(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】ポリアクリロニトリル系共重合体、炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維前駆体繊維の製造方法および炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/44 20060101AFI20230411BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20230411BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08F220/44
D01F6/18 E
D01F9/22
(21)【出願番号】P 2019075582
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藻寄 貴也
(72)【発明者】
【氏名】畳開 真之
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-264011(JP,A)
【文献】特開平11-012856(JP,A)
【文献】特開昭54-034423(JP,A)
【文献】特開2011-195361(JP,A)
【文献】特開2011-213586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
D01F 6/18
D01F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、少なくとも、アクリロニトリル系モノマーと、炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマーと、を有するポリアクリロニトリル系共重合体であり、
ポリアクリロニトリル系共重合体中に半金属原子を、ポリアクリロニトリル系共重合体の総量に対して0.01質量%以上0.08質量%未満含有
し、
前記炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマーが、半金属原子としてホウ素原子を有するビニル系モノマーであり、かつ
前記ホウ素原子を有するビニル系モノマーが、ビニルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸誘導体およびアリルホウ酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する成分である
ことを特徴とするポリアクリロニトリル系共重合体。
【請求項2】
共重合成分として、さらに、イタコン酸、アクリル酸およびメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種を有する請求項
1に記載のポリアクリロニトリル系共重合体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。
【請求項4】
請求項1
または2に記載のポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸溶液を紡糸する紡糸工程を含む炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項5】
前記紡糸工程において180℃以上の温度で熱処理を行う請求項
4に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項
3に記載の炭素繊維前駆体繊維を炭素化して炭素繊維を得る、炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体繊維に用いるポリアクリロニトリル系共重合体に関する。さらに詳しくは、少なくともアクリロニトリル成分と半金属原子を有するビニル系モノマー成分を有するポリアクリロニトリル系共重合体からなる重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は優れた機械特性、特に高い比強度・比弾性率を有することから、宇宙航空関係、レジャー用品及び工業材料等の各種補強材料の強化材として広く用いられている。また、その優れた機械特性から自動車などの軽量化が見込め、深刻化する二酸化炭素削減問題に対する一環として注目されている。
【0003】
炭素繊維は、前駆体である有機ポリマーから調整した繊維を酸素存在下に耐炎化処理し、次いで炭素化することで製造される。前駆体としてはセルロース、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、ピッチ、ポリアクリロニトリル(以下、単にPANと称することがある)等何種類かが挙げられるが、特にPAN系繊維から得られる炭素繊維は比強度、比弾性率などの力学特性に優れており、品質、性能を均一かつ安定的に製造できるため、工業的に大量に生産されている。その用途開発のためには、さらなる低コスト化と高性能化が重要である。
【0004】
炭素繊維前駆体繊維であるPAN系繊維は一般的に湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法により生産される。炭素繊維の製造コストを低減するためには、前駆体繊維であるPAN系繊維に対しても紡糸速度の向上が求められる。繊維の紡糸速度を向上させるためには、糸の乾燥工程や延伸工程で処理温度を上げることが効果的である。しかし、炭素繊維前駆体として用いられるPANは、熱的安定性が低く、熱処理温度を上げることにより糸の乾燥速度や延伸速度を向上させることが困難であった。そのため、多くの技術が提案されている。
【0005】
たとえば、延伸処理工程の高速化を目的として、スチーム延伸装置およびその処理方法(たとえば、特許文献1)が提案されているが、PANの熱的安定性は低いままであり、乾燥工程の高速化は困難である。また、ドープ溶液の熱的安定性を向上する技術(たとえば、特許文献2)が提案されているが、ドープ溶液中のPANのゲル化は抑制できるが、凝固工程後のPANの熱的安定性は低いままであり、紡糸速度の向上は困難である。
【0006】
一方、特許文献3には、炭素繊維の生産性を向上させるために、前駆体繊維にホウ素化合物を付与することが提案されているが、このような方法では、ホウ素が前駆体繊維中に均一に分散せず、十分な生産性を得ることは依然として困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-17229号公報
【文献】特開平8-246230号公報
【文献】特開平3-174019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、熱的安定性に優れ、熱処理温度の向上を可能とし、炭素繊維前駆体繊維の生産性と品質を両立することのできるポリアクリロニトリル系共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマー成分を有するポリアクリロニトリル系共重合体が、十分な熱的安定性を示し、炭素繊維製造用重合体組成物等として好適であることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、共重合成分として、少なくとも、アクリロニトリル系モノマーと、炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマーとを有するポリアクリロニトリル系共重合体であり、ポリアクリロニトリル系共重合体中に半金属原子を、ポリアクリロニトリル系共重合体の総量に対して0.01質量%以上0.08質量%未満含有するポリアクリロニトリル系共重合体である。
【0011】
本発明において、前記炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマーは、半金属原子としてホウ素原子を有するビニル系モノマーであることが好ましく、ビニルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルホウ酸誘導体、ビニルフェニルホウ酸誘導体およびアリルホウ酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する成分であることがより好ましい。また、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、共重合成分として、さらに、イタコン酸、アクリル酸およびメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことも好ましい。
【0012】
本発明は、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸溶液を紡糸する紡糸工程を含む炭素繊維前駆体繊維の製造方法および、本発明の炭素繊維前駆体繊維を炭素化して炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、十分な熱的安定性を有するため、生産性と品質を両立して炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態の例について述べるが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0015】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、共重合成分として、少なくとも、アクリロニトリル系モノマーと、炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマーと、を有するポリアクリロニトリル系共重合体である。ここで共重合体成分とは、ポリアクリロニトリル系共重合体の分子鎖中における各モノマーに由来する繰り返し単位のことをいう。半金属原子とは、単体の物質が、金属的性質と非金属的性質の中間の性質を有する原子を言い、ホウ素原子、ケイ素原子、炭素原子、リン原子などが挙げられる。本発明においては、特に断りのない限り、以降、半金属原子という場合は、炭素以外の半金属原子を指す。炭素以外の半金属原子を有するビニル系モノマー成分は、分子構造中に半金属原子を有するビニル系モノマーに由来する繰り返し単位を言う。本発明において半金属原子を有するビニル系モノマーに用いる半金属原子としては、ホウ素原子が好ましい。
【0016】
さらに本発明のポリアクリロニトリル系共重合体中に半金属原子を、ポリアクリロニトリル系共重合体の総量に対して0.01質量%以上0.08質量%未満含有するポリアクリロニトリル系共重合体である。本発明において、共重合体中の半金属原子の割合は、特に断りのない限り、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定により求められる共重合体中の半金属原子を有するビニル系モノマー成分の割合から算出される含有量を言う。
【0017】
半金属原子をこの範囲で含むことで、PANの熱安定性が向上し、生産性良く炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。ポリアクリロニトリル系共重合体中の半金属原子含有量が多すぎると、炭素繊維製造時に、耐炎化により長い時間もしくはより高い温度が必要となり、生産性が低下する傾向がある。一方、ポリアクリロニトリル系共重合体中の半金属原子含有量が少なすぎると、PANの熱的安定性が不十分となり、炭素繊維前駆体繊維の生産性が低下する傾向がある。半金属原子の含有量は、0.01質量%以上0.05質量%未満であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、ポリアクリロニトリル系共重合体のアクリロニトリル成分の割合は、90質量%以上であることが好ましい。アクリロニトリル成分がこの範囲であると、炭素化処理における炭素繊維の収率が高くなり、さらに、得られる炭素繊維の力学特性が向上するため、生産性良く、高品質な炭素繊維を得ることができる。
【0019】
ポリアクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル成分の割合は、90~99.5質量%であることが好ましく、94~99.5質量%であることがより好ましい。
【0020】
ポリアクリロニトリル系共重合体における半金属原子を有するビニル系モノマーとしては、炭素=炭素二重結合及び半金属原子を分子内に有するモノマーであれば特に制限はないが、ホウ素原子、ケイ素原子、リン原子から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマーが好ましく、特にホウ素原子を含むビニル系モノマーが好ましい。
【0021】
ホウ素原子を含むビニル系モノマーとしては、特に制限はないが、ビニルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルホウ酸誘導体、ビニルフェニルホウ酸誘導体、アリルホウ酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種またはこれらの組み合わせを使用することが好ましい。ここでホウ酸誘導体としては、例えば、ホウ酸エステル、ホウ酸アミド等が挙げられる。
【0022】
このようなホウ素原子を含むビニル系モノマーの具体例としては、例えば4-ビニルフェニルホウ酸、4-ビニルフェニルホウ酸ジエチルエステル、4-ビニルフェニルホウ酸ピナコールエステル、4-ビニルフェニルホウ酸ジブチルエステル、2-ビニルフェニルホウ酸、ビニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルホウ酸ジエチルエステル、ビニルホウ酸ピナコールエステル、アリルホウ酸ジエチルエステル、アリルホウ酸ピナコールエステル等を挙げることができ、このうち1種またはこれらの組み合わせを使用することができる。
【0023】
ポリアクリロニトリル系共重合体における半金属原子を含むビニル系モノマー成分の共重合組成比は反応仕込み量比により制御することができ、反応仕込み量比が多くなるほど、重合組成比も大きくなる。ただし、共重合組成比と反応仕込み量比は、必ずしも一致するものではない。特にホウ素原子を含むビニル系モノマーを用いる場合、モノマー成分におけるホウ素原子を含むビニル系モノマーの反応仕込み量比が0.5質量%以下の範囲では、共重合組成比としてビニル系ホウ素類モノマー成分量は反応仕込み量比以上となる傾向がある。
【0024】
ポリアクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリ成分及び半金属原子を含むビニル系モノマー成分以外の共重合成分を導く共重合モノマーとしては、特に制限はなく、公知の共重合可能な重合性不飽和化合物を用いることができる。そのような成分として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、芳香族ビニル化合物、複素環式ビニル化合物等を挙げることができ、このうちから選択される1種またはこれらの組み合わせを好適に使用することができる。
【0025】
炭素繊維の生産性の観点から、耐炎化促進効果を有する重合性不飽和化合物を共重合モノマーとして用いることが好ましい。このような重合性不飽和化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリルアミド、イタコン酸エステル、ビニルスルホン酸等を挙げることができ、これらのうちから1種またはこれらの組み合わせを使用することができる。この中で、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸よりなる群から選択される少なくとも1種またはこれらの組み合わせを使用することがより好ましい。
【0026】
ポリアクリロニトリル系共重合体における耐炎化促進効果を有する重合性不飽和化合物の割合は、10質量%以下であることが好ましく、さらに6質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明におけるポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法としては、特に制限はなく、公知の重合方法を適用することができ、フリーラジカル重合法を好ましく適用することができる。
【0028】
フリーラジカル重合を行う場合は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等、公知の重合法を使用することができる。特に、生産性の観点から溶液重合又は懸濁重合が好ましい。ラジカル重合に用いる重合開始剤や触媒は特に限定されず、例えばアゾ系化合物、有機過酸化物、又は過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのナトリウム塩あるいはアンモニウム塩等のレドックス触媒が挙げられる。レドックス開始剤を使用する場合は、レドックス反応を効率良く進行させるために、触媒やpH調整剤を適宜加えることができる。
【0029】
溶液重合を行う場合は、重合溶媒として塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等、公知の溶媒を使用することができる。特に、副反応の少なさから、塩化亜鉛水溶液又はジメチルスルホキシドが望ましい。
【0030】
このようにして得られる本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、十分な熱的安定性を有するため、生産性と品質を両立して炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を得ることができる。
【0031】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を用いた炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0032】
<前駆体繊維>
炭素繊維の前駆体繊維は、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸溶液を紡糸して製造することができる。紡糸方法は、特に限定されるものではないが、湿式紡糸または、乾湿式紡糸により行うことが好ましい。
【0033】
紡糸後の原料繊維を、水洗、乾燥、延伸、オイリング処理することにより、前駆体繊維が得られる。これらの処理工程での処理温度は特に制限させるものではないが、生産性の観点から、180℃以上の温度で熱処理(乾燥処理および/または延伸処理)を行うことが好ましい。前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1000本以上が好ましく、12000本以上がより好ましく、24000本以上がさらに好ましい。
【0034】
<耐炎化処理>
得られた前駆体繊維を、加熱空気中200~300℃で10~100分間加熱し耐炎化処理する。耐炎化処理では、前駆体繊維を延伸倍率0.90~1.20の範囲で繊維を延伸処理することが好ましい。
【0035】
<炭素化処理>
耐炎化処理した前駆体繊維を、300~2000℃で炭素化することで炭素繊維が得られる。より引張強度の高い緻密な内部構造をもつ炭素繊維束を得るためには、300℃~1000℃で低温炭素化した後、1000~2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化工程を経て、炭素化処理を行うことが好ましい。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000~3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
【0036】
<表面酸化処理>
上記で得られた炭素繊維は、サイジング剤及びマトリクスとなる樹脂との濡れ性を改善するために、表面処理を行うことが好ましい。表面処理は、従来公知のいずれの方法でも行うことができるが、装置が簡便であり、工程での管理が容易であることから、工業的には電解酸化を用いることが一般的である。
【0037】
<サイジング処理>
このようにして得られた炭素繊維に、サイジング剤をサイジング処理することが好ましい。
【0038】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、十分な熱的安定性を有するため、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を用いて、上記のような方法で、炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造すると、生産性と品質を両立して炭素繊維を得ることができる。
【0039】
このようにして得られた炭素繊維を用い、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂などのマトリクス樹脂と組み合わせ、例えば、オートクレーブ成形、プレス成形、樹脂トランスファー成形、フィラメントワインディング成形など、公知の手段・方法により複合材料が得られる。このようにして得られる炭素繊維強化複合材料は、低コストで高性能であるため、自動車用途、宇宙航空用途、レジャー用品及び工業材料等の各種補強材料の強化材などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施
例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0041】
〔測定方法〕
<共重合体組成>
共重合体中の各成分の組成比は、以下の方法で求めた。
ビニルフェニルホウ酸共重合比は1H-NMR測定により算出した。測定装置として、NMR装置(日本電子株式会社製 JNM-ECA600)を用い、測定溶媒には重水素化ジメチルスルホキシドを用いた。
【0042】
イタコン酸共重合比は中和滴定測定により算出した。測定装置として、電位差自動滴定装置(メトローム社製 916Ti―タッチ)を用いた。測定においては、重合体をジメチルホルムアミドに溶解し、滴定液としては水酸化カリウムエタノール溶液を使用した。
【0043】
<共重合体の重量平均分子量>
共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求めた。測定装置としてGPC測定装置(昭和電工株式会社製 GPC101)を用いた。カラムとしてTSK gel α-M(昭和電工株式会社製)を用い、検出器には示差屈折率検出器(昭和電工株式会社製 Shodex RI-71S)を用いた。移動相にはジメチルホルムアミドを用い、溶離剤としてリチウムブロマイドを10mMとなるように添加した。標準物質にはポリスチレンを用いた。
【0044】
<重合体の熱的特性>
重合体の熱的特性は、示差式走査熱量測定(DSC測定)により評価した。測定装置として示差式走査型熱量測定装置(TAインスツルメント社製 DSC Q2000)を用いた。測定においては、アルミパンの上蓋に直径0.5mmの穴を5か所開け、空気流入下(20ml/分)で、30℃から10℃/分で400℃まで昇温させた。発熱ピークの発熱開始温度を測定値t0とし、第1ピークのピークトップ温度を測定値t1とし、第2ピークのピークトップ温度を測定値t2とした。
【0045】
t0が240℃以上、t1が265℃以上であれば、前駆体繊維の製造時に十分な熱安定性を示す。また、t0が250℃未満、t1が275℃未満であれば、耐炎化反応が起こりやすく、生産性良く炭素繊維を得ることができる。
【0046】
[実施例1]
1Lのセパラブルフラスコに窒素吹込みにより脱酸素させたイオン交換水449.54質量部、pH調整剤として濃硫酸0.05質量部および触媒として硫酸鉄(II)0.0005質量部を仕込んだ。撹拌下にセパラブルフラスコ内を窒素雰囲気とし、セパラブルフラスコを50℃に調整した湯浴に浸し、モノマーとしてアクリロニトリル49.16質量部、p-ビニルフェニルホウ酸0.34質量部およびイタコン酸0.50質量部を添加した。セパラブルフラスコの内温が48℃以上となったことを確認してから、重合開始剤として亜硫酸水素アンモニウム50%水溶液0.37質量部とペルオキソ二硫酸アンモニウム0.15質量部を添加した。添加後のセパラブルフラスコを50℃で1時間保持することにより、重合反応を行った。反応終了後、反応混合物から白色粒子を濾取し、イオン交換水で十分に洗浄した後、電気乾燥機中で70℃にて一夜乾燥することにより共重合体(P-1)を得た。
【0047】
得られた共重合体中の各成分の組成比を、表1に示した。また、GPC測定によって得られた重量平均分子量は48.1万であった。
【0048】
得られた重合体(P-1)をジメチルスルホキシドに溶解し、薄膜状に引き伸ばし、溶媒を除去することで透明フィルム(F-1)を得た。得られた透明フィルム(F-1)のDSC測定の結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]
モノマーとしてアクリロニトリル49.36質量部、p-ビニルフェニルホウ酸0.14質量部およびイタコン酸0.50質量部を添加したこと以外は実施例1に記載した方法で共重合体(P-2)を得た。得られた共重合体中の各成分の組成比を、表1に示した。GPC測定によって得られた重量平均分子量は48.1万であった。
【0050】
得られた重合体(P-2)をジメチルスルホキシドに溶解し、薄膜状に引き伸ばし、溶媒を除去することで透明フィルム(F-2)を得た。得られた透明フィルム(F-2)のDSC測定の結果を表1に示した。
【0051】
[比較例1]
モノマーとしてアクリロニトリル48.81質量部、p-ビニルフェニルホウ酸0.69質量部およびイタコン酸0.50質量部を添加したこと以外は実施例1に記載した方法で共重合体(rP-1)を得た。得られた共重合体中の各成分の組成比を、表1に示した。GPC測定によって得られた重量平均分子量は59.4万であった。
【0052】
得られた重合体(rP-1)をジメチルスルホキシドに溶解し、薄膜状に引き伸ばし、溶媒を除去することで透明フィルム(rF-1)を得た。得られた透明フィルム(rF-1)のDSC測定の結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
モノマーとしてアクリロニトリル49.50質量部およびイタコン酸0.50質量部を添加したこと以外は実施例1に記載した方法で共重合体(rP-2)を得た。得られた共重合体中の各成分の組成比を表1に示した。GPC測定によって得られた重量平均分子量は39.8万であった。
【0054】
得られた重合体(rP-2)をジメチルスルホキシドに溶解し、薄膜状に引き伸ばし、溶媒を除去することで透明フィルム(rF-2)を得た。得られた透明フィルム(rF-2)のDSC測定の結果を表1に示した。
【0055】
[比較例3]
比較例2で得られた共重合体(rP-2)を、重合体100質量部に対してホウ酸を0.6質量部添加し、ジメチルスルホキシドに溶解させた。得られた溶解液を薄膜状に引き伸ばし、溶媒を除去することで透明フィルム(rF-3)を得た。得られた透明フィルム(rF-3)のDSC測定の結果を表1に示した。
【0056】
【0057】
実施例1および2で得られたポリアクリロニトリル共重合体は、紡糸時熱処理に耐えうる十分な熱的安定性と、耐炎化処理における十分な耐炎化速度を有する共重合体であった。