(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】手術システム、手術支援ロボット及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20230411BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021562747
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045270
(87)【国際公開番号】W WO2021112229
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019220758
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 剛史
(72)【発明者】
【氏名】下村 信恭
(72)【発明者】
【氏名】一居 哲夫
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-34862(JP,A)
【文献】特表2019-522537(JP,A)
【文献】特表2016-512733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109851(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179629(WO,A1)
【文献】特表2015-502198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/00 ― 34/37
B25J 1/00 ― 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと、
前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するメモリを有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を直動変位可能量T0とし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの変位量を第1直動変位量T1とし、L≦T0の場合に、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
手術支援ロボット。
【請求項2】
前記制御装置は、前記体腔内長さL、前記第1直動変位量T1、前記遠隔中心から前記トロッカーの入口までの距離α、及び、前記遠隔中心から前記トロッカーの出口までの距離βの関係が、(L-β)≦T1≦(L+α)となるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項1に記載の手術支援ロボット。
【請求項3】
前記制御装置は、前記体腔内長さLと前記第1直動変位量T1の関係が、T1=Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項1に記載の手術支援ロボット。
【請求項4】
前記制御装置は、退避信号をトリガとして、前記アームの前記複数の回転関節の動きを拘束しつつ、前記直動関節を前記原点位置へ移動させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の手術支援ロボット。
【請求項5】
前記制御装置は、前記アームの前記複数の回転関節のうち少なくとも1つの回転関節の動作により、前記アームの遠位端部が前記シャフト部の前記軸方向と平行に移動する所定の変位量を第2直動変位量T2とし、L>T0の場合に、L、T1、及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の手術支援ロボット。
【請求項6】
前記第2直動変位量T2は前記第1直動変位量T1よりも小さい、
請求項5に記載の手術支援ロボット。
【請求項7】
前記制御装置は、退避信号をトリガとして、前記直動関節を前記原点位置へ移動させるとともに、前記体腔内長さLと前記第1直動変位量T1との差分だけ前記アームの遠位端部が前記軸方向と平行に前記トロッカーから離れる向きへ移動するように前記少なくとも1つの回転関節を動作させる、
請求項5又は6に記載の手術支援ロボット。
【請求項8】
前記制御装置は、L>T0の場合に、(T0+T2)≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項5~7のいずれか一項に記載の手術支援ロボット。
【請求項9】
手術支援ロボットの制御方法であって、
前記手術支援ロボットは、
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと
、
制御装置とを備え、
前記制御方法は、
前記制御装置が前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するステップと、
前記シャフト部が前記トロッカーに通され且つ前記ツール部が前記患者の体腔内に在るときに、前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を直動変位可能量T0とし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの変位量を第1直動変位量T1とし、L≦T0の場合に、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、
前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御するステップとを含む、
手術支援ロボットの制御方法。
【請求項10】
前記マニピュレータの動きを制御するステップにおいて、前記体腔内長さL、前記第1直動変位量T1、及び、前記遠隔中心から前記トロッカーの入口までの距離α、及び、前記遠隔中心から前記トロッカーの出口までの距離βの関係が、(L―β)≦T1≦(L+α)となるように、
前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項9に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項11】
前記マニピュレータの動きを制御するステップにおいて、前記体腔内長さLと前記第1直動変位量T1の関係が、T1=Lとなるように、
前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項9に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項12】
退避信号をトリガとして、前記アームの前記複数の回転関節の動きを拘束しつつ、前記直動関節を前記原点位置へ移動させる
ように、前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御するステップを、更に含む、
請求項9~11のいずれか一項に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項13】
前記アームの前記複数の回転関節のうち少なくとも1つの回転関節の動作により、前記アームの遠位端部が前記シャフト部の前記軸方向と平行に移動する所定の変位量を第2直動変位量T2とし、L>T0の場合に、L、T1、及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、
前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御するステップを含む、
請求項9~12のいずれか一項に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項14】
前記第2直動変位量T2は前記第1直動変位量T1よりも小さい、
請求項13に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項15】
前記制御装置が、退避信号をトリガとして、前記直動関節を前記原点位置へ移動させるとともに、前記体腔内長さLと前記第1直動変位量T1との差分だけ前記アームの遠位端部が前記軸方向と平行に前記トロッカーから離れる向きへ移動するように前記少なくとも1つの回転関節を動作させる
ように、前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御するステップを、更に含む、
請求項13又は14に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項16】
L>T0の場合に、(T0+T2)≧Lとなるように、
前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項13~15のいずれか一項に記載の手術支援ロボットの制御方法。
【請求項17】
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと、
前記手術器具を移動させるための操作を受け付ける操作入力具と、
前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するメモリを有し、前記操作入力具が受け付けた操作に基づいて前記手術器具が移動するように前記マニピュレータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を直動変位可能量T0とし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの変位量を第1直動変位量T1とし、L≦T0の場合に、前記操作入力具が受け付けた操作に基づいて、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
手術システム。
【請求項18】
前記制御装置は、前記アームの前記複数の回転関節のうち少なくとも1つの回転関節の動作により、前記アームの遠位端部が前記シャフト部の前記軸方向と平行に移動する所定の変位量を第2直動変位量T2とし、L>T0の場合に、L、T1、及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御する、
請求項17に記載の手術システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術支援ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低侵襲外科手術を行うためのロボット支援手術システムが知られている。ロボット支援手術システムは、一般に、手術器具及びそれを支持するマニピュレータを有する手術支援ロボット(スレーブデバイス)と、外科医が直接に操作するマスタデバイスと、マスタデバイスが受け付けた操作に対応して手術器具が動くように手術器具及びマニピュレータを制御する制御装置とを備える。特許文献1は、この種のロボット支援手術システムを開示する。
【0003】
特許文献1のロボット支援手術システムは、外科医用コンソールと、外科医用コンソールによって遠隔操作される患者側カート(手術支援ロボットの一例)とを備える。患者側カートは、複数のマニピュレータアームと、各マニピュレータアームの遠位端部に設けられた器具ホルダに交換可能に結合された手術器具とを備える。手術器具は、器具ホルダと結合されるベース部と、ベース部に接続された細長いシャフト部と、シャフト部の遠位端部に結合されたツール部とを備える。患者の体壁の低侵襲切開部にカニューレ(又はトロッカーのスリーブ)が留置され、シャフト部はカニューレに通され、ツール部はカニューレを通じて患者の体腔内へ挿入される。
【0004】
特許文献1には、ロボットによる手術中に、手術器具のシャフト部が遠隔中心の周りを枢動するように手術器具の動きが拘束されることが記載されている。遠隔中心は、低侵襲切開部の大きさを最小限に止めることができるように、低侵襲切開部(又はそこに留置されたカニューレ)又はその近傍に設定される。また、特許文献1のロボット支援手術システムでは、カニューレを用いて低侵襲切開部と遠隔中心とを位置合わせできるようにカニューレと手術器具とを一つのマニピュレータアームの器具ホルダで支持し、器具ホルダに沿って手術器具が直線的にスライドすることで遠隔中心を介して手術器具を患者の体腔内に挿入したり体腔外に抜いたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の手術支援ロボットにおいては、患者にはカニューレやトロッカースリーブといった管が3本乃至4本設置されている。各管に対応してそれを保持する器具ホルダが設けられている。このため施術部周辺が複数の器具ホルダで混雑して、手術中の補助者による作業の妨げになる、という問題があった。また、上記のような手術支援ロボットにおいて、手術中の緊急事態への対処の一つとして、体腔内に挿入されている手術器具のツール部を患者組織と接触しない位置へ退避させることが考え得る。このような退避動作は、迅速且つ確実に行われなければならない。
【0007】
そこで、本発明では、従来の手術支援ロボットよりも施術部周辺の作業空間を広く確保することができ、手術器具のツール部の体腔からの退避動作を迅速に行うことを可能とする手術支援ロボット及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
手術器具のツール部の退避位置の候補として、患者の体壁に留置されているトロッカーの内部が挙げられる。トロッカーの内部は患者の体腔内に在るツール部から最も近い退避位置となりうる。ツール部がトロッカー内部に収まることによって、患者組織とツール部との接触が防止される。
【0009】
また、上記のような手術支援ロボットでは、複数のマニピュレータ間で干渉が生じないように、各マニピュレータは冗長自由度を有する。そのため、手術器具が患者の体腔内へ挿脱される際に、単一の関節ではなく、複数の関節が動作し得る。しかし、手術器具のツール部が体腔から退避する方向へ移動する際には、トロッカーを通過するシャフト部の振れの抑制及び速度の追求から、マニピュレータでは単一の直動関節のみが動作することが望ましい。
【0010】
以上に鑑み、本発明の一態様に係る手術支援ロボットは、
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと、
前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するメモリを有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の体腔内長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を直動変位可能量T0とし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの変位量を第1直動変位量T1とし、L≦T0の場合に、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御することを特徴としている。
また、本発明の一態様に係る手術システムは、
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと、
前記手術器具を移動させるための操作を受け付ける操作入力具と、
前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するメモリを有し、前記操作入力具が受け付けた操作に基づいて前記手術器具が移動するように前記マニピュレータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を直動変位可能量T0とし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの変位量を第1直動変位量T1とし、L≦T0の場合に、前記操作入力具が受け付けた操作に基づいて、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の一態様に係る手術支援ロボットの制御方法は、
前記手術支援ロボットは、
近位端部に設けられたベース部、遠位端部に設けられたツール部、及び、前記ベース部と前記ツール部とを結ぶ方向を軸方向とし当該軸方向に延びるシャフト部を有する手術器具と、
前記手術器具の前記ベース部が装着される器具インターフェース、複数の回転関節を含むアーム、及び、前記器具インターフェースと前記アームの遠位端部とを連結する直動関節を有し、患者の体壁に留置されるトロッカーを保持せずに前記手術器具を支持するように構成されたマニピュレータと、
制御装置とを備え、
前記制御方法は、
前記制御装置が前記手術器具の運動の中心である遠隔中心を記憶するステップと、
前記シャフト部が前記トロッカーに通され且つ前記ツール部が前記患者の体腔内に在るときに、前記遠隔中心から前記手術器具の遠位端部までの前記手術器具の体腔内長さを体腔内長さLとし、前記直動関節の原点位置から現在位置までの前記軸方向と平行な直動変位量を第1直動変位量T1とし、前記直動関節の原点位置から終点位置までの変位量を前記軸方向と平行な直動変位可能量をT0とし、L≦T0の場合に、L及びT1の関係がT1≧Lとなるように、前記制御装置が前記マニピュレータの動きを制御するステップとを含むことを特徴としている。
【0012】
上記の手術システム、手術支援ロボット及びその制御方法によれば、マニピュレータの直動関節を原点位置へ復帰させる制御(退避制御)のみで、手術器具のツール部を患者の体腔から退避させることができる。
【0013】
上記の退避制御では、手術器具のシャフト部は軸方向と平行にのみ移動させることが可能である。このように、シャフト部が軸方向と平行にのみ移動することによれば、シャフト部の振れが抑制され、トロッカーとシャフト部との間にカジリが生じにくい。このように、シャフト部をトロッカーから滑らかに引き抜くことができるので、体壁にかかる負荷を低減することができる。
【0014】
また、上記構成の手術システム、手術支援ロボット及びその制御方法によれば、従来の手術支援ロボットのように手術器具を支持する器具ホルダにトロッカーが保持されていないので、複数の器具ホルダによる施術部周辺の混雑が緩和される。
【0015】
また、上記構成の手術システム及び手術支援ロボットにおいて、前記制御装置は、前記複数の回転関節のうち少なくとも1つの回転関節の動作による前記アームの遠位端部の前記軸方向と平行な所定の直動変位量を第2直動変位量T2とし、L>T0の場合に、L、T1,及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御するにしてもよい。
【0016】
また、上記構成の手術支援ロボットの制御方法において、前記複数の回転関節のうち少なくとも1つの回転関節の動作による前記アームの遠位端部の前記軸方向と平行な所定の直動変位量を第2直動変位量T2とし、L>T0の場合に、L、T1,及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、前記マニピュレータの動きを制御するステップを含むようにしてもよい。
【0017】
上記の手術システム、手術支援ロボット及びその制御方法によれば、マニピュレータの直動関節を原点位置へ復帰させるとともに必要に応じて少なくとも1つの回転関節を回転させる制御(退避制御)のみで、手術器具のツール部を患者の体腔から退避させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、手術システム又は手術支援ロボットにおいて、従来よりも施術部周辺の作業空間を広くすることができ、手術器具のツール部の体腔からの退避動作を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る手術支援ロボットを備える手術システムの全体的な構成を示す平面図である。
【
図3】
図3は、マニピュレータ及び手術器具の軸構成を示す図である。
【
図4】
図4は、変形例1に係る手術支援ロボットを備える手術システムの全体的な構成を示す平面図である。
【
図5】
図5は、変形例1に係る手術支援ロボットの側面図である。
【
図6】
図6は、変形例1に係る手術支援ロボットのマニピュレータ及び手術器具の軸構成を示す図である。
【
図7】
図7は、ポジショナ、マニピュレータ及び手術器具の駆動系統の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、手術システムの制御系統の構成を示す図である。
【
図9】
図9は、指令部(プロセッサ)の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、退避位置にある手術器具の様子を示す図である。
【
図11】
図11は、挿入位置にある手術器具の様子を示す図である。
【
図12】
図12は、挿入位置にある手術器具の別の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態に係る手術支援ロボット1Aを備える手術システム100の全体的な構成を示す平面図である。
図1に示す手術システム100は、患者側システムである手術支援ロボット1Aと、外科医側システムであるコンソール2とを備える。
【0021】
〔コンソール2〕
コンソール2は、外科医203から手術システム100に対する操作の入力を受け付ける装置である。コンソール2は、手術支援ロボット1Aを遠隔から操作するためのものであり、手術室内又は手術室外に設置される。コンソール2は、複数の操作入力具と、モニタ24と、コンソール制御装置25とを備える。複数の操作入力具は、操作用マニピュレータアーム21、操作ペダル22、タッチパネル式ディスプレイ、操作ボタン、操作レバー等のうち少なくとも1種類を含む。コンソール制御装置25は、手術器具4の一つである内視鏡29(
図8、参照)で撮影された画像をモニタ24に表示させる。外科医203は、モニタ24に映った患部(施術部位)を視認しながら、操作入力具を操る。コンソール制御装置25は、操作入力具が受け付けた操作の入力を取得し、それを有線又は無線を介して後述するロボット制御装置6へ伝達する。
【0022】
〔手術支援ロボット1A〕
手術支援ロボット1Aは、手術室内において患者201が横たわる手術台202の傍らに配置される。手術室内は滅菌された滅菌野である。
【0023】
図2は、手術支援ロボット1Aの側面図である。
図1及び2に示す手術支援ロボット1Aは、台車9と、台車9に支持されたポジショナ7と、ポジショナ7の遠位端部に連結されたプラットホーム5と、プラットホーム5に着脱可能に取り付けられた複数の患者側マニピュレータ(以下、単に「マニピュレータ3」という)と、各マニピュレータ3の遠位端部に装着された手術器具4と、ロボット制御装置6とを備える。上記の手術支援ロボット1Aでは、台車9から手術器具4までの要素が一連に繋がっている。本明細書では、上記一連の要素において、台車9へ向かう側の端部を「近位端部」と称し、その反対側の端部を「遠位端部」と称することとする。
【0024】
〔台車9〕
台車9は、台車本体91、前輪92、後輪93、及び、ハンドル94を備える。外科医203又は手術補助者は、ハンドル94を把持して台車9を操舵し、手術支援ロボット1Aを任意の位置まで移動させることができる。手術中の台車9は位置固定される。
【0025】
〔ポジショナ7〕
本実施の形態に係るポジショナ7は、7軸垂直多関節ロボットアームとして構成されている。ポジショナ7は、台車9に対してプラットホーム5の位置を3次元的に移動させる。但し、ポジショナ7の態様は本実施形態に限定されず、7軸以外の垂直多関節ロボットアーム、水平多関節ロボットアームなどがポジショナ7として採用されうる。
【0026】
ポジショナ7は、台車9に載置されたベース70と、連接された複数のポジショナリンク71~76とを備える。複数のポジショナリンク71~76は、ベース70に第1関節J71を介して旋回可能に連結された第1リンク71、第1リンク71に第2関節J72を介して揺動可能に連結された第2リンク72、第2リンク72に第3関節J73を介して揺動可能に連結された第3リンク73、第3リンク73に第4関節J74を介して旋回可能に連結された第4リンク74、第4リンク74に第5関節J75を介して揺動可能に連結された第5リンク75、第5リンク75に第6関節J76を介して旋回可能に連結された第6リンク76、及び、第6リンク76に第7関節J77を介して旋回可能に連結されたメカニカルインターフェース77を含む。メカニカルインターフェース77にはプラットホーム5が連結される。
【0027】
〔プラットホーム5〕
図1及び2に示すように、プラットホーム5は、複数のマニピュレータ3の拠点となるハブとしての機能を有する。本実施形態では、台車9、ポジショナ7及びプラットホーム5の組み合わせによって、複数のマニピュレータ3を移動可能に支持するマニピュレータ支持体が構成されている。
【0028】
プラットホーム5は、本体50と、本体50の近位端部に設けられたポジショナ連結部51と、本体50の遠位端部に設けられた複数のマニピュレータ連結部52とを備える。ポジショナ連結部51は、ポジショナ7のメカニカルインターフェース77と連結される。本体50は、或る長手方向を有し、長手方向を弦の延伸方向とするアーチ形状を呈する。複数のマニピュレータ連結部52は本体50の長手方向に分散して配置されている。本実施の形態においては4つのマニピュレータ連結部52が設けられている。各マニピュレータ連結部52にはマニピュレータ3の近位端部が着脱可能に連結される。
【0029】
〔患者側マニピュレータ3〕
複数のマニピュレータ3の各々は実質的に同一の構造を有する。
図3は、マニピュレータ3及び手術器具4の軸構成を示す図である。
図2及び
図3に示すように、マニピュレータ3は、近位端部に設けられた第1インターフェース31と、遠位端部に設けられた第2インターフェース36(器具インターフェース)と、第1インターフェース31と第2インターフェース36との間を繋ぐアーム30とを備える。第1インターフェース31は、プラットホーム5のマニピュレータ連結部52と連結される。複数のマニピュレータ3のうち1本の第2インターフェース36には、内視鏡29を備える手術器具4が連結される。また、複数のマニピュレータ3のうち少なくとも一本の第2インターフェース36には外科用の手術器具4が連結される。
【0030】
アーム30は、第1インターフェース31を有するベース80と、連接された複数のアームリンク81~86とを備える。複数のアームリンク81~86は、ベース80に第1関節J1を介して旋回可能に連結された第1リンク81、第1リンク81に第2関節J2を介して揺動可能に連結された第2リンク82、第2リンク82に第3関節J3を介して旋回可能に連結された第3リンク83、第3リンク83に第4関節J4を介して揺動可能に連結された第4リンク84、第4リンク84に第5関節J5を介して旋回可能に連結された第5リンク85、第5リンク85に第6関節J6を介して揺動可能に連結された第6リンク86を含む。第6リンク86には、第7関節J7を介して直動フレーム35が揺動可能に連結されている。
【0031】
直動フレーム35には、第8関節J8を介して第2インターフェース36が連結されている。第8関節J8は、直動フレーム35に対して第2インターフェース36を直動移動可能に連結する直動関節である。第8関節J8は、直動フレーム35に設けられたレール部61、レール部61に案内されて走行するスライダ部62を有する。スライダ部62は、第2インターフェース36と結合されている。
【0032】
〔手術器具4〕
手術器具4は、近位端部に設けられたベース部45、遠位端部に設けられたツール部48、及び、ベース部45とツール部48とを繋ぐシャフト部46を有する。シャフト部46とツール部48との間にはリスト部47が介在する。
【0033】
ベース部45は、マニピュレータ3の第2インターフェース36に着脱可能に装着される。シャフト部46は、細長く硬い筒状部材であって、或る軸方向A0に延びる。マニピュレータ3の第2インターフェース36に手術器具4が装着された状態では、レール部61の延伸方向と手術器具4の軸方向A0とが平行である。よって、スライダ部62がレール部61を走行することにより、手術器具4は直動フレーム35に対して軸方向A0に移動する。
【0034】
リスト部47は、少なくとも1つの手首関節を有する。
図3に例示された手術器具4のリスト部47は、第1手首リンク471、第2手首リンク472、シャフト部46と第1手首リンク471とを接続する第1手首関節J9、第1手首リンク471と第2手首リンク472とを接続する第2手首関節J10、及び、第2手首リンク472とツール部48とを接続する第3手首関節J11を有する。第1手首関節J9は、第1手首リンク471をベース部45に対し第1軸A9を中心として回転させる。第1軸A9は、シャフト部46の軸心を通り、手術器具4の軸方向A0と平行である。第2手首関節J10は、第2手首リンク472を第1手首リンク471に対し第2軸A10を中心として回転させる。第2軸A10は、第1軸A9と略直交する。第3手首関節J11は、ツール部48を第3軸A11を中心として回転させる。第3軸A11は、第1軸A9及び第2軸A10と略直交する。本実施形態に係るツール部48は鉗子であって、一対のジョー部材481を有する。ツール部48は、一対のジョー部材481を第3軸A11を中心に回転させるツール関節J12を有する。ツール関節J12によって、一対のジョー部材481が各々反対方向に回転することによって、鉗子のジョーが開閉する。
【0035】
〔手術支援ロボット1Aの変形例〕
図4は、変形例1に係る手術支援ロボット1Bを備える手術システム100の全体的な構成を示す平面図であり、
図5は、変形例1に係る手術支援ロボット1Bの側面図であり、
図6は、変形例1に係る手術支援ロボット1Bのマニピュレータ3及び手術器具4の軸構成を示す図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。
【0036】
図4~6に示すように、変形例1に係る手術支援ロボット1Bは、上記実施形態に係る手術支援ロボット1Aと同様に、台車9と、台車9に支持されたポジショナ7と、ポジショナ7の遠位端部に連結されたプラットホーム5と、プラットホーム5に着脱可能に取り付けられた複数のマニピュレータ3と、各マニピュレータ3の遠位端部に装着された手術器具4と、ロボット制御装置6とを備える。上記実施形態に係る手術支援ロボット1Aでは、複数のマニピュレータ3の基部がプラットホーム5の後面に接続されているのに対し、変形例1に係る手術支援ロボット1Bでは、複数のマニピュレータ3の基部がプラットホーム5の前面に接続されている点で相違する。なお、プラットホーム5の後面とは、
図1、2、4、5に示すように、手術支援ロボット1A,1Bの基準姿勢において、プラットホーム5のうち台車9のハンドル94がある方向を向いた面であり、プラットホーム5の前面とはプラットホーム5の後面と反対側を向いた面である。
【0037】
このように、手術支援ロボット1Aと変形例1に係る手術支援ロボット1Bとでは、複数のマニピュレータ3の第1リンク81のプラットホーム5に対する延伸方向が異なるため、
図6に示すように、第1リンク81、第2リンク82、及びこれらを接続する第2関節J2の基準的な姿勢が相違するが、この点を除いて変形例1に係る手術支援ロボット1Bのマニピュレータ3及び手術器具4の軸構成と手術支援ロボット1Aのマニピュレータ3及び手術器具4の軸構成とは実質的に同一である。
【0038】
〔手術支援ロボット1A,1Bの駆動系統の構成〕
図7は、ポジショナ7、マニピュレータ3及び手術器具4の駆動系統の構成を示す図である。なお、
図7では、1本の手術器具4についての駆動系統の構成が示されており、他の手術器具4についての駆動系統の構成は省略されている。
【0039】
図1~6、及び
図7に示すように、ポジショナ7は、各関節J71~J77に対応する関節駆動装置D71~D77を有する。関節駆動装置D71~D77の動作はロボット制御装置6によって制御される。
【0040】
マニピュレータ3は、各関節J1~J8に対応する関節駆動装置D1~D8を有する。第8関節J8の関節駆動装置D8は、スライダ部62を駆動するスライダ駆動部である。関節駆動装置D1~D8の動作はロボット制御装置6によって制御される。なお、
図7では、1本のアーム30についての駆動系統の構成が示されており、他のアーム30についての駆動系統の構成は省略されている。
【0041】
手術器具4は、各関節J9~J12に対応する関節駆動装置D9~D12を有する。関節駆動装置D9~D12の動作はロボット制御装置6によって制御される。
【0042】
上記の通り、ポジショナ7、マニピュレータ3、及び手術器具4には、関節駆動装置Dn(n=1~12,71~77)が設けられている。関節駆動装置Dnは、サーボモータMn、回転角センサEn、減速機Rn、及び、動力伝達機構(図示略)を含む。回転角センサEnは、サーボモータMnの回転角を検出して、ロボット制御装置6へ伝達する。減速機Rnは、サーボモータMnの出力を減速してトルクを増幅させる。動力伝達機構は、サーボモータMnの出力を対応するリンク等へ伝達する。動力伝達機構は、複数のギア、伝動ワイヤ、伝動ベルト、又は、それらの組み合わせで構成されてよい。
【0043】
〔ロボット制御装置6〕
上記構成の手術支援ロボット1A,1Bは、ロボット制御装置6により動作制御される。本実施形態においてロボット制御装置6は、台車9の内部に設置されている。
図8は、手術システム100の制御系統の構成を示す図である。
図8に示すように、ロボット制御装置6は、指令部601と、制御部602とを備える。指令部601は動作の指令信号を生成し、制御部602は指令信号を受け取って動作の指令の通りにサーボモータMn(n=1~12,71~77)を動かす。動作の指令には、位置指令が含まれる。
【0044】
図9に示すように、指令部601は、プロセッサ461、ROM及びRAMなどのメモリ463、I/O部(入出力部)464、及びこれらを相互に接続する通信路を備える。指令部601には、インターフェース465を介して記憶装置462、ディスプレイ467、操作入力装置468、各種センサ、制御部602等が接続されている。
【0045】
指令部601は、集中制御を行う単独のプロセッサ461を備えてもよいし、分散制御を行う複数のプロセッサ461を備えてもよい。指令部601は、例えば、コンピュータ、パーソナルコンピュータ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、FPGA(field-programmable gate array)などのPLD(programmable logic device)、PLC(programmable logic controller)、及び、論理回路のうち少なくとも1つ、或いは、2つ以上の組み合わせで構成され得る。メモリ463や記憶装置462には、プロセッサ461が実行する基本プログラムやソフトウエアプログラム等が格納されている。プロセッサ461がプログラムを読み出して実行することによって、指令部601は当該ソフトウエアプログラムに構成された機能を実現する。
【0046】
また、指令部601のメモリ463又は記憶装置462には、手術器具4に関する情報、手術支援ロボット1A,1Bに関する情報、手術台202に関する情報、コンソール2に関する情報、及び、手術の内容に関する情報などの、ロボット支援手術及びその準備に必要な各種の情報が格納されている。
【0047】
図7に示すように、制御部602は、各サーボモータMnと対応付けられたサーボアンプCnを含む(但し、n=1~12,71~77)。サーボアンプCnは、図示されない増幅回路や変換機等を介してサーボモータMnと電気的に接続されている。サーボアンプCnは、動作の指令に対応する関節Jnの駆動電流を求め、サーボモータMnへ駆動電流を供給することにより、サーボモータMnを動かす。
【0048】
上記構成において、指令部601は、手術支援ロボット1A,1Bに搭載された操作入力装置468からプラットホーム5の位置及び姿勢に関する操作の入力を取得する。指令部601は、回転角センサE71~E77で検出されたモータ回転角に基づいて各関節J71~J77の位置情報及び回転角情報を得て、プラットホーム5が目標の位置及び姿勢となるようなポジショナ7の各関節J71~J77の位置及び速度を求め、この位置及び姿勢に基づいて取得した操作の入力に応答する位置指令を生成する。生成した位置指令は制御部602(サーボアンプC71~C77)へ伝達される。位置指令を取得した制御部602は、モータ回転角及び位置指令に基づいて駆動指令値を生成し、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM71~M77へ供給する。これにより関節駆動装置D71~D77が作動して関節J71~J77が動かされて、プラットホーム5が操作に応答した位置及び姿勢となる。
【0049】
また、指令部601は、コンソール制御装置25から手術器具4の位置及び姿勢に関する操作の入力を取得する。指令部601は、回転角センサE1~E12で検出されたモータ回転角に基づいて各関節J1~J12の位置情報及び回転角情報を得て、手術器具4のツール部48が目標の位置及び姿勢となるような各関節J1~J12の位置及び回転角を求め、この位置及び回転角に基づいて取得した操作の入力に応答する位置指令を生成する。生成した位置指令は制御部602(サーボアンプC1~C12)へ伝達される。位置指令を取得した制御部602は、モータ回転角及び位置指令に基づいて駆動指令値を生成し、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM1~M12へ供給する。これにより関節駆動装置D1~D12が作動して関節J1~J12が動かされて、手術器具4のツール部48が操作に応答した位置及び姿勢となる。
【0050】
〔手術支援ロボット1A,1Bの制御方法〕
手術中の手術支援ロボット1A,1Bでは、原則としてポジショナ7が静止した状態で、コンソール2に入力された操作に応答して、マニピュレータ3及び手術器具4の関節J1~J12が動作し、手術器具4のツール部48の位置及び姿勢が変化する。
【0051】
手術の前に、手術支援ロボット1A,1Bの台車9が手術台202の近傍まで運ばれ、ポジショナ7及び各マニピュレータ3が所定のプリセット位置まで展開される。そして、マニピュレータ3の第2インターフェース36に教示具(図示略)が連結される。教示具は、手術器具4を模したものであり、手術器具4と同様に第2インターフェース36と連結されるインターフェースを有する。教示具は、手術支援ロボット1A,1Bに遠隔中心RCを教示するためのものである。オペレータは、教示具が装着されたマニピュレータ3に外力を与えて(或いは、操作入力装置468を介してマニピュレータ3を操作して)教示具を教示させたい位置へ移動させる。ロボット制御装置6は、回転角センサE1~E12で検出されたモータ回転角に基づいて各関節J1~J12の位置情報及び回転角情報を得て、加えて教示具の特性情報などを利用して教示具に規定された教示点の位置を求める。ロボット制御装置6は、教示点の位置を利用して遠隔中心RCの位置を求めてメモリ463に記憶する。遠隔中心RCは、手術器具4の運動の中心であって、通常、患者201の体壁204に留置されたトロッカー200の入口200in又はその近傍に設定される。トロッカー200は、患者201の体壁204に留置されて手術用ポートを形成する筒菅状のものである。トロッカー200は手術器具4が挿通されるスリーブを有する。トロッカー200に代えて、カニューレ、スリーブ、チューブなどの筒菅状のものが用いられてよい。このようにして、手術の前にロボット制御装置6に遠隔中心RCが教示される。
【0052】
図10は、体腔205からの退避位置にある手術器具4の様子を示す図である。
図10に示すように、手術器具4の遠位端部が退避点EPに位置するとき、ツール部48の全体がトロッカー200の内部に位置するか、又は、その一部分又は全体がトロッカー200から体外側へ抜け出しており、ツール部48が患者201の体腔205に存在しない。上記のような退避点EPは、患者201の体壁204に留置されたトロッカー200の内部に設定される。退避点EPは、トロッカー200の入口200in又は出口200outに設定されてもよいが、入口200inと出口200outとの間に設定されることが望ましい。退避点EPは、遠隔中心RCと同じ位置に設定されてもよい。ロボット制御装置6は、遠隔中心RCの位置に基づいて退避点EPを設定し記憶してもよい。
【0053】
図11は、挿入位置にある手術器具4の様子を示す図である。
図11に示す手術器具4は、シャフト部46がトロッカー200に通され、ツール部48は患者201の体腔205内に在る。遠隔中心RCからトロッカー200の入口200inまでの距離を距離αと規定する。なお、トロッカー200の図示しない基準線に合わせてトロッカー200を患者に配置した場合は、αを定数とすることができる。また、トロッカー200の種類に応じてαの値は変化する。また、遠隔中心RCからトロッカー200の出口200outまでの距離を距離βと規定する。なお、トロッカー200の図示しない基準線に合わせてトロッカー200を患者に配置した場合は、βを定数とすることができる。
【0054】
手術器具4のツール部48が患者201の体腔205内に在る状態において、遠隔中心RCから手術器具4の遠位端(即ち、ツール部48の遠位端)までの長さを、手術器具4の「体腔内長さL」と称する。手術器具4の体腔内長さLは、外科医203がコンソール2の操作用マニピュレータアーム21を用いて入力した操作に基づいて定まる。
【0055】
手術器具4をトロッカー200を通して体腔205へ挿脱する際には、シャフト部46、リスト部47及びツール部48が一直線状となる姿勢(以下、基準姿勢)とされる。体腔内長さLに含まれるリスト部47の長さは、手術器具4が基準姿勢であるときのリスト部47の軸方向A0の長さとする。この長さは、リスト部47の中心軸を通る長さとほぼ等しい。また、体腔内長さLに含まれるツール部48の長さは、手術器具4が基準姿勢であるときのツール部48の軸方向A0の長さとする。つまり、リスト部47及びツール部48の現在の姿勢に関わらず、仮想的に手術器具4が基準姿勢であるものとして手術器具4の体腔内長さLが演算される。
【0056】
本実施形態では、第2インターフェース36の位置及び姿勢と、遠隔中心RCの位置と、手術器具4の外形情報とに基づいて、手術器具4の体腔内長さLを求め得る。手術器具4の外形情報には、例えば、ベース部45の大きさ、シャフト部46の長さ、リスト部47のリンク長、及び、ツール部48のジョー部材481の長さが含まれる。第2インターフェース36の位置及び姿勢は、回転角センサE1~E8で検出される回転角とマニピュレータ3の外形情報とに基づいて求め得る。但し、手術器具4の体腔内長さLの算出方法は上記に限定されない。
【0057】
マニピュレータ3の第8関節J8には予め原点位置S0と終点位置Seとが規定されている。原点位置S0はレール部61の近位端又はその近傍に規定される。終点位置Seは、レール部61の遠位端又はその近傍に規定される。現在のスライダ部62の走行位置を「現在位置Sc」と称する。第8関節J8の原点位置S0から終点位置Seまでの軸方向A0と平行な変位量を、第8関節J8の「直動変位可能量T0」と称する。第8関節J8の原点位置S0から現在位置Scまでの軸方向A0と平行な変位量を、第8関節J8の「第1直動変位量T1」と称する。
【0058】
手術中において、手術器具4の体腔内長さLが直動変位可能量T0以下の場合、第8関節J8による第1直動変位量T1は、手術器具4の体腔内長さLと同一又は所定の関係となるように維持される。ロボット制御装置6は、手術器具4の体腔内長さLと第8関節J8の第1直動変位量T1の関係が、T1=Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御する。具体的には、ロボット制御装置6は、体腔内長さLと第1直動変位量T1とが等しくなるように、第8関節J8を動作させる。同時に、ロボット制御装置6は、ツール部48の位置及び姿勢が指令と対応するように、マニピュレータ3の第8関節J8を除く関節J1~J7及び手術器具4の関節J9~J12を動作させる。即ち、操作用マニピュレータアーム21による手術器具4の遠位端の軸方向A0の移動指令に対して、第8関節J8の直動変位のみで指令された位置に手術器具4の遠位端を移動可能な場合、ロボット制御装置6は、マニピュレータ3の複数の回転関節J1~J7を使用せずに第8関節J8のみを使用して手術器具4を軸方向A0に移動させる。
【0059】
ロボット制御装置6は、手術器具4の患者201の体腔205からの退避制御を、与えられた退避信号をトリガとして行う。退避信号は、マニピュレータ3の退避操作具63の操作によって生じさせることができる。退避操作具63は、手術支援ロボット1A,1Bのマニピュレータ3にそれぞれ設けられている(
図2,8、参照)。退避操作具63は、例えば、ボタン、レバー、ペダルなどの単純な操作具であってよい。
【0060】
手術中に退避操作具63が操作されると、退避信号がロボット制御装置6へ与えられる。ロボット制御装置6は、退避信号を取得すると直ちに退避制御を行う。具体的には、ロボット制御装置6は、マニピュレータ3の関節J1~J7の位置及び回転角を保持したまま、スライダ部62が現在位置Scから原点位置S0まで移動(復帰)するように、第8関節J8を動作させる。同時に、ロボット制御装置6は、手術器具4が基準姿勢となるように、手術器具4の手首関節J9~J11及びツール関節J12を必要に応じて動作させる。
【0061】
上記の退避制御により、
図10に示すように、手術器具4のシャフト部46はトロッカー200から軸方向A0と平行に引き抜かれて、手術器具4の遠位端部は退避点EPに到達する。その結果、手術器具4のツール部48は患者201の体腔205から退避した状態となる。
【0062】
以上に説明したように、本実施形態の手術支援ロボット1A,1Bは、手術器具4と、患者201の体壁204に留置されるトロッカー200を保持せずに手術器具4を支持するマニピュレータ3と、ロボット制御装置6とを備える。手術器具4は、近位端部に設けられたベース部45、遠位端部に設けられたツール部48、及び、ベース部45とツール部48とを結ぶ方向をA0軸方向とし当該軸方向A0に延びるシャフト部46を有する。マニピュレータ3は、ベース部45が装着される器具インターフェース36、複数の回転関節(第1関節J1~第7関節J7)を含むアーム30、及び、器具インターフェース36とアーム30とを連結する直動関節(第8関節J8)を有する。
【0063】
上記構成の手術支援ロボット1A,1Bにおいて、ロボット制御装置6は、遠隔中心RCを記憶する。更に、ロボット制御装置6は、シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さLと直動関節(第8関節J8)による第1直動変位量T1との関係が、T1=Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御する。手術器具4の体腔内長さLは、遠隔中心RCから手術器具4の遠位端部までの長さを表す。直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1は、直動関節(第8関節J8)の原点位置S0から現在位置Scまでの軸方向A0と平行な変位量を表す。直動関節(第8関節J8)の直動変位可能量T0は、直動関節(第8関節J8)の原点位置S0から終点位置Seまでの軸方向A0と平行な変位量を表す。
【0064】
また、本実施形態に係る手術支援ロボット1A,1Bの制御方法は、
手術器具4の運動の中心である遠隔中心RCを記憶するステップと、
シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さLと直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1との関係が、T1=Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御するステップとを含む。
【0065】
上記実施形態では、退避制御において手術器具4のツール部48の遠位端部は退避点EPまで移動するが、ツール部48の遠位端部は退避点EPを超えて体外側へ移動してもよい。このような観点から、上記のロボット制御装置6は、シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さLと、直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1との関係がT1≧Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御してもよい。
【0066】
同様に、手術支援ロボット1A,1Bの制御方法は、
手術器具4の運動の中心である遠隔中心RCを記憶するステップと、
シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さLと、直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1との関係がT1≧Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御するステップとを含んでいてもよい。
【0067】
上記の手術支援ロボット1A,1B及びその制御方法において、ツール部48の遠位端部がトロッカー200の入口200inを大きく超えて体外側へ移動してしまうと、ツール部48に付着した体液が飛散したり、次にツール部48をトロッカー200に挿入する作業が煩雑となったりするおそれがある。このような観点から、上記のロボット制御装置6は、シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さL、直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1、遠隔中心RCからトロッカー200の入口200inまでの距離α、及び、遠隔中心RCからトロッカー200の出口200outまでの距離βの関係が、(L―β)≦T1≦(L+α)となるように、マニピュレータ3の動きを制御してもよい。
【0068】
同様に、手術支援ロボット1A,1Bの制御方法は、
手術器具4の運動の中心である遠隔中心RCを記憶するステップと、
シャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔205内に在るときに、手術器具4の体腔内長さL、直動関節(第8関節J8)の第1直動変位量T1、遠隔中心RCからトロッカー200の入口200inまでの距離α、及び、遠隔中心RCからトロッカー200の出口200outまでの距離βの関係が、(L-β)≦T1≦(L+α)となるように、マニピュレータ3の動きを制御するステップとを含んでいてもよい。
【0069】
上記において、第1直動変位量T1は(L-β)以上(L+α)以下の範囲で変動が許容されてもよいし、第1直動変位量T1が(L―β)以上(L+α)以下の所定の値に制御されてもよい。
【0070】
上記手術支援ロボット1A,1B及びその制御方法によれば、マニピュレータ3の直動関節(第8関節J8)の直動変位可能量T0が手術器具4の体腔内長さLと等しい又はそれ以上であるので、マニピュレータ3の直動関節(第8関節J8)を原点位置S0へ復帰させる制御(退避制御)のみで、手術器具4のツール部48を患者201の体腔205からトロッカー200内へ退避させることができる。
【0071】
上記の退避制御では、手術器具4のシャフト部46は軸方向A0と平行にしか移動しない。よって、シャフト部46の振れが抑制され、トロッカー200とシャフト部46との間にカジリが生じにくい。このように、シャフト部46をトロッカー200から滑らかに引き抜くことができるので、患者201の体壁204にかかる負荷を低減することができる。
【0072】
上記の退避制御では、マニピュレータ3の第8関節J8を除いた、ポジショナ7及びマニピュレータ3の残り全ての関節J71~J77,J1~J7の動作が拘束され、マニピュレータ3の第8関節J8の関節駆動装置D8のみが動作する。第8関節J8に限らずマニピュレータ3の関節J1~J8を動かすことによっても手術器具4を体腔205から引き抜くことは可能である。しかし、退避制御では、動かす関節が第8関節J8に制限され、更に、第8関節J8の目標位置が現在位置Scに関わらず原点位置S0となるので、ロボット制御装置6が行う演算処理は単純となり、迅速な動作が期待できる。
【0073】
更に、上記構成の手術支援ロボット1A,1B及びその制御方法によれば、手術器具4を支持しているマニピュレータ3は、トロッカー200から独立している。よって、マニピュレータ3は、トロッカー200に拘束されることなく動くことができる。これにより、マニピュレータ3の設計の自由度を高めることができる。また、緊急時にマニピュレータ3を患者から退避させる場合に、トロッカー200をマニピュレータ3から取り外す必要がなく、迅速にマニピュレータ3を患者から退避させることができる。
【0074】
また、上記構成の手術支援ロボット1A,1B及びその制御方法によれば、従来の手術支援ロボットのように手術器具4を支持する器具ホルダにトロッカー200が保持されていないので、複数の器具ホルダによる施術部周辺の混雑が緩和される。手術器具4が最深部まで挿入されても、直動関節(第8関節J8)及びマニピュレータ3と患者201とが干渉せず、直動関節(第8関節J8)及びマニピュレータ3と患者201とが干渉しない距離を維持することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る手術支援ロボット1A,1Bにおいて、ロボット制御装置6は、退避信号をトリガとして、マニピュレータ3のアーム30の複数の関節J1~J7の動きを拘束しつつ、直動関節(第8関節J8)を原点位置S0へ移動させるように構成されている。
【0076】
同様に、本実施形態に係る手術支援ロボット1A,1Bの制御方法は、退避信号をトリガとして、マニピュレータ3のアーム30の複数の関節J1~J7の動きを拘束しつつ、直動関節(第8関節J8)を原点位置S0へ移動させるステップを含む。
【0077】
上記手術支援ロボット1A,1B及びその制御方法によれば、ロボット制御装置6に退避信号を与えることによって、ロボット制御装置6に退避制御を行わせることができる。前述の通り、上記構成の手術支援ロボット1A,1Bでは、手術器具4を患者201の体腔205から退避させる動作を迅速且つ確実に行うことができる。このような退避制御は、手術器具4の患者201の体腔205への挿脱時のみならず、緊急時に手術器具4を体腔205から退避させる制御として有用である。
【0078】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。
【0079】
例えば、上記実施形態では、手術器具4のツール部48は鉗子であるが、ツール部48の態様はこれに限定されない。ツール部48は、動作する関節を有する器具、及び、関節を有しない器具を含む群より選択されたいずれか一つであってよい。動作する関節を有する器具には、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、及び、クリップアプライヤー等が含まれる。関節を有しない器具には、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、及び、吸引オリフィス等が含まれる。
【0080】
また、例えば、上記実施形態では、マニピュレータ3は直動関節である第8関節J8を含む8つの関節(制御軸)を有するが、マニピュレータ3が備える関節の数は上記に限定されない。
【0081】
また、例えば、上記実施形態では、第8関節J8は一段の直動機構から構成されている。但し、第8関節J8が多段の直動機構から構成され、各段の変位量の合計が第1直動変位量T1にとなるように第8関節J8の動作が制御されてもよい。
【0082】
上記実施形態では、手術器具4の体腔内長さLが直動変位可能量T0以下の場合(L≦T0)について、ロボット制御装置6による直動関節である第8関節J8の動作制御について説明した。このように単一の関節が動作することによれば、トロッカー200を通過するシャフト部46の振れの抑制及び速度の追求することができる点で優れている。一方、手術器具4の体腔内長さLが直動変位可能量T0よりも長い場合(L>T0)のロボット制御装置6によるマニピュレータ3の動作制御について以下に説明する。
【0083】
図12に示すように、マニピュレータ3の第8関節J8を除く回転関節J1~J7のうち少なくとも1つによって、手術器具4の遠位端部が軸方向A0と平行に直動変位可能な量を「第2直動変位量T2」と称する。但し、第2直動変位量T2は、厳密に直線運動の変位量に限定されない。回転関節J1~J7の各々は、回転中心の周りを回転移動するが、その回転量が僅かである場合には、遠隔中心RCを通過する手術器具4の部分は概ね直線状に移動し得る。第2直動変位量T2は、マニピュレータ3の第8関節J8を除く回転関節J1~J7のうち6つの回転関節によって行われることが直動変位の直線性を高めるうえで好ましい。
【0084】
第2直動変位量T2は、手術器具4の体腔内長さLと直動変位可能量T0の差分の長さに応じて変動する値であってよい。第2直動変位量T2は、退避処理における迅速な退避動作を実現するという観点から、好ましくは第1直動変位量T1よりも小さな値とされる。
【0085】
上記のように、ロボット制御装置6は、手術器具4のシャフト部46がトロッカー200に通され且つツール部48が患者201の体腔内に在るときに、遠隔中心RCから手術器具4の遠位端部までの手術器具4の体腔内長さを体腔内長さLとし、マニピュレータ3の直動関節J8の原点位置から現在位置までの軸方向A0と平行な直動変位量を第1直動変位量T1とし、マニピュレータ3の複数の回転関節J1~J7のうち少なくとも1つの回転関節によるアーム30の遠位端部の軸方向A0と平行な所定の直動変位量を第2直動変位量T2と規定したときに、L、T1、及びT2の関係が(T1+T2)≧Lとなるように、マニピュレータ3の動きを制御してもよい。即ち、操作用マニピュレータアーム21による手術器具4の遠位端の軸方向A0の移動指令に対して、第8関節J8の直動変位のみでは移動量が不足して指令された位置に手術器具4の遠位端を移動できない場合には、ロボット制御装置6は、第8関節J8とマニピュレータ3の複数の回転関節J1~J7の少なくとも1つを使用して手術器具4を軸方向A0に移動させることができる。
【0086】
このようにマニピュレータ3が制御されている間に退避操作具63が操作されると、退避信号がロボット制御装置6へ与えられる。ロボット制御装置6は、退避信号を取得すると直ちに退避制御を行う。具体的には、ロボット制御装置6は、手術器具4の遠位端部を退避点EPへ移動させるために、スライダ部62が現在位置Scから原点位置S0まで移動(復帰)するように第8関節J8を動作させるとともに、マニピュレータ3の関節J1~J7のうちの複数の関節を動作させる。同時に、ロボット制御装置6は、手術器具4が基準姿勢となるように、手術器具4の手首関節J9~J11及びツール関節J12を必要に応じて動作させる。このような退避制御によって、手術器具4のシャフト部46はトロッカー200から軸方向A0と平行に引き抜かれて、手術器具4の遠位端部は退避点EPに到達させることができる。
【0087】
上記の退避処理において、体腔内長さLが直動変位可能量T0よりも小さいときには、回転関節J1~J7は静止し第8関節J8のみが優先的に動作するように、マニピュレータ3が制御されることが望ましい。また、体腔内長さLが直動変位可能量T0よりも大きい場合(L>T0)は、第1直動変位量T1は好ましくは直動変位可能量T0であり、ロボット制御装置6は、T2≧(L-T0)となるように、マニピュレータ3の動きを制御してよい。
【0088】
また、退避動作において直動関節J8に加えて少なくとも1つの回転関節J1~J7が許容される場合、ロボット制御装置6は、直動関節である第8関節J8を原点位置へ移動させるとともに、体腔内長さLと直動変位可能量T0との差分だけアーム30の遠位端部が軸方向A0と平行にトロッカー200から離れる向きへ移動するように回転関節J1~J7のうちの複数の関節を動作させてよい。このとき回転関節J1~J7のうちの6つを動作させることが退避動作の直線性を高めるうえ好ましい。このように、直動関節J8を回転関節J1~J7に対して優先的に動作させることにより、より迅速な手術器具4の引き抜きを行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
1A,1B :手術支援ロボット
2 :コンソール
3 :患者側マニピュレータ
4 :手術器具
6 :ロボット制御装置
30 :アーム
36 :第2インターフェース(器具インターフェース)
45 :ベース部
46 :シャフト部
47 :リスト部
48 :ツール部
200:トロッカー
201:患者
204:体壁
205:体腔
A0 :軸方向
J1~J7 :第1~7関節(回転関節)
J8 :第8関節(直動関節)
S0 :原点位置
Sc :現在位置
T1 :第1直動変位量
T2 :第2直動変位量
α :距離
β :距離
L :体腔内長さ