IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】吸収体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/08 20060101AFI20230411BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230411BHJP
   A61L 15/28 20060101ALI20230411BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08L1/08
C08L1/02
A61L15/28 200
A61F13/53 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019036714
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139089
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】幸田 拓也
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】特開2015-178099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-1/32
A61L 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー及びセルロース誘導体を含有する吸水性組成物を含有する吸収体であって、
前記セルロース誘導体は、1質量%水溶液の25℃における粘度が4000mPa・s以上であり、且つエーテル化度が0.4以上0.8以下であり、
前記吸水性組成物における前記セルロースナノファイバーの含有量をC1とし、前記吸水性組成物における前記セルロース誘導体の含有量をC2としたとき、C1とC2との比率であるC1:C2が、1:1~1:20である、吸収体。
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、及びカルボキシエチルセルロース塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1に記載の吸収体。
【請求項3】
前記セルロース誘導体の前記粘度が4000mPa・s以上30000mPa・s以下である、請求項1又は2に記載の吸収体。
【請求項4】
前記セルロース誘導体の前記粘度が6000mPa・s以上20000mPa・s以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の吸収体。
【請求項5】
前記セルロース誘導体の前記エーテル化度が0.5以上0.75以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の吸収体。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の吸収体の製造方法であって、
前記セルロースナノファイバー及び前記セルロース誘導体を液中で混合し、得られた混合溶液を乾燥し、前記吸水性組成物を得る、吸収体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸水性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、パルプ等から得られる微細な繊維であり、生産時または廃棄時における環境への負荷が少ない素材として知られている。セルロースナノファイバーは、親水性が高く、優れた増粘性を有しており、食品、医療品、塗料等の幅広い分野に利用されることが期待されている。しかし、乾燥状態のセルロースナノファイバーは、凝集力が高いため、水に対する分散性が低い。このような問題を解決する技術として、特許文献1には、アニオン変性セルロースナノファイバーに対して、水溶性高分子を所定量含有している、乾燥固形物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/107995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、セルロースナノファイバーをゲル化剤や吸収材として用いることが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の乾燥固形物は、吸収性物品に用いられる吸収性材料としての吸収性能が不十分であった。
【0005】
したがって、本発明の課題は、吸収性能を向上させた吸水性組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セルロースナノファイバー及びセルロース誘導体を含有する吸水性組成物であって、前記セルロース誘導体は、1質量%水溶液の25℃における粘度が1000mPa・s以上であり、且つエーテル化度が0.9未満である、吸水性組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、前記吸水性組成物の製造方法であって、前記セルロースナノファイバー及び前記セルロース誘導体を液中で混合し、得られた混合溶液を乾燥する、吸水性組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸水性組成物は、優れた吸収性能を有する。本発明の吸水性組成物の製造方法によれば、優れた吸収性能を有する吸水性組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の吸水性組成物は、セルロースナノファイバー及びセルロース誘導体を含有している。以下、本発明の吸水性組成物を単に「吸水性組成物」ともいい、セルロースナノファイバーをCNFともいう。CNFは、その繊維径が3nm以上500nm以下であり、繊維長が500nm以上1000nm以下である、微細なセルロース繊維である。
【0010】
CNFは、前記の原料セルロース繊維に微細化処理を施す方法や、酢酸菌等のバクテリアによって合成する方法等の公知の方法によって製造することができる。前記微細化処理としては、高圧ホモジナイザー等の解繊装置を用いた物理的処理や、セルラーゼ等の酵素や触媒を用いた酸化反応によってセルロース繊維をほぐす化学的処理が挙げられ、これらの処理は組み合わせて用いることができる。
前記原料セルロース繊維としては、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
CNFは、セルロース分子鎖におけるセルロースの水酸基が変性されたものであってもよい。このようなCNFとしては、セルロースの水酸基が、カルボキシ基などに酸化されたものや、エステル化されたもの、エーテル化されたもの等、セルロース繊維に他の官能基が導入されたものが挙げられる。CNFの分散性を向上させる観点から、CNFは、アニオン性基が導入された、アニオン変性CNFであることが好ましい。アニオン変性CNFに含まれるアニオン性基としては、アルデヒド基、カルボキシ基、硫酸基、及びリン酸基などが挙げられるが、より微細なCNFが得られるという観点から、カルボキシ基、リン酸基であることが好ましい。
【0012】
アニオン変性CNFは、セルロースの水酸基を酸化してアニオン性基に変換する方法や、アニオン性基を有する化合物、その酸無水物、又はそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種をセルロースの水酸基に反応させる方法等の公知の方法によって得られる。例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて、セルロースの水酸基を酸化処理する方法(特開2011-140632号公報)等が挙げられる。
【0013】
セルロース誘導体は、セルロースを部分的に変性したものであり、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、又はこれらの塩等が挙げられる。前記塩としては、水溶性塩が好ましく用いられ、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩や、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩等から選択される一種以上の金属塩が挙げられる。吸水性組成物には、これら成分から選ばれる1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。CNFの凝集を効果的に抑制する観点から、セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、及びカルボキシエチルセルロース塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0014】
セルロース誘導体は、1質量%水溶液の25℃における粘度が1000mPa・s以上であるが、吸収量を向上させる観点から、好ましくは4000mPa・s以上、より好ましくは6000mPa・s以上であり、また好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下であり、また好ましくは4000mPa・s以上30000mPa・s以下、より好ましくは6000mPa・s以上20000mPa・s以下である。セルロース誘導体の1質量%水溶液の25℃における粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-10)を用いて、ローターNo.4、回転速度30rpm、60秒間の測定条件で測定される。
【0015】
セルロース誘導体は、エーテル化度が0.9未満であり、吸収量を向上させる観点から、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上であり、また好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下であり、また好ましくは0.4以上0.8以下、より好ましくは0.5以上0.75以下である。前記エーテル化度は、以下の測定方法により測定される。
【0016】
〔エーテル化度の測定方法〕
エーテル化度は、灰化測定法を用いて測定される。試料(セルロース誘導体)を約0.7gを精秤し、ろ紙に包んで磁性ルツボ中に入れ、600℃で充分に灰化させる。これを冷却後、500mLビーカーに移し、水約250mL、更に0.05モル/L硫酸35mLを加えて30分間煮沸した後、冷却する。これにフェノールフタレイン指示薬を加えて、過剰の酸を0.1モル/L水酸化カリウムで逆滴定して、次式によりエーテル化度を算出する。
エーテル化度=162×A/(10000-80×A)
式中のAは試料1g中の結合アルカリに消費された0.05モル/L硫酸のmL数である。
【0017】
CNFとセルロース誘導体とは、ろ過処理によって、吸水性組成物から分離可能である。前記ろ過処理は以下のとおりである。CNFとセルロース誘導体とからなる吸水性組成物を、イオン交換水に対して該吸水性組成物の濃度が0.1質量%になるように希釈し、希釈水溶液を作製する。希釈水溶液に対し、孔径0.5umのポリテトラフルオロエチレン製のろ過フィルターを使用して、遠心加速度12000×gで10分間の遠心ろ過を行う。遠心ろ過を行うと、CNFはろ過フィルターにとどまり、セルロース誘導体はろ過フィルターを通過する。これにより、CNFとセルロース誘導体を分離することができる。
吸水性組成物に用いられるCNF及びセルロース誘導体の、粘度やエーテル化度等の各種特性は、該吸水性組成物から分離したCNF及びセルロース誘導体を用いて測定することができる。
【0018】
乾燥状態のCNFの水に対する分散性を向上させる観点から、特許文献1のように、CNFとセルロース誘導体との混合液を乾燥したものを用いることが知られている。本発明者は、CNFの分散性とセルロース誘導体との関係を鋭意検討した結果、前述した粘度を有し、且つ前述したエーテル化度を有するセルロース誘導体が、CNFの水に対する分散性を効果的に高めると考察した上で、本発明を完成させた。本発明の吸水性組成物は、前述した粘度を有し、且つ前述したエーテル化度を有するセルロース誘導体を用いることによって、ゲル化して吸収した水を良好に保持できる。即ち、優れた吸収性能を有する。本発明の吸水性組成物は、おむつ等の吸収性物品の吸収性材料として好ましく用いられる。
【0019】
吸収性能をより向上させる観点から、吸水性組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量をC1とし、該吸水性組成物における前記セルロース誘導体の含有量をC2としたとき、C1とC2との比率であるC1:C2が、好ましくは1:1~1:100、より好ましくは1:2~1:50、さらに好ましくは1:3~1:20である。特に断りがない限り、本明細書において含有量は質量基準である。
【0020】
CNFの水に対する分散性をより向上させる観点からセルロース誘導体は、質量平均分子量(Mw)が好ましくは5000以上100万以下、より好ましくは1万以上80万以下、さらに好ましくは10万以上60万以下である。質量平均分子量は、一般的なゲル浸透クロマトグラフィ(例えば東ソー社製HLC-8020)を用いて測定できる。尚、測定の際に使用するカラムは、予想される質量平均分子量やイオン性を考慮し、適宜使い分ける。
【0021】
吸水速度を向上させて、吸収性能を向上させる観点から、CNFは、以下の特性を有することが好ましい。
CNFの平均繊維長は、好ましくは500nm以上、より好ましくは000nm以上であり、また好ましくは000nm以下、より好ましくは3000nm以下であり、また好ましくは500nm以上5000nm以下、より好ましくは1000nm以上3000nm以下である。
CNFの平均繊維径は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上であり、また好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下であり、また好ましくは3nm以上300nm以下、より好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0022】
前記の平均繊維長及び平均繊維径は、例えば固形分濃度0.0001質量%の吸水性組成物に、水又はエタノールを加えた分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中に含まれる5本以上の任意のCNFを選択し、平均繊維長及び平均繊維径を測定する。
【0023】
吸収性能を向上させる観点から、CNFの平均アスペクト比、すなわち繊維長/繊維径の値は、好ましくは50以上2500以下、より好ましくは75以上2000以下、さらに好ましくは100以上1500以下である。
【0024】
CNF及びセルロース誘導体は、市販のものを購入して使用することができる。CNFの市販品としては、例えば、第一工業株式会社製の「レオクリスタ」、スギノマシン社製の「BiNFi-S」、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」等が挙げられる。CNFは、一般的に水に分散した状態で市販されている。
セルロース誘導体の市販品としては、例えば、第一工業株式会社製の「セロゲン」、三晶社製の「CEKOL」、ダイセルファインケム社製の「CMCダイセル」等が挙げられる。
【0025】
吸水性組成物は、前記のCNF及びセルロース誘導体以外の他の成分を含んでいてもよく、例えば、フィラー、顔料、染料、香料、防腐剤、酸化防止剤消臭剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。他の成分を含む場合、吸水性組成物中の他の成分の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。他の成分を複数種類含む場合、これらの合計含有量が、上記の範囲内であることが好ましい。
【0026】
吸水性組成物は、乾燥により形成された固形物である。例えば、吸水性組成物は、粒子状、粉末状、繊維状、多孔質状又はシート状の乾燥固形物として用いられる。吸水性組成物の形態は、造粒等の加工方法によって、用途に応じた任意の大きさ又は形状にすることができる。例えば、吸水性組成物を吸収性物品の吸収性材料として用いる場合、吸水性組成物の形態は、粉末状の乾燥固形物であることが好ましく、大きさは直径300μm程度であることが好ましい。吸収性材料として、容易に取り扱う観点から、吸水性組成物に含まれる水分量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0027】
吸水性組成物がシート状の乾燥固形物である場合、該吸水性組成物の厚みは、好ましくは0.1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上10以下μmである。
【0028】
吸水性組成物は、好ましくは自重の50倍以上、より好ましくは自重の100倍以上、さらに好ましくは自重の200倍以上の水を吸収して保持できるものであることが好ましい。この水を吸収して保持し得る量の上限値に特に制限はないが、自重の500倍を上限の目安とすることができる。水を吸収して保持し得る量は、例えば、後述する実施例の〔ゲル化の評価〕における最大液保持量として求められる。
【0029】
前述したように、本発明の吸水性組成物は、おむつ等の吸収性物品の吸収性材料として好ましく用いられる。吸収性物品は、主として尿、経血等の身体から排泄される体液を吸収保持するために用いられるものである。吸収性物品には、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。吸収体は、吸収性物品における主たる吸液部位であり、吸収性材料を含んでいる。吸収性物品はさらに、その具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。
【0030】
次に、本発明の吸水性組成物の製造方法を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本製造方法では、前述したCNF及びセルロース誘導体を水等の分散媒からなる液中で混合し、得られた混合溶液を乾燥して、吸水性組成物を製造する。以下、本製造方法において、CNF及びセルロース誘導体を液中で混合して、混合溶液を得る工程を混合工程、該混合用液を乾燥する工程を乾燥工程ともいう。
【0031】
本製造方法では、前述したCNF及びセルロース誘導体を用いる。CNFは、水等の分散媒に分散した状態のもの、即ちCNF分散液を用いる。混合工程では、CNF分散液と、セルロース誘導体とを混合して、混合溶液を得る。この際、水やアルコール系分散媒を加えて、混合溶液を調製してもよい。アルコール系分散媒としては、エタノール、2-プロパノール、メタノール、ブタノール等の1価のアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0032】
CNF及びセルロース誘導体の混合を容易に行う観点から、混合溶液におけるCNFの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下である。上記と同様の観点から、混合溶液におけるセルロース誘導体の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下である。
【0033】
混合溶液中のCNFの含有量及びセルロース誘導体の各含有量は、吸水性組成物中のこれらの各含有量の比率(C1:C2)が、上述した範囲内となるようにすることが好ましい。
【0034】
混合溶液中にCNF及びセルロース誘導体を均一に分散させる観点から、混合溶液における分散媒は、水を主体とすることが好ましい。具体的には、混合溶液における水の含有量が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、また好ましくは100質量%未満、であり、また好ましくは80質量%以下100質量%未満、より好ましくは90質量%以上100質量%未満である。
【0035】
混合工程では、CNF及びセルロース誘導体を分散媒中に溶解させて、混合溶液を得る。本工程において、分散媒中にCNF及びセルロース誘導体を溶解、即ち分散させる方法は、特に制限されず、公知の分散方法を用いることができる。公知の分散方法としては、せん断処理、超音波処理、高圧噴射処理、振とう処理等の処理が挙げられる。混合工程では、これら処理から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて行うことができる。せん断処理には、撹拌機等のせん断処理装置を用いることができる。超音波処理には、超音波ホモジナイザー等の超音波処理装置等を用いることができる。高圧噴射処理には、圧力式ホモジナイザー等の高圧噴射処理装置を用いることができる。振とう処理には、ペイントシェーカー等の振とう処理装置を用いることができる。混合工程は、CNF及びセルロース誘導体の分散処理は、常温(25℃)で行ってもよく、混合槽を加温(40℃程度)して行ってもよい。
【0036】
混合工程において、CNF及びセルロース誘導体を分散媒中に分散させる順番は特に制限されない。即ち、CNFを分散させた分散液に、セルロース誘導体を加えて混合してもよく、セルロース誘導体を分散させた分散液に、CNFを加えて混合してもよい。また、分散媒が入った混合槽に、CNFとセルロース誘導体とを同時に加えてもよい。
【0037】
乾燥工程は、混合溶液を乾燥して、吸水性組成物を得る。乾燥工程に用いられる乾燥方法は、吸水性組成物の品質を維持できる方法であれば特に制限されず、例えば熱風やヒーター、真空による乾燥、フリーズドライ、スプレードライ等の方法が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いことができる。吸水性組成物は、乾燥工程に用いられる乾燥方法に応じて、シート状、粉末状等の種々の形態の乾燥固形物として得られる。乾燥固形物がシート状である場合、吸収性材料としての取り扱い性を向上させる観点から、当該乾燥固形物を1m~3mm角に裁断することが好ましい。
【0038】
以上、本発明について説明したが、本発明は前述した実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0039】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の吸水性組成物及びその製造方法を開示する。
<1>
セルロースナノファイバー及びセルロース誘導体を含有する吸水性組成物であって、
前記セルロース誘導体は、1質量%水溶液の25℃における粘度が1000mPa・s以上であり、且つエーテル化度が0.9未満である、吸水性組成物。
【0040】
<2>
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、又はこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、前記<1>に記載の吸水性組成物。
<3>
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、及びカルボキシエチルセルロース塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、前記<1>に記載の吸水性組成物。
<4>
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース塩である、前記<1>に記載の吸水性組成物。
<5>
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロースナトリウムである、前記<1>に記載の吸水性組成物。
<6>
前記セルロース誘導体の前記粘度が4000mPa・s以上30000mPa・s以下である、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<7>
前記セルロース誘導体の前記粘度が6000mPa・s以上20000mPa・s以下である、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<8>
前記セルロース誘導体の前記エーテル化度が0.4以上0.8以下である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<9>
前記セルロース誘導体の前記エーテル化度が0.5以上0.75以下である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<10>
前記セルロース誘導体の平均分子量が5000以上100万以下、より好ましくは1万以上80万以下、さらに好ましくは10万以上60万以下である、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<11>
前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が、500nm以上5000nm以下であり、好ましくは1000nm以上3000nm以下である、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<12>
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が、3nm以上300nm以下であり、好ましくは5nm以上100nm以下である、前記<1>~<11>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<13>
前記セルロースナノファイバーの繊維長/繊維径の値は、50以上2500以下であり、好ましくは75以上2000以下であり、より好ましくは100以上1500以下である、前記<1>~<12>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<14>
前記吸水性組成物における前記セルロースナノファイバーの含有量をC1とし、前記吸水性組成物における前記セルロース誘導体の含有量をC2としたとき、C1とC2との比率であるC1:C2が、1:1~1:100である、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<15>
前記吸水性組成物における前記セルロースナノファイバーの含有量をC1とし、前記吸水性組成物における前記セルロース誘導体の含有量をC2としたとき、C1とC2との比率であるC1:C2が、1:2~1:50である、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<16>
前記吸水性組成物における前記セルロースナノファイバーの含有量をC1とし、前記吸水性組成物における前記セルロース誘導体の含有量をC2としたとき、C1とC2との比率であるC1:C2が、1:3~1:20である、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<17>
前記吸水性組成物が自重の50倍以上、好ましくは自重の100倍以上、より好ましくは自重の200倍以上の水を吸収して保持できるものである、前記<1>~<16>のいずれか1に記載の吸水性組成物。
<18>
前記<1>~<17>のいずれか1に記載の吸水性組成物の製造方法であって、
前記セルロースナノファイバー及び前記セルロース誘導体を液中で混合し、得られた混合溶液を乾燥する、吸水性組成物の製造方法。
<19>
前記混合溶液における前記セルロースナノファイバーの含有量が、0.1質量%以上1質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下である、前記<18>に記載の吸水性組成物の製造方法。
<20>
前記混合溶液における前記セルロース誘導体の含有量が、0.1質量%以上1質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下である、前記<18>又は<19>に記載の吸水性組成物の製造方法。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、実施例1及び6は参考例である。
【0042】
〔実施例1〕
CNFとして、カルボキシ基を導入したCNFの水分散液(CNF2.5質量%、商品名「レオクリスタ」、第一工業製薬株式会社製)と、セルロース誘導体として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名「セロゲンBSH-6」、第一工業製薬株式会社製)とを用意した。以下、カルボキシメチルセルロースナトリウムをCMC-Naともいう。CNFの水分散液に、CMC-Naとイオン交換水とを混合し、CNFとCMC-Naとの混合溶液を調製した。この混合溶液中のCNFの含有量、及びセルロース誘導体の含有量はそれぞれ0.4質量%であった。次いで、280mm×200mm、厚さ20mmの金属プレート上に、およそ50mLの混合溶液を均一に塗布し、これを105℃に設定された電気乾燥炉の中で約5時間乾燥させ、その後常温環境下で約30分間放置し、前記プレート上にフィルム状の乾燥物を形成した。得られたフィルム状の乾燥物を、はさみを用いて1.0mm角程度に細かく裁断し、これを実施例1の吸水性組成物とした。各実施例及び比較例の吸水性組成物について、CNFの含有量C1とセルロース誘導体の含有量C2との比率(C1:C2)、セルロース誘導体の1質量%水溶液の25℃における粘度、及び該セルロース誘導体のエーテル化度を、前述した測定方法により測定した。これら測定結果を下記表1に示す。
【0043】
〔実施例2及び3、並びに比較例1及び2〕
1質量%水溶液の25℃における粘度が異なるCMC-Naを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、吸水性組成物を調製した。具体的には、以下のものを用いた。
実施例2:商品名「セロゲンBSH-12」、第一工業製薬株式会社製
実施例3:商品名「セロゲンMP-60」、第一工業製薬株式会社製
比較例1:商品名「セロゲン7A」、第一工業製薬株式会社製
比較例2:商品名「セロゲンHE1500」、第一工業製薬株式会社製
【0044】
〔実施例4、5及び6〕
吸水性組成物中のCNFの含有量C1とセルロース誘導体の含有量C2との比率(C1:C2)を、下記表1に示すとおりに変えた点以外は、実施例2と同様の方法により、吸水性組成物を調製した。
【0045】
〔比較例3及び4〕
比較例3では、セルロース誘導体を用いなかった点以外は、実施例1と同様の方法により、サンプルを調製した。比較例4では、CNFを用いなかった以外は、実施例1と同様の方法により、吸水性組成物を調製した。
【0046】
〔ゲル化の評価〕
20mL用のバイアル瓶(商品名「スクリュー瓶」、マルエム株式会社製)に、0.03gの吸水性組成物を入れ、さらに該吸水性組成物の量、即ち自重の100倍量(3.0g)のイオン交換水を加えた。この20mL用のバイアル瓶を、蓋を鉛直方向の上、底面を鉛直方向の下にした状態で、手で5秒間振とうさせて、バイアル瓶の中身がゲル化しているか否かを目視で確認した後、さらに手で振とうし続け、バイアル瓶の中身がゲル化しているか否かを10秒毎に目視で確認した。この目視確認では、バイアル瓶の蓋が鉛直方向の下、底面が鉛直方向の上になるように、バイアル瓶を上下逆に静置した状態で、該バイアル瓶の中身が30秒の間に落下してこなかった場合を、ゲル化したと判断した。ゲル化が確認されたサンプルについて、液を注入してからゲル化するまでの時間を「ゲル化時間」として計測した。振とう開始から60分間経過してもゲル化しなかったものは、ゲル化しないと判断した。自重の100倍量のイオン交換水を加えて、ゲル化を確認できた場合は、イオン交換水の量を、吸水性組成物の自重の200倍量(6.0g)に増やし、上記と同様の方法で、ゲル化の有無の確認、及びゲル化時間を計測した。また、自重の100倍量又は200倍量のイオン交換水を加え、振とう開始から60分間経過してもゲル化しなかった場合、吸水性組成物の最大液保持量を測定した。具体的には、バイアル瓶を上下逆に静置した状態で、落下した該バイアル瓶の中身、即ち液だれをした液量を測定し、振とう前にバイアル瓶に加えたイオン交換水の量から、該液だれをした液量を減算して、これを吸水性組成物の最大液保持量とした。各サンプルのゲル化の有無、ゲル化時間、及び最大液保持量を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1~6では、100倍量のイオン交換水をゲル化することができた。即ち、実施例1~6の吸水性組成物は、自重の100倍量の水を吸収して保持できた。これは、吸水性組成物中のCNFの分散性が高いことに起因すると考えられる。したがって、表1に示す結果より、実施例1~6の吸水性組成物は、おむつ等の吸収性物品に用いられる吸収性材料として、十分な吸収性能を有することが示された。また、実施例1~3の結果より、セルロース誘導体の1質量%水溶液の25℃における粘度を高くすることが、吸水性組成物の吸収性能を向上させるのに有効であることが示された。また、実施例2、4、5及び6の結果より、吸水性組成物中のセルロース誘導体の含有量C2を、CNFの含有量C1よりも多くすることが、吸水性組成物の液保持能を向上させるのに有効であることが示された。さらに、吸水性組成物に用いられるセルロース誘導体について、1質量%水溶液の25℃における粘度が低過ぎたり、あるいはエーテル化度が高すぎると、水を吸収して保持する効果が奏されないことが示された。