(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】消臭剤
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
A61L9/01 H
(21)【出願番号】P 2017133935
(22)【出願日】2017-07-07
【審査請求日】2020-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 治
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】原 賢一
【審判官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-87365(JP,A)
【文献】特開2004-65128(JP,A)
【文献】特開2012-187448(JP,A)
【文献】特開2013-244093(JP,A)
【文献】特開2002-165871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤との混合液の濃縮物を含有
し、
前記甘蔗由来の蒸留物が、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる原料の蒸留物を、固定担体として合成吸着剤が充填されたカラムに通液することにより、前記合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる溶出溶媒で溶出させて得られる溶出液であり、
前記油溶性溶剤が、トリエチルシトレイト、ジプロピレングリコール、精製動植物油、精油、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリアセチン及び1,3-ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種である、消臭剤。
【請求項2】
前記油溶性溶剤が、トリエチルシトレイト及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
1に記載の消臭剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトをはじめとする動物から発生する悪臭、室内、車内、冷蔵庫、トイレ、畜舎、魚水槽、又は工場から発生する悪臭、家庭の廃棄物、産業廃棄物等から発生する悪臭を脱臭又は消臭するための消臭剤が市販されている。このような消臭剤としては、使用後の環境への配慮から、天然由来の成分を用いた消臭剤を用いることが望ましい。例えば、特許文献1には、甘蔗由来の蒸留物を有効成分とする消臭剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の消臭剤に含まれる甘蔗由来の蒸留物は、エタノール及び水を含むものである。他方、消臭剤を油性香料等の消臭原料として配合する場合には水を含有しないことが望ましい。また、消臭剤が油溶性である場合、布等の消臭対象物に残りやすく、消臭(防臭)効果が優れた消臭剤への用途展開が可能となる。このような観点から、消臭効果を有し、かつ油溶性である消臭剤が求められている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、消臭効果を有しつつ、油溶性である消臭剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤との混合液の濃縮物を含有する、消臭剤を提供する。
【0007】
本発明は、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤との混合液の濃縮物を含有するため、消臭効果を有しつつ、油溶性である。
【0008】
甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる原料の蒸留物であってよく、また、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる原料の蒸留物を、固定担体として合成吸着剤が充填されたカラムに通液することにより、前記合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる溶出溶媒で溶出させて得られる溶出液であってよい。この場合、本発明の効果がより一層優れたものとなる。
【0009】
上記油溶性溶剤は、トリエチルシトレイト、ジプロピレングリコール、精製動植物油、精油、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリアセチン及び1,3-ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であってよく、トリエチルシトレイト及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、本発明の効果がより一層優れたものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消臭効果を有しつつ、油溶性である消臭剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書における「消臭剤」は、消臭効果を有する成分(有効成分)と油溶性溶剤とを含有するものである。また、本実施形態の消臭剤は、水と相溶し得るものであってもよい。消臭剤は、消臭対象物の臭いを消去又は抑制することにより、消臭効果を発揮するものであってもよく、消臭対象物の臭いをマスキングすることで、消臭効果を発揮するもの(マスキング剤)であってもよい。
【0013】
本実施形態の消臭剤は、甘蔗由来の蒸留物(蒸留処理物)と油溶性溶剤との混合液の濃縮物を含有する。
【0014】
甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗(サトウキビ)から得られる原料(以下、単に「甘蔗由来の原料」又は「原料」という。)を蒸留処理して得ることができる。甘蔗由来の原料としては、例えば、甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出物等が挙げられる。甘蔗汁は、甘蔗を圧搾して得られる圧搾汁、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、または原糖製造工場における石灰処理した清浄汁及び濃縮汁を包含する。甘蔗の溶媒抽出物とは、甘蔗を抽出溶媒で抽出した抽出液を意味する。抽出溶媒は、有機溶媒を含んでいてよく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒、又は当該アルコールと水との混合溶媒等であってよい。抽出溶媒は、1種単独又は2種以上を併用したものであってもよい。
【0015】
本実施形態の消臭剤において、甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種(「甘蔗由来の原料」)の蒸留物であることが好ましい。
【0016】
甘蔗由来の蒸留物は、例えば、以下の条件で、甘蔗由来の原料を蒸留処理することにより得られる。
【0017】
蒸留処理は、加熱装置を備える蒸留装置のタンク内に原料を入れ、タンクを加熱して原料から生じる蒸気を回収することにより行う。蒸留処理することによって、甘蔗由来の蒸留物を含む蒸気を気体のまま、好ましくは液体として回収し、蒸発しなかった固形分と分離する。
【0018】
蒸留処理の温度(蒸気温度又は品温)条件は、50~120℃であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましく、85~120℃であることが更に好ましい。蒸留処理の圧力条件は、240~1450mmHgであることが好ましく、450~1450mmHgであることがより好ましい。蒸留処理の圧力条件は、所望の温度条件にて原料が沸騰するように原料の組成に応じて調整すればよい。
【0019】
蒸留処理は、大気圧(760mmHg)を基準として、加圧下又は減圧下のいずれの圧力条件下においても行うことができる。蒸留処理は、50℃~120℃の、蒸留原料液体が沸騰する圧力で行ってよい。蒸留処理は、好ましくは、70℃~120℃の、蒸留原料液体が沸騰する圧力で行ってよい。例えば、甘蔗汁の蒸留処理を加圧下で行う場合の好適な条件は、圧力980~1425mmHg、温度110~118℃である。他方、甘蔗汁の蒸留処理を減圧下又は大気圧下で行う場合の好適な条件は、圧力460~760mmHg、温度87~100℃である。
【0020】
なお、蒸留処理の条件は、原料に含まれる溶媒の種類、その比率、又は蒸留処理に使用する装置等に応じて適宜調整すればよい。例えば、抽出溶媒として水を使用した甘蔗の溶媒抽出物を原料とし、蒸留装置として遠心式薄膜真空蒸発装置、冷却管を接続したフラスコ、又は蒸留機を使用する場合、好適な蒸留条件は、温度70~105℃、圧力240~760mmHgである。温度70℃未満及び/又は圧力240mmHg未満の条件下における蒸留処理は実験的な小規模な場合には適用可能であるが、蒸留装置のコスト及び作業性の観点から大規模な場合には適用しないことが一般的である。
【0021】
蒸留処理には、一般的な蒸留装置又は蒸発装置を使用することができる。つまり、原料を収容可能であると共に原料を加熱する加熱装置と、加熱により発生した蒸気を冷却する冷却装置と、冷却された蒸気を液体又は気体として回収する回収装置とを備えるものであればよい。蒸留装置としては、例えば、実験室内においては冷却管などを備えたフラスコが用いられ、工場においては濃縮缶、結晶缶、効用缶等を備えた装置が用いられる。
【0022】
蒸留処理の温度条件及び圧力条件を調節することにより、原料中の有効成分を濃縮し、所望の濃度の有効成分を含む蒸留物(蒸留液)を得ることができる。
【0023】
本実施形態の消臭剤における、甘蔗由来の蒸留物(蒸留液)は、カラムクロマトグラフィー処理(カラム処理)を行ったものであってよい。つまり、甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる原料の蒸留物を、固定担体として合成吸着剤が充填されたカラムに通液することにより、合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる溶出溶媒で溶出させて得られる溶出液であってよい。カラム処理により、蒸留処理で得られた蒸留物に含まれる有効成分が更に濃縮される。
【0024】
蒸留物(蒸留液)のカラムクロマトグラフィー処理の好適な条件及び方法(使用する合成吸着剤、通液量など)は、例えば、以下のとおりである。
【0025】
カラムに充填する合成吸着剤(多孔質吸着剤)としては、芳香族系樹脂(例えば、無置換基型の芳香族系樹脂)、アクリル酸系メタクリル樹脂、アクリロニトリル脂肪族系樹脂等が挙げられる。合成吸着剤は、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂及びアクリロニトリル脂肪族系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つであってよく、無置換基型の芳香族系樹脂又はアクリル酸系エステル樹脂が好ましい。このような合成吸着剤は市販されており、例えばダイアイオン(商標)系としてHP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)として、XAD-2、XAD-4、XAD -16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイアイオン(商標)系として、SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)系として、XAD-7HP、XAD-8(以上、アクリル酸系エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイアイオン(商標)系として、HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸系メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);セファデックス(商標)系としてLH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)などが挙げられる。通液対象物の濃度、溶媒、抽出法、共存物などにより適する合成吸着剤の種類は異なるため、適宜選択を行うことができる。
【0026】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜決定すればよい。例えば、液状の原料をカラム処理する場合、カラム内の合成吸着剤量を1体積部としたときに、蒸留物の通液量を1.5~20000体積部とすることが一般的である。すなわち、原料の通液量の1/20000~1/1.5の湿潤体積量の合成吸着剤をカラム内に充填することが好ましい。
【0027】
上記の合成吸着剤が充填されたカラムには、蒸留処理により得られる蒸留物が通液される。カラムには、蒸留物そのものを通液してもよく、又は、アルコール濃度を調整するために水で希釈した希釈液を通液してもよい。このとき、カラム温度は60~97℃の範囲内とすることが好ましい。通液が終了後、カラムに水を通し、カラム内を水洗してよい。希釈液のアルコール濃度は、所望の成分をより効率よく得ることができる点から、好ましくは、10体積%以下、又は5体積%以下であってよい。希釈液のアルコール濃度は、0体積%超えであってよい。
【0028】
次いで、合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、溶出溶媒で溶出させて、溶出液を得る。溶出溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物から選ばれるものであってよく、混合体積比(エタノール/水)50/50~99.5/0.5のエタノール-水混合溶媒であってもよい。このとき、カラム温度は20~40℃とすることが好ましい。エタノール-水混合溶媒での溶出開始後、回収した溶出液の量が所定の量となるまで溶出を行う。例えば、充填した合成吸着剤の湿潤体積量を1体積部としたとき、回収された溶液量が6体積部となった時点で溶出液の回収を終了する。なお、溶出速度はカラムの大きさ、溶媒の種類、固定担体の種類等によって変化するので特に限定されないが、SV=0.1~10で溶出するものであってよい。ここで、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間あたり樹脂容積の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0029】
カラムクロマトグラフィー処理は、これに限定されるものではないが、好ましくは次のようにして行うことができる。すなわち、無置換基型の芳香族系樹脂又はアクリル酸系エステル樹脂を充填したカラムに、カラム温度60~97℃にて通液対象物を通液した後、カラム内を水洗し、次いでカラムに吸着されている成分を、カラム温度20~40℃にて50/50~99.5/0.5(体積/体積)エタノール-水混合溶媒で溶出させ、エタノール-水混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が上記樹脂の6倍湿潤体積量以内に溶出する溶出液(溶出溶媒を含む)を回収する。得られた溶出液(溶出溶媒を含む)は、甘蔗由来の蒸留物としてそのまま用いてもよい。
【0030】
本明細書における油溶性溶剤は、水以外の有機溶剤を意味し、水と相溶し得る溶剤であってもよい。油溶性溶剤の沸点は、好ましくは170℃以上(より好ましくは、190℃以上)である。油溶性溶剤としては、例えば、トリエチルシトレイト(クエン酸トリエチル、TEC)、ジプロピレングリコール(DPG)、精製動植物油、精油、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリアセチン及び1,3-ブタンジオール等が挙げられる。油溶性溶剤は、トリエチルシトレイト、ジプロピレングリコール、精製動植物油、精油、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリアセチン及び1,3-ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であってよく、トリエチルシトレイト及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。油溶性溶剤として、上記のものを用いることにより、消臭効果を維持しつつ、油溶性である消臭剤を提供することが可能となる。
【0031】
本実施形態の消臭剤は、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤との混合液の濃縮物を含有する。
【0032】
甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤との混合液の濃縮物は、以下の方法で得ることができる。まず、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤とを混合し、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤とを含む混合液を得る。ここで、混合液中の、甘蔗由来の蒸留物(C1)に対する油溶性溶剤(C2)の含有質量比(C2/C1)は、1/1~10/1(好ましくは、1/1~5/1)であってよい。得られた混合液を濃縮処理することにより、混合液の濃縮物を得る。
【0033】
混合液の濃縮処理は、大気圧(760mmHg)を基準として、減圧条件下で行うことが好ましい。例えば、濃縮処理の温度条件は、好ましくは温度50~90℃であり、より好ましくは温度70~90℃である。濃縮処理の圧力条件は、530mmHg以下、又は230mmHg以下であってよい。濃縮処理の圧力条件は、所望の温度条件にて混合液が沸騰するように混合液の組成に応じて調整すればよい。濃縮処理は、例えば、甘蔗由来の蒸留物1質量部と油溶性溶剤3質量部とを混合し、濃縮処理して得られる濃縮物(濃縮残渣)が、3質量部となったときに終了してよい。なお、濃縮処理は、エバポレーター等を用いて行ってよい。
【0034】
本実施形態の消臭剤は、少なくとも、甘蔗由来の蒸留物に含まれる消臭効果を有する成分と、油溶性溶剤とを含んでいる。
【0035】
本実施形態の消臭剤は、本発明による効果を損なわない範囲において、その他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他の消臭剤、香料、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、安定化剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の消臭剤は、食品(食品用消臭剤)、エチケット消臭剤、ペット用消臭剤、環境消臭剤、洗剤、柔軟剤又は化粧品の素材として使用することができる。すなわち、消臭剤は、肉類、魚介類、ニラ、ニンニク等の野菜類などの、食品素材のもつ不快臭を除去するために食品に添加することができる。また、本実施形態の消臭剤は、エチケット消臭剤の素材として使用することができる。エチケット消臭剤とは、口臭、脇の下などの体臭(ボディー用)、足臭、頭髪のにおいなど、ヒトに直接使用する消臭剤である。この消臭用途は不快臭の発生源は問わず、ヒトに直接使用することを意味する。具体的には、脇の下の汗臭用スプレー・ローション・パウダー、口臭除去用マウススプレー・カプセル・洗口剤、頭髪に付いた焼き肉、又はタバコのにおいを除去する頭髪用スプレー・シャンプー・リンス・ヘアーローション等が挙げられる。また、本実施形態の消臭剤はペット用消臭剤の素材としても用いることができる。ペット用消臭剤とは、愛玩動物の口臭、体臭、便臭など、愛玩動物が発生源である不快なにおいに対する消臭剤である。具体的には、ペットの口臭除去用スプレー・カプセル、毛に付いた体臭を除去するペット用スプレー・シャンプー・リンス・ローション、ペット用トイレ、犬小屋、ペット用ケージ等のペット用品が挙げられる。また、本実施形態の消臭剤は環境消臭剤の素材としても用いることができる。環境消臭剤とは、ヒト、愛玩動物以外の物体又は空間に付いた不快臭に対する消臭剤である。具体的には、家庭用ゴミ又は産業廃棄物置き場、家庭用ゴミ又は産業廃棄物収集所、家庭用ゴミ又は産業廃棄物集積場、廃品回収所、家庭用ゴミ又は産業廃棄物処理場等の廃棄物が発生源の悪臭、下水処理場、し尿処理場、火葬場、と畜場、へい獣処理場、病院・診療所・検査センター、トイレ、浴室、台所等の水回り、一般の室内及び室内の建材及び壁紙(ホルマリン等加工に使用した処理剤の悪臭)、カーテン、塗装、家具(塗料、加工等の処理剤の悪臭、押入等のカビ臭)、下駄箱、エアコン、自動車・トラックの車内、自動車・トラックが発生するガス、電車・航空機、工場、飲食店、写真屋・現像所、ガソリンスタンド、プロパンガス詰め替え所、クリーニング店・洗濯工場、旅館・ホテル、美容院・理髪店、自動車修理工場、家畜用畜舎、建設作業現場等における不快臭に対する消臭剤として使用できる。本実施形態の消臭剤を含む、食品、エチケット消臭剤、ペット用消臭剤、環境消臭剤、洗剤、柔軟剤及び化粧品には、各分野で慣用の添加剤、分散剤、賦形剤等を含むことができる。
【0037】
本実施形態の消臭剤の使用形態は特に限定されない。例えば、本実施形態の消臭剤は、噴霧又は塗布して用いることができる。噴霧用として、エアゾールスプレータイプ消臭剤、ミストスプレータイプ消臭剤、スプリンクラー用液体品、塗布用として液状・ゲル状・ペースト状消臭剤、又は、本実施形態の消臭剤を布・紙・不織布にしみ込ませたシート状の消臭剤として使用できる。本実施形態の消臭剤は、エマルジョンのクリーム又は乳液等の形態で使用することができる。エマルジョンのクリーム及び乳液などの形態においては、塗布後に水分が蒸発した場合にも基剤となる油脂部分に有効成分が保持されるため、消臭効果がより効果的に奏されることとなる。さらに、本実施形態の消臭剤は、水分を嫌う素材(例えば金属若しくは皮革製品)を対象とした消臭剤、又はこれらの素材を容器として充填されてなる消臭剤等に好ましく使用できる。
【0038】
他にも、本実施形態の消臭剤は、粉末・顆粒に吸収させた消臭剤、粒状・ペレット状・ブロック状・タブレット状ゲルへ練り込んだ、若しくは、吸着させた消臭剤(例えば、空間用消臭剤)、セラミック・活性炭・ベントナイト等の多孔質担体へ吸着させた消臭剤、液状の消臭剤を容器に入れ、スポンジ・布・セラミックス等の液体を浸透させるものを容器中の消臭剤に一部接触させ、浸透した消臭剤が気化することにより消臭効果を持つ消臭剤、セラミックス等の多孔質性の容器に消臭剤を入れ、容器外部まで浸透した消臭剤が気化することにより消臭効果を持つ消臭剤、液状でそのまま悪臭源に添加する消臭剤、フイルム・フィルターにしみ込ませた消臭剤、又は、消臭剤を表面若しくは内部に含む、壁紙、建材、おむつ、生理用品、靴の中敷き、消臭繊維(布)、若しくは消臭皮革等として使用することができる。
【0039】
本実施形態の消臭剤は、ミストスプレータイプ消臭剤又はエアゾールタイプ消臭剤として用いてよい。ミストスプレータイプ消臭剤は、例えば、家庭内のペット臭、トイレ、台所の生ゴミ、調理器具などに対して用いられる。ミストスプレータイプ消臭剤は、例えば、本実施形態の消臭剤を0.01~50%(体積/体積)の含有量となるように水に添加し、必要に応じ、界面活性剤、エタノール、抗菌剤等を添加し、ミストスプレーボトルに充填して得られる。エアゾールタイプ消臭剤は、例えば、家庭内の強い悪臭である生ゴミ及びトイレの悪臭に対して用いられる。エアゾールタイプ消臭剤は、例えば、本実施形態の消臭剤を0.2~70%(体積/体積)の含有量となるように水又はエタノール水溶液で希釈し、例えばLPG及び二酸化炭素などの噴射剤(噴射ガス)と共にエアゾール容器に充填して得られる。
【0040】
本実施形態の消臭剤は、空間用消臭剤として用いてもよい。空間用消臭剤は、消臭効果を有する成分(有効成分)が徐々に揮発(揮散)するため、消臭効果が長時間持続する。空間用消臭剤は、例えば、本実施形態の消臭剤をゲル又は適当な担体に吸着させる、又は練り込むことにより、得られるものである。より具体的には、空間用消臭剤は、本実施形態の消臭剤を0.5~20重量%の含有量となるようにゲル化剤(例えば、カラギーナン、寒天、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ジェランガム、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、キチン・キトサン、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド)の1種又は2種以上の組み合わせに、添加し、固形化することにより得ることができる。
【0041】
また、本実施形態の消臭剤は細かい霧状にして室内に飛散させることにより、室内の消臭を行うことができる。より具体的には、加湿器の水に本実施形態の消臭剤を0.01~1%(体積/体積)濃度で添加し、加湿器を運転することにより室内空間の悪臭を消臭することができる。
【0042】
本実施形態の消臭剤は、断続的又は連続的に空気中に噴霧、床面に散布することにより、養豚場、養鶏場、酪農畜舎、魚市場等の悪臭の発生しやすい場所の悪臭を除去することができる。このとき、本実施形態の消臭剤は0.01~1%(体積/体積)の濃度に水で希釈して使用することが好ましい。
【0043】
また、本実施形態の消臭剤は養豚、酪農、養鶏場等から発生する糞、尿又は糞尿混合物をバキュームカー等で畑、牧草地に散布して処理する場合の悪臭の低減を行うことができる。散布前に、本実施形態の消臭剤をタンク内の糞・尿に対して0.005~0.5%(体積/体積)の濃度で添加することにより、悪臭を抑えることができる。
【0044】
また、本実施形態の消臭剤を用いて、消臭効果の高いペット排泄物処理剤を製造することができる。ペット用排泄物処理剤は、ベントナイト、ゼオライト、木粉、紙粉などを主材料とし、これに必要に応じてポリアクリル酸ナトリウム、他のナトリウム化合物、マグネシウム化合物等を加え、これに本実施形態の消臭剤を主材料に対して0.01~10重量%添加し、適当量の水を加え、混合・成形・乾燥することにより製造できる。これをネコなどのペット用トイレに入れ、ネコがその処理剤の上に排泄することにより、消臭効果に優れた処理剤を得ることができる。
【0045】
本実施形態の消臭剤は、他の材料と混合し、成形・乾燥する方法において、乾燥中に消臭剤に含まれる消臭効果を有する成分(有効成分)が完全に揮発せず残存するため、消臭効果も残存する。また、2種以上の本実施形態の消臭剤以外の材料を先に混合し、成形・乾燥し、得られた成形品に本実施形態の消臭剤を吸収させることによっても、消臭効果を有する物品を得ることができる。
【0046】
本実施形態の消臭剤は、従来の甘蔗由来の蒸留物を含有する消臭剤と比べ、含有成分(消臭効果を有する成分)の揮発が抑制されている。したがって、本実施形態の消臭剤は、布等の物品に対して、より長時間消臭効果を有する成分を保持させることが可能となる。
【0047】
本発明は、一態様において、消臭剤の製造方法と捉えることができる。つまり、消臭剤の製造方法は、甘蔗由来の蒸留物と油溶性溶剤とを混合して得た混合液を濃縮する工程(濃縮工程)を備える。消臭剤の製造方法において、甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる原料を蒸留処理して蒸留物を得る工程(蒸留工程)を経て製造されたものであってよい。また、甘蔗由来の蒸留物は、蒸留工程に加えて、蒸留工程で得られた蒸留物を固定担体として合成吸着剤が充填されたカラムに通液することにより、合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる溶出溶媒で溶出させて溶出液を得る工程(カラム処理工程)を経て製造されるものであってよい。濃縮工程、並びに、蒸留工程及びカラム処理工程の各種条件は、上述のとおりである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0049】
なお、「%」は特記ない限り、質量%である。
【0050】
甘蔗由来の蒸留物は、以下に記載のとおり、特許第4249862号に記載の方法に準じて製造した。
【0051】
〔製造例1〕
原糖製造工場の製造工程にて得られた甘蔗の圧搾汁(ブリックス(Bx.):12.2)2800リットルを250リットル/時の速度で遠心式薄膜真空蒸発装置(商品名:エバポールCEP-1、大川原製作所株式会社)に供給し、500~630mmHgの減圧下で、温度90~95℃で留出する成分を、冷却水温25℃、冷却水量15m3/時間、コンデンサ面積2m2の条件でコンデンサにて冷却し、連続して集めた。原料圧搾汁が約2400リットル、Bx.13.9になったとき、蒸留を終了した。得られた蒸留液(甘蔗由来の蒸留物)は約400リットルであった。
【0052】
得られた蒸留液の約400リットルを、アンバーライトXAD7HP(商品名、オルガノ株式会社)40mlを充填したカラム(カラムサイズ:内径2.6cm、高さ20cm)に、SV=75の流速で通液した。通液終了後、約5分間、同じ流速で水洗した。吸着された成分を、80%エタノール水溶液(エタノール/水=80/20(体積/体積))で溶出させた。SV=2の流速で通液し、はじめの25mlの溶出液は捨て、溶出液の回収を開始した。80%エタノール水溶液80mlを通液した後は、成分の押し出しのため蒸留水を同じ速度で通液し、回収溶出液の量が100mlになった時点で溶出を終了した。得られた溶出液は、若干レモン色をした透明な液体であった。アルコール濃度計(YSA-200、矢崎計器株式会社)により測定した溶出液のエタノール濃度は、59%(体積/体積)であった。
【0053】
得られた溶出液(甘蔗由来の蒸留物)50gと、油溶性溶剤であるトリエチルシトレイト(クエン酸トリエチル、東京化成工業株式会社製)(以下「TEC」ともいう)150gと、を混合し、混合液を得た。濃縮処理は、水浴を備えるエバポレーターを用いて行った。水浴の温度を80℃に設定し、混合液を圧力71mmHgの条件で、重量が約150gになるまで濃縮した後、グラスフィルター(1μm)で濾過することにより、TECを含み、油溶性である濃縮物を得た。これをサンプルAとした。
【0054】
〔製造例2〕
油溶性溶剤として、ジプロピレングリコール(東京化成工業株式会社製)(以下「DPG」ともいう)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、DPGを含み、油溶性である濃縮物を得た。これをサンプルBとした。
【0055】
〔評価〕
サンプルA及びサンプルBについて、イソ吉草酸及びタバコに対する消臭効果を以下の方法で評価した。
【0056】
<試験例1:イソ吉草酸に対する消臭効果>
(1)1~3のラベルをつけた3本の300ml容の摺り三角フラスコ(臭気判定用の濃褐色透明フラスコ)に無臭水を100mlずつ入れ、3本すべてにサンプルを0.1ml添加した。
(2)3本中、1本にイソ吉草酸(原液の1000倍希釈液)を0.1ml添加し、よく攪拌した(イソ吉草酸濃度 1ppm)。
(3)別に同型フラスコを用意し、無臭水100mlと上記1ppmイソ吉草酸を0.1ml添加し、これを悪臭対照品とした。
(4)試験品1~3及び悪臭対照品は、計4本1組とし、これらについて、サンプルAは9名、サンプルBの評価は8名の訓練されたパネルにより、評価した。
(5)パネルが悪臭対照品の臭いを嗅いでこれを基準とし、次に試験品1~3のフラスコの臭いを嗅ぎ、それぞれについて不快度を以下の評価基準に基づいて求めた。
(6)判定は、イソ吉草酸を入れたフラスコの臭いの不快度が、他の2つのフラスコの不快度より、統計上有意に高値(絶対値として)にならない場合、「合格」とし、統計上有意に高値になる場合、「不合格」とした。なお、悪臭対照品の評価値が-3~-4になることが好ましい。
不快度の評価基準
0: 快でも不快でもない
-1: やや不快
-2: 不快
-3: 非常に不快
-4: 極端に不快
【0057】
【0058】
表1に示すとおり、サンプルA及びサンプルBは、イソ吉草酸に対する消臭効果を有することが示された。
【0059】
<試験例2:タバコ臭に対する消臭効果>
(タバコ臭付着布地の調製)
(1)5L容三角フラスコを逆さにし、火のついたタバコを三角フラスコの口の中に約5cm入れ、タバコの煙を約30~40秒間捕集した。
(2)10cm×10cmの布地(綿タオル)3枚を煙を捕集した三角フラスコに入れて素早く密栓し、フラスコを振盪しながら布地に煙を吸わせた。
(3)5分後、タオルを取り出し、試験用布地とした。
(4)スプレーで蒸留水を試験用布地に5回スプレー(0.15ml×5回=約0.75ml)した後、よく揉み、均一にしたものを対照品とした。
(5)同様に、サンプルA又はBを蒸留水で200倍に希釈した希釈液(0.15ml/30ml)を約0.75g噴霧したものを試験品とした。また、何も噴霧しないものをブランク(コントロール品)とした。
【0060】
(評価方法)
(1)評価は噴霧後1時間~2時間静置した後に実施した。
(2)評価方法は訓練されたパネル8名により各布地のタバコ臭を嗅覚で評価し、以下の評価基準で対照品及び試験品のタバコ臭強度を評価し、アンケート形式で回答させた。
(3)最初にパネルによるコントロール品のタバコ臭評価の平均値が、3.0±0.5(基準値)であることを確認した。タバコ臭が強すぎる場合には、基準値になるまで布地を静置した後、パネルに評価させた。また、タバコ臭が弱すぎる場合には、タバコの煙の量を加減して基準値に適合するよう調整を行った。
(4)コントロール品の評価が基準内であれば、パネルに対照品及び試験品について以下の5段階で評価させた。
タバコ臭の評価基準
0:臭いはしない
1:やっとわかる程度
2:はっきりわかる程度
3:やや強い臭い
4:強い臭い
(5)対照品と試験品の評価結果において、試験品が対照品に比べて有意(片側検定で危険率5%以下)に低値になっているかについて有意差検定(対応のあるt検定)を行った。判定は、臭いレベル(タバコ臭の評価スコアの平均)が対照品と比較して下がり、かつ有意差がある場合、「合格」とした(臭いレベルが下がっていない、又は、有意差がない場合は、「不合格」とした)。結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2に示すとおり、サンプルA及びサンプルBは、タバコ臭に対する消臭効果を有することが示された。
【0063】
以上のとおり、油溶性である、サンプルA及びサンプルBが、消臭効果を有していることが示された。