(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】戸および引き戸装置
(51)【国際特許分類】
E06B 7/28 20060101AFI20230411BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
E06B7/28 Z
E06B3/46
(21)【出願番号】P 2019208455
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500132214
【氏名又は名称】学校法人明星学苑
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】横倉 三郎
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-239652(JP,A)
【文献】特開2003-176674(JP,A)
【文献】特開2015-110870(JP,A)
【文献】特許第6516295(JP,B2)
【文献】特許第6533992(JP,B2)
【文献】実公昭52-025007(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/00-7/36
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記戸本体が開位置から前記閉位置にきたことに応答して前記固定部材
が作動
することにより前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含む、戸。
【請求項2】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含み、前記運動制限機構は、前記取手の第1の範囲での操作に応じて、前記機械要素の運動にかけた前記制限を解除する制限解除機構を含み、前記収納機構は、前記取手の前記第1の範囲を超えた第2の範囲での操作に応じて前記機械要素を運動させ、かつ、前記手すりの前記収容部への収納とともに前記固定部材の作動を解除することを特徴とする
、戸。
【請求項3】
前記運動制限機構は、
前記機械要素に連結され、キー溝が設けられたアダプタと、
前記アダプタの前記キー溝に挿入可能なキーと、
前記キーを前記アダプタに向かって押し出す弾性体と
をさらに含み、前記手すりの放出が完了すると前記アダプタの前記キー溝と前記キーとが同位置となり、前記キーは、前記弾性体により押されて前記アダプタの前記キー溝に差し込まれて、これにより前記制限がかけられる、請求項2に記載の戸。
【請求項4】
前記制限解除機構は、
前記取手の操作と連動する第1のアームと、
前記第1のアームと前記キーとを連結する連結部材と
を含み、前記キーが、前記第1の範囲での操作に応じて前記第1のアームにより前記連結部材を介して引っ張られて前記アダプタの前記キー溝から抜き出され、これにより、前記制限が解除される、請求項3に記載の戸。
【請求項5】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含み、前記機械要素は、前記第1の方向である正方向および前記第2の方向である逆方向に回転可能な回転シャフトを含み、前記手すりは、保持部材と連結し、前記回転シャフトの回転軸から離間して保持されており、前記回転シャフトの前記正方向または前記逆方向の回転に伴って前記回転シャフトの回転軸周りに周回することにより、前記収容部へ収納され、または、前記収容部から放出される
、戸。
【請求項6】
前記取手は、回転可能であり、前記取手の操作は、一方向の回転操作であり、前記収納機構は、
前記取手の前記一方向の回転操作を、スライド運動を経由して、前記回転シャフトの回転運動に変換する運動変換機構を含む、請求項5に記載の戸。
【請求項7】
前記運動変換機構は、前記取手の前記一方向の回転操作と連動する第2アームと、前記第2アームにより押し出されてスライド移動するラックギアと、前記ラックギアとかみ合い、かつ、前記機械要素に回転を入力するピニオンギアとを含む、請求項6に記載の戸。
【請求項8】
前記回転シャフトに連結され、前記手すりが放出された状態で、前記回転シャフトが正方向に回転するように弾性的に付勢される弾性部材を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の戸。
【請求項9】
前記機械要素は、前記手すりを保持し、かつ、前記収容部に挿通される保持部材を、前記第1の方向である前記手すりを引き入れる方向および前記第2の方向である前記手すりを押し出す方向に移動可能に保持するガイド機構を含み、前記手すりは、前記保持部材の前記第1の方向または前記第2の方向の移動に伴って、前記収容部へ収納され、または、前記収容部から放出される、請求項1~4のいずれか1項に記載の戸。
【請求項10】
前記収容部は、前記戸本体を表面から裏面まで貫通する開口として設けられるか、または、前記戸本体の扉面に凹形状に設けられており、前記手すりは、前記収容部に収容された状態において、前記戸本体の両面内に収納される、請求項1~9のいずれか1項に記載の戸。
【請求項11】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含み、前記固定部材は、開位置の範囲では、レールに当接し、これによって前記取手の操作の状態にかかわらず前記手すりが前記収容部内に維持され、前記放出機構は
、前記固定部材が、前記閉位置で、前記レールとの当接が外れたことに応答して、前記固定部材を引き上げる引き上げ機構を含む
、戸。
【請求項12】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含み、前記戸は、引き戸であり、前記取手は、回転式のドアノブである
、戸。
【請求項13】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と
を含み、前記戸は、視界を透過させるように傾斜された複数の羽板を備えた鎧戸部を含む
、戸。
【請求項14】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で前記戸本体を固定するように作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記固定部材の作動に応答して、前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と、
前記手すりの放出に応答して、前記機械要素の運動に制限をかける運動制限機構と、
前記戸本体をスライド可能に保持するレールであって、前記閉位置で、前記固定部材と該レールとの当接が外れるように構成されたレールと
を含む、引き戸装置。
【請求項15】
手すりと、
前記手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、
前記戸本体に設けられた可動式の取手と、
前記戸本体の閉位置で作動する固定部材と、
前記手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、
前記取手の操作に応じて、前記機械要素を前記第1の方向に運動させて前記手すりを前記収容部へ収納する収納機構と、
前記戸本体が開位置から前記閉位置にきたことに応答して前記固定部材が作動することにより前記機械要素を前記第2の方向に運動させて前記手すりを前記収容部から放出する放出機構と
を含む、戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き込み戸、片引き戸、引き分け戸、引き違い戸などの戸および該戸を備える引き戸装置に関し、より詳細には、手すりが収納可能に備えられた戸および該戸を備える引き戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者施設や病院においては、廊下、階段および部屋などの壁に手すりが設けられて、利用者の移動が補助され、利用者の安全が確保されている。また、高齢者が自立した生活を長く続けるためには、健康な時から生活の中で手すりなどの福祉具に慣れておき、身体機能が低下しても使い慣れたものを使用するようにすることが好ましい。このため、住戸においても、健康な時から前もって手すりなどの福祉具を設けておくことが望ましい。
【0003】
廊下、階段および部屋などの壁面には手すりを設けることができる。しかしながら、部屋の出入り口にある戸(扉)には、通常、手すりが設けられていない。特に引き戸においては、戸を開ける際に、戸袋、壁、引き違う他の戸との干渉を生じ得るため、手すりを設けることが難しい場合がある。そのため、引き戸のある部屋の出入り口付近での利用者の安全を確保することを可能とする技術の開発が望まれている。
【0004】
戸の周りの手すりを設ける技術としては、例えば、特開平9-60237号公報(特許文献1)が知られている。特許文献1は、建物等の壁面、例えば戸袋部の壁面に沿って、壁面より出没可能となされた手すりを設ける構成を開示する。また、特許文献1は、引き戸の戸袋部側端部に一端が取付けられ、この一端を回転軸に回動可能に設けられる手すりであって、引き戸の閉状態で、上記手すりの他端が壁面に設けられたストッパーにより支持されることを特徴とする手すりなども開示する。しかしながら、特許文献1に開示される従来技術では、戸本体の箇所に手すりを設けることができず、出入り口付近での利用者の安全を確保する観点から、充分なものとはいえなかった。
【0005】
また、引き戸に手すりを付ける技術として、特開平10-96375号公報(特許文献2)が知られている。特許文献2では、壁面寄りに位置する引き戸の手すりの軸と、奥に位置する引き戸の手すりの軸とが同一線上に位置させられ、奥に位置する引き戸の手すりの端部が壁面寄りの引き戸の手すりの内部に挿入するように構成されている。しかしながら、特許文献2に開示される従来技術は、手すりを収納することができず、手すりおよびそれを保持する部材が常に出ているので、手すりを取り付けるための空間を要し、また、戸や建具の経年変化による歪みなどにより可動しにくくなりやすい点で、充分なものではなかった。
【0006】
また、引き戸に手すりを付ける技術として、特開平11-229581号公報(特許文献3)および特開平11-256928号公報(特許文献4)も知られている。特許文献3および特許文献4の従来技術は、開口部の両側の壁面にそれぞれ相対向して第1手すり本体及び第2手すり本体を固定し、第1手すり本体内に入れ子式に可動手すり体を収納する構成を開示する。しかしながら、特許文献3および特許文献4に開示される従来技術も、手すりを収納することができず、手すりおよびそれを保持する部材が常に出ているので、手すりを取り付けるための空間を要し、また、戸や建具の経年変化による歪みなどにより可動しにくくなりやすい点で、充分なものではなかった。
【0007】
また、引き戸に手すりを付ける技術として、さらに、特開2002-294963号公報(特許文献5)も知られている。特許文献5は、手すり本体と、手すり本体の基端部に設けられ該基端部を回動可能に支持する回動支持部とを備え、手すり本体を略水平状態または略垂直状態に選択可能な手すり装置を、出入口部の左右両側に設置したことを特徴とする両開き式手すり装置を開示する。しかしながら、特許文献5に開示される従来技術も、手すりを収納することができず、手すりおよびそれを保持する部材が常に出ているので、手すりを取り付けるための空間を要し、また、利用者の出入りを妨げてしまう点で、充分なものではなかった。
【0008】
引き戸に手すりを付ける技術として、さらに、特開2011-231513号公報(特許文献6)および特開2017-150621号公報(特許文献7)は、手すり棒と、案内レールと、回転ローラとを備える引き戸用手すりの取付構造を開示する。特許文献6および特許文献7の取付構造では、引き戸が閉じた状態では、手すり棒は引き戸の正面に対向した位置で略水平状態で引き戸と案内レールに支持される。引き戸に開く方向の力が作用すると、回転ローラが案内レールに沿って回転移動し、手すり棒は、ヒンジ機構を中心に回動されて他端を上方に押上げられる。引き戸の全開状態では、手すり棒は、所定角度で傾斜した状態又は垂直状態でヒンジ機構と回転ローラを介して引き戸と案内レールに支持される。しかしながら、特許文献6および特許文献7に開示される従来技術は、手すりを収納することができず、手すりおよびそれを保持する部材が常に出ているので、手すりを取り付けるための空間を要し、また、戸の内側から開閉しづらい点で、充分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-60237号公報
【文献】特開平10-96375号公報
【文献】特開平11-229581号公報
【文献】特開平11-256928号公報
【文献】特開2002-294963号公報
【文献】特開2011-231513号公報
【文献】特開2017-150621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の不充分な点に鑑みてなされたものであり、本発明は、部屋の出入り口付近での利用者の安全確保を行うことが可能な手すりを戸本体に収納可能に備える戸、および、該戸を含む引き戸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記課題を解決するべく、下記特徴を有する戸が提供される。本発明の実施形態による戸は、手すりと、手すりを内部に収容するための収容部が設けられた戸本体と、戸本体に設けられた可動式の取手とを備える。戸は、さらに、戸本体の閉位置で作動する固定部材と、手すりに連結し、第1の方向および第2の方向に運動可能な機械要素と、取手の操作に応じて、機械要素を第1の方向に運動させて手すりを収容部へ収納する収納機構と、固定部材の作動に応答して、機械要素を第2の方向に運動させて手すりを収容部から放出する放出機構と、手すりの放出に応答して、機械要素の運動に制限をかける運動制限機構とを含む。
【0012】
さらに、本発明の実施形態によれば、上記戸を含む引き戸装置を提供することができる。引き戸装置は、上述した手すり、戸本体、取手、固定部材、機械要素、収納機構、放出機構および運動制限機構に加えて、戸本体をスライド可能に保持するレールであって、閉位置で、固定部材と該レールとの当接が外れるように構成されたレールを含む。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、部屋の出入り口付近での利用者の安全確保を行うことが可能な手すりを戸本体に収納可能に備える戸および該戸を含む引き戸装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による引き戸本体および該引き戸本体を備える引き戸装置の概略図。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態による引き戸装置において引き戸本体が閉まった状態を示す概略図。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態による引き戸本体の手すりを収納した状態での側面図(A)および正面図(B)、並びに、手すりを放出した状態での側面図(C)および正面図(D)を示す。
【
図4】本発明の実施形態による引き戸本体の収納式手すり周りの内部構造の詳細を示す図。
【
図5】本発明の実施形態による引き戸本体において、引き戸が閉状態でドアノブを回転シャフト固定解除位置まで回転させた状態における内部構造の動きを説明する図。
【
図6】本発明の実施形態による引き戸本体において、引き戸が閉状態でドアノブを回転シャフト最大回転位置まで回転させ状態における内部構造の動きを説明する図。
【
図7】本発明の実施形態による引き戸本体において、引き戸を開いた状態における内部構造の動きを説明する図。
【
図8】本発明の実施形態による引き戸本体において、引き戸を閉める際の内部構造の動きを説明する図。
【
図9】好適な実施形態による収納式手すりの収納を補助する補助機構を説明する図。
【
図10】他の実施形態における手すりの収納および放出する機構を説明する図。
【
図11】さらに他の実施形態における手すりの収納および放出する機構を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明について実施形態をもって説明するが、本発明は、これらの図面に示される特定の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態による引き戸装置10を示す概略図である。
図1には、部屋の出入口の開口4に設けられた引き戸装置10が示されている。引き戸装置10は、鴨居12、敷居14および左右の縦枠16L,16Rを含む建具枠と、鴨居12および敷居14の間にスライド可能に嵌めこまれた引き戸本体20とを含み構成される。
【0017】
2つの縦枠16L,16Rは、部屋の出入口の開口4と、該開口4に隣接する所定範囲の壁2の面とを左右で挟んで設けられている。引き戸装置10は、さらに、開口4の左側の壁2の面に対向して、戸袋パネル6(
図1においては、戸袋パネル6は、破線で透過的に示されている。)を含み、壁2および戸袋パネル6により戸袋が構成される。引き戸本体20は、壁2および戸袋パネル6の間に引き込み可能となっている。
図1は、引き戸が半開きとなった状態を示しており、引き戸本体20は、開いた状態では、破線で示す戸袋パネル6の裏側に収容されることになる。引き戸本体20は、特に限定されるものではないが、スチール、ステンレスなどの金属、木などの適切な材料で構成される。
【0018】
鴨居12には、図示しない上レールが設けられている。敷居14には、溝、下レールまたはガイドが設けられる。引き戸装置10は、引き戸本体20が、その上、下または両方に設けられた戸車で上、下または両方のレールを走行する通常の引き戸として構成されてもよいし、引き戸本体20が吊車で上レールに吊り下げられた状態で走行する上吊式の引き戸であってもよい。上吊式の引き戸は、吊り戸と呼称される場合もあるが、本明細書において、「引き戸」には、「吊り戸」が含まれる。上吊式の引き戸などの場合は、敷居14が省略されてフラットな床面とされていてもよい。
【0019】
なお、
図1には、一例として、壁2の面に対し戸袋パネル6が取り付けられた片面戸袋型の引き込み戸を例示するが、両面が戸袋パネルで構成された両面戸袋型の引き込み戸であってもよいし、戸袋を有する引き込み戸に限定されるものでもない。ここで、引き戸は、建具枠と1つの引き戸本体とを含み構成され、引き戸本体を1本の溝またはレールの上で水平移動させて開閉される片引き戸、建具枠と2枚以上の引き戸本体とを含み構成され、2枚以上の引き戸本体を2本以上の溝またはレールの上で水平移動させて開閉される引き違い戸、および、建具枠と2枚以上の引き戸本体とを含み構成され、複数の引き戸本体を共通の溝やレールの上で水平移動させて開閉される両開き戸(引き分け戸)を含み得る。
【0020】
本実施形態において、引き戸本体20は、可動式の取手であるレバー式のドアノブ22と、収納式手すり30とを備える。本実施形態による収納式手すり30は、手すり棒32と、内部に手すり棒32を収容するための収容部28とを含み構成される。手すり棒32は、特に限定されるものではないが、アルミニウム、ステンレスなどの金属、木、塩化ビニルなどの樹脂など適切な材料で構成される。収容部28は、引き戸本体20を一方の扉面(表面)から反対の扉面(裏面)まで貫通する開口として設けられており、手すり棒32は、収容部28に収容された状態において、引き戸本体20の両面内に完全に収納される。なお、説明する実施形態においては、収容部28は、貫通する開口として構成されるものとするが、これに限定されるものではない。他の実施形態では、収容部28は、引き戸本体20の一方の扉面に凹形状に設けられてもよい。また、レバー式のドアノブ22は、一例であって、特に限定されるものではなく、丸型のドアノブなどの他の回転式の取手を含む種々の可動式の取手を用いることができる。
【0021】
図1は、上述したように、引き戸が半開きとなった状態を示しており、半開きまたは完全に開いた状態では、手すり棒32は、引き戸本体20の収容部28内に収容されている。この状態では、手すり棒32は、手すりとして使用できないものの、開閉動作中に壁2や戸袋パネル6(、あるいは他の戸)と干渉しないようになっている。手すり棒32は、この手すり棒32を所定の回転軸から離間して保持する保持部材34に連結されており、所定の回転軸周りに周回するように構成されている。収容状態においては、手すり棒32および保持部材34の全体が収容部28に収められる。
図3(A)および
図3(B)は、それぞれ、本発明の実施形態による引き戸本体20の手すりを収納した状態の側面図および正面図を示す。
図3(A)および
図3(B)において、収容部28に収められる手すり棒32および保持部材34は点線で示されている。
【0022】
図2は、
図1と同様に、引き戸装置10を示す図であるが、引き戸が閉まった状態を示している。
図2に示すように、引き戸が閉まった状態では、収納式手すり30の手すり棒32は、前面(紙面の表の方向)に放出されて、利用者の移動を補助する手すりとして使用可能となる。また、引き戸が閉まった状態では、引き戸本体20は、ドアノブ22を回すまでその動きが固定されており、水平移動しないように構成されている。さらに、手すり棒32が放出された状態では、手すり棒32が上下に動くことがないように固定される。
図3(C)および
図3(D)は、本発明の実施形態による引き戸本体20の手すりを放出した状態の側面図および正面図を示す。
【0023】
引き戸が閉まった状態において、ドアノブ22を回転することにより手すり棒32の固定が解除され、そして、手すり棒32が収容部28の中へ収納される。さらに、ドアノブ22が回転すると、引き戸本体20の固定が解除され、再び引き戸を開くことが可能となる。
【0024】
本実施形態による収納式手すり30は、引き戸の開閉に伴うドアノブ22への操作および引き戸本体20の位置に応じて、自動的に、引き戸本体20内から手すり棒32を放出し、または引き戸本体20内に収納するように構成されている。収納式手すり30の収納および放出の機構については、詳細を後述する。
【0025】
引き戸本体20には、好ましくは、収納式手すり30の上部に、複数の羽板26を傾斜させて設けることで鎧戸部24が構成される。本実施形態による引き戸装置10においては、利用者は、引き戸が閉まった状態で、放出された手すり棒32に掴まって移動することができる。一方で、利用者が手すり棒32に掴まる裏側にも、ドアノブ22のレバーが設けられており、裏側からも引き戸が利用可能である。収納式手すり30の上部に鎧戸部24を設けることにより、室内の空気の通りを良くするのみならず、視界を透過させて、引き戸の裏側にいる他の利用者から、表側で手すり棒32を利用する利用者やその手を視認することが可能となり、安全性を向上することができる。
【0026】
以下、
図4~
図8を参照しながら、引き戸本体20の開閉操作に応じて手すりを収納および放出するための内部機構およびその動きについて説明する。
【0027】
図4は、本発明の実施形態による引き戸本体20の収納式手すり30周りの内部構造の詳細を示す。
図5~
図8は、
図4と併せて、本発明の実施形態による引き戸装置10において引き戸を開いてから再び閉める使用動作中の内部構造の動きを説明する図である。なお、
図4~
図8に示す実施形態は、特に限定されるものではないが、引き戸装置10が吊下式の引き戸である場合を例示している。また、
図4~
図8では、各構成要素の位置および大きさは、正確な縮尺比で示されているとは限らず、説明の便宜上、任意に拡大または縮小されている点に留意されたい。また、
図4~
図8では、内部機構を示すため、引き戸本体20の紙面の表側の扉面は透過的に示されている点に留意されたい。
【0028】
本発明の実施形態による収納式手すり30周りの内部構造としては、(1)手すり棒32の固定および解除機構、(2)手すり棒32の収納および放出機構、(3)引き戸本体20の固定および解除機構が含まれる。そして、(2)手すり棒32の収納および放出機構並びに(3)引き戸本体20の固定および解除機構は、1組の機構部品(40,42,44,46,48,50、各部品の詳細については後述する。)で構成されており、ドアノブ22の回転操作と連動して動作するよう構成される。以下、収納式手すり30周りの内部構造について図面を参照しながら説明する。
【0029】
図4には、引き戸装置10の構成として、
図1に示した鴨居12、敷居14および縦枠16L,16Rを含む建具枠と、引き戸本体20とが示されている。また、引き戸本体20が備える構成として、鎧戸部24と、放出状態の手すり棒32と、手すり棒32に連結する保持部材34と、手すり棒32および保持部材34を収容するための収容部28が図示されている。なお、
図4~
図8は、
図1とは反対側から見た場合を示しており、手すり棒32は、放出状態で、紙面の裏の方向に放出されている。また、紙面に全体を収めるために、各構成要素は、適宜、強調、簡略化および省略化して表現されている点に留意されたい。
【0030】
引き戸本体20は、正方向および逆方向に回転可能な回転シャフト36を含み、手すり棒32は、保持部材34により回転シャフト36の回転軸から離間して保持されている。そして、手すり棒32は、回転シャフト36の回転軸周りに周回するように構成されている。回転シャフト36は、本実施形態において、手すり棒32に連結し、正方向および逆方向に回転運動可能な機械要素を構成する。手すり棒32は、回転シャフト36の正方向の回転に伴って、回転シャフト36の回転軸周りに周回することにより収容部28へ収納される。手すり棒32は、また、回転シャフト36の逆方向の回転に伴って、回転シャフト36の回転軸周りに周回することにより収容部28から放出される。ここでは、手すり棒32を収容部28へ収納する方向を「正方向」として定義する。
【0031】
引き戸本体20は、また、ドアノブ22の操作に連動して、回転シャフト36を正方向に運動させて手すり棒32を収容部28へ収納する収納機構を備える。説明する実施形態において、ドアノブ22は、回転可能な取手であり、収納するための操作は、例えばドアノブ22のレバーを初期状態の略垂直状態から略水平状態に倒すような一方向の回転操作である。特定の実施形態においては、基準位置(ドアノブ22から手を離した状態での位置)から第1の角度(基準位置を0度として定義する。例えば30度)までの回転操作は、手すり棒32の収納を開始するために手すりの動きの固定を解除する予備の操作(以下、予備操作という。)としており、第1の角度から第2の角度(例えば30度から90度)へ回転する操作(以下本操作という。)により手すり棒32の収納が行われる。
【0032】
上述した収納機構は、ドアノブ22の一方向の回転操作を、スライド運動を経由して、回転シャフト36の正方向の回転運動に変換する運動変換機構を含む。運動変換機構としては、ドアノブ22に連動するアーム52と、アーム52の回転に伴い押し出されてスライド移動する、ラックギア66が備えられたスライド板60と、スライド板60上のラックギア66とかみ合い、回転シャフト36に回転を入力するためのピニオンギア58とが備えられる。スライド板60は、特に限定されるものではないが、アルミニウムなどの金属で構成される。
【0033】
引き戸本体20側には、スライドレールの固定側(アウター)メンバー54が取り付けられており、スライド板60の裏側には、図面上隠れているが、スライドレールの移動側(インナー)メンバーが設けられている。これにより、スライド板60は、引き戸本体20側に対してスライド可能とされている。なお、
図4上、スライド板60とともに運動する部材は、灰色で網掛けされている。スライド板60には、また、ドアノブ22が第1の角度(例えば30度)だけ回転すると、それに連動して回転するアーム52が当接するような位置に、接触部62が設けられる。ドアノブ22と連動してアーム52が回転すると、アーム52が接触部62に接触した以降、アーム52の回転運動がスライド板60のスライド運動に変換される。なお、アーム52には、好ましくは、スライド板60を押し下げる際の接触部62との摩擦を低減するように例えば樹脂製のベアリングが設けられる。
【0034】
運動変換機構は、さらに、回転シャフト36の回転方向と、ピニオンギア58の回転方向とを反転させる一組のギア38,56とを含み構成される。回転シャフト36に取り付けられた第1ギア38は、回転シャフト36と同一の回転軸周りに回転する。ピニオンギア58のシャフトに取り付けられたもう一方の第2ギア56は、回転シャフト36とは異なる回転軸周りに回転する。
【0035】
なお、第1ギア38、第2ギア56、ピニオンギア58およびラックギア66のギア比は、ドアノブ22が第1の角度(例えば30度)から第2の角度(例えば90度)に回転したことに連動したアーム52の回転が生み出すスライド板60(ラックギア66)の移動量に対して、手すり棒32の収納動作に要求される回転シャフト36の所定の回転量(例えば90度)の回転が生じるように設計される。同様に、アーム52のドアノブ22のシャフトに対する角度およびアーム52の長さも、スライド板60の所望の移動量が得られるように設計される。ここで、第2の角度は、手すり棒32が完全に放出される角度である、回転シャフト36の回転変量が最大となる回転シャフト最大回転位置と参照する場合がある。
【0036】
なお、説明する実施形態では、手すり棒32が紙面の裏の方向に放出されるものとして説明するが、逆に紙面の表の方向に放出されるようにしてもよい。その場合は、ピニオンギア58が、回転シャフト36に直接設けられてもよい。また、説明する実施形態では、手すり棒32は、完全に収納された状態で垂直方向を向き、完全に放出された状態で、水平方向を向き、手すり棒32の収納動作に要求される回転シャフト36の所定の回転量は、90度とされているが、これに限定されるものではない。他の実施形態では、手すり棒32を手で握れる空間が充分に確保できれば、90度以下であってもよいし、また、90度以上であってもよい。また、手すり棒32の収納動作に要求されるドアノブ22の回転量も、レバーを略垂直状態から略水平状態に倒す90度に限定されない。一方で、ドアノブ22の回転量を多く取る設計の方が、ドアノブ22を回すために必要な力を小さくすることができる。
【0037】
引き戸本体20は、さらに、引き戸本体20が閉位置となったことに応答して、回転シャフト36を逆方向に回転運動させて手すり棒32を収容部28から放出する放出機構を備える。放出機構としては、スライド板60を引き上げる引き上げ機構である引張りバネ72と、バー68とが設けられる。引張りバネ72の一端は、引き戸本体20に固定され、他端は、スライド板60に連結される。
【0038】
引き戸本体20は、さらに、引き戸本体20の閉位置で作動する固定部材であるロッドアーム64を備え、ロッドアーム64は、スライド板60に備えられる。ロッドアーム64は、引き戸の開位置の範囲では、鴨居12に設けられた上レール(上吊りレール)13の下方に当接し、これによってドアノブ22の操作状態にかかわらず、手すり棒32を収容部28内に維持する。上レール13は、鴨居12の全幅にわたって設けられているわけではなく、引き戸本体20が閉位置となったときに、ロッドアーム64が上レール13の下方との当接が外れるように、途中で切れた状態で設けられている。なお、説明する実施形態においては、引き戸本体20の上面には吊車74が設けられており、引き戸本体20は、上述した上レール13に吊車74で吊り下げられている。
【0039】
ロッドアーム64が引き戸の閉位置で上レール13との当接が外れたことに応答して、引張りバネ72がスライド板60とともにロッドアーム64を引き上げる。ロッドアーム64は、引き上げにより、引き戸本体20と係止し、引き戸本体20は、閉位置で固定される。同時にスライド板60の(収納時とは反対方向の)スライド移動により、回転シャフト36が逆方向に回転し、手すり棒32が収容部28から放出される。つまり、ロッドアーム64の作動に応答して手すり棒32が収容部28から放出される。なお、手すり棒32は、上から倒れて放出されるように構成されているので、手すり棒32の自重も放出する方向の運動に寄与することとなる。
【0040】
また、上述した収納機構は、さらに、ドアノブ22の本操作に連動して回転シャフト36を運動させて手すり棒32を収容部28へ収納する際に、スライド板60のスライドに応答して、ロッドアーム64を引き下げて、ロッドアーム64の作動を解除する。ドアノブ22が第1の角度からさらに第2の角度まで回転することにより、手すりの収納および放出構と引き戸本体20の固定および固定の解除機構が同時に動作する。
【0041】
なお、説明する実施形態では、ロッドアーム64は、上方に突出し、上レール13の下方に当接または端部で係止し、ロッドアーム64およびラックギア66は、スライド板60と同じ方向に同時に移動するものとして説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、他の実施形態では、ロッドアーム64は、ロッドアーム64が下方に突出して、敷居14側の溝、レールまたは床に当接し、溝、レールまたは床に穴を設けて穴で係止するように構成してもよい。その場合は、スライド板60を分離して、ロッドアーム64およびラックギア66が反対向きにスライドするように構成してもよい。
【0042】
引き戸本体20は、さらに、手すり棒32の放出に応答して、回転シャフト36の回転運動に制限をかける運動制限機構を備える。運動制限機構としては、回転シャフト36に連結し、キー溝40aが設けられたアダプタ40と、アダプタ40のキー溝40aに挿入可能なキー42と、キー42をアダプタ40に向かって押し出す弾性体である線細工バネ46と含が設けられる。キー42は、キー保持部44に、キー溝に抜き差しする方向でスライド可能に保持される。アダプタ40のキー溝40aの位置は、回転シャフト36の回転に伴って移動し、手すり棒32の放出が完了するとキー溝40aとキー42とが同位置となり、キー42は、線細工バネ46により押されてアダプタ40のキー溝40aに差し込まれる。これにより回転シャフト36の回転運動の制限がかけられる。なお、キー溝40aは、好ましくは、テーパー形状とすることが好ましい。
【0043】
上述した運動制限機構は、さらに、ドアノブ22の第1の角度(例えば30度)までの回転操作(上述した予備操作)に連動して、回転シャフト36の回転運動にかけた制限を解除する、制限解除機構が設けられる。制限解除機構としては、ドアノブ22の回転操作と連動するもう一つのアーム50と、該アーム50とキー42とを連結する連結部材であるボールチェーン48とが備えられる。
【0044】
上述したキー保持部44には、ボールチェーン48との連結部が、キー42の移動に伴ってキー保持部44と干渉しないようにスリット44aが設けられている。予備操作の範囲での回転操作に連動して、キー42が、アーム50によりボールチェーン48を介して引っ張られて、アダプタ40のキー溝40aから抜き出され、これにより、上述した回転シャフト36の回転運動の制限が解除される。ここで、第1の角度を、回転シャフト36の固定を解除する位置、回転シャフト固定解除位置と参照する場合がある。アーム50は、アーム52に対し所定の角度(例えば150度)に固定される。また、アーム50の長さおよび回転中心であるシャフトの位置は、上述した回転シャフト固定解除位置までの回転で充分にキー42がキー溝40aからに抜き出されるように、また、部材同士が干渉しあわないように設計される。
【0045】
なお、説明する実施形態においては、連結部材としてボールチェーン48を用いるものとして説明した。しかしながら、キー42とアーム50との連結部材としては、ボールチェーンに限定されるものではない。他の実施形態では、ロッドアームが用いられてもよい。この場合、ドアノブ22が初期位置に戻る際にキー42とアダプタ40とが干渉しないように、ロッドアームのキー42との接続部分は、遊びを設けるために楕円加工さていることが好ましい。また、アーム50の回転により斜め上方に引き上げられることになるため、ロッドアームのキー42との接続部分は、ユニバーサルロッドエンドとなっていることが望ましい。
【0046】
また、
図4では、アーム50およびアーム52には、適宜、ドアノブ22が手から離されたときにドアノブ22を初期位置に戻すためのドアノブ引き上げバネ70が設けられている。しかしながら、ドアノブ22自体に初期位置に戻るためのバネがもうけられてもよい。
【0047】
以下、
図4と合わせて
図5~
図8を参照しながら、本発明の実施形態による引き戸装置10において引き戸を開いてから再び閉める使用動作中の内部構造の動きについて説明する。
【0048】
(引き戸が閉状態、取手が初期位置)
図4は、引き戸が閉められ、また、ドアノブ22も手から離された状態を示す。引き戸が閉位置となると、スライド板60が引張りバネ72により引き上げられて、ロッドアーム64が作動するとともに、回転シャフト36が回転して手すり棒32が放出される。手すり棒32の放出が完了すると、アダプタ40のキー溝40aとキー42とが同位置になり、線細工バネ46の力により、キー42が押されてアダプタ40のキー溝40aに挿入される。これにより、手すり棒32の回転シャフト36が固定され、手すり棒32が上下に動いてしまうことが防止される。
【0049】
(引き戸が閉状態、取手が回転シャフト固定解除位置まで)
図5は、引き戸が閉められた状態でドアノブ22を回転シャフト固定解除位置まで回転させた状態を示す。キー42は、ドアノブ22の回転と連動しており、ドアノブ22を基準位置から回転シャフト固定解除位置(第1の角度)までの範囲で回転すると、ボールチェーン48がキー42を引き上げて、キー42がアダプタ40のキー溝40aから外れることにより、回転シャフト36の固定が解除される。回転シャフト固定解除位置までは、アーム52がスライド板60の接触部62に接触しないので、スライド板60の移動は行われず、手すり棒32も放出された状態のままである。
【0050】
(引き戸が閉状態、取手が回転シャフト最大回転位置まで)
図6は、引き戸が閉状態でドアノブ22を回転シャフト最大回転位置まで回転させた状態を示す。ドアノブ22の位置が、回転シャフト固定解除位置(第1の角度)を超えて回転シャフト最大回転位置(第2の角度)に達するまで回転することにより、手すり棒32が収納される。ドアノブ22のシャフトに取り付けたアーム52は、ドアノブ22の位置が回転シャフト固定解除位置(第1の角度)に達した時点で、スライド板60の接触部62に接触する。アーム52は、ドアノブ22をそこからさらに回転させると、ラックギア66を押し下げて、ピニオンギア58、第2ギア56および第1ギア38を介して回転シャフト36を回転させる。ドアノブ22の位置が回転シャフト最大回転位置(第2の角度)に達すると、手すり棒32が収容部28に完全に収納される。また、この動作と同時並行して、引き戸本体20を固定するための固定機構であるロッドアーム64が動作し、ドアノブ22が回転シャフト最大回転位置(第2の角度)に達した時点で、ロッドアーム64による固定が解除され、引き戸本体20は自由に開くことが可能となる。
【0051】
なお、ロッドアーム64による固定が解除されたとしても、引き戸が閉状態のままドアノブ22から手が離されると、ロッドアーム64が上レール13に当接しないので、スライド板60が引張りバネ72により引き上げられて、ロッドアーム64が再び作動するとともに、回転シャフト36が回転して手すり棒32が放出される。手すり棒32が放出されると、手すり棒32の回転シャフト36が固定される。
【0052】
(引き戸が開状態)
図7は、引き戸を開いた状態を示す。ロッドアーム64による固定が解除された後、ドアノブ22をそのままで、引き戸本体20が水平移動されて、引き戸が開かれると、ロッドアーム64は、上レール13の下方に当接し、上レール13上を走行することになる。このため、ドアノブ22から手が離されても、スライド板60は引き上げられず、固定される。引き戸が開いている間は、手すり棒32は、収納状態に固定され、引き戸本体20は、自由に動かすことが可能となる。
【0053】
(引き戸が閉状態)
図8は、引き戸を閉める際の動作を説明する。ドアノブ22の回転が初期値に戻った状態で引き戸が閉められると、ロッドアーム64の上レール13の下方への当接が外れ、スライド板60が引張りバネ72により引き上げられて、ロッドアーム64が作動するとともに、回転シャフト36が回転して手すり棒32が放出される。
図8は、手すり棒32の放出が完了する直前の瞬間を示しており、アダプタ40のキー溝40aとキー42とは未だ同位置となっておらず、キー42は、アダプタ40に押し付けられているものの、キー溝40aに未だ挿入されていない状態にある。手すり棒32の放出が完了すると、
図4に示した状態となり、アダプタ40のキー溝40aとキー42とが同位置になり、線細工バネ46の力により、キー42が押されてアダプタ40のキー溝40aに挿入される。これにより、手すり棒32の回転シャフト36が固定される。
【0054】
(手すりの収納補助機構)
以下、
図9を参照しながら、本発明の実施形態による収納式手すり30に好適に適用可能な、手すりの収納を補助する補助機構を備えた好適な実施形態について説明する。
図9(A)は、好適な実施形態による収納式手すりの収納を補助する補助機構の構成を説明する図である。また、
図9においても、各構成要素の位置および大きさは、説明の便宜上、任意に拡大または縮小されている点に留意されたい。
【0055】
上述したように、本発明の実施形態による収納式手すり30は、ドアノブ22の回転操作によって手すり棒32を収納するため、手すりの重量の影響を大きく受ける。例えば、材質、大きさに起因して手すり棒32(保持部材を含む。)の重量が大きくなると、ドアノブ22を回すために必要な力は、重量に比例して重くなる。
【0056】
図9(A)には、収納式手すり30の手すり周辺の構成要素が示されている。
図9(A)には、引き戸本体20の収容部28と、回転シャフト36と、手すり棒32と、保持部材34とが示されており、手すり棒32は、紙面の裏の方向に放出された状態となっている。
図9(A)には、さらに、回転シャフト36に取り付けられたプーリー37と、プーリー37に巻き付けられたワイヤー35と、ワイヤー35と接続される引っ張りバネ39とが示されている。なお、
図9(A)に示す収納式手すり30には、プーリー37および引っ張りバネ39を設けるための空間(
図9(A)では灰色で示す。)やワイヤー35を挿通してこれらの空間を連通する開口(破線で示す。)が適宜設けられる。また、
図9(A)では、収納式手すり30の手すり周辺の内部機構を示すため、他の部分は省略され、また、引き戸本体20の紙面の表側の扉面は透過的に示されている点に留意されたい。
【0057】
引っ張りバネ39は、回転シャフト36に連結され、手すり棒32が放出された状態で、回転シャフト36が正方向(収納する方向)に回転するように弾性的に付勢している弾性部材である。なお、手すり棒32が完全に放出した状態では、キー42がキー溝40aに挿入されて回転シャフト36が固定され、引っ張りバネ39はエネルギーを蓄えている。ドアノブ22の回転に伴いキー42がキー溝40aから抜き出されると、引っ張りバネ39は、消勢し、手すり棒32の収容部28への収納を補助する。
【0058】
図9(B)は、補助機構がある場合および補助機構がない場合の手すりの引き上げる力と、引揚角度の関係を示すグラフである。
図9(B)のグラフで示すように、引き上げ補助機構がない場合は、ドアノブ22の回転に伴いハンドル角度が大きくなるにつれて、手すりの引き上げる力は単調増大して行く。これに対し、引き上げ補助機構がある場合は、引揚角度が一定の角度を超えてから、手すりの加重モーメントを打ち消すためにドアノブ22を回す力が、引っ張りバネ39が引っ張る力の分だけ小さくなることで、より小さな力で手すりを収納することが可能となる。このように、上述した引き上げ補助機構により、手すり棒32を引き上げる際に大きな力を使わずに手すりの収納が可能となる。引き上げ補助機構は、手すりが重い場合でも、引っ張りバネ39のバネ定数を大きくすることにより、力の弱い利用者でも無理なくドアノブ22を回転することが可能となる。
【0059】
(他の手すりの収納および放出機構)
上述までの実施形態では、機械要素は、正方向および逆方向に回転可能な回転シャフト36を含み、手すり棒32は、回転シャフト36の正方向または逆方向の回転に伴って回転シャフト36の回転軸周りに周回することにより、収容部28へ収納され、または、収容部28から放出されるものであった。以下、
図10および
図11を参照しながら、他の実施形態における手すりの収納および放出機構について説明する。
【0060】
図10は、他の実施形態における手すりを収納および放出する機構を説明する図である。
図10(A)および
図10(B)は、それぞれ、引き戸本体120の手すりを収納した状態の側面図および正面図を示す。
図10(C)および
図10(D)は、それぞれ、引き戸本体120の手すりを放出した状態の側面図および正面図を示す。
【0061】
図10に示す収納式手すり130は、手すり棒132と、手すり棒132を保持する保持部材134と、手すり棒132および保持部材134を収容する収容部128とを含む。
図10に示す収納式手すり130は、さらに、上述までの実施形態における機械要素としての回転シャフト36に代えて、保持部材134および手すり棒132を、手すり棒132を引き入れる方向および押し出す方向に移動可能に保持するガイド機構を含み構成される。ガイド機構は、スリット121aが設けられたガイドレール121と、保持部材134に設けられたガイドピン135とを含み、ガイドピン135がスリット121aを滑走することで、手すり棒132の運動を、上述した引き入れる方向および押し出す方向の移動に制限する。
【0062】
保持部材134は、ガイドレール121に案内されて移動し、収容部128から手すり棒132を放出し、または、収容部128に収納する。保持部材134は、説明する実施形態では矩形形状に構成されており、収容部128は、引き戸本体120の一方の扉面から凹形状(
図10(B)および(C)において灰色の塗りつぶしで示す。)に設けられており、上述したガイドレール121に沿った保持部材134および手すり棒132の移動(灰色の線で軌跡を示す。)中に干渉しないような形状とされている。手すり棒132および保持部材134を全体は、収容部128に収容された状態において、引き戸本体120の両面内に完全に収納されるように構成されている。
【0063】
また、手すり棒132は、収容部128内での押し出す方向または引き入れる方向の移動に伴って、収容部128の内壁を滑り、収容部128から前方に放出され、または、収容部128へ収納される。なお、図示しないが、収納式手すり130には、ドアノブ22の一方向の回転操作を、スライド運動を経由して、ガイドレール121に沿って保持部材134を引き込む方向のスライド運動に変換する、
図4に示したものと類似する運動変換機構を含むことができる。また、引き戸本体120の固定部材(ロッドアーム64)が作動したことに応答して、ガイドレール121に沿って、保持部材134を押し出す方向のスライド運動を生じさせる、
図4に示したものと類似する引き上げ機構が設けられる。また、
図4に示したものと同様な、ガイドレール121に沿った運動を制限しまたは制限を解除する機構も備える。
【0064】
図11は、さらに他の実施形態における手すり棒の収納および放出する機構を説明する図である。
図11(A)および
図10(B)は、それぞれ、引き戸本体220の手すりを収納した状態の側面図および正面図を示す。
図11(C)および
図10(D)は、それぞれ、引き戸本体220の手すりを放出した状態の側面図および正面図を示す。
【0065】
図11に示す収納式手すり230は、
図10を参照して説明した実施形態と同様に機械要素としての回転シャフト36の代わりの部材が設けられ、それは、手すり棒232を保持する軸部材234を含み構成される。引き戸本体220には、軸部材234を包囲しながら、軸部材234を、手すり棒232を押し出す方向および手すり棒232を引き入れる方向に移動可能に保持する収容部228が設けられる。軸部材234は、収容部228に挿通される。軸部材234および対応する収容部228は、説明する実施形態では円弧状に構成されている。なお、説明する実施形態においては、収容部228は、引き戸本体220の一方の扉面に凹形状に設けられており、手すり棒232および軸部材234を全体が、収容部228に収容された状態において、引き戸本体220の両面内に完全に収納されるように構成されている。手すり棒232は、軸部材234の収容部228内での押し出す方向または引き入れる方向の移動に伴って、収容部228から放出され、または、収容部228へ収納される。本実施形態においては、収容部228およびそれに挿通される軸部材が、ガイド機構を構成する。
【0066】
なお、図示しないが、収納式手すり230には、ドアノブ22の一方向の回転操作を、スライド運動を経由して、収容部228の内壁に沿って軸部材234を引き込む方向のスライド運動に変換する、
図4に示したものと類似する運動変換機構を含むことができる。また、引き戸本体220の固定部材(ロッドアーム64)が作動したことに応答して、収容部228の内壁に沿って軸部材23を押し出す方向のスライド運動を生じさせる、
図4に示したものと類似する引き上げ機構が設けられる。また、
図4に示したものと同様な、収容部228の内壁に沿った運動を制限しまたは制限を解除する機構も備える。なお、
図10に示す構成は、
図11に示した構成と比較して、戸の厚さを薄くできる点で優れており、
図11に示す構成は、
図10に示す構成と比較してデザイン性に優れている。
【0067】
(その他の変形例)
なお、
図10および
図11に示した実施形態では、手すり棒132,232は、下方にスライドして、収容部128,228の外に放出されるように構成されたが、他の実施形態では、上方にスライドして収容部の外に放出されるように構成されてもよい。同様に、
図1~
図8に示す実施形態でも、垂直方向上部から水平方向へ放出されるものとして説明したが、他の実施形態では、垂直方向下部から水平方向へ放出されることは妨げられない。
【0068】
また、上述した実施形態では、人によるドアノブ22の回転操作に連動して、機械的に、回転シャフト36の回転運動やガイド機構のスライド運動が生じるものとして説明した。手すりの収納および放出を人手による力で行う実施形態の方が、構造が簡素となり、引き戸装置自体のコストや、引き戸装置を設置するコスト、メンテナンスコスト、また停電時にも使用できる観点から好ましい。しかしながら、ドアノブ22の回転操作に応答した機械要素の運動を、回転操作を検出するセンサおよび機械要素の運動を生じさせるモータなどを用いて電気的に行うことは妨げられるものではない。その場合は、適宜、非接触で引き戸本体に電力が給電されるように構成すればよい。さらに、説明する実施形態では、手すりを収納することで開閉動作において他の部材との干渉を防止できる観点から、適用が好ましい戸として引き戸を例に説明したが、必ずしも引き戸に限定されるものではない。
【0069】
以上説明したように、上述までの本発明の実施形態によれば、部屋の出入り口付近での利用者(例えば住戸や施設の居住者)の安全確保を行うことが可能な手すりを戸本体に収納可能に備える戸、および、該戸を含む引き戸装置を提供することが可能となる。
【0070】
引き戸などの戸本体(扉)に直接手すりを取り付けることにより、利用者が戸の手前で転倒してしまう事故を低減することができる。福祉用具は、身体機能が低下した人を補助する役割があるが、ただ設置するだけでは、その人に適した住環境とは言えない。身体機能が低下する前から日常的に使っていることで福祉用具として利用できるようになると考えられる。福祉用具は、身体機能が低下するよりも前から慣れることで、認知症などを発症しても使い続けることができると思われる。本実施形態による収納式手すりによれば、戸本体に手すりを設け、戸本体の内部に収容可能とすることで、大きな空間を用いることがなく、取り付けることが可能となる。このため、設置スペースが小さく、居住の空間を有効に利用可能としたまま、手すりを設けることが可能となる。
【0071】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
2…壁、4…開口、6…戸袋パネル、10…引き戸装置、12…鴨居、13…上レール、14…敷居、16…縦枠、20,120,220…引き戸本体、22…ドアノブ、24…鎧戸部、26…羽板、28,128,228…収容部、30,130,230…収納式手すり、32,132,232…手すり棒、34,134…保持部材、35…ワイヤー、36…回転シャフト、37…アダプタ、38…第1ギア、39…引っ張りバネ、40…アダプタ、40a…キー溝、42…キー、44…キー保持部、46…線細工バネ、48…ボールチェーン、50,52…アーム、54…アウターメンバー、56…第2ギア、58…ピニオンギア、60…スライド板、62…接触部、64…ロッドアーム、66…ラックギア、68…バー、70…ドアノブ引き上げバネ、72…引張りバネ、74…吊車、121 …ガイドレール、135…ガイドピン、234…軸部材