(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
E02D1/02
(21)【出願番号】P 2019228930
(22)【出願日】2019-12-19
(62)【分割の表示】P 2019090373の分割
【原出願日】2019-05-13
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】508121728
【氏名又は名称】ジオサイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 芳文
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084071(JP,A)
【文献】特開2012-158872(JP,A)
【文献】特開2009-151610(JP,A)
【文献】特開2007-039985(JP,A)
【文献】特開2001-279652(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01884599(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さ方向に沿って配列された硬軟指標を有する処理対象の地盤調査データファイルと比較対象の地盤調査データファイルとを記憶する手段と、
前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化を、前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化に対して比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性を判定する判定手段とを具備し、
前記処理対象の地盤調査データファイルと前記比較対象の地盤調査データファイルとはそれぞれ深さ方向に沿って配列された単位層ごとに自沈層であれば自沈荷重、回転層であれば半回転数を前記硬軟指標として有するものであり、
前記比較手段は、前記単位層各々の前記硬軟指標とその上層の前記硬軟指標とに基づいて前記硬軟傾向を判定し、連続する所定数の前記単位層ごとに前記硬軟傾向の変化をパターンに分類し、前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列と前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列とを比較して整合率を計算し、
前記判定手段は、前記整合率が所定値以上であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が低いと判定し、前記整合率が所定値未満であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が高いと判定する情報処理装置。
【請求項2】
前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの配列と前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの配列とを比較するそれぞれの深さの起点を操作者指示に従って設定する手段さらに備える請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記処理対象の地盤調査データファイルに関する調査地点の位置を中心として検索距離の範囲内に位置する過去の地盤調査データファイルの送信を外部データベース装置に対して要求する手段と、
前記外部データベース装置から受信した前記過去の地盤調査データファイルのファイル数が所定範囲に収まるまで、前記検索距離を拡大し又は縮小して、前記外部データベース装置に対して前記過去の地盤調査データファイルの要求を繰り返す手段と、
前記受信された過去の地盤調査データファイルから前記比較対象の地盤調査データファイルを、前記処理対象の地盤調査データファイルの調査地点の土地条件と液状化可能性との少なくとも一方に基づいて絞り込む手段とをさらに備える請求項1記載の情報処理装置。
【請求項4】
表示手段と、
前記受信された過去の地盤調査データファイルの調査地点を、前記処理対象の地盤調査データファイルの調査地点とともに旧版地形図上にプロットし、前記表示手段に表示させる手段とをさらに備える請求項
3記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記受信された過去の地盤調査データファイルの地盤調査データを、前記処理対象の地盤調査データファイルの地盤調査データとともに前記表示手段に表示させる手段をさらに備える請求項
3記載の情報処理装置。
【請求項6】
深さ方向に沿って配列された硬軟指標を有する処理対象の地盤調査データファイルと比較対象の地盤調査データファイルとについて、前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化を、前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化に対して比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性を判定する判定手段とをコンピュータに実現させるためのプログラムであって、
前記処理対象の地盤調査データファイルと前記比較対象の地盤調査データファイルとはそれぞれ深さ方向に沿って配列された単位層ごとに自沈層であれば自沈荷重、回転層であれば半回転数を前記硬軟指標として有するものであり、
前記比較手段は、前記単位層各々の前記硬軟指標とその上層の前記硬軟指標とに基づいて前記硬軟傾向を判定し、連続する所定数の前記単位層ごとに前記硬軟傾向の変化をパターンに分類し、前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列と前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列とを比較して整合率を計算し、
前記判定手段は、前記整合率が所定値以上であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が低いと判定し、前記整合率が所定値未満であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が高いと判定するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤調査は、例えばスウェーデン式サウンディング試験機などを用いて原位置における地盤の貫入抵抗を測定し、その硬軟または締まり具合、さらに土層の構成を測定し、地耐力を推定するものである。この地盤調査の結果に応じて、建物の基礎が選定される。例えば、軟弱な地盤であると判断された場合には、セメント系固化剤をスラリー状態にし、対象となる地盤に注入しながら機械混合攪拌することによって、地盤土を柱状固化して地盤強化を図る地盤改良工事が行なわれている。将来にわたって安全・安心な建物を建築するためには何よりも地盤調査結果に対する信頼性が重要であり、実体とかけ離れた不適切な地盤調査データファイルは当然にして排除されるべきである。
【0003】
不適切な地盤調査データファイルは、その発生後に意図的に内容を書き換える、すなわちデータ改ざんによるだけではなく、作業時間短縮のために、つっかい棒等をおもりと地面との間に差し込んで、ロッドの貫入を強制的に妨害する等の不適切な地盤調査作業によって生じることもある。データ改ざんに対しては法的整備と歩調を合わせながら様々な対策が講じられている。しかし、不適切な地盤調査作業を排除するための対策は、その不適切な地盤調査作業を発見することが容易ではないことから、あまり進んでいないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目的は、地盤調査データファイルが不適切な地盤調査作業に由来するものである可能性を判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る情報処理装置は、深さ方向に沿って配列された硬軟指標を有する処理対象の地盤調査データファイルと比較対象の地盤調査データファイルとを記憶する手段と、前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化を、前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記硬軟指標の上下層間の硬軟傾向の深さ方向に沿った変化に対して比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に基づいて、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性を判定する判定手段とを具備し、
前記処理対象の地盤調査データファイルと前記比較対象の地盤調査データファイルとはそれぞれ深さ方向に沿って配列された単位層ごとに自沈層であれば自沈荷重、回転層であれば半回転数を前記硬軟指標として有するものであり、
前記比較手段は、前記単位層各々の前記硬軟指標とその上層の前記硬軟指標とに基づいて前記硬軟傾向を判定し、連続する所定数の前記単位層ごとに前記硬軟傾向の変化をパターンに分類し、前記処理対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列と前記比較対象の地盤調査データファイルに関する前記パターンの深さ方向に沿った配列とを比較して整合率を計算し、
前記判定手段は、前記整合率が所定値以上であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が低いと判定し、前記整合率が所定値未満であるとき、前記処理対象の地盤調査データファイルが不適切な地盤調査に由来するものである可能性が高いと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るサーバ装置を含むシステム全体の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るサーバ装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2のサーバ装置による不適切な地盤調査作業の可能性の判定処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の工程S2の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図3の工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る地盤硬軟傾向パターンを例示する図である。
【
図13】
図13は、
図8の処理による「処理対象の地盤調査データファイル」に関する硬軟傾向パターン配列の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、
図8の処理による「比較対象の過去の地盤調査データファイル」に関する硬軟傾向パターン配列の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、
図8の工程S36の変形例による「処理対象の地盤調査データファイル」に関する硬軟傾向パターン配列の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、
図8の工程S36の変形例による「比較対象の過去の地盤調査データファイル」に関する硬軟傾向パターン配列の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るサーバ装置(情報処理装置)について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る調査報告書作成用の情報処理装置は、サーバ装置20として機能する。サーバ装置20は、地盤調査システム50に対して、スマートフォンに代表される携帯型情報端末60を介して接続される。携帯型情報端末60は地盤調査作業を実行する調査員がそれぞれ携帯する。地盤調査システム50と携帯型情報端末60との間はBluetooth(登録商標)等の近距離デジタル無線通信回線11により接続される。携帯型情報端末60とサーバ装置20との間はモバイル通信回線13及びインターネットに代表される公衆電気通信網10により接続される。
【0008】
地盤調査システム50は、原位置における土の硬軟、締まり具合、土質及び土層構造を調査するために貫入抵抗を測定する例えばスウェーデン式サウンディング自動貫入試験機(地盤調査機)51、地盤調査機51を制御する制御装置52、制御装置52の例えばシリアルポートの出力端子に接続される無線通信モジュール53とから構成される。地盤調査機51は、ロッド、ロッドを地面に対して垂直に支持するスタンド、ロッドに50kg、75kg、100kg等の荷重をかけるための重り、ロッドを軸回転駆動する回転機構、貫入深度を検出するセンサ等からなる。ロッドが所定深度、例えば25cm貫入するために必要な荷重WSW、1m換算した半回転数NSWが貫入抵抗として測定される。制御装置52は、地盤調査機51を制御して、25cmごとの貫入抵抗を表す地盤調査データファイルを発生する。
【0009】
スマートフォンやタブレット端末に代表される携帯型情報端末60は、試験機51から無線通信モジュール53を介して地盤調査データファイルを受信するとともに、サーバ装置20に転送する。サーバ装置20は、地盤調査データファイルから調査報告書を作成する作業を支援する機能とともに、地盤調査データがつっかい棒等を用いた不適切な地盤調査作業により発生したものである可能性を判定する機能を備えている。不適切な地盤調査作業の可能性の判定処理については後述する。
【0010】
サーバ装置20は、公衆電気通信網10を介して、複数の調査地点に関する複数の過去の地盤調査データファイルを保管する外部のデータベース装置30と、複数の土地条件図のデータファイル、複数の液状化マップのデータファイル及び複数の旧版地形図のデータファイルを保管するデータベース装置40と、地盤調査依頼元のクライアント端末70とに接続される。
【0011】
図2に示すようにサーバ装置20は、プロセッサ21に対して制御/データバス22を介して、記憶装置23、液晶等の表示デバイス25、キーボードやマウス用の入力デバイス26、通信デバイス27が接続される。記憶装置23には、予め調査報告書作成支援プログラム、不適切な地盤調査作業の可能性判定処理プログラム(以下、不適切作業可能性判定プログラムという)が記憶される。プロセッサ21は装置全体の動作を制御するとともに、記憶装置23から調査報告書作成支援プログラム、不適切作業可能性判定プログラムをロードして調査報告書作成支援処理、不適切作業可能性判定処理を実行する。
【0012】
図3には不適切作業可能性判定プログラムによる不適切作業の可能性を判定する処理の手順を示す。当該プログラムが起動されると、まず入力デバイス26を介して入力された操作者指示に従って、特定の地盤調査データファイルが不適切作業の可能性を判定する処理の対象として指定される(S1)。地盤調査データファイルは、25cm等の単位貫入深度ごとの荷重(WSW)、1mに換算した半回転数(NSW)からなるデータ本体に、調査日時、調査地点(緯度・経度)等の属性データが付帯されて構成される。なお、周知の通り、荷重のみでロッドが沈下する場合、半回転数(NSW)は存在しない。
【0013】
処理対象の地盤調査データファイルからその調査地点が特定され、当該調査地点に近隣する所定数の箇所、典型的には3箇所以上6箇所以下の過去の地盤調査データファイルが外部のデータベース装置30から受信される(S2)。受信された3箇所の過去の地盤調査データファイルから、入力デバイス26を介して入力された操作者指示に従って、比較対象とすべき1箇所の過去の地盤調査データファイルが選択される(S3)。
【0014】
図4には工程S2及び工程S3に係る処理の手順を示す。処理対象の地盤調査データファイルから調査地点が特定される(S21)。当該調査地点と、その調査地点を中心とした初期的な距離として例えば半径1kmの距離とからなる検索条件を、過去の地盤調査データファイルのリストの送信要求が外部のデータベース装置30に送信される(S22)。外部のデータベース装置30から当該検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルのリストが受信される(S23)。当該検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルの数が3以上、6以下の範囲に収まるか否かが判断される(S24)。当該検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルの数が当該範囲に収まらないとき(工程S24:NO)、当該検索条件が変更され、つまり調査地点を中心とした距離が拡大され、又は縮小され(S25)、工程S22にリターンする。変更された検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルの数が当該範囲に収まるまで工程S22乃至S25が繰り返される。検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルの数が当該範囲に収まるとき(工程S24:YES)、これら検索条件を満たす過去の地盤調査データファイルの送信が要求され、外部のデータベース装置30から受信される(S26)。例えば
図5(a)に示すように当該調査地点に近隣する3カ所の過去の地盤調査データファイルが受信される。
【0015】
処理対象の地盤調査データファイルの調査地点の近隣であって、所定数範囲の過去の地盤調査データファイルを受信し、それらから処理対象の地盤調査データファイルに対して比較する比較対象としての過去の地盤調査データファイルを選択することにより、不適切作業の可能性の判定精度を向上させることができる。
【0016】
次に当該調査地点を含む土地条件図のデータファイル、液状化マップのデータファイル及び旧版地形図のデータファイルの送信要求が外部のデータベース装置40に送信される。それによりこれら土地条件図、液状化マップ及び旧版地形図の各データファイルが受信される。
【0017】
図5(b)に示すように土地条件図を用いて、3カ所の過去の地盤調査データファイルから、処理対象の地盤調査データファイルに対して比較する比較対象候補としての過去の地盤調査データファイルが絞り込まれる(S27)。具体的には処理対象の地盤調査データファイルの調査地点の土地条件と同じ土地条件を示す調査地点に関する過去の地盤調査データファイルが抽出される。同様に
図6(a)に示すように液状化マップを用いて、過去の地盤調査データファイルから、比較対象候補としての過去の地盤調査データファイルが絞り込まれる(S28)。具体的には処理対象の地盤調査データファイルの調査地点の液状化可能性と同じ液状化可能性を示す調査地点に関する過去の地盤調査データファイルが抽出される。これら絞り込みにより不適切作業の可能性の判定精度を向上させることができる。
【0018】
図6(b)に示すように、絞り込まれた比較対象候補としての過去の地盤調査データファイルの調査地点が、処理対象の地盤調査データファイルの調査地点とともに旧版地形図上にプロットされ、表示される(S29)。また、
図7に示すように、処理対象の地盤調査データファイルの地盤調査データ本体から柱状図が生成され、絞り込まれた比較対象候補としての過去の地盤調査データファイルの地盤調査データ本体から生成された柱状図とともに一覧表示される(S30)。作業者は入力デバイス26を介して比較対象候補としての過去の地盤調査データファイルから、比較対象としての一の過去の地盤調査データファイルを選択する(S31)。最終的に作業者の指定操作を介在させて比較対象としての一の過去の地盤調査データファイルを選択することにより、作業者の知識や経験を加味することができ、不適切作業の可能性の判定精度をより向上させることができる。
【0019】
図3に戻る。処理対象の地盤調査データファイルからその調査地点に関する地盤の硬軟傾向パターンの深さ方向に関する配列と、比較対象としての過去の地盤調査データファイルからその調査地点に関する地盤の硬軟傾向パターンの配列とを判定する処理が実行される(S4,S5)。地盤の硬軟傾向パターンに関して説明する。地盤調査データは、上述したように、ロッドが単位深度25cmを貫入するために必要な荷重(WSW)、半回転数(NSW)が貫入抵抗として測定され、その貫入抵抗が深さ方向に沿って配列されてなる。単位深度25cmを一層として、連続する例えば4層を単位として、硬軟傾向パターンが設定される。
【0020】
周知の通り、荷重(WSW)が高いほど、また半回転数(NSW)が多いほど硬層と判断され、荷重(WSW)が低いほど、また半回転数(NSW)が少ないほど軟層と判断される。硬軟傾向は、注目層が上層に対して硬化傾向(H)にあるか、軟化傾向(S)にあるか、又は不変傾向(M)にあるか、それらのいずれかを示す。
【0021】
図8に示すように、まず地盤硬軟傾向パターンの配列の判定処理の前処理として、近時の盛土や切土等の影響を排除するために、処理対象の地盤調査データと比較対象の過去の地盤調査データに関してそれぞれ比較起点深度が作業員により設定される。
【0022】
図9に地盤硬軟傾向パターンの配列の判定処理の手順を示している。なお説明の便宜上、25cmの単位層を区別するために層番号“n”を用いる。層番号“n”は、起点側の表層から深層に向かって増加するものとする。層番号nを最表層を表す“1”に初期化する(S31)。連続4層全てに半回転数(NSW)が存在するか否か判定され(S32)、YESであるとき工程S33に移行して硬軟傾向判定処理(A)を実行し、NOであるとき工程S34に移行して硬軟傾向判定処理(B)を実行する。つまり連続4層全てに半回転数(NSW)が存在する比較的硬い連続層である場合と、連続4層の少なくとも一層に荷重のみで沈下する場合とで異なる硬軟傾向判定処理を実行する。
【0023】
図10に硬軟傾向判定処理(A)の手順を示している。層番号nを設定する(S41)。連続4層のn層、n+1層、n+2層、n+3層に関する半回転数NSWの平均値NSWav.が計算される(S42)。まず現在のn層に関して、平均値NSWav.に任意に設定したマージン値MWを加えた上側基準値に対して、n層の半回転数NSW(n)が比較される(S43)。n層の半回転数NSW(n)が基準値よりも高い場合、n層の硬軟傾向フラグに硬化傾向を表す“H”を設定する(S44)。n層の半回転数NSW(n)が上側基準値よりも高い場合、n層の硬軟傾向フラグに硬化傾向を表す“H”を設定する(S44)。平均値NSWav.にマージン値MWを減じた下側基準値に対して、n層の半回転数NSW(n)が比較される(S45)。n層の半回転数NSW(n)が下側基準値よりも低い場合、n層の硬軟傾向フラグに軟化傾向を表す“S”を設定する(S46)。n層の半回転数NSW(n)が上側基準値と下側基準値との範囲内である場合、n層の硬軟傾向フラグに不変傾向を表す“M”を設定する(S47)。層番号nを一つインクリメントして次の下層“n+1”に移行し(S48)、連続4層の硬軟傾向フラグの付与が完了するまで(S49)、工程S43乃至S48を繰り返す。それにより連続4層の硬軟傾向フラグの付与が完了する。
【0024】
図11に硬軟傾向判定処理(B)の手順を示している。層番号nを設定する(S51)。現在の層nの荷重WSW(n)が、上層n-1の荷重WSW(n-1)より高いか否かを比較され(S52)、現層nの荷重WSW(n)が高い場合(YES)、n層の硬軟傾向フラグに硬化傾向を表す“H”を設定する(S53)。工程S52でNOの場合、現在の層nの荷重WSW(n)が、上層n-1の荷重WSW(n-1)より低いか否かを比較され(S54)、現層nの荷重WSW(n)が低い場合(YES)、n層の硬軟傾向フラグに軟化傾向を表す“S”を設定する(S55)。工程S54でNOの場合、つまり現在の層nの荷重WSW(n)が、上層n-1の荷重WSW(n-1)と等価である場合、今度は半回転数NSWに着目し、現在の層nの半回転数NSW(n)が、上層n-1の半回転数NSW(n-1)より多いか否かを比較される(S56)。もちろん、半回転数NSWが存在しない場合、つまり荷重沈下しているときには、半回転数NSWはゼロとして扱われる。現在の層nの半回転数NSW(n)が、上層n-1の半回転数NSW(n-1)より多い場合(YES)、n層の硬軟傾向フラグに硬化傾向を表す“H”を設定する(S57)。工程S56でNOの場合、現在の層nの半回転数NSW(n)が、上層n-1の半回転数NSW(n-1)より低いか否かを比較され(S58)、現層nの半回転数NSW(n)が低い場合(YES)、n層の硬軟傾向フラグに軟化傾向を表す“S”を設定する(S59)。工程S58でNOの場合、つまり荷重WSWと半回転数NSWが上層と同じである場合、n層の硬軟傾向フラグに不変傾向を表す“M”を設定する(S60)。
【0025】
n番目の層の硬軟傾向フラグの付与が完了すると、層番号nを一つインクリメントして次の下層“n+1”に移行し(S61)、連続4層の硬軟傾向フラグの付与が完了するまで(S62)、工程S52乃至S61を繰り返す。それにより連続4層の硬軟傾向フラグの付与が完了する。
【0026】
図9に戻る。工程S33又はS34により連続4層の硬軟傾向が判定された後、工程S35において、連続4層の硬軟傾向に応じて、硬軟傾向パターンが分類される。
図12に例示するように、各層の硬軟傾向に関して連続4層を単位として、硬軟傾向パターンに分類する。ここではパターンA乃至Fの6パターンに分類されるものとして説明するがそれに限定されることはない。各パターンの条件は次の通りである。
【0027】
パターンA:連続4層の硬軟傾向からM層は除外して、S層からH層への切り替わりが1以上存在し、且つH層からS層への切り替わりが1以上存在すること。
パターンB:連続4層の中でS層が1以上存在し、且つH層が存在しないこと。
パターンC:連続4層全てがM層であること。
パターンD:連続4層にH層が1以上存在し、S層が1以上存在し、全てのH層がS層よりも上側に位置し、且つ全てのS層がH層よりも下側に位置すること。
パターンE:連続4層の中でH層が1以上存在し、且つS層が存在しないこと。
パターンF:連続4層にH層が1以上存在し、S層が1以上存在し、全てのH層がS層よりも下側に位置し、且つ全てのS層がH層よりも上側に位置すること。
【0028】
各パターンの条件にしたがって硬軟傾向が連続4層ごとに硬軟傾向パターンに分類される(S35)。層番号nを4増分し(S36)、増分後の層番号nの層に荷重WSWのデータと半回転数NSWのデータの少なくとも一方が存在するとき(S37、YES)、工程S32にリターンして、次の連続4層の硬軟傾向パターンの判定処理(S32-S36)が繰り返される。増分後の層番号nの層に荷重WSWのデータと半回転数NSWのデータとのいずれもが存在しないとき(S37、NO)、硬軟傾向パターンの判定処理が完了する。
【0029】
図13には処理対象の地盤調査データファイルに関する柱状図とともに硬軟傾向パターンの配列を示す。
図14には比較対象の過去の地盤調査データファイルに関する柱状図とともに硬軟傾向パターンの配列を示す。上述では硬軟傾向パターンを連続4層を一単位(パターンウインドウ幅:4)として判定したが、パターンウインドウ幅としてはこれに限定されることはなく、連続5層をパターンウインドウ幅としてそれを一単位として硬軟傾向パターンを判定してもよいし、それ以上の連続層を一単位として判定してもよい。また上述では4層移動しながら硬軟傾向パターンを判定したが(S36,ウインドウ移動ピッチ:4)、ウインドウ移動ピッチはそれに限定されず、1,2又は3に設定するようにしても良い。
図15にはパターンウインドウ幅を4、ウインドウ移動ピッチを1とした場合の処理対象の地盤調査データファイルに関する柱状図とともに硬軟傾向パターンの配列を示し、
図16には同様にパターンウインドウ幅を4、ウインドウ移動ピッチを1とした場合の比較対象の過去の地盤調査データファイルに関する柱状図とともに硬軟傾向パターンの配列を示している。
【0030】
図3に戻る。
図17に例示するように、工程S6において、処理対象の地盤調査データファイルに関する硬軟傾向パターンを、比較対象の過去の地盤調査データファイルに関する硬軟傾向パターンに対して、同じ層番号どうしで比較し、それぞれ一致/不一致を判定するとともに、比較対象の過去の地盤調査データファイルに関する全層数に対する一致数の割合としての整合率MRを計算する。
【0031】
整合率MRを、予め作業者が設定した閾値THに対して比較し(S7)、整合率MRが閾値THよりも高いとき(YES)、処理対象の地盤調査データファイルに対して、不適切な地盤調査作業の可能性を“低い”に設定し(S8)、整合率MRが閾値TH以下のとき(NO)、処理対象の地盤調査データファイルに対して、不適切な地盤調査作業の可能性を“高い”に設定する(S9)。閾値THは、比較対象の過去の地盤調査データファイル又は処置対象の地盤調査データファイルそれぞれの荷重データ・半回転数データが存在する層数、調査作業員の経歴、過去の不適切な地盤調査作業の可能性の判定結果等に応じて、任意に設定されるべきである。
【0032】
処置対象の地盤調査データファイルの柱状図と不適切な地盤調査作業の可能性とを含む調査報告書が作成される(S10)。調査報告書の様式、それに含ませるべき他の情報に関しては任意に設定される。作成された調査報告書のデータファイルはクライアント端末70に送信される(S11)。
【0033】
以上のように本実施形態によれば、地盤調査データファイルが不適切な地盤調査作業に由来するものである可能性を高い精度でもって判定することにある。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
10…公衆電気通信回線網、20…調査報告書作成用サーバ装置、30…過去の地盤調査データファイルのデータベース装置、40…土地条件図等のデータベース装置、50…地盤調査システム、60…携帯型情報処理端末、70…クライアント端末。