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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】IV浸潤を検出するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/053 20210101AFI20230411BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61B5/053
A61B5/01 100
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019519618
(86)(22)【出願日】2017-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 US2017039239
(87)【国際公開番号】W WO2017223552
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-15
(31)【優先権主張番号】62/354,357
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504466834
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】518455642
【氏名又は名称】チルドレンズ ヘルスケア オブ アトランタ
(73)【特許権者】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【弁理士】
【氏名又は名称】吉光 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】イナン,オマー
(72)【発明者】
【氏名】ジャンブリンガム,ジャンブ
(72)【発明者】
【氏名】マーハー,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ムクロリー,ラッセル スコット
(72)【発明者】
【氏名】ウエスト,リーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルセック,シナン
(72)【発明者】
【氏名】マブラウク,セーマ
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-532841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0073252(US,A1)
【文献】特開2000-079103(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034104(WO,A1)
【文献】特表2009-534122(JP,A)
【文献】特表2015-504338(JP,A)
【文献】特表2009-508582(JP,A)
【文献】特開2014-042579(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0080107(US,A1)
【文献】特開2013-017606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/398
A61M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の末梢カテーテル挿入部位またはその周囲の生理学的状態を捉えるシステムであって、
前記システムは、
複数のウェアラブルセンサと、
前記ウェアラブルセンサと無線電気通信している体から離したプロセッサであり、前記体から離したプロセッサは、前記プロセッサで実行されるとき、前記複数のウェアラブルセンサから収集されたセンサデータを処理して、IV浸潤に関連する血管外流体の存在を識別する指示を含むアルゴリズムを格納したメモリを備え、
前記プロセッサと電気通信しており、血管外流体の存在を示す指示を提供するように構成された、インジケータと、を含み、
前記ウェアラブルセンサのうち、第1のセンサは、運動センサ、位置センサ、または慣性測定センサの1つであり、前記ウェアラブルセンサのうち、第2のセンサは、電気バイオインピーダンス(EBI)を連続的に測定し、前記ウェアラブルセンサのうち、第3のセンサは、腫れ、皮膚の固さ、皮膚温度、皮膚の歪み、反射率から選択された生理学的状態を継続的に測定し;
前記アルゴリズムは、前記第2のセンサおよび前記第3のセンサのうちの少なくとも1つの読み取りにおけるアーチファクトを検出可能な第1のセンサの測定に基づいて、血管外流体の存在の偽陽性識別を検出するように構成された、システム。
【請求項2】
前記第2のセンサは、電気的生体インピーダンス(EBI)システムを含み、前記EBIシステムが、皮膚上に位置決めされたときに1つまたは複数の周波数でEBIを測定するように構成された電極を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムが、前記EBIシステムの電極を通して注入された電流を監視し、前記電流の振幅が規定の限界を超えた場合に前記電流を遮断するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムが、ダイナミックレンジの解像度および使用を最大限に高めるために、前記EBIシステムによって注入される電流の振幅を使用者ごとに自動的に調節するように構成される、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第3のセンサが、皮膚温度を測定するように構成された温度センサを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第3のセンサが、皮膚の伸長を測定するように構成された歪みゲージを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記慣性測定センサが、肢の位置もしくは動き、またはその両方を測定するように構成された加速度計を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記慣性測定センサが、肢の動きを測定するように構成されたジャイロスコープを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記第3のセンサが、反射フォトプレチスモグラフィ(PPG)信号を測定するように構成された光学センサを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記第3のセンサが、皮膚の近赤外分光(NIRS)を測定するように構成された光学センサを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムは、前記カテーテル挿入部位の周りの複数の異なる部位からEBI測定値を取得するための複数の電極をさらに備え、前記複数の電極の各1つは、前記ウェアラブルセンサの1つと接続されている、請求項から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
肢の位置および動きを、前記EBI測定値を解析するためのコンテキストとして前記センサデータを処理する前記アルゴリズムを使用する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記センサデータを処理する前記アルゴリズムが、皮膚温度を、前記EBI測定値を解析するためのコンテキストとして使用する、請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記センサデータを処理する前記アルゴリズムが、EBI電極のうちの1つまたは複数が皮膚と接触しなくなった場合に、そのことを検出する、請求項11から13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記アルゴリズムが、複数の感知様式からのデータを融合することによって、前記センサデータから欠陥を検出するようにさらに構成される、請求項1から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記アルゴリズムが、複数の位置からのEBI測定値を融合して、前記センサデータの欠陥を検出する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記慣性測定センサが、肢の動きデータを収集し、前記肢の動きデータは、データを収集する適当な間隔、または電力効率のために前記システムを低消費電力のスリープモードにする適当な間隔を決定するのに使用される、請求項1から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
少なくとも2つのサブシステムをさらに含み、第1のサブシステムが、前記カテーテル挿入部位の周りの生理学的データを取り込むように構成され、第2のサブシステムが、異なる位置のデータを取り込むように構成され、前記第2のサブシステムによって取り込まれるデータが、前記第1のサブシステムによって取り込まれるデータとの比較のための対照または参照として使用される、請求項1から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記アルゴリズムが、前記第1のサブシステムから取得したデータを、前記第2のサブシステムから取得したデータと比較する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記アルゴリズムは、動きを示す前記第1のセンサの情報を使用して、前記生理学的状態が四肢の動きによって影響を受ける第3のセンサの測定値を調整する、請求項1~19のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照によりその全体を本明細書に組み込む、2016年6月24日出願の係続中の米国仮特許出願第62/354357号の非仮出願であり、その利益を主張するものである。
【0002】
本開示の実施形態は、周囲組織への静脈内流体の浸潤を検出するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
静脈内(IV)療法は、入院患者では一般的であり、薬剤、増量剤、血液系製品、および栄養を、直接末梢静脈を通して迅速かつ効果的に体循環に送達することを可能にする。流体が意図したように静脈に入るのではなく周囲組織に入るIV浸潤(または溢出)は、全入院患者の0.1%から6.5%で起こるとされているが、一貫した報告/文書化が行われていないことから実際の発生率はこれよりはるかに高い可能性もあり、また小児患者ではさらに高い比率で起こる。浸潤は、溶液のオスモル濃度、組織の毒性、血管収縮薬の性質、注入圧力、局部解剖学的変異性、静脈の内層の機械的穿孔など、様々な問題が組み合わさった結果として起こる。その影響は、破壊的なものになる可能性があり、腫れ、水疱、痛み、さらには組織の壊死を含むことがある。その結果生じる損傷は、医療的緊急事態と考えられ、即時の治療を必要とする。こうした副作用を緩和するために施すことができる治療はいくつかあるが、早期検出は、依然としてIV浸潤の深刻な合併症を防止するための唯一の有効な方法である。
【0004】
現在、IV浸潤は、兆候を見つけた看護師か、または医療スタッフに症状を訴える患者のいずれかによって発見される。例えば、成人の患者であれば、浸潤に関係する痛みまたは腫れがあればそのことを看護師に伝え、カテーテルの位置変更または取り外しを求めるであろう。
【0005】
しかし、看護師からIVカテーテルの場所がはっきり見えないとき、または患者が医療スタッフとコミュニケーションを取ることができないときには、浸潤が見過ごされる可能性がある。こうしたことは、患者が麻酔のかかった状態であったり、手術中で覆い布がかけられていたりするなどして、コミュニケーションを取ることができないときに起こることが多い。
【0006】
子供は、十分にコミュニケーションを取ることができない可能性があり、したがって、浸潤が長期間にわたって気付かれないままになってしまう可能性がある。この遅れが、皮膚、筋肉、および腱の重度の局所的な損傷をもたらす恐れがあり、そうした損傷は、衰弱をもたらす短期的および長期的な問題を引き起こす恐れがある。多くのこのような合併症は、注入部位が継続的に観察され、対側部位と比較されていれば、検出と修正が比較的簡単である可能性がある。
【0007】
残念ながら、手術室での手術処置中など、多くの状況では、いくつかの要因によって、破壊的なIV浸潤の危険性が大幅に高くなる。子供が麻酔をかけられてコミュニケーションを取ることができないこともあり、またIV部位が覆い布で覆われていることもあり、手術スタッフは、処置中にその部位をほとんど、または全く確認できない。小さな子供の場合は、IVを維持し、IVを患者が取り外すのを防止するために、IV部位に包帯がしっかりと巻かれていることが多いので、介護者が注入部位を確認することができない。
【0008】
幼児は、痛みや不快感を看護スタッフに具体的に伝えることができないので、幼児におけるIV浸潤の検出は、さらに困難である。浸潤は成人にも害を及ぼす可能性があるが、浸潤が子供に及ぼす影響は、体の大きさが小さいために特に有害になり得る。小児看護に当たる看護師は、常に多数の幼児の求めに応じている状態であり、看護師が短時間で浸潤を識別することは困難になっている。幼児を継続的に監視することは、新生児集中治療室(NICU)では重要であり、このような合併症は、普通なら健康であるはずの幼児の健康状態を容易に変化させる恐れがある。
【0009】
IV浸潤を検出する技術は従来から存在するが、これは浸潤の適時認識は行わず、したがって続発症を防止しない。現在の技術は、偽陽性および偽陰性も非常に発生しやすい。IV浸潤を検出するいくつかの技術では、光学センサを利用している。この検出原理は、監視対象の組織に発光体から光を発出するものであり、その光が組織によって反射され、検出器を用いて検出される。反射光信号を解析して、浸潤を検出する。この技術の1つの問題は、光信号に動きのアーチファクトが生じやすい点である。患者が動くと、その動きによって組織から反射される光が変化し、信号の質が低下し、それにより浸潤の検出が困難になる。この技術の別の問題は、組織から反射される光を変化させない可能性がある流体を検出することが困難である可能性がある点である。
【0010】
浸潤検出のために皮膚温度を監視する従来技術もある(例えば、米国特許第6375624号参照)。これらの技術では、皮膚表面温度センサまたはマイクロ波放射測定を使用して、浸潤部位付近の組織温度を監視する。この検出原理には、浸潤が起こっているか否かにかかわらず、監視している組織が熱平衡状態に達した後は、注入流体温度と周囲組織温度とが同程度になるので、難点がある。肢が動くと、動いている間に温度センサが皮膚を擦ったり、断続的に非接触状態になったりするので、温度信号が悪影響を受ける可能性もある。
【0011】
医療用撮像に基づく浸潤検出方法もある(例えば、米国特許出願公開第2002/0172323号参照)。このようなシステムは、低線量のX線または超音波を使用して、浸潤を検出する。X線を用いた検出は放射を伴い、また超音波撮像を使用すると、組織を継続的に監視することはできない。これらの方法は、また、検出デバイスを操作するために熟練した専門家が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、浸潤検出の適時性を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、関連技術の制限および欠点による上記の問題のうちの1つまたは複数を解消する、IV浸潤を検出するシステムおよび方法を対象とする。
【0014】
本発明の目的(1つまたは複数)によれば、本明細書において実施し、広範に記載するように、本発明は、1つの態様では、末梢カテーテル挿入部位またはその周りで使用者の生理学的状態を捉えるシステムおよび方法に関する。これらの方法を実行するシステムは、複数の様式のウェアラブルセンサと、複数の様式のウェアラブルセンサと電気通信しているプロセッサと、血管外流体の存在を示す指示を提供するように構成されたインジケータと、を含む。プロセッサは、複数の様式のウェアラブルセンサから収集されたセンサデータを処理して、血管外流体の存在を検出するアルゴリズムを実行するように構成される。
【0015】
本発明の追加の利点の一部は、以降の説明に記載する、また、一部はこの説明から明らかになるであろう。または、本発明の実施によって分かる可能性もある。本発明の利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘する要素およびその組合せによって、実現および達成される。
【0016】
IV浸潤を検出するシステムおよび方法のさらなる実施形態、特徴、および利点、ならびにIV浸潤を検出するシステムおよび方法の様々な実施形態の構造および動作について、添付の図面を参照して、以下で詳細に説明する。
【0017】
以上の概略的な説明および以下の詳細な説明は、両方とも説明のみを目的として例示的なものであり、特許請求の範囲に記載する本発明を制約するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の原理によるシステムの例示的なハードウェアアーキテクチャを示すブロック図である。
図2A】浸潤がある場合(右側)と浸潤がない場合(左側)の、手首付近の腕を示す断面図である。
図2B】ぴったりしたスリーブを使用したときの歪みゲージの配置を示す図である。
図3】実験的研究において軟組織に生理食塩水を注入した後の径方向歪みの測定変化率を示すグラフである。
図4】実験的研究において軟組織に生理食塩水を注入した後の径方向歪みの測定変化率を示すグラフである。
図5A】例示的なEBI測定回路を示す図である。
図5B図5Aの例示的なEBI測定回路を使用して測定したデータ点を示すグラフである。
図5C】膝の生体インピーダンス測定のための例示的な電極位置を示す図である。
図5D図5Aの例示的なEBI測定回路の感度を示すグラフである。いくつかのプレチスモグラフィ(IPG)心拍が示してある。
図5E図5Aの回路の線形性を実証するための、実際のインピーダンス値に対する測定インピーダンス値のプロットである。
図5F】例示的なEBI電極を用いて下流側血管収縮を評価するための試験構成を示す図である。被検者は、浸潤中に起こる血管収縮をモデル化するために自分の足を氷水に浸けている。
図5G図5Fの試験構成に示す氷水への浸漬中にIPG心拍振幅が減少することを示すグラフである。
図5H】カスタム電子素子を有する抵抗温度(RTD)センサの性能を示すグラフである。
図6】対側側と比較したIV浸潤がある側のフォトプレスチモグラフィ(PPG)波形の変化を予測するための生理学的根拠を提供する簡略化集中定数モデルを示す図である。
図7】例示的なシステムを示すブロック図である。
図8】体から離して使用するための機械的フォームファクタを有する例示的なプリント回路基板(PCB)を示す図である。
図9】豚の脇腹肉の組織モデルにおける4極構成の電極を示す図である。
図10】人間の組織を豚の脇腹肉でシミュレートした注入試験中に得られた生体インピーダンス測定値を示す図である。
図11】生きている豚のモデルにおける複数の様式のウェアラブルセンサの例示的な構成を示す図である。
図12図11に示す生きている豚のモデルにおいて複数の様式のウェアラブルセンサを試験する際に使用されるプロトコルを示すグラフである。
図13図11から図12の試験中に生成されるEBIデータを示すグラフである。
図14図11から図12の試験中に生成される歪みデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付の図面を参照して、IV浸潤を検出するシステムおよび方法の実施形態について詳細に述べる。
【0020】
本明細書に記載するシステム設計は、浸潤の可能性についての早期の警告を医療スタッフに与えて、スタッフがそれに応じて対応できるようにする、スケーラブルな自動IV浸潤検出デバイスを提供する。浸潤が起こり、流体が周囲組織に漏入すると、いくつかの生理学的変化が局所的に予想される。浸潤の後、ほんの数十分の間に、間質空間がIVからの流体で満たされて、IV部位(手、足、腕など)の全体的な形状および組成が劇的に変化する可能性がある。さらに、病室にいる患者の場合は、IV流体の温度が通常は皮膚温度より低いので、局所的な皮膚温度が低下する。したがって、介護者は、可能な限り早期に浸潤を検出するために、「見て、感じて、(対側側と)比較する」ように訓練されている。介護者が容易に知覚できるこれらの変化は、腫れ、冷却、および変色(血管作用薬によってさらに顕著になる、腫れおよび冷却に付随する皮膚血管収縮による)という結果である。
【0021】
本明細書に記載する感知スキームは、浸潤の局所的な生理学的症状を継続的に検査することを目的とする。すなわち、IV針自体にセンサを配置しようとするのではなく生理機能を感知し、それにより、この技術を実証が成功したときに迅速に臨床構成に変換できるようにし、IVからの流量が低く、圧力/流れが浸潤によってそれほど変化しない可能性があるのでより良好な感度を提供することができるようにし、多モード非侵襲的感知を使用して感度および特定性を最大限に高め、末梢血管の生理機能の知識を利用して、他の競合するいかなる技術よりも邪魔にならず、迅速に臨床用に変換される解決策を生み出し、体の両側を同時に示差解析して、全身の生理学的変化と局所的な生理学的変化とを区別する。測定できる可能性があるIV浸潤の非侵襲的兆候は、軟組織の腫れおよび皮膚の固さの増大、ならびに電気的生体インピーダンス(EBI)、皮膚温度、歪み、動き、位置、および反射率など、その他のIV浸潤を示す兆候を含む。低電力センサおよび組み込みプロセシングを使用することにより、感知デバイスは、体に取り付けたままにしておくことができ、医療スタッフのホストデバイスとの無線通信を使用することができる。
【0022】
カテーテル部位の周りの生体インピーダンスおよび歪みの非侵襲的感知を使用する自動検出システムは、高解像度の無線センサを含むことがある。IVによって患者に注入されている流体の温度によっては、局所的な皮膚温度を、IV浸潤を示す指示として測定することもできる。光学センサが、近赤外フォトプレチスモグラフィ測定値および反射フォトプレチスモグラフィ測定値を提供して助けになる可能性もある。加速度計、ジャイロスコープ、および/または磁力計など、動きまたは慣性センサを含めて、他の感知様式の動きのアーチファクトを検出することもできる。1つのセンサを単独で使用することもできるが、複数の感知様式なら、疑いの余地のある、または警戒すべきセンサの測定値に対して付加的な洞察を与えることにより、相乗効果をもたらすことができる。このような相乗効果の一例として、生体インピーダンス測定値は、患者が手首を返した場合に変化することがある。動きまたは慣性センサを使用して、疑いの余地のあるセンサの測定値が患者の動きと同時に起きたものであり、実際には浸潤を示していない可能性があることを、介護者に対して示すことができる。非侵襲的感知を低電力組み込みプロセシングシステムと組み合わせることにより、このデバイスは、患者の移動性を妨げることなく、長期間にわたってカテーテル部位の周りに置いておかれるように機械的に設計することができる。低コストのセンサおよびマイクロプロセッサを利用できることにより、あらゆる種類の医療用の経済的に実現可能な解決策を得ることができる。
【0023】
図1は、本開示の原理によるシステムの例示的なハードウェアアーキテクチャを示すブロック図である。この例示的なアーキテクチャでは、例えば手首または手102などの患者の体の部分から収集される情報/データは、例えば、生体インピーダンスセンサ104および歪みゲージ106を介して収集される。生体インピーダンスセンサ104および歪みゲージ106の収集データは、アナログ「フロントエンド」インタフェース108、110を介して、マイクロ制御装置112などのプロセッサに入力される。反射率114および追加の温度情報116など他の情報を収集し、適当な「フロントエンド」インタフェース118を介してマイクロ制御装置に提供することもできる。マイクロ制御装置112は、バッテリバックアップ116、およびA/C電力(図示せず)への接続を有することもある。マイクロ制御装置112は、データを、SDカードなどの記憶デバイス120に出力することもできるし、またはBluetooth(登録商標)低エネルギー伝送126もしくはその他の無線通信インタフェースなどの有線もしくは無線接続124を介して、外部コンピュータ、ラップトップ、もしくはタブレット122に出力することもできる
【0024】
1つの様式では、軟組織の腫れは、IVカテーテルの周囲の皮膚の伸長としてモデル化することができる。軟組織に漏入する流体は、皮膚を径方向に拡張させる。図2Aは、手首204の付近の腕を示す断面図であり、この図は、例示のために、手首204の骨201および筋肉211の図示も含んでいる。この腫れを感知するために、図2Aに示すように、歪みゲージ206のネットワークをIVカテーテル部位の周りに配置することができる。この適用分野では、その温度補償効果を得るためにフルブリッジトポロジを使用することができる。このトポロジは、全て能動的に感知することができる4つの歪みゲージ206を使用することができ、これにより、システムは、単一のフルブリッジ入力を使用して、IVカテーテル部位において径方向に歪み測定値を取り込むことができる。図2Aに示すように、皮下の浸潤流体250により、歪みゲージ206が変位する。歪みゲージは、この部位の周りの任意の箇所で皮膚の伸長を測定するために、互いに等距離に、かつ腕の長さ方向に直交するように配置することができる。歪みゲージは、このパターンが外向きになり、裏当て材料が皮膚と接触するように、同じZ軸配向で配置することができる。このような構成により、正しい符号規約で歪みの変化を計算することができる。これらのゲージは、カテーテル部位の周りのネオプレン製圧縮スリーブ上に、ゲージを皮膚に当接させるのに十分に圧縮して取り付けることができ、「皮膚に密着」することができる。図2Bは、ネオプレン製スリーブ220を使用して歪みゲージ206を含むセンサスイートを配置するときの、歪みゲージ206の配置を示す図である。本明細書に記載するセンサは、ネオプレンまたはその他の任意の材料で構成されるスリーブを介して患者に接触した状態で配置することができる。スリーブまたはラップは、いくつかの実施形態では、面ファスナ(Velcro(登録商標)など)、鉤ホックファスナ、ジッパ、または医療環境で使用することができるその他の任意の閉止機構を用いて閉止することができる。いくつかの実施形態では、センサは、粘着パッチまたは包帯を用いて患者に取り付けることもできる。
【0025】
流体の漏れによる皮膚硬度量の増大は、IVカテーテル部位の周りの生体インピーダンスの変化を測定することによって捉えることができる。導電性IV流体が局所的に増加すると、測定されるインピーダンスが低下する可能性がある。生体インピーダンス解析として知られるこの技術は、微弱な安全な交流電流を使用して、体に配置された電極間の電位差を測定して、目標領域の体組成を決定する。測定されたインピーダンスは、抵抗器およびコンデンサのネットワークによってモデル化することができる。異なる周波数でインピーダンスを測定してEBI解析を強化するEBI分光法を利用することもできる。検出をさらに強化するために、カテーテル挿入部位で測定されたEBIを、カテーテルを備えない肢、または同じ肢の別の部位など、別の「対照」部位で測定したEBIと比較することもできる。カテーテル挿入部位の周りの複数の領域からEBI測定値を取ることによって、検出を強化することもできる。
【0026】
実験的研究における軟組織への生理食塩水の注入後の径方向歪みの測定変化率を示すグラフを、図3に示す。図示の実験的研究では、生理食塩水の注入は、t=5sで開始され、t=15sで終了している。最大の変化は、注入の終了時に見られ、約2.25%の歪みゲージブリッジの拡張が測定された。
【0027】
電極の機械的配置は、IVカテーテル部位および測定技術を考慮して選択することができる。例えば、幼児でしばしば用いられるように表在性背部静脈が静脈穿刺部位である場合には、局所的生体インピーダンスセンサを、手首の遠位橈尺関節に配置することができる。4極性測定を使用して、インピーダンスを測定することができる。このような4極性測定は、例えば電流励起用の1対と電圧感知用など、4つの別個の電極を使用して実現することができる。これらの電極は、IV部位の周りに対称に配置することができる。
【0028】
生体インピーダンスと温度の間の関係を、皮膚の一部を急速冷却し、その実際のインピーダンスを測定することによって、試験した。図4は、実験の開始から終了までの記録に基づく皮膚温度の線形補外に対してプロットした、皮膚温度の急速変化に基づく電極カフの間の部位における生体インピーダンスの変化を示すグラフである。氷パックをt=40sで皮膚の上に置き、t=210sで取り除いた。この時間帯では、皮膚温度と生体インピーダンスの間に、負の相関が見られる。この試験装置では、凍った氷パックと、患者の腕の半径に合わせて構築された電極カフとを使用した。電極界面に関連する抵抗を低下させるために、乾いた銅製電極と皮膚との間の接触は緊密でなければならない。したがって、大きな銅テープストリップを腕の周りに巻き付け、ベルクロ(登録商標)ストラップを使用して固定した。温度の急低下によるインピーダンス変化は、この部分の皮膚の静止インピーダンスからわずか約±1Ωである可能性もあるが、液体の注入が同程度の変化をもたらすときには、十分に対象範囲内となりうる。
【0029】
IV浸潤の検出は、浸潤部位の近傍の皮膚の伸長、および生体インピーダンスの低下を監視することによって行うことができる。これらの効果の両方の監視は、非侵襲的に行うことができる。このシステムの検出速度は、溶液が付近の組織に漏入する前に浸潤について看護師に注意喚起するのを助けることができるデバイスを考慮したものである。皮膚の伸長と生体インピーダンスの低下の両方を監視するという冗長性により、偽陽性の可能性を低下させることができ、かつ/または高速な応答時間の維持を助けることができる。良好な検出速度は、例えば付近の組織への優位な漏入が起こる前など早期に浸潤について医療スタッフに注意喚起する助けにもなり得る。
【0030】
IV浸潤の予測因子としての電気的生体インピーダンス(EBI)測定は、血管収縮と相関がある。例えば、EBI測定値は、筋骨格損傷による軽微な局所浮腫を示すことが最近分かり、したがって、IV浸潤による流体蓄積に関係する組織のインピーダンスの変化を検出するだけの十分な感度があるはずである。IV浸潤を検出するためのEBI電極の位置は、手首の橈骨動脈付近の励起電流電極および電圧感知電極をそれぞれ1つずつ含むことがある。2つの追加の電極を、手首の反対側に配置して、手首を横断するEBIの測定値を提供することができ、この測定値は、浸潤によって流体が増加すると低下する。体の片側を別の側と比較するその他の示差構成要素を使用することもできる。
【0031】
図5(a)から図5(g)は、膝の局所生理機能を評価するために開発された最新のEBIハードウェアを示す図である。IV浸潤を検出するための4つのEBI電極の位置は、実験によって決定されている。この配置は、患者の快適さおよび浸潤の検出の適切さの両方において良好な位置決めをもたらす。発明者等は、同様の技術を使用して、図5(c)に示すように、膝の場合の最適な電極位置を実験的に決定した。例えば、4電極Kelvin感知スキームを使用して、微弱な安全なAC励起電流を2つの電極に印加し(I=1mApp、f=50kHz)、その結果得られるAC電圧差を、残りの2つの電極の間で測定することができる。図5(c)に示す電極間の距離は、1つの例示的な実施形態であり、他の実施形態では、他の電極間距離を利用することもできる。注入電流に対する測定電圧の比が、皮膚/電極間インピーダンスが除去された軟組織のインピーダンスを与える。これらの技術は、図5(b)および図5(e)に示すように、実質的に正確で、実質的に線形で、実質的に一貫したEBIの測定値を与えることが分かっている。励起電流電極および電圧感知電極をそれぞれ1つずつ手首の橈骨動脈付近に配置し、残りの2つの電極を反対側に配置することにより、関連する信号、すなわち手首を横断するEBIの測定値が得られ、この測定値は、浸潤によって流体(高導電性媒体)が増加すると低下する。
【0032】
図5(a)は、市販の構成要素および新規の高性能アナログ回路設計を使用した例示的なEBI測定回路を示す図である。図5(b)は、一貫性を実証するために別々の10測定日に図5(a)の例示的なEBI測定回路を使用して測定したデータ点を示す図である。エラーバーは、抵抗成分およびリアクタンス成分の両方のインピーダンス測定値の95%信頼性の間隔を示している。図5(c)は、図5(a)の例示的なEBI測定回路を用いた膝の生体インピーダンス測定のための例示的な電極位置を示す図である。図5(d)は、血液量パルス(すなわちプレチスモグラフィ、IPG)に関連して局所的に起こる生体インピーダンスの非常に小さな(<100mΩ)変化を検出するための例示的なEBI測定回路の感度を示す図である。いくつかのIPG心拍が示してある。図5(e)は、広範囲のインピーダンス値にわたるこの回路の線形性を実証する、実際のインピーダンス値に対する測定インピーダンス値のプロットである。図5(f)は、IPG心拍振幅に対する下流側血管収縮の影響を評価するために例示的なEBI電極を膝に装着した状態で自分の足を氷水に入れた被検者を示す図である(IV浸潤でも、同じタイプの末梢血管抵抗の下流側変化が予想される)。図5(g)に示すように、IPG心拍振幅は、被検者の足が氷水に浸けられているときに、水の外にあるときと比較して大幅に低下した。対応する足の皮膚の温度が、両方の場合について示してある。図5(h)は、皮膚温度測定用に以前に設計されたカスタム電子素子を備えるRTD型温度センサの性能を示す図である(解像度は0.1℃、範囲は25~45℃)。
【0033】
EBIの変化に加えて、血液量パルス成分も、手の下流側末梢血管抵抗(PVR)の増大によって減少する可能性がある。これは、図6に示す簡略化集中定数モデルなどの心血管系のモデルに基づいており、図6のモデルは、対側側と比較したIV浸潤がある側のフォトプレスチモグラフィ(PPG)波形の変化を予測するための生理学的根拠、および膝の既知の局所的EBI測定値、例えばこのような増大した下流側PVRをシミュレートするために被検者が自分の足を水の入ったバケツに浸しているときに生じるEBI血液量パルス成分の変化、血管収縮による拍動成分の振幅の減少を示している。ハードウェアを使用して、同相および直交復調スキームの一方または両方を検出して、インピーダンス変化の実部およびリアクタンス部の両方を捉えることができる。図6において、P(t)およびP(t)は、左心室および右心室の圧力を表す。C(t)およびC(t)は、左心室および右心室のコンプライアンスを表す。Pthは、胸郭の圧力を表す。AVは、大動脈弁を表す。TVは、三尖弁を表す。Rは、左心室の出力抵抗を表す。CおよびRは、大血管のコンプライアンスおよび抵抗を表す。RblおよびRbrは、左側および右側の上腕動脈の抵抗を表す。Rotherは、その他の全身血管の抵抗を表す。Rc、h、lおよびRc、h、rは、左手および右手の小血管および毛細血管の抵抗を表す。CおよびRは、静脈のコンプライアンスおよび抵抗を表す。左手の流体浸潤は、この領域を内因的に冷却し、かつ小動脈にかかる圧力を増大させることにより、直接的または間接的に局所的な末梢血管抵抗の増大につながる。その結果生じる左手および右手のPPG波形は、それに応じて交番し、浸潤がある側では振幅が小さくなり、到達が遅延することが予想される。
【0034】
EBI信号に現れる血液量パルスの変化だけでなく、微小血管組織層の血液量変化の光学測定値(フォトプレスチモグラフィ)(PPG波形)も、両手について得ることができる。一方の手についてのPPG波形の特徴を他方の手と比較したときの差異が、IV浸潤を示している可能性がある。PPG波形は、入院患者の臨床診療では、パルスメータとしてよく知られるシステムを用いて、定期的に測定される。PPG波形は、SpO2を計算する場合は赤色波長および赤外線波長で測定されることが多く、病院のほとんどの小児患者に対しては継続的に測定される。EBI信号の拍動成分は、より深部の動脈(例えば橈骨動脈)の血液量パルスに対応し、反射PPGは、表在性の皮膚の微小循環の対応する血液量パルスの測定値である。この両者の組合せにより、EBI信号よりもPPGに影響を及ぼす周囲温度の変化による局所的な血流の変化を、浸潤による浮腫および内部冷却に関連する局所的な血流の変化から区別することができる。
【0035】
PPG波形を処理して、線形フィルタリングおよびウェーブレットノイズ除去技術を使用して、基準線のワンダおよび高周波数ノイズを低減することができる。PPGは血液量パルス波形を表しているので、組織の冷却および小動脈の動脈壁にかかる外圧の増加は、ピーク間振幅の減少につながるはずである。ノイズおよび動きのアーチファクトをさらに減少させるための心拍検出およびアンサンブル平均手法を利用することもできる。
【0036】
光学測定を使用して、浸潤を検出することもできる。組織への流体の漏入は、組織自体の光反射特性を変化させる可能性があり、(浮腫が灌流を制約することにより)局所的に酸素化を低減する可能性がある。近赤外分光(NIRS)などにより、組織内の全ヘモグロビンに対する酸素化ヘモグロビンの比である組織酸素化指標を測定することができる。NIRSシステムおよび時間分解分光(TRS)システムは、組織酸素化の変化を正確に追跡することが分かっており、本システムにおいても、IVカテーテルが挿入されている体の部分の組織酸素化の変化およびIVカテーテルが挿入されていない部分の変化を検出し、それらを比較するために使用することができる。
【0037】
PPG測定では、反射モードは、ともに皮膚の同じ表面上に位置決めされたフォトダイオードおよびLEDを含む可能性がある。この手法は、患者の指に取り付けられるPPGセンサの要件を緩和することにより、システムの全フットプリントを減少させることができる。フォトダイオードおよびLEDは、AFE4400(米国テキサス州DallasのTexas Instruments社製)などのアナログフロントエンドにインタフェース接続することができる。フロントエンドは、例えばシリアル通信(SPI)などを介してマイクロ制御装置に接続することができる。
【0038】
センサ測定値は、測定される部位の動きおよび姿勢の影響を受ける可能性がある。例えば、2点間で測定される手首のEBIは、被検者の手のひらを体に対して上向きにしているか下向きにしているかで異なる可能性がある。手首のインピーダンスは、被検者が手を握っているときと手の力を抜いているときとで変化する可能性もある。インピーダンス信号は、被検者が測定している肢を動かすと、肢の動きによって引き起こされる局所的なインピーダンス変化によって変化し始める。したがって、EBI信号と共に肢の動き、位置、および慣性を測定するセンサを含むと有用である。加速度計、ジャイロスコープ、および磁力計は、位置および動きの追跡に使用することができる例示的なセンサの一部である。これらの、またはその他のタイプの位置または動きセンサは、単独で使用してもよいし、互いに組み合わせて使用してもよい。
【0039】
歪みセンサ、光感知、および温度感知などEBI以外の感知様式も、肢の位置および動きによって変化しやすい。したがって、これらの感知様式も、疑わしい測定値が動きの結果または動きの影響を受けた結果である可能性があると示すために、加速度計、ジャイロスコープ、および/または磁力計など、1つまたは複数の動き、位置、または慣性センサと組み合わせて使用することの恩恵を受けることがある。肢の動きを示す情報を使用して、動きの影響を受ける可能性があるその他の測定値を調整し、それによりIV浸潤の偽陽性指示を減少させることができる。動き、位置、または慣性センサからの情報を使用する1つの例示的な方法は、測定する肢が動いているときを検出し、それらの瞬間を解析から排除する方法を設計することである。動き、位置、または慣性センサからの情報を使用して決定された肢の位置を、その他の種類の測定値と組み合わせて、肢の位置による変化を補償することもできる。これを行う例示的な方法には、被験者の肢が特定の位置にあるときを位置センサによって検出し、それらの瞬間に得られる他のセンサの測定値を監視して検出を行うものがある。位置情報は、疑いの余地が残る他のセンサの測定値がなければ使用者が理解するのを助けることができる。動き、位置、および慣性センサの使用は、ここに示した例に限定されるわけではない。
【0040】
実験結果および例示的な実施形態
【0041】
本明細書に記載する原理による例示的なシステムでは、感知要素は、時間平均方法を使用して、迅速な応答を可能にしながら検出の特定性および感度を高めることができるように、最大で毎秒64個のサンプルを記録するように設計することができる。毎秒のサンプル数は、高速感知および計算を行う回路の性能に応じて、毎秒5サンプルから毎秒64サンプルをはるかに超える範囲にすることができる。サンプルの結果を平均することにより、特により低いサンプル率で、結果の質を向上させることができる。
【0042】
例示的なシステムを、図7のブロック図に示す。この例示的なアーキテクチャでは、末梢センサ502は、体に接触して配置され、マイクロプロセッサ504および通信システムは、体から離して配置される。他の実施形態では、通信システムを体に接触して位置決めすることもできる。マイクロプロセッサ404および一体型アナログフロントエンド506などの市販の電子部品を使用することができる。例えば、例示的なマイクロプロセッサ504は、8ビットATMEGA1284P(米国カリフォルニア州San JoseのAtmel社製)とすることができる。この例示的なマイクロプロセッサ504は、8ビットとすることができ、電気的消去可能プログラマブル読取り専用メモリ(EEPROM)、汎用入出力(GPIO)、クロック、およびアナログ/デジタル変換器(ADC)を適宜含むことができる。例示的なマイクロプロセッサ504は、最小限の不揮発性メモリをマイクロプロセッサ504に含む。追加のメモリ記憶デバイス508を、給電せずに使用することもできる。セキュアデジタル(SD)カード508を、データ記憶に使用することもできる。搭載型のBluetooth(登録商標)またはその他の無線伝送デバイス510を使用して、データ処理のためにデバイスとホストコンピュータの間の通信を可能にすることができる。LED512などのインジケータ、または音声アラームなど医療スタッフに注意喚起するためのその他のデバイスを、システムがIV浸潤を検出したことを医療スタッフに知らせるためにこのデバイスに含めることもできる。
【0043】
AFE4300などの特定用途向け集積回路を、生体インピーダンスおよび/または歪みを測定するためのアナログフロントエンド506として使用することもできる。AFE4300は、低電力要件を有する。AFE4300は、また、増幅回路を有するホイートストンブリッジ入力を含み、電流励起に使用される電極の付近の別個の電極対にかかる電圧を測定する4極モデルを用いて生体インピーダンスを計算する。得られた出力測定値を、アナログ/デジタル変換器を用いて変換し、この出力を、シリアルペリフェラルインタフェース(SPI)を用いてマイクロ制御装置に接続する。
【0044】
生体インピーダンスの測定値は、皮膚温度の影響を受ける可能性があるので、皮膚温度センサから生体インピーダンスセンサに皮膚温度測定値を提供することができる。例えば、図7に示すように、少なくとも1つの抵抗温度センサ(RTD)502を、患者の皮膚上に配置することができる。例示的な実施形態では、例えばRTDなど2つの皮膚温度センサを、一方はカテーテル部位に近接して、もう一方を対照としてカテーテル部位から離して使用することができる。この例示的な温度センサRTDは、ADCの全範囲を使用して、皮膚温度が概ね約37℃前後のままである場合に0℃から50℃の間の温度を測定するように設計された回路を含む。この回路は、また、その後にデジタル的に記録されるRTDセンサからの信号を調整(フィルタリング、DCバイアスの除去など)するRTDドライバ回路514と、バッテリの電圧および(例えばUSB充電ケーブルを用いた)バッテリの充電を調整し、消費電流が多すぎる場合には回路を遮断する電源管理集積回路(PMIC)516とを含むこともある。
【0045】
図8は、体から離して使用するための機械的フォームファクタを有する例示的なプリント回路基板(PCB)を示す図である。この総電力消費(常にオンであり、継続的にSDカードに記憶し、Bluetooth(登録商標)を介してデータを伝送する最悪のケースの電流要件を表す)は、1000mAhリチウムイオンポリマーバッテリによって提供される場合、1回の充電で約7時間使用(デバイスは、ファームウェアで容易に実施することができるスリープモードの使用を含まない)することができる。表Iは、この例示的なPCBの累積測定電気的仕様を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
電子ベンチトップ検証の他に、自動浸潤検出システムは、実験室試験および人間の被検者による実験の両方を用いて特徴付けることができる。浸潤をもたらす注入を感知することができるかどうかを試験するためには静脈穿刺を使用するので、豚の脇腹肉を使用して、静脈穿刺を使用する様々な試験を行った。豚の脇腹肉は、複数層の結合組織および脂肪を有し、また、皮膚に似たざらざらした手触りの上層を有する。
【0048】
図9に示す4極構成の3M Red Dot Ag/AgCl電極を使用して、生体インピーダンスを測定することができる。組織に注入された導電性液体(体積3mL)は、生体インピーダンスの低下をもたらす。これは、液体含有物によって電流が媒体中を流れるためのより抵抗の低い経路が得られるからである。図10は、人間の組織を豚の脇腹肉でシミュレートした注入試験中に得られた生体インピーダンス測定値を示す図である。この生体インピーダンスの結果は、液体注入に応答して観測されるインピーダンスを低下させる点で陽性であった。この実験を通じて注目される生理学的範囲は、注入前の抵抗815Ωから3mLの導電性溶液の注入後の-20Ωの変化とすることができる。この変化は、このシステムで測定可能であり、電極の周りの液体含有量が数ミリリットル変化したかどうかを検出することができる。約30秒で注入前の抵抗レベルに戻ることは意外かもしれないが、液体が肉から漏出するにつれて液体含有量が低下することを示している。肉を取り囲む皮膚がないので、この豚の脇腹肉のモデルでは、液体が局所領域に保持されない。
【0049】
図11は、生きている麻酔をかけた豚の後脚につけたウェアラブルセンサの例示的な構成を示す図である。この例では、静脈内(IV)カテーテルは、(a)静脈内、または(b)麻酔をかけた豚の肢の周囲組織内のいずれかに配置した。次いで、生理食塩水を、量を順次増加させながら(2mLボーラス、5mLボーラス、10mLボーラス、および2度目の10mLボーラス)、静脈または周囲組織に投与した。図12のグラフは、この手順を示している。この肢に3つの様式のセンサを配置した。すなわち、電気的生体インピーダンス(EBI)測定用のAg/AgClゲル接着電極602を4つ(2つはカテーテル挿入部位604の近傍に配置され、2つはカテーテル挿入部位604から離して配置される)、歪みゲージ606を2つ、温度センサ608を2つ配置した。図13は、肢の基準抵抗に正規化したEBI測定値を示す図である。これらのEBI測定値は、これらの初期基準値に対する抵抗の変化として示されている。浸潤(周囲組織に注入される生理食塩水)と静脈への注入とで、体積が5mLを超えると、統計的に有意な(p<0.05)抵抗の低減が観測された。図14は、流体が周囲組織に注入されること(浸潤)による伸長を示すことができる歪みゲージ測定値を示す図である。歪みゲージ測定値は、電圧の変化として示されている。全ての注入量で、静脈に注入したときと組織に注入したときとでかなり有意な電圧差が観測され、このことは、歪みを使用すれば、小さな体積の浸潤でも検出することができることを実証している。
【0050】
歪みは、ホイートストンブリッジ構成の歪みゲージを使用して測定することができる。このゲージの配置では、全てのセンサを横切って同じ軸方向に測定を行うことができる。したがって、各ゲージは、慎重に配置され、固定されることがある。実験的試験では、歪みの結果も、液体の注入に応答する点で陽性であった。+2.25%の変化(図3に示す)は、3mLの生理食塩水の注入後の豚の脇腹肉の拡張を示している。注入後の引き戻しは、この測定でも見られ、(豚の脇腹肉のモデルからの生理食塩水の漏出による)生体インピーダンスの試験で引き出された同じ応答と一致している。注入後の引き戻しは、診療所で見られた場合には、どの程度の量の液体が漏れたかということと、それに関連する正確なタイミングとに関する示唆に富んだ情報を医療スタッフに与える可能性がある。
【0051】
例示的な実施形態では、ハードウェアは、例えば歪みゲージ、温度センサ、発光ダイオード(LED)/フォトダイオード対、および複数の電極などのセンサを含むことがある。電極は、例えばBluetooth(登録商標)またはその他の無線技術を介したコンピュータまたは記憶デバイスへの無線転送のために、アナログ「フロントエンド」回路によってマイクロ制御装置にインタフェース接続することができる。このシステムは、例えばよくあるようにIVが手に挿入される場合には、被験者の手の上に適用することができる。
【0052】
歪みゲージは、被検者の手首の軟プラスチック部材上に配置して、手の甲の腫れがプラスチック製カンチレバー上で歪みの増大を引き起こし、それにより歪みゲージによって測定され、例えばマイクロ制御装置によって記録される電気信号を変化させるようにすることができる。マイクロ制御装置は、例えばTexas Instruments社製のAFE4300などの集積回路を用いたアナログフロントエンド回路などとすることができる。皮膚の反射率の光学測定器、および感圧抵抗器または曲げセンサなど、皮膚の伸長を定量化するその他のデバイスを、皮膚に接着することもできる。その他の皮膚伸長感知方式も使用することができるが、それらは必要というわけではない。
【0053】
温度センサを配置して、示差測定を可能にすることもできる。例示的な実施形態では、例えば、温度センサを手首の歪みゲージの隣に配置し、別の温度センサを、前腕のさらに後方の肘に近い位置に配置することもできる。Omega社製の4ワイヤRTDセンサなどのRTDセンサを、カスタム電子素子にインタフェース接続して、例えば0.1℃程度の高解像度の皮膚温度測定を行うこともできるが、このようなカスタム電子素子は、本システムの動作に必要というわけではない。カスタム電子素子によって提供される高い解像度は、検出速度を向上させ、周囲温度の変化による温度変動、交感神経の覚醒、またはその他の混同しやすい要因ではなくIV浸潤に関連する影響を検出する差異の感度および特定性を改善することができる。ただし、カスタム電子素子は、本システムが機能するために必要というわけではない。RTDセンサによって実現される解像度は、現在の標準的治療である触診の閾値に満たないデバイスであれば十分であろう。
【0054】
本明細書に示す原理によれば、末梢カテーテル挿入部位にまたはその周りにおける使用者の生理学的状態を捉えるシステムまたは方法は、複数の様式のウェアラブルセンサ、プロセッサ、およびインジケータを含むことがある。これらのウェアラブルセンサから収集されるデータを処理して、血管外流体の存在を検出し、医療専門家にそれを示す指示を提供する。プロセッサは、この複数の様式のウェアラブルセンサと電気通信しており、この複数の様式のウェアラブルセンサから収集されたセンサデータを処理して、血管外流体の存在を検出するアルゴリズムを実行するように構成される。インジケータは、プロセッサと電気通信しており、血管外流体の存在を示す指示を提供するように構成される。
【0055】
ウェアラブルセンサの1つの様式は、皮膚上に位置決めされたときに1つまたは複数の周波数でEBIを測定する電極を含む、電気的生体インピーダンス(EBI)システムを含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、皮膚温度を測定するように構成された温度センサを含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、皮膚の伸長を測定するように構成された歪みゲージを含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、肢の位置もしくは動き、またはその両方を測定するように構成された加速度計を含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、肢の動きを測定するように構成されたジャイロスコープを含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、動きを検出する磁力計を含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、反射フォトプレスチモグラフィ(PPG)信号を測定するように構成された光学センサを含む。ウェアラブルセンサの別の様式は、皮膚の近赤外分光(NIRS)を測定するように構成された光学センサを含む。こうした様々な様式のウェアラブルセンサを、単独で、または組み合わせて使用して、IV浸潤を検出することができる。
【0056】
センサデータを処理するアルゴリズムは、肢の位置および動きを、EBIシステムのEBI測定値を解析するためのコンテキストとして使用することができる。センサデータを処理するアルゴリズムは、皮膚温度を、EBI測定値を解析するためのコンテキストとして使用することができる。センサデータから欠陥を検出するアルゴリズムは、複数の感知様式を融合することができる。肢の動きデータを使用して、データを収集する適当な間隔、または電力効率のために電子素子を低消費電力の「スリープモード」にする適当な間隔を決定することができる。EBI測定値は、複数の電極を使用して、カテーテル挿入部位の周りの複数の異なる部位から取得することができる。欠陥を検出するアルゴリズムは、複数の位置のEBI測定値を融合することができる。EBIシステムは、システム内の1つまたは複数の既知の電子較正インピーダンスから取得される測定値を用いて定期的に自動的に較正することができる。この較正インピーダンスのうちの1つまたは複数は、皮膚インピーダンスと同様に、抵抗器およびコンデンサが両方とも並列になっている構成にすることができる。この構成により、複数の周波数で同時に較正を行うことができる。EBIデータを処理するアルゴリズムは、電極のうちの1つまたは複数が皮膚と接触しなくなった場合に、そのことを検出することができる。このシステムは、少なくとも2つのサブシステム、すなわちカテーテル部位の周りの生理学的データを取り込む第1のサブシステム、および(対照または参照部位として使用される)異なる位置のデータを取り込む第2のサブシステムを含むことがある。この処理アルゴリズムは、カテーテル挿入部位で取得したデータを、参照部位で取得したデータと比較することができる。EBIシステムの電極を通して注入された電流を監視することができ、電流の振幅が既定の限界を超えた場合には、電流を遮断することができる。ダイナミックレンジの解像度および使用を最大限に高めるために、EBIシステムの注入電流の振幅は、使用者ごとに自動的に調節することができる。
【0057】
本開示によるデバイスは、全ての構成要素を含む機械的構造になり、体の姿勢にかかわらずIVカテーテル部位の付近に配置されるように設計することができるものと企図されている。このシステムは、無線通信を利用して、体から離れた警告システムを備えたコンピュータに情報を送信してもよいし、または、IV浸潤を医療スタッフに伝える警告システムが、体に接触している機械的構造の一部であってもよい。
【0058】
本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく、本発明では様々な修正および変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、こうした本発明の修正および変更が添付の特許請求の範囲およびその均等物に含まれるものであれば、本発明は、それらの修正および変更もカバーするものと意図とされている。
【0059】
本願全体を通じて、様々な文献を参照できる。これらの文献の開示は、本発明が属する現況技術をより完全に説明するために、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0060】
本発明の様々な実施形態について上記で説明したが、それらは、限定ではなく、単に例示を目的として示したものに過ぎないことを理解されたい。本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、形態および詳細に様々な変更を加えることができることは、当業者には周知であろう。したがって、本発明の広さおよび範囲は、上述した例示的な実施形態のいずれによっても制限されないものとし、後記の特許請求の範囲およびそれらの均等物によってのみ定義されるものとする。
【符号の説明】
【0061】
102 手首または手
104 生体インピーダンスセンサ
106 歪みゲージ
108 アナログフロントエンドインタフェース
110 アナログフロントエンドインタフェース
112 マイクロ制御装置
114 反射率
116 追加の温度情報/バッテリバックアップ
118 フロントエンドインタフェース
120 記憶デバイス
122 タブレット
124 無線接続
126 低エネルギー伝送
201 骨
204 手首
206 歪みゲージ
211 筋肉
220 ネオプレン製スリーブ
250 皮下の浸潤流体
502 末梢センサ
504 マイクロプロセッサ
506 一体型アナログフロントエンド
508 追加のメモリ記憶デバイス
510 無線伝送デバイス
512 LED
514 RTDドライバ
516 電源管理集積回路
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14