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  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図1
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図2
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/067 20060101AFI20230411BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230411BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20230411BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/00 M
B23K26/382
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019090521
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020185577
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成田 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】武川 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-025292(JP,A)
【文献】特開2018-99692(JP,A)
【文献】特開2006-41411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、当該レーザ発振器から入射されたレーザパルスを二つの方向のうちのいずれか一方に分岐させる光分岐部と、当該光分岐部での前記分岐方向を制御する光分岐制御部とを備え、前記光分岐部から出射された前記レーザパルスの第一の部分を被加工物に与えることにより当該被加工物を加工するようにしたレーザ加工装置において、前記第一の部分よりも先行する前記レーザパルスの第二の部分での二つ時点での光強度を検出する光強度検出部を備え、前記光分岐制御部は前記光強度検出部での検出結果に基づいて前記第一の部分のエネルギーが一定になるように前記光分岐部を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、前記光分岐部は前記光分岐制御部からRF信号が与えられるか否かにより分岐方向が定まるとともに、与えられるRF信号の振幅により前記第一の部分のエネルギーが制御されることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1あるいは2に記載のレーザ加工装置において、前記光分岐部は前記光強度検出部での検出結果が所定の範囲にある場合だけ前記第一の部分のエネルギーが一定になるように制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
レーザ発振器から入射されたレーザパルスを二つの方向のうちのいずれか一方に分岐させる光分岐部に入射し、前記光分岐部から出射された前記レーザパルスの第一の部分を被加工物に与えることにより当該被加工物を加工するようにしたレーザ加工方法において、前記第一の部分よりも先行する前記レーザパルスの第二の部分での二つ時点での光強度を検出し、当該検出結果に基づいて前記第一の部分のエネルギーが一定になるように前記光分岐部を制御することを特徴とするレーザ加工方法
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工方法において、前記光分岐部は前記光分岐制御部からRF信号が与えられるか否かにより分岐方向が定まるとともに、与えられるRF信号の振幅により前記第一の部分のエネルギーが制御されることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項6】
請求項4あるいは5に記載のレーザ加工方法において、前記光分岐部は、前記第一の部分の光強度の検出結果が所定の範囲にある場合だけ前記第一の部分のエネルギーが一定になるように制御することを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザパルスを用いてプリント基板のような被加工物に穴あけ等の加工を行うためのレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の如きレーザ加工装置においては、レーザ照射位置を変えるためのガルバノスキャナによる位置決め動作の完了毎にレーザ発振器よりレーザパルスを発振させ、ガルバノスキャナを経由して被加工物に照射するようになっている。
このようなレーザ加工装置においてプリント基板に穴あけを行うと、レーザ発振器からのレーザパルスが正常なエネルギーでなかった場合、その時加工される穴径が小さい等の加工品質が悪くなる問題がある。
【0003】
特許文献1には、レーザ発振器からのレーザパルスを分岐方向の制御を行うことにより加工に使用するかどうか(オン・オフ)のスイッチングを行う音響光学モジュール(以下AOMと略す)、すなわちAOMを経由して被加工物に照射するものにおいて、AOMからの出射側の光の強度を検出し、この光強度に基づいてAOMをフィードバック制御する技術が開示されている。
AOMでスイッチングを行う場合、通常はレーザ発振器からのレーザパルスの特定の期間だけ切出しを行うが、特許文献1の技術はAOMで切出された光の強度を検出する方式であるので、光強度を検出したレーザパルスそれ自身のエネルギーをもはや制御することはできず、正常でないエネルギーのレーザパルスが被加工物に照射され、加工品質が悪くなる欠点がある。
【0004】
また特許文献2には、穴あけを行う毎にレーザパルスの最初の部分のエネルギーを検出し、それが設定範囲にある時のみレーザパルスの残りの部分の少なくとも一部を被加工物に照射する技術が開示されている。
しかしながら、レーザパルスの最初の部分のエネルギーが設定範囲にあったとしても、残りの部分のエネルギーは一定であるとは限らず、加工品質が一定でなくなる欠点がある。
また、特許文献2の技術ではレーザパルスの最初の部分のエネルギーが大き過ぎたりする場合は、そのレーザパルスはダンパに照射され加工に用いられない。従ってレーザパルスの利用率が低下する欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-5890号公報
【文献】特開2004-25292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、従来技術の欠点を解決し、一定の加工品質を確保するとともにレーザパルスの利用率の低下を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願において開示される発明のうち、代表的なレーザ加工装置においては、レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、当該レーザ発振器から入射されたレーザパルスを二つの方向のうちのいずれか一方に分岐させる光分岐部と、当該光分岐部での前記分岐方向を制御する光分岐制御部とを備え、前記光分岐部から出射された前記レーザパルスの第一の部分を被加工物に与えることにより当該被加工物を加工するようにしたレーザ加工装置において、前記第一の部分よりも先行する前記レーザパルスの第二の部分での二つ時点での光強度を検出する光強度検出部を備え、前記光分岐制御部は前記光強度検出部での検出結果に基づいて前記第一の部分のエネルギーが一定になるように前記光分岐部を制御することを特徴とする。
【0008】
また、本願において開示される代表的なレーザ加工方法は、レーザ発振器から入射されたレーザパルスを二つの方向のうちのいずれか一方に分岐させる光分岐部に入射し、前記光分岐部から出射された前記レーザパルスの第一の部分を被加工物に与えることにより当該被加工物を加工するようにしたレーザ加工方法において、前記第一の部分よりも先行する前記レーザパルスの第二の部分での二つ時点での光強度を検出し、当該検出結果に基づいて前記第一の部分のエネルギーが一定になるように前記光分岐部を制御することを特徴とする。
【0009】
なお、本願において開示される発明の代表的な特徴は以上の通りであるが、ここで説明していない特徴については、以下に説明する実施例に適用されており、また特許請求の範囲にも示した通りである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術の欠点を解決し、一定の加工品質を確保するとともにレーザパルスの利用率の低下を抑えることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例となるレーザ加工装置のタイミングチャートである。
図2】本発明の一実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。
図3図2における制御テーブルの内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0012】
以下、本発明の一実施例について説明する。
図2は、本発明の一実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。図2において、1はレーザパルスを発生する例えば炭酸ガスレーザタイプのレーザ発振器である。2はレーザ発振器1からのレーザパルスを反射するビームスプリッタ、3はビームスプリッタで反射されたレーザパルスに対し分岐方向の制御を行うことにより加工に使用するかどうか(オン・オフ)のスイッチングを行うAOM、4はAOM3がオンとなって加工方向に分岐したレーザパルスL2を加工データに従って2次元方向に走査するガルバノスキャナ、5はガルバノスキャナ5からのレーザパルスをプリント基板7の穴あけ位置に照射する集光(Fθ)レンズ、6はAOM3において加工方向へ分岐されず透過したレーザパルスL3を吸収するダンパである。
【0013】
10は装置全体の動作を制御するための全体制御部であり、例えばプログラム制御の処理装置を中心にして構成され、その中の各構成要素や接続線は、論理的なものも含むものとする。また各構成要素の一部はこれと別個に設けられていてもよい。また、全体制御部10はここで説明するもの以外の制御機能を有し、図示されていないブロックにも接続されているものとする。
【0014】
全体制御部10の内部には、レーザ発振器3でのレーザパルスL1の発振と減衰を指令するためのレーザ発振指令信号Sを出力するレーザ発振制御部11、AOM5を制御するためのAOM駆動信号Dを出力するAOM制御部12、ガルバノスキャナ7を制御するためのガルバノ制御信号Gを出力するガルバノ制御部13が設けられている。
AOM制御部12から出力されるAOM駆動信号Dは特定周波数のRF信号から成り、このRF信号を与えるか否かによってAOM3のオン、オフを制御し、またこのRF信号の振幅を変化させることによりAOM3から加工方向に分岐したレーザパルスL2の出射エネルギーを制御する。
【0015】
図1は、図2のレーザ加工装置において、レーザ発振器1からレーザパルスL1が発振される時のタイミングチャートである。このレーザ加工装置においては、ガルバノスキャナ4における回転の停止に同期してレーザ発振を行いプリント基板1に照射するようになっている。
図2において、全体制御部10の制御の下で、ガルバノ動作制御信号Gがオンとなってガルバノスキャナ4が回転し、目標の位置まで回転して位置決め動作が完了するとガルバノ動作制御信号Gがオフになり、時間T1の後にレーザ発振制御部11からのレーザ発振指令信号Sが所定時間オンとなってレーザパルスL1の発振がレーザ発振器1に指令される。
【0016】
そして、レーザ発振指令信号Sがオンとなってから時間T2の後にレーザ発振器2からレーザパルスL1が発振される。時間T3の後に所定時間だけAOM駆動信号DがAOM制御部12から出力され、AOM3がオンとなってレーザパルスL2が切出される。
なお、Pは出射され始めた直後に表れるスパイクであり、このスパイクは必ず発生するとは限らないものである。
AOM3により切出されたレーザパルスL2はガルバノスキャナ4を経由してプリント基板7に照射される。この後、レーザ発振指令信号Sのオフから所定の時間の後にガルバノ動作制御信号Gがオンとなり、次の穴位置への照射のためにガルバノスキャナ4が回転し、以後、同様に繰り返す。
ここで、時間T1~T3は、それぞれ関連機能要素における処理・応答時間や機能要素間の信号伝搬時間が含まれるものである。
【0017】
以上までの構成のレーザ加工装置は一般的に知られているものであるが、本発明に従うと、以下の点が異なる。
図2において、14はビームスプリッタ2を透過したレーザパルスL1のエネルギーを光強度で検出する光強度検出器であり、フォトディテクタ等を使って実現されるものである。この光強度検出器14は、全体制御部10内に設けられた光強度検出制御部15からの検出指示信号Eを2回受け、その時のレーザパルスL1の光強度を示す光強度信号Fが光強度傾き計算部16に出力される。光強度傾き計算部16では、検出された光強度の2点間の傾きが求められる。
【0018】
具体的には、レーザ発振指令信号SがオンとなってからTaの時間経過後の時点でレーザパルスL1の光強度Faが検出され、またTbの時間経過後の時点でレーザパルスL1の光強度Fbが検出され、光強度傾き計算部16で傾きα(α=(Fb-Fa)/(Tb-Ta))が求められ、傾きαがAOM制御部12に出力される。
時間Ta、Tbは予め実験的に求めておくものとするが、特にTaが短すぎるとレーザパルスL1の光強度がまだ小さすぎるので、傾きαは異常に大きくなってしまう。そのようなことがないように、TaはレーザパルスL1がある程度立上がった時間にする必要がある。
【0019】
AOM制御部12の内部には図3に示す内容の制御テーブル17が設けられており、これの各エントリには、レーザパルスL1の傾きα毎に、AOM3で切出されたレーザパルスL2のエネルギを加工品質を確保するために必要な一定(一定の範囲も含む)の大きさにするためのAOM駆動信号Dの振幅V1~Vnが登録されている。振幅V1~Vnは予め実験等により求めておく。
AOM制御部12は、レーザ発振器1からレーザパルスL1が発振されると、光強度傾き計算部16で求められた傾きαに対応する振幅Vを制御テーブル17から選択し、当該振幅のAOM駆動信号DをAOM3に与える。
【0020】
また、レーザパルスの傾きαが所定値α1より大きい場合は、照射エネルギーが大き過ぎてもはやAOM3で加工に適するレベルまで下げられないと判定し、AOM制御部12はAOM駆動信号Dの振幅Vをゼロにする(すなわちAOM駆動信号Dの供給を止める)ことにより、加工方向へのレーザパルスL2を無くし全てダンパ4の方向に分岐させる。
また、レーザパルスの傾きαが所定値αn+1より小さい場合は、照射エネルギーが小さ過ぎて加工に適さないと判断し、これについてもAOM制御部12はAOM駆動信号Dの振幅Vをゼロとすることにより、加工方向へのレーザパルスL2を無くし全てダンパ4の方向に分岐させる。
【0021】
加工方向へのレーザパルスL2を無くした時、AOM制御部12はガルバノ制御部13にガルバノ位置更新の停止を指示するガルバノ更新停止信号GSを出力する。これを受けてガルバノ制御部13は、レーザ発振指令信号Sがオフになってもガルバノ動作制御信号Gをオンとせず、ガルバノスキャナ5を現在の回転位置に留まらせる。
そして次のレーザ発振のタイミングでレーザ発振指令信号Sをオンとし、ここで発振されるレーザパルスL1が上記の如き判定に基づき加工に適するものであれば、それを使用して当初の穴位置への加工が行なわれるようにする。
このようにすると、一時的にレーザ発振器1から加工に適さないレーザパルスL1が出射されても、装置としてはそのまま加工動作を継続することができる。
【0022】
AOM制御部12からガルバノ更新停止信号GSが頻繁に発生する場合には、レーザ発振器1から加工に適さないレーザパルスL1が頻繁に出力されている訳であり、このような場合には、AOM制御部12からエラー信号ALが出力され、これを受けて全体制御部10は加工動作を停止させ、レーザ発振器1の異常が起きていることをオペレータに知らせるようにする。
【0023】
上記実施例においては、レーザ発振器1からのレーザパルスL1がAOM3に入射する前に、AOM3による切出し部分より先行するレーザパルス部分の光強度を検出し、それに対応してAOM駆動信号Dの振幅を変化させ、AOM3による切出し部分であるレーザパルスL2のエネルギーを一定に制御するようになっている。
従って、発振周期等によりレーザパルスのエネルギーが変化しても、AOM3による切出し部分であるレーザパルスL2のエネルギーを一定に制御できるので、加工品質を向上させることができる。
さらには、レーザパルスの最初の部分のエネルギーが大き過ぎて、従来においてはダンパ6の方向に分岐させられていたレーザパルスであっても、AOM3によってエネルギーを加工に適したものにすることができるので、レーザパルスの利用率を向上することができる。
【0024】
なお、上記実施例においては、AOM3による切出し部分より先行するレーザパルス部分の2点の光強度の傾きを求めることによりAOM3による切出し部分であるレーザパルスL2のエネルギーを判定しているが、必ずしも2点間の傾きを求める必要はない。
例えば、図1において時刻Ta~Tbの積分値を求めることによりAOM3による切出し部分であるレーザパルスL2のエネルギーを判定してもよく、AOM3による切出し部分であるレーザパルスL2のエネルギーを判定する方法は種々考えられる。
【符号の説明】
【0025】
1:レーザ発振器、2:ビームスプリッタ、3:AOM、4:ガルバノスキャナ、5:集光(Fθ)レンズ、6:ダンパ、7:プリント基板、10:全体制御部、
11:レーザ発振制御部、12:AOM制御部、13:ガルバノ制御部、
15:光強度検出器、16:光強度傾き計算部、17:制御テーブル、
図1
図2
図3