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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】人工呼吸器、及び人工呼吸システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
A61M16/00 380
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019007917
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020115986
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】包 理
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】柳田 和也
(72)【発明者】
【氏名】松原 功
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚史
(72)【発明者】
【氏名】矢萩 寛昭
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0279362(US,A1)
【文献】特表2015-508689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067430(US,A1)
【文献】特開2013-71004(JP,A)
【文献】特表2019-503262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00-16/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器であって、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、
前記呼吸用ガスが流れる方向の入口側に配置される入口側部材と、
出口側に配置される出口側部材と、を備え、
前記出口側部材は、
前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部と、
前記出口側接続部から、前記呼吸用ガスが流れる方向と直交する方向にフランジ状に延在したフランジ部と、を備え
前記出口側部材は前記筐体部と共に前記人工呼吸器の外表面の一部をなし、前記入口側部材は前記外表面に対して前記人工呼吸器の内側に配置される、ことを特徴とする人工呼吸器。
【請求項2】
前記出口側接続部は、前記呼吸用ガスが流れる方向に前記送気管と嵌め合わせられるよう構成されている、請求項1に記載の人工呼吸器。
【請求項3】
呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器であって、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部を備え、
前記ケーシングは、前記流路を流れた前記呼吸用ガスが前記ケーシング内に流れ込むよう開口し、前記呼吸用ガスが流れる方向に前記流路と嵌め合わせられるよう構成された入口側接続部をさらに備え、
前記入口側接続部と前記出口側接続部とは、前記呼吸用ガスが流れる方向と垂直な方向の断面形状が異なっている、ことを特徴とする人工呼吸器。
【請求項4】
前記濾材は、5.3cm/秒の濾過速度で通風したときの圧力損失が200Pa以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の人工呼吸器。
【請求項5】
前記濾材は、粒径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を5.3cm/秒の濾過速度で通風し、圧力損失が250Pa上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20g/m2以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の人工呼吸器。
【請求項6】
前記濾材は、複数の繊維を有する繊維体からなり、前記繊維は有機材料を材質とする、請求項1からのいずれか1項に記載の人工呼吸器。
【請求項7】
前記送気管は、患者側の端部に、患者が生成した呼気を排出するための開口部を有し、
前記濾材は、前記開口部から排出されなかった前記呼気に含まれる微生物又はウィルスが前記筐体部内に流れないよう前記微生物又は前記ウィルスを捕集する、請求項1からのいずれか1項に記載の人工呼吸器。
【請求項8】
前記人工呼吸器は、さらに、患者が生成した呼気が流れる排気管と接続され、
前記筐体部は、
前記流路の前記エアフィルタ側の端部に設けられ、前記呼気の前記流路内への侵入を遮断する逆止弁と、
前記逆止弁と前記エアフィルタと間に設けられ、前記送気管及び前記排気管が閉塞して前記送気管内の圧力が許容値を超えて上昇した場合に、前記呼気を前記筐体部内に排出するよう構成された安全弁と、をさらに有し、
前記濾材は、前記呼気に含まれる微生物又はウィルスが前記筐体部内に流れないよう前記微生物又は前記ウィルスを捕集する、請求項1からのいずれか1項に記載の人工呼吸器。
【請求項9】
前記エアフィルタ、前記濾材、前記ケーシングを、第1のエアフィルタ、第1の濾材、第1のケーシングというとき、
前記人工呼吸器は、さらに、前記筐体部に装着される第2のエアフィルタを備え、
前記第2のエアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する第2の濾材と、
前記第2の濾材を収容する第2のケーシングと、を有し、
前記第2のケーシングは、前記排気管内を流れた前記呼気が前記第2のケーシング内に流れ込むよう開口し、前記排気管と繋ぎ合わせられるよう構成された接続部を備える、請求項に記載の人工呼吸器。
【請求項10】
人工呼吸システムであって、
人工呼吸器と、
前記人工呼吸器と接続され、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と、を含み、
前記人工呼吸器は、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、
前記呼吸用ガスが流れる方向の入口側に配置される入口側部材と、
出口側に配置される出口側部材と、を備え、
前記出口側部材は、
前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部と、
前記出口側接続部から、前記呼吸用ガスが流れる方向と直交する方向にフランジ状に延在したフランジ部と、を備え
前記出口側部材は前記筐体部と共に前記人工呼吸器の外表面の一部をなし、前記入口側部材は前記外表面に対して前記人工呼吸器の内側に配置される、ことを特徴とする人工呼吸システム。
【請求項11】
人工呼吸システムであって、
人工呼吸器と、
前記人工呼吸器と接続され、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と、を含み、
前記人工呼吸器は、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部を備え、
前記ケーシングは、前記流路を流れた前記呼吸用ガスが前記ケーシング内に流れ込むよう開口し、前記呼吸用ガスが流れる方向に前記流路と嵌め合わせられるよう構成された入口側接続部をさらに備え、
前記入口側接続部と前記出口側接続部とは、前記呼吸用ガスが流れる方向と垂直な方向の断面形状が異なっている、ことを特徴とする人工呼吸システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸用ガスを送る送気管と接続される人工呼吸器、及び人工呼吸システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人工呼吸器は、一般に、呼吸用ガスを患者に送るための送気管と接続され、所定のタイミングで呼吸用ガスを送気管内に送り込むことを行う。また、送気管には、例えば、患者側の端部から近い位置に、患者の呼気を排出するための開口部が設けられており、患者の呼気は、開口部から外部に排出される。
【0003】
ところで、患者が、例えば、咳やくしゃみあるいは深呼吸をすると、呼気が送気管内を逆流し、上記開口部から排出されずに人工呼吸器に向かって流れる場合がある。このため、疾患の原因となる菌類やウィルスが呼気に含まれていると、人工呼吸器内に流れ込んだ呼気によって、機器内が汚染されてしまう。汚染された人工呼吸器を他の患者に使用すると、当該患者を感染させ、新たな疾患をもたらす恐れがある。
【0004】
特許文献1には、送気管を逆流した呼気による人工呼吸器の汚染を防ぐために、送気管の途中に配置される使い捨てのエアフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-305134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
使い捨てのエアフィルタは、寿命が短いために交換頻度が高く、しかも、送気管への取り付けが現状では義務付けられていないため、送気管に取り付けられずに人工呼吸器が使用される場合がある。このため、人工呼吸器の汚染を防止する手段として、有効性に欠ける。
ここで、エアフィルタを人工呼吸器内に配置することで、人工呼吸器の汚染を防止することが考えられる。しかし、エアフィルタを、交換のために取り外し、エアフィルタを着け忘れた状態で、人工呼吸器が使用されると、患者の呼気によって汚染されるおそれがある。
【0007】
本発明は、呼吸用ガスを送る送気管と接続される人工呼吸器において、エアフィルタの着け忘れを確実に防止することにある。また、本発明は、そのような人工呼吸器を備えた人工呼吸システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器である。
当該人工呼吸器は、前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、
前記呼吸用ガスが流れる方向の入口側に配置される入口側部材と、
出口側に配置される出口側部材と、を備え、
前記出口側部材は、
前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部と、
前記出口側接続部から、前記呼吸用ガスが流れる方向と直交する方向にフランジ状に延在したフランジ部と、を備え
前記出口側部材は前記筐体部と共に前記人工呼吸器の外表面の一部をなし、前記入口側部材は前記外表面に対して前記人工呼吸器の内側に配置される、ことを特徴とする。
前記筐体部は、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部を有していない。
本発明の別の一態様は、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器である。
呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器であって、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部を備え、
前記ケーシングは、前記流路を流れた前記呼吸用ガスが前記ケーシング内に流れ込むよう開口し、前記呼吸用ガスが流れる方向に前記流路と嵌め合わせられるよう構成された入口側接続部をさらに備え、
前記入口側接続部と前記出口側接続部とは、前記呼吸用ガスが流れる方向と垂直な方向の断面形状が異なっている、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の別の一態様は、人工呼吸システムであって、
人工呼吸器と、
前記人工呼吸器と接続され、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と、を含み、
前記人工呼吸器は、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、
前記呼吸用ガスが流れる方向の入口側に配置される入口側部材と、
出口側に配置される出口側部材と、を備え、
前記出口側部材は、
前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部と、
前記出口側接続部から、前記呼吸用ガスが流れる方向と直交する方向にフランジ状に延在したフランジ部と、を備え
前記出口側部材は前記筐体部と共に前記人工呼吸器の外表面の一部をなし、前記入口側部材は前記外表面に対して前記人工呼吸器の内側に配置される、ことを特徴とする。
本発明の別の一態様は、人工呼吸システムであって、
人工呼吸器と、
前記人工呼吸器と接続され、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と、を含み、
前記人工呼吸器は、
前記呼吸用ガスが流れる流路を有する筐体部と、
前記筐体部に装着され、前記流路を流れた前記呼吸用ガスを通過させるエアフィルタと、を備え、
前記エアフィルタは、
気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、
前記濾材を収容するケーシングと、を有し、
前記ケーシングは、前記濾材を通過した前記呼吸用ガスを前記送気管内に供給するよう開口し、前記送気管の端と接続される出口側接続部を備え、
前記ケーシングは、前記流路を流れた前記呼吸用ガスが前記ケーシング内に流れ込むよう開口し、前記呼吸用ガスが流れる方向に前記流路と嵌め合わせられるよう構成された入口側接続部をさらに備え、
前記入口側接続部と前記出口側接続部とは、前記呼吸用ガスが流れる方向と垂直な方向の断面形状が異なっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、呼吸用ガスの送気管と接続される人工呼吸器において、エアフィルタの着け忘れを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の人工呼吸器の一例を示す外観斜視図である。
図2】本実施形態の人工呼吸器の内部構成を示す図である。
図3】筐体部に装着されたエアフィルタを示す断面図である。
図4】エアフィルタ及び筐体部を示す外観斜視図である。
図5】エアフィルタ及び筐体部を示す外観斜視図である。
図6】濾材を示す外観斜視図である。
図7】気道内圧を表す波形図である。
図8】(a)は、人工呼吸器の通常の使用時における気体の流れを説明する図であり、(b)は、流速の速い呼気が発生した時における気体の流れを説明する図である。
図9】(a)は、人工呼吸器の通常の使用時における気体の流れを説明する図であり、(b)は、人工呼吸器に異常が発生した時における気体の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態の人工呼吸器、及び人工呼吸システムについて説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態が含まれる。
【0013】
(人工呼吸器の概略説明)
本実施形態の人工呼吸器は、呼吸用ガスを患者側に送る送気管と接続される人工呼吸器であって、筐体部と、エアフィルタと、を備える。筐体部は、呼吸用ガスが流れる流路を有する。エアフィルタは、筐体部に装着され、流路を流れた呼吸用ガスを通過させる。エアフィルタは、気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、濾材を収容するケーシングと、を有している。ケーシングは、濾材を通過した呼吸用ガスを送気管内に供給するよう開口し、送気管の端と接続される出口側接続部を備えている。
本実施形態の人工呼吸器では、送気管と接続される出口側接続部が、エアフィルタに設けられている。このため、呼吸用ガスの送気を行うためには、エアフィルタを筐体部に装着せざるを得ない。これにより、エアフィルタの筐体部への着け忘れを防止できる。また、本実施形態の人工呼吸器では、使用時に必ずエアフィルタが装着されているため、患者の呼気が人工呼吸器内に流れ込んだ場合であっても、呼気中に含まれる唾液、粘液等の患者の吐出物は濾材に捕捉され、流路内には流れない。このため、患者の吐出物に、疾患の原因となる微生物又はウィルスが含まれていても、機器内が汚染されることを防止できる。
【0014】
(人工呼吸器)
図1は、本実施形態の人工呼吸器1の一例を示す外観斜視図である。図2は、本実施形態の人工呼吸器1の内部構成の一例を示す図である。
【0015】
人工呼吸器1は、呼吸用ガスを患者側に送る送気管50(図8から図10参照)と接続される。呼吸用ガスは、例えば、酸素を所望の割合で含むガス、あるいは、空気である。送気管50は、人工呼吸器1に接続される機器側端50a(図8から図10参照)と、患者側に配置される患者側端50b(図8から図10参照)と、を有している。患者側端50bは、例えば、患者の気管内に配置される。
送気管50は、例えば、送気管50の延在方向と直交する断面が円形であり、約10~25mmの内径を有している。送気管50には、ISO 5356あるいはISO 5367に準拠したものが好適に用いられる。
【0016】
人工呼吸器1は、筐体部10と、エアフィルタ20と、取込用フィルタ30と、を主に備える。
【0017】
(筐体部)
筐体部10は、呼吸用ガスが流れる流路11を有する。流路11には、酸素取込口12と、外気取込口13と、ガス供給口14と、が設けられている。酸素取込口12は、人工呼吸器1の外部の酸素供給源(図示せず)から酸素を取り込むよう開口した部分である。酸素取込口12は、例えば、供給圧の異なる複数の酸素供給源から酸素を取り込むよう複数設けられるが、図2には1つのみ示す。なお、酸素とは、酸素を90vol%以上含む気体をいう。外気取込口13は、取込用フィルタ30を通過して清浄化された外気を取り込むよう開口した部分である。ガス供給口14は、流路11内を流れた呼吸用ガスをエアフィルタ20に供給するよう開口した部分である。
【0018】
流路11は、酸素が流れる酸素供給部15と、空気が流れる空気供給部16と、ミキサチャンバ18と、呼吸用ガスが流れるガス供給部17と、を有している。
【0019】
酸素供給部15は、酸素取込口12からミキサチャンバ18まで酸素が流れる部分である。酸素供給部15には、圧力センサ15a、制御弁15b、及び流量センサ15cが主に配置されている。圧力センサ15a、制御弁15b、及び流量センサ15cは、後述する制御部40に接続されている。圧力センサ15aは、酸素供給部15を流れる酸素の圧力を計測し、計測結果に基づいて生成した信号を制御部40に向けて出力する。制御弁15bは、呼吸用ガス中の酸素濃度が調整されるよう、制御部40によって開度が制御される。流量センサ15cは、酸素供給部15を流れる酸素の流量を計測し、計測結果に基づいて生成した信号を制御部40に向けて出力する。
【0020】
空気供給部16は、外気取込口13からミキサチャンバ18まで、筐体部10内に取り込んだ外気(空気)が流れる部分である。空気供給部16には、ブロワ16a、及び流量センサ16bが主に配置されている。ブロワ16a、及び流量センサ16bは、制御部40に接続されている。ブロワ16aは、所定のタイミングで、外気を取り込むよう駆動制御される。流量センサ16bは、空気供給部16を流れる空気の流量を計測し、計測結果に基づいて生成した信号を制御部40に向けて出力する。
【0021】
ミキサチャンバ18は、酸素供給部15及び空気供給部16のそれぞれと連通している。空気供給部16からミキサチャンバ18内に流れ込む空気は、必要に応じて、酸素供給部15から流れ込む酸素と混合され、呼吸用ガスとされる。ミキサチャンバ18内に流れ込む空気は、酸素と混合されずに、呼吸用ガスとされる場合がある。
【0022】
ガス供給部17は、呼吸用ガスがミキサチャンバ18からガス供給口14まで流れる部分である。ガス供給部17には、酸素センサ17a、及び圧力センサ17bが主に配置されている。酸素センサ17a及び圧力センサ17bは、制御部40に接続されている。酸素センサ17aは、ガス供給部17を流れる呼吸用ガス中の酸素濃度を計測し、計測結果に基づいて生成した信号を制御部40に向けて出力する。圧力センサ17bは、ガス供給部17を流れる呼吸用ガスの圧力を計測し、計測結果に基づいて生成した信号を制御部40に向けて出力する。
【0023】
筐体部10は、さらに、エアフィルタ20が装着される装着部19(図4及び図5参照)と、取込用フィルタ30が装着される装着部(図示せず)と、を有している。装着部19は、ガス供給口14が開口するガス供給部17の端部に形成されている。
【0024】
人工呼吸器1は、さらに、筐体部10内に、制御部40を有している。制御部40は、CPU及び記憶部を含むコンピュータである。CPUが記憶部に記憶されているプログラムを読み出し、プログラムが起動することにより、送気等を行うソフトウェアモジュールが形成される。送気は、所定のタイミングで、呼吸用ガスを生成して、エアフィルタ20を通過させ、送気管50内に供給することで行う。制御部40は、具体的に、所定のタイミングで、呼吸用ガスの生成に必要な酸素が供給されるよう制御弁15bの開度を調整すること、及び、ブロワ16aを駆動することを、例えば、一定時間(例えば数秒)継続する制御信号を制御弁15b及びブロワ16aのそれぞれに向けて出力し、送気を行う。送気は、例えば、流量センサ16bが、空気の流量が基準値を下回ったことを検知したタイミングで、あるいは、図示されない圧力センサによって、気道内圧が、基準値よりも小さくなるよう変化したことが検知されたタイミングで行うことができる。気道内圧とは、患者の気道にかかる気体の圧力を意味する。また、送気は、上記説明した患者の呼吸に同調したタイミングに代えて、一定の時間間隔で行うこともできる。
【0025】
人工呼吸器1は、さらに、ディスプレイ42を有している。ディスプレイ42には、例えば、気道内圧、呼吸用ガスの圧力、流量等の計測値、時間の経過に伴うこれらの計測値の変化を表した波形図のほか、人工呼吸器1のユーザが設定した空気供給部16内の圧力値、酸素濃度等の制御情報が挙げられる。制御部40は、各センサから受け取った信号に基づいて、これらの情報をディスプレイ42に表示させる制御信号を出力する。
【0026】
(エアフィルタ)
図3から図5に、エアフィルタ20を示す。
図3は、筐体部10に装着されたエアフィルタ20を示す断面図である。図4は、エアフィルタ20及び筐体部10の一例を示す外観斜視図である。図5は、エアフィルタ20及び筐体部10の一例を示す外観斜視図である。
【0027】
エアフィルタ20は、筐体部10の装着部19に装着され、流路11を流れた呼吸用ガスにエアフィルタ20を通過させる。エアフィルタ20は、濾材22と、ケーシング26と、を有している。
【0028】
濾材22は、気体中の微生物又はウィルスを捕集するシート状の部材である。濾材22は、濾材面積を大きくし、長寿命にする観点から、図6に示されるように、山折りと谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状を有するよう、プリーツ加工されたものであることが好ましい。
濾材22は、プリーツ加工の後、例えば、プリーツ間隔を保持するためのスペーサが設けられる。スペーサは、例えば、ホットメルト樹脂を用いて、プリーツの折り目と直交して延びるよう線状に形成される。
濾材22は、複数の繊維を有する繊維体からなる捕集層(図示せず)を有している。捕集層に関しては、後述する。
【0029】
ケーシング26は、濾材22を収容する部材である。濾材22は、後述する入口側部材27に対し、例えば、ウレタン樹脂などのシール剤を用いて呼吸用ガスが流れる方向Xと直交する平面に沿った一方向Yの両端を固定するとともに、上記平面内で一方向Yと直交する方向Zの両端を、一方向Yに沿って線状に延びる接着剤を用いて固定することで、濾材22とケーシング26との隙間をなくすように収容される。
【0030】
ケーシング26は、入口側接続部27aと、出口側接続部28aと、を備えている。入口側接続部27aは、流路11内の呼吸用ガスがケーシング26内に流れ込むよう開口した部分であり、送気管50の機器側端50aと接続される。出口側接続部28aは、濾材22を通過した呼吸用ガスが送気管50内に流れるよう開口した部分であり、送気管50の端50aと接続される。
【0031】
本実施形態の人工呼吸器1では、上記したように、送気管50と接続される出口側接続部28aが、エアフィルタ20に設けられている。このため、呼吸用ガスの送気を行うためには、エアフィルタ20を筐体部10に装着せざるを得ない。これにより、エアフィルタ20の筐体部10への着け忘れを防止できる。また、本実施形態の人工呼吸器1では、使用時に必ずエアフィルタ20が装着されているため、患者の呼気が人工呼吸器1内に流れ込んだ場合であっても、呼気中に含まれる唾液、粘液等の患者の吐出物は濾材22に捕捉され、流路11内には流れない。このため、患者の吐出物に、疾患の原因となる微生物又はウィルスが含まれていても、機器1内が汚染されることを防止できる。微生物としては、細菌、カビ等の真菌、が挙げられる。真菌には、菌糸、胞子が含まれる。
【0032】
一実施形態によれば、出口側接続部28aは、図3から図5に示すように、呼吸用ガスが流れる方向Xに送気管50と嵌め合わせられるよう構成されていることが好ましい。これにより、送気管50とエアフィルタ20との接続及び取り外しを容易に行える。出口側接続部28aは、具体的に、送気管50の内壁との間で摩擦力が得られるよう、送気管50の内径よりもわずかに大きい外径を有する筒状形状を有している。
【0033】
一実施形態によれば、入口側接続部27aは、呼吸用ガスが流れる方向Xに流路11と嵌め合わせられるよう構成され、入口側接続部27aと出口側接続部28aとは、呼吸用ガスが流れる方向Xと垂直な方向の断面形状が異なっていることが好ましい。具体的に、エアフィルタ20が装着される装着部19は、図3から図5に示すように、入口側接続部27aの外形形状と略相似な形状の内壁を有している。このように、入口側接続部27aと出口側接続部28aの断面形状が異なっていると、送気管50を装着部19に接続することができず、人工呼吸器1を使用するためには、送気管50を、出口側接続部28aに接続する必要がある。このため、エアフィルタ20の着け忘れを確実に防止できる。この効果を高める観点から、入口側接続部27aの断面形状は、出口側接続部28aの断面形状が円形である場合に、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形状であることが好ましい。多角形状は、正多角形状であることが好ましい。図3から図5に示す例において、入口側接続部27aの断面形状は、正方形である。また、入口側接続部27aの断面形状の面積は、出口側接続部28aの断面形状の面積の1~5倍であることが好ましい。
【0034】
図3から図5に示す例において、ケーシング26は、入口側に配置される入口側部材27と、出口側に配置される出口側部材28と、を有している。濾材22は、入口側部材27の内側の空間に配置されている。出口側部材28は、出口側接続部28aの基端から外径方向(方向Xと直交する方向)にフランジ状に延在したフランジ部28bをさらに有している。入口側部材27は、フランジ部28bに対して気密に接合されている。また、出口側部材28及び装着部19には、ネジ孔28c,19aが設けられている。これにより、図3に示す例のように、ネジ孔28c,19aにネジ部材をねじ込んで、エアフィルタ20を筐体部10に装着することができる。互いに向き合う出口側部材28の部分と装着部19の部分の間には、呼吸用ガスのリーク防止のため、パッキン等が配置されることが好ましい。
【0035】
一実施形態によれば、エアフィルタ20は、図1に示すように、人工呼吸器1の外表面の一部をなすよう筐体部10に装着されることが好ましい。この実施形態によれば、人工呼吸器1にエアフィルタ20が装着されていないことがひと目でわかるため、エアフィルタ20の着け忘れをより確実に防止することができる。また、エアフィルタ20の装着及び取り外しを容易に行える。
【0036】
一実施形態によれば、濾材22は、5.3cm/秒の濾過速度で通風したときの圧力損失が200Pa以下であることが好ましい。このように圧力損失の小さい濾材22を用いると、人工呼吸器1の流路11、及び送気管50内を呼吸用ガスが流れやすくなるため、患者が吸気をし始めたときの流量あるいは圧力の変動に対して追従性がよくなる。このため、患者の呼吸のリズムと適合するように設定された呼吸用ガスの流量あるいは圧力を実現しやすく、患者にとって適切な送気を行うことができる。また、圧力損失の小さい濾材22を用いると、呼吸用ガスの供給圧力が小さくて済むため、ブロワを小さくでき、人工呼吸器1を小型化できる。圧力損失は、好ましくは175Pa以下、より好ましくは150Pa以下である。圧力損失は、JIS B9927に準拠し、風速5.3cm/秒の条件で、差圧計を用いて測定したものである。
【0037】
ここで、図7に、エアフィルタ20の濾材22として、患者の呼吸に同調して送気を行ったときにディスプレイ42に表示される気道内圧の波形図を示す。図7では、圧力損失が200Pa以下の濾材22を用いたときの波形(実線で示す)、及び、圧力損失が200Paを超える濾材22を用いたときの波形(破線で示す)を重ねて示している。気道内圧は、送気管50内の圧力を測定する図示されない圧力センサが検知した圧力を示す。図7に示されるように、実線で示した波形は、破線で示した波形と比べ、立ち上がりの傾斜が大きい。気道内圧は、送気される呼吸用ガスの流量の増大に伴って増大することから、圧力損失が200Pa以下の濾材22を用いた場合は、呼吸用ガスの流量の変動に対して気道内圧の追従性が良好であることがわかる。なお、図7の波形図において平坦な部分は、気道内圧の基準値を示す。
なお、圧力損失が200Pa以下の濾材22には、圧力損失が150Paの低圧力損失濾材(後述)を用いた。圧力損失が200Paを超える濾材22には、圧力損失が300Paのガラス繊維から構成される濾材(ガラス繊維濾材)を用いた。
【0038】
一実施形態によれば、濾材22は、粒径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を5.3cm/秒の濾過速度で通風し、圧力損失が250Pa上昇したときのポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20g/m2以上であることが好ましい。このような濾材22は、長寿命であるため、交換頻度が低く、着け忘れの機会が減る。使用する国、地域によっては、すぐに目詰まりし、交換頻度が高くなり、その結果、着け忘れが発生しやすい。また、長寿命であることで、目詰まりし難く、患者に呼吸用ガスを提供できない事態が発生することを抑制できる。保塵量は、好ましくは25g/m2以上、より好ましくは30g/m2以上である。
【0039】
一実施形態によれば、濾材22は、エレクトレット処理がされていないことが好ましい。エレクトレット処理された濾材は、初期の捕集効率が高い反面、水分の多い環境下では、捕集効率が低下しやすい。エアフィルタ20には、送気管50を逆流した呼気が通過することがあるため、水分を多く含む呼気に晒されることで、捕集効率が低下しやすくなる。その結果、患者の吐出物に含まれる微生物又はウィルスを捕集できず、人工呼吸器1が汚染されるおそれがある。エレクトレット処理された濾材22は、水分を多く含む呼気に晒されても、捕集効率が低下しにくく、これにより、人工呼吸器1の汚染を防止することができる。
【0040】
一実施形態によれば、濾材22は、複数の繊維を有する繊維体からなり、繊維は有機材料を材質とすることが好ましい。患者の吐出物が濾材22に捕捉されると、吐出物に含まれる微生物やウィルスが繊維上に留まる。ここで、濾材22がガラス繊維等の撥水性の低い繊維から構成されていると、呼気中の水分に晒されることで、微生物あるいはウィルスは増殖するおそれがある。このため、汚染されたエアフィルタ20から流路11内に、増殖した微生物あるいはウィルスが流れて、機器内を汚染するおそれがある。有機材料を材質とする繊維は、撥水性が高いため、呼気中の水分に晒されても、繊維上に留まった微生物あるいはウィルスは増殖し難い。すなわち、防カビ抵抗性に優れる。
【0041】
ここで、濾材の防カビ抵抗性を調べるために、濾材として、低圧力損失濾材及びガラス繊維濾材の2種の試験片に関して、所定の試験真菌(Aspergillus niger NBRC 105649, Penicillium citrinum NBRC 6352, Chaetomium globosum NBRC 6347, Myrothecium verrucaria NBRC 6113)を用いて、JIS Z2911:2010「かび抵抗性試験方法」の「繊維製品の試験」に準拠して湿式法によるカビ抵抗性試験を、2週間行ったところ、低圧力損失濾材では、菌糸の発育が認められなかったのに対し、ガラス繊維濾材では、菌糸の発育部分が認められた(濾材の片側の表面の面積の1/3を超えない程度)。なお、試験片の大きさは50mm四方の矩形状とし、試験片の片側の表面の全面に試験真菌を接種した。
【0042】
濾材22を構成する繊維体は、例えば、不織布、ペーパ、マット、あるいはフェルトの形態を有している。繊維体の具体例としては、有機繊維からなる、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布等が挙げられる。
【0043】
有機繊維としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリアクリロニトリル(PAN)等のアクリル系、ポリウレタン等のウレタン系、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)等を主成分とする合成繊維が挙げられる。
【0044】
一実施形態によれば、濾材22は、下記説明する低圧力損失濾材であることが好ましい。低圧力損失濾材の具体例として、延伸法を用いて作製された多孔質な膜(以降、多孔膜という)を捕集層とする濾材が挙げられる。多孔膜は、フィブリルと呼ばれる繊維と、フィブリルによって互いに接続された結節部(ノード)と、を備える。
多孔膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とする材料からなる。具体的に、フィブリルは、延伸されることでフィブリル化(繊維化)するPTFE(高分子量PTFE)から構成される。結節部は、フィブリル化しなかった高分子量PTFE、フィラー、及び、熱溶融加工可能な成分から構成される。
【0045】
高分子量PTFEの分子量は、例えば100万~1000万である。
【0046】
フィラーは、延伸されるときに、高分子量PTFEのフィブリル化を抑制し、結節部に留まって結節部を大きくする成分である。フィラーは、具体的に、高分子量PTFEより分子量の小さい(例えば60万以下)低分子量PTFE、無機微粒子(例えば粒径3~20μm)、及び熱硬化性樹脂、のいずれか1種以上である。無機微粒子は、例えば、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等である。
【0047】
熱溶融加工可能な成分は、延伸されるときに溶融し、結節部を固める成分である。熱溶融加工可能な成分は、具体的には、融点320度未満の樹脂であり、フルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド等である。
【0048】
高分子量PTFE、フィラー、及び、熱溶融加工可能な成分の組成比は、例えば、質量比で、40~80%、20~40%、0.1~20%未満である。
【0049】
上記多孔膜は、例えば、国際公開第2013/157647号公報、国際公開第2015/146847号公報に記載された方法を用いて作製することができる。
【0050】
このような多孔膜は、高分子量PTFEのみを用いて作製した多孔膜(PTFE多孔膜)を捕集層とする濾材(PTFE濾材)と比べ、繊維間の隙間が大きく、多孔膜の厚さ方向に微生物又はウィルスを捕集する機能が高い。このような多孔膜を捕集層とする低圧力損失濾材は、圧力損失が小さい。
【0051】
濾材22は、さらに、捕集層の両側のうち少なくとも一方の側に積層され、濾材の強度を補強する補強層を備えることが好ましい。補強層は、捕集層より捕集効率が低く、例えば、捕集効率は実質的に0%である。
補強層の具体例としては、ガラス繊維からなるガラス不織布、さらに、有機繊維からなる、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布等が挙げられる。ガラス不織布としては、例えば湿式抄紙法により作製されたものが挙げられる。
【0052】
低圧力損失濾材の捕集層の充填率は1%以上であることが好ましい。捕集層の充填率は、繊維の体積を多孔膜の体積で割った値(例えば、目付けを厚みと繊維の材料の密度の積で割った値(体積充填率))である。充填率が1%以上の捕集層は、繊維間の隙間が小さいため、捕集効率が高い。このため、呼気に含まれる患者の吐出物がエアフィルタ20の上流側に流れることを防止する効果が大きい。捕集層の充填率は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上である。一方、捕集層の充填率が大きすぎると、早期に目詰まりし、濾材22の寿命が短くなる。このため、捕集層の充填率は、10%以下であることが好ましい。
【0053】
低圧力損失濾材の捕集層の平均孔径は、0.3~2.0μmであることが好ましい。平均孔径は、ASTM F316-86に準拠して測定された平均流路径を意味する。平均孔径は、例えば、英国コールター・エレクトロニクス社製のコールターポロメータを用いて測定される。平均孔径が2.0μm以下である捕集層は、捕集効率が大きく、患者の吐出物を捕捉する効果が大きい。一方、捕集層の平均孔径が0.3μm未満であると、目詰まりが起き難い。捕集層の平均孔径は、好ましくは0.6~1.6μmである。
【0054】
低圧力損失濾材の捕集層の目付けは、1~100g/m2であることが好ましい。目付けは、JIS P8124に準拠して測定される坪量を意味する。目付が1g/m2以上である捕集層は、繊維径が細い場合は、捕集に最低限必要な繊維量を確保でき、患者の吐出物が捕捉されやすい。また、目付が1g/m2以上である捕集層は、繊維径が十分に細い場合は、目標とする捕集効率及び圧力損失を実現しやすい。また、捕集層の目付けが100g/m2以下であると、繊維径が太くても、捕集に必要な繊維量を確保でき、患者の吐出物が捕捉されやすい。捕集層の目付けは、好ましくは5~30g/m2である。
【0055】
低圧力損失濾材の捕集層の繊維の繊維径は、0.01~0.75μmであることが好ましい。繊維径は、捕集層の繊維から無作為に抽出した所定本数(例えば20本)以上の繊維の繊維径の平均繊維径を意味する。繊維径が0.01μm未満である捕集層は、三次元構造を有する繊維体の強度が足りず、捕集層の変形が起こりやすい。また、捕集層の繊維径が0.75μmを超えると、同じ目付において繊維の表面積が少なくなり、患者の吐出物が捕捉されにくい。捕集層の繊維径は、好ましくは0.1~0.5μmである。
【0056】
低圧力損失濾材の捕集層の厚さは、例えば、3~150μmである。厚さは、マイクロメータで測定される。
【0057】
低圧力損失濾材の捕集層の捕集効率は、例えば、90~99.999%である。捕集効率は、ポリアルファオレフィンのエアロゾル(粒子径0.3μm)を測定対象粒子とし、パーティクルカウンタを用いて、JIS B9927に準拠して風速5.3cm/秒の条件で測定される。
【0058】
一実施形態によれば、エアフィルタ20は、好ましくは、JIS Z8122に準拠したHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタの性能を有している。
【0059】
一実施形態によれば、送気管50は、図8に示されるように、患者側の端部に、患者が生成した呼気を排出するための開口部50cを有している。図8(a)は、人工呼吸器1の通常の使用時における気体の流れを説明する図であり、図8(b)は、咳、くしゃみ、深呼吸等によって流速の速い呼気が発生した時における気体の流れを説明する図である。図8(a)及び図8(b)には、人工呼吸器1と、送気管50と、を備える人工呼吸システム100が示されている。人工呼吸システム100において、開口部50cを有する送気管50が用いられている場合、濾材22は、開口部50cから排出されなかった呼気に含まれる微生物又はウィルスが筐体部10内に流れないよう微生物又はウィルスを捕集することが好ましい。
【0060】
通常の使用時、図8(a)に示すように、エアフィルタ20から送気管50内に供給された呼吸用ガスは、患者側に流れ、患者に吸引される。そして、患者が生成した呼気は、呼吸用ガスが流れる方向と逆方向に送気管50内を流れ、開口部50cから排出される。このため、呼気が、送気管50のさらに上流側に流れることは実質的にない。一方、流速の速い呼気が発生した場合、図8(b)に示すように、呼気は、開口部50cから排出されずに、送気管50内をさらに上流側に流れ、エアフィルタ20に到達する恐れがある。しかし、本実施形態では、上述したように、患者の吐出物が濾材22に捕捉されることで、微生物又はウィルスによって機器内が汚染されることを防止できる。
【0061】
一実施形態によれば、人工呼吸器1は、図9に示すように、さらに、患者が生成した呼気が流れる排気管51と接続され、筐体部10は、逆止弁44と、安全弁46と、をさらに有している。この実施形態において、濾材22は、呼気に含まれる微生物又はウィルスが筐体部10内に流れないよう微生物又はウィルスを捕集することが好ましい。逆止弁44及び安全弁46は、ガス供給部17内のガス供給口14より上流側の部分に配置されている。逆止弁44は、エアフィルタ20側の流路11の端部に設けられ、呼気の流路11内への侵入を遮断する。言い換えると、逆止弁44は、流路11の上流側から下流側に向かう方向にのみ気体の流れを許容する。安全弁46は、逆止弁44とエアフィルタ20と間に設けられ、送気管50及び排気管51が閉塞して送気管50及び排気管51内の圧力が許容値を超えて上昇した場合に、呼気を筐体部10内に排出するよう構成されている。なお、図9(a)は、人工呼吸器1の通常の使用時における気体の流れを説明する図であり、図9(b)は、人工呼吸器1に後述する異常等が発生した時における気体の流れを説明する図である。
【0062】
図9に示す例において、排気管51は、送気管50の延在方向の途中の部分と接続され、送気管50と患者側端50bを共有している。すなわち、排気管51及び送気管50は、人工呼吸器1からそれぞれ患者側に延びる途中で合流し、患者側端50bまで延びるY字形状の送排気管52を構成している。図9には、人工呼吸器1と、送排気管52と、を備える人工呼吸システム100が示されている。送排気管52には、図8に示したような、患者が生成した呼気を排出するための開口部は設けられていない。
【0063】
図9に示す例の人工呼吸器1は、さらに、排気管51から取り込まれた呼気が流れる流路49を有している。流路49は、排気管51側の端と逆側の端が開口され、途中に、排気弁48が配置されている。流路49は、流路11から隔離されている。排気弁48は、制御部40に接続されており、患者の気道内圧を基準値以上の高さに保つために送排気管52内の圧力を調整するよう、制御部40によって開度が制御される。
【0064】
この実施形態において、通常の使用時、ミキサチャンバ18から流れる呼吸用ガスは、逆止弁44、安全弁46を通り、エアフィルタ20を通過して送気管50内を患者側に流れる。患者が生成した呼気は、患者側端50bから排気管51を通って人工呼吸器1の流路49内に流れ込み、排気弁48を通って、人工呼吸器1の外側に排出される。なお、この人工呼吸システム100では、患者が咳やくしゃみをし、流速の速い呼気が発生した場合であっても、患者の呼気が、送気管50内を逆流して人工呼吸器1に到達することはない。一方、停電等の何らかの理由で人工呼吸器1がシャットアウトし、制御部40が排気弁48及びブロワ16aを制御できないような異常等が発生した場合、流路11、エアフィルタ20、送排気管52、及び流路49で構成される呼吸回路が閉塞し、呼吸用ガス及び呼気が流れないことが起こりうる。しかし、この実施形態では、かかる異常が発生して、呼吸回路内の圧力が許容値を超えた場合、安全弁が開放されて、呼吸回路内の呼気が筐体部10内に排出するため、呼吸回路の閉塞は回避される。このとき、患者の呼気は、送気管50を逆流してエアフィルタ20を通過し、呼気中の吐出物は、濾材22に捕捉される。これにより、安全弁46より上流側に、微生物又はウィルスが流れることを防止できる。
【0065】
この実施形態において、エアフィルタ20、濾材22、ケーシング26を、第1のエアフィルタ20、第1の濾材22、第1のケーシング26というとき、一実施形態によれば、人工呼吸器1は、さらに、筐体部10に装着される第2のエアフィルタ(図示せず)を備えることが好ましい。第2のエアフィルタは、気体中の微生物又はウィルスを捕集する第2の濾材(図示せず)と、第2の濾材を収容する第2のケーシング(図示せず)と、を有している。第2のケーシングは、排気管51内を流れた呼気が第2のケーシング内に流れ込むよう開口し、排気管の端と接続される接続部を備えることが好ましい。具体的に、第2のエアフィルタは、流路49の送排気管52側の端部に形成された装着部(図示せず)に装着される。第2のエアフィルタは、例えば、送気管50の代わりに排気管51に接続される点、及び、流路11の代わりに流路49と接続される点を除いて、第1のエアフィルタ20と同様に構成される。排気管51と接続される第2のエアフィルタの接続部は、呼気が流れる方向に排気管51と嵌め合わせられるよう構成されていることが好ましい。排気管51は、例えば、送気管50と同様に、断面が円形であり、約10~25mmの内径を有している。排気管51は、ISO 5356あるいはISO 5367に準拠したものが好適に用いられる。
【0066】
図9(a)に示す人工呼吸器1では、流路49は、常に呼気に晒され、微生物又はウィルスで汚染されやすいため、例えば別の患者の呼吸に用いたときに、流路49に付着した微生物又はウィルスが排気管51を伝って患者側に移動しないよう、流路49は、例えば、制御弁48と一体の部品として筐体部10から取り外され、滅菌処理される、あるいは、新たな、制御弁付き流路と交換される。しかし、このような滅菌処理が行われずに、汚染された人工呼吸器1が別の患者に使用されるおそれがある。この実施形態では、第2のエアフィルタを備えることで、患者の呼気に含まれる吐出物を第2の濾材に捕捉させることができ、流路49及び排気弁48の汚染を防止できる。このため、流路49及び排気弁48の滅菌処理等を省略でき、滅菌処理等を行われずに汚染された人工呼吸器1が別の患者に使用されるリスクを回避できる。
【0067】
一実施形態によれば、図8に示す人工呼吸システム100は、さらに、送気管50の開口部50cに接続される第3のエアフィルタ(図示せず)を備えていることも好ましい。第3のエアフィルタは、例えば、2つの接続部のうち、一方の接続部(図示せず)が開口部50cと接続され、他方の接続部(図示せず)が病室等の室内に開放される点を除いて、第1のエアフィルタ20と同様に構成される。このような第3のエアフィルタを備えることによって、開口部50cを通過した呼気中の吐出物は第3のエアフィルタの濾材に捕捉されるため、微生物やウィルスによって室内が汚染されることを抑制できる。
【0068】
取込用フィルタ30は、外気取込口13が開口する流路11の端部に形成された装着部(図示せず)に装着される。取込用フィルタ30は、気体中の塵埃等の微粒子を捕集する濾材(図示せず)と、濾材を収容するケーシング(図示せず)と、を有している。ケーシングは、外気を取り込むよう開口した開口部(図示せず)を有している。また、ケーシングは、濾材を通過した外気が外気取込口13を介して流路11内に流れ込むよう開口し、流路11の装着部に装着されるよう構成された出口側接続部(図示せず)を備える。このような取込用フィルタ30を備えることにより、清浄化された呼吸用ガスを患者側に供給することができる。取込用フィルタ30は、例えば、筐体部10内に装着される。
【0069】
(人工呼吸システム)
本実施形態の人工呼吸システムは、人工呼吸器と、送気管と、を含む。送気管は、人工呼吸器と接続され、呼吸用ガスを患者側に送る部材である。人工呼吸器は、筐体部と、エアフィルタと、を備える。筐体部は、呼吸用ガスが流れる流路を有する部分である。エアフィルタは、筐体部に装着され、流路を流れた呼吸用ガスを通過させる部分である。エアフィルタは、気体中の微生物又はウィルスを捕集する濾材と、濾材を収容するケーシングと、を有している。ケーシングは、濾材を通過した呼吸用ガスを送気管内に供給するよう開口し、送気管の端と接続される出口側接続部を備える。
【0070】
本実施形態の人工呼吸システムにおいて、人工呼吸器は、好ましくは、上記説明した人工呼吸器1であり、送気管は、好ましくは、上記説明した送気管50あるいは送排気管52の一部をなす送気管50である。図8及び図9に示した人工呼吸システム100はそれぞれ、本実施形態の人工呼吸システムの好ましい一例である。
【0071】
送気管50の途中には、特許文献1等に記載された従来公知のエアフィルタを配置することができる。
【0072】
以上、本発明の人工呼吸器、及び人工呼吸システムについて詳細に説明したが、本発明の人工呼吸器、及び人工呼吸システムは上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0073】
1 人工呼吸器
10 筐体部
11 流路
12 酸素取込口
13 外気取込口
14 ガス供給口
15 酸素供給部
15a 圧力センサ
15b 制御弁
15c 流量センサ
16 空気供給部
16a ブロワ
16b 流量センサ
17 ガス供給部
17a 酸素センサ
18 ミキサチャンバ
19 装着部
19a ネジ孔
20 エアフィルタ
22 濾材
26 ケーシング
27 入口側部材
27a 入口側接続部
28 出口側部材
28a 出口側接続部
28b フランジ部
28c ネジ孔
30 取込用フィルタ
40 制御部
42 ディスプレイ
48 排気弁
49 流路
50 送気管
50a 機器側端
50b 患者側端
51 排気管
52 送排気管
100 人工呼吸システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9