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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】高炉用羽口およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/16 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
C21B7/16 304
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018146417
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020020021
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 経尊
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】大本 展久
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090860(JP,A)
【文献】特開昭59-153574(JP,A)
【文献】特開昭55-141566(JP,A)
【文献】特開昭62-017107(JP,A)
【文献】特開平11-217610(JP,A)
【文献】特開平04-246113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/16
B23K 9/04
B23K 35/30
B23K 5/18
C23C 4/00-6/00
C22C 19/03,19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)~(3)の工程を備える、高炉用羽口の製造方法。
(1)羽口本体部の少なくとも先端を含む外表面に、拡散接合により、純Ni拡散接合層ある第一保護層を設ける工程、
(2)前記第一保護層の表面の少なくとも一部に、肉盛溶接により、前記第一保護層よりも熱伝導率が低い純Ni肉盛溶接層である第二保護層を設ける工程、および
(3)前記第二保護層の表面の少なくとも一部に、肉盛溶接により、NiまたはNi合金に、炭化物、窒化物、酸化物および硼化物から選択される一種以上の硬質粒子を分散させた肉盛溶接層であり、前記第二保護層よりも熱伝導率が低い第三保護層を設ける工程。
【請求項2】
前記(3)の工程において、
前記第二保護層の表面を研削または研磨して、平坦化した後に、前記第三保護層を設ける、
請求項1に記載の高炉用羽口の製造方法。
【請求項3】
先端が高炉内に突出する銅または銅合金からなる羽口本体部と、
前記羽口本体部の少なくとも前記先端を含む外表面を覆う、純Niからなる第一保護層と、
前記第一保護層の表面の少なくとも一部を覆う、前記第一保護層よりも熱伝導率が低い第二保護層と、
前記第二保護層の表面の少なくとも一部を覆う、前記第二保護層よりも熱伝導率が低い第三保護層とを備え、
前記第一保護層が、純Ni拡散接合層であり、
前記第二保護層が、純Ni肉盛溶接層であり、
前記第三保護層が、NiまたはNi合金に、炭化物、窒化物、酸化物および硼化物から選択される一種以上の硬質粒子を分散させた肉盛溶接層である、
高炉用羽口。
【請求項4】
第一保護層、第二保護層および第三保護層の厚さは、式(1)を満たす、
請求項3に記載の高炉用羽口。
F=t1 *1 *+ t2 *2 * + t3 *3 * ≦2.26 ・・・(1)
ここで、λ1 *、λ2 *、λ3 *は第一保護層の熱伝導率に対する各保護層の熱伝導率比である。t1 *、t2 *、t3 *は保護層全体の板厚に対する各保護層の板厚比である。熱伝導率比および板厚比の下付き数字1、2、3はそれぞれ第一保護層、第二保護層、第三保護層を表す。
【請求項5】
前記第三保護層が、ビッカース硬さ180Hv以上で、熱伝導率10W/mK以上である、請求項3または4に記載の高炉用羽口。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用羽口およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用羽口(以下、単に「羽口」ともいう。)は、高炉の炉内に突き出ており、この突き出た先端部は高温雰囲気に曝されているため、優れた耐熱性が求められる。また、羽口の先端には、炉内の鉱石やコークスが衝突することがあるので、優れた耐摩耗性も求められる。
【0003】
羽口本体部には、内部に水路が設けられ、その水路に冷却水を流すことによって高炉内に突き出た先端付近の温度が低減される。羽口本体部の材質は、通常、熱伝導性に優れた銅または銅合金である。しかしながら、羽口の内部を水冷するだけでは先端の温度を十分には低減できないこと、および、銅は硬度が低く、耐摩耗性の点では劣ることから、羽口先端には耐熱性および耐摩耗性を高めるための保護層が設けられる。保護層を設けることによって羽口の寿命は延長されるものの、それでもなお、長期間使用すると先端が損傷し、羽口の交換が必要になる。羽口を交換するためには高炉を休風する必要があるため、羽口が損傷するとその交換費用のみならず、溶銑の生産量も低下してしまう。
【0004】
羽口の保護層には、ニッケル系の材質が用いられることが多い。ニッケル合金は高温における強度、耐食性に優れ、また、マトリックス中に硬質の金属間化合物を析出させたり、炭化物、窒化物などを混合させることによって硬度を増したりできるのがその理由である。保護層に高硬度のニッケル合金を適用する場合には、例えば、特許文献1~3に記載されるように、羽口本体である銅との接合性が高い金属の保護層を設けることで、高硬度の保護層の密着性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-153574号公報
【文献】特開平4-246113号公報
【文献】特開平11-217610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ニッケルもしくはニッケル合金またはステンレス鋼の薄板材を熱間等方圧加圧処理によって、銅製羽口本体に拡散接合し、その上に耐熱、耐摩耗性材料を肉盛溶接している。特許文献2では、Ni-Cr合金の肉盛層の上に、Ni-Mo合金の肉盛層を設けた保護層が記載されている。また、特許文献3には、羽口母材表面(またはさらに中間層上)に、ニッケルなどの金属マトリックスにセラミックス粒子を散在状態で含む硬化肉盛材を溶着させた保護層が記載されている。
【0007】
これらの文献の発明のように、羽口本体部の表面に、NiまたはNi合金の層(内層)を設け、さらにその表面に硬質の層(外層)を設けることによって、一定の耐熱性および耐摩耗性を確保することはできる。しかし、炉内の温度変動によって、外層表面には繰り返しの引張応力が発生し、また、炉内の溶融物が羽口に繰り返し衝突する(熱衝撃を受ける)ため、羽口を疲労特性に優れた構成とすることが求められる。このような温度変動または局所的な熱衝撃を受けると、表面が亀甲状にき裂が発生することがあり、これが伝播すると、保護層の剥離が生じ、耐摩耗性が劣化する。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、耐熱性および耐摩耗性に優れ、かつ熱疲労特性にも優れる高炉用羽口およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
羽口本体部の外表面に設ける保護層は、常温では硬い保護層であるが、高炉の稼働中に温度が上昇すると、硬さが低下し、耐摩耗性が劣化する。前述のように、羽口本体部には、内部に設けられた水路に冷却水を流すことによって高炉内に突き出た先端付近の温度を低減しており、これによって保護層の温度も低減できる。
【0010】
よって、第一に、高炉稼動時の保護層の温度上昇を避けるためには、保護層を複層構造とし、内層に、羽口本体部との密着性に優れ、かつ熱伝導率が高い材料で構成した保護層を設け、外層に、炉内の鉱石やコークスとの衝突に耐えうる耐摩耗性に優れる材料で構成した保護層を設けるのが有効である。このような材料については、従来、様々な検討がなされており、一定の効果が確認されている。
【0011】
ここで、外層は、炉内の鉱石やコークスとの衝突に耐えうる耐摩耗性を備えるべく、炭化物等の硬質粒子を含有しているので、内層に比べて延性が低い。このため、高炉操業時の熱によって内層と外層の間でひずみ差が生じ、このひずみ差を小さくすることができれば、内層と外層界面付近での剥離を抑制できる。
【0012】
そこで、本発明者らは、高炉操業時の保護層内のひずみ差を小さくするべく検討を重ね、下記の知見を得た。
【0013】
(a)保護層の冷却能を高めることが有効である。このためには、羽口本体部の表面に設ける一層目の保護層(第一保護層)は、純Niを用いる。特に、拡散接合層とすることにより、冷却能が高まる。
(b)保護層を三層構造とし、最外層(第三保護層)は、優れた耐摩耗性を付与するべく、NiまたはNi合金に、炭化物などの硬質粒子を含有させた保護層とする。
(c)第一保護層と第三保護層との間に設ける第二保護層として、熱伝導率が、第一保護層<第二保護層<第三保護層である材料を用いて、各界面における温度差を抑制して、ひずみ差を低減し、優れた熱疲労特性を付与する。具体的には、第二保護層は、純Niの肉盛溶接層とする。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の通りである。
〔A〕下記の(1)~(3)の工程を備える、高炉用羽口の製造方法。
(1)羽口本体部の少なくとも先端を含む外表面に純Niで構成される第一保護層を設ける工程、
(2)前記第一保護層の表面の少なくとも一部に、前記第一保護層よりも熱伝導率が低い第二保護層を設ける工程、および
(3)前記第二保護層の表面の少なくとも一部に、前記第二保護層よりも熱伝導率が低い第三保護層を設ける工程。
【0015】
〔B〕前記(1)の工程において、
拡散接合により純Ni拡散接合層を設けて、前記第一保護層とする、
上記〔A〕の高炉用羽口の製造方法。
【0016】
〔C〕前記(2)の工程において、
肉盛溶接により純Ni肉盛溶接層を設けて、前記第二保護層とする、
上記〔A〕または〔B〕の高炉用羽口の製造方法。
【0017】
〔D〕前記(3)の工程において、
肉盛溶接により、NiまたはNi合金に、炭化物、窒化物、酸化物および硼化物から選択される一種以上の硬質粒子を分散させた肉盛溶接層を設けて、前記第三保護層とする、
上記〔A〕~〔C〕のいずれかの高炉用羽口の製造方法。
【0018】
〔E〕先端が高炉内に突出する銅または銅合金からなる羽口本体部と、
前記羽口本体部の少なくとも前記先端を含む外表面を覆う、純Niからなる第一保護層と、
前記第一保護層の表面の少なくとも一部を覆う、前記第一保護層よりも熱伝導率が低い第二保護層と、
前記第二保護層の表面の少なくとも一部を覆う、前記第二保護層よりも熱伝導率が低い第三保護層とを備える、
高炉用羽口。
【0019】
〔F〕前記第一保護層が、純Ni拡散接合層である、
前記第二保護層が、純Ni肉盛溶接層であり、
前記第三保護層が、NiまたはNi合金に、炭化物、窒化物、酸化物および硼化物から選択される一種以上の硬質粒子を分散させた肉盛溶接層である、
上記〔E〕の高炉用羽口。
【0020】
〔G〕第一保護層、第二保護層および第三保護層の厚さは、式(1)を満たす、
上記〔E〕または〔F〕の高炉用羽口。
F=t1 *1 *+ t2 *2 * + t3 *3 * ≦2.26 ・・・(1)
ここで、λ1 *、λ2 *、λ3 *は第一保護層の熱伝導率に対する各保護層の熱伝導率比である。t1 *、t2 *、t3 *は保護層全体の板厚に対する各保護層の板厚比である。熱伝導率比および板厚比の下付き数字1、2、3はそれぞれ第一保護層、第二保護層、第三保護層を表す。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱性および耐摩耗性に優れ、かつ熱疲労特性にも優れる高炉用羽口が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る高炉用羽口の製造方法を説明する模式図である。
図2】平坦化した第一保護層の断面形状を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る高炉用羽口の断面形状を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る高炉用羽口の第一保護層、第二保護層および第三保護層を示す模式図である。
図5】有限要素法(FEM)解析のモデルを示す模式図である。
図6】有限要素法(FEM)解析の条件を示す模式図である。
図7】有限要素法(FEM)解析の条件を示す模式図である。
図8】有限要素法(FEM)解析の温度・ひずみ評価位置を示す図である。
図9】値Fと、外表面温度比T*との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.高炉用羽口の製造方法について
本発明に係る高炉用羽口の製造方法は、第一保護層を設ける工程、第二保護層を設ける工程、および、第三保護層を設ける工程を備える。以下、第一保護層を拡散接合によって設け、第二保護層および第三保護層を肉盛溶接によって設ける場合を例にとって、各工程について説明する。
【0024】
(1)第一保護層の形成
図1(a)を参照して、この工程は、羽口本体部1の少なくとも先端(図示省略)を含む外表面に拡散接合により第一保護層3aを設ける工程である。第一保護層3aの材質は、羽口本体部1との密着性に優れるとともに、熱伝導率が高い材料である、純Niを用いる。拡散接合は、通常の方法を採用することができる。すなわち、拡散接合によって、羽口本体部1の形状に沿った形状に加工した純Niの薄板材を羽口本体部1に貼り付け、その状態で加熱し、界面を拡散接合するのがよい。
【0025】
(2)第二保護層の形成
図1(b)を参照して、この工程は、第一保護層3aの表面の少なくとも一部に肉盛溶接により第二保護層3bを設ける工程である。第二保護層3bの材質は、第一保護層3aよりも熱伝導率が低い材料である。第一保護層3aが純Ni拡散接合層である場合には、第二保護層3bとして純Ni肉盛溶接層を設けるのがよい。
【0026】
第二保護層3bは、第一保護層3aの表面の少なくとも一部に設けられておればよい。例えば、羽口の下部は、高炉の操業時に、炉内の鉱石やコークスが衝突しにくい箇所であるため、この部分には第二保護層3bおよび第三保護層3bを設けなくてもよい。よって、第一保護層3aの表面の少なくとも一部とは、具体的には、高炉内に設置された羽口において、少なくとも最上部を含む部分の表面を意味する。特に、高炉内に設置された羽口において、上側半分を構成する部分の表面に第二保護層3bが設けられていることが好ましい。このとき、第二保護層3bおよび第三保護層3cが設けられていない部分の第一保護層3aの厚さと、第二保護層3bおよび第三保護層3cが設けられている部分の第一保護層3a、第二保護層3bおよび第三保護層3cの合計厚さとが実質的に同一であることが好ましい。
【0027】
肉盛溶接方法は、公知の方法を採用することができ、例えば、被覆アーク溶接法、MAG溶接法、炭酸ガスアーク溶接法、MIG溶接法、TIG溶接法、サブマージアーク溶接法などが挙げられる。中でも、三次元的に曲面形状である羽口先端へのNiまたはNi合金の溶接作業性を高めるためには、TIG溶接法を採用するのが好ましい。
【0028】
(3)第三保護層の形成
図1(d)を参照して、この工程は、第二保護層3bの表面の少なくとも一部に肉盛溶接により第三保護層3cを設ける工程である。第三保護層3cは、第二保護層3bの表面を覆う肉盛溶接層からなる層である。第三保護層3cの材質は、第二保護層3bよりも熱伝導率が低い材料である。そして、第三保護層3cは、保護層3の外層に位置するので、高炉の操業時に、炉内の鉱石やコークスとの衝突に耐えうる耐摩耗性(具体的には、ビッカース硬さで180Hv以上)に優れるとともに、熱伝導率が高い材料(具体的には10W/mK以上)を選択することができる。例えば、Niに硬質のTiCなどの炭化物を分散させた材料を用いることができる。具体的な材質については後段で説明する。
【0029】
肉盛溶接方法は、公知の方法を採用することができ、例えば、被覆アーク溶接法、MAG溶接法、炭酸ガスアーク溶接法、MIG溶接法、TIG溶接法、サブマージアーク溶接法などが挙げられる。中でも、三次元的に曲面形状である羽口先端へのNiまたはNi-Cr合金の溶接作業性を高めるためには、TIG溶接法を採用するのが好ましい。
【0030】
なお、第三保護層3cを設ける前に、第二保護層3bの表面を平坦化する工程を設けてもよい。図1(c)を参照して、この工程は、第二保護層3bの表面を研削または研磨して、平坦化する工程である。平坦化は、例えば、旋盤、フライス盤、マシニングセンタなどを使用することができる。また、グラインダーで研削することにより平坦化してもよい。
【0031】
平坦化した第二保護層3bの表面は、谷底と、前記谷底に隣接する山頂との高さの最大値(最大谷深さ)を0.20mm以下とすることが好ましい。ここで、図2を参照して、谷底と、前記谷底に隣接する山頂との高さとは、例えば、図2中の符号h、hおよびhであり、図2に示す例では、最大谷深さは、hである。この最大谷深さが大きすぎると、その後に第三保護層3cを形成したときに、界面に空隙(未溶着部)が増加し、界面熱抵抗を増加させる。この最大谷深さは、0.15mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましい。
【0032】
なお、上記最大谷深さは、第二保護層3b厚さ方向を含む断面を観察して、測定することもできるし、第二保護層3bの平坦化後に、その表面から、表面粗さ計、三次元形状測定器などを用いて表面形状を測定することもできる。
【0033】
2.高炉用羽口について
図3および図4を参照して、本実施形態に係る高炉用羽口10は、羽口本体部1と、純Niからなる第一保護層3aと、第一保護層3aよりも熱伝導率が低い第二保護層3bと、第二保護層3bよりも熱伝導率が低い第三保護層3cとを備える。
【0034】
(1)羽口本体部
羽口本体部1は、先端1bが高炉の内壁から突出するよう、高炉内に配置され、先端1bは、高炉の操業時に高温に曝される。羽口本体部1の内部には、水路2が設けられており、水路2に冷却水を流すことによって、先端1b付近の温度を低減している。羽口本体部1は、円筒状であり、高炉の操業時には筒内に高温(例えば1200℃程度)の熱風が流される。羽口本体部の材質は、通常、熱伝導性に優れた銅または銅合金である。
【0035】
(2)第一保護層
第一保護層3aは、羽口本体部1の少なくとも先端1bを含む外表面1aを覆う拡散接合層からなる層である。第一保護層3aの材質は、羽口本体部1との密着性の観点からは、羽口本体部1に用いられる銅または銅合金の熱膨張率に近い材料、具体的には、熱膨張率(線膨張率)が13~16×10-6/℃の範囲である材料を用いるのがよく、本発明では純Niを用いる。第一保護層3aに用いることができる純Niとしては、JIS H 4551に規定されるものを使用することができ、Ni含有量が99質量%以上であるものを用いるのがよい。純Niにおける不純物としては、C、Si、Mn、S、Cu、Feなどが挙げられ、不純物の総量は1質量%以下であることが好ましい。
【0036】
(3)第二保護層
第二保護層3bは、第一保護層3aの表面を覆う肉盛溶接層からなる層である。第二保護層3bの材質は、第一保護層3aよりも熱伝導率が低い材料である。第一保護層3aが純Ni拡散接合層である場合には、第二保護層3bとして純Ni肉盛溶接層を設けるのがよい。これにより、熱疲労特性に優れる高炉用羽口が得られる。第二保護層3bに用いることができる純Niとしては、JIS Z 3224,JIS Z 3334に規定されるものを使用することができる。
【0037】
(4)第三保護層
第三保護層3cは、第二保護層3bの表面を覆う肉盛溶接層からなる層である。第三保護層3cの材質は、第二保護層3bよりも熱伝導率が低い材料である。これにより、熱疲労特性に優れる高炉用羽口が得られる。第三保護層3cは、保護層3の外層に位置するので、高炉の操業時に、炉内の鉱石やコークスとの衝突に耐えうる耐摩耗性(具体的には、ビッカース硬さで180Hv以上)に優れるとともに、熱伝導率が高い材料(具体的には10W/mK以上)を選択することができる。例えば、NiまたはNi合金に、炭化物、窒化物、酸化物および硼化物から選択される一種以上の硬質粒子を分散させた材料を用いることができる。炭化物としては、TiC、WC、NbC、VCなどが例示されるが、中でもTiCが好ましい。これは、TiCが、硬さが大きく、耐摩耗性の向上に極めて有効な材料だからである。
【0038】
第三保護層3cの材料中の炭化物は、均一に分散している状態が好ましい。炭化物の粒径が大きすぎると、均一に分散させることが困難となるので、炭化物の粒径の最大値は、200μm以下とするのが好ましい。また、炭化物の平均粒径は40~100μmの範囲とするのが好ましい。また,炭化物の体積率が高すぎても均一に分散させることが困難となるので、第三保護層3cの材料中の炭化物の体積率の最大値は30%以下とするのが好ましく、5~25%とするのがさらに好ましい。
【0039】
第一保護層3aの厚さTと第二保護層3bの厚さTと第三保護層3cの厚さTとの和(T+T+T)は、6.0~9.0mmとするのが好ましい。6.0mm未満では、十分な耐摩耗性を確保できないという問題が生じるおそれがあり、9.0mmを超えると、羽口先端を十分に冷却できないという問題が生じるおそれがあるからである。また、高い耐熱性を確保するためには、第一保護層3aの厚さTを十分に確保することが重要であり、第一保護層3aの厚さTが、保護層全体の厚さの30%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0040】
図5に示すFEM解析モデル(軸対称モデル)について、熱弾塑性解析にて、図6および図7に示す解析条件でFEM解析を行なった。表1には、本発明例1~21において用いた保護層の各層の構成材料を示している。すなわち、保護層3として、純Ni板からなる保護層(材質A)、純Ni肉盛溶接層からなる保護層(材質B)および純Niに硬質粒子を含有させた保護層(材質C)の三層構造とし、各層の厚さを種々変更した。比較例1~5は、保護層3として、純Ni板からなる保護層(材質A)および純Niに硬質粒子を含有させた保護層(材質C)とした二層構造であり、各層の厚さを種々変更した。
【0041】
【表1】
【0042】
温度およびひずみは、保護層3のそれぞれの界面と表面を抽出し、図8に示すθ=45°位置にて評価した。ひずみは、機械ひずみ(弾性ひずみ+塑性ひずみ)とし、半径方向、周方向(図8のθの方向)および面外の周方向の3成分それぞれにつき評価した。表2および表3にその結果を示す。なお、表2および表3には、比較例1を1としたときの各評価値の比(絶対値)を示している。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
表2および表3に示すように、二層構成である比較例2および3は、外層の厚さを相対的に厚くした構成であり、層間のひずみ差は低減できているが、外表面の温度およびひずみが増加している。一方、比較例4および5は、外層の厚さを相対的に薄くした構成であるが、外表面の温度およびひずみは低減できているが、層間のひずみ差が増加していることがわかる。本発明例1~21をみると、層間のひずみ差は全ケースで低減できている。一方で、外表面の温度・ひずみが大きくなっているケースもあり、これらを低減できる好適な板厚配分例として、No.10、No.13、No.15、No.16、No.18、No.19、No.20、No.21が挙げられる。これらは、すべて一様熱負荷時の温度が低減できているケースである。そのため、本発明のより好適な範囲は、一様熱負荷時の温度で規定できる。
【0046】
具体的には、第一保護層の熱伝導率を1としたときの、各保護層の熱伝導率(第一保護層の熱伝導率に対する各保護層の熱伝導率比)を第一層から順に、λ1 *、λ2 *、λ3 *、保護層全体の板厚に対する板厚比を第一層から順に、t1 *、t2 *、t3 *とし、次の式(1)で得られる値Fを定義する。
F=t1 *1 *+ t2 *2 * + t3 *3 * ・・・(1)
【0047】
本発明例1~21について、横軸を値F、縦軸を一様熱負荷時の外表面温度比T*としてプロットすると図9のようになる。外表面温度比T*が1.00より小さければ外表面の温度・ひずみを低減する効果を奏するため、図9に示すように、値Fの好適な範囲はF≦2.26である。なお、本実施形態では、各保護層の熱伝導率として常温下での熱伝導率を使って整理して得られた値Fを用いている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、耐熱性および耐摩耗性に優れ、かつ熱疲労特性にも優れる高炉用羽口が得られる。
【符号の説明】
【0049】
10 高炉用羽口
1 羽口本体部
1a 外表面
1b 先端
2 水路
3 保護層
3a 第一保護層
3b 第二保護層
3c 第三保護層
5 未溶着部
30 肉盛溶接層
31 肉盛溶接層
33 肉盛溶接層(一層目)
34 肉盛溶接層(二層目)
35 肉盛溶接層(三層目)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9