラジド化合物(B)としてアジピン酸ジヒドラジド1質量部と、熱可塑性樹脂(C)としてポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロ(登録商標)J108M」、以下、単に「ポリプロピレン樹脂」と略することがある。)73質量部と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東洋紡株式会社製「トーヨータック(登録商標)PMA H1000P」)6質量部を二軸押出機(軸径15mm、L/D=45、株式会社テクノベル製)にて減圧しながらスクリュ回転数300rpm、バレル温度180℃で混練し、樹脂組成物を得た。
【0037】
(実施例2~12、参考例)
セルロース繊維(A)の種類及び仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の種類及び仕込み量、熱可塑性樹脂(C)の仕込み量を表1のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。
【0038】
(比較例1)
セルロース繊維(A)としてセルロース繊維(A-1)20質量部と、熱可塑性樹脂(C)としてポリプロピレン樹脂74質量部と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」)6質量部を二軸押出機(軸径15mm、L/D=45、株式会社テクノベル製)にて減圧しながらスクリュ回転数300rpm、バレル温度220℃で混練し、樹脂組成物を得た。
【0039】
(比較例2)
ジヒドラジド化合物(B)の種類をステアリルヒドラジドに変更した以外は、実施例6と同様にして樹脂組成物を得た。
【0040】
(比較例3)
ジヒドラジド化合物(B)の種類をフタル酸ジヒドラジドに変更した以外は、実施例6と同様にして樹脂組成物を得ようとしたが、混練時に均一に溶融混合することが困難となり、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。
【0041】
(比較例4)
ジヒドラジド化合物(B)としてアジピン酸ジヒドラジド35質量部、ポリプロピレン樹脂39質量部に変更した以外は実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得ようとしたが、アジピン酸ジヒドラジドを均一に溶融混合することが困難となり、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。
(比較例5)
セルロース繊維(A)としてセルロース繊維(A-1)65質量部、ジヒドラジド化合物(B)としてアジピン酸ジヒドラジド30質量部、熱可塑性樹脂(C)としてポリプロピレン樹脂5質量部に変更した以外は実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得ようとしたが、セルロース繊維の均一な分散が困難となり、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。
【0042】
(比較例6)
ジヒドラジド化合物(B)のかわりに窒素含有化合物としてステアリルアミドを用いた以外は、実施例6と同様にして樹脂組成物を得た。
【0043】
(比較例7)
ジヒドラジド化合物(B)のかわりに窒素含有化合物として尿素を用いた以外は、実施例6と同様にして樹脂組成物を得た。
【0044】
実用面から、実施例1~12及び比較例1~7における樹脂組成物の曲げ物性[指数]は、140以上を目標値とし、分散性も同様に20個未満を目標値とし、明度も同様に50以上を目標値とした。
【0045】
【0046】
表1中の略号の説明
PP:株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロRJ108M」(mp:170~175℃)
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
AdDH:アジピン酸ジヒドラジド
SaDH:コハク酸ジヒドラジド
SbDH:セバシン酸ジヒドラジド
DdDH:ドデカン二酸ジヒドラジド
ScDH:サリチル酸ヒドラジド
IpDH:イソフタル酸ジヒドラジド
StH:ステアリルヒドラジド
PhDH:フタル酸ジヒドラジド
StAm:ステアリルアミド
【0047】
実施例及び比較例における樹脂組成物の評価は以下のように行った。
(射出成形、曲げ物性の測定)
得られた樹脂組成物を、射出成形機を用いてJIS規格 K7171に記載のバー型試験片を成形し、JIS K7171に準拠して、オリエンテック株式会社製万能試験機「テンシロン(登録商標)RTM-50」で曲げ弾性率を測定し、樹脂単独に対する曲げ弾性率の向上率を指数として比較した。
曲げ物性[指数]=(実施例、及び比較例の曲げ弾性率)/(樹脂単独の曲げ弾性率)×100
【0048】
(分散性の評価方法)
得られた樹脂組成物を、熱プレス成形機を用いてフィルム(厚さ0.2mm)にし、直径約8cmの円の中に存在する大きさが1mm以上の凝集物の数を計測して評価した。凝集物の数が少ないほど、分散性が良好であることを示している。
【0049】
(明度の評価方法)
得られた樹脂組成物を、射出成形機を用いてJIS規格 K7171に記載のバー型試験片を成形し、コニカミノルタ株式会社製分光測色計CM-600dを用いて明度(L*)を測定した明度の数値が大きいほど、セルロースの熱劣化が抑制されていることを示している。
【0050】
樹脂組成物中のセルロース繊維(A)の割合を20質量%とした実施例1~10,実施例12と比較例1~4,比較例6~7との対比から、本発明で規定する条件を全て満足することで、同条件のいずれかひとつでも満足しない比較例においては達成しない、得られる成形体の曲げ物性[指数]、分散性、明度の全ての項目において、所望するレベルを本発明は達成することが分かる。また、実施例11と比較例5との対比から、セルロース繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)との割合を本発明で規定する範囲内とすることで、溶融混練時のハンドリングの問題を防ぎつつ、分散性、明度において所望するレベルを達成することが分かる。
【0051】
[セルロース繊維(A)3質量%含有ポリオレフィン樹脂組成物の製造及びその評価](実施例13、比較例8)
セルロース繊維(A)の仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の仕込み量、熱可塑性樹脂(C)の仕込み量を表2のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。評価結果を表2示す。セルロース繊維(A)を3質量%しか含有しない樹脂組成物では、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂に曲げ物性[指数]、分散性、明度の全ての評価が依存が大きいため基準は設けなかったが、表2の実施例13と比較例8との対比から、ジヒドラジド化合物を添加することにより成形体の曲げ物性[指数]、分散性、明度の全ての評価が向上したことが分かる。
【0052】
【0053】
表2中の略号の説明
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
PP:株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロRJ108M」(mp:170~175℃)
AdDH:アジピン酸ジヒドラジド
【0054】
[セルロース繊維(A)3質量%含有ポリエステル系エラストマー樹脂組成物の製造及びその評価](実施例14、比較例9)
セルロース繊維(A)の仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の種類及び仕込み量、熱可塑性樹脂(C)をポリエステル系エラストマー(東レ・デュポン株式会社製ポリエステルエラストマー ハイトレルR3046)に変更し仕込み量を表3のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。評価結果を表3に示す。実用面から、実施例14及び比較例9における樹脂組成物の曲げ物性[指数]は120以上、分散性の基準である凝集物数は3個未満、熱劣化抑制の基準である成形物の明度は75以上をそれぞれ目標値とした。
【0055】
【0056】
表3中の略号の説明
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
TPEE:東レ・デュポン株式会社製ポリエステルエラストマー「ハイトレルR3046」(mp:160℃)
DdDH:ドデカン二酸ジヒドラジド
【0057】
[セルロース繊維(A)3質量%含有ポリアミド系エラストマー樹脂組成物の製造及びその評価](実施例15,比較例10)
セルロース繊維(A)の仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の種類及び仕込み量、熱可塑性樹脂(C)をポリアミド系エラストマー(アルケマ社製ポリアミドエラストマー ぺバックスR4033 SP01)に変更し仕込み量を表4のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。評価結果を表4に示す。実用面から、実施例15及び比較例10における樹脂組成物の曲げ物性[指数]は150以上、分散性の基準である凝集物数は2個未満、熱劣化抑制の基準である成形物の明度は72以上をそれぞれ目標値とした。
【0058】
【0059】
表4中の略号の説明
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
TPA:アルケマ社製ポリアミドエラストマー「ぺバックスR4033 SP01」(mp:160℃)
DdDH:ドデカン二酸ジヒドラジド
【0060】
[セルロース繊維(A)20質量%含有ポリ乳酸樹脂組成物の製造及びその評価](実施例16,比較例11)
セルロース繊維(A)の仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の種類及び仕込み量、熱可塑性樹脂(C)をポリ乳酸樹脂(ネイチャーワークス社製ポリ乳酸 INGEOTM 4032D)に変更し仕込み量を表5のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。評価結果を表5に示す。実用面から、実施例16及び比較例11における樹脂組成物の曲げ物性[指数]は150以上、分散性の基準である凝集物数は3個未満、熱劣化抑制の基準である成形物の明度は65以上をそれぞれ目標値とした。
【0061】
【0062】
表5中の略号の説明
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
PLA:ネイチャーワークス社製ポリ乳酸「INGEOTM 4032D」(mp:155~170℃)
SbDH:セバシン酸ジヒドラジド
【0063】
[セルロース繊維(A)20質量%含有ポリアセタール樹脂組成物の製造及びその評価](実施例17,比較例12)
セルロース繊維(A)の仕込み量、ジヒドラジド化合物(B)の種類及び仕込み量、熱可塑性樹脂(C)をポリアセタール樹脂(旭化成株式会社製ポリアセタール テナックTMC7520)に変更し仕込み量を表6のように変えた以外は、実施例1に記載の方法に準じて樹脂組成物を得た。評価結果を表6に示す。実用面から、実施例17及び比較例12における樹脂組成物の曲げ物性[指数]は160以上、分散性の基準である凝集物数は4個未満、熱劣化抑制の基準である成形物の明度は57以上をそれぞれ目標値とした。
【0064】
【0065】
表6中の略号の説明
MAPP:東洋紡株式会社製「ハードレンRPMA H1000P」(mp:160~170℃)
POM:旭化成株式会社製ポリアセタール「テナックTMC7520」(mp:160℃)
DdDH:ドデカン二酸ジヒドラジド
【0066】
実施例14~17と比較例9~12との対比から、本発明で規定する条件を全て満足することで、同条件のいずれかひとつでも満足しない比較例においては達成しない、得られる成形体の曲げ物性[指数]、分散性、明度の全ての項目において、所望するレベルを本発明は達成することが分かる。
【要約】
<課題>
本発明は、セルロース繊維を含む樹脂組成物を用いた成形体の強度、色目、及び繊維分散性を飛躍的に向上させることのできる樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
<解決手段>
セルロース繊維(A)と、ジヒドラジド化合物(B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む樹脂組成物であって、セルロース繊維(A)とジヒドラジド化合物(B)との質量比が(A):(B)=1:0.01~1.0であり、セルロース繊維(A)と熱可塑樹脂(C)との割合が(A):(C)=1~60:99~40(質量%)であり、ジヒドラジド化合物(B)が、融点150℃~250℃の範囲であるヒドラジド化合物であることを特徴とする樹脂組成物。