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特許7260373土石流の発生危険度評価方法、及び土石流の発生危険度評価プログラム
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  • 特許-土石流の発生危険度評価方法、及び土石流の発生危険度評価プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】土石流の発生危険度評価方法、及び土石流の発生危険度評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230411BHJP
   B61L 23/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
E02D17/20 106
B61L23/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019071329
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020169488
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大木 基裕
(72)【発明者】
【氏名】新海 英昌
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 秀麿
(72)【発明者】
【氏名】浅野 嘉文
(72)【発明者】
【氏名】宮田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】原口 勝則
(72)【発明者】
【氏名】横田 諭
(72)【発明者】
【氏名】澤村 朱美
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078542(JP,A)
【文献】特開2008-121185(JP,A)
【文献】布川修、太田直之、石川智史,地形を考慮した土石流の発生危険性評価,鉄道総研報告,日本,公益財団法人 鉄道総合技術研究所,2013年11月,第27巻、第11号,第35-40頁
【文献】鈴木博人、中北英一、高橋日出男,レーダー雨量の列車運転規制への活用に関する研究,土木学会論文集B1(水工学),日本,公益社団法人 土木学会,2017年03月,第73巻、第3号,第54-70頁
【文献】沖村孝、鳥居宣之、尾崎幸忠、南部光広、原口勝則,豪雨による土砂災害を対象としたリアルタイムハザードシステムの構築,砂防学会誌,日本,公益社団法人 砂防学会,2011年03月,第63巻、第6号,第4-12頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの表土層厚を設定する工程と、
現在の雨量と、前記複数のメッシュの勾配及び前記表土層厚とに基づいて、前記複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出する工程と、
前記渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、前記渓流域における鉄道車両の運行規制を判断する工程と、
を備え、
前記危険面積は、前記複数のメッシュのうち、前記安全率が閾値以下であるメッシュの合計面積として算出され
前記設定する工程では、各メッシュの勾配に基づいて前記表土層厚を推定する推定式を用いて各メッシュの前記表土層厚を設定し、
前記推定式は、まず仮設定され、次に仮設定状態の前記推定式で仮算出された前記安全率に基づいて調整された後、前記渓流域の土層の測定によって再調整される、土石流の発生危険度評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の土石流の発生危険度評価方法であって、
前記判断する工程では、前記崩壊面積率が前記斜面面積に応じて設定された閾値を超えた場合に、前記鉄道車両の運行を規制する、土石流の発生危険度評価方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の土石流の発生危険度評価方法であって、
前記判断する工程では、前記複数のメッシュのうち、勾配が20°以上であるメッシュの合計面積を前記斜面面積とする、土石流の発生危険度評価方法。
【請求項4】
現在の雨量と、モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの勾配及び表土層厚とに基づいて、前記複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出するステップと、
前記渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、前記渓流域における鉄道車両の運行規制を判断するステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記危険面積は、前記複数のメッシュのうち、前記安全率が閾値以下であるメッシュの合計面積として算出され
前記複数のメッシュそれぞれの前記表土層厚は、各メッシュの勾配に基づいて前記表土層厚を推定する推定式を用いて設定されたものであり、
前記推定式は、まず仮設定され、次に仮設定状態の前記推定式で仮算出された前記安全率に基づいて調整された後、前記渓流域の土層の測定によって再調整されたものである、土石流の発生危険度評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、土石流の発生危険度評価方法、及び土石流の発生危険度評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
渓流域では、集中豪雨等によって雨量が著しく大きくなると、渓流域の表層崩壊による崩壊型土石流が発生する。この土石流が渓流の下流域を走行する鉄道の軌道に到達すると、軌道上に土砂が堆積したり、軌道が破壊されたりする。
【0003】
そのため、鉄道車両の運行においては、崩壊型土石流の発生危険度の評価に基づいて運行規制を判断することが求められる。つまり、発生危険度が高いと評価された場合に、鉄道車両の運行を規制する必要がある。
【0004】
崩壊型土石流の発生危険度の評価方法としては、モデル化された渓流域における雨量、勾配、表土層厚等のパラメータに基づいて、土石流の発生危険度の変化を算出する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】沖村、鳥居、尾崎、南部、原口「豪雨による土砂災害を対象としたリアルタイムハザードシステムの構築」、砂防学会誌、Vol.63、No.6、p.4-12、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来方法は、発生危険度の評価によって住民を早期に避難させることを目的としている。そのため、ある程度先の時刻における発生危険度が評価される。一方、鉄道車両では、不要不急の運行規制の回避が強く望まれることから、より精度の高い土石流の発生危険度の評価が必要とされる。
【0007】
本開示の一局面は、鉄道車両の運行規制に適した土石流の発生危険度評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの表土層厚を設定する工程と、現在の雨量と、複数のメッシュの勾配及び表土層厚とに基づいて、複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出する工程と、渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、渓流域における鉄道車両の運行規制を判断する工程と、を備える土石流の発生危険度評価方法である。危険面積は、複数のメッシュのうち、安全率が閾値以下であるメッシュの合計面積として算出される。
【0009】
このような構成によれば、現在の雨量に基づいて渓流域を構成する各メッシュの安全率が算出されるため、短期間内に土石流が発生する可能性(つまり崩壊面積率)を精度よく算出できる。その結果、予測された雨量を用いて安全率を算出する場合に比べて、渓流域における土石流の発生危険度を鉄道車両の運行規制に適した高い精度で評価できる。
【0010】
本開示の一態様では、判断する工程では、崩壊面積率が斜面面積に応じて設定された閾値を超えた場合に、鉄道車両の運行を規制してもよい。このような構成によれば、渓流域の地形(つまり斜面形状)に合わせた発生危険度の評価を一意的に行うことができる。そのため、土石流の発生危険度に合わせた迅速かつ高精度な運行規制判断が可能となる。
【0011】
本開示の一態様では、判断する工程では、複数のメッシュのうち、勾配が20°以上であるメッシュの合計面積を斜面面積としてもよい。このような構成によれば、斜面崩壊が発生しにくい領域が斜面面積から除外されるので、崩壊面積率の変化がより顕著になる。その結果、閾値の設定が容易となるため、土石流の発生危険度の評価精度が向上する。
【0012】
本開示の一態様では、設定する工程では、各メッシュの勾配に基づいて表土層厚を推定する推定式を用いて各メッシュの表土層厚を設定してもよい。推定式は、渓流域の土層の測定によって調整されてもよい。このような構成によれば、各メッシュの表土層厚の設定値を、実際の渓流域の表土層厚に近づけることができる。そのため、安全率の算出精度が向上し、結果として土石流の発生危険度の評価精度が向上する。
【0013】
本開示の別の態様は、現在の雨量と、モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの勾配及び表土層厚とに基づいて、複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出するステップと、渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、渓流域における鉄道車両の運行規制を判断するステップと、をコンピュータに実行させる土石流の発生危険度評価プログラムである。危険面積は、複数のメッシュのうち、安全率が閾値以下であるメッシュの合計面積として算出される。
【0014】
このような構成によれば、現在の雨量に基づいて渓流域を構成する各メッシュの安全率が算出されるため、渓流域における土石流の発生危険度を鉄道車両の運行規制に適した高い精度で評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態における土石流の発生危険度評価方法のフロー図である。
図2図2は、実施形態における渓流域のモデルの一例を示す模式図である。
図3図3は、実施形態における推定式の調整の一例を示すグラフである。
図4図4は、実施形態における規制閾値の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.土石流の発生危険度評価方法]
図1に示す土石流の発生危険度評価方法(以下では、単に「評価方法」ともいう。)は、モデル化工程S10と、設定工程S20と、算出工程S30と、判断工程S40とを備える。
【0017】
本実施形態の評価方法は、山腹の渓流域における崩壊型土石流の発生危険度をリアルタイムで評価し、この評価に基づいて、渓流域に敷設された軌道を走行する鉄道車両の運行規制を判断する。
【0018】
<モデル化工程>
本工程では、発生危険度の評価(つまり運行規制の判断)を行う渓流域をモデル化する。具体的には、図2に示すように、渓流域1を複数のメッシュに分割する。
【0019】
メッシュの大きさは、例えば10m四方とされる。また、各メッシュには、表層面の勾配(つまり斜面勾配)が設定される。
【0020】
<設定工程>
本工程では、モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの地質、地形、土質及び表土層厚を設定する。
【0021】
各メッシュの地質は、実地調査に基づいて、あらかじめ区分されたカテゴリ(例えば6区分)から選択される。各メッシュの地形は、メッシュの勾配に基づいて、あらかじめ区分されたカテゴリ(例えば3区分)から選択される。
【0022】
各メッシュの土質は、選択された地質によって決定されるパラメータであり、後述する安全率の算出に用いられる。土質には、例えば、透水係数、単位体積重量、有効粘着力、有効内部摩擦角等が含まれる。
【0023】
各メッシュの表土層厚は、推定式を用いて設定される。各メッシュに用いる推定式は、渓流域(つまり路線)ごとに用意された複数の推定式の中から、各メッシュの地質及び地形に対応するものが選択される。つまり、表土層厚の設定前に、渓流域、地質及び地形の組み合わせごとに、複数の推定式があらかじめ用意される。
【0024】
推定式は、各メッシュの勾配に基づいて表土層厚を推定する。推定式は、勾配の入力により表土層厚を出力する関数である。各推定式は、それぞれ、渓流域の対応する領域(つまり、推定式が紐付けられた地質及び地形)の土層の測定によって調整される。
【0025】
具体的には、1つの地質及び地形の組み合わせに対して、図3に破線で示すように、1つの初期推定式E0を仮設定する。なお、図3中、横軸はメッシュの勾配θ(°)、縦軸は表土層厚H(m)を表している。
【0026】
初期推定式E0は、複数の線分の組み合わせによって構成されている。具体的には、初期推定式E0は、勾配が大きくなる図3の右方向に沿って、傾きが0の第1水平部分と、第1水平部分から表土層厚が小さくなる向きに傾斜した第1傾斜部分と、第1傾斜部分から連続し第1傾斜部分よりも緩やかに傾斜した(つまり、傾きの絶対値が小さい)第2傾斜部分と、第2傾斜部分から連続し傾きが0の第2水平部分とを有する。
【0027】
次に、初期推定式E0によって設定した表土層厚を用い、後述する算出工程S30で定義される安全率を仮算出する。仮算出された安全率が過小(つまり、発生危険度が過大)とならないように初期推定式E0を調整する。
【0028】
例えば、第1傾斜部分及び第2傾斜部分の傾き、第1傾斜部分と第2傾斜部分との接続点等を仮算出された安全率に基づいて調整する。これを一定回数繰り返すことで、図3に一点鎖線で示した第1調整推定式E1が設定される。
【0029】
次に、評価を行う渓流域の実際の勾配及び表土層厚を現地で計測する。図3中の複数の黒丸は計測結果を表す。このように計測された勾配と表土層厚との関係に基づいて、第1調整推定式E1をさらに調整する。このとき、計測時に観察された露岩の分布状況等が考慮されてもよい。この調整により、図3に二点鎖線で示した第2調整推定式E2が設定される。
【0030】
最後に、過去の土石流の発生時及び非発生時の雨量を用いて安全率を仮算出し、安全率と土石流の発生の有無との関係を検証する。検証結果に基づいて、第2調整推定式E2を再度調整することで、図3に実線で示した第3調整推定式E3が求められる。第3調整推定式E3が、本工程において表土層厚の設定に使用される。
【0031】
なお、本工程によって各メッシュの表土層厚等のパラメータが設定された後、渓流域の地形が変化しない間は、本実施形態の評価方法を繰り返す際にモデル化工程S10及び設定工程S20は省略できる。つまり、2回目以降の発生危険度の評価では、算出工程S30と判断工程S40とのみが実行されればよい。
【0032】
<算出工程>
本工程では、現在の雨量と、設定工程S20で設定された複数のメッシュの勾配及び表土層厚とに基づいて、複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出する。
【0033】
「現在の雨量」としては、例えば、現在から過去10分の間に測定された一定範囲(つまり降雨メッシュ)におけるレーダ雨量が使用できる。降雨メッシュは、渓流域をモデル化したメッシュと一致しなくてもよい。
【0034】
安全率Fは、複数のメッシュごとに、例えば、下記式(1)によってそれぞれ算出される。
【0035】
【数1】
【0036】
式(1)中、Hはメッシュの表土層厚(m)である。h(t)は時刻tにおける基岩面からの地下水位(m)であり、下記式(2)の連続の式及び式(3)のダルシー則によって求められる。θは、メッシュの勾配(°)である。γは土の単位体積重量(kN/m)であり、γsatは土の飽和単位体積重量(kN/m)であり、γは水の単位体積重量(kN/m)である。cは土の有効粘着力(kN/m)である。Φは土の有効内部摩擦角(°)である。
【0037】
【数2】
【0038】
式(2)及び式(3)中、rは雨量(つまり有効降雨強度)(mm/hr)である。λは有効間隙率である。kは透水係数(m/hr)である。qは単位時間当たりの単位幅流量(m/hr)であり、qxはx方向、qyはy方向の成分を示す。Iは動水勾配であり、Ixはx方向、Iyはy方向の成分を示す。
【0039】
<判断工程>
本工程では、渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、渓流域における鉄道車両の運行規制を判断する。本工程により、渓流域ごとに運行規制が判断される。
【0040】
危険面積は、複数のメッシュのうち、算出工程S30で算出した安全率が閾値以下であるメッシュ(図1での黒点)2の合計面積として算出される。つまり、安全率が閾値以下であるメッシュの数に、メッシュの面積を乗じたものが危険面積である。なお、安全率の閾値は、例えば1とされる。
【0041】
斜面面積は、複数のメッシュのうち、勾配が20°以上90°以下であるメッシュの合計面積である。つまり、斜面面積は、渓流域のうち、勾配が20°以上90°以下である領域の合計面積とされる。
【0042】
勾配が20°未満の領域は、例えば、治山技術基準で堆積区間に区分されているように、一般に斜面の崩壊が発生しない。そのため、勾配が20°未満の領域を崩壊面積率の算定に加えると、崩壊の発生し得ない領域を加味した発生危険度が評価される。したがって、勾配が20°以上の領域のみを考慮して崩壊面積率を算定することで、評価精度が高められる。
【0043】
本工程では、崩壊面積率があらかじめ定めた規制閾値を超えた場合に、鉄道車両の運行を規制する。規制閾値は、斜面面積に応じて設定される。つまり、例えば、規制閾値は、図4に示すように、斜面面積の増加に伴って徐々に小さくなる関数として設定される。なお、図4中、横軸は斜面面積A0(km)、縦軸は崩壊面積率R(%)を表している。
【0044】
図4のような規制閾値では、斜面面積A0が大きくなるほど閾値が小さくなるため、より小さな崩壊面積率で運行が規制される。この規制閾値は、例えば、過去の土石流発生事例のデータを用い、土石流発生時の崩壊面積率が全て規制閾値を超えるように設定することで得られる。
【0045】
[1-2.土石流の発生危険度評価プログラム]
上述の評価方法は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリ等の記憶部と、キーボード、ディスプレイ等の入出力部とを有するコンピュータによって実行することができる。
【0046】
コンピュータは、土石流の発生危険度評価プログラムによって、少なくとも、現在の雨量と、モデル化された渓流域に含まれる複数のメッシュの勾配及び表土層厚とに基づいて、複数のメッシュごとに斜面の安定性を示す安全率を算出するステップと、渓流域における斜面面積に対する危険面積の比である崩壊面積率に基づいて、渓流域における鉄道車両の運行規制を判断するステップとを実行する。
【0047】
コンピュータは、例えば記憶部に記憶された、土石流の発生危険度評価プログラムによって各ステップを実行する。
【0048】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)現在の雨量に基づいて渓流域を構成する各メッシュの安全率が算出されるため、短期間内に土石流が発生する可能性(つまり崩壊面積率)を精度よく算出できる。その結果、予測された雨量を用いて安全率を算出する場合に比べて、渓流域における土石流の発生危険度を鉄道車両の運行規制に適した高い精度で評価できる。
【0049】
(1b)斜面面積に応じて設定された規制閾値を用いることで、渓流域の地形に合わせた発生危険度の評価を一意的に行うことができる。そのため、土石流の発生危険度に合わせた迅速かつ高精度な運行規制判断が可能となる。
【0050】
(1c)勾配が20°以上であるメッシュの合計面積を斜面面積として崩壊面積率を算出することで、崩壊面積率の変化がより顕著になる。その結果、規制閾値の設定が容易となるため、土石流の発生危険度の評価精度が向上する。
【0051】
(1d)表土層厚の推定式が渓流域の土層の測定によって調整されることで、各メッシュの表土層厚の設定値を、実際の渓流域の表土層厚に近づけることができる。そのため、安全率の算出精度が向上し、結果として土石流の発生危険度の評価精度が向上する。
【0052】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0053】
(2a)上記実施形態の土石流の発生危険度評価方法において、規制閾値は、必ずしも斜面面積に応じて設定されなくてもよい。つまり、規制閾値は、斜面面積に関係なく一定であってもよい。
【0054】
(2b)上記実施形態の土石流の発生危険度評価方法において、斜面面積は、必ずしも勾配が20°以上であるメッシュの合計面積でなくてもよい。斜面面積は、勾配が20°未満のメッシュの面積を含んでいてもよい。
【0055】
(2c)上記実施形態の土石流の発生危険度評価方法において、表土層厚の推定式は必ずしも土層の測定によって調整されなくてもよい。
【0056】
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0057】
1…渓流域、2…メッシュ。
図1
図2
図3
図4