(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】崩壊遅延抑制被覆粉末、該崩壊遅延抑制被覆粉末を含有する錠剤、及び錠剤の崩壊遅延抑制方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20230411BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20230411BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230411BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230411BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230411BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230411BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230411BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K31/728
A61K31/737
A61K47/36
A61K47/44
A61K47/42
A61K9/20
A61K47/26
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2017252753
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 食品開発展2017での出展社プレゼンにて発表 発表日:平成29年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101651
【氏名又は名称】アリメント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】久保田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】丸 勇史
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010097(JP,A)
【文献】特開2017-178830(JP,A)
【文献】特表2017-532050(JP,A)
【文献】特表2002-505251(JP,A)
【文献】特開2013-023463(JP,A)
【文献】特開2012-001468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/728
A61K 31/737
A61K 9/20
A61K 47/26
A61K 47/36
A61K 47/38
A61K 47/42
A61K 47/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
崩壊遅延抑制被覆粉末及び賦形剤粉末を含有する
錠剤であって、
該崩壊遅延抑制被覆粉末は、被覆の単位である水溶性の有効成分の粉末である崩壊遅延惹起粉末が造粒されずに可食性被覆材によって被覆されているものであり、
該崩壊遅延惹起粉末がヒアルロン酸ナトリウムであり、かつ該可食性被覆材がセラック、ゼイン、ペクチン若しくは菜種硬化油であるか、又は、該崩壊遅延惹起粉末がコンドロイチン硫酸塩であり、かつ該可食性被覆材がセラックであり、
該崩壊遅延惹起粉末は、該
錠剤全体に対して10質量%以上85質量%以下の範囲で含有されており、
該賦形剤粉末は、水に溶けない又は水に溶け難い化合物であり、該崩壊遅延惹起粉末より水溶性は低いが水親和性があるものであり、
錠剤全体に対して10質量%以上含有されており、
該崩壊遅延抑制被覆粉末は、水溶性の該崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に該可食性被覆材によって被覆されていることによって、該
錠剤の胃内での崩壊遅延の発生が抑制されているものであることを特徴とする
錠剤。
【請求項2】
前記賦形剤粉末が、結晶セルロース、糖アルコール、乳糖、ショ糖、マンニトール及び増粘多糖類からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の物質を含有するものである請求項1に記載の
錠剤。
【請求項3】
前記崩壊遅延惹起粉末100質量部に対して、前記可食性被覆材が1質量部以上100質量部以下で含有されている請求項1又は請求項2に記載の
錠剤。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3の何れかの請求項に記載の
錠剤の製造方法であり、
前記可食性被覆材によって被覆し、該被覆によって崩壊遅延の発生を抑制する
前記崩壊遅延抑制被覆粉
末を、転動流動層
法を用いて、被覆と同時に顆粒状にも造粒もさせずに、被覆の単位である前記崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に該可食性被覆材で被覆
して製造し、
得られた該崩壊遅延抑制被覆粉末を打錠することを特徴とする
錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記可食性被覆材を、水及び/又はエタノールを主成分とする可食性溶媒に溶解若しくは微分散して被覆液を調製し、前記崩壊遅延惹起粉末に該被覆液を付与することによって、該崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に該可食性被覆材で被覆する請求項
4に記載の
錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に可食性被覆材で被覆して崩壊遅延抑制被覆粉末を得るステップと、
少なくとも、該崩壊遅延抑制被覆粉末、及び、賦形剤粉末を混合して打錠するステップと、
を少なくとも含む
請求項4又は請求項5に記載の錠剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項
3の何れかの請求項に記載
の錠剤の崩壊遅延抑制方法であり、
水溶性の崩壊遅延惹起粉末、及び、該崩壊遅延惹起粉末より水溶性は低いが水親和性がある賦形剤粉末を含有する錠剤の崩壊遅延抑制方法であって、
該崩壊遅延惹起粉末の表面を、個々に可食性被覆材で被覆することによって、該錠剤が水と接触したときに、該錠剤の表面近傍に存在する該崩壊遅延惹起粉末と該水とで該錠剤の表面近傍に形成されるゲル状膜又は高粘性液体膜の形成を阻害して、該錠剤の内部まで、水が進入し易くすることを特徴とする錠剤の崩壊遅延抑制方法。
【請求項8】
上記錠剤が水と接触したときに、該錠剤の表面近傍に形成されるゲル状膜又は高粘性液体膜の形成を阻害して、該錠剤の内部まで、水親和性がある上記賦形剤粉末による水の導線を確保する請求項
7に記載の錠剤の崩壊遅延抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は崩壊遅延抑制被覆粉末、該崩壊遅延抑制被覆粉末を含有する錠剤、該崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法、該崩壊遅延抑制被覆粉末を使用する錠剤の崩壊遅延を抑制する方法、及び、錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸やコラーゲン等の水溶性高分子化合物粉末を打錠して得られた錠剤は、水中でゲル化膜を形成するため、口腔内や胃腸内で錠剤が崩壊し難いことが知られている。錠剤の崩壊遅延により、錠剤の有効成分の体内への吸収が遅れ、該有効成分の効能発揮に遅延が生じる。
【0003】
特許文献1には、薬物及び水溶性高分子化合物を同一の造粒粒子中に含有させるとともに、該造粒粒子の周囲に中性~酸性の水溶性の塩を存在させることで、錠剤を服用したときの水溶性高分子化合物のゲル化とゲル化による崩壊遅延が抑制され、崩壊時間を短縮できることが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、錠剤に石化海藻の粉砕物を配合することにより、崩壊性と錠剤硬度の両方を満足させることができることが記載されている。
【0005】
しかし、上記技術では、速崩壊性が十分ではなく、すなわち崩壊遅延抑制の効果が十分ではなく、更なる改善が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-245173号公報
【文献】特開2016-041662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、口腔内や胃腸内での崩壊遅延の発生が抑制された粉末を提供することであり、及び、該粉末を打錠してなる錠剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、崩壊遅延を起こし易い粉末を特定の被覆材で被覆し、被覆の単位である個々の粉末の表面を可食性被覆材(好ましくは特定の可食性被覆材)で被覆することによって、意外にも崩壊遅延の発生を抑制できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、可食性被覆材によって被覆されており、該被覆によって崩壊遅延の発生が抑制されている崩壊遅延抑制被覆粉末であって、
被覆の単位である崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に該可食性被覆材で被覆されていることを特徴とする崩壊遅延抑制被覆粉末を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記崩壊遅延抑制被覆粉末を含有することを特徴とする錠剤を提供することである。
【0011】
また、本発明は、可食性被覆材によって被覆し、該被覆によって崩壊遅延の発生を抑制する崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法であって、転動流動層法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、又は、ワースター流動層法を用いて、被覆の単位である崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に該可食性被覆材で被覆することを特徴とする崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法を提供することである。
【0012】
また、本発明は、水溶性の崩壊遅延惹起粉末、及び、「該崩壊遅延惹起粉末より水溶性は低いが水親和性がある賦形剤粉末」を含有する錠剤の崩壊遅延抑制方法であって、
該崩壊遅延惹起粉末の表面を、個々に可食性被覆材で被覆することによって、該錠剤が水と接触したときに、「該錠剤の表面近傍に存在する該崩壊遅延惹起粉末」と該水とで該錠剤の表面近傍に形成される「ゲル状膜又は高粘性液体膜」の形成を阻害して、該錠剤の内部まで、水が進入し易くすることを特徴とする錠剤の崩壊遅延抑制方法を提供することである。
【0013】
また、本発明は、上記錠剤の崩壊遅延抑制方法を使用することを特徴とする錠剤の製造方法を提供することである。
【0014】
また、本発明は、上記錠剤の製造方法を使用して製造されるようなものであることを特徴とする錠剤を提供することである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記問題点と課題を解決し、口腔内や胃腸内での崩壊遅延の発生を抑制した崩壊遅延抑制被覆粉末を提供することができる。また、該崩壊遅延抑制被覆粉末を打錠することによって、崩壊遅延が発生し難い錠剤を提供することができる。言い換えれば、本発明によれば、「上記のような崩壊遅延が発生し難い錠剤」用の粉末を提供することができる。
【0016】
崩壊遅延を惹起し易い粉末(本発明では「崩壊遅延惹起粉末」と言う)としては、水溶性が高く水と接触してゲル化し易い粉末等が挙げられるが、例えば結晶セルロース等と言った賦形剤の粉末と混合して打錠した際に、有効成分である崩壊遅延惹起粉末の錠剤全体に対する含有割合を増加させても、崩壊遅延が発生し難い錠剤を提供することができる。
【0017】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、被覆の単位である粉末の表面が個々に可食性被覆材で被覆されているため、好適に崩壊遅延の発生を抑制できる。
本発明においては、崩壊遅延を惹起し易い粉末に対して、特に、例えば、転動流動層法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、又は、ワースター流動層法等特定の方法を用いて、可食性被覆材を粉末単位で被覆すると、該粉末の質量に対して可食性被覆材の質量を低く抑えることが可能であり、可食性被覆材が少なくても、崩壊遅延を抑制することができる。また、該粉末一つ一つが均一に被覆されると共に、被覆時に凝集や造粒が起こらないので、凝集や造粒に無駄に使われる可食性被覆材が少なく済むという効果も有する。
【0018】
また、本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、例えば上記した特定の方法を用いて、粉末一つ一つの表面を可食性被覆材で被覆させることによって、口腔内や胃腸内での崩壊遅延の発生を抑制できるようになる。更にそれと共に、粉末一つ一つの表面が被覆されているので、該崩壊遅延抑制被覆粉末の保存中の衝撃や、該崩壊遅延抑制被覆粉末を打錠して錠剤にする際の衝撃に対して、被覆されていない新たな面が露出することがない。すなわち、崩壊遅延惹起粉末自体の表面が露出することがない。
【0019】
一方、例えば、被覆と同時に造粒して顆粒状にまでしてしまうような被覆方法や装置では、粉末の表面が個々に被覆されていないので、顆粒が崩れたときに、対象物である粉末の表面が直接露出する場合があり、崩壊遅延が発生する場合がある。
例えば、撹拌造粒方式等で粉末の表面を可食性被覆材で被覆した場合は顆粒状になる。しかしながら、このようにして被覆材で被覆してなる顆粒は、運搬中、ハンドリング中、打錠中等に「造粒されてなる顆粒」が崩れ、対象物である粉末の表面が露出し、崩壊遅延の発生が抑制されない。
【0020】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、特に口腔内や胃腸内での崩壊遅延を抑制する効果を有する。更に、特定の可食性被覆材を用いることによって、水中での崩壊遅延、日本薬局方崩壊試験第1液中での崩壊遅延及び/又は日本薬局方崩壊試験第2液中での崩壊遅延を抑制する効果を有する。
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、コップ内の水中、口腔内の唾液中、胃の中の胃液中、腸の中の腸液中等で、粉末が継粉(ままこ)になり難く、該粉末を錠剤、顆粒等に加工したときに、該「錠剤、顆粒等」の崩壊が遅延するのを抑制することができる。
【0021】
上記可食性被覆材が水溶性である場合、該被覆材の溶媒として水を用いることができる。本発明における好ましい被覆方法である、転動流動層法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、ワースター流動層法等では、エタノール等のアルコール溶液を使用すると引火や爆発の危険性がある。従って、更に、該可食性被覆材が水溶性であると、すなわち、水溶性の可食性被覆材によって被覆されていると、その危険性がないという効果をも奏する。
一方、防爆発仕様の転動流動層法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、ワースター流動層法等を使用した場合は水に限定されず、該被覆材の溶媒としてエタノールを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末の好ましい形態を示す概略拡大断面図である。(a)崩壊遅延惹起粉末自体が一次粉末であって、該粉末の表面が被覆されている場合、(b)一旦被覆された崩壊遅延惹起粉末が凝集して凝集粉末を形成している場合、(c)崩壊遅延惹起粉末自体が二次粉末であって、該粉末の表面が被覆されている場合
【
図2】可食性被覆材での被覆中に凝集(すなわち凝集・造粒と共に被覆がなされる)等して、崩壊遅延惹起粉末間に可食性被覆材が入り込み顆粒状になった形態を示す概略拡大断面図である。
【
図3】本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末を含む錠剤(A)又は未被覆崩壊遅延惹起粉末を含む錠剤(B)を水に浸漬したときの錠剤への水の進入を示す模式図である。
【
図4】未被覆ヒアルロン酸(A)及び被覆ヒアルロン酸(B)の電子顕微鏡写真である。
【
図5】水に浸漬させてから10分後(左)及び2時間後(右)の各錠剤の形態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0024】
<崩壊遅延抑制被覆粉末>
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、可食性被覆材によって被覆されており、該被覆によって崩壊遅延の発生が抑制されている崩壊遅延抑制被覆粉末であって、
被覆の単位である崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に該可食性被覆材で被覆されていることを特徴とする。
【0025】
本明細書において、「崩壊遅延」とは、口腔内、胃内、腸内等での錠剤の溶解又は崩壊に時間を要することを言う。例えば、後述する実施例に示すように、日本薬局方17局に準拠して崩壊試験を行ったときに、崩壊時間が30分以内であった錠剤を「崩壊遅延が抑制された錠剤」、30分を超えた錠剤を「崩壊遅延が抑制されなかった錠剤(崩壊遅延が惹起された錠剤)」と判定する。
また、本明細書において、「崩壊遅延惹起粉末」とは、崩壊遅延の発生を起こし易い成分の粉末を言う。崩壊遅延惹起粉末の例として、ゲル化を起こし易い水溶性物質(すなわち、水溶性が高く水と接触してゲル化し易い粉末)が挙げられる。このような「ゲル化を起こし易い水溶性物質」の例として、水溶性高分子化合物等が挙げられる。「崩壊遅延惹起粉末」は、わざわざ崩壊遅延を抑制しようとする粉末であるから、錠剤の場合、通常は該錠剤の有効成分の粉末である。
【0026】
上記崩壊遅延惹起粉末の成分の具体例として、例えば、多糖;コラーゲン、コラーゲンペプチド、γ-ポリグルタミン酸等のペプチドやタンパク質;等が挙げられる。
【0027】
上記多糖の具体例として、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケタラン硫酸、ヘパリン等のムコ多糖であるグリコサミノグリカン若しくは塩又はそれらの誘導体;キチン、キトサン等のアミノ糖類;デキストリン;アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム等の増粘性多糖類;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体;等が挙げられる
該崩壊遅延惹起粉末は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0028】
ここで、崩壊遅延惹起粉末の質量平均粒径(体積平均粒径)は、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。また、下限は特に限定はないが、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。
【0029】
ここでの「崩壊遅延惹起粉末」とは、
図1(a)に示したような、それ以上には解砕できない一次粉末1でもよく、
図1(c)に示したような、解砕して一次粉末1aになるような二次粉末1でもよい。すなわち、ここでの「崩壊遅延惹起粉末」は、一次粉末1aが複数個で形成された二次粉末1でもよい。
例えば、
図1(c)に示したように、「崩壊遅延惹起粉末」自体が二次粉末1であって、被覆の単位である「崩壊遅延惹起粉末1」の表面が個々に該可食性被覆材3で被覆されているような形態は本発明に含まれるが、
図2に示したように、被覆中に造粒(凝集)が起こって、例えば「崩壊遅延惹起粉末1」同士の隙間に可食性被覆材3が完全に入り込む等して「崩壊遅延惹起粉末1」の表面が個々に該可食性被覆材で被覆されていないような形態は含まれない。
【0030】
崩壊遅延惹起粉末には、厳密に「一次粉末」と言えるものはむしろ少ないことに鑑みて、上記のように定義したものであり、上記「解砕」とは、通常の転動流動層法で崩れる程度の現象を言う。通常の転動流動層法で崩すことのできないもので、一次粉末ではないものは、二次粉末であって、本発明における個々の「粉末」、すなわち個々の崩壊遅延惹起粉末である。
【0031】
一方、
図2に示したように、可食性被覆材で被覆しつつ1段で(1工程で)顆粒状等にしたような形態や、被覆しつつ造粒したような形態は、被覆の単位である「崩壊遅延惹起粉末1」の表面が、個々に可食性被覆材3で被覆されていないので、本発明には含まれない。かかる形態では、被覆の単位である「崩壊遅延惹起粉末」一つ一つが個々に被覆されていないので、崩壊遅延を抑制する効果が得られない場合がある。
【0032】
また、被覆後のものを保存中(運搬やハンドリング等が含まれる)の衝撃;打錠する際の衝撃;等によって、該顆粒や「造粒されてなる粒子」が割れたときに、崩壊遅延惹起粉末1の新たな破断面が露出して、そこから、水、唾液、胃液、腸液等が、粉末内に進入して、ゲル化して、粉末内への水等の更なる進入を妨害し、崩壊遅延を抑制する効果が得られない場合等がある。
【0033】
ただし、「崩壊遅延惹起粉末1」を個々に被覆した後に、あらためて(好ましくは賦形剤等を加えて)顆粒状にしたような形態は、「本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末」の寄り集まりに過ぎないので本発明に含まれる。また、当然に前記した本発明の効果(崩壊遅延抑制)を奏するので、本発明に含まれる(
図1(b))。
後述するが、このように「崩壊遅延惹起粉末1」を個々に被覆することに適した装置としては、転動流動層型のコーティング装置、側方スプレー式流動層型のコーティング装置、解砕整粒機構付流動層型のコーティング装置、ワースター流動層法転動流動層型のコーティング装置等が挙げられる。
【0034】
崩壊遅延惹起粉末自体を直接的に可食性被覆材で被覆することが好ましい。崩壊遅延惹起粉末を担持体、吸着体等に担持、吸着等したものを、粉砕等して粉体にしたものの被覆は、本発明から排除はされないが、工程が複雑であること、担持体や吸着体の内部で崩れ易いこと、崩壊遅延惹起粉末自体が非常に溶解し易くなってしまうこと、担持体や吸着体により崩壊遅延惹起粉末自体の含有濃度が低下してしまうこと等の点から、崩壊遅延惹起粉末自体を被覆装置に投入して可食性被覆材で被覆することが好ましい。
【0035】
上記可食性被覆材は食用であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。該可食性被覆材の例として、多糖、オリゴ糖、単糖、糖アルコール、タンパク質、有機酸、脂肪酸エステル、乳化剤、油脂、ワックス、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
該可食性被覆材は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
また、崩壊遅延抑制の効果を発揮し易い点から、崩壊遅延惹起粉末が「水溶性が高く水と接触してゲル状の被膜を形成し易い粉末」の場合には、可食性被覆材として、水不溶性の可食性被膜材や融点が30℃以上である可食性被膜材を用いることが好ましい。
水不溶性の可食性被膜材の例として、ワックス、ゼイン等が挙げられる。
融点が30℃以上である可食性被膜材の例として、ゼラチン、硬化油等の油脂やペクチン等が挙げられる。
【0037】
上記多糖又はその誘導体の例として、澱粉、澱粉分解物、加工澱粉、デキストリン、イソマルトデキストリン、シクロデキストリン、ガム、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩、ペクチン、セルロース、寒天、プルラン、カードラン、フコイダン等が挙げられる。上記多糖は、粉末化したものでもよく、ナノ粉末にまで微粒化されたものでもよい。
【0038】
更に、上記「多糖を化学修飾等した糖誘導体」としては、多糖の、ヒドロキシプロピル化物、メチル化物、ヒドロキシプロピルメチル化物、カルボキシメチル化物、加水分解物、又は、発酵物等が好ましいものとして挙げられる。
具体的には、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉等が、本発明の効果を十分に発揮できる点等から特に好ましいものとして挙げられる。これらは(一部)塩であってもよい。
また、上記多糖の発酵物としては、例えば、キサンタンガム等が挙げられる。
【0039】
オリゴ糖とは二糖以上の糖を言う。上記オリゴ糖としては、例えば、大豆オリゴ糖、マルチトール、乳糖、ショ糖、ラクチュロース、マルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。
また、上記単糖としては、例えば、グルコース(ぶどう糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マンノース等が挙げられる。
上記糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、エリスリトール、マルチトール等が挙げられる。
【0040】
上記タンパク質としては、ゼイン、ゼラチン、グリアジン、ホルデイン、セカリン等のプロラミン;等が挙げられる。
【0041】
上記有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、酒石酸、これらのカルシウム塩等の有機酸塩;ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等の脂肪酸;等が挙げられる。
上記脂肪酸エステルとしては、上記脂肪酸等が結合したグリセリン脂肪酸エステル;「所謂『油脂』と言われているもの」;等が挙げられる。油脂には植物硬化油等の硬化油が含まれる。植物硬化油は、菜種油等の植物油脂に水素を付加させることによって得ることができる。
上記乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
上記ワックスとしては、水溶性セラック等のセラック、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス等が挙げられる。
【0042】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末においては、上記崩壊遅延惹起粉末100質量部に対して、上記可食性被覆材が、0.1質量部以上500質量部以下で含有されていることが、均一な被膜性、崩壊遅延の抑制等の点から好ましい。
上記点から、崩壊遅延惹起粉末100質量部に対して、可食性被覆材が、より好ましくは0.3質量部以上200質量部以下であり、更に好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、特に好ましくは3質量部以上60質量部以下であり、最も好ましくは10質量部以上40質量部以下である。
【0043】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、水中での崩壊遅延、日本薬局方崩壊試験第1液中での崩壊遅延及び/又は日本薬局方崩壊試験第2液中での崩壊遅延が抑制されているものである。なお、「水又は日本薬局方崩壊試験第1液若しくは日本薬局方崩壊試験第1液」を、単に「水等」と略記することがある。
その結果、本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、コップ内の水中、口腔内の唾液中、胃の中の胃液中、腸の中の腸液中等で、粉末が継粉(ままこ)になり難く、該粉末を錠剤、顆粒等に加工したときに、該「錠剤、顆粒等」の崩壊が遅延するのを抑制することができる。
【0044】
<錠剤>
本発明の錠剤は、上記崩壊遅延抑制被覆粉末を含有することを特徴とする。該崩壊遅延抑制被覆粉末は、打錠によって崩れる場合があるが、本発明における上記「粉末を含有する」には、崩れた場合も本発明の範囲に含まれる。
【0045】
また、本発明の錠剤は、後述する「錠剤の製造方法」を使用して製造されるようなものであることを特徴とする。
【0046】
本発明の錠剤は、上記崩壊遅延抑制被覆粉末に加えて、「その他の成分」を含有することができる。
上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。「その他の成分」の例として、賦形剤若しくは結合剤、別途の崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等が挙げられる。
【0047】
打錠して得られる錠剤全体に対する上記崩壊遅延惹起粉末の含有量は、10質量%以上98質量%以下が好ましく、15質量%以上95質量%以下がより好ましく、25質量%以上90質量%以下が更に好ましく、40質量%以上85質量%以下が特に好ましい。
上記範囲内であると、本発明に依らない場合には崩壊遅延が起り易いので、該崩壊遅延を抑制する本発明の効果が顕著に表れる(本発明の崩壊遅延抑制効果を奏し易い);十分な硬度を有する錠剤が得られる;錠剤の大きさが小さくてすむ;1回の服用個数や1日の服用回数が少なくてすむ;等の効果を有する。
【0048】
本発明の錠剤は、水等が錠剤内部に侵入(浸透)し易くなる等で、「賦形剤若しくは結合剤」の粉末(以下、括弧内を単に「賦形剤」と略記する)を含有することが好ましい(
図3A参照)。
該賦形剤としては、可食性の「水に溶けない又は水に溶け難い化合物」が挙げられ、賦形剤粉末9としては、可食性の「水に溶けない又は水に溶け難い物質の粉末」が挙げられる。該賦形剤粉末9は、「水に溶けない又は水に溶け難い物質の粉末」であるために、水中での崩壊を促進する。
【0049】
ここで、上記賦形剤粉末の質量平均粒径(体積平均粒径)は、特に限定はないが、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。また、下限は特に限定はないが、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。
【0050】
該賦形剤としては、具体的には、例えば、結晶セルロース;糖アルコール、乳糖、ショ糖、マンニトール、増粘多糖類等が挙げられるが、限定されるものではない。本発明の効果を十分に発揮できる点等で、成形性及び吸水性を有する賦形剤が好ましい。
【0051】
上記崩壊遅延惹起粉末と上記賦形剤粉末との合計含有量は、錠剤全体に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
打錠して得られる錠剤全体に対する上記賦形剤粉末の含有量は、1質量%以上80質量%以下が好ましく、5質量%以上70質量%以下がより好ましく、10質量%以上60質量%以下が特に好ましい。
上記賦形剤粉末の含有量が上記範囲内であると、通常は、錠剤の殆どが上記崩壊遅延惹起粉末と上記賦形剤粉末とからなっているので、上記「錠剤全体に対する崩壊遅延惹起粉末の含有量が上記した範囲であるときの効果」と同様の効果が得られる。
【0052】
また、本発明の錠剤は、崩壊剤を含有させることが好ましい。崩壊剤の例として、寒天;α化でんぷん;カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca);カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース);低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC);デンプングリコール酸ナトリウム等が挙げられる。寒天等の崩壊剤を含有させることにより、水等が錠剤内部に侵入(浸透)したときに寒天自体が膨潤して錠剤の崩壊を促進させることができる。
【0053】
錠剤の大きさは、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができるが、錠剤直径は、1mm以上20mm以下が好ましく、2mm以上18mm以下がより好ましく、3mm以上15mm以下が特に好ましい。
また、錠剤の質量は、150mg以上2000mg以下が好ましく、180mg以上1500mg以下がより好ましく、200mg以上1000mg以下が特に好ましい。
【0054】
上記崩壊遅延惹起粉末が、ゲル化を起こし易い水溶性物質の粉末、水溶性が高く水と接触してゲル化し易い粉末である場合、
図3Aに、本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末6(
図1に示す粉末)を含む錠剤を水に浸漬したときの錠剤への水の進入経路(矢印)を示す。本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末6は、崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に可食性被覆材3によって被覆されていることにより、水と接触してもゲル化せず、ゲル状膜又は高粘性液体膜8を形成しない。従って、例えば継粉(ままこ)ができ難く、水は容易に錠剤内に進入するため、錠剤の崩壊が促進される。
言い換えると、本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末6は、「錠剤表面に接触した(少量の水)に崩壊遅延惹起粉末が溶解して超高粘度の液体ができ、該液体が形成するゲル状膜又は高粘性液体膜8のために、該錠剤の内部に更なる水が進入し難くなる」と言う現象が抑制される。
【0055】
一方、
図3Bには、未被覆崩壊遅延惹起粉末7(
図2に示す粉末)を含む錠剤を水に浸漬したときの錠剤への水の進入経路(矢印)を示す。未被覆崩壊遅延惹起粉末7は、水と接触すると直ぐにゲル状膜又は高粘性液体膜8を錠剤の表面近傍に形成する。従って、該ゲル状膜又は高粘性液体膜8により水の錠剤内への進入が妨害されて、錠剤が崩壊し難くなる。
【0056】
<崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法>
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法は、可食性被覆材によって被覆し、該被覆によって崩壊遅延の発生を抑制する崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法であって、転動流動層法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、又は、ワースター流動層法を用いて、被覆の単位である崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に該可食性被覆材で被覆することを特徴とする。
【0057】
上記被覆方法に用いる装置としては特に限定はなく、市販のものも好適に用いられる。
転動流動層法に用いられる装置としては、以下に限定はされないが、(株)パウレック製のMP、フロイント産業(株)製のスパイラルフロー等が挙げられ、側方スプレー式流動層法に用いられる装置としては、フロイント産業(株)製のFL等が挙げられ、解砕整粒機構付流動層法に用いられる装置としては、(株)パウレック製のSFP等が挙げられ、ワースター流動層法に用いられる装置としては、(株)パウレック製のGPCG等が挙げられる。
【0058】
崩壊遅延抑制被覆粉末の製造に際しては湿式法で被覆するので、該被覆に先立って被覆液を調製する。可食性被覆材を溶解又は微分散する溶媒・分散媒は、該可食性被覆材が溶解及び/又は分散し、経口に適しているものであればどのようなものでもよいが、蒸留水、脱塩水、純水、pH調整水等の水;エタノール;それらの混合溶媒等を用いることが好ましい。
【0059】
すなわち、本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法は、上記可食性被覆材を、水及び/又はエタノールを主成分とする可食性溶媒に溶解若しくは微分散して被覆液を調製し、前記崩壊遅延惹起粉末に該被覆液を付与することによって、該崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に該可食性被覆材で被覆することが好ましい。ここで、「水及び/又はエタノールを主成分とする」とは、「それらの混合であってもよい水とエタノール」の合計が、可食性溶媒に対して85質量%以上であることを言い、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0060】
崩壊遅延抑制被覆粉末は、
図1(a)に示したように、該被覆粉末のそれぞれが単独で存在していてもよく(存在している場合もあれば)、当然、
図1(b)に示したように、該被覆粉末が複数個凝集して存在していてもよい(存在している場合もある)。
本発明の態様としては、
図1(a)(b)のように崩壊遅延惹起粉末が一次粉末であれ、
図1(c)のように崩壊遅延惹起粉末が二次粉末であれ、該崩壊遅延惹起粉末1個ずつがそれぞれ表面コートされている。
【0061】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末は、可食性被覆材によって、2層以上で被覆されていてもよいが、本発明の上記効果を奏するために、1層で被覆されていることが好ましい。1層で被覆されていると、可食性被覆材の崩壊遅延抑制被覆粉末全体に占める割合が低くなり優れたものができる、製造中の切り替え洗浄がない、製造コスト的に有利である等の効果がある。
【0062】
<錠剤の崩壊遅延抑制方法>
本発明の錠剤の崩壊遅延抑制方法は、
水溶性の崩壊遅延惹起粉末、及び、「該崩壊遅延惹起粉末より水溶性は低いが水親和性がある賦形剤粉末」を含有する錠剤の崩壊遅延を抑制する方法であって、
該崩壊遅延惹起粉末の表面を、個々に可食性被覆材で被覆することによって、該錠剤が水と接触したときに、「該錠剤の表面近傍に存在する該崩壊遅延惹起粉末」と該水とで該錠剤の表面近傍に形成される「ゲル状膜又は高粘性液体膜」の形成を阻害して、該錠剤の内部まで、水が進入し易くすることを特徴とする。
【0063】
上記水には、水、唾液、胃液、腸液、日本薬局方崩壊試験第1液、日本薬局方崩壊試験第2液等が含まれる。
また、上記「高粘性液体膜」とは、20℃における粘度が1.0×103mPa・s以上1.0×106mPa・s以下の粘度を有する液状膜を指す。
【0064】
図3Aに示すように、崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に可食性被覆材3によって被覆されていることにより、水と接触しても崩壊遅延惹起粉末はゲル状膜又は高粘性液体膜を錠剤の表面近傍に形成しないため、該錠剤の内部まで、水が浸入し易くなり、錠剤の崩壊遅延が抑制される。
一方、
図3Bに示すように、未被覆崩壊遅延惹起粉末7は、水と接触すると直ぐにゲル状膜又は高粘性液体膜8を錠剤の表面近傍に形成するので、該ゲル状膜又は高粘性液体膜8により水の錠剤内への進入が妨害されて、錠剤が崩壊し難くなる。
【0065】
錠剤の速崩壊化を促進する点等で、上記錠剤が水と接触したときに、該錠剤の表面近傍に形成される「ゲル状膜又は高粘性液体膜」の形成を阻害して、該錠剤の内部まで「水親和性がある上記賦形剤粉末による水の導線」を確保することが好ましい。
【0066】
錠剤内部への水の進入を促進し、錠剤の速崩壊させることができる点等で、上記可食性被覆材は、上記崩壊遅延惹起粉末より水溶性が低いものであることが好ましい。
【0067】
錠剤の速崩壊化を促進する点等で、上記賦形剤粉末は、上記崩壊遅延惹起粉末より水溶性は低いが水親和性を有していれば特に限定されない。錠剤の速崩壊化を促進する点等で、成形性及び吸水性を有する賦形剤粉末が好ましく、例えば、結晶セルロース、糖アルコール、乳糖、ショ糖、マンニトール、増粘多糖類等が挙げられる。
【0068】
崩壊遅延惹起粉末の表面の被覆方法は、各粉末の表面が被覆されればよく、特に限定されない。例えば、転動流動層法、流動造粒法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、撹拌造粒法、転動造粒法、押出造粒法、噴霧乾燥造粒法、湿式破砕造粒法、ロール圧縮造粒法、溶融造粒法又は、ワースター流動層法を用いて、被覆の単位である上記崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に可食性被覆材で被覆することができる。
本発明の効果を十分に発揮できる点等で、転動流動層法、流動造粒法、側方スプレー式流動層法、解砕整粒機構付流動層法、ワースター流動層法を用いることが好ましい。
【0069】
<錠剤の製造方法>
本発明の錠剤の製造方法は、上記「崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法」を使用することを特徴とする。
【0070】
また、本発明の錠剤方法は、上記「錠剤の崩壊遅延抑制方法」を錠剤の崩壊遅延抑制方法を使用した錠剤の製造方法であって、
上記崩壊遅延惹起粉末の表面を個々に可食性被覆材で被覆して崩壊遅延抑制被覆粉末を得るステップと、
少なくとも、該崩壊遅延抑制被覆粉末、及び、上記賦形剤粉末を混合して打錠するステップと、
を少なくとも含むことを特徴とする。
【0071】
上記「崩壊遅延抑制被覆粉末を得るステップ」では、上述の「崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法」と同様の手段を用いることができる。
【0072】
上記「崩壊遅延抑制被覆粉末を打錠するステップ」では、公知の打錠機を用いて打錠することができる。
打錠圧力は、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができる。本発明の効果を十分に発揮できる点等で、100kgf以上5000kgf以下が好ましく、200kgf以上3000kgf以下がより好ましく、500kgf以上1500kgf以下が特に好ましい。
【0073】
上記錠剤の製造方法は、該「崩壊遅延抑制被覆粉末の製造方法」に加えて、その他の工程を含むことができる。
上記「その他の工程」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。「その他の工程」の例として、乾燥工程、外周のコーティング工程等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下に、製造例及び評価例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの製造例及び評価例に限定されるものではない。
製造例及び評価例中の「%」は、それが質量に関するものは「質量%」を意味する。
【0075】
製造例1
コンドロチン硫酸塩粉末(SCP-NBC、マルハニチロ株式会社製)500gを転動流動層型コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラー回転数300rpm、吸気温度80℃、吸気量0.6m3/minに設定し当該粉末を流動した。900mLの水に100gの水溶性セラック(株式会社岐阜セラツク製造所)を溶解した被覆液を当該粉末に噴霧しながら被覆(表面コート)を行い、体積平均粒径が100μmの「水溶性セラックコート化コンドロイチン硫酸塩粉末」を530g得た。被覆前後で体積平均粒径は約1.1倍となった。
【0076】
次に、上記で得られた粉末18g(体積平均粒径120μm)、結晶セルロース76g、寒天5g及びステアリン酸マグネシウム1gを、32メッシュサイズの網目を有する篩にて篩通し、次いでこの混合粉末を、網目が500μmの篩にて篩過した。得られた混合粉末を、φ9.0mmサイズの杵臼をセットした打錠機SEワークプレス(岡田精工株式会社製)を用いて、打錠圧力1000kgfにて打錠化を行った。質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0077】
製造例2
ヒアルロン酸ナトリウム粉末(ヒアルロン酸RV、日本新薬株式会社製)500gを転動流動層型コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラー回転数300rpm、吸気温度80℃、吸気量0.6m
3/minに設定し当該粉末を流動した。900mLの水に水溶性セラック100gを溶解した被覆液を当該粉末に噴霧しながら被覆(表面コート)を行い、体積平均粒径が100μmの「水溶性セラックコート化ヒアルロン酸ナトリウム粉末」を525g得た。被覆前後で体積平均粒径は約1.1倍となった。ヒアルロン酸ナトリウム粉末及び「水溶性セラックコート化ヒアルロン酸ナトリウム粉末」の電子顕微鏡画像を
図4に示す。
次に、製造例1と同様の条件で打錠し、質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0078】
製造例1及び製造例2の錠剤は、微粒子コーティングした粉末、すなわち、粉末被覆の単位である崩壊遅延惹起粉末の表面が個々に該可食性被覆材で被覆されている崩壊遅延抑制被覆粉末を打錠したものである。
【0079】
製造例3
ヒアルロン酸ナトリウム粉末500gを転動流動層型コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラー回転数300rpm、吸気温度80℃、吸気量0.6m3/minに設定し当該粉末を流動した。900mLの70%エタノールに100gのゼイン(ツェインDP、小林香料株式会社)を溶解した被覆液を、転動流動層型コーティング装置中のエタノール濃度が3.5%以上にならないように噴霧しながら被覆(表面コート)を行い、体積平均粒径が115μmの「ゼインコート化ヒアルロン酸ナトリウム粉末」を503g得た。被覆前後で体積平均粒径は約1.15倍となった。
次に、製造例1と同様の条件で打錠し、質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0080】
製造例4
ヒアルロン酸ナトリウム粉末500gを転動流動層型コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラー回転数300rpm、吸気温度80℃、吸気量0.6m3/minに設定し当該粉末を流動した。被覆液として、100gのペクチン(LMペクチンOF100C、カーギル株式会社製)を80℃の水900mL中に加熱溶解させ、80℃のリボンヒーターで加熱した送液管及び噴霧ノズルを用いて被覆液を噴霧しながら被覆(表面コート)を行い、体積平均粒径が100μmの「ペクチンコーティング化ヒアルロン酸ナトリウム粉末」を533g得た。被覆前後で体積平均粒径は約1.1倍となった。
次に、製造例1と同様の条件で打錠し、質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0081】
製造例5
ヒアルロン酸ナトリウム粉末500gを転動流動層型コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラー回転数300rpm、吸気温度80℃、吸気量0.6m3/minに設定し当該粉末を流動した。被覆液として、菜種硬化油(ラブリワックス102H、フロイント産業株式会社製)を80℃の水で湯せんし溶解させた。溶解した菜種硬化油を80℃のリボンヒーターで加熱した送液管及び噴霧ノズルを用いて被覆液100gを噴霧しながら被覆(表面コート)を行い、体積平均粒径が100μmの「菜種硬化油コーティング化ヒアルロン酸ナトリウム粉末」を545g得た。被覆前後で体積平均粒径は約1.1倍となった。
次に、製造例1と同様の条件で打錠し、質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0082】
製造例51
被覆されていないコンドロイチン硫酸塩粉末15g(体積平均粒径120μm)、結晶セルロース79g、寒天5g及びステアリン酸マグネシウム1gを、32メッシュサイズの網目を有する篩にて篩通し、次いで、この混合粉末を、網目が500μmの篩にて篩過した。得られた混合粉末を、φ9.0mmサイズの杵臼をセットした打錠機SEワークプレス(岡田精工株式会社製)を用いて、打錠圧力1000kgfにて打錠化を行った。質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0083】
製造例52
製造例51に記載の「被覆されていないコンドロイチン硫酸塩粉末(体積平均粒径120μm)」を「被覆されていないヒアルロン酸ナトリウム粉末(体積平均粒径120μm)」に変更した以外は、製造例51と同様に打錠して、質量が約300mgの錠剤を10粒作製した。
【0084】
評価例
製造例1~5、51及び52で得られた錠剤の硬度を測定した。また、錠剤の崩壊試験は、日本薬局方17局に準拠して実施した。また、人工唾液、人工胃液、人工腸液でも錠剤の崩壊試験を行った。結果を表1に示す。
表1中、「崩壊試験」は、崩壊時間が30分以内を「○(崩壊遅延抑制錠剤として実用的である)」、30分を超えるものを「×(崩壊遅延抑制錠剤として実用的でない)」と判定した。
【0085】
人工唾液として帝人ファーマ株式会社製のサリベートを使用した。0.08mMタウロコール酸、0.02mMレシチン、34.2mM NaClを含む溶液を調製し、塩酸でpH1.2に調整した溶液を人工胃液として使用した。0.08mMタウロコール酸、55mMマレイン酸、2mMレシチン、81.6mM水酸化ナトリウム、125mM NaClを含む溶液を調製し、pH6.8に調整した溶液を人工腸液として使用した。
【0086】
【0087】
製造例1~5の錠剤は、水、日本薬局方崩壊試験第1液、日本薬局方崩壊試験第2液、人工唾液、人工胃液、人工腸液の何れでも浸漬させてから30秒以内に崩壊した。一方、製造例51~52の錠剤は、浸漬させてから120分経過しても、錠剤は崩壊しなかった。
【0088】
図5には、製造例2(
図5中(1))及び製造例52(
図5中(2))を水に浸漬させてから10分後(
図5A)及び2時間(
図5B)の錠剤の形態を示す。
製造例2の錠剤は、水に浸漬させてから30秒以内に、
図5Aの(1)及び
図5Bの(1)に示すように崩壊した。一方、製造例52の錠剤は、水に浸漬させてから2時間経過しても崩壊が起こらなかった(
図5Bの(2)参照)。
【0089】
従って、製造例1~5のように、崩壊遅延を惹起し易い粉末でも、被覆の単位である個々の粉末の表面を可食性被覆材で被覆することによって、該錠剤が水と接触したときに、「該錠剤の表面近傍に存在する該崩壊遅延惹起粉末」と該水とで該錠剤の表面近傍に形成される「ゲル状膜又は高粘性液体膜」の形成を阻害して、該錠剤の内部まで、水が進入し易くすることで崩壊遅延の発生を抑制できることが分かった。また、水、日本薬局方崩壊試験第1液、日本薬局方崩壊試験第2液、人工唾液、人工胃液、人工腸液の何れでも錠剤の崩壊遅延を抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の崩壊遅延抑制被覆粉末や該崩壊遅延抑制被覆粉末を含有する錠剤は、医療用医薬品分野、一般用医薬品分野、健康食品分野、一般食品分野等に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0091】
1 崩壊遅延惹起粉末(一次、二次粉末を含む)
1a 崩壊遅延惹起粉末(一次粉末)
3 可食性被覆材
6 崩壊遅延抑制被覆粉末
7 (未被膜)崩壊遅延惹起粉末
8 ゲル状膜又は高粘性液体膜
9 賦形剤粉末