(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230412BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230412BHJP
C23C 22/00 20060101ALI20230412BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230412BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230412BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C23C22/00 B
H01F1/147 183
C21D9/46 501B
C21D8/12 B
(21)【出願番号】P 2020566458
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001181
(87)【国際公開番号】W WO2020149340
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019005396
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019005398
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】牛神 義行
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】財前 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山本 信次
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-263927(JP,A)
【文献】特開平06-136555(JP,A)
【文献】特開平06-346247(JP,A)
【文献】特開2001-152354(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207873(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0075278(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00ー38/60
C21D 8/12, 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板として珪素鋼板を備える方向性電磁鋼板において、
前記珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値をave-AMP
C100としたとき、前記ave-AMP
C100が0.0001~0.050μmである
ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記ave-AMP
C100が0.0001~0.025μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMP
C100とし、前記珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMP
L100としたとき、前記max-AMP
C100を前記max-AMP
L100で割った値であるmax-DIV
100が1.5~6.0であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記フーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の平均値をave-AMP
C50としたとき、前記ave-AMP
C50が0.0001~0.035
μmである
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMP
C50とし、前記珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMP
L50としたとき、前記max-AMP
C50を前記max-AMP
L50で割った値であるmax-DIV
50が1.5~5.0であることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記ave-AMP
C50が0.0001~0.020μmであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記珪素鋼板が、化学成分として、質量%で、
Si:0.8%以上7.0%以下、
Mn:0以上1.00%以下、
Cr:0以上0.30%以下、
Cu:0以上0.40%以下、
P :0以上0.50%以下、
Sn:0以上0.30%以下、
Sb:0以上0.30%以下、
Ni:0以上1.00%以下、
B :0以上0.008%以下、
V :0以上0.15%以下、
Nb:0以上0.2%以下、
Mo:0以上0.10%以下、
Ti:0以上0.015%以下、
Bi:0以上0.010%以下、
Al:0以上0.005%以下、
C :0以上0.005%以下、
N :0以上0.005%以下、
S :0以上0.005%以下、
Se:0以上0.005%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記珪素鋼板上に接して配された中間層をさらに備え、
前記中間層が酸化珪素膜である
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記中間層上に接して配された絶縁被膜をさらに備え、
前記絶縁被膜がリン酸系被膜である
ことを特徴とする請求項
8に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記中間層上に接して配された絶縁被膜をさらに備え、
前記絶縁被膜がホウ酸アルミニウム系被膜である
ことを特徴とする請求項
8に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、前記珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。特に、母材鋼板である珪素鋼板の表面性状を制御することにより優れた鉄損特性を発揮する方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
本願は、2019年1月16日に日本に出願された特願2019-5396号及び2019年1月16日に日本に出願された特願2019-5398号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、母材鋼板として珪素鋼板を有し、主に変圧器の鉄心材料として用いられる軟磁性材料である。方向性電磁鋼板には、優れた磁気特性を発揮することが要求される。特に、優れた鉄損特性を発揮することが要求される。
【0003】
鉄損とは、電気的エネルギーと磁気的エネルギーとが相互変換される時に生じるエネルギー損失のことを意味する。この鉄損の値は低いほど好ましい。鉄損は、大別すると、ヒステリシス損および渦電流損の2つの損失成分に分けることができる。さらに、渦電流損は、古典的渦電流損および異常渦電流損に分けることができる。
【0004】
例えば、古典的渦電流損を低減するためには、珪素鋼板の電気抵抗を高める、珪素鋼板の厚みを薄くする、または珪素鋼板を被膜で絶縁することなどが試みられている。また、異常渦電流損を低減するためには、珪素鋼板の結晶粒径を微細化する、珪素鋼板の磁区を微細化する、または珪素鋼板に張力を付与することなどが試みられている。また、ヒステリシス損を低減するためには、珪素鋼板中の不純物を除去する、珪素鋼板の結晶方位を制御することなどが試みられている。
【0005】
加えて、ヒステリシス損を低減するために、珪素鋼板の表面を平滑にすることも試みられている。珪素鋼板の表面に凹凸が存在すると、磁壁が移動する際の妨げになり、磁化しにくくなる。そのため、珪素鋼板の表面粗さを低減することによって磁壁移動に伴うエネルギー損失を低減することが試みられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、鋼板表面を平滑にすることによって、優れた鉄損特性が得られる方向性電磁鋼板が示されている。特許文献1は、化学研磨または電解研磨を行うことによって鋼板表面を鏡面に仕上げると鉄損が急激に低下すると開示している。
【0007】
特許文献2には、鋼板の表面粗さRaを0.4μm以下に制御する方向性電磁鋼板が示されている。特許文献2は、表面粗さRaが0.4μm以下であるとき非常に低い鉄損が得られると開示している。
【0008】
特許文献3には、鋼板の圧延直角方向の表面粗さRaを0.15~0.45μmに制御する方向性電磁鋼板が示されている。特許文献3は、圧延直角方向の表面粗さが、0.45μm超となるとき高磁場鉄損改善効果が小さくなると開示している。
【0009】
特許文献4および特許文献5には、カットオフ波長λcを20μmとしたときの表面粗さRaを0.2μm以下に制御する無方向性電磁鋼板が示されている。特許文献4および特許文献5は、鉄損を低減するためには、カットオフ波長で長波長側のうねりを除去して微小凹凸を評価し、この微小凹凸を低減する必要があると開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特公昭52-024499号公報
【文献】日本国特開平05-311453号公報
【文献】日本国特開2018-062682号公報
【文献】日本国特開2016-47942号公報
【文献】日本国特開2016-47943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らが検討した結果、従来技術のように、珪素鋼板に関して、表面粗さRaを例えば0.40μm以下に制御しても、またはカットオフ波長λcが20μmの条件にて表面粗さRaを0.2μm以下に制御しても、鉄損特性が必ずしも十分に安定的に改善しないことが明らかとなった。
【0012】
さらに言えば、特許文献4および特許文献5では、無方向性電磁鋼板の鉄損特性を改善するために、冷間圧延によって珪素鋼板の表面性状を制御している。ただ、方向性電磁鋼板では、無方向性電磁鋼板とは異なり、冷間圧延後に、脱炭焼鈍を行い、焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍し、さらに高温長時間の純化焼鈍を行う。そのため、方向性電磁鋼板では、無方向性電磁鋼板のように、冷間圧延によって制御した表面性状を、最終工程後まで維持することが難しい。一般的に、無方向性電磁鋼板の知見は、方向性電磁鋼板へ単に流用することができない。
【0013】
本発明者らは、方向性電磁鋼板としての表面制御に関して従来技術では十分でないと考え、方向性電磁鋼板の鉄損特性を最適に改善するためには、新たな視点で珪素鋼板の表面性状を制御することが必要であると考えた。
【0014】
すなわち、本発明は、母材鋼板である珪素鋼板の表面性状を最適に制御することによって、優れた鉄損特性を発揮する方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0016】
(1)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、母材鋼板として珪素鋼板を備え、この珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値をave-AMPC100としたとき、ave-AMPC100が0.0001~0.050μmである。
(2)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板では、ave-AMPC100が0.0001~0.025μmであってもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板では、前記珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPC100とし、前記珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPL100としたとき、前記max-AMPC100を前記max-AMPL100で割った値であるmax-DIV100が1.5~6.0であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板では、上記フーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の平均値をave-AMPC50としたとき、ave-AMPC50が0.0001~0.035μmであってもよい。
(5)上記(4)に記載の方向性電磁鋼板では、前記珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPC50とし、前記珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPL50としたとき、前記max-AMPC50を前記max-AMPL50で割った値であるmax-DIV50が1.5~5.0であってもよい。
(6)上記(4)または(5)に記載の方向性電磁鋼板では、前記ave-AMPC50が0.0001~0.020μmであってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板では、上記珪素鋼板が、化学成分として、質量%で、Si:0.8%以上7.0%以下、Mn:0以上1.00%以下、Cr:0以上0.30%以下、Cu:0以上0.40%以下、P:0以上0.50%以下、Sn:0以上0.30%以下、Sb:0以上0.30%以下、Ni:0以上1.00%以下、B:0以上0.008%以下、V:0以上0.15%以下、Nb:0以上0.2%以下、Mo:0以上0.10%以下、Ti:0以上0.015%以下、Bi:0以上0.010%以下、Al:0以上0.005%以下、C:0以上0.005%以下、N:0以上0.005%以下、S:0以上0.005%以下、Se:0以上0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなってもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板では、上記珪素鋼板上に接して配された中間層をさらに備え、この中間層が酸化珪素膜であってもよい。
(9)上記(8)に記載の方向性電磁鋼板では、上記中間層上に接して配された絶縁被膜をさらに備え、この絶縁被膜がリン酸系被膜であってもよい。
(10)上記(8)に記載の方向性電磁鋼板では、上記中間層上に接して配された絶縁被膜をさらに備え、この絶縁被膜がホウ酸アルミニウム系被膜であってもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記態様によれば、母材鋼板である珪素鋼板の表面性状を最適に制御することによって、優れた鉄損特性を発揮する方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板および従来の方向性電磁鋼板に関して、珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析し、波長に対する振幅を作図したグラフである。
【
図2】方向性電磁鋼板の磁区構造を一例として示す顕微鏡写真である。
【
図3】同実施形態に係る方向性電磁鋼板に関して、珪素鋼板の板幅方向および圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析し、波長に対する振幅を作図したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0020】
[第1実施形態]
本実施形態では、従来技術と異なり、方向性電磁鋼板の母材鋼板である珪素鋼板の表面状態を緻密に且つ最適に制御する。具体的には、珪素鋼板の板幅方向(C方向)に関して、20~100μmの波長範囲にて表面性状を制御する。
【0021】
例えば、変圧器の内部では方向性電磁鋼板が交流で磁化される。このように電気的エネルギーと磁気的エネルギーとが相互変換される際、方向性電磁鋼板では、交流サイクルに合せて主に圧延方向(L方向)に沿って磁化方向が反転する。
【0022】
圧延方向に沿って磁化方向が反転する際、方向性電磁鋼板内では、交流サイクルに合せて磁壁が主に板幅方向に反復移動する。そのため、本発明者らは、第一に、磁壁移動を妨げる因子を、板幅方向に関して制御することが好ましいと考えた。
【0023】
また、磁壁が交流サイクルに合せて板幅方向に反復移動する際、方向性電磁鋼板の磁区サイズを考慮すると、磁壁の移動距離は20~100μm程度であると見積もられる。
図2に、方向性電磁鋼板の磁区構造を例示する顕微鏡写真を示す。
図2に示すように、方向性電磁鋼板は基本的に圧延方向(L方向)に平行な短冊状の磁区構造を有する。方向性電磁鋼板では、一般的に磁区の板幅方向(C方向)の幅が20~100μm程度となる。そのため、本発明者らは、第二に、磁壁移動を妨げる因子を、20~100μmの領域で制御することが好ましいと考えた。
【0024】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記の知見に基づいて得られた。本実施形態では、珪素鋼板(母材鋼板)の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅を制御する。
【0025】
具体的には、上記フーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値をave-AMPC100としたとき、ave-AMPC100を0.050μm以下に制御する。ave-AMPC100が0.050μm以下であるとき、磁壁移動が表面凹凸によって妨げられることなく、磁壁が板幅方向に好ましく移動することができる。その結果、鉄損を好ましく低減することができる。磁壁移動をさらに容易にするためには、ave-AMPC100が、0.040μm以下であることが好ましく、0.030μm以下であることがさらに好ましく、0.025μm以下であることがさらに好ましく、0.020μm以下であることが最も好ましい。
【0026】
ave-AMPC100の値は小さいほど好ましいので、ave-AMPC100の下限は特に制限されない。ただ、ave-AMPC100を0.0001μm未満に制御することは工業的に容易ではないので、ave-AMPC100が0.0001μm以上であってもよい。
【0027】
加えて、ave-AMPC100の値を制御した上で、波長が20~50μmである範囲の振幅も制御することが好ましい。ave-AMPC100は、波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値であるため、この値は、20~100μm範囲内で大きい波長の振幅に影響を受け易い傾向がある。そのため、ave-AMPC100の制御に加えて、波長が20~50μmである範囲の振幅も合わせて制御することで、珪素鋼板の表面性状をより好ましく制御することが可能となる。
【0028】
具体的には、上記フーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の平均値をave-AMPC50としたとき、ave-AMPC50を0.035μm以下に制御する。ave-AMPC50が0.035μm以下であるとき、磁壁が板幅方向にさらに容易に移動できるため、鉄損を好ましく低減することができる。ave-AMPC50は、0.030μm以下であることが好ましく、0.025μm以下であることがさらに好ましく、0.020μm以下であることがさらに好ましく、0.015μm以下であることが最も好ましい。
【0029】
ave-AMPC50の値は小さいほど好ましいので、ave-AMPC50の下限は特に制限されない。ただ、ave-AMPC50を0.0001μm未満に制御することは工業的に容易ではないので、ave-AMPC50が0.0001μm以上であってもよい。
【0030】
図1に、珪素鋼板(母材鋼板)の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析し、波長に対する振幅を作図したグラフを示す。
図1に示すように、従来の方向性電磁鋼板の珪素鋼板は、波長が20μm以下の範囲では振幅が小さな値となっているが、波長が20μm超の範囲では振幅が大きな値となっている。具体的には、従来の方向性電磁鋼板の珪素鋼板は、波長が1~20μmの範囲では振幅平均値が0.02μmだが、波長が20~100μmの範囲では振幅平均値が0.25μmとなっている。すなわち、波長が20μm以下の領域でミクロに表面性状を制御したとしても、方向性電磁鋼板にて磁壁移動の際に重要となる波長が20~100μmの領域で表面性状が制御されていないことが明らかである。一方、
図1に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の珪素鋼板は、波長が20~100μmの範囲で振幅が小さい値となっている。一方、従来の方向性電磁鋼板の珪素鋼板は、波長が20~100μmの範囲で振幅が大きい値となっている。
【0031】
ave-AMPC100およびave-AMPC50は、例えば、下記の方法によって測定すればよい。
【0032】
珪素鋼板上に被膜が存在しない場合には、直接に珪素鋼板の表面性状を評価すればよく、珪素鋼板上に被膜が存在する場合には、被膜を除去してから珪素鋼板の表面性状を評価すればよい。例えば、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:20質量%+H2O:80質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で20分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、珪素鋼板上の被膜(中間層および絶縁被膜)を除去できる。なお、珪素鋼板上の被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
【0033】
珪素鋼板の表面性状は、接触式の表面粗さ測定器では触針先端半径が一般的にミクロン(μm)程度であり微小な表面形状を検知できない場合があるので、非接触式の表面粗さ測定器を用いることが好ましい。例えば、レーザ式表面粗さ測定器(キーエンス社製のVK-9700)を用いればよい。
【0034】
まず、非接触式の表面粗さ測定器を用いて、珪素鋼板の板幅方向に沿う測定断面曲線を求める。この測定断面曲線を求める際には、一回の測定長を500μm以上とし、総測定長さを5mm以上とする。測定方向(珪素鋼板の板幅方向)の空間分解能を0.2μm以下とする。この測定断面曲線に対して、低域または高域などのフィルタを適用することなく、すなわち、測定断面曲線から特定波長成分をカットオフすることなく、測定断面曲線をフーリエ解析する。
【0035】
測定断面曲線をフーリエ解析して得られた波長成分のうちで、波長が20~100μmである範囲の振幅に関して、その平均値を求める。この振幅の平均値をave-AMPC100とする。同様に、測定断面曲線をフーリエ解析して得られた波長成分のうちで、波長が20~50μmである範囲の振幅に関して、その平均値を求める。この振幅の平均値をave-AMPC50とする。なお、上記の測定および解析は、測定箇所を変えた5カ所以上で行って、その平均値を求めればよい。
【0036】
本実施形態では、ave-AMPC100を制御して、また必要に応じてave-AMPC50を制御して、鉄損特性を改善する。これらのave-AMPC100やave-AMPC50を制御する方法は後述する。
【0037】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記した表面性状以外、その他の構成は特に制限されない。ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、下記の技術特徴を有することが好ましい。
【0038】
本実施形態では、珪素鋼板が、化学成分として、基本元素を含み、必要に応じて選択元素を含み、残部がFe及び不純物からなることが好ましい。
【0039】
本実施形態では、珪素鋼板が、基本元素(主要な合金元素)としてSiを含有すればよい。
【0040】
Si:0.8%以上7.0%以下
Si(シリコン)は、珪素鋼板の化学成分として、電気抵抗を高め、鉄損を下げるのに有効な元素である。Si含有量が7.0%を超えると、冷間圧延時に材料が割れ易くなり、圧延し難くなることがある。一方、Si含有量が0.8%未満では、電気抵抗が小さくなり、製品における鉄損が増加してしまうことがある。従って、Siを0.8%以上7.0%以下の範囲で含有させてもよい。Si含有量の下限は、2.0%であることが好ましく、2.5%であることがより好ましく、2.8%であることがさらに好ましい。Si含有量の上限は、5.0%であることが好ましく、3.5%であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態では、珪素鋼板が、不純物を含有してもよい。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、または製造環境等から混入するものを指す。
【0042】
また、本実施形態では、珪素鋼板が、上記した基本元素および不純物に加えて、選択元素を含有してもよい。例えば、上記した残部であるFeの一部に代えて、選択元素として、Mn、Cr、Cu、P、Sn、Sb、Ni、B、V、Nb、Mo、Ti、Bi、Al、C、N、S、Seを含有してもよい。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよい。よって、これらの選択元素の下限値を限定する必要がなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
【0043】
Mn:0以上1.00%以下
Mn(マンガン)は、Siと同様に、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、SまたはSeと結合してインヒビターとして機能する。従って、Mnを1.00%以下の範囲で含有させてもよい。Mn含有量の下限は、0.05%であることが好ましく、0.08%であることがより好ましく、0.09%であることがさらに好ましい。Mn含有量の上限は、0.50%であることが好ましく、0.20%であることがより好ましい。
【0044】
Cr:0以上0.30%以下
Cr(クロム)は、Siと同様に、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Crを0.30%以下の範囲で含有させてもよい。Cr含有量の下限は、0.02%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。Cr含有量の上限は、0.20%であることが好ましく、0.12%であることがより好ましい。
【0045】
Cu:0以上0.40%以下
Cu(銅)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Cuを0.40%以下の範囲で含有させてもよい。Cu含有量が0.40%を超えると、鉄損低減効果が飽和してしまうとともに、熱間圧延時に“カッパーヘゲ”なる表面疵の原因になることがある。Cu含有量の下限は、0.05%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましい。Cu含有量の上限は、0.30%であることが好ましく、0.20%であることがより好ましい。
【0046】
P:0以上0.50%以下
P(燐)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Pを0.50%以下の範囲で含有させてもよい。P含有量が0.50%を超えると、珪素鋼板の圧延性に問題が生じることがある。P含有量の下限は、0.005%であることが好ましく、0.01%であることがより好ましい。P含有量の上限は、0.20%であることが好ましく、0.15%であることがより好ましい。
【0047】
Sn:0以上0.30%以下
Sb:0以上0.30%以下
Sn(スズ)およびSb(アンチモン)は、二次再結晶を安定化させ、{110}<001>方位を発達させるのに有効な元素である。従って、Snを0.30%以下、またSbを0.30%以下の範囲で含有させてもよい。SnまたはSbの含有量が、それぞれ0.30%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
Sn含有量の下限は、0.02%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。Sn含有量の上限は、0.15%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましい。
Sb含有量の下限は、0.01%であることが好ましく、0.03%であることがより好ましい。Sb含有量の上限は、0.15%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましい。
【0048】
Ni:0以上1.00%以下
Ni(ニッケル)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Niは、熱延板の金属組織を制御して、磁気特性を高めるうえで有効な元素である。従って、Niを1.00%以下の範囲で含有させてもよい。Ni含有量が1.00%を超えると、二次再結晶が不安定になることがある。Ni含有量の下限は、0.01%であることが好ましく、0.02%であることがより好ましい。Ni含有量の上限は、0.20%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましい。
【0049】
B:0以上0.008%以下
B(ホウ素)は、BNとしてインヒビター効果を発揮するのに有効な元素である。従って、Bを0.008%以下の範囲で含有させてもよい。B含有量が0.008%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。B含有量の下限は、0.0005%であることが好ましく、0.001%であることがより好ましい。B含有量の上限は、0.005%であることが好ましく、0.003%であることがより好ましい。
【0050】
V:0以上0.15%以下
Nb:0以上0.2%以下
Ti:0以上0.015%以下
V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、及びTi(チタン)は、NやCと結合してインヒビターとして機能するのに有効な元素である。従って、Vを0.15%以下、Nbを0.2%以下、Tiを0.015%以下の範囲で含有させてもよい。これらの元素が最終製品(電磁鋼板)に残留して、V含有量が0.15%を超え、Nb含有量が0.2%を超え、またはTi含有量が0.015%を超えると、磁気特性を低下させるおそれがある。
V含有量の下限は、0.002%であることが好ましく、0.01%であることがより好ましい。V含有量の上限は、0.10%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。
Nb含有量の下限は、0.005%であることが好ましく、0.02%であることがより好ましい。Nb含有量の上限は、0.1%であることが好ましく、0.08%であることがより好ましい。
Ti含有量の下限は、0.002%であることが好ましく、0.004%であることがより好ましい。Ti含有量の上限は、0.010%であることが好ましく、0.008%であることがより好ましい。
【0051】
Mo:0以上0.10%以下
Mo(モリブデン)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Moを0.10%以下の範囲で含有させてもよい。Mo含有量が0.10%を超えると、鋼板の圧延性に問題が生じることがある。Mo含有量の下限は、0.005%であることが好ましく、0.01%であることがより好ましい。Mo含有量の上限は、0.08%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。
【0052】
Bi:0以上0.010%以下
Bi(ビスマス)は、硫化物等の析出物を安定化してインヒビターとしての機能を強化するのに有効な元素である。従って、Biを0.010%以下の範囲で含有させてもよい。Bi含有量が0.010%を超えると、磁気特性に悪影響が及ぼすことがある。Bi含有量の下限は、0.001%であることが好ましく、0.002%であることがより好ましい。Bi含有量の上限は、0.008%であることが好ましく、0.006%であることがより好ましい。
【0053】
Al:0以上0.005%以下
Al(アルミニウム)は、Nと結合してのインヒビター効果を発揮するのに有効な元素である。従って、仕上げ焼鈍前、例えばスラブの段階でAlを0.01~0.065%の範囲で含有させてもよい。しかしながらAlが最終製品(電磁鋼板)に不純物として残留して、Al含有量が0.005%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。従って、最終製品のAl含有量は0.005%以下であることが好ましい。最終製品のAl含有量の上限は、0.004%であることが好ましく、0.003%であることがより好ましい。なお、最終製品のAl含有量は、不純物であり、下限は特に制限されず、少ないほど好ましい。ただ、最終製品のAl含有量を0%にすることは工業的に容易ではないので、最終製品のAl含有量の下限を0.0005%としてもよい。なお、Al含有量は、酸可溶性Alの含有量を示す。
【0054】
C:0以上0.005%以下、
N:0以上0.005%以下、
C(炭素)は、一次再結晶集合組織を調整して磁気特性を高めるうえで有効な元素である。また、N(窒素)はAlやBなどと結合してインヒビター効果を発揮するうえで有効な元素である。従って、Cは脱炭焼鈍前、例えばスラブの段階で0.02~0.10%の範囲で含有させても良い。また、Nは仕上げ焼鈍前、例えば窒化焼鈍後の段階で0.01~0.05%の範囲で含有させてもよい。しかしながら、これらの元素が最終製品に不純物として残留して、CおよびNのそれぞれが0.005%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。従って、最終製品のCおよびNは、それぞれ0.005%以下であることが好ましい。最終製品のCおよびNは、それぞれ、0.004%以下であることがより好ましく、0.003%以下であることがさらに好ましい。また、最終製品のCおよびNの合計含有量は0.005%以下であることが好ましい。なお、最終製品のCおよびNは、不純物であり、それらの含有量は特に制限されず、少ないほど好ましい。ただ、最終製品のCおよびNの含有量を、それぞれ0%にすることは工業的に容易ではないので、最終製品のCおよびNの含有量は、それぞれ0.0005%以上としてもよい。
【0055】
S:0以上0.005%以下、
Se:0以上0.005%以下
S(硫黄)およびSe(セレン)は、Mnなどと結合してインヒビター効果を発揮するうえで有効な元素である。従って、SおよびSeを仕上げ焼鈍前、例えばスラブの段階でそれぞれ0.005~0.050%の範囲で含有させてもよい。しかしながら、これらの元素が最終製品に不純物として残留して、SおよびSeのそれぞれが0.005%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。従って、最終製品のSおよびSeは、それぞれ0.005%以下であることが好ましい。最終製品のSおよびSeは、それぞれ、0.004%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましい。また、最終製品のSおよびSeの合計含有量は0.005%以下であることが好ましい。なお、最終製品のSおよびSeは、不純物であり、それらの含有量は特に制限されず、少ないほど好ましい。ただ、最終製品のSおよびSeの含有量を、それぞれ0%にすることは工業的に容易ではないので、最終製品のSおよびSeの含有量は、それぞれ0.0005%以上としてもよい。
【0056】
本実施形態では、珪素鋼板が、選択元素として、質量%で、Mn:0.05%以上1.00%以下、Cr:0.02%以上0.30%以下、Cu:0.05%以上0.40%以下、P:0.005%以上0.50%以下、Sn:0.02%以上0.30%以下、Sb:0.01%以上0.30%以下、Ni:0.01%以上1.00%以下、B:0.0005%以上0.008%以下、V:0.002%以上0.15%以下、Nb:0.005%以上0.2%以下、Mo:0.005%以上0.10%以下、Ti:0.002%以上0.015%以下、及びBi:0.001%以上0.010%以下、からなる群から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0057】
上記した珪素鋼板の化学成分は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、鋼成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0060】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、珪素鋼板上に接して配された中間層を有してもよく、この中間層上に接して配された絶縁被膜を有してもよい。
【0061】
この中間層は、酸化珪素膜であり、酸化珪素を主成分として含み、その膜厚が2nm以上500nm以下である。この中間層は、珪素鋼板の表面に沿って連続して広がっている。中間層を珪素鋼板と絶縁被膜との間に形成することで、珪素鋼板と絶縁被膜との密着性が向上して、珪素鋼板に応力を付与することができる。本実施形態では、中間層が、フォルステライト被膜ではなく、酸化珪素を主体とする中間層(酸化珪素膜)であることが好ましい。
【0062】
中間層は、仕上げ焼鈍時にフォルステライト被膜の生成が抑制された又は仕上げ焼鈍後にフォルステライト被膜が除去された珪素鋼板を、所定の酸化度(PH2O/PH2)に調整された雰囲気ガス中で熱処理することにより形成される。本実施形態では、中間層が、外部酸化によって形成された外部酸化膜であることが好ましい。
【0063】
ここで、外部酸化とは、低酸化度雰囲気ガス中で生じる酸化のことであり、鋼板中の合金元素(Si)が鋼板表面まで拡散した後に、鋼板表面で膜状に酸化物を形成する形態の酸化を意味する。それに対して、内部酸化とは、比較的高い酸化度雰囲気ガス中で生じる酸化のことであり、鋼板中の合金元素が殆ど表面に拡散することなく、雰囲気の酸素が鋼板内部に拡散した後に、鋼板内部で島状に分散して酸化物を形成する形態の酸化を意味する。
【0064】
中間層は、シリカ(酸化珪素)を主成分として含む。中間層は、酸化珪素以外に、珪素鋼板に含まれる合金元素の酸化物を含む場合もある。すなわち、Fe、Mn、Cr、Cu、Sn、Sb、Ni、V、Nb、Mo、Ti、Bi、Alの何れかの酸化物、またはこれらの複合酸化物を含む場合がある。加えて、Fe等の金属粒を含む場合もある。また、効果を損なわない範囲で不純物を含んでもよい。
【0065】
中間層の平均厚さは、2nm以上500nm以下が好ましい。平均厚さが2nm未満または500nmを超えると、珪素鋼板と絶縁被膜との密着性が低下し、珪素鋼板に十分な応力を付与できなくなり、鉄損が増大してしまうので好ましくない。中間層の平均膜厚の下限は、5nmであることが好ましい。中間層の平均膜厚の上限は、300nmであることが好ましく、100nmであることがより好ましく、50nmであることがさらに好ましい。
【0066】
中間層の結晶構造は、特に制限されない。ただ、中間層は、母相が非晶質であることが好ましい。中間層の母相が非晶質であると、珪素鋼板と絶縁被膜との密着性を好ましく向上できる。
【0067】
また、中間層上に接して配される絶縁被膜は、リン酸系被膜またはホウ酸アルミニウム系被膜であることが好ましい。
【0068】
絶縁被膜がリン酸系被膜である場合、このリン酸系被膜は、リン珪素複合酸化物(リンおよび珪素を含む複合酸化物)を含み、その膜厚が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。このリン酸系被膜は、中間層の表面に沿って連続して広がっている。中間層上に接して配されるリン酸系被膜を形成することで、珪素鋼板に対して更なる張力を付与して鉄損を好ましく低減することができる。
【0069】
リン酸系被膜は、リン珪素複合酸化物以外に、珪素鋼板に含まれる合金元素の酸化物を含む場合もある。すなわち、Fe、Mn、Cr、Cu、Sn、Sb、Ni、V、Nb、Mo、Ti、Bi、Alの何れかの酸化物、またはこれらの複合酸化物を含む場合がある。加えて、Fe等の金属粒を含む場合もある。また、効果を損なわない範囲で不純物を含んでもよい。
【0070】
リン酸系被膜の平均厚さは、0.1μm以上10μm以下が好ましい。リン酸系被膜の平均厚さの上限は、5μmであることが好ましく、3μmであることがより好ましい。リン酸系被膜の平均厚さの下限は、0.5μmであることが好ましく、1μmであることがより好ましい。
【0071】
リン酸系被膜の結晶構造は、特に制限されない。ただし、リン酸系被膜は、母相が非晶質であることが好ましい。リン酸系被膜の母相が非晶質であると、珪素鋼板とリン酸系被膜との密着性を好ましく向上できる。
【0072】
また、絶縁被膜がホウ酸アルミニウム系被膜である場合、このホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミニウム・ホウ素酸化物を含み、その膜厚が0.5μm超8μm以下であることが好ましい。このホウ酸アルミニウム系被膜は、中間層の表面に沿って連続して広がっている。中間層上に接して配されるホウ酸アルミニウム系被膜を形成することで、珪素鋼板に対して更なる張力を付与して鉄損を好ましく低減することができる。例えば、ホウ酸アルミニウム系被膜は、リン酸系被膜と比べて、1.5~2倍の張力を珪素鋼板に付与することができる。
【0073】
ホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミニウム・ホウ素酸化物のほかに、結晶質である、Al18B4O33、Al4B2O9、酸化アルミニウム、または酸化ホウ素を含む場合もある。加えて、Fe等の金属粒や酸化物を含む場合もある。また、効果を損なわない範囲で不純物を含んでもよい。
【0074】
ホウ酸アルミニウム系被膜の平均厚さは、0.5μm超8μm以下が好ましい。ホウ酸アルミニウム系被膜の平均厚さの上限は、6μmが好ましく、4μmがさらに好ましい。ホウ酸アルミニウム系被膜の平均厚さの下限は、1μmが好ましく、2μmがさらに好ましい。
【0075】
ホウ酸アルミニウム系被膜の結晶構造は、特に制限されない。ただ、ホウ酸アルミニウム系被膜は、母相が非晶質であることが好ましい。ホウ酸アルミニウム系被膜の母相が非晶質であると、珪素鋼板とホウ酸アルミニウム系被膜との密着性を好ましく向上できる。
【0076】
上記した方向性電磁鋼板の被膜構造は、例えば、下記の方法によって観察すればよい。
【0077】
方向性電磁鋼板から試験片を切り出し、試験片の層構造を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察する。例えば、厚さが300nm以上の層はSEMで観察し、厚さが300nm未満の層はTEMで観察すればよい。
【0078】
具体的には、まず初めに、切断方向が板厚方向と平行となるように試験片を切り出し(詳細には、切断面が板厚方向と平行かつ圧延方向と垂直となるように試験片を切り出し)、この切断面の断面構造を、観察視野中に各層が入る倍率にてSEMで観察する。例えば、反射電子組成像(COMPO像)で観察すれば、断面構造が何層から構成されているかを類推できる。例えば、COMPO像において、珪素鋼板は淡色、中間層は濃色、絶縁被膜(ホウ酸アルミニウム系被膜またはリン酸系被膜)は中間色として判別できる。
【0079】
断面構造中の各層を特定するために、SEM-EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて、板厚方向に沿って線分析を行い、各層の化学成分の定量分析を行う。定量分析する元素は、Fe、P、Si、O、Mg、Alの6元素とする。使用する装置は特に限定されないが、本実施形態では、例えば、SEM(日立ハイテクノロジーズ社製のNB5000)、EDS(ブルカーエイエックスエス社製のXFlash(r)6│30)、EDS解析ソフトウエア(ブルカーエイエックスエス社製のESPRIT1.9)を用いればよい。
【0080】
上記したCOMPO像での観察結果およびSEM-EDSの定量分析結果から、板厚方向で最も深い位置に存在している層状の領域であり、且つ測定ノイズを除いてFe含有量が80原子%以上およびO含有量が30原子%未満となる領域であり、且つこの領域に対応する線分析の走査線上の線分(厚さ)が300nm以上であるならば、この領域を珪素鋼板であると判断し、この珪素鋼板を除く領域を、中間層、および絶縁被膜(ホウ酸アルミニウム系被膜またはリン酸系被膜)であると判断する。
【0081】
上記で特定した珪素鋼板を除く領域に関して、COMPO像での観察結果およびSEM-EDSの定量分析結果から、測定ノイズを除いて、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%以上、O含有量が30原子%以上となる領域であり、且つこの領域に対応する線分析の走査線上の線分(厚さ)が300nm以上であるならば、この領域をリン酸系被膜であると判断する。なお、リン酸系被膜を特定するための判断元素である上記3つの元素以外に、リン酸系被膜には、リン酸塩に由来するアルミニウム、マグネシウム、ニッケル、マンガンなどが含まれてもよい。また、コロイダルシリカに由来するシリコンなどが含まれていてもよい。なお、本実施形態では、リン酸系被膜が存在しない場合もある。
【0082】
上記で特定した珪素鋼板およびリン酸系被膜を除く領域に関して、COMPO像での観察結果およびSEM-EDSの定量分析結果から、測定ノイズを除いて、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%未満、Si含有量が20原子%未満、O含有量が20原子%以上、Al含有量が10原子%以上となる領域であり、且つこの領域に対応する線分析の走査線上の線分(厚さ)が300nm以上であるならば、この領域をホウ酸アルミニウム系被膜であると判断する。なお、ホウ酸アルミニウム系被膜を特定するための判断元素である上記5つの元素以外に、ホウ酸アルミニウム系被膜にはホウ素が含まれる。ただ、ホウ素は、炭素などの影響を受けてEDS定量分析で含有量を精度よく分析することが難しい場合がある。そのため、必要に応じて、ホウ酸アルミニウム系被膜にホウ素が含まれるか否かをEDS定性分析すればよい。なお、本実施形態では、ホウ酸アルミニウム系被膜が存在しない場合もある。
【0083】
上記のリン酸系被膜またはホウ酸アルミニウム系被膜である領域を判断する際には、各被膜中に含まれる析出物、介在物、および空孔などを判断の対象に入れず、母相として上記の定量分析結果を満足する領域をリン酸系被膜またはホウ酸アルミニウム系被膜であると判断する。例えば、線分析の走査線上に析出物、介在物、および空孔などが存在することがCOMPO像や線分析結果から確認されれば、この領域を対象に入れないで母相としての定量分析結果によって判断する。なお、析出物、介在物、および空孔は、COMPO像ではコントラストによって母相と区別でき、定量分析結果では構成元素の存在量によって母相と区別できる。なお、リン酸系被膜またはホウ酸アルミニウム系被膜を特定する際には、線分析の走査線上に析出物、介在物、および空孔が含まれない位置にて特定することが好ましい。
【0084】
上記で特定した珪素鋼板、および絶縁被膜(ホウ酸アルミニウム系被膜またはリン酸系被膜)を除く領域であり、且つこの領域に対応する線分析の走査線上の線分(厚さ)が300nm以上であるならば、この領域を中間層であると判断する。なお、本実施形態では、中間層が存在しない場合もある。
【0085】
中間層は、全体の平均として、Fe含有量が平均で80原子%未満、P含有量が平均で5原子%未満、Si含有量が平均で20原子%以上、O含有量が平均で30原子%以上を満足すればよい。また、中間層がフォルステライト被膜ではなく酸化珪素を主体とする酸化珪素膜であるならば、中間層のMg含有量が平均で20原子%未満を満足すればよい。なお、中間層の定量分析結果は、中間層に含まれる析出物、介在物、および空孔などの分析結果を含まない、母相としての定量分析結果である。なお、中間層を特定する際には、線分析の走査線上に析出物、介在物、および空孔が含まれない位置にて特定することが好ましい。
【0086】
上記のCOMPO像観察およびSEM-EDS定量分析による各層の特定および厚さの測定を、観察視野を変えて5カ所以上で実施する。計5カ所以上で求めた各層の厚さについて、最大値および最小値を除いた値から平均値を求めて、この平均値を各層の平均厚さとする。ただ、中間層の厚さは、組織形態を観察しながら外部酸化領域であって内部酸化領域ではないと判断できる箇所で厚さを測定して平均値を求める。
【0087】
なお、上記した5カ所以上の観察視野の少なくとも1つに、線分析の走査線上の線分(厚さ)が300nm未満となる層が存在するならば、該当する層をTEMにて詳細に観察し、TEMによって該当する層の特定および厚さの測定を行う。
【0088】
TEMを用いて詳細に観察すべき層を含む試験片を、FIB(Focused Ion Beam)加工によって、切断方向が板厚方向と平行となるように切り出し(詳細には、切断面が板厚方向と平行かつ圧延方向と垂直となるように試験片を切り出し)、この切断面の断面構造を、観察視野中に該当する層が入る倍率にてSTEM(Scanning-TEM)で観察(明視野像)する。観察視野中に各層が入らない場合には、連続した複数視野にて断面構造を観察する。
【0089】
断面構造中の各層を特定するために、TEM-EDSを用いて、板厚方向に沿って線分析を行い、各層の化学成分の定量分析を行う。定量分析する元素は、Fe、P、Si、O、Mg、Alの6元素とする。使用する装置は特に限定されないが、本実施形態では、例えば、TEM(日本電子社製のJEM-2100F)、EDS(日本電子社製のJED-2300T)、EDS解析ソフトウエア(日本電子社製のAnalysisStation)を用いればよい。
【0090】
上記したTEMでの明視野像観察結果およびTEM-EDSの定量分析結果から、各層を特定して、各層の厚さの測定を行う。TEMを用いた各層の特定方法および各層の厚さの測定方法は、上記したSEMを用いた方法に準じて行えばよい。
【0091】
なお、TEMで特定した各層の厚さが5nm以下であるときは、空間分解能の観点から球面収差補正機能を有するTEMを用いることが好ましい。また、各層の厚さが5nm以下であるときは、板厚方向に沿って例えば2nm以下の間隔で点分析を行い、各層の線分(厚さ)を測定し、この線分を各層の厚さとして採用してもよい。例えば、球面収差補正機能を有するTEMを用いれば、0.2nm程度の空間分解能でEDS分析が可能である。
【0092】
なお、上記方法で特定したリン酸系被膜の化学成分の定量分析結果が、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%以上、O含有量が30原子%以上ならば、リン酸系被膜が、リン珪素複合酸化物を主体として含むと判断する。
【0093】
同様に、上記方法で特定したホウ酸アルミニウム系被膜の化学成分の定量分析結果が、Fe含有量が80原子%未満、P含有量が5原子%未満、Si含有量が20原子%未満、O含有量が20原子%以上、Al含有量が10原子%以上であり、且つ定性分析でホウ素が検出されれば、ホウ酸アルミニウム系被膜が、アルミニウム・ホウ素酸化物を主体として含むと判断する。
【0094】
同様に、上記方法で特定した中間層の化学成分の定量分析結果が、Fe含有量が平均で80原子%未満、P含有量が平均で5原子%未満、Si含有量が平均で20原子%以上、O含有量が平均で30原子%以上であり、且つMg含有量が平均で20原子%未満ならば、中間層が、酸化珪素を主体として含むと判断する。
【0095】
ホウ酸アルミニウム系被膜に、酸化アルミニウム、Al18B4O33、Al4B2O9、酸化ホウ素などが含まれるか否かは、以下の方法によって特定する。方向性電磁鋼板から試料を切り出し、板面と平行な面が測定面となるように、必要に応じて研磨してホウ酸アルミニウム系被膜を露出させ、X線回折測定を行う。例えば、CoKα線(Kα1)を入射X線として使用してX線回折を行えばよい。X線回折パターンから、酸化アルミニウム、Al18B4O33、Al4B2O9、酸化ホウ素などが存在するか否かを同定する。
【0096】
上記の同定は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)を用いて行えばよい。酸化アルミニウムの同定は、PDF:No.00-047-1770、または00-056-1186に基づいて行えばよい。Al18B4O33の同定は、PDF:No.00-029-0009、00-053-1233、または00-032-0003に基づいて行えばよい。Al4B2O9の同定は、PDF:No.00-029-0010に基づいて行えばよい。酸化ホウ素の同定は、PDF:No.00-044-1085、00-024-0160、または00-006-0634に基づいて行えばよい。
【0097】
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法を説明する。
【0098】
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法は、下記の方法に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造するための一つの例である。
【0099】
例えば、方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造工程、加熱工程、熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、熱延板酸洗工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、窒化工程、焼鈍分離剤塗布工程、仕上げ焼鈍工程、表面処理工程、中間層形成工程、絶縁被膜形成工程、磁区制御工程など含む。
【0100】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、母材である珪素鋼板の表面性状に特徴を有するので、上記した方向性電磁鋼板の製造工程のうち、珪素鋼板の表面性状に影響を与える冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上げ焼鈍工程、および表面処理工程の4つの工程を特に制御することが好ましい。以下、好ましい製造方法として、鋳造工程から順に説明する。
【0101】
鋳造工程
鋳造工程では、上記化学成分の鋼を転炉又は電気炉等で溶製し、その溶鋼を用いてスラブを製造すればよい。連続鋳造法によりスラブを製造してもよく、溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。また、他の方法によりスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されないが、たとえば、150~350mmである。スラブの厚さは好ましくは、220~280mmである。スラブとして、厚さが10~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。
【0102】
加熱工程
加熱工程では、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して加熱すればよい。スラブ加熱の1つの方法として、スラブを1280℃以下に加熱すればよい。スラブの加熱温度を1280℃以下とすることにより、たとえば、1280℃よりも高い温度で加熱した場合の諸問題(専用の加熱炉が必要なこと、及び溶融スケール量の多さ等)を回避することができる。スラブの加熱温度の下限値は特に限定されない。加熱温度が低すぎる場合、熱間圧延が困難になって、生産性が低下することがある。したがって、加熱温度は、1280℃以下の範囲で生産性を考慮して設定すればよい。スラブの加熱温度の好ましい下限は1100℃である。スラブの加熱温度の好ましい上限は1250℃である。
【0103】
また、スラブ加熱の別の方法として、スラブを1320℃以上の高い温度に加熱してもよい。1320℃以上の高温で加熱することにより、AlN、Mn(S,Se)を溶解し、その後の工程で微細析出させることにより、二次再結晶を安定的に発現させることができる。なお、スラブの加熱工程そのものを省略して、鋳造後、スラブの温度が下がる前に熱間圧延を開始してもよい。
【0104】
熱間圧延工程
熱間圧延工程では、熱間圧延機を用いてスラブを熱間圧延すればよい。熱間圧延機はたとえば、粗圧延機と、粗圧延機の下流に配置された仕上げ圧延機とを備える。加熱された鋼材を粗圧延機により圧延した後、さらに、仕上げ圧延機により圧延して、熱延鋼板を製造する。熱間圧延工程における仕上げ温度(仕上げ圧延機で最後に鋼板を圧下する仕上げ圧延スタンドの出側での鋼板温度)は、700~1150℃であればよい。
【0105】
熱延板焼鈍工程
熱延板焼鈍工程では、熱延鋼板を焼鈍(熱延板焼鈍)すればよい。熱延板焼鈍では、熱間圧延時に生じた不均一組織をできるだけ均一化する。焼鈍条件は、熱間圧延時に生じた不均一組織を均一化できる条件であればよく、特に限定されない。例えば、熱延鋼板を、均熱温度が750~1200℃、均熱時間が30~600秒の条件で焼鈍する。なお、熱延板焼鈍は必ずしも行う必要がなく、熱延板焼鈍工程の実施の有無は、最終的に製造される方向性電磁鋼板に要求される特性及び製造コストに応じて決定すればよい。更に、上記の組織の均一化とともに、AlNインヒビターの微細析出制御、および第二相と固溶炭素制御を行うために、二段焼鈍や焼鈍後の急速冷却などを、公知の方法で行っても良い。
【0106】
熱延板酸洗工程
熱延板酸洗工程では、熱延鋼板の表面に生成したスケールを除去するために酸洗すればよい。熱延板酸洗時の酸洗条件は特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
【0107】
冷間圧延工程
冷間圧延工程では、熱延鋼板に対し、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行えばよい。冷間圧延での最終の冷間圧延率(中間焼鈍を行わない累積冷間圧延率、または中間焼鈍を行った後の累積冷間圧延率)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、最終の冷間圧延の冷間圧延率は95%以下であることが好ましい。ここで、最終の冷間圧延率(%)は次のとおり定義される。
冷間圧延率(%)=(1-最終の冷間圧延後の鋼板の板厚/最終の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
【0108】
本実施形態では、冷間圧延の最終パス(最終スタンド)の圧延ロールの表面性状を、算術平均のRaで0.40μm以下、更に好ましくはフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値ave-AMPC100を0.050μm以下とし、且つ最終パス(最終スタンド)の圧延率を10%以上とすることが好ましい。最終パスの圧延ロールが平滑であるほど、また最終パスの圧延率が大きいほど、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。冷間圧延にて上記条件を満足し、且つ後工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100などを好ましく制御できる。
【0109】
脱炭焼鈍工程
脱炭焼鈍工程では、脱炭雰囲気中で冷延鋼板を焼鈍すればよい。脱炭焼鈍によって鋼板中の炭素が除去されるとともに、一次再結晶が生じる。脱炭焼鈍では、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)の酸化度(PH2O/PH2)を0.01~0.15とし、均熱温度を750~900℃とし、均熱時間を10~600秒とすればよい。
【0110】
本実施形態では、上記した脱炭焼鈍の各条件を制御して、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を1g/m2以下に制御する。例えば、酸化度が上記範囲内で高い場合には、均熱温度を上記範囲内で低くするか、均熱時間を上記範囲内で短くして、鋼板表面の酸素量を1g/m2以下にすればよい。また、例えば、均熱温度が上記範囲内で高い場合には、酸化度を上記範囲内で低くするか、均熱時間を上記範囲内で短くして、鋼板表面の酸素量を1g/m2以下にすればよい。なお、脱炭焼鈍後に硫酸や塩酸などを用いて酸洗を行っても、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を1g/m2以下に制御することは容易ではない。脱炭焼鈍板の表面の酸素量の制御は、脱炭焼鈍の上記した各条件を制御して行うことが好ましい。
【0111】
脱炭焼鈍板の表面の酸素量は、0.8g/m2以下であることが好ましい。この酸素量が低いほど、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。脱炭焼鈍工程にて上記条件を満足し、且つ前工程および後工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100などを好ましく制御できる。
【0112】
窒化工程
窒化工程では、アンモニアを含有する雰囲気中で脱炭焼鈍板を焼鈍して窒化すればよい。この窒化処理は、脱炭焼鈍後に鋼板を室温まで降温することなく、脱炭焼鈍の直後に続けて行ってもよい。窒化処理を行うことで、AlNや(Al,Si)N等のインヒビターが鋼中で微細に生成するので、二次再結晶を安定的に発現できる。
【0113】
窒化処理の条件は特に限定されないが、窒化前後で鋼中の窒素含有量が0.003%以上増加するように窒化することが好ましい。窒化前後での窒素増加量が、0.005%以上であることが好ましく、0.007%以上であることがさらに好ましい。窒化前後での窒素増加量が、0.030%超になれば効果が飽和するので、窒素増加量が0.030%以下となるように窒化すればよい。
【0114】
焼鈍分離剤塗布工程
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍板の表面に、Al2O3とMgOとを含有する焼鈍分離剤を塗布して、塗布した焼鈍分離剤を乾燥させればよい。焼鈍分離剤は、水スラリー塗布又は静電塗布等で鋼板表面に塗布すればよい。
【0115】
焼鈍分離剤が、MgOを主に含み、Al2O3の含有量が少ない場合、仕上げ焼鈍中に、鋼板にフォルステライト被膜が形成される。一方、焼鈍分離剤が、Al2O3を主に含み、MgOの含有量が少ない場合、鋼板にムライト(3Al2O3・2SiO2)が形成される。このフォルステライトやムライトは、磁壁移動の障害となるので、方向性電磁鋼板の鉄損特性を低下させる。
【0116】
Al2O3とMgOとを好ましい比率で含む焼鈍分離剤を用いれば、仕上げ焼鈍中に、フォルステライトやムライトが形成されず、平滑な表面を有する鋼板を得ることができる。例えば、焼鈍分離剤は、MgOとAl2O3との質量比率であるMgO/(MgO+Al2O3)を5~50%とし、水和水分を1.5質量%以下とすればよい。
【0117】
仕上げ焼鈍工程
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された冷延鋼板を仕上げ焼鈍すればよい。仕上げ焼鈍を施すことで、二次再結晶が生じて、鋼板の結晶方位が{110}<001>方位に集積する。仕上げ焼鈍の昇温過程では、二次再結晶を安定的に行わせるために焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)が、水素を含有する場合には、酸化度(PH2O/PH2)を0.0001~0.2とし、水素を含有しない不活性ガスからなる場合には、露点を0℃以下とすればよい。
【0118】
本実施形態では、仕上げ焼鈍の高温均熱条件として、水素を50%体積以上含有する雰囲気中で、均熱温度を1100~1250℃とする。また、均熱温度が1100~1150℃の場合は、均熱時間を30時間以上とする。また、均熱温度が1150超~1250℃の場合は、均熱時間を10時間以上とする。均熱温度が高いほど、また均熱時間が長いほど、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。しかしながら均熱温度を1250℃超とすると設備費が高くなってしまう。仕上げ焼鈍工程にて上記条件を満足し、且つ前工程および後工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100などを好ましく制御できる。
【0119】
なお、仕上げ焼鈍では、冷延鋼板に鋼組成として含まれるAl、N、S、Seなどの元素が排出されて、鋼板が純化される。
【0120】
表面処理工程
表面処理工程では、仕上げ焼鈍後の鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)を酸洗し、その後に水洗すればよい。酸洗処理および水洗処理によって、鋼と反応しなかった余剰の焼鈍分離剤を鋼板の表面から除去するとともに、鋼板の表面性状を好ましく制御できる。なお、表面処理工程後の鋼板が、方向性電磁鋼板の母材である珪素鋼板となる。
【0121】
本実施形態では、表面処理の酸洗条件として、硫酸、塩酸、燐酸、硝酸、塩素酸、酸化クロム水溶液、クロム硫酸、過マンガン酸、ペルオキソ硫酸及びペルオキソリン酸の1種または2種以上を合計で20質量%未満含有する溶液を用いることが好ましい。更に、10質量%以下とすることが好ましい。この溶液を用いて、高温かつ短時間の条件で酸洗を行う。具体的には、溶液の液温を50~80℃とし、且つ浸漬時間を1~30秒として酸洗を行う。このような条件で酸洗することで、鋼板表面の余剰な焼鈍分離剤を効率的に除去するとともに、鋼板の表面性状を好ましく制御できる。上記範囲内で、酸濃度が低いほど、また液温が低いほど、また浸漬時間が短いほど、鋼板表面に形成されるエッチピットを抑制して、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。表面処理工程にて上記条件を満足し、且つ前工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100などを好ましく制御できる。なお、表面処理の水洗条件は特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
【0122】
本実施形態では、上記のように製造した珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造すればよい。具体的には、板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値が0.0001~0.050μmである珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造すればよい。好ましくは、上記の珪素鋼板を母材として、珪素鋼板の板面上に中間層および絶縁被膜を形成して方向性電磁鋼板を製造すればよい。
【0123】
中間層形成工程
中間層形成工程では、上記の珪素鋼板を、水素を含有し且つ酸化度(PH2O/PH2)が0.00008~0.012に調整された雰囲気ガス中で、600℃以上1150℃以下の温度範囲で、10秒以上100秒以下の均熱を行えばよい。この熱処理によって珪素鋼板の表面に外部酸化膜として中間層が形成される。
【0124】
絶縁被膜形成工程
絶縁被膜形成工程では、中間層が形成された珪素鋼板に、絶縁被膜(リン酸系被膜またはホウ酸アルミニウム系被膜)を形成すればよい。
【0125】
リン酸系被膜を形成する場合、コロイダルシリカの混合物と、金属リン酸塩のようなリン酸塩と、水とを含むリン酸系被膜形成用組成物を塗布して焼き付ける。リン酸系被膜形成用組成物は、無水換算で、25~75質量%のリン酸塩と、75~25質量%のコロイダルシリカとを含めばよい。リン酸塩は、リン酸のアルミニウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、マンガン塩などであればよい。リン酸系被膜は、リン酸系被膜形成用組成物を350~600℃で焼付け、その後、800~1000℃の温度で熱処理することで形成される。熱処理時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
【0126】
ホウ酸アルミニウム系被膜を形成する場合、アルミナゾルとホウ酸とを含むホウ酸アルミニウム系被膜形成用組成物を塗布して焼き付ける。ホウ酸アルミニウム系被膜形成用組成物は、アルミナゾルとホウ酸との組成比率が、アルミニウムとホウ素との原子比率(Al/B)として1.25~1.81であればよい。ホウ酸アルミニウム系被膜は、均熱温度を750~1350℃とし、均熱時間を10~100秒として熱処理することで形成される。熱処理時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
【0127】
磁区制御工程
磁区制御工程では、珪素鋼板の磁区を細分化するための処理を行えばよい。珪素鋼板の圧延方向に交差する方向に、非破壊的な応力歪を付与するか、または物理的な溝を形成することによって、珪素鋼板の磁区を細分化できる。例えば、応力歪は、レーザビーム照射や電子線照射などによって付与すればよい。溝は、歯車などの機械的方法、エッチングなどの化学的方法、またはレーザ照射などの熱的方法によって付与すればよい。
【0128】
珪素鋼板に非破壊的な応力歪を付与して磁区細分化する場合、磁区制御は、絶縁被膜形成工程後に行うことが好ましい。一方、珪素鋼板に物理的な溝を形成して磁区細分化する場合、磁区制御は、冷間圧延工程と脱炭焼鈍工程との間、脱炭焼鈍工程(窒化工程)と焼鈍分離剤塗布工程との間、中間層形成工程と絶縁被膜形成工程との間、または絶縁被膜形成工程後に行うことが好ましい。
【0129】
上述のように、本実施形態では、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上げ焼鈍工程、および表面処理工程の4つの工程の各条件を制御することで、珪素鋼板の表面性状を制御することが可能となる。これら4つの工程の各条件は、いずれも珪素鋼板の表面性状を制御するための制御条件であるので、どれか1つの条件だけを満足させればよいわけではない。これらの条件を同時に且つ不可分に制御しなければ、珪素鋼板のave-AMPC100を満足させることができない。
【0130】
[第2実施形態]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記した珪素鋼板の板幅方向(C方向)の表面性状を最適に制御することに加えて、珪素鋼板の圧延方向(L方向)の表面性状も最適に制御する。
【0131】
例えば、変圧器の内部では、磁化方向と方向性電磁鋼板の磁化容易方向とを一致させることで鉄損を低減できる。しかし、例えば3相積変圧器では、T型接合部で磁化方向が直交するため、1方向だけに磁気特性が優れる方向性電磁鋼板を用いても、期待通りに鉄損を低減できない場合がある。そのため、特にT型接合部では、珪素鋼板の磁化容易方向である圧延方向に加えて、珪素鋼板の板幅方向の磁気特性を向上させる必要がある。
【0132】
そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、珪素鋼板の板幅方向(C方向)に加えて、珪素鋼板の圧延方向(L方向)でも、20~100μmの波長範囲にて表面性状を制御する。
【0133】
具体的には、珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPC100とし、また珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPL100としたとき、上記max-AMPC100を上記max-AMPL100で割った値であるmax-DIV100を1.5~6.0に制御する。
【0134】
なお、本実施形態では、第1実施形態と同様に、珪素鋼板の板幅方向の表面性状であるave-AMPC100を制御することが前提である。その上で、圧延方向の表面性状も制御する。そのため、板幅方向のmax-AMPC100に対して、圧延方向のmax-AMPL100の値を低減するに伴って、max-DIV100の値が大きくなっていく。max-DIV100が1.5以上となるとき、板幅方向に加えて圧延方向でも表面性状が十分に制御されていると判断できる。max-DIV100は、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがさらに好ましい。
【0135】
一方、max-DIV100の上限は特に制限されない。ただ、珪素鋼板の板幅方向の表面性状を制御した上で、max-DIV100が6.0超となるように、圧延方向の表面性状を制御することは工業的に容易ではない。そのため、max-DIV100が6.0以下であってもよい。
【0136】
また、珪素鋼板の板幅方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPC50とし、また珪素鋼板の圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~50μmである範囲の振幅の最大値をmax-AMPL50としたとき、上記max-AMPC50を上記max-AMPL50で割った値であるmax-DIV50を1.5~5.0に制御する。
【0137】
板幅方向に対して圧延方向の表面性状を好ましく制御するためには、max-DIV50が、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがさらに好ましい。一方、max-DIV50の上限は特に制限されない。ただ、珪素鋼板の板幅方向の表面性状を制御した上で、max-DIV50が5.0超となるように、圧延方向の表面性状を制御することは工業的に容易ではない。そのため、max-DIV50が5.0以下であってもよい。
【0138】
図3に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に関して、珪素鋼板(母材鋼板)の板幅方向および圧延方向に平行な測定断面曲線をフーリエ解析し、波長に対する振幅を作図したグラフを示す。一般的に、圧延鋼板では、板幅方向の表面性状が、圧延方向よりも制御しにくい。第1実施形態では、珪素鋼板の板幅方向の表面性状を制御したが、本実施形態では、板幅方向に加えて珪素鋼板の圧延方向の表面性状も制御する。すなわち、
図3に示すように、波長が20~100μmの範囲に関して、板幅方向の振幅を最適化した上で、圧延方向の振幅を低減する。
【0139】
ave-AMPC100、max-AMPC100、max-AMPL100、ave-AMPC50、max-AMPC50、およびmax-AMPL50、は、例えば、第1実施形態の測定方法と同様に、下記の方法によって測定すればよい。
【0140】
珪素鋼板上に被膜が存在しない場合には、直接に珪素鋼板の表面性状を評価すればよく、珪素鋼板上に被膜が存在する場合には、被膜を除去してから珪素鋼板の表面性状を評価すればよい。例えば、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:20質量%+H2O:80質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で20分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、珪素鋼板上の被膜(中間層および絶縁被膜)を除去できる。なお、珪素鋼板上の被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
【0141】
珪素鋼板の表面性状は、接触式の表面粗さ測定器では触針先端半径が一般的にミクロン(μm)程度であり微小な表面形状を検知できない場合があるので、非接触式の表面粗さ測定器を用いることが好ましい。例えば、レーザ式表面粗さ測定器(キーエンス社製のVK-9700)を用いればよい。
【0142】
まず、非接触式の表面粗さ測定器を用いて、珪素鋼板の板幅方向および圧延方向に沿う測定断面曲線をそれぞれ求める。これらの測定断面曲線を求める際には、一回の測定長を500μm以上とし、総測定長さを5mm以上とする。測定方向(珪素鋼板の板幅方向)の空間分解能を0.2μm以下とする。これらの測定断面曲線に対して、低域または高域などのフィルタを適用することなく、すなわち、測定断面曲線から特定波長成分をカットオフすることなく、測定断面曲線をフーリエ解析する。
【0143】
測定断面曲線をフーリエ解析して得られた波長成分のうちで、波長が20~100μmである範囲の振幅に関して、その平均値および最大値を求める。板幅方向の振幅の平均値をave-AMPC100とし、板幅方向の振幅の最大値をmax-AMPC100とし、圧延方向の振幅の最大値をmax-AMPL100とする。同様に、測定断面曲線をフーリエ解析して得られた波長成分のうちで、波長が20~50μmである範囲の振幅に関して、その平均値および最大値を求める。板幅方向の振幅の平均値をave-AMPC50とし、板幅方向の振幅の最大値をmax-AMPC50とし、圧延方向の振幅の最大値をmax-AMPL50とする。なお、上記の測定および解析は、測定箇所を変えた5カ所以上で行って、その平均値を求めればよい。
【0144】
また、max-DIV100は、上記で求めたmax-AMPC100をmax-AMPL100で割ることによって求められる。同様に、max-DIV50は、上記で求めたmax-AMPC50をmax-AMPL50で割ることによって求められる。
【0145】
本実施形態では、ave-AMPC100を制御した上で、max-DIV100を制御して、鉄損特性を改善する。また、必要に応じて、ave-AMPC50を制御した上で、max-DIV50を制御して、鉄損特性を好ましく改善する。これらのave-AMPC100やmax-DIV100などを制御する方法は後述する。
【0146】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記した表面性状以外、その他の構成は第1実施形態と同様に特に制限されないので、ここでの説明を割愛する。
【0147】
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法を説明する。
【0148】
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法は、下記の方法に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造するための一つの例である。
【0149】
例えば、方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造工程、加熱工程、熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、熱延板酸洗工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、窒化工程、焼鈍分離剤塗布工程、仕上げ焼鈍工程、表面処理工程、中間層形成工程、絶縁被膜形成工程、磁区制御工程などを含む。
ただし、鋳造工程、加熱工程、熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、熱延板酸洗工程、窒化工程、焼鈍分離剤塗布工程、仕上げ焼鈍工程、中間層形成工程、絶縁被膜形成工程、磁区制御工程は第1実施形態と共通するため、ここでの説明を割愛する。
【0150】
冷間圧延工程
本実施形態に係る冷間圧延工程では、第1実施形態と同様に、冷間圧延での最終の冷間圧延率(中間焼鈍を行わない累積冷間圧延率、または中間焼鈍を行った後の累積冷間圧延率)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、最終の冷間圧延の冷間圧延率は95%以下であることが好ましい。
【0151】
本実施形態では、冷間圧延の最終パス(最終スタンド)の圧延ロールの表面性状を、算術平均のRaで0.40μm以下、更に好ましくはフーリエ解析して得られる波長成分のうちで波長が20~100μmである範囲の振幅の平均値であるave-AMPC100を0.050μm以下とし、且つ冷間圧延の最終パス(最終スタンド)の圧延率を15%以上とすることが好ましい。最終パスの圧延ロールが平滑であるほど、また最終パスの圧延率が大きいほど、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。冷間圧延にて上記条件を満足し、且つ後工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100やmax-DIV100などを好ましく制御できる。
【0152】
脱炭焼鈍工程
本実施形態に係る脱炭焼鈍工程の酸化度、均熱温度、及び均熱時間の条件については第1実施形態と同じ条件を採用できる。
【0153】
また、本実施形態では、上記した脱炭焼鈍の各条件を制御して、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を0.95g/m2以下に制御する。例えば、酸化度が上記範囲内で高い場合には、均熱温度を上記範囲内で低くするか、均熱時間を上記範囲内で短くして、鋼板表面の酸素量を0.95g/m2以下にすればよい。また、例えば、均熱温度が上記範囲内で高い場合には、酸化度を上記範囲内で低くするか、均熱時間を上記範囲内で短くして、鋼板表面の酸素量を0.95g/m2以下にすればよい。なお、脱炭焼鈍後に硫酸や塩酸などを用いて酸洗を行っても、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を0.95g/m2以下に制御することは容易ではない。脱炭焼鈍板の表面の酸素量の制御は、脱炭焼鈍の上記した各条件を制御して行うことが好ましい。
【0154】
脱炭焼鈍板の表面の酸素量は、0.75g/m2以下であることが好ましい。酸素量が低いほど、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。脱炭焼鈍工程にて上記条件を満足し、且つ前工程および後工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100やmax-DIV100などを好ましく制御できる。
【0155】
表面処理工程
本実施形態では、表面処理の酸洗条件として、硫酸、塩酸、燐酸、硝酸、塩素酸、酸化クロム水溶液、クロム硫酸、過マンガン酸、ペルオキソ硫酸及びペルオキソリン酸の1種または2種以上を合計で0~10質量%未満含有する溶液を用いることが好ましい。この溶液を用いて、高温かつ短時間の条件で酸洗を行う。具体的には、溶液の液温を50~80℃とし、且つ浸漬時間を1~30秒として酸洗を行う。このような条件で酸洗することで、鋼板表面の余剰な焼鈍分離剤を効率的に除去するとともに、鋼板の表面性状を好ましく制御できる。上記範囲内で、酸濃度が低いほど、また液温が低いほど、また浸漬時間が短いほど、鋼板表面に形成されるエッチピットを抑制して、最終的に珪素鋼板の表面を平滑に制御しやすい。表面処理工程にて上記条件を満足し、且つ前工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100やmax-DIV100などを好ましく制御できる。なお、表面処理の水洗条件は特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
【0156】
また、上記の酸洗処理および水洗処理に加えて、ブラシロールを用いて鋼板の表面性状を制御してもよい。例えば、ブラッシングする際には、砥粒番手が100番~500番であるSiCを砥材として用い、ブラシ圧下量を1.0mm~5.0mmとし、ブラシ回転数を500~1500rpmとする。特に、珪素鋼板の板幅方向の表面性状を制御したいときには、回転軸が圧延方向となるようにブラッシングすればよい。一方、珪素鋼板の圧延方向の表面性状を制御したいときには、回転軸が板幅方向となるようにブラッシングすればよい。板幅方向および圧延方向の表面性状を同時に制御するために、回転軸が板幅方向および圧延方向の両方向となるようにブラッシングしてもよい。回転軸が板幅方向(圧延直交方向)となるようにブラッシングすることにより、珪素鋼板のmax-DIV100を好ましく制御できる。
【0157】
表面処理工程にて上記条件を満足し、且つ前工程での制御条件を満足することによって、珪素鋼板のave-AMPC100やmax-DIV100などを好ましく制御できる。なお、表面処理の水洗条件は特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
【0158】
本実施形態では、上記のように製造した珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造すればよい。具体的には、ave-AMPC100が0.0001~0.050μmであり、且つmax-DIV100が1.5~6.0である珪素鋼板を母材として方向性電磁鋼板を製造すればよい。好ましくは、上記の珪素鋼板を母材として、珪素鋼板の板面上に中間層および絶縁被膜を形成して方向性電磁鋼板を製造すればよい。
【0159】
本実施形態では、上述の工程の各条件を制御することで、珪素鋼板の表面性状を制御することが可能となる。これらの工程の各条件は、いずれも珪素鋼板の表面性状を制御するための制御条件であるので、どれか1つの条件だけを満足させればよいわけではない。これらの条件を同時に且つ不可分に制御しなければ、珪素鋼板のave-AMPC100やmax-DIV100などを同時に満足させることができない。
【実施例1】
【0160】
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0161】
鋼成分が調整された溶鋼を鋳造してスラブを製造した。このスラブを1150℃に加熱し、板厚2.6mmまで熱間圧延し、1120℃+900℃の二段階で熱延板焼鈍し、熱延板焼鈍後に急冷し、酸洗し、板厚0.23mmまで冷間圧延し、脱炭焼鈍し、窒素増加量が0.020%となるように窒化焼鈍し、Al2O3とMgOとを含む焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行い、その後に酸洗および水洗を行う表面処理を施した。
【0162】
製造条件として、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上げ焼鈍工程、および表面処理工程の詳細条件を表1~表3に示す。冷間圧延工程では、冷間圧延の最終パス(最終スタンド)に関して、圧延率およびロール粗度Raを変更した。脱炭焼鈍工程では、雰囲気の酸化度(PH2O/PH2)と均熱温度と均熱時間とを変更して、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を制御した。なお、試験No.20では、雰囲気の酸化度が0.15だったが、均熱温度が880℃であり、均熱時間が550秒だったので、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を1g/m2以下に制御できなかった。試験No.17では、脱炭焼鈍工程の直後に硫酸を用いて酸洗を行ったが、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を1g/m2以下に制御できなかった。
【0163】
また、仕上げ焼鈍工程では、水素を50体積%以上含有する雰囲気とし、均熱温度に応じて均熱時間を変更した。表面処理工程では、酸洗処理として、酸濃度と液温と浸漬時間とを変更した。なお、試験No.23では、酸洗処理を行わずに水洗処理のみを行った。
【0164】
製造結果として、珪素鋼板の化学成分、および珪素鋼板の表面性状を表4~表9に示す。なお、珪素鋼板の化学成分および表面性状は、上記の方法に基づいて求めた。
【0165】
表中で、珪素鋼板の化学成分の「-」は、合金元素を意図的に添加していないか、または含有量が測定検出下限以下であることを示す。表中で、下線を付した値は、本発明の範囲外であることを示す。なお、いずれの珪素鋼板も、フォルステライト被膜を有さず、{110}<001>方位に発達した集合組織を有していた。
【0166】
製造した珪素鋼板を母材として、この珪素鋼板の板面に、中間層を形成し、絶縁被膜を形成し、また磁区制御を行って方向性電磁鋼板を製造し、鉄損特性を評価した。なお、中間層は、酸化度(PH2O/PH2)が0.0012の雰囲気中で、850℃-30秒の熱処理を行って形成した。これらの中間層は、酸化珪素を主に含み、平均厚さが25nmであった。
【0167】
また、試験No.1~10および試験No.21~30では、絶縁被膜としてリン酸系被膜を形成した。リン酸系被膜は、コロイダルシリカの混合物と、アルミニウム塩またはマグネシウム塩のリン酸塩と、水とを含むリン酸系被膜形成用組成物を塗布して、通常条件の熱処理を行って形成した。これらのリン酸系被膜は、リン珪素複合酸化物を主に含み、平均厚さが2μmであった。
【0168】
また、試験No.11~20および試験No.31~42では、絶縁被膜としてホウ酸アルミニウム系被膜を形成した。ホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミナゾルとホウ酸とを含むホウ酸アルミニウム系被膜形成用組成物を塗布して、通常条件の熱処理を行って形成した。これらのホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミニウム・ホウ素酸化物を主に含み、平均厚さが2μmであった。
【0169】
また、いずれの方向性電磁鋼板も、絶縁被膜の形成後に、レーザを照射して非破壊的な応力歪を付与して磁区を細分化した。
【0170】
鉄損は、Single Sheet Tester(SST)によって評価した。製造した方向性電磁鋼板から、試験片の長辺が圧延方向となるように幅60mm×長さ300mmの試料を採取し、W17/50(鋼板を50Hzで磁束密度1.7Tに磁化した時の鉄損)を測定した。W17/50が0.68W/kg以下であるとき、鉄損が良好であると判断した。
【0171】
表1~表9に示すように、本発明例は、珪素鋼板の表面性状が好ましく制御されているので、方向性電磁鋼板として鉄損特性に優れていた。一方、比較例は、珪素鋼板の表面性状が好ましく制御されていないので、方向性電磁鋼板として鉄損特性が満足できなかった。なお、表中には示さないが、例えば、試験No.5では、珪素鋼板の板幅方向に関して、カットオフ波長λcを800μmとしたときの表面粗さRaが0.4μm以下であり、且つカットオフ波長λcを20μmとしたときの表面粗さRaが0.2μm以下であったが、ave-AMPC100が0.050μm超であった。また、試験No.39および試験No.40では、珪素鋼板の板幅方向に関して、カットオフ波長λcを250μmとしたときの表面粗さRaがともに0.03μmであったが、試験No.39では、ave-AMPC100が0.020μm以下であり、試験No.40では、ave-AMPC100が0.020μm超であった。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【実施例2】
【0181】
鋼成分が調整された溶鋼を鋳造してスラブを製造した。このスラブを1150℃に加熱し、板厚2.6mmまで熱間圧延し、1120℃+900℃の二段階で熱延板焼鈍し、熱延板焼鈍後に急冷し、酸洗し、板厚0.23mmまで冷間圧延し、脱炭焼鈍し、窒素増加量が0.020%となるように窒化焼鈍し、Al2O3とMgOとを含む焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行い、その後に、酸洗、水洗、ブラッシングの少なくとも1つを行う表面処理を施した。
【0182】
製造条件として、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上げ焼鈍工程、および表面処理工程の詳細条件を表10~表13に示す。冷間圧延工程では、冷間圧延の最終パス(最終スタンド)に関して、圧延率およびロール粗度Raを変更した。脱炭焼鈍工程では、雰囲気の酸化度(PH2O/PH2)と均熱温度と均熱時間とを変更して、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を制御した。なお、試験No.2-22では、脱炭焼鈍工程の直後に硫酸を用いて酸洗を行ったが、脱炭焼鈍板の表面の酸素量を1g/m2以下に制御できなかった。
【0183】
また、仕上げ焼鈍工程では、水素を50体積%以上含有する雰囲気とし、均熱温度に応じて均熱時間を変更した。表面処理工程では、酸洗処理として、酸濃度と液温と浸漬時間とを変更した。なお、試験No.2-43では、酸洗処理を行わずに水洗処理およびブラッシングを行った。
【0184】
製造結果として、珪素鋼板の化学成分、および珪素鋼板の表面性状を表14~表21に示す。なお、珪素鋼板の化学成分および表面性状は、上記の方法に基づいて求めた。
【0185】
表中で、珪素鋼板の化学成分の「-」は、合金元素を意図的に添加していないか、または含有量が測定検出下限以下であることを示す。表中で、下線を付した値は、本発明の範囲外であることを示す。なお、いずれの珪素鋼板も、フォルステライト被膜を有さず、{110}<001>方位に発達した集合組織を有していた。
【0186】
製造した珪素鋼板を母材として、この珪素鋼板の板面に、中間層を形成し、絶縁被膜を形成し、また磁区制御を行って方向性電磁鋼板を製造し、鉄損特性を評価した。なお、中間層は、酸化度(PH2O/PH2)が0.0012の雰囲気中で、850℃-30秒の熱処理を行って形成した。これらの中間層は、酸化珪素を主に含み、平均厚さが25nmであった。
【0187】
また、試験No.2-1~2-15および試験No.2-31~2-40では、絶縁被膜としてリン酸系被膜を形成した。リン酸系被膜は、コロイダルシリカの混合物と、アルミニウム塩またはマグネシウム塩のリン酸塩と、水とを含むリン酸系被膜形成用組成物を塗布して、通常条件の熱処理を行って形成した。これらのリン酸系被膜は、リン珪素複合酸化物を主に含み、平均厚さが2μmであった。
【0188】
また、試験No.2-16~2-30および試験No.2-41~2-55では、絶縁被膜としてホウ酸アルミニウム系被膜を形成した。ホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミナゾルとホウ酸とを含むホウ酸アルミニウム系被膜形成用組成物を塗布して、通常条件の熱処理を行って形成した。これらのホウ酸アルミニウム系被膜は、アルミニウム・ホウ素酸化物を主に含み、平均厚さが2μmであった。
【0189】
また、いずれの方向性電磁鋼板も、絶縁被膜の形成後に、レーザを照射して非破壊的な応力歪を付与して磁区を細分化した。
【0190】
鉄損は、Single Sheet Tester(SST)によって評価した。製造した方向性電磁鋼板から、試験片の長辺が圧延方向および板幅方向となるように幅60mm×長さ300mmの試料を採取し、圧延方向の試験片を用いてW17/50(鋼板を50Hzで磁束密度1.7Tに磁化した時の鉄損)、板幅方向の試験片を用いてW6/50(鋼板を50Hzで磁束密度0.6Tに磁化した時の鉄損)を測定した。圧延方向の鉄損W17/50が0.68W/kg以下で、かつ板幅方向の鉄損W6/50が0.80W/kg以下であるとき、鉄損が良好であると判断した。
【0191】
表10~表21に示すように、本発明例は、珪素鋼板の表面性状が好ましく制御されているので、方向性電磁鋼板として鉄損特性に優れていた。一方、比較例は、珪素鋼板の表面性状が好ましく制御されていないので、方向性電磁鋼板として鉄損特性が満足できなかった。なお、表中には示さないが、例えば、試験No.2-3では、珪素鋼板の板幅方向に関して、カットオフ波長λcを800μmとしたときの表面粗さRaが0.4μm以下であり、且つカットオフ波長λcを20μmとしたときの表面粗さRaが0.2μm以下であったが、ave-AMPC100が0.050μm超であった。また、試験No.2-54および試験No.2-55では、珪素鋼板の板幅方向に関して、カットオフ波長λcを250μmとしたときの表面粗さRaがともに0.03μmであったが、試験No.2-54では、ave-AMPC100が0.020μm以下であり、試験No.2-55では、ave-AMPC100が0.020μm超であった。
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の上記態様によれば、母材である珪素鋼板の表面性状を最適に制御することによって、優れた鉄損特性を発揮する方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することできる。従って、産業上の利用可能性が高い。