(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20230411BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20230411BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230411BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20230411BHJP
F02D 41/32 20060101ALI20230411BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
F02D29/02 301C
F02D29/00 C
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
F02D45/00 368S
F02D9/02 301Z
F02D41/32
F02P5/15 B
(21)【出願番号】P 2019141191
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康洋
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 育男
(72)【発明者】
【氏名】村松 幸之助
(72)【発明者】
【氏名】岸本 拓也
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-22637(JP,A)
【文献】特開昭60-253943(JP,A)
【文献】特開2013-83183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
F02D 41/00
F02D 43/00
F02D 45/00
B60K 31/00
B60W 30/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された速度で走行する定速走行制御手段を備えた車両にあって該定速走行制御手段により該車両が定速走行制御されている状態で該車両に設けられたエンジンの運転状態を制御するエンジン制御装置において、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
該エンジン回転数検出手段で検出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジン内の燃焼圧を算出する燃焼圧算出手段と、
該燃焼圧算出手段で算出された前記燃焼圧に基づいて前記エンジンのトルクを算出するトルク算出手段と、
前記エンジン回転数検出手段で検出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジン内の慣性力を算出する慣性力算出手段と、
該慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルクより小さい場合に、前記慣性力に抗して前記エンジンを運転し続けることが可能な状態まで該エンジン内の燃焼圧を低減する燃焼圧低減手段と、を備えたことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記燃焼圧低減手段は、
前記エンジン内の燃焼圧を次第に低減し且つ前記エンジンの回転変動が予め設定された所定値と略同等となった場合に、前記慣性力に抗して前記エンジンを運転し続けることが可能な状態であるとして、その時点の該エンジン内の燃焼圧を維持することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記燃焼圧低減手段は、
前記車両の吸気系に設けられたスロットルバルブのスロットル開度低減、前記エンジンに設けられた燃料噴射装置からの燃料噴射量の低減、及び、前記エンジンに設けられた点火プラグの点火時期の遅角の何れか1つ以上によって前記エンジン内の燃焼圧を低減することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルク以上である場合に、前記エンジン回転数を次第に低減するエンジン回転数低減手段を備え、
前記燃焼圧低減手段は、前記エンジン回転数低減手段によって前記エンジン回転数を低減した結果、前記慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルクより小さくなった場合に、前記エンジン内の燃焼圧を低減することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置、特に、設定された速度で走行する定速走行制御手段を備えた車両にあって、その定速走行制御手段により車両が定速走行制御されている状態で、車両に設けられたエンジンの運転状態を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クルーズコントロールと呼ばれる定速走行制御装置を備えた車両が普及している。このような定速走行制御装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されるものがある。この定速走行制御装置は、定速走行において加速走行と惰性走行を繰り返し、それぞれにおいて圧縮比を変更又は固定制御するものであり、加速走行と惰性走行で圧縮比を変更する場合には、燃費最適線に沿って圧縮比を変更する。この他にも、車両が定速走行制御されているときには、エンジン回転数-トルク曲線に表れる等燃費曲線の最低燃費領域にできるだけ収まるようにエンジンの運転状態を制御することが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最低燃費領域は、できるだけ大きなトルクができるだけ小さな燃料消費量で達成されるというエンジンの運転状態であることから、一般的に、最大負荷トルク曲線の近傍に存在する。したがって、この最低燃費領域における気筒内の燃焼圧、すなわち最大筒内圧も比較的大きい。一方、クランクシャフトには、慣性力と呼ばれる捩り力が作用している。この捩り力、すなわち慣性力は、主としてピストン(及びコネクティングロッド)の気筒内往復動によるものであり、エンジン回転数が大きいほど大きい。この慣性力と上記燃焼圧に応じたトルクを比較すると、上記定速走行制御中に最低燃費領域で制御されるトルクが慣性力より大きくなるエンジン回転数領域が比較的低回転域に存在する。このエンジン回転数領域では、慣性力に抗するトルク、すなわち燃焼圧だけでエンジンを回転し続けることが可能であるが、上記最低燃費領域で制御される燃焼圧は、これよりも大きく、その分だけ、エンジンへの負担が大きい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンへの負担を低減することが可能なエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のエンジン制御装置は、
設定された速度で走行する定速走行制御手段を備えた車両にあって該定速走行制御手段により該車両が定速走行制御されている状態で該車両に設けられたエンジンの運転状態を制御するエンジン制御装置において、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、該エンジン回転数検出手段で検出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジン内の燃焼圧を算出する燃焼圧算出手段と、該燃焼圧算出手段で算出された前記燃焼圧に基づいて前記エンジンのトルクを算出するトルク算出手段と、前記エンジン回転数検出手段で検出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジン内の慣性力を算出する慣性力算出手段と、該慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルクより小さい場合に、前記慣性力に抗して前記エンジンを運転し続けることが可能な状態まで該エンジン内の燃焼圧を低減する燃焼圧低減手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、車両の定速走行制御中にあって且つエンジン内の慣性力が燃焼圧に応じたトルクより小さい場合には、その慣性力に抗してエンジンが回転し続ける状態まで燃焼圧を低減することにより、エンジンの回転を維持しながらエンジンへの負担を低減することができる。
【0008】
また、本発明の他の構成は、前記燃焼圧低減手段は、前記エンジン内の燃焼圧を次第に低減し且つ前記エンジンの回転変動が予め設定された所定値と略同等となった場合に、前記慣性力に抗して前記エンジンを運転し続けることが可能な状態であるとして、その時点の該エンジン内の燃焼圧を維持することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、燃焼圧を次第に低減するとトルクが次第に低減し、これにより、例えばレシプロエンジンの燃焼行程の断続に伴うエンジンの回転変動が次第に大きくなるので、このエンジンの回転変動が、エンジンを回転させ続けるのに必要な所定値と略同等となった時点の燃焼圧を維持することにより、エンジンの回転を維持しながらエンジンへの負荷を可及的に低減することができる。
【0010】
本発明の更なる構成は、前記燃焼圧低減手段は、前記車両の吸気系に設けられたスロットルバルブのスロットル開度低減、前記エンジンに設けられた燃料噴射装置からの燃料噴射量の低減、及び、前記エンジンに設けられた点火プラグの点火時期の遅角の何れか1つ以上によって前記エンジン内の燃焼圧を低減することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、エンジン内の燃焼圧を確実に低減することができると共に、スロットル開度低減や点火時期の遅角においても、例えば、排ガス空燃比のフィードバックによって燃料消費量を低減することができる。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルク以上である場合に、前記エンジン回転数を次第に低減するエンジン回転数低減手段を備え、前記燃焼圧低減手段は、前記エンジン回転数低減手段によって前記エンジン回転数を低減した結果、前記慣性力算出手段で算出された前記慣性力が前記トルク算出手段で算出された前記トルクより小さくなった場合に、前記エンジン内の燃焼圧を低減することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、エンジン回転数が大きく、慣性力が燃焼圧に応じたトルク以上である場合であっても、例えば、変速機の減速比を小さくすることでエンジン回転数を次第に低減し、その結果、慣性力がトルクより小さくなったらエンジン内の燃焼圧を低減することにより、元来の定速走行制御でエンジン回転数が大きい場合であってもエンジンへの負担を低減することができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、定速走行制御中、エンジンの回転を維持しながらエンジンへの負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のエンジン制御装置が適用された車両用エンジンの一実施の形態を示す主要部の概略構成図である。
【
図2】
図1のエンジンコントロールユニットで実行される演算処理を示すフローチャートである。
【
図3】
図2演算処理における慣性力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のエンジン制御装置の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態のエンジン制御装置が適用された車両用エンジン10の気筒主要部の概略構成図である。接合面11を挟んだ図の上側がシリンダヘッド12、下側がシリンダブロック13であり、シリンダヘッド12の接合面11を窪ませて燃焼室14が形成されている。シリンダブロック13には、燃焼室14に対向する部分にシリンダ15が形成され、シリンダ15の内部には、シリンダ15の軸方向に往復動するピストン16が収納され、そのピストン16は、図示しないクランクシャフトとコネクティングロッド(コンロッド)17で接続されている。図には、1気筒しか示していないが、この実施の形態の車両用エンジン10は、例えば4気筒の水平対向エンジンである。
【0017】
燃焼室14は、例えばペントルーフ型の一般的な燃焼室であり、燃焼室14の上部に点火プラグ18が取付けられている。また、燃焼室14の図示上部左方に吸気ポート19が、上部右方に排気ポート20がそれぞれ連通され、吸気ポート19の燃焼室開口部に吸気バルブ21が、排気ポート20の燃焼室開口部に排気バルブ22が配設されており、図の状態では、吸気ポート19の燃焼室開口部が吸気バルブ21の傘部21aで閉止され、排気ポート20の燃焼室開口部が排気バルブ22の傘部22aで閉止されている。吸気バルブ21及び排気バルブ22のそれぞれのバルブステム21b、22bの上部には、図示しない吸気カム及び排気カムが配設されており、吸気バルブ21及び排気バルブ22のそれぞれは、吸気カム及び排気カムのカムプロファイルに追従して各ポート19、20の燃焼室開口部を開閉する。したがって、吸気ポート19及び排気ポート20のそれぞれは、燃焼室14に対して、吸気カム及び排気カムのカムプロファイルに従って開閉される。
【0018】
吸気ポート19には、吸気ポート19内に燃料を噴射することが可能なインジェクタ(燃料噴射装置)23が取付けられている。このインジェクタ23は、該当する気筒の吸気行程で、燃焼室14内に混合気を送り込むために、吸気ポート19内に燃料を噴射するものであり、燃料の噴射量や噴射タイミングは、後述するエンジンコントロールユニット24で制御される。インジェクタ23から噴射される燃料は、吸気ポート19の燃焼室開口部側、すなわち吸気バルブ21側に向けて噴射される。ちなみに、吸気ポート内噴射用のインジェクタ23は、筒内噴射(直噴)用のインジェクタよりも燃料の噴射圧力が小さい。
【0019】
この実施の形態では、エンジン10の吸気系に図示しないターボチャージャを介装している。ターボチャージャは、排ガスでタービンを回転し、タービンと一緒に回転するコンプレッサで新気を過給するものである。また、上記エンジン10の駆動力は、図示しない変速機を介して図示しない駆動輪に伝達される。この変速機は、例えばベルト(チェーンを含む)式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)で構成され、変速比(減速比)を自在に変更することができる。この変速機の変速比は、後述するトランスミッションコントロールユニット30で制御される。また、この実施の形態では、後述する定速走行制御を可能とするために、スロットル開度を自在に調整・制御可能な図示しないスロットルバルブが設けられている。
【0020】
この実施の形態では、エンジン10の運転状態はエンジンコントロールユニット24で制御される。エンジン10の運転状態は、周知のように、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射量や噴射タイミング、点火プラグ18による点火タイミングなどで制御することができる。エンジン10の運転状態を制御する制御入力には、例えば、クランクシャフトの回転状態を検出するクランク角センサ25、インジェクタ23に供給される燃料圧(燃圧ともいう)を検出する燃料圧センサ26、外気温を検出する外気温センサ27、吸入空気量を検出するエアフロメータなどの吸入空気量センサ28、インテークマニホールド内の圧力からターボチャージャによるブースト圧(過給圧)を検出するブースト圧センサ29などからの信号が用いられる。
【0021】
上記エンジンコントロールユニット24やトランスミッションコントロールユニット30は、マイクロコンピュータのようなコンピュータシステムを搭載して構成される。このコンピュータシステムは、周知のコンピュータシステムと同様に、高度な演算処理機能を有する演算処理装置に加え、例えばプログラムを記憶する記憶装置や、センサ信号を読込んだり、他のコントロールユニットと相互通信を行ったりするための入出力装置を備えて構成される。また、エンジンコントロールユニット24とトランスミッションコントロールユニット30は相互通信し、互いに、指令や情報を送受信する。なお、この実施の形態のエンジンコントロールユニット24は、複数の演算処理を同時に実行することができるコンピュータシステムを搭載している。
【0022】
また、この車両では、上記エンジンコントロールユニット24により、設定された走行速度で車両を走行する定速走行制御が行われる。この定速走行制御は、一般にクルーズコントロールと呼ばれる走行速度制御であり、操作スイッチ31によって設定された走行速度が達成され且つその走行速度で走行し続けるように、周知の演算処理に従ってエンジンの運転状態を制御すると共に、そのエンジンの運転状態及び設定走行速度に応じてトランスミッションコントロールユニット30が変速機の変速比を制御する。なお、この定速走行制御時において車両が設定走行速度で走行するまでのエンジンの運転状態制御では、前述した最低燃費領域にできるだけ収まるようにエンジンの運転状態が制御される。
【0023】
図2は、上記定速走行制御中、車両の走行速度が設定された走行速度と一致又は略一致したときに、上記エンジンコントロールユニット24で実行される演算処理のフローチャートである。この演算処理は、前走車追従制御のない定速走行状態(図ではクルーズコントロールON)で実行され、また運転者によって加減速指示があった場合には、この演算処理から抜け出し、その加減速指示に従った定速走行制御に復帰する。
【0024】
この演算処理では、まずステップS1で、他の演算処理で求められたエンジン回転数、上記吸入空気量センサ28で検出された吸入空気量、ブースト圧センサ29で検出されたブースト圧、燃料圧センサ26で検出された燃料圧、外気温センサ27で検出された外気温を読込む。エンジン回転数は、例えば、上記クランク角センサ25で検出されたクランク角の時間微分値から算出される。
【0025】
次にステップS2に移行して、上記ステップS1で読込まれたエンジン回転数、吸入空気量、ブースト圧から求めた充填効率をエンジン10の負荷として算出する。充填効率は、燃焼に寄与する新気の量の指標であり、周知の手法に従って、標準状態の大気密度でシリンダ15に実際に吸入された空気量と理論上吸入されるべき空気量の比として求めることができる。
【0026】
次にステップS3に移行して、上記ステップS1で読込まれたエンジン回転数からエンジン10内の慣性力をマップ検索する。この慣性力は、周知のように、主として、レシプロエンジンの各シリンダ15内を往復動するピストン16(及びコンロッド17の小端部)によるものであり、例えば、単気筒ごとに求めた慣性力を気筒配列に応じて組合せてエンジン全体としての慣性力を得ることができる。ピストン16の往復動で生じる慣性力は、例えば、上死点近傍でピストン16が上昇し続けようとする力や、下死点近傍でピストン16が下降し続けようとする力であることから、エンジン回転数が大きいほど大きい。この慣性力を、例えば
図3に示すように、エンジン回転数に応じてマップ記憶しておき、現在のエンジン回転数からマップ検索で求めることができる。
【0027】
次にステップS4に移行して、上記ステップS1で読込まれたエンジン回転数、燃料圧、外気温、及び上記ステップS3で算出された負荷から、燃焼行程における最大筒内圧を示す燃焼圧をマップ検索する。例えば、混合気の組成から混合気のガス定数及び比熱が得られるので、圧縮前の混合気の温度及び圧力から圧縮前の混合気の比容積が求められ、圧縮比から圧縮後の温度及び比容積が得られるので、それらから圧縮後の圧力が求められ、燃焼ガスの組成から燃焼ガスのガス定数、燃焼エネルギー、及び比熱が得られるので、これらから燃焼後の温度上昇が求められ、この温度上昇を圧縮後の温度に加えた燃焼後の温度、ガス定数、比熱から燃焼ガスの圧力、すなわち燃焼圧を求めることができる。或いは、種々のパラメータを変更した場合の燃焼圧を予め実験的に取得してマップ化することも可能である。
【0028】
次にステップS5に移行して、上記ステップS4で算出された燃焼圧を用い、ピストン16、クランクシャフト、コンロッド17の諸元からエンジン10のトルクを算出する。このトルクは、例えば、コンロッド17の長さや質量、ピストン16の質量や断面積、クランク半径、クランクシャフトの重心距離や質量、及び燃焼圧から、周知の気筒内モデルに従って求めることができる。
【0029】
次にステップS6に移行して、上記ステップS3で求めた慣性力が上記ステップS5で算出されたトルクより小さいか否かを判定し、慣性力がトルクより小さい場合にはステップS7に移行し、そうでない場合にはステップS11に移行する。
【0030】
上記ステップS11では、上記トランスミッションコントロールユニット30に変速機の変速比(減速比)を(所定量)小さくするように指示してエンジン回転数を低減してから上記ステップS1に移行する。なお、エンジン回転数が低減されると、吸入空気量が低減されることから、上記ステップS2で算出される負荷も低減される。
【0031】
上記ステップS7では、上記スロットルバルブのスロットル開度を所定量だけ低減する。
【0032】
次にステップS8に移行して、例えば図示しない失火検出の演算処理によって、上記クランク角センサ25で検出されるクランクシャフトの回転状態から求めたエンジン回転数の変動をエンジン回転変動として読込む。
【0033】
次にステップS9に移行して、上記ステップS8で読込まれたエンジン回転変動が予め設定された所定値と略同等であるか否かを判定し、エンジン回転変動が所定値と略同等である場合にはステップS10に移行し、そうでない場合には上記ステップS7に移行する。
【0034】
上記ステップS10では、上記ステップS7で低減したスロットル開度を固定してから演算処理を終了する。
【0035】
この演算処理では、定速走行制御によって車両が設定走行速度で走行している状態で
図2の演算処理が実行され、エンジン10内の慣性力がエンジン10のトルク以上である間は、変速比(減速比)を次第に小さくしてエンジン回転数及び負荷が低減される。一般的な定速走行制御概念として、エンジン10内の慣性力と同等のトルクが生じるように燃焼圧を制御する。すなわち、エンジン回転数の増加と共に増加する慣性力は、例えばクランクシャフトに捩り力(捩り戻す力)として作用するので、この捩り力に抗するトルクが得られるように燃焼圧を大きくする。一方、定速走行制御中、最低燃費領域に収まるようにエンジンの運転状態を制御し続けると、前述のように、エンジン10内の慣性力がエンジン10のトルクを下回っているにも拘らず、比較的大きな発生トルクが維持される場合があり、その状態では、大きな燃焼圧が維持され、エンジン10への負担も大きい。
【0036】
図2の演算処理によってエンジン回転数が次第に小さくなると慣性力も次第に小さくなるので、やがて運転制御されているエンジン10の発生トルクがエンジン10内の慣性力より大きくなる。また、
図2の演算処理が開始された時点で、エンジン10のトルクがエンジン10内の慣性力より大きい場合もある。そして、その時点から、
図2の演算処理では、スロットル開度を次第に低減する。スロットル開度が低減されると、吸入空気量が低減されるので、例えば排ガス中の空燃比のフィードバック制御によって燃料噴射量も低減され、結果としてトルクが低減される。エンジン10のトルクが低減されると、燃焼圧も低減し、その結果、例えばレシプロエンジンにおける燃焼行程の断続性からクランクシャフトの回転数に変動が生じる。このクランクシャフトの回転変動、即ちエンジン回転変動は、同じエンジン回転数で、スロットル開度を低減するほど、すなわちトルクを低減するほど大きくなるので、エンジン回転変動が予め設定された所定値と略同等となった時点でスロットル開度を固定する。エンジン10のトルクが低減されれば、燃焼圧も低減し、エンジン10への負担が低減する。その結果、エンジン10の耐久性が確保される。
【0037】
なお、トルク、すなわち燃焼圧を低減するには、スロットル開度の低減の他、燃料噴射量を低減してもよいし、点火時期を遅角してもよい。近年では、例えば、排ガス中の空燃比が理論空燃比になるように燃料噴射量をフィードバック制御しているので、前述のように、スロットル開度を低減すると、この排ガス中の空燃比のフィードバック制御によって燃料噴射量も低減される。また、点火時期を遅角した場合も、一時的に排ガス中の空燃比はリッチになるが、そのフィードバック制御によって燃料噴射量が低減される。したがって、何れの場合にも燃料噴射量が低減されることから、燃料消費量も低減される。
【0038】
図3は、エンジン回転数に対するエンジン10内の慣性力を実線で示しており、同図の二点鎖線は、上記最低燃費領域に収まるようにエンジン10の運転状態を制御したときのトルクを模式的に示している。このトルクと慣性力曲線が交わった点より大きいエンジン回転数領域では、前述のように、クランクシャフトに捩り力として作用する慣性力と同等のトルクが得られるように燃焼圧を制御する。一方、この交点よりも小さいエンジン回転数領域で、上記最低燃費領域に収まるようにエンジン10の運転状態を制御すると、そのトルクは、エンジン回転数-トルク曲線に表れる最大負荷トルク曲線の近傍であることから、比較的大きな燃焼圧が維持されることになる。従来の定速走行制御は、
図3の二点鎖線のトルクか、もしくはそれよりやや小さいトルクが得られるように燃焼圧を制御することになるから、燃焼圧は比較的大きなままであり、その分だけ、エンジン10への負担も大きい。
【0039】
この最低燃費領域に収まるように運転状態が制御されたエンジン10のトルクよりもエンジン10内の慣性力が小さいエンジン回転数領域では、慣性力に抗する程度のトルク、すなわち燃焼圧が得られれば、エンジン10を回転させ続けることができる。
図2の演算処理では、このエンジン回転数領域において、エンジン10が回転し続ける程度までトルクを低減する、すなわち
図3の二点鎖線領域から実線の慣性力に近づけることができ、これにより、燃焼圧が低減され、エンジン10への負担が低減される。
【0040】
このように、この実施の形態のエンジン制御装置では、車両の定速走行制御中にあって且つエンジン10内の慣性力が燃焼圧に応じたトルクより小さい場合には、その慣性力に抗してエンジン10が回転し続ける状態まで燃焼圧を低減することにより、エンジン10の回転を維持しながらエンジン10への負担を低減することができる。
【0041】
また、燃焼圧を次第に低減するとトルクが次第に低減し、これにより、例えば多気筒エンジンの燃焼行程の断続に伴うエンジン10の回転変動が次第に大きくなるので、このエンジン10の回転変動が、エンジン10を回転させ続けるのに必要な所定値と略同等となった時点の燃焼圧を維持することにより、エンジン10の回転を維持しながらエンジン10への負荷を可及的に低減することができる。
【0042】
また、車両の吸気系に設けられたスロットルバルブのスロットル開度低減、エンジン10に設けられたインジェクタ23からの燃料噴射量の低減、及び、エンジン10に設けられた点火プラグ18の点火時期の遅角の何れか1つ以上によってエンジン10内の燃焼圧を低減する。これにより、エンジン10内の燃焼圧を確実に低減することができると共に、スロットル開度低減や点火時期の遅角においても、例えば、排ガス空燃比のフィードバックによって燃料消費量を低減することができる。
【0043】
また、エンジン回転数が大きく、慣性力が燃焼圧に応じたトルク以上である場合であっても、例えば、変速機の変速比を小さくすることでエンジン回転数を次第に低減し、その結果、慣性力がトルクより小さくなったらエンジン10内の燃焼圧を低減することにより、元来の定速走行制御でエンジン回転数が大きい場合であってもエンジン10への負担を低減することができるようになる。
【0044】
以上、実施の形態に係るエンジン制御装置について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、エンジンの吸気系にターボチャージャが介装された例について説明したが、ターボチャージャのない、自然吸気エンジンでも同様に適用可能である。同様に、CVT以外の変速機を用いる車両でも、同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 エンジン
18 点火プラグ
23 インジェクタ(燃料噴射装置)
24 エンジンコントロールユニット