(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】光検出素子、光センサ、及び光検出素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 39/32 20230101AFI20230412BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20230412BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20230412BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20230412BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20230412BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20230412BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20230412BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20230412BHJP
【FI】
H10K39/32
H01L27/144 K
H01L27/146 A
B82Y20/00
G01J1/02 C
H10N10/855
H10N10/856
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2018210627
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】西野 弘師
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188438(WO,A1)
【文献】特開2010-153793(JP,A)
【文献】特開2017-011209(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199583(WO,A1)
【文献】特開2013-057526(JP,A)
【文献】特開2013-105994(JP,A)
【文献】特開2006-146023(JP,A)
【文献】特開2018-037617(JP,A)
【文献】特開2015-050426(JP,A)
【文献】米国特許第09190446(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 39/32
H01L 27/144
H01L 27/146
B82Y 20/00
G01J 1/02
H10N 10/855
H10N 10/01
H10N 10/856
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成され、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備え
、第1の領域に形成された複数の第1のホールと第2の領域に形成された複数の第2のホール、または、複数の第1の溝と複数の第2の溝、を有する受光層と、
前記受光層に接
して前記複数の第1のホール内または前記複数の第1の溝内に形成された第1の電極と、
前記受光層に接し
て前記複数の第2のホール内または前記複数の第2の溝内に形成され、前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極と、
を有することを特徴とする光検出素子。
【請求項2】
前記受光層のバンド曲線は、逆格子空間のK点において線型であることを特徴とする請求項1に記載の光検出素子。
【請求項3】
前記基板の上に、六方晶窒化ホウ素又はダイヤモンドライクカーボンを含む下地層が形成され、
前記下地層の上に前記受光層が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光検出素子。
【請求項4】
前記受光層の下の前記基板の表面に凹部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光検出素子。
【請求項5】
前記受光層は、前記基板の法線方向に対して傾斜した第1の側面と、前記法線方向に対して傾斜した第2の側面とを有し、
前記第1の側面に前記第1の電極が形成され、かつ前記第2の側面に前記第2の電極が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光検出素子。
【請求項6】
基板の上に、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備え、
第1の領域に形成された複数の第1のホールと第2の領域に形成された複数の第2のホール、または、複数の第1の溝と複数の第2の溝、を有する受光層を形成する工程と、
前記受光層に接し
て前記複数の第1のホール内または前記複数の第1の溝内に第1の電極を形成する工程と、
前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極を前記受光層に接するように
前記複数の第2のホール内または前記複数の第2の溝内に形成する工程と、
を有することを特徴とする光検出素子の製造方法。
【請求項7】
平面内に間隔をおいて複数形成され、入射光の強度に応じた出力電圧を出力する画素と、
前記出力電圧を増幅する増幅回路とを備え、
前記画素は、
基板と、
前記基板の上に形成され、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備え
、第1の領域に形成された複数の第1のホールと第2の領域に形成された複数の第2のホール、または、複数の第1の溝と複数の第2の溝、を有する受光層と、
前記受光層に接
して前記複数の第1のホール内または前記複数の第1の溝内に形成された第1の電極と、
前記受光層に接し
て前記複数の第2のホール内または前記複数の第2の溝内に形成され、前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極とを有することを特徴とする光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出素子、光センサ、及び光検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光検出素子は、その原理により二種類に大別される。一つ目の光検出素子は、半導体層を受光層に使用した素子である。特に、バンドギャップが小さな半導体層を利用した光検出素子は赤外領域に感度を有し、高感度で高速応答が可能であるという特徴を有する。但し、このタイプの光検出素子は、ノイズを低減する等の目的で半導体層を冷却する必要がある。
【0003】
もう一つの光検出素子は、光が照射された薄膜の温度変化を検知する素子であって、ボロメータや熱型素子とも呼ばれる。このタイプの光検出素子は、薄膜の温度変化に基づいて光を検知するため、薄膜を冷却する必要がなく、室温で動作可能であるという特徴を有する。但し、このタイプの光検出素子は、感度や応答速度に関しては上記の半導体層を利用した光検出素子よりも劣る。
【0004】
これに対し、グラフェンの光熱電効果を利用して光を検出する光検出素子も報告されている。この光検出素子によれば、室温下において、近赤外やテラヘルツ領域の光を1ナノ秒以下の応答速度で検出することができる。
しかしながら、グラフェンを利用した光検出素子は、感度が最も高いテラヘルツ領域でも10V/W程度の感度しかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/121408号
【文献】特表2013-502735号公報
【文献】特開2018-37617号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cai, Xinghan et al. “Sensitive room-temperature terahertz detection via the photothermoelectric effect in graphene”, Nature Nanotechnology, 2014/09/07, vol. 9, p814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、高感度化を実現することが可能な光検出素子、光センサ、及び光検出素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点によれば、基板と、前記基板の上に形成され、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備え、第1の領域に形成された複数の第1のホールと第2の領域に形成された複数の第2のホール、または、複数の第1の溝と複数の第2の溝、を有する受光層と、前記受光層に接して前記複数の第1のホール内または前記複数の第1の溝内に形成された第1の電極と、前記受光層に接して前記複数の第2のホール内または前記複数の第2の溝内に形成され、前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極とを有することを特徴とする光検出素子が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以下の開示によれば、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように複数のグラフェンを積層するため、各グラフェンがグラファイト化するのを抑制できる。これにより、高移動度や波長に依存しない光吸収率等のグラフェンの性質を維持しつつ、複数のグラフェンで光を検出して高感度化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、光検出素子で使用するグラフェンの分子構造を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3Aはグラフェンのバンド構造を示す図であり、
図3Bはグラファイトのバンド構造を示す図である。
【
図4】
図4A~
図4Cは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その1)である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その2)である。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その3)である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その4)である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その5)である。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、第1実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その6)である。
【
図12】
図12は、第1実施形態に係るグラフェンの数層の平面図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態に係る光検出素子の平面図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態に係る受光層のバンド構造を示す図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態において、受光層の上面に六方晶窒化ホウ素層を形成した場合の光検出素子の断面図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その4)である。
【
図22】
図22は、第3実施形態に係る光検出素子の製造途中の平面図(その1)である。
【
図23】
図23は、第3実施形態に係る光検出素子の製造途中の平面図(その2)である。
【
図26】
図26は、第4実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図(その3)である。
【
図27】
図27は、第4実施形態に係る光検出素子の平面図である。
【
図28】
図28は、第5実施形態に係る光検出素子の平面図である。
【
図30】
図30は、第6実施形態に係る光検出素子の平面図である。
【
図32】
図32は、第7実施形態に係る光センサの斜視図である。
【
図33】
図33は、第7実施形態に係る光センサの等価回路図である。
【
図34】
図34は、第7実施形態に係る撮像装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の説明に先立ち、本願発明者が調査した事項について説明する。
図1は、光検出素子で使用するグラフェンの分子構造を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、グラフェンは、六角形のセルの各頂点に炭素原子が位置する単原子層の物質である。
【0012】
前述のように、このグラフェンの光熱電効果を利用して光を検出する光検出素子では感度が10V/W程度と低い。これはグラフェンの光吸収率が低いことに原因があると考えられる。グラフェンの光吸収率は、波長によらず2.3%程度しかないため、残りの97%以上の光は捨てられることになる。更に、この光検出素子では、一層のグラフェンのみで光を検出するため、感度の向上を図ることができない。
感度を向上させるには、グラフェンを複数積層し、各々のグラフェンの光熱電効果を利用すればよいとも考えられる。
しかしながら、このように単純にグラフェンを積層すると、グラフェンとはバンド構造が異なるグラファイトが得られてしまう。
グラファイトは、空間的な対称性を有するように複数のグラフェンを積層した結晶構造を有し、その結晶構造には様々なタイプがある。
図2A~
図2Cは、グラファイトの各結晶構造を示す図である。
【0013】
このうち、
図2AはAB型のグラファイトの結晶構造を示し、
図2BはABA型のグラファイトの結晶構造を示す。また、
図2CはABC型のグラファイトの結晶構造を示す。
なお、
図2A~
図2Cにおける黒丸はAサイトにおける炭素原子を示し、白丸はBサイトにおける炭素原子を示す。
【0014】
図2A~
図2Cのいずれのグラファイトにおいても、平面視においてある層のグラフェンの格子点が他の層のグラフェンの格子点に一致するという空間的な対称性を有する。
【0015】
図3Aはグラフェンのバンド構造を示す図であり、
図3Bはグラファイトのバンド構造を示す図である。なお、
図3A及び
図3Bにおいて、横軸は、aをグラフェンの格子長(0.249nm)としたときの逆格子空間におけるK点からの距離を示す。また、縦軸は電子のエネルギ(eV)を示す。
【0016】
図3Aに示すように、グラフェンのバンド曲線は、逆格子空間のK点付近において線型となる。これにより、光吸収率が波長に依存しないという性質や、K点付近で電子の移動度が高い等のグラフェンの特徴が導かれる。
【0017】
一方、
図3Bに示すように、グラファイトにおいては、バンド曲線の傾きがK点付近において0となり、これによりK点付近で電子の移動度が低下する。また、バンド曲線が線型ではないため、グラファイトの光吸収率は光の波長によって変わることになる。
【0018】
よって、高移動度や波長に依存しない光吸収率等のグラフェンの特徴を活かしつつ、光検出素子の高感度化を実現するには、グラフェンがグラファイト化するのを抑制しながらグラフェンを積層するのが好ましい。
以下に、各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
【0019】
本実施形態に係る光検出素子について、その製造工程を追いながら説明する。この光検出素子は、グラフェンの光熱電効果を利用して光を検出する素子であり、以下のようにして製造される。
図4A~
図11Bは、本実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図である。
まず、
図4Aに示すように、表面に厚さが50nm~1000nm程度の酸化シリコン層11が形成されたシリコン基板10を用意する。
【0020】
次いで、
図4Bに示すように、酸化シリコン層11の上に下地金属層12と触媒金属層13とをこの順にスパッタ法で形成する。これらの層の材料や膜厚は特に限定されない。この例では、下地金属層12として窒化チタン層を0.1nm~50nm程度、例えば5nm程度の厚さに形成する。そして、触媒金属層13としてコバルト層を2nm~200nm程度、例えば20nm程度の厚さに形成する。
次に、
図4Cに示す工程について説明する。
【0021】
まず、不図示の熱CVD(Chemical Vapor Deposition)炉にシリコン基板10を入れ、基板温度を510℃程度とする。そして、この状態でアセチレンガスをアルゴンで希釈した反応ガスを200sccmの流量で炉に供給しつつ、炉の内部の圧力を1kPaに維持する。反応ガスにおけるアセチレンガスの濃度は10%とする。そして、この状態を50分維持することにより、100層程度のグラフェン15を積層してなる受光層14を得る。なお、グラフェン15の積層数はこれに限定されず、反応時間やアセチレン濃度を変化させることにより5層~500層程度にグラフェン15を積層し得る。
図12は、このようにして形成されたグラフェン15の数層の平面図である。
【0022】
図12に示すように、各グラフェン15は、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように形成される。これにより、各グラフェン15がグラファイト化して
図2A~2Cの結晶構造になるのを抑制でき、受光層14の電子状態をグラフェンのそれと同様の状態にすることができる。
【0023】
次に、
図5Aに示すように、受光層14の上にPMMA(Polymethyl methacrylate)等のポリマをスピンコート法で0.1μm~100μm程度の厚さに塗布し、そのポリマの塗膜を第1の支持層16とする。なお、ポリマに代えてレジストの塗膜を第1の支持層16として形成してもよい。
【0024】
その後、第1の支持層16を加熱して膜中の溶媒成分を除去する。このときの加熱温度は、第1の支持層16の材料にもよるが、例えば室温~200℃程度とする。
そして、
図5Bに示すように、例えば塩化鉄溶液で触媒金属層13を横から溶解して除去し、第1の支持層16の表面に受光層14が形成された構造を得る。
次に、
図6Aに示す工程について説明する。
【0025】
まず、前述の
図4A~
図5Bの工程とは別にサファイア基板17を用意し、その上にスパッタ法で触媒金属層18として鉄層を20nm~5000nm、例えば100nm程度の厚さに形成する。
【0026】
次いで、
図6Bに示すように、サファイア基板17を不図示の熱CVD炉に入れ、基板温度を1050℃程度に維持しながら炉の中にアンモニア、ジボラン、水素、及びアルゴンの混合ガスを供給する。そして、この状態を30分程度維持することにより、触媒金属層18の触媒作用によってその上に六方晶窒化ホウ素(hBN)層19を単原子層の厚さ(0.34nm)~100nm、例えば3nm程度の厚さに成長させる。
【0027】
続いて、
図7Aに示すように、六方晶窒化ホウ素層19の上にPMMA等のポリマをスピンコート法で0.1μm~100μm程度の厚さに塗布し、そのポリマの塗膜を第2の支持層20とする。なお、第1の支持層16と同様に、第2の支持層20としてレジストの塗膜を形成してもよい。その後に、第2の支持層20を室温~200℃程度の温度に加熱して膜中の溶媒成分を除去する。
【0028】
そして、
図7Bに示すように、サファイア基板17をエッチング液に浸漬することにより触媒金属層18を横からエッチングして除去し、第2の支持層20の表面に六方晶窒化ホウ素層19が形成された構造を得る。このときのエッチング液は特に限定されないが、エッチング時に気泡が発生しない塩化鉄(III)(FeCl
3)水溶液をそのエッチング液として使用するのが好ましい。
【0029】
なお、この例では触媒金属層18に六方晶窒化ホウ素層19を形成したが、触媒金属箔の表面に六方晶窒化ホウ素層19を形成してもよい。この場合、触媒金属箔の両面に六方晶窒化ホウ素層19が形成されるため、触媒金属箔をウエットエッチングするのが六方晶窒化ホウ素層19によって阻害されるおそれがある。よって、この場合は、触媒金属箔の一方の表面の六方晶窒化ホウ素層19をヤスリ等で機械的に削り取るのが好ましい。なお、酸素プラズマやアルゴンプラズマでその六方晶窒化ホウ素層19を除去してもよい。そして、触媒金属箔の他方の表面に残る六方晶窒化ホウ素層19の上に第2の支持層20を形成した後、第2の支持層20を上にして触媒金属箔をエッチング液に浮かばせ、触媒金属箔を下からエッチングすることで
図7Bと同じ構造が得られる。
【0030】
ここまでの工程により、
図5Bのように第1の支持層16の表面に受光層14が形成された構造と、
図7Bのように第2の支持層20の表面に六方晶窒化ホウ素層19が形成された構造とが得られたことになる。
この後は、以下のようにして受光層14と六方晶窒化ホウ素層19の各々を素子用の基板に転写する。
まず、
図8Aに示すように、シリコンウエハ21の上に酸化シリコン層22を形成してなる素子用の基板23を用意する。酸化シリコン層22は、その上に後で形成される電極や受光層14等の各要素を電気的に絶縁する絶縁層として機能し、50nm~1000nm程度の厚さ、例えば100nm程度の厚さに形成される。
次いで、
図8Bに示すように、六方晶窒化ホウ素層19を下にして第2の支持層20を基板23側に密着させる。
【0031】
これにより、第2の支持層20に形成されていた六方晶窒化ホウ素層19がファンデルワールス力によって酸化シリコン層22に吸着し、酸化シリコン層22に六方晶窒化ホウ素層19が転写される。
【0032】
なお、基板23に第2の支持層20を密着させるときに、基板23を室温~300℃程度の温度に加熱してもよい。これにより、六方晶窒化ホウ素層19と酸化シリコン層22との界面から水分が除去され、両者の密着力が高められる。
その後に、アセトン等の有機溶剤で第2の支持層20を溶解して除去する。
【0033】
次に、
図9Aに示すように、受光層14を下にして第1の支持層16を基板23側に密着させることにより、第1の支持層16に形成されていた各グラフェン15の各々を六方晶窒化ホウ素層19に一度に転写する。なお、受光層14におけるグラフェン15と六方晶窒化ホウ素層19とはファンデルワールス力によって互いに吸着した状態となる。
また、このように各グラフェン15を基板23側に一度に転写することにより、基板23に受光層14を形成する工程を簡略化することができる。
その後に、アセトン等の有機溶剤で第1の支持層16を溶解して除去する。
【0034】
以上により、基板23の上に六方晶窒化ホウ素層19と受光層14とがこの順に積層された構造が得られる。なお、その六方晶窒化ホウ素層19は下地層の一例である。
次に、
図9Bに示すように、六方晶窒化ホウ素層19の上にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより島状のマスク層24を形成する。
【0035】
続いて、
図10Aに示すように、マスク層24で覆われていない部分の受光層14を酸素プラズマで等方的にエッチングして、光を受光する受光領域Rのみに受光層14を残す。
このような等方的なエッチングにより、基板23の法線方向nに対して傾斜した第1の側面14aと第2の側面14bとが受光層14に形成されることになる。
その後に、
図10Bに示すように、アセトン等の有機溶剤によりマスク層24を除去する。
【0036】
次に、
図11Aに示すように、第1の側面14aが露出する開口を備えたレジスト層(不図示)を形成し、更に基板23の上側全面に蒸着法によりチタン層を0.02μm~1μm程度の厚さに形成する。その後に、レジスト層を除去することにより、第1の側面14aとその周囲のみにチタン層を第1の電極25として残し、それ以外の不要なチタン層を除去する。
【0037】
続いて、
図11Bに示すように、第2の側面14bが露出する開口を備えたレジスト層(不図示)を形成した後、第1の電極25とは材料が異なる金属層を基板23の上側全面に蒸着法で形成する。上記のように第1の電極25としてチタン層を形成する場合には、その金属層として白金層を0.02μm~1μm程度の厚さに形成する。そして、レジスト層を除去することにより、第2の側面14bとその周囲のみに白金層を第2の電極26として残し、それ以外の不要な白金層を除去する。
【0038】
なお、第1の電極25と第2の電極26の材料の組み合わせは、それぞれのゼーベック係数が異なれば上記に限定されない。例えば、第1の電極25の材料としては、上記のチタンの他にハフニウム、ジルコニウム、及びクロムもある。また、第2の電極26の材料としては、上記の白金の他に、ニッケル、パラジウム、及び金もある。これらの材料のうち、特にハフニウム、ジルコニウム、チタン、及びニッケルは、グラフェン15の端部15aにおいてグラファイト化し易いため、グラフェン15と各電極25、26との間のコンタクト抵抗を低減することができる。
【0039】
また、ゼーベック係数が異なる材料の組み合わせとして、熱電対で使用される金属の組み合わせを採用してもよい。そのような組み合わせとしては、例えば、アルメル-クロメル、鉄-コンスタンタン、銅-コンスタンタン、クロメル-コンスタンタン、ナイクロシル-ナイシル、及び白金ロジウム-白金がある。
以上により、本実施形態に係る光検出素子30の基本構造が完成する。
【0040】
この光検出素子30においては、上記のように互いに材料が異なる第1の電極25と第2の電極26とが受光層14のグラフェン15に接するように間隔をおいて形成される。
【0041】
このような構造によれば、受光層14の表面14zに光Cが入射したときにグラフェン15中の電子が励起し、光Cの強度に応じた電子温度の電子がグラフェン15から各電極25、26に供給される。そして、各電極25、26のゼーベック係数の相違に起因して光Cの強度に応じた電位差がこれらの電極25、26の間に生じ、その電位差が出力電圧として外部に出力される。
なお、このようにグラフェン15の光熱電効果を利用するため、この光検出素子30では冷却が不要となり、そのアプリケーションを広げることができる。
図13は光検出素子30の平面図であって、先の
図11Bは
図13のI-I線に沿う断面図に相当する。
図13に示すように、受光層14は一辺の長さが1μm~100μm程度の矩形状であって、その相対する側面14a、14bの各々に電極25、26が形成される。
【0042】
以上説明した本実施形態によれば、
図12に示したように、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれた複数のグラフェン15で受光層14を形成する。このように格子がずれることで各グラフェン15がグラファイト化するのを抑制でき、グラフェンと同様の電子状態の受光層14を得ることができる。
図14は、受光層14のバンド構造を示す図である。
【0043】
図3A及び
図3Bと同様に、
図14の横軸は、aをグラフェンの格子長(0.249nm)としたときの逆格子空間におけるK点からの距離を示す。また、縦軸は電子のエネルギ(eV)を示す。
【0044】
図14に示すように、上記のように本実施形態では受光層14がグラファイト化するのを抑制できるため、受光層14のバンド曲線は、グラフェンと同様に逆格子空間のK点において線型となる。なお、このようなバンド曲線は、例えば角度分解光電子分解法等で得ることができる。
【0045】
その結果、高移動度や波長に依存しない光吸収率等のグラフェンの特徴を活かしつつ、受光層14の複数のグラフェン15の各々で光熱電効果が発揮され、光検出素子30の高感度化を実現することが可能となる。
【0046】
本願発明者の試算によれば、受光層14におけるグラフェン15の層数を100層とすると、受光層14の光吸収率が95%以上となり、単原子層のグラフェン15のみを形成する場合と比較して感度が約50倍となる。
【0047】
しかも、本実施形態では受光層14の第1の側面14aを基板23の法線方向nから傾斜させたため、グラフェン15の端部15aに第1の電極25の材料が上から付着し易くなる。その結果、端部15aが第1の電極25に確実に接触し易くなり、受光層14と第1の電極25との間のコンタクト抵抗を低減することができる。また、このように各グラフェン15が第1の電極25に接触し易くなるため、グラフェン15の層数の増加と共に受光層14と第1の電極25との間のコンタクト抵抗が低減するようになる。
同様の理由により、第2の側面14bを法線方向nから傾斜させたことで、第2の電極26と受光層14との間のコンタクト抵抗も低減できる。
【0048】
なお、基板23の上にグラフェン15を直接形成すると、そのグラフェン15を走行する電子が酸化シリコン層22の表面極性フォノンによって散乱されてしまい、電子の移動度が低下するおそれがある。そのため、本実施形態のように受光層14の下に下地層として六方晶窒化ホウ素層19を形成し、酸化シリコン層22の表面極性フォノンの影響がグラフェン15に及ぶのを六方晶窒化ホウ素層19で抑制するのが好ましい。
【0049】
特に、六方晶窒化ホウ素層19は、グラフェン15における電子の移動度を高い値に維持する機能に優れているため、受光層14の下に形成する下地層として好適である。
なお、このように表面極性フォノンの影響を低減する機能を有する下地層としては、六方晶窒化ホウ素層の他に、ダイヤモンドライクカーボン層もある。
また、受光層14を大気から保護するために、受光層14の上面に保護層として六方晶窒化ホウ素層19を形成してもよい。
図15は、このように受光層14の上面に六方晶窒化ホウ素層19を形成した場合の光検出素子30の断面図である。
【0050】
六方晶窒化ホウ素層19は、赤外光に対して透明な絶縁層である。したがって、光検出素子30を赤外線検出素子として使用する場合、赤外光が六方晶窒化ホウ素層19によって遮られるのを防止できると共に、各電極25、26同士が六方晶窒化ホウ素層19によって電気的に短絡することもない。
【0051】
なお、この六方晶窒化ホウ素層19は、
図9Aの工程で基板23側に受光層14を転写した後、
図8Bの工程と同様に単原子層の厚さ(0.34nm)~100nm程度の厚さの六方晶窒化ホウ素層19を受光層14に転写することで形成され得る。
(第2実施形態)
【0052】
第1実施形態では、
図4Cを参照して説明したように、複数のグラフェン15が積層された受光層14を一回の成膜プロセスで形成した。本実施形態では、これとは別の方法で受光層14を形成する。
【0053】
図16A~
図19は、本実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図である。なお、
図16A~
図19において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0054】
まず、
図16Aに示すように、触媒金属層31として銅箔を用意し、不図示の熱CVD炉に触媒金属層31を入れる。そして、触媒金属層31を1000℃程度に加熱しながら炉の中にメタン、水素、及びアルゴンの混合ガスを供給する。この状態を30分程度維持することにより、触媒金属層31の触媒作用によってその上に単原子層のグラフェン15が成長する。
【0055】
なお、触媒金属層31に代えて、表面に酸化シリコン層が形成されたシリコン基板を用意してもよい。そして、その酸化シリコン層の表面に銅層等の触媒金属層を形成してその上に単原子層のグラフェン15を形成してもよい。
【0056】
次に、
図16Bに示すように、グラフェン15の上にPMMA等のポリマをスピンコート法で0.1μm~100μm程度の厚さに塗布し、そのポリマの塗膜を第3の支持層32とする。なお、ポリマに代えてレジストの塗膜を第3の支持層32として形成してもよい。
その後、第3の支持層32を室温~200℃程度の温度に加熱して膜中の溶媒成分を除去する。
【0057】
そして、
図16Cに示すように、例えば塩化鉄溶液で触媒金属層31を溶解して除去し、第3の支持層32の表面に単原子層のグラフェン15が形成された構造を得る。
次に、
図17Aに示すように、上記の触媒金属層31とは別に、シリコンウエハ21の上に酸化シリコン層22が形成された素子用の基板23を用意する。
【0058】
続いて、
図17Bに示すように、第1実施形態の
図6A~
図7Bの工程に従って六方晶窒化ホウ素層19の上に第2の支持層20を形成する。そして、六方晶窒化ホウ素層19を下にして第2の支持層20を基板23側に密着させることにより、基板23に六方晶窒化ホウ素層19を転写する。
その後に、アセトン等の有機溶剤で第2の支持層20を溶解して除去する。
【0059】
次に、
図18Aに示すように、
図16Cのように表面に単原子層のグラフェン15が形成された第3の支持層32を用意する。そして、グラフェン15を下にして第3の支持層32を基板23側に密着させることにより、六方晶窒化ホウ素層19の上に単原子層のグラフェン15を転写する。その後、アセトン等の有機溶剤で第3の支持層32を溶解して除去する。
【0060】
そして、
図18Bに示すように、上記したグラフェン15の転写を一層ずつ行う。このとき、各グラフェン15の格子が平面視で相互にランダムにずれるように、グラフェン15を転写する度に基板23と第3の支持層32の相互の位置を基板面内でランダムにずらす。ずらす方向は特に限定されず、基板面内で基板23と第3の支持層32を相互に回転させてもよいし、これらを相互に平行移動させてもよい。
【0061】
これにより、第1実施形態の
図12と同様に、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれたグラフェン15を積層してなる受光層14を形成することができる。受光層14におけるグラフェン15の積層数は、5層~500層、例えば100層程度とする。
この後は、第1実施形態の
図9B~
図11Bの工程を行うことにより、
図19に示す本実施形態に係る光検出素子30の基本構造を得る。
【0062】
以上説明した本実施形態においても、受光層14における各グラフェン15の格子が相互にランダムにずれている。そのため、第1実施形態と同様に受光層14がグラファイト化するのが抑制され、光検出素子30の高感度化を実現することが可能となる。
【0063】
しかも、本実施形態では、
図18A~
図18Bに示したように、基板23と第3の支持層32との相互の位置をランダムにずらしながら基板23側にグラフェン15を一層ずつ転写する。これにより、複数のグラフェン15の各々の格子を相互に確実にずらすことができる。
(第3実施形態)
本実施形態では、以下のようにして基板23の表面極性フォノンの影響がグラフェン15に及ぶのを抑制する。
【0064】
図20A~
図21Bは、本実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図である。なお、
図20A~
図21Bにおいて、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0065】
まず、第1実施形態の
図4A~
図11Bの工程を行うことにより、
図20Aに示すように、基板23の上に受光層14と各電極25、26とが形成された構造を得る。但し、本実施形態では酸化シリコン層22の上に六方晶窒化ホウ素層19(
図11B参照)を形成せずに、厚さが1000nm程度の酸化シリコン層22の上に受光層14を直接形成する。
【0066】
次いで、
図20Bに示すように、基板23の上側全面にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより、受光層14の上に開口33aを備えたマスク層33を形成する。
図22は、本工程を終了した後の平面図であり、先の
図20Bは
図22のII-II線に沿う断面図に相当する。
図22に示すように、開口33aと受光層14との間には隙間が形成されており、その隙間から酸化シリコン層22が露出する。
【0067】
続いて、
図21Aに示すように、開口33aから露出している部分の酸化シリコン層22を緩衝フッ酸でエッチングし、受光層14の下の基板23の表面23xに凹部23aを形成する。
その後に、
図21Bに示すようにマスク層33を除去し、本実施形態に係る光検出素子35の基本構造を完成させる。
図23は、本工程を終了した後の平面図であり、先の
図21Bは
図23のIII-III線に沿う断面図に相当する。
図23に示すように、凹部23aと受光層14との間の隙間にはシリコンウエハ21が露出する。
【0068】
以上説明した本実施形態によれば、
図21Bに示したように、受光層14の下の基板23に凹部23aを形成し、凹部23aの下面23bから受光層14を上方に離間させる。これにより、下面23bの表面極性フォノンの影響がグラフェン15に及ぶのを抑制でき、グラフェン15における電子の移動度を高い状態に維持することが可能となる。
【0069】
特に、酸化シリコン層22は、その表面極性フォノンによってグラフェン15の移動度を大きく低下させてしまうため、このように凹部23aを形成して移動度の低下を抑えるのが好ましい。
(第4実施形態)
本実施形態では、以下のようにしてグラフェン15と各電極25、26との間のコンタクト抵抗を低減する。
【0070】
図24A~
図26は、本実施形態に係る光検出素子の製造途中の断面図である。なお、
図24A~
図26において、第1~第3実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
まず、第1実施形態で説明した
図4A~
図9Bの工程を行うことにより、
図24Aに示すように、受光層14の上にマスク層24が形成された構造を得る。
【0071】
但し、本実施形態では、後で電極を形成する第1の領域R1と第2の領域R2におけるマスク層24に、それぞれ第1の開口24aと第2の開口24bを複数形成する。
【0072】
次に、
図24Bに示すように、各開口24a、24bを通じて受光層14を酸素プラズマで等方的にエッチングする。これにより、第1の領域R
1においては、複数のテーパ状の第1のホール14xと第1の側面14aとが受光層14に形成される。また、第2の領域R
2においては、複数のテーパ状の第2のホール14yと第2の側面14bとが受光層14に形成される。これらのホール14x、14yの直径は、例えば0.02μm~2μm程度である。
その後に、
図25Aに示すように、マスク層24を除去する。
【0073】
次いで、
図25Bに示すように、第1の側面14aと第1のホール14xが露出する開口を備えたレジスト層(不図示)を形成し、更に基板23の上側全面に蒸着法によりチタン層を形成する。その後に、レジスト層を除去することにより、第1のホール14x内と第1の側面14aとにチタン層を第1の電極25として残し、それ以外の不要なチタン層を除去する。
【0074】
続いて、
図26に示すように、第2の側面14bと第2のホール14yとが露出する開口を備えたレジスト層(不図示)を形成する。その後、白金層を基板23の上側全面に蒸着法で形成し、更にレジスト層を除去することにより、第2のホール14y内と第2の側面14bに白金層を第2の電極26として残し、それ以外の不要な白金層を除去する。
以上により、本実施形態に係る光検出素子40の基本構造が完成する。
図27は、光検出素子40の平面図であって、先の
図26は
図27のIV-IV線に沿う断面図に相当する。
図27に示すように、第1のホール14xと第2のホール14yの各々は、平面視でグリッド状に配される。
【0075】
上記した本実施形態によれば、受光層14に第1のホール14xを形成してその内部にも第1の電極25を形成する。そのため、第1の側面14aだけでなく第1のホール14xにおいても第1の電極25がグラフェン15の端部15aに接するようになり、第1の電極25とグラフェン15との間のコンタクト抵抗を低減できる。
【0076】
しかも、第1のホール14xをテーパ状としたことで、グラフェン15の端部15aに第1の電極25の材料が上から付着し易くなるため、第1の電極25とグラフェン15との間のコンタクト抵抗を更に低減できる。同様に、第2のホール14yにおいても第2の電極26とグラフェン15と間のコンタクト抵抗を低減することが可能となる。
(第5実施形態)
本実施形態では、第4実施形態とは別の構造を採用することにより、グラフェン15と各電極25、26との間のコンタクト抵抗を低減する。
【0077】
図28は、本実施形態に係る光検出素子45の平面図である。なお、
図28において、第1~第4実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0078】
図28に示すように、本実施形態における第1の電極25は、平面視で櫛歯状であって、第1の方向Xに沿って延びる複数の第1の歯25aを有する。同様に、第2の電極26も平面視で櫛歯状であって、第1の方向Xに沿って延びる複数の第2の歯26aを有する。
これらの歯25a、26aの長さと幅は特に限定されないが、例えば各歯25a、26aを第1の方向Xに沿って1μm~100μm程度の長さに形成し、各歯25a、26aの幅を0.02μm~5μm程度とする。また、各歯25a、26aは、第1の方向Xに交差する第2の方向Yに沿って間隔をおいて設けられる。第2の方向Yに沿って隣接する第1の歯25a同士の間隔は例えば1μm~20μm程度である。これについては第2の歯26aでも同様である。
なお、
図28の例では各歯25a、26aの間隔を不均一としているが、各歯25a、26aを等間隔に配置してもよい。
図29Aは
図28のV-V線に沿う断面図であり、
図29Bは
図28のVI-VI線に沿う断面図である。
図29Aに示すように、第1の電極25は、第1実施形態と同様に受光層14の第1の側面14aとその周囲に形成される。
【0079】
また、
図29Bに示すように、受光層14には第1の溝14cと第2の溝14dがそれぞれ複数形成される。これらの溝14c、14dは、第4実施形態の
図24Bの工程と同様に、マスク層24で覆われていない部分の受光層14を等方的にエッチングすることで形成され得る。そして、これらの溝14c、14dに、第1の歯25aと第2の歯26aの各々が埋め込まれる。
【0080】
これにより、第1の溝14cにおいて第1の歯25aがグラフェン15の端部15aに接するようになり、第1の溝14cがない場合と比較して第1の電極25とグラフェン15との間のコンタクト抵抗を低減できる。同様に、第2の溝14dに第2の歯26aを形成することにより、第2の電極26とグラフェン15との間のコンタクト抵抗も低減できる。なお、第4実施形態のように各電極25、26の下にホール14x、14yを設け、各電極25、26とグラフェン15との間のコンタクト抵抗を更に低減してもよい。
【0081】
しかも、
図28のように各電極25、26を櫛歯状としたことにより、受光層14が光を受光するスペースSを各歯25a、26aの間に確保でき、受光層14の受光面積が低減するのを抑制できる。
(第6実施形態)
本実施形態では、以下のようにして光検出素子から出力される出力電圧を高める。
【0082】
図30は、本実施形態に係る光検出素子50の平面図である。なお、
図30において、第1~第5実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0083】
図30に示すように、本実施形態では、第1の方向Xに沿って延びる素子分離溝14eを受光層14に形成し、その素子分離溝14eで受光層14を第1~第4の受光部D
1~D
4に分離する。これらの受光部D
1~D
4は、平面視で矩形状であって、第1の方向Xと交差する第2の方向Yに沿って間隔をおいて配される。なお、素子分離溝14eの幅は0.02μm~5μm程度である。
【0084】
そして、第1の電極25と第2の電極26とを受光部D
1~D
4ごとに設け、隣接する受光部の各電極25、26同士を電気的に接続する。なお、両端の第1の電極25と第2の電極26の各々には、受光層14の出力電圧を取り出すための出力パッド25p、26pが設けられる。
このような構造によれば、各受光部D
1~D
4が直列に接続されるため、光検出素子50から出力される出力電圧を高めることが可能となる。
図31Aは
図30のVII-VII線に沿う断面図であり、
図31Bは
図30のVIII-VIII線に沿う断面図である。
図31Aに示すように、VII-VII線に沿う断面には21の電極26が現れず、第1の電極25が現れる。
【0085】
また、
図31Bに示すように、各電極25、26は、素子分離溝14eの側面に形成される。素子分離溝14eは、第4実施形態の
図24Bの工程と同様に、マスク層24で覆われていない部分の受光層14を等方的にエッチングすることで形成され得る。
このような構造によれば、素子分離溝14eにおいて各電極25、26とグラフェン15の端部15aとを接続することができる。
(第7実施形態)
本実施形態では、第1~第6実施形態で説明した光検出素子を備えた光センサについて説明する。
【0086】
図32は、本実施形態に係る光センサの斜視図である。なお、
図32において、第1~第6実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
この光センサ70は、画像を取得するためのイメージセンサであって、撮像素子71とそれを駆動する駆動素子72とを有する。
このうち、撮像素子71は、平面内に間隔をおいて複数形成された画素73を備える。
【0087】
一方、駆動素子72は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造の複数のトランジスタが形成されたシリコン基板を備える。これらのトランジスタには、光検出素子30を含む各画素73を選択する選択トランジスタや、画素73の出力電圧を増幅するアンプ等の増幅回路用のトランジスタ等が含まれる。また、駆動素子72には入出力用のパッド74が設けられる。撮像素子71を駆動するための駆動電圧はそのパッド74から入力される。そして、増幅回路で増幅された出力電圧はパッド74から出力される。
なお、撮像素子71と駆動素子72の各々は、バンプ75によって機械的かつ電気的に接続される。
図33は、この光センサ70の等価回路図である。
【0088】
図33に示すように、光センサ70は、水平走査シフトレジスタ81、垂直走査シフトレジスタ82、列選択トランジスタ83、ソースフォロア電流設定トランジスタ86、及び出力アンプ89を備える。
【0089】
このうち、水平走査シフトレジスタ81は、複数の列選択トランジスタ83のうちの一つのゲートに列選択電圧Vcol_selを印加し、その列選択トランジスタ83をオン状態にする。
【0090】
また、垂直走査シフトレジスタ82は、複数のアドレス線91のうちの一つに行選択電圧Vrow_selを印加する。これにより、そのアドレス線91に繋がる画素73の行選択トランジスタ84がオン状態になる。
一方、画素73は、光検出素子30、行選択トランジスタ84、増幅トランジスタ85、入力アンプ87、及び電源88を有する。なお、第1実施形態に係る光検出素子30に代えて、第2~第5実施形態に係る光検出素子を使用してもよい。
【0091】
光検出素子30に光が入射すると、その光の強度に応じた出力電圧Voutが光検出素子30から入力アンプ87に出力される。その入力アンプ87には、電源88の電圧が基準電圧Vrefとして入力されており、基準電圧Vrefと出力電圧Voutとの電圧差を増幅した増幅電圧Vampが入力アンプ87から出力される。
【0092】
基準電圧Vrefの値は特に限定されない。例えば、光検出素子30の平均的な出力電圧に応じて基準電圧Vrefの値を適宜調節することにより、増幅電圧Vampが後段の各回路に適合するようにすればよい。
【0093】
増幅電圧Vampは、増幅トランジスタ85のゲートに印加される。増幅トランジスタ85はソースフォロワ型のアンプとして機能し、増幅電圧Vampに対応した電圧が増幅トランジスタ85のソースに出力される。
【0094】
増幅トランジスタ85のソースには行選択トランジスタ84が接続されており、行選択トランジスタ84がオン状態のときに、増幅電圧Vampに応じた大きさの画素電圧Vpixelが垂直バス線92に出力される。
【0095】
このように、この光センサ70においては、水平走査シフトレジスタ81と垂直走査シフトレジスタ82によって選択した一つの画素73から画素電圧Vpixelを取り出すことができる。
【0096】
そして、選択する画素73を時間と共に切り替えていくことにより、水平バス線93に画素電圧Vpixelが順次出力される。なお、水平バス線93の電流量はソースフォロア電流設定トランジスタ86によって設定される。これらの画素電圧Vpixelは、水平バス線93を介して出力アンプ89に入力される。出力アンプ89は、各々の画素電圧Vpixelを増幅してアナログ値の画像信号Soutを外部に出力する。
【0097】
このような光センサ70によれば、第1実施形態で説明したように、格子が相互にランダムにずれた各グラフェン15によって光検出素子30の感度が高められるため、微弱な光であっても画像を取得することができる。
次に、この光センサ70を備えた撮像装置について説明する。
図34は、本実施形態に係る撮像装置100の構成図である。
【0098】
図34に示すように、この撮像装置100は、光センサ70を収容した筐体101を備える。その筐体101には、撮像レンズ102、フィルタ103、A/D変換部104、感度補正部105、表示調整部106、補正係数メモリ107、及び光センサ・ドライバ部108が設けられる。
この例では、撮像レンズ102の焦点に光センサ70の各光検出素子30を配置し、光センサ・ドライバ部108で光センサ70を制御しながら、前述の駆動素子72で撮像素子71からの出力を取り出す。
【0099】
また、フィルタ103は、波長が例えば1000nm以上の赤外光を透過する赤外線透過フィルタであって、撮像レンズ102と光センサ70との間に設けられる。そのフィルタ103により、光センサ70において赤外線画像が取得されることになる。
また、A/D変換部104は、光センサ70から出力された画像信号Soutをデジタル信号に変換し、それを後段の感度補正部105に出力する。
【0100】
感度補正部105は、複数の画素73の感度のばらつきを加味して画像信号Soutを補正する回路である。この例では、各画素73の感度を補正するための補正係数を補正係数メモリ107に予め記憶させておく。そして、その補正係数メモリ107を感度補正部105が参照することにより、感度補正部105が画像信号Soutを補正する。
【0101】
補正後の画像信号Soutは、表示調整部106に入力される。表示調整部106は、画像信号Soutのゲインやオフセットを調整して画像のコントラストを最適化する回路であり、調整後の最終的な画像信号Soutを外部に出力する。
【0102】
このような撮像装置によれば、前述のように光センサ70における光検出素子30の感度が高められているため、撮像対象から出る赤外光が微弱な場合であっても明瞭な赤外像を取得することができる。
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 基板と、
前記基板の上に形成され、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備えた受光層と、
前記受光層に接する第1の電極と、
前記受光層に接し、前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極と、
を有することを特徴とする光検出素子。
(付記2) 前記受光層のバンド曲線は、逆格子空間のK点において線型であることを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記3) 前記基板の上に、六方晶窒化ホウ素又はダイヤモンドライクカーボンを含む下地層が形成され、
前記下地層の上に前記受光層が形成されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記4) 前記受光層の下の前記基板の表面に凹部が形成されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記5) 前記受光層の上面に、六方晶窒化ホウ素層が形成されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記6) 前記受光層は、前記基板の法線方向に対して傾斜した第1の側面と、前記法線方向に対して傾斜した第2の側面とを有し、
前記第1の側面に前記第1の電極が形成され、かつ前記第2の側面に前記第2の電極が形成されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記7) 前記受光層は、第1の領域と第2の領域とを有し、
前記第1の領域における前記受光層に複数の第1のホールが形成され、
前記第2の領域における前記受光層に複数の第2のホールが形成され、
前記第1の電極が複数の前記第1のホール内に形成され、
前記第2の電極が複数の前記第2のホール内に形成されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記8) 前記第1のホールと前記第2のホールの各々は、断面視でテーパ状であることを特徴とする付記7に記載の光検出素子。
(付記9) 前記受光層に、複数の第1の溝と複数の第2の溝とが形成され、
前記第1の電極は、複数の前記第1の溝の各々に埋め込まれた複数の第1の歯を備えた櫛歯状であり、
前記第2の電極は、複数の前記第2の溝の各々に埋め込まれた複数の第2の歯を備えた櫛歯状であることを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記10) 前記受光層は、素子分離溝によって第1の受光部と第2の受光部とに分離され、
前記第1の受光部と前記第2の受光部ごとに、前記第1の電極と前記第2の電極とが設けられ、
前記第1の受光部の前記第1の電極と、前記第2の受光部の前記第2の電極とが電気的に接続されたことを特徴とする付記1に記載の光検出素子。
(付記11) 基板の上に、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備えた受光層を形成する工程と、
前記受光層に接する第1の電極を形成する工程と、
前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極を前記受光層に接するように形成する工程と、
を有することを特徴とする光検出素子の製造方法。
(付記12) 前記受光層のバンド曲線は、逆格子空間のK点において線型であることを特徴とする付記11に記載の光検出素子の製造方法。
(付記13) 前記受光層を形成する工程は、各々の前記格子が平面視で相互にランダムにずれるように第1の支持層の上に形成された複数の前記グラフェンの各々を前記基板側に一度に転写することにより行われることを特徴とする付記11に記載の光検出素子の製造方法。
(付記14) 前記受光層を形成する工程は、第2の支持層の上に形成された単原子層の前記グラフェンを、前記基板と前記第2の支持層との相互の位置をランダムにずらしながら一層ずつ転写することにより行われることを特徴とする付記11に記載の光検出素子の製造方法。
(付記15) 前記受光層の下の前記基板の表面に凹部を形成する工程を更に有することを特徴とする付記11に記載の光検出素子の製造方法。
(付記16) 前記受光層を形成する工程の前に、前記基板の上に六方晶窒化ホウ素又はダイヤモンドライクカーボンを含む下地層を形成する工程を更に有することを特徴とする付記11に記載の光検出素子の製造方法。
(付記17) 前記下地層を形成する工程は、第3の支持層の上に形成された前記下地層を、前記基板を加熱しながら前記基板側に転写することにより行われることを特徴とする付記16に記載の光検出素子の製造方法。
(付記18) 平面内に間隔をおいて複数形成され、入射光の強度に応じた出力電圧を出力する画素と、
前記出力電圧を増幅する増幅回路とを備え、
前記画素は、
基板と、
前記基板の上に形成され、各々の格子が平面視で相互にランダムにずれるように積層された複数のグラフェンを備えた受光層と、
前記受光層に接する第1の電極と、
前記受光層に接し、前記第1の電極とは材料が異なる第2の電極とを有することを特徴とする光センサ。
【符号の説明】
【0103】
10…シリコン基板、11…酸化シリコン層、12…下地金属層、13…触媒金属層、14…受光層、14a…第1の側面、14b…第2の側面、14c…第1の溝、14d…第2の溝、14e…素子分離溝、14x…第1のホール、14y…第2のホール、14z…表面、15…グラフェン、15a…端部、16…第1の支持層、17…サファイア基板、18…触媒金属層、19…六方晶窒化ホウ素層、20…第2の支持層、21…シリコンウエハ、22…酸化シリコン層、23…基板、23a…凹部、23b…下面、23x…表面、24…マスク層、24a…第1の開口、24b…第2の開口、25…第1の電極、25a…第1の歯、25p…出力パッド、26…第2の電極、26a…第2の歯、26p…出力パッド、30…光検出素子、31…触媒金属層、32…第3の支持層、33…マスク層、33a…開口、35、40、45、50…光検出素子、70…光センサ、71…撮像素子、72…駆動素子、73…画素、74…パッド、75…バンプ、81…水平走査シフトレジスタ、82…垂直走査シフトレジスタ、83…列選択トランジスタ、84…行選択トランジスタ、85…増幅トランジスタ、86…ソースフォロア電流設定トランジスタ、87…入力アンプ、88…電源、89…出力アンプ、91…アドレス線、92…垂直バス線、93…水平バス線、100…撮像装置、101…筐体、102…撮像レンズ、103…フィルタ、104…変換部、105…感度補正部、106…表示調整部、107…補正係数メモリ、108・・・光センサ・ドライバ部。