(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】眼障害を治療するためのシャントシステム、シャントおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
A61F9/007 160
(21)【出願番号】P 2019520743
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(86)【国際出願番号】 IB2017056817
(87)【国際公開番号】W WO2018083620
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-28
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(73)【特許権者】
【識別番号】519135219
【氏名又は名称】リキッド メディカル プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIQID MEDICAL PROPRIETARY LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ムクラナン, デイモン ブルース
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09168172(US,B1)
【文献】特表2010-509003(JP,A)
【文献】特表2012-527318(JP,A)
【文献】特表2009-523540(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0243730(US,A1)
【文献】特表2006-517848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼の眼内圧を調整することにより、眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼障害を治療するためのシャントであって、前記シャントが、患者の眼球前房に埋め込み可能な近位端を画定する近位シャント部分と、前記患者の視神経を取り囲む前記患者のくも膜下腔に埋め込み可能な遠位端を画定する遠位シャント部分とを備え、前記シャントが、前記遠位端と前記近位端との間で長手方向に延びるルーメンを画定しており、前記シャントが、前記くも膜下腔内への埋め込み後の前記シャントの外れを防止するために、前記シャントの遠位端領域を前記くも膜下腔内に埋め込んだ後に前記くも膜下腔内に配置される拡張
された遠位ストッパ形成部を前記シャントの前記遠位端の近くに有し、かつ、眼球の解剖学的外側湾曲度に一致するように前記シャントの長さの一部に沿って可撓性であり、前記近位シャント部分が、前記眼球前房内に埋め込まれた後に前記近位シャント部分の移動に抵抗するための少なくとも1つの外向きに突出する隆起形成部を含み、
前記遠位シャント部分と前記近位シャント部分が、前記シャントの前記ルーメンが前記遠位シャント部分および前記近位シャント部分を通って連続的に延びる状態で、互いに解放可能に接続される、シャント。
【請求項2】
前記遠位シャント部分が、前記遠位ストッパ形成部から前記シャントの前記近位端の方に離間した位置に配置された、前記シャントの前記遠位端の近くの拡張
された近位ストッパ形成部を有し、前記シャントの前記遠位端を視神経鞘によって取り囲まれた前記くも膜下腔内に埋め込むと、前記近位ストッパ形成部が前記視神経鞘の外側に配置され、それによって、前記シャントが前記くも膜下腔内に過剰に移動するのを防止する、請求項1に記載のシャント。
【請求項3】
前記遠位シャント部分が、その長さの少なくとも一部に沿って可撓性構造であり、前記近位シャント部分が、強膜内に画定され前記眼球前房まで延びる強膜通路に沿った前記近位シャント部分の前進を容易にする剛性構造である、請求項1に記載のシャント。
【請求項4】
前記遠位シャント部分が、細長い可撓性チューブ状体と、前記可撓性チューブ状体の遠位端に接続されて前記シャントの前記遠位端を画定する剛性埋め込み体とを備える、請求項1または2に記載のシャント。
【請求項5】
前記近位シャント部分が、前記シャントの近位端領域の近くに直線区間を有し、強膜内に画定され前記眼球前房まで延びる強膜通路に沿って前記直線区間を変位させることができ、
前記近位シャント部分が、前記シャントの前記近位端から離間した湾曲区間をさらに備え、前記湾曲区間が、前記眼球の解剖学的湾曲度に一致する湾曲度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のシャント。
【請求項6】
前記シャントの遠位端が閉じられており、前記ルーメン内に通じる1つまたは複数の流体流れ開口部が、前記シャントの前記遠位端の近くの前記シャントの側壁に画定されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のシャント。
【請求項7】
前記シャントが溶出可能な治療用物質を組み込んでいる、請求項1~6のいずれか一項に記載のシャント。
【請求項8】
患者の眼の眼内圧を調整することにより、眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼障害を治療するためのシャントシステムであって、
請求項1~7のいずれか一項に記載のシャントと、
前記シャントの前記遠位シャント部分を前記くも膜下腔内に埋め込むためのシャント挿入装置であって、
a)前記シャントを変位可能に支持するための遠位挿入部分であって、視神経鞘に通路を形成するように前記視神経鞘を貫通するための組織貫通先端部を画定する遠位挿入部
分と、
b)前記シャントの前記遠位端を前記くも膜下腔内に埋め込むために、前記くも膜下腔を取り囲む視神経鞘内の前記通路を通して前記遠位シャント部分を変位させるためのシャント前進装置と
を含む、シャント挿入装置と
を含む、シャントシステム。
【請求項9】
前記シャントの前記遠位端が閉じており、前記シャント前進装置が、近位端と遠位端とを有する細長い前進要素を含み、前記前進要素の前記遠位端が、前記シャントを前進させる力を前記シャントの前記遠位端に加えるために、前記シャントの前記閉じた遠位端の内側と当接するように前記遠位挿入部分内に摺動可能に配置されており、前記シャントが、流体の通過を可能にするために前記シャントの前記ルーメンへと延びる、前記遠位端の近くの少なくとも1つの流体流れ開口部を画定している、請求項8に記載のシャントシステム。
【請求項10】
前記遠位挿入部分が、前記遠位挿入部分の前記組織貫通先端部を画定するテーパカットを有するランセットを含み、前記テーパカットが遠位端および近位端を有し、前記テーパカットの遠位端領域が鋭利であり、前記テーパカットの近位端領域が鈍いエッジを有する、請求項8または9に記載のシャントシステム。
【請求項11】
前記シャントが、可撓性の遠位端領域を有し、前記遠位ストッパ形成部が、弾性的に圧縮可能であり、前記遠位ストッパ形成部が、前記くも膜下腔の中に前記遠位端が埋め込まれると前記くも膜下腔内に位置決め可能であり、前記シャント挿入装置の前記遠位挿入部分内に収容されるときに圧縮可能であり、前記遠位挿入部分から排出された後に拡張可能である、請求項8~10のいずれか一項に記載のシャントシステム。
【請求項12】
前記遠位挿入部分が、前記くも膜下腔内への前記遠位挿入部分の過剰挿入を防止するために、前記組織貫通先端部から離間した外向きに突出するストッパ形成部を有する、請求項8~11のいずれか一項に記載のシャントシステム。
【請求項13】
前記ランセットが、前記シャントが摺動可能に収容されて変位可能となる内部通路を画定しており、前記ランセットが、前記シャントが通って前進する排出開口部を前記ランセットの遠位端に画定している、請求項10、および請求項10を直接または間接的に引用する請求項11~12のいずれか一項に記載のシャントシステム。
【請求項14】
前記遠位挿入部分が、前記ランセットと、チューブ状の外側支持部材とを備え、前記外側支持部材が、前記ランセットと前記外側支持部材との間に、前記シャントが摺動可能に収容されて変位可能となる環状空間を画定するように、前記ランセットと同軸で外側に離間して配置されている、請求項10、および請求項10を直接または間接的に引用する請求項11~12のいずれか一項に記載のシャントシステム。
【請求項15】
前記シャント挿入装置が、前記遠位挿入部分が取り付けられるハウジングを含み、前記ハウジングが、気体または液体を前記くも膜下腔に移動させるために前記組織貫通先端部と流体連通する入口を有する、請求項8~14のいずれか一項に記載のシャントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の眼内障害または頭蓋内障害に関連する眼障害を治療するためのシャントシステムに関する。本発明はまた、患者の眼内圧または頭蓋内圧の眼障害に関連する眼障害を治療するための方法に関する。より具体的には、本発明は、眼と患者の視神経を囲むくも膜下腔との間にシャントを埋め込むためのシャントシステムおよび方法に関する。本発明はシャントシステムのシャントに及ぶ。
【背景技術】
【0002】
眼球の前房とくも膜下腔とを接続するシャントの埋め込みは、成功するためには以下の困難を克服する必要がある処置である。すなわち、視神経鞘にアクセスするために視神経鞘の外側から明確な通路を形成すること、くも膜下腔にアクセスするために視神経鞘を貫通すること、シャントの周囲の視神経鞘の液密封止を確保すること、視神経の損傷を防止すること、シャントの移動を防止すること、結膜を通したシャント侵食を防止すること、虹彩組織によるシャントの閉塞を防止し、角膜内皮の代償不全を防止することである。
【0003】
視神経を囲むくも膜下腔は、視神経と鞘との間に形成され、脳脊髄液で満たされている。脳脊髄液は、眼の房水の化学組成と同等の化学組成を有する。脳脊髄液内の圧力は通常5mmHg~15mmHgの間で変化する。
【0004】
眼球は強膜と角膜からなる強靭な外層を有する。眼球は、通常10mmHg~21mmHgの間で変動する眼内圧として知られる内圧を維持している。眼が正常に機能するためには、眼内圧を規定の範囲内に制御する必要がある。
【0005】
眼内圧は、眼球の前房から生成される房水の量とそこから排出される房水の量とのバランスを維持することによって調整される。房水は毛様体によって生成され、小柱およびブドウ膜強膜経路を通して排出される。眼球から生成または排出される房水の量に不均衡が生じると、眼内圧が高すぎたり低すぎたりする。
【0006】
篩板は、眼内液区画とくも膜下液区画とを分離している。上昇した眼内圧または低い頭蓋内圧の存在は、篩板を横切って大きな差圧が生じる(層間圧力)。これは緑内障として知られている視神経乳頭の損傷を引き起こす。緑内障は不可逆的な視野欠損を引き起こす。患者の視野が著しく制限されるまで、これらの欠損は拡大する。疾患の最終段階では、完全な視力喪失が起こる。緑内障は世界的に失明の主な原因である。眼内圧が非常に高いままである場合、眼は持続的に痛みを伴うようになり、除去される必要があり得る。
【0007】
緑内障に対する現在の医学的および外科的治療の選択肢は、眼内圧を下げることを目的としている。これらの治療法には様々な欠点がある。制御が困難な緑内障は、緑内障排水装置を挿入することによって管理されることが多い。これらの装置は、眼の前房から3つの解剖学的領域の1つに余分な体液を排出する。
【0008】
1)眼球鞘下腔
この空間は、加圧された房水の存在に適合していない。したがって、房水は炎症反応を引き起こし、その結果、血管結合組織の「ブレブ」が形成される。その結果、高率の合併症、予測不可能な結果および治療の失敗がある。
【0009】
2)上脈絡膜腔
この空間は血管性が高いため、出血の危険性が高い。結果は予測不可能であり、失敗率が高い。
【0010】
3)シュレム管
少量の体液のみがこの空間を通って排出することができ、したがってこれらの装置の効果は最小限であり、治療の失敗は一般的である。
【0011】
本発明の目的は、過剰な体液を眼球前房から眼窩くも膜下腔内に排出するための方法およびシャントシステムを提供することである。これには、次のような利点がある。すなわち、即時の、予測可能な、調整された、長期にわたる圧力管理、層間圧力の根絶、ブレブの合併症のないこと、および眼内出血のリスクが少ないことである。
【0012】
毛様体が房水の生成を停止すると、長期にわたる低い眼内圧が生じる。眼球癆は、慢性的な低眼内圧によって引き起こされる疾患であり、眼球がその完全性を失い、機能を停止し、そして剪定のような構造にしみ込み、永久的かつ不可逆的な眼の破壊をもたらす。眼球癆は眼の除去のための主要な徴候である。現在、慢性的に低い眼内圧を効果的に逆転させることができる医学的または外科的治療の選択肢は存在しない。
【0013】
脳脊髄液圧は、くも膜下腔から生成される脳脊髄液の量と排出される脳脊髄液の量との間のバランスを維持することによって制御される。脳脊髄液は脈絡叢によって生成され、くも膜顆粒を通って排出される。くも膜下腔から排出されるよりも多くの脳脊髄液が生成されると、脳脊髄液圧が高くなりすぎる。これは、逆層間圧力によって視神経乳頭に損傷を与えるおそれがある。特発性頭蓋内圧亢進症は、長期にわたる頭蓋内圧の上昇が失明を引き起こす状態である。
【0014】
本発明のさらなる目的は、眼内圧が頭蓋内圧と等しくなるまで脳脊髄液が眼球内に流入できるように眼球とくも膜下腔を接続するための方法およびシャントシステムを提供することであり、それにより、眼球癆および特発性頭蓋内圧亢進症の発症を予防する。
【0015】
特定の用途では、本発明は、上述の眼疾患を改善するために眼内圧を調節するためのシャントの埋め込みをもたらす。
【発明の概要】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、患者の眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼障害を治療するためのシャントが提供され、シャントが、患者の眼球前房に埋め込み可能な近位端と、患者のくも膜下腔に埋め込み可能な遠位端と、を有し、シャントが、遠位端と近位端との間で長手方向に延びるルーメンを画定し、シャントが、くも膜下腔内への埋め込み後のシャントの外れを防止するために、シャントの遠位端領域をくも膜下腔内に埋め込んだ後にくも膜下腔内に配置される拡張遠位ストッパ形成部を有し、かつ、眼球の解剖学的湾曲度に一致するようにシャントの長さの一部に沿って可撓性である。
【0017】
シャントが、シャントの近位端に比較的近く遠位ストッパ形成部から離間した位置に配置された、シャントの遠位端の近くの拡張近位ストッパ形成部を有してもよく、シャントの遠位端をくも膜下腔内に埋め込むと、近位ストッパ形成部が視神経鞘の外側に配置され、それによって、シャントがくも膜下腔内に過剰に移動するのを防止する。
【0018】
シャントが、シャントの遠位端を画定する遠位シャント部分と、シャントの近位端を画定する近位シャント部分と、を備えてもよい。
【0019】
遠位シャント部分が、その長さの一部に沿って可撓性構造であってもよく、近位シャント部分が、強膜内に画定され眼球前房まで延びる強膜通路に沿った近位シャント部分の前進を容易にする剛性構造である。
【0020】
遠位シャント部分がその全長に沿って可撓性であってもよい。
【0021】
遠位シャント部分が、細長い可撓性チューブ状体と、可撓性チューブ状体の遠位端に接続されてシャントの遠位端を画定する剛性埋め込み体と、を備えてもよい。
【0022】
シャントの遠位端が、視神経鞘内に画定された通路に沿ったシャントの遠位端領域の前進を容易にするために、シャントの遠位端に向かって先細になるテーパ付き端部領域を有してもよい。
【0023】
埋め込み体が、遠位ストッパ形成部および近位ストッパ形成部を画定してもよい。
【0024】
近位ストッパ形成部の断面幅が遠位ストッパ形成部の断面幅よりも小さくてもよい。
【0025】
近位シャント部分が、シャントの近位端で終端するシャントの近位端領域に直線区間を有してもよく、強膜内に画定され眼球前房まで延びる強膜通路に沿って直線区間を変位させることができる。
【0026】
近位シャント部分の近位端領域が、シャントの近位端に向かって先細であってもよく、それによって、強膜通路に沿った近位シャント部分の変位を容易にする。
【0027】
近位シャント部分の壁が、その近位端に開口部と、その側面に少なくとも1つの開口部と、を有してもよく、それによって異なる方向からシャントのルーメンへの房水の排出を可能にする。
【0028】
近位シャント部分が、シャントの近位端から離間した湾曲区間を有してもよく、湾曲区間が、眼球の解剖学的湾曲度に一致する湾曲度を有する。
【0029】
近位シャント部分が、眼球前房内に埋め込まれた後に近位シャント部分の移動に抵抗するための少なくとも1つの外向きに突出する隆起形成部を含んでもよい。
【0030】
近位シャント部分が、シャントの近位端の近くに長手方向に離間して配置されたいくつかの隆起形成部を含んでもよい。
【0031】
近位シャント部分が、近位シャント部分を強膜に縫合して近位シャント部分を所定の位置に保持するために、縫合糸による係合のための外側に突出する位置決め形成部を含んでもよい。
【0032】
遠位シャント部分が可撓性の遠位チューブを備えてもよく、近位シャント部分が剛性の近位チューブを備え、遠位チューブおよび近位チューブを通って連続的に延びるシャントのルーメンを伴って、遠位チューブおよび近位チューブが互いに解放可能に接続される。
【0033】
遠位ストッパ形成部と近位ストッパ形成部との間の間隔が、遠位ストッパ形成部と近位ストッパ形成部との対向面が視神経鞘の対向面と当接する当接面を画定するようなものであってもよく、それによって、視神経鞘に対するシャントの確実な位置決めをもたらす。
【0034】
シャントが、シャントの遠位端においてルーメン内に通じる流体流れ開口部を画定してもよい。
【0035】
遠位ストッパ形成部が変形可能であってもよい。より具体的には、遠位ストッパ形成部が弾性的に圧縮可能であってもよい。
【0036】
シャントの遠位端が閉じられてもよく、ルーメン内に通じる1つまたは複数の流体流れ開口部が、その遠位端の近くのシャントの側壁に画定される。
【0037】
シャントが溶出可能な治療用物質を組み込んでもよい。より具体的には、溶出可能な治療用物質が、抗生物質、抗凝血剤、および抗血管内皮増殖因子からなる群より選択されてもよい。
【0038】
本発明の第2の態様によれば、患者の眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼障害を治療するためのシャントシステムが提供され、シャントシステムが、
細長いチューブ状構成を有するシャントであって、患者の眼球前房に埋め込み可能な近位端と、患者のくも膜下腔に埋め込み可能な遠位端と、を有し、遠位端と近位端との間で長手方向に延びるルーメンを画定し、埋め込み後のシャントの外れを防止するために、遠位端の近くに拡張ストッパ形成部を有する、シャントと、
シャント挿入装置であって、
a)シャントを変位可能に支持するための遠位挿入部分であって、視神経鞘に通路を形成するように視神経鞘を貫通するための組織貫通先端部を画定する遠位挿入部と、
b)シャントの遠位端をくも膜下腔内に埋め込むために、シャントを視神経鞘内の通路を通して変位させるためのシャント前進装置と
を含む、シャント挿入装置と
を含むシャントシステム。
【0039】
シャント挿入装置の遠位挿入部分が、シャントが摺動可能に受け入れられ変位可能となる内部通路を画定する細長い中空シャフトを備えてもよい。
【0040】
シャントの遠位端が閉じられてもよく、シャント前進装置が、近位端と遠位端とを有する細長い前進要素を含み、前進要素の遠位端が、シャントを前進させるためにシャントの遠位端に力を加えるために、シャントの閉じた遠位端の内側と当接するように中空シャフト内に摺動可能に配置され、シャントが、流体の通過を可能にするためにシャントのルーメンへと延びる、遠位端の近くの少なくとも1つの流体流れ開口部を画定する。
【0041】
シャント挿入装置が、遠位挿入部分が取り付けられるハウジングを含んでもよく、シャント前進装置が、ハウジングに摺動可能に取り付けられた手動スライダを含み、スライダが、前進要素を前進させ、それによって中空シャフト内でシャントを前進させるために前進要素と係合される、アクチュエータを含む。
【0042】
遠位挿入部分の中空シャフトが、シャントが通って前進する排出開口部を画定する遠位端にテーパカットを有するランセットを備えてもよい。
【0043】
テーパカットが遠位端および近位端を有してもよく、ランセットの組織貫通先端部を画定するテーパカットの遠位端領域が鋭利であり、テーパカットの近位端領域が鈍いエッジを有する。
【0044】
テーパカットが、テーパカットの近位端に近接する第1のベベルカットと、テーパカットの遠位端に近接する第2のベベルカットと、によって画定されてもよく、テーパカットの鋭利な遠位端領域が第2のベベルカットの一部を備え、鈍いエッジの近位端領域が、第1のベベルカットと、鋭利な遠位端領域に隣接する第2のベベルカットの残りの部分と、を備える。
【0045】
シャントが、可撓性の遠位端領域と、その遠位端の近くに弾性的に圧縮可能な拡張遠位ストッパ形成部と、を有してもよく、遠位ストッパ形成部が、くも膜下腔の中に遠位端が埋め込まれるとくも膜下腔によって位置決め可能であり、シャント挿入装置の遠位挿入部分の中空シャフトの内部通路内に収容されるときに圧縮可能であり、遠位挿入部分の排出開口部を通過した後に拡張可能であり、それによって、くも膜下腔内にシャントを埋め込んだ後にくも膜下からチューブ状部材の遠位端が外れるのを防止する。
【0046】
中空シャフトが、くも膜下腔内への中空シャフトの過剰挿入を防止するために、組織貫通先端部から離間した外向きに突出するストッパ形成部を有してもよい。
【0047】
遠位挿入部分が、組織貫通先端部を画定する内側ランセットと、チューブ状の外側支持部材と、を備え、外側支持部材が、ランセットと外側支持部材との間に、シャントが摺動可能に収容されて変位可能となる環状空間を画定するように、ランセットに対して同軸に離間して配置されてもよい。
【0048】
ランセットが遠位端にテーパカットを有してもよい。
【0049】
テーパカットが遠位端および近位端を有してもよく、ランセットの組織貫通先端部を画定するテーパカットの遠位端領域が鋭利であり、テーパカットの近位端領域が鈍いエッジを有する。
【0050】
テーパカットが、テーパカットの近位端に近接する第1のベベルカットと、テーパカットの遠位端に近接する第2のベベルカットと、によって画定されてもよく、テーパカットの鋭利な遠位端領域が第2のベベルカットの一部を備え、鈍いエッジの近位端領域が、第1のベベルカットと、鋭利な遠位端領域に隣接する第2のベベルカットの残りの部分と、を備える。
【0051】
本発明の第3の態様によれば、患者の眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼障害を治療するための方法が提供され、本方法が、
遠位端と近位端とを有し、かつ遠位端と近位端との間に長手方向に延びるルーメンを画定する細長いチューブ状体を備えるシャントを用意するステップと、
シャントが変位可能に支持される遠位挿入部分を有するシャント挿入装置を用意するステップであって、遠位挿入部分が組織貫通先端部を画定する、ステップと、
眼窩と視神経鞘を取り囲む眼窩結合組織を通る通路を形成するステップと、
シャント挿入装置を通路に挿入するステップと、
シャント挿入装置の遠位挿入部分の組織貫通先端部を、視神経鞘を通ってくも膜下腔内に至る通路を形成するように、視神経を囲むくも膜下腔内に挿入するステップと、
シャント挿入装置がシャントの遠位端をくも膜下腔内に遠位方向に前進させるステップと、
シャント挿入装置を眼窩から引き抜くステップと、
シャントの近位端を眼球前房内に挿入して、眼球前房内の房水とくも膜下腔内の脳脊髄液との間のシャントに沿った流体の流れをもたらすステップと
を含む。
【0052】
本方法は、視神経鞘に到達するようにテノン嚢を通り眼球鞘下腔に沿う前記通路を形成するステップを含んでもよい。
【0053】
シャント装置の近位端を眼球前房内に挿入するステップが、眼の強膜を貫通して強膜にチャネルを画定し、シャントの近位端をチャネルを通して眼球前房内に前進させるステップを含んでもよい。
【0054】
本方法は、外科的切断器具を使用して、小柱網の周囲の眼球前房への挿入点の位置まで、角膜輪部に近接して強膜内に通路を形成するステップを含んでもよい。
【0055】
本方法は、シャント挿入装置の組織貫通先端部を視神経鞘の鼻腔上部部分に通すステップを含んでもよい。
【0056】
本発明のさらなる特徴は、添付の図面を参照し、かつ添付の図面に示すように、本発明の非限定的な例として以下に記載される。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図2】ヒトの眼の断面図であり、本発明によるシャントの第1の実施形態が、ヒトの眼の前房と視神経を囲むくも膜下腔との間の流体の流れをもたらすために埋め込まれたところを示す。
【
図3A】本発明によるシャントシステムのシャント挿入装置の三次元図である。
【
図3B】内部構成要素を示すためにハウジングが取り外された
図3Aのシャント挿入装置の三次元図である。
【
図6】
図4のシャント挿入装置の遠位挿入チューブの上面図である。
【
図8A】
図4のシャント挿入装置の遠位挿入チューブの組織貫通先端部を示す図であり、組織貫通先端部が形成される方法を示す。
【
図8B】
図4のシャント挿入装置の遠位挿入チューブの組織貫通先端部を示す別の図であり、組織貫通先端部が形成される方法を示す。
【
図8C】
図4のシャント挿入装置の遠位挿入チューブの組織貫通先端部を示すさらに別の図であり、組織貫通先端部が形成される方法を示す。
【
図9】
図2Aのシャントの遠位チューブの側面図である。
【
図10】
図9の切断線X-Xに沿って切断した、
図2Aのシャントの遠位チューブの側断面図である。
【
図11】
図2Aのシャントの遠位チューブの別の側面図である。
【
図12】
図11の切断線XII-XIIに沿って切断した、
図2Aのシャントの遠位チューブの側断面図である。
【
図14】
図2Aのシャントの近位チューブの別の側面図である。
【
図15】
図14の切断線XV-XVに沿って切断した、
図2Aのシャントの近位チューブの側断面図である。
【
図15A】本発明によるシャントの近位チューブの別の実施形態の側面図である。
【
図16A】第1の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す図である。
【
図16B】第1の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す別の図である。
【
図16C】第1の動作モードにおけるシャント挿入装置を示すさらに別の図である。
【
図17A】第2の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す図である。
【
図17B】第2の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す別の図である。
【
図17C】第2の動作モードにおけるシャント挿入装置を示すさらに別の図である。
【
図18A】第3の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す図である。
【
図18B】第3の動作モードにおけるシャント挿入装置を示す別の図である。
【
図18C】第3の動作モードにおけるシャント挿入装置を示すさらに別の図である。
【
図19A】シャントの遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示す図である。
【
図19B】シャントの遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示す別の図である。
【
図19C】シャントの遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図19D】シャントの遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図19E】シャントの遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図20A】シャントの近位端が眼の前房に埋め込まれる方法を示す図である。
【
図20B】シャントの近位端が眼の前房に埋め込まれる方法を示す別の図である。
【
図20C】シャントの近位端が眼の前房に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図21】本発明によるシャントの第2の実施形態の側面図である。
【
図22】
図21のシャントの遠位チューブおよびその遠位チューブをくも膜下腔内に埋め込むためのシャント挿入装置の分解三次元図である。
【
図23】
図22の遠位チューブおよびシャント挿入装置の分解側断面図である。
【
図25】
図24の切断線XXV-XXVに沿って切断した、
図22の遠位チューブの側断面図である。
【
図27】
図26の切断線XXVII-XXVIIに沿って切断した、
図22の遠位チューブの側断面図である。
【
図28A】シャントの第2の実施形態の遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示す図である。
【
図28B】シャントの第2の実施形態の遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示す別の図である。
【
図28C】シャントの第2の実施形態の遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図28D】シャントの第2の実施形態の遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【
図28E】シャントの第2の実施形態の遠位端が視神経を囲むくも膜下腔に埋め込まれる方法を示すさらに別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図面の
図1を参照すると、以下の説明で使用するのに必要なヒトの眼2の解剖学的部分を示す断面図が以下を含む。
A:房水で満たされた前房
B:脳脊髄液で満たされたくも膜下腔
C:視神経
D:視神経鞘
E:強膜
F:眼球鞘下腔
G:テノン嚢
H:結膜
I:眼瞼
J:角膜輪部および小柱網
K:硝子体ゼリーで満たされた後部
L:角膜
M:毛様体
N:眼球
【0059】
図面の
図1~
図20を参照すると、本発明によるシャントは、全体として符号10で示されている。シャント10は、眼の前房A内の房水と視神経Cを囲むくも膜下腔B内の脳脊髄液との間の流体連通をもたらすために人体への埋め込みに適合する。シャントは、患者の眼内圧または頭蓋内圧の障害に関連する眼の障害を治療するのに適合する。シャント10は、埋め込まれると、ヒト患者の眼の中の眼内圧を調節する。緑内障の治療のために、シャントは、房水が眼の前房からくも膜下腔内に排出されることを可能にし、それによって眼内圧を低下させる。眼球癆および特発性頭蓋内圧亢進症の治療のために、シャントは、房水と同様の組成を有する脳脊髄液の流れを眼の前房に流すことを可能にし、それによって眼内圧を高める。
【0060】
シャント10は、近位端12と遠位端14とを有する細長いチューブ状構成を有する。シャントは、遠位端と近位端との間に延びるルーメン16を画定する。
【0061】
シャント10は、シリコーンゴム製の可撓性の遠位チューブ18を含む遠位シャント部分を含む、二部構成であり、近位シャント部分は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の硬質プラスチック近位チューブ20を含む。剛性近位チューブ20は、可撓性遠位チューブ18に取り外し可能に接続されている。これにより、外科医はシャントの機能を評価し、ルーメンを洗い流すか、または手術中または手術後に必要に応じてシャントを通して治療用物質を注入することができる。遠位チューブ18は遠位端14を画定し、一方、近位チューブ20は近位端12を画定する。近位チューブ20および遠位チューブ18の対向する端部22、24は、それぞれ取り外し可能に接続されている。より具体的には、近位チューブ20の端部22は、遠位チューブ18の端部24に、遠位チューブおよび近位チューブの内部通路がルーメン16を画定する連続した内部通路を形成する配置で圧入される。
【0062】
近位シャント部分の剛性は、狭い強膜通路に沿ったその変位を容易にし、それは房水の漏出を防ぎ、かつ結膜組織を通るチューブの侵食を防ぐ。
【0063】
遠位チューブ18は、遠位端14の近くに環状フランジの形態の拡張された弾性圧縮可能な遠位ストッパ形成部26を有する。遠位ストッパ形成部26は、遠位端14から所定の距離だけ離間している。遠位チューブ18の遠位端14は閉じられており、2つの流体流れ開口部28.1、28.2が遠位ストッパ形成部26と遠位端14との間の位置で遠位チューブの両側に画定されている。
【0064】
シャントはさらに、環状のフランジの形態の拡張近位ストッパ形成部30を含み、これは遠位チューブの近位端に比較的近い位置で所定の距離だけ遠位ストッパ形成部から離間している。
【0065】
遠位ストッパ形成部26は、くも膜下腔へのシャントの埋め込み後にシャントの外れを防止し、一方、近位ストッパ形成部30は、シャントがくも膜下腔内に過度に移動するのを防止するために、シャントの遠位端をくも膜下腔内に埋め込むと、視神経鞘の外側に配置される。
【0066】
シャントの近位端12は、近位チューブが前房に向かって強膜通路に沿って移動するのを容易にするテーパ付き端部を近位チューブに設けるように凸状に丸められている。近位チューブ20は、端部22の近くに湾曲区間32と、湾曲区間と近位端12との間に延びる直線区間34と、を有する。湾曲区間の湾曲度は、
図2に示すように眼球Nの解剖学的湾曲度に一致し、それによって周囲の組織の侵食を防止する。直線区間34は、角膜輪部から約4mm離れたところから強膜通路に沿って移動し、小柱網で前房に入る。
【0067】
遠位チューブは、長さが約30mmであり、1mm以下の外径を有する。遠位チューブの可撓性は、遠位チューブが最小限の抵抗で眼球の解剖学的湾曲度に順応することを可能にする。遠位チューブは、抗生物質、抗凝血剤および抗血管内皮増殖因子のうちの1つまたは複数を含む溶出可能な治療用物質を組み込んでもよい。
【0068】
近位チューブは長さが約10mmであり、0.5mm以下の外径を有する。近位チューブの比較的小さい外径は、内皮代償不全およびチューブの侵食を防止する。近位チューブは、近位端12に流体流れ開口部36を画定する。開口部36は、近位端12の中央開口部と、近位端12の近位チューブの壁の両側に画定された一対の対向するスロット38と、によって画定される。これらは、流体が複数の軸から近位端開口部に流れ込むことを可能にし、虹彩組織による管閉塞を防ぐ。
【0069】
図15Aを参照すると、シャントの近位チューブの別の実施形態が符号120で示されている。近位チューブは近位チューブ20と類似しており、したがって、近位チューブ20の特徴と同じおよび/または類似の近位チューブの特徴を示すために
図15Aでは同じおよび/または類似の符号が使用されている。第1の相違点は、近位チューブ120が近位チューブの近位端122の近くに3つの離間した環状隆起部102.1、102.2および102.3を含み、眼球前房内への埋め込み後の近位チューブの移動に抵抗することである。第2の相違点は、近位チューブ120が、近位チューブ120を強膜に縫合して近位チューブを定位置に保持する有窓フレア101を含むことである。
【0070】
本発明は、シャント10と、視神経を囲むくも膜下腔内にシャントを埋め込むためのシャント挿入装置40と、を含むシャントシステムに及ぶ。シャント挿入装置40は、チューブ状ハウジング42と、シャント前進装置44と、ハウジングに取り付けられた遠位挿入部分46とを含む。ハウジング42は、シャント挿入装置を保持するためのハンドルを提供する。
【0071】
遠位挿入部分46は、内部通路50を画定するランセット48を含み、その内部にシャントの遠位チューブ18が摺動可能に配置されている。ランセットは、遠位チューブが通って前進する排出開口部54を画定する遠位端52を有する。遠位端52は、視神経鞘を貫通するための組織貫通先端部56を画定する。
【0072】
ランセットの遠位端は、テーパカットによって画定されている。図面の
図8A~
図8Cを参照すると、テーパカットを形成するために、第1のベベルカット58および第2のベベルカット60が遠位端に作られる(
図8Aおよび
図8Bを参照)。テーパカットは、組織貫通先端部56と一致する遠位端と近位端62とを有する。テーパカットは、近位端62に近接した第1のベベルカット58と、組織貫通先端部に近接した第2のベベルカット60と、によって画定される。ベベルカットは鋭いエッジを画定する。視神経鞘によってランセットの周りに形成される封止を最大にするために、しかしまた炎症を最小にするために、ベベルカットを行った後に、第1のベベルカット58および組織貫通先端部から離間した第2のベベルカット60の一部は、鋭いエッジを丸めることによって鈍くされ(
図8C参照)、そのようにして組織のさらなる切断を防ぎ、ランセットが視神経鞘に挿入されるときに、ランセットの周囲の組織の最大の伸張を促進するが、引き裂くことは促進しない。組織貫通先端部および組織貫通先端部に隣接する第2のベベルカットの一部は鈍くなっておらず、したがって視神経鞘を貫通して切断するためのそれらの鋭いエッジの特性を保持している。
図8Cでは、第1のベベルカットおよび第2のベベルカットの一部の鈍化領域は符号「B」で示され、鋭いエッジを有する第2のベベルカットの遠位端領域は符号「S」で示される。
【0073】
ランセット48は、組織貫通先端部56から所定の距離だけ離間した位置に環状フランジの形態の拡張ストッパ形成部66を有する。ストッパ形成部66は、視神経鞘の外側面に当接するように構成されかつ寸法決めされ、それにより組織貫通先端部がくも膜下腔に過剰に挿入されるのを防止する。
【0074】
シャント前進装置44は、シャントの遠位端をくも膜下腔内に挿入するために、シャントの遠位チューブ18をランセット48に沿って遠位方向に前進させるように構成されている。機構44は細長い前進スタイレット68を含む。
【0075】
遠位チューブ18はランセット48の内部通路50内に受容され、スタイレット68は遠位チューブのルーメン16内に受容される。機構44は、ハウジング42内の内部通路に沿って摺動可能に変位可能なピストン70を含む。この機構は、ハウジング内に摺動可能に支持されているハウジングの遠位端にあるスライダブロック72と、ハウジングにしっかりと取り付けられている遠位端にある取り付けブロック76と、を含む。ランセット48は取り付けブロック76に固定的に取り付けられている。スタイレットの近位端はピストンに接続され、スライダブロックは、スタイレットが摺動可能に配置される通路を画定する。遠位チューブをその端部24で支持するために、スリーブ95が取り付けブロック内に配置されている。
【0076】
この機構はまた、その両端部でそれぞれスライダブロック72およびピストン70のスピゴット取り付け構造80、82に取り付けられたコイルばね78を含む。ピストンがスライダブロックに向かって変位すると、コイルばねが圧縮され、その結果、ばねが、ピストンをスライダブロックから離れるように付勢するためにピストン70に力を及ぼす。
【0077】
ピストンは、その端部に係合突起84を有する弾性的に変形可能なレバアーム82を有する。一方、スライダブロック72は、ピストンをスライダブロックに解放可能に係止するためにピストンの突起84がその中に受容可能である相補的な係合開口部86を画定するスライダアーム86を有する。
【0078】
ハウジング42は、その近位端領域に開口部90を画定し、開口部90内にピストン70の係合突起が収容されて、ピストンの後退状態でピストンをハウジングに解放可能にロックする。
【0079】
図16~
図18を参照すると、シャントは、外科医によってスライダブロック72に加えられる手動の力によって前進する。
図16を参照すると、シャントは最初にランセット48内に完全に収容されている。スライダブロックは後退位置にあり、ピストン70がスライダブロックと当接して伸長位置にある。この位置では、スタイレットは遠位チューブ18のルーメン内に受容される。遠位チューブを遠位方向に前進させるために、
図17に示すように、スライダブロック72が外科医によって遠位に移動され、スタイレットの遠位端92が遠位チューブの閉鎖端の内側に力を及ぼして、遠位チューブの遠位端領域がランセットから突出するように遠位チューブを遠位方向に前進させる。
【0080】
弾性的に圧縮可能である遠位チューブ18の遠位ストッパ形成部26は、シャントの遠位端がランセット内に受容されると圧縮される。先端チューブがランセットから前進すると、先端ストッパ形成部が拡張し、その外径が拡張形状における近位ストッパ形成部30の外径よりも相対的に大きくなる。
【0081】
シャントの遠位チューブをくも膜下腔内に埋め込んだ後に、シャント挿入装置のランセットを引っ込めて遠位チューブを埋め込み状態にする。
図18を参照すると、ピストン70の係合突起84が内側に押されて、ピストンがスライダブロックとの係合から解放され、それによってコイルばねの作用の下でピストンがその後退位置に変位し、遠位チューブからスタイレットを引き抜く。
【0082】
図19A~
図19Eを参照すると、シャント10の遠位チューブ18がくも膜下腔に埋め込まれる方法が順に示されている。眼窩開創器装置92を使用して眼窩を囲む眼窩結合組織を貫通して通路が形成される。通路が形成されると、シャント挿入装置のランセット48が、視神経鞘に画定された明確な経路で眼窩開創器内に挿入される(
図19A)。ランセットの組織貫通先端部56は視神経鞘Dを通してくも膜下腔Bに挿入される。挿入の間、ランセットのストッパ形成部66は視神経鞘の外側面に当接してランセットの過剰挿入を防止する(
図19B)。スライダブロックは外科医によって遠位方向に変位されて、シャントの遠位チューブ18の遠位端をくも膜下腔内に前進させる(
図19C)。シャント挿入装置のピストン50はその後スライダブロック72から外され、ピストンの後退およびスタイレット68の引き抜きを引き起こす。スタイレットを引き抜くと、支持スリーブ95は、その端部24で遠位チューブを支持して、スタイレットと共に遠位チューブが引き抜かれないようにする。次に、シャント挿入装置を、眼窩開創器を介して取り除き、遠位チューブの遠位端をくも膜下腔内に埋め込み、遠位チューブの残りの部分が眼窩球の側面に沿って延びる。
【0083】
図20A~
図20Cを参照すると、角膜輪部から約4mm強膜に入って小柱網で強膜を出る外科用ブレード93を使用して、強膜を通して強膜チャネルを最初に形成することによって、近位チューブの近位端を眼球の前房に埋め込む(
図20)。その後に、剛性近位チューブ20の直線区間34を、鉗子94を用いて強膜チャネルに沿って前進させる(
図20B)。近位端12を前房に埋め込んだ後に、近位チューブの反対側の端部22を遠位チューブの端部20に挿入し、それによって前房とくも膜下腔との間にシャントを形成する(
図20C)。
【0084】
図21~
図30を参照すると、本発明によるシャントの第2の実施形態が符号100で示されている。シャント100はシャント10と同様であるが、唯一の違いは、遠位チューブがその遠位端において異なる構成を有することである。シャント100の近位チューブは、シャント10の近位チューブ20と同じである。
図21~
図30では、シャント10のものと同じおよび/または類似しているシャント100のそれらの特徴は、同じおよび/または類似の符号によって示されている。
【0085】
シャント100は、剛性近位チューブ20と、近位チューブ20が解放可能に接続されている可撓性遠位チューブ118と、を備える。遠位チューブ118は、シリコーンゴムの細長い可撓性チューブ状体105と、チタン、PEEKまたは他の適切な材料の剛性埋め込み体106と、を備える。
【0086】
遠位チューブ118の剛性埋め込み体106は、シャント100の遠位端114を画定する。遠位チューブ118は、遠位チューブ118の反対側の端部24で近位チューブ20に接続されている。より具体的には、近位チューブ20の端部22は、遠位チューブの開口端部24に圧入されている。
【0087】
シャント100の遠位チューブ118および近位チューブ20は、その遠位端114とその近位端12との間でシャントを通って連続的に延びるルーメン116を画定する。
【0088】
埋め込み体106は、遠位ストッパ形成部126、遠位ストッパ形成部から離間した近位ストッパ形成部130、およびストッパ形成部間に延びるより狭い首部107を含む。遠位ストッパ形成部および近位ストッパ形成部は、以下により詳細に説明するように、遠位ストッパ形成部126がくも膜下腔に埋め込まれたときに視神経鞘の内側および外側にそれぞれ当接する内向き当接面108、109をそれぞれ画定する。埋め込み体の遠位端領域は、視神経鞘に形成された通路を通る遠位ストッパ形成部の前進を容易にするために遠位端114に向かって先細になっている。
【0089】
当接面108、109は互いに対向して配置され、埋め込み後の視神経鞘の内面および外面の湾曲度に一致するように斜めに傾斜している。
【0090】
本発明は、シャント100と、遠位チューブ118をくも膜下腔に埋め込むためのシャント挿入装置140と、を含むシャントシステムに及ぶ。
【0091】
シャント挿入装置140は、チューブ状ハウジング142と、ハウジングに取り付けられた遠位挿入部分146と、を含む。チューブ状ハウジングは、シャント挿入装置を保持するためのハンドルを提供する。
【0092】
遠位挿入部分は、内部通路150を画定する内側ランセット148を含む。ランセットは、シャント挿入装置40の遠位端52と同一の遠位端152を有する。したがって、ランセットは、埋め込み体106の遠位端が通過することができる通路を画定するために、視神経鞘を貫通するための組織貫通先端部156を遠位端に画定する。遠位挿入部分は、内部にランセットが離間配置で配置されているチューブ状外側スリーブ181をさらに含む。ランセットと外側スリーブとは同軸に配置され、その中に遠位チューブ118のチューブ状体105が変位可能に受容される環状空間183を画定する。
【0093】
ランセット148は、ハウジングの近位端領域の位置までハウジング内に延びる。ハウジングは、ランセットの通路150と流体流連通する入口ポート185をその近位端187に画定し、それに気体または液体を含む注射器189などの出口を接続することができる。
【0094】
図28A~
図28Eを参照すると、シャント100の遠位チューブ118がくも膜下腔に埋め込まれる方法が順に示されている。眼窩開創器装置を使用して眼窩を囲む眼窩結合組織を貫通して通路が形成される。通路が形成されると、それに接続された生体適合性の気体または液体Fを含む注射器189を有するシャント挿入装置140が眼窩開創器(図示せず)内に挿入される(
図28A~
図28B)。外科医が注射器のピストンを押し下げることによってランセット148を介してくも膜下腔に気体または液体が導入され、それによって視神経鞘および視神経が互いに離れて変位し、それによってランセット148の組織貫通先端部156が誤って視神経を突き刺すことが回避される。ランセットの組織貫通先端部156を、視神経鞘Dを通してくも膜下腔Bに挿入する(
図28C)。シャント挿入装置140は、埋め込み体106の遠位ストッパ形成部126がランセット148の組織貫通先端部156によって視神経鞘に画定された開口部を通過し、埋め込み体の首部107が視神経鞘の開口部に配置されるまで遠位方向に前進する。埋め込み体は、遠位ストッパ形成部126と近位ストッパ形成部130の対向する当接面108、109がそれぞれ視神経鞘の内側と外側にそれぞれ当接するように、視神経鞘内に確実に位置決めされる。その後に、シャント挿入装置140が引き抜かれて(
図28D)、くも膜下腔内に埋め込まれた遠位端114を有する遠位チューブ118を残す(
図28E)。