(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】セルロースフィラメント製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20230411BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D01D5/06 Z
(21)【出願番号】P 2021538187
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2019086554
(87)【国際公開番号】W WO2020136108
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-29
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュレンプ、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ピリクサマー、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】グレッセンバウアー、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ライター、エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】ノイントイフェル、マーティン
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-316938(JP,A)
【文献】特表平09-509704(JP,A)
【文献】特開2004-211277(JP,A)
【文献】特許第4104596(JP,B2)
【文献】特許第4234057(JP,B2)
【文献】特開2006-138058(JP,A)
【文献】特許第4127693(JP,B2)
【文献】特許第4593667(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0035487(US,A1)
【文献】特表2000-517009(JP,A)
【文献】特開平04-308220(JP,A)
【文献】国際公開第98/22642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D01F 2/00 - 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三アミン酸化水溶液中のセルロースのリヨセル紡糸溶液からリヨセルタイプのセルロースフィラメント糸を製造する方法であって、条件が以下の数式(1)の関係を満たすように調整される、方法。
数式(1)
[ここで、Lは空隙の長さ(mm)、vは生産速度m/分、タイターは個々のフィラメントのタイター(dtex)、pは紡糸口金に採用される個々の紡糸ピースの長さ(mm)を示し、vは400m/分以上である]
【請求項2】
前記条件が以下の数式(2)の関係を満たすように調整される、請求項1に記載の方法。
数式(2)
[ここで、Fは1.3以上
2.0以下である]
【請求項3】
マルチフィラメント糸が製造される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
vが400~2000m/分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
個々のフィラメントのタイターが1.0~6.0dtexである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Lが最大で150mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
pが40~80mmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フィラメントが、5~50mmの深さを有する凝固浴中でさらに凝固される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Lが90~150mmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
押出ノズルを通る温度の変動が±2℃以下に制御される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースフィラメント糸の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
連続フィラメント糸は、ステイプル繊維を使用して作られた糸から作られた布と比較して明確な特性を有する布を製造するために、繊維産業において広く使用されている。連続フィラメント糸とは、糸の任意の長さ全体にわたって全ての繊維が連続するものである。連続フィラメント糸は、一般に、互いに全て平行であり、製造されたときに糸の軸となる10から300以上の個々のフィラメントから構成されるであろう。糸は、ポリマーまたはポリマー誘導体の溶液または溶融物を押し出し、次いで、ボビンまたはリール上に生成された糸を巻き取ることにより、または遠心巻きによりケーキを形成することにより生成される。
【0003】
合成高分子の連続フィラメント糸が一般的である。例えば、ナイロン、ポリエステルおよびポリプロピレンの連続フィラメント糸は、多種多様な織物に使用される。それらは、製造された糸に必要なフィラメントの数に対応する多数の孔を有する紡糸口金を通して溶融ポリマーを溶融紡糸することにより製造される。溶融ポリマーが固化を開始した後、糸を延伸してポリマー分子を配向させ、糸の特性を改善することができる。
【0004】
連続フィラメント糸はまた、セルロースジアセテートおよびセルローストリアセテートなどのセルロース誘導体から、乾燥紡糸により紡糸することができる。このポリマーを適当な溶媒に溶解した後、紡糸口金を通して押し出す。溶剤は、押出後に急速に蒸発し、ポリマーを、糸を形成するフィラメントの形態で沈殿させる。新しく作られた糸は、ポリマー分子を配向させるために延伸されてもよい。
【0005】
連続フィラメント糸は、ビスコースプロセスを用いてセルロースから製造することもできる。セルロースは水酸化ナトリウムや二硫化炭素との反応によりセルロースキサントヘートに変換された後、水酸化ナトリウム溶液中で溶解する。一般にビスコースと呼ばれるセルロース溶液は、紡糸口金を通して酸浴に押し出される。水酸化ナトリウムが中和され、セルロースが沈殿する。同時に、セルロースキサントヘートは酸との反応により再びセルロースに変換される。新しく形成されたフィラメントは、セルロース分子を配向させるために引き出され、フィラメントから反応物質を除去するために洗浄された後、乾燥され、ボビンに巻かれる。このプロセスの初期のバージョンでは、湿った糸は、遠心ワインダ‐トップハムボックスを用いてケーキに集められた。次いで、糸のケーキを、ボビンに巻き取る前にオーブンで乾燥させた。
【0006】
連続フィラメントセルロース糸もキュプロプロセスを用いて製造されている。セルロースは水酸化銅アンモニウムの溶液中に溶解する。得られた溶液は水浴中に押し出され、そこで水酸化銅アンモニウムが希釈され、セルロースが沈殿する。得られた糸は洗浄され、乾燥され、ボビンに巻かれる。
【0007】
ビスコースまたはキュプロプロセスのいずれかにより製造されたセルロース連続フィラメント糸は、織布または編物または他の織物形成プロセスにより織物にすることができる。製造されたファブリックは、アウタウェア用のライニング、レディースブラウス、トップ、ランジェリ、祈りの敷物など、さまざまな用途に使用されている。また、タイヤなどのゴム製品の補強にも使用するため、糸が生産されている。
【0008】
連続フィラメントセルロース糸から作られた布は、高い光沢を有することができる。それらは、着用者の快適性を高めるために、湿気の取り扱いに優れている。連続フィラメント合成糸を使用した布のように静電気を発生しにくくなっている。
【0009】
しかしながら、現在入手可能な連続フィラメントセルロース糸から作られた布は、一般に、物理的性質が劣る。ポリエステルなどの合成高分子を原料とした布に比べて乾燥強度や引裂き強度が劣る。湿潤強度はセルロースと水の相互作用により乾燥強度よりはるかに低い。耐摩耗性が低い。水との相互作用もセルロースを柔らかくし、糸から作られた織物を濡らすと不安定にする。
【0010】
これらの欠点により、元々連続フィラメントセルロース糸を用いて作られていた製品は、現在、主にポリエステルやナイロンなどの合成高分子連続フィラメント糸を用いて製造されている。
【0011】
しかし、合成糸はある種の欠点を示す。それを使って作られた布には、セルロースの糸から作られた布の水分処理能力はない。合成布は静電気を発生させる可能性がある。一部の人々は、布を含むセルロースと比較して、着るのにはるかに快適でない合成糸で作られた衣類を検討している。
【0012】
したがって、連続フィラメントセルロース糸から製造される現在利用可能な織物のプラスの特性を有するが、連続フィラメント合成糸を使用して製造される織物に通常関連する性能を有する織物および他の織物製品を製造することを可能にする連続フィラメントセルロース糸が必要とされている。
【0013】
驚くべきことに、リヨセルプロセスにより生成された連続フィラメント糸は、ビスコースプロセスにより生成されたフィラメント糸よりもかなり高い引張強さを有することが分かっている。これは、より良い強度、引裂き強度および耐摩耗性を有する織物をもたらし得る。リヨセルフィラメントが湿っているときの強さのロスは、ビスコースフィラメントよりもはるかに小さい。
【0014】
これは、より良い布安定性を与える湿潤時に、リヨセル布は変形しにくいことを意味する。リヨセル織物はまた、同等のビスコース織物と比較して、湿潤時に強力である。
【0015】
また、リヨセル連続フィラメントから製造された織物は、連続フィラメントビスコースおよびキュプロ織物の望ましい特性である、光沢、水分取り扱い特性および低静的発生を有し得ることが驚くべきことに見出された。
【0016】
リヨセル技術は、極性溶媒(例えば、n-メチルモルフォリンノキシド、以下、「アミン酸化物」と称する)中のセルロース木材パルプまたは他のセルロース系原料の直接溶解に基づいた技術であり、一連の有用なセルロース系材料に形成することができるビスコース高剪断薄化溶液を製造する。商業的には、繊維および不織布産業で広く使用されているセルロースステイプル繊維のファミリー(TENCELの商標でLenzing AG、Lenzing、オーストリアから市販されている)を製造するために使用される。フィラメント、フィルム、ケーシング、ビーズおよび不織布のようなリヨセル技術からの他のセルロース製品も開示されている。
【0017】
米国特許US6、241、927 B1は、セルロース繊維を製造する方法を開示している。米国特許US5、252、284は、スピニングノズルの出口と凝固溶液の表面との間の空隙のある最大長が規定されることを特徴とする成形セルロース物品を製造する方法を開示している。
【0018】
米国特許出願公開2005/0035487 A1号には、ブローイングによる冷却を有するスピニング装置および方法が開示されている。紡糸装置は、セルロース、水及び第三アミン酸化物を含む紡糸溶液等の成形材料から連続成形体を製造する装置である。この資料の教示は、押出しオリフィスの出口と凝固溶液の表面との間の空隙の領域に向けられる特定のガス流を提供することを目的とし、押出しの直後の空隙は、シールドゾーンと、シールドゾーンにより押出しオリフィスから分離された冷却領域とを含む。
【0019】
欧州特許出願公開第823945 B1号には、セルロース繊維の製造方法が開示されており、この方法は、リヨセルプロセスによるセルロース紡糸溶液の押出および凝固を含み、フィラメントを引き出し、フィラメントをセルロース繊維に切断するプロセスを必須に含んでおり、これは、様々な適用分野で使用することができる。凝固したセルロース繊維を引くプロセスステップは、特性の望ましいバランスを有する特定のステイプル繊維を得るために、この先端技術の教示に従い不可欠である。
【0020】
欧州特許出願公開第0 853 146 A2号は、セルロース系繊維の製造方法を開示している。この資料の教示によれば、繊維を得るために、分子量が大きく異なる2つの異なる原材料が混合されている。国際特許出願公開WO 98/06754号は、調製された溶液を混合して紡糸溶液を得る前に、2つの異なる原料を最初に別々に溶解することを必要とする同様の方法を開示している。独国特許出願DE 199 54 152 A1号は、繊維を調製する方法を開示し、ここで、比較的低い温度を有するスピニング溶液を採用する。
【0021】
リヨセル紡糸溶液から製造されたセルロースフィラメント糸の利点について述べられている(Kruger、Lenzinger Berichte 9/94、S。49 ff.)。しかしながら、紡糸効率に関する要求の増大により、リヨセルプロセスにおける紡糸速度を毎秒数百メートルの値まで増加させる試みがなされてきた。しかしながら、このような高い紡糸速度では、製造された個々のフィラメント中の欠陥の不満足な高い割合を含む種々の問題が発生する可能性があり、その結果、さらなる使用に適さない製品の高い割合がもたらされ、および/または生産の停止をもたらす可能性がある。
【0022】
したがって、フィラメント品質を維持しながら、必要とされる高いスピニング速度は、リヨセルフィラメントを形成するための従来技術のプロセスにより得られるフィラメントおよび糸品質が満足できるものではないので、商業的に実行可能なプロセスがまだ分からないという欠点を提示している。さらに、他のプロセス技術(ビスコース、合成フィラメント)からの繊維およびフィラメント製造に関する従来技術の教示は、押出後に直接高分子伸長と、続いて液交換による制御された溶媒除去との要求のために、リヨセルプロセスには適用できない。
【0023】
したがって、高速での連続フィラメントリヨセル糸の調製は、主にはるかに高い生産速度、フィラメント均一性要件および並外れた処理連続性の必要性のために、リヨセルステイプル繊維製造と比較して、新しい処理課題を提示する。
・ステイプル繊維製造の場合よりも10倍以上速いフィラメント製造速度が典型的であり、製造速度をさらに増加させる最近の要求は、プロセス制御の問題を増大させる。
・連続フィラメント糸製品では、すべての個々のフィラメントの特性は、例えば色素の取り込みの変動などの問題を防止するために、変動性の非常に狭いウィンドウになければならない。たとえば、密度分布の分散係数は5% 未満である必要がある。一方、ステイプル繊維プロセスでは、個々のフィラメント間のわずかなばらつきを「平均化する」ための余地がはるかにある。なぜなら、繊維の各ベールは、必要な長さに切断されて混ぜられたフィラメントから得られた数百万本の個々の繊維で構成されているからである。リヨセルステイプル繊維の形成の一例が、欧州特許EP 823 945 B1号に開示されている。
・伸長ステップ中のフィラメント破損を最小にするためには非常に高い純度レベルのスピニング溶液が必要である。破断は、個々のフィラメントの損失を招き、糸が要求された仕様に適合しなくなり、潜在的にスピニングの連続性が失われる可能性がある。ステイプル繊維製造プロセスは、個々のフィラメント破損の一定の割合に耐性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、本発明の目的は、全体的なプロセスを商業的に実現可能なものにするプロセス制御により、極めて高い生産速度で高品質のリヨセルフィラメント及びリヨセルマルチフィラメント糸の生産を可能にする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明は、請求項1に定義される方製造方法を提供する。好ましい実施形態は、請求項2~10および明細書に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による製造方法によるリヨセルフィラメントおよび糸の製造を可能にするために、あるパラメータウィンドウへのプロセス制御が不可欠である関連するプロセス要素の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
最先端技術の限界は、本明細書に開示される発明により克服された。すなわち、本発明は、請求項1に記載されたリヨセルフィラメントおよびリヨセルマルチフィラメント糸を製造する方法を提供する。本発明は、使用される関連するプロセスステップおよびパラメータに関連して、必要とされるプロセス制御を参照して詳細に説明される。理解されることであるが、これらのプロセスステップ及びそれらのそれぞれの好ましい実施態様は適宜組み合わせることができ、本出願はこれらの組み合わせをカバーし、ここで明示的に説明されていなくても同じことを開示する。
【0028】
本発明者らは、400m/分以上の生産速度に対して、所望のプロセス制御を可能にし、高品質のフィラメント及び糸の信頼できる生産を可能にすることを決定した。スピニング溶液がスピニングノズルを出た後に設けられた空隙が次の関係式(数式1)にしたがって調整されれば、0.8~7.0 dtex、好ましくは1.0~6.0 dtex、より好ましくは1.3~4.8 dtex、1.7~4.1 dtesの範囲のフィラメントタイターを達成することができる。
【0029】
【0030】
この関係式において、Lは空隙の長さ(mm)、vは生産速度m/分を示し、タイターは個々のフィラメントのタイター(dtex)を示し、pはスピナーレットに採用された個々のスピナーレットピースの長さ(mm)を示す。
【0031】
特定の好ましい実施形態において、満たされるべき関係は、以下のようになる(数式2)。ここで、Fは1.3以上である。
【0032】
【0033】
Fは、次元を含まない係数である。また、実施形態において、Fは、1.35以上または1.4以上であってもよく、上限は2.0、好ましくは1.7および最も好ましくは1.5である。一部の実施形態では、Fは、1.3~1.5、または1.3~1.4であってもよい。
【0034】
空隙のプロセスパラメータ長、紡糸ピースの長さ、個々のフィラメントのタイターおよび生産速度を上記にしたがって調整することにより、非常に高い生産速度が採用されているにもかかわらず、高い品質(特に満足できる低い欠陥の割合)を有するフィラメントおよび糸を確実に生産できるように、信頼性の高いプロセス制御が可能であることが予期せぬほど見出されている。したがって、本発明は、上記に提供された関係にしたがった関連するプロセス条件の調整が、リヨセル設備の生産サイズに対してさえも、信頼性のあるプロセス制御を提供するので、リヨセルフィラメント及び糸の生産のためのプロセス条件の評価を容易にする。これは、そうしたプロセス条件を評価するために別様に必要とされる時間及び資本を減少させる。
【0035】
(フィラメントの押出し)
リヨセル紡糸に関する一般に公知の要求事項にしたがって、各紡糸口金のノズル孔を通る紡糸溶液の流れの均一性および粘度は、プロセスをさらに進め、個々のセルロースフィラメント、さらにはマルチフィラメント糸に関する品質要求事項を満たすのに役立つ。これは、特に、フィラメント及びフィラメント糸生産のためにここで想定される非常に高い生産速度に鑑みて関連しており、それは、400m/分の範囲内及びそれ以上の範囲内にある。本発明によれば、400m/分の生産速度、例えば、500m/分以上、好ましくは、700m/分以上、さらには、1000m以上、例えば、2000m/分までの生産速度を達成することができる。適当な範囲は400~2000m/分、例えば500~1500m/分または700~1000m/分であり、例えば700~1500m/分の範囲を含む。
【0036】
リヨセル紡糸溶液の押出しに使用される各紡糸ピースは、連続フィラメント糸に必要とされるフィラメントの数に対応する多数のノズル孔を有する。複数の糸は、複数の紡糸口金ピースを組み合わせて単一の紡糸口金プレートにすることにより、単一のジェットから押し出すことができ、例えば、参照により本明細書に組み込まれている国際特許出願公開W003014429 A1号に開示されているようにする。これらの紡糸口金ピースは、原則として、多数のノズル孔を与える長方形又はほぼ長方形のピースである。本発明によれば、採用される紡糸口金の長さは、上記で特定された関係にしたがって、所望のプロセス制御のための関連要素である。一般に、紡糸口金の長さが30~100mm、好ましくは40~80mm、特に50~70mmの範囲内にある場合に好ましい。ここでいう長さとは、真の長方形ではなく、平行四辺形を形成している場合でも、紡糸ピースの2つのより長い辺(通常は等しい長さ)の長さである。
【0037】
各フィラメント糸のためのノズル穴の数(すなわち、各紡糸口金ピースのための)は、意図される糸の種類に応じて選択されてもよいが、その数は、典型的には、10~300、好ましくは20~200、例えば30~150の範囲である。
【0038】
紡糸溶液の流れの均一性は、紡糸口金および個々のノズルに良好な温度制御を提供することにより改善され得る。スピニング中に、ノズル(およびノズル間)の温度のばらつきができるだけ小さく、±2℃以内であることが好ましい。これは、一連の異なるゾーンの紡糸口金および個々のノズルに直接加熱を提供し、紡糸溶液の温度のあらゆる局所的な差を補償し、各紡糸口金ノズルから押出される際の紡糸溶液の温度の正確な制御を可能にする手段を介して達成されてもよい。このような温度制御手段の例は、参照により本明細書に組み込まれている国際特許出願公開WO 02/072929号および国際特許出願公開WO 01/81662号に開示されている。
【0039】
スピンナーレットノズル形状は、好ましくは、圧力降下を最小限に抑えながら、ノズルを通るスピンニング溶液のスムーズな加速を最大化するように設計される。ノズルの主要な設計上の特徴は、限定されるものではないが、滑らかな入口表面およびノズル出口における鋭いエッジを含む。
【0040】
(初期冷却)
スピニングノズルを出た後、個々のフィラメントは、典型的には気流を用いて、冷却プロセスに供される。したがって、好ましくは、空隙で制御されたクロスドラフトを使用することにより、このステップでフィラメントを冷却することが好ましい。繊維の品質に有害な影響を与えることなく所望の冷却効果を得るために、エアドラフトは制御された湿度を持つべきである。適切な湿度値は、当業者に知られている。いずれにせよ、本発明は、フィラメントの初期押出し後に空隙を提供し、その長さは、上記で特定された他のプロセスパラメータにより決定される。しかしながら、本発明の好ましい実施形態によれば、空隙の長さはせいぜい200mmであり、せいぜい150mmでより好ましい。これらの好ましい実施の形態によれば、空隙の長さを制限することにより、全体的に良好なプロセス安定性が確保され、ここで想定される非常に高い生産速度においても、高品質のフィラメント及び糸が得られることが分かっている。特に、個々のフィラメントが移動して接触するため、フィラメントの融合や製品の品質不良につながるため、非常に大きな空隙がむしろ問題につながることが分かっている。
【0041】
したがって、本発明は、空隙の長さに関連して、非常に高速で所望のフィラメントタイターの製造を可能にするプロセス条件を調節する手段を提供する。
【0042】
任意選択のクロスドラフトの構成は、参照により本明細書に組み込まれている国際特許出願公開W003014436 A1号を参照することができる。この資料は、適切なクロスドラフトの構成を開示する。空隙の全長にわたって均一なフィラメント冷却が好ましい。
【0043】
クロスドラフト速度は、好ましくは、リヨセルステイプル繊維の製造に使用されるよりもはるかに低い。適当な値は0.5~3m/秒、好ましくは1~2m/秒である。湿度の値は、エアkg当たり0.5~10gの水、例えばエアkg当たり2~5gの水の範囲であり得る。エア温度は、好ましくは20℃未満のような、25℃未満の値に制御される。
【0044】
(フィラメントの初期凝固)
紡糸口金ノズルから出て、空隙で冷却された後、生成されたフィラメントは、さらに凝固を開始するために処理されなければならない。これは、個々のフィラメントをスピニングバスまたはスピンバスとも呼ばれる凝固バスに入ることにより達成される。高い製品品質の均一性を達成するために、このフィラメントのさらなる初期凝固は、好ましくは小さなウィンドウで、すなわち、好ましくは正確に同じ点で、わずかなばらつきしかない、小さなウィンドウで行われることが分かっている。
【0045】
伝統的なスピンバス設計は、しばしば、高いフィラメント速度(約400m/分以上)による流体力が浴表面を乱し、潜在的なフィラメント融合および他の損傷と同様に、不均一な初期凝固(および可変空隙サイズ)をもたらすため、この目的には適さないことが分かっている。このような問題の場合には、50mm未満の深さを有する浅いスピン浴を用いることが好ましいと判断されている。
【0046】
このようなスピンバスは、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願公開W003014432 A1号に開示され、これは、5~40mm、好ましくは5~30mm、より好ましくは10~20mmの範囲の浅いスピンバス深さを開示する。このような浅いスピン浴を使用することにより、スピン浴中の凝固溶液とのスパンフィラメントの接触点を制御することが可能となり、これにより、従来のスピン浴深さを使用する際に生じ得る問題を回避することができる。
【0047】
さらに、スピン浴中のアミン酸化物の濃度を、典型的にはリヨセル繊維製造において使用されるよりも小さい値に制御すれば、フィラメント品質を改善することもできることが分かっている。25重量%未満、より好ましくは20重量%未満、さらにより好ましくは15重量%未満のスピンバス濃度は、フィラメント品質を改善することが見出されている。アミン酸化物濃度の好ましい範囲は、5~25重量%、例えば8~20重量%または10~15重量%である。これは、リヨセルステイプル繊維製造について開示された範囲を著しく下回る。このような低アミン酸化物濃度の維持を可能にするためには、スピンバスの組成の連続モニタリングが好ましく、そのために、例えば、濃度の調整は、水を補給することにより、及び/又は過剰なアミン酸化物を選択的に除去することにより行われてもよい。
【0048】
このスピンバスの温度は、典型的には、5~30℃の範囲であり、好ましくは8~16℃である。
【0049】
紡糸溶液について上記に開示された好ましい実施形態と同様に、高ストリンジェンシーの紡糸浴液濾過が可能であり、紡糸浴の望ましくない固体不純物による新たに形成された傾向のあるフィラメントの損傷の可能性を最小限にする。これは、700m/分を超える非常に高い生産速度では特に重要である。
【0050】
紡糸浴では、ターゲット最終糸の個々のフィラメントが一緒になって、紡糸浴からの出口の手段により初期のマルチフィラメント束に束ねられ、これは典型的にはリング状出口であり、フィラメントを一緒にもたらし、フィラメント束と一緒に浴を出る紡糸浴溶液の量を制御する役割も果たす。適切な配置は、当業者に知られている。リング状出口のための材料の選択と同様に形状は、フィラメントの少なくとも一部がリング状出口と接触しているので、フィラメント束に加えられる張力に影響を及ぼす。フィラメント束への何らかのマイナスの影響を最小限に抑えるために、当業者は、それらの出口のための適切な材料および形状を認識するであろう。
【0051】
したがって、本発明による製造方法の好ましい実施形態では、この方法は、10~15重量%、好ましくは12~14重量%のセルロースを含む、リヨセルプロセスに適した紡糸溶液の製造プロセスを含み、セルロースは、好ましくは、以下に記載される通りである。さらに、本製造方法は、押出ノズルを通る温度の変動性を±2℃以下の範囲内に維持しつつ、押出ノズルを通る紡糸溶液の押出ステップを含む。このようにして生成されたフィラメントは、上述のように初期冷却に供され、続いて、このようにして得られたフィラメントの初期凝固が、50mm未満、好ましくは5~40mm、より好ましくは10~20mmの深さを有する凝固浴(スピンバス)で起こる。
【0052】
この凝固浴に使用される凝固液の組成は、23重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらにより好ましくは15重量%以下のアミン酸化物の濃度を示す。このアミン酸化物の含有量の調整は、アミン酸化物の選択的除去および/または真水を補給して濃度を好ましい範囲に調整することにより達成されてもよい。
【0053】
このようなプロセスは、高い品質、特に高い均一性を有するフィラメントを確実に得ることができ、これは、特に、均一な凝固、したがって均一なフィラメント特性を確実にする方法で凝固浴に入る。加えて、上述したプロセスの実施形態では、後述するように、標準的なリヨセルステイプル繊維製造プロセスと比較して、例えば、より広いノズル分離を採用することにより、押出しの際の個々のフィラメント間の距離を調整することが好ましい。これらの好ましいプロセスパラメータおよび条件は、本明細書に示すように、均一性の高いリヨセルフィラメントの製造を可能にすると同時に、所望の高いプロセス速度(400m/分以上、より好ましくは500m/分以上、および700m/分以上の高さの実施形態)も可能にする。この文脈において、本発明は、さらに、上述のように、プロセスパラメータおよび条件として、セルロースリヨセルフィラメントおよび対応する糸の連続的かつ長期的な生産を可能にし、フィラメントの破損またはフィラメント欠陥などを回避し、これは、フィラメントの停止および糸の生産、またはフィラメント/糸の生産物の排出を必要とするであろう。
【0054】
高速フィラメント糸製造の要求から、リヨセル紡糸溶液のレオロジー特性は重要である。例えば、ステイプル繊維製造のために公知のスピニング溶液組成物を使用する場合、許容できない数のフィラメント破損に遭遇する。セルロース原料の広い分子量分布を使用することは、本発明による高速製造の要求を満たすことが見出された。特に好ましい広分子量分布セルロース材料は、450~700ml/gの範囲の走査ビスコースを有するセルロース5~30重量%、好ましくは10~25重量%と、300~450ml/gの範囲の走査ビスコースを有する70~95重量%、好ましくは75~90重量%のセルロースとを混合して得られる混合物であり、ここで、2つのフラクションは、40ml/g以上、好ましくは100ml/g以上の走査ビスコースの差を有する。走査ビスコースは、キュプリエチレンジアミン溶液中のSCAN-CM 15:99にしたがって決定される。この方法は、当業者に知られており、psl-rheotekから入手可能な装置Auto PulpIVA PSLRheotekのような市販の装置で実施することができる方法である。
【0055】
このような(例えば、木材パルプからの)セルロース原料を得るために、異なるタイプの出発材料の要求される分子多分散性混合物を使用することができる。最適な混合比は、各混合成分の実際の分子量、フィラメント生産条件およびフィラメント糸の具体的な製品要件に依存する。あるいは、必要なセルロース多分散性は、例えば、木材パルプの製造中に、乾燥前の混合を介して得ることもできる。これは、リヨセル製造中のパルプストックを注意深く監視し、混合する必要性を取り除くであろう。
【0056】
紡糸溶液中のセルロースの全体の含有量は、典型的には10~20重量%、好ましくは10~16重量%、例えば12~14重量%である。当業者は、リヨセルプロセスのためのスピニング溶液に必要な構成要素を認識しているため、構成要素および一般的な生産方法についての更なる詳細な説明はここでは必要ではないと見なされる。この点の引用は、本明細書に参考として組み込まれている米国特許US 5,589,125、国際特許出願公開WO 96/18760号、国際特許出願公開WO 02/18682号および国際特許出願公開WO 93/19230号に対してなされる。
【0057】
本発明にしたがったプロセスを更に制御するために、紡糸溶液の組成の均一性を保証するように、高レベルのプロセス監視及び制御を採用することが好ましい。これには、紡糸溶液組成/圧力/温度のインライン測定、粒子含有量のインライン測定、ジェット/ノズルの紡糸溶液温度分布のインライン測定及び定期的なオフラインクロスチェックが含まれ得る。
【0058】
大きな粒子の含有量は、形成されているときに個々のフィラメントの許容できない破断をもたらし得るので、本発明で使用されるリヨセル紡糸溶液の品質を改善することが必要とされる場合には、制御することがさらに好ましい。このような粒子の例は、砂などの不純物であるが、十分に溶解していないセルロースを含むゲル粒子でもある。このような固体不純物の含有量を最小化する一つの選択肢はフィルタプロセスである。スピニング溶液の多段ろ過は固体不純物を最小にする最適な方法である。より微細なフィラメントタイターには、より大きなフィルターストリンジが必要であることを当業者は理解するであろう。典型的には、例えば、20ミクロン付近の絶対阻止能を有する深度ろ過は、1.3デシテックスフィラメントに対して有効であることが分かっている。より微細なフィラメントデシテックスには、15ミクロンの絶対阻止能が好ましい。フィルタリングを実施するための装置及びプロセスパラメータは、当業者に知られている。
【0059】
さらに、剪断速度1.2(1/秒)で測定したスピニング溶液のビスコースを500~1350Pa・秒の範囲に調整するのに適していることが分かった。110℃のとき(1/秒)
【0060】
その調製中の紡糸溶液の温度は、典型的には、105~120℃、好ましくは105~115℃の範囲である。実際の紡糸/押出しの前に、所望により濾過後に、当業者に知られているプロセスおよび装置を用いて、溶液をより高温に加熱し、典型的には115~135℃、好ましくは120~130℃である。このプロセスは、濾過プロセスと共に、紡糸ノズルを通した押出しに適した紡糸溶液(時には紡糸塊と呼ばれる)を提供するために、その初期調製後の紡糸溶液の均一性を向上させる。この紡糸溶液は、好ましくは、押出/紡糸の前に、110℃から135℃、好ましくは115℃から135℃の温度にもたらされ、このプロセスは、中間の冷却および加熱段階、ならびに焼戻し段階(紡糸溶液が所定の温度に一定の時間保持される段階)を含み得る。このようなプロセスは、当業者には知られている。
【0061】
(フィラメント伸長)
紡糸浴から出た後、典型的には、洗濯、乾燥及び巻取りのような後続の処理段階に向かって最終糸を生じさせる束を導く誘導ローラにより、マルチフィラメント束が取り上げられる。このプロセスの間、好ましくは、フィラメント束の張力による引張りは生じない。回転浴からの出口と誘導ローラとの接触との間の距離は、必要に応じて選択することができ、例えば、100~400mmのように、40~750mmの距離が適していることが示されている。このプロセスステップは、製品品質を制御し、影響するためのさらなる選択肢を提供できることが分かってきた。このプロセスでは、例えばフィラメント結晶構造を調整することができ、それにより、リヨセル連続フィラメント糸の望ましい特性を達成することができる。上述のように、導出可能な形態として、請求項1の文言から導き出せるように、このプロセスの成功は、上述の関係にしたがったプロセス条件の調整と密接に結びついていることが分かっている。
【0062】
上述したように、ガイダンスローラのような手段がフィラメントを取り上げ、同じように集めて初期糸を形成し、このようにして得られた糸を更なる処理プロセスに向けてガイドする。本発明によれば、案内ローラとのフィラメント束(糸)の接触点においてフィラメント束に加えられる最大張力は、(4.2×フィラメント数/フィラメントタイター)の0.69乗(cN)以下であることが好ましい。この張力とは、スピニングノズルからの出口点から第一接触点からの、例えば凝固プロセスの後に設けられたガイダンスローラで、フィラメント/フィラメント束に加えられる張力を意味する。上述の公式は、最大張力、例えば糸タイター80dtex(個別のフィラメントが1.33 dtexのタイターを有する60フィラメントのフィラメント束の場合)、最大張力は(4.2×60 : 1.33)の0.69乗であり、したがって、37.3cNであることを例示により定義する。
【0063】
このような規定された最大張力を維持することにより、フィラメント破損が確実に防止され、高品質の糸が得られるようにすることができる。さらに、これは、フィラメント生産プロセスが妨害なしに必要な時間実行できるようにするのに役立つ。当業者は、ここで言及される張力は、ETB-100において3ロール試験装置Schmidt-Zugspannungsmessgeratを用いることにより、全体のプロセスから採取されたサンプルを用いて測定される張力であることを理解するであろう。本明細書で言及される指定接触点におけるフィラメントおよびフィラメント束について測定される張力は、本発明の文脈においてここで開示されるプロセスパラメータを使用して、特に、紡糸溶液の組成、紡糸浴深さおよび紡糸浴液(凝固浴)組成、エアクロスドラフトならびにノズル設計およびノズル分離のような紡糸口金設計を調整して、張力値を上記に提供される式に適合する値に調整することにより、製品品質およびプロセス安定性を制御するために使用されてもよい。
【0064】
(フィラメント洗浄)
初期凝固および冷却後のフィラメントは依然としてアミン酸化物を含むので、得られるフィラメントおよび/または糸は、典型的には、洗浄に供される。アミン酸化物は、典型的には70~80℃で、脱塩水または他の適当な液体の向流を介して、新しく形成された糸から洗浄されてもよい。前述のプロセスと同様に、従来の洗浄技術、例えばトラフの使用は、約400m/分を超える高い生産速度に鑑みて問題を生じる可能性があることが分かっている。さらに、高品質の製品を得るために、各個々のフィラメントに洗浄液を均一に適用することが好ましい。同時に、フィラメントの完全性を維持するために、柔らかいフィラメントと洗浄面との間の最小限の接触が、目標の糸特性を達成するために好ましい。更に、個々のフィラメント糸は、互いに近くで洗浄されなければならず、実行可能なプロセス経済性を可能にするために、ライン長は最小化されるべきである。上記に鑑みて、好ましい洗浄プロセスは、単独で、または組み合わせて以下を含むことが判明した。
【0065】
洗浄は、一連の従動ローラを用いて行うことが好ましく、各糸は、一連の洗浄液含浸/液体除去プロセスに個々に供される。
【0066】
各洗浄含浸プロセスの後、柔らかいフィラメントを損傷することなく、各糸フィラメントから均一に液体を剥離または紡糸する手段を提供することが有益であることが判明している。これは、例えば、適切に設計され位置決めされたピンガイドを介して達成され得る。ピンガイドは、例えば、マットクロム仕上げで構成することができる。ガイドにより、フィラメント糸の間隔が近く(3mm前後)、フィラメントとの接触が良く、均一な液体除去と低張力が得られ、フィラメントの損傷を最小限に抑えることができる。
【0067】
任意に、フィラメントからの残留溶媒の除去効率を向上させるために、アルカリ洗浄プロセスを含むことができる。
【0068】
(最初のピンガイドの後の)使用済みの洗浄液は、通常、溶媒回収に戻る前に、10~30%、好ましくは18~20%のアミン酸化物の濃度を有する。
【0069】
さらなる加工を助けるために、「ソフト仕上げ」を適用することができる。種類および適用方法は、当業者には公知であろう。例えば、フィラメントに約1%の仕上げを施し、次いで、乾燥器への糸張力を制御するためのニップローラーを施す「リック-ローラ」構成が有効であることが分かっている。
【0070】
(糸乾燥)
再度、このステップの良好な制御は、最適な糸特性の開発を補助し、フィラメント損傷の可能性を最小化する。乾燥手段ならびに乾燥パラメータは、当業者には公知である。好ましい実施態様は、以下に定義される。
【0071】
乾燥器は例えば直径1m前後の12~30本の加熱ドラムで構成されている。個々の速度制御は、フィラメント張力が低く一定に保たれることを確実にするために好ましく、好ましくは10cN未満、好ましくは6cN未満である。乾燥による糸間の間隔は、2~6mm程度とすることができる。
【0072】
乾燥器の初期温度は150℃前後である。乾燥プロセスの後の段階では、乾燥が進行するにつれて、温度が低くなることがある。
【0073】
当業者に公知の手段により、乾燥後にフィラメント糸に帯電防止剤及び/又は柔らかい仕上げを施してもよい。
【0074】
更なる処理プロセス、例えば、テクスチャ加工又は糸を混ぜ合わせるプロセスは、乾燥後及び回収前に、当業者に公知のプロセスを用いて適用することができる。必要に応じて、上記の識別されたプロセスの前に、糸に柔らかい仕上げを施すことができる。
【0075】
(糸の回収)
糸は、標準的な巻き取り装置を使用して回収することができる。適した例としては、ワインダのバンクがある。ワインダ速度は、低い糸張力と一定の糸張力を維持するために、上流のプロセス速度を微調整するために使用される。
【0076】
当業者は、染料、抗菌製品、イオン交換器製品、活性炭素、ナノ粒子、ローション、難燃製品、超吸収剤、含浸剤、染料、仕上げ剤、架橋剤、接木剤、バインダー、およびそれらの混合物は、これらの添加物が紡糸プロセスを損なわない限り、紡糸溶液の調製中または洗濯ゾーンで添加することができることを理解するであろう。これにより、個々の製品要件を満たすために製造されるフィラメント及び糸を改質することができる。当業者は、リヨセルフィラメント糸製造プロセスのどのステップで、このような上述の参照材料を添加するかについて十分に認識している。この点に関し、通常、洗浄段階で追加されるであろう多くの望ましい改質物質は、ライン速度が速く、したがって滞留時間が短いため、フィラメント糸ルートでは有効でないことが判明した。これらの改質物質を導入するためには、完全に洗浄されたが乾燥しないフィラメント糸を回収し、滞留時間が制限要因とならない場合には、更なるプロセスバッチ毎にこれらを提出することが代替アプローチである。
【0077】
本発明に係るプロセスの関連部分の図解は、
図1を参照して説明される。
図1において、符号(p)は、紡糸ピースの長さを示し、符号(L)は、空隙の長さを示す。紡糸溶液を収容するリザーバ及び濾過プロセスのような任意の先行するプロセスは、
図1には示されていないが、当業者は、紡糸溶液が紡糸口金及び紡糸口金ピースにどのように進入するかを理解するであろう。符号(S)は沈殿又は凝固浴を示し、符号(v)は生産速度を示し、これは典型的には凝固浴後に取り上げられる分ごとのm(m/分)の糸として測定される。
【0078】
本明細書に記載のプロセスにしたがって、セルロースフィラメント、ならびにリヨセルフィラメントの束であるセルロース糸を製造することができる。生成されるフィラメントおよび糸の特性は、所望の最終用途のためのそれぞれの要件、例えば、フィラメント当たりのフィラメント数、フィラメントタイター、フィラメントおよび糸の他の特性と同様に総糸タイターなどにしたがって調節され得る。
【0079】
以下の例は、本発明を更に示す。
【0080】
65mmのリヨセルフィラメントの長さの紡糸口金ピースを用いて紡糸し、高い生産速度でリヨセル糸を製造した。生産セットの各グループにおいて、同一のスピニング溶液を採用した。
<グループ1>
[タイター1.3dtex /生産速度700m/分]
糸中のタイター1.3dtex /生産速度700m/分を1回目は空隙70mmで、2回目は空隙120mmで生成した。しかし、どちらの場合も、最初のセット(空隙70mm)に対する欠陥率は1kg糸当り13.3であったが、120mmのより長い空隙を使用すると、この欠陥率は0に落ちた。
<グループ2>
[タイター1.3dtex /生産速度700m/分]
異なるタイプのスピニング溶液を用いて、グループ1糸のセットと比較して、1回目は70mmの空隙で、2回目は95mmの空隙で製造した。しかし、どちらの場合も、最初のセット(空隙70mm)の欠陥率は7.2/kg糸であったが、95mmのより長い空隙を用いた場合、この欠陥率は1.9に低下した。
グループ1および2の結果は、プロセスパラメータを関係式(数式1)に調整すると、700m/分の非常に高い生産速度でリヨセルフィラメントおよび糸を生産することが可能であったことを示している。これらの結果は、さらに、プロセスパラメータを調整して、関係式(数式2)にも適合するようにすることにより、得られるフィラメントおよび糸の品質が大幅に改善され、欠陥率が非常に満足のいく値に低減され、特に、要求の高い適用分野での製造された材料の使用が可能になることを示している。
<グループ3>
[タイター1.3dtex]
製造速度600、700および900m/分で、最初の2つの製造速度に対して60mmの空隙で、3番目のセットに対して95mmの空隙で、糸を製造した。しかしながら、最初のセット(空隙60mm)の欠陥率が1kg糸あたり8であったのに対し、3つのケースすべてで、得たリヨセル糸は、空隙の長さを増加させずに、生産速度を700m/分に増加させると、この欠陥率は13.5に増加した。製造速度をさらに900m/分に増加させる一方で、空隙の長さを95mmに増加させると、欠陥率は1.9に低下した。
グループ3の結果は、プロセスパラメータを関係式(数式1)に調整すると、600~900m/分の非常に高い生産速度でリヨセルフィラメントおよび糸を生産することが可能であることを再び示している。これらの結果は、さらに、関係式(数式2)にも適合するようにプロセスパラメータを調整することにより、900m/分のような非常に高い値まで生産速度を増加させた場合でも欠陥率を減少させることができるので、得られるフィラメントおよび糸の品質が大幅に改善されることを示している。
<グループ4>
[空隙95 mm]
糸は、1回目は1.3dtexのタイター及び350m/分の生産速度で、2回目は4.1dtexのタイター及び400m/分の生産速度で生成した。最初のセットでは、遅い生産速度で、欠陥率は9.6であったが、2回目のセットでは、欠陥率は1.9に低下した。
グループ4の結果は、タイターの増加に伴う生産速度のわずかな増加が、本発明により定義された関係を満たすプロセス条件で結果をもたらし、その結果、高品質の糸が得られたことを示している。
<グループ5>
[タイター1.3dtex]
タイター1.3dtex及び700m/分の生産速度で、1回目は95mmの空隙で、2回目は120mmの空隙で糸を生産し、1回目のセットでは欠陥率は2であったが、2回目のセットでは欠陥率は0に落ちた。グループ5の結果は、再び、本発明にしたがった生産パラメータを選択することにより、適切な生産パラメータを見つけるための手間のかかる事前試行なしに、高品質繊維を生産することができることを示している。