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特許7260691乳化組成物、水中油型(O/W型)乳化組成物、及び化粧料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】乳化組成物、水中油型(O/W型)乳化組成物、及び化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/04 20060101AFI20230411BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20230411BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K8/04
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/73
A61K8/891
A61K8/92
A61Q19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022070778
(22)【出願日】2022-04-22
【審査請求日】2022-09-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 兼司
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222594(JP,A)
【文献】特開2020-125563(JP,A)
【文献】特開2021-195350(JP,A)
【文献】特開2021-116298(JP,A)
【文献】特開2009-095253(JP,A)
【文献】特開2014-221724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール、第1の水性媒体、マイクロバイオマス、及び油溶性物質を含有する乳化組成物であって、
前記マイクロバイオマスが、セルロース、シルク、キチン、又は、キトサンのいずれかであり、
前記油溶性物質の含有量が20質量%以上であり、
前記マイクロバイオマスのメジアン径が5~40μmであり、比表面積が5~100m/gであり、
D相中油型(O/D型)である乳化組成物。
【請求項2】
前記マイクロバイオマスがマイクロバイオマス粒子及び/又はマイクロバイオマスファイバーである請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記油溶性物質が飽和炭化水素系オイル、シリコーン系オイル及び植物性油脂の少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
請求項に記載の乳化組成物と第2の水性媒体とを含有する水中油型(O/W型)乳化組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の乳化組成物、又は、請求項4に記載の水中油型(O/W型)乳化組成物を含む化粧料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化組成物、水中油型(O/W型)乳化組成物、及び化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加工食品、嗜好食品、健康食品といった各種食品、化粧品、医薬品、塗料、調理・調味料、各種飲料、飼料等の多くの製品において、乳化組成物(エマルション)が利用されている。これらの乳化組成物を含む製品では、品質の安定性を高めるために、油剤に対して安定な乳化能が求められる。乳化組成物の製造方法としては種々の方法が知られている。その中でも、微細な油滴の乳化組成物が得られるD(Detergent=界面活性剤)相乳化法が注目されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0003】
D相乳化法は、まず乳化剤を多価アルコール又は多価アルコール水溶液に溶解し、これに油相を添加して乳化することにより乳化組成物を製造する。次いで、この乳化組成物を水性媒体で希釈することにより微細なエマルションを得る方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-59545号公報
【文献】特開2000-102356号公報
【文献】特開2000-83624号公報
【文献】特開2004-290104号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fragrance Journal,4,34-41(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献2には、D相中にHLBが6~16の乳化剤を含むD相中油型(O/D型)乳化組成物に卵、酢及び油を加えて得られる水相中油型エマルション(マヨネーズ)が開示されている。そして、当該エマルションは、HLBが6~16の乳化剤を卵、酢および油と単に混合して得られる水相中油型エマルション(マヨネーズ)よりも安定性が高いことが記載されている。特許文献4には、D相中にHLBが11~16の乳化剤を含むD相中油型(O/D型)乳化組成物は、酸性食品中でも油滴が安定であることが記載されている。また、特許文献3の実施例2には、D相中にモノステアリン酸ジグリセリンエステル(HLB7.6)とジステアリン酸デカグリセリンエステル(HLB11.7)を含むD相中油型(O/D型)乳化組成物を含む全卵液は、冷凍しても安定であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、これらのD相中油型(O/D型)乳化組成物は、これを水性媒体と混合して得られる水相中油型(O/W型)エマルションの油滴の安定性、なかでも加温状態における油滴の安定性の点において、まだ満足すべきものとは言い難い。また、今後の製品の多様化に対応すべく、種々の油溶性物質に対して分散性の高い乳化組成物が得られれば汎用性の観点から好ましいが、そのような実用性の高い乳化組成物は未だ見出されていない。
【0008】
そこで、本発明は、種々の油溶性物質を用いた場合でもエマルションの分散性が良好な乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような状況に鑑み鋭意検討した結果、高濃度の油溶性物質を含有させる際に、多価アルコールとマイクロバイオマスとを組み合わせることで、安定性が高い微細な油滴を与える乳化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] 多価アルコール、第1の水性媒体、マイクロバイオマス、及び油溶性物質を含有する乳化組成物であって、前記油溶性物質の含有量が20質量%以上であり、前記マイクロバイオマスのメジアン径が5~40μmであり、比表面積が5~100m/gである乳化組成物。
[2] D相中油型(O/D型)である[1]に記載の乳化組成物。
[3] 前記マイクロバイオマスがマイクロバイオマス粒子及び/又はマイクロバイオマスファイバーである[1]又は[2]に記載の乳化組成物。
[4] 前記油溶性物質が飽和炭化水素系オイル、シリコーン系オイル及び植物性油脂の少なくともいずれかである[1]~[3]のいずれかに記載の乳化組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の乳化組成物と第2の水性媒体とを含有する水中油型(O/W型)乳化組成物。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の乳化組成物、又は、[5]に記載の水中油型(O/W型)乳化組成物を含む化粧料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、種々の油溶性物質を用いた場合でもエマルションの分散性が良好な乳化組成物を提供することができる。
特に、本発明の乳化組成物がD相中油型(O/D型)乳化組成物である場合、水性媒体でさらに希釈した際に油滴の安定性に優れたエマルションを与えるので、食品、医薬品、化粧品等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[乳化組成物]
本発明の一実施形態(本実施形態)に係る乳化組成物は、多価アルコール、第1の水性媒体、マイクロバイオマス、及び油溶性物質を含有する。本実施形態において、上記油溶性物質の含有量は20質量%以上であり、上記マイクロバイオマスのメジアン径は5~40μmで、比表面積は5~100m/gである。
【0013】
マイクロバイオマスとは、バイオマス由来で大きさがマイクロオーダーである、例えば、粒子及び/又はファイバーである。これらのメジアン径が5~40μmであることで、乳化組成物とした際に、乳化組成物の作製工程でのマイクロバイオマスの分散性を安定させることができ、メジアン径が5~40μmのマイクロバイオマスは、乳化組成物に良好な触感も付与することができる。
また、上記の通り、マイクロバイオマスの比表面積は5~100m/gであるが、この比表面積が5未満であると、マイクロバイオマスの沈殿が発生してしまう。比表面積が100m/gを超えてしまうと、粘性が上昇し、分散工程での追加工程や後工程でのハンドリング性に影響してしまう。比表面積が5~100m/gであることで、粒子表面のみがより繊維化し毛羽立っている状態になると推察される。その結果、増粘させずに乳化組成物とした際の安定分散が可能になると考えられる。
【0014】
さらに、マイクロバイオマスは、バイオマス由来のため、そのネットワーク中に親水部と疎水部とが存在する。この両親媒性に起因して、多価アルコールと水性媒体とがバイオマスのネットワークに良好に保持された状態となり、20質量%以上という高濃度の油溶性物質の乳化安定性を向上させることができると推察される。
ここで、マイクロバイオマスの「マイクロ」とは、最大長である長軸と、当該長軸に垂直な最小長さの第1の短軸と、長軸及び第1の短軸に垂直な最小長さの第2の短軸のいずれかが、1~1000μmの大きさを有することをいう。
【0015】
本実施形態に係る乳化組成物は、マイクロバイオマスを含む多価アルコールと水性媒体、又は、マイクロバイオマスを含む多価アルコール水溶液に、油溶性物質を添加して攪拌することにより得ることができる。特に、マイクロバイオマスを含むことで、そのネットワーク中の多価アルコールによって油溶性物質が補足されやすくなる。その結果、従来の乳化剤とは異なり、加温状態だけではなく室温にてエマルションの分散性が良好な乳化組成物が得られやすくなる。
【0016】
本実施形態に係る乳化組成物は、マイクロバイオマスのネットワーク中に油溶性物質を効率よく補足する観点から、D相中油型(O/D型)であることが好ましい。
以下、各成分等について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(多価アルコール)
多価アルコールは、水溶性多価アルコールが用いることが好ましく、なかでも分子内に水酸基を3個以上有するものが好ましい。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンなどのポリグリセリン、グルコース、マルトース、マルチトール、ショ糖、フラクトース、キシリトール、イノシトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マルトトリオース、澱粉分解糖などの糖およびこれらの糖の還元アルコールなどが挙げられ、ポリグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。これらは、単独で用いても、2以上を組み合わせて使用してもよい。また、多価アルコールはそのまま用いても、水に溶解して50~99.9質量%程度の水溶液として用いてもよい。
【0018】
乳化組成物(特にD相中油型(O/D型)乳化組成物)に占める多価アルコールの割合は、7質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
(第1の水性媒体)
第1の水性媒体としては、水や極性を有する有機溶媒等を含む水溶液等が挙げられ、有機溶媒の濃度が低いことが望ましく、特に水が好ましい。乳化組成物(特にD相中油型(O/D型)乳化組成物)に占める第1の水性媒体の割合は、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、8.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
(マイクロバイオマス)
マイクロバイオマスとしては、マイクロバイオマス粒子及び/又はマイクロバイオマスファイバーであることが好ましい。これらは、乳化性能に優れており、種々の油溶性物質を用いた場合でも安定した乳化組成物を作ることができる。
【0021】
なお、マイクロバイオマスとしては、植物マイクロバイオマス及び動物マイクロバイオマス等が挙げられる。植物マイクロバイオマスとしては、セルロースが挙げられ、動物マイクロバイオマスとしては、シルク、キチン、キトサン等が挙げられる。マイクロバイオマスは、上記いずれも使用可能だが、化粧品用途を始めとした場合、生体への親和性を考慮すると、シルクやセルロースであることが好ましい。
【0022】
(1)マイクロバイオマス粒子
本実施形態に係るマイクロバイオマス粒子は、その粒度分布が単峰性を示すことが好ましい。この「粒度分布が単峰性を示す」とは、粒度分布が単分散の状態であって、マイクロバイオマス粒子の粒度分布のヒストグラムが一つの峰(ピーク)だけを示すことをいう。単峰性であることで、マイクロバイオマス粒子が繊維状でなく粒子状であるといえる。粒子状であることで、繊維状の場合のような絡まりが生じなくなり、分散液とした際に、繊維状の場合と比べて低粘度化が可能でハンドリング性を良好にすることができる。
マイクロバイオマス粒子の粒度分布は、後述の実施例に記載の方法で測定することが好ましく、測定する際の粒径範囲は0.1~500μmであることが好ましい。
【0023】
マイクロバイオマス粒子の粒度分布のメジアン径は、既述のとおり、5~40μmであるが、5~35μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、5~25μmであることがより好ましい。
【0024】
また、既述の単峰性のピークの半値幅は1~70μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、1~15μmであることがさらに好ましく、中でも、1~9μmが好ましく、1~7μmがより好ましい。半値幅が1~70μmという狭い範囲にあることで、粒径が揃っていることがいえ、組成物へ均一分散させやすくなる。
なお、半値幅は、粒度分布曲線において、頻度分布の最大頻度の高さ(単峰性のピークトップ)の半分の高さにおける幅として測り求めることができる。
【0025】
本実施形態に係るマイクロバイオマス粒子の比表面積は、既述のとおり5~100m/gであるが、15~100m/gであることが好ましく、40~100m/gであることがより好ましく、60~100m/gであることがより好ましい。
なお、マイクロバイオマス粒子及び後述のマイクロバイオマスファイバーといったマイクロバイオマスの比表面積は、後述の実施例に記載の方法により測定して求めることができる。
【0026】
本実施形態に係るマイクロバイオマス粒子は、下記のようにして製造することができる。すなわち、当該製造方法は、マイクロバイオマス粒子原料を含む原料分散流体を80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行う高圧噴射処理工程を含み、該高圧噴射処理工程において、得られるマイクロバイオマス粒子の粒度分布のメジアン径が5~40μmとなるまで高圧噴射処理を行う。
以下、マイクロバイオマス粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0027】
まず、マイクロバイオマス粒子原料を含む原料分散流体となる、水に分散させたセルロース粒子原料のスラリーを調製する。マイクロバイオマス粒子原料は、例えば、セルロースを機械粉砕して得られる繊維であり、当該セルロースとしては、結晶形がI型のセルロース(セルロースI型結晶構造)である木材パルプ等が用いられる。セルロースI型結晶構造は、分子量および結晶化度が低下しているセルロースII型よりも分子鎖が切断されにくく、また、耐熱性も高い。
【0028】
マイクロバイオマス粒子原料を機械粉砕する方法としては、パルプをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミルなどを用いて、フィブリル化または微細化することで機械粉砕する方法が知られている。
【0029】
本実施形態においては、原料分散流体は、直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、80~245MPaの噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することで得られたものであることが好ましい。この解繊手法は、高速水噴流によるせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法で、ウォータージェット法(WJ法)という。そして、この手法によれば、市販されている高圧ホモジナイザーのように、原料分散流体を所定の圧力と速度で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した連続処理が可能である。
【0030】
本実施形態においては、80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行い、当該処理で得られるマイクロバイオマス粒子の粒度分布のメジアン径が5~40μmとなるまで高圧噴射処理を行うことで、本実施形態のマイクロバイオマス粒子が得られる。
【0031】
ここで、マイクロバイオマス粒子がセルロース粒子である場合、その粒度分布のメジアン径を5~40μmとするには、圧力を80~245MPaとすることが好ましく、80~220MPaとすることがより好ましく、80~200MPaとすることがさらに好ましい。また、得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径を5~40μmとするために、上記圧力範囲で高圧噴射処理を1回行うことを1パスとして、好ましくは1~15パス、より好ましくは1~10パスの繰り返し処理を行う。
【0032】
なお、高圧噴射の圧力を高くする場合は、パス回数を少なくし、圧力を低くする場合はパス回数を多くすることが好ましい。例えば、150MPaの場合はパス回数を3~10回、200MPaの場合はパス回数を1~3回(好ましくは1回程度)とし、セルロース粒子のメジアン径を5~40μmとすれば、本実施形態のマイクロバイオマス粒子が効率よく得られる。また、このように圧力及び/又はパス数を調整することで、既述のメジアン径、比表面積、半値幅等も所望の範囲に調整することができる。
【0033】
さらに、WJ法では、最大で40質量%の高濃度の原料分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することができるため、固形分当たりの処理量を飛躍的に向上させることができる。その結果、低コスト・環境低負荷・高効率でのマイクロバイオマス粒子を得ることができる。
【0034】
(2)マイクロバイオマスファイバー
本実施形態に係るマイクロバイオマスファイバーは、その平均繊維径が0.1~20μmであり、平均繊維長さが200μm以上である繊維状をなすセルロースをいう。
本実施形態に係るマイクロバイオマスが、マイクロバイオマスファイバーであることで、ナノファイバーよりも粘度を低い状態でファイバー形状を保つことが可能であり、また分散性をナノファイバーよりも良好にすることができる。
なお、マイクロバイオマスファイバーの粒度分布についても、後述の実施例に記載の方法で測定することが好ましく、測定する際の粒径範囲は0.1~500μmであることが好ましい。
【0035】
マイクロバイオマスファイバーの上記粒度分布のメジアン径は、既述のとおり、5~40μmであるが、5~35μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、5~25μmであることがより好ましい。
【0036】
本実施形態に係るマイクロバイオマスファイバーの比表面積は、既述のとおり5~100m/gであるが、15~100m/gであることが好ましく、40~100m/gであることがより好ましく、60~100m2/gであることがより好ましい。
【0037】
ここで、本実施形態に係るマイクロバイオマスファイバーがセルロースファイバーである場合、結晶性セルロース由来のファイバー及び粉末セルロース由来のファイバーが好ましい。これらは、化学的安定性、熱的安定性の点で好ましい。
結晶性セルロース由来のファイバーとは、公知の結晶性セルロースを微細化処理し、マイクロファイバー化したものをいう。本実施形態で使用する結晶性セルロースとは、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを酸で部分的に解重合し、精製したものである。結晶性セルロースとしては、例えば、食品添加物公定書(第9版)に記載されたものが知られている。
【0038】
また、粉末セルロース由来のファイバーとは、公知の粉末セルロースを微細化処理し、マイクロファイバー化したものをいう。本実施形態で使用する粉末セルロースとは、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを処理した後、ヘミセルロース、リグニン等の非晶成分を残して精製し、機械的に粉砕したものである。粉末セルロースとしては、例えば、食品添加物公定書(第9版)に記載されたものが知られている。
【0039】
本実施形態に係るマイクロバイオマスファイバーは、ファイバーのネットワーク構造の保持やエマルションの安定化の観点から、その平均繊維径が0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。また、同様の観点から、マイクロバイオマスファイバーの平均繊維長さは、200μm以上であることが好ましく、200~500μmであることがより好ましい。特に、平均繊維長さが200~500μmであると、粘性の上昇が抑えられ、分散工程での追加工程や後工程でのハンドリング性への影響を小さくすることができる。
マイクロバイオマスファイバーの平均繊維径、平均繊維長さは、例えば、透過型電子顕微鏡観察により繊維の繊維径(繊維幅)及び長さをそれぞれ20個測定し、その平均値として求めることが可能である。
【0040】
また、マイクロバイオマスファイバーのアスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は、20~10000であることが好ましく、40~5000であることがより好ましく、100~1000であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態に係るマイクロバイオマスファイバーは、例えば、既述のWJ法で作製する際に、マイクロバイオマスファイバー原料を含む原料分散流体中の原料濃度を9質量%以下、好ましくは1~8質量%とする。原料濃度を比較的希薄とすることで、得られるマイクロバイオマスファイバーの比表面積を50~100m/gとし、かつ、メジアン径を5~40μmとすることができる。
【0042】
マイクロバイオマス粒子及びマイクロバイオマスファイバーといったマイクロバイオマスがセルロース(セルロース粒子及びセルロースファイバー)である場合は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶構造は、セルロースII型、III型、IV型結晶構造と比べ、低線膨張係数、高弾性率、高強度といった特性を出しやすくなる。また、製造時にセルロースII型は、天然セルロースを濃アルカリ水溶液で処理し、セルロースIII型は液体アンモニア処理を行い、セルロースIV型はグリセロール中での280℃の加熱処理を行う必要がある。一方で天然セルロースをそのまま活用できるセルロースI型は、他の結晶構造に比べて、環境負荷が低い。
なお、マイクロバイオマスの結晶構造は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
本実施形態のマイクロバイオマスは、マイクロバイオマス原料から種々の製造方法により製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊マイクロバイオマスであることが好ましい。機械解繊マイクロバイオマスは、セルロース等のマイクロバイオマス原料をビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0044】
他方、マイクロバイオマス原料を化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化する方法がある。例えば、TEMPO酸化のような化学修飾セルロースを用いると、微細化が促進されて所望の大きさが得らにくい。また、化学的処理の過程で含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。
【0045】
これに対し、機械解繊セルロースのような機械解繊マイクロバイオマスは、微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、マイクロバイオマスに何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。なお、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊セルロースは重合度の低下が起きにくい。
【0046】
ここで、機械解繊セルロースのような機械解繊マイクロバイオマスは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができるが、上記の少なくともいずれかで含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
【0047】
乳化組成物(特にD相中油型(O/D型)乳化組成物)に占めるマイクロバイオマスの割合は、水性媒体で希釈して水中油型(O/W型)エマルションとした際に油滴の粒子径を小さくする観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、エマルションの安定性の観点、及び食品や飲料に用いた場合の風味の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0048】
また、乳化組成物(特にD相中油型(O/D型)乳化組成物)において、マイクロバイオマスと油溶性物質との質量比(油溶性物質/マイクロバイオマス)は、エマルションの分散性とその安定性の観点から、50~1000であることが好ましく、100~450であることがより好ましく、100~350であることがさらに好ましい。
【0049】
(油溶性物質)
油溶性物質は、食品、飼料、化粧品、医薬品および工業等の分野で利用される任意の油溶性物質を用いることができ、例えば、脂肪酸、油脂、ワックス、炭化水素、シリコーン系オイル、高級アルコール、テルペン、精油、脂溶性ビタミン、油溶性薬物、油溶性色素等が挙げられる。
【0050】
脂肪酸は、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、12-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ヘキサデカトリエン酸、オクタデカトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラヘキサエン酸及びこれらの幾何異性体等が挙げられる。脂肪酸エステルは、ミリスチン酸エチル等上述の脂肪酸のエステル等が挙げられる。
【0051】
油脂は、脂肪酸のグリセリンエステルであり、上述の脂肪酸混合物のグリセリンエステルである。例えば、魚油、牛脂、豚脂、乳脂、馬油、蛇油、卵油、卵黄油、タートル油、ミンク油などの動物性油脂類;大豆油、とうもろこし油、綿実油、なたね油、ごま油、シソ油、こめ油、ひまわり油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、米胚芽油、小麦胚芽油、玄米胚芽油、ハトムギ油、ガーリックオイル、マカデミアンナッツ油、アボガド油、月見草油、フラワー油、つばき油、やし油、ひまし油、あまに油、カカオ油などの植物性油脂類:およびこれらを水素添加またはエステル交換したもの;中鎖脂肪酸トリグリセライド等が挙げられる。
【0052】
ワックスは、脂肪酸と高級1価または2価アルコールとのエステルである。例えば、ホホバ油、ライスワックス、プロポリス、みつろう、さらしみつろう、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、鯨ろう等が挙げられる。
【0053】
炭化水素は、例えば、軽質流動パラフィン、重質流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン等の流動パラフィン類、パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、スクワレン等が挙げられ、中でも、飽和炭化水素系オイルが好ましい。
【0054】
シリコーン系オイルは、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環式シリコーン、ならびに、アミノシリコーン、脂肪酸シリコーン、アルコールシリコーン、ポリエーテルシリコーン、エポキシシリコーン、フッ素シリコーン、グリコシドシリコーンおよび/またはアルキルシリコーンを修飾したシリコーン化合物等が挙げられる。
【0055】
高級アルコールは、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリンアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノールオクタコサノール等の炭素数8~44の飽和または不飽和のアルコールが挙げられる。
テルペンは、例えば、オイゲノール、ゲラニオール、メントール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール等が挙げられる。
【0056】
精油は、例えば、アンブレットシード油、カラシ油、サフラン油、シトロネラ油、ベチバー油、バレリアン油、ヨモギ油、カミツレ油、しょう脳油、サッサフラス油、ホウショウ油、ローズウッド油、クラリーセージ油、タイム油、バジル油、カーネーション油、シダーウッド油、ヒノキ油、ヒバ油、クローブ油、テレピン油、パイン油、オレンジ油、レモングラス油、タラゴン油、ローレル葉油、カシア油、シナモン油、コショウ油、カラムス油、セージ油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアーミント油、パッチュリ油、ローズマリー油、ラバンジン油、ラベンダー油、クルクマ油、カルダモン油、ショウガ油、アンゲリカ油、アニス油、ウイキョウ油、パセリ油、セロリ油、カルバナム油、クミン油、コリアンダー油、ジル油、キャロット油、キラウェー油、ウィンターグリン油、ナツメグ油、ローズ油、シプレス油、ビャクダン油、オールスパイス油、グレープフルーツ油、ネロリ油、レモン油、ライム油、ベルガモット油、マンダリン油、オニオン油、ガーリック油、ビターアーモンド油、ゼラニウム油、ミモザ油、ジャスミン油、キンモクセイ油、スターアニス油、カナンガ油、イランイラン油、ユーカリ油等のエッセンシャルオイル;コショウ、ショウズク、ショウガ、パセリ、コリアンダー、ヒメウイキョウ、ピメンタ、バニラ、セロリ、チョウジ、ニクズク、パブリカ、イリスレジノイド、乳香樹等のオレオレジンまたはレジノイドが挙げられる。
【0057】
脂溶性ビタミンは、例えば、ビタミンA、D、E、Kおよびこれらの誘導体が挙げられる。
油溶性薬物は、例えば、コエンザイムQ10、α-リポ酸、ルチン、ルテイン等が挙げられる。
油溶性色素は、例えば、アナトー色素、パプリカ色素、β-カロチン、クロロフィル、紅麹色素、ウコン色素等が挙げられる。これらは単独で用いても、2以上を組み合わせて用いても良い。
【0058】
油溶性物質は、マイクロバイオマスのネットワーク中への良好な補足性の観点から、飽和炭化水素系オイル、シリコーン系オイル、及び植物性油脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0059】
なお、上記油溶性物質がD相中油型(O/D型)乳化組成物を製造する温度において固体の場合は、その温度において液体の油溶性物質に溶解させて用いればよい。
【0060】
乳化組成物(特にD相中油型(O/D型)乳化組成物)に占める油溶性物質の割合は、20質量%以上であり、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。20質量%未満であると、後の工程で水性媒体により希釈すると相対的に油溶性物質の濃度が低下し、汎用性も低下させてしまう。また、油溶性物質の割合は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることが好ましい。
【0061】
D相中油型(O/D型)乳化組成物は、マイクロバイオマスを分散した多価アルコールの水溶液を、10~80℃の温度で、500~20,000rpm、好ましくは500~10,000rpmで攪拌し、この中に、親油性乳化剤を溶解した油溶性物質を少量ずつ添加した後、温度を保持したまま、500~20,000rpm、好ましくは500~10,000rpmで1~60分間、好ましくは5~30分間、さらに攪拌することにより得ることができる。マイクロバイオマスは、水分散体または乾燥体のいずれの形態で多価アルコールに添加してもよい。
【0062】
(乳化剤)
本実施形態に係る乳化組成物には、乳化剤を含有させてもよい。使用可能な乳化剤としては、例えば、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエートなどのグリセリンの重合度が4以上、好ましくは4~12のポリグリセリン脂肪酸エステル;ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル;レシチン部分加水分解物、リゾレシチンなどの水溶性リン脂質;糖脂質;サポニン;大豆蛋白、カゼインナトリウムなどの蛋白質やその変性物といったHLBが10以上の乳化剤が挙げられる。これらは単独で用いても、2以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
本実施形態に係る乳化組成物(特に、D相中油型(O/D型)乳化組成物)は、化粧品、塗料、医薬などやレトルト食品、インスタント食品、即席麺、ドライフーズ、加工乳などの加工食品や嗜好食品、サプリメント、機能性食品、特別用途食品、病者用食品、高齢者用食品、育児用粉ミルク、特定保健用食などの健康食品などの食品、自己乳化性油脂、ケチャップ、マヨネーズ、タルタルソース、ウスターソース、ラー油、香辛料、ハーブ、油脂、サラダドレッシングなどの調理・調味料、酒、コーヒー、茶などの飲料、に用いることができる。
【0064】
[水中油型(O/W型)乳化組成物]
本実施形態の水中油型(O/W型)乳化組成物は、既述の本実施形態の乳化組成物と第2の水性媒体とを含有する。第2の水性媒体としては、第1の水性媒体と同様なものを例示でき、第1の水性媒体と第2の水性媒体とは同一でも異なっていてもよい。
【0065】
本実施形態に係るD相中油型(O/D型)乳化組成物は、D相中油型(O/D型)乳化組成物が例えば0.01~50質量%、好ましくは0.1~20質量%となるように第2の水性媒体と混合することにより、水相中油型(O/W型)乳化組成物を与える。
本実施形態に係るD相中油型(O/D型)乳化組成物は、水溶性の有効成分や添加剤を加えたものを希釈して、化粧水や美容液等の化粧料組成物として利用することができる。また、本実施形態に係るD相中油型(O/D型)乳化組成物から得られる本実施形態の水中油型(O/W型)乳化組成物は、高温(60℃)での安定性も良好なので、即席スープなどの加熱用食品、ホットミルクコーヒー、ホットミルクティーなどの加温用飲料などにも好適に用いられる。
【0066】
[化粧料組成物]
本実施形態の化粧料組成物は、本実施形態の乳化組成物、又は本実施形態の水中油型(O/W型)乳化組成物を含む。そして、適宜、水溶性の有効成分や添加剤を加えたものを希釈して、化粧水や美容液等の化粧料組成物として利用することができる。
【0067】
添加剤は、例えば、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸等の水溶性ビタミン類;オウバクエキス、カンゾウエキス、アロエエキス、スギナエキス、茶エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、ハマメリス抽出液、プラセンタエキス、海藻エキス、マロニエエキス、ユズエキス、ユーカリエキス、アスナロ抽出液等の動・植物抽出液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム等の塩類;クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩等のpH調整剤;カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸ナトリウム等の増粘剤等が挙げられる。
【実施例
【0068】
以下、実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を何ら限定もしくは制限するものでもない。
なお、各例における分散性は下記のとおりにして評価した。
【0069】
<分散安定性>
分散安定性(分散性)は、最終撹拌後に室温で静置し、72時間後の乳化組成物の外観の様子で評価を行った。「水層と油層の分離が明らかにあるもの」はDとし、「分離が若干あるように見えるが、乳化状態にあるといえるもの」をC、「明確な分離がほとんど確認できない、すなわち乳化状態にあるもの」をB、「明確な分離がまったく確認できない、すなわち非常に良好な乳化状態にあるもの」をAとした。
【0070】
[実施例1]
油溶性物質としてシリコーンオイル5gを使用して、以下の手順で乳化組成物(D相中油型(O/D型)乳化組成物)の作製を行った。
【0071】
(1)10gのグリセリン(富士フイルム和光純薬(株)製、以下の例も同様)に、セルロース粒子A水分散体(セルロース粒子A:15質量%)とイオン交換水とをそれぞれ5g添加して、撹拌を10分間行い、均一な混合体を作製した。
(2)スリーワンモーター撹拌機でシリコーンオイル(信越化学工業(株)製、製品名KF-96A-100CS、以下の例も同様)を(1)で作製した混合体に5ml/分の速度で添加した。
(3)添加終了後、500rpmで15分間攪拌し、D相中油型(O/D型)乳化組成物を得た。作製した乳化組成物について分散安定性の評価を行った。表1に乳化組成物中の各成分の割合(質量部、その他の表も同様)とともに評価結果を示す。
【0072】
なお、セルロース粒子A水分散体は、下記のようにして調製した。
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径5~45μm)を用い、当該セルロースを25質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、200MPaで高圧噴射処理を1回実施して、セルロース粒子Aの水分散体(セルロース粒子A水分散体)を作製した。
【0073】
調製したセルロース粒子A水分散体中のセルロース粒子Aについては、下記のようにしてメジアン径、比表面積、結晶構造を測定した(他の例についても同様に行った)。表1に結果を示す。
【0074】
・メジアン径
セルロース粒子やセルロースファイバーのメジアン径(体積基準の頻度の累積が50%になる粒子径)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定方法(堀場製作所社製、装置名:LA-960)で求めた。得られたセルロース粒子やセルロースファイバーの水分散体について、終濃度が0.5質量%になるようにイオン交換水で調整し、ワーリングブレンダ(WARING社製、装置名:7012S)で3400rpm、5分間の条件で処理した後、測定前に超音波による分散処理を1分間実施し、粒度分布測定を行った。半値幅は粒度分布測定で得られる山形のピークに対して、得られた最大頻度の半値をとったときの幅とした。粒径の測定範囲は0.1~500μmとした。
【0075】
・比表面積
セルロース粒子やセルロースファイバーの水分散体をt-ブタノールに溶媒置換後に、凍結温度-20℃で凍結させた後に、圧力0.05kPa以下にて凍結乾燥させることで乾燥粉末試料を得た。この乾燥粉末を用いて、比表面積測定を行った。比表面積測定は自動比表面積/細孔分布測定装置(micromeritics製、装置名:トライスターIIを用いてBET多点法により測定した。
【0076】
・結晶構造
セルロース粒子やセルロースファイバーの水分散体をt-ブタノールに溶媒置換後に、凍結温度-20℃で凍結させた後に、圧力0.05kPa以下にて凍結乾燥させることで乾燥粉末試料を得た。
乾燥粉末試料を用いて、セルロース粒子やセルロースファイバーの結晶構造を調べた。測定装置として株式会社リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置「Smart Lab」を用いた。セルロースI型結晶構造を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=15~17°付近及び2θ=22~23°付近の2か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。また、セルロースII型結晶構造を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=11~13°付近、2θ=19~21°付近及び2θ=21~23°付近の3か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。
【0077】
[実施例2~6]
表1のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例7~12]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロース粒子B水分散体を用い、表1のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
なお、セルロース粒子B水分散体は、下記のようにして調製した。
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径5~45μm)を用い、当該セルロースを2質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、150MPaで高圧噴射処理を1回実施して、セルロース粒子Aの水分散体(セルロース粒子A水分散体)を作製した。
【0080】
【表1】
【0081】
[比較例1~5]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロース粒子X水分散体を用い、表2のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
なお、セルロース粒子X水分散体は、下記のようにして調製した。
繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを鉱酸で処理した後、ヘミセルロース、リグニン等の非晶成分を残して精製し、機械的に粉砕してセルロース粒子Xを作製し、これを水に分散させてセルロース粒子Xの水分散体(セルロース粒子X分散体)を作製した。
【0083】
【表2】
【0084】
[実施例13~18]
シリコーンオイルの代わりにオリーブオイルを用い、表3のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
[実施例19~41]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロース粒子C水分散体を用い、さらにオイルの種類を変更して、表4~表6のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表4~表6に示す。
【0087】
なお、セルロース粒子C水分散体は、下記のようにして調製した。
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径10~250μm)を用い、当該セルロースを30質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、200MPaで高圧噴射処理を1回実施して、セルロース粒子Cの水分散体(セルロース粒子C水分散体)を作製した。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
[実施例42~49]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロース粒子D水分散体を用い、表7のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表7に示す。
【0092】
なお、セルロース粒子D水分散体は、下記のようにして調製した。
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径10~250μm)を用い、当該セルロースを2質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、150MPaで高圧噴射処理を10回実施して、セルロース粒子Dの水分散体(セルロース粒子D水分散体)を作製した。
【0093】
【表7】
【0094】
[比較例7~14]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロース粒子Z水分散体を用い、表8のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表7に示す。
【0095】
なお、セルロース粒子Z水分散体は、下記のようにして調製した。
繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを強鉱酸で部分的に解重合し、精製し、これを水に分散させてセルロース粒子Zの水分散体(セルロース粒子Z分散体)を作製した。
【0096】
【表8】
【0097】
[実施例50~61]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロースファイバー繊維A水分散体を用い、表9のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表9に示す。
【0098】
なお、セルロース繊維A水分散体は、下記のようにして調製した。
セルロースファイバー原料としての綿粉状セルロースを8質量%とした分散液を、調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、200MPaで高圧噴射処理を10回実施して、セルロースファイバーAの水分散体(セルロースファイバーA水分散体)を作製した。
【0099】
セルロースファイバーA及び後述のセルロースファイバーXについて、下記のようにして、平均繊維径及び平均繊維長さを求めた。これらについても各表に示す。
【0100】
・平均繊維径及び平均繊維長さ
セルロースファイバーの水分散体をt-ブタノールに溶媒置換後に、凍結温度-20℃で凍結させた後に、圧力0.05kPa以下にて凍結乾燥させることで乾燥試料を得た。電子顕微鏡(日本電子社製、装置名:JCM-5700)を用いて燥試料の繊維径測定を行った。各繊維20本を観察しそれぞれの繊維径と長さの平均値を平均繊維径及び平均繊維長さとした。
【0101】
【表9】
【0102】
[比較例15~20]
セルロース粒子A水分散体の代わりにセルロースファイバーX水分散体を用い、表10のような組成となるようにした以外は実施例1と同様にして、D相中油型(O/D型)乳化組成物を作製し分散安定性の評価を行った。結果を表9に示す。
【0103】
なお、セルロースファイバーX水分散体は、下記のようにして調製した。
初めに、カッティングミル(フリッチュ社製 Pulverisette 15)にてセルロース繊維原料を粉砕し、綿粉状セルロースを得た。得られた綿粉状セルロースを8質量% の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製し、セルロース繊維Xの水分散体(セルロース繊維X水分散体)を作製した。
【0104】
【表10】


【要約】
【課題】種々の油溶性物質を用いた場合でもエマルションの分散性が良好な乳化組成物を提供する。
【解決手段】多価アルコール、第1の水性媒体、マイクロバイオマス、及び油溶性物質を含有する乳化組成物であって、前記油溶性物質の含有量が20質量%以上であり、前記マイクロバイオマスのメジアン径が5~40μmであり、比表面積が5~100m/gである乳化組成物である。
【選択図】なし