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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】炭素質フィラー含有ポリオール類分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20230411BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230411BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230411BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08L71/00 Y
C08K3/04
C08G18/48
C08G18/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022565936
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2022035840
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021177079
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177162
【氏名又は名称】三洋貿易株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521475484
【氏名又は名称】日本微粒子材料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 孝陽
(72)【発明者】
【氏名】内野 洋之
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108793119(CN,A)
【文献】特表2019-503954(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0092392(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第102558828(CN,A)
【文献】特開2007-308582(JP,A)
【文献】特開平10-195167(JP,A)
【文献】特開平10-195166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08G18/00- 18/87
C08G71/00- 71/04
C09C 1/00- 3/68
C09D15/00- 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質フィラーをポリオール類に配合してなる炭素質フィラー含有ポリオール類分散液であって、
前記炭素質フィラーは、固定炭素80%以上、揮発分8%未満、灰分4%未満の成分含有量(無水ベース重量)であり、
前記炭素質フィラーは、外部比表面積あたりのフェノール性ヒドロキシ基が0.005mmol/m以上であり、
前記炭素質フィラーは、平均粒子径(D50)が0.1~100μmである炭素系材料である、
炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項2】
前記炭素質フィラーの外部比表面積あたりのカルボキシル基が0.001mmol/m以下である請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項3】
前記炭素質フィラーの真比重が1.5以下である請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項4】
前記炭素質フィラーを、分散剤を用いることなく、ポリオール類に分散してなる請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項5】
前記炭素質フィラーが、バイオ炭素から選択される炭素質材料である請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項6】
前記炭素質フィラーがリグニン・セルロース・ヘミセルロースを主体とするバイオ原料又は低炭化度褐炭を1000℃以下の炭化で得られる炭素質材料である請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項7】
前記炭素質フィラーが、炭素質材料にカーボンブラックを担持してなる請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項8】
前記ポリオール類100重量部に対して、炭素質フィラーを1~80重量部含有する、請求項1に記載の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載のポリオール類分散液が、原料の一部または全部として反応して得られる熱硬化性樹脂。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載のポリオール類分散液が、原料の一部または全部として反応して得られるフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂原料またはエポキシ樹脂。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載のポリオール類分散液を、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリマーポリオールおよびそれらの変性品又は混合品からなる群から選択されるポリオール類一種以上と混合し、ポリイソシアネート類と反応してなるポリウレタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質フィラーが保有する電気的特性や着色性などの特性を損なわず、分散剤を用いることなくポリウレタンなどの樹脂の原料あるいは樹脂の中間体であるポリオール類に炭素質フィラーを分散してなるポリオール類分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明におけるポリオール類とは、樹脂の原料あるいは中間体となる多価アルコールであり、ポリウレタンのほかフェノール樹脂、ユリア樹脂やメラミン樹脂、変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂の原料あるいは中間体として用いられている。
ポリウレタンは、ポリオール類とポリイソシアネート類を反応させたもので、成形性に優れ、様々な形態と幅広い機械特性を持つことから、その用途はグラビアインキ、合成皮革、エラストマー、塗料、接着剤、コーティング、緩衝材など幅広く用いられている。一方で、ポリウレタンは、光や熱等により分解されやすく、また帯電しやすい等の短所も持ち合わせている。これらの短所を補うために、あるいは導電性や補強性等の諸特性を付与するために炭素質フィラーを配合する手法が、各種用途において実施されている。
また、フェノール樹脂、ユリア樹脂やメラミン樹脂、変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂原料、エポキシ樹脂についてもポリウレタンと同様な目的で、炭素質フィラーを配合する手法が、各種用途において実施されている。
しかし、例えばポリウレタンに炭素質フィラーとして代表的なカーボンブラックを多量に配合しようとしても、カーボンブラックとポリオール類の分散性が悪いことから、通常、配合量は1%程度が上限とされている。これは、カーボンブラック表面には、ポリオール類との親和性を高める官能基が少なく、ポリオール類との親和性が良くない上に、粒子径が数十~数百nmと小さく、ポリオール類中ではカーボンブラック同士が凝集するためである。
【0003】
こうした事情から、ポリオール類に炭素質フィラーとして代表的なカーボンブラックをより多く分散させるために、種々の提案がなされている。
カーボンブラックと馴染みが良いジエン系共重合体(ゴム)やジエンポリオールを配合する手法が提案されている(例えば、特許文献1、3)。
顔料樹脂分散技術に基づいた界面活性剤などの分散剤や変性成分や活性成分をポリウレタン原料に添加する手法も提案されている(例えば、特許文献2、4、5、6、8)。しかし、分散液などをポリオール類で希釈した場合やイソシアネート類と混合した場合に分散性が保持されず、ポリウレタン中での安定性が損なわれる恐れがある。また分散剤などの影響により、カーボンブラックを添加することにより期待する耐候性、導電性及び微細均一分散により得られる補強性などの特性が十分発現しない恐れがあり、ブリードアウトによる表面の曇りの懸念もある。
カーボンブラックを表面改質する手法も提案されている(例えば、特許文献7)。しかし、本来反応性が低く不活性なカーボンブラックの表面と化学的な反応を起こさせる必要があることから、大幅なコスト高となる他、カーボンブラック表面の一部が改質されるだけであることから、ポリオール中に均一分散させうるカーボンブラック量に依然として限界がある。
なお、一般のカーボンブラックは、ポリオール類の1.5倍以上の比重であり、比重差を考慮した混合・撹拌操作や貯蔵安定性の配慮も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平1-37407号公報
【文献】特公昭61-23939号公報
【文献】特公平3-69301号公報
【文献】特許第3092533号公報
【文献】特許第4343064号公報
【文献】特許第4925744号公報
【文献】特許第5120747号公報
【文献】特許第6795040号公報
【0005】
そこで、本発明者らは、炭素質フィラー本来の特性を損なう可能性がある表面の化学的変化を施したり、分散剤などを用いたりすることなく、ポリオール類中で良好な分散性を示す炭素質フィラーの形態について鋭意研究を行ったところ、特定の炭素質フィラーをポリオール類に配合することによって、その目的を達成することを見出し、本発明を完成した。
【一般的開示】
【0006】
すなわち、本発明は、炭素質フィラーをポリオール類に配合してなる炭素質フィラー含有ポリオール類分散液を提供する。更に、本発明は、炭素質フィラーを分散した熱硬化性樹脂を提供する。更に、本発明は、炭素質フィラーを分散したポリウレタンを提供する。炭素質フィラーは、JIS-M 8812:2004で定義される工業分析の固定炭素量が80%以上、揮発分8%未満、灰分4%未満の成分含有量(無水ベース重量)であってよい。炭素質フィラーは、外部比表面積あたりのフェノール性ヒドロキシ基が0.005mmol/m以上であってよい。炭素質フィラーは、平均粒子径(D50)が0.1~100μmである炭素系材料であってよい。
上記において、炭素質フィラーの外部比表面積あたりのカルボキシル基が0.001mmol/m以下であってよい。
上記において、炭素質フィラーの真比重が1.5以下であってよい。
上記において、炭素質フィラーを、分散剤を用いることなく、ポリオール類に分散してよい。
上記において、炭素質フィラーが、バイオ炭素から選択される炭素質材料であってよい。
上記において、炭素質フィラーがリグニン・セルロース・ヘミセルロースを主体とするバイオ原料又は低炭化度褐炭を1000℃以下の炭化で得られる炭素質材料であってよい。
上記において、炭素質フィラーが、炭素質材料にカーボンブラックを担持してよい。
上記において、ポリオール類100重量部に対して、炭素質フィラーは1~80重量部含有されてよい。
本発明は、上記のポリオール類分散液をポリイソシアネート類と反応してなるポリウレタンを更に提供するものであってよい。
本発明は、上記のポリオール類分散液を原料として反応してなる熱硬化性樹脂を更に提供するものであってよい。
本発明は、上記のポリオール類分散液を、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリマーポリオールおよびそれらの変性品又は混合品あるいはそれらを部分的に重合させたプレポリマーからなる群から選択されるポリオール類一種以上と混合し、ポリイソシアネート類と反応してなるポリウレタンであってよい。
本発明は、上記のポリオール類分散液を、フェノール樹脂やその変性物およびそれらの中間体、ユリア樹脂やメラミン樹脂の中間体、変性不飽和ポリエステル樹脂中間体、アルキド樹脂原料およびエポキシ樹脂原料のビスフェノールA型プレポリマーやウレタンプレポリマーであってよい。
【0007】
本発明によれば、炭素質フィラー含有ポリオール類分散液は、炭素質フィラーが表面の官能基にフェノール性ヒドロキシ基を多く含むことから、ポリオール類に対して良好な分散性を示し、ポリウレタン中に分散剤を用いることなく容易に炭素質フィラーを多量に配合することができ、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂として機械特性、耐候性、帯電防止性、着色性、導電性等の炭素質フィラーに期待する諸特性をより強く発現することができる。また、本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液は、工程上特段の改良を施すことなく単体のポリオール類と同様な取り扱いができ、制限なく希釈して使用することもでき、炭素質フィラー含有熱硬化性樹脂の原料として、特に炭素質フィラー含有ポリウレタンの原料として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液において、炭素質フィラーは、工業分析の固定炭素量が80%以上、揮発分8%未満、灰分4%未満の成分含有量(無水ベース)であり、外部比表面積あたりのフェノール性ヒドロキシ基(Ph性OH)が0.005mmol/m以上であり、平均粒子径(D50)が0.1~100μmである炭素系材料である。
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液において、炭素質フィラーは、上述した物性を満たす炭素系材料であり、この炭素系材料を担体とし、カーボンブラックを担持してなるものも用いられる。すなわち、本発明において、炭素質フィラーは、カーボンブラックを担持していないもの、又はカーボンブラックを担持したもののいずれであってもよい。
【0009】
本発明で炭素質フィラーとして用いる炭素系粒子は、その化学構造として炭素六員環構造がある程度発達しており、ポリオール類と親和性が高いヒドロキシ基が炭素六員環に直接結合していることが有効である。これは水などに分散させるための表面性状としてカルボキシル基(COOH)が有効であるとする技術とは全く異なる。
本発明においては、JIS K6217-7、ISO18852、ASTM D6556のいずれの規格でも定義されている統計的厚さ比表面積(STSA)として定義されるミクロ孔の比表面積を除いた外部の表面積(本明細書において、「外部比表面積」という。)あたりのフェノール性ヒドロキシ基(Ph性OH)の存在量(mmol/m)を指標とする。
この外部比表面積あたりの官能基量は、炭素質フィラー表面の官能基量を示す指標である。この指標は、酸塩基滴定法のボーム(Boehm)法を用いた全酸性官能基量及び強酸性官能基量の測定、並びに外部比表面積STSAの測定から算出される。ここで、ボーム(Boehm)法で求められるのは、厳密にはアルキル性ヒドロキシル基ではなく、フェノール性ヒドロキシル基である。すなわち、強酸性官能基量をカルボキシル基(COOH)量とし、全酸性官能基量と強酸性官能基量の差をフェノール性ヒドロキシ基量とし、外部比表面積STSAで除した値である。
【0010】
そのフェノール性ヒドロキシ基(Ph性OH)量は、外部比表面積あたり、0.005mmol/m以上でなければならず、カルボキシル基(COOH)量は、外部比表面積あたり0.001mmol/m以下であることが望ましい。
外部比表面積あたりのフェノール性ヒドロキシ基量は、好ましくは0.010mmol/m以上である。ポリオール類との親和性の見地から上限は特に限定されるものではないが、量産上、0.10mmol/m程度を超えるものは製造困難が予想される。
炭素質材料の外部比表面積(STSA)は、0.01~100m/g、好ましくは0.1~10m/gであってよい。より望ましくは0.3~5m/gであってよい。
【0011】
本発明で炭素質フィラーとして用いる炭素系粒子は、ディスク遠心式粒子径分布測定装置で測定した体積基準の粒径の50%積算値である平均粒子径(D50)が0.1μm以上100μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下である。平均粒子径(D50)がこれより小さい場合には凝集が起こりやすく、これより大きい場合には、均一性を損なう。平均粒子径(D50)は、例えば、CPS Instruments社ディスク遠心式粒子径分布測定装置 Model DC24000UHRにより測定してよい。
炭素質フィラーとして用いる炭素系粒子は、フィラーとしての性能を十分に発揮させるために、無水ベース重量として、JIS-M 8812:2004で定義される工業分析の固定炭素80%以上、揮発分8%未満であることが望ましい。灰分はフィラーとしての性能に寄与しないため4%未満であることが望ましい。揮発分が8%以上の材料は、炭素六員環が未発達であり、炭素質フィラーとしての特性を示さない炭化水素(CH)部分が多いことから、適用できない。好ましくは固定炭素85%以上、より好ましくは固定炭素90%以上である。
真比重は、ポリオール類への分散を考慮すると、ポリオール類の比重(1.00~1.30程度)に近いほど長期の分散安定性が良く、1.50以下であることが望ましい。
【0012】
本発明で炭素質フィラーは、上述した性状を有する限り、各種の炭素質材料を使用できる。好ましくは、木炭、黒鉛、グラフェン、バイオ炭素(Biochar)又は石炭から選択される。バイオ炭素は、農林業の廃棄物や廃木材、食品廃棄物などの有機物(Biomass)を炭化した炭素質材料である。
例えば、リグニン・セルロース・ヘミセルロースを主体とするバイオ原料又は低炭化度褐炭石炭(豪州褐炭等)を1000℃以下、望ましくは800℃以下の低温炭化で得られる炭素質材料が挙げられる。
また、石炭、黒鉛又はグラフェン等の比較的高純度の炭素素材にフェノール性ヒドロキシ基を導入することにより、炭素質材料を得てもよい。例えば、フェノール性ヒドロキシ基を導入する方法として、酸素プラズマ照射、UV及び/又はオゾンによる酸化処理、イオンビーム照射、ガスを用いた気相酸化法、酸や過酸化水素等を用いた液相酸化法等を用いてよい。
カーボンブラックなど高純度の炭素素材を酸化する方法では、カルボキシル基の生成を抑えて選択的にフェノール性ヒドロキシ基を生成させることは難しく、また、酸化反応によって炭素素材の特性を損なう恐れがある。従って、既に含酸素基を有する有機物であるバイオ原料又は低炭化度褐炭石炭(豪州褐炭等)を低温炭化する方法の方が、比較的容易に官能基の生成を制御して本発明の炭素質素材を得ることができるため、通常は好ましい。
【0013】
本発明において、炭素質フィラーがカーボンブラックを担持してなる場合、カーボンブラックは、特に制限はなく、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどいずれも使用することができる。炭素質材料によって耐候性、帯電防止性、補強性、着色性などの炭素質フィラーとしての基本物性を付与できると共に、それぞれのカーボンブラックがもつ導電性などの各種特性も付与できる。
平均粒子径(顕微鏡観察による算術平均径)が好ましくは0.01~0.3μm(10~300nm)のカーボンブラックが用いられる。電子顕微鏡を用いた測定は、円直径が変化できる円形のスポットライトを電顕で測定した画像の粒子円周部分に当てて直径を測定してよい。例えば、誤差除くため、画像で円周の1/3が表れているものをすべて取り込み、粒子測定個数は500個以上、望ましくは1000個以上になるように複数の画像を選択して測定してよい。一次粒子径が0.01μm未満のカーボンブラックでは粒子間に作用する凝集力が大きいために担持しにくくなり、一方、0.3μmを越える場合にも担体炭素質材料との接点が少なくなり担持が困難となる。より好ましくは0.015~0.20μm(15~200nm)である。
その他の物性についても、特に限定されないが、例えば、窒素吸着比表面積(NSA)10~200m/g、DBP吸収量20~200mL/100g、揮発分10%未満、灰分1.0%未満である。
【0014】
本発明の炭素質フィラーにおいて、担持するカーボンブラックの比率は、担体としての炭素質材料100重量部に対して、好ましくは1重量部以上200重量部以下、より好ましくは1重量部以上100重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上50重量部以下の範囲である。カーボンブラックの含有割合がこれ未満であると、カーボンブラックの添加効果が不十分となる。一方、これを超えると担持が困難になり、担持されないカーボンブラックが分散不良を引き起こす懸念がある。
炭素質フィラーにおいてカーボンブラックが担持されているか否かは、例えば炭素質フィラーをポリオール液に分散したとき、カーボンブラックがポリオール液中で沈降や凝集を起こすか否かなどによって、目視で容易に確認できる。
【0015】
本発明の炭素質フィラーにおいて、カーボンブラックの担持は、担体としての炭素質材料とカーボンブラックとを機械的に接触させることで行う。炭素六員環が発達した炭素系の粒子同士を接触させると、粒子同士に不可逆的な強い結合ができる。例えば自動乳鉢、ボールミル、擂潰機などを用いて機械的に粒子に強い圧力をかけることで実施できる。
【0016】
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液は、上述した炭素質フィラーをポリオール類に配合してなる。
ポリオール類は、ポリウレタン用やその他熱硬化性樹脂の原料として一般に用いられるものであり、特に制限はなく、ウレタン用としてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリマーポリオールなどである。それらの変性品又は混合品あるいはそれらを部分的に重合させたプレポリマーであってもよい。
ポリオール類は、フェノール樹脂やその変性物およびそれらの中間体、ユリア樹脂やメラミン樹脂の中間体、変性不飽和ポリエステル樹脂中間体、アルキド樹脂原料およびエポキシ樹脂原料のビスフェノールA型プレポリマーやウレタンプレポリマーであってもよい。
本発明の炭素質フィラーをポリオール類に多量に混合する場合、作業性を考慮した粘度のものを選ぶことが好ましい。
【0017】
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液は、炭素質フィラーをポリオール類に任意の比率で混合して得ることができる。実用上、炭素質フィラーの含有率が好ましくは1~80重量%の範囲、より好ましくは5~70重量%の範囲である。これ未満であると、ポリウレタン原料のポリオール類およびイソシアネート類と混合した場合に希釈されて炭素質フィラーやカーボンブラックの含有率がさらに下がり、炭素質フィラーやカーボンブラックの特性が発現しにくくなる恐れがある。一方、これを超えると均一混合が困難になり実用的ではない場合がある。
フェノール樹脂類、ユリア樹脂やメラミン樹脂類、変性不飽和ポリエステル樹脂類、アルキド樹脂類およびエポキシ樹脂においても、他原料との混合により希釈されることを考慮して1~80重量%の範囲、より好ましくは5~70重量%の範囲で配合する。
【0018】
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液は、そのままポリウレタンなどの樹脂原料のポリオール類として、所定量のポリイソシアネート類などの原料、必要に応じて副原料、例えば触媒、整泡剤、発泡剤、架橋剤などと混合され硬化させて、炭素質フィラー含有率が高いポリウレタンなどの樹脂製品とすることができる。その他、目的や用途に応じて、難燃剤、充填剤、着色剤、安定剤、離型剤などを配合してもよい。希釈などのために溶剤を使用してもよい。
本発明の炭素質フィラー含有ポリオール類分散液をマスターバッチとし、このマスターバッチ分散液を、ポリオール類と混合し、これらをポリイソシアネート類などの原料と配合した後、硬化させ、所望の炭素質フィラー含有量のポリウレタン製品などの樹脂製品を得ることもできる。
【0019】
こうして得られるポリウレタンなどの樹脂製品は、微細均一分散により、炭素質フィラー含有率が高く、炭素質フィラー含有による耐候性、帯電防止性、着色性、導電性及び補強性などの諸特性を十分に発現できることから、インキ、合成皮革、エラストマー、塗料、接着剤、コーティング、緩衝材などの各種の用途において好適に利用できる。
【実施例
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0021】
炭素質フィラーとしては、以下の炭素質材料を使用した。
炭素質材料CC1:550℃で炭化させた松材由来の木炭粉砕品(CarbonNeat社製、三洋貿易販売「Neat90」)
平均粒子径(D50)5μm
外部比表面積(STSA)1m/g
真比重 1.12
工業分析の固定炭素96.1%、揮発分1.8%、灰分2.1%(無水ベース重量)
外部比表面積あたりのPh性OH基量:0.080mmol/m
外部比表面積あたりのCOOH基量:測定限界以下
炭素質材料CC2:600℃で炭化させた混合木材由来の木炭粉砕品
平均粒子径(D50)5μm
外部比表面積(STSA)0.5m/g
真比重 1.1
工業分析の固定炭素90.3%、揮発分2.5%、灰分7.2%(無水ベース重量)
外部比表面積あたりのPh性OH基量0.005mmol/m
外部比表面積あたりのCOOH基量:測定限界以下
【0022】
カーボンブラックとしては、以下の材料を使用した。
カーボンブラックCB1:「N220」グレード相当品
平均粒子径(D50)0.02μm(20nm)
真比重 1.8~1.9
揮発分1.0%、灰分0.03%
窒素吸着比表面積(N2SA)120m/g
外部比表面積(STSA)106m/g
DBP吸収量114mL/100g
外部比表面積あたりのPh性OH基量:0.00085mmol/m
外部比表面積あたりのCOOH基量:0.00028mmol/m
カーボンブラックCB2:「N990」グレード相当品
平均粒子径(D50)0.3μm(300nm)
真比重 1.9
揮発分0.5%、灰分0.1%
窒素吸着比表面積(N2SA)8m/g
外部比表面積(STSA)8m/g
DBP吸収量40mL/100g
外部比表面積あたりのPh性OH基量:0.00025mmol/m
外部比表面積あたりのCOOH基量:測定限界以下
【0023】
合成例1
炭素質材料「CC2」20g、カーボンブラック「CB1」4gを乳鉢に入れ、圧力2kg、10分間、粒子同士を接触させ、実施例9で使用するカーボンブラック担持炭素質フィラーを得た。
合成例2
炭素質材料「CC1」40g、カーボンブラック「CB2」8gを乳鉢に入れ、圧力2kg、10分間、粒子同士を接触させ、実施例10で使用するカーボンブラック担持炭素質フィラーを得た。
【0024】
実施例1~10、比較例1~4
炭素質フィラー、及び比較のためカーボンブラックCB1、CB2を使用し、ポリオール類に配合し、分散性を確認した後、実施例5~8についてはポリイソシアネート類と配合してポリウレタンを製造した。
ポリオール類、ポリイソシアネート類としては、以下の材料を使用した。
ポリオールB1:ADECA社製ポリエーテルポリオール「P-3000」
ポリオールB2:日新レジン社製注型用発泡ウレタン樹脂A液ポリオール
ポリオールB3:日新レジン社製注型用ウレタン樹脂「グミーキャスト」A液ポリオールポリイソシアネートC1:日新レジン社製注型用発泡ウレタン樹脂B液ジイソシアネートポリイソシアネートC2:日新レジン社製注型用ウレタン樹脂「グミーキャスト」B液変性イソシアネート
【0025】
表1に示した配合処方に従って、500mlポリエチレンビーカーにポリオール、炭素質フィラーの順に投入し、ガラス棒で3分間かき混ぜた。実施例8~10については3分間かき混ぜた後、ポリイソシアネートを所定量投入し、更に1分間かき混ぜ、室温で放置した。
炭素質フィラーのポリオール類への分散性については、下記基準で評価した。
◎:流動性があり、良好に分散している。
〇:粘度上昇があり流動性がないものの、分散している。
×:ゲル状の未分散塊が生成し、分散しない。
××:ポリオール類と分離・沈殿し、分散しない。
実施例9、10は、いずれも、炭素質フィラーをポリオール液に分散したとき、カーボンブラックがポリオール液中で沈降や凝集を起こしておらず、炭素質材料にカーボンブラックが担持されていることを確認できた。
【0026】
実施例5~8で製造したポリウレタンを成形し、外観を以下の基準で評価した。
〇:カーボンブラック等に由来する凝集が全く確認できず、良好な外観であった。
△:わずかに凝集が確認できたものの実用上、外観上問題がない程度であった。
×:カーボンブラック等の凝集が発生した。
【0027】
【表1】
【要約】
炭素質フィラーをポリオール類に配合してなる炭素質フィラー含有ポリオール類分散液であって、炭素質フィラーは、工業分析の固定炭素80%以上、揮発分8%未満、灰分4%未満の成分含有量(無水ベース重量)であり、外部比表面積あたりのフェノール性ヒドロキシ基が0.005mmol/m以上であり、平均粒子径(D50)が0.1~100μmである炭素系材料であり、ポリオール類100重量部に対して、炭素質フィラーを1~80重量部含有することを特徴とする炭素質フィラー含有ポリオール類分散液。