(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】斜面補強構造及び斜面補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
E02D17/20 106
(21)【出願番号】P 2019072203
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】持田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】石濱 吉郎
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-226051(JP,A)
【文献】特開2002-088769(JP,A)
【文献】特開2017-128921(JP,A)
【文献】特開2006-089979(JP,A)
【文献】特開2011-179212(JP,A)
【文献】特開2016-056505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の補強部材を備える補強構造体を斜面に挿入した斜面補強構造であって、
前記補強構造体は、
周面に複数の透水孔が形成された中空の棒材により構成され、少なくとも進行性破壊の初期崩壊箇所となる斜面の法尻に一端が挿入される第1補強部材と、
棒材により構成され、斜面における前記第1補強部材の挿入位置よりも高い位置に一端が挿入される第2補強部材と、
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ連結する連結部材と、を備え、
前記第1補強部材は、略水平または他端が一端よりも低い位置になるように設置され、
前記第2補強部材の斜面のすべり面に対する設置角度は、少なくとも前記第1補強部材の設置角度よりも大きいことを特徴とする、斜面補強構造。
【請求項2】
斜面の法尻に挿入される前記第1補強部材には、支圧板が設けられることを特徴とする、請求項1に記載の斜面補強構造。
【請求項3】
前記支圧板を、前記すべり面に対して略垂直となるように前記第1補強部材に貫入することを特徴とする、請求項2に記載の斜面補強構造。
【請求項4】
一の前記補強部材に対して、他の前記補強部材が複数連結されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項5】
前記第1補強部材及び前記第2補強部材が、斜面上において千鳥状に配置されることを特徴とする、請求項4に記載の斜面補強構造。
【請求項6】
前記補強構造体が斜面上において複数設けられることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項7】
複数の前記補強構造体を連結する第2連結部材を更に備え、
前記第2連結部材は、一の前記補強構造体の前記第1補強部材と、他の前記補強構造体の前記第2補強部材とを連結することを特徴とする、請求項6に記載の斜面補強構造。
【請求項8】
複数の前記補強構造体が、斜面の法尻に沿って並べて配置されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の斜面補強構造。
【請求項9】
斜面における前記第2補強部材の挿入位置よりも高い位置に一端が挿入され、前記第1補強部材と連結される他の第2補強部材を更に備え、
前記第2補強部材及び前記他の第2補強部材が、斜面上において千鳥状に配置されることを特徴とする、請求項8に記載の斜面補強構造。
【請求項10】
複数の前記補強構造体が、斜面上において千鳥状に配置されることを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項11】
前記第2補強部材の設置角度は、前記すべり面に対して略垂直であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項12】
前記第1補強部材は主として引張抵抗部材として機能し、
前記第2補強部材は主として曲げ抵抗部材として機能することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項13】
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ剛結する剛結部材が更に設けられることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項14】
前記補強構造体は、
棒材により構成され、少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と前記連結部材により連結される第3補強部材を更に備え、
当該第3補強部材の斜面のすべり面に対する設置角度は、前記第1補強部材の設置角度よりも大きく、前記第2補強部材の設置角度よりも小さいことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項15】
少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と、前記第3補強部材をそれぞれ剛結する剛結部材が更に設けられることを特徴とする、請求項14に記載の斜面補強構造。
【請求項16】
一の前記補強部材と他の前記補強部材を連結した前記連結部材にはプレストレスが導入されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の斜面補強構造。
【請求項17】
複数の補強部材を備える補強構造体を斜面に挿入する斜面補強方法であって、
周面に複数の透水孔が形成された中空の棒材により構成される第1補強部材の一端を、少なくとも進行性破壊の初期崩壊箇所となる斜面の法尻に略水平または他端が一端よりも低い位置になるように挿入し、
斜面における前記第1補強部材の挿入位置よりも高い位置に、棒材により構成される第2補強部材の一端を、斜面のすべり面に対する設置角度が、少なくとも前記第1補強部材の設置角度よりも大きくなるように挿入し、
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ連結する、ことを特徴とする、斜面補強方法。
【請求項18】
斜面の法尻に挿入される前記第1補強部材の他端に支圧板を設ける、ことを特徴とする、
請求項17に記載の斜面補強方法。
【請求項19】
前記支圧板を、前記すべり面に対して略垂直となるように前記第1補強部材に貫入する、請求項18に記載の斜面補強方法。
【請求項20】
一の前記補強部材に対して、他の前記補強部材を複数連結することを特徴とする、請求項17~19のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項21】
前記第1補強部材及び前記第2補強部材を、斜面上において千鳥状に配置することを特徴とする、請求項20に記載の斜面補強方法。
【請求項22】
前記補強構造体を斜面上において複数設けることを特徴とする、請求項17~21のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項23】
複数の前記補強構造体うち、一の前記補強構造体の前記第1補強部材と、他の前記補強構造体の前記第2補強部材とを第2連結部材により連結することを特徴とする、請求項22に記載の斜面補強方法。
【請求項24】
複数の前記補強構造体を、斜面の法尻に沿って並べて配置することを特徴とする、請求項22又は23に記載の斜面補強方法。
【請求項25】
斜面における前記第2補強部材の挿入位置よりも高い位置に、前記第1補強部材と連結される他の第2補強部材の一端を挿入し、
前記第2補強部材及び前記他の第2補強部材を、斜面上において千鳥状に配置することを特徴とする、請求項24に記載の斜面補強方法。
【請求項26】
複数の前記補強構造体を、斜面上において千鳥状に配置することを特徴とする、請求項22~24のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項27】
前記第2補強部材を、前記すべり面に対して略垂直に設置することを特徴とする、請求項17~26のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項28】
前記第1補強部材は主として引張抵抗部材として機能し、
前記第2補強部材は主として曲げ抵抗部材として機能することを特徴とする、請求項17~27のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項29】
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端を、剛結部材により剛結することを特徴とする、請求項17~28のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項30】
棒材により構成され、少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と連結される第3補強部材を、
前記第1補強部材の設置角度よりも大きく、前記第2補強部材の設置角度よりも小さい設置角度で前記斜面のすべり面に設置することを特徴とする、請求項17~29のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【請求項31】
少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と、前記第3補強部材を剛結部材により剛結することを特徴とする、請求項30に記載の斜面補強方法。
【請求項32】
一の前記補強部材と他の前記補強部材を連結する部材にプレストレスを導入することを特徴とする、請求項17~31のいずれか一項に記載の斜面補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面補強構造及び斜面補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模地震や集中豪雨等の二次災害として、地盤の崩壊による斜面災害が増加している。当該斜面災害が懸念される領域を含む斜面には、ある同じ大きさの外力が作用した際に、当該外力の作用により崩壊してしまう「移動層」と、当該外力によっては崩壊しない「不動層」とが含まれる。
【0003】
例えば
図1に示すように、前記斜面災害が懸念される領域(以下、「補強対象領域10」という。)を含む斜面1は、地中にすべり面Aを有し、すべり面Aよりも地中の浅い側が前記移動層としての土塊11、すべり面Aよりも地中の深い側が前記不動層としての安定地盤20となっている。すなわち、平常時において斜面1は土塊11と安定地盤20との間の内部摩擦により安定性を保っているところ、災害の発生等により斜面1に外力が作用すると、安定地盤20上において土塊11がすべり面Aに沿って滑り落ちるようにして斜面1が崩壊する。
【0004】
かかる地盤崩壊への対策としては、種々の地盤安定化構造、地盤補強構造が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、複数の列をなしてそれぞれ斜面の上部から下部に向かって間隔をあけて設置したアンカーの頭部間を頭部連結部材で連結し、かつ各アンカーに支圧板を取り付ける斜面安定化工法であって、斜面崩壊の恐れのある領域を越えた、斜面上部側の領域においてもアンカーを設置する工法が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、切土斜面の地盤補強を目的とした大径曲げ引張補強体の築造方法であって、筒状の芯材を柱状の改良体に貫入することにより、補強体の曲げ抵抗力及びせん断抵抗力を増大させ、地盤の補強効果を向上させる方法が開示されている。
【0007】
更に特許文献3には、地山に杭を打設して斜面を安定化する斜面の安定化構造であって、すべり面に対しての打設角度の異なる複数の杭が斜面に打設され、当該複数の杭の杭頭部が剛結される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-88769号公報
【文献】特開平7-42159号公報
【文献】特開2017-128921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、
図1に示したような斜面1の崩壊モードとしては、主として、すべり面Aに沿って土塊11が剛体として一挙に滑り落ちて崩壊する「すべり破壊」と、補強対象領域10の下部10aから徐々に土塊11の崩壊が進行する「進行性破壊」の2種類を挙げることができる。
【0010】
前記すべり破壊は、例えば大規模地震などにより斜面1に対して過大な外力が作用することに起因する。すなわち、過大な外力の作用により前記内部摩擦の均衡が崩れ、これにより土塊11がすべり面Aに沿って滑落する。
【0011】
一方、前記進行性破壊は、例えば豪雨などによって多量の雨水が地下水となって斜面1に浸透し、斜面1中の水位が上昇することに起因する。すなわち、まず、水位の上昇により補強対象領域10を形成する土塊11の下部10a部分に雨水が浸透し、これにより下部10aの強度が低下して局部崩壊が生じる。続いて、当該局部崩壊により補強対象領域10の下部10a部分における抵抗力(土塊11の支持力)が失われ、前記局部崩壊された箇所の上部が崩壊する。このようにして、補強対象領域10の上方に向けて徐々に崩壊が進行する。
【0012】
ここで、上述の特許文献1~3においては、前記すべり破壊への対策としての地盤安定化、地盤補強は行われていたものの、前記進行性破壊への対策については考慮されていなかった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、斜面の崩壊モードによらず、適切な斜面補強効果を得ることができる斜面補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、複数の補強部材を備える補強構造体を斜面に挿入した斜面補強構造であって、前記補強構造体は、周面に複数の透水孔が形成された中空の棒材により構成され、少なくとも進行性破壊の初期崩壊箇所となる斜面の法尻に一端が挿入される第1補強部材と、棒材により構成され、斜面における前記第1補強部材の挿入位置よりも高い位置に一端が挿入される第2補強部材と、前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ連結する連結部材と、を備え、前記第1補強部材は、略水平または他端が一端よりも低い位置になるように設置され、前記第2補強部材の斜面のすべり面に対する設置角度は、少なくとも前記第1補強部材の設置角度よりも大きいことを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、略水平または他端が一端よりも低い位置になるように一端が挿入される第1補強部材が鋼管により構成されるため、適切に地盤中の排水を行うことができる。また、連結部材により端部が連結された第1補強部材及び第2補強部材の設置角度がそれぞれ異なるため、補強構造体の引張抵抗力及び曲げ抵抗力のそれぞれを高めることができ、様々な崩壊モードに適切に対応することができる斜面補強効果を得ることができる。
【0017】
一の前記補強部材に対して、他の前記補強部材が複数連結されていてもよい。
【0018】
前記第1補強部材及び前記第2補強部材が、斜面上において千鳥状に配置されることが好ましい。
【0019】
前記補強構造体が斜面上において複数設けられていてもよい。
【0020】
複数の前記補強構造体を連結する第2連結部材を更に備えていてもよい。かかる場合、前記第2連結部材は、一の前記補強構造体の前記第1補強部材と、他の前記補強構造体の前記第2補強部材とを連結する。
【0021】
複数の前記補強構造体は、斜面上において千鳥状に配置されてもよい。
または、複数の前記補強構造体は、斜面の法尻に沿って並べて配置されてもよい。この時、斜面における前記第2補強部材の挿入位置よりも高い位置に一端が挿入され、前記第1補強部材と連結される他の第2補強部材を更に備えていることが好ましい。前記第2補強部材及び前記他の第2補強部材は、斜面上において千鳥状に配置されてもよい。
【0022】
前記補強構造体は、棒材により構成され、少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と前記連結部材により連結される第3補強部材を更に備えていてもよい。かかる場合、当該第3補強部材の斜面のすべり面に対する設置角度は、前記第1補強部材の設置角度よりも大きく、前記第2補強部材の設置角度よりも小さく設定されることが好ましい。
【0023】
少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と、前記第3補強部材をそれぞれ剛結する剛結部材が更に設けられていてもよい。
【0024】
斜面の法尻に挿入される前記第1補強部材には、支圧板が設けられていることが好ましい。この時、前記支圧板は、前記すべり面に対して略垂直となるように前記第1補強部材に貫入してもよい。
【0026】
前記第2補強部材の設置角度は、前記すべり面に対して略垂直であってもよい。
【0027】
なお、前記第1補強部材は主として引張抵抗部材として機能し、前記第2補強部材は主として曲げ抵抗部材として機能する。
【0028】
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ剛結する剛結部材が更に設けられていてもよい。
【0029】
一の前記補強部材と他の前記補強部材を連結した前記連結部材にはプレストレスが導入されてもよい。
【0030】
別な観点による本発明は、複数の補強部材を備える補強構造体を斜面に挿入する斜面補強方法であって、周面に複数の透水孔が形成された中空の棒材により構成される第1補強部材の一端を、少なくとも進行性破壊の初期崩壊箇所となる斜面の法尻に略水平または他端が一端よりも低い位置になるように挿入し、斜面における前記第1補強部材の挿入位置よりも高い位置に、棒材により構成される第2補強部材の一端を、斜面のすべり面に対する設置角度が、少なくとも前記第1補強部材の設置角度よりも大きくなるように挿入し、前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端をそれぞれ連結する、ことを特徴としている。
【0032】
一の前記補強部材に対して、他の前記補強部材を複数連結してもよい。
【0033】
前記第1補強部材及び前記第2補強部材を、斜面上において千鳥状に配置することが好ましい。
【0034】
前記補強構造体を斜面上において複数設けてもよい。
【0035】
複数の前記補強構造体うち、一の前記補強構造体の前記第1補強部材と、他の前記補強構造体の前記第2補強部材とを第2連結部材により連結してもよい。
【0036】
複数の前記補強構造体を、斜面上において千鳥状に配置してもよい。
または、複数の前記補強構造体を、斜面の法尻に沿って並べて配置してもよい。この時、斜面における前記第2補強部材の挿入位置よりも高い位置に、前記第1補強部材と連結される他の第2補強部材の一端を挿入し、前記第2補強部材及び前記他の第2補強部材を、斜面上において千鳥状に配置してもよい。
【0037】
棒材により構成され、少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と前記連結部材により連結される第3補強部材を、前記第1補強部材の設置角度よりも大きく、前記第2補強部材の設置角度よりも小さい設置角度で前記斜面のすべり面に設置してもよい。
【0038】
少なくとも前記第1補強部材または前記第2補強部材と、前記第3補強部材は剛結部材により剛結されてもよい。
【0039】
斜面の法尻に挿入される前記第1補強部材の他端に支圧板を設けてもよい。この時、前記支圧板を、前記すべり面に対して略垂直となるように前記第1補強部材に貫入してもよい。
【0041】
前記第2補強部材を、前記すべり面に対して略垂直に設置してもよい。
【0042】
前記第1補強部材は主として引張抵抗部材として機能し、前記第2補強部材は主として曲げ抵抗部材として機能してもよい。
【0043】
前記第1補強部材の他端と前記第2補強部材の他端は、剛結部材により剛結されてもよい。
【0044】
一の前記補強部材と他の前記補強部材を連結した前記連結部材にプレストレスを導入してもよい。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、斜面の崩壊モードによらず、適切な斜面補強効果を得ることができ、特に進行性破壊に対して好適な斜面補強効果を得ることができる斜面補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】崩壊するおそれのある斜面を含む地盤を模式的に示す説明図である。
【
図2】斜面の崩壊により発生する応力と土塊の変位量との関係を示す概念図である。
【
図3】第1実施形態にかかる斜面補強構造の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す斜面補強構造の(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図5】補強構造体が受ける受働土圧についての説明図である。
【
図6】第2実施形態にかかる斜面補強構造の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図8】第2実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図9】第2実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図10】第2実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図11】第3実施形態にかかる斜面補強構造の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図12】第2実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図13】第4実施形態にかかる斜面補強構造の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図14】第4実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図15】第5実施形態にかかる斜面補強構造の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図16】第5実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図17】第5実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図18】第5実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図19】第5実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【
図20】第5実施形態にかかる斜面補強構造の他の構成を模式的に示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0048】
なお、以下の説明において「斜面1」とは、傾斜部を含む土構造物を総称するものとし、例えば山岳や丘陵地に見られる自然斜面、および、例えば堤防等に見られる人工斜面(法面)を含む。
【0049】
また、
図2(a)は斜面1の崩壊により生じる応力の説明図であり、
図2(b)はすべり面Aに対する土塊11の変位量δと補強効果との関係を示した概念図である。
図2(a)に示すように、すべり面Aに沿って土塊11が滑り落ちて崩壊する場合、補強対象領域10を補強するための補強部材には、引張応力Tと曲げ応力Mが主として作用する。かかる引張応力T及び曲げ応力Mのそれぞれに対する前記補強部材による補強効果を、以下の説明においては「引張り補強効果」及び「曲げ補強効果」という場合がある。なお、
図2(b)に示すように、すべり面Aに対する土塊11の変位量δが小さい場合には引張補強効果が、変位量δが大きい場合には曲げ補強効果が主として作用する。
【0050】
また、
図2(c)は前記補強部材の設置角度の説明図である。以下の説明においては、
図2(c)に示すように、すべり面Aからの補強部材の挿入角度、具体的には補強部材とすべり面Aの接点から斜面下方に延伸する接線を斜面1の表面側(
図2(c)中における反時計回り方向)へ回転させる方向を正とする角度を、補強部材の「設置角度θ」という場合がある。
【0051】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態にかかる斜面補強構造について説明する。
図3は、本実施形態にかかる補強構造体100の構成を模式的に表す斜視図である。また、
図4は本実施形態にかかる補強構造体100の構成を模式的に表す説明図であり、
図4(a)は
図3におけるB-B断面図、
図4(b)は正面図である。なお、以下においては、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を規定し、X軸正方向を安定地盤20から土塊11へ向けての水平方向、Y軸正方向を斜面表面に沿って延伸する水平方向、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。なお、断面図である
図4(a)においては後述の第1補強部材101、第2補強部材102は点線により図示すべきところ、図示の煩雑さを回避するため実線により図示している。
【0052】
図3及び
図4に示すように、補強構造体100は、第1補強部材101と、第2補強部材102と、第1補強部材101の頭部101a(第1補強部材101の土塊11から突出する側の端部)及び第2補強部材102の頭部102a(第2補強部材102の土塊11から突出する側の端部)をそれぞれ連結する連結部材103を有している。連結部材103としては、例えば引張材が用いられる。
【0053】
第1補強部材101は、棒状部材により構成されており、斜面1中に、特に補強対象領域10中に浸透した地下水の排水を助長するため、少なくとも略水平、または、頭部101aが水平よりも下がる角度で、頭部101aとの他端側が補強対象領域10に挿入される。なお、第1補強部材101は補強対象領域10中の排水を適切に行うことができるものであれば、任意に構造や材質を選択することができる。具体的には、第1補強部材101は中空の棒材、例えば鋼管であってもよく、鋼管の中空部分により地下水を排水できるように構成してもよい。
【0054】
また、第1補強部材101は、引張補強効果を主として得ることができるように補強対象領域10に設置される。かかる場合、既往の知見として引張補強効果は、補強部材の設置角度が0°~45°である場合に効率的に発揮されることが知られている。そこで、第1補強部材101は、設置角度θ1が0°~45°の範囲、より望ましくは設置角度θ1が30°となるように補強対象領域10に挿入されることが好ましい。
【0055】
以上の観点から、第1補強部材101は、設置角度θ1が例えば30°である場合に、少なくとも略水平、または、頭部101aが水平よりも下がる角度となるような位置に挿入されることが望ましい。
【0056】
第2補強部材102は任意の棒状部材、例えばロッド、パイプ、矩形材またはH形鋼などにより構成されている。
【0057】
また、第2補強部材102は、曲げ補強効果を主として得ることができるように補強対象領域10に設置される。かかる場合、既往の知見として曲げ補強効果は、補強部材がすべり面に対して略垂直である場合、すなわち設置角度がおよそ90°である場合に効率的に発揮されることが知られている。すなわち、第2補強部材102は、設置角度θ2を少なくとも設置角度θ1(例えば30°)よりも大きくなるように設定することで、少なくとも第1補強部材101と比べ、効率的に曲げ補強効果を発揮させることができる。そして、第2補強部材102は、設置角度θ2が90°となるように補強対象領域10に挿入されてもよい。
【0058】
なお、
図5に示すように第2補強部材102の斜面1へ挿入された部分(根入れ部)には、斜面1の受働土圧Pが作用する。このため、第2補強部材102の設置角度θ2の決定にあたっては、当該受働土圧Pの影響を考慮することが好ましい。すなわち、例えば、第2補強部材102の挿入による曲げ補強効果と受働土圧Pに基づいて計算される場合の設置角度θ2が、すべり面に対して略垂直となるように設置角度θ2を設定することにより、第2補強部材102の根入れ部にかかる受働土圧Pが増大し、その結果、曲げ補強効果を効率的に発揮させることができる。なお、受働土圧Pは例えば第2補強部材102の斜面1への挿入長さにより変動する。
【0059】
以上の観点から、第2補強部材102の設置角度θ2は、第1補強部材101の設置角度θ1より大きく、かつ、90°以下に設定されることが好ましい。かかる場合、受働土圧Pを考慮した場合における設置角度θ2が略垂直、すなわち、およそ90°となることが望ましい。
【0060】
なお、第1補強部材101及び第2補強部材102は、斜面補強効果を好適に発揮するため、補強対象領域10に対して土塊11を介して、挿入側端部が安定地盤20に達する挿入深さで斜面1に打設される。
【0061】
連結部材103は第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aを連結する、例えばワイヤー状、ロッド状、シート状いずれかの鋼またはその他金属および樹脂により構成される部材である。
【0062】
連結部材103は、前述のように第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aを連結することにより、例えば第1補強部材101に発生した引張応力を、少なくとも連結された第2補強部材102に伝達する。
【0063】
(補強構造体による斜面補強効果)
以上のように構成された補強構造体100によれば、斜面の崩壊モードによらず、適切な補強効果を得ることができる。
【0064】
例えば、第1補強部材101は少なくとも略水平、または、頭部101aが水平よりも下がる角度で補強対象領域10に挿入されるため、斜面1内の地下水の排水を適切に行うことができる。これにより、補強対象領域10の下部10aにおける地下水の浸透が抑制され、当該下部10aにおける強度低下を抑制することができるため、前記進行性破壊の発生を抑制することができる。
【0065】
また、第1補強部材101の周面には、鋼管の厚み方向に貫通して透水孔(図示せず)や排水孔(図示せず)が形成されていてもよい。このように透水孔や排水孔が形成されることにより、斜面1中の地下水を適切に鋼管内に導入し、排水を更に適切に行うことができる。すなわち、前記進行性破壊の発生を更に適切に抑制することができる。
【0066】
なお、第1補強部材101の頭部101aは、補強対象領域10の下部10a近傍、より具体的には、移動層としての土塊11の最も下方側に突出していることが好ましい。これにより補強対象領域10の下部10aにおける斜面強度が向上し、前記進行性破壊の発生を更に適切に抑制することができる。
【0067】
例えば、本実施形態にかかる補強構造体100によれば、第1補強部材101は設置角度が例えば30°となるように補強対象領域10に設置されるため、引張補強効果を好適に発揮させることができる。また、第2補強部材102は設置角度θ2が、少なくとも第1補強部材101の設置角度θ1より大きく、かつ少なくとも90°よりも小さく設定される。このように、設置角度θ2が設置角度θ1より大きく設定されることにより、少なくとも第1補強部材101と比べ曲げ補強効果を好適に発揮させることができる。また、設置角度θ2が90°以下となるように補強対象領域10に挿入されることにより、受働土圧Pを考慮して曲げ補強効果を好適に発揮させることができる。
【0068】
すなわち、本実施形態によれば、第1補強部材101により引張補強効果、第2補強部材102により曲げ補強効果をそれぞれ分担して好適に発揮させることにより補強構造体100の冗長性を向上させることができる。これにより、本実施形態にかかる補強構造体100は、土塊11のすべり面Aに対する変位量δの大小によらず適切に斜面補強効果を発揮させることができ、前記すべり破壊の発生を適切に抑制することができる。
【0069】
例えば、本実施形態によれば、連結部材103により第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aを連結することにより、特に第2補強部材102による斜面補強効果を好適に発揮させることができる。
【0070】
図2に示したように、斜面1の崩壊により発生する応力として、引張応力Tはすべり面Aに対する土塊11の変位量δが小さい場合においても発生するのに対し、曲げ応力Mは変位量δが小さい場合には発生しない。すなわち、第1補強部材101は、変位量δが小さい場合から引張補強効果を発揮させることができるのに対し、第2補強部材102は変位量δが大きくならなければ曲げ補強効果を好適に発揮させることができない。かかる場合、例えば前記進行性破壊においては、斜面1内において引張応力Tが発生するものの、土塊11としての変位量δが小さいため発生する曲げ応力Mが小さく、第2補強部材102による斜面補強効果を好適に発揮させることができない。
【0071】
ここで、本実施形態によれば、第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aを連結部材103により連結することにより、例えば斜面1の崩壊が前記進行性破壊である場合や、すべり破壊の発生初期であって土塊11の変位量δが小さい場合であっても、第1補強部材101に作用する引張応力Tの一部を第2補強部材102へ伝達し、曲げ応力Mとして負担させることができる。すなわち、斜面の崩壊モードによらず、第2補強部材102による斜面補強効果を好適に発揮させることができる。
【0072】
なお、本実施形態においては引張材である連結部材103により第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aを連結したが、補強部材同士の連結方法はこれに限られない。例えば、引張材である連結部材103に代えて、剛結部材(図示せず)により補強部材同士を剛結してもよい。これにより、第1補強部材101と第2補強部材102間の圧縮方向の力の伝達も可能となり、前記斜面補強効果を更に好適に発揮させることができる。
【0073】
また、前記剛結部材は、第1補強部材101、及び、第2補強部材102を連結する連結部材103に加えて、更に第1補強部材101の頭部101a、及び、第2補強部材102の頭部102aの間に設けられていてもよい。このように、連結部材103および剛結部材のそれぞれを設けることにより、例えば第2補強部材102が第1補強部材101に先んじて作用する崩壊モードの斜面崩壊が発生した場合であっても、適切に第1補強部材101に力を伝達し、斜面補強効果を向上させることができる。
【0074】
なお、補強部材間の連結が完了した連結部材103や剛結部材(図示せず)には、例えば引張方向や曲げ方向に対するプレストレスを導入してもよい。このように連結部材103や剛結部材にプレストレスが導入されることにより、補強構造体100による引張補強効果や曲げ補強効果を向上させることができる。またこれと共に、土塊11の変位量δが小さい段階から連結された補強部材間で応力を伝達することが可能になる。
【0075】
なお、
図3及び
図4(b)に示したように、例えば1の第2補強部材102に対しては、連結部材103により複数(本実施形態の例においては2つ)の第1補強部材101が連結されることが望ましい。このように、第1補強部材101と第2補強部材102との連結数を増やすことにより、補強構造体100の冗長性を向上させ、斜面補強効果を更に向上させることができる。
【0076】
また、このように複数の補強部材が斜面上に設置される場合、各補強部材の位置関係は、千鳥状、すなわち、
図4(b)に示すように第1補強部材101及び第2補強部材102がYZ平面内におけるZ軸方向で重ならないような配置となることが望ましい。このように千鳥状に各補強部材が設置されることにより、土塊11の落下方向に対しての各補強部材間の間隔が狭まり、土塊11が補強部材間をすり抜けて崩壊することを抑制することができる。
【0077】
(第2実施形態)
なお、補強構造体100は、前記移動層としての土塊11が滑落することの無いように、すなわち補強対象領域10が崩壊することの無いように、当該移動層の補強を行う必要がある。
【0078】
そこで第2実施形態にかかる斜面補強構造においては、
図6及び
図7に示すように、補強構造体100が補強対象領域10に複数設置される。すなわち補強構造体100は、補強対象領域10の崩壊による土塊11の滑落を適切に抑制するため、補強対象領域10の下部10a側においてY軸方向に並べて配置される。
【0079】
このように補強構造体100を、少なくとも補強対象領域10の下部10a側においてY軸方向に並べて配置することにより、土塊11の滑落を、斜面に沿った水平方向の全長に亘って受け止めることができ、補強対象領域10の崩壊を適切に抑制することができる。
【0080】
なお、
図8に示すように、1の補強構造体100の第1補強部材101と、他の補強構造体100の第2補強部材102とを連結部材103により連結することにより、連続的に補強部材が設置されるように構成してもよい。すなわち、補強対象領域10の下部10a側におけるY軸方向に沿って、複数の第1補強部材101と第2補強部材102とを交互に千鳥状に配置し、補強構造体200を構成してもよい。かかる構成を有することにより、斜面1に発生した応力をより多くの補強部材により分散して受け止めることができ、これにより更に適切に土塊11の滑落を抑制することができる。
【0081】
また、斜面1に複数の補強構造体100を設置するにあたっては、
図9に示すように、斜面1の上方、具体的には補強対象領域10のZ軸方向正方向側に更に補強構造体100が設けられていてもよい。このように斜面1の上方にも補強構造体100が設置されることにより、補強対象領域10の全体を補強することができ、斜面1の崩壊を更に適切に抑制することができる。
【0082】
なお、このように複数の補強構造体100が斜面の上下方向にそれぞれに設けられる場合、これら複数の補強構造体100は、
図9(b)に示したように互いに千鳥状に配置されていることが望ましい。
【0083】
また、かかる際、上方に設けられる補強構造体100の第1補強部材101と下方に設けられる他の補強構造体100の第2補強部材102とが第2連結部材105により連結されることにより、斜面1に発生する応力を適切に各補強構造体100に分散させることができ、斜面補強効果を更に向上させることができる。
【0084】
なお、当然に、
図10に示すように前記補強構造体200が斜面の上下方向それぞれに設けられていてもよい。
【0085】
(第3実施形態)
第2実施形態で説明したように、斜面の上下方向それぞれに補強構造体100、または補強構造体200を設けることにより、移動層となる土塊11の領域全体が補強され、斜面1の崩壊を抑制することができる。なお、移動層となる土塊11の領域全体を補強することができれば、補強構造体を斜面1上に複数設ける必要はない。
【0086】
図11は、第3実施形態にかかる補強構造体300の構成を模式的に示す説明図である。
図11に示すように、補強構造体300によれば、第1及び第2実施形態と同様に補強対象領域10のZ軸方向負方向側に設けられる第1補強部材101と、補強対象領域10のZ軸方向正方向側に設けられる第2補強部材102とが連結部材103により連結された構造を有している。すなわち本実施形態によれば、補強構造体100を複数設けることなく、第2補強部材102の挿入位置を変更することにより、補強対象領域10の全面を補強することができる。かかる場合、第2補強部材102の設置位置は、受働土圧Pを考慮した設置角度θ2が略垂直に設定され、かつ当該第2補強部材102の挿入側端部が、第1補強部材101の挿入側端部の近傍に位置するように設定されることが好ましい。かかる際、斜面1中において、断面視において第1補強部材101及び第2補強部材102が交差するように配置されることが更に好ましい。
【0087】
また、補強対象領域10の全体を補強するにあたっては、例えば
図12に示すように、前述の斜面の下方に設けられる補強構造体200に加え、斜面の上方に更に第2補強部材102が設けてもよい。かかる場合、新たに挿入される第2補強部材102は、補強構造体200を構成する第2補強部材102と千鳥状に配置されることが好ましい。また更に、新たに挿入される第2補強部材102は、例えば第2連結部材105によりそれぞれ補強構造体200と連結されることが好ましい。
【0088】
(第4実施形態)
なお、以上の第1~第3の実施形態によれば、補強構造体は引張補強効果を主として発揮するために設置される第1補強部材101の頭部101a、及び、曲げ補強効果を主として発揮するために設置される第2補強部材102の頭部102aを連結部材103により連結することにより構成されていたが、補強構造体の構成はこれに限られない。
【0089】
図13は、第4実施形態にかかる補強構造体400の構成を模式的に示す説明図である。補強構造体400は、第1補強部材101、第2補強部材102に加え、第3補強部材104が連結部材103により更に連結されて構成されている。
【0090】
第3補強部材104は、補強構造体400において引張補強効果及び曲げ補強効果のそれぞれを更に好適に発揮することができるように、具体的には、斜面1に発生する引張応力及び曲げ応力を更に適切に分散させることができるように補強対象領域10に設置される。かかる場合、第3補強部材104の設置角度θ3は、θ1<θ3<θ2となるように設定されることが望ましい。
【0091】
また、第3補強部材104は、第1補強部材101及び第2補強部材102と千鳥状に配置されることが望ましい。
【0092】
このように、第3補強部材104を含んで補強構造体400を構成することにより、斜面補強効果を更に適切に向上させることができる。
【0093】
なお、第3補強部材104の設置方法は上記実施例には限られない。例えば、
図14に示すように、
図10で示した斜面上方に設けられる補強構造体200に代え、当該補強構造体200構成する第1補強部材101を第3補強部材104と入れ替えた、補強構造体500を設置してもよい。
【0094】
すなわち、補強対象領域10の崩壊にあたっては、補強対象領域10の下部10aにおいて引張応力Tが最も大きく作用するため、第1補強部材101は、少なくともかかる補強対象領域10の下部10aに設けられていれば引張補強効果を発揮することができる。そこで、斜面上方に設けられる補強構造体200の第1補強部材101を第3補強部材104と置き換えることにより、斜面1の崩壊により斜面上方において発生する引張応力T及び曲げ応力Mのそれぞれを適切に抑制することができ、すなわち、引張補強効果及び曲げ補強効果を発揮し、斜面補強効果を適切に向上させることができる。
【0095】
なお、第3補強部材104は、連結部材103に代えて、または連結部材103に加えて、剛結部材(図示せず)により第1補強部材101や第2補強部材102に剛結されていてもよい。
【0096】
(第5実施形態)
なお、以上の第1~第4に示した補強構造体100、200、300、400、500には、
図15に示すように支圧板106が設けられていてもよい。
【0097】
支圧板106は、例えば板状部材により構成され、支圧板106の面部から厚み方向に向けて貫入孔(図示せず)が形成されている。そして、当該貫入孔に対して、例えば各補強構造体を構成する第1補強部材101が貫入され、前記面部が斜面1の表面に沿うようにして補強対象領域10に設置される。
【0098】
このように、補強構造体に支圧板106を設けることにより、斜面崩壊により滑落しようとする土塊11を受け止めて滑落を防止し、補強対象領域10が崩壊することを抑制することができる。また、特に支圧板106を前記進行性破壊の初期崩壊箇所となる補強対象領域10の下部10a部分に設けることにより、補強対象領域10の初期崩壊を適切に受け止めることができるため、前記進行性破壊の発生を適切に抑制することができる。
【0099】
なお、前述のように支圧板106は、斜面崩壊により滑落する土塊11を前記面部により受け止めることにより崩壊を抑制する。このため、支圧板106は少なくとも補強対象領域10の下部10a側(Z軸方向負方向側)に設けられる補強構造体(Z軸方向最も負方向側に設けられる補強構造体)の第1補強部材101に貫入されていれば、補強対象領域10の崩壊を抑制することができるが、当然に斜面1に設けられる全ての第1補強部材101に貫入されてもよい。
【0100】
なお、支圧板106の設置方法は、斜面1の表面に沿わせて設置することには限られない。例えば
図16に示すように支圧板106は、すべり面Aに対して略垂直となるように第1補強部材101に貫入されてもよい。
【0101】
このように支圧板106が設けられることにより、補強対象領域10の崩壊により滑落する土塊11の滑落方向に対して前記面部が略垂直となるため、補強対象領域10の崩壊を更に適切に抑制することができる。
【0102】
なお、このように支圧板106をすべり面Aに対して略垂直に設置する場合、当該設置箇所近傍の土塊11を除去した後に支圧板106を設置することになるが、当該除去した土塊11は、支圧板106の設置個所に対して埋め戻しても、埋め戻さなくても、適切に支圧板106による斜面補強効果は発揮することができる。
【0103】
なお、上述したように支圧板106は、
図17~
図20に例示するように、補強構造体100、200、300、400、500の任意の補強部材に対して貫入することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0105】
例えば、本発明において開示された補強構造体は、前記人工斜面としての堤防等にも好適に適用することができる。かかる場合、補強構造体は堤防の法面に設けられ、特に当該補強構造体の下部に設けられる第1補強部材が法尻に設置されることにより、特に適切に斜面補強効果を享受することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、崩壊する恐れのある斜面を補強する際に有用であり、特に堤防のような人工斜面を補強する際に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 斜面
10 補強対象領域
10a 下部
11 土塊
20 安定地盤
100 補強構造体
101 第1補強部材
102 第2補強部材
103 連結部材
104 第3補強部材
105 第2連結部材
106 支圧板
200 補強構造体
300 補強構造体
400 補強構造体
500 補強構造体
A すべり面
M 曲げ応力
T 引張応力
θ1 設置角度(第1補強部材)
θ2 設置角度(第2補強部材)
θ3 設置角度(第3補強部材)