(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】意匠性亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230412BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20230412BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230412BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230412BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B32B15/08 H
B32B15/18
B32B27/20 A
C23C28/00 A
C25D5/26 C
C25D5/26 F
(21)【出願番号】P 2019098050
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】二葉 敬士
(72)【発明者】
【氏名】石塚 清和
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】久米 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】横道 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】宮田 卓哉
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/074102(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230716(WO,A1)
【文献】特開2005-206870(JP,A)
【文献】特開2004-202988(JP,A)
【文献】特開2006-124824(JP,A)
【文献】登録実用新案第3192959(JP,U)
【文献】国際公開第2013/176219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 7/00
C23C 28/00
C25D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されている亜鉛めっき層と、
前記亜鉛めっき層上に形成されている積層樹脂層とを備え、
前記積層樹脂層は、
前記母材鋼板の表面の法線方向に積層される複数の着色樹脂層を備え、
前記複数の着色樹脂層の各々は、顔料を含有しており、
前記複数の着色樹脂層において、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、
前記複数の着色樹脂層のうち、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積が最大となる着色樹脂層を最濃色着色樹脂層と定義し、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量と前記着色樹脂層の厚さとの積が2番目に大きい着色樹脂層を第2濃色着色樹脂層と定義したとき、
前記最濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C
1ST(面積%)、前記最濃色着色樹脂層の厚さD
1ST(μm)、前記第2濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C
2ND(面積%)、及び、前記第2濃色着色樹脂層の厚さD
2ND(μm)は、式(1)を満たす、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
1.00<(C
1ST×D
1ST)/(C
2ND×D
2ND)≦4.00 (1)
【請求項2】
請求項1に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記積層樹脂層の厚さは、10.0μm以下である、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記積層樹脂層はさらに、
前記顔料を含有しない1又は複数の透明樹脂層を含み、
前記積層樹脂層は、
前記複数の着色樹脂層と、前記1又は複数の透明樹脂層とが積層して形成されている、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層の表面は、テクスチャを有している、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
請求項4に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記母材鋼板の表面のうち、前記亜鉛めっき層と接触している表面は、テクスチャを有している、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層の表面は、ヘアラインが形成されている、
意匠性亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき鋼板に関し、さらに詳しくは、意匠性を高めた、意匠性亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、建材、及び、自動車等の物品は、意匠性が求められる場合がある。物品の意匠性を高める方法として、物品の表面に対して塗装を施す方法や、フィルムを張り付ける方法がある。
【0003】
最近では、自然志向の欧米を中心に、金属の質感を活かした材料が好まれる傾向にある。金属の質感を活かす場合、素材として、無塗装のままでも耐食性に優れるステンレス鋼板やアルミ板が用いられている。また、ステンレス鋼板及びアルミ板のメタリック感をさらに現出させることを目的として、ヘアラインに代表されるテクスチャが表面に形成されたステンレス鋼板やアルミ板も提供されている。しかしながら、ステンレス鋼板やアルミ板は高価である。そのため、ステンレス鋼板やアルミ板に替わる、安価な材料が求められている。
【0004】
このような代替材料の一つとして、表面に亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板が検討されている。本明細書において、亜鉛めっき層は、亜鉛合金めっき層も含む。亜鉛めっき鋼板は、ステンレス鋼板やアルミ板と同様に、適度な耐食性を備え、かつ、加工性にも優れるため、電気機器や建材等の用途に適する。そこで、亜鉛めっき鋼板の意匠性を高めることを目的として、種々の提案がされている。
【0005】
たとえば、特開2006-124824号公報(特許文献1)では、亜鉛めっき鋼板にヘアライン仕上げを実施した後、ヘアラインが形成された亜鉛めっき層の表面に透明樹脂皮膜を形成している。これにより、耐食性を維持しつつ、めっき層の表面を視認可能として、意匠性も高めている。
【0006】
また、特表2013-536901号公報(特許文献2)では、亜鉛めっき鋼板に対して圧延を実施して、亜鉛めっき層の表面にテクスチャを形成した後、表面粗さが一定範囲内となる有機フィルム(樹脂)で亜鉛めっき層の表面をコーティングしている。これにより、耐食性を維持しつつ、めっき層の表面を視認可能として意匠性も高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-124824号公報
【文献】特表2013-536901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近ではさらに、金属の質感を活かしつつ、着色した外観を有する材料が求められ始めている。着色した外観を有しつつ、亜鉛めっき層の表面の質感を活かした亜鉛めっき鋼板を検討する場合、亜鉛めっき層の表面を視認可能であるがために、かえって、着色した色の色むらや色ばらつきといった、色調の変動が大きくなる場合がある。
【0009】
本発明の目的は、着色した外観でありながら、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、色調の変動を抑制できる、亜鉛めっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による意匠性亜鉛めっき鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されている亜鉛めっき層と、
前記亜鉛めっき層上に形成されている積層樹脂層とを備え、
前記積層樹脂層は、
前記母材鋼板の表面の法線方向に積層される複数の着色樹脂層を備え、
前記複数の着色樹脂層の各々は、顔料を含有しており、
前記複数の着色樹脂層において、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、
前記複数の着色樹脂層のうち、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積が最大となる着色樹脂層を最濃色着色樹脂層と定義し、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量と前記着色樹脂層の厚さとの積が2番目に大きい着色樹脂層を第2濃色着色樹脂層と定義したとき、
前記最濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C1ST(面積%)、前記最濃色着色樹脂層の厚さD1ST(μm)、前記第2濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C2ND(面積%)、及び、前記第2濃色着色樹脂層の厚さD2ND(μm)は、式(1)を満たす。
1.00<(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)≦4.00 (1)
【発明の効果】
【0011】
本発明による意匠性亜鉛めっき鋼板は、着色した外観でありながら、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、色調の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合の意匠性亜鉛めっき鋼板において、色調変動が発生する仕組みを説明するための図である。
【
図2】
図2は、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合の意匠性亜鉛めっき鋼板において、樹脂層が複数の着色樹脂層を含む場合における、第1の着色樹脂層を形成した状態を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の次工程であって、第1の着色樹脂層上に第2の着色樹脂層を形成した状態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3の異なる状態であって、第1の着色樹脂層上に第2の着色樹脂層を形成した状態を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板の圧延方向RDに垂直な断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す複数の着色樹脂層L1~LNのうち、任意の1層の着色樹脂層LK(K=1~N)の拡大図である。
【
図8】
図8は、着色樹脂層LK中の顔料の含有量(面積%)、及び、着色樹脂層LKの厚さ(μm)の測定方法を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、サンプルSAの法線方向ND及び切断面幅方向CDを含む面を示す図である。
【
図11】
図11は、亜鉛めっき層の表面がテクスチャを有する、意匠性亜鉛めっき鋼板の法線方向NDの断面図である。
【
図12】
図12は、亜鉛めっき層の表面が
図11と異なる形状のテクスチャを有する、意匠性亜鉛めっき鋼板の法線方向NDの断面図である。
【
図13】
図13は、亜鉛めっき層の表面が
図11及び
図12と異なる形状のテクスチャを有する、意匠性亜鉛めっき鋼板の法線方向NDの断面図である。
【
図14】
図14は、亜鉛めっき層の表面が
図11~
図13と異なる形状のテクスチャを有する、意匠性亜鉛めっき鋼板の法線方向NDの断面図である。
【
図15】
図15は、表面にヘアラインが形成された亜鉛めっき層の平面図である。
【
図16】
図16は、
図6と異なる構成の積層樹脂層を備えた意匠性亜鉛めっき鋼板の圧延方向RDに垂直な断面図である。
【
図17】
図17は、
図6及び
図16と異なる構成の積層樹脂層を備えた意匠性亜鉛めっき鋼板の圧延方向RDに垂直な断面図である。
【
図18】
図18は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面がテクスチャとしてヘアラインを有している場合における、色むらの評価方法を説明するための模式図である。
【
図19】
図19は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面がテクスチャとしてヘアラインを有している場合における、色ばらつきの評価方法を説明するためも模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、着色した外観でありながら、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、色調の変動を抑制できる、亜鉛めっき鋼板の検討を行った。特許文献1及び2に記載のとおり、亜鉛めっき層上に、透明樹脂層が形成された亜鉛めっき鋼板は既に提案されている。そこで、本発明者らは始めに、亜鉛めっき層上に形成される樹脂層に顔料を含有させて着色した亜鉛めっき鋼板の製造を試みた。
【0014】
その結果、樹脂層の顔料の含有量を調整すれば、着色した外観でありながら、亜鉛めっき層の表面を視認可能にすることができ、めっき層の表面の質感を活かしつつ、着色もできることを見出した。
【0015】
しかしながら、樹脂層に単に顔料を含有させて、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に着色した場合、色むらや色ばらつきといった色調変動が高まってしまうことが判明した。さらなる検討の結果、本発明者らは、亜鉛めっき鋼板において次の事項を初めて知見した。樹脂に多量の顔料を含有させて、亜鉛めっき層の表面を視認できないようにした場合、このような色調変動は生じにくい。しかしながら、あえて、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合、色調変動がかえって目立ってしまう。
【0016】
そこで、本発明者らは、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合であっても、色調変動を抑制できる亜鉛めっき鋼板について、さらに検討を行った。その結果、本発明者らは、次の新たな知見を得た。
【0017】
図1は、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合の意匠性亜鉛めっき鋼板において、色調変動が発生する仕組みを説明するための図である。
図1を参照して、母材鋼板及び亜鉛めっき層20を備える亜鉛めっき鋼板200において、亜鉛めっき層20の表面20S上に、亜鉛めっき層20の表面20Sを視認可能な程度に着色された単層の樹脂層40が形成されている場合を想定する。樹脂層40は、透光性を有する樹脂41と、顔料42とを含む。顔料42は、樹脂41内に含有されている。
図1に示すとおり、樹脂層40は単層であるので、樹脂層40の製造工程中における製造ばらつきに起因して、樹脂層40が均一な厚さTD0とはならず、つまり、表面40Sは必ずしも(亜鉛めっき層20の表面20Sに対して)平坦となっておらず、
図1に示すとおり、局所的に傾いていたり、凹凸が形成されていたりする。この場合、樹脂層40の微少な厚さばらつきに起因して色調変動が発生する。たとえば、
図1では、樹脂層40において、局所的に厚くなっている領域E1では、局所的に薄くなっている領域E2と比較して、顔料42の存在割合(濃度)が大きくなっている。このような場合、領域E1と領域E2とで、色差が生じて、色調変動が大きくなる。その結果、色むらや色ばらつきが生じる。
【0018】
そこで、本発明者らは、従来のように単層で着色樹脂層を形成するのではなく、あえて、複数の着色樹脂層を形成することで、色調変動を抑えることができないかと考えた。たとえば、
図1と同じ厚さTD0の樹脂層を2層(着色樹脂層L1、着色樹脂層L2)で構成する場合を想定する。この場合、
図2に示すとおり、始めに、亜鉛めっき層20の表面20S上に、着色樹脂層L1が形成される。着色樹脂層L1の形成においても、製造ばらつきに起因して、着色樹脂層L1の表面が局所的に傾斜したり、凹凸が発生したりする場合が生じる。
図2の着色樹脂層L1においても、領域E1が厚くなっており、領域E2が薄くなっている。しかしながら、着色樹脂層L1の厚さは厚さTD0未満であるため、樹脂層40ほどには局所的な傾きや凹凸(つまり、厚さのばらつき)が生じにくい。
【0019】
続いて、
図3又は
図4に示すとおり、形成された着色樹脂層L1上にさらに、着色樹脂層L2を形成して、樹脂層(積層樹脂層)30を形成する。着色樹脂層L2は、着色樹脂層L1上に、硬化前の塗料が塗布された後、乾燥及び焼付されて硬化し、形成される。そのため、硬化する前の塗料は、着色樹脂層L1の表面の局所的な傾き及び凹凸に応じて移動する。具体的には、着色樹脂層L1の表面の凹部にはより多くの塗料が移動し、凸部にとどまる塗料は少なくなる。その結果、着色樹脂層L2の表面は、着色樹脂層L1の表面の局所的な傾きや凹凸を相似して反映するのではなく、局所的な傾き及び凹凸(つまり、厚さ)が平準化される。そのため、単層で形成された樹脂層40と比較して、複数の着色樹脂層L1及びL2で形成された積層樹脂層30では、厚さが平準化されて、局所的な傾きや凹凸が抑制されやすくなる。
図3及び
図4に示す積層樹脂層30では、樹脂層40と比較して、領域E1と領域E2との厚さの差(厚さ変動)が抑えられている。さらに、
図3及び
図4に示す積層樹脂層30では、
図2に示す1層の着色樹脂層L1と比較しても、領域E1と領域E2との厚さ変動が抑えられている。そのため、複数の着色樹脂層L1及びL2を含む積層樹脂層30では、局所的に厚くなっている領域E1と、局所的に薄くなっている領域E2との顔料32の濃度差が抑えられる。その結果、積層樹脂層30は、単層の樹脂層40と比較して、厚さの微少な変動に起因した色調変動を抑えることができ、色むらや色ばらつきを抑制できる。
【0020】
要するに、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合の意匠性亜鉛めっき鋼板においては、単層の着色された樹脂層40よりも、複数の着色樹脂層を積層させて積層樹脂層30とした方が、樹脂層(積層樹脂層)の局所的な厚さの変動を抑えることができる。厚さの変動は顔料濃度の変動と相関するため、厚さの変動を抑えることにより、顔料濃度の変動が抑えられ、色調の変動を抑えることができる。
【0021】
しかしながら、上述のとおり、複数の着色樹脂層を積層させて積層樹脂層を形成した場合であっても、依然として、色調の変動が生じる場合があった。そこで、本発明者らはさらなる検討を行った。その結果、次の知見が得られた。
【0022】
複数の着色樹脂層で積層樹脂層30を形成した場合、
図3及び
図4に示すとおり、各着色樹脂層L1、L2ごとに、局所的な厚さ変動(局所的な傾きや凹凸の度合い)が異なる。したがって、着色樹脂層L1と、着色樹脂層L2とで顔料濃度の差が大きければ、顔料濃度が高い方の着色樹脂層単体の厚さ変動により、色濃度が変動してしまい、色調変動が生じてしまう。
【0023】
そこで、本発明者らのさらなる検討の結果、次の知見を得た。複数の着色樹脂層において、着色樹脂層中の顔料の含有量(面積%)と着色樹脂層の厚さ(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下になるようにすることで、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合、複数の着色樹脂層のうち、着色樹脂層中の顔料の含有量(面積%)と着色樹脂層の厚さ(μm)との積が最大となる着色樹脂層を最濃色着色樹脂層と定義し、着色樹脂層中の顔料の含有量と着色樹脂層の厚さとの積が2番目に大きい着色樹脂層を第2濃色着色樹脂層と定義したとき、最濃色着色樹脂層の顔料の含有量C1ST(面積%)、最濃色着色樹脂層の厚さD1ST(μm)、第2濃色着色樹脂層の顔料の含有量C2ND(面積%)、及び、第2濃色着色樹脂層の厚さD2ND(μm)が式(1)を満たせば、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。
1.00<(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)≦4.00 (1)
以上の知見は、後述の実施例においても立証されている。
【0024】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板は、次の構成を備える。
【0025】
[1]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されている亜鉛めっき層と、
前記亜鉛めっき層上に形成されている積層樹脂層とを備え、
前記積層樹脂層は、
前記母材鋼板の表面の法線方向に積層される複数の着色樹脂層を備え、
前記複数の着色樹脂層の各々は、顔料を含有しており、
前記複数の着色樹脂層において、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、
前記複数の着色樹脂層のうち、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量(面積%)と前記着色樹脂層の厚さ(μm)との積が最大となる着色樹脂層を最濃色着色樹脂層と定義し、前記着色樹脂層中の前記顔料の含有量と前記着色樹脂層の厚さとの積が2番目に大きい着色樹脂層を第2濃色着色樹脂層と定義したとき、
前記最濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C1ST(面積%)、前記最濃色着色樹脂層の厚さD1ST(μm)、前記第2濃色着色樹脂層の前記顔料の含有量C2ND(面積%)、及び、前記第2濃色着色樹脂層の厚さD2ND(μm)は、式(1)を満たす。
1.00<(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)≦4.00 (1)
【0026】
ここで、亜鉛めっき層は、亜鉛合金めっき層も含む。
【0027】
[2]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、[1]に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記積層樹脂層の厚さは、10.0μm以下である。
【0028】
この場合、意匠性亜鉛めっき鋼板のメタリック感がさらに高まる。
【0029】
[3]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、[1]又は[2]に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記積層樹脂層はさらに、
前記顔料を含有しない1又は複数の透明樹脂層を含み、
前記積層樹脂層は、
前記複数の着色樹脂層と、前記1又は複数の透明樹脂層とが積層して形成されている。
【0030】
[4]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、[1]~[3]のいずれか1項に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層の表面は、テクスチャを有している。
【0031】
本明細書において「テクスチャ」とは、物理的又は化学的手法により、母材鋼板10の表面、又は、亜鉛めっき層20の表面に形成された凹凸模様を意味する。
【0032】
[5]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、[4]に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記母材鋼板の表面のうち、前記亜鉛めっき層と接触している表面は、テクスチャを有している。
【0033】
[6]の意匠性亜鉛めっき鋼板は、[4]又は[5]に記載の意匠性亜鉛めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層の表面は、ヘアラインが形成されている。
【0034】
この場合、着色した外観でありながら、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、色調の変動を抑制できるだけでなく、メタリック感をさらに高めることができる。
【0035】
以下、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板について詳述する。以降の説明において、意匠性亜鉛めっき鋼板の圧延方向をRD、板幅方向をTD、圧延方向RDと板幅方向TDとに垂直な方向を法線方向NDと定義する。
【0036】
[意匠性亜鉛めっき鋼板1について]
図5は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面図である。
図5を参照して、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1は、母材鋼板10と、亜鉛めっき層20と、積層樹脂層30とを備える。亜鉛めっき層20は、母材鋼板10の表面10Sに形成されている。積層樹脂層30は、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成されている。亜鉛めっき層20は、母材鋼板10と、積層樹脂層30との間に配置されている。以下、母材鋼板10、亜鉛めっき層20、及び、積層樹脂層30について、説明する。
【0037】
[母材鋼板10について]
母材鋼板10の鋼種及びサイズ(板厚、板幅等)は、特に限定されない。母材鋼板10は、製造する亜鉛めっき鋼板に求められる各機械的性質(たとえば、引張強度、加工性等)に応じて、亜鉛めっき鋼板(電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等)に適用される公知の鋼板を使用すればよい。たとえば、母材鋼板10として、電気機器用途の鋼板を使用してもよいし、自動車外板用途の鋼板を使用してもよい。母材鋼板10は、熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0038】
[亜鉛めっき層20について]
亜鉛めっき層20は、母材鋼板10の表面10Sに形成されている。本実施形態において、亜鉛めっき層20は、母材鋼板10と積層樹脂層30との間に配置されている。亜鉛めっき層20は、周知の亜鉛めっき処理法により形成されている。具体的には、亜鉛めっき層20はたとえば、電気めっき法、溶融めっき法のいずれかのめっき法により形成されている。本明細書において、亜鉛めっき層20は、亜鉛合金めっき層も含む。より具体的には、亜鉛めっき層20は、電気亜鉛めっき層、電気亜鉛合金めっき層、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層を含む概念である。
【0039】
亜鉛めっき層20は周知の化学組成を有すれば足りる。亜鉛めっき層20の化学組成中のZn含有量は、質量%で65%以上である。Zn含有量が質量%で65%以上であれば、犠牲防食機能が顕著に発揮され、意匠性亜鉛めっき鋼板1の耐食性が顕著に高まる。亜鉛めっき層20の化学組成中のZn含有量の好ましい下限は70%であり、さらに好ましくは80%である。
【0040】
亜鉛めっき層20の化学組成は、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Si、Sn、Mg、Mn、Mo、V、W、Zrからなる元素群から選択される1元素又は2元素以上と、Znとを含有するのが好ましい。また、亜鉛めっき層20が電気亜鉛めっき層である場合の化学組成は、Fe、Ni、及び、Coからなる元素群から選択される少なくとも何れかの元素を5~20質量%含有することがさらに好ましい。また、亜鉛めっき層20が溶融亜鉛めっき層である場合の化学組成は、Mg、Al、Siからなる群から選択される少なくとも1元素以上を、合計で5~20質量%含有することがさらに好ましい。これらの場合、亜鉛めっき層20はさらに、優れた耐食性を示す。
【0041】
亜鉛めっき層20は、不純物を含有していてもよい。ここで、不純物とは、原料中に混入している、又は、製造工程において混入するものである。不純物はたとえば、Ti、B、S、N、C、Nb、Pb、Cd、Ca、Pb、Y、La、Ce、Sr、Sb、O、F、Cl、Zr、Ag、W、H等である。亜鉛めっき層20の化学組成において、不純物の総含有量が1%以下であるのが好ましい。
【0042】
亜鉛めっき層20の化学組成は、たとえば、次の方法により測定可能である。亜鉛めっき層20を侵さない溶剤やリムーバー(たとえば、三彩化工株式会社製の商品名:ネオリバーS-701)などの剥離剤で意匠性亜鉛めっき鋼板1の積層樹脂層30を除去する。その後、インヒビター入りの塩酸を用いて、亜鉛めっき層20を溶解する。溶解液に対して、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分光分析装置を用いたICP分析を実施して、Zn含有量を求める。求めたZn含有量が65%以上であれば、測定対象のめっき層が亜鉛めっき層20であると判断する。
【0043】
[亜鉛めっき層20の付着量について]
亜鉛めっき層20の付着量は特に制限されず、周知の付着量であれば足りる。亜鉛めっき層20の好ましい付着量は、5.0~120.0g/m2である。亜鉛めっき層20の付着量が5.0g/m2以上であれば、亜鉛めっき層20に後述のヘアラインを付与した場合、母材鋼板10が露出するのを抑制できる。亜鉛めっき層20の付着量のさらに好ましい下限は7.0g/m2であり、さらに好ましくは10.0g/m2である。亜鉛めっき層20の付着量の上限については特に制限はない。経済性の観点から、電気めっき法による亜鉛めっき層20であれば、好ましい付着量の上限は40.0gm2であり、さらに好ましい上限は35.0g/m2であり、さらに好ましくは30.0g/m2である。
【0044】
[積層樹脂層30について]
積層樹脂層30は、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成されている。
図6は、
図5中の積層樹脂層30の拡大図である。
図6を参照して、積層樹脂層30は、複数の着色樹脂層L1~LNを備える。ここで、Nは2以上の自然数である。複数の着色樹脂層L1~LNは、法線方向NDに積層されている。
【0045】
図7は、
図6に示す複数の着色樹脂層L1~LNのうち、任意の着色樹脂層LK(K=1~N)の拡大図である。本明細書において、着色樹脂層LKは、着色樹脂層L1~LNのうちの任意の1層を意味する。
【0046】
図7を参照して、着色樹脂層LKは、樹脂31と、顔料32とを備える。顔料32は、樹脂31中に含有されている。以下、樹脂31及び顔料32について説明する。
【0047】
[樹脂31について]
樹脂31は、透光性を有する樹脂である。本明細書において、「透光性を有する樹脂」とは、晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境に顔料32及び樹脂31を含有する積層樹脂層30を備える意匠性亜鉛めっき鋼板1を置いたとき、母材鋼板10の表面を視認できることを意味する。樹脂31は、顔料32を固着するバインダーとして機能する。
【0048】
樹脂31は、上述の定義の透光性を有する樹脂であれば特に限定されず、周知の天然樹脂、又は、周知の合成樹脂を用いることができる。樹脂31はたとえば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0049】
[顔料32について]
顔料32は微細粒子(粉末)であって、水及び油に不溶な粒子である。顔料32は、上述の樹脂31中に含有されることにより、着色樹脂層LKを着色する。顔料32は周知のものであって、無機顔料であってもよいし、有機顔料であってもよい。顔料32は、有彩色の顔料である。有彩色とは、色相、明度及び彩度の属性を有する色を意味する。
【0050】
顔料32が無機顔料である場合、顔料32はたとえば、中和沈殿顔料(硫酸塩、炭酸塩等)、又は、焼成顔料(金属硫化物、金属酸化物、多価金属複合酸化物等)である。顔料32が有機顔料である場合、顔料32はたとえば、塩素性顔料、アゾ顔料(溶製アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料等)、酸縮合顔料、多環式顔料(フタロシアニン系顔料、インジゴ型顔料、キナクリドン型顔料、アントラキノン型顔料等)、金属錯体顔料(アゾキレート顔料、遷移金属錯体顔料等)である。
【0051】
顔料32の色は特に限定されない。顔料32はたとえば、カーボンブラック(C)、鉄黒(Fe3O4)の黒色顔料である。ただし、顔料32は黒色顔料に限定されず、他の色の顔料(白色、紫赤色、黄色、緑青色、赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色等)であってもよい。
【0052】
顔料32の粒子径は特に限定されない。顔料32の一次粒径の最大値はたとえば、3nm~1000nmである。
【0053】
[各着色樹脂層LKの顔料32の含有量及び各着色樹脂層の厚さについて]
図8~
図10は、着色樹脂層LK中の顔料32の含有量(面積%)と、着色樹脂層LKの厚さ(μm)の測定方法を説明するための模式図である。始めに、
図8に示すとおり、意匠性亜鉛めっき鋼板1を法線方向NDに切断して、切断面CSを作製する。切断面CSは法線方向NDに平行であれば、圧延方向RD又は板幅方向TDに平行でなくてもよい。
【0054】
図9は、切断面CSの模式図である。
図9を参照して、切断面CSにおいて、法線方向NDに垂直な方向を切断面幅方向CDと定義する。切断面CSを、切断面幅方向CDに3等分に区画する。3等分された区画X1~X3の各々において、切断面幅方向CDの中央位置で、積層樹脂層30を含むサンプルSAを採取する。3つのサンプルSAの各々は、少なくとも積層樹脂層30と、亜鉛めっき層20とを含む。切断面幅方向CDの長さW
SAは10mmとする。サンプルSAのうち、法線方向ND及び切断面幅方向CDに垂直な方向の長さは特に制限されないが、たとえば、5mm程度あればよい。収束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam)を用いて、採取したサンプルSAを、透過型電子顕微鏡で積層樹脂層30と亜鉛めっき層20とを観察可能な状態に加工する。
【0055】
図10は、サンプルSAの法線方向ND及び切断面幅方向CDを含む面を示す図である。以下、サンプルSAの法線方向ND及び切断面幅方向CDを含む面を「観察面」と定義する。サンプルSAの観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の反射電子像(BSE)で観察する。走査型電子顕微鏡の反射電子像観察において、母材鋼板10、亜鉛めっき層20、及び、積層樹脂層30は、コントラストにより容易に判別可能である。さらに、積層樹脂層30のうち、各着色樹脂層LKを次の方法で判別する。互いに積層されている着色樹脂層LKにおいて、顔料の含有量が異なる場合、互いに積層されている着色樹脂層LK同士の界面IFは、顔料の含有量の差に起因するコントラストにより識別可能である。また、互いに積層されている着色樹脂層LKの顔料の含有量が同じ場合、Os染色することにより、コントラストにより、互いに積層されている着色樹脂層LK同士の界面IFを識別可能である。後述のとおり、各着色樹脂層LKは、下層の着色樹脂層LK-1が乾燥及び焼付されて硬化した後、形成される。そのため、着色樹脂層LK-1上に着色樹脂層LKが形成されても、着色樹脂層LKと、着色樹脂層LKが形成される前に既に硬化していた着色樹脂層LK-1とは一体化されず、界面IFが痕跡として残る。そこで、走査型電子顕微鏡を用いた反射電子像観察において、その痕跡部分をOsで染色することによって界面部分にコントラストが発生するため、着色樹脂層LK同士の界面IFを識別することができ、各着色樹脂層LKを区別できる。
【0056】
各着色樹脂層LKを区別した後、各着色樹脂層LKの厚さDKと各着色樹脂層LK中の顔料32の含有量CK(面積%)を次の方法で求める。
【0057】
走査型電子顕微鏡観察において各サンプルSAの各着色樹脂層LKを区別した後、各着色樹脂層LKの任意の1点で厚さ(μm)を測定する。3つのサンプルSAにおいて、対応する着色樹脂層LKの厚さを測定し、得られた3つの厚さの平均を、その着色樹脂層LKの厚さDK(μm)と定義する。
【0058】
次に、顔料32の面積率を測定する。顔料32の面積率の測定は走査型電子顕微鏡観察で用いたサンプルSAと同じサンプルSAを使用し、透過型電子顕微鏡(TEM)、又は、顔料32を観察できる高分解能の走査型電子顕微鏡を用いて観察する。観察面での着色樹脂層LK中の複数の顔料32の総面積A1(μm2)を求める。そして、観察面での着色樹脂層LKの面積A0(μm2)を求める。求めた総面積A1及び面積A0に基づいて、次式により着色樹脂層LK中の顔料32の面積率(面積%)を求める。
面積率=A1/A0×100
【0059】
3つのサンプルにおいて対応する着色樹脂層LKの顔料32の面積率を上記方法により求め、求めた3つの面積率の平均を、その着色樹脂層LKの顔料32の含有量CK(面積率%)と定義する。
【0060】
上記顔料32の含有量CK、及び、厚さDKを、各着色樹脂層LKごとに求める。たとえば、積層樹脂層30が3つの着色樹脂層L1~L3を備える場合、上記方法により、3つのサンプルから着色樹脂層L1中の顔料32の含有量C1(面積%)と、厚さD1(μm)とを求め、着色樹脂層L2中の顔料32の含有量C2(面積%)と、厚さD2(μm)とを求め、着色樹脂層L3中の顔料32の含有量C3(面積%)と、厚さD3(μm)とを求める。
【0061】
各着色樹脂層LKの顔料32の含有量CKと厚さDKとを用いて、着色樹脂層LKの色濃度指標IKを次の式で定義する。
色濃度指標IK=CK×DK
【0062】
着色樹脂層LKの色濃度指標IKは、顔料32の含有量CKと厚さDKとの積で定義される。たとえば、積層樹脂層30が3つの着色樹脂層L1~L3を備える場合、着色樹脂層L1の色濃度指標I1は、C1×D1で定義される。着色樹脂層L2の色濃度指標I2は、C2×D2で定義される。着色樹脂層L3の色濃度指標I3は、C3×D3で定義される。
【0063】
得られた各着色樹脂層LKの色濃度指標IKを比較する。そして、最大の色濃度指標IKを示す着色樹脂層LKを、「最濃色着色樹脂層L1ST」、つまり、最も濃度が高い樹脂層と定義する。さらに、最濃色着色樹脂層L1STの次に色濃度指標IKが高い着色樹脂層LK、つまり、色濃度指標IKが2番目に高い着色樹脂層を「第2濃色着色樹脂層L2ND」と定義する。
【0064】
[最濃色着色樹脂層L1STと第2濃色着色樹脂層L2NDとの関係]
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1において、最濃色着色樹脂層L1STの顔料32の含有量(面積%)を「C1ST」と定義し、最濃色着色樹脂層L1STの厚さ(μm)を「D1ST」と定義する。第2濃色着色樹脂層L2NDの顔料32の含有量(面積%)を「C2ND」と定義し、第2濃色着色樹脂層L2NDの厚さ(μm)を「D2ND」と定義する。このとき、積層樹脂層30は、次の式(1)を満たす。
1.00<(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)≦4.00 (1)
【0065】
つまり、最濃色着色樹脂層L1STの色濃度指標I1ST(=C1ST×D1ST)の、第2濃色着色樹脂層L2NDの色濃度指標I2ND(=C2ND×D2ND)に対する比は4.00以下である。
【0066】
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1では、亜鉛めっき層20の表面に形成される樹脂層として、あえて、複数の着色樹脂層LKを積層した積層樹脂層30としている。これにより、上述のとおり、積層樹脂層30の局所的な微少な厚さ変動が抑制される。さらに、複数の着色樹脂層LKのうち、最濃色着色樹脂層L
1STと第2濃色着色樹脂層L
2NDとが式(1)を満たすようにする。複数の着色樹脂層LKで積層樹脂層30を形成した場合、
図3及び
図4に示すとおり、各着色樹脂層LKごとに、局所的な厚さ変動(局所的な傾きや凹凸の度合い)が異なる。したがって、最濃色着色樹脂層L
1STの顔料含有量と、第2濃色着色樹脂層L
2NDの顔料含有量との差が大きければ、最濃色着色樹脂層L
1STの局所的な厚さ変動自体により、顔料濃度が変動してしまい、色調変動が生じてしまう。
【0067】
最濃色着色樹脂層L1STと第2濃色着色樹脂層L2NDとの色濃度比RFをRF=(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)と定義する。色濃度比RFが4.00以下であれば、最濃色着色樹脂層L1STの色濃度と、第2濃色着色樹脂層L2NDとの色濃度とがそれほど大きく異ならない。そのため、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に樹脂層を着色した場合において、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。
【0068】
色濃度比RFの好ましい上限は3.80であり、さらに好ましくは3.50であり、さらに好ましくは3.00であり、さらに好ましくは2.50であり、さらに好ましくは2.00である。色濃度比RFは、1.00に近づくほど好ましい。そのため、色濃度比RFの下限は1.00超である。
【0069】
なお、複数の着色樹脂層LKの各々が、色相の異なる複数種類の顔料を含有する場合、同じ色相の顔料ごとに、上記RFが4.00以下になればよい。
【0070】
[積層樹脂層30の色濃度指標IKの総和]
上述の本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1において、各着色樹脂層LK中の顔料32の含有量CKと厚さDKとの積(つまり、色濃度指標IK)の総和は、12.0面積%・μm以下である。つまり、次の式が成立する。
【数1】
【0071】
また、複数の着色樹脂層LKの各々が、色相の異なる複数種類の顔料を含有する場合、各着色樹脂層LK中の複数種類の顔料全ての含有量と厚さとの積の総和が上記を満たせばよい。
【0072】
各着色樹脂層LK中の顔料の含有量CKと厚さDKとの積の総和が12.0面積%・μm以下であれば、亜鉛めっき層の表面を視認可能な程度に積層樹脂層30を着色することができる。そのため、上記式(1)を満たすことによりさらに、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。各着色樹脂層LKの顔料含有量CKと厚さDKとの積の総和の好ましい上限は10.0面積%・μmであり、さらに好ましくは8.0面積%・μmである。
【0073】
[亜鉛めっき層20の表面に形成されるテクスチャについて]
好ましくは、上述の意匠性亜鉛めっき鋼板1の亜鉛めっき層20の表面は、テクスチャを有してもよい。本明細書において「テクスチャ」とは、物理的又は化学的手法によって、母材鋼板10の表面、又は、亜鉛めっき層20の表面に形成された凹凸模様を意味する。要するに、テクスチャは、亜鉛めっき層20の表面、又は、母材鋼板10の表面に形成されている3次元的な凹凸模様である。テクスチャの凸部の高さ及び凹部の深さは特に限定されない。好ましくは、テクスチャの凸部の高さ及び凹部の深さは、テクスチャの算術平均粗さRaが樹脂層の総厚みの50%以下である。テクスチャはたとえば、周知のヘアライン仕上げ、エンボスパターン、バイブレーション仕上げ、梨地(ブラスト)仕上げ、槌目(ハンマー)パターン仕上げ、布目(サテン)仕上げ、等である。
【0074】
亜鉛めっき層20の表面がテクスチャを有するとは、たとえば、
図11に示すとおり、亜鉛めっき層20の表面20Sに複数の凸部21が形成されたり、
図12に示すとおり、表面20Sに複数の凹部22が形成されたり、
図13に示すとおり、表面20Sに凸部21及び凹部22が形成されたりしていることを意味する。凸部21の形状は特に限定されず、
図11に示すように、法線方向NDの断面形状が三角形状であってもよいし、
図13に示すように、法線方向NDの断面形状が湾曲していてもよい。凸部21の形状は、
図11及び
図13と異なる他の形状であってもよい。凹部22の形状は特に限定されず、
図12に示すように、法線方向NDの断面形状が三角形状であってもよいし、
図13に示すように、法線方向NDの断面形状が湾曲していてもよい。凹部22の形状は、
図12及び
図13と異なる他の形状であってもよい。
【0075】
亜鉛めっき層20の表面20Sに対して後述のテクスチャ加工(Texturing)を実施して、表面20Sに凸部21及び/又は凹部22を含むテクスチャを形成することができる。
【0076】
また、
図14に示すとおり、母材鋼板10の表面10Sに対してテクスチャ加工を実施し、凸部11及び/又は凹部12を形成することにより、亜鉛めっき層20の表面20Sに凸部21及び/又は凹部22を含むテクスチャを形成してもよい。この場合、母材鋼板10の表面10Sに対してテクスチャ加工工程を実施した後、亜鉛めっき処理工程を実施する。これにより、母材鋼板10の表面10Sの凹凸(テクスチャ)が亜鉛めっき層20の表面20Sにも反映され、亜鉛めっき層20の表面20Sの凸部21及び/又は凹部22を含むテクスチャが形成される。
【0077】
さらに、母材鋼板10の表面10Sに対してテクスチャ加工を実施して、凸部11及び/又は凹部12を形成し、亜鉛めっき層20を形成した後、さらに、亜鉛めっき層20の表面20Sに対してテクスチャ加工を実施して、凸部21及び/又は凹部22を形成してもよい。
【0078】
[テクスチャがヘアラインの場合について]
好ましくは、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成されているテクスチャは、ヘアラインである。
図15は、表面20Sにヘアライン23が形成されている亜鉛めっき層20の平面図である。
図15を参照して、ヘアライン23は、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成されている直線状の溝である。各ヘアライン23の延在方向HDは同一方向である。ここでいう同一方向とは、亜鉛めっき層20を法線方向NDに見た場合(つまり、
図15のような平面視において)、ヘアライン23の延在方向HDと垂直な方向ODに配列された、互いに隣り合うヘアライン同士のなす角度のうち90%以上が、±5°未満であることを意味する。ヘアライン23の深さは特に限定されない。
【0079】
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1では、亜鉛めっき層20の表面20Sがテクスチャとしてヘアライン23を有している場合においても、積層樹脂層30の複数の着色樹脂層LKにおいて、最濃色着色樹脂層L1STの顔料32の含有量C1ST、最濃色着色樹脂層L1STの厚さD1ST、第2濃色着色樹脂層L2NDの顔料32の含有量C2ND、及び、第2濃色着色樹脂層L2NDの厚さD2NDが式(1)を満たす。この場合、亜鉛めっき層20の表面20Sを視認可能な程度に積層樹脂層30を着色しても、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。
【0080】
[積層樹脂層30の好ましい厚さについて]
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1において、好ましくは、積層樹脂層30の厚さは10.0μm以下である。積層樹脂層30の厚さが10.0μmを超えれば、積層樹脂層30のみで平滑化(レベリング)しやすくなり、積層樹脂層30の表面での反射の印象と視認できる母材鋼板10の表面(テクスチャを有する場合を含む)の印象との乖離が大きくなり、意匠性亜鉛めっき鋼板1のメタリック感が低下する。積層樹脂層30の厚さが10.0μm以下であれば、式(1)を満たすことを前提として、亜鉛めっき層20の表面20Sを視認可能な程度に積層樹脂層30を着色しても、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制でき、かつ、メタリック感も十分に高まる。積層樹脂層30の厚さのさらに好ましい上限は9.0μmであり、さらに好ましくは8.0μmである。
【0081】
また、好ましい積層樹脂層30の下限は0.5μmである。積層樹脂層30が0.5μm以上であれば、耐食性がさらに高まる。積層樹脂層30のさらに好ましい下限は0.7μmであり、さらに好ましくは1.0μmであり、さらに好ましくは2.0μmであり、さらに好ましくは3.0μmである。
【0082】
積層樹脂層30の厚さは、次の方法で測定する。
図9を参照して、切断面CSにおいて、法線方向NDに垂直な方向を切断面幅方向CDと定義する。切断面CSを、切断面幅方向CDに3等分に区画する。3等分された区画X1~X3の各々において、切断面幅方向CDの中央位置であって、積層樹脂層30を含むサンプルSAを採取する。3つのサンプルSAの各々は、少なくとも積層樹脂層30と、亜鉛めっき層20とを含む。切断面幅方向CDの長さW
SAは10mmとする。サンプルSAのうち、法線方向ND及び切断面幅方向CDに垂直な方向の長さは特に制限されないが、たとえば、5mm程度である。サンプルSAの観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の反射電子像(BSE)で観察する。走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像(BSE)での観察において、母材鋼板10、亜鉛めっき層20、及び、積層樹脂層30は、コントラストにより容易に判別可能である。各サンプルSAにおいて、切断面幅方向CDに100μmピッチで積層樹脂層30の厚さを10点測定する。3つのサンプルSAで測定された厚さ(合計30点)の平均値を、積層樹脂層30の厚さ(μm)と定義する。
【0083】
[積層樹脂層30の他の形態について]
上述の実施形態では、
図6に示すとおり、積層樹脂層30には、複数の着色樹脂層LKのみが積層されている。しかしながら、
図16及び
図17に示すとおり、積層樹脂層30は、複数の着色樹脂層LKの間に、顔料32を含有しない1又は複数の透明樹脂層TLJ(Jは1以上の自然数)が積層されていてもよい。
【0084】
図16は、
図6と異なる構成の積層樹脂層を備えた意匠性亜鉛めっき鋼板の圧延方向RDに垂直な断面図である。
図16を参照して、積層樹脂層30は、複数の着色樹脂層LKと、複数の透明樹脂層TLJとを備える。ここで、本明細書において、「透明樹脂層」とは、顔料を含有せず、透光性を有する樹脂からなる。透光性を有する樹脂とは、晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境に、顔料32及び樹脂31を含有する着色樹脂層LK及び透明樹脂層TLJを含む積層樹脂層30を備える意匠性亜鉛めっき鋼板を置いたとき、母材鋼板10の表面を視認できることを意味する。
【0085】
図16では、透明樹脂層TL1及び透明樹脂層TL2はそれぞれ、複数の着色樹脂層LKの間に積層されている。具体的には、透明樹脂層TL1は、着色樹脂層L1上であって、着色樹脂層L2下に積層されている。透明樹脂層TL2は、着色樹脂層L2上であって、着色樹脂層L3下に積層されている。このように、積層樹脂層30が複数の着色樹脂層LKだけでなく、1又は複数の透明樹脂層TLJを含んでいても、各着色樹脂層LKの顔料32の含有量CK(面積%)と着色樹脂層の厚さDK(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、かつ、最濃色着色樹脂層L
1STと第2濃色着色樹脂層L
2NDとが式(1)を満たせば、亜鉛めっき層20の表面20Sを視認可能な程度に積層樹脂層30を着色しても、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。
【0086】
着色樹脂層LK及び透明樹脂層TLJの積層順は特に限定されない。積層樹脂層30内において、複数の透明樹脂層TLJが連続して積層されていてもよい。たとえば、
図17では、積層樹脂層30内において、着色樹脂層L1上に透明樹脂層TL1が積層され、透明樹脂層TL1上に透明樹脂層TL2が積層され、透明樹脂層TL2上に着色樹脂層L2が積層されている。このように、複数の着色樹脂層LKの間に複数の透明樹脂層TLJが連続して積層されていてもよい。
【0087】
また、
図16及び
図17では、積層樹脂層30は、複数の着色樹脂層LKと複数の透明樹脂層TLJとを含んでいるが、積層樹脂層30は、複数の着色樹脂層LKと1つの透明樹脂層TL1とを含み、他の透明樹脂層TLJを含んでいなくてもよい。
【0088】
[積層樹脂層30の他の形態について]
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1では、各着色樹脂層LKの顔料32の含有量CK(面積%)と着色樹脂層の厚さDK(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、かつ、積層樹脂層30の最濃色着色樹脂層L1STと第2濃色着色樹脂層L2NDとが式(1)を満たせば、積層樹脂層30内の着色樹脂層LKの積層数は特に限定されない。しかしながら、着色樹脂層LKの積層数が多すぎれば、後述の製造工程において、各着色樹脂層LKに対応した着色樹脂塗布装置(コーター等)を準備する必要がある。そのため、設備コストが高まり、意匠性亜鉛めっき鋼板1の製造コストも高まる。また、積層樹脂層30が、少なくとも2つの着色樹脂層LKを備えていれば、2つの着色樹脂層LKの顔料32の含有量CK(面積%)と着色樹脂層の厚さDK(μm)との積の総和が12.0面積%・μm以下であり、かつ、2つの着色樹脂層LKが式(1)を満たすことを前提として、亜鉛めっき層20の表面20Sを視認可能な程度に積層樹脂層30を着色しても、亜鉛めっき層の表面を視認可能であり、かつ、色むらや色ばらつきといった色調変動を十分に抑制できる。したがって、好ましくは、積層樹脂層30は少なくとも2つの着色樹脂層LKを備える。積層樹脂層30内の着色樹脂層LKの総数の好ましい上限は5であり、さらに好ましくは4であり、さらに好ましくは3である。
【0089】
[着色樹脂層LK内の樹脂31及び透明樹脂層TLJについて]
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の積層樹脂層30内の着色樹脂層LKの樹脂31はさらに、上述の透光性を維持することを前提として、着色樹脂層LKに耐食性、摺動性、導電性等を付与するために、添加剤を含有してもよい。耐食性を付与するための添加剤はたとえば、周知の防錆剤やインヒビターである。摺動性を付与するための添加剤はたとえば、周知のワックスやビーズである。導電性を付与するための添加剤はたとえば、周知の導電剤である。
【0090】
[製造方法]
本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の製造方法の一例を説明する。以降に説明する製造方法は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する意匠性亜鉛めっき鋼板1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の製造方法の好ましい一例である。
【0091】
本実施形態の製造方法は、亜鉛めっき鋼板を準備する準備工程(S1)と、準備された亜鉛めっき鋼板に対して積層樹脂層30を形成する積層樹脂層形成工程(S2)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0092】
[準備工程(S1)]
準備工程(S1)では、母材鋼板10と亜鉛めっき層20とを備える亜鉛めっき鋼板を準備する。準備される亜鉛めっき鋼板は、テクスチャの形成の有無に応じて、次の4つのケースに分類される。
ケース1:亜鉛めっき層20の表面20Sがテクスチャを有さない亜鉛めっき鋼板
ケース2:亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャ加工を実施することにより、亜鉛めっき層20の表面20Sがテクスチャを有する亜鉛めっき鋼板
ケース3:母材鋼板10の表面10Sにテクスチャ加工を実施することにより、亜鉛めっき層20の表面20Sがテクスチャを有する亜鉛めっき鋼板
ケース4:母材鋼板10の表面10Sにテクスチャ加工を実施し、かつ、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャ加工を実施することにより、亜鉛めっき層20の表面20Sがテクスチャを有する亜鉛めっき鋼板
【0093】
以下、ケース1~ケース4の各々について説明する。
【0094】
[ケース1の場合]
ケース1の場合、テクスチャ加工を実施していない亜鉛めっき鋼板を準備する。準備される亜鉛めっき鋼板は、周知の亜鉛めっき鋼板を第三者から供給されたものであってもよいし、製造してもよい。
【0095】
亜鉛めっき鋼板を製造する場合、亜鉛めっき鋼板の製造方法は、母材鋼板10を準備する工程(母材鋼板準備工程S11)と、準備された母材鋼板10に対して亜鉛めっき処理を実施して、母材鋼板10の表面10Sに亜鉛めっき層20を形成する工程(亜鉛めっき処理工程S12)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0096】
[母材鋼板準備工程(S11)]
母材鋼板準備工程(S11)では、母材鋼板10を準備する。上述のとおり、母材鋼板10は、熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0097】
[亜鉛めっき処理工程(S12)]
亜鉛めっき処理工程(S12)では、準備された母材鋼板10に対して、亜鉛めっき処理を実施して、母材鋼板10の表面10Sに亜鉛めっき層20を形成する。
【0098】
亜鉛めっき処理は、周知の方法を実施すればよい。たとえば、周知の電気めっき法を用いて亜鉛めっき層20を形成する。この場合、電気亜鉛めっき浴、及び、電気亜鉛合金めっき浴は、周知の浴を用いれば足りる。電気亜鉛めっき浴はたとえば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロリン酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等である。電気亜鉛合金めっき浴はたとえば、Znイオンの他に、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zrから選ばれる1つ以上の単イオン又は錯イオンを含有する。
【0099】
亜鉛めっき処理における、電気亜鉛めっき浴及び電気亜鉛合金めっき浴の化学組成、温度、流速、及び、亜鉛めっき処理時の条件(電流密度、通電パターン等)は、適宜調整が可能である。亜鉛めっき処理における亜鉛めっき層20の厚さは、亜鉛めっき処理時における電流密度の範囲内で電流値と時間とを調整することにより、調整可能である。
【0100】
亜鉛めっき層20を溶融亜鉛めっき処理又は合金化溶融亜鉛めっき処理により形成してもよい。この場合においても、周知の亜鉛めっき浴を準備する。亜鉛めっき浴はたとえば、Znを主体として、Mg、Al、Siから選ばれる1つ以上の元素を含有してもよい。亜鉛めっき層20を溶融亜鉛めっき層とする場合、浴温及び浴の化学組成が調整された亜鉛めっき浴に母材鋼板10を浸漬して、母材鋼板10の表面10S上に亜鉛めっき層20(溶融亜鉛めっき層)を形成する。また、亜鉛めっき層20を合金化溶融亜鉛めっき層とする場合、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板10を周知の合金化炉内で周知の熱処理を実施して、亜鉛めっき層20を合金化溶融亜鉛めっき層とする。
【0101】
以上の製造工程により、ケース1の場合、母材鋼板10と、亜鉛めっき層20とを備えた亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0102】
[ケース2の場合]
ケース2の場合、母材鋼板準備工程(S11)及び亜鉛めっき処理工程(S12)を実施した後、さらに、テクスチャ加工工程(S13)を実施して、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャを形成する。以下、テクスチャ加工工程(S13)について説明する。
【0103】
[テクスチャ加工工程(S13)]
ケース2のテクスチャ加工工程(S13)では、亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層20の表面20Sに対して周知のテクスチャ加工を実施することにより、亜鉛めっき層20の表面20Sに対してテクスチャを形成する。
【0104】
テクスチャがヘアラインである場合、周知のヘアライン加工を実施する。ヘアライン加工方法はたとえば、周知の研磨ベルトで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、周知の砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、ヘアライン形状を付与したロールで圧延転写してヘアラインを形成する方法等がある。ヘアラインの長さや深さ、頻度は、周知の研磨ベルトの粒度や、周知の砥粒ブラシの粒度やロールの表面形状を調整することにより、調整可能である。なお、ヘアラインを付与する方法としては、表面品質の観点から、研磨ベルト又は砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成することが好ましい。
【0105】
テクスチャがエンボス等の凹凸形状である場合、ロールを用いた周知の転写方法を実施する。具体的には、エンボス等の凹凸形状のテクスチャが形成されているロールを準備する。準備されたロールを、亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層20の表面20Sに押し当てて、ロールに形成されている凹凸形状を、亜鉛めっき層20の表面20Sに転写する。以上の工程により、エンボス等の凹凸形状を亜鉛めっき層20の表面20Sに形成することができる。
【0106】
以上の製造工程により、ケース2の場合、母材鋼板10と、亜鉛めっき層20とを備え、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャが形成されている亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0107】
[ケース3の場合]
ケース3の場合、母材鋼板準備工程(S11)の後、テクスチャ加工工程(S13)を実施して、母材鋼板10の表面10S上にテクスチャを形成する。そして、テクスチャが形成されている母材鋼板10に対して、亜鉛めっき処理工程(S12)を実施する。この場合においても、亜鉛めっき層20の表面20Sに母材鋼板10の表面10Sのテクスチャが反映されるため、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャが形成される。
【0108】
以上の製造工程により、ケース3の場合、母材鋼板10と、亜鉛めっき層20とを備え、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャが形成されている亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0109】
[ケース4の場合]
ケース4の場合、ケース3と同様に、母材鋼板準備工程(S11)、テクスチャ加工工程(S13)、及び亜鉛めっき処理工程(S12)を実施する。その後さらに、亜鉛めっき層20の表面20Sに対して、テクスチャ加工工程(S13)を実施する。以上の工程により、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャが形成される。
【0110】
以上の製造工程により、ケース4の場合、母材鋼板10と、亜鉛めっき層20とを備え、亜鉛めっき層20の表面20Sにテクスチャが形成されている亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0111】
[積層樹脂層形成工程(S2)]
積層樹脂層形成工程(S2)では、準備工程(S1)により準備された、テクスチャを有さない亜鉛めっき鋼板(ケース1)、又は、テクスチャを有する亜鉛めっき鋼板(ケース2~ケース4)の亜鉛めっき層20上に、積層樹脂層30を形成する。以下、積層樹脂層形成工程(S2)について詳述する。
【0112】
[積層樹脂層形成工程の製造ライン]
積層樹脂層形成工程(S2)において使用される製造ラインについて説明する。積層樹脂層形成工程(S2)の製造ラインは、搬送ラインと、搬送ラインの上流から下流に向かって順に配列される複数の着色樹脂塗布装置CT1~CTN(Nは2以上の自然数)と、搬送ラインの上流から下流に向かって順に配列される複数の焼付炉OV1~OVN(Nは2以上の自然数)とを備える。
【0113】
搬送ラインには、準備工程(S1)で準備された亜鉛めっき鋼板が通板する。複数の着色樹脂塗布装置CT1~CTNのうちの第K(Kは1~Nの自然数)着色樹脂塗布装置CTKは、着色樹脂層LKの原料である塗料を亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層上に塗布する。着色樹脂塗布装置CTKはたとえば、周知のコーターである。周知のコーターはたとえば、ダイコーター、ロールコーター、カーテンコーター等である。好ましくは、着色樹脂塗布装置CTKは、ロールコーターである。着色樹脂層LKの原料は、対応する着色樹脂層LKの樹脂31の原料となる組成物(塗料)と、所定の体積分率の顔料とを含有する。
【0114】
複数の焼付炉OV1~OVNのうちの第K(Kは1~Nの自然数)焼付炉OVKは、着色樹脂塗布装置CTKの下流であって、次段の着色樹脂塗布装置CTK+1の上流に配置されている。焼付炉OVKは、着色樹脂塗布装置CTKにより亜鉛めっき鋼板上に塗布された塗膜を乾燥及び焼付して、着色樹脂層LKを形成する。焼付炉OVKは周知の構成を備える。
【0115】
製造ラインは、第K着色樹脂塗布装置CTKと、第K着色樹脂塗布装置CTKの下流に配置されている第K焼付炉OVKとを備える。そして、第K着色樹脂塗布装置CTK及び第K焼付炉OVKのセットが上流から下流に向かって複数配置されている。そのため、製造ラインは、複数の着色樹脂層LKを備える積層樹脂層30を、1つの製造ラインで製造できる。
【0116】
上述のとおり、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成される着色樹脂層が1層である場合(
図1の場合)、コーターにより亜鉛めっき鋼板の表面に塗布された塗膜の平坦性を担保するのが困難となる。その結果、形成される樹脂層40の表面は平坦ではなく、局所的に傾き又は凹凸が発生しやすい。樹脂層40において、局所的に傾き又は凹凸が発生すれば、樹脂層40の帳面位置に応じて(たとえば、領域E1と領域E2とで)、顔料42の濃度(含有量)が異なってしまう。その結果、異なる領域において色差が生じて、色調変動が大きくなる。その結果、色むらや色ばらつきが生じる。
【0117】
これに対して、本実施形態では、亜鉛めっき層20の表面20Sに形成する積層樹脂層30を、複数の着色樹脂層LKで構成し、上述の製造ラインを用いて、各着色樹脂層LKを順次形成していく。具体的には、始めに、第1着色樹脂塗布装置CT1及び第1焼付炉OV1を用いて、亜鉛めっき層20の表面20S上に着色樹脂層L1を形成する。そして、着色樹脂層L1を形成した後、第2着色樹脂塗布装置CT2及び第2焼付炉OV2を用いて、着色樹脂層L1上に、着色樹脂層L2を形成する。このとき、仮に、着色樹脂層L1の表面の一部に傾きや凹凸が生じていても(
図2参照)、着色樹脂層L1上に着色樹脂層L2の原料となる塗料(液体)が塗布され、塗膜が形成される。塗膜は硬化されていないため、着色樹脂層L1の表面の凹凸又は傾きと、重力とに基づいて流動する。その結果、塗膜の表面では、着色樹脂層L1の表面の凹凸及び傾きが緩和されやすく、平準化される(
図3及び
図4参照)。そのため、焼付炉OV2により乾燥及び焼付されて形成された着色樹脂層L2の表面は、着色樹脂層L1の表面と比較して、凹凸及び傾きの度合いが低減する。このように、着色された樹脂層として、複数の着色樹脂層L1~LNを備える積層樹脂層30を形成することにより、表面における局所的な凹凸や傾きは、樹脂層を1層で構成する場合と比較して、緩和される。そのため、異なる領域において色差が抑制され、色調変動が抑えられる。その結果、色むらや色ばらつきが十分に抑えられる。
【0118】
なお、積層樹脂層30が、1又は複数の透明樹脂層TLJを含む場合、たとえば、積層樹脂層30が、
図16に示す構成である場合、製造ラインは、積層樹脂層30内の着色樹脂層LK及び透明樹脂層TLKの積層順に、着色樹脂塗布装置CTK及び焼付炉OVKのセットと、透明樹脂塗布装置TCTJ及び透明樹脂層焼付炉TOVJのセットとを配置する。積層樹脂層30が
図16に示す構成である場合、製造ラインは、着色樹脂塗布装置CT1及び焼付炉OV1のセットの下流に、透明樹脂塗布装置TCT1及び透明樹脂層焼付炉TOV1のセットを配置している。そして、透明樹脂塗布装置TCT1及び透明樹脂層焼付炉TOV1のセットの下流に、着色樹脂塗布装置CT1及び焼付炉OV1のセットを配置している。
【0119】
透明樹脂塗布装置TCT1は、透明樹脂層TL1の原料(塗料)を格納している。そして、製造ラインにおいて、亜鉛めっき層20の表面20S上に形成された着色樹脂層L1の表面上に、透明樹脂層TL1の塗料を塗布して、塗膜を形成する。形成された塗膜は、透明樹脂層焼付炉TOV1により乾燥及び焼付されて、透明樹脂層TL1が形成される。以降の製造工程は、着色樹脂層LKのみを含有する積層樹脂層30を製造する上述の製造ラインを用いた場合と同じである。以上の製造工程により、複数の着色樹脂層LKとともに、1又は複数の透明樹脂層TLJを含む積層樹脂層30を形成することができる。
【0120】
以上の製造工程により、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1を製造できる。なお、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1は、上記製造方法に限定されず、上述の構成を有する意匠性亜鉛めっき鋼板1が製造できれば、上記製造方法以外の他の製造方法で本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1を製造してもよい。ただし、上記製造方法は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の製造に好適である。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の意匠性亜鉛めっき鋼板1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本発明はこの一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0122】
表1に記載の試験番号の亜鉛めっき鋼板を準備した。各亜鉛めっき鋼板の母材鋼板はJIS G 3141(2017)に規定されているSPCCとした。
【0123】
【0124】
表1を参照して、「亜鉛めっき層」欄の「めっき種類」欄に、各試験番号の亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の種類を示す。具体的には、試験番号1~44の亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層は、Zn及び不純物からなる電気亜鉛めっき層とした(表1中において「Zn」と記載)。試験番号45~60の亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層は、電気亜鉛合金めっき層とした。具体的には、試験番号45及び46の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で12%のNiを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-12%Ni」と記載)。試験番号47及び48の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で10%のNiを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-10%Ni」と記載)。試験番号49及び50の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で15%のFeを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-15%Fe」と記載)。試験番号51及び52の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で10%のFeを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-10%Fe」と記載)。試験番号53及び54の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で2%のCoを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-2%Coと記載」)。試験番号55及び56の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で0.5%のCoを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-0.5%Co」と記載)。試験番号57及び58の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で10%のNiと、2%のFeとを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-10%Ni-2%Fe」と記載)。試験番号59及び60の電気亜鉛合金めっき層は、質量%で2%のCoと、0.5%のMoとを含有し、残部はZn及び不純物からなる化学組成であった(表1中において、「Zn-2%Co-0.5%Mo」と記載)。
【0125】
表1中の「母材鋼板」欄の「テクスチャ」欄には、母材鋼板の表面にテクスチャ加工によりテクスチャを形成したか否かを示す。また、表1中の「亜鉛めっき層」欄の「テクスチャ」欄は、亜鉛めっき層の表面にテクスチャ加工によりテクスチャを形成したか否かを示す。
【0126】
試験番号10の亜鉛めっき鋼板では、母材鋼板の表面及び亜鉛めっき層の表面のいずれにおいても、テクスチャを形成しなかった(表1中の「母材鋼板」欄の「テクスチャ」欄において「なし」と記載。「亜鉛めっき層」欄の「テクスチャ」欄に「なし」と記載)。試験番号1~9、11~36、39~60の亜鉛めっき鋼板では、母材鋼板の表面にテクスチャを形成せず(表1中の「母材鋼板」欄の「テクスチャ」欄において「なし」と記載。)、亜鉛めっき層の表面にテクスチャ加工によりテクスチャを形成した(「亜鉛めっき層」欄の「テクスチャ」欄に「あり」と記載)。試験番号37の亜鉛めっき鋼板では、母材鋼板の表面及び亜鉛めっき層の表面のいずれにおいても、テクスチャ加工によりテクスチャを形成した(表1中の「母材鋼板」欄の「テクスチャ」欄において「あり」と記載。「亜鉛めっき層」欄の「テクスチャ」欄に「あり」と記載)。試験番号38の亜鉛めっき鋼板では、母材鋼板の表面にテクスチャ加工によりテクスチャを形成し(表1中の「母材鋼板」欄の「テクスチャ」欄において「あり」と記載。)、亜鉛めっき層の表面には、テクスチャ加工によるテクスチャを形成しなかった(「亜鉛めっき層」欄の「テクスチャ」欄に「なし」と記載)。本実施形態では、いずれの試験番号においても、テクスチャ加工を実施して、母材鋼板の表面及び/又は亜鉛めっき層の表面にヘアラインを形成した。ヘアラインはいずれも、圧延方向RDに延在していた。
【0127】
準備された試験番号1~60の亜鉛めっき鋼板を用いて、積層樹脂層形成工程を実施した。積層樹脂層形成工程では、上述の製造ラインを用いた。試験番号3~38、45~60では、積層樹脂層中の着色樹脂層数を2とした(「積層樹脂層」欄の「積層数」欄において「2」と記載)。試験番号39~41では、積層樹脂層中の着色樹脂層数を3とした(「積層樹脂層」欄の「積層数」欄において「3」と記載)。試験番号42~44では、積層樹脂層中の着色樹脂層数を4とした(「積層樹脂層」欄の「積層数」欄において「4」と記載)。なお、試験番号40、41は、積層樹脂層中に透明樹脂層を1層備え、試験番号43は、積層樹脂層中に、透明樹脂層を2層備えた。積層樹脂層を構成する各着色樹脂層には、いずれも、顔料としてカーボンブラックを用いた。以上の製造工程により、意匠性亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0128】
[評価試験]
[各着色樹脂層LK中の顔料の含有量CK及び厚さDKの測定]
各試験番号の積層樹脂層の各着色樹脂層の顔料の含有量CK及び厚さDKを、次の方法により測定した。
図8を参照して、意匠性亜鉛めっき鋼板を法線方向NDに切断して、法線方向ND及び板幅方向TDを含む切断面CSを作製した。
図9を参照して、切断面CSにおいて、法線方向NDに垂直な方向(本実施例では板幅方向TD)を切断面幅方向CDと定義した。切断面CSを、切断面幅方向CDに3等分に区画した。3等分された区画X1~X3の各々において、切断面幅方向CDの中央位置であって、積層樹脂層30を含むサンプルSAを採取した。3つのサンプルSAの各々は、少なくとも積層樹脂層30と、亜鉛めっき層20とを含んだ。切断面幅方向CDの長さは10mmとし、法線方向ND及び切断面幅方向CDに垂直な方向の長さを10mmとした。切出したサンプルSAについて収束イオンビーム装置(FIB)を用いて、積層樹脂層30と亜鉛めっき層20を透過型電子顕微鏡で観察できるサンプルを作製した。
【0129】
サンプルSAの法線方向ND及び切断面幅方向CDを含む面(観察面)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の反射電子像(BSE)で観察した。走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像(BSE)での観察において、母材鋼板、亜鉛めっき層、及び、積層樹脂層は、コントラストにより容易に判別可能であった。また、積層樹脂層のうち、各着色樹脂層は、組成の異なる樹脂層を使用したためそのコントラストにより識別可能であった。
【0130】
各着色樹脂層を識別した後、各着色樹脂層中の顔料の含有量CK(面積%)と、各着色樹脂層の厚さDKとを次の方法で求めた。
【0131】
透過型電子顕微鏡観察において、観察面での着色樹脂層中の複数の顔料の総面積A1(μm2)を求めた。そして、観察面でのその着色樹脂層の面積A0(μm2)を求めた。求めた総面積A1及び面積A0に基づいて、次式により着色樹脂層中の顔料の面積率(面積%)を求めた。
面積率=A1/A0×100
【0132】
3つのサンプルにおいて上述の顔料の面積率を求め、求めた3つの面積率の平均を、その着色樹脂層の顔料含有量CK(面積%)と定義した。
【0133】
また、各サンプルSAにおいて、各着色樹脂層の任意の1点で厚さ(μm)を測定した。3つのサンプルSAにおいて得られた3つの厚さの平均を、その着色樹脂層の厚さDK(μm)と定義した。以上の方法により、識別された各着色樹脂層の顔料含有量CK(面積%)と、厚さDK(μm)とを求めた。
【0134】
各着色樹脂層の顔料含有量CK及び厚さDKに基づいて、各着色樹脂層の色濃度の指標となる色濃度指標IKを、次の式により求めた。
色濃度指標IK=CK×DK
【0135】
また、各着色樹脂層の色濃度指標の合計値を求めた。求めた合計値を、表1中の「積層樹脂層」欄の「総色濃度指標」欄に示す。
【0136】
[積層樹脂層の厚さの測定]
積層樹脂層30の厚さは、次の方法で測定した。
図9を参照して、切断面CSにおいて、法線方向NDに垂直な方向を切断面幅方向CD(本実施例では板幅方向TDに相当)と定義した。切断面CSを、切断面幅方向CDに3等分に区画した。3等分された区画X1~X3の各々において、切断面幅方向CDの中央位置であって、積層樹脂層30を含むサンプルSAを採取した。3つのサンプルSAの各々は、少なくとも積層樹脂層30と、亜鉛めっき層20とを含んだ。切断面幅方向CDの長さは10mmとした。サンプルSAのうち、法線方向ND及び切断面幅方向CDに垂直な方向の長さは10mmとした。切出したサンプルSAの切断面CSに金蒸着を施した。その後サンプルSAを当て板で挟んで樹脂に埋め込み、研磨して切断面CSを観察面とする観察用サンプルを作製した。観察用サンプルの観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の反射電子像(BSE)で観察した。走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像(BSE)での観察において母材鋼板10、亜鉛めっき層20、及び、積層樹脂層30は、コントラストにより容易に判別可能であった。各サンプルSAにおいて、切断面幅方向CDに100μmピッチで積層樹脂層30の厚さを10点測定した。3つのサンプルSAで測定された厚さ(合計30点)の平均値を、積層樹脂層30の厚さ(μm)と定義した。表1中の「積層樹脂層」欄の「総膜厚」に、測定された積層樹脂層の厚さ(μm)を示す。
【0137】
[最濃色着色樹脂層L
1STと第2濃色着色樹脂層L
2NDとの選定]
各着色樹脂層のうち、色濃度指標IKが最大の着色樹脂層を「最濃色着色樹脂層L
1ST」と定義し、最濃色着色樹脂層L
1STの次に色濃度指標IKが高い着色樹脂層、つまり、色濃度指標IKが2番目に高い着色樹脂層を、「第2濃色着色樹脂層L
2ND」と定義した。なお、最濃色着色樹脂層L
1STの顔料含有量(面積%)を「C
1ST」と定義し、最濃色着色樹脂層L
1STの厚さ(μm)を「D
1ST」と定義した。第2濃色着色樹脂層L
2NDの顔料含有量(面積%)を「C
2ND」と定義し、第2濃色着色樹脂層L
2NDの厚さ(μm)を「D
2ND」と定義した。最濃色着色樹脂層L
1STの顔料含有量C
1ST、厚さD
1ST、第2濃色着色樹脂層L
2NDの顔料含有量C
2ND、厚さD
2NDを表1に示す。なお、表1中の「最濃色着色樹脂層L
1ST」欄の「積層位置」は、最濃色着色樹脂層L
1STが第何層であったかを示す。たとえば、試験番号1では、最濃色着色樹脂層L
1STが第1層(
図6におけるL1に相当)であったことを示す。同様に、表1中の「第2濃色着色樹脂層L
2ND」欄の「積層位置」は、第2濃色着色樹脂層L
2NDが第何層であったかを示す。たとえば、試験番号3では、第2濃色着色樹脂層L
2NDが第2層(
図6でいうL2に相当)であったことを示す。
【0138】
さらに、最濃色着色樹脂層L1STの顔料含有量C1ST、厚さD1ST、第2濃色着色樹脂層L2NDの顔料含有量C2ND、厚さD2NDを用いて、次式により、色濃度比RFを求めた。
色濃度比RF=(C1ST×D1ST)/(C2ND×D2ND)
求めた色濃度比RFを表1中の「積層樹脂層」欄の「色濃度比RF」欄に示す。
【0139】
[亜鉛めっき層表面視認試験]
晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境に各試料を置き、母材鋼板10の表面を視認できたかどうかで判定した。
【0140】
[色むら評価試験]
次の方法により、各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板の色むらを評価した。
図18を参照して、各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板1のヘアライン23の延在方向HDと直行する1200mmの任意の測定線分OD1において、15mmピッチで81点の測定点(P1~P81)を特定した。各測定点P1~P81において、L
*a
*b
*表色系におけるL
*値、a
*値、及びb
*値を求めた。そして、隣り合う2つの測定点PiとPi+1(iは1~80の自然数)におけるΔL
*値、Δa
*値、Δb*値を次式により求めた。
ΔL
*=L
*i-L
*i+1
Δa
*=a
*i-a
*i+1
Δb
*=b
*i-b
*i+1
【0141】
そして、求めたΔL*、Δa*、Δb*に基づいて、次式により、隣り合う2つの測定点での色差ΔE*を求めた。
ΔE*=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)
【0142】
得られた80個のΔE*に基づいて、次のとおり色むらを評価した。
評点A:隣接する2点の測定点での色差ΔE*が全て1.5以下
評点B:隣接する2点の測定点での色差ΔE*が全て2.0以下
評点C:隣接する2点間の色差ΔE*の90%以上が2.0以下
評点D:隣接する2点間の色差ΔE*の11%以上が2.0超
【0143】
評点A~Cであれば、色むらが抑制されたと判断した。一方、評点Dの場合、色むらが発生したと判断した。得られた結果を、表1中の「評価試験」欄の「色むら」欄に示す。
【0144】
[色ばらつき評価試験]
次の方法により、各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板の色ばらつきを評価した。
図19を参照して、各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板1において、圧延方向RDに50000mmピッチ(50mピッチ)で20点の各測定位置S1~S20を特定した。そして、各測定位置S1~S20において、ヘアライン23の延在方向HDと直行する方向(直行方向OD)に1000mm間隔の測定点Q1及びQ2の色差ΔE
*を求めた。
【0145】
得られた20個の色差ΔE*に基づいて、次のとおり色ばらつきを評価した。
評点A:20点の全てがΔE*≦2.0
評点B:20点の全てがΔE*≦2.5
評点C:20点の全てがΔE*≦3.0
評点D:20点のうちΔE*>3.0が1点以上存在
【0146】
評点A~Cであれば、色ばらつきが抑制されたと判断した。一方、評点Dの場合、色ばらつきが発生したと判断した。得られた結果を、表1中の「評価試験」欄の「色ばらつき」欄に示す。
【0147】
なお、色むら評価試験、及び、色ばらつき評価試験において、各測定点P1~P81、Q1及びQ2のL*値、a*値、及びb*値は、コニカミノルタ株式会社製の測色計(商品名:CM-2600d)を用いた。測定においては、光源としてCIE標準光源D65を用い、視野角度10°として、SCE方式によりCIELAB表示色でL*値、a*値、及びb*値を求めた。
【0148】
ここで、CIE標準光源D65は、JIS Z 8720(2000)「測色用イルミナイト(標準の光)及び標準光源」に規定されており、ISO 10526(2007)にも同じ規定がある。CIEは、Commission Internationale de l’Eclairageの略称であり、国際照明委員会を意味する。CIE標準光源D65は、昼光で照明される物体色を表示する場合に使用される。視野角度10°については、JIS Z 8723(2009)「表面色の視覚比較方法」に規定されており、ISO/DIS 3668にも同じ規定がある。
【0149】
SCE方式は正反射光除去方式といい、正反射光を除去して色を測定する方法を意味する。SCE方式の定義は、JIS Z 8722(2009)に規定されている。SCE方式では、正反射光を除去して測定するため、実際の人の目で見た色に近い色となる。
【0150】
CIELAB表示色は、知覚と装置の違いによる色差を測定するために、1976年に勧告され、JIS Z 8781(2013)に規定されている均等色空間である。CIELABの3つの座標は、L*値、a*値、b*値で示される。L*値は明度を示し、0~100で示される。L*値が0の場合は黒色を意味し、L*値が100の場合は白の拡散色を意味する。a*値は赤と緑の間の色を示す。a*値がマイナスであれば、緑寄りの色を意味し、プラスであれば赤寄りの色を意味する。b*値は黄色と青色の間の色を意味する。b*がマイナスであれば青寄りの色を意味し、プラスであれば、黄色寄りの色を意味する。
【0151】
[メタリック感評価試験]
次の方法により、各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板のメタリック感を測定した。各試験番号の意匠性亜鉛めっき鋼板1の任意の点において、ヘアラインと平行方向の光沢度G60(Gl)と、ヘアラインと直行方向の光沢度G60(Gc)とを光沢度計で測定した。光沢度計は、スガ試験機株式会社製のグロスメーター(商品名:UGV-6P)を用いた。得られた光沢度Glと、光沢度Gcとに基づいて、Gc/Glを求めた。Gc/Glが0.3超~0.7未満の場合、意匠性亜鉛めっき鋼板のメタリック感が高いと判断した。
【0152】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号10~60では、積層樹脂層が複数の着色樹脂層を含み、各着色樹脂層の色濃度指標の総和が12.0面積%・μm以下であった。さらに、最濃色着色樹脂層L1STの顔料含有量C1ST、厚さD1ST、第2濃色着色樹脂層L2NDの顔料含有量C2ND、厚さ(μm)D2NDにより得られた色濃度比RFが4.00以下であった。そのため、亜鉛めっき層の表面を視認可能であった。さらに、色むら評価はいずれも評点A~Cであり、色むらが十分に抑制された。さらに、色ばらつき評価はいずれも評点A~Cであり、色ばらつきも十分に抑制された。
【0153】
試験番号10~60のうち、色濃度比RFが3.00以下である試験番号10~12、15~18、21~24、27~30、33~60はいずれも、色濃度比RFが3.00よりも高い試験番号13、14、19、20、25、26、31、32と比較して、色むら及び/又は色ばらつきが優れていた。具体的には、試験番号13、14、19、20、25、26、31、32では、色むら及び/又は色ばらつきの評点がCであるのに対して、試験番号10~12、15~18、21~24、27~30、33~60では、色むら及び色ばらつきの評点がA又はBであった。
【0154】
さらに、試験番号10~12、15~18、21~24、27~30、33~60のうち、色濃度比RFが2.00以下である試験番号11、12、17、18、23、24、29、30、35~60では、色濃度比が2.00を超える試験番号10、15、16、21、22、27、28、33、34と比較して、色むら及び/又は色ばらつきが優れていた。具体的には、試験番号10、15、16、21、22、27、28、33、34では、色むら又は色ばらつきの評点にBが含まれるのに対して、試験番号11、12、17、18、23、24、29、30、35~60では、色むら又は色ばらつきの評点がいずれもAであった。
【0155】
また、試験番号13~60の亜鉛めっき鋼板では、亜鉛めっき層の表面上にヘアラインが形成されていた。さらに、積層樹脂層の厚さが10.0μm以下であった。そのため、試験番号13~60の亜鉛めっき鋼板では、0.3<Gc/Gl<0.7であり、ヘアラインが形成されていない試験番号10、積層樹脂層30の厚さが10.0μmを超えた試験番号11及び12と比較して、メタリック感が高かった。
【0156】
一方、試験番号1及び2では、複数の着色樹脂層が形成されておらず、1層の着色樹脂層のみが形成されていた。その結果、色濃度指標I1は12.0面積%・μm以下であったものの、色むら及び色ばらつきのいずれにおいても、評点がDであった。
【0157】
試験番号3及び4では、複数の樹脂層が形成されていたものの、着色樹脂層は1層のみであった。その結果、色むら及び色ばらつきが生じた。具体的には、色むら/又は色ばらつき試験において、評点Dを示した。
【0158】
試験番号5及び6では、積層樹脂層の複数の着色樹脂層の色濃度指標IKの総和が、12.0面積%・μmを超えた。その結果、亜鉛めっき層の表面を視認できなかった。
【0159】
試験番号7~9ではいずれも、色濃度比RFが4.00を超えた。その結果、色むら及び色ばらつきが生じた。具体的には、色むら/又は色ばらつき試験において、評点Dを示した。
【0160】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0161】
1 意匠性亜鉛めっき鋼板
10 母材鋼板
20 亜鉛めっき層
30 積層樹脂層
31 樹脂
32 顔料
LK 着色樹脂層
TLJ 透明樹脂層