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特許7260400フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法、及び、フェロニッケル鋳造片の製造方法
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  • 特許-フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法、及び、フェロニッケル鋳造片の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法、及び、フェロニッケル鋳造片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/04 20060101AFI20230411BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20230411BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C22C33/04 H
C22B5/02
C22B23/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019099132
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193362
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】韓 準兌
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-199843(JP,A)
【文献】特開昭56-090950(JP,A)
【文献】特開平07-062457(JP,A)
【文献】特開昭60-106943(JP,A)
【文献】特開2010-242128(JP,A)
【文献】特開2010-090428(JP,A)
【文献】特開2015-209553(JP,A)
【文献】特開昭52-108311(JP,A)
【文献】特開2006-199981(JP,A)
【文献】特開2019-039045(JP,A)
【文献】特開2015-074743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/00
C22C 33/04-33/12
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石を熔融炉で還元してフェロニッケル熔体を得る熔融還元工程と、
前記フェロニッケル熔体を鋳造して、ショット状のフェロニッケル鋳造片を得る、鋳造工程と、
を含んでなるフェロニッケル鋳造片の製造において、
前記フェロニッケル熔体中のケイ素(Si)のクロム(Cr)に対する比率であるSi/Cr品位を測定するSi/Cr品位測定工程と、
前記Si/Cr品位の測定値に応じて決定される必要量のケイ素(Si)含有剤を前記フェロニッケル熔体に添加して、該フェロニッケル熔体のSi/Cr品位を所定値以上に維持するSi/Cr品位調整工程と、を行う、フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法。
【請求項2】
前記所定値が0.2である、請求項1に記載のフェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の黒色化抑制方法を行うフェロニッケル鋳造片の製造方法であって、
前記熔融還元工程と、
前記Si/Cr品位測定工程と、
前記Si/Cr品位調整工程と、
前記鋳造工程と、を含んでなり、
前記鋳造工程においては、前記黒色化抑制方法が行われたフェロニッケル熔体を鋳造して、ショット状のフェロニッケルを得る、
フェロニッケル鋳造片の製造方法。
【請求項4】
前記熔融炉から排出される前記フェロニッケル熔体を複数回に分けて投入して次工程に運搬する取鍋に、必要量の前記ケイ素(Si)含有剤を、前記フェロニッケル熔体の投入前に予め投入しておく、請求項3に記載のフェロニッケル鋳造片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱を原料とする鉄―ニッケル合金であるフェロニッケルをショット状に鋳造したフェロニッケル鋳造片の製造において、その表面の黒色化を抑制する「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」、及び、当該方法の実施を伴う「フェロニッケル鋳造片の製造方法」に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロニッケルは、鉄とニッケルを主成分とする合金であり、ステンレス鋼及び特殊鋼の原料として用いられている。フェロニッケルは、ニッケル酸化鉱石を電気炉等で還元熔融する工程を経る乾式製錬方法により製造されることが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
又、上記の乾式製錬によるフェロニッケルの製造において、還元熔融されたフェロニッケルは、必要に応じて更に脱硫工程等を経た後、多くの場合、鋳造工程によって鋳造されショット状(フレーク形状)のフェロニッケル鋳造片として出荷される。
【0004】
従来、上記のようなフェロニッケル鋳造片の製造において、クロム酸化物の表面析出等により、その表面が黒色化してしまうことが問題となっていた。このような鉄系合金の変色を抑制することを企図する従来技術としては、金属材の表面に水系脱錆塗料を塗布して被膜を形成する技術等が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
例えば、特許文献2に記載されている技術を、フェロニッケル鋳造片の製造に適用する場合、鋳造後に行う工程として水系脱錆塗料を塗布する工程を新設する必要がある。しかしながら、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化は、大部分が鋳造工程の途中でフェロニッケル熔体が固体化する過程で生じる。このようにして黒色化してしまった鋳造片は実質的に製品化できないことから、特許文献2に記載されている上記技術は、フェロニッケル鋳造片の黒色化を抑制する手段としては不適である。又、仮に、鋳造後のフェロニッケル鋳造片の黒色化の進行をある程度は抑制する効果が期待できるとしても、ショット製品のように表面が平滑でないものについては、塗料の均一な塗布が困難であり、薬剤コストも膨大になってしまう。又、同塗料の塗布によってフェロニッケル鋳造片の製品規格を組成面において逸脱するリスクもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-39045号公報
【文献】特開2015-74743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて開発された新規なプロセスであり、フェロニッケル鋳造片の製造において、その表面の黒色化を抑制する「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」、及び、当該方法の実施により、黒色化が抑制されているフェロニッケル鋳造片を製造することができる「フェロニッケル鋳造片の製造方法」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フェロニッケル鋳造片の製造プロセス全体を詳細に検討し、電気炉等の熔融炉から排出されたフェロニッケル熔体中のケイ素(Si)のクロム(Cr)に対する比率に着目し、これを最適化することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0009】
(1) ニッケル酸化鉱石を熔融炉で還元してフェロニッケル熔体を得る熔融還元工程と、前記フェロニッケル熔体を鋳造して、ショット状のフェロニッケル鋳造片を得る、鋳造工程と、を含んでなるフェロニッケル鋳造片の製造において、前記フェロニッケル熔体中のケイ素(Si)のクロム(Cr)に対する比率であるSi/Cr品位を測定するSi/Cr品位測定工程と、前記Si/Cr品位の測定値に応じて決定される、必要量のケイ素(Si)含有剤を前記フェロニッケル熔体に添加して、該フェロニッケル熔体のSi/Cr品位を所定値以上に維持するSi/Cr品位調整工程と、を行う、フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法。
【0010】
(1)の発明、即ち、「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」によれば、フェロニッケル鋳造片の製造において、従来、着目されることのなかったフェロニッケル熔体の「Si/Cr品位」を、鋳造工程前の段階で最適化することにより、鋳造工程後に得られるフェロニッケル鋳造片の表面の黒色化を抑制又は防止することができる。尚、従来のフェロニッケル鋳造片の製造においては、フェロニッケル熔体の段階では最早組成の調整をすることができなかった。よって、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化を防止するためには、上流工程である熔融還元工程の反応条件を制御することが必要であった。しかしながら、同工程を行う電気炉等の内部での反応は原料組成や操業条件によって影響を受けるため、反応条件の最適化調整は極めて困難である。これに対して、本発明の黒色化抑制方法は、電気炉等から排出された後のフェロニッケル熔体の組成に応じて添加剤を添加する方法であるため、高い水準での製品の品質管理を容易に行うことができる。
【0011】
(2) 前記所定値が0.2である、(1)に記載のフェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法。
【0012】
(2)の発明によれば、一般的なフェロニッケル鋳造片の製造条件の下で、(1)の発明の奏する上記効果を享受して、より高い精度でフェロニッケル鋳造片の黒色化を防止することができる。
【0013】
(3) (1)又は(2)に記載の黒色化抑制方法を行うフェロニッケル鋳造片の製造方法であって、前記熔融還元工程と、前記Si/Cr品位測定工程と、前記Si/Cr品位調整工程と、前記鋳造工程と、を含んでなり、前記鋳造工程においては、前記黒色化抑制方法が行われたフェロニッケル熔体を鋳造して、ショット状のフェロニッケルを得る、フェロニッケル鋳造片の製造方法。
【0014】
(3)の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」は、上流側の工程での条件変更を要せず、鋳造工程の直前までの段階での添加剤の添加処理のみによって、(1)又は(2)に記載の黒色化抑制方法の奏する上記効果を享受することができる製造方法である。従来、フェロニッケル鋳造片の製造において、表面が黒色化した不良品は系内の上流工程に繰り返す以外の対処方法がなかったが、(3)の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」によれば、フェロニッケル鋳造片の製造中におけるフェロニッケル熔体中の「Si/Cr品位」の突発的な変動にも機動的に対応して、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化による不良品の発生を最小限に抑制することができる。
【0015】
(4) 前記熔融炉から排出される前記フェロニッケル熔体を複数回に分けて投入して次工程に運搬する取鍋に、必要量の前記ケイ素(Si)含有剤を、前記フェロニッケル熔体の投入前に予め投入しておく、(3)に記載のフェロニッケル鋳造片の製造方法。
【0016】
(4)の発明によれば、(3)の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」によるフェロニッケル鋳造片の製造の生産性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フェロニッケル鋳造片の製造において、その表面の黒色化を抑制する「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」、及び、当該方法の実施により、黒色化が抑制されているフェロニッケル鋳造片を製造することができる「フェロニッケル鋳造片の製造方法」を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱の製造方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
<フェロニッケル鋳造片の製造方法>
フェロニッケル鋳造片は、ニッケル酸化鉱石を熔融炉で還元する熔融還元工程と、還元されたフェロニッケル熔体をショット状に鋳造する鋳造工程と、を含んで構成される製造方法により製造されることが一般的である。本発明の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」は、このような従来の製造過程において、本発明の「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」を、更に必須の処理工程として行うことを特徴とする製造方法である。
【0021】
本発明の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」の基本的な流れは、図1に示す通りである。又、本発明の「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」は、図1に示す「Si/Cr品位測定工程S2」及び「Si/Cr品位調整工程S3」の2つの工程を一連の処理として行うプロセスである。つまり、本発明の「フェロニッケル鋳造片の製造方法」においては、熔融還元工程S1と、鋳造工程S5と、を必須の工程し、更に熔融還元工程S1を行った後、鋳造工程S5を行う前の段階において、上記の「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」、即ち、「Si/Cr品位測定工程S2」及び「Si/Cr品位調整工程S3」の2つの工程が必須の工程として行われる。
【0022】
尚、本発明の製造方法によりフェロニッケルの鋳造片を製造する場合も、従来の一般的な製造方法による場合と同様、原料のニッケル酸化鉱石について、熔融還元工程S1への投入前に、予め、乾燥工程や焼成及び部分還元工程等の予備的処理(図示せず)を行うことが好ましい。又、熔融還元工程S1で得たフェロニッケル熔体について、要求される製品スペックに応じた脱硫処理を行う脱硫工程S4を、鋳造工程S5に投入する前に、予め、行うことが好ましい。
【0023】
[熔融還元工程]
熔融還元工程S1は、原料鉱石を電気炉等の還元炉内で熔融還元し、フェロニッケル(メタル)とスラグとを生成させる工程である。この工程で産出されるフェロニッケル熔体は、鉄を主成分とし、炭素質還元剤の設定量に応じて16質量%~25重量%程度の品位でニッケルを含有する。又、フェロニッケル熔体とは別に産出されるスラグは、原料鉱石中の酸化鉄の大部分と二酸化ケイ素及び酸化マグネシウムとを含有し、鉄鋼の焼結工程における成分調整用マグネシア熔剤や、コンクリート用細骨材、土木工事用資材等として利用される。
【0024】
[Si/Cr品位測定工程]
本発明の「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」の必須の工程の一つであるSi/Cr品位測定工程S2は、熔融還元工程S1で得たフェロニッケル熔体中の「Si/Cr品位」を測定する工程である。本明細書における「Si/Cr品位」とは、ケイ素(Si)のクロム(Cr)に対する比率(重量比)である。このSi/Cr品位の測定方法は、特に限定されず、従来公知の各種方法によることができる。例えば、熔融フェロニッケルを、蛍光X線分析方法に付すことにより、この工程を行うことができる。
【0025】
[Si/Cr品位調整工程]
Si/Cr品位調整工程S3は、ケイ素(Si)含有剤を、フェロニッケル熔体に添加する工程である。ケイ素(Si)含有剤の添加量は、Si/Cr品位測定工程S2において測定したフェロニッケル熔体の「Si/Cr品位」の測定値に応じて決定される。Si/Cr品位調整工程S3においてフェロニッケル熔体に添加されるケイ素(Si)含有剤の添加量は、詳しくは、同剤添加後のフェロニッケル熔体の「Si/Cr品位」が「所定値」以上となるように決定される。ケイ素(Si)含有剤として、例えば、フェロシリコンを好ましく用いることができる。
【0026】
Si/Cr品位調整工程S3におけるケイ素(Si)含有剤の添加量を決定するための指標とする上記の「所定値」、即ち、Si/Cr品位調整工程S3において維持されるべきフェロニッケル熔体のSi/Cr品位は、一般的な基準として0.2である。鋳造工程S5に投入されるフェロニッケル熔体のSi/Cr品位が0.2未満である場合に、ケイ素(Si)含有剤を添加し、添加後のSi/Cr品位を0.2以上に保持することにより、フェロニッケル鋳造体の表面の黒色化を十分に抑制することができることが本発明者らの研究により解明されている。
【0027】
尚、Si/Cr品位調整工程S3を行うタイミング、即ち、フェロニッケル熔体にケイ素(Si)含有剤を添加するタイミングは、熔融還元工程S1においてフェロニッケル熔体が電気炉等から排出された直後の段階以降、次の工程を行う直前までの段階の間の何れかのタイミングであればよい。例えば、鋳造工程S5に先行して脱硫工程S4が行われる場合であれば、熔融還元工程S1終了後、脱硫工程S4の開始前の何れかのタイミングで行うことができる。
【0028】
ここで、電気炉等から排出されるフェロニッケル熔体は、通常、複数回に分けて取鍋で次工程に移送される。例えば、第1回目の移送を行う最初の取鍋においては、Si/Cr品位を予め把握することは困難であっても、電気炉から最初に排出されたフェロニッケル熔体のSi及びCr品位を測定してSi/Cr品位を把握し、必要なケイ素(Si)含有剤添加量を算出して、この算出時以降に電気炉から排出されるフェロニッケル熔体を受け取る取鍋に、必要量のケイ素(Si)含有剤を予め投入しておく態様でケイ素(Si)含有剤の添加を行う実施態様を、Si/Cr品位調整工程S3の、より好ましい実施態様として例示することができる。これにより、上述の通り、ケイ素(Si)含有剤添加のための作業時間を短縮してフェロニッケル鋳造片の製造の生産性をより向上させることができる。
【0029】
[鋳造工程]
鋳造工程S5は、フェロニッケル熔体を、ショット状(フレーク形状)のフェロニッケル鋳造体に鋳造する工程である。ショット状のフェロニッケル鋳造体は、例えば、フェロニッケル熔体を、冷却水が収容された水槽の中央に水面より高い位置に設けられた円盤に注湯し、この円盤を回転させることでフェロニッケル熔体をショット状に飛散させ、水槽内の冷却水中に落下させて冷却させることによって得ることができる。
【0030】
[その他の工程]
上述の通り、本発明の製造方法によりフェロニッケル鋳造片を製造する場合も、従来の一般的な製造方法による場合と同様、その他の工程として、熔融還元工程S1に先行する工程として、「乾燥工程」、「焼成及び部分還元工程」を、鋳造工程S5に先行して脱硫工程S4を行うことが好ましい。
【0031】
(乾燥工程)
乾燥工程では、所定の調合比率となるように原料鉱石を配合した後、ロータリーキルン等の加熱炉を用いて乾燥処理を施し、原料鉱石に含まれる付着水分(35質量%~45質量%)の一部を除去する。例えば、原料鉱石に含まれる付着水分を25質量%~35質量%程度の割合とする。
【0032】
(焼成及び部分還元工程)
乾燥工程で乾燥させた原料鉱石に対して炭素質還元剤(石炭)と必要に応じて熔剤とを添加し、ロータリーキルン等の加熱炉に投入し、800℃~900℃程度の焼成温度で焼成することによって、その鉱石に残存する水分(付着水、結晶水分)を完全に除去するとともに部分還元した焼鉱を生成させる。これらの工程が、「熔融還元工程S1」に先行して行われる場合には、このようにして生成された焼鉱が、「熔融還元工程S1」に投入される。
【0033】
(脱硫工程)
「熔融還元工程S1」にて得られたフェロニッケル熔体は、製品スペックにより脱硫処理が必要とされる場合には、脱硫工程S4に移され、取鍋等を用いた機械式撹拌装置又は電気誘導式撹拌装置による脱硫処理が行われる。具体的には、脱硫工程S4においては、フェロニッケル熔体に対してカルシウムカーバイド等の脱硫剤を添加して撹拌することで、フェロニッケル熔体中の硫黄を、硫化カルシウム(CaS)としてスラグ中に固定して分離除去する。
【0034】
<フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法>
本発明の「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」は、熔融還元工程S1と鋳造工程S5とを少なくとも含んでなるフェロニッケル鋳造片の製造方法の流れの中で、この方法を更に行うことにより、フェロニッケル鋳造片の黒色化を有意に抑制又は防止することができる方法である。
【0035】
この「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」は、具体的には、Si/Cr品位測定工程S2及びSi/Cr品位調整工程S3とからなる中間処理工程であり、フェロニッケル鋳造片の製造方法における熔融還元工程S1の完了後、鋳造工程S5の開始前に行われる。
【0036】
ここで、従来の一般的なフェロニッケル鋳造片の製造において、熔融還元工程S1を経たフェロニッケル熔体中のSi品位は、1~3%程度に制御されているが、熔融還元工程を行う電気炉等の操業条件の変化により、このSi品位は変動し、1%以下となることもある。このようにSi品位が低下した時にフェロニッケル鋳造片の黒色化が発生しやすいことは従来も知られていた。しかしながら、この黒色化は、Si品位が低いとき(目安として1%以下程度であるとき)に必ず発生しているわけではなかった。本発明者らは、研究を重ね、フェロニッケル中の「Si品位」ではなく、「Cr品位とSi品位の関係性」に新たに着目し、その結果、「Si/Cr品位」の変動と上記の黒色化の間に強い相関が存在することに気づき、又、より具体的には、「Si/Cr品位」が0.2未満である場合に、上記の黒色化がより高い頻度で発生することを解明した。
【0037】
フェロニッケル鋳造片の製造に際して、熔融還元工程S1の実施後、鋳造工程S5の実施前に、Si/Cr品位測定工程S2及びSi/Cr品位調整工程S3を行う「フェロニッケル鋳造片の黒色化抑制方法」は、上記の新たな知見に基づいて開発された新規なプロセスである。
【実施例
【0038】
以下、試験操業による実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(試験操業の実施条件)
熔融還元工程を電気炉で行いフェロニッケル熔体を取鍋に受け入れて分離処理を行った後にフェロニッケル熔体をショット状に鋳造する鋳造工程を引き続き行う操業を試験操業として行った。電気炉から排出可能なフェロニッケル熔体の量は、取鍋で移送できる量の18倍であり、電気炉から全てのフェロニッケル熔体を抜き出すための取鍋での移送回数は18回である。その後、改めて電気炉にフェロニッケル熔体を滞留させ、同様の操業を更に2回、計3回行った。取鍋での移送回数は合計で54回(=54ロット)となった。
第1回~第3回の各回の操業において、第1ロットのフェロニッケル熔体を分析してSi/Cr品位を把握した。分析方法は蛍光X線分析方法であり、第1ロットのフェロニッケル熔体が鋳造工程に到達する前、及び、第3ロットのフェロニッケル熔体を取鍋に受け入れる前に測定結果及びSi/Cr品位を把握することができた。
【0040】
(第1回目操業:比較例)
第1回目操業において、全18ロットのSi/Cr品位は0.18~0.20の間で安定していた。
第1回目操業の18ロットには、ケイ素(Si)含有剤を添加しなかった。
その結果、18ロット中11ロットにおいて、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化が発生した。
【0041】
(第2回目操業:参考例)
第2回目操業において、全18ロットのSi/Cr品位は0.22~0.24の間で安定していた。
第2回目操業の18ロットにも、ケイ素(Si)含有剤を添加しなかった。
その結果、18ロット中、全てのロットにおいて、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化は発生しなかった。
【0042】
(第3回目操業(第1ロット~第2ロット):実施例1)
第3回目操業において、全18ロットのSi/Cr品位は0.16~0.18の間で安定していた。
第3回目操業の第1ロット及び第2ロットに対して、電気炉から取鍋(容量30t)内へのフェロニッケル熔体の排出時に、フェロシリコン(Si品位75%)を上記取鍋内中のフェロニッケル熔体に添加した。添加量は、当該フェロニッケル熔体のSi/Cr品位が0.20となるように、添加量8~10kgの間で調整した。
その結果、この第3回目操業の第1ロット及び第2ロットにおいて、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化は発生しなかった。但し、ケイ素(Si)含有剤を添加する作業時間が必要だったため、通常のフローに2分間の遅延が発生した。
【0043】
(第3回目操業(第3ロット~第18ロット):実施例2)
第3回目操業の第3ロット~第18ロットに対して、電気炉から取鍋内へのフェロニッケル熔体の排出前に、取鍋内に予め所定量のケイ素(Si)含有剤(フェロシリコン)を投入しておく方法により、ケイ素(Si)含有剤をフェロニッケル熔体に添加した。ケイ素(Si)含有剤の添加量は、フェロニッケル熔体のSi/Cr品位が0.21となるような量を算出して決定した。
その結果、この第3回目操業の第3ロット~第18ロットにおいて、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化は発生しなかった。鋳造片表面の黒色化は発生しなかった。又、ケイ素(Si)含有剤投入のための作業は取鍋準備中に終了しており、通常のフローを停滞させることはなかった。
【0044】
参考例と比較例との結果の対比から、フェロニッケル熔体中のSi/Cr品位が0.2未満である場合に、フェロニッケル鋳造片の表面の黒色化が発生しやすいことが分かる。そして、実施例1及び2の結果から、本発明を適用することにより、フェロニッケル鋳造片の黒色化を有意に抑制することができることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
S1 熔融還元工程
S2 Si/Cr品位測定工程
S3 Si/Cr品位調整工程
S4 脱硫工程
S5 鋳造工程
図1