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特許7260289弛張型発振器、および弛張型発振器を備えた電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】弛張型発振器、および弛張型発振器を備えた電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03K 3/011 20060101AFI20230411BHJP
   H03K 4/502 20060101ALN20230411BHJP
   H03K 3/0231 20060101ALN20230411BHJP
【FI】
H03K3/011
H03K4/502
H03K3/0231
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018223991
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020088745
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 利幸
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-524294(JP,A)
【文献】特開2008-028804(JP,A)
【文献】特開2001-292030(JP,A)
【文献】特開2007-243314(JP,A)
【文献】特開2012-170050(JP,A)
【文献】特開2000-323926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 3/00- 3/86
H03K 4/00- 4/94
H03B 5/00- 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路と、可変分周器と、カウンタとを備えた弛張型発振器であって、
前記発振回路は、発振周期の1次温度係数が正の第1クロック信号を出力する第1クロック発生回路と、発振周期の1次温度係数が負の第2クロック信号を出力する第2クロック発生回路と、前記カウンタから入力端子に入力される切替え信号に応じて前記第1クロック信号と前記第2クロック信号を切替えて出力端子から第3クロック信号として出力する制御回路と、を備え、
前記可変分周器は、入力端子に入力される前記第3クロック信号を設定端子1に入力される分周数に応じて分周して出力端子から前記弛張型発振器のクロック信号として出力し、
前記カウンタは、入力端子に入力される前記第3クロック信号を設定端子2に入力されるカウントデータに応じて計数して出力端子から前記第2クロック信号に切替える切替え信号を出力し、前記可変分周器からリセット端子に入力される前記クロック信号に応じて前記第1クロック信号に切替える切替え信号を出力し、
前記第2クロック信号の発振周期と前記第2クロック信号の発振周期の温度変化の2次温度係数の積と、前記第1クロック信号の発振周期と前記第1クロック信号の発振周期の温度変化の2次温度係数の積の比は、前記第1クロック信号の発振周期と前記第2クロック信号の発振周期の比と、絶対値が等しく符号が反対であることを特徴とする弛張型発振器。
【請求項2】
温度センサと、第1の回路と、第2の回路を更に備え、
前記温度センサは、温度データを前記第1の回路へ出力し、
前記第1の回路は、前記カウントデータを補正する補正値を前記第2の回路へ出力し、
前記第2の回路は、前記分周数を前記可変分周器へ出力し、前記補正値で補正した前記カウントデータを前記カウンタへ出力することを特徴とする請求項1に記載の弛張型発振器。
【請求項3】
前記第1の回路は、第2のメモリと、演算回路を備え、
前記第2の回路は、第1のメモリと、加算器を備え、
前記第1のメモリは、前記可変分周器に設定する前記分周数と前記カウンタに設定するカウントデータを保持し、
前記第2のメモリは、前記演算回路で前記補正値を演算する際に使用する値を保持し、
前記第1の回路は、前記演算回路が前記温度センサからの信号と前記第2のメモリの値を元に前記補正値を演算して前記第2の回路に出力し、
前記第2の回路は、前記加算器が前記補正値と前記第1のメモリの値を加算した値を前記カウンタに出力することを特徴とする請求項2に記載の弛張型発振器。
【請求項4】
前記温度センサは、第2の発振回路と第2のカウンタを備え、
前記第2の発振回路が出力する第4クロック信号と、前記クロック信号とを前記第2の
カウンタに入力することを特徴とする請求項2もしくは請求項3のいずれかに記載の弛張型発振器。
【請求項5】
前記演算回路が減算器で構成されることを特徴とする請求項3に記載の弛張型発振器。
【請求項6】
前記発振回路は、第1の抵抗と第2の抵抗を有し、
前記第1クロック信号は、抵抗値の1次温度係数が正の第1の抵抗を用いて生成され、
前記第2クロック信号は、抵抗値の1次温度係数が負の第2の抵抗を用いて生成されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弛張型発振器。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれかに記載の弛張型発振器の出力を基準クロック信号源として用いることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弛張型発振器、および弛張型発振器を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12は、従来の弛張型発振器100の基本構成を示す。従来の弛張型発振器100は、弛張型発振回路101と可変分周器102を組み合わせた構成である。本構成は、比較的長い発振周期の基準クロック信号を生成するために一般的に広く用いられる構成である。長い発振周期P101は、弛張型発振回路101が発生する短い発振周期P100を、可変分周器102がNVAL端子で設定する分周数N100でN100分周し生成される。図13は、弛張型発振回路101の回路構成を示す。弛張型発振回路101は、基準電圧源103と、電流源回路104と、容量充放電回路105と、充電電圧検出回路106と、から構成される。
【0003】
基準電圧源103は、電流源回路104に基準電圧VREFを供給する。電流源回路104は、可変抵抗107と、オペアンプ108と、PMOSトランジスタ109および110と、から構成される。PMOSトランジスタ109と110のチャネル幅の比は、1:n101となっている。電流源回路104は、基準電圧源103から基準電圧VREFが供給され、外部から電源電圧VDDが供給されている。
【0004】
電流源回路104は、オペアンプ108とPMOSトランジスタ109の負帰還ループによって、可変抵抗107に印加される電圧が常に基準電圧VREFと等しくなっている。これにより、可変抵抗107の抵抗値をR101とすれば、可変抵抗107に流れる電流I101は、基準電圧VREF/抵抗値R101となる。電流I101がPMOSトランジスタ109とPMOSトランジスタ110のチャネル幅の比n101によりn101倍され、電流源回路104は電流I11を生成する。
【0005】
容量充放電回路105は、スイッチ112から115と、可変容量116と、可変容量117から構成される。充電電圧検出回路106は、コンパレータ118と、コンパレータ119と、NANDゲート122とNANDゲート123で構成されたRSラッチ回路と、基準電圧源120と、基準電圧源121とから構成される。なお、基準電圧源103と充電電圧検出回路106の中に含まれる基準電圧源120と基準電圧源121は、同一の電圧源(基準電圧VREF)である。これら3つの基準電圧源は、同一の基準電圧源を個別に表現したものである。
【0006】
スイッチ112から115は、発振出力124の信号CLKと発振出力125の信号CLKBにより制御されている。スイッチ112と113は、一方がON状態であれば他方がOFFの状態となる。スイッチ112と114は、一方がON状態であれば他方がOFFの状態となる。スイッチ113と115は、一方がON状態であれば他方がOFFの状態となる。可変容量116は、スイッチ112と114を切替えることで充放電を行う。可変容量117は、スイッチ113と115を切替えることで充放電を行う。
【0007】
コンパレータ118は、可変容量116の充電電圧が基準電圧VREFを超えた場合にLOWレベルが出力される。コンパレータ119は、可変容量117の充電電圧が基準電圧VREFを超えた場合にLOWレベルが出力される。RSラッチ回路は、NANDゲート122とNANDゲート123で構成される。RSラッチ回路の発振出力124と発振出力125は、一方がHIGHレベルであれば他方がLOWレベルである。発振出力124と発振出力125は、コンパレータ118の出力またはコンパレータ119の出力の何れかがLOWレベルになった瞬間に状態が入れ替わる。
【0008】
従来の弛張型発振回路101の発振周期P100は、可変抵抗107の抵抗値をR101、可変容量116の容量値をC101、可変容量117の容量値をC102とおけば、式(1)で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
式(1)において、n101は、電流源回路104のカレントミラー回路のチャネル幅の比(PMOSトランジスタ110のゲート幅)÷(PMOSトランジスタ109のゲート幅)である。
【0011】
図12図13に示した従来の弛張型発振器100は、半導体チップ上に形成した場合に、弛張型発振回路101の可変抵抗107の温度係数の影響による発振周期P100の変動が大きいため、弛張型発振回路101の出力を分周した発振周期P101が温度により大きく変動する欠点がある。
【0012】
一般的な半導体プロセスでは、拡散抵抗およびポリシリコン抵抗(POLY抵抗)の1次温度係数の絶対値は、おおよそ数100PPM/℃から数1000PPM/℃と大きい。仮に可変抵抗107に1次温度係数が1000PPM/℃の抵抗を使用し温度が50℃変化した場合に、発振周期は、5%も変動する。このため、半導体チップ上に形成された従来の弛張型発振器100は、温度に対して安定した発振周期または時間を生成することが出来ない。
【0013】
この温度による発振周期の変動を軽減するために、正の温度係数の抵抗と負の温度係数の抵抗を直列または並列に接続し、電流源回路104の可変抵抗107として使用する手法(例えば特許文献1)が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2010-63086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、これまでの発振器より、温度に対して高安定な発振周期または時間を生成する弛張型発振器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の弛張型発振器は、発振回路と、可変分周器と、カウンタとを備え、発振回路は、発振周期の1次温度係数が正の第1クロック信号を出力する第1クロック発生回路と、発振周期の1次温度係数が負の第2クロック信号を出力する第2クロック発生回路と、カウンタから入力端子に入力される切替え信号に応じて第1クロック信号と第2クロック信号を切替えて出力端子から第3クロック信号として出力する制御回路と、を備え、可変分周器は、入力端子に入力される第3クロック信号を設定端子1に入力される分周数に応じて分周して出力端子から弛張型発振器のクロック信号として出力し、カウンタは、入力端子に入力される第3クロック信号を設定端子2に入力されるカウントデータに応じて計数して出力端子から第2クロック信号に切替える切替え信号を出力し、可変分周器からリセット端子に入力されるクロック信号に応じて第1クロック信号に切替える切替え信号を出力し、第2クロック信号の発振周期と第2クロック信号の発振周期の温度変化の2次温度係数の積と、第1クロック信号の発振周期と第1クロック信号の発振周期の温度変化の2次温度係数の積の比は、第1クロック信号の発振周期と第2クロック信号の発振周期の比と、絶対値が等しく符号が反対であることを特徴とする。

【発明の効果】
【0017】
本発明の発振器によれば、発振器を複数の発振周期で発振する弛張型発振器で構成し、出力の発振の1周期を温度係数の異なる発振周期を切替えて構成し出力することによって、温度変化に由来する発振周期の偏差が極めて小さい弛張型発振器を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態の弛張型発振器の構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態の弛張型発振回路の構成を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態の弛張型発振回路のゲーティング回路の入出力信号の状態を示す表である。
図4】本発明の第1の実施形態の弛張型発振回路の動作波形を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態の発振器の動作波形を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態の発振周期のクロック数と可変分周器の分周数を示す図である。
図7】本発明の第1の実施形態の弛張型発振器の発振周期の温度特性を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態の弛張型発振器の構成を示す図である。
図9】本発明の第3の実施形態の弛張型発振器の構成を示す図である。
図10】本発明の第4の実施形態の弛張型発振器の構成を示す図である。
図11】本発明の第1から第4の弛張型発振器の応用例を示す図である。
図12】従来の弛張型発振器の構成を示す図である。
図13】従来の弛張型発振回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の弛張型発振器について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態の弛張型発振器70の構成を示す。本実施形態の弛張型発振器70は、弛張型発振回路1と可変分周器2とカウンタ3から構成される。
【0021】
弛張型発振回路1は、IN端子91に入力される信号MODEがHIGHレベルの時にはOUT端子92に発振周期の1次温度係数が負である発振周期P1のクロック信号を出力し、信号MODEがLOWレベルの時にはOUT端子92に発振周期の1次温度係数が正である発振周期P2のクロック信号を出力する。また、発振周期P1から発振周期P2への切替わり、あるいは発振周期P2から発振周期P1への切替わりは、弛張型発振回路1自身のクロック信号の立ち上がりもしくは立ち下がりに同期して発振周期が切替わり、かつ、クロック信号が停止することなく連続して発振周期が切替わる。
【0022】
可変分周器2は、弛張型発振回路1のOUT端子92からDIN端子93に入力された発振周期P1または発振周期P2のクロック信号をN分周してDOUT端子94に発振周期Pのクロック信号TIMEとして出力する。また、DOUT端子94は、カウンタ3のRST端子98に接続する。可変分周器2の分周数NはNVAL端子95に入力する信号で設定する。
【0023】
カウンタ3は、RST端子98に入力される信号の立ち上がりに同期してMSIG端子96にHIGHレベルの信号MODEを出力し、カウンタの計数値を消去し、CIN端子97に入力されたクロック信号の立ち上がりに同期して計数を行う。カウンタ3は、カウンタの計数値がN1VAL端子99で設定するカウントデータに達すると、LOWレベルの信号MODEを出力する。カウンタ3のN1VAL端子99に設定するカウントデータが、弛張型発振回路1が出力するクロック信号の発振周期P1でのクロック数となる。
【0024】
図2は、本発明の第1の実施形態の弛張型発振器70の弛張型発振回路1の具体的な構成を示す。弛張型発振回路1は、基準電圧源10と電流源回路11と電流源回路12と容量充放電回路13と、充電電圧検出回路14と、ゲーティング回路15から構成される。基準電圧源10は、電流源回路11と電流源回路12に基準電圧VREFを供給する。
【0025】
電流源回路11は、可変抵抗16とオペアンプ17とPMOSトランジスタ18および19とを有し、基準電圧源10から基準電圧VREFが供給され、外部から電源電圧VDDが供給されている。電流源回路11は、オペアンプ17とPMOSトランジスタ18の働きにより、可変抵抗16に印加される電圧が常に基準電圧VREFと等しくなるよう負帰還ループが構成されている。これにより、可変抵抗16の抵抗値をR1とすれば、可変抵抗16に流れる電流I01は、基準電圧VREF/抵抗値R1となる。可変抵抗16に流れる電流I01は、PMOSトランジスタ18とPMOSトランジスタ19のチャネル幅の比n1によりn1倍され、電流源回路11から出力される電流I1が生成される。可変抵抗16の抵抗値R1は、温度によって変動し、後述の1次温度係数Α1と2次温度係数Α2とを使って示すことができる。可変抵抗16の抵抗値R1の1次温度係数Α1は、負の値とする。
【0026】
電流源回路12は、可変抵抗20とオペアンプ21とPMOSトランジスタ22および23とを有し、基準電圧源10から基準電圧VREFが供給され、外部から電源電圧VDDが供給されている。電流源回路12の構成は電流源回路11と同一である。唯一の相違点は、電流源回路12の可変抵抗20と電流源回路11の可変抵抗16の1次温度係数が、互いに反対の符号である点である。電流源回路12の可変抵抗20に流れる電流I02と電流源回路12から出力される電流I2の生成の原理は、電流源回路11と同一であるので説明を省略する。可変抵抗20の抵抗値R2は、温度によって変動し、後述の1次温度係数Β1と2次温度係数Β2とを使って示すことができる。可変抵抗20の抵抗値R2の1次温度係数Β1は、正の値とする。
【0027】
容量充放電回路13は、スイッチ24からスイッチ29と、可変容量30と、可変容量31とから構成される。スイッチ24は後述のゲーティング回路15からの信号CLKB1で制御され、スイッチ25は後述のゲーティング回路15からの信号CLK1で制御され、電流源回路11から出力される電流I1を可変容量30か可変容量31かのどちらか一方に供給する役目を担う。スイッチ26は後述のゲーティング回路15からの信号CLK2で制御され、スイッチ27は後述のゲーティング回路15からの信号CLKB2で制御され、電流源回路12から出力される電流I2を可変容量30か可変容量31のどちらか一方に供給する役目を担う。スイッチ28は、後述の充電電圧検出回路14の発振出力端子40の信号CLKで制御され、可変容量30に充電された電荷を放電する。スイッチ29は、後述の充電電圧検出回路14の発振出力端子41の信号CLKBで制御され、可変容量31に充電された電荷を放電する。
【0028】
充電電圧検出回路14は、コンパレータ32と、コンパレータ33と、NANDゲート38とNANDゲート39とで構成されたRSラッチ回路と、基準電圧源34と、基準電圧源35とから構成される。コンパレータ32の出力端子36は、可変容量30の充電電圧が基準電圧源34の基準電圧VREFを超えた場合に出力がLOWレベルとなる。コンパレータ33の出力端子37は、可変容量31の充電電圧が基準電圧源35の基準電圧VREFを超えた場合に出力がLOWレベルとなる。RSラッチ回路は、NANDゲート38とNANDゲート39とで構成される。RSラッチ回路の発振出力端子40と発振出力端子41とは、一方がHIGHレベルであれば他方がLOWレベルである。発振出力端子40と発振出力端子41とは、コンパレータ32の出力端子36またはコンパレータ33の出力端子37の何れかがLOWレベルになった瞬間に状態が入れ替わる。なお、充電電圧検出回路14の中に含まれる基準電圧源34と基準電圧源35とは、基準電圧源10と共通の電源である。これら3つの基準電圧源は、同一の基準電圧源を図面の上で個別に表現したものである。
【0029】
ゲーティング回路15は、IN端子91に入力される信号MODEに応じて弛張型発振回路1の発振モードを切替える。ゲーティング回路15は、RSラッチ回路の発振出力端子40の信号CLKをスイッチ25を制御する信号CLK1かスイッチ26を制御する信号CLK2かのどちらか一方として出力し、RSラッチ回路の発振出力端子41の信号CLKBをスイッチ24を制御する信号CLKB1かスイッチ27を制御する信号CLKB2かのどちらか一方として出力し、容量充放電回路13のスイッチ24からスイッチ27のONとOFFを制御する。
【0030】
図3は、ゲーティング回路15の入出力信号の状態を示す。発振モードの切替えは、IN端子91の論理レベルによって、発振出力端子40の信号CLKおよび発振出力端子41の信号CLKBの立ち上がりに同期して行われる。
【0031】
弛張型発振回路1は、信号MODEがHIGHレベルのときI1発振モードとなる。I1発振モードは、信号CLKが信号CLK1として出力され、信号CLKBが信号CLKB1として出力され、信号CLK2と信号CLKB2がLOWレベルに固定される。つまり、電流源回路11から出力される電流I1は、スイッチ24とスイッチ25を交互にONする制御が行われて可変容量30または可変容量31に交互に供給される。電流源回路12から出力される電流I2は、スイッチ26とスイッチ27を制御する信号CLK2と信号CLKB2がLOWレベル固定であるために可変容量30および可変容量31に供給されない。容量充放電回路13は、電流源回路11からの電流I1だけで動作する。
【0032】
弛張型発振回路1は、信号MODEがLOWレベルのときI2発振モードとなる。I2発振モードは、信号CLKが信号CLK2として出力され、信号CLKBが信号CLKB2として出力され、信号CLK1と信号CLKB1がLOWレベルに固定される。つまり、電流源回路12から出力される電流I2は、スイッチ26とスイッチ27を交互にONする制御が行われて可変容量30または可変容量31に交互に供給される。電流源回路11から出力される電流I1は、スイッチ24とスイッチ25を制御する信号CLK1とCLKB1がLOWレベル固定であるために可変容量30および可変容量31に供給されない。容量充放電回路13は、電流源回路12からの電流I2だけで動作する。
【0033】
以下、図4に示す動作波形を参照しながら、図2の弛張型発振回路1の動作について解説する。図4は、ゲーティング回路15に入力されるIN端子91がHIGHレベルであって、I1発振モードの場合の各部の動作波形である。図4の横軸は、時間を示す。図4の縦軸は、可変容量30の充電電位VC1、可変容量31の充電電位VC2が電圧、コンパレータ32の出力端子36の信号CO1、コンパレータ33の出力端子37の信号CO2、信号CLK、信号CLKBが論理レベルを示す。弛張型発振回路1は、以下の順序で発振動作が行われる。
【0034】
発振出力端子40の信号CLKがLOWレベル、発振出力端子41の信号CLKBがHIGHレベルの時に、信号CLK1がLOWレベルであるためスイッチ25がOFF状態となり、信号CLKB1がHIGHレベルであるためスイッチ24がON状態となり、信号CLK2と信号CLKB2とがLOWレベル固定であるためスイッチ26とスイッチ27とがOFF状態となり、信号CLKがLOWレベルであるためスイッチ28がOFF状態となり、信号CLKBがHIGHレベルであるためスイッチ29がON状態となる。可変容量30は、電流源回路11から出力される電流I1で充電される。可変容量31の電荷は、スイッチ29によってゼロに放電される。
【0035】
可変容量30の充電が進み、可変容量30の充電電位VC1が基準電圧VREFに到達すると、コンパレータ32の出力端子36の電位CO1が一瞬LOWレベルとなり、NANDゲート38と39で構成されたRSラッチ回路の発振出力端子40の信号CLKと発振出力端子41の信号CLKBの論理が反転し、スイッチ24がOFF状態に変わり、スイッチ25がON状態に変わり、スイッチ28がON状態に変わり、スイッチ29がOFF状態に変わり、発振出力端子40の信号CLKがHIGHレベル、発振出力端子41の信号CLKBがLOWレベルに反転し、可変容量30に充電された電荷はスイッチ28によって放電され、充電電位VC1は、ゼロに低下する。可変容量31は電流源回路11から出力される電流I1で充電される。
【0036】
可変容量31の充電が進み、可変容量31の充電電位VC2が基準電圧VREFに到達すると、コンパレータ33の出力端子37の電位CO2が一瞬LOWレベルとなり、NANDゲート38と39で構成されたRSラッチ回路の発振出力端子40の信号CLKと発振出力端子41の信号CLKBの論理が反転し、スイッチ24がON状態に変わり、スイッチ25がOFF状態に変わり、スイッチ28がOFF状態に変わり、スイッチ29がON状態に変わり、発振出力端子40の信号CLKがLOWレベル、発振出力端子41の信号CLKBがHIGHレベルに反転し、可変容量31に充電された電荷はスイッチ29によって放電され、充電電位VC2は、ゼロに低下する。可変容量30は電流源回路11から出力される電流I1で充電される。
【0037】
以上の一連の動作が繰り返されることにより、弛張型発振回路1は、可変容量30が電流I1で充電される期間(P1P)と、可変容量31が電流I1で充電される期間(P1N)が交互に入れ替わり、発振周期P1=P1P+P1Nで発振状態が持続する。
【0038】
なお、ゲーティング回路15に入力されるIN端子91がLOWレベルの場合、弛張型発振回路1のI2発振モードによる発振動作は、前記のIN端子91がHIGHレベルの場合の電流I1が電流I2に代わり、信号CLK1が信号CLK2に代わり、信号CLKB1が信号CLKB2に代わるだけであるので、詳細な解説を省略する。弛張型発振回路1は、可変容量30が電流I2で充電される期間(P2P)と、可変容量31が電流I2で充電される期間(P2N)が交互に入れ替わり、発振周期P2=P2P+P2Nで発振状態が持続する。
【0039】
以下、本発明の第1の実施形態の弛張型発振器における温度変化に由来する発振周期の偏差の補償原理を、数式を元に解説する。ここでは、容量の温度係数が抵抗の温度係数より十分に小さく無視できる場合を想定する。
【0040】
式(2)は、1次と2次の温度係数を考慮した可変抵抗16の抵抗値R1を示す式である。式(3)は、1次と2次の温度係数を考慮した可変抵抗20の抵抗値R2を示す式である。
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
式(2)、式(3)において、
ΔT:基準温度T0からの温度変化量
01:基準温度における可変抵抗16の抵抗値
02:基準温度における可変抵抗20の抵抗値
Α1:可変抵抗16の1次温度係数
Α2:可変抵抗16の2次温度係数
Β1:可変抵抗20の1次温度係数
Β2:可変抵抗20の2次温度係数
である。
【0044】
弛張型発振回路1の発振周期は、I1発振モード(信号MODEがHIGHレベル)の場合の発振周期P1が式(4)のように表せ、I2発振モード(信号MODEがLOWレベル)の場合の発振周期P2が式(5)のように表せる。
【0045】
【数4】
【0046】
【数5】
【0047】
式(4)と式(5)において、P01は基準温度T0における発振周期P1の値であり、P02は基準温度T0における発振周期P2の値であり、それぞれ式(6)、式(7)で表せる。
【0048】
式(6)と式(7)は、可変容量30と可変容量31の容量の合計値を可変することで発振周期P1と発振周期P2を同じ比率で変更できること、可変抵抗16の抵抗値R1を可変することで発振周期P1を変更することができること、可変抵抗20の抵抗値R2を可変することで発振周期P2を変更できることを表している。
【0049】
【数6】
【0050】
【数7】
【0051】
式(6)と式(7)において、
1:可変容量30の容量値
2:可変容量31の容量値
1:電流源回路11のカレントミラー回路のチャネル幅の比
((PMOSトランジスタ19のゲート幅)÷(PMOSトランジスタ18のゲート幅))
2:電流源回路12のカレントミラー回路のチャネル幅の比
((PMOSトランジスタ23のゲート幅)÷(PMOSトランジスタ22のゲート幅))
である。
【0052】
式(2)と式(4)が示す通り、弛張型発振回路1の発振周期P1の温度係数は、可変抵抗16の抵抗値R1の温度係数と同じである。式(3)と式(5)が示す通り、弛張型発振回路1の発振周期P2の温度係数は、可変抵抗20の抵抗値R2の温度係数と同じである。
【0053】
なお、図2に示す弛張型発振回路1は、本発明の第1の実施形態の弛張型発振回路1として使用可能な発振回路の一例である。負の1次温度係数の発振周期P1を負の1次温度係数の抵抗を元に発振し、正の1次温度係数の発振周期P2を正の1次温度係数の抵抗を元に発振し、発振周期P1と発振周期P2を外部からの信号で発振回路自身の発振クロック信号CLKに同期して連続かつ停止することなく切替える構成の発振回路であれば、本発明の第1の実施形態の弛張型発振回路1は、どのような発振回路でも構わない。
【0054】
図5に示すタイミングチャートを参照しながら、本実施形態の弛張型発振回路1の温度変化に由来する発振周期の偏差の補償原理を解説する。図5の横軸は、時間を示す。図5の縦軸は、論理レベルを示す。本実施形態では、弛張型発振回路1の発振周期P1のクロック数N1と発振周期P2のクロック数N2とを調整して温度変化に由来する発振周期の偏差の補償を行う。発振周期P1のクロック数N1の調整は、カウンタ3の計数値を調整することで行う。
【0055】
最初に、弛張型発振回路1の発振周期の1次温度偏差を補償する原理を解説する。弛張型発振回路1は、IN端子91にHIGHレベルが入力されると、発振周期P1の信号CLKをOUT端子92から出力する。カウンタ3は、弛張型発振回路1の出力する信号CLKの立ち上がりに同期して計数を行う。
【0056】
カウンタ3は、外部からN1VAL端子99を通して、発振周期P1のクロック数N1をカウントデータとして設定する。カウンタ3は、計数する値がカウントデータに達すると、MSIG端子96から出力する信号MODEをLOWレベルに変更する。LOWレベルの信号MODEがIN端子91に入力され、弛張型発振回路1は、発振周期P1を次の発振周期から発振周期P2に変える。
【0057】
可変分周器2は、弛張型発振回路1のクロック信号をN分周し、発振周期P1と発振周期P2のクロック信号のクロック数の計数値の合計がNに達した時点でDOUT端子94のクロック信号TIMEにHIGHレベルを出力する。可変分周器2の出力信号がカウンタ3のRST端子98に入力され、カウンタ3の計数値は、ゼロにリセットされる。同時に、カウンタ3は、MSIG端子96の信号MODEのレベルをHIGHレベルに更新し、次の計数動作サイクルを開始する。
【0058】
図5から明らかなように、弛張型発振回路1の発振周期P1のクロック数N1と発振周期P2のクロック数N2の合計は、可変分周器2の分周数Nと等しく、式(8)の関係が示せる。
【0059】
【数8】
【0060】
本発明の第1の実施形態の弛張型発振器が出力する発振周期Pは、弛張型発振回路1の発振周期P1と発振周期P2が前記の式(4)と式(5)で表せるので、式(9)のように表せる。
【0061】
【数9】
【0062】
式(9)において、発振周期Pの1次温度偏差を相殺する条件は、式(9)の第3項(ΔTがかかる項)がゼロになる場合である。その条件は、式(10)である。
【0063】
【数10】
【0064】
式(10)が成立する条件は、式(10)の右辺が正の値の場合である。つまり、発振周期Pの1次温度偏差を相殺する条件は、発振周期P1の1次温度係数Α1(すなわち可変抵抗16の抵抗値の1次温度係数Α1)と、発振周期P2の1次温度係数Β1(すなわち可変抵抗20の抵抗値の1次温度係数Β1)の一方が負の値で他方が正の値の場合であって、その上で、基準温度T0において「弛張型発振回路1の発振周期P1のクロック数N1と発振周期P2のクロック数N2(発振周期P2のクロック数N2は分周数Nから発振周期P1のクロック数N1を引いた値)の比」が、「弛張型発振回路1の発振周期P2の1次温度係数Β1と発振周期P02の積と、弛張型発振回路1の発振周期P1の1次温度係数Α1と発振周期P01の積の比」となる場合である。
【0065】
次に、弛張型発振回路1の発振周期の2次温度偏差を補償する原理を解説する。ここで、基準温度T0(ΔT=0)において発振周期の1次温度偏差がゼロになる発振周期P1のクロック数N1と発振周期P2のクロック数N2がそれぞれクロック数N01とクロック数N02と定義する。クロック数N01とクロック数N02の合計は、式(8)と同様に、式(11)に示す関係がある。更に、クロック数N01とクロック数N02は、式(12)と式(13)のように表せる。
【0066】
【数11】
【0067】
【数12】
【0068】
【数13】
【0069】
発振周期の1次と2次の温度偏差を同時に相殺する条件は、式(9)において、温度により値が変わる第3項(ΔTが掛かる項)と第4項(ΔT^2が掛る項)の両方がゼロになる場合である。式(9)の第3項と第4項がゼロになる発振周期P1のクロック数N1と発振周期P2のクロック数N2の条件の近似解は、式(14)と式(15)である。
【0070】
【数14】
【0071】
【数15】
【0072】
式(14)と式(15)におけるΓ1とΓ2とΔN1とΔN2の定義は、以下の通りである。
Γ1:発振周期Pの2次温度偏差を補償するための発振周期P1のクロック数N1の温度係数
【0073】
【数16】
【0074】
Γ2:発振周期Pの2次温度偏差を補償するための発振周期P2のクロック数N2の温度係数
【0075】
【数17】
【0076】
ΔN1:発振周期P1の2次温度偏差を補償(相殺しゼロにするための)する発振周期P1のクロック数N1の可変分
ΔN2:発振周期P2の2次温度偏差を補償(相殺しゼロにするための)クロック数N2の可変分
【0077】
式(14)と式(15)は、N1の値を発振周期Pの1次温度偏差がゼロになるクロック数N01に設定した上で温度変動量に比例しΔN1(=N01Γ1ΔT)可変し、N2の値を発振周期Pの1次温度偏差がゼロになるクロック数N02に設定した上で温度変動量に比例しΔN2(=N02Γ2ΔT)可変すれば、発振周期Pの2次温度偏差をゼロに補償できることを表している。
【0078】
前記の式(14)と式(15)が発振周期Pの2次温度偏差を補償する条件である。しかし、式(14)と式(15)を式(9)に代入した場合、式(14)と式(15)の第2項に温度変化量ΔTが含まれるため、式(9)の第1項と第2項が温度により大きさが変わるため、発振周期Pは、温度によらず一定とはならない。すなわち、発振周期Pを温度によらず一定とするには、式(9)の第1項と第2項に式(14)と式(15)を代入した次の式(18)の第3項(ΔTがかかる項)がゼロになる条件も必要である。
【0079】
【数18】
【0080】
式(18)の第3項がゼロになる条件を求めると、次の式(19)の条件が導かれる。つまり基準温度T0における弛張型発振回路1の発振周期P1と発振周期P2が等しいことが、必須の条件であることが分る。また式(19)が担保された場合には式(20)の関係が成り立つことが解析的に導かれる。
【0081】
【数19】
【0082】
【数20】
【0083】
ΔN:発振周期Pの2次温度偏差を相殺しゼロに補償する“発振周期P1のクロック数N1”または“発振周期P2のクロック数N2”の可変分の絶対値
【0084】
式(20)は、発振周期Pの2次温度偏差補償するための発振周期P1のクロック数N1の可変分ΔN1と、発振周期Pの2次温度偏差補償するための発振周期P2のクロック数N2の可変分ΔN2の大きさが等しく正負が反対の関係であること表している。上記の1次と2次の温度偏差を相殺する条件を図1の構成および図2の回路を参照し整理する。
【0085】
最初に、基準温度T0で発振周期Pの調整を行う。基準温度T0で、式(19)に示すように発振周期P01とP02を同じ値に調整する。具体的には、弛張型発振回路1の可変抵抗16、可変抵抗20、可変容量30、可変容量31の値を調整する。可変分周器2の分周数Nを調整して、弛張型発振器70の発振周期Pは、所望の発振周期Pとできる。発振器の発振周期Pは、発振周期P01のクロック数N01と発振周期P02のクロック数N02の比率に左右されない。
【0086】
次に、発振周期P01とP02のクロック数N01とN02の調整を行う。1次温度偏差を相殺するための基準温度T0における発振周期P01とP02のクロック数N01とN02の比率は、式(12)と式(13)と、可変抵抗16と可変抵抗20の抵抗値の温度係数に基づき計算される。この計算において必要な可変抵抗16と17の温度係数Α1、Β12、Β2の値は、周囲温度を基準温度T0から変化させ、の可変抵抗16と20の抵抗値を直接計測して求められるか、あるいは、弛張型発振回路1の発振周期P1とP2を計測することで間接的に求められる。なお、この計測は、弛張型発振回路1をI1発振モード、もしくI2発振モードのみで動作させる等で実施できる。
【0087】
最後に、発振周期の2次温度偏差の補償は、温度が基準温度T0から温度変化量ΔT変化した場合に、式(16)に示す温度係数Γ1または式(17)に示す温度係数Γ2によってΔNの値を式(18)で算出し、カウンタ3のN1VAL端子99の発振周期P01のクロック数N1の設定値にΔNを加算する(ΔNの値は正負の値を取り得る)ことで行う。この場合、発振周期P01とP02のクロック数N1とN2の合計値は、可変分周器2の分周数Nと等しい。分周数Nは一定であるため、N2はN1を設定すれば一意に決まり、N2を個別に制御する必要はない。
【0088】
なお、本発明の第1の実施形態の弛張型発振器は、デューティー比が常に50%の出力波形を生成することができない。デューティー比が常に50%の出力波形を得るには、本実施形態の弛張型発振器は、例えば所望する発振周期の1/2倍の発振周期で発振させ可変分周器2の出力するクロック信号TIMEを2分周する等でデューティー比が50%の波形を生成できる。
【0089】
図6図7に、第1の実施形態の弛張型発振器を前記の温度変化に由来する発振周期Pの偏差の補償原理に基づき制御した場合の特性を示す。図6の横軸は、温度を示す。図6の縦軸は、クロック数N1とN2がクロック数、分周数Nが分周数を示す。図7の横軸は、温度を示す。図7の縦軸は、発振周期Pの基準温度からの変動量をPPM単位で示す。
【0090】
図6図7の条件は、基準温度T0=50℃における弛張型発振回路1の発振周期P1とP2が30.518US(P01=P02=1/32.768KHZ)で等しく、可変分周器2の出力の発振周期Pが0.125MSとなるように分周数Nが2^12=4096であり、発振周期P1とP2の温度係数(すなわち可変抵抗16と可変抵抗20の温度係数)の値が、Α1=-5.928E-4E[-/℃]、Α2=1.0464E-6[-/℃^2]、Β1=1.385E-3[-/℃]、Β2=7.876E-7[-/℃^2]、である。
【0091】
図6は、温度に対するカウンタ3のクロック数N1の設定値と発振周期P2のクロック数N2の値と可変分周器2の分周数Nを示すグラフである。前記の温度変化に由来する発振周期Pの偏差を補償する原理に基づき、カウンタ3のクロック数N1の設定値の値は、温度変化に比例して可変させている様子を示している。ここで可変分周器2の分周数Nは温度によらず一定(N=4096)なので、発振周期P2のクロック数N2の温度に対する変化量は、発振周期P1のクロック数N1の変化量と極性が反対で大きさが同じになっている。図6のカウンタ3のクロック数N1の設定値と発振周期P2のクロック数N2は、式(18)の条件を満足する。
【0092】
図7は、第1の実施形態の弛張型発振器の出力するクロック信号TIMEにおける発振周期Pの温度による偏差(発振周期の変動量)である。図7の曲線Aの特性は、温度によらずカウンタ3のクロック数N1の設定値を基準温度T0のときの発振周期P1のクロック数N01に固定した場合の温度変化による発振周期Pの偏差である。この場合は、発振周期Pの1次温度偏差がゼロとなるが、発振周期Pの2次温度偏差は、補償されずに残る。
【0093】
図7の曲線Bの特性は、温度に応じてカウンタ3のクロック数N1の設定値を前記の発振周期の温度による偏差を補償する原理に基づき、図6に示した値に制御した場合の発振周期Pの温度変化による発振周期Pの偏差である。発振周期Pは、発振周期Pの1次温度偏差を相殺する条件式が近似解であるため、基準温度(50℃)から離れると誤差が生じ、基準温度のときの発振周期Pとの偏差が増える。しかし、温度範囲が0℃から100℃の温度変化による発振周期Pの偏差は、-55.7PPMから+64.7PPMの範囲にあり、従来の弛張型発振器と比べて極めて小さく、偏差補償の機能を有しない水晶発振器の発振周期の偏差に近い値である。
【0094】
なお、図7の曲線Bの特性は、基準温度(50℃)から離れた低温と高温の領域において温度変化による発振周期Pの偏差が大きくなっている。発振周期P1とP2の2次温度係数(つまり可変抵抗16と可変抵抗20の2次温度係数)を同じ値に出来るのであれば、全温度範囲で温度変化による発振周期Pの偏差は、ゼロにすることが可能である。
【0095】
また、本実施形態の弛張型発振回路の温度に対する発振周期の偏差補償の精度を高めるためには、本弛張型発振回路を単一の半導体チップ上に形成し、可変抵抗16と可変抵抗20を隣接して配置する。可変抵抗16と可変抵抗20の温度が均一となるため、発振周期の補償の精度が向上できる。
(第2の実施形態)
【0096】
図8は、本発明の第2の実施形態の弛張型発振器70Aの構成を示す。本実施形態の弛張型発振器70Aは、弛張型発振回路1と可変分周器2とカウンタ3と温度センサ50と演算回路51と第1のメモリ52と第2のメモリ53と加算器54とスイッチ55から構成される。第1のメモリ52と加算器54とで、可変分周器2が出力するクロック信号TIMEの1周期中の、クロック数N1とクロック数N2を調整する信号を作成する回路56を構成する。第2のメモリ53と演算回路51とで、クロック数N1とクロック数N2の一方を増加させ他方を減少させる信号を作成する回路57を構成する。
【0097】
温度センサ50は、温度を測定し測定結果を温度データとして演算回路51へ出力する。演算回路51は、弛張型発振回路1の発振周期P1の2次温度偏差をゼロに補償するためのカウンタ3のクロック数N1の設定値の可変分ΔN(ΔNは正と負の値を取る得る)を、演算する。演算回路51は、温度センサ50からの信号と第2のメモリの値に基づきクロック数N1の設定値の補正値として、可変分ΔNを演算して出力する。
【0098】
第1のメモリ52は、可変分周器2の分周数Nの値と、基準温度T0において弛張型発振回路1の1次温度偏差がゼロとなるカウンタ3のクロック数N01の設定値が格納されている。可変分周器2の分周数Nの値は、第1のメモリから読み出されて、可変分周器2のNVAL端子95に入力される。
【0099】
第2のメモリ53は、演算回路51が、カウンタ3のクロック数N1の設定値の可変分ΔNの演算で必要となるデータまたは温度Tに対応する可変分ΔNを格納したメモリである。演算回路51は、第2のメモリ53のアドレスを指定し、第2のメモリ53に格納されているデータを読み出す。
【0100】
加算器54は、第1のメモリ52に格納されたカウンタ3のクロック数N01の値と、演算回路51が計算したカウンタ3のクロック数N1の設定値の可変分ΔNを加算し、カウンタ3にクロック数N1の設定値を渡す。
【0101】
なお、スイッチ55は、カウンタ3のクロック数N1の設定値の可変分ΔNを加算器54に伝達するかしないかを制御する。発振周期P1の2次温度偏差の補償の有無は、スイッチ55の開閉により選択できる。
【0102】
本発明の第2の実施形態の弛張型発振器70Aは、上記の一連の機構によりクロック信号TIMEの発振周期Pの2次の温度偏差を自動で補償できる。本実施形態の弛張型発振回路は、発振周期Pが極めて安定に保たれる。
(第3の実施形態)
【0103】
図9は、本発明の第3の実施形態の弛張型発振器70Bの構成を示す。本実施形態は、本発明の第2の実施形態における温度センサ50のより具体的な構成の一例である。本実施形態は、第2の実施形態で説明した発振周期Pで発振する弛張型発振回路1以外に、温度センサ50の中に第2の発振回路60を備える。
【0104】
温度センサ50は、第2の発振回路60と第2のカウンタ61とから成る。第2の発振回路60は、従来の弛張型発振回路101(図13)または本発明の実施形態の弛張型発振回路1(図2)などを用いることができる。本発明の実施形態の弛張型発振回路1を用いる場合には、弛張型発振回路1は、I1発振モードのみ(あるいは、I2発振モードのみ)が選択される。
【0105】
以下、本発明の第3の実施形態の弛張型発振器70Bにおける温度変化の検出と温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償の原理および手順について説明する。
【0106】
ここでは、第2の発振回路60は、発振周期P3の生成に弛張型発振回路1の可変抵抗16と同じ素材の抵抗(1次温度係数がΑ1)を利用しているとする(あるいは、第2の発振回路60は、発振周期P3の生成に可変抵抗20と同じ素材の抵抗を利用しているのでも良い)。第2の発振回路60の発振周期P3は、抵抗の1次温度係数を考慮した場合には式(21)のように表せる。発振周期P3は、温度変化に由来する偏差補償がされていないため、温度に対して大きく変動する。
【0107】
【数21】
【0108】
式(21)において、
03:基準温度T0における第2の発振回路60の発振周期
Α1:第2の発振回路60の電流生成に使用される抵抗の1次温度係数
ΔT:基準温度T0からの温度変化量
である。
【0109】
これに対し、弛張型発振回路1の出力するクロック信号TIMEの発振周期Pは、発振周期P01とP02のクロック数N01とN02の比率が調整され1次偏差がゼロ(スイッチ55が開かれた状態)であるので、第2の発振回路60の発振周期P3を基準にすれば、発振周期Pはほぼ一定値と見なせる。
【0110】
第2のカウンタ61は、可変分周器2の出力が入力され、その1周期(発振周期P)の期間に第2の発振回路60の発振クロック信号を計数する。この場合の第2のカウンタ61の計数値mは、抵抗の1次温度係数を考慮した場合には式(22)のように表せる。
【0111】
【数22】
【0112】
式(23)は、式(22)から温度変化量ΔTについての近似解を求めることで得られ、第2のカウンタ61の計数値mを温度データとして温度変化量ΔTを知ることが可能である。
【0113】
【数23】
【0114】
演算回路51は、第2のカウンタ61の計数値mから弛張型発振回路1の発振周期Pの1次温度偏差を補償する可変分ΔNを算出し、補正値として出力する。弛張型発振回路1は、スイッチ55が閉じられるとクロック数N01に可変分ΔNが加算されたカウントデータがカウンタ3のN1VAL端子99に入力され発振周期Pの2次温度偏差が補正される。
【0115】
上記の弛張型発振器70Bは、温度センサ50での温度変化の検出時にスイッチ55が開いた状態(つまり弛張型発振回路1の温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償が1次だけの場合)で動作させた。しかし、本実施形態の弛張型発振器70Bは、温度変化の検出時にスイッチ55が閉じた場合(つまり弛張型発振回路1の温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償が2次まで行われている場合)でも同様の効果が得られる。
【0116】
これは、本実施形態の弛張型発振回路1は、弛張型発振回路1の温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償が1次だけの場合(スイッチ55が開いている場合)と2次でまで行われている場合(スイッチ55が閉じている場合)の何れであっても、弛張型発振回路1の発振周期(発振周期P)が第2の発振回路60の発振周期(発振周期P3)との対比では近似的に温度によらず一定と見なせることによる。
【0117】
また、本実施形態の弛張型発振器70Bは、本実施形態の構成にて温度変化の検出精度を高め発振周期Pの2次の温度偏差補償の精度を高めるために、本回路を単一の半導体チップ上に形成し、弛張型発振回路1と第2の発振回路60をなるべく近接に配置する、あるいは、2つの発振回路の発振周期の基準となる抵抗を隣接して配置するなどして、これらの温度を均一にすることが有効である。
【0118】
さらには、弛張型発振回路1の電流源回路11(あるは電流源回路12)を第2の発振回路60が共用する構成とすれば、本実施形態の弛張型発振器70Bは、弛張型発振回路1と第2の発振回路60の発振周期P3の温度変化の相対誤差が無くなるため、温度の検出精度が高まり温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償の精度が向上する。
(第4の実施形態)
【0119】
図10は、本発明の第4の実施形態の弛張型発振器70Cの構成を示す。本実施形態は、本発明の第3の実施形態における演算回路51が単純な構成で済む場合の具体例を示したものである。
【0120】
図10の構成において、演算回路51は、減算器62で構成される。式(14)と式(23)から、弛張型発振回路1のカウンタ3のクロック数N1の設定値は、式(24)のように表現できる。
【0121】
【数24】
【0122】
式(24)において、第2項は、弛張型発信器70Cの出力するクロック信号TIMEにおける発振周期Pの1次温度偏差を補償する可変分ΔNである。式(24)において、基準温度T0における第2の発振回路60の発振周期P03を式(25)で示される特別な値に設定すれば、可変分ΔNの計算は、(M-P/P03)のように単純になる。つまり、本実施形態の弛張型発振器70Cは、乗算が不要となるため演算回路51の回路規模を大きく減らすことができる。
【0123】
【数25】
【0124】
またP/P03は、近似的にほぼ一定値と見なせる。これを式(26)に示すように定数Mと定義すれば、可変分ΔNの計算は、式(27)の形となる。つまり、図10に示すように、演算回路51は、減算器62だけで済む。第2のメモリ53は、定数Mを格納するだけで済む。したがって、本実施形態の弛張型発振器70Cは、回路規模を大きく減らすことができる。
【0125】
【数26】
【0126】
【数27】
(第5の実施形態)
【0127】
図11は本発明の第1から第4の実施形態の弛張型発振器を電子機器72に応用した一例を示したもので、弛張型発振器70Dには本発明の第1から第4の実施形態の弛張型発振器の何れかが用いられ、ロジック回路71を備える。ロジック回路71は、外部からの設定値(SET)に基づき、弛張型発振器70Dが生成するクロック信号TIMEを基準にタイマまたは時計などの電子機器72に基準となるクロック信号を出力する。
【0128】
本発明の本発明の第1から第4の弛張型発振器の温度に由来する発振周期の偏差は極めて小さいため、従来の弛張型発振器では困難であった高精度なタイマまたは時計などの電子機器72の基準クロック信号源としての利用が可能となる。
【0129】
以上、本発明の第1から第4の実施形態の弛張型発振器の出力するクロック信号TIMEの温度変化に由来する発振周期Pの偏差補償の原理の解説は、可変抵抗16と可変抵抗20の温度係数だけに注目していた。更に、本発明の最も大きな特徴は、発振器を構成する抵抗以外の要素部品(可変容量、論理素子の遅延、電源電圧、等)の温度係数の影響を含めた発振器全体を考慮したクロック信号TIMEの発振周期Pの温度偏差を、ほぼゼロに補償できる点にある。
【0130】
これは、可変抵抗以外の要素部品の温度係数の絶対値が可変抵抗16および可変抵抗20の1次温度係数Α1とΒ1の絶対値に対し十分に小さい条件(目安として可変抵抗の1次温度係数の1/10以下)において可能となる。この条件の下では、発振器全体の影響を考慮した発振周期Pの1次温度偏差は、温度に対する発振周期Pの変動が可変抵抗16と可変抵抗20の温度係数が支配的であるため、発振周期P01とP02の比を調整することで独立に調整し、発振器全体の影響を考慮した発振周期Pの1次温度偏差をゼロに調整できる。発振器全体の影響を考慮した発振周期Pの2次温度偏差は、基準温度T0における第3の実施形態または第4の実施形態の第2の発振回路60の発振周期P03を増減調整することで、発振器全体の影響を考慮した発振周期Pの2次温度偏差を独立に調整でき、ほぼゼロに調整できる。
【符号の説明】
【0131】
1 弛張型発振回路
2 可変分周器
3 カウンタ
10 基準電圧源
11、12 電流源回路
13 容量充放電回路
14 充電電圧検出回路
15 ゲーティング回路
16、20 可変抵抗
30、31 可変容量
50 温度センサ
51 演算回路
52、53 メモリ
54 加算器
55 スイッチ
60 第2の発振回路
61 第2のカウンタ
62 減算器
70、70A、70B、70C、70D 弛張型発振器
71 ロジック回路
100 弛張型発振器
101 発振回路
102 可変分周器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13