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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】干渉散乱顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230411BHJP
   G02B 21/10 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/10
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2019500419
(86)(22)【出願日】2017-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 GB2017052070
(87)【国際公開番号】W WO2018011591
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】1612182.4
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100203611
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 大地
(72)【発明者】
【氏名】ククラ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイゲル,アレクサンデル
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/059682(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132586(WO,A1)
【文献】特開2003-098439(JP,A)
【文献】特開平04-016801(JP,A)
【文献】特開2012-150301(JP,A)
【文献】特開2013-044879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を試料位置に保持するための試料ホルダと、
照明光を供給するように構成された照明光源と、
検出器と、
照射光を前記試料位置に向けるように、かつ、反射した出力光を集めるように構成された光学系であって、前記出力光は、前記試料位置から散乱した光と前記試料位置から反射した照射光との両方を含み、前記光学系は前記出力光を前記検出器に向けるように構成されている、光学系と、
前記出力光をフィルタリングするように構成された空間フィルタであって、前記空間フィルタは、出力光を通過させるように構成されているが、所定の開口数内では、より大きい開口数におけるものよりも大きい強度の減少を伴う、空間フィルタと、
を含み、
前記照明光と出力光とは、一部共通の光路を有する、共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項2】
前記所定の開口数は、前記出力光に含まれる前記試料位置から反射された前記照明光の開口数である、
請求項1に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項3】
前記空間フィルタは、前記所定の開口数内にある出力光を、強度を入射強度の10-2以下に減少させて通過させるように構成される、
請求項1または2に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項4】
前記空間フィルタは、前記所定の開口数内にある出力光を、強度を入射強度の10-4以上に減少させて通過させるように構成される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項5】
前記所定の開口数は、1未満である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項6】
前記所定の開口数は、0.5未満である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項7】
前記照明光は、空間的および時間的にコヒーレントである、
請求項1からのいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項8】
前記光学系は、前記照明光と前記出力光の光路を分割するように構成されたビームスプリッタを含み、前記空間フィルタは、ビームスプリッタの一部である、
請求項1からのいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項9】
前記空間フィルタは、透過型である、
請求項1からのいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項10】
前記空間フィルタは、反射型である、
請求項1からのいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項11】
前記光学系は、対物レンズを含み、前記空間フィルタは、前記対物レンズの後部開口の真後ろに配置される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項12】
前記光学系は、対物レンズを含み、前記空間フィルタは、前記対物レンズの後部焦点面の共役焦点面に配置される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項13】
前記試料ホルダは、5000kDa以下の質量を有する物体を含む試料を保持する、
請求項1から12のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項14】
前記試料ホルダは、10kDa以上の質量を有する物体を含む試料を保持する、
請求項13に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項15】
前記試料ホルダは、前記照明光に対して10-17以下の散乱断面積を有する物体を含む試料を保持する、
請求項1から14のいずれか一項に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項16】
前記試料ホルダは、前記照明光に対して10-26以上の散乱断面積を有する物体を含む試料を保持する、
請求項13に記載の共通光路干渉散乱顕微鏡。
【請求項17】
共通光路干渉散乱顕微鏡を使用する方法であって、
反射した出力光の空間フィルタリングを、前記出力光を検出する前に実行する空間フィルタを提供するステップを含み、
前記出力光は、試料位置で試料から散乱した光と前記試料位置から反射した照明光との両方を含み、前記空間フィルタリングは、前記出力光を通過させるが、所定の開口数内では、より大きい開口数におけるものよりも大きい強度の減少を伴い、前記照明光と出力光とは、一部共通の光路を有する、
方法。
【請求項18】
前記所定の開口数は、前記出力光に含まれる前記試料位置から反射された前記照明光の開口数である、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記空間フィルタは、前記所定の開口数内にある出力光を、強度を入射強度の10-2以下に減少させて通過させるように構成される、
請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記空間フィルタは、前記所定の開口数内にある出力光を、強度を入射強度の10-4以上に減少させて通過させるように構成される、
請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記所定の開口数は、1未満である、
請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記所定の開口数は、0.5未満である、
請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記照明光は、空間的および時間的にコヒーレントである、
請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記共通光路干渉散乱顕微鏡は、前記試料位置に試料ホルダを備え、前記試料ホルダは、5000kDa以下の質量を有する物体を含む試料を保持する、
請求項17から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記試料ホルダは、10kDa以上の質量を有する物体を含む試料を保持する、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記試料は、前記照明光に対して10-12以下の散乱断面積を有する物体を含む、
請求項17から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記試料は、前記照明光に対して10-20以上の散乱断面積を有する物体を含む、
請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉散乱顕微鏡(”interferometric scattering microscopy”:本明細書ではiSCATと呼ぶ)に関する。
【背景技術】
【0002】
iSCATは、独自の時空間分解能を有する単一粒子追跡と単一分子レベルまでの無標識感度の両方に対する強力なアプローチとして実現した。iSCATは、例えば、Kukuraらの「High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus」、Nature Methods 2009 6:923-935、およびOrtega-Arroyoらの「Interferometric scattering microscopy(iSCAT):new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy」、Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625-15636に開示されている。大きな可能性があるにもかかわらず、iSCATの広範な応用は、カスタムメイドの顕微鏡、従来とは異なるカメラおよび複雑な試料照明の必要性によって制限されており、堅牢で正確な検出、単一分子のような小さい物体の撮像および特徴付けについてのiSCATの機能を制限していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Kukuraら、「単一ウイルスの位置と方向の高速ナノスコピック追跡」(Kukura et al., “High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus”)、Nature Methods 2009 6:923-935
【文献】Ortega-Arroyoら、「干渉散乱顕微鏡(iSCAT):超高速超高感度光学顕微鏡の新境地」(“Interferometric scattering microscopy(iSCAT):new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy”、Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625-15636
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、干渉散乱顕微鏡であって:試料を試料位置に保持するための試料ホルダと;照明光を供給するように構成された照明光源と;検出器と;照射光を試料位置に向け、反射した出力光を集め、出力光を検出器に向けるように構成された光学系であって、出力光は、試料位置から散乱した光と試料位置から反射した照射光との両方を含む、光学系と;出力光をフィルタリングするように位置決めされた空間フィルタであって、空間フィルタは出力光を通過させるように構成されているが、所定の開口数内では、より大きい開口数におけるものよりも大きい強度の減少を伴う、空間フィルタと、を含む、干渉散乱顕微鏡が提供される。
【0005】
顕微鏡の全体構成は従来のiSCAT顕微鏡と類似であり得るが、出力光に影響を与える空間フィルタがさらに提供される。具体的には、空間フィルタは出力光を通過させるが、所定の開口数内では、より大きい開口数におけるものよりも大きい強度の減少を伴う。その結果、空間フィルタは、試料位置の試料中の物体から反射する照明光と散乱する光の開口数の間の不整合を利用することによって、散乱光よりも照明光の強度を選択的に減少させる。このように、空間フィルタは、これら2つの光源の異なる指向性を利用する。反射した照明光は、典型的には比較的小さい開口数を有するのに対して、試料の表面近くのサブ回折サイズの物体は、高い開口数に光を優先的に散乱させる。したがって、低い開口数での空間フィルタによる強度の減少は、主に照明光に影響を及ぼし、散乱光には最小限の影響しか与えず、それによって画像コントラストを最大にする。
【0006】
この効果は、所定の開口数が試料位置から反射した照明光の開口数と同一または類似するように空間フィルタを配置することによって最大化することができる。
本発明の第1の態様は、反射型で動作する顕微鏡に関する。この場合、検出器に到達する照明光は、主に試料の表面、典型的には試料と試料ホルダとの間のインターフェースから反射され、それによってその表面に近い試料中の物体との干渉をもたらす。これにより、コントラストの高い画像が得られる。この効果は、検出器に到達する照明光が試料の深さを介して透過する透過型で動作する顕微鏡とは異なる。
【0007】
反射型の動作にはいくつかの利点があり、これらを組み合わせると、弱い散乱物体の高性能検出と定量化が可能になる。第1に、比較的少量、典型的にはわずか0.5%の照明光が一般に使用されるガラス-水インターフェースで反射する一方、インターフェースでナノスコピック物体によって散乱するかなり多量、典型的には90%以上の光が照明方向に向かって後方散乱する。これは、透過型の幾何学的形状と比較して散乱光場と反射光場との間の比を本質的に1000倍以上改善し、より大きな干渉コントラストをもたらす。その結果、特定の散乱体、照明強度および露光時間が与えられたうえで同じ公称信号対雑音を達成するためには、ショットノイズリミテッドである場合(ショットノイズが制限する場合)に3桁少ない光子を検出する必要がある。第2に、反射では、溶液中に存在する大きな散乱体の、前方散乱としての検出の感度がはるかに低くなり、かつ、その照明光との干渉が検出されないため、より高いバックグラウンド除去がもたらされる。
【0008】
これらの要因は、画像品質を向上させ、それによって弱い散乱物体の高コントラスト検出を可能にする。
これらの利点は、光を非常に弱く散乱しており他の技術による正確かつ精密な撮像が不可能であるような物体の撮像に特に適用される。例えば、本発明は、5000kDa以下の質量を有する物体に特に適している。
【0009】
同様に、本発明は、照明光に対して10-17以下の散乱断面積を有する物体を含む試料に有利に適用することができる。典型的には、そのような物体はまた、照明光に対して10-26以上、すなわち10-26から10-17の範囲内の散乱断面積を有し得る。研究され得る物体の例には、タンパク質またはその小さな凝集体が含まれる。
【0010】
非常に弱い散乱体である物体を画像化するために、空間フィルタは、所定の開口数内にある出力光を、強度を入射強度の10-2以下に減少させて通過させるように構成される。典型的には、空間フィルタは、所定の開口数内にある出力光を、強度が入射強度の10-4以上、例えば入射強度の10-2から10-4の範囲に減少させて通過させるように構成される。
【0011】
照明光は、例えば光源としてレーザを使用して、空間的および時間的にコヒーレントであり得る。顕微鏡における広視野照明は、一般に、コリメートされたレーザビームを撮像対物レンズの後部焦点面に集束させることによって得られ、全体的な撮像性能への影響を最小限に抑えながら、顕微鏡内外で効率的に結合できることを意味する。
【0012】
顕微鏡は、空間フィルタを組み込むことによって適合された既存の市販の顕微鏡であってもよい。そのような適合は非常に安価かつ簡単に実行することができ、これは既存のiSCAT顕微鏡―必要な感度を提供するために、例えば、光学テーブル、または高価で複雑な光学系、電子機器、および専門家による操作の要件を含む、複雑で高価な光学的および電子的設定を有するiSCAT顕微鏡―とは対照的であり、これらの要件は、既存の市販の顕微鏡に空間フィルタを組み込むことによって大幅に低減または回避される。それによって、本発明を極めて費用効果がある方法で実施することが可能になる。例えば、複雑な走査構成なしに、より広い視野を提供することができ、撮像性能または感度を損なうことなく低コストの撮像カメラを使用することが可能になる。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、干渉散乱顕微鏡の出力光をフィルタリングするための空間フィルタが提供され、空間フィルタは、第1の態様のものと同様の機能を有する。
本発明の第3の態様によれば、出力光の空間フィルタリングを実行することによって干渉散乱顕微鏡を適合させる方法が提供され、空間フィルタリングは、第1の態様で実行されたものと同様である。
【0014】
より良い理解を可能にするために、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して非限定的な例によって以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、iSCAT顕微鏡の概略図である。
図2図2は、iSCAT顕微鏡によって捕捉された画像である。
図3図3は、変更されたiSCAT顕微鏡の概略図である。
図4図4は、変更されたiSCAT顕微鏡の概略図である。
図5図5は、変更されたiSCAT顕微鏡の概略図である。
図6図6は、変更されたiSCAT顕微鏡の概略図である。
図7図7は、図6に示す顕微鏡を使用して得られた、一連のタンパク質についての配列分子量に対する散乱コントラストのプロットである。
図8図8は、図6に示す顕微鏡を使用して得られた、ビオチンの非存在下におけるアビジンの質量ヒストグラムである。
図9図9は、図6に示す顕微鏡を使用して得られた、ビオチンの存在下におけるアビジンの質量ヒストグラムである。
図10図10は、図6に示す顕微鏡を使用して得られたウシ血清アルブミンの質量ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載の顕微鏡および方法では、使用される光は:(本明細書では10nmから380nmの範囲の波長を有すると定義し得る)紫外線;(本明細書では380nmから740nmの範囲の波長を有すると定義し得る)可視光;(本明細書では740nmから300μmの範囲の波長を有すると定義し得る)赤外光であり得る。光は波長の混合物であり得る。本明細書では、用語「光学的(optical)」および「光学系(optics)」は、方法が適用される光を全体的に指すために使用される。
【0017】
図1は、以下のように構成されたiSCAT顕微鏡1を示す。
顕微鏡1は、以下により詳細に説明される空間フィルタを除いて、顕微鏡の分野において従来型の構造を有する以下の構成要素を含む。
【0018】
顕微鏡1は、試料3を試料位置に保持するための試料ホルダ2を含む。試料3は、撮像物体を含む液体試料とすることができ、これについては以下でより詳細に説明する。試料ホルダ2は、試料3を保持するのに適した任意の形態をとることができる。典型的には、試料ホルダ2は、試料ホルダ2と試料3との間のインターフェースを形成する表面上に試料3を保持する。例えば、試料ホルダ2は、カバーガラスであってもよく、および/またはガラス製であってもよい。試料3は、例えばマイクロピペットを使用して、直接的な方法で試料ホルダ2上に提供することができる。
【0019】
顕微鏡1は、照明光源4および検出器5をさらに備える。
照明光源4は、照明光を供給するように配置されている。照明光はコヒーレント光とすることができる。例えば、照明光源4はレーザであり得る。照明光の波長は、試料3の性質および/または検査されるべき特性に応じて選択することができる。一例では、照明光は405nmの波長を有する。
【0020】
任意選択で、例えばネイチャーメソッド2009 6:923-935のKukuraらの「単一ウイルスの位置と方向の高速ナノスコピック追跡」に詳述されているように、照明光を空間的に変調して、照明およびレーザノイズのコヒーレントな性質から生じるスペックルパターンを除去することができる。
【0021】
検出器5は、試料位置から反射した出力光を受信する。典型的には、顕微鏡1は広視野モードで動作することができ、その場合、検出器5は試料3の画像を取り込む画像センサとすることができる。顕微鏡1は、代替的に共焦点モードで動作してもよく、その場合、検出器5は、画像センサであってもよく、またはフォトダイオードのような点状検出器であってもよく、その場合、画像を構築するために走査装置を用いて試料3の領域を走査することができる。検出器5として採用され得る画像センサの例は、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)画像センサまたはCCD(電荷結合素子)を含む。
【0022】
顕微鏡1は、試料ホルダ2、照明光源4、および検出器5の間に配置された光学系10をさらに含む。光学系10は、試料3を照明するために照明光を試料位置に向け、試料位置から反射した出力光を集め、そして出力光を検出器5に向けるように次のように構成される。
【0023】
光学系10は、試料ホルダ2の前方に配置されたレンズ系である対物レンズ11を含む。また、光学系10は、集光レンズ12およびチューブレンズ13も含む。
集光レンズ12は、光源11からの照明光(図1に実線で示す)を、対物レンズ11を介して試料3の試料位置に集光する。
【0024】
対物レンズ11は、(a)試料位置から反射した照明光(図1に実線で示す)、および(b)試料位置で試料3から散乱した光(図1に点線で示す)、の両方を含む出力光を集める。反射光は、試料ホルダ2と試料3との間のインターフェースから主に反射される。典型的には、これは比較的弱い反射、例えばガラス-水反射である。例えば、反射照明光の強度は、入射照明光の強度の0.5%程度であり得る。散乱光は試料3内の物体によって散乱される。
【0025】
従来のiSCATと同様に、試料の表面またはその近くの物体からの散乱光は、反射光と積極的に干渉し、したがって検出器5によって捕捉された画像において見える。この効果は、検出器に到達する照明光が試料の深さを透過し、はるかに小さい画像コントラストをもたらす透過型で動作する顕微鏡とは異なる。
【0026】
図1に示すように、反射照明光と散乱光とは指向性が異なる。特に、反射された照明光は、光源4および光学系6によって出力された光ビームの幾何学的形状から生じる開口数を有する。散乱光は、広い範囲の角度にわたって散乱され、したがって反射された照明光より大きな開口数を満たす。
【0027】
チューブレンズ13は、対物レンズ11からの出力光を検出器5に集束させる。
光学系6はまた、光源4からの照明光および検出器5に向けられた出力光の光路を分割するように構成されたビームスプリッタ14も含む。以下に説明するような空間フィルタの提供を除いて、ビームスプリッタ14は、そこに入射する光の部分反射および部分透過をもたらす従来の構造を有し得る。例えば、ビームスプリッタ14は、典型的にはフィルムを備えた、光路に対して45°に配置された金属または誘電体であり得るプレートであってもよい。あるいは、ビームスプリッタ14は、プリズム間のインターフェースに部分反射フィルムを有する整合対のプリズムによって形成されたキューブビームスプリッタであってもよい。あるいは、ビームスプリッタ14は、ビームスプリッタ14と試料3との間で1/4波長板と組み合わせて使用される偏光ビームスプリッタであってもよい。
【0028】
図1に示す例では、光源4からの照明光がビームスプリッタ14によって対物レンズ11内に反射されるように、光源4は対物レンズ11の光路からオフセットされており、反対に、試料位置からの出力光がビームスプリッタ14を通って検出器5に向かって透過されるように、検出器5は対物レンズ11の光路と位置合わせされる。
【0029】
従来の構造であり得る上述の構成要素に加えて、顕微鏡1は空間フィルタ20を含む。図1に示す例では、空間フィルタ20は、ビームスプリッタ14上に形成され、それによって対物レンズ11の後部開口の後ろ、つまり対物レンズ11の後部焦点面15の真後ろに配置される。したがって、空間フィルタ20は、位相差顕微鏡のように対物レンズに入れることなく実現することができる。(例えば、以下に説明するように)共役平面内ではなく対物レンズの入射開口の真後ろに空間フィルタを配置することは、高開口数顕微鏡対物レンズ内の多数のレンズから生じる後方反射を強く抑制するという明確な利点を有する。これは結局、画像ノイズを減少させ、非干渉背景を小さくし、そして実験の複雑さ、光学系の数および光路長を減少させ、それにより光学設定の安定性、ひいては画質を向上させる。
【0030】
しかしながら、この位置は必須ではなく、同等の機能を有する空間フィルタを以下に説明するように他の場所に設けてもよい。
これにより、空間フィルタ20は、検出器5を通過する出力光をフィルタリングするように位置決めされる。検出器5が対物レンズ11の光路と位置合わせされている図1に示す例では、空間フィルタ20は透過性である。
【0031】
空間フィルタ20は部分的に透過性であり、したがって反射照明光を含む出力光を通過させつつも強度は減少させる。空間フィルタ20も光軸と位置合わせされ、所定の開口数内で強度が減少するように所定の開口を有する。本明細書では、開口数は、通常の方法で、出力光が由来する試料位置に対する角度範囲を特徴付ける無次元量として定義される。具体的には、開口数NAは、式NA=n・sin(θ)によって定義されてもよく、θは、集光半角であり、nは、出力光が通過する材料(例えば、光学系6の構成要素の材料)の屈折率である。
【0032】
空間フィルタ20は、所定の開口数の範囲外では強度を低下させない。あまり望ましくないとはいえど、原理上は、代替的に、空間フィルタ20はその所定の開口の外側では、所定の開口数内の強度の減少よりも小さい強度の減少を提供することができる。
【0033】
空間フィルタ20は、任意の適切な方法で形成することができ、典型的には堆積材料の層を含む。材料は、例えば、銀などの金属とすることができる。堆積は、任意の適切な技術を用いて行うことができる。
【0034】
インターフェース付近のサブ回折サイズの物体は、反射された照明光よりも大きい開口数に優先的に光を散乱させるので、空間フィルタ20によって提供される強度の減少は、散乱光よりも反射照明光の検出における強度を優先的に減少させる。したがって、低い開口数での空間フィルタ20による強度の減少は、反射された照明光に主に影響を及ぼし、散乱光に対する影響を最小限に抑え、それによって捕捉画像内のコントラストを最大にする。増強された画像コントラストは、弱い散乱体である物体の高コントラスト検出を可能にする。
【0035】
コントラストの増強は以下のように理解することができる。空間フィルタ20が出力光の一部を所定の開口数で通過させる(すなわち、この例では部分的に透過性である)と、照明光および散乱光場の一部は検出器に到達し、十分にコヒーレントな照明光源に対して干渉する。検出器に到達する光強度Idetは、Idet=|Einc{r+|s|+2rt|s|cosΦ}で与えられ、ここでEincは入射光場、rはインターフェースの反射率、tは空間フィルタ20の透過率、sは物体の散乱振幅、Φは透過した照明光と散乱光との位相差である。したがって、検出された光子の総数を犠牲にしても、散乱コントラストは増強される。
【0036】
したがって、コントラストは従来のiSCATと同様の方法で提供されるが、さらに空間フィルタの透過率によって制御される。これは、標準のiSCATの場合のようにガラス-水インターフェースの反射率によって固定されるのとは対照的に、空間フィルタ20の透過率tの選択を通して直接参照フィールドの振幅を調整する能力を提供する。空間フィルタ20が堆積材料の層である場合には、透過率tは、材料および/または層の厚さの選択によって選択することができる。そのような調整は、例えば、関心のある散乱物体、カメラの全ウェル容量および倍率にしたがって実行することができる。
【0037】
iSCATに対するこれらの有益な効果を最大にするために、所定の開口数は、出力光内の反射照明光の開口数であり得るが、それは必須ではない。例えば、所定の開口数が反射照明光の開口数よりわずかに小さいか、または大きい場合、同様の性質の利点が達成され得る。
【0038】
空間フィルタ20の使用は、所与の物体、入射光強度および露光時間による散乱に対して達成可能な感度限界またはSNR(信号対雑音比)を本質的には変えない。しかしながら、コントラストを向上させ、検出される全体の光子束を減らすことによって、iSCATの実装を劇的に簡素化して、所与の感度またはSNRを実現する。既存のiSCAT顕微鏡は、例えば光学テーブル、高価で複雑な光学系、電子機器を必要とするなど、複雑で高価な構成要素を有し、さらに熟練した操作を必要とする。このような要求は、空間フィルタ20の使用によって大幅に緩和される。例えば、上述の複雑で高価な構成要素を有さない既存の市販の顕微鏡に単に空間フィルタ20を追加することによって、既存のiSCAT顕微鏡と同等の性能を達成することができる。空間フィルタ20自体はもちろん単純で安価な構成要素である。さらに、空間フィルタ20は、画像感度を損なうことなく低い全ウェル容量を有する標準的なCMOSまたはCCDカメラの使用を可能にする。
【0039】
したがって、顕微鏡1は、空間フィルタ20を組み込むことによって適合された既存の市販の顕微鏡であってもよい。そのような適合は、非常に安価かつ簡単に実行され得る。適合は、例えばミラーを顕微鏡に組み込むために使用される国際公開第2015/092778号公報に開示されているアダプタと同様の方法で、既存の市販の顕微鏡のアクセサリスロットに収容されるように構成されたアダプタに空間フィルタを形成することによって実行することができる。
【0040】
代替的に、顕微鏡1は、特に空間フィルタ20とともに使用するために設計されてもよい。
顕微鏡1の一例を使用して得られた画像が図2に示されている。この例では、コヒーレント明視野照明光が提供され、空間フィルタ20は、1×10-2の反射光強度を透過するように直径3.5mmの溶融シリカ上に堆積された厚さ180nmの銀の層からなる。これは、(10フレーム/秒の画像捕捉率、10kW/cmの照明光の強度で)単一の395kDaタンパク質について1%の散乱コントラストおよび10のSNRをもたらす。図2は、検出器5として低コストCMOSカメラを使用して捕捉された画像である。図から分かるように、高コントラスト画像が達成される。さらに、明視野照明は、通常は対物レンズから生じる最も強い不要な後方反射が検出器5から離れるように向けられることを確実にし、画像背景を最小にし、照明光のビームの複雑な走査なしに広い視野を可能にする。
【0041】
増強されたコントラストの利点は、光をあまり散乱せず、他の技術による画像化が困難である物体の画像化を可能にする。例えば、本発明は、5000kDa以下の質量を有する物体を含む試料に有利に適用することができる。典型的には、本発明は、10kDa以上の質量を有する物体、例えば10kDaから5000kDaの範囲内の質量を有する物体を含む試料に適用することができる。
【0042】
代替的にまたは同様に、本発明は、照明光に対して10-12以下、またはより好ましくは10-17以下の散乱断面積を有する物体を含む試料に適用することができる。典型的には、そのような物体はまた、照明光に対して散乱断面積を有し得る。典型的には、そのような物体はまた、照明光に対して10-20、またはより好ましくは10-26以上、例えば10-17から10-26の範囲内の散乱断面積を有し得る。散乱断面積は、測定に使用される技術とは無関係に、特定の波長の入射光に対する物体の有効サイズに関する基本的な測定可能な特性である。散乱断面積は、例えば、暗視野顕微鏡法によって測定することができる。
【0043】
本発明が適用され得る物体の例としては、タンパク質もしくはその小さな凝集体、またはそれらの結合パートナーが挙げられる。
比較的弱い散乱体である物体を画像化するために、空間フィルタ20は、所定の開口数内にあって強度が減少させられる反射照明光を、入射強度(この文脈では、空間フィルタ20に入射する出力光の強度)の10-2から10-4までの範囲の強度に減少させて通過させるように構成され得る。
【0044】
他の点では、顕微鏡1は、空間フィルタ20を参照することなく設計および操作されてもよい。例えば、視野は、照明光の集束条件を変えることによって調整可能である。同様に、マルチカラー画像形成は、ファイバが照明光を供給するために使用される場合、追加のレーザ光源をシングルモードファイバに結合するだけでよい。概して、顕微鏡1は、例えばKukuraらの「High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus」、Nature Methods 2009 6:923-935、およびOrtega-Arroyoらの「Interferometric scattering microscopy(iSCAT):new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy」、Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625-15636に開示されているように、iSCATについて知られている他の構成要素および技術を使用するように適合することができる。
【0045】
顕微鏡1に対して行われ得る具体的な変更のいくつかの例が、これらの例に限定されないが、図3から図5を参照して説明される。顕微鏡1は、以下に説明する変更を除いて、上述したものと同様の構成および動作を有する。簡潔にするために、共通の構成要素には同じ参照符号が付されており、それらの上記の説明は繰り返されない。
【0046】
図3は、対物レンズ11の後部開口の後ろではなく、対物レンズ11の後部焦点面15の共役焦点面21に空間フィルタ20を配置するように変更した顕微鏡1を示す。対物レンズ11の後部焦点面15の共役焦点面21は、チューブレンズ13の後方に位置する一対の望遠鏡レンズ22、23の間に形成される。光路内の第1の望遠鏡レンズ22は、対物レンズ11の後部焦点面15を結像して共役焦点面21を形成し、第2の望遠鏡レンズ23は共役焦点面21を検出器5上に結像する。
【0047】
空間フィルタ20は、共役焦点面21に設けられ、透明板24上に形成されている。空間フィルタ20の構成および動作は、図1を参照して上述したものと同じであり、例えば光軸と整列しており、上記のように所定の開口数内で強度の減少をもたらすように所定の開口を有する(ただし、空間フィルタ20は、光路に対して45°ではなく、光路に対してほぼ垂直である)。
【0048】
図4は、空間フィルタ20が透過型ではなく反射型である変更をした顕微鏡1を示す。この変更において、光源4と検出器5の位置が逆になっており、光源4からの照明光がビームスプリッタ14を通過して対物レンズ11に入り、反対に、試料位置からの出力光はビームスプリッタ14によって検出器5に向かって反射される。
【0049】
空間フィルタ20は、ビームスプリッタ14上に形成されているが、光源4と検出器5の反転を考慮すると、空間フィルタ20は反射性である。反射性であるにもかかわらず、空間フィルタ20は上記と同じ方法で動作するように構成されている。すなわち、空間フィルタ20は、検出器5へ通過する出力光をフィルタリングし、出力光をその強度を減少させて通過させる。この場合、部分的に反射させることによって達成されるが、空間フィルタ20の構成および動作は、他の点では同じであり、例えば、上述のように、光軸と位置合わせされ、所定の開口数内で強度を減少させるように所定の開口を有する。
【0050】
図5は、対物レンズ11の後部開口の後ろではなく、対物レンズ11の後部焦点面15の共役焦点面25に空間フィルタ20を位置決めするために図3と同様の変更をし、さらに、空間フィルタ20が透過性ではなく反射性である修正をした顕微鏡1を示す。対物レンズ11の後部焦点面15の共役焦点面25は、図3の変形と同様に、チューブレンズ13の後方に位置する一対の望遠鏡レンズ22、23の間に形成されている。しかしながら、反射板26は、共役焦点面25において望遠鏡レンズ22、23の間に設けられているが、反射板26での反射が光路を90°そらせるように光路を偏向させるために45°に配置されている。空間フィルタ20は、反射板26上に形成されることにより共役焦点面25に設けられているので、透過性ではなく反射性である。反射性であるにもかかわらず、空間フィルタ20は、上述したのと同じ方法で、すなわち図4の変更と同様の方法で動作するように構成されている。
【0051】
図6は、対物レンズ11の後部開口の後ろではなく、対物レンズ11の後部焦点面の共役焦点面21に空間フィルタ20を配置するように変更した顕微鏡1を示す。対物レンズ11の後部焦点面15の共役焦点面21は、図3の変形と同様に、チューブレンズ13の後方に位置する一対の望遠鏡レンズ22、23の間に形成されている。しかしながら、図3の変形と比較して、以下のさらなる変更もまた行われる―図6の変更のそれぞれが互いに独立して適用され得ることに留意されたい。
【0052】
音響光学偏向器32は、光源4の後に配置されて照明光の走査を提供する。音響光学偏向器32は、上述のように、試料3の領域を走査して画像を構築し、および/または照明とレーザノイズのコヒーレントな性質から生じるスペックルパターンを除去するための空間変調を提供するように動作する。
【0053】
集光レンズ12は、音響光学偏向器32におけるビーム経路に対するあらゆる変更を結像対物レンズの後部焦点面に結像する機能を果たす一対のテレセントリックレンズ30および31によって置き換えられる。
【0054】
図4の変更と同様に光源4と検出器5の位置が逆になっているので、光源4からの照明光はビームスプリッタ14を透過して対物レンズ11に入射し、反対に、試料位置からの出力光は、ビームスプリッタ14によって検出器5に向かって反射される。
【0055】
ビームスプリッタ14は、偏光ビームスプリッタであり、ビームスプリッタ14と試料3との間に1/4波長板33が配置されているので、ビームスプリッタ14は光を分割する。
【0056】
ミラー34は、ビームスプリッタ14によって反射された出力光を偏向するように配置されている。これは単に、顕微鏡1のよりコンパクトな構成を提供するためのものである。
【0057】
顕微鏡1は、単分子検出を含む広範囲の用途についてiSCATを実行するために使用され得る。一般に、コントラストの増強は有益であり、サブ回折および弱散乱の物体のすべての撮像に適用することができる。特定の用途は、弱い散乱体の無標識撮像―関心のある物体は常に大きな背景の上で検出されなければならず、画像コントラストを低下させる撮像―である。顕微鏡1は、例えば屈折率の任意の変化―例えば、単一分子の結合/結合解除、相転移、クラスタリング、集合/分解、凝集、タンパク質/タンパク質相互作用、タンパク質/小分子相互作用、高感度無標識撮像を含む―を測定するための広範囲の研究および測定に使用することができる。
【0058】
したがって、顕微鏡1には、基礎研究から工業的用途、例えば製薬業界における用途まで、多数の用途がある。特に、それはiSCATを実行するために現在必要とされる複雑な実験的設定によって排除された分野にiSCATを開拓する。一例として、iSCATは現在世界で最も高感度の無標識単一分子撮像バイオセンサーであり、例えば表面プラズモン共鳴センシング市場に大きな影響を与える可能性がある。さらに、それは研究および産業における多くの用途で、溶液中での、正確で、精密でそして高分解能である単一分子質量分析計として機能する。
【0059】

正確性、分解能および精度の重要な性能パラメータは、以下のように、図6に示される構成を有する顕微鏡において一連のタンパク質試料を用いて定量化される。
【0060】
分子量測定における機器正確性の定量化は、標準PBS緩衝液に10nM濃度で溶解した一連のタンパク質の散乱コントラストを記録することにより行った(タンパク質は、ストレプトアビジン-53kDa、ウシ血清アルブミン-66kDa、アルコールデヒドロゲナーゼ-~146kDa、β-アミラーゼ-224kDa、HSP 16.5-395kDa、HALOタグで修飾された非筋肉ミオシンIIb-598kDa、チログロブリン-669kDa、GroEL-802kDaである)。結果は図7に示されており、これは散乱コントラスト対配列分子量および関連するエラーバーのプロットである。物体の体積に対するiSCATコントラストの線形依存性、およびすべてのタンパク質が同じアミノ酸プールから作られており、同様に共通の屈折率を有し、したがって散乱断面積を有するという事実を考慮すると予想されるように、結果は非常に線形的な挙動を示す。予想された分子量と測定された分子量との間で観察された変動は、決定されるべき質量の平均3%程度である。これは、顕微鏡1を使用して単一タンパク質分子の分子量を決定する際の高度の正確性を実証する。
【0061】
顕微鏡1は、アミノ酸、脂質または炭水化物に関する組成とは無関係に、質量の5%より良い正確性で単一タンパク質と同じくらい小さい物体の質量を定量化することができると予想される。
【0062】
顕微鏡1は、例えば5000kDa未満から10kDaまでの質量を有する、既存の技術よりも小さい物体の質量の変化を定量化することができると予想される。機器精度の定量化は以下のようにして行った。本明細書に記載の手法を使用して物体の質量を決定する際の精度は、散乱コントラストの分布の中心を決定する能力によって統計的に制限される。記録された分布がショットノイズリミテッドプロセスに対して予想されるようにガウスプロファイルを示すと考えると、精度はsN-1/2としてスケーリングすることがよく知られており、sは対象分布の標準偏差であり、Nは採取される試料の数である。その結果、質量測定の精度は分解能や正確性によって制限されないが、原則として測定数を増やすことによって任意に高めることができる。これを説明するために、溶液中の飽和ビオチンの非存在下(6839事象)および存在下(6609事象)でアビジンの質量ヒストグラムを記録し、結果は図8および図9にそれぞれ示される。結合した4つのビオチン分子について予想される970Daと比較して、950±330Daのビオチン存在下での質量増加が測定された。
【0063】
機器の分解能、特に分解能限界の定量化は、ウシ血清アルブミンの図6に示した結果から得られた較正を用いて質量ヒストグラムを記録することによって行われた。得られたヒストグラムは図10に示され、溶液中のモノマー、ダイマーおよびトリマーの個々の識別可能なピークを示し、28kDaのモノマーピークのfwhmが34kDaの分解能をもたらす。この値は、検出された光子の総数の関数であり、したがってより高い光強度を使用することによって改善することができる。これは、顕微鏡1の高度な質量分解能を実証する。まとめると、これらの結果は、顕微鏡1が、小分子の結合および分極率による物体質量の正確かつ精密な特徴付けの両方によって引き起こされるものと同程度に小さい質量差を定量化できることを示す。現在のところ、これにより、40kDaまでの単一タンパク質の検出と、それらの配列質量の5%以内のそれらの分子量の正確な決定が可能である(図7)。高いSNRは、例えば、検出された分子の数によってのみ制限される精度での結合事象を通じた、質量の変化の特徴付けをさらに可能にし(図8および9)、現在250Daに達している。さらに、達成可能な高いSNRにより、溶液中のタンパク質の異なるオリゴマー状態の明確な検出が可能になり、タンパク質凝集の詳細な特徴付けが可能になる(図10)。
図1
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図10