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特許7260767溶接継手、及び、その溶接継手の製造に用いられる溶接材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】溶接継手、及び、その溶接継手の製造に用いられる溶接材料
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20230412BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230412BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230412BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20230412BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B23K35/30 320Q
C21D8/02 D
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C22C19/05 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019070379
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020168639
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小薄 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】浄▲徳▼ 佳奈
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-195980(JP,A)
【文献】特開2002-235136(JP,A)
【文献】特開2006-075841(JP,A)
【文献】特開平09-324245(JP,A)
【文献】特開平08-337851(JP,A)
【文献】特開平08-337850(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003823(WO,A1)
【文献】特開2013-217454(JP,A)
【文献】特開昭51-117939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C21D 8/02
C22C 38/00
C22C 38/54
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手であって、
一対の母材と、
一対の前記母材の間に配置された溶接金属とを備え、
前記母材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~50.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.20%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~5.00%、
W:0~5.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記溶接金属は、
前記溶接金属の延在方向に垂直な断面において、一対の前記母材の開先のルート面の間の領域を含む初層領域と、
前記初層領域以外の他層領域とを備え、
前記溶接金属の延在方向に垂直に切断した断面における前記溶接金属の幅中央位置であって、かつ、前記初層領域の厚さ中央位置での化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.150%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~80.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.50%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~15.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記初層領域において、F1=Fe/Niと定義したとき、
F1が0.16~1.60であり、
前記溶接金属の延在方向に垂直に切断した断面における前記溶接金属の幅中央位置であって、かつ、前記他層領域の厚さ中央位置での化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなり、
前記他層領域において、F2=Fe/Niと定義したとき、
F1>F2を満たす、
溶接継手。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記母材の前記化学組成は、
Nb:0.01~3.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~0.20%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~5.00%、
W:0.01~5.00%、
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
溶接継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接継手であって、
前記溶接金属の前記初層領域の前記化学組成は、
Nb:0.01~3.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~15.00%、
W:0.01~15.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%以下、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
溶接継手。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記溶接金属の前記他層領域の前記化学組成は、
Nb:0.01~2.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~15.00%、
W:0.01~12.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、
希土類元素:0.001~0.100%、及び、
Fe:0.01~20.00%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
溶接継手。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記母材は、長手方向に垂直な断面が円形状の管であり、
前記溶接金属は、前記母材の円周方向に延在する、
溶接継手。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記溶接継手は、エチレンプラント用途の分解炉管又は改質炉管である、
溶接継手。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の溶接継手の製造に用いられる溶接材料であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなる、
溶接材料。
【請求項8】
請求項7に記載の溶接材料であって、
前記化学組成は、質量%で、
Nb:0.01~2.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~12.00%、
W:0.01~12.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、
希土類元素:0.001~0.100%、及び、
Fe:0.01~20.00%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
溶接材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接継手及び溶接材料に関し、さらに詳しくは、高温浸炭環境で使用される溶接継手、及び、その溶接継手の製造に用いられる溶接材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンプラントに代表される化学プラントに利用される合金材には、耐浸炭性及び耐コーキング性が求められる場合がある。たとえば、エチレンプラント用分解炉や改質炉は、ナフサ、プロパン、エタン等の炭化水素原料を800℃以上の高温で分解又は改質して、エチレンやプロピレン等の石油化学基礎製品を製造する。以下、炭化水素ガスを含有し、温度が800℃以上の雰囲気を、本明細書では、「高温浸炭環境」という。エチレンプラント用分解炉や改質炉には、溶接構造物が利用される。エチレンプラント用途の溶接構造物には、溶接継手が利用される。溶接継手は、合金管、合金板等の一対の母材と、一対の母材の間に配置される溶接金属とを備える。
【0003】
上述のエチレンプラントで利用される炭化水素原料は、原料価格の観点から、ナフサからエタンへと代替されつつある。エタンはナフサと比較して、分解工程において硬質なコークを形成する。そのため、エチレンプラント用途の溶接継手には、高温浸炭環境での優れた耐浸炭性及び優れた耐コーキング性が求められる。
【0004】
従来、エチレンプラント用途の鋼材として、特開昭57-23050号公報(特許文献1)に開示されているように、Si含有量を5%以下とする、高Si耐熱鋼材(Fe基合金)が利用されてきた。高Si耐熱鋼材では、高温浸炭環境において、表面にSi酸化皮膜が形成される。これにより、高Si耐熱鋼材では、耐浸炭性及び耐コーキング性が高まる。しかしながら、最近では、より優れた耐浸炭性及び優れた耐コーキング性が求められる。
【0005】
そこで、特開平4-358037号公報(特許文献2)及び特開平5-239577号公報(特許文献3)では、Fe基合金に代えて、Ni基合金とし、さらに、Siに代えてAl含有量を高めた耐熱Ni基合金材が提案されている。特許文献2及び特許文献3では、Ni基合金材において、Al含有量を4.5~12%とする。これらの文献に開示された耐熱合金材では、高温浸炭環境において、Al23からなるアルミナ皮膜が表面に形成される。アルミナ皮膜はSi酸化皮膜よりも強固で緻密である。そのため、アルミナ皮膜はSi酸化皮膜よりも優れた耐浸炭性及び耐コーキング性を示す。特許文献2及び特許文献3ではさらに、特許文献1に開示されたFeをベースとするFe基合金材に代えて、NiをベースとするNi基合金材を採用している。Ni基合金材では、高温浸炭環境において、合金中にガンマプライム相(γ’相:Ni3Al)が析出する。γ’相の析出により、Ni基合金材は析出強化され、高温浸炭環境において、高い高温クリープ強度を示す。
【0006】
Al含有量の高いNi基合金材は、高温浸炭環境での使用に適しており、高い高温クリープ強度、優れた耐浸炭性、及び、優れた耐コーキング性を有する。しかしながら、γ’相は、Ni基合金材の製造工程中の熱間加工工程においても析出する。γ’相は熱間加工性を下げてしまう。したがって、特許文献2及び特許文献3の耐熱合金材は、製造性が十分ではない。そこで、製造時においては熱間加工性を担保でき、高温浸炭環境での使用時においては優れた耐浸炭性、及び、優れた耐コーキング性を有する合金材が求められていた。
【0007】
特開2018-003064号公報(特許文献4)は、Ni基合金材に代えて、Fe基合金材であって、Al含有量を高めた耐熱合金材を提案する。特許文献4に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.25~0.7%、Si:0.01~2.0%、Mn:2.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:10~19%、Ni:20~40%、Al:2.5超~4.5%未満、Nb:0.01~3.5%、N:0.03%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、鋼表面から2μm深さまでの範囲におけるCr濃度CCr´及びAl濃度CAl´は、母材のCr濃度CCr及びAl濃度CAlに対して、0.4≦(CCr´/CAl´)/(CCr/CAl)≦0.8を満たす。この文献のオーステナイト系ステンレス鋼は、優れた耐浸炭性及び優れた耐コーキング性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭57-23050号公報
【文献】特開平4-358037号公報
【文献】特開平5-239577号公報
【文献】特開2018-003064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1~4では、高温浸炭環境用途の合金材が開示されている。しかしながら、上述のとおり、エチレンプラントでは、合金管や合金板が、溶接された溶接構造物として使用される。つまり、エチレンプラントの溶接構造物では、合金管や合金板からなる母材と、溶接金属とを備える溶接継手が使用される。溶接継手は、エチレンプラントの建設予定地、又は、エチレンプラントの所在地等で、母材を溶接して製造される場合がある。そのような場合であっても、溶接継手の溶接金属において、溶接時における割れが抑制される方が好ましい。
【0010】
本開示の目的は、溶接時における溶接金属の割れを抑制できる、溶接継手、及びその溶接継手を製造するための溶接材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示による溶接継手は、
一対の母材と、
一対の前記母材の間に配置された溶接金属とを備え、
前記母材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~50.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.20%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~5.00%、
W:0~5.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記溶接金属は、
前記溶接金属の延在方向に垂直な断面において、一対の前記母材の開先のルート面の間の領域を含む初層領域と、
前記初層領域以外の他層領域とを備え、
前記初層領域は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.150%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~80.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.50%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~15.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記初層領域において、F1=Fe/Niと定義したとき、
F1が0.16~1.60であり、
前記他層領域は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなり、
前記他層領域において、F2=Fe/Niと定義したとき、
F1>F2を満たす。
【0012】
本開示による溶接材料は、
化学組成が、質量%で、
C:0.030~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の溶接継手は、溶接時における溶接金属の割れを抑制できる。本開示の溶接材料は、本開示の溶接継手の製造に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態の溶接継手の一例を示す平面図である。
図2図2は、図1の溶接継手を溶接金属幅方向で切断した断面図である。
図3図3は、図1の溶接継手を溶接金属延在方向で切断した断面図である。
図4図4は、図3と異なる、図1の溶接継手を溶接金属延在方向で切断した断面図である。
図5図5は、本実施形態の溶接継手の一対の母材の開先形状を示す図である。
図6図6は、図5と異なる、本実施形態の溶接継手の一対の母材の開先形状を示す図である。
図7図7は、図5及び図6と異なる、本実施形態の溶接継手の一対の母材の開先形状を示す図である。
図8図8は、図5のV形開先を有する母材を備える溶接継手の、溶接金属延在方向に垂直な断面図である。
図9図9は、図6のU形開先を有する母材を備える溶接継手の、溶接金属延在方向に垂直な断面図である。
図10図10は、図7のX形開先を有する母材を備える溶接継手の、溶接金属延在方向に垂直な断面図である。
図11図11は、溶接金属の初層領域の化学組成と他層領域の化学組成の分析位置を説明するための図である。
図12図12は、実施例で用いた母材の形状を示す図である。
図13図13は、実施例において、拘束板上に配置された一対の母材、及び多層盛り溶接により形成された初層領域及び溶接金属を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、高温浸炭環境で使用可能である、つまり、耐浸炭性及び耐コーキング性に優れた溶接継手の検討を行った。
【0016】
溶接継手のうち、母材としては、特許文献4に類似するFe基合金からなる母材を用いるのが適切であると、本発明者らは考えた。より具体的には、溶接継手の母材の化学組成を、質量%で、C:0.010~0.250%、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~27.00%、Ni:20.00~50.00%、Al:2.50~4.50%、N:0.050%以下、Nb:0~3.00%、Cu:0~5.00%、Ti:0~0.20%、Zr:0~0.10%、Mo:0~5.00%、W:0~5.00%、B:0~0.0050%、V:0~0.50%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、希土類元素:0~0.100%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成とすることが適切であると考えた。
【0017】
なお、本明細書において、Fe基合金とは、Fe含有量が質量%で24.00%以上であり、Ni含有量が質量%で50.00%以下である合金を意味する。
【0018】
次に、溶接継手の溶接金属の検討を行った。通常、溶接継手を製造する場合、溶接金属の化学組成を、母材に近い化学組成とする。そこで、本発明者らは、母材をFe基合金とする場合、母材に近い化学組成のFe基合金からなる溶接材料を用いて、溶接継手を形成するのが適切と考えた。
【0019】
しかしながら、Fe基合金からなる溶接材料を用いて多層盛り溶接により溶接継手を製造した結果、次の問題が生じることが判明した。
【0020】
上述の化学組成を有する母材では、表面にアルミナ皮膜が形成される。このアルミナ皮膜が、耐浸炭性及び耐コーキング性を高める。しかしながら、母材と同様のFe基合金からなる溶接材料を用いて多層盛り溶接を実施して溶接金属を形成した場合、母材と同様のアルミナ皮膜が溶接金属に十分に形成されない。この理由は定かではないが、次の理由が考えられる。多層盛り溶接時に多量の酸素が溶接金属内に入り込む。そのため、Al23が生成する前に、Cr23が優先して生成する。その結果、溶接金属の表面にはアルミナ皮膜よりもポーラスなクロミア皮膜が生成する。Fe基合金材の場合、クロミア皮膜では十分な耐浸炭性及び耐コーキング性が得られない。
【0021】
さらに、Fe基合金からなる溶接金属の場合、溶接時における熱膨張及び熱収縮による残留応力が発生しやすい。特に、多層盛り溶接の場合、引張残留応力が大きくなる。そのため、Fe基合金からなる溶接金属の場合、引張残留応力に起因した凝固割れが発生しやすくなる。
【0022】
そこで、本発明者らは、従来の発想とは異なるアプローチの溶接継手として、Fe基合金からなる母材に対して、Ni基合金からなる溶接材料を用いて溶接金属を形成することを考えた。
【0023】
ここで、本明細書において、Ni基合金とは、Ni含有量が質量%で40.00%以上であり、かつ、Fe含有量が質量%で20.00%未満である合金を意味する。
【0024】
具体的には、化学組成が、質量%で、C:0.030~0.250%未満、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~30.00%、Al:2.50~4.50%、N:0.050%以下、Nb:0~2.00%、Cu:0~5.00%、Ti:0~1.00%、Zr:0~0.10%、Mo:0~15.00%、W:0~12.00%、B:0~0.0050%、V:0~0.50%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、希土類元素:0~0.100%、Fe:0~20.00%、及び、残部がNi及び不純物からなる、Al含有量の高いNi基合金材からなる溶接材料を用いて、多層盛り溶接により、溶接金属を製造する。Ni基合金材の場合、Fe基合金材と比較して、浸炭源となるCの解離吸着反応を抑制する。そのため、Fe基合金と比較して、耐浸炭性及び耐コーキング性を高めることができる。さらに、溶接金属に対して熱間圧延が実施されることはないため、γ’相の生成による熱間加工性への影響を考慮する必要がない。したがって、上述の化学組成を有するFe基合金からなる母材と、上述の化学組成を有するNi基合金からなる溶接材料を用いて多層盛り溶接により形成された溶接金属とを備えた溶接継手は、高温浸炭環境に適すると考えられる。
【0025】
しかしながら、上述の化学組成を有するFe基合金からなる母材に対して、上述の化学組成を有するNi基合金からなる溶接材料を用いて多層盛り溶接により溶接金属を形成した場合、溶接金属に、再熱割れが発生することがわかった。そこで、本発明者らは、再熱割れが発生する原因について調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
【0026】
多層盛り溶接において、最初に溶接して形成される層を「初層領域」と定義する。初層領域以降に形成される1又は複数の層を「他層領域」と定義する。多層盛り溶接の場合、初層領域は、他層領域と比較して、最も多くの熱履歴(多層盛り溶接による入熱及び抜熱の繰り返し回数)を受ける。そのため、Ni基合金からなる溶接材料を用いて溶接金属を形成した場合、特に、初層領域において、γ’相が多く析出しやすい。γ’相は析出強化により合金材の強化するものの、溶接時における高温での変形能を低下する。その結果、再熱割れが発生する。
【0027】
さらに、多層盛り溶接の場合、初層領域では、他層領域と比較して、引張残留応力が大きい。初層領域は最初の溶接により形成される層であり、溶接時の凝固過程において、他層領域が存在しない。そのため、凝固過程において残留応力が初層領域以外の他の領域(他層領域)に分散されることがない。そのため、初層領域に係る残留応力が大きくなる。その結果、凝固割れが初層領域で発生しやすい。
【0028】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、溶接金属の初層領域と、初層領域以外の他層領域とで、異なる化学組成にするという、従来とは全く異なるアプローチを試みた。具体的には、溶接金属の初層領域以外の他層領域では、上述の溶接材料と同じ化学組成(Ni基合金)とする。一方、溶接金属の初層領域では、γ’相の生成による再熱割れを抑制するために、溶接時において、他層領域よりもγ’相が析出しにくい化学組成とする。具体的には、初層領域では、他層領域と比較して、Ni含有量に対するFe含有量の比率(つまり、Fe/Ni)を高くする。Ni含有量に対してFe含有量の比率を高めた場合、つまり、Fe/Niを高めた場合、平衡状態での自由エネルギーの観点では、γ’相に代えて、β相(FeAl)が生成しやすくなる。しかしながら、γ’相は母相と近い結晶構造を有している。そのため、γ’相は整合析出して硬化しやすい。これに対して、β相は母相と異なる結晶構造のため、γ’相と比較すると、整合析出しにくい。したがって、Fe/Niを高めて、平衡状態においてγ’相生成領域からβ相生成領域に化学組成をシフトすれば、γ’相の析出が抑えられる。さらにこの場合、β相はそもそも非整合析出する。そのため、β相の析出までの潜伏期間が長く、溶接中での析出量が抑制され、かつ、析出した場合の硬化能も小さい。したがって、これらの金属間化合物の析出に起因した再熱割れを抑制できる。その結果、初層領域において、多層盛り溶接に起因した、割れの発生を抑制できると考えられる。
【0029】
以上の検討結果に基づいて、本発明者は、多層盛り溶接での初層領域の形成時において、上述の化学組成を有するFe基合金からなる母材の一部を初層領域に溶け込ませて、他層領域と比較して、初層領域でのFe/Niを高めれば、溶接継手での割れを抑制できると考えた。そして、初層領域でのFe/Niについて検討した結果、初層領域において、F1=Fe/Niと定義したとき、初層領域の化学組成が、質量%で、C:0.010~0.150%、Si:0.80%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~27.00%、Ni:20.00~80.00%、Al:2.50~4.50%、N:0.050%以下、Nb:0~3.00%、Cu:0~5.00%、Ti:0~0.50%、Zr:0~0.10%、Mo:0~15.00%、W:0~15.00%、B:0~0.0050%、V:0~0.50%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、希土類元素:0~0.100%、及び、残部がFe及び不純物からなり、F1=Fe/Niが0.16以上であれば、溶接時において、γ’相の析出を抑えることができ、再熱割れが抑制できることを見出した。
【0030】
一方で、検討の結果、F1が過剰に高すぎれば、初層領域においてNi含有量に対するFe含有量の割合が過剰に高くなり、その結果、凝固割れが発生することが判明した。Fe含有量の割合が過剰に高くなった場合、オーステナイトの安定性が低下する。オーステナイトでは、P及びSは粒内で固溶されるが、オーステナイトの安定性が低下して、フェライトの安定性が高まった場合、P及びSは粒内から粒界に吐き出されやすい。その結果、粒界にP及びSが偏析して、凝固割れが発生したと考えられる。
【0031】
以上の知見に基づいて、本発明者らはさらに、初層領域におけるF1の上限について検討を行った。その結果、F1が1.60以下であれば、多層盛り溶接時において、溶接金属の再熱割れ及び凝固割れを抑制できることを見出した。
【0032】
以上のとおり、本実施形態の溶接継手は、従前とは異なるアプローチにより完成したものであって、以下の構成を備える。
【0033】
[1]の溶接継手は、
一対の母材と、
一対の前記母材の間に配置された溶接金属とを備え、
前記母材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~50.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.20%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~5.00%、
W:0~5.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記溶接金属は、
前記溶接金属の延在方向に垂直な断面において、一対の前記母材の開先のルート面の間の領域を含む初層領域と、
前記初層領域以外の他層領域とを備え、
前記初層領域は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.150%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~27.00%、
Ni:20.00~80.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~3.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~0.50%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~15.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記初層領域において、F1=Fe/Niと定義したとき、
F1が0.16~1.60であり、
前記他層領域は、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなり、
前記他層領域において、F2=Fe/Niと定義したとき、
F1>F2を満たす。
【0034】
[2]の溶接継手は、[1]に記載の溶接継手であって、
前記母材の前記化学組成は、
Nb:0.01~3.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~0.20%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~5.00%、
W:0.01~5.00%、
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
【0035】
[3]の溶接継手は、[1]又は[2]に記載の溶接継手であって、
前記溶接金属の前記初層領域の前記化学組成は、
Nb:0.01~3.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~15.00%、
W:0.01~15.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%以下、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
【0036】
[4]の溶接継手は、[1]~[3]のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記溶接金属の前記他層領域の前記化学組成は、
Nb:0.01~2.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~15.00%、
W:0.01~12.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、
希土類元素:0.001~0.100%、及び、
Fe:0.01~20.00%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
【0037】
[5]の溶接継手は、[1]~[4]のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記母材は、長手方向に垂直な断面が円形状の管であり、
前記溶接金属は、前記母材の円周方向に延在する。
【0038】
[6]の溶接継手は、[1]~[5]のいずれか1項に記載の溶接継手であって、
前記溶接継手は、エチレンプラント用途の分解炉管の又は改質炉管である。
【0039】
[7]の溶接材料は、[1]~[6]のいずれか1項に記載の溶接継手の製造に用いられる溶接材料であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなる。
【0040】
[8]の溶接材料は、[7]に記載の溶接材料であって、
前記化学組成は、質量%で、
Nb:0.01~2.00%、
Cu:0.01~5.00%、
Ti:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、
Mo:0.01~12.00%、
W:0.01~12.00%
B:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、
希土類元素:0.001~0.100%、及び、
Fe:0.01~20.00%、からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
【0041】
以下、本実施形態に溶接継手について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0042】
[本実施形態の溶接継手の用途について]
本実施形態の溶接継手は、高温浸炭環境での使用に適する。ここで、本明細書において、「高温浸炭環境」とは、炭化水素ガスを含有し、温度が800℃以上の雰囲気を意味する。高温浸炭環境の上限は特に限定されないが、たとえば、1300℃である。本実施形態の溶接継手は、化学プラント、特に、エチレンプラント用途に適する。本実施形態の溶接継手はたとえば、エチレンプラント用途の分解炉管、又は、改質炉管として好適である。なお、本実施形態の溶接継手は、高温浸炭環境以外の他の環境で使用されてもよい。たとえば、化学プラント設備と同様に高温環境となる火力発電ボイラ設備(たとえばボイラチューブ等)にも、本実施形態の溶接継手は当然に使用可能である。
【0043】
[本実施形態の溶接継手の構成について]
図1は、本実施形態の溶接継手1の一例を示す平面図である。図1を参照して、本実施形態による溶接継手1は、一対の母材10と、溶接金属20とを備える。溶接金属20は、一対の母材10の間に配置されている。溶接金属20は、一対の母材10の間に配置され、一対の母材10とつながっている。
【0044】
具体的には、一対の母材10は、端部が開先加工されている。溶接金属20は、端部が開先加工された一対の母材10の端部同士を付き合わせた後、多層盛り溶接を実施して形成される。多層盛り溶接はたとえば、ティグ溶接(Gas Tungsten Arc Welding:GTAW)、被覆アーク溶接(Shielded Metal Arc Welding:SMAW)、フラックス入りワイヤアーク溶接(Flux Cored Arc Welding:FCAW)、ガスメタルアーク溶接(Gas Metal Arc Welding:GMAW)、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding:SAW)である。
【0045】
図1において、溶接金属20が延在する方向を溶接金属延在方向Lと定義し、平面視における溶接金属延在方向Lと垂直な方向を溶接金属幅方向Wと定義し、溶接金属延在方向L及び溶接金属幅方向Wと垂直な方向を溶接金属厚さ方向Tと定義する。図2は、図1の溶接継手1を溶接金属幅方向Wで切断した断面図である。図1及び図2に示すとおり、溶接金属20は、一対の母材10の間に配置されている。
【0046】
図3は、図1の溶接継手1を溶接金属延在方向Lで切断した断面図であり、図4は、図3と異なる、溶接継手1を溶接金属延在方向Lで切断した断面図である。図3に示すとおり、母材10は板材であってもよい。また、図4に示すとおり、母材10の長手方向に垂直な断面は円状の管であってもよい。図示しないが、母材10は棒鋼や形鋼であってもよい。以下、溶接継手1の母材10及び溶接金属20について説明する。
【0047】
[母材10の化学組成について]
本実施形態の溶接継手1の母材10の化学組成は、次の元素を含有する。
【0048】
C:0.010~0.250%
炭素(C)は、Crと結合して母材中にCr炭化物を形成し、高温浸炭環境での母材10の高温クリープ強度を高める。C含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.250%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Cr炭化物が過剰に生成し、母材10の表面にAl23を主体とする酸化皮膜(アルミナ皮膜という)が十分に生成しない。そのため、高温浸炭環境において、耐浸炭性が十分に得られない。C含有量が0.250%を超えればさらに、鋳造後の母材10において、粗大な共晶炭化物が生成する。この場合、母材10の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.010~0.250%である。C含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.045%である。C含有量の好ましい上限は0.220%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは、0.100%である。
【0049】
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、製鋼工程において、母材10を脱酸する。Siが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は1.00%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0050】
Mn:1.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnは、母材10中のSと結合してMnSを形成し、母材10の熱間加工性を高める。Mnが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の硬さが高くなりすぎる。この場合、母材10の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Mn含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0051】
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される。つまり、P含有量は0%超である。Pは、母材10の溶接性及び熱間加工性を低下する。P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、母材10の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0052】
S:0.0100%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。つまり、S含有量は0%超である。Sは、母材10の溶接性及び熱間加工性を低下する。S含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、S含有量は0.0100%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、母材10の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。S含有量の好ましい上限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
【0053】
Cr:10.00~27.00%
クロム(Cr)は、高温浸炭環境での使用時において、アルミナ皮膜の生成を促進する。Crはさらに、母材10中のCと結合して鋼中にCr炭化物を形成し、母材10の高温クリープ強度を高める。Cr含有量が10.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が27.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温浸炭環境において、母材10のCrが雰囲気ガス(炭化水素ガス)由来のCと結合し、母材10の表面にCr炭化物を過剰に多く生成する。これにより、母材10の表面の固溶Crが局所的に欠乏する。そのため、母材10の表面において、アルミナ皮膜の形成が十分に促進されず、母材10の表面にアルミナ皮膜が均一に形成されない。Cr含有量が27.00%を超えればさらに、上述のCr炭化物が、均一なアルミナ皮膜の形成を物理的に阻害する。したがって、Cr含有量は10.00~27.00%である。Cr含有量の好ましい下限は11.00%であり、さらに好ましくは12.00%であり、さらに好ましくは13.00%である。Cr含有量の好ましい上限は26.00%であり、さらに好ましくは25.00%であり、さらに好ましくは24.00%であり、さらに好ましくは23.00%である。
【0054】
Ni:20.00~50.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化させ、母材10の高温クリープ強度を高める。Niはさらに、母材10の耐浸炭性を高める。Ni含有量が20.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が50.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Alを含有する金属間化合物(たとえば、γ’相)が過剰に多く生成して、母材10の高温クリープ強度及び熱間加工性が著しく低下する。したがって、Ni含有量は20.00~50.00%である。Ni含有量の好ましい下限は21.00%であり、さらに好ましくは21.50%であり、さらに好ましくは22.00%であり、さらに好ましくは22.50%である。Ni含有量の好ましい上限は45.00%であり、さらに好ましくは40.00%であり、さらに好ましくは35.00%であり、さらに好ましくは30.00%である。
【0055】
Al:2.50~4.50%
アルミニウム(Al)は、母材10の表面にアルミナ皮膜を形成する。Alの酸化物であるAl23は、Cr23よりも熱力学的に安定である。そのため、高温浸炭環境において、母材表面にCr23を主体とする酸化皮膜ではなく、アルミナ皮膜を形成すれば、高温浸炭環境における溶接継手の耐浸炭性を高めることができる。Al含有量が2.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が4.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造工程中において、Alを含有する粗大な金属間化合物(たとえば、γ’相)が過剰に多く生成して、母材10の高温クリープ強度及び熱間加工性を低下する。したがって、Al含有量は2.50~4.50%である。Al含有量の好ましい下限は2.55%であり、さらに好ましくは2.60%であり、さらに好ましくは2.65%である。Al含有量の好ましい上限は4.45%であり、さらに好ましくは4.40%であり、さらに好ましくは4.35%であり、さらに好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.25%である。本実施形態の母材の化学組成において、Al含有量は、母材10中に含有する全Al量(Total Al含有量)を意味する。
【0056】
N:0.050%以下
窒素(N)は不可避に含有される。つまり、N含有量は0%超である。Nは、オーステナイトを安定化する。Nが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、N含有量が0.050%を超えれば、母材10中に粗大な窒化物及び/又は炭窒化物が生成し、母材10の靱性が低下する。したがって、N含有量は0.050%以下である。N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。N含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、0.020%である。
【0057】
本実施形態の母材10の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本実施形態の母材10を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の母材10に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0058】
[任意元素について]
本実施形態の溶接継手1の母材10の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nb、Cu、Ti、Zr、Mo、W、B及びVからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも母材10の高温クリープ強度を高める。
【0059】
Nb:0~3.00%
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2(Nb、W))及び/又はガンマダブルプライム相(Γ’’相(Ni3Nb))に代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、母材10の高温クリープ強度を高める。しかしながら、Nb含有量が3.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、母材10の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0~3.00%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。Nb含有量の好ましい上限は2.50%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.60%である。
【0060】
Cu:0~5.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuはオーステナイトを安定化する。Cuはさらに、析出強化により母材10の常温での強度、及び、高温クリープ強度を高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の延性及び熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~5.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。
【0061】
Ti:0~0.20%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2Ti)及び/又はNi3Tiに代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、母材10の高温クリープ強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、母材10の靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0~0.20%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、好ましくは0.12%である。
【0062】
Zr:0~0.10%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、高温浸炭環境において、Laves相等の金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、母材10の高温クリープ強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、母材10の靱性が低下する。したがって、Zr含有量は0~0.10%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Zr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、好ましくは0.07%である。
【0063】
Mo:0~5.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、母材10の高温クリープ強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の熱間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0~5.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。Mo含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。
【0064】
W:0~5.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、母材10の母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、母材10のクリープ強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の熱間加工性が低下する。したがって、W含有量は0~5.00%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。W含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.16%である。
【0065】
B:0~0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは結晶粒界に偏析して、高温浸炭環境において、結晶粒界での金属間化合物の析出を促進する。これにより、母材10の高温クリープ強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、B含有量は0~0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%である。
【0066】
V:0~0.50%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、Tiと同様に金属間化合物を形成し、母材10の高温クリープ強度を高める。しかしながら、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、母材10の熱間加工性が低下する。したがって、V含有量は0~0.50%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0067】
本実施形態の母材10の化学組成はさらに、Feの一部に代えてCa、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、母材10の熱間加工性を高める。
【0068】
Ca:0~0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、Sを硫化物として固定して、母材10の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材10の靱性及び熱間加工性が低下する。Ca含有量が0.020%を超えればさらに、母材10の清浄性が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.020%である。Caの好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%である。
【0069】
Mg:0~0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、Sを硫化物として固定して、母材10の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.020%を超えれば、母材10の靱性及び熱間加工性が低下する。Mg含有量が0.020%を超えればさらに、母材10の清浄性が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.020%である。Mgの好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Mg含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%である。
【0070】
希土類元素(REM):0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、Sを硫化物として固定し、母材10の熱間加工性を高める。REMはさらに、酸化物を形成して、母材10の耐食性、高温クリープ強度、及び、高温クリープ延性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が0.100%を超えれば、酸化物等の介在物が過剰に多くなり、母材10の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、更に好ましくは0.004%である。REM含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
【0071】
本明細書において、REMとは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称である。本実施形態の合金(母材10、溶接金属20の初層領域21、他層領域22)に含有されるREMがこれらの元素のうち1種である場合、REM含有量は、含有されている元素の含有量を意味する。本実施形態に含有されるREMが2種以上である場合、REM含有量は、それらの元素の総含有量を意味する。REMは、一般的にミッシュメタルに含有される。たとえば、製鋼工程において、ミッシュメタルを合金に添加して、REM含有量が上記の範囲となるように調整してもよい。
【0072】
[溶接金属20について]
図5図7は、本実施形態の溶接継手1の一対の母材10の開先形状の一例を示す図である。図5はV形開先であり、図6はU形開先であり、図7はX形開先である。図8は、図5のV形開先を有する母材10を備える溶接継手1の、溶接金属延在方向Lに垂直な断面図である。図9は、図6のU形開先を有する母材10を備える溶接継手1の、溶接金属延在方向Lに垂直な断面図である。図10は、図7のX形開先を有する母材10を備える溶接継手1の、溶接金属延在方向Lに垂直な断面図である。
【0073】
図8図10を参照して、溶接金属20は、一対の母材10の開先10Eの間に形成されている。溶接金属20は、初層領域21と、初層領域21以外の1又は複数の層からなる他層領域22とを備える。つまり、溶接金属20は多層盛り溶接により形成されている。図8図10に示すような、溶接金属20の延在方向(溶接金属延在方向L)に垂直な溶接継手1の断面において、溶接金属20の各層は、王水(濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した溶液)でエッチングすることにより、その境界BOが明確に現出する。したがって、初層領域21と、他層領域22とは明確に区分可能である。
【0074】
図8に示すように、溶接金属20の延在方向(溶接金属延在方向L)に垂直な溶接継手1の断面において、溶接金属20の複数の層のうち、ルート面RTの間に形成されている層を「初層領域」21と定義する。上述のとおり、溶接金属20のうち、初層領域21以外の1又は複数の層を「他層領域」22と定義する。図8では、溶接金属20は、初層領域21と、第2層222、第3層223、第4層224、第5層225、第6層226とからなる。第2層222~第6層226が、他層領域22に相当する。図8に示すとおり、溶接金属20の延在方向(溶接金属延在方向L)に垂直な断面において、一対の母材10の開先10Eのルート面RTの間の領域を含む層を、初層領域21と定義することができる。
【0075】
本実施形態の溶接継手1の溶接金属20では、初層領域21と、他層領域22とで化学組成が異なる。以下、初層領域21の化学組成と他層領域22の化学組成とについて説明する。
【0076】
[初層領域21の化学組成について]
溶接金属20の初層領域21の化学組成は、次の元素を含有する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0077】
C:0.010~0.150%
炭素(C)は、Crと結合して合金中にCr炭化物を形成し、高温浸炭環境での溶接金属20の高温クリープ強度を高める。C含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.150%を超えれば、粗大な共晶炭化物が生成する。この場合、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.010~0.150%である。C含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.045%である。C含有量の好ましい上限は0.120%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.090%である。
【0078】
Si:0.80%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、溶接金属20を脱酸する。Siはさらに、溶接金属20の酸化皮膜を強化して、耐浸炭性及び耐コーキング性を高める。Siが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Si含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温割れ感受性が高まり、溶接時において、凝固割れや再熱割れが発生する。したがって、Si含有量は0.80%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0079】
Mn:1.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnは、溶接金属20を脱酸する。Mnはさらに、溶接金属20中のSと結合してMnSを形成し、溶接金属20の凝固割れ及び再熱割れを抑制する。Mnが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の酸化皮膜の安定性が低下して、溶接金属20の耐食性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Mn含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0080】
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される。つまり、P含有量は0%超である。Pは、溶接金属20の溶接性を低下し、凝固割れを発生させる。P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性が低下し、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、溶接金属20の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0081】
S:0.0100%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。つまり、S含有量は0%超である。Sは、溶接金属20の溶接性を低下し、凝固割れを発生させる。S含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性が低下し、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、S含有量は0.0100%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、溶接金属20の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。S含有量の好ましい上限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
【0082】
Cr:10.00~27.00%
クロム(Cr)は、高温浸炭環境での使用時において、酸化皮膜を形成して、溶接金属20の耐浸炭性及び耐コーキング性を高める。Cr含有量が10.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が27.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温浸炭環境において、溶接金属20の相安定性が低下する。したがって、Cr含有量は10.00~27.00%である。Cr含有量の好ましい下限は11.00%であり、さらに好ましくは12.00%であり、さらに好ましくは13.00%である。Cr含有量の好ましい上限は26.00%であり、さらに好ましくは25.00%であり、さらに好ましくは24.00%であり、さらに好ましくは23.00%である。
【0083】
Ni:20.00%~80.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化させ、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Niはさらに、溶接金属20の耐浸炭性を高める。Ni含有量が20.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が80.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、γ’相が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が顕著に低下する。したがって、Ni含有量は20.00%~80.00%である。Ni含有量の好ましい下限は25.00%であり、さらに好ましくは28.00%であり、さらに好ましくは30.00%である。Ni含有量の好ましい上限は78.00%であり、さらに好ましくは70.00%であり、さらに好ましくは65.00%であり、さらに好ましくは62.00%である。
【0084】
Al:2.50%~4.50%
アルミニウム(Al)は、溶接金属20の表面にアルミナ皮膜を形成し、高温浸炭環境における溶接金属20の耐浸炭性を高める。Al含有量が2.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が4.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造工程中において、γ’相等が過剰に多く生成して、溶接金属20の高温クリープ強度及び溶接性を低下する。したがって、Al含有量は2.50%~4.50%である。Al含有量の好ましい下限は2.55%であり、さらに好ましくは2.60%であり、さらに好ましくは2.65%である。Al含有量の好ましい上限は4.45%であり、さらに好ましくは4.40%であり、さらに好ましくは4.35%であり、さらに好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.25%である。本実施形態の初層領域21の化学組成において、Al含有量は、全Al量(Total Al含有量)を意味する。
【0085】
N:0.050%以下
窒素(N)は不可避に含有される。つまり、N含有量は0%超である。Nは、固溶強化及び析出強化により溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Nが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、N含有量が0.050%を超えれば、溶接時にブローホールが発生する。したがって、N含有量は0.050%以下である。N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。N含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、0.020%である。
【0086】
本実施形態の溶接金属20の初層領域21の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、初層領域21を溶接により形成する際に、溶接材料や母材10等から混入されるものであって、初層領域21に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0087】
[任意元素について]
本実施形態の溶接金属20の初層領域21の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nb、Cu、Ti、Zr、Mo、W、B及びVからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも溶接金属20の高温クリープ強度を高める。
【0088】
Nb:0~3.00%
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは、高温浸炭環境において、Laves相及び/又はガンマダブルプライム相(Γ’’相)に代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。しかしながら、Nb含有量が3.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0~3.00%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。Nb含有量の好ましい上限は2.50%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.60%である。
【0089】
Cu:0~5.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは析出強化により溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20において凝固割れが発生しやすくなる。したがって、Cu含有量は0~5.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。
【0090】
Ti:0~0.50%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2Ti)及び/又はNi3Tiに代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0~0.50%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、好ましくは0.20%である。
【0091】
Zr:0~0.10%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、高温浸炭環境において、Laves相等の金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Zr含有量は0~0.10%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Zr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、好ましくは0.07%である。
【0092】
Mo:0~15.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が15.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温での変形能が低下し、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、Mo含有量は0~15.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは1.00%である。Mo含有量の好ましい上限は12.50%であり、さらに好ましくは10.00%であり、さらに好ましくは7.00%であり、さらに好ましくは5.00%である。
【0093】
W:0~15.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、溶接金属20のクリープ強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が15.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温での変形能が低下し、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、W含有量は0~15.00%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。W含有量の好ましい上限は12.50%であり、さらに好ましくは10.00%であり、さらに好ましくは7.00%であり、さらに好ましくは5.00%である。
【0094】
B:0~0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは結晶粒界に偏析して、高温浸炭環境において、結晶粒界での金属間化合物の析出を促進する。これにより、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性が低下し、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、B含有量は0~0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%である。
【0095】
V:0~0.50%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、Tiと同様に金属間化合物を形成し、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。一方、V含有量が0.50%を超えれば、溶接金属20中に上述の金属間化合物が過剰に多く生成し、溶接金属20の溶接性が低下する。したがって、V含有量は0~0.50%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0096】
本実施形態の溶接金属20の初層領域21の化学組成はさらに、Feの一部に代えてCa、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、溶接金属20の高温での変形能を高める。
【0097】
Ca:0~0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。しかしながら、Ca含有量が0.020%を超えれば、溶接金属20の清浄性が低下して、溶接金属20の高温での変形能がかえって低下する。したがって、Ca含有量は0~0.020%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Ca含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0098】
Mg:0~0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。しかしながら、Mg含有量が0.020%を超えれば、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.020%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Mg含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0099】
希土類元素(REM):0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。しかしながら、REM含有量が0.100%を超えれば、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Mg含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0100】
[F1について]
本実施形態の溶接継手1の溶接金属20の初層領域21の化学組成において、F1を次の式で定義する。
F1=Fe/Ni
ここで、F1中の各元素含有量には、初層領域21中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0101】
F1は、溶接金属20の凝固割れ及び再熱割れの抑制度合いを示す指標である。F1が0.16未満である場合、初層領域21において、Fe含有量のNi含有量に対する比が低い。つまり、Fe含有量及びNi含有量を対比した場合、Fe含有量に対してNi含有量が過剰に多い。この場合、溶接時において、熱力学的にγ’相がβ相よりも析出しやすい状態となり、初層領域21の形成時において、初層領域21にγ’相が過剰に析出する。そのため、初層領域21上に、1又は複数の層を形成する場合、初層領域21が再加熱され、γ’相の存在により、割れ(再熱割れ)が発生しやすくなる。
【0102】
一方、F1が1.60を超えれば、初層領域21において、Fe含有量に対してNi含有量が過剰に多い。この場合、オーステナイトの安定性が低下し、フェライトの安定性が増大する。そのため、固溶P及び固溶Sが粒内にとどまらずに粒界に吐き出される。その結果、P及びSが粒界に偏析する。この場合、初層領域21において、凝固割れが発生しやすくなる。
【0103】
初層領域21中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、F1が0.16~1.60であれば、多層盛り溶接により溶接金属20を形成する場合において、再熱割れの発生を抑制でき、かつ、凝固割れの発生も抑制できる。
【0104】
F1の好ましい下限は0.17であり、さらに好ましくは0.18であり、さらに好ましくは0.19であり、さらに好ましくは0.20であり、さらに好ましくは0.22であり、さらに好ましくは0.25である。F1の好ましい上限は1.57であり、さらに好ましくは1.55であり、さらに好ましくは1.50であり、さらに好ましくは1.45であり、さらに好ましくは1.40であり、さらに好ましくは1.35であり、さらに好ましくは1.30であり、さらに好ましくは1.20である。
【0105】
[他層領域22の化学組成について]
溶接金属20のうち、他層領域22は、初層領域21以外の領域である。他層領域22の化学組成は、次の元素を含有する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。各元素の作用効果は、原則として、初層領域21の化学組成の各元素の作用効果と同じである。
【0106】
C:0.010~0.250%未満
炭素(C)は、Cr炭化物を形成し、高温浸炭環境での溶接金属20の高温クリープ強度を高める。C含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.250%以上であれば、粗大な共晶炭化物が生成する。この場合、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.010~0.250%未満である。C含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.045%である。C含有量の好ましい上限は0.220%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.190%であり、さらに好ましくは、0.150%である。
【0107】
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、溶接金属20を脱酸する。Siはさらに、溶接金属20の酸化皮膜を強化して、耐浸炭性及び耐コーキング性を高める。Siが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温割れ感受性が高まり、溶接時において、凝固割れや再熱割れが発生する。したがって、Si含有量は1.00%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%である。
【0108】
Mn:1.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnは、溶接金属20を脱酸する。Mnはさらに、溶接金属20中のSと結合してMnSを形成し、溶接金属20の凝固割れ及び再熱割れを抑制する。Mnが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の酸化皮膜の安定性が低下して、溶接金属20の耐食性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Mn含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0109】
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される。つまり、P含有量は0%超である。P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性及び高温での変形能が十分に得られない。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、溶接金属20の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0110】
S:0.0100%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。つまり、S含有量は0%超である。S含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性及び高温での変形能が十分に得られない。したがって、S含有量は0.0100%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、溶接金属20の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。S含有量の好ましい上限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
【0111】
Cr:10.00~30.00%
クロム(Cr)は、高温浸炭環境での使用時において、酸化皮膜を形成して、溶接金属20の耐浸炭性及び耐コーキング性を高める。Cr含有量が10.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が30.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温浸炭環境において、溶接金属20の相安定性が低下する。したがって、Cr含有量は10.00~30.00%である。Cr含有量の好ましい下限は11.50%であり、さらに好ましくは12.00%であり、さらに好ましくは12.50%である。Cr含有量の好ましい上限は29.50%であり、さらに好ましくは28.00%であり、さらに好ましくは27.50%であり、さらに好ましくは26.00%である。
【0112】
Al:2.50%~4.50%
アルミニウム(Al)は、溶接金属20の表面にアルミナ皮膜を形成し、高温浸炭環境における溶接金属20の耐浸炭性を高める。Al含有量が2.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が4.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接中にγ’相(Ni3Al)等が過剰に多く生成して、溶接金属20の高温クリープ強度及び溶接性を低下する。したがって、Al含有量は2.50%~4.50%である。Al含有量の好ましい下限は2.55%であり、さらに好ましくは2.60%であり、さらに好ましくは2.65%である。Al含有量の好ましい上限は4.45%であり、さらに好ましくは4.40%であり、さらに好ましくは4.35%であり、さらに好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.25%である。本実施形態の他層領域22の化学組成において、Al含有量は、全Al量(Total Al含有量)を意味する。
【0113】
N:0.050%以下
窒素(N)は不可避に含有される。つまり、N含有量は0%超である。Nは、固溶強化及び析出強化により溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Nが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、N含有量が0.050%を超えれば、溶接時にブローホールが発生する。したがって、N含有量は0.050%以下である。N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。N含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、0.020%である。
【0114】
本実施形態の溶接金属20の他層領域22の化学組成の残部は、Ni及び不純物からなる。ここで、不純物とは、他層領域22を溶接により形成する際に、溶接材料や母材10等から混入されるものであって、他層領域22に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0115】
[任意元素について]
本実施形態の溶接金属20の他層領域22の化学組成はさらに、Niの一部に代えて、Nb、Cu、Ti、Zr、Mo、W、B及びVからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも溶接金属20の高温クリープ強度を高める。
【0116】
Nb:0~2.00%
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは、高温浸炭環境において、Laves相及び/又はΓ’’相に代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。しかしながら、Nb含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0~2.00%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。Nb含有量の好ましい上限は1.50%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0117】
Cu:0~5.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは析出強化により溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の延性及び高温での変形能が低下する。したがって、Cu含有量は0~5.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。
【0118】
Ti:0~1.00%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2Ti)及び/又はNi3Tiに代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0~1.00%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、好ましくは0.70%である。
【0119】
Zr:0~0.10%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、高温浸炭環境において、Laves相等の金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、溶接金属20の靱性が低下する。したがって、Zr含有量は0~0.10%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Zr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、好ましくは0.07%である。
【0120】
Mo:0~15.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が15.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、Mo含有量は0~15.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは1.00%である。Mo含有量の好ましい上限は14.50%であり、さらに好ましくは14.00%であり、さらに好ましくは13.00%であり、さらに好ましくは12.50%であり、さらに好ましくは12.00%である。
【0121】
W:0~12.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、溶接金属20のクリープ強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が12.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、W含有量は0~12.00%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。W含有量の好ましい上限は11.00%であり、さらに好ましくは10.00%であり、さらに好ましくは9.00%であり、さらに好ましくは8.00%である。
【0122】
B:0~0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは結晶粒界に偏析して、高温浸炭環境において、結晶粒界での金属間化合物の析出を促進する。これにより、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接金属20の溶接性及び高温での変形能が低下する。したがって、B含有量は0~0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%である。
【0123】
V:0~0.50%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、Tiと同様に金属間化合物を形成し、溶接金属20の高温クリープ強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、V含有量が0.50%を超えれば、溶接金属20中の金属間化合物が過剰に多くなり、溶接金属20の溶接性が低下する。したがって、V含有量は0~0.50%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0124】
本実施形態の溶接金属20の他層領域22の化学組成はさらに、Niの一部に代えてCa、Mg希土類元素(REM)及びFeからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、溶接金属20の高温での変形能を高める。
【0125】
Ca:0~0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.020%を超えれば、溶接金属20の清浄性が低下して、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.020%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Ca含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0126】
Mg:0~0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.020%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Mg含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0127】
希土類元素(REM):0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、溶接金属20の高温での変形能を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が0.100%を超えれば、溶接金属20の高温での変形能が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。REM含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0128】
Fe:0~20.00%
鉄(Fe)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Fe含有量は0%であってもよい。含有される場合、Feは溶接金属20の高温での変形能を高める。Feが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Fe含有量が20.00%を超えれば、溶接金属20において凝固割れが発生しやすくなる。したがって、Fe含有量は0~20.00%である。Fe含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.70%である。Fe含有量の好ましい上限は18.00%であり、さらに好ましくは16.00%であり、さらに好ましくは14.00%であり、さらに好ましくは12.00%である。
【0129】
[F2について]
本実施形態の溶接継手1の溶接金属20の他層領域22の化学組成において、指標F2を次の式で定義する。
F2=Fe/Ni
ここで、F2中の各元素含有量には、他層領域22中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0130】
この場合、F1とF2とは次の関係を満たす。
F1>F2
【0131】
上述のとおり、本実施形態の溶接金属20は多層盛り溶接を実施する。母材10の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であり、かつ、溶接金属20の初層領域21の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であり、F1が0.16~1.60であり、かつ、溶接金属20の他層領域22の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内である場合、本実施形態の溶接継手1ではさらに、F1>F2を満たす。
【0132】
本実施形態の溶接継手1では、母材10はFe基合金を採用し、溶接金属20を製造するために用いる溶接材料には、他層領域22と同じ化学組成の範囲であるNi基合金を採用する。Ni基合金材の場合、Fe基合金材と比較して、浸炭源となるCの解離吸着反応を抑制する。そのため、Fe基合金と比較して、耐浸炭性及び耐コーキング性を高めることができる。
【0133】
しかしながら、上述の化学組成を有するFe基合金からなる母材10に対して、上述の化学組成を有するNi基合金からなる溶接材料を用いて多層盛り溶接により溶接金属20を形成した場合、溶接金属20の各層のうち、引張残留応力が最も大きく掛かり、かつ、溶接による熱履歴を最も多く受けるのは、初層領域21である。したがって、引張残留応力と熱履歴とにより凝固割れ及び再熱割れが最も発生しやすいのは、初層領域21である。一方で、第2層以降の層では、引張残留応力が初層領域21ほど掛からず、かつ、熱履歴も初層領域21よりも少ない。したがって、初層領域21では、Ni含有量に対するFe含有量の割合を増加させて、γ’相の析出による割れ感受性を抑えることが重要であるものの、他層領域22では、初層領域21のような凝固割れ及び再熱割れはそれほど問題にならない。
【0134】
したがって、初層領域21の化学組成と他層領域22の化学組成では、F1>F2の関係を満せば足りる。要するに、多層盛り溶接において、初層領域21のNi含有量及びFe含有量を調整して、F1を0.16~1.60の範囲とすれば、他層領域22の化学組成が溶接材料と実質的に同等の化学組成であっても、溶接金属20の凝固割れ及び再熱割れを十分抑制できる。
【0135】
以上のとおり、本実施形態の溶接継手1では、母材10の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、溶接金属20のうち、初層領域21の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、かつ、F1が0.16~1.60の範囲内であって、他層領域22の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、F1>F2の関係を有する。これにより、母材10及び溶接金属20に酸化皮膜を形成することができ、耐浸炭性を高めることができる。さらに、溶接金属20の形成時において、溶接金属20に凝固割れ及び再熱割れが発生するのを抑制することができる。
【0136】
[溶接金属20の初層領域21及び他層領域22の化学組成分析方法]
溶接金属20の初層領域21及び他層領域22の化学組成は、次の方法で分析できる。始めに、溶接継手1を溶接金属20の延在方向(溶接金属延在方向L)に垂直に切断し、図8図10に示す断面(以下、観察面という)を得る。観察面を機械研磨した後、溶接金属20に対して王水によるエッチングを実施して、溶接金属20の各層の境界BOを現出させる。これにより、初層領域21と他層領域22とを容易に区分することができる。
【0137】
図11を参照して、溶接金属20の延在方向に垂直な断面(溶接金属厚さ方向T方向及び溶接金属幅方向W方向を含む断面)において、溶接金属20の表面の幅Wの中央位置を特定する。このとき、図11中の上面側(他層領域22の表面側)の溶接金属20の表面の幅Wの中央位置を特定してもよいし、下面(初層領域21の表面側)の溶接金属20の表面の幅Wの中央位置を特定してもよい。特定された溶接金属20の幅Wの中央位置であって、かつ、初層領域21の厚さT21の厚さ中央位置P21を特定する。さらに、溶接金属20の幅Wの中央位置であって、かつ、他層領域22の厚さT22の厚さ中央位置P22を特定する。
【0138】
位置P21の化学組成を、周知の成分分析法により求める。具体的には、位置P21に直径5mmのドリルを用いて溶接金属20の延在方向に平行に穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、IPC-OES(Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法により求める。具体的には、上記溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出して、C含有量及びS含有量を求める。以上の分析法により、初層領域21の化学組成を求めることができる。
【0139】
位置P22の化学組成も、上述の周知の成分分析法により求める。求めた化学組成を、他層領域22の化学組成とする。なお、母材10の化学組成についても、上述の周知の成分分析法により求めることができる。母材10が合金管である場合、肉厚中央位置において、上述の化学分析法を実施する。母材10が合金板である場合、厚さ中央位置において、上述の化学分析法を実施する。
【0140】
[溶接材料について]
上述の溶接金属20(初層領域21及び他層領域22)を製造するための溶接材料の化学組成は、他層領域22の化学組成と同じである。具体的には、本実施形態の溶接材料の化学組成は、
C:0.030~0.250%未満、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~30.00%、
Al:2.50~4.50%、
N:0.050%以下、
Nb:0~2.00%、
Cu:0~5.00%、
Ti:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Mo:0~15.00%、
W:0~12.00%
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
希土類元素:0~0.100%、
Fe:0~20.00%、及び、
残部がNi及び不純物からなる。
【0141】
なお、溶接材料の化学組成の各元素の作用効果については、他層領域22の化学組成での対応する元素の作用効果と同じであるため、省略する。また、以下の各元素含有量の好ましい下限及び好ましい上限についても、他層領域22の化学組成中の対応する元素含有量の好ましい下限及び好ましい上限と同じである。
【0142】
[製造方法]
以下、本実施形態の溶接継手1の製造方法を説明する。以降に説明する溶接継手1の製造方法は、本実施形態の溶接継手1の製造方法の一例である。したがって、上述の構成を有する溶接継手1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の溶接継手1の製造方法の好ましい一例である。
【0143】
本実施形態の溶接継手1の製造方法は、一対の母材10を準備する工程(母材準備工程)と、一対の母材10の開先を突き合わせて多層盛り溶接を実施して、溶接金属20を形成する工程(溶接金属形成工程)とを備える。以下、各工程について詳述する。
【0144】
[母材準備工程]
始めに、一対の母材10を準備する。母材10の端部は、周知の開先形状が形成されている。開先形状はたとえば、図5に示すV形状であってもよいし、図6に示すU形状であってもよいし、図7に示すX形状であってもよいし、図5図7以外の他の形状であってもよい。
【0145】
母材10は第三者から提供されたものであってもよいし、溶接継手1の製造者が、母材10を製造して準備してもよい。以下、母材10を製造する場合の母材10の製造方法の一例を説明する。
【0146】
母材10の製造方法は、母材10の素材を準備する工程(準備工程)と、必要に応じて、素材に対して熱間加工を実施して中間材を製造する工程(熱間加工工程)と、必要に応じて、熱間加工工程後の中間材に対して酸洗処理を実施した後冷間加工を実施する工程(冷間加工工程)と、必要に応じて、素材準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間材、又は、冷間加工後の中間材に対して、溶体化熱処理を実施する工程(溶体化熱処理工程)と、必要に応じて、素材又は中間材の表面のスケールを除去する工程(スケール除去工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0147】
[準備工程]
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は第三者から供給されてもよいし、製造してもよい。素材はインゴットであってもよいし、スラブ、ブルーム、ビレットであってもよい。素材を製造する場合、次の方法により、素材を製造する。上述の化学組成を有する溶湯合金を製造する。製造された溶湯合金を用いて、造塊法によりインゴットを製造する。製造された溶湯合金を用いて、鋳造法によりスラブ、ブルーム、ビレット、素管を製造してもよい。製造されたインゴット、スラブ、ブルームに対して熱間加工を実施して、ビレット又は素管を製造してもよい。たとえば、インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造し、このビレットを素材(円柱素材)としてもよい。この場合、熱間鍛造開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば、900~1300℃である。また、周知の遠心鋳造法により素材(合金管)を製造してもよい。
【0148】
[熱間加工工程]
熱間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、熱間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、素材に対して熱間加工を実施して、所定の形状の中間材を製造する。母材10が板材である場合、熱間圧延により板状の中間材を製造する。母材10が合金管である場合、機械加工により、円柱素材の中心軸に沿った貫通孔を形成する。貫通孔が形成された円柱素材に対して、熱間押出を実施して、中間材(管材)を製造する。熱間加工工程での素材の加熱温度は特に限定されないが、たとえば900~1300℃である。
【0149】
熱間加工工程では、熱間押出に代えて、円柱素材に対してマンネスマン法による穿孔圧延を実施して、中間材(管材)を製造してもよい。穿孔圧延前の素材の温度はたとえば、900~1300℃である。
【0150】
[冷間加工工程]
冷間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、冷間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、中間材に対して、酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する。母材10が板材である場合、冷間圧延を実施する。母材10が合金管である場合、冷間抽伸を実施する。冷間加工工程における減面率は特に限定されないが、たとえば、10~90%である。
【0151】
[溶体化熱処理工程]
溶体化熱処理工程は必要に応じて実施する。つまり、溶体化熱処理工程は実施しなくてもよい。実施する場合、準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間材、又は、冷間加工工程後の中間材に対して、溶体化熱処理を実施する。溶体化熱処理により、素材又は中間材の析出物を固溶する。
【0152】
溶体化熱処理は、次の方法で実施する。炉内雰囲気が大気雰囲気である熱処理炉内に、素材又は中間材を装入する。ここでいう大気雰囲気は、大気を構成する気体である窒素を体積で78%以上、酸素を体積で20%以上含有する雰囲気を意味する。大気雰囲気の炉内において、素材又は中間材を900~1300℃に加熱し、900~1300℃で保持する。保持時間は1~60分である。熱処理後の素材又は中間材を急冷する。急冷方法はたとえば、周知の水冷、周知の油冷である。
【0153】
[スケール除去工程]
スケール除去工程は必要に応じて実施する。つまり、スケール除去工程は実施しなくてもよい。実施する場合、準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間材、冷間加工工程後の中間材、又は、溶体化熱処理後の素材又は中間材の表面のスケールを除去する。スケールを除去する方法は、ブラスト加工や研削等によりスケールを除去する方法であってもよいし、酸洗処理によりスケールを除去する方法であってもよい。
【0154】
酸洗処理を実施する場合、酸洗条件は特に限定されない。好ましくは、酸洗溶液として、硝酸及び弗酸の混合溶液を用いる。混合溶液はたとえば、体積%で5.0~8.0%の硝酸と、体積%で5.0~8.0%の弗酸とを含む水溶液である。酸洗溶液槽内の酸洗溶液の温度を30~50℃に調整し、素材又は中間材を酸洗溶液槽に浸漬する。浸漬時間はたとえば、0.5~5.0時間である。以上の酸洗処理により、素材表面又は中間材の表面から、スケールが十分に除去される。
【0155】
ブラスト加工とは、研削材に運動エネルギーを与えて素材又は中間材の表面に衝突させ、金属表面を切削又は打撃する加工を意味する。ブラスト加工によりスケールを除去する場合、ブラスト加工はたとえば、研削材に砂を用いたサンドブラスト、研削材に鋼粒を用いたショットブラスト、研削材に鋳鉄グリッドや鋳鋼グリッド、アルミナグリッド、炭化珪素グリッド等を用いたグリッドブラスト、研削材に、鋳鉄ショットや鋳鋼ショット、カットワイヤ等を用いたショットブラスト等である。
【0156】
以上の工程により、母材10が製造される。
【0157】
準備された母材10に対して、開先を形成する。具体的には、母材10の端部に、周知の加工方法により開先を形成する。開先形状は、図5に示すV形状であってもよいし、図6に示すU形状であってもよいし、図7に示すX形状であってもよいし、図5図7以外の他の形状であってもよい。
【0158】
[溶接金属形成工程]
溶接金属形成工程では、準備された母材10に対して溶接を実施し、溶接金属20を形成して、溶接継手1を製造する。具体的には、開先が形成された2つの母材10を準備する。準備された母材10の開先同士を突き合わせる。そして、突き合わされた一対の開先部に対して、上述の溶接材料を用いて溶接を実施して、上述の化学組成を有する溶接金属20を形成する。
【0159】
始めに、上述の化学組成を有する溶接材料を用いて溶接を実施して、初層領域21を形成する。溶接方法はたとえば、ティグ溶接(GTAW)、被覆アーク溶接(SMAW)、フラックス入りワイヤアーク溶接(FCAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、サブマージアーク溶接(SAW)である。このとき、図5に示すように、突き合わせた母材10の開先でのルート間隔RD、開先のルート面RTの厚さ、及び、溶接時の溶接材料の送給量を調整して、初層領域21の化学組成の各元素含有量を本実施形態の範囲内とし、かつ、F1を0.16~1.60の範囲内とする。なお、溶接材料の化学組成と、溶接材料の送給量と、ルート間隔RD及び開先のルート面厚さRTに基づく母材10の希釈量と、を調整することにより、初層領域21の化学組成の各元素含有量を本実施形態の範囲内とし、かつ、F1を0.16~1.60の範囲内に調整可能である。
【0160】
なお、上述の溶接材料は、第三者から供給されたものであってもよいし、製造したものを用いてもよい。溶接材料を製造する場合、上述の化学組成を有する溶接材料の溶湯を用いて鋳造を実施してインゴットにする。インゴットを熱間加工して溶接材料を製造する。熱間加工後の溶接材料に対して、さらに冷間加工を実施してもよい。また、溶接材料に対して周知の熱処理を実施してもよい。熱処理はたとえば、母材10と同様の溶体化熱処理である。熱処理は実施しなくてもよい。溶接材料は棒状であってもよいし、小さなブロック状であってもよい。
【0161】
以上の製造工程により、本実施形態による溶接継手1を製造できる。なお、本実施形態による溶接継手1の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。溶接継手1において、母材10の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、溶接金属20のうち、初層領域21の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、かつ、F1が0.16~1.60の範囲内であって、他層領域22の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、F1>F2の関係を有していれば、本実施形態の溶接継手1は、上記製造方法に特に限定されない。
【実施例
【0162】
[溶接継手の製造]
[母材の製造]
表1の化学組成を有する母材用の溶鋼を製造した。
【0163】
【表1】
【0164】
表1中の空白は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを示す。検出限界未満である場合、その元素は含有されていなかったとみなした。
【0165】
溶鋼を用いて、外径120mm、30kgのインゴットを製造した。インゴットに対して熱間鍛造を実施して、厚さ40mmの鋼板とした。さらに、熱間圧延を実施して、厚さ15mmの鋼板とした。熱間鍛造前、及び、熱間圧延前の加熱時の加熱温度は1050~1300℃であり、熱間鍛造時及び熱間圧延時の最終加工温度はいずれも1050℃以上であった。熱間圧延後の鋼板に対して、溶体化熱処理を実施した。いずれの鋼板においても、溶体化熱処理温度は1250℃であり、溶体化熱処理時間はいずれも10分であった。溶体化熱処理後の母材を水冷した。
【0166】
溶体化熱処理後の母材に対して、スケール除去処理を実施した。本実施例では、母材表面をグラインダにより切削加工して、スケールを除去した。
【0167】
[浸炭試験]
表1の各マークの鋼板の耐浸炭性について、次の試験により評価した。各マークの鋼板から、厚さ8mm、幅20mm、長さ30mmの試験片を切り出した。試験片の表面を、#600番のエメリー紙で湿式研磨した。湿式研磨後の試験片をアルミナ治具を用いて直立させ、管状炉内に挿入した。試験片を挿入後の炉内に雰囲気ガスを通気しながら、1100℃で96時間保持した。雰囲気ガスは、15体積%のCH4と、3体積%のCO2と、82%のH2とを含有した。雰囲気ガスの流量は、合計で500mL/分とした。96時間経過後の試験片の表面から1mm深さ位置で切粉を作製した。切粉を用いて、JIS
G1211-3(2013)に準拠した高周波燃焼赤外吸収法を実施して、C含有量(質量%)を求めた。試験後のC含有量から、試験前の母材のC含有量(質量%)を差分した値を、各マークの母材での侵入C量とした。得られた侵入C量が1.5質量%以下である場合、耐浸炭性及び耐コーキング性に優れると判断した。表2に、耐浸炭性及び耐コーキング性の評価結果を示す。
【0168】
【表2】
【0169】
表2中の「○」は、侵入C量が1.50質量%以下であったことを示す。「×」は、侵入C量が1.50質量%を超えたことを示す。表2を参照して、マークA~H、J~Oは、化学組成が適切であった。そのため、侵入C量が1.50%以下であり、優れた耐浸炭性及び耐コーキング性を示した。一方、マークIのAl含有量は低かった。そのため、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性及び耐コーキング性が低かった。
【0170】
以上の結果に基づいて、以下に示す溶接継手の製造には、母材として、マークA~H、J~Oを使用し、マークIを使用しなかった。
【0171】
[溶接材料の製造]
表3に示す化学組成を有する鋼種の化学組成を有する溶鋼を製造した。なお、表3中の空白部分は、対応する元素が含有されていなかった(検出限界未満であった)ことを意味する。
【0172】
【表3】
【0173】
表3の溶鋼を用いて、外径120mm30kgのインゴットを製造した。インゴットに対して、周知の方法で熱間鍛造及び熱間圧延を実施して、中間線材を製造した。中間線材に対して溶体化熱処理を実施した。溶体化熱処理は1250℃であり、保持時間は10分であった。保持時間経過後の中間線材を水冷した。以上の製造工程により、溶接ワイヤ(溶接材料)を製造した。
【0174】
[溶接継手の製造]
表1のマークA~H、J~Oの母材から、図12に示す板材を2枚、機械加工により作製した。図12において、「mm」が付属した数値は、母材である鋼板の寸法(単位はmm)を示す。鋼板は、長手方向に延びる側面に開先面を有した。開先面は、開先角度の1/2が20°のV形開先と、開先角度の1/2が20°のU形開先とを準備した。
【0175】
図13に示すように、拘束板30を準備した。拘束板30は、厚さ50mm、幅150mm、長さ200mmであり、JIS G 3106(2008)に記載の「SM400C」に相当する化学組成を有した。
【0176】
拘束板30上に、一対の母材(板材)10を配置した。このとき2枚の母材10の開先面を互いに突き合わせた。2枚の母材10を配置した後、被覆アーク溶接棒を用いて、一対の母材10の四周(つまり、一対の母材10の互いに対向した開先を除く外周部分)を拘束溶接した。被覆アーク溶接棒は、JIS Z 3224(2010)に規定の「ENiCrMo-3」に相当する化学組成を有した。
【0177】
拘束板30上に、一対の母材10を拘束溶接する場合、一対のV形開先を有する母材、又は、一対のU形開先を有する母材を拘束板30上に配置した。このとき、図5に示すとおり、ルート間隔RDを変化させた。さらに、一対の母材10のV形開先のルート面RTの厚さ、及び、一対の母材10のU形開先のルート面RTの厚さも変化させた。
【0178】
母材10の四周を拘束溶接した後、表3に示す化学組成を有する溶接ワイヤを用いて、多層盛り溶接を実施した。具体的には、ティグ溶接(GTAW)を実施した。各溶接での溶接条件は、溶接電流を150A、溶接電圧を15V、溶接速度を10cm/分とした。ティグ溶接(GTAW)時には、100%Arガスをシールドガスに用いた。
【0179】
図13を参照して、図13中の母材10の下端から上端に向かって1パス目の溶接を実施して、初層領域21を形成した。初層領域21を形成後、母材10の下端から溶接金属延在方向Lに50mmの範囲D1では多層盛り溶接を実施せず、残りの母材部分である範囲D2において、多層盛り溶接を実施して他層領域22を形成し、溶接金属20を形成した。以上の製造方法により、溶接継手を製造した。
【0180】
[評価試験]
[初層領域21及び他層領域22の化学組成分析試験]
溶接金属20の初層領域21及び他層領域22の化学組成を、次の方法で分析した。始めに、溶接継手を溶接金属20の延在方向(溶接金属延在方向L)に垂直に切断し、図8又は図9に示す断面(以下、観察面という)を得た。観察面を機械研磨した後、溶接金属20に対して王水によるエッチングを実施して、溶接金属20の各層の境界BOを現出させた。これにより、初層領域21と他層領域22とを容易に区分することができた。
【0181】
図11を参照して、溶接金属20の延在方向に垂直な断面(溶接金属厚さ方向T方向及び溶接金属幅方向W方向を含む断面)において、溶接金属20の表面の幅Wの中央位置を特定した。このとき、図11中の上面側(他層領域22の表面側)の溶接金属20の表面の幅Wの中央位置を特定した。特定された溶接金属20の幅Wの中央位置であって、かつ、初層領域21の厚さT21の厚さ中央位置P21を特定した。さらに、溶接金属20の幅Wの中央位置であって、かつ、他層領域22の厚さT22の厚さ中央位置P22を特定した。
【0182】
位置P21の化学組成と、位置P22の化学組成とを、周知の成分分析法により求めた。具体的には、位置P21に直径5mmのドリルを用いて溶接金属20の延在方向に平行に穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取した。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得た。溶液に対して、IPC-OESを実施して、化学組成の元素分析を実施した。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法により求めた。具体的には、上記溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出して、C含有量及びS含有量を求めた。以上の分析法により、初層領域21の化学組成を求めた。同様に、位置P22の化学組成を、位置P21と同じ方法により分析して、他層領域22の化学組成を求めた。各試験番号の初層領域21の化学組成を表4に示し、他層領域22の化学組成を表5に示す。
【0183】
なお、母材10の板厚中央位置に対して、直径5mmのドリルを用いて溶接金属20の延在方向に平行に穿孔加工して切粉を生成し、母材10の切粉を採取した。採取された切粉を用いて、上述の成分分析(IPC-OES及び高周波燃焼法)を実施した。その結果、各マークA~Oの化学組成は、表1に示すとおりであった。
【0184】
【表4】
【0185】
【表5】
【0186】
表4及び表5中の空白部分は、対応する元素が含有されていなかった(検出限界未満であった)ことを示す。表4及び表5中の「F1」欄には、初層領域21の化学組成のF1=Fe/Niを示し、表5中の「F2」欄には、他層領域22の化学組成のF2=Fe/Niを示す。
【0187】
[溶接性評価試験]
[凝固割れ判定試験]
図13を参照して、範囲D1のうち、溶接金属延在方向Lに等間隔ピッチで3箇所から、初層領域21及び一対の母材10を含むサンプルを採取した。つまり、範囲D1から3つのサンプルを採取した。そして、各サンプルの初層領域21に割れが発生しているか否かを目視にて判断した。3つのサンプルの断面(合計6面)において、初層領域21に1つでも割れが発生している場合、「凝固割れ」が発生したと判断した(表5中の「耐凝固割れ性」欄において「×」)。一方、3つのサンプルの断面(合計6面)のいずれにおいても初層領域21に割れが発生しない場合、凝固割れが発生しなかったと判断した(表5中の「耐凝固割れ性」欄において「○」)。
【0188】
[再熱割れ判定試験]
図13を参照して、範囲D2のうち、溶接金属延在方向Lに等間隔ピッチで3箇所から、溶接金属20及び一対の母材10を含むサンプルを採取した。つまり、範囲D2から3つのサンプルを採取した。そして、各サンプルの溶接金属20に割れが発生しているか否かを目視にて判断した。3つのサンプルの断面(合計6面)において、溶接金属20に1つでも割れが発生している場合、「再熱割れ」が発生したと判断した(表6中の「耐再熱割れ性」欄において「×」)。一方、3つのサンプルの断面(合計6面)のいずれにおいても溶接金属20に割れが発生しない場合、再熱割れが発生しなかったと判断した(表6中の「耐再熱割れ性」欄において「○」)。
【0189】
【表6】
【0190】
[試験結果]
試験結果を表6に示す。表6を参照して、試験番号1~6、11~18、21~31では、母材10の化学組成、初層領域21の化学組成、及び、他層領域22の化学組成がいずれも適切であった。そして、初層領域21において、F1が0.16~1.60であり、初層領域21の化学組成のF1と、他層領域22の化学組成のF2とが、F1>F2であった。そのため、多層盛り溶接時において、凝固割れ及び再熱割れが発生しなかった。
【0191】
一方、試験番号7、8及び19では、初層領域21において、F1が1.60を超えた。そのため、多層盛り溶接において、凝固割れが確認された。
【0192】
試験番号9、10及び20では、初層領域21において、F1が0.16未満であった。そのため、多層盛り溶接において、再熱割れが確認された。なお、試験番号9、20では、F1<F2となった。
【0193】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
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