(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/021 20190101AFI20230411BHJP
C12G 3/026 20190101ALI20230411BHJP
C12C 11/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C12G3/021
C12G3/026
C12C11/00 A
(21)【出願番号】P 2018120628
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】手崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】朝田 圭
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-135833(JP,A)
【文献】特開2017-216964(JP,A)
【文献】特開2018-023298(JP,A)
【文献】特開2014-166168(JP,A)
【文献】特開2015-107104(JP,A)
【文献】特表2012-513205(JP,A)
【文献】特開2003-245064(JP,A)
【文献】特開2018-068228(JP,A)
【文献】特開2015-139419(JP,A)
【文献】ビール醸造技術,日本,株式会社食品産業新聞社,1999年12月28日,p.75-86
【文献】富永一哉,野生ホップを使用したビールの試験醸造,北海道立食品加工研究センター報告,日本,1996年,第2号,p.121-124
【文献】No nasty flavours from brewing with ClO2-dosed liquor,Brewing & Distilling International,英国,1993年04月,vol.24,p.37-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/84
C12C 1/00-13/10
C12G 1/00- 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの含有量が15mg/L以下であり、
カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
仕込み工程と、発酵工程と、を含み、
前記仕込み工程において、仕込み水として脱イオン処理水を用い、
前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、
仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行
い、
前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類の発酵ビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発酵飲料を製造するにあたり、水溶性食物繊維を含有する副原料を、発酵工程の後で添加することを特徴とする発酵飲料の製造方法が記載されている。
そして、特許文献1には、この方法によれば、水溶性食物繊維を豊富に含み、且つ、嗜好性の高い発酵飲料、特にビールテイスト発酵飲料を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、ビールの醸造にはミネラル成分を含んだ水が適していると考えられているため、発酵ビールテイスト飲料の製造工程である仕込み工程で用いる仕込み水としては、ミネラル成分を含んだ醸造用水が使用されている。
【0006】
本発明者らは、発酵ビールテイスト飲料の製造工程の条件について、様々な観点から検討を行った結果、仕込工程で用いられる仕込み水のミネラル成分が、発酵ビールテイスト飲料の香味に大きな影響を及ぼしていることを確認した。
そして、本発明者らは、発酵ビールテイスト飲料に含まれる特定のミネラル成分の含有量を調製することによって、当該飲料に特有の雑味を低減できるとともに、後味のスッキリさを増強できることがわかった。言い換えると、従来のような醸造用水を用いて製造した発酵ビールテイスト飲料には、低減可能な雑味が存在しているとともに、後味のスッキリさについても増強可能な余地があることがわかった。
また、発酵ビールテイスト飲料に対して味のボリューム(飲んだ際に感じるトップのボリューム)を望む消費者が多いため、本発明者らは、味のボリュームを大きく低減させることなく維持することも香味の設計上、重要であると考えた。
【0007】
そこで、本発明は、味のボリュームを維持しつつ(大きく低減させることなく)、雑味が低減するとともに後味のスッキリさが増強した発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)カルシウムの含有量が15mg/L以下であり、カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。
(2)発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、仕込み工程と、発酵工程と、を含み、前記仕込み工程において、仕込み水として脱イオン処理水を用い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
(3)発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料によると、味のボリュームが維持されつつ、雑味が低減しているとともに後味のスッキリさが増強している。
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法によると、味のボリュームが維持されつつ、雑味が低減しているとともに後味のスッキリさが増強している発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法によると、発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[発酵ビールテイスト飲料]
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、カルシウムの含有量が所定値以下である飲料である。
ここで、発酵ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビールのような味わいを奏する、つまり、ビールを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料であり、発酵工程を経て製造される飲料である。
【0012】
(カルシウム)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、カルシウムの含有量が所定値以下である。
ここで、「カルシウム」とは、ミネラル成分の1種であり、本発明者らは、多くのミネラル成分の中から、発酵ビールテイスト飲料の香味に大きな影響を及ぼす成分として特定した。
発酵ビールテイスト飲料中のカルシウムの含有量を所定値以下とすることによって、味のボリューム(飲んだ際に感じるトップのボリューム)を維持しながらも、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。
【0013】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、15mg/L以下が好ましく、14mg/L以下、13mg/L以下、12.8mg/L以下がより好ましい。カルシウムの含有量が所定値以下であることによって、発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量の下限値は、特に限定されず、0mg/Lでも本発明の効果を奏することができると考えるが、例えば、1mg/L以上、5mg/L以上、8mg/L以上であればよい。
【0014】
発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量を所定値以下にする方法として、後記するように、仕込み水として、カルシウムの含有量の低い脱イオン処理水を使用するという方法が挙げられる。
なお、後記の実施例に示す結果のとおり、仕込み水として一般的な醸造用水(カルシウムの含有量が意図的に低減されていない水)を使用した場合、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、通常25mg/L以上となってしまう。
【0015】
なお、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(イオンクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0016】
(ポリフェノール)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、ポリフェノールを含有してもよい。
ここで、「ポリフェノール」とは、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物をいう。ポリフェノールとしては、例えば、フラボノール、イソフラボン、タンニン、カテキン、ケルセチン、アントシアニンなどが挙げられる。
そして、総ポリフェノールの含有量とは、発酵ビールテイスト飲料に含まれるこれらのポリフェノールの総量をいう。
【0017】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の総ポリフェノールの含有量は、60mg/L以上が好ましく、70mg/L以上、80mg/L以上、90mg/L以上、100mg/L以上がより好ましい。総ポリフェノールの含有量が所定値以上であることによって、発酵ビールテイスト飲料の硫化物臭を低減することができる。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の総ポリフェノールの含有量の上限値は、特に限定されないものの、例えば、200mg/L以下、150mg/L以下、140mg/L以下であればよい。
【0018】
発酵ビールテイスト飲料の総ポリフェノールの含有量は、後記する麦芽比率によって制御可能であり、麦芽比率を高くすれば多くすることができ、麦芽比率を低くすれば少なくすることができる。
【0019】
なお、発酵ビールテイスト飲料の総ポリフェノールの含有量は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.19総ポリフェノールに記載されている方法によって測定することができる。
【0020】
(カルシウムの含有量/総ポリフェノールの含有量)
総ポリフェノールの含有量に対するカルシウムの含有量は、本発明の効果をより確実なものとする観点から、所定の範囲内となるのが好ましい。
詳細には、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yは、0.05以上が好ましく、0.08以上、0.10以上、0.11以上がより好ましい。X/Yが所定値以上であることによって、発酵ビールテイスト飲料の硫化物臭を低減しつつ、本発明の効果(味のボリュームを維持し、雑味を低減、後味のスッキリさを増強)の発揮をより確実なものとすることができる。
また、X/Yは、0.17以下が好ましく、0.15以下、0.14以下、0.13以下がより好ましい。X/Yが所定値以下であることによって、発酵ビールテイスト飲料の硫化物臭を低減しつつ、本発明の効果の発揮をさらに確実なものとすることができる。
【0021】
(麦芽比率:原料)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の麦芽比率は、所定範囲内となっているのが好ましい。
ここで、「麦芽比率」とは、詳細には、発酵ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率である。なお、麦芽とは、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものである。また、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
【0022】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の麦芽比率は、20%(重量%)以上が好ましく、35%以上、40%以上、50%以上がより好ましい。麦芽比率が所定値以上であることによって、発酵ビールテイスト飲料の硫化物臭を低減することができる。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の麦芽比率の上限は特に限定されず、後記の実施例の結果のとおり、100%でも本発明の効果を発揮することができる。
【0023】
(その他:原料)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の原料には、前記した麦芽以外に副原料として麦や糖類を含んでいてもよい。ただし、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量が所定値以上とならないように副原料を選択する必要があり、カルシウムを含有する麦よりも糖類を用いるのが好ましい。
【0024】
ここで、麦とは、発芽させていない状態の麦であり、前記と同様、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料において、原料中における麦の含有比率は特に限定されないものの、麦の含有比率を多くした場合、カルシウムの含有量が多くなることが想定されるため、10%(重量%)以下、5%以下、3%以下、0%が好ましい。
【0025】
ここで、糖類(糖質原料)とは、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される糖類であれば特に制限されない。また、糖類は、単糖類、二糖類及び三糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよく、更に四糖以上の糖類を含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、麦芽糖、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってもよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
なお、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料において、原料中における糖類の含有比率は特に限定されないものの、例えば、1%(重量%)以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上であり、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であればよい。
【0026】
(アルコール)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、5v/v%以上であってもよく、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下であってもよい。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、発酵ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0027】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のアルコールは、前記した麦芽等を原料に使用して発酵させて得られたアルコール(つまり、発酵由来のアルコール)のみから構成されているのが好ましいが、蒸留アルコールを添加して構成されていてもよい。
【0028】
なお、蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー、麦スピリッツ(例えば、大麦スピリッツ、小麦スピリッツ)等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
【0029】
(苦味価)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、苦味価(Bitterness Unit:BU)が所定範囲であればよい。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の苦味価は、特に限定されないものの、例えば、1以上、10以上、15以上、20以上であり、50以下、40以下、30以下、25以下である。
なお、発酵ビールテイスト飲料の苦味価は、例えば改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定することができる。
【0030】
(発泡性)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、2.0kg/cm2以上、2.2kg/cm2以上、2.3kg/cm2以上、2.4kg/cm2以上であり、5.0kg/cm2以下、4.0kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下である。
【0031】
(その他)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0032】
(容器詰め発酵ビールテイスト飲料)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に発酵ビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、カルシウムの含有量が所定値以下であることから、味のボリュームが維持されつつ、雑味が低減しているとともに後味のスッキリさが増強している。
【0034】
[発酵ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、仕込み水として脱イオン処理水を用いる方法であり、詳細には、仕込み工程(発酵前工程)と、発酵工程と、発酵後工程と、を含む。
【0035】
(仕込み工程)
仕込み工程(発酵前工程)では、仕込み水に、前記した麦芽、必要に応じて、麦、糖類、酵素、各種添加剤を混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、必要に応じて、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0036】
(仕込み工程:仕込み水)
仕込み工程で使用する仕込み水は、脱イオン処理水である。なお、脱イオン処理水とは、溶存するイオンを除去する処理が施された水であり、例えば、イオン交換樹脂等を用いて水中のイオンを水素イオン又は水素イオンに交換する処理が施された水である。そして、脱イオン処理水は、少なくともカルシウムイオンを除去する処理が施された水である。
なお、脱イオン処理水のカルシウムの含有量は、1mg/L以下が好ましく、0.5mg/L以下、0.3mg/L以下、0.1mg/L以下がより好ましい。脱イオン処理水のカルシウムの含有量の下限は特に限定されず0mg/Lでもよいが、例えば、0.01mg/L以上、0.03mg/L以上、0.05mg/L以上である。
【0037】
仕込み工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0038】
仕込み工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0039】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0040】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0041】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0042】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的に発酵ビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、発酵ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0043】
発酵後工程によって得られた発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量、総ポリフェノールの含有量、X/Y等が前記した所定範囲内又は所定値以下となるように製造されていればよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行うことから、味のボリュームが維持されつつ、雑味が低減しているとともに後味のスッキリさが増強している発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。
【0045】
[発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法は、味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行う方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「発酵ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法は、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行うことから、味のボリュームを維持しつつ、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0048】
[サンプルの準備]
麦芽比率が表の値となるように麦芽、糖類、並びに、仕込み水(醸造用水、又は、脱イオン処理水)を仕込槽に投入し、常法にしたがって糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させて発酵ビールテイスト飲料(サンプル)を得た。
各サンプルの製造条件は、麦芽比率と仕込み水の種類以外は略同じ条件であった。
【0049】
なお、仕込み水として使用した醸造用水のカルシウムの含有量は、70~75mg/Lであり、脱イオン処理水のカルシウムの含有量は、0.05~0.08mg/Lであった。
【0050】
[測定方法]
前記の方法により製造した各サンプルについて、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、総ポリフェノールの含有量を以下の方法によって測定した。なお、仕込み水のカルシウムの含有量も同じ方法で測定した。
Mg、Caの含有量については、イオンクロマトグラフィー(Termo Fisher Scientific社製、Dionextm ICS-1100)を用いて測定を行った。一方、総ポリフェノールの含有量は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.19総ポリフェノールに記載されている方法で測定した。
【0051】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル6名が下記評価基準に則って「雑味」、「トップのボリューム」、「後味のスッキリさ」、「硫化物臭」について、1~5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。また、全ての評価は、サンプル2-1(3点)を基準として評価した。
【0052】
(雑味:評価基準)
雑味の評価については、「雑味が非常に強い」場合を5点、「雑味が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、雑味の評価については、点数が低いほど、雑味が低減できており、好ましいと判断できる。
なお、「雑味」とは、詳細には、纏まりのある穀物様の香味を邪魔する渋味や収斂味である。
【0053】
(トップのボリューム:評価基準)
トップのボリューム(味のボリューム)の評価については、「トップのボリュームが非常に大きい」場合を5点、「トップのボリュームが非常に小さい」場合を1点として5段階で評価した。そして、トップのボリュームの評価については、同じ麦芽比率(麦芽使用比率)のサンプル同士を比較して、醸造用水を用いた場合よりも脱イオン処理水を用いた場合の方が0.1点以上低下していなければトップのボリュームが維持されており、好ましいと判断できる。
なお、「トップのボリューム」とは、詳細には、サンプルを飲んだ際に感じる味の厚みである。
【0054】
(後味のスッキリさ:評価基準)
後味のスッキリさの評価については、「後味が非常にスッキリしている」場合を5点、「後味が全くスッキリしていない」場合を1点として5段階で評価した。そして、後味のスッキリさの評価については、点数が高いほど、後味のスッキリさが増強できており、好ましいと判断できる。
【0055】
(硫化物臭:評価基準)
硫化物臭の評価については、「硫化物臭が非常に強い」場合を5点、「硫化物臭が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、硫化物臭の評価については、点数が低いほど、硫化物臭が低減できており、好ましいと判断できる。
なお、「硫化物臭」とは、詳細には、硫黄を含む物質臭、例えば、野菜等を過度に加熱した際に発生するような臭気である。
【0056】
表1に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、表1における「Mg」、「Ca」、「総ポリフェノール」は、最終製品(サンプル)の含有量である。
なお、表1に示す各サンプルのBUは15~25であり、アルコール度数は5.5~7.0v/v%であった。
【0057】
【0058】
(結果の検討)
各サンプルについて、同じ麦芽比率(麦芽使用比率)のサンプル同士を比較すると明らかなように、醸造用水を用いた場合と脱イオン処理水を用いた場合とでは、トップのボリューム(味のボリューム)に大きな差は生じなかった。それどころか、一部のサンプルについては、脱イオン処理水を用いた場合の方が、トップのボリュームが上昇するという結果が得られた。よって、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量が所定値以下であっても味のボリュームを維持できることが確認できた。
また、各サンプルについて、同じ麦芽比率(麦芽使用比率)のサンプル同士を比較すると明らかなように、醸造用水を用いた場合よりも脱イオン処理水を用いた場合の方が、雑味の点数が減少していた。よって、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量を所定値以下とすることにより、雑味を低減できることが確認できた。
また、各サンプルについて、同じ麦芽比率(麦芽使用比率)のサンプル同士を比較すると明らかなように、醸造用水を用いた場合よりも脱イオン処理水を用いた場合の方が、後味のスッキリさの点数が上昇していた。よって、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量を所定値以下とすることにより、後味のスッキリさを増強できることが確認できた。