(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】架橋剤および架橋剤を含むポリマー組成物ならびにその架橋成形物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20230411BHJP
C08J 5/02 20060101ALI20230411BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230411BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08L101/02
C08J5/02
C08K3/22
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2019550525
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018041256
(87)【国際公開番号】W WO2019088305
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017210924
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306021675
【氏名又は名称】有限会社フォアロード・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 一雄
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】藤代 亮
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509559(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001764(WO,A1)
【文献】特開2015-105281(JP,A)
【文献】特開2010-209163(JP,A)
【文献】特開2017-149925(JP,A)
【文献】特開2010-059441(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072835(WO,A1)
【文献】“有機金属錯体の合成とゴムラテックスへの応用”、2010年、千葉県産業支援技術研究所研究報告 第8号、第22~27頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物または
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩二価金属イオン(Ca
2+、Mg
2+、またはZn ++)結合物、ないしは
前記水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩のカルボン酸反応物、
からなるカルボキシ基および/またはニトリル基架橋剤であって、
前記水酸基含有有機化合物が、1価または多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、水酸基含有高分子(ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガム)、糖質、またはヒドロキシ酪酸、アルドン酸、ウロン酸およびサリチル酸から選択されるヒドロキシカルボン酸
、からなる群より選択される水酸基含有有機化合物(ただし、ポリエチレングリコールおよびその誘導体は除く)であり、
前記水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩は水酸基含有有機化合物の水酸基の酸素原子にアルミニウム原子が結合し、アルミニウム原子がカルボキシ基に結合していないアルミン酸錯塩であることを特徴とする、前記架橋剤。
【請求項2】
前記ヒドロキシカルボン酸がアルドン酸である、請求項1に記載の架橋剤。
【請求項3】
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物が、水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩二酸化炭素反応物であることを特徴とする、請求項1または2記載の架橋剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の架橋剤を含むことを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項5】
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物が、アルミン酸錯塩を直接カルボキシ基および/またはニトリル基を含有するポリマー組成物に配合して中和されたものであることを特徴とする、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
請求項4または5記載のポリマー組成物におけるポリマーが、カルボキシ基および/またはニトリル基を含有することを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項記載のポリマー組成物におけるポリマーが、カルボキシ変性NBRラテックスまたはSBRラテックス、カルボキシ基含有クロロプレンラテックス、カルボキシ基含有ポリウレタンディスパージョン、カルボキシ基含有アクリルエマルジョン、カルボキシ基含有水性ポリエステル、またはカルボン酸変性水性樹脂であることを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項8】
内添サイズ剤、表面サイズ剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム、アルギン酸、ペクチン、およびキサンタンガムから選ばれた1または2以上の有機化合物を含有することを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
さらに酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたはコロイダル水酸化マグネシウムを添加したことを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物が、水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩二酸化炭素反応物であることを特徴とする、請求項4~9のいずれか一項のポリマー組成物。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか一項記載のポリマー組成物を成形および架橋してなることを特徴とする、架橋成形物。
【請求項12】
請求項11記載の成形物を高塩基性塩化アルミニウム、高塩基性硝酸アルミニウム、内添サイズ剤、表面サイズ剤ないしは請求項1記載の架橋剤で表面処理したことを特徴とする、架橋成形物。
【請求項13】
表面処理に用いる架橋剤における水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物が、水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩二酸化炭素反応物であることを特徴とする、請求項12に記載の架橋成形物。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載の架橋成形物がディップ成形品または紙製品であることを特徴とする、前記架橋成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアルミン酸錯塩系架橋剤および該架橋剤を含有するポリマー組成物ならびに該ポリマー組成物の架橋成形物又は該ポリマー組成物を含有する製品の架橋成形物に関する。具体的には、水酸基含有有機化合物の水酸基に結合したアルミン酸錯塩、および該錯塩の中和物または該アルミン酸錯塩のカルボン酸反応物からなる架橋剤であって、カルボキシ基、ニトリル基等を含有する有機化合物を架橋する架橋剤に関する。本発明の応用分野としては、硬化性樹脂組成物、硬化性樹脂成形体、硬化物等があり、特にカルボキシ基含有ラテックス(NBR,SBRラテックス)に架橋剤として添加したゴムラテックス組成物およびその架橋成形物があり、クリープ耐性、耐水性、耐溶剤性、耐久性に優れた低アレルギー性ディップ製品、紙製品等がある。また、カルボキシ基含有水性樹脂の架橋剤としてポリカルボジイミドと類似の機能を有し、ポリウレタンディスパージョン、アクリルエマルジョン、水性ポリエステル、カルボン酸変性水性樹脂の架橋剤として有用であり、塗料、インキ、水性インキ、接着剤、金属表面処理剤、コーティング剤などの架橋剤、水性ポリエステル系樹脂、水性ポリウレタン系樹脂の耐加水分解安定剤等の広範な用途がある。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋、指サック等の浸漬製品等は、安全衛生に対する関心の高まりから医療(院内感染、SARS感染予防など)、食品加工分野(O-157問題)および電子部品製造分野など各方面において広く使用されている。これらゴム手袋、指サック等の製造方法の1つとしてディップ成形法が挙げられる。ディップ成形法としては、木材、ガラス、陶磁、金属又はプラスチックなどから作られた型を予め凝固剤液に浸漬した後、天然ゴムラテックス組成物や合成ゴムラテックス組成物に浸漬するアノード凝着浸漬法や、型をラテックス組成物に浸漬した後、凝固液に浸漬するティーグ凝着浸漬法などが知られており、これらのディップ成形法により得られる成形物がディップ成形品である。
ディップ成形用ラテックスの代表的なものとして、天然ゴムラテックスがある。天然ゴムラテックス製品は、良好な物理的、化学的性質を有するが、製品に含有される天然タンパク質の溶出に伴い、使用者にアレルギー反応を起こす事例があり、タンパク質を含まない合成ゴムラテックスを使用する製品の生産が増加する傾向にある。
合成ゴムラテックスの代表例は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBRゴム)などの合成ゴムラテックスであるが、燃焼排ガス中にアクリロニトリルに由来するシアン化水素等の有害物質が発生する可能性も指摘され、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、(特開2001-192918号:特許文献1)、旧来のクロロプレンゴム、またはカルボキシ基含有アイオノマー系エラストマー等の新たなラテックス原料も注目されている。
【0003】
ディップ成形品には、高度な物性が要求される。高度な物性を発現する為には、ポリマー間に架橋構造を導入する必要がある。
天然ゴムの場合には、イオウと、酸化亜鉛などの加硫促進剤を添加し、天然ゴム分子の二重結合間にイオウの共有結合を形成する。いわゆるイオウ加硫では、天然ゴムの場合には天然ゴム粒子内でも架橋構造が形成されると考えられており、優れた製品物性が発現する。
ジエン系カルボキシ化合成ゴムラテックスの場合にも、天然ゴムの場合と同様のイオウ加硫法が一般的に採用されている。しかし、添加される各薬品の役割は、天然ゴムラテックスの加硫の場合とはかなり異なる。すなわち、酸化亜鉛は、水と接触すると、水酸基が表面に生成し、この水酸基がラテックス粒子のカルボキシ基と反応し、(P.H.Starmer、Plastics and Rubber Processing and Applications、 9(1988)209-214:非特許文献1)、ペンダント半塩を形成し、さらに加熱乾燥過程を経過するとクラスターイオン架橋を形成すると考えられている。この亜鉛架橋により、引張強度、伸び、硬さ等の物理的な測定物性は決定されており、この点はイオウ架橋が製品物性を決定している天然ゴムラテックスの場合との大きな相違点である。
ここで、クラスターイオン架橋とは、カルボキシ基がクラスターを形成し、亜鉛の2価のカチオンを、クラスターを形成しているカルボキシ基全体で中和している状態を言う。この構造の特徴から、ゴムが伸ばされると、架橋がずれることになり、ストレスを掛けると、短時間の間に応力緩和(クリープ)が起こり、長時間使用すると、永久歪が大きくなって、ゴムが伸びてしまう(N.D.Zakharov、(1963) Vulcanization of Carboxylic Rubbers.、Rubber Chem.and Tech、Rubber Division Acs.Akron、US.Vol36、no.2 568-574:非特許文献2)。
一方、イオウは、ブタジエンに由来する二重結合間を共有結合で架橋するが、引張強度、伸び、硬さ等の測定物性に対する影響は小さい。しかし、ゴム製品の耐久性、クリープ耐性、耐水性、耐溶媒性等、ゴム製品の重要な性質を支配しており、これがカルボキシ化合成ゴムラテックスにおいてもイオウ加硫法が多く採用されている理由である。
【0004】
以上のように、イオウ加硫はジエン系カルボキシ化合成ゴムラテックスにおいても重要な役割を果たしているが、他方、金属と接触するとイオウが金属を酸化するため、電子部品製造分野においては、使用が控えられる傾向にある。
また、近年では、手袋などのディップ成形品に含まれる加硫促進剤に対する遅延型アレルギーに基づく接触皮膚炎の発症も増加傾向にあり、加硫促進剤を使用しないディップ成形品の開発が求められている。
さらには、食品分野においては、ゴム手袋から溶出する重金属である亜鉛溶出量の規制が強化される傾向にある。
特開2003-165814(特許文献2)には、含イオウ加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛をいずれも実質的に含まないディップ成形用組成物が提案されているが、本発明者等の検討によると、この組成物を使用したディップ製品は、クリープ耐性、耐水性、耐溶剤性が低く、粘着性が強いという問題点がある。
【0005】
イオウおよび加硫促進剤を使用しないアルミニウム系架橋剤による架橋法としては、本発明者等のアルミン酸塩を使用する方法(特許3635060:特許文献3)と本発明者の塩基性カルボン酸アルミニウム(特許4647026;特許文献4、米国特許8389620:特許文献5)を使用する方法がある。
アルミニウムは両性金属であり、pH10~10,5以上ではアルミン酸塩はアニオンであり、Alはラテックスのカルボキシ基とは反応しないが、pH10以下になるとアルミニウムは3価のカチオンとして働くため、ラテックスのカルボキシ基を架橋することができる。しかし、アルミン酸塩はラテックス液添加直後に3価カチオンに転換するため、予め希釈したラテックスに酸化亜鉛を添加してラテックス粒子表面に露出しているカルボキシ基を封鎖し、局部的な架橋が起こらないように極めて慎重に配合する必要があり、大規模工業生産には適さない。
塩基性カルボン酸アルミニウムは、通常のカルボン酸アルミニウムとは異なりカチオン性ではないので、カルボキシ化ラテックスに容易に配合でき、イオウ、加硫促進剤、酸化亜鉛無添加でイオウ加硫並みの架橋製品を製造することができる。また、かかる架橋剤を使用したNBRディップ成形品は、天然ゴム製品に近似する柔軟でクリープ耐性に優れた製品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-192918号公報
【文献】特開2003-165814号公報
【文献】特許3635060号公報
【文献】特許4647026号公報
【文献】米国特許8389620号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】P.H.Starmer、Plastics and Rubber Processing and Applications vol.9(1988)、p209-214
【文献】N.D.Zakharov、(1963) Vulcanization of Carboxylic Rubbers.、Rubber Chem.and Tech、Rubber Division Acs.Akron、US.Vol36、no.2 568-574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アルミニウム原子はカルボキシ基に結合しているため、架橋体が有機酸と接触するとその有機酸と置換して架橋が切れる可能性があること、カルボキシ基は親水性基であるため、親水性物質に耐薬品性が劣る傾向があること、架橋剤合成時に合成原料として塩素系化合物を使用するため、架橋剤に塩素イオンを含有すること等の欠点がある。
また更なる目的は、イオウ、含イオウ加硫剤を代替し得る架橋剤を発見することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、強アルカリ性下に水酸基にアルミン酸塩を結合してアルミン酸錯塩を合成し、その後アルミン酸錯塩を中和してアルミン酸錯塩中和物を合成し、かかるアルミン酸錯塩中和物を架橋剤として使用することである。強アルカリ性で非金属原子であるアルミニウム原子は、pH10~10.5以下の弱アルカリ性、中性、弱酸性領域で金属原子に転換し、アルミン酸錯塩中和物はカルボキシ基を架橋する架橋能力を獲得する。
水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の中和反応は以下の反応式のように進行すると考えられる。
R-O-Al(OH)3
-+H+→R-O-Al(OH)2+H2O
上記アルミン酸錯塩中和物は、下記塩基性カルボン酸アルミニウムと同様にカルボキシ基を架橋することができる。
R-COO-Al(OH)2
水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物は、アルミニウム原子がカルボキシ基に結合していないこと、塩素イオンを含有しないで架橋剤を合成できることから発明が解決しようとする課題を全うするものである。
また、イオウ、含イオウ加硫剤を代替し得る架橋剤を発見する目的をも達成している。イオウは2価の共有結合架橋剤であるが、本架橋剤は2価以上の多価共有結合架橋剤であり、かかる架橋剤を使用することにより、耐久性、クリープ耐性、耐水性、耐溶剤性等、従来のイオウ加硫製品を凌駕する物性をも持つ。しかも、イオウ、含イオウ加硫物、加硫促進剤を含まない低アレルギー性架橋成形物、特に、ディップ製品を提供する。さらに、酸化亜鉛を含まないラテックス組成物をも提供することができる。係るラテックス組成物を利用することにより、紙加工分野等にも新たな製品を提供する。
また、水酸基含有有機化合物架橋剤1分子が含有する架橋性官能基数を変えて合成することにより、多様な機能を持つ架橋剤を合成することができる。
【0010】
Attila Pallagi,et,alは、グルコン酸塩(Gluc-)とアルミン酸塩(Al(OH)4
-)が強アルカリ性下で1:1の錯塩(アニオン)を形成することを報告している。アルミニウム原子が結合する位置はカルボキシ基ではなく、水酸基であるという(非特許文献3)。
そこで本発明者は、炭素数がグルコン酸と同じで、すべての炭素が水酸基と結合するソルビトールとアルミン酸塩を反応させたところ、錯塩を形成することができた。しかもアルミン酸塩はすべての(6個の)水酸基に配位した。
4個の水酸基にアルミン酸塩が配位したソルビトール-4Alアルミン酸錯塩に二価のカチオンである硝酸カルシウムを添加したところ、アルミン酸カルシウムは生成しないが、時間が経過すると反応液はゲル化した。このことは、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩がアニオン性で、2価のカチオン(Ca ++)と反応したことを示している。
【0011】
上述の通り、水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩はアニオン性であり、カルボキシ基もアニオン性である。このため、両者は互いに反発しあう。
そこで、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩を二酸化炭素で中和し、さらに硝酸カルシウムを添加したところ、ゲルの形成は起こらなかった。中和により、錯塩がアニオン性からノニオン性に転換し、Ca2+イオンと反応しなくなったことを示している。
両性金属原子であるAlが強塩基性下の非金属原子から、pH10~10.5以下の弱アルカリ性から中性~弱酸性域で金属原子に転換することに起因する。
【0012】
上記ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物をカルボキシ化NBRラテックス原液にAl2O3換算0.2~0.3部添加したところ、きわめて容易に配合することができた。
同様にしてアルカリ分が少ない粉体アルミン酸ナトリウムを使用して合成したエリスリトール-4Alアルミン酸錯塩を直接カルボキシ化NBRラテックス原液にAl2O3換算0.2~0.3部添加したところ、配合ラテックス液のpHは8.8前後で、エリスリトール-4Alアルミン酸錯塩の中和点に近い。したがって、ラテックス配合液中では、アルミン酸錯塩の大部分は中和物として存在していると考えられる。
【0013】
後述するNBR手袋等ディップ成形品を製造するときには、ラテックス配合液のpHは9.5近辺に調整される。したがってアルミン酸錯塩系架橋剤の10~15%程度がアルミン酸錯塩として残存することが予想される。
しかし、ディップ成形品製造工程では凝固液として硝酸カルシウムを使用するので、1個の-OH-がCa2+を介して他の-OH-または-COO-と結合し、アニオン性は解消される。残る2個の水酸基は架橋剤として機能する。
なお、後述するエチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩のリンゴ酸、マレイン酸による中和実験から分かるように、アルミン酸錯塩の1/2~2/3の錯塩を中和すれば、アルミン酸錯塩は架橋剤としての機能を発揮する(24段、3.2)(1)(i)及び(ii))。
【0014】
本発明者は、さらに一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール)、糖アルコール(エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール等)にアルミン酸塩を添加し、アルミン酸錯塩が生成することを確認した。
【0015】
次に糖質についてアルミン酸錯塩架橋剤の合成を試み、同様にアルミン酸錯塩架橋剤合成に成功した。そのうち単糖類については、アルミン酸錯塩架橋剤は合成可能であったが、合成後長時間経過するとメイラード反応として知られる変性反応がおこり、反応液が褐変した。しかし、架橋剤としての機能は維持される。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸に分類される化合物は、カルボキシ基とともに水酸基を含有する。この水酸基にもアルミン酸塩が配位し、アルミン酸錯塩を形成する。このアルミン酸錯塩の特徴は、カルボキシ基を含有するので、生成したアルミン酸錯塩を中和しても、水溶性が良好である。
ヒドロキシカルボン酸類には、ヒドロキシ酪酸、アルドン酸(グルコン酸、ヘプツロン酸)、ウロン酸(グルクロン酸等)があり、芳香族化合物としては、サリチル酸等がある。
【0017】
また、ウレタン樹脂、水性アクリル樹脂等に使用されるポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオールの水酸基にもアルミン酸塩が配位し、アルミン酸錯塩を形成する。ポリマーポリオールには、ポリビニルアルコール等の合成ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の半合成ポリマー、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガム等の天然ポリマーが含まれる。
【0018】
本架橋剤は、NBR合成ゴム手袋等ディップ製品の架橋剤として好適に使用される。現在手袋製造等に使用されている代表的な架橋剤は、イオウ(2価の架橋剤)であり、加硫促進剤、酸化亜鉛が併用されている。
加硫促進剤にはIV型接触皮膚炎の虞があり、酸化亜鉛は重金属であって、食品分野等には含有量に規制がある。
また、物性的には製品の伸びが小さく硬いこと、使用中にクリープしやすい(膨れやすい)ことが大きな欠点であり、例えば手術用手袋としては適性がないとされている。
NBRラテックスには通常5%程度のメタクリル酸が配合されており、このメタクリル酸由来のカルボキシ基を本架橋剤が架橋する。したがって、加硫促進剤の添加は不要で、酸化亜鉛の添加も必須ではない。また本架橋剤は2価以上の多価架橋剤であり、2価架橋剤のイオウ加硫に比べ、クリープ耐性が高いことが大きな特徴であり、医療分野等、新たな用途が期待できる。
【0019】
ところで、イオウ加硫の際には1.0~1.5phrの酸化亜鉛が加硫促進助剤として添加されているが、この酸化亜鉛はNBRラテックスのメタクリル酸由来カルボキシ基の40~65%を架橋している。本法で酸化亜鉛を使用しない場合には、未反応カルボキシ基残量が増加し、製品の粘着性が増加する。これに対応するため、凝固液硝酸カルシウム濃度の上昇、架橋剤の増量、メタクリル酸含量の少ないNBRラテックスの選択等で対処する必要がある。
さらにはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム等の多価アルコール系ポリマーを添加してラテックスのカルボキシ基を封鎖して、最終製品の粘着性を低下することができる。
また、積極的にカルボキシ基による粘着性を封鎖する手段として、酸化亜鉛の代わりに、ラテックス配合液に酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、コロイダル水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物を配合し、ラテックスの未反応カルボキシ基を低下させる方法が有効である。コロイダル水酸化マグネシウムはアルカリ液(手袋製造の場合には通常水酸化カリウム液)にマグネシウム塩を添加することにより容易に製造できる。
マグネシウム化合物の添加量はラテックスのカルボキシ基含量にも左右されるが、MgO換算0.2~1.0phrの範囲で、通常0.5phr前後が好適である。
また、紙分野で多用される内添サイズ剤、表面サイズ剤、等の疎水化剤をラテックスに添加したり、製品の表面を処理したりして、最終製品の粘着性を低下することができる。
かかる条件で製造した手袋は、ステアリン酸カルシウム等のアンティタック剤、塩素処理、ポリマーコート等の周知の技術を利用して容易に工業生産できる。
また、手袋の両面、または片面のカルボキシ基を高塩基性塩化アルミニウム、高塩基性硝酸アルミニウム、または本発明に係る架橋剤等で表面のみを局部的に封鎖する方法が効果的である。
以上、本架橋剤で製造される手袋の特徴は天然ゴム並みの柔軟性を持ち、しかも耐クリープ性、耐久性に優れる製品であり、しかもNBR本来の耐薬品性をも兼ね備える点で天然ゴム製品を凌駕する。
【0020】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩中和物または水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩二価金属イオン(Ca2+、Mg2+、またはZn++)結合物ないしは前記水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩のカルボン酸反応物からなる架橋剤。
2.水酸基含有有機化合物が1価または多価アルコールであることを特徴とする1記載の架橋剤。
3.水酸基含有有機化合物がポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、水酸基含有高分子(ポリビニルアルコール等の合成ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の半合成ポリマー、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガム等の天然ポリマー)であることを特徴とする1記載の架橋剤。
4.水酸基含有有機化合物が糖質であることを特徴とする1記載の架橋剤。
5.水酸基含有有機化合物がヒドロキシカルボン酸またはその塩であることを特徴とする1記載の架橋剤。
6.1、2、3、4および/または5記載の架橋剤を配合したポリマー組成物。
7.1ないし5記載のアルミン酸錯塩を直接ポリマー組成物に配合して中和したことを特徴とするポリマー組成物。
8.6または7記載のポリマー組成物におけるポリマーがカルボキシ基および/またはニトリル基を含有することを特徴とするポリマー組成物。
9.6、7または8記載のポリマー組成物におけるポリマーがカルボキシ変性NBRラテックスまたはSBRラテックス、カルボキシ基含有クロロプレンラテックス、カルボキシ基含有ポリウレタンディスパージョン、カルボキシ基含有アクリルエマルジョン、カルボキシ基含有水性ポリエステル、カルボン酸変性水性樹脂であることを特徴とするポリマー組成物。
10.6、7、8または9記載のポリマー組成物に、内添サイズ剤、表面サイズ剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、グアーガム、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガム等の多価アルコールから選ばれた1または2以上の有機化合物を含有するポリマー組成物。
11.6、7、8、9または10記載のポリマー組成物にさらに酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたはコロイダル水酸化マグネシウムを添加したポリマー組成物。
12.6、7、8、9、10または11記載のポリマー組成物を成形および架橋してなる架橋成形物。
13.12記載の成形物を高塩基性塩化アルミニウムまたは高塩基性硝酸アルミニウム、内添サイズ剤、表面サイズ剤ないしは1記載の架橋剤で表面処理したことを特徴とする架橋成形物。
14.12または13記載の架橋成形物がディップ成形品または紙製品であることを特徴とする架橋成形物。
である。
【発明の効果】
【0021】
アルミン酸錯塩を介して、有機化合物水酸基の酸素原子に直接アルミニウム原子が結合した架橋剤が合成できる。水酸基を有する有機化合物は極めて多数あり、多様な架橋剤が合成できる。したがって、架橋剤を使用する製品の品質要求に細かく対応する架橋剤を合成することが可能である。
また、架橋剤の合成は極めて容易であり、塩素イオンを含有しない架橋剤の合成も容易である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本架橋剤が使用される多くの反応系は水系である。また、水酸基含有有機化合物のアルミン酸錯塩の多くも水溶性である。従って、水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の中和物も水溶性であることが望ましい。しかし、一価アルコールまたは二価アルコールのアルミン酸錯塩の中和物は、水溶性官能基が不足するために水不溶性になる場合が多いが、一部の有機酸で中和した反応物は水溶性を維持する。もっとも、多価アルコールまたはヒドロキシカルボン酸系のアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物は、水酸基が完全にアルミン酸錯塩化されても、中和物は水溶性を維持する場合がある。
【0023】
また、架橋成形物に要求される品質は多様である。従って、架橋される原料(水酸基を含有する有機化合物)の多様性とともに、架橋剤の品質の多様性も重要である。このため、複数の水酸基を有する多価アルコールまたは糖質あるいはヒドロキシカルボン酸を架橋剤原料に選び、アルミン酸塩の配位数を使用目的に応じて選択することが望ましい。
具体的には、例えばソルビトール、フルクトース、グルコン酸塩にアルミン酸塩を1~5ないし6当量添加してアルミン酸錯塩を合成し、そのまま、または酸で部分的に、あるいは全て中和して架橋する原料に配合し、架橋成形物の品質を測定して目的に適合した架橋剤を選定する。
架橋剤の添加量は、通常のカルボキシ化ラテックスの場合には、Al2O3換算で0.2~0.3部が適当である場合が多いが、目的に応じ0.1~3.0部の範囲で使用することができる。
ディップ成形品製造の場合には、ラテックス調製液のpHはほぼ9.5~10.0前後であり、上記配合ラテックスにアルカリを添加してもよいし、ラテックス原液に直接アルミン酸錯塩を添加して中和物とした後、アルカリを添加してpHを調整してもよい。
【実施例】
【0024】
(架橋剤の合成)
1.架橋剤合成反応と性質
使用するアルミン酸ナトリウムのNa/Al比は特に限定されないが、ここで使用したアルミン酸ナトリウムは朝日化学工業(株)製アルミン酸ソーダNA-170である。
分析値 Al2O3 18.73%
Na2O 19.37%
モル比 1.70
上記アルミン酸ナトリウムを希釈してNaAlO2
として2.0モル/L(NaAlO2換算)に調整する。
一方、水酸基含有有機化合物は2.0モル/L液(水酸基換算)に調整し、アルミン酸錯塩導入数に応じて希釈する。即ち、n個のアルミン酸錯塩(n価のアルミン酸錯塩)を導入する場合にはn倍に希釈する。
上記希釈した水酸基含有有機化合物液に、常温で等量の2.0モルアルミン酸ナトリウム液を撹拌しながら添加し、2時間放置して、水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩を合成する。
まず、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸-4Alアルミン酸錯塩並びにその中和物の合成およびその性質について説明する。
NaAlO2換算2.0モルのアルミン酸ナトリウム液に硝酸カルシウム4水塩10%液を添加すると、アルミン酸カルシウムが析出する。アルミン酸ナトリウムが残存するかどうかの判定ができる。
【0025】
(1)ソルビトール(6価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸(5価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩の合成
0.5モルのソルビトール水溶液並びにグルコン酸ナトリウム水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸-4Alアルミン酸錯塩を合成した。いずれも水溶性であった。
【0026】
(2)硝酸カルシウム液の添加テスト(1)
上記反応液に10%硝酸カルシウム・4水塩液10mlを添加した。アルミン酸カルシウムの析出はなかった。アルミン酸ナトリウムは残存しない証拠である。
しかし、1時間経過後、硝酸カルシウムを添加したソルビトール-4Alアルミン酸錯塩は反応液全体がゲル化した。
一方、グルコン酸-4Alアルミン酸錯塩は水溶性を保った。
ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩(アニオン性)はNa+がCa2+と置換して錯塩が結合し、ゲル化したと考えられるが、グルコン酸-4Alアルミン酸錯塩はカルボキシ基を含有するために、水溶性を保ったと考えられる。
【0027】
(3)ソルビトール(6価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸(5価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩の中和
上記アルミン酸錯塩液に二酸化炭素を添加し、pH8.3~8.5に調整し、ソルビトール(6価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸(5価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物を合成した。
【0028】
(4)硝酸カルシウム液の添加テスト(2)
(3)同様にして硝酸カルシウム液の添加テストを行った。しかし、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩中和液では、アルミン酸カルシウムの析出もゲル化も起こらなかった。ソルビトール(6価アルコール)-4Alアルミン酸錯塩は中和物になってノニオン化しており、Ca2+による結合が起こらず、ゲル化しなかった。
一方、グルコン酸-4Alアルミン酸錯塩中和物では、硝酸カルシウム液の添加時に一時析出物が生成するが、すぐに消失した。Ca2+がグルコン酸-4Alアルミン酸錯塩中和物のカルボキシ基と反応したために一時的に析出したと考えられる。
【0029】
2.各種水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の合成
1)エタノール(1価アルコール)-1Alアルミン酸錯塩の合成
2モルのエタノール水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム100ml(NaAlO2換算)を撹拌しながら添加し、2時間反応させ、エタノール-1Alアルミン酸錯塩を合成した。
合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。アルミン酸ナトリウムが残存しないことを示している。
なお、反応液を長時間空気中で保存すると、次第に(6時間程度)からにごり始め、数日後には器壁が析出物で被われた。空気中の二酸化炭素を吸収して不溶化したものと考えられる。
【0030】
2)エチレングリコール(2価アルコール)-1Alアルミン酸錯塩およびエチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩の合成
2モルまたは1モルのエチレングリコール水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、エチレングリコール-1Alアルミン酸錯塩およびエチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
また、反応液を数日空気中で保存すると、結晶が生成した。
【0031】
3)エリスリトール(4価アルコール)-2Alアルミン酸錯塩およびエリスリトール-4Alアルミン酸錯塩の合成
1モルまたは0.5モルのエリスリトール水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩およびエリスリトール-4Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
【0032】
4)ソルビトール(6価アルコール)-2Al、4Al、または6Alアルミン酸錯塩の合成
1モル、0.5モルまたは1/3モルのソルビトール水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、ソルビトール-2Alアルミン酸錯塩、ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩およびソルビトール-6Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
【0033】
5)糖質フルクトース(5価アルコール)-2Alアルミン酸錯塩およびフルクトース-3Alアルミン酸錯塩の合成
1モルまたは2/3モルのフルクトース水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、フルクトース-2Alアルミン酸錯塩およびフルクトース-3Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
しかし、合成後時間が経過するとメイラード反応により変性し、反応液が着色したが、架橋剤としての機能は維持された。
【0034】
6)ヒドロキシカルボン酸アルミン酸錯塩の合成
(1)グルコン酸(5価アルコールカルボン酸)-2Al、-4Al、-5Alアルミン酸錯塩の合成
1モル、0.5モルまたは0.4モルのグルコン酸ナトリウム水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、グルコン酸-2Alアルミン酸錯塩、グルコン酸-4Alアルミン酸錯塩およびグルコン酸-5Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
(2)酒石酸(2価アルコール2価カルボン酸)-2Alアルミン酸錯塩の合成
1モルの酒石酸水溶液100mlに2モルのアルミン酸ナトリウム(NaAlO2換算)100mlを撹拌しながら添加し、2時間反応させ、酒石酸-2Alアルミン酸錯塩を合成した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。
【0035】
7)ポリマーポリオールアルミン酸錯塩の合成
(1)カルボキシメチルセルロースアルミン酸錯塩の合成
CMCダイセル1110(ダイセルファインケム、エーテル化度0.72、2%粘度113mPa・s)2%水溶液150gに上記アルミン酸ナトリウム(Al2O3 18.73%)3.4gを添加し、2時間反応させてセルロース残基1個にほぼ1個のアルミン酸錯塩が入ったアルミン酸錯塩を合成した。反応液は水溶性であったが、多少乳濁した。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。しかし、硝酸カルシウムを添加した反応液は短時間でゲル化した。
(2)ポリビニルアルコールアルミン酸錯塩の合成
上記アルミン酸錯塩の合成には、ポリビニルアルコールの強アルカリ下での脱アセチル反応を考慮し、Na分の少ない粉体アルミン酸ナトリウムを使用した。粉体アルミン酸ナトリウムは朝日化学工業(株)製アルミン酸ソーダNA-120である。
分析値 Al2O3 53.6%
Na2O 39.7%
モル比 1.22
(2-1)カルボキシ変性ポリビニルアルコールアルミン酸錯塩の合成
酢ビ・ポバール(株)製カルボキシ変性PVA(Jポバール AF-17)10%液にAl2O3換算3.8gの粉体アルミン酸ナトリウム(10%液)を添加し、カルボキシ変性ポリビニルアルコールアルミン酸錯塩を合成した。反応液は水溶性であった。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。しかし、硝酸カルシウムを添加した反応液は短時間でゲル化した。
(2-2)水易溶性ポリビニルアルコールアルミン酸錯塩の合成
常温で溶解した酢ビ・ポバール(株)製水易溶性PVA(EF-05)10%液100gにAl2O3換算3.8gの粉体アルミン酸ナトリウム(10%液)を添加し、ポリビニルアルコールアルミン酸錯塩を合成した。反応液は水溶性であった。合成液に硝酸カルシウム液を添加してもアルミン酸カルシウムの沈殿は生成しない。しかし、硝酸カルシウムを添加した反応液は短時間でゲル化した。
【0036】
3.水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩中和物の合成
1)水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の二酸化炭素による中和
上記n価のアルミン酸錯塩(水酸基含有有機化合物(-O-Al(OH)3
-Na+)n)に酸(無機酸)または酸性塩を添加し、pH7~9に調整すればアルミン酸錯塩中和物(水酸基含有有機化合物(-O-Al(OH)2)nと想定される)が合成できる。ここでは、二酸化炭素を添加して中和した。pHは炭酸水素ナトリウム溶液のpH8.5近辺に設定した。
二酸化炭素以外に、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸等の無機酸でも良い。また、カルボン酸以外の有機酸でも良い。また、リン酸二水素カリウム等の酸性塩でも良い。
(1)一価アルコールアルミン酸錯塩(エチルアルコール-1Alアルミン酸錯塩)または二価アルコールアルミン酸錯塩(エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩)の中和 エチルアルコール-1Alアルミン酸錯塩または二価アルコールアルミン酸錯塩(エチレングリコール-アルミン酸錯塩)を長期間空気中で保存すると、沈殿が生成する。また、二酸化炭素で中和すると、同様に沈殿が生成した。
(2)三価以上のアルコール(エリスリトール)アルミン酸錯塩の中和
三価以上のアルコール(エリスリトール等)アルミン酸錯塩の二酸化炭素による中和では生成物は水溶性を保った。
また、中和液に硝酸カルシウム・4水塩を添加しても、沈殿は生成しなかった。
(3)ヒドロキシカルボン酸アルミン酸錯塩の中和
ヒドロキシカルボン酸アルミン酸錯塩の中和物はいずれも水溶性であった。
また、中和液に硝酸カルシウムを添加しても、沈殿は生成しない。
(4)カルボキシメチルセルロースアルミン酸錯塩の中和
カルボキシメチルセルロースアルミン酸錯塩の二酸化炭素による中和物は水溶性であったが、多少乳白色を帯びた。
また、中和液に硝酸カルシウムを添加しても、沈殿は生成しない。
【0037】
2)水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の有機カルボン酸による中和
有機カルボン酸による水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の中和は可能であるが、水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩の中和物はカルボン酸と反応する。したがって、カルボン酸との反応により架橋剤の一部が消費されることになり、基本的には望ましくない。しかし、架橋剤の架橋点数の減少による架橋強度の調整、親水性の改善、水溶性の付与等に寄与するよう利用することができる。例としてエチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩のカルボン酸による中和を以下に記述する。
(1)エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩のカルボン酸との反応
カルボン酸の種類、性質によって中和物の性質は個々に異なる。
そこで、カルボン酸との反応が観察しやすいエチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩についてカルボン酸との反応を調べた。
(i)マレイン酸(2価カルボン酸)との反応
エチレングリコール(-O-Al(OH)3
-Na+)2相当になるように余剰のNa+を中和する量のマレイン酸を添加しても水溶性を保った。この範囲では、Na/Al=1.7のアルミン酸ナトリウムの余剰Na+(0.7相当)がマレイン酸により中和されただけで、エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩とマレイン酸は反応していないと考えられる。
しかし、エチレングリコール(-O-Al(OH)3
-Na+)2に相当するNa+量の半分のNa+を中和するマレイン酸を添加すると、沈殿が生成した。
(ii)リンゴ酸(ヒドロキシ二価カルボン酸)との反応
上記同様にエチレングリコール(-O-Al(OH)3
-Na+)2相当になるまでリンゴ酸を添加しも水溶性を保った。
しかし、エチレングリコール(-O-Al(OH)3
-Na+)2に相当するNa+量の2/3のNa+を中和するリンゴ酸を添加すると、液全体がゲル化した。リンゴ酸が架橋されたことが明らかである。また、この事実は、酸によりすべてのNa+を中和しなくても、中和当量の2/3程度の中和でカルボキシ基が架橋されることを示唆している。
(iii)クエン酸(ヒドロキシ三価カルボン酸)との反応
エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩のすべてのNa +を中和するクエン酸を添加しても、エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩のクエン酸中和物は水溶性を保った。
リンゴ酸との反応から推測すると、クエン酸も架橋されていると考えられるが、親水性が強いカルボキシ基が1個多いために水溶性が維持されたと考えられる。
したがって、クエン酸で中和することにより、エチレングリコール-2Alアルミン酸錯塩の中和物を水溶性に保つことができる。
なお、2週間経過後、クエン酸中和物は次第に増粘した。クエン酸も架橋されている証拠である。
【0038】
4.架橋剤含有NBRラテックス組成物(コンパウンドラテックス)の作成
NBRラテックス原液に上記エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩CO2中和物(1)およびエリスリトール-4Alアルミン酸錯塩CO2中和物(2)各0.2部(as Al2O3)を撹拌しながら添加した。
なお、アルミン酸ナトリウムは、粉体アルミン酸ナトリウムを使用した。粉体アルミン酸ナトリウムの組成は、次の通り。
NaAlO2 Al2O3含量 54.1%
Na/Al=1.25
【0039】
(結果)
(1)配合安定性試験
上記架橋剤配合ラテックスを200メッシュ金網でろ過し、架橋剤配合の安定性試験を行った。凝集物は認められなかった。(表1参照)
使用したNBRラテックスはKumho社製KLN830である。
ラテックス 濃度 44.8%
pH 8.4
(2)配合ラテックスのポットライフ試験
上記架橋剤配合ラテックスを常温で保存し、ポットライフを試験した。60日以上保存しても、凝集物の生成は認められなかった。(表1参照)
(評価)以上の結果より、イオウ、酸化亜鉛、加硫促進剤、老化防止剤、塩素イオン等の添加物をまったく含まず、水溶性架橋剤のみを配合した高濃度ラテックスが安定的に配合できた。従って、NBRラテックスコンパウンドとして市場に供給することが可能になった。
【0040】
5.水酸基含有有機化合物アルミン酸錯塩および/またはその中和物架橋剤配合NBRラテックス
使用したNBRラテックスは上記Kumho社製KLN830である。
(比較例1)
イオウ加硫浸漬製品用組成液
添加剤
KOH 1.6部
ZnO 1.25部
S 1.0部
BZ 0.2部
(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)
水に上記薬品を添加してラテックス濃度30%に調整した。
(参考例)
市販の天然ゴム手袋を用いて、物性を測定した。
【0041】
(実施例1)
エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物をAl2O3換算0.25部添加したコンパウンドラテックス液に水を添加して30%に調整し、10%KOH水を添加してpHを9.6に調整した。
(実施例2)
粉体アルミン酸ナトリウムを使用して合成したエリスリトール-4Alアルミン酸錯塩0.25部(Al2O3換算)を直接ラテックス液に添加した後ラテックス濃度30%に調整した。
その後、10%KOH液を添加してpH9.7に調整した。
(実施例3)
コロイダル水酸化マグネシウムを以下の通り調製した。
MgCl2・6H2O 5%水溶液34.1g(MgO換算0.5phr)を10%水酸化カリウム液16.2g、水24.7gを添加した液に撹拌しながら添加する。次に生成したコロイダル水酸化マグネシウム液をエリスリトール-2Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物をAl2O3換算0.25部添加したコンパウンドラテックス液に添加して30%ラテックス液とした。
(実施例4)
エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物をAl2O3換算0.25phr添加したコンパウンドラテックス液に分散した酸化マグネシウム(キョーワマグ150;協和化学工業製)0.5phrを添加し、その後水及び10%KOHを添加してpH9.6、濃度30%に調整し、1日放置した。
次に、以下の実施例5及び実施例6で使用したNBRはSynthomer社製6338である。
(実施例5)
ソルビトール-4Alアルミン酸錯塩二酸化炭素中和物(水溶性)をAl2O3換算0.3部添加し、さらに5%ポリビニルアルコール(PVA-117;クラレ製)を1.4部添加したコンパウンドラテックスを調製した。このコンパウンド液に水および10%KOHを添加し、pH9.5、ラテックス濃度30%に調整した。
なお、上記コンパウンド液は、別途ポットライフ試験に供した。
(実施例6)
PVA-110(クラレ製)7%液を調製し、ビニルアルコール残基6個あたり1個のAlが結合するよう粉末アルミン酸ナトリウム15%液(Al2O3換算)を添加してPVA-110アルミン酸錯塩液(PVA-110×6Alと略称)を合成した。
上記PVA-110×6Al液0.3部(Al2O3換算)を直接NBRラテックスに添加し、さらにサイズ剤(バンディスT-25K;不均化ロジン、ハリマ化成社製)1.0部を添加したコンパウンドラテックスを調製した。その後水および10%KOHを添加してpH9.7、ラテックス濃度30%に調整した。
【0042】
6.ディップ成形品(指サック)の製造
ディップ成形品(指サック)の製造
成形型 サンドブラストで砂打ちした試験管(径 17mm)
凝固液 硝酸カルシウム・4水和物 300g/L(実施例1および実施例2)
200g/L(比較例1、実施例3,4,5および6)
凝固液に型を浸漬 浸漬時間 10秒
成膜 上記ラテックス調製液に型を浸漬 時間10秒
成膜予備乾燥 75℃、3分
洗浄(リーチング)50℃、3分
成膜乾燥・加熱 95℃、3分
120℃、15分
成形型から指サックを抜き取り、以下の評価試験のサンプルとした。
【0043】
上記ラテックスコンパウンドのポットライフおよびディップ成形品(指サック)の評価結果を表1に示す。
1)凝固剤濃度
(結果)
コロイダル水酸化マグネシウムを添加したラテックス(実施例3)、酸化マグネシウムを添加したラテックス(実施例4)は、酸化亜鉛を添加したイオウ加硫ラテックス(比較例1)と同じ凝固剤濃度でほぼ同等の厚さの指サックを作成することができる。また、PVAを添加したラテックス(実施例5)、PVA架橋剤を添加したラテックス(実施例6)も酸化亜鉛を添加したラテックスと同等の凝固剤濃度で指サックを作成できる。
2)物性試験
(結果)
エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩中和物NBR指サック、エリスリトール-4Alアルミン酸錯塩直接投入NBR指サック、イオウ加硫NBR指サック、市販天然ゴム手袋ともに30MPa前後の引張応力を示したが、破断伸度はイオウ加硫NBRでは600%程度であるのに対し、アルミン酸錯塩系指サックの破断伸度は750~800%に達し、天然ゴム加硫手袋の破断伸度と同等であり、極めて柔軟な浸漬ゴム製品が得られた。
実施例5および6は、ラテックスメーカーが異なるが、ほぼ同様の柔軟な指サックが得られた。
3)耐久性および耐水性試験
上記指サックを指に14日間連続着用し、耐久性、クリープ耐性、耐水性等の着用適性テストを行った。耐久性は、指に連続着用し、着用後の指サックの膨れ具合、白化具合等を総合的に判断し、◎、○、△に分類した。クリープ耐性は、着用後の指サックの伸び(膨れ)の程度により判定した。膨れの程度が小さいものから◎、○、△に分類した。耐水性は、着用時のゴム膜白化の程度で判定した。白化が激しいものを×とした。白化の程度に応じ、◎、○、△に分類した。
(結果)
エリスリトール-2Alアルミン酸錯塩中和物添加NBRラテックス指サック(実施例1)エリスリトール-4Alアルミン酸錯塩直接投入指サック(実施例2)、コロイダル水酸化マグネシウム添加指サック(実施例3)酸化マグネシウム添加指サック(実施例4)の耐久性、クリープ耐性、耐水性はイオウ加硫指サック(比較例1)と同等以上の品質を有する。
実施例5および実施例6は、原料ラテックスは異なるものの、上記実施例同様の品質の指サックが作成できた。
4)非粘着性試験
作成した指サック4枚を交互に重ね、厚い本(広辞苑)の間に挟む。3日後、指サックを取り出し、指サックが容易に剥がれる場合に非粘着性が良好とした。
(結果)
アルミン酸錯塩系架橋剤にPVAを配合したラテックス、並びにPVAアルミン酸錯塩系架橋剤にサイズ剤を配合したラテックスから作成した指サックは、非粘着性が良好であった。
【0044】
【0045】
(評価)
アルミン酸錯塩中和物を配合したNBRラテックスコンパウンドおよびラテックスに直接アルミン酸錯塩を配合して中和したラテックスコンパウンドは容易に調製でき、ポットライフも良好である。
また、上記NBRラテックスコンパウンドから製作した指サックは、NBRイオウ加硫浸漬製品(ラテックス手袋)に匹敵する強度(引張強度)を持つ。
さらに、本製品の大きな特徴は、天然ゴムラテックス製品並みの伸びを有する柔軟な製品であることである。また、もう一つの大きな特徴は、耐久性、クリープ耐性、耐水性がイオウ加硫製品に勝ることである。
このため、医療分野においても天然ゴム製品に対抗し得る性質を有する。