(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】層間付着切れ試験方法と試験装置並びに供試体の作成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20230411BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20230411BHJP
G01N 3/10 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
G01N19/04 Z
G01N3/10
(21)【出願番号】P 2021112588
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020118617
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501294445
【氏名又は名称】汎高圧工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】内海 正徳
(72)【発明者】
【氏名】近松 稔之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢人
(72)【発明者】
【氏名】外山 昌幸
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-265929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0113994(US,A1)
【文献】特開平10-172358(JP,A)
【文献】特開2019-197014(JP,A)
【文献】特開平06-309945(JP,A)
【文献】特開2001-107692(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108240965(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01N 17/00-19/10
G01N 33/38
G01M 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接又は介在層を介して接着された2つの物体層の接着界面での層間付着切れを試験する方法であって、
試験対象となる2つの物体層の接着界面に流体圧力負荷を掛ける工程と、
流体圧力負荷が掛けられた接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングする工程とを含み、
前記流体圧力負荷を掛ける工程が、中空の挿入管を内部に貫通させた第一物体層であって、前記挿入管の一端は流体吐出口として前記第一物体層の下面に開口し、他端は流体注入口として前記第一物体層の外側表面に開口している第一物体層を用い、当該第一物体層の前記下面の前記流体吐出口を内包する領域を、第二物体層の上面と直接又は介在層を介して接着した状態で、前記流体注入口から前記流体吐出口に向かって流体を供給することによって行われ、
前記第一物体層の下面と前記第二物体層の上面との接着界面を試験対象界面とする、
層間付着切れ試験方法。
【請求項2】
直接又は介在層を介して接着された2つの物体層の接着界面での層間付着切れを試験する方法であって、
試験対象となる2つの物体層の接着界面に流体圧力負荷を掛ける工程と、
流体圧力負荷が掛けられた接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングする工程とを含み、
前記流体圧力負荷を掛ける工程が、中空の挿入管を内部に貫通させた第一物体層であって、前記挿入管の一端は流体吐出口として前記第一物体層の下面に開口し、他端は流体注入口として前記第一物体層の外側表面に開口している第一物体層を用い、当該第一物体層の前記下面の前記流体吐出口を内包する領域を、第二物体層の上面と直接又は介在層を介して接着した状態で、前記流体注入口から前記流体吐出口に向かって流体を供給することによって行われ、
前記第二物体層が、直接又は介在層を介して接着された第三物体層と第四物体層の接着界面を含んでおり、前記第一物体層の前記流体吐出口を内包する領域を前記第二物体層の上面と接着した状態で、前記流体吐出口と対向する位置に露出する前記第三物体層と前記第四物体層の前記接着界面を試験対象界面とする、
層間付着切れ試験方法。
【請求項3】
前記第二物体層が、前記第三物体層及び/又は前記第四物体層と直接又は介在層を介して接着される第五物体層との接着界面であって、前記第三物体層と前記第四物体層の前記接着界面と連続する第二接着界面を含んでおり、前記第三物体層と前記第四物体層の前記接着界面に加えて前記第二接着界面を試験対象界面とする、請求項2記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項4】
前記流体注入口に供給される前記流体の圧力が、加圧状態と無加圧状態との間で周期的に変動する請求項1~3のいずれかに記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項5】
前記流体注入口に供給される前記流体の温度がコントロールされているか、及び/又は、前記試験対象界面が温度コントロールされた環境内に位置している請求項1~4のいずれかに記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項6】
前記流体圧力負荷が掛けられた接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングする工程が、試験対象界面を形成する物体層の外周面から外部に流出する前記流体の流出量及び/又は流出位置のモニタリング、予め設定した位置への前記流体の到達検知、前記流体注入口近傍での流体圧力の測定、試験対象界面を形成する物体層の外周面の変形量の測定、又は試験対象界面を形成する物体層のひび割れの監視、又はそれらの2つ以上によって行われる請求項1~5のいずれかに記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項7】
前記流体吐出口に向かって供給される前記流体がトレーサ物質を含んでいる請求項1~6のいずれかに記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項8】
試験対象界面を形成する物体層のうちの少なくとも1つの物体層が、アスファルト混合物を用いて構築された層であり、前記介在層がタックコート層、プライムコート層、目地材層、又は防水材層である請求項1~7のいずれかに記載の層間付着切れ試験方法。
【請求項9】
設定された所定の圧力で流体を供給する流体供給部と、圧力解放部と、流体注入口及び流体吐出口を有する中空の挿入管と、前記挿入管の前記流体注入口と接続する接続口を一端に有する流体供給路と、前記流体供給路の他端を、前記流体供給部又は前記圧力解放部のいずれかと選択的に接続する流路切り換え部と、前記流路切り換え部の動作を制御する制御装置と、試験対象となる接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングするモニタリング手段とを備えている層間付着切れ試験装置。
【請求項10】
前記モニタリング手段が、試験対象となる接着界面を形成する物体層の外周面から外部に流出する前記流体の流出量及び/又は流出位置をモニタリングする手段、予め設定した位置に配置された前記流体の到達検知手段、前記流体注入口近傍の前記流体の圧力を測定する手段、試験対象となる接着界面を形成する物体層の変形量を測定する手段、又は試験対象となる接着界面を形成する物体層のひび割れを検知する手段、又は前記した手段の2つ以上である請求項9記載の層間付着切れ試験装置。
【請求項11】
前記流体供給部が、供給する前記流体の温度をコントロールする温度調節装置を備えているか、及び/又は、試験対象となる接着界面を形成する物体層の環境温度をコントロールする温度調節装置を備えている請求項9又は10記載の層間付着切れ試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層間付着切れ試験方法と試験装置、並びにそれら層間付着切れ試験方法又は試験装置で用いられる供試体の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装の長寿命化は交通インフラを健全に維持する上で不可避の課題であり、長寿命化を妨げる原因の解明やその対策などについて、日々研究、努力が重ねられている。その中で、近年、施工層間の接着性の良否がアスファルト舗装の長寿命化を図る上で重要な因子であるとの指摘が為されている。
【0003】
施工層間の接着には、一般に、アスファルト乳剤などを含むタックコートが用いられているが、路面にひび割れ等の損傷が発生した道路を実際に開削して調査すると、特に車両のタイヤ通過部で、表層と基層の間、若しくは基層と安定処理された路盤層との間で、層間の接着効果が消失し、上下の層が界面で水平方向に分断された状態、すなわち層間付着切れの状態にあることが高い頻度で確認される。これは、層間接着のために施工されるタックコートが十分に機能していないことを示唆している。
【0004】
層間付着切れが発生する原因としては、種々のことが考えられるが、一つの大きな原因として、路面のひび割れや施工継目などから浸入する雨水等の存在が挙げられる。すなわち、路面のひび割れや施工継目などから浸入した雨水等の水は、表層を通過して、例えば基層との界面にあるタックコートに達すると、それよりも下層への浸透が妨げられるので、その場に滞留することがある。その状態で、例えば路面上を通行する車両の重量負荷によって、滞留している水に上下方向に繰り返し荷重が掛かると、加圧された水が下層との界面に沿って水平方向に走り、その結果、層間接着が破壊され、層間付着切れが発生するのではないかと考えられる。
【0005】
従来、2つの接着層間の付着力を試験する方法としては、例えば特許文献1~3などに示されるとおり種々のものが提案されており、道路舗装に関しても、例えば非特許文献1に記載されている引張接着試験やせん断試験が知られているが、これらの試験は、いずれも、層間に水が存在する状態で上部から繰り返し荷重が掛かったとき、加圧された水が層間を切っていくことによって発生する層間付着切れを評価する試験ではない。また、層間にまで水が浸透する経路の一つとなる施工継目の層間付着切れや止水性を評価する試験でもない。加圧された水が層間を切っていくことによって発生する層間付着切れや、施工継目における層間付着切れを試験する方法並びに装置は、本発明者らが知る限り、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-300549号公報
【文献】特開2016-29346号公報
【文献】特開2017-215292号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「道路橋床版防水便覧」、公益社団法人日本道路協会編集発行、平成19年3月、128~134頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、舗装の長寿命化を実現する上で重要と考えられる層間付着切れ、すなわち、上下に積層された2つの材料層の接着界面の層間に水が存在する状態で上部から繰り返し荷重が掛かったとき、加圧された水が層間を切っていくことによって発生する層間付着切れや、アスファルト混合物の打ち継ぎ部などの施工継目に発生する層間付着切れを評価する層間付着切れ試験方法及び試験装置、並びにその試験に用いられる供試体の作成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、鋭意研究と試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、接着された2つの物体層の接着界面に周期的に変動する水圧を掛けることで、例えば、上下に積層された舗装体の界面に水が存在する状態で、車両の通行による繰り返し荷重が掛かったときの状態や、接着界面が舗装表面に露出した施工継目などが受ける雨水等の浸透力を、事象として、実験室レベルで再現することができること、そして、互いに接着された2つの物体層の接着界面での接着性の良否を満足できるレベルで評価することができ、層間付着切れを試験することができることを見出した。本発明者らはさらに研究努力を重ね、周期的に変動する圧力の主体は水に限られず、その他の非圧縮性流体や、空気などの圧縮性流体であっても良いこと、また、試験対象物としては舗装構造物がもっとも典型的であるが、必ずしも舗装構造物に限られず、直接又は介在層を介して接着された2つの物体層一般に適用できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、直接又は介在層を介して接着された2つの物体層の接着界面での層間付着切れを試験する方法であって、試験対象となる2つの物体層の接着界面に流体圧力負荷を掛ける工程と、流体圧力負荷が掛けられた接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングする工程とを含み、前記流体圧力負荷を掛ける工程が、中空の挿入管を内部に貫通させた第一物体層であって、前記挿入管の一端は流体吐出口として前記第一物体層の下面に開口し、他端は流体注入口として前記第一物体層の外側表面に開口している第一物体層を用い、当該第一物体層の前記下面の前記流体吐出口を内包する領域を、第二物体層の上面と直接又は介在層を介して接着した状態で、前記流体注入口から前記流体吐出口に向かって流体を供給することによって行われ、前記第一物体層の下面と前記第二物体層の上面との接着界面を試験対象界面とする、層間付着切れ試験方法を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0011】
また、本発明は、直接又は介在層を介して接着された2つの物体層の接着界面での層間付着切れを試験する方法であって、試験対象となる2つの物体層の接着界面に流体圧力負荷を掛ける工程と、流体圧力負荷が掛けられた接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングする工程とを含み、前記流体圧力負荷を掛ける工程が、中空の挿入管を内部に貫通させた第一物体層であって、前記挿入管の一端は流体吐出口として前記第一物体層の下面に開口し、他端は流体注入口として前記第一物体層の外側表面に開口している第一物体層を用い、当該第一物体層の前記下面の前記流体吐出口を内包する領域を、第二物体層の上面と直接又は介在層を介して接着した状態で、前記流体注入口から前記流体吐出口に向かって流体を供給することによって行われ、前記第二物体層が、直接又は介在層を介して接着された第三物体層と第四物体層の接着界面を含んでおり、前記第一物体層の前記流体吐出口を内包する領域を前記第二物体層の上面と接着した状態で、前記流体吐出口と対向する位置に露出する前記第三物体層と前記第四物体層の前記接着界面を試験対象界面とする、層間付着切れ試験方法を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0012】
さらに、本発明は、設定された所定の圧力で流体を供給する流体供給部と、圧力解放部と、流体注入口及び流体吐出口を有する中空の挿入管と、前記挿入管の前記流体注入口と接続する接続口を一端に有する流体供給路と、前記流体供給路の他端を、前記流体供給部又は前記圧力解放部のいずれかと選択的に接続する流路切り換え部と、前記流路切り換え部の動作を制御する制御装置と、試験対象となる接着界面の層間付着切れの様子をモニタリングするモニタリング手段とを備えている層間付着切れ試験装置を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0013】
好適な一態様において、上記モニタリング手段は、試験対象となる接着界面を形成する物体層の外周面から外部に流出する前記流体の流出量及び/又は流出位置をモニタリングする手段、予め設定した位置に配置された前記流体の到達検知手段、前記流体注入口近傍の前記流体の圧力を測定する手段、試験対象となる接着界面を形成する物体層の変形量を測定する手段、又は試験対象となる接着界面を形成する物体層のひび割れを検知する手段、又は前記した手段の2つ以上である。
【0014】
さらに、本発明は、所定の平面形状及び厚さを有する第一物体層を構築する工程、前記第一物体層の略中心に前記第一物体層を厚さ方向に略垂直に貫通する孔をあける穿孔工程、中空の挿入管を前記孔内に挿入、固定する工程、前記第一物体層の前記孔と直交する一方の面の上に直接又は介在層を介して第二物体層を構築し、前記第一物体層と前記第二物体層とを直接又は介在層を介して接着する工程を含み、前記挿入管は、前記第二物体層が接着される側とは反対側の端部に外部管路と接続する接続部を備えている供試体の作成方法を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の層間付着切れ試験方法及び試験装置によれば、例えば舗装構造物における層間付着切れの現象を、実験室レベルで再現して、層間付着切れの程度を評価することができるので、各種舗装構造物に用いられる材料の種類や特性を種々変化させたり、層間に介在させるタックコートや防水材や目地材などの種類や特性を種々変化させて、それらが層間付着切れに及ぼす影響を実施工に依らずに実験室で試験、評価することができるという利点が得られる。また、本発明の供試体の作成方法によれば、本発明の層間付着切れ試験方法及び試験装置に用いられる供試体を、正確かつ簡便に作成することができるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の層間付着切れ試験方法で用いる供試体の一例の断面概略図である。
【
図3】供試体の流体注入口に供給される流体とそれによって接着界面に加えられる圧力負荷の様子を示す概略断面図である。
【
図5】車両の通行による圧力負荷の変動の様子を示す模式図である。
【
図6】各種モニタリングの手段を示す概念図である。
【
図7】流出流体量-時間の関係を表すグラフである。
【
図8】流体注入口近傍の圧力-時間の関係を表すグラフである。
【
図9】本発明の層間付着切れ試験方法で用いる供試体の他の一例の断面概略図である。
【
図11】供試体の流体注入口に供給される流体とそれによって接着界面に加えられる圧力負荷の様子を示す概略断面図である。
【
図12】本発明の層間付着切れ試験方法で用いる供試体のさらに他の一例の断面概略図である。
【
図14】本発明の層間付着切れ試験方法で用いる供試体のさらに他の一例の断面概略図である。
【
図15】本発明に係る層間付着切れ試験装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明に係る層間付着切れ試験方法及び試験装置、並びに供試体の作成方法を詳細に説明するが、本発明が、図示のものに限られないことはいうまでもない。
【0018】
1.試験方法
図1は、本発明に係る層間付着切れ試験方法が、その好適な一態様において対象とする供試体の一例を示す断面概略図である。
図1において、1は供試体であり、2は第一物体層、3は第二物体層、4は介在層である。第一物体層2と第二物体層3とは、介在層4を介して図中上下方向に積層、接着され、供試体1が構成されている。5は両端が開口した中空の挿入管であり、第一物体層2を垂直方向に貫通する孔内に挿入、固定されている。挿入管5の内側には流体通路6が形成されている。なお、挿入管5は、その壁面が流体を通過させない材料で構成されており、液密又は気密の中空管である。
【0019】
本例においては、介在層4を挟んで互いに接着された状態にある第一物体層2と第二物体層3は、その接着界面での層間付着切れを試験する対象物であり、試験する対象に応じて適宜の材料で構成される。例えば、舗装構造体の積層された2つの物体層の接着界面での層間付着切れを試験する場合には、第一物体層2は一般に舗装の表層を構成する材料、すなわち、骨材とアスファルト等の結合材とを含む表層用の舗装用混合物で構成され、第二物体層3は一般に舗装の基層を構成する材料、すなわち、骨材とアルファルト等の結合材とを含む基層用の舗装用混合物で構成される。ただし、これに限られるものではなく、例えば、第一物体層2を舗装の基層を構成する材料で構成し、第二物体層3を舗装の路盤を構成する材料、例えば、安定化処理された路盤材で構成しても良い。さらには、第一物体層2を、表層又は基層を構成する舗装用材料で構成し、第二物体層3をコンクリート床版又は鋼床版を構成する材料で構成し、両者を適宜の接着材及び/又は防水材などを介在層4として介在させて積層、接着し、供試体1としても良い。また、第一物体層2及び第二物体層3の双方をコンクリートを打設するか、コンクリート版を適宜の大きさに切断することによって調製しても良い。
【0020】
介在層4についても同様であり、層間付着切れを試験する対象に応じて適宜の材料で構成される。例えば、表層・基層間又は基層・路盤層間の積層接着界面での層間付着切れを試験する場合には、アスファルト乳剤などを含むタックコートが介在層4を構成し、表層若しくは基層と床版との間の積層界面での層間付着切れを試験する場合には、通常、床版防水に用いられる防水材や接着材が介在層4を構成する。
【0021】
なお、介在層4は、介在層4を介在させて積層、接着された状態での第一物体層2と第二物体層3との層間付着切れを試験するときには必要であるが、介在層4を介在させずに積層、接着された状態での第一物体層2と第二物体層3との層間付着切れを試験するときには不要であることはいうまでもない。また、介在層4は必ずしも第一物体層2と第二物体層3との接着面の全体にわたって存在している必要はなく、部分的に介在しない箇所があっても良い。さらに、介在層4は複数の層から構成されていても良い。
【0022】
図2は、
図1に示す供試体1を、便宜上、構成する各層別に上下に分離した状態で示す説明用断面図である。
図1におけると同じ部材には同じ符号を付してある。
図2において、2a、2b、2cは、それぞれ第一物体層2の上面、下面、側面を示し、3a、3b、3cは、それぞれ第二物体層3の上面、下面、側面を示している。
【0023】
図2に見られるとおり、内側に流体通路6を有する中空の挿入管5は、その上端が流体注入口6inとして第一物体層2の外側表面である上面2aに開口し、下端は流体吐出口6outとして第一物体層2の下面2bに開口している。第一物体層2の下面2bは、介在層4を介して、第二物体層3の上面3aと接着されている。第一物体層2の下面2bは、必ずしもその全域で第二物体層3の上面3aと接着されていなくても良いが、少なくとも挿入管5の開口部である流体吐出口6outを内包する領域では、第二物体層3の上面3aと接着されていることが必要である。下面2bの流体吐出口6outを内包する領域とは、その領域の内側に流体吐出口6outが含まれている下面2bの領域を意味し、流体吐出口6outの全周を取り囲む下面2bの領域を意味する。第一物体層2が、その下面2bの流体吐出口6outを内包する領域で第二物体層3の上面3aと接着されている場合には、流体吐出口6outは、介在層4の上面又は第二物体層3の上面3aで閉止された状態となるので、試験実行時、流体吐出口6outに供給される流体圧力負荷を、圧力損失なしに、試験対象とする接着界面、すなわち、第一物体層2の下面2bと介在層4の上面間、又は第一物体層2の下面2bと第二物体層3の上面3a間に形成される接着界面に効率良く作用させることができるという利点が得られる。
【0024】
なお、図示の例では、流体通路6は、第一物体層2を垂直に貫通する直線状の通路であるが、必ずしも第一物体層2を垂直に貫通する通路でなければならないわけではなく、略垂直であっても良いし、垂直から斜めに傾斜した通路であっても良い。また、流体通路6は複数の直線を組合わせた鉤型や、部分的若しくは全体的に曲線状の通路であっても良い。また、流体注入口6inは、第一物体層2の外側表面に開口していれば良く、必ずしも上面2aに開口する必要はなく、側面2cに開口していても良い。さらに、流体通路6の数は、1供試体あたり一つに限られず、第一物体層2を貫通させて二つ以上の流体通路6を設けても良い。ただし、作成の容易さの点からいえば、流体通路6は、第一物体層2の上面2aに開口し、第一物体層2を垂直又は略垂直に貫通する一つ又は二つ以上の通路であるのが望ましい。流体通路6は挿入管5の内側に形成されるので、流体通路6について上述したことは、全て挿入管5にも当てはまる。
【0025】
次に、
図3~
図6を用いて、本発明に係る層間付着切れ試験方法についてさらに詳細に説明する。本発明に係る層間付着切れ試験方法は、上に説明した供試体1を用い、その流体注入口6inに、外部から、圧力が周期的に変動する流体を供給することによって行われる。
【0026】
すなわち、
図3の中央下向きの矢印で示すように、流体Fを、その圧力を周期的に変動させながら、第一物体層2の流体注入口6inに供給すると、供給された流体Fは、挿入管5内の流体通路6をとおり、第一物体層2の下面2bに開口している流体吐出口6outに向かうが、そこで第一物体層2の下面2bと接着状態にある介在層4又は第二物体層3と衝突し、それ以上の進行が妨げられる。このため、第一物体層2の下面2bと第二物体層3の上面3aとの間の、直接又は介在層4を介した接着界面には、加圧状態と無加圧状態とが周期的に繰り返される流体Fによる圧力負荷Rfが掛かることになる。このとき、流体通路6は挿入管5で囲まれており、かつ、挿入管5の下端である流体吐出口6outを内包し、流体吐出口6outの全周を取り囲む第一物体層2の下面2bは、直接又は介在層4を介して、第二物体層3の上面3aと接着されているので、流体吐出口6outからの圧力負荷Rfは、無駄な損失なく、試験対象となる接着界面に効率良く負荷されることになる。
【0027】
図4は、外部から供給される流体Fに掛かる周期的に変動する圧力の一例を示す時間-圧力変動図である。
図4に示すとおり、流体Fは、繰り返しの一周期をT
0秒として、一周期の開始からt
1秒の間は圧力P
1(MPa)(但し、P
1は0ではない正の数値)が加えられた加圧状態にあり、引き続くt
2秒の間は加えられる圧力が0(MPa)となる無加圧状態にある。このように、流体Fには、加圧状態と無加圧状態との間で周期的に変動する圧力が加えられる。
【0028】
因みに、加圧時の圧力であるP1の値は、試験する対象物の供用時の実際の圧力負荷状況を考慮して定めればよい。例えば、試験対象物が舗装体である場合には、圧力Pとしては、「道路橋床版防水便覧」、公益財団法人日本道路協会編集発行、平成19年3月、117~121頁に記載されている防水性試験IIを実施する際に任意に採用されている加圧条件を参考に、例えば、0.5MPaが好適な一圧力として挙げられる。ただし、これに限られるものではない。また、無加圧状態では流体に加えられる圧力は、通常0であり、0であるのが望ましいが、完全に0である必要はなく、加圧時の圧力Pよりも小さい有限の値の圧力が加えられても良い。なお、圧力P1から圧力0への切り替わり、及び圧力0から圧力P1への切り替わりは、ほぼ瞬時に行われることが好ましいが、周期的な圧力変動を実現する機器の動作の特性上、若干のタイムラグを伴っていても良い。
【0029】
また、一周期(T
0秒)の長さや、一周期(T
0秒)中の加圧時間t
1と無加圧時間t
2の比率も、試験する対象物の供用時の実際の圧力負荷状況を考慮して定めればよい。例えば、試験対象物が舗装体である場合には、
図5に示すように、供用時には、その想定される交通区分に応じて、第一物体層2の上面2a上を、車両重量を分担担持したタイヤ7が次々と通過し、その通過の度に接着界面上に滞留する水Wには圧力負荷Pvが掛かるので、加圧状態と無加圧状態とが、比較的短い周期で交互に繰り返されることになる。ただし、本発明の試験方法においては、必ずしもこの実際の状況を忠実に反映することは必須ではなく、試験装置に用いる各種機器の動作速度や応答速度を勘案して、T
0、t
1、t
2を定めれば良い。例えば、一周期であるT
0秒としては1秒、加圧時間t
1と無加圧時間t
2の比率としては3:7(すなわち、t
1=0.3秒、t
2=0.7秒)とすることが好適な一例として挙げられるが、これに限られるものではない。
【0030】
試験結果を評価する上では、圧力P1は試験中一定であるのが望ましいが、加圧時の圧力P1が変動する場合における層間付着切れを試験する場合には、圧力P1を試験中に変動させても良いことは勿論である。一周期であるT0秒の長さや、T0秒中の加圧時間t1と無加圧時間t2の比率についても同様であり、基本的には、T0秒の長さや、T0秒中の加圧時間t1と無加圧時間t2の比率は試験中一定であるのが望ましいが、対象とする供試体の実供用時の圧力負荷の状態を勘案して、変化させることは随意である。
【0031】
用いる流体Fの種類に特段の制限はなく、試験目的に応じて適宜選択すれば良く、空気などの圧縮性流体であっても良いし、水やオイルのような非圧縮性の流体であっても良い。例えば、舗装体を浸透して積層面に滞留する雨水等の影響を調べるときには、流体Fとして非圧縮性流体である水が用いられる。また、積層時に接着界面に残存してしまった空気等の影響を調べるときには、流体Fとして圧縮性流体である空気が用いられる。流体Fには、後述するモニタリングを容易にするために、蛍光トレーサ物質、発色トレーサ物質、放射性トレーサ物質、色素、染料等のトレーサ物質を添加、混合しておくのが好ましい。なお、トレーサ物質は、流体Fに添加、混合しておく代わりに、流体注入口6inから挿入管5内に注入するようにしても良い。
【0032】
流体Fは、温度コントロールされた状態で、流体注入口6inに供給されるのが好ましい。これにより、例えば、夏季における層間付着切れを試験する場合には、水などの流体Fを、その温度を比較的高めにコントロールした状態で流体注入口6inに供給すれば良く、また冬季における層間付着切れを試験する場合には、水などの流体Fを、その温度を比較的低めにコントロールした状態で流体注入口6inに供給すれば良い。非圧縮性流体Fの温度をコントロールした状態で流体注入口6inに供給することにより、異なる温度環境条件下での試験が可能になるという利点が得られる。さらに、流体Fだけでなく、供試体1も温度コントロールされた状態で試験されるのが好ましい。すなわち、試験対象界面を形成する第一物体層2及び第二物体層3、さらには介在層4を含む供試体1を温度コントロール可能な恒温室などに入れ、適宜の温度にコントロールしながら本発明に係る試験を実施すれば、第一物体層2及び第二物体層3は、介在層4が存在する場合には介在層4も含めて、その温度がコントロールされるので、当然のことながら接着界面の温度もコントロールされ、流体Fの温度をコントロールするときと同様に、夏季、冬季などの季節や、熱帯、温帯、寒帯、極地などの環境条件を模した条件下での試験が可能になるという利点が得られる。
【0033】
本発明に係る層間付着切れ試験方法において、供試体1の層間付着切れの様子のモニタリングは、例えば、以下のようにして行われる。
図6は、各種モニタリングの手段を示す概念図である。
図6において、Fは流体、Rfは流体Fによる圧力負荷、Ffは流体Fの流れ、8は流体受台、9a、9bは映像カメラ、10は距離計、11は導通センサー、Pは圧力計、Gは質量計である。
【0034】
図6に示すとおり、圧力が周期的に変動する流体Fを流体注入口6inに供給すると、加圧状態と無加圧状態とが周期的に繰り返される圧力負荷Rfが、第一物体層2の下面2bに開口する流体吐出口6outと対向する介在層4の上面又は第二物体層3の上面3aに掛かり、第一物体層2、介在層4、及び第二物体層3の接着界面には接着された各層を互いに引き離そうとする力が掛かることになる。この圧力負荷Rfが、瞬間値又は積分値で接着界面の層間付着力を上回ると、層間接着が破壊され、接着界面に沿って層間を切るように水平方向に走る流体Fの流れFfが発生する。そして、接着界面に沿って水平方向に走る流体Fの流れFfが、第一物体層2及び第二物体層3の側面、すなわち、供試体1の側面に達すると、供試体1の側面に露出している接着界面からは流体Fが流出することになる。この供試体1の側面からの流体Fの流出、特に、第一物体層2、介在層4、及び第二物体層3の接着界面からの流体Fの流出を検知乃至は検出することによって、また、その流出位置を検知乃至は検出することによって、層間付着切れの様子をモニタリングすることができる。
【0035】
供試体1の側面に露出している接着界面からの流体Fの流出は、例えば、流体Fが水やオイルなどの非圧縮性流体である場合、供試体1の側面に配置された撮像カメラ9aによって供試体1の側面を撮影し、撮影された画像上での変化を自動的に検知することによって行うことができる。また、ヒトが目視で流出を検知又は検出するようにしても良いことは勿論である。なお、このとき、流体Fに、例えばウラニンなどの蛍光トレーサ、又はその他のトレーサ物質を添加、混合しておくと、流体Fの流出をより容易に検知乃至は検出することができる。流体Fが空気などの圧縮性流体である場合には、空気に予め検知用のトレーサ物質を添加しておき、供試体1の側面にガスセンサーを配置しておくことで、供試体1の側面からの流体Fの流出を検知乃至は検出することができる。
【0036】
また、供試体1の側面に露出している積層界面からの流体Fの流出は、例えば、流体Fが水やオイルなどの非圧縮性流体である場合、流出し下方に落下した流体Fを供試体1の下方に配置した流体受台8で受け、流体受台8の質量変化を質量計Gで計測、モニタリングすることによって定量的に検出することができる。
【0037】
接着界面に沿って水平方向に走る流体Fは、第一物体層2内に付着力の弱い箇所や、空隙などがあると、その部分をとおって
図6の右側に示すとおり、第一物体層2の内部に浸透することがある。第一物体層2の内部に浸透した流体Fは、空隙や付着力の弱い部分をとおって、第一物体層2の側面2cから流出したり、さらには、第一物体層2の上面2aに流出することがある。また、場合によっては、第二物体層3の側面や下面から流出することもある。加えて、第一物体層2内を通過する流体Fは、第一物体層2の上面2aに流出しないまでも、第一物体層2の上面2aを部分的に盛り上げ、変形させたり、上面2aにひび割れを発生させることがある。
【0038】
第一物体層2の側面2cからの流体Fの流出は、流体Fが水やオイルなどの非圧縮性流体である場合、接着界面からの流出を検知する場合と同様に、例えば、供試体1の側面に配置された撮像カメラ9bによって供試体1の側面を撮影し、撮影された画像上の変化を自動的に検知することによって行うことができる。目視で行っても良いことは勿論である。また、側面2cから流出した流体Fを、積層界面から流出する流体Fの場合と同様に、流体受台8で受け、流体受台8の質量変化を質量計Gで随時計測することによって定量的に検出することができる。流体Fが空気などの圧縮性流体である場合には、予め検知用のトレーサ物質を添加しておき、供試体1の側面にガスセンサーを配置しておくことで、供試体1の側面からの流体Fの流出を検知乃至は検出することができる。
【0039】
第一物体層2の上面2aへの流出は、供試体1の上方に配置された撮像カメラ9c(図示せず)又は目視、或いはガスセンサーによって、接着界面又は側面からの流体Fを検出するときと同様にして、検出することができる。さらに、流体Fによる第一物体層2の上面の盛り上がり、又はひび割れは、例えばレーザなどを用いた非接触の距離計10を供試体1の上方に配置し、随時、供試体1の上面を走査することによって検知、モニタリングすることができる。なお、ひび割れの検出乃至検知は、撮像カメラ9cの撮像画像を解析することによって行っても良い。
【0040】
さらに、流体Fが、例えば水などの導電性物質である場合には、供試体1の設定された適宜の箇所に予め導通センサー11を配置しておき、導通センサー11の非導通状態から導通状態への変化を検知することによって、その導通センサー11の配置箇所への流体Fの到達を検知するようにしても良い。
【0041】
図7は、流体Fが水やオイルなどの非圧縮性流体である場合、流体受台8に流下し、質量計Gで計測された流体Fの質量(流出流体量)と、経過時間との関係を表すグラフの一例である。
図7に示すとおり、試験開始当初は、接着界面の層間付着切れがなく、流体受台8に流下した非圧縮性流体Fの質量は「0」のまま推移するが、層間付着切れが始まると、流体受台8に流下する流体Fの量は徐々に増え始め、ある時点を過ぎると急激に増加し、その後の増加割合はほぼ一定する。この流出流体量-時間曲線の曲がり具合から、試験した供試体1の層間付着切れの様子とその時間経過を把握することができる。
【0042】
例えば、大量流出時に相当すると思われる流出流体量の増加割合が大きな値でほぼ一定となった時点での流出流体量-時間曲線の接線αの延長が経過時間軸と交差する点の経過時間tを層間付着切れ時間と定義すると、この層間付着切れ時間の長短によって、試験した供試体1の層間付着切れに対する抵抗性を評価することができる。なお、厳密に層間付着切れを評価する場合には、供試体1の上面や、側面であっても接着界面の露出部分以外の部分から流出した流体Fは、流体受台8に流入しないようにするのが望ましい。
【0043】
なお、流体Fが空気などの圧縮性流体である場合にも、供試体1の側面、特に、接着界面から流出する流体Fの流出量の時間経過をモニタリングすることができれば、流体Fが水やオイルなどの非圧縮性流体である場合と同様に、流出流体量-時間曲線をプロットし、大量流出時に相当すると思われる流出流体量の増加割合が大きな値でほぼ一定となった時点での接線αの延長が経過時間軸と交差する点の経過時間tをもって、層間付着切れ時間とすることができる。
【0044】
また、第一物体層2と第二物体層3の接着界面のどこかで層間付着切れが生じ、流体Fの一部若しくは大部分が付着切れを起こした層間から供試体1の外部に漏れて流出すると、流体通路6の流体注入口6in近傍の圧力は、設定された加圧圧力P1よりも低下する。この圧力低下を、流体注入口6inの近傍に検出部が配置された圧力計Pで計測することによっても、層間付着切れの様子をモニタリングすることが可能である。なお、圧力計Pによる流体注入口6in近傍の圧力の測定は、流体注入口6inに供給される流体Fが、加圧状態にあるタイミングで行われることはいうまでもない。
【0045】
図8は、圧力計Pで計測された圧力と試験開始からの経過時間との関係を表すグラフの一例である。圧力の測定は、上述したとおり、流体注入口6inに供給される流体Fが加圧状態にあるタイミングで行われるので、圧力と経過時間との関係を表すグラフは、不連続の点の集まりとなるが、
図8では、便宜上、不連続の複数の測定点をつなげ、連続した曲線として表している。
【0046】
図8に示すとおり、試験開始当初は、積層界面でもある接着界面の層間付着切れがなく、流体注入口6in近傍の圧力は設定された加圧圧力P
1のままであるが、層間付着切れが発生すると、流体吐出口6outに向かって供給される流体Fの一部は層間付着切れの箇所をとおって接着界面又は第一物体層2内或いは第二物体層3内に流出するので、その分、流体注入口6in近傍の圧力は設定された加圧圧力P
1よりも低下する。そして、層間付着切れが進行すると、流体吐出口6outから接着界面等に流出する流体Fにとっての流路抵抗は急激に小さくなるので、流体注入口6in近傍の圧力も急激に低下する。その後、層間付着切れが完全に進行してしまっても、流体Fに対する流路抵抗は完全に0にはならず、比較的小さな圧力値で一定する。この圧力-時間曲線の曲がり具合から、試験した供試体1の層間付着切れの様子とその時間経過を把握することができる。
【0047】
このように、本発明に係る層間付着切れ試験方法においては、層間付着切れの様子をモニタリングする手段は多数あり、それらの内の一つ又は二つ以上を組合わせて、層間付着切れの様子をモニタリングし、供試体の作成に使用した材料の性能評価を行えば良い。
【0048】
また、層間付着切れ試験後に、試験した供試体1を接着界面などの適宜の箇所で切断、破壊して、その切断面や破壊面を調べることによって、層間付着切れの進行状況や、その広がりを目視乃至は映像として観察、記録、解析することができる。特に、層間付着切れ試験において、トレーサ物質を含む流体Fを使用した場合には、供試体1の切断面又は破壊面において流体Fが通過した箇所にはトレーサ物質が残されているので、観察、記録、解析が容易になるので便利である。また、層間付着切れ試験において使用した流体がトレーサ物質を含んでない場合であっても、試験後に、供試体1の流体注入口6inからトレーサ物質を注入し、層間付着切れの箇所を通過させた後、供試体1を積層界面などで切断、破壊して、その切断面や破壊面を調べるようにしても良い。
【0049】
なお、上に説明した層間付着切れ試験方法においては、流体Fは、その圧力が、周期的に変動する状態で供試体1の流体注入口6inに供給されているが、流体Fの圧力P1は、必ずしも加圧状態と無加圧状態との間で周期的に変動しなければならないわけではなく、場合によっては、時間的に変動しない一定の圧力で、或いは、時間的に直線状又は曲線状に増加又は減少する圧力であっても良い。すなわち、本発明に係る層間付着切れ試験方法は、流体注入口6inに供給される流体Fの圧力P1が、加圧状態と無加圧状態とを周期的に繰り返す周期的に変動する圧力である場合を最も基本的な典型例とするものであるが、圧力P1が一定値である場合、時間的に直線状又は曲線状に増加又は減少する場合も、変形例として、包含するものである。
【0050】
また、本発明に係る層間付着切れ試験方法は、積層、接着された2つの物体層の接着界面に流体圧を負荷し、接着された2つの物体層から外部に流出する流体Fの有無や量、さらには流出位置をモニタリングする試験方法であるので、流体Fとして水を用い、それを一定若しくは周期的に変動する加圧状態で流体注入口6inから流体吐出口6outに向けて供給し、その外部への流出状況をモニタリングする場合、見方を変えると、直接又は介在層を介して接着された2つの物体層の内側から水圧を掛けた場合の透水試験、すなわち、内圧透水試験であるともいうことができる。つまり、本発明に係る層間付着切れ試験方法は、一側面において、内圧透水試験方法でもある。これは、後述する本発明に係る試験装置についても同様である。
【0051】
さらに、本発明に係る層間付着切れ試験方法においては、積層、接着された2つの物体層の接着界面に流体圧を負荷し、接着された2つの物体層の表面が持ち上げられたり、ひび割れたりする状況がモニタリングされるので、試験されているのは直接には層間付着切れであるが、流体による内圧を掛けた状態での積層された2つの物体層又は介在層の強度試験であるということもできる。つまり、本発明に係る層間付着切れ試験方法は、内圧強度試験方法であるという側面を有しており、一側面において、内圧強度試験方法でもある。これは、後述する本発明に係る試験装置についても同様である。
【0052】
図9は、本発明に係る層間付着切れ試験方法の他の一態様における供試体の一例を示す断面概略図であり、
図10は、
図9に示す供試体を、便宜上、構成する各層別に上下に分離した状態で示す説明用断面図である。両図とも、これまでにおけると同じ部材には同じ符号を付してある。
【0053】
図9及び
図10において、12は第三物体層、13は第四物体層、14は介在層であり、本例の供試体1においては、第二物体層3が、介在層14を介して互いに接着された第三物体層12と第四物体層13とを含んでいる点が先に述べた供試体1とは異なっている。すなわち、第三物体層12の内側の側面12c
1と第四物体層13の内側の側面13c
1とは、介在層14を介して互いに接着され、接着界面を形成しており、第二物体層3は、その上面3a(第三物体層12の上面12a及び第四物体層13の上面13aでもある)に第三物体層12、介在層14、及び第四物体層13とで形成される接着界面の側端面を露出させた状態で、第一物体層2の下面2bと接着されている。
【0054】
第二物体層3の上面3aに露出している、第三物体層12と第四物体層13との介在層4を挟んだ接着界面の側端面は、ちょうど、第一物体層2の下面2bに開口している流体吐出口6outと対向する位置にある。換言すれば、第一物体層2と第二物体層3とは、第二物体層3の上面3aに露出する上記接着界面が、ちょうど第一物体層2の下面2bに開口する流体吐出口6outと対向するように、位置合わせをして、互いに接着される。このとき、第二物体層3の上面3aと接着される第一物体層2の下面2bの領域が、第一物体層2の下面2bに開口する流体吐出口6outを内包する領域であることは、先に述べた例と同じである。
【0055】
なお、第一物体層2と第二物体層3とは、直接接着されても良いし、適宜の介在層を介して接着されても良い。ただし、本例の試験方法においては、第一物体層2の下面2bと第二物体層3の上面3aとの接着界面は、試験対象界面ではないので、試験結果に影響を及ぼすことがないように試験対象界面よりも強固に接着されていることが望ましい。そのような強固な接着を実現するものとしては、例えば、エポキシ樹脂系の接着剤が挙げられる。好適な一態様において、第一物体層2の下面2bは、下面2bの流体吐出口6outを内包する領域において、第二物体層3の上面3aと、エポキシ樹脂系の接着剤を介在層4として、互いに接着される。ただし、第二物体層3の上面3aであって、流体吐出口6outと対向する部分には、接着剤等の介在層4は存在させないようにするのが望ましい。
【0056】
本例の試験方法においては、介在層14を挟んで互いに接着された状態にある第三物体層12と第四物体層13の接着界面が、層間付着切れを試験する接着界面となる。したがって、第三物体層12及び第四物体層13は、試験対象界面を構成する材料として想定される材料か、又はその特性を評価することを希望する適宜の材料で構成すれば良い。例えば、歩道側端部の地覆と、これと密着して打ち継がれるアスファルト混合物間の接着界面の層間付着切れを試験する場合には、第三物体層12又は第四物体層13のいずれか一方を使用を想定する地覆そのものか、当該地覆と同じ材料、例えばコンクリートなどで構成し、他方を使用を予定しているか、特性評価を希望するアスファルト混合物で構成すれば良い。介在層14に関しても同様であり、使用を予定しているか、特性の評価を希望する適宜の瀝青材料、接着材、成形目地材などを単独又は組み合わせて使用すれば良い。
【0057】
また、本例の試験方法を用いて舗装の打ち継ぎ部などの施工継目の層間付着切れを試験する場合には、第三物体層12及び第四物体層13の双方を使用を想定しているアスファルト混合物か、特性を評価したいアスファルト混合物で構成すれば良い。介在層14に関しても同様であり、施工継目に使用を想定しているか、特性の評価を希望する適宜の瀝青材料、接着材、成形目地材などを単独又は組み合わせて使用すれば良い。
【0058】
図11は、本例の試験方法における層間付着切れのモニタリング状況の概念図である。
図11に示すとおり、圧力が周期的に変動する流体Fを流体注入口6inに供給すると、加圧状態と無加圧状態とが周期的に繰り返される圧力負荷Rfが、第一物体層2の下面2bに開口する流体吐出口6outと対向する接着界面、すなわち、第三物体層12、介在層14、及び第四物体層13で形成される接着界面に負荷され、第三物体層12、介在層14、及び第四物体層13の接着界面には接着された各層を互いに引き離そうとする力が掛かることになる。この圧力負荷Rfが、瞬間値又は積分値で接着界面の層間付着力を上回ると、層間接着が破壊され、接着界面に沿って層間を切るように垂直方向に走る流体Fの流れFfが発生する。そして、接着界面に沿って垂直方向に走る流体Fの流れFfが、第三物体層12及び第四物体層13の下面12b、13bに達すると、供試体1の下面に露出している接着界面からは流体Fが流出することになる。この供試体1の下面からの流体Fの流出、特に、第三物体層12、介在層14、及び第四物体層13の接着界面からの流体Fの流出や、その位置を検知乃至は検出することによって、層間付着切れの様子をモニタリングすることができる。
【0059】
接着界面に沿って垂直方向に走る流体Fは、第三物体層12内又は第四物体層13内に付着力の弱い箇所や、空隙などがあると、その部分をとおって
図11に示すとおり、第三物体層12又は第四物体層13の内部に浸透することがある。第三物体層12又は第四物体層13の内部に浸透した流体Fは、空隙や付着力の弱い部分をとおって、第三物体層12又は第四物体層13の側面又は下面から流出することがある。また、第三物体層12又は第四物体層13の側面又は下面から流出しないまでも、場合によっては、第三物体層12又は第四物体層13の側面又は下面を部分的に変形させたり、ひび割れを発生させることがある。
【0060】
このような供試体1を構成する第三物体層12や第四物体層13の表面や接着界面からの流体Fの流出や、流出位置、さらには流出量は、予め定めた箇所への流体Fの到達も含めて、先に述べた例におけると同様の手段で適宜検出、検知、測定することができる。また、検出、検知を容易にするために、適宜のトレーサ物質を流体Fに混合しても良いことも、先に述べた例におけると同様である。変形、ひび割れに関しても、先に述べた例におけると同様の手段で適宜検出、検知すれば良い。また、層間付着切れの有無は、流体注入口6in近傍の圧力を計測することによってもモニタリングすることができる。いずれにせよ、先の試験方法の例において述べたモニタリング手段や方法は、本例の試験方法においても全て利用可能である。
【0061】
本例の試験方法によれば、先に述べた例における試験方法とは違って、歩道端部と舗装層との打ち継ぎ部や、舗装層同士の施工継目など、通常、垂直方向に延在し、側端面が舗装表面に露出している接着界面の層間付着切れを試験することができ、接着界面の止水性も評価することができる。これは、施工継目からの雨水等の浸透が、舗装の寿命低下に影響を及ぼす原因の一つであるとされている現況に鑑み、極めて有用である。なお、本例の試験方法においても、第一物体層2は、その下面2bの流体吐出口6outを内包する領域で、試験対象界面を含む第三物体層12及び第四物体層13の上面と接着される。このため、流体吐出口6outは、第三物体層12の上面、接着界面の露出面、及び第四物体層13の上面で閉止された状態となり、試験実行時、流体吐出口6outに供給される流体圧力負荷を、圧力損失なしに、試験対象とする第三物体層12と第四物体層13の接着界面に効率良く作用させることができるという利点が得られる。
【0062】
図12は、本発明に係る層間付着切れ試験方法のさらに他の一態様における供試体の一例を示す断面概略図であり、
図13は、
図12に示す供試体を、便宜上、構成する各層別に上下に分離した状態で示す説明用断面図である。両図とも、これまでにおけると同じ部材には同じ符号を付してある。
【0063】
本例の供試体1は、第二物体層3に含まれる第三物体層12と第四物体層13の下面12b、13bに、さらに第五物体層15が、介在層16を介して接着され、第二接着界面が形成されている点が、先に
図9及び
図10に基づいて説明した供試体1とは異なっている。
【0064】
第三物体層12と第四物体層13間の接着界面と、第三物体層12及び第四物体層13の下面と第五物体層15との間に形成される上記第二接着界面とは、連続しており、これら連続する接着界面の構造は、施工継目とその下の基層又は路盤層又は床版とからなる一般的な舗装構造における連続した接着界面と同様の構造となっている。したがって、このような供試体1を本発明に係る層間付着切れ試験方法に供し、先に述べた例と同様に、流体吐出口6outに流体圧力負荷Rfを掛けることによって、施工継目の層間付着切れや止水性と舗装表層と基層間、又は基層と路盤層間、さらには基層と床版間の接着界面における層間付着切れの双方を同時に試験、評価することができる。
【0065】
第三物体層12と第四物体層13を構成する材料としては、例えば、表層用又は基層用のアスファルト混合物を用いることができる。また、第五物体層を構成する材料としては、例えば、基層用のアスファルト混合物又は路盤材料又は床版を構成する材料を用いることができる。そして、介在層16を構成する材料としては、例えば、通常、表層と基層間又は基層と路盤層又は床版間の接着に用いられる材料や防水材、その他、特性の評価を希望する適宜の瀝青材料を用いることができる。
【0066】
なお、本例の供試体1を用いて行われる層間付着切れ試験方法において、層間付着切れのモニタリングは、先に
図1及び
図2、又は
図9及び
図10に示した供試体1を用いるときのモニタリングと基本的に異なる点はなく、同様の機器や装置を用いて同様に行うことができる。
【0067】
図14は、本発明に係る層間付着切れ試験方法のさらに他の一態様における供試体の一例を示す断面概略図である。これまでにおけると同じ部材には同じ符号を付してある。
【0068】
本例の供試体1は、第二物体層3に含まれる第三物体層12と第四物体層13のうち、介在層14を含む第四物体層13の下面13bだけに、さらに第五物体層15が、介在層16を介して接着され、第二接着界面が形成されている点が、先に
図9、
図10に基づいて説明した供試体1とは異なっている。なお、第四物体層13の下面13bの代わりに、介在層14を含む第三物体層12下面12bだけに、介在層16を介して、さらに第五物体層15を接着しても良い。
【0069】
第三物体層12と第四物体層13との接着界面と、介在層14を含む第四物体層13の下面13bと第五物体層15との間に形成される上記第二接着界面とは連続しており、これら連続する接着界面の構造は、歩道端部の地覆と密着させて打ち継がれたアスファルト混合物層とその下の基層又は床版とからなる一般的な舗装の端部構造における連続した接着界面と同様の構造となっている。したがって、このような供試体1を本発明に係る層間付着切れ試験方法に供し、圧力が周期的に変動する流体Fを流体注入口6inに供給することによって、地覆とアスファルト混合物との接着界面の層間付着切れや止水性と、舗装表層又は基層と基層又は床版間の接着界面における層間付着切れや止水性の双方を同時に試験、評価することができる。この場合、第三物体層12を構成する材料としては、例えば、実際に使用される地覆又は地覆の構築に用いられると同じコンクリートなどを用いることができる。また、第四物体層13を構成する材料としては、例えば、アスファルト混合物を、第五物体層を構成する材料としては、例えば、アスファルト混合物、コンクリート、又は鋼板を、介在層16としては、例えば、塗膜型若しくはシート型の防水層とプライマーとの組み合わせなどを用いることができる。なお、本例の供試体1を用いて行われる層間付着切れ試験方法において、層間付着切れのモニタリングは、先に
図1及び
図2、又は
図9及び
図10に示した供試体1を用いるときのモニタリングと基本的に異なる点はなく、同様の機器や装置を用いて同様に行うことができることは言うまでもない。
【0070】
2.試験装置
図15は、本発明に係る層間付着切れ試験装置の一例を示す概念図である。なお、
図15においては、供試体1として
図1及び
図2に示される供試体が描かれているが、本発明に係る層間付着切れ試験装置が対象とする供試体が
図1及び
図2に示されるもの限られないことはいうまでもない。
図15において、20は層間付着切れ試験装置であり、21は流体供給部、22は圧力解放部、23は流体供給路であり、流体供給路23の一端(図では下方端)には、供試体1の流体注入口6inと接続する接続口23bが設けられている。接続口23bにはネジ等の適宜の接続機構が設けられている。24は流路切り換え部、25は制御装置、26は温度コントロール機能を備えた恒温室である。流体供給部21、及び圧力解放部22は、いずれも流路切り換え部24に接続されており、流体供給路23の接続口23bとは反対側の端部23aも流路切り換え部24に接続されている。Gは質量計、Pは圧力計である。図示の例では、供試体1は、流体受台8、流体供給路23、質量計G、及び圧力計Pとともに恒温室26内にあるが、流体受台8、流体供給路23、質量計G、及び圧力計Pのいずれか一つ又は二つ以上は恒温室26の外部に位置していても良い。
【0071】
流体供給部21は、例えば、コンプレッサー21a、圧力調整器21b、流体のタンク21c、温度調整装置21d、圧力調整器21eで構成されている。コンプレッサー21aが作動して、所定の圧力をタンク21c内にある流体Fに加えると、流体Fは、温度調整装置21dによって、例えば23℃などの所定の温度にコントロールされ、圧力調整器21eによって所定の圧力P1に調整されて、流路切り換え部24に供給される。なお、温度調整装置21としては、加温できるだけでなく、冷却も可能な温度調整装置であるのが望ましい。
【0072】
また、本例においては、流体供給部21は上述した各機器で構成されているが、流体供給部21は、所定の圧力P1に加圧された流体Fを供給することができれば良く、そのための具体的な機器の構成や機能は特定のものに制限されるものではない。
【0073】
流体供給部21は制御装置25と接続されており、流体供給部21の動作は、流体Fの圧力P1の設定、変更や、流体Fの温度を含めて、制御装置25によって制御される。
【0074】
流路切り換え部24は、流体供給路23と流体供給部21とを接続する流路と、流体供給路23と圧力解放部22とを接続する流路とを、選択的に切り換えることができる。流体供給路23が流体供給部21と接続されているときには、流体供給路23には、流体供給部21から所定の圧力P1、そして好適には所定の温度にコントロールされた流体Fが供給される。一方、流体供給路23が圧力解放部22と接続されているときには、流体供給路23に掛かっていた圧力負荷は解放されることになる。
【0075】
このように、流路切り換え部24によって、流体供給路23を、流体供給部21又は圧力解放部22のいずれかと選択的に交互に接続することによって、流体供給路23に供給される流体Fは、加圧状態と無加圧状態とを交互に繰り返すことになる。なお、流路切り換え部24は制御装置25に接続されており、その動作は制御装置25の制御下にある。すなわち、制御装置25には、加圧、無加圧状態を繰り返す一周期T0の長さ、一周期T0を構成するt1、t2の長さを設定、変更する機能があり、設定されたタイミングで流路切り換え部24を切り換えて、流体供給路23に圧力が周期的に変動する流体Fを供給することができるように構成されている。
【0076】
なお、流路切り換え部24は、流体供給路23が、流体供給部21又は圧力解放部22のいずれかと選択的に交互に接続されるように流路を切り換えることができれば良く、そのような流路の切り換えができる限り、具体的構成や構造には特段の制限はない。例えば、2つの流路を切り換え接続する切り換え弁や、2つ以上の開閉弁を用いて構成しても良いが、これに限るものではない。
【0077】
制御装置25は、質量計G、圧力計Pとも接続されており、それぞれから送られてくる計測信号を受信して、適宜記憶、解析する手段を備えている。また、制御装置25は恒温室26とも接続されており、恒温室26の動作を制御して、供試体1の環境温度をコントロールし、室温を含め、高温から低温まで所望の温度環境下で試験を行うことが可能である。制御装置25の実体はコンピュータであり、図示しない適宜の入出力装置を介して、制御内容の変更、追加、削除等の指令を適宜受け付けることができるとともに、各機器の制御実績や計測結果及び解析結果をプリンターや画面に出力したり、ネットワーク上に存在する他のコンピュータなどに随時又はリアルタイムに送信することが可能である。
【0078】
本発明に係る層間付着切れ試験装置20には、その他、
図6に示したような撮像カメラ9a~9cや、距離計10、導通センサー11との接続機器などを装備させても良い。その場合、撮像カメラ9a~9cや距離計10、導通センサー11との接続機器が制御装置25と接続されることはいうまでもない。
【0079】
図15に示す層間付着切れ試験装置を用いて本発明に係る層間付着切れ試験方法を実行するには、流体供給路23の一端23bに備えられている接続機構を介して、流体供給路23の一端23bを、供試体1の第一物体層2内に挿入されている挿入管5の上部先端と接続する。これにより、流体供給路23が流体注入口6inと接続されることになる。この状態で制御装置25を作動させ、流体供給部21から、所定の加圧及び温度にコントロールされた流体Fを流路切り換え部24へと送り出す。これに先だって、制御装置25は、恒温室26の温度を制御し、供試体1の温度が、試験時、所望の試験温度となるように制御する。
【0080】
制御装置25は、流路切り換え部24の動作を制御して、予め定められたt1の時間だけ、流体供給部21と流体供給路23とを接続し、引き続くt2の時間は、圧力解放部22と流体供給路23とを接続する。このように、流路切り換え部24を制御して、適宜のタイミングで流路を切り換えることによって、圧力が周期的に変動する流体Fを流体注入口6inに供給することができ、流体吐出口6outを介して試験対象となる接着界面に周期的に変動する流体圧力負荷を掛け、接着界面における層間付着切れや止水性を試験することができる。なお、流体注入口6inに供給される流体Fの圧力P1が一定であれば良い場合には、制御装置25は、流体供給部21と流体供給路23とが試験中、常時接続状態にあるように流路切り換え部24を制御する。また、流体注入口6inに供給される流体Fの圧力P1が、時間とともに、直線状又は曲線状に増大又は減少させる場合には、制御装置25は、流体供給部21を構成する圧力調整器21b、21d、又はコンプレッサー21aをそのように制御する。
【0081】
3.供試体の作成方法
次に供試体1の作成方法について説明する。以下の説明では、第一物体層2及び第二物体層3共に、アスファルト混合物を用いて構築される場合を例に説明するが、本発明に係る供試体の作成方法で作成される供試体は、アスファルト混合物を用いて構築されるものに限られないことはいうまでもない。
【0082】
まず、所定の縦、横、高さを有する型枠に、第一物体層を構成する第一のアスファルト混合物を舗設し、所定の平面形状及び厚さを有する第一物体層を構築する。所定の平面形状とは、例えば、所定の縦方向長さ、及び横方向長さを有する長方形又は正方形であるが、これに限られず、他の多角形や円形又は楕円形であっても良い。
図16に構築された第一物体層2の垂直断面図を示す。
【0083】
次に、構築された第一物体層2の平面形状の略中心に第一物体層2を厚さ方向に略垂直に貫通する孔hを穿孔し、孔hを形成する。この穿孔はドリル、ボール盤等、適宜の工具、工作機械を用いて行うことができる。
図17に、孔hが穿孔された第一物体層2の垂直断面図を示す。なお、供試体1に流体通路6を複数設ける場合には、孔hを設ける流体通路6の数に合わせて複数穿孔することは勿論である。
【0084】
次に、穿孔された孔h内に、中空の挿入管5を挿入、固定する。挿入、固定に際しては、挿入管5の外周と、孔hの内周との間に空隙が残存しないよう、挿入管5の外周にエポキシ樹脂等の適宜の接着剤を塗布し、その接着剤で挿入管5の外周と孔hの内周とが隙間なく埋まるようにするのが良い。挿入管5の外周と、孔hの内周との間に隙間が残存すると、その隙間を通って加圧された流体が第一物体層2の上部に吹き出してくる可能性があるので、好ましくない。なお、第一物体層2に孔hを穿孔する際に、第一物体層2の上面又は下面の孔hの周辺が、部分的に角欠けしたり、ひび割れることがあるが、その場合には、孔h内に挿入管5を挿入、固定した後に、角欠け部やひび割れ部をエポキシ樹脂などを用いて補修する。挿入管5の少なくとも一方端には、外部管路に相当する上述した流体供給路23の一端23bに設けられている接続機構と接続することができる接続部5cが予め設けられている。
図18は、第一物体層2の孔h内に挿入管5が挿入、固定される様子を示す第一物体層2の垂直断面図、
図19は孔h内に挿入管5が挿入、固定された第一物体層2の垂直断面図である。挿入管5の中空の内側には流体通路6が確保されている。図中、挿入管5の上端が流体注入口6in、下端が流体吐出口6outに相当している。
【0085】
次に、上述のようにして構築された挿入管5を備えた第一物体層2の上下を反転し、反転され、上になった面上に、介在層4としてタックコートを塗布する。
図20は、このようにして、反転された第一物体層2の上になった面上にタックコードが塗布され、介在層4が形成された状態を示している。
【0086】
図20に示した状態のまま、介在層4の上に第二物体層3を構成する第二のアスファルト混合物を舗設して、第二物体層3を構築しても良いが、舗設したアスファルト混合物が挿入管5の中空内側に詰まらないように、舗設に先だって、挿入管5の開口部上部に、開口部を覆うように、例えばステンレスなどの金属細線で形成されたメッシュ状のシート31を載置し、その後、第二のアスファルト混合物を舗設するのが好ましい。第二のアスファルト混合物を舗設するに当たっては、第二物体層3構築される部分に所定の平面形状と厚さを有する型枠を設置した上で、第二のアスファルト混合物を舗設することは勿論である。
【0087】
図21が、挿入管5の開口部を覆うようにメッシュ状のシート31を設置した状態、
図22が、その上に第二のアスファルト混合物を舗設して第二物体層3を構築した状態を示す図である。
図22に見られるとおり、挿入管5の上部開口部がメッシュ状のシート31で覆われているので、第二物体層3を構築しても、挿入管5内の流体通路6は確保されている。
【0088】
第二物体層3の構築後、全体を再度、上下反転させれば良い。
図23は、上記のようにして作成された供試体1の垂直断面図である。図に見られるとおり、挿入管5は、第二物体層が積層される側とは反対側の端部に、外部管路に相当する流体供給路23と接続する接続部5cを備えている。
【0089】
なお、以上の説明では、第二物体層3の構築前に介在層4としてタックコートの層が構築されたが、試験の目的からみて、介在層4が不要である場合には、介在層4を構築することなく、第一物体層2の上に直接第二物体層3を構築しても良いことは勿論である。ただし、その場合にも、第二物体層3を構成する第二のアスファルト混合物の舗設に先だって、挿入管5の開口部をメッシュ状のシート31で覆っておくのが好ましい。
【0090】
また、以上の説明では、第一物体層2及び第二物体層3共にアスファルト混合物で構築されるが、第一物体層2及び第二物体層3のいずれか一方又は双方はコンクリートを打設することによって構築されても良く、或いは、予め所定の大きさに切断されたコンクリート版又は鋼版を載置、接着することによって構築されても良い。また、介在層4は、タックコートに代えてその特性を調べたい防水材を用いて構築しても良いし、その他、適宜の接着材を用いて構築しても良い。
【0091】
以上は、
図1及び
図2に示した供試体1の作成方法について説明したが、
図9及び
図10に示した供試体1も、同様にして作成すれば良い。すなわち、第一物体層12に孔hを穿孔し、孔h内に挿入管5を挿入、固定し、その上に介在層4を塗布し、挿入管5の開口部をメッシュ状のシート31で覆った後に、第二物体層3を構築すれば良い。ただし、
図9及び
図10に示した供試体1においては、第一物体層2と第二物体層3との接着界面は試験対象界面ではなく、比較的強固に接着されているのが好ましいので、介在層4としては、タックコートや防水材ではなく、第一物体層2と第二物体層3とを比較的強固に接着する材料、例えば、エポキシ樹脂系の接着剤が使用される。
【0092】
また、
図9及び
図10に示した供試体1においては、第二物体層3は単一の材料層ではなく、第三物体層12と第四物体層13とを介在層14を介して接着した層であるので、この点においても、
図9及び
図10に示した供試体1の作成方法は、
図1及び
図2に示した供試体1の作成方法とは異なっている。すなわち、第一物体層2の下面2b(
図20における上側の面)に、例えばエポキシ樹脂などの接着剤を塗布した後、挿入管5の開口部をメッシュ状のシート31で覆い、流体吐出口6outとなる挿入管5の開口部の約半分を開放状態で残す位置に仕切板を立て、適宜の型枠を設置した状態で、挿入管5の開口部の約半分が開放状態で残された側に、第三物体層12を構成するアスファルト混合物を舗設する。適宜の硬化、養生時間をおいて、前記仕切板を取り除き、第三物体層12の側面を露出させ、露出した側面に適宜の介在層14を適用した後、適宜の型枠を設置した状態で、第四物体層13を構成するアスファルト混合物を舗設する。これにより、第三物体層12と第四物体層13とが介在層14を介して接着された接着界面を含む第二物体層3と、第一物体層2とが接着された供試体1が作成される。なお、以上の説明では、第三物体層12及び第四物体層13の双方が、いずれもアスファルト混合物を用いて構築される場合を例に説明したが、第三物体層12及び第四物体層13のいずれか一方又は双方を、例えば、コンクリートなどのアスファルト混合物以外の材料で構成しても良いことは勿論である。
【0093】
さらに、
図12及び
図13に示した供試体1を作成する場合には、上述のようにして、第一物体層2の上(
図20における上側)に、第三物体層12と第四物体層13とが介在層14を介して接着された接着界面を含む第二物体層3を構築した後、構築された第二物体層3の上に、さらに適宜の介在層16を介在させて第五物体層15を構築すれば良い。
図14に示した供試体1の場合も、第五物体層15が、第三物体層12と介在層14との上にだけ構築されるか、或いは、第四物体層13と介在層14との上にだけ構築されるかの違いがあるだけで、その作成方法に基本的な違いはない。また、第二物体層12、第三物体層13、第五物体層15を構成する材料や、介在層14又は16を構成する材料については上述したとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したとおり、本発明の層間付着切れ試験方法及び試験装置によれば、例えば舗装体や施工継目などの接着構造を有する構造体の層間付着切れを、実施工に依ることなく、実験室レベルで再現、試験することが可能となる。社会インフラとして極めて重要な舗装道路や橋面舗装の長寿命化を図る上で、本発明の層間付着切れ試験方法及び試験装置は、極めて有用な一手段となるものであり、その産業上の利用可能性には実に多大なるものがある。
【符号の説明】
【0095】
1 供試体
2 第一物体層
3 第二物体層
4、14、16 介在層
5 挿入管
6 流体通路
7 タイヤ
8 流体受台
9a、9b、9c 撮像カメラ
10 距離計
11 導通センサー
12 第三物体層
13 第四物体層
15 第五物体層
20 層間付着切れ試験装置
21 流体供給部
22 圧力解放部
23 流体供給路
24 流路切り換え部
25 制御装置
26 恒温室
31 メッシュ状のシート
G 質量計
P 圧力計