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特許7260446切換伝え車、自動巻機構、時計用ムーブメント及び時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】切換伝え車、自動巻機構、時計用ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 11/02 20060101AFI20230411BHJP
   G04B 5/02 20060101ALI20230411BHJP
   G04B 1/10 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G04B11/02
G04B5/02
G04B1/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019166503
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021043110
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】木村 怜次
(72)【発明者】
【氏名】早川 和樹
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-196882(JP,A)
【文献】実公昭40-028865(JP,Y1)
【文献】特開2019-095437(JP,A)
【文献】特開2003-344559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 11/00-11/04
G04B 5/02- 5/14
G04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線回りに回転可能に配置され、被伝達輪列に対して動力を伝える切換伝えかなを有する回転軸部と、
前記回転軸部に対して相対回転可能に組み合わされ、動力源から伝達された動力によって前記第1軸線回りを回転する切換車と、
前記回転軸部に一体的に組み合わされた回転プレートと、
第2軸線回りに揺動可能に、前記回転プレートに一体的に組み合わされた切換爪部と、を備え、
前記切換車は、前記第1軸線回りを周回する周方向の一方側に向いた係合面と、周方向の他方側に向いた傾斜面と、を有する切換歯部を複数備え、
前記切換爪部は、
前記第2軸線から前記周方向の一方側に向けて延びるように形成された切換アーム部と、
前記切換アーム部の先端部に形成され、前記係合面に対して前記周方向の一方側から離脱可能に係合する係合部と、を備え、
前記切換爪部は、前記係合面に対して前記係合部が押し付けられるように、ばね部材によって付勢されていることを特徴とする切換伝え車。
【請求項2】
請求項1に記載の切換伝え車において、
前記係合部は、
前記切換車が前記周方向の一方側に向けて前記第1軸線回りに回転したときに、前記係合面に対する係合状態が維持され、且つ前記切換車が前記周方向の他方側に向けて前記第1軸線回りに回転したときに、前記傾斜面によって前記係合面に対する係合が解除される、切換伝え車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切換伝え車において、
前記回転プレートには、
前記係合面に対する前記係合部の係合が解除されたときに、前記第2軸線回りの前記切換爪部の揺動を制限する制限部材が設けられている、切換伝え車。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の切換伝え車において、
前記ばね部材は、前記切換爪部とは別体に形成され、前記回転プレートに対して組み合わされている、切換伝え車。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の切換伝え車において、
前記ばね部材は、前記切換爪部と一体に形成され、前記回転プレートに対して組み合わされている、切換伝え車。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の切換伝え車と、
第3軸線を中心として二方向に回転可能とされ、前記動力源として機能する回転錘と、
ぜんまいを巻き上げる角穴車と前記切換伝えかなとを接続する前記被伝達輪列と、を備え、
前記切換車及び前記切換爪部は、前記回転プレートを挟んで前記第1軸線方向の両側に配置されるようにそれぞれ一対設けられ、
一対の前記切換車のうち、前記回転プレートよりも前記切換伝えかな側に位置する切換車が、前記回転錘の回転に伴って回転する第1切換車とされ、
一対の前記切換車のうち残りの切換車が、前記回転錘の回転に伴って前記第1切換車とは反対方向に向けて回転する第2切換車とされ、
一対の前記切換爪部のうち、前記回転プレートよりも前記切換伝えかな側に位置する切換爪部が、前記第1切換車に連係して作動する第1切換爪部とされ、
一対の前記切換爪部のうち残りの切換爪部が、前記第2切換車に連係して作動する第2切換爪部とされていることを特徴とする自動巻機構。
【請求項7】
請求項6に記載の自動巻機構を備えることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項8】
請求項7に記載の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切換伝え車、自動巻機構、時計用ムーブメント及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
ぜんまいを巻き上げる機構として、自動巻機構を具備した機械式時計が知られている。一般的に自動巻機構は、二方向に回転可能な回転錘と、回転錘の二方向の回転を一方向の回転に切り換えるための切換伝え車と、を備えている。
【0003】
この種の切換伝え車としては、従来より様々なタイプのものが知られているが、例えば下記特許文献1に示されるクラッチ車を利用したものが知られている。
クラッチ車は、軸線回りに回転可能な回転軸部と、回転軸部に固着されたラチェット車と、回転軸部に対して相対回転可能に組み合わされた歯車と、歯車に揺動可能に連結されると共に、ラチェット車に係合する係合爪を有する切換爪部と、歯車に一体的に組み合わされ、係合爪をラチェット車側に押し付けるばね部と、を備えている。
【0004】
このように構成されたクラッチ車によれば、歯車が回転軸部に対して軸線回りの一方向に回転した場合には、係合爪の係合が外れるように切換爪部が揺動可能とされている。これにより、回転軸部が回転することなく、歯車のみが一方向に回転可能とされている。
これに対して、歯車が回転軸部に対して軸線回りの他方向に回転した場合には、係合爪とラチェット車との係合状態を維持することができ、歯車と共にラチェット車及び回転軸部を他方向に回転させることが可能とされている。
【0005】
このように、クラッチ車を利用することで、回転錘の回転によって歯車が軸線回りの一方向及び他方向の二方向に回転したとしても、回転軸部を常に同じ方向に回転させることが可能とされている。その結果、回転軸部を介して角穴車を常に同じ方向に回転させることができ、ぜんまいを巻き上げることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭46-9887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来のクラッチ車は、係合爪でラチェット車を押し出すように回転させる、いわゆる押し爪タイプの構成とされている。
具体的には、切換爪部における係合爪とラチェット車における歯部の係合面とが互いに係合している状態から、係合爪が係合面を周方向に押すように歯車が回転することで、係合爪と係合面との係合状態を維持しながら、切換爪部及びラチェット車を共回りさせることが可能とされている。
【0008】
上記構成に関して、ラチェット車が先に回転する観点で見てみると、係合爪から切換爪部の揺動中心に向かう回転方向にラチェット車が回転した場合に、係合爪と係合面との係合状態を維持しながら、切換爪部及びラチェット車を共回りさせることが可能とされている。つまり、切換爪部は、揺動中心からラチェット車の回転方向の上流側に向けて延びるように形成されている。そして、切換爪部の先端部に形成された係合爪は、ラチェット車における歯部の係合面に対してラチェット車の回転方向の下流側から係合している。これにより、ラチェット車が回転した際に、切換爪部に対して圧縮力が作用するように係合爪と係合面とを互いに係合させることができ、切換爪部及びラチェット車を共回りさせることができる。
【0009】
上述のように、従来のクラッチ車は、いわゆる押し爪タイプとされているので、揺動中心から係合爪までのアーム長さが長くなるように切換爪部を形成してしまうと、係合爪とラチェット車における歯部の係合面との係合(噛み合い)が不十分になり易く、係合が外れ易くなってしまう。そのため、アーム長さを長く形成することが難しいものであった。
【0010】
ところで、係合爪と係合面との係合を解除することで、ラチェット車に対して切換爪部をフリーに回転させる場合には、ラチェット車に対する負荷をできるだけ低減することが求められる。このようなニーズに応えるためには、例えば切換爪部のアーム長さを長く形成して、揺動中心から係合爪までの距離(すなわち回転モーメントを決定する腕の長さ)を大きく確保することが考えられる。これにより、係合爪をばね部に抗して押し退ける際のラチェット車への負荷を低くすることができるためである。
【0011】
しかしながら、上述したように従来のクラッチ車は、いわゆる押し爪タイプとされているので、切換爪部自体のアーム長さを長くすることが難しい。そのため、クラッチ車にかかる回転負荷を低減することが難しいものであった。その結果、クラッチ車を利用した自動巻機構は、巻上効率が悪く、巻上性能に改善の余地があった。
【0012】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、回転負荷を低減することができ、巻上性能の向上化に繋げることができる切換伝え車、自動巻機構、時計用ムーブメント及び時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る切換伝え車は、第1軸線回りに回転可能に配置され、被伝達輪列に対して動力を伝える切換伝えかなを有する回転軸部と、前記回転軸部に対して相対回転可能に組み合わされ、動力源から伝達された動力によって前記第1軸線回りを回転する切換車と、前記回転軸部に一体的に組み合わされた回転プレートと、第2軸線回りに揺動可能に、前記回転プレートに一体的に組み合わされた切換爪部と、を備え、前記切換車は、前記第1軸線回りを周回する周方向の一方側に向いた係合面と、周方向の他方側に向いた傾斜面と、を有する切換歯部を複数備え、前記切換爪部は、前記第2軸線から前記周方向の一方側に向けて延びるように形成された切換アーム部と、前記切換アーム部の先端部に形成され、前記係合面に対して前記周方向の一方側から離脱可能に係合する係合部と、を備え、前記切換爪部は、前記係合面に対して前記係合部が押し付けられるように、ばね部材によって付勢されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る切換伝え車によれば、動力源から伝達された動力によって切換車が周方向の一方側に向けて第1軸線回りを回転した場合には、これに伴って複数の切換歯部が同方向に回転する。このとき、切換歯部における係合面に対して切換爪部の係合部が周方向の一方側から係合しているので、係合面と係合部との係合状態を維持することができる。そのため、切換車の回転に伴って、切換爪部を周方向の一方側に向けて回転させることができる。
また、切換爪部が回転することで、回転プレートを介して回転軸部を周方向の一方側に向けて回転させることができる。従って、切換車に伝わった動力を、回転軸部の切換伝えかなを介して被伝達輪列に伝えることができる。
【0015】
次に、上述した場合とは逆に、動力源から伝達された動力によって切換車が周方向の他方側に向けて第1軸線回りを回転した場合には、これに伴って複数の切換歯部が同方向に回転する。この場合には、切換歯部における傾斜面が切換爪部の係合部を乗り越えるように移動するので、切換爪部はばね部材による付勢力(押付け力)に抗しながら、第2軸線回りを揺動する。これにより、係合面に対する係合部の係合が解除されるので、切換車を周方向の他方側に向けて第1軸線回りに空回りさせることができる。
【0016】
従って、切換車を周方向の一方側に向けて回転させるような動力が切換車に伝わってきた場合には、切換歯部の係合面と係合部とを係合させた状態を維持しながら、回転プレート及び回転軸部の全体を同方向に回転させることができ、被伝達輪列に動力を伝えることができる。
また、これとは逆に、切換車を周方向の他方側に向けて回転させるような動力が切換車に伝わってきた場合には、切換車だけを空回りさせることができ、被伝達輪列に動力が伝わることを防止することができる。
従って、切換車が二方向に回転したとしても、被伝達輪列を常に一方向に回転させるように動力を伝えることができる。そのため、切換伝え車を利用して、例えば自動巻機構等に利用することが可能となる。
【0017】
特に、切換爪部は、揺動中心である第2軸線から周方向の一方側に向けて延びるように形成された切換アーム部を有しており、この切換アーム部の先端部に係合部が形成されている。そのため、切換車が周方向の一方側に回転する際、切換アーム部を引っ張るように切換爪部を回転させることができる。従って、従来とは異なり、切換アーム部に対して引張力を作用させるような、いわゆる引き爪タイプの切換爪部として機能させることができる。
この場合、切換アーム部のアーム長さを長く形成したとしても、従来の押し爪タイプとは異なり、係合面と係合部との係合状態を維持し易く、係合が外れ難い状態を確保することができる。そのため、切換アーム部の長さを従来よりも長くすることができ、その分、ばね部材の付勢力に抗して、小さい力で係合部を押し退けることが可能である。従って、切換車が空回りする際の回転負荷を低減することができ、自動巻機構等に利用した場合において、巻上性能の向上化に繋げることができる。
【0018】
(2)前記係合部は、前記切換車が前記周方向の一方側に向けて前記第1軸線回りに回転したときに、前記係合面に対する係合状態が維持され、且つ前記切換車が前記周方向の他方側に向けて前記第1軸線回りに回転したときに、前記傾斜面によって前記係合面に対する係合が解除されても良い。
【0019】
この場合には、上述した作用効果をより一層確実に奏功することできる。つまり、切換車が二方向に回転したとしても、被伝達輪列を常に一方向に回転させるように動力を伝えることができ、切換伝え車を利用して例えば自動巻機構等に利用することが可能となる。
【0020】
(3)前記回転プレートには、前記係合面に対する前記係合部の係合が解除されたときに、前記第2軸線回りの前記切換爪部の揺動を制限する制限部材が設けられても良い。
【0021】
この場合には、係合面に対する係合部の係合が解除されることで切換車が空回りするときに、例えば度当たり等の制限部材を利用して、第2軸線回りの切換爪部の揺動を制限することができる。これにより、切換爪部が過度に揺動することを防止することができ、それによって例えばばね部材が大きく変形して塑性変形してしまうことを防止することができる。これにより、長期に亘って安定して作動させることができ、作動信頼性の向上化を図ることができる。
特に、落下衝撃が加わった場合や手動の手巻き操作等を行った場合には、切換爪部が過度に揺動する場合が想定される。しかしながら、このような場合であっても、ばね部材が大きく変形することを効果的に防止することができる。
【0022】
(4)前記ばね部材は、前記切換爪部とは別体に形成され、前記回転プレートに対して組み合わされても良い。
【0023】
この場合には、ばね部材を切換爪部とは別体に形成しているので、ばね部材を単独で設計することができると共に、例えば切換爪部とは別の材料、めっき等を選択することが可能である。
【0024】
(5)前記ばね部材は、前記切換爪部と一体に形成され、前記回転プレートに対して組み合わされても良い。
【0025】
この場合には、切換爪部とばね部材とを一体で形成しているので、部品点数を少なくすることができ、軽量化、低コスト化及び組立性の向上化を図ることができる。
【0026】
(6)本発明に係る自動巻機構は、前記切換伝え車と、第3軸線を中心として二方向に回転可能とされ、前記動力源として機能する回転錘と、ぜんまいを巻き上げる角穴車と前記切換伝えかなとを接続する前記被伝達輪列と、を備え、前記切換車及び前記切換爪部は、前記回転プレートを挟んで前記第1軸線方向の両側に配置されるようにそれぞれ一対設けられ、一対の前記切換車のうち、前記回転プレートよりも前記切換伝えかな側に位置する切換車が、前記回転錘の回転に伴って回転する第1切換車とされ、一対の前記切換車のうち残りの切換車が、前記回転錘の回転に伴って前記第1切換車とは反対方向に向けて回転する第2切換車とされ、一対の前記切換爪部のうち、前記回転プレートよりも前記切換伝えかな側に位置する切換爪部が、前記第1切換車に連係して作動する第1切換爪部とされ、一対の前記切換爪部のうち残りの切換爪部が、前記第2切換車に連係して作動する第2切換爪部とされていることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る自動巻機構によれば、回転錘が第3軸線を中心として二方向に回転すると、その回転に伴って第1切換車及び第2切替車が第1回転軸線回りを互いに逆向きに回転する。従って、回転錘の回転によって、例えば第1切換車が周方向の一方側に向けて回転した場合には、第2切換車が周方向の他方側に向けて回転する。
【0028】
第1切換車が周方向の一方側に向けて回転すると、先に述べた場合と同様に、第1切換爪部が第1切換車と共に同方向に回転し、これによって回転プレート及び回転軸部が同方向に回転する。従って、第1切換車に伝わった動力を切換伝えかなを介して被伝達輪列に伝えることができると共に、被伝達輪列を介して角穴車に伝えて、ぜんまいを巻き上げることができる。
【0029】
上述した第1切換車の回転時、第2切換車は周方向の他方側に向けて回転する。このとき、上述した回転プレートの回転に伴って、第2切換爪部が周方向の一方側に向けて回転する。従って、第2切換車は、周方向の一方側に向けて回転する第2切換爪部に対して、周方向の他方側に向けて回転する。これにより、先に述べた場合と同様に、第2切換車における切換歯部の係合面と、第2切換爪部における係合部とは互いに係合することがないので、第2切換車は空回りした状態となる。従って、第2切換車の回転によって、回転軸部を回転させることがない。
【0030】
次に、上述した場合とは逆に、回転錘の回転に伴って第1切換車が周方向の他方側に向けて回転し、且つ第2切換車が周方向の一方側に向けて回転した場合には、上述した場合とは動きが逆になるので、第2切換車に伝わった動力を切換伝えかなを介して角穴車に伝えることができ、角穴車を先ほどと同じ方向に回転させてぜんまいを巻き上げることができる。また、第1切換車については空回りするので、第1切換車の回転によって、回転軸部を回転させることがない。
【0031】
従って、二方向に回転する回転錘による動力を利用して、切換伝えかなを有する回転軸部を常に同じ方向に回転させることができ、角穴車を回転させてぜんまいを巻き上げることができる。特に、第1切換車及び第2切換車が空回りする際の回転負荷を低減することができるので、巻上性能の向上化に繋げることができる。
【0032】
(7)本発明に係る時計用ムーブメントは、前記自動巻機構を備えることを特徴とする。
(8)本発明に係る時計は、前記時計用ムーブメントを備えることを特徴とする。
【0033】
この場合には、上述した自動巻機構を具備しているので、巻上性能が向上した信頼性の高い時計用ムーブメント及び時計とすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、回転負荷を低減することができ、巻上性能の向上化に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る第1実施形態を示す図であって、時計の外観図である。
図2図1にムーブメントにおける自動巻機構の斜視図である。
図3図2に示す切換伝え車の斜視図である。
図4図3に示す状態から上段切換歯車を取り外した状態の斜視図である。
図5図3に示す切換伝え車の縦断面図であって、図6に示すA-A線に沿った縦断面図である。
図6図5に示す上段切換爪車、上段切換爪部及びばね部材の関係を示す平面図である。
図7図5に示すB-B線に沿って見た平面図であって、下段切換爪車、下端切換爪部及びばね部材の関係を示す図である。
図8】本発明に係る第2実施形態を示す図であって、上段切換爪車、上段切換爪部及びばね部材の関係を示す平面図である。
図9】本発明に係る第3実施形態を示す図であって、上段切換爪車、上段切換爪部及びばね部材の関係を示す平面図である。
図10】本発明に係る第4実施形態を示す図であって、上段切換爪車、上段切換爪部及びばね部材の関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、時計の一例として自動巻式の機械式時計を例に挙げて説明する。
【0037】
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上側、その反対側を下側として説明する。
【0038】
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス3からなる時計ケース2内に、ムーブメント(本発明に係る時計用ムーブメント)10と、少なくとも時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板4と、時を示す時針5、分を示す分針6、及び秒を示す秒針7を含む指針と、を備えている。
【0039】
ムーブメント10は、図示しない地板、地板よりも表側に配置された図示しない輪列受及びてんぷ受等を備えている。地板と輪列受及びてんぷ受との間には、表輪列、表輪列の回転を制御する脱進機、脱進機を調速する調速機、手動巻き機構、及び図2に示す自動巻機構11が主に配設されている。なお、本実施形態では、表輪列、脱進機、調速機、及び手動巻き機構の図示を省略している。
地板の裏側には、図示しない裏輪列等が配設されていると共に、文字板4がガラス3を通じて視認可能に配置されている。
【0040】
地板には、図示しない巻真案内穴が形成されており、巻真案内穴に図1に示す巻真12が軸線回りに回転可能に組み込まれている。巻真12には、りゅうず13が連結されている。これにより、りゅうず13を介して、巻真12を回転操作することが可能とされている。
【0041】
巻真12は、おしどり、かんぬき、かんぬきばね等を有する図示しない切換装置により、軸方向の位置が決められている。巻真12の案内軸部には、巻真12に対して回転可能、且つ軸方向に移動不能に図示しないきち車が取り付けられている。巻真12のうち、きち車よりも先端側に位置する部分には、巻真12に対して回転不能、且つ軸方向に移動可能に図示しないつづみ車が取り付けられている。
【0042】
きち車とつづみ車とは、例えば巻真12を、軸方向に沿ってムーブメント10に最も近い巻真12位置(0段位置)にセットしたときに、互いに噛合可能とされている。従って、この状態でりゅうず13を介して巻真12を回転操作することで、つづみ車を介してきち車を巻真12と同軸の軸線回りに回転させることが可能とされている。
【0043】
きち車が回転することで、手動巻き機構を介して図2に示す角穴車20を回転させることが可能とされている。さらに角穴車20が回転することで、香箱車21の内部に収容されたぜんまい(ムーブメントの動力源)を巻き上げることが可能とされている。
【0044】
表輪列は、香箱車21、二番車、三番車及び四番車を主に備えている。なお、本実施形態では、二番車、三番車及び四番車の図示を省略している。これら二番車、三番車及び四番車は、巻き上げられたぜんまいの弾性復元力によって回転する香箱車21の回転に伴って順に回転する。
【0045】
なお、図1に示す秒針7は、四番車の回転に基づいて回転すると共に脱進機及び調速機によって調速された回転速度、すなわち1分間で1回転する。分針6は、二番車の回転、或いは二番車の回転に伴って回転する図示しない分車の回転に基づいて回転すると共に脱進機及び調速機によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。時針5は、図示しない日の裏車を介して、二番車の回転に伴って回転する図示しない筒車の回転に基づいて回転すると共に、脱進機及び調速機によって調速された回転速度、すなわち12時間或いは24時間で1回転する。
【0046】
脱進機は、四番車に噛み合うと共にぜんまいから伝達される動力によって回転するがんぎ車、及びがんぎ車を脱進させて規則正しく回転させるアンクルを備え、てんぷからの規則正しい振動で表輪列を制御する。調速機は、主に図示しないひげぜんまいを動力源として、香箱車21の出力トルクに応じた定常振幅(振り角)で往復回転(正逆回転)するてんぷを備えている。
【0047】
図2に示すように、香箱車21は、地板及び輪列受によって回転可能に軸支された香箱真23と、香箱真23に対して相対回転可能に組み合わされ、内部にぜんまいを収容する香箱ケース22と、を備えている。香箱ケース22には、二番車に噛み合う香箱歯車22aが形成されている。
【0048】
ぜんまいは、香箱真23に対して渦巻状に巻き付けられた状態で香箱ケース22内に収容されている。ぜんまいは、香箱真23の回転によって巻き上げられると共に、巻き解ける際の弾性復元力により香箱ケース22を回転させて、二番車を介して表輪列に動力(回転トルク)を伝える。
【0049】
角穴車20は、香箱ケース22と輪列受との間に配置され、香箱真23に対して例えば圧入等によって固定されている。角穴車20は、手動巻き機構を構成する図示しない伝達歯車に噛み合う角穴歯車20aを有しており、予め決められた方向に向けて軸線O1回りを回転することが可能とされている。
なお、本実施形態では、上方(ケース裏蓋側)から見て、図2に示す矢印の如く時計回り方向(以下、単に時計方向という)に、角穴車20が回転する場合を例に挙げて説明する。
【0050】
これにより、時計方向への角穴車20の回転によって、香箱真23を介してぜんまいを巻き上げることが可能とされている。なお、角穴歯車20aには、後述する自動巻機構11における二番伝え車52の二番伝え歯車52aが噛み合っている。そのため、二番伝え車52を介して角穴車20を時計方向に回転させることが可能とされ、自動巻機構11によってぜんまいを巻き上げることが可能とされている。
【0051】
なお、角穴車20には、巻き上げたぜんまいの巻き解けを防止するために、角穴車20の逆転を規制する図示しないこはぜが係合している。こはぜによって、角穴車20は時計方向への回転が許容され、且つその反対である反時計回り方向(以下、単に反時計方向という)への回転が規制されている。
【0052】
(自動巻機構)
自動巻機構11は、例えば使用者の腕の動き等に応じて作動する回転錘30の回転によって、ぜんまいを自動で巻き上げる機構であって、回転錘30と、切換伝え車60と、回転錘30と切換伝え車60との間に配置された仲介輪列40と、角穴車20と切換伝え車60との間に配置された伝え輪列(本発明に係る被伝達輪列)50と、を備えている。
【0053】
回転錘30は、軸線(本発明に係る第3軸線)O2を中心として二方向に回転可能とされ、自動巻機構11を作動させる動力源として機能する。
具体的には、回転錘30は、ボールベアリング31と、回転錘体35と、回転重錘36と、を備え、使用者の腕の動き等に応じて軸線O2を中心として、時計方向及び反時計方向の双方向に回転する。
【0054】
ボールベアリング31は、図示しない受部材に固定された内輪32と、内輪32を囲む外輪33と、内輪32と外輪33との間に転動可能に介在された図示しない複数のボールと、を備えている。これにより、外輪33は、ボールを介して内輪32に対して軸線O2回りに相対回転可能とされている。外輪33の外周面には、全周に亘って回転錘かな33aが形成されている。
【0055】
回転錘体35は、平面視扇形状に形成され、外輪33に外嵌されている。回転重錘36は、回転錘体35の外周縁部に固定されている。従って、回転重錘36、回転錘体35及び外輪33は、一体となって軸線O2回りを回転可能とされている。
【0056】
仲介輪列40は、軸線O3回りに回転する一番仲介車41と、軸線O4回りに回転する二番仲介車42と、軸線O5回りに回転する三番仲介車43と、を備えている。これら一番仲介車41、二番仲介車42、及び三番仲介車43は、図示しない受部材によってそれぞれ回転可能に支持されている。
【0057】
一番仲介車41は、回転錘かな33aに噛み合う一番仲介歯車41aと、一番仲介かな41bと、を備えている。これにより、一番仲介車41は、回転錘30の回転に伴って軸線O3回りを回転すると共に、回転錘30の回転方向に対して逆方向に回転することが可能とされている。
【0058】
二番仲介車42は、一番仲介かな41bに噛み合う二番仲介歯車42aと、二番仲介かな42bと、を備えている。これにより、二番仲介車42は、一番仲介車41の回転に伴って軸線O4回りを回転すると共に、回転錘30の回転方向と同じ方向に回転することが可能とされている。
【0059】
三番仲介車43は、二番仲介かな42bに噛み合う三番仲介歯車43aを備えている。これにより、三番仲介車43は、二番仲介車42の回転に伴って軸線O5回りを回転すると共に、回転錘30の回転方向に対して逆方向に回転することが可能とされている。
【0060】
伝え輪列50は、軸線O6回りに回転する一番伝え車51と、軸線O7回りに回転する二番伝え車52と、を備えている。これら一番伝え車51及び二番伝え車52は、図示しない受部材によってそれぞれ回転可能に支持されている。
【0061】
一番伝え車51は、切換伝え車60における後述する切換伝えかな73に噛み合う一番伝え歯車51aと、一番伝えかな51bと、を備えている。これにより、一番伝え車51は、切換伝えかな73の回転に伴って軸線O6回りを回転可能とされている。
特に、切換伝えかな73は、後に詳細に説明するが、常に反時計方向に回転するように構成されている。従って、一番伝え車51は、切換伝えかな73の回転に伴って常に時計方向に向けて軸線O6回りを回転可能とされている。
【0062】
二番伝え車52は、一番伝えかな51b及び角穴歯車20aにそれぞれ噛み合う二番伝え歯車52aを備えている。これにより、二番伝え車52は、一番伝え車51の回転に伴って軸線O7回りを反時計方向に回転することが可能とされている。従って、二番伝え車52は、先に述べたように、角穴車20を常に時計方向に回転させることが可能とされている。
【0063】
(切換伝え車)
図2に示すように、切換伝え車60は、上述した仲介輪列40を介して伝達されてきた回転錘30の動力によって軸線(第1軸線)O8回りを回転すると共に、回転錘30の二方向の回転を一方向の回転に切り換えた状態で、伝え輪列50を介して角穴車20に回転錘30の動力を伝える役割を果たしている。
【0064】
図3図5に示すように、切換伝え車60は、軸線O8回りに回転可能とされた車軸(本発明に係る回転軸部)65と、車軸65に対して相対回転可能に組み合わされ、仲介輪列40を介して回転錘30から伝達された動力によって軸線O8回りを回転する一対の切換車61と、車軸65に一体的に組み合わされた回転プレート62と、揺動軸線(本発明に係る第2軸線)O9回りに揺動可能に回転プレート62に一体的に組み合わされた一対の切換爪部63と、を備えている。
【0065】
なお、切換伝え車60の中心軸である軸線O8方向から見た平面視において、軸線O8に交差する方向を径方向といい、軸線O8回りに周回する方向を周方向という。
【0066】
車軸65は、上ほぞ部70及び下ほぞ部71が図示しない受部材にそれぞれ回転可能に支持されている。車軸65のうち、上ほぞ部70よりも下方に位置する部分には、一番伝え車51における一番伝え歯車51aが噛み合う切換伝えかな73が形成されている。また、車軸65のうち、切換伝えかな73よりも下方に位置する部分には第1段部74が形成され、第1段部74よりも下方に位置する部分には第2段部75が形成されている。
【0067】
車軸65における第1段部74には、円筒状の上座80が圧入等によって固定されている。上座80は、第1段部74に固定された第1上座筒81と、第1上座筒81の下端部から下方に向けて延びると共に、第1上座筒81よりも縮径した第2上座筒82と、第1上座筒81の上端部から径方向の外側に向けて延びた環状の上座鍔部83と、を備えている。
このように構成された上座80は、上座鍔部83が切換伝えかな73に対して下方から接触した状態で第1段部74に固定されている。
【0068】
車軸65における第2段部75には、円筒状の下座85が圧入等によって固定されている。下座85は、第2段部75に固定された下座筒86と、下座筒86の下端部から径方向の外側に向けて延びた環状の下座鍔部87と、を備えている。
このように構成された下座85は、上座80よりも下方に位置した状態で第2段部75に固定されている。
【0069】
回転プレート62は、第2上座筒82に対して圧入等によって固定されている。これにより、回転プレート62は、上座80を介して車軸65に一体的に組み合わされている。
なお、図示の例では、回転プレート62は、上座鍔部83及び下座鍔部87よりも拡径した円板状に形成されている。ただし、この場合に限定されるものではなく、例えば上座鍔部83及び下座鍔部87を、回転プレート62よりも拡径するように形成しても構わない。
回転プレート62には、外周縁部側に周方向に間隔をあけて配置された3つの連結ピン90、91、92が圧入等によって固定されている。これら連結ピン90、91、92は、円柱状に形成され、回転プレート62の上面側及び下面側に突出するように形成されている。
【0070】
一対の切換車61は、回転プレート62を挟んで上下両側に配置されている。
一対の切換車61のうち、回転プレート62よりも切換伝えかな73側に位置する切換車61が上段切換車(本発明に係る第1切換車)100とされている。また、一対の切換車61のうち、回転プレート62よりも下方に位置する切換車61が下段切換車(本発明に係る第2切換車)110とされている。
【0071】
一対の切換爪部63は、回転プレート62を挟んで上下両側に配置されている。
一対の切換爪部63のうち、回転プレート62よりも切換伝えかな73側に位置する切換爪部63が上段切換車100に連係して作動する上段切換爪部(本発明に係る第1切換爪部)120とされている。また、一対の切換爪部63のうち、回転プレート62よりも下方に位置する切換爪部63が下段切換車110に連係して作動する下段切換爪部(本発明に係る第2切換爪部)130とされている。
【0072】
上段切換車100及び上段切換爪部120の関係について、詳細に説明する。
図5及び図6に示すように、上段切換車100は、上座80における第1上座筒81に対して相対回転可能に組み合わされた上段切換爪車101と、上段切換爪車101に対して固定された上段切換歯車105と、を備えている。
【0073】
上段切換爪車101は、全周に亘って複数の切換歯部102を有していると共に、内周縁部から上方に向かって突出した上段連結筒103を有している。切換歯部102は、軸線O8回りを周回する周方向の一方側である反時計方向に向いた係合面102aと、周方向の他方側である時計方向に向いた傾斜面102bと、を有する歯部とされている。
【0074】
図3及び図5に示すように、上段切換歯車105は、上段連結筒103に対して圧入等によって固定されている。これにより、上段切換車100の全体は、上座80を介して車軸65に対して相対回転可能に組み合わされている。また、上段切換歯車105は、二番仲介車42における二番仲介かな42bに噛み合う上段切換歯部105aを有している。
そのため、上段切換車100の全体は、二番仲介かな42bの回転に伴って軸線O8回りに回転可能とされていると共に、二番仲介車42の回転方向に対して逆方向に回転(すなわち、回転錘30の回転方向に対して逆方向に回転)することが可能とされている。
【0075】
図5及び図6に示すように、上段切換爪部120は、回転プレート62と上段切換歯車105との間の隙間に配置されるように、回転プレート62における上面側に載置されている。そのため、上段切換爪部120は、上段切換爪車101よりも径方向外側に配置されている。
【0076】
上段切換爪部120は、周方向に沿って延びるように概略円弧状に形成され、その中央部121が回転プレート62に固定された連結ピン90に対して相対回転可能に組み合わされている。これにより、上段切換爪部120は、連結ピン90を中心として、径方向に揺動可能とされている。
なお、連結ピン90の中心軸線が揺動軸線O9とされている。そのため、上段切換爪部120は、揺動軸線O9回りに揺動可能に、連結ピン90を介して回転プレート62に一体的に組み合わされている。
【0077】
上段切換爪部120は、連結ピン90に組み合わされた中央部121から反時計方向に向けて延びるように形成された第1切換アーム部(本発明に係る切換アーム部)122と、中央部121から時計方向に向けて延びるように形成された第2切換アーム部123と、を備えている。第1切換アーム部122の先端部には、径方向の内側に向けて突設され、上段切換爪車101における切換歯部102に対して離脱可能に係合する係合部124が形成されている。
【0078】
係合部124は、切換歯部102における傾斜面102bに対して接触した状態で、切換歯部102における係合面102aに対して反時計方向側から離脱可能に係合している。これにより、係合部124は、周方向に隣接し合う切換歯部102の間に径方向の外側から入り込むように係合している。
【0079】
上述のように構成された上段切換爪部120は、切換歯部102の係合面102aに対して係合部124が押し付けられるように、ばね部材140によって揺動軸線O9回りに付勢されている。
【0080】
ばね部材140は、上段切換爪部120とは別体に形成されていると共に、回転プレート62と上段切換歯車105との間の隙間に配置されるように、残り2つの連結ピン91、92を利用して回転プレート62の上面側に組み合わされている。
【0081】
ばね部材140は、軸線O8を挟んで上段切換爪部120とは径方向の反対側に配置された基部141と、周方向に延びるように形成され、基端部142aが基部141に接続されると共に、先端部142bが上段切換爪部120の第2切換アーム部123を径方向の外側に向けて押圧するばね本体142と、を備えている。
【0082】
基部141は、周方向に沿って延びるように概略円弧状に形成され、周方向の両端部がそれぞれ連結ピン91、92に嵌合されている。これにより、ばね部材140の全体は、2つの連結ピン91、92を利用して回転プレート62に一体的に固定されている。
【0083】
ばね本体142は、周方向に沿って延びる例えば板ばねであって、上述したように基端部142aが基部141に接続されている。なお、本実施形態では、ばね本体142は、基部141と一体に形成されている。また、ばね本体142は、基端部142aから基部141の外側を回り込むように周方向に沿って反時計方向側に延びるように形成され、その先端部142bが上段切換爪部120の第2切換アーム部123に対して径方向の内側から接触している。
【0084】
これにより、ばね本体142は、自身の弾性復元力を利用して第2切換アーム部123を径方向の外側に向けて押圧している。そのため、上段切換爪部120は、係合部124が切換歯部102側に押し付けられるように常に付勢されている。
【0085】
上述のように上段切換車100及び上段切換爪部120が構成されているので、上段切換爪部120の係合部124は、上段切換車100が反時計方向に向けて軸線O8回りに回転したときに、係合面102aに対する係合状態が維持され、且つ上段切換車100が時計方向に向けて軸線O8回りに回転したときに、傾斜面102bによって係合面102aに対する係合状態が解除される。この点については、後に詳細に説明する。
【0086】
また、ばね部材140における基部141には、上段切換爪部120における第1切換アーム部122の先端部よりも径方向の外側に位置するように時計方向に向けて突出した度当たり部(本発明に係る制限部材)143が形成されている。
【0087】
度当たり部143は、係合面102aに対する係合部124の係合が解除されたときに、揺動軸線O9回りの上段切換爪部120の揺動を制限することが可能とされている。
具体的には、上段切換爪部120は、係合面102aに対する係合部124の係合が解除されたときに、第1切換アーム部122が径方向の外側に向けて移動するように、ばね部材140による押付け力(付勢力)に抗して揺動軸線O9回りに揺動する。このとき、上段切換爪部120が一定量揺動したときに、度当たり部143に対して第1切換アーム部122を接触させることが可能とされている。従って、度当たり部143を利用して、上段切換爪部120の揺動を制限して、上段切換爪部120が過度に揺動することを防止することが可能とされている。
【0088】
次に、下段切換車110及び下段切換爪部130の関係について説明する。
なお、下段切換車110及び下段切換爪部130については、上述した上段切換車100及び上段切換爪部120と同様に構成されているうえ、同様の相対位置関係とされている。
【0089】
ただし本実施形態では、下段切換爪部130は上段切換爪部120の位置に対して軸線O8を中心として周方向に120°ずれた位置に配置されている。従って、下段切換爪部130は、上段切換爪部120が連結されている連結ピン90ではなく、連結ピン91を利用して組み合わされている。
なお、この場合に限定されるものではなく、下段切換爪部130は、回転プレート62を挟んで上段切換爪部120の下方に対向配置されるように、同じ連結ピン90を利用して組み合わされていても構わない。
【0090】
図4図5及び図7に示すように、下段切換車110は、下座85における下座筒86に対して相対回転可能に組み合わされた下段切換爪車111と、下段切換爪車111に対して固定された下段切換歯車115と、を備えている。
【0091】
下段切換爪車111は、全周に亘って複数の切換歯部112を有していると共に、内周縁部から下方に向かって突出した下段連結筒113を有している。
切換歯部112は、軸線O8回りを周回する周方向の一方側である反時計方向に向いた係合面112aと、周方向の他方側である時計方向に向いた傾斜面112bと、を有する歯部とされている。
【0092】
下段切換歯車115は、下段連結筒113に対して圧入等によって固定されている。これにより、下段切換車110の全体は、下座85を介して車軸65に対して相対回転可能に組み合わされている。また、下段切換歯車115は、三番仲介車43における三番仲介歯車43aに噛み合う下段切換歯部115aを有している。
そのため、下段切換車110の全体は、三番仲介車43の回転に伴って軸線O8回りに回転可能とされていると共に、三番仲介車43の回転方向に対して逆方向に回転(すなわち、回転錘30の回転方向と同方向に回転)することが可能とされている。
【0093】
下段切換爪部130は、回転プレート62と下段切換歯車115との間の隙間に配置されるように、下段切換歯車115の上面側に載置されている。
下段切換爪部130は、回転プレート62に固定された連結ピン91に対して相対回転可能に組み合わされ、連結ピン91を中心として径方向に揺動可能とされている。従って、下段切換爪部130は、連結ピン91の中心軸線である揺動軸線O10回りに揺動可能に、連結ピン91を介して回転プレート62に一体的に組み合わされている。
【0094】
下段切換爪部130は、連結ピン91に組み合わされた中央部131から反時計方向に向けて延びるように形成された第1切換アーム部(本発明に係る切換アーム部)132と、中央部131から時計方向に向けて延びるように形成された第2切換アーム部133と、を備えている。
第1切換アーム部132の先端部には、径方向内側に向けて突設され、下段切換爪車111における切換歯部112に対して、離脱可能に係合する係合部134が形成されている。
【0095】
係合部134は、切換歯部112における傾斜面112bに対して接触した状態で、切換歯部112における係合面112aに対して反時計方向側から離脱可能に係合している。これにより、係合部134は、周方向に隣接し合う切換歯部112の間に径方向の外側から入り込むように係合している。
【0096】
上述のように構成された下段切換爪部130は、切換歯部112の係合面112aに対して係合部134が押し付けられるように、ばね部材150によって揺動軸線O10回りに付勢されている。
ばね部材150は、下段切換爪部130とは別体に形成されていると共に、2つの連結ピン90、92を利用して下段切換歯車115の上面側に組み合わされている。
【0097】
ばね部材150は、基部151及びばね本体152を備えている。
基部151は、周方向に沿って延びるように概略円弧状に形成され、周方向の両端部がそれぞれ連結ピン90、92に嵌合されている。これにより、ばね部材150の全体は、2つの連結ピン90、92を利用して回転プレート62に一体的に固定されている。
【0098】
ばね本体152は、周方向に沿って延びる例えば板ばねであって、基端部152aから基部151の外側を回り込むように周方向に沿って反時計方向側に延びるように形成され、その先端部152bが下段切換爪部130の第2切換アーム部133に対して径方向の内側から接触している。
【0099】
これにより、ばね本体152は、自身の弾性復元力を利用して第2切換アーム部133を径方向の外側に向けて押圧している。これにより、下段切換爪部130は、係合部134が切換歯部112側に押し付けられるように、揺動軸線O10回りに常に付勢されている。
【0100】
上述したように、下段切換車110及び下段切換爪部130が構成されているので、下段切換爪部130の係合部134は、下段切換車110が反時計方向に向けて軸線O8回りに回転したときに、係合面112aに対する係合状態が維持され、且つ下段切換車110が時計方向に向けて軸線O8回りに回転したときに、傾斜面112bによって係合面112aに対する係合状態が解除される。
【0101】
また、ばね部材150における基部151には、下段切換爪部130における第1切換アーム部132の先端部よりも径方向の外側に位置するように時計方向に向けて突出した度当たり部(本発明に係る制限部材)153が形成されている。
【0102】
(自動巻機構の作用)
次に、上述のように構成された切換伝え車60を具備する自動巻機構11の作用について説明する。
図2に示すように、回転錘30は、例えば使用者の腕の動きに応じて軸線O2を中心として二方向に適宜回転する。回転錘30が回転することで、その動力(回転トルク)は一番仲介車41、二番仲介車42及び三番仲介車43を介して切換伝え車60に伝達されるので、上段切換車100及び下段切換車110を軸線O8回りに互いに逆向きに回転させることができる。
【0103】
具体的に説明する。
図2に示す回転錘30が時計方向に回転した場合には、一番仲介車41を反時計方向に回転させ、二番仲介車42を時計方向に回転させ、三番仲介車43を反時計方向に回転させることができる。そのため、二番仲介かな42bに噛み合う上段切換車100を反時計方向に回転させ、三番仲介歯車43aに噛み合う下段切換車110を時計方向に回転させることができる。
従って、上段切換車100と下段切換車110とを、互いに逆向きに回転させることができる。なお、回転錘30が反時計方向に回転した場合であっても、上述した各車の回転方向が逆になるだけであるので、結果的に、上段切換車100と下段切換車110とを互いに逆向きに回転させることができる。
【0104】
例えば、回転錘30が時計方向に回転することで、上段切換車100が反時計方向に回転した場合、図6に示すように、これに伴って切換歯部102を有する上段切換爪車101が反時計方向に回転する。このとき、切換歯部102における係合面102aに対して上段切換爪部120の係合部124が反時計方向側から係合しているので、係合面102aと係合部124との係合状態を維持することができる。そのため、図6に示す矢印F1に示す如く、上段切換車100の回転トルクを上段切換爪部120に伝えることができ、上段切換爪部120を反時計方向に向けて引っ張るように回転させることができる。
【0105】
そして、上段切換爪部120が回転することで回転プレート62が回転するので、結果的に図2に示すように、車軸65を反時計方向に向けて回転させることができる。従って、上段切換車100に伝わった動力を、切換伝えかな73を介して伝え輪列50側に伝えることができると共に、伝え輪列50を介して角穴車20に伝え、ぜんまいを巻き上げることができる。
すなわち、車軸65及び切換伝えかな73が反時計方向に回転することで、一番伝え車51を時計方向に回転させ、二番伝え車52を反時計方向に回転させることができる。従って、角穴車20を時計方向に回転させることができ、ぜんまいを巻き上げることができる。
【0106】
ところで、回転プレート62が反時計方向に回転することで、図7に示すように、それに伴って下段切換爪部130も反時計方向に回転する。それに加えて、回転錘30が時計方向に回転することで、先に述べたように下段切換車110については時計方向に回転する。これらのことが相まって、下段切換車110は、反時計方向に回転する下段切換爪部130に対して、時計方向に回転する。
この場合には、下段切換歯車115における切換歯部112の係合面112aと、下段切換爪部130の係合部134とは互いに係合することがないので、下段切換車110は空回りした状態なる。従って、下段切換車110の回転によって、車軸65及び切換伝えかな73を回転させることがない。
【0107】
詳細に説明する。
反時計方向に回転する下段切換爪部130に対して、下段切換車110が時計方向に回転する場合には、切換歯部112における傾斜面112bが、図7に示す矢印F2に示す如く、下段切換爪部130の係合部134を径方向の外側に向けて押しながら、係合部134を周方向に乗り越えるように移動する。これにより、下段切換爪部130は、ばね部材150による付勢力(押付け力)に抗しながら、揺動軸線O10回りを揺動する。これにより、係合面112aに対する係合部134の係合が解除される。
その結果、下段切換車110を反時計方向に空回りさせることができる。
【0108】
以上説明したように、回転錘30の回転によって上段切換車100が反時計方向に回転した場合には、切換歯部102の係合面102aと上段切換爪部120の係合部124とを係合させた状態を維持しながら、回転プレート62、車軸65及び切換伝えかな73の全体を反時計方向に回転させることができ、伝え輪列50に動力を伝えることができる。また、これと同時に、下段切換車110が時計方向に回転したとしても、下段切換車110を時計方向に空回りさせることができるので、下段切換車110から伝え輪列50に動力が伝えることを防止できる。
【0109】
従って、上段切換車100及び下段切換車110が互いに逆方向に回転したとしても、伝え輪列50が常に一方向に回転するように動力を伝えることができる。そのため、図2に示すように角穴車20を時計方向に回転させて、ぜんまいを巻き上げることができる。
【0110】
次いで、図2に示す回転錘30が反時計方向に回転した場合について説明する。
この場合には、上述した場合とは逆に、回転錘30の回転に伴って、上段切換車100が時計方向に回転し、下段切換車110が反時計方向に回転する。従って、上述した場合とは動きが逆になるので、下段切換車110における切換歯部112の係合面112aと下段切換爪部130の係合部134とを係合させた状態を維持しながら、回転プレート62、車軸65及び切換伝えかな73の全体を反時計方向に回転させることができ、伝え輪列50に動力を伝えることができる。
また、これと同時に、上段切換車100を時計方向に空回りさせることができるので、上段切換車100から伝え輪列50に動力が伝えることを防止できる。
従って、この場合も同様に、伝え輪列50が常に一方向に回転するように動力を伝えることができるので、角穴車20を時計方向に回転させて、ぜんまいを巻き上げることができる。
【0111】
以上のことから、二方向に回転する回転錘30の動力を利用して、切換伝えかな73を有する車軸65を常に同じ方向である反時計方向に回転させることができるので、角穴車20を時計方向に回転させてぜんまいの自動巻を行うことができる。
【0112】
特に、本実施形態の切換伝え車60によれば、図6及び図7に示すように、上段切換爪部120及び下段切換爪部130が、揺動軸線O9、O10から反時計方向に向けて延びるように形成された第1切換アーム部122、132を有しており、その先端部に係合部124、134が形成されている。
【0113】
従って、例えば上段切換爪部120を例に挙げて説明すると、図6に示すように、上段切換車100が反時計方向に回転した場合、第1切換アーム部122を引っ張るように第1切換爪部63を回転させることができる。従って、従来とは異なり、第1切換アーム部122に対して引張力を作用させるような、いわゆる引き爪タイプの切換爪部として機能させることができる。
【0114】
この場合、第1切換アーム部122のアーム長さHを長く形成したとしても、従来の押し爪タイプとは異なり、係合面102aと係合部124との係合状態を維持し易く、係合が外れ難い状態を確保することができる。そのため、第1切換アーム部122のアーム長さHを従来よりも長くすることができ、その分、係合面102aが第1切換爪部63をばね部材140の付勢力に抗して押し退ける際の上段切換車100への負荷を低くすることが可能である。
従って、上段切換車100及び下段切換車110が空回りする際の回転負荷を低減することができるので、巻上性能の向上化に繋げることができる。
【0115】
以上説明したように、本実施形態の切換伝え車60を具備する自動巻機構11、及び自動巻機構11を具備するムーブメント10及び時計1によれば、回転負荷を低減することができ、巻上性能の向上化を図ることができる。
【0116】
さらに、本実施形態の切換伝え車60は、図6及び図7に示すように、上段切換爪部120及び下段切換爪部130の揺動を制限する度当たり部143、153を有している。
従って、上段切換車100及び下段切換車110が空回りするときに、度当たり部143、153を利用して、上段切換爪部120及び下段切換爪部130の揺動を制限することができ、過度に揺動することを防止することができる。これにより、例えばばね部材140、150におけるばね本体142、152が大きく変形して塑性変形してしまうことを防止することができる。従って、長期に亘って切換伝え車60を安定して作動させることができ、作動信頼性の向上化を図ることができる。
【0117】
特に、落下衝撃や、りゅうず13を利用した手動による手巻き操作等を行った場合には、上段切換爪部120及び下段切換爪部130が過度に揺動することが想定される。
とりわけ、手巻き操作によって角穴車20を時計方向に回転させた場合には、伝え輪列50を介して切換伝え車60の車軸65が強制的に反時計方向に回転する。この場合には、回転錘30が停止している状態であるので、停止している上段切換車100及び下段切換車110に対して、上段切換爪部120及び下段切換爪部130が反時計方向に回転し、上段切換爪部120及び下段切換爪部130が切換歯部102、112に弾かれながら大きく揺動し易い。そのため、ばね本体142、152が塑性変形し易い傾向となる。
このような場合であっても、度当たり部143、153を利用することで、ばね本体142、152が大きく変形してしまうことを効果的に防止することができる。
【0118】
さらに、ばね部材140、150を上段切換爪部120及び下段切換爪部130とは別体に形成しているので、ばね部材140、150を単独で設計することができるうえ、例えば、上段切換爪部120及び下段切換爪部130とは別の材料、めっき等を選択することが可能である。
【0119】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0120】
第1実施形態では、ばね本体142、152が上段切換爪部120及び下段切換爪部130の第2切換アーム部123、133を径方向の外側に向けて付勢することで、係合部124、134を切換歯部102、112側に向けて押し付ける構成としたが、第2実施形態では、ばね本体が上段切換爪部120及び下段切換爪部130の第1切換アーム部122、132を径方向の内側に向けて付勢するように構成されている。
【0121】
なお、本実施形態では、上段切換爪部120を例に挙げて説明する。
図8に示すように、本実施形態の切換伝え車160は、基部141に接続された基端部162aから時計方向に向けて周方向に延びるばね本体162を有するばね部材161を備えている。
【0122】
ばね本体162は、基部141及び上段切換爪部120における第1切換アーム部122を外側から回り込むように、基端部162aから先端部162bに向けて時計方向に延びている。そして、ばね本体162の先端部162bは、第1切換アーム部122を径方向の外側から内側に向けて付勢している。これにより、第1切換アーム部122の先端に形成された係合部124を切換歯部102に向けて押し付けている。
【0123】
また、度当たり部143は、上段切換爪部120における第2切換アーム部123の先端部よりも径方向の内側に位置するように、基部141から反時計方向に向けて突出するように形成されている。
【0124】
上述のように構成された本実施形態の切換伝え車160であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0125】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態では、上段切換爪部120及び下段切換爪部130をそれぞれ1つ具備する構成としたが、本実施形態では、上段切換爪部120及び下段切換爪部130をそれぞれ複数備えている。
【0126】
なお、本実施形態では、上段切換爪部120を例に挙げて説明する。
図9に示すように、本実施形態の切換伝え車170は、上段切換爪部120を2つ備えている。なお、上段切換爪部120の数は、2つに限定されるものではなく、例えば3つ以上であっても構わない。
【0127】
上段切換爪部120は、軸線O8を挟んで径方向に向かい合うように対称配置されている。従って、2つの上段切換爪部120は、それぞれ連結ピン90を介して回転プレート62に組み合わされている。
【0128】
さらに上段切換爪部120には、板ばね状のばね部材171が一体に形成されている。ばね部材171は、周方向に沿って延びる概略円弧状に形成されていると共に、基端部171aが第2切換アーム部123に接続されている。そして、ばね部材171は、第2切換アーム部123の外側を回り込みながら、第2切換アーム部123よりも時計方向に延びるように形成されていると共に、周方向に隣り合う他の上段切換爪部120における第1切換アーム部122よりも径方向の外側に配置されている。
【0129】
そして、ばね部材171の先端部171bは、周方向に隣り合う他の上段切換爪部120における第1切換アーム部122を径方向の外側から内側に向けて付勢している。これにより、第1切換アーム部122の先端に形成された係合部124は、切換歯部102に向けてそれぞれ押し付けられている。
【0130】
さらに、上段切換爪部120における第2切換アーム部123の先端は、周方向に隣り合う他の上段切換爪部120における第1切換アーム部122に対して、径方向の外側に位置する度当たり部(本発明に係る制限部材)173として機能する。
【0131】
上述のように構成された本実施形態の切換伝え車170であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
それに加えて本実施形態では、切換歯部102の歯数を奇数としている。従って、一方の上段切換爪部120の係合部124が切換歯部102の係合面102aに対して係合しているときに、他方の上段切換爪部120の係合部124は、切換歯部102の係合面102aに対する係合が解除されている。
【0132】
これにより、一方の上段切換爪部120の係合部124が切換歯部102の係合面102aから離脱して、隣接する切換歯部102の係合面102aに係合するまでの間に、他方の上段切換爪部120の係合部124が切換歯部102の係合面102aに対して係合することが可能とされている。
その結果、いわゆる不作動角を減らすことが可能とされている。つまり、回転錘30が反転を開始してから、車軸65が反時計方向の回転を再開するまでに必要な回転錘30の回転角度が小さくなり、より効率的に角穴車20を回転させて、ぜんまいを巻き上げることが可能になる。
【0133】
なお、上記第3実施形態では、2つの上段切換爪部120を、軸線O8を挟んで径方向に向かい合うように対称配置したうえで、切換歯部102の歯数を奇数とすることで、一方の上段切換爪部120の係合部124が切換歯部102の係合面102aに対して係合しているときに、他方の上段切換爪部120の係合部124が切換歯部102の係合面102aに対して非係合となるように構成した場合を例に挙げて説明した。
しかしながら、この場合に限定されるものではない。例えば、2つの上段切換爪部120を、軸線O8を中心に点対称となる位置から、切換歯部102の1歯の半分の角度分だけ周方向にずれるように配置したうえで、切換歯部102の歯数が偶数となるように構成しても構わない。この場合であっても、上述した場合と同様に、いわゆる不作動角を減らすことができ、上述と同様の作用効果を奏功することができる。
【0134】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第4実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0135】
第1実施形態では、上段切換爪部120及び下段切換爪部130とは別体で、ばね部材140、150をそれぞれ設けた構成としたが、本実施形態では、上段切換爪部120及び下段切換爪部130と一体にばね部材を形成している。
【0136】
なお、本実施形態では、上段切換爪部120を例に挙げて説明する。
図10に示すように、本実施形態の切換伝え車180は、板ばね状のばね部材181が一体に形成された上段切換爪部120を備えている。上段切換爪部120は、第1実施形態における第2切換アーム部123に代えて、ばね部材181が一体に形成された構成とされ、回転プレート62に固定された連結ピン190に対して揺動可能に組み合わされている。
【0137】
連結ピン190は、互いに向かい合う一対の平坦なカット面191と、互いに向かい合う一対の円弧面192とを有する平面視楕円状に形成されている。これに対して、上段切換爪部120の中央部121には、連結ピン190を挿通させるための連結孔195が形成されている。連結孔195は、連結ピン190の形状に対応して、互いに向かい合う一対の直線部196と、互いに向かい合う一対の円弧部197とを有する平面視楕円状に形成されている。
【0138】
これにより、上段切換爪部120は、連結ピン190の中心軸線である揺動軸線O9を中心に、直線部196と円弧部197との接続部分P1が、カット面191と円弧面192との接続部分P2に接触する角度範囲内で揺動可能とされている。
【0139】
ばね部材181は、基端部181aが上段切換爪部120の中央部121に接続され、基端部181aから先端部181bに向けて時計方向に延びるように形成されている。そして、ばね部材181の先端部181bは、回転プレート62に固定された連結ピン200に対して嵌合されている。
これにより、ばね部材181は、自身の弾性復元力により上段切換爪部120における係合部124を切換歯部102に対して押し付けるように、上段切換爪部120を付勢している。
【0140】
上述のように構成された本実施形態の切換伝え車180であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
それに加えて本実施形態の場合には、上段切換爪部120とばね部材181とを一体で形成しているので、部品点数を少なくとすることができ、切換伝え車180の軽量化、低コスト化及び組立性の向上化等を図ることができる。
【0141】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0142】
例えば、上記各実施形態では、切換伝え車を自動巻機構に利用した場合を例に挙げて説明したが、自動巻き機構に限定されるものではなく、その他の時計機構に採用しても構わない。
特に、上記各実施形態では、自動巻機構に採用するために、切換車及び切換爪部をそれぞれ一対設けることで、上段切換車、下段切換車、上段切換爪部及び下段切換爪部を具備する切換伝え車としたが、自動巻機構以外の時計機構に採用する場合には、切換車及び切換爪部をそれぞれ1つだけ具備する構成としても構わない。
【符号の説明】
【0143】
O2…軸線(第3軸線)
O8…軸線(第1軸線)
O9、O10…揺動軸線(第2軸線)
1…時計
10…ムーブメント(時計用ムーブメント)
11…自動巻機構
20…角穴車
30…回転錘(動力源)
60、160、170、180…切換伝え車
61…切換車
65…車軸(回転軸部)
62…回転プレート
63…切換爪部
73…切換伝えかな
100…上段切換車(第1切換車)
102、112…切換歯部
102a、112a…係合面
102b、112b…傾斜面
110…下段切換車(第2切換車)
120…上段切換爪部(第1切換爪部)
122、132…第1切換アーム部(切換アーム部)
124、134…係合部
130…下段切換爪部(第2切換爪部)
140、150、161、171、181…ばね部材
143、153、173…度当たり部(制限部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10