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特許7260558プラズマ誘起水分解のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】プラズマ誘起水分解のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/042 20210101AFI20230411BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230411BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20230411BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20230411BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20230411BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20230411BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20230411BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C25B1/042
C01B3/04 R
C01B13/02 Z
B01J19/08 E
H05H1/24
B01D53/22
B01D53/047
B01D53/04 220
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020545442
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 EP2018081321
(87)【国際公開番号】W WO2019096880
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】102017126886.3
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520169513
【氏名又は名称】グラフォース・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ハンケ
(72)【発明者】
【氏名】サシャ・クニスト
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-529455(JP,A)
【文献】特開平08-109002(JP,A)
【文献】特開2003-024770(JP,A)
【文献】特表2010-532744(JP,A)
【文献】特開2005-274058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-12、22
B01J 19/08
H05H 1/24
C01B 3/02-04
C01B 13/02
C25B 1/02-44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ、すなわち、
‐反応室内部の非接地貯水タンク内に、所定の充満高さの水を準備するステップと、
‐前記非接地貯水タンクの前記充満高さより上で所定の距離を置いて設けられた、平坦に形成されたちょうど1つの低温のプラズマ電極に、雰囲気圧で高周波の交流電圧を印加するステップであって、前記プラズマ電極と水の表面との間の高周波電磁界でプラズマが形成されて、プラズマ中で水を水素と酸素とに解離させるように印加するステップと、
‐水素と酸素とを前記反応室の共通の排ガス管内に集めるステップと
を含む、水をプラズマ誘起分解するための方法。
【請求項2】
前記プラズマ電極に高周波の交流電圧を印加するために、所定の出力インピーダンスの高周波ジェネレータが使用され、該高周波ジェネレータは、プラズマのインピーダンスと前記高周波ジェネレータの出力インピーダンスとをインピーダンス整合させるための整合回路を介して、前記プラズマ電極と接続されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水蒸気あるいは霧状の水を前記反応室へ導入することで、前記非接地貯水タンクに連続的に水が供給される、請求項1あるいは2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマ電極は誘電体でコーティングされており、プラズマはバリア放電として形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応室内の雰囲気として空気、Ar、HeあるいはNeが、開始プロセスの枠内で使用される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
解離反応中の前記反応室内の雰囲気としてCOあるいはNが使用される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非接地貯水タンク内の水は、温度が3℃から99℃の範囲内である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに以下のステップ、すなわち、
‐膜あるいは選択的吸着法を介して、水素と酸素とを分離するステップ
を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下、すなわち、
反応室内に、
‐上方に開放された非接地貯水タンクと、
‐前記非接地貯水タンクの充満高さより上で所定の距離を置いて設けられている、平坦に形成されたちょうど1つの低温のプラズマ電極とを含み、前記反応室に水素と酸素のための共通の排ガス管が設けられており、
前記反応室の外側に、
‐所定の出力インピーダンスの高周波ジェネレータであって、前記プラズマ電極で生じるプラズマのインピーダンスと前記高周波ジェネレータの出力インピーダンスとをインピーダンス整合させるための整合回路を介して、前記プラズマ電極と接続されている高周波ジェネレータ
を含む、水をプラズマ誘起分解するための装置。
【請求項10】
前記高周波ジェネレータの出力インピーダンスは50オームであり、および/あるいは前記高周波ジェネレータの出力は100Wから2kWの間である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記整合回路は、モータ制御の少なくとも1つのコンデンサと少なくとも1つの可変コイルとを含む、請求項9あるいは10に記載の装置。
【請求項12】
前記反応室は、前記非接地貯水タンクに連続的に水を供給するための、水蒸気および/あるいは霧状の水のための供給管を備える、請求項9から11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
プラズマ電極と前記非接地貯水タンクの充満高さとの間の所定の距離は、0.2から2cmの範囲内にある、請求項9から12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記反応室への少なくとも1つの気体のための少なくとも1つの供給管を備える、請求項9から13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
共通の前記排ガス管内あるいは共通の前記排ガス管の端部に、水素と酸素とを分離するための膜あるいは吸着剤を有するタンクが設けられている、請求項9から14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記プラズマ電極は金属を備える、請求項9から15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記プラズマ電極は、誘電体でコーティングされている、請求項9から16のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ誘起水分解のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、特に再生可能エネルギー源の利用へ移行しようという関連で、エネルギー担体としてますます重要性を増している。それでたとえば、風力発電所では、後置のプロセスを介して貯蔵可能な水素を生成でき、それによって、風力の変動と電力需要とによる不安定なエネルギー生成が、少なくとも部分的に補償される。その際決定的に重要なのは、最終的に実践の有用性を決定する全プロセスのエネルギー効率である。エネルギー担体として水素を利用する利点は、その燃焼時に気候に害を及ぼす化合物が出ないことにある。
【0003】
水素を得るために、様々な方法が知られている。水分解では、水が水素の供給源として使われる。異なる改質プロセスの他に、とりわけ電気分解、加熱分解あるいは光電解による水からの水素の形成が重要である。
【0004】
電流を用いて、電解槽内で水から、エネルギー担体である水素と酸素とが生成される。別の化合物を生成するために電気分解が使用される様々な化学的方法では、水素が副産物として生じ得る。
【0005】
水を水素に分解する熱化学法では、たとえば太陽光線を集中させることによって可能となる非常に高い温度が必要である。光合成の最中に行われる水分解を水素の生成に利用できる生物学的方法も、開発中である。光触媒水分解時には、太陽光の光子が直接的に用いられる。その際光子は電子正孔対を生成し、水をその構成要素に分解するために、電子正孔対のエネルギーを直接利用できる。
【0006】
高いエネルギー消費とひいてはそれに伴う高いコストと効率の限定との他に、特に電気分解では、電極の腐食とそれによって条件付けられた処理水の汚染の問題がある。その上、水分解のためのほとんどの方法には、前洗浄された水が必要である。
【0007】
非特許文献1は、液体のカソードと金属アノードとの間の燃焼プラズマの電気的かつ光学的エミッション特性に関する。非特許文献2は、100cmを超えるサブミリ波フレキシブル誘電パイプによる個別電極配置を用いた雰囲気圧コールドプラズマの搬送に関する。
【0008】
第1の態様に従えば、本発明は、以下のステップ、すなわち、
‐反応室内部の非接地貯水タンク内に、所定の充満高さの水を準備するステップと、
‐貯水タンクの充満高さより上で所定の距離を置いて設けられた、平坦に形成されたちょうど1つの低温のプラズマ電極に、雰囲気圧で高周波の交流電圧を印加するステップであって、プラズマ電極と水の表面との間の高周波電磁界でプラズマが形成されて、プラズマ中で水を水素と酸素とに解離させるように印加するステップと、
‐水素と酸素とを反応室の共通の排ガス管内に集めるステップと
を含む、水をプラズマ誘起分解するための方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】独国特許出願公開第102011081915号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】“Characteristics of atmospheric pressure air discharges with a liquid cathode and a metal anode”, P. Bruggeman et al., published on 17. April 2008, 2008 IOP Publishing Ltd, Plasma Sources Science and Technology, Vol. 17, number 2
【文献】“The effect of voltage waveform and tube diameter on transporting cold plasma strings through a flexible dielectric tube”, F. Sohbatzadeh, A. V. Omran, published on 21. November 2014, 2014 AIP Publishing LLC, Physics of Plasmas, Vol. 21, 113510 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の基礎には、プラズマ電極と貯水タンクとの間でプラズマを形成することで、電極と水との間の直接的な接触とひいては汚染や電極の腐食を防ぐことができるという認識がある。本発明は、いわゆるプラズマ電解つまり、電子衝突誘導プロセスを起こす非熱プラズマを利用する。これによって、水の解離電子付着と解離励起とが可能になる。水解離は、本発明に従えば、別の方法のように2つの電極および/あるいは1つの膜面で行われるのではなく、プラズマ化学的な気体体積および水体積プロセスにおいて行われ、これによって、従来の水素獲得法よりもはるかに効率が高くなる。この気体体積と水体積および水表面での放電は、水を解離するのに好都合なエネルギー範囲内(20eVまで)での自由電子の生成をもたらす。水分子や気体分子との衝突によって、多数の種類の励起分子や原子が形成されることになる。電極と水との間の二体衝突反応と極度の電荷移動とを介して、水素と酸素への解離が行われる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はさらに、高周波の交流電圧を用いてプラズマ電極1つだけでプラズマに雰囲気圧で点火することができ、特に平坦なプラズマを雰囲気圧で運転することができるが、それは直流電圧では不可能であるという認識を含んでいる。雰囲気圧での運転は、施設や操業のためのコストを大きく下げる。プラズマは、タンク内の水の表面とプラズマ電極との間で平坦に形成される。
【0013】
平坦に形成されたちょうど1つのプラズマ電極とは、本出願の枠内においては、一体的に形成されたプラズマ電極の好ましい変形形態の他に、貯水タンクの上で所定の距離を置いて、互いに並列して設けられかつちょうど1つのプラズマ電極を形成する複数の個別電極から成るプラズマ電極構造体と理解される。
【0014】
これに対して、たとえば特許文献1のような従来技術から知られる2つの電極を利用するプラズマ電解法では、雰囲気圧で電極間の逐一の放電しか形成されない。直流電圧で運転される放電形態に比べて、本発明の枠内で生じる高周波放電のさらなる利点は、高周波プラズマで起こる変異電流に基づいて、電極がプラズマと直接接触する必要がないことにある。それで、電極材料による汚染がプラズマに入り込むのを阻止し、同時に電極システム自体の耐久年数を確実に長くする。その上本発明は、工業用水、水道水あるいは海水あるいは脱塩水のような極めて多様な種類の水を用いることも可能にし、前洗浄された水を用いる必要はないので、費用のかかる前洗浄プロセスも同様に無くなる。
【0015】
本発明の枠内で示されたのは、解離プロセスに条件付けられて、プラズマ内では水素と酸素が局所的に分離して現れるのではなく、プラズマ内で生じる水蒸気や霧を有する気体として混合されて混合気になっているということである。プラズマプロセスは、水素・酸素混合気の不活性化をもたらし、すなわち、混合気は燃えにくい。反応室においては、解離の際に2つの気体の再結合は起こらない。それで水素と酸素とを共通の排ガス管を介して送ることができ、膜を通して分離させることができる。
【0016】
それゆえ本発明に係る方法によって、よりわずかなコストでより大量の水素を効率的に生成することができる。
【0017】
以下において、本発明に係る方法の有利な実施形態が記述される。実施例の付加的な特徴は、明細書において互いに対する代替として明確に記述されていない限り、さらなる実施形態を形成するために互いに組み合わせることができる。
【0018】
有利には、プラズマ電極に高周波の交流電圧を印加するために、所定の出力インピーダンスの高周波ジェネレータが使用され、当該高周波ジェネレータは、プラズマのインピーダンスと高周波ジェネレータの出力インピーダンスとをインピーダンス整合させるための整合回路を介して、プラズマ電極と接続されている。プラズマは、多くの外部パラメータ(たとえば進行中のプラズマ化学的プロセス)に依存し、かつ時間的に可変で、それゆえジェネレータの出力インピーダンスとは通常は異なる複合的なインピーダンスを有する。プラズマのインピーダンスは特に、水表面に対するプラズマ電極の距離と、水組成と、反応室内の温度と、反応室内の雰囲気とに依存する。それゆえ有利には、いわゆる整合回路(マッチング回路あるいはマッチングボックス)が、高周波ジェネレータと気体放電との間のコネクタとして使用され、当該コネクタは、プラズマのオームと容量の割合を、ジェネレータによってあらかじめ設定されたインピーダンスと一致させる、つまりプラズマの可変の負荷をジェネレータの内部抵抗に整合させ、それでシステムからのエネルギーの反射を最小限にする。
【0019】
好ましくは、出力インピーダンスが50オームの高周波ジェネレータが使用される。研究所の実験で示されたのは、この出力インピーダンスでは特に確実に、水素と酸素の収量が同時に良好な場合のプラズマが形成されるということである。
【0020】
好ましくは高周波の交流電圧は、周波数が1から40MHの範囲内特に10から20MHzの範囲内であり、および/あるいはプラズマ電極は、100Wから2kWの範囲内好ましくは1から2kWの範囲内の出力を印加される。これらの範囲内で、最適なエネルギー投入をした場合、本方法は高い水素収量をもたらす。
【0021】
有利な一実施形態において、水蒸気あるいは霧状の水言い換えれば霧を反応室へ導入することで、貯水タンクに連続的に水が供給される。このような供給法で、一方では解離反応時に消費される水を追加でき、それで水表面とプラズマ電極との間の距離をほぼ一定に保つことができ、他方では付加的な水蒸気あるいは霧が存在することで、プラズマ内の解離反応をさらに促進でき、本方法の効率が向上する。その上、貯水タンク内で渦のような肉眼で見える動きを引き起こすことなく、水を供給できる。つまり貯水タンクの中には静水が入っており、これはプラズマの形成と維持とに有利である。
【0022】
有利な一実施形態において、プラズマ電極は誘電体でコーティングされており、プラズマはバリア放電として形成される。バリア放電(dielectric barrier discharges, DBDS)とも呼ばれる、誘電体で阻害された放電は、2つの電極、本願の場合ではプラズマ電極と、それ自体が特定のインピーダンスを備えるが電極あるいはアースを持たない水とが、少なくとも1つの絶縁体たとえば誘電体によって互いに分離されている場合に、生じる。そのような絶縁体の使用時にはさらに、本発明に係る方法が、1から40MHzの範囲内特に10から20MHzの範囲内で、出力が100Wから2kWの範囲内好ましくは1から2kWの範囲内の交流電圧で実行される場合、有利である。バリア放電は通常、わずかな放電電流でフィラメントによる短命の微小放電から成る。バリア放電は、放電によって搬送される電荷を制限し、すなわちシステム内の電流の流れを制限して、電極表面にわたって放電を分散させる。水素収量は、微小放電の面を最大限にすることで、特定の周波数と温度とインピーダンスで、好影響を与えられ得る。プラズマ電極の誘電体によって、荷電体が電極と再結合するのを防ぎ、解離効率を向上させる。
【0023】
それゆえ、水素量をできる限り多くするために、プラズマ電極の面寸法は、15平方cmから450平方cmが有利である。
【0024】
一実施形態において、開始プロセスの枠内でつまりプラズマの点火時に、反応室内の雰囲気として空気、Ar、HeあるいはNeが使用される。有利には、解離反応中の反応室内の雰囲気としてCOあるいはNが使用される。この雰囲気は、メタン、CHのような、エネルギー担体あるいは元素として以下で利用され得るさらなる化合物の合成を可能にする。プラズマ化学的な合成時に、二酸化炭素を反応室内へ導入することで、二酸化炭素が反応相手として利用され、解離生成物として水素と酸素の他にメタンも生じる。
【0025】
好ましくは貯水タンク内の水は、温度が3℃から99℃の範囲内であり、この温度範囲内では水は液状である。10℃から90℃の範囲がさらに好ましく、この範囲内では効率が特に高い。
【0026】
有利には本方法は、さらに以下のステップ、すなわち、
‐水素と酸素とを分離するステップ
を含む。
【0027】
分離は、膜たとえばポリマー膜あるいは選択的吸着法を介して行われることができる。
【0028】
水素と酸素の分離で、気体を分離して集めて、貯蔵することができる。
【0029】
選択的吸着法では、水素・酸素混合気は、少なくとも1つの吸着剤が入っているタンクを介して運ばれ、この吸着剤に、好ましくは酸素が吸着で結合される。それで水素は、まずは単独で遊離される。それから吸着された酸素は、さらなるステップにおいて、たとえば圧力印加あるいは熱による分離で吸着剤から引き離すことができる。
【0030】
吸着剤として、好ましくは表面積が大きくて酸素の吸着容量が多いセラミック物質特にいわゆる分子篩が用いられる。これは、ゼオライトつまり結晶状のアルミノケイ酸塩の他に、炭素分子篩であってもよい。好ましくは、シリカゲル(Sillica-Gel)あるいは活性酸化アルミニウムが使用されてよい。
【0031】
第2の態様に従えば、本発明は、以下、すなわち、
反応室内に、
‐上方に開放された非接地貯水タンクと、
‐貯水タンクの充満高さより上で所定の距離を置いて設けられている、平坦に形成されたちょうど1つの低温のプラズマ電極とを含み、反応室に水素と酸素のための共通の排ガス管が設けられており、
反応室の外側に、
‐高周波ジェネレータであって、プラズマ電極で生じるプラズマのインピーダンスと高周波ジェネレータの出力インピーダンスとをインピーダンス整合させるための整合回路を介して、プラズマ電極と接続されている高周波ジェネレータ
を含む、水をプラズマ誘起分解するための装置に関する。
【0032】
有利には、いわゆる整合回路(マッチング回路あるいはマッチングボックス)が、高周波ジェネレータとプラズマとの間のコネクタとして使用され、当該コネクタは、プラズマのオームと容量の割合を、ジェネレータによってあらかじめ設定された出力インピーダンスと一致させる。プラズマのインピーダンスは特に、水表面に対するプラズマ電極の距離と、水組成と、反応室の周りのハウジングの特質と、反応室内の温度と、反応室内の雰囲気とに依存する。
【0033】
本装置はそれ以外に、本発明の第1の態様に従った方法の利点を共有する。
【0034】
好ましくは、高周波ジェネレータの出力インピーダンスは50オーム、および/あるいは高周波ジェネレータの出力は100Wから2kWの間である。示されたのは、特にこの出力インピーダンスでは特に確実に、水素と酸素の収量が同時に良好な場合のプラズマが形成されるということである。
【0035】
有利には整合回路は、モータ制御の少なくとも1つのコンデンサと少なくとも1つの可変コイルとを含む。これらは一緒に、電気的共振回路を形成し、当該共振回路を介してインピーダンス整合は連続的に、プラズマによる変動する負荷に対して反応できる。コンデンサとコイルとの同調は、さらなる一実施形態において自動的に、反射および定常波コントロール回路法を介して行われる。
【0036】
好ましくは反応室は、貯水タンクに連続的に水を供給するための、水蒸気および/あるいは霧状の水のための供給管を備える。これで一方では解離反応時に消費される水を追加でき、それでプラズマ電極を追加することなく水表面とプラズマ電極との間の距離をほぼ一定に保つことができ、他方では付加的な水蒸気あるいは霧が存在することで、プラズマ内の解離反応をさらに促進でき、本方法の効率が向上する。
【0037】
好ましくは、プラズマ電極と貯水タンクの充満高さとの間の所定の距離は、0.2から2cmの範囲内好ましくは0.2から1cmの範囲内にある。
【0038】
好ましくは本装置は、反応室への少なくとも1つの気体特に空気、Ar、He、Ne、Nおよび/あるいはCOのための少なくとも1つの供給管を備える。
【0039】
有利な一実施形態において、共通の排ガス管内あるいは共通の排ガス管の端部に、水素と酸素とを分離するための膜が設けられている。一発展形態において、水素と酸素とともにメタンも送るために、共通の排ガス管がさらに形成されている。それから好ましくは、共通の排ガス管内あるいは共通の排ガス管の端部に付加的に、メタンと酸素とを分離するための少なくとも1つのさらなる膜が設けられている。
【0040】
好ましくは、水素と酸素とを分離するための膜は、ポリマー膜である。
【0041】
代替的な一実施形態において、共通の排ガス管内あるいは共通の排ガス管の端部に、たとえば中詰めあるいは開細胞泡の形状の少なくとも1つの吸着剤が入っているタンクが設けられている。吸着剤は有利には、酸素がこの吸着剤に好ましくは吸着で結合されるように形成されている。それで水素は、まずは単独で遊離される。
【0042】
一発展形態において、タンクには、吸着された酸素を分離するための装置が付いている。この装置はたとえば、酸素を熱によって分離するためのヒータの形状であるいは負圧を印加するための真空ポンプの形状で形成されていてよい。しかしタンクは、吸着後に充填された吸着剤を充填されていないものと交換できるようにする閉鎖可能な開口部も備えてよい。
【0043】
吸着剤として、好ましくは表面積が大きくて酸素の吸着容量が多いセラミック物質特にいわゆる分子篩が用いられる。これは、ゼオライトつまり結晶状のアルミノケイ酸塩の他に、炭素分子篩であってもよい。好ましくは、シリカゲル(Sillica-Gel)あるいは活性酸化アルミニウムが使用されてよい。一実施形態において、プラズマ電極は金属特にアルミニウムを備え、これは比較的わずかなコストで伝導率が高いので、好ましい。有利にはプラズマ電極は、誘電体特に酸化アルミニウムでコーティングされている。これによって、バリア放電でプラズマを形成することが可能になる。好ましくは誘電体は、層厚が200から1000μmである。
【0044】
実施例は、請求項からも読み取れる。
【0045】
以下において、本装置と本方法のさらなる実施例が、図に基づいて記述される。図に示されるのは以下である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の第2の態様に従った、水をプラズマ誘起分解するための装置の一実施例の概略図である。
図2】本発明の第2の態様に従った、水をプラズマ誘起分解するための装置のさらなる一実施例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、反応室110内に、上方に開放された非接地貯水タンク130と、貯水タンク130の充満高さ131より上で所定の距離、示された実施例では1cmの距離を置いて設けられている、平坦に形成されたちょうど1つの低温のプラズマ電極120とを含む、水をプラズマ誘起分解するための装置100の一実施形態を示している。反応室110には、水素と酸素のための共通の排ガス管160が設けられている。反応室110の外側には、高周波ジェネレータ150が設けられており、当該高周波ジェネレータ150は、プラズマ電極120で生じるプラズマ180のインピーダンスと高周波ジェネレータの出力インピーダンスとをインピーダンス整合させるための整合回路140を介して、プラズマ電極120と接続されている。整合回路140は、示された実施形態において、電気的共振回路としてのモータ制御のコンデンサと可変コイルとを含む。整合回路は、プロセスにおいて特に水表面に対するプラズマ電極120の距離と、水組成と、反応室内の温度と、反応室内の雰囲気とに依存するプラズマのインピーダンスと、高周波ジェネレータ150の出力インピーダンスとを整合させるために形成されている。高周波ジェネレータ150の出力インピーダンスは、有利には50オームである。反応室内には、周囲と同じ雰囲気圧が占めている。雰囲気圧下でプラズマ電極120と貯水タンク130内の水の表面との間に平坦なプラズマを形成することは、電極つまりプラズマ電極120がちょうど1つだけ利用され、対を成すものとして水自体が利用されるので、ここでは可能である。プラズマ180を生成するために、プラズマ電極120は、高周波ジェネレータ150が準備する高周波の交流電圧が印加される。この高周波の交流電圧は、示された実施形態において、周波数が10から20MHzの範囲内である。その際プラズマ電極は、1から2kWの出力が印加される。水解離は、プラズマ化学的な気体体積および水体積プロセスにおいて行われ、これによって、従来の水素獲得法よりもはるかに効率が高くなる。この気体体積と水体積および水表面での放電は、水を解離するのに好都合なエネルギー範囲内での自由電子の生成をもたらす。水分子や気体分子との衝突によって、多数の種類の励起分子や原子が形成されることになる。電極と水との間の二体衝突反応と極度の電荷移動とを介して、水素と酸素への解離が行われる。その際プラズマは、その電子過剰によって「還元剤」として水に作用する。
【0048】
プラズマ電極120は、示された実施例において、ここではアルミニウムから成る金属製の基体を備え、当該基体は誘電体ここでは酸化アルミニウムでコーティングされている。それゆえ平坦なプラズマ180は、バリア放電で形成される。
【0049】
水素と酸素のための共通の排ガス管160内に、これらの気体を分離するための膜170が設けられている。それから引き続いてこれらの気体を、互いに分離して集めて、ストックすることができる。
【0050】
示された実施形態においてさらに、貯水タンクに連続的に水を供給するための、水蒸気および/あるいは霧状の水のための供給管115がある。この供給管を介して、水蒸気あるいは霧状の水つまり霧を反応室110内へ運ぶことができ、それで一方では、できる限り一定に充満高さ131に達するようにするために貯水タンク130を満たし、他方では水蒸気あるいは霧で水を供給することで、プラズマ内の解離反応とひいては本方法の効率を促進させる。
【0051】
付加的に反応室110には、反応室への少なくとも1つの気体ここでは空気、Ar、Heおよび/あるいはNeのための供給管111が設けられている。これらの気体は、特に反応室内の雰囲気として、開始プロセスの間つまりプラズマ180の点火時に使用される。
【0052】
図2は、本発明の第2の態様に従った、水をプラズマ誘起分解するための装置200のさらなる一実施例を示している。装置200は、大部分が図1の装置100に相当し、そのため以下においては相違点のみが記述され、それ以外では図1についての記述が参照される。装置200は、二酸化炭素COのための供給管211を備える。二酸化炭素を反応室内へ導入することで、二酸化炭素が水素の反応相手として利用され、合成生成物として水素と酸素の他にメタンも生じる。それゆえ、ここでは水素と酸素の他にメタンを送るためにも形成されている共通の排ガス管160内には、水素と酸素との分離が行われる前に混合気からメタンを分離する付加的な膜171が設けられている。
【符号の説明】
【0053】
100、200 装置
110 反応室
111 少なくとも1つの気体のための供給管
115 水蒸気のための供給管
120 プラズマ電極
130 貯水タンク
131 充満高さ
140 整合回路
150 高周波ジェネレータ
160 排ガス管
170 膜
171 付加的な膜
180 プラズマ
211 二酸化炭素COのための供給管
図1
図2