(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】酵素分解蜂の子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230411BHJP
【FI】
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2021509480
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013215
(87)【国際公開番号】W WO2020196583
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019059329
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二平 耕太朗
(72)【発明者】
【氏名】板谷 颯
(72)【発明者】
【氏名】八巻 礼訓
(72)【発明者】
【氏名】山家 雅之
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-254363(JP,A)
【文献】特開2009-159997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧条件で蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することを特徴とし、前記ペプチダーゼがアスペルギルス・オリゼー産生ペプチダーゼであり且つ前記ペプチダーゼの至適温度が50℃以上である、アレルギー性が低減され且つ製造時及び製造後の褐変化が抑制されてなる蜂の子酵素処理物の製造方法。
【請求項2】
常圧条件で蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することを特徴とし、前記ペプチダーゼがアスペルギルス・オリゼー産生ペプチダーゼであり且つ前記ペプチダーゼの至適温度が50℃以上である、蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性が低減され且つ褐変化が抑制されてなる蜂の子酵素処理物の製造方法に関する。また、本発明は、蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ褐変化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蜂の子を乾燥して粉砕させた粉末を原料とする健康食品が知られている。この健康食品は、蜂の子の有するタンパク質、アミノ酸、ビタミン及びミネラルを豊富に含有し、自律神経失調症、更年期障害等に対する改善作用が認められている。
【0003】
このように蜂の子は、有用な天然素材であるが、一方でそれらに含まれるタンパク質に由来してアレルギー反応を引き起こす場合がある。このようなアレルギー性を低減するために、タンパク質分解酵素を使用した高分子タンパク質の分解が一般的に行われている(特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、蜂の子の脂肪を脂質分解酵素を添加して分解した後、タンパク質分解酵素を添加して蜂の子のタンパク質を分解することで、酵素分解の過程においてタンパク質の周囲に形成された脂肪を分解し、タンパク質とタンパク質分解酵素とを効率的に接触させて、蜂の子のタンパク質の分解をより効率的に行うことができること、それにより蜂の子加工飲食品の栄養的価値を高め且つアレルゲン性を効果的に改善することが可能となることが報告されている。
【0005】
さらに、特許文献1では、タンパク質の分解工程の後に、β-マンノシダーゼ等の糖質分解酵素を添加して蜂の子の糖質を分解すること、それによりオリゴ糖成分を効率的に得ることができ、栄養価の高い蜂の子加工飲食品とすることができることが報告されている。
【0006】
特許文献2では、ハチノコ又はその加工物を酸性プロテアーゼ及び中性プロテアーゼの2種類のタンパク質分解酵素を併用して処理することにより、効率的に高分子タンパク質を分解することができ、アレルゲン量を低減できることが報告されている。
【0007】
しかし、ペプチダーゼによりタンパク質を分解し、低アレルゲン化された蜂の子(酵素分解蜂の子)は、着色して褐変化が進行するという問題がある。
【0008】
このような酵素処理蜂の子の着色を抑制する各種方法が報告されている(特許文献3)。特許文献3では、ハチノコの酵素処理を40~600Mpaの高圧条件下で行うことにより酵素処理によって生じる褐変化が有意に抑制されることが報告されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、褐変化を抑制するために、高圧条件が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開2009-254348号公報
【文献】日本国特開2016-77259号公報
【文献】日本国特開2009-254363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1及び2に記載の方法では、酵素分解において2種以上の酵素を使用する必要がある。また、特許文献3に記載の方法では、蜂の子酵素処理物の製造時及び製造後において褐変化を抑制できることは記載されていない。
【0012】
本発明は、常圧条件で単一の酵素を用いた場合であってもアレルギー性が低減でき且つ製造時及び製造後の褐変化を抑制できる、蜂の子酵素処理物の製造方法、並びに蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することにより、常圧条件で単一の酵素を用いた場合であっても、アレルギー性を低減できる上、製造時及び製造後の褐変化を抑制できるという知見を得た。
【0014】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、以下の蜂の子酵素処理物の製造方法、並びに蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法を提供するものである。
【0015】
(I) 蜂の子酵素処理物の製造方法
(I-1) 蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することを特徴とする、アレルギー性が低減され且つ製造時及び製造後の褐変化が抑制されてなる蜂の子酵素処理物の製造方法。
(I-2) 前記ペプチダーゼがアスペルギルス・オリゼー産生ペプチダーゼである、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記ペプチダーゼの至適温度が50℃以上である、(I-1)又は(I-2)に記載の方法。
【0016】
(II) 蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法
(II-1) 蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することを特徴とする、蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法。
(II-2) 前記ペプチダーゼがアスペルギルス・オリゼー産生ペプチダーゼである、(II-1)に記載の方法。
(II-3) 前記ペプチダーゼの至適温度が50℃以上である、(II-1)又は(II-2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、常圧条件で且つ単一の酵素を用いた場合であっても、アレルギー性の低減による安全性の向上を実現しつつ、ペプチダーゼ分解によって生じる製造時及び製造後の褐変化が抑制されてなる蜂の子酵素処理物の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、常圧条件で単一の酵素を用いて実施することができる、蜂の子酵素処理物のアレルギー性を低減し且つ製造時及び製造後の褐変化を抑制する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例及び比較例のヒスタミン遊離試験の結果を示すグラフである。縦軸は被験者のヒスタミン遊離量(ng/mL)を示す。
【
図2】実施例及び比較例の褐変評価の結果を示すグラフである。縦軸はHSL色空間における輝度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0021】
(1)蜂の子酵素処理物の製造方法
本発明の蜂の子酵素処理物の製造方法は、アレルギー性が低減され且つ製造時及び製造後の褐変化が抑制されてなる蜂の子酵素処理物の製造方法であって、蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することを特徴とする。
【0022】
ここで蜂の子とは、蜂の幼虫及びさなぎを意味する。蜂の種類は特に制限されず、ニホンミツバチ、西洋ミツバチ等のミツバチ、アフリカ蜂化ミツバチ、スズメバチ(クロスズメバチを含む)、アシナガバチ、マルハナバチ等、公知の蜂を広く用いることができる。好ましくはミツバチであり、より好ましくは入手の容易性から西洋ミツバチである。なお、雄と雌との別は問わず、好ましくは雄である。
【0023】
幼虫及びさなぎは、卵から孵化したものであれば特に制限されない。中でも好ましくは孵化後16~23日経過した蜂の幼虫及びさなぎ、より好ましくは孵化後18~21日経過した蜂の幼虫及びさなぎが用いられる。
【0024】
蜂の子は、体内に栄養素を蓄積している。特に、ミツバチの雄は古くから漢方の素材として使用されており、必須アミノ酸を含む各種アミノ酸をバランスよく含むほか、タンパク質、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、及び亜鉛、セレン(セレニウム)等のミネラルを豊富に含んでいる。蜂の子の生理活性及び薬理作用としては、抗菌作用、抗炎症作用、抗ウィルス作用、抗原虫作用、耳鳴り解消作用等が知られている。
【0025】
本発明において蜂の子は、生の蜂の子及び生の蜂の子を加工処理した状態で使用される。蜂の子を加工処理したものとして、具体的には、蜂の子(生又は乾燥物)を粉砕したもの、蜂の子(生又は粉砕物)を乾燥したもの、蜂の子(生、乾燥物又は粉砕物)を加熱処理したもの、蜂の子を水、含水エタノール等により抽出したもの等が含まれる。好ましくは、蜂の子(生)を乾燥した後、粉砕することによって調製される蜂の子の乾燥粉末を挙げることができる。
【0026】
本発明でいう「蜂の子」という用語には、特に言及しない限り、生の蜂の子に加えて、当該蜂の子に乾燥、粉砕又は加熱の処理を施した加工物、並びに蜂の子(生、乾燥物及び粉砕物を含む)を水、含水エタノール等により抽出したものが含まれる。
【0027】
乾燥方法としては、通風乾燥、天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥など、一般食品加工で採用される公知の方法を使用することができる。好ましくは、凍結乾燥である。なお、乾燥時間は特に制限されず、例えば、通風、天日乾燥などの自然乾燥の場合は、約3日程度、電気等で加熱して強制乾燥させる場合は、50℃程度で1~3日程度を挙げることができる。通常、水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下になるように乾燥させることが好ましい。なお、通風、天日乾燥などの自然乾燥の場合のように水分含量を10質量%以下にすることが難しい場合は、その後、凍結乾燥機にかけて更に水分を下げる処理を行い得る。
【0028】
粉砕処理(粉末化処理)は、粉砕器(ミル)を用いて粉砕する方法、石臼を用いてすりつぶす方法等、公知の方法を使用して行い得る。
【0029】
蜂の子を加熱する方法は、特に制限されず、好ましくは70~120℃で熱処理する方法を挙げることができる。簡便には沸騰した水中に蜂の子(生、乾燥物及び粉砕物を含む)を投入して加熱処理することもでき、各種のビタミン、アミノ酸等の有効成分の溶出をできるだけ避けるためには、加熱処理として蜂の子を蒸気で蒸す方法が好適に使用される。
【0030】
抽出方法は、蜂の子(生、乾燥物及び粉砕物を含む)に水、含水エタノール等を添加し、攪拌した後、遠心分離により上清を得る方法、ろ紙によるろ過を行い、ろ液を得る方法等が用いられる。
【0031】
蜂の子はペプチダーゼで処理されることにより蜂の子に含まれるタンパク質が低分子化され、当該タンパク質に起因するアレルギー反応が抑制されてなる酵素処理物(低アレルゲン化酵素処理物)が得られる。
【0032】
本発明で用いられるペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を同時に有するペプチダーゼである。かかるペプチダーゼを使用した酵素処理によれば、一段階酵素処理でタンパク質を低分子化することができるので、操作が簡便である。
【0033】
また、本発明で用いられるペプチダーゼは、EC番号(酵素番号)が3.4群のものであり、本発明の効果を奏する限り、由来は特に制限されず、動物、植物、及び微生物(細菌、ウィルス、真菌類(カビ、酵母、キノコ等)、藻類など)に由来するペプチダーゼを広く使用できる。これらの中でも細菌又は真菌類由来のペプチダーゼが好ましく、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)由来のペプチダーゼが特に好ましい。
【0034】
「エキソペプチダーゼ」は、「アミノペプチダーゼ」と「カルボキシペプチダーゼ」とに分類される。また、ペプチダーゼは、至適pHによって、それぞれ酸性、中性、アルカリ性という用語を各酵素につけることがあり、例えば、「酸性エキソペプチダーゼ」、「中性アミノペプチダーゼ」、「アルカリ性エンドペプチダーゼ」のように記載することもある。
【0035】
ペプチダーゼとしては、市販のものを使用することができ、そのような市販品としては、好ましくは、商品名「スミチームLP-G」(新日本化学工業株式会社)、「プロテアーゼM『アマノ』SD」、「プロテアーゼP『アマノ』3SD」、「プロテアックス」(天野エンザイム株式会社)、「フレーバーザイム(Flavourzyme)」(ノボザイムズジャパン株式会社)を例示することができる。
【0036】
本発明で用いられるペプチダーゼとしては、アスペルギルス・オリゼー由来のもの、至適温度が50℃以上であるもの、至適pHが7~8であるのものが特に好ましく、そのようなペプチダーゼとしてはプロテアックスが挙げられる。また、本発明で用いられるペプチダーゼとしては、Tris-HClバッファーにて抽出、トリクロロ酢酸にて沈殿、アセトンにて洗浄することで得たタンパク質をトリプシン消化、固相カラムで脱塩後、液体クロマトグラフィー質量分析法により、下記分析条件にて分析した際に、特徴的な分子量の化合物イオン(m/z:970.5705[M-H], 980.5435[M-H], 541.3723[M-H], 860.3850[M-H], 855.4021[M-H], 815.4538[M-H], 1154.6102[M+H], 595.5052[M+H], 1208.9261[M-H], 1209.2603[M-H], 各±5 ppm以内)を有するものも好ましく、そのようなペプチダーゼとしてはプロテアックスが挙げられる。
【0037】
(分析条件)
カラム:Acquity BEH C18(Waters:2.1x100 mm, id 1.7μm)カラム温度:40℃
溶媒A:0.1%ギ酸
溶媒B:アセトニトリル
流速:0.3 mL/min
グラジェント:5%B (0-2 min)、5-50%B (2-12 min)、50-100%B (12-22 min)、100%B (22-25 min)、5%B (25-30 min)
【0038】
蜂の子に対するペプチダーゼの使用量は、使用する蜂の子濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間により異なり一概には言えない。一般的には、蜂の子に含まれるタンパク質1 g当り50~10000作用単位の割合でペプチダーゼを用いることが好ましい。なお、このとき、ペプチダーゼの蜂の子への添加は、一度に添加してもよく、少量ずつ分割して添加してもよい。
【0039】
ペプチダーゼ処理に際して蜂の子の溶液及び分散液のpHは、使用酵素の至適pHに対応して、pH2~12、好ましくはpH7~10、より好ましくはpH7~8.5の範囲から選択される。具体的には、前記蜂の子の溶液及び分散液にペプチダーゼを添加する前に、使用酵素の種類によりpH2~12、好ましくはpH7~10、より好ましくはpH7~8.5の範囲内になるように、酸、アルカリ剤、あるいは緩衝剤の添加により所望のpHに調整される。この場合、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸等を;アルカリ剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を;また、緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤等をそれぞれ例示することができる。
【0040】
ペプチダーゼ処理の温度は、特に制限はなく、好ましくはエンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両作用が発現する最適温度範囲を含む、実用に供せられ得る範囲、すなわち、通常20~70℃の範囲から選択される。好ましくは40~70℃、より好ましくは55~70℃の範囲である。ペプチダーゼ処理の時間は、使用酵素の種類、反応温度、pH等の反応条件に依存し、特に限定されない。
【0041】
なお、蜂の子は、そのまま、又は水に溶解若しくは分散させた状態でペプチダーゼ処理に供することができる。蜂の子が乾燥形態である場合は、水に溶解させた状態でペプチダーゼ処理に供することが好ましい。
【0042】
ペプチダーゼ処理の停止は、ペプチダーゼを失活又は除去することにより行う。失活操作は加熱処理(例えば、80℃で15分間等)により行うことができる。
【0043】
本発明では、蜂の子を少なくとも前述するようにペプチダーゼで処理すればよく、ペプチダーゼ処理だけでなく、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の酵素との組み合わせ処理、例えば、ペプチダーゼ処理と合わせて糖分解酵素処理などを行うこともできる。
【0044】
本発明の製造方法により製造される蜂の子酵素処理物は、その後、ドリンク剤、シロップ剤などの液剤の形態に調製されてもよいし、半液体形態、又は固体形態に調製されてもよい。半液体形態としてはペースト状及びゼリー状の形態が、固体形態としては凍結乾燥物(例えば、凍結乾燥粉末)、錠剤(トローチ、チュアブル錠、糖衣錠などを含む)、カプセル、顆粒などの形態を挙げることができる。なお、凍結乾燥物は、ペプチダーゼ処理を行った蜂の子酵素処理物を、凍結乾燥処理に供することによって調製することができる。凍結乾燥処理は、定法に従って行うことができる。
【0045】
(2)蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法
本発明の蜂の子酵素処理物のアレルギー性低減且つ製造時及び製造後の褐変化抑制方法は、蜂の子をエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有するペプチダーゼで処理することにより実施することができる。
【0046】
ここで対象とする蜂の子、使用するペプチダーゼの種類、ペプチダーゼ処理の条件などについては、(1)で前述した通りである。
【0047】
当該方法によって得られる蜂の子酵素処理物は、従来の方法によって得られる蜂の子酵素処理物と同様にタンパク質が低分子化されているにもかかわらず、製造時及び製造後の両方の時点において褐変現象が優位に抑制されている。さらに、このような効果は、常圧条件で且つ単一の酵素を用いた場合であっても得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0049】
実施例1
蜂の子39.5 gをガラスビーカーに量りとり、イオン交換水150 mlを加えて均一になるまで攪拌して蜂の子希釈液を調製した。2N NaOH水溶液を加えて蜂の子希釈液のpHを7.0に調整した。次に、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有するプロテアックス(天野エンザイム株式会社) 1180 mgをイオン交換水10 mlに溶かした溶液を蜂の子希釈液に加え、さらにイオン交換水を全量が285 gになるように加えた。反応混合物をプロペラで撹拌しながら70℃(恒温水槽)で2時間反応させて、加水分解を行った。恒温水槽の温度を80℃に上げて15分間攪拌し酵素を失活させた。
【0050】
実施例2
酵素として、プロテアックスに代えて、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有するプロテアーゼP (天野エンザイム株式会社)を使用し、反応温度を40℃とした以外は、実施例1と同様にして、蜂の子酵素分解物を得た。
【0051】
比較例
酵素として、プロテアックスに代えて、アクチナーゼAS (科研製薬株式会社)を使用しpHを8.8、反応温度を50℃とした以外は、実施例1と同様にして、蜂の子酵素分解物を得た。
【0052】
<酵素分解度測定>
ゲルろ過分析を用いて分解後の化合物の分子量を測定することで酵素分解度の確認を行った。酵素反応後溶液を20μL量りとり、9.5 mLの50 mM NaPi/0.3M NaCl buffer (pH7.0)を加え分析サンプルとした。チトクロムC (nacalai tesque、M.W.=12,384)を指標とし、チトクロムCより早く溶出される成分の割合を算出した。分析条件を以下に示す。
カラム:Shodex PROTEIN KW-802.5 (5μm, 8.0 mm i.d.×300 mm, 昭和電工株式会社)、ガードカラム:Shodex PROTEIN KW-G (5μm, 8.0 mm i.d.×10 mm, 昭和電工株式会社)、カラムオーブン:30℃、流速:0.5 mL/min、移動相:A;50 mMリン酸Na/0.3 M NaCl緩衝液(pH7.0), B;なし、溶出:B 0% (60 min hold)、注入量:10μL、検出:UV (220 nm)。
【0053】
結果を表1に示す。いずれの実施例においてもチトクロムC以前に見られたピークの割合は、比較例以上の高分解度となることが確認された(表1)。
【0054】
【0055】
<ヒスタミン遊離試験(アレルゲン性確認)>
実施例及び比較例で得た蜂の子酵素分解物について、CAST法(cellular antigen stimulation test)によって、遊離するヒスタミン量を測定した。
【0056】
具体的には、蜂の子に対してアレルギー反応を経験したことのある被験者の血液サンプルに対し、蜂の子の酵素加水分解物を作用させて、遊離するヒスタミン量を測定した。被験者には、本試験内容を記載した説明書を配布し、試験の趣旨及び内容を十分に説明し、被験者本人の自由意志により参加する旨の同意書を得た者に対してのみ、本試験を行った。遊離ヒスタミンの測定は、市販のELISAキット(Histamine ELISA (IMMUNO-BIOLOGICAL LABORATORIES社製))を用いて行った。
【0057】
結果を
図1に示す。実施例1ではヒスタミン遊離値(ng/mL)が比較例に比べて3/5以下となっており、当該方法によって得られる蜂の子酵素処理物は従来の方法によって得られる蜂の子酵素処理物より優位にアレルゲン性を低下できていると考えられる。
【0058】
<褐変評価>
実施例及び比較例の酵素反応後の蜂の子溶液を凍結乾燥し粉末化させ、デジタルカメラで撮影した画像を用いて褐変評価(輝度分析)を行った。撮影は粉末化後及び50℃にて7日間保管後に行った。輝度の算出はカラーピッカーソフトである「FlatColorPicker」を用いて行い、HSL色空間における輝度(%)をその値とした。
【0059】
粉末後の結果を表2に、50℃にて7日間保管後の結果を
図2に示す。従来の方法では酵素分解により見られていた輝度の低下、褐変の現象が本発明の方法によって得られる蜂の子酵素処理物では見られず、50℃にて7日間の保管後においても同様に褐変が抑制されていた。
【0060】