(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230412BHJP
B32B 17/04 20060101ALI20230412BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230412BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B32B15/08
B32B17/04
B32B7/025
D06M11/83
(21)【出願番号】P 2021511822
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2019014597
(87)【国際公開番号】W WO2020202457
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】郡 真純
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143009(JP,A)
【文献】特開平1-319697(JP,A)
【文献】特開平6-235071(JP,A)
【文献】特開2009-144936(JP,A)
【文献】特開2018-76502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
B32B 17/04
B32B 7/025
D06M 11/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、
前記金属部材の表面の少なくとも一部に配置され、樹脂を含有する皮膜層と、
前記皮膜層の表面の少なくとも一部に配置され、マトリックス樹脂および前記マトリックス樹脂中に存在する炭素繊維材料を含む炭素繊維強化樹脂材料層と、
少なくとも前記炭素繊維強化樹脂材料層の表面全体と、前記金属部材と前記皮膜層との界面と、前記皮膜層と前記炭素繊維強化樹脂材料層との界面とを覆うように配置された電着塗膜と、
を備え、
前記皮膜層の平均厚みは10μm以上500μm以下であり、
前記炭素繊維強化樹脂材料層の前記表面上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Aが0.3~1.4μmであり、
前記電着塗膜を除去して塩化ナトリウムを5質量%含有する水溶液に浸漬したときに、周波数1Hzでの交流インピーダンスが、1×10
7Ω~1×10
9Ωである、
ことを特徴とする金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項2】
前記金属部材の前記表面のうち前記皮膜層が配置されていない第一の領域において、前記平均膜厚Aと、前記第一の領域上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Bとが下記(1)式を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
B>10×A・・・・・(1)
【請求項3】
前記皮膜層の前記表面のうち前記炭素繊維強化樹脂材料層が配置されていない第二の領域において、前記平均膜厚Aと、前記第二の領域上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Cとが下記(2)式を満たす
ことを特徴とする請求項1または2に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
5μm>C>A・・・・・(2)
【請求項4】
前記皮膜層が複数の樹脂層からなる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂を50質量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項6】
前記皮膜層がエポキシ樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維など)をマトリックス樹脂に含有させて複合化した繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で引張強度や加工性等に優れる。そのため、FRPは、民生分野から産業用途まで広く利用されている。自動車産業においても、燃費、その他の性能の向上につながる車体軽量化のニーズを満たすため、FRPの軽量性、引張強度、加工性等に着目し、自動車部材へのFRPの適用が検討されている。
【0003】
中でも、炭素繊維を強化繊維として用いる炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、特に軽量であり、炭素繊維の強度に起因して引張強度にも優れているため、自動車部材をはじめとした様々な用途において有望な材料である。
【0004】
一方で、CFRPのマトリックス樹脂は、一般に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であるため脆性を有していることから、変形すると脆性破壊する可能性がある。さらに、CFRPは、一般に高価であり、自動車部材等の各種部材のコストアップの要因となる。
【0005】
CFRPの上述したような利点を維持しつつ、これらの問題点を解決するため、最近では、金属部材とCFRPとを積層して一体化(複合化)させた金属部材-CFRP複合材料が検討されている。金属部材は延性を有していることから、このような金属部材と複合化することで、CFRPの短所である脆性を克服して、複合材料を変形・加工できる。さらに、低価格の金属部材とCFRPとを複合化することで、CFRPの使用量を減らすことができるため、自動車部材のコストを低下させることができる。
【0006】
ところで、CFRP中の炭素繊維は、良好な導電体である。したがって、CFRPと接触した金属部材がCFRP中の炭素繊維と電気的に導通し、電食作用によって腐食する現象(異種材料接触腐食)が生じうる。このような異種材料接触腐食を防止するために、いくつかの提案がなされている。
【0007】
特許文献1には、炭素繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂中に粒子状またはオイル状のシリコーン化合物を分散させた、金属部品と接触した状態で使用される炭素繊維強化樹脂成形体が提案されている。
【0008】
特許文献2には、金属製締結部材とCFRP積層板との間に非導電性スリーブおよびガラス繊維強化樹脂等の非導電性シートを配置した、繊維強化樹脂部材が提案されている。特許文献3には、炭素繊維強化樹脂材と金属製のカラーの当接部とを絶縁性の接着剤を介して接着させた炭素繊維強化樹脂材の締結構造が提案されている。
【0009】
特許文献4には、軽金属材とCFRP材との間に体積固有抵抗が1×1013Ω・cm以上の接着層を有する軽金属/CFRP製構造部材が提案されている。特許文献5、6には、金属素形材の表面に塗膜を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開2014-162848号公報
【文献】国際公開第2016/021259号
【文献】国際公開第2016/117062号
【文献】国際公開第99/10168号
【文献】国際公開第2014/111978号
【文献】国際公開第2013/145712号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の成形体は、炭素繊維強化樹脂成形体の表面をシリコーンにより撥水性を付与した成形体であり、炭素繊維と金属部品との導通を防止した成形体ではない。したがって、十分に異種材料接触腐食を抑制することは困難である。
また、特許文献2、3に係る技術は、あくまでも金属部材と炭素繊維強化樹脂材との接合に関する技術であり、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体に単純には適用できない。例えば、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の金属と炭素繊維強化樹脂材料との接着部分は、当該複合体の一体性を維持するために、比較的薄い樹脂層により接着する必要がある。したがって、当該複合体においては、特許文献2に記載されるような比較的厚みのあるガラス繊維強化樹脂を配置することは困難である。
また、特許文献3に記載されるような絶縁性の樹脂層を比較的薄く配置した際に異種材料接触腐食を十分に抑制できるか明らかではない。
特許文献4に記載の軽金属/CFRP製構造部材は、体積固有抵抗が1×1013Ω・cm以上の接着層を設けた軽金属/CFRP製構造部材であり、接着層の抵抗値が高いことで高温高湿下での異種金属接触腐食を抑制するが、塩水などの腐食因子が存在する腐食環境下での異種金属接触腐食に関する検討や、腐食環境下での部材自体の抵抗値については何ら検討されておらず、十分に異種金属接触腐食を抑制することは、困難である。
特許文献5、6では、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物との密着性、封止性を高めるために、金属部材の表面に、樹脂皮膜層を有し、熱可塑性樹脂組成物と熱融着することで上記の密着性、封止性を達成するが、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体における異種材料接触腐食を抑制することは困難である。
加えて、上記で挙げた金属炭素繊維強化樹脂材料複合体では、炭素繊維強化樹脂材料層と金属との界面端部から腐食の原因となる水や塩水などが侵入して腐食が発生する可能性がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされた発明であり、金属部材の腐食、特に異種材料接触腐食が抑制された、新規かつ改良された金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した。その結果、異種金属接触腐食が起こりうる電解液中での金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体自体の交流インピーダンスを上げることにより、異種金属接触腐食が抑制可能であることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基づいてなされた発明であり、その要旨は以下のとおりである。
(1)本願発明の一態様に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部に配置され、樹脂を含有する皮膜層と、前記皮膜層の表面の少なくとも一部に配置され、マトリックス樹脂および前記マトリックス樹脂中に存在する炭素繊維材料を含む炭素繊維強化樹脂材料層と、少なくとも前記炭素繊維強化樹脂材料層の表面全体と、前記金属部材と前記皮膜層との界面と、前記皮膜層と前記炭素繊維強化樹脂材料層との界面とを覆うように配置された電着塗膜と、を備え、前記皮膜層の平均厚みは10μm以上500μm以下であり、前記炭素繊維強化樹脂材料層の前記表面上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Aが0.3~1.4μmであり、前記電着塗膜を除去して塩化ナトリウムを5質量%含有する水溶液に浸漬したときに、周波数1Hzでの交流インピーダンスが、1×107Ω~1×109Ωである。
(2)上記(1)に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、前記金属部材の前記表面のうち前記皮膜層が配置されていない第一の領域において、前記平均膜厚Aと、前記第一の領域上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Bとが下記(1)式を満足していてもよい。
B>10×A・・・・・(1)
(3)上記(1)または(2)に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、前記皮膜層の前記表面のうち前記炭素繊維強化樹脂材料層が配置されていない第二の領域において、前記平均膜厚Aと、前記第二の領域上に形成された前記電着塗膜の平均膜厚Cとが下記(2)式を満足していてもよい。
5μm>C>A・・・・・(2)
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、前記皮膜層が複数の樹脂層から構成されていてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、前記マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂を50質量%以上含有していてもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体は、前記皮膜層がエポキシ樹脂を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、金属部材の腐食、特に異種材料接触腐食が抑制された、新規かつ改良された金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体に用いられる炭素繊維材料強化樹脂材料層の断面模式図である。
【
図3】本発明の一変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図4】本発明の他の変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図5】本発明の他の変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図6】本発明の他の変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図7】本発明の他の変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の積層方向における断面模式図である。
【
図8】交流インピーダンス測定の測定模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
説明の容易化のために各図は適宜拡大、縮小しており、図は各部の実際の大きさ及び比率を示すことを意図していない。
【0019】
<金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体>
[金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成]
まず、
図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の一例としての金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11の積層方向における断面構造を示す模式図である。
図2は、炭素繊維強化樹脂材料層3の断面模式図の一例である。
【0020】
図1に示すように、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11は、金属部材1と、皮膜層2と、炭素繊維強化樹脂材料層(CFRP層)3と、電着塗膜4と、を備える。金属部材1、皮膜層2、CFRP層3、電着塗膜4とは、複合化されている。ここで、「複合化」とは、金属部材1、皮膜層2、CFRP層3、電着塗膜4とが、互いに接着され(貼り合わされ)、一体化していることを意味する。また、「一体化」とは、金属部材1、皮膜層2、CFRP層3、電着塗膜4とが、加工や変形の際、一体として動くことを意味する。
図2に示すように、CFRP層3は、炭素繊維材料21とマトリックス樹脂22と、を備える。なお、
図2において、炭素繊維材料21は短繊維形状で示しているが、炭素繊維材料21は、連続繊維や炭素繊維を縦横に製繊加工をしたクロス材等であってもよい。
【0021】
また、本実施形態においては、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11は、皮膜層2ならびにCFRP層3のマトリックス樹脂22に所定の物性、厚みを与えることによって、5質量%塩化ナトリウム水溶液浸漬時の周波数1Hzでの交流インピーダンスが、1×107Ω~1×109Ωとすることができ、腐食環境下での異種金属接触腐食を抑制することが可能となる。
以下、交流インピーダンスについて記述する。
【0022】
本願の実施形態では、以下の方法で交流インピーダンスを測定する。
図8は、インピーダンス測定の模式図である。
交流インピーダンス測定用サンプルは、CFRP層3上の電着塗膜4を剥離した金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11(φ15mm)を用いる。
交流インピーダンス測定用サンプルのCFRP層3側が電解液と接触する面(作用極33)となるように金属部材1にリード線を取り付ける。その際シリコンゴムパッキン31で交流インピーダンス測定用サンプルを覆い、交流インピーダンス測定用サンプルのCFRP層3と電解液との接触面積(測定面積)が1.0cm
2となるように調整する。対極32としてカーボン電極、参照極34として銀-塩化銀電極を使用し、電解液として、溶存酸素濃度を飽和させた5%塩化ナトリウム水溶液100ml(25℃)を使用する。交流インピーダンス測定用サンプルを電解液中に60分間静置後、ポテンショスタット35を用い、5mVの交流電圧を重畳し、周波数を10mHzから1kHzまで変化させて、交流インピーダンスを測定する。
【0023】
交流インピーダンス測定用サンプルの作製方法の一例について、以下に説明する。
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11のCFRP層3を貼り付けていない側の金属部材1上にめっきや電着塗膜4がある場合、リード線を張り付けるための金属部材1の露出部を形成する。
次いで、ダイプラ・ウィンテス社製の表面微細切削装置「SAICAS(登録商標)EN」を用いて金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11上のCFRP層3上の電着塗膜4を剥離する。その後、電着塗膜剥離後の金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11をφ15mmで打ち抜き加工をし、打ち抜いた後のサンプルのバリをやすりで除去することで、測定用のサンプルを作製する。
発明者らが鋭意検討した結果、CFRP層3上の電着塗膜4を表面微細切削装置で剥離する際、CFRP層3と電着塗膜4との界面からCFRP層3側に100μm以内のCFRP層3の表面を削り取った場合、交流インピーダンスの値に大きな変化が無いことを知見した。そのため、電着塗膜4の剥離は、CFRP層3と電着塗膜4との界面からCFRP層3側に100μm以内のCFRP層3の表面を削り取ることとした。表面微細切削装置としては、ダイプラ・ウィンテス社製「SAICAS(登録商標)EN」と同じ機構の装置であれば、他の市販の装置も用いることができる。
【0024】
この交流インピーダンスを測定することにより、電解液環境下での金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の貫通抵抗を測定することが可能となり、その結果、腐食環境下での異種金属接触腐食の程度を定量的に予測することが可能となる。金属部材1とCFRP層3とが接触している場合、金属部材1とCFRP層3とで導通が確保されているため異種金属接触腐食が発生する。また、金属部材1とCFRP層3とが接していない場合でも、腐食因子となる水や塩水などがCFRP層3に含浸し、さらにその水や塩水が金属部材1の表面まで達することで、水や塩水などを介し、金属と炭素繊維強化樹脂材料間で異種金属接触腐食が発生する虞がある。そのため、高い防触性能を得るためには、水や塩水などの存在下(電解液下)での金属-炭素繊維強化樹脂材料(CFRP)複合体11の貫通抵抗(交流インピーダンス)を上げる必要がある。5%塩化ナトリウム水溶液浸漬時の周波数1Hzでの金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスは、1×107Ω~109Ωである。以下、交流インピーダンスと記載する場合は、特に注釈しない限り、5%塩化ナトリウム水溶液浸漬時の周波数1Hzにおける交流インピーダンスを意味する。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスが、1×107Ω未満では、異種金属接触腐食を抑制することができないため、好ましくない。1×109Ω超では、CFRP層3上に電着塗膜が十分に付着しないため、水や塩水などの腐食因子の侵入を抑制できないため、好ましくない。
【0025】
以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の各構成について詳述する。
(金属部材1)
金属部材1の材質、形状及び厚みなどは、特に限定されないが、形状は板状もしくは、板状材料を加工した金属部材1が好ましい。金属部材1の材質としては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼含む)、Ti系合金、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属部材1の材質は、鉄鋼材料(鋼材)、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであることが好ましく、他の金属種に比べて引張強度が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、日本工業規格(JIS)等で規格された鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等を挙げることができる。このような鉄鋼材料の具体例としては、冷間圧延鋼材、熱間圧延鋼材、自動車構造用熱間圧延鋼板材、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材、自動車構造用冷間圧延鋼板材、自動車加工用冷間圧延高張力鋼板材、熱間加工時に焼き入れを行った一般にホットスタンプ材と呼ばれる高張力鋼材などを挙げることができる。鋼材の場合成分は特に限定されないが、Fe、Cに加え、Si、Mn、P、Al、N、Cr、Mo、Ni、Cu、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sbのうち1種または2種以上を添加することができる。これら添加元素は求める材料強度及び成形性を得るために適宜1種または2種以上を選定し、添加量も適宜調整することができる。なお、金属部材1が板状である場合、金属部材1は成形されていてもよい。
【0026】
金属部材1に用いられる鉄鋼材料は、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛系めっき及びアルミニウム系めっき、錫系めっきなどの各種めっき処理を示す。めっき処理が施されためっき鋼材は、耐食性に優れている観点から、金属部材1として好ましい。金属部材1として特に好ましいめっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板もしくはこれらを加熱処理して亜鉛めっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Niめっき鋼板、溶融Zn-5%Al合金めっき鋼板や溶融55%Al-Zn合金めっき鋼板に代表される溶融Zn-Al合金めっき鋼板、溶融Zn-1~12%Al-1~4%Mg合金めっき鋼板や溶融55%Al-Zn-0.1~3%Mg合金めっき鋼板に代表される溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、Niめっき鋼板もしくはこれらを加熱処理してNiめっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化Niめっき鋼板、Alめっき鋼板、錫めっき鋼板、クロムめっき鋼板、等が挙げられる。亜鉛系めっき鋼板は特に耐食性に優れているので、好適である。更に、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は更に耐食性が優れるため、より好適である。
【0027】
また、金属部材1がアルミニウム合金であると部材の軽量化が達成されるため、好適である。アルミニウム合金としては、AlにSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti、V、Zr、Pb、Biからなる群から選択された1種または2種以上を添加したアルミニウム合金を使用することができる。例えば、JIS H4000:2006に記載される1000番台系、2000番台系、3000番台系、4000番台系、5000番台系、6000番台系、7000番台系など一般に公知のアルミニウム合金を金属部材1として使用することができる。強度と成形性を有する5000番台系や6000番台系などが、アルミニウム合金として好適である。マグネシウム合金としては、マグネシウムにAl、Zn、Mn、Fe、Si、Cu、Ni、Ca、Zr、Li、Pb、Ag、Cr、Sn、Y、Sbその他希土類元素からなる群から選択された1種または2種以上を添加したマグネシウム合金を使用することができる。例えば、これらのマグネシウム合金にAlを添加したASTM規格に記載されているAM系、これらのアルミニウム合金にAlとZnを添加したAZ系、Znを添加したZK系など一般に公知のマグネシウム合金を金属部材1として使用することができる。
【0028】
皮膜層2を形成するにあたり、金属部材1に対して、必要に応じて一般に公知の塗装下地処理を行うことが好ましい。この塗装下地処理は、次のように行われることが好ましい。まず、金属部材1に供される鋼板の表面を清浄化するため、前記鋼板上に、アルカリ脱脂などが行われる。その後、金属部材1に対し、Ni等の鉄族金属イオンを含む酸性もしくはアルカリ水溶液による表面調整処理が施される。表面調製処理後の前記鋼板に、化成処理が施される。前記鋼板の化成処理は、一般に公知のクロメート処理でも良いが、クロムを実質的に含有しない化成処理液を用いた化成処理の方が、環境負荷物質の低減が達成されるため好ましい。そのような化成処理液の代表例は、液相シリカ、気相シリカおよび/またはケイ酸塩などのケイ素化合物を主皮膜成分とし、場合により樹脂を共存させたシリカ系化成処理液である。また、ジルコン酸を主成分としたジルコン系化成処理でも良い。
【0029】
前記鋼板の化成処理は、シリカ系化成処理に限定されない。近年、シリカ系以外にも、塗装下地処理に使用するための各種のクロムフリー化成処理液が提案されている。化成処理により形成される化成処理皮膜の付着量は、使用する化成処理に応じて、適当な付着量を選択すればよい。シリカ系化成処理液の場合、通常の付着量は、Si換算で1~20mg/m2の範囲内が好ましい。上述の塗装下地処理を行うことで金属部材1と皮膜層2との密着性が向上する。
【0030】
(炭素繊維強化樹脂材料層(CFRP層)3)
図2に示すようにCFRP層3は、マトリックス樹脂22と、当該マトリックス樹脂22中に含有された炭素繊維材料21と、を有している。
【0031】
炭素繊維材料21としては、特に制限はないが、例えば、PAN系の炭素繊維材料21、ピッチ系の炭素繊維材料21の両方を使用でき、目的や用途に応じて選択すればよい。また、炭素繊維材料21として、PAN系の炭素繊維材料21又はピッチ系の炭素繊維材料21を単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0032】
CFRP層3に用いられる炭素繊維材料21の形態としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを挙げることができる。補強効果の面からは、強化繊維基材としてクロス材やUD材を使用することが好ましい。
【0033】
マトリックス樹脂22は、樹脂組成物(または架橋性樹脂組成物)の固化物または硬化物を用いることができる。ここで、単に「固化物」というときは、樹脂成分自体が固化した樹脂組成物を意味し、「硬化物」というときは、樹脂成分に対して各種の硬化剤を含有させて硬化させた樹脂組成物を意味する。なお、硬化物に含有されうる硬化剤には、後述するような架橋剤も含まれ、上記の「硬化物」は、架橋形成された架橋硬化物を含む樹脂とする。
【0034】
マトリックス樹脂22を構成する樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれも使用することができるが、熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。マトリックス樹脂22に用いることができる熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種以上を使用できる。なお、「熱可塑性樹脂」には、後述する部分硬化型樹脂となり得る樹脂も含まれる。この中で、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスの値を高くする観点からフェノキシ樹脂を使用することが好ましい。本実施形態におけるCFRP層3中の樹脂組成の一例としては、フェノキシ樹脂を50質量%を含む構成が挙げられる。
また、マトリックス樹脂22に用いることができる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0035】
「フェノキシ樹脂」とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、又は2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる線形の高分子であり、非晶質の熱可塑性樹脂である。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているため、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。また、フェノキシ樹脂は、金属部材1上に形成される皮膜層や炭素繊維材料21との接着性が良好である。さらに、フェノキシ樹脂に、エポキシ樹脂のような硬化成分を添加して共重合させることで、いわゆる部分硬化型樹脂とすることができる。このような部分硬化型樹脂をマトリックス樹脂22として使用することにより、炭素繊維材料21への含浸性に優れるマトリックス樹脂とすることができる。これにより、CFRP層3の交流インピーダンスを高めることができ、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスを向上させることが可能となる。
【0036】
さらには、この部分硬化型樹脂中の硬化成分を熱硬化させることで、通常の熱可塑性樹脂のようにCFRP層3中のマトリックス樹脂22が高温に曝された際にマトリックス樹脂22が溶融又は軟化することを抑制できる。フェノキシ樹脂への硬化成分の添加量は、炭素繊維材料21への含浸性と、CFRP層3の脆性、CFRP3層の加工時間及び加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。このように、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂22として使用することで、樹脂組成物の設計自由度の高い硬化成分の添加と制御を行うことが可能となる。
【0037】
また、炭素繊維材料21の表面には、炭素繊維材料21の集束性や樹脂密着性を改善するためにサイジング剤が一般的に塗布されているが、エポキシ樹脂と馴染みのよいサイジング剤が施されていることが多い。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂の構造と酷似していることから、マトリックス樹脂22としてフェノキシ樹脂を使用することにより、エポキシ樹脂用のサイジング剤をそのまま使用することができる。そのため、フェノキシ樹脂を用いることにより、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11のコスト競争力を高めることができる。
【0038】
マトリックス樹脂22におけるフェノキシ樹脂の含有量としては、CFRP層3中の樹脂組成物の全樹脂の質量に対して50質量%以上が好ましい。フェノキシ樹脂が50質量%以上であれば、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスをより高くする事が出来る。フェノキシ樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
なお、マトリックス樹脂22におけるフェノキシ樹脂の含有量は、例えば、赤外分光法(IR:Infrared spectroscopy)を用いて測定可能であり、IRで対象とする樹脂組成物からフェノキシ樹脂の含有割合を分析する場合、透過法やATR反射法など、IRの一般的な方法を使うことで、測定することができる。
【0039】
マトリックス樹脂22におけるフェノキシ樹脂の含有量をIRで分析する場合、フェノキシ樹脂の吸収ピークは、例えば1450~1480cm-1、1500cm-1近傍、1600cm-1近傍などに存在することから、同吸収ピークの強度に基づいて、含有量を計算することが可能である。
【0040】
フェノキシ樹脂は、粉体、ワニス及びフィルムのいずれの形態でも使用することができる。フェノキシ樹脂の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、例えば、10,000以上200,000以下の範囲内であるが、好ましくは20,000以上100,000以下の範囲内であり、より好ましくは30,000以上80,000以下の範囲内である。フェノキシ樹脂(A)のMwを10,000以上の範囲内とすることで、成形体の強度を高めることができ、この効果は、Mwを20,000以上、さらには30,000以上とすることで、さらに高まる。一方、フェノキシ樹脂のMwを200,000以下とすることで、フェノキシ樹脂は、加工時の作業性や加工性に優れる。この効果は、Mwを100,000以下、さらには80,000以下とすることで、さらに高まる。なお、本明細書におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されて、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値が用いられる。
【0041】
本実施形態で用いるフェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、例えば、50以上1000以下の範囲内であるが、好ましくは50以上750以下の範囲内であり、より好ましくは50以上500以下の範囲内である。フェノキシ樹脂の水酸基当量を50以上とすることで、フェノキシ樹脂の吸水率が下がるため、硬化物の機械物性を向上させることができる。一方、フェノキシ樹脂の水酸基当量を1,000以下とすることで、マトリックス樹脂22と皮膜層2や炭素繊維材料21との親和性を向上させ、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の機械物性を向上させることができる。この機械物性向上の効果は、水酸基当量を750以下、さらには500以下とすることでさらに高まる。
【0042】
また、フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、65℃以上150℃以下の範囲内のフェノキシ樹脂が適するが、好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内である。フェノキシ樹脂のTgが65℃以上であると、成形性を確保しつつ、樹脂の流動性が大きくなりすぎることを抑制できるため、皮膜層2の厚みを十分に確保できる。一方、フェノキシ樹脂のTgが150℃以下であると、フェノキシ樹脂の溶融粘度が低くなるため、炭素繊維材料21にボイドなどの欠陥なくフェノキシ樹脂を含浸させることが容易となり、より低温で皮膜層2とCFRP層3とを接合することができる。なお、本明細書における樹脂のTgは、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20~280℃の範囲内の温度で測定されて、セカンドスキャンのピーク値より計算された数値である。
【0043】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満足するフェノキシ樹脂であれば特に限定されないが、好ましいフェノキシ樹脂として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYP-50、フェノトートYP-50S、フェノトートYP-55Uとして入手可能)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートFX-316として入手可能)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YP-70として入手可能)、上記に挙げたフェノキシ樹脂以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYPB-43C、フェノトートFX293、YPS-007等として入手可能)などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0044】
マトリックス樹脂22の樹脂成分として用いる熱可塑性樹脂は、160~250℃の範囲内の温度域で、その溶融粘度が3,000Pa・s以下になる熱可塑性樹脂が好ましく、90Pa・s以上2,900Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となる熱可塑性樹脂がより好ましく、100Pa・s以上2,800Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となる熱可塑性樹脂がさらに好ましい。160~250℃の範囲内の温度域における溶融粘度が3,000Pa・s以下とすることにより、マトリックス樹脂22の溶融時の流動性が良くなり、CFRP層3にボイド等の欠陥が生じにくくなる。一方、溶融粘度が90Pa・s以下である場合には、樹脂組成物としての分子量が小さ過ぎ、CFRP層3が脆化する結果、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の機械的強度が低下してしまう。
【0045】
フェノキシ樹脂(以下、「フェノキシ樹脂(A)」ともいう。)を含有する樹脂組成物に、例えば、酸無水物、イソシアネート、カプロラクタムなどを架橋剤として配合することにより、架橋性樹脂組成物(すなわち、樹脂組成物の硬化物)を形成することもできる。架橋性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)に含まれる2級水酸基を利用して架橋反応させることにより、樹脂組成物の耐熱性が向上するため、より高温環境下で使用される部材への適用に有利となる。フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基を利用した架橋形成には、架橋硬化性樹脂(B)と架橋剤(C)とを配合した架橋性樹脂組成物を用いることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)としては、例えばエポキシ樹脂等を使用できるが、特に限定されない。
【0046】
マトリックス樹脂22を形成するための樹脂組成物(架橋性樹脂組成物を含む)には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物を配合してもよい。
【0047】
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11において、CFRP層3のマトリックス樹脂22と、皮膜層2を構成する樹脂(以下、皮膜樹脂と呼称する)とは、同一の樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。ただし、CFRP層3と皮膜層2との接着性を十分に確保する観点からは、マトリックス樹脂22は、皮膜樹脂と同一の樹脂又は同種の樹脂であることが好ましい。また、マトリックス樹脂22は、皮膜樹脂中に含まれる極性基の比率等が近似した樹脂種を選択することが好ましい。例えば、皮膜樹脂中に含まれる極性基の比率等が近似した樹脂種としては、皮膜樹脂のカルボキシル基の数と近い数のカルボキシル基を有する樹脂が挙げられる。ここで、「同一の樹脂」とは、同じ成分によって構成され、組成比率まで同じであることを意味し、「同種の樹脂」とは、樹脂の主成分が同じであれば、組成比率は異なっていてもよいことを意味する。「同種の樹脂」の中には、「同一の樹脂」が含まれる。また、「樹脂の主成分」とは、全樹脂成分100質量%のうち、50質量%以上含まれる成分を意味する。なお、「樹脂成分」には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が含まれるが、架橋剤などの非樹脂成分は含まれない。
【0048】
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11において、CFRP層3は、少なくとも1枚以上のCFRP成形用プリプレグを用いて形成されている。プリプレグとは、炭素繊維に樹脂を含侵させてシート状に成型した材料を言う。所望のCFRP層3の厚さに応じて、積層するCFRP成形用プリプレグの数を選択することができる。CFRP成形用プリプレグを積層するに際して、皮膜層2と接触するCFRP層3の面に炭素繊維充填密度の低いプリプレグ、または、炭素繊維を含まない層を配置することより金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスを高め、かつ、CFRP層3と皮膜層2との密着性を向上できる。
【0049】
異種金属接触腐食が起こりうる電解液中でのCFRP層3単体での交流インピーダンスを高める上では、マトリックス樹脂22には、エポキシ樹脂ならびにフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。これら樹脂は、炭素繊維材料21に対する含浸性に優れているため、マトリックス樹脂22と炭素繊維材料21との界面の密着性が良好となる。結果として、マトリックス樹脂22と炭素繊維材料21との界面を経路とする電解液の浸入を抑制することが出来るためである。
【0050】
さらにマトリックス樹脂22中に、疎水性を有する顔料(疎水性顔料)を含有することで異種金属接触腐食が起こりうる電解液中でのCFRP層3単体での交流インピーダンスを更に高めることが可能となる。疎水性顔料の例としては、疎水性シリカ、疎水性アルミナ、疎水性チタニア等が挙げられる。中でもマトリックス樹脂22が疎水性であることを考えると、親和性の観点としては疎水性シリカが好ましい。マトリックス樹脂22への疎水性顔料の含有量としては、マトリックス樹脂22中に2質量%以上10質量%以下とするのが好ましい。マトリックス樹脂22への疎水性顔料の含有量が2質量%未満であると十分な疎水性効果が得られない可能性があり、10質量%を超えるとマトリックス樹脂22と炭素繊維材料21との密着性が損なわれ、CFRP層3自体の強度が低下する可能性があるためである。
【0051】
ここで、疎水性顔料については、顔料自体が疎水性を有していてもよいし、表面処理により疎水性が付与された顔料でもよい。
【0052】
CFRP層3は、その中心部に炭素繊維材料21が密集し、その表面及び界面部の炭素繊維材料21の密度が疎となることで、より電解液中での交流インピーダンスを高めることが可能となる。CFRP層3の外層の炭素繊維材料21の密度が疎である場合において、その外層中のマトリックス樹脂に疎水性顔料を含有してもよい。さらに、複数のCFRP層3が積層してなるCFRP層3の積層体は、同一厚みの単一層のCFRP層3と比べて電解液中での交流インピーダンスが高くなる。この理由については、以下のように考えられる。外層の炭素繊維材料21の密度が疎であるCFRP層3は、その表層がマトリックス樹脂22で覆われた構成となる。このため、そのようなCFRP層3が積層することで、各CFRP層3同士はマトリックス樹脂22からなる表層を介して接触する。そのため、複数のCFRP層3からなるCFRP層3の積層体は、CFRP層3の金属部材1側の面からCFRP層3の電着塗膜4側の面の間に複数のマトリックス樹脂22同士からなる界面を有する。そのため、CFRP層3の金属部材1側の面からCFRP層3の電着塗膜4側の面にわたって炭素繊維材料21同士が接触して導通することが防がれる。
【0053】
(皮膜層2)
皮膜層2は、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の金属部材1とCFRP層3との間に配置され、これらを接合する。そのため、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11において、金属部材1と皮膜層2との間、CFRP層3と皮膜層2との間にそれぞれ界面がある。皮膜層2が含有する樹脂(皮膜樹脂)としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれも使用することができるが、特に熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等から選ばれる1種以上を使用することができる。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスを1×107Ω以上にするため、皮膜樹脂としてエポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。本実施形態における皮膜層2中の皮膜樹脂の一例としては例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。なお、皮膜層2は、疎水性顔料などの顔料を含んでもよい。顔料の皮膜層2での含有量は全皮膜層中の成分に対し、5体積%未満であることが好ましい。
【0054】
また、皮膜樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば20℃以上80℃以下であることが好ましい。20℃未満であれば電解液中での金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスが低下する可能性があるとともに、80℃を超えると加工した際に皮膜層2が割れ、電解液中での金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスが低下する可能性がある。皮膜樹脂のガラス転移温度Tgのより好ましい範囲としては、35℃以上70℃以下である。
【0055】
皮膜層2の平均厚みTは、特に限定されないが、例えば、10μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上300μm以下である。皮膜層2の平均厚みTが、10μm未満であれば、十分なバリア性を有することが出来ず、電解液中での交流インピーダンスが低下する可能性があるとともに、500μmを超えるとコストの観点より好ましくないとともに、膜厚増加による皮膜層2の内部応力増加により皮膜層2の密着性が低下する可能性がある。
【0056】
(電着塗膜4)
電着塗膜4は、
図1に示すように少なくともCFRP層3の表面全体と、金属部材1と皮膜層2との界面と、皮膜層2とCFRP層3との界面とを覆うように配置されている。ここで、界面を覆うとは、
図1のように界面端部、即ち金属部材1と皮膜層2とCFRP層3とからなる積層体の側面のうち、少なくとも各層の境界の外縁を覆うことを意味する。
電着塗膜4に用いられる電着塗料は、産業用、建築用、自動車用として一般的に使用される電着塗料であれば特に限定されない。自動車用途に用いる場合は自動車用の電着塗料であるとより好適である。電着塗料の材料としては、例えば、カチオン性のエポキシ樹脂、カチオン性のアクリル樹脂、アニオン性のアクリル樹脂などを用いることができる。電着塗料としては、カチオン性のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。電着塗膜4は、金属部材1と皮膜層2及びCFRP層3の表面全体に脱脂、表面調整及び化成処理を施した後、電着塗装、焼き付けすることで形成される。
【0057】
CRFP層3の表面上には、局所的に交流インピーダンスが低い箇所が存在する場合がある。交流インピーダンスが低い箇所が形成される理由としては、皮膜層2やCFRP層3中に存在する空隙に侵入した水や塩水が、金属部材1やCFRP層3中の炭素繊維材料21と接触するためであると考えられる。電着塗装は、電極と被塗布物との間に直流電圧を印加することで、電着塗料の粒子を電気泳動させ、被塗物表面において電着塗料の粒子を析出させることで行われる。そのため、電着塗膜4をCFRP層3上に形成する場合、電着塗料の粒子は上記の通り、電気が流れるところに移動するため、CFRP層3上に存在する電気抵抗の低い箇所に電着塗料の粒子が選択的に析出する。そのため、電着塗膜4を形成することで、CFRP層3の表面において水や塩水の侵入起点となりやすい空隙を効率的に塞ぐ事が出来る。また、電着塗膜4を形成することで、金属部材1と皮膜層2との界面や皮膜層2とCFRP層3との界面が電着塗膜4で覆われるため、各界面からの水や塩水等の腐食因子の侵入を防ぐ事が出来る。
図1では、電着塗膜4は、皮膜層2及びCFRP層3が積層された金属部材1の表面と反対の面にも形成されている。耐腐食性という観点では、皮膜層2及びCFRP層3が積層された面と反対の金属部材1の面にも電着塗膜を形成し、全面を覆ったほうが好ましい。皮膜層2及びCFRP層3が積層された面と反対の金属部材1の面に水などが侵入しない用途においては、その反対の面に電界塗膜4が形成されていなくてもよい。
【0058】
CFRP層3上に形成された電着塗膜4の平均膜厚Aは、0.3~1.4μmである。平均膜厚Aが0.3μm未満では、水や塩素の侵入を防止することができず、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の耐食性が向上しないことから好ましくない。平均膜厚Aが1.4μm超では、耐食性向上の効果が飽和することに加え、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスの値が低い場合があるため、好ましくない。
電着塗膜4の平均膜厚Aは、走査型電子顕微鏡を用い、2000倍の倍率でCFRP層3上の電着塗膜4を観察して測定する。CFRP層3上の電着塗膜4を計10視野観察し、各視野毎に任意の箇所で電着塗膜の膜厚を測定する。10視野分の平均値を電着塗膜の平均膜厚Aとする。
以上、本実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の一例としての金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11について説明した。
【0059】
[変形例]
以下では、本発明の上記実施形態の幾つかの変形例を説明する。なお、以下に説明する各変形例は、単独で本発明の上記実施形態に適用されてもよいし、組み合わせで本発明の上記実施形態に適用されてもよい。また、各変形例は本発明の上記実施形態で説明した構成に代えて適用されてもよいし、本発明の上記実施形態で説明した構成に対して追加的に適用されてもよい。
【0060】
図3~
図7は、本発明の一変形例に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の模式的な断面図である。以下、類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する。ただし、類似する構成要素のうち、説明を行った構成要素と実質的に同一の機能構成を有する場合は、その構成要素についての説明を省略する。
【0061】
≪金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11A≫
図3に示す金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11Aは、金属部材1Aと、金属部材1Aの一部に配置される皮膜層2Aと、皮膜層2Aを介して配置されるCFRP層3Aと電着塗膜4Aとを備える。電着塗膜4Aは、少なくともCFRP層3Aの表面全体と、金属部材1Aと皮膜層2Aとの界面と、皮膜層2AとCFRP層3Aとの界面とを覆うように配置されている。また、金属部材1Aの表面には、皮膜層2Aが配置されていない領域が存在する(第一の領域7と呼称する)。以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11と同じ構成、同じ機能については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0062】
(平均膜厚Aと平均膜厚Bとの関係)
電着塗装では、電圧を印加して粒子を被塗布物に引き寄せることから、電着塗膜4Aの膜厚は、被塗布物の導電性に依存する。従って、第一の領域7上に形成された電着塗膜4Aの平均膜厚Bは、交流インピーダンスが低い金属部材1Aの上に形成されるため、CFRP層3A上に形成した場合よりも膜厚を厚くすることが可能である。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Aでは、平均膜厚Aと、平均膜厚Bは、以下の式(1)を満足する。
B>10×A・・・・・(1)
上記(1)式を満足する構成であれば、電着塗膜4Aは、金属部材1Aと皮膜層2Aとの界面端部を厚く覆うため、腐食の原因となる水や塩水等の界面端部からの侵入を防ぐ事が出来、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の耐食性がさらに向上する。
【0063】
≪金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11B≫
図4に示す金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bは、金属部材1Bと、金属部材1Bの一部に配置される皮膜層2Bと、皮膜層2Bを介して配置されるCFRP層3Bと、電着塗膜4Bとを備える。電着塗膜4Bは、少なくともCFRP層3Bの表面全体と、金属部材1Bと皮膜層2Bとの界面と、皮膜層2BとCFRP層3Bとの界面とを覆うように配置されている。また、金属部材1Bの表面には、皮膜層2Bが配置されていない第一の領域7Aが存在する。皮膜層2Bの表面には、CFRP層3Bが配置されていない領域が存在する(第二の領域8と呼称する)。そして、以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Aと同じ構成、同じ機能については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0064】
(平均膜厚Aと平均膜厚Cとの関係)
第二の領域8上の電着塗膜4Bの平均膜厚Cは、CFRP層3Bより交流インピーダンスが低い皮膜層2Bの上に形成されるため、平均膜厚Aよりも厚くすることが可能である。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bでは、電着塗膜4Bの平均膜厚Aと、平均膜厚Cとは、以下の式(2)を満足する。
5μm>C>A・・・・・(2)
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bが、上記(2)式を満足する構成であれば、電着塗膜4Bが、皮膜層2BとCFRP層3Bとの界面端部を厚く覆うため、皮膜層2BとCFRP層3Bとの界面端部から腐食の原因となる水や塩水等が侵入することを防ぐ事が出来る。
【0065】
≪金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11C≫
図5に示す金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11Cは、金属部材1Cと、金属部材1Cの一部に配置される皮膜層2Cと、皮膜層2Cを介して配置されるCFRP層3Cと、電着塗膜4Cとを備える。電着塗膜4Cは、少なくともCFRP層3Cの表面全体と、金属部材1Cと皮膜層2Cとの界面と、皮膜層2CとCFRP層3Cとの界面とを覆うように配置されている。また、金属部材1Cの表面には、皮膜層2Cが配置されていない第一の領域7Bが存在する。皮膜層2Cの表面には、CFRP層3Cが配置されていない第二の領域8Aが存在する。以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bと同じ構成、同じ機能については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0066】
(皮膜層2C)
皮膜層2Cは、
図5のように樹脂層9A及び9Bから構成される。樹脂層9Aは、樹脂層9Bの表面の一部に配置されている。樹脂層9Aは、上述した皮膜層2と同様の樹脂の構成とすることができる。樹脂層9Bの樹脂は、熱硬化型のポリエステル-メラミン樹脂、さらにこれら樹脂にウレタン樹脂をブレンドした樹脂を含むことがより好ましい。これら樹脂は、加工性とバリア性を両立可能な樹脂であるため、プレス加工により塗膜に亀裂が入りにくく、電解液中での交流インピーダンスの低下を抑制することが可能である。樹脂層9A及び9Bの膜厚としては、例えば10μm以上100μm以下である。10μm以下であると、十分なバリア性を有することが出来ず、電解液中での交流インピーダンスが低下する可能性がある。また、100μmを超えると加工性が低下し、プレス加工により塗膜に亀裂が入る可能性もあり、電解液中での金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Cの交流インピーダンスが低下する虞がある。樹脂層9A及び9Bの膜厚のより好ましく範囲は、20μm以上80μm以下である。
【0067】
≪金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11D≫
図6に示す金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11Dは、金属部材1Dと、金属部材1Dの一部に配置される皮膜層2Dと、皮膜層2Dを介して配置されるCFRP層3Dと、電着塗膜4Dとを備える。電着塗膜4Dは、少なくともCFRP層3Dの表面全体と、金属部材1Dと皮膜層2Dとの界面と、皮膜層2DとCFRP層3Dとの界面とを覆うように配置されている。また、金属部材1Dの表面には、皮膜層2Dが配置されていない第一の領域7Cが存在する。皮膜層2Dの表面には、CFRP層3Dが配置されていない第二の領域8Bが存在する。皮膜層2Dは、樹脂層9Dと9Cとを備えている。以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Cと同じ構成については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0068】
(平均膜厚A1と平均膜厚C1との関係)
第二の領域8B上の電着塗膜4Dの平均膜厚C1は、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bの皮膜層2Bより交流インピーダンスが高い皮膜層2Dの上に形成される。そのため、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Bの第二の領域8上の電着塗膜4Bの平均膜厚Cよりも平均膜厚C1は薄くなる。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Dでは、電着塗膜4DのCFRP層3D上の平均膜厚A1と、平均膜厚C1とは、以下の式(2)を満足する。
3μm>C1>A1・・・・・(3)
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Dが、上記(3)式を満足する構成であれば、電着塗膜4Dが、皮膜層2DとCFRP層3Dとの境界を厚く覆うため、腐食の原因となる水や塩水等が皮膜層2DとCFRP層3Dとの界面端部から侵入することを防ぐ事が出来る。
【0069】
≪金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11E≫
図7に示す金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11Eは、金属部材1Eと、金属部材1Eの一部に配置される皮膜層2Eと、皮膜層2Eを介して配置されるCFRP層3Eと、電着塗膜4Eとを備える。電着塗膜4Eは、少なくともCFRP層3Eの表面全体と、金属部材1Eと皮膜層2Eとの界面と、皮膜層2EとCFRP層3Eとの界面とを覆うように配置されている。また、金属部材1Eの表面には、皮膜層2Eが配置されていない第一の領域7Dが存在する。皮膜層2Eの表面には、CFRP層3Eが配置されていない第二の領域8Cが存在する。以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11Dと同じ構成、同じ機能については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0070】
(皮膜層2E)
皮膜層2Eは樹脂層9E、9F、9Gを備えている。そして、樹脂層9Eと樹脂層9Fとの間及び樹脂層9Fと樹脂層9Gとの間に界面を備えている。皮膜層2Eは、複数の界面を備えているため、皮膜層2C、2Dよりも電解液中での交流インピーダンスが高い。皮膜層2E中の界面の数が増えることで電解液中での交流インピーダンスが高まる詳細な理由は不明であるが、界面で双方の樹脂の結合がより強固となるとともに、皮膜樹脂中のメラミン樹脂等が表面濃化することで交流インピーダンスが高まると推察される。複数の樹脂層からなる皮膜層2Eとしては、層数が多い方が交流インピーダンスを高める上でより好ましいが、4層以上の皮膜層2Eを形成する場合、ライン構成上1回の通板で塗装が困難な場合があるため2層または3層がより好ましい。なお、皮膜層2Eの好ましい膜厚は、10μm以上100μm以下である。10μm以下であると、十分なバリア性を有することが出来ず、電解液中での交流インピーダンスが低下する可能性がある。また、100μmを超えると加工性が低下し、プレス加工により塗膜に亀裂が入る可能性もあり、電解液中での交流インピーダンスが低下する虞がある。皮膜層2Eの膜厚は、より好ましくは、20μm以上80μm以下である。なお、樹脂層9E、9F、9Gの単層膜厚については、それぞれの膜厚については、特に制限がなく、複層にした皮膜層2Eの膜厚が上記範囲に収まればよい。
樹脂層9Eの樹脂としては皮膜層2で用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。樹脂層9F,9Gに用いられる樹脂としては、樹脂層9Bに用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0071】
以上、
図3~
図7を参照して、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11A~11Eの構成を説明した。なお、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11A~11Eのいずれにおいても、5質量%塩化ナトリウム水溶液浸漬時の周波数1Hzでの交流インピーダンスが、1×10
7Ω~1×10
9Ωである。この場合において、各層の材料および膜厚は、適宜上記の交流インピーダンスを満足するように、適宜設定される。
【0072】
<金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法について説明する。
【0073】
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の製造方法は、成型加工を行った金属部材1の表面の少なくとも一部に皮膜層2を塗布する工程、さらに皮膜層2の表面の少なくとも一部にCFRP層3(CFRPまたはCFRP形成用プリプレグ)を熱圧着(接着または熱融着)する工程、CFRP層3が接着された部材を、脱脂、表面調整、化成処理、電着塗装、電着塗膜の焼付塗装を行い、電着塗膜を形成する工程を有する。皮膜層2に熱硬化性樹脂を含む場合、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の製造方法は、さらに皮膜層2の焼付を行う工程を備える。金属部材1に下地処理を行う場合は、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の製造方法は、さらに下地処理工程を備える。
なお、脱脂、表面調整、化成処理、電着塗装、電着塗膜の焼付の各工程については、自動車車体で用いられている一般的な方法であることが好ましい。
金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11A~11Eも上記と同様の方法で製造することができるため、以下、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の製造方法のみ記載する。
【0074】
皮膜層2の塗料を塗布する工程としては、特に限定されず、粘性液体の場合、スリットノズルや円形状のノズルからの吐出方式での塗工、刷毛塗り、ブレート塗り、ヘラ塗りなど一般に公知の方法を用いることができる。溶剤に溶解した塗料を塗布する工程としては、一般に公知の塗布方法、例えば、刷毛塗り、スプレー塗工、バーコーター、各種形状のノズルからの吐出塗布、ダイコーター塗布、カーテンコーター塗布、ロールコーター塗布、スクリーン印刷、インクジェット塗布などを用いることができる。粉末状である場合、塗料を塗布する工程としては、粉体塗装等公知の方法を用いることができる。皮膜層2が複数層からなる場合には、例えば、塗料の塗布、乾燥工程を複数繰り返してもよい。
【0075】
なお、金属部材1に行う塗装下地処理を行う場合は、一般に公知の処理方法、例えば、浸漬乾燥方式、浸漬・水洗・乾燥方式、スプレー・水洗・乾燥方式、塗布・乾燥方式、塗布・乾燥硬化方式などを用いることができる。塗布方法としては浸漬、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーターなど一般に公知の方法を用いることができる。
また、乾燥、焼付は、例えば、加熱処理等により行うことができる。加熱条件としては、特に限定されず、例えば80℃以上250℃以下の条件で、10秒以上30分以下とすることができる。
【0076】
次に、熱圧着する工程について説明する。金属部材1の少なくとも一部に皮膜層2を形成後、皮膜層2上にCFRP成形用プリプレグまたはCFRPを配置し、積層体を得る。なお、プリプレグを積層したCFRPを用いる場合、CFRPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていることが好ましい。次に、この積層体を加熱及び加圧(熱圧着)することによって、CFRP層3が皮膜層2上に形成される。
【0077】
ここで、本工程における熱圧着条件は、以下の通りである。
熱圧着温度は、特に限定されないが、例えば、200℃以上250℃以下の範囲内である。このような温度範囲内において、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11を構成する樹脂が結晶性樹脂であれば融点以上の温度がより好ましく、非結晶性樹脂であればTg+150℃以上の温度がより好ましい。250℃温度を超えると、過剰な熱を加えてしまうため樹脂の分解が起きる可能性があるため、好ましくない。また、200℃を下回ると金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11を構成する樹脂の溶融粘度が高く、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11を構成する樹脂が炭素繊維材料21に含侵しないことで、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスの値が1×107Ω~1×109Ωを満たさないことがあるため、好ましくない。
【0078】
熱圧着する際の圧力は、例えば、3MPa以上が好ましく、3MPa以上5MPa以下の範囲内がより好ましい。圧力が5MPaを超えると、過剰な圧力による金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の変形などにより、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11の交流インピーダンスの値が1×107Ω以上を満足できない場合があるため、好ましくない。また圧力が3MPaを下回ると金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11を構成する樹脂の、炭素繊維材料21に対する含浸性が悪くなり、交流インピーダンスの値が1×107Ω以上を満足できない場合あるため、好ましくない。
熱圧着時間については、少なくとも3分以上あれば十分に加熱圧着が可能であり、5分以上20分以下の範囲内であることが好ましい。20分超の場合、CFRP層3中の樹脂が熱で劣化し、交流インピーダンスの値が1×107Ω以上を満足できない場合があるため、好ましくない。
【0079】
電着塗装の方法については、特に限定されず、公知の方法により行う事が出来る。
【0080】
以上、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11の製造方法の例について説明した。なお、得られた金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体11について、適宜後工程を行ってもよい。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11に対する後工程では、必要に応じて、塗装の他、ボルトやリベット留めなどによる他の部材との機械的な接合のため、穴あけ加工、接着接合のための接着剤の塗布などが行われる。
【実施例1】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、あくまでも本発明の一例であって、本発明を限定されない。
【0082】
<金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造>
(金属部材(金属板)の準備)
成分がC:0.131質量%、Si:1.19質量%、Mn:1.92%、P:0.009質量%、S:0.0025質量%、Al:0.027質量%、N:0.0032質量%、残分はFeからなる鋼を熱間圧延、酸洗後、冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。次に、作製した冷延鋼板を連続焼鈍装置で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH2を含むN2雰囲気とした。作製した冷延鋼板を「CR」と称す。また、作製した冷延鋼板を焼鈍工程を有する連続溶融めっき装置の焼鈍工程で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した後にめっき工程で溶融亜鉛めっきした鋼板も準備した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH2を含むN2雰囲気とした。めっきはZn-0.2%Al(「GI」と称す)、Zn-0.09%Al(「GA」と称す)、Zn-1.5%Al-1.5%Mg(「Zn-Al-Mg」と称す)、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Mg(「Zn-Al-Mg-Si」と称す)の4種を用いた。なお、Zn-0.09%Alめっき(GA)の溶融めっき浴を用いた鋼板は溶融めっき浴に鋼板を浸漬して、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルからN2ガスを吹き付けてガスワイピングし、付着量を調整した後に、インダクションヒーターにて板温480℃で加熱することで合金化させて、めっき層中へ鋼板中のFeを拡散させた。
【0083】
なお、作製した金属板の引張強度を測定したところ、いずれも980MPaであった。また、めっきした鋼板のめっきの付着量は、GAは45g/m2、GA以外のめっきは60g/m2とした。なお、作製した鋼板のサイズは、いずれも100mm×200mmであった。
【0084】
また、上記以外に、別途鋼板以外の金属板として、アルミニウム板(以下「AL」と称する)も用意した。アルミニウム板(AL)としては、日本テストパネル製6000系アルミニウム板(A6061、板厚1mm)を使用した。
【0085】
(前処理工程)
金属板の一部(No.22~40)について日本パーカライジング社製アルカリ脱脂剤「ファインクリーナーE6404」で脱脂後に金属板上にγ-アミノプロピルトリエトキシシランを2.5g/L、水分散シリカ(日産化学社製「スノーテックN」を1g/L、水溶性アクリル樹脂(試薬のポリアクリル酸)を3g/L添加した水溶液をバーコーターで塗布し、熱風オーブンで到達板温が150℃となる条件で乾燥させた。また、シリカの付着量はSi換算で10mg/m2とした。シリカ付着量の測定方法としては、蛍光X線を用いて測定し、得られた検出強度と算出した付着量との関係から検量線を引き、これを用いて付着量を求めることもできる。
【0086】
(皮膜層形成工程)
下記の塗料を作製した。
・塗料A:ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロン103:ガラス転移点47℃)に、メラミン樹脂(三井サイアナミッド社製サイメル325)を固形分あたりの質量比80:20(バイロン:サイメル)で添加し、必要に応じシクロヘキサノンを添加し塗料Aを作製した。
・塗料B:ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロン550:ガラス転移点-15℃)に、メラミン樹脂(三井サイアナミッド社製サイメル325)を固形分あたり質量比80:20(バイロン:サイメル)で添加し、必要に応じシクロヘキサノンを添加し塗料Bを作製した。
【0087】
・塗料C:水系ウレタン樹脂(第一工業製薬社製スーパーフレックス150:ガラス転移点40℃)に、メラミン樹脂(三井サイアナミッド社製サイメル325)を固形分あたり質量比80:20(スーパーフレックス:サイメル)で添加し、必要に応じ水を添加し塗料Cを作製した。
・塗料D:エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON 850-S)にポリアミン(DIC社製ラッカマイドTD-993)を固形分あたり質量比70:30(EPICLON:ラッカマイド)で添加した。最後に膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)をエポキシ樹脂とポリアミンの混合物に対し、固形分当たりの質量比99.5:0.5(エポキシ樹脂とポリアミンの混合物:ガラスビーズ)で添加して塗料Dを作製した。そして、シクロヘキサノンで全固形分質量比率が50%となるように希釈した。
【0088】
・塗料E:水系ウレタン樹脂(第一工業製薬社製スーパーフレックス470:ガラス転移点-31℃)に、水系ウレタン樹脂(ADEKA製アデカボンタイターHUX-232)、エポキシ樹脂(ADEKA製アデカレジンEN-0461N)を固形分あたり質量比80:15:5(スーパーフレックス:アデカボンタイター:アデカレジン)で添加し、必要に応じ水を添加し塗料Eを作製した。
【0089】
各金属板上に、作製した塗料のうち表1に示す塗料を用いて、皮膜層を形成した。作製した塗料の内塗料A~C、Eについては、前述の前処理を行った金属板上に塗布し、最高到達点が200℃となるようにオーブンで焼き付けを行い作製した。なお、所定の膜厚となるようにバーコーターの番手、希釈条件を変更して行った。皮膜層が複数の樹脂層からなる場合は、最上層以外は、最高到達点が160℃となるように行い、最上層は200℃で焼き付けを行った。また、皮膜層が複数の樹脂層からなる場合は、表2に記載の複合材の構成となるように、各樹脂層の塗布面積を変えて皮膜層を形成した。
その後、皮膜層を有する鋼板を、80mm×150mm(
図1の構成では20mm×80mm)にシャーリングで切断した。
【0090】
塗料Dについては、80mm×150mm(
図1の構成では20mm×80mm)にシャーリングで切断した金属板上の中央部20mm×80mm(
図4の構成では40mm×100mm)に塗布し、その後、後述の20mm×80mmのCFRPを塗料塗布箇所に接着後、脱脂、表調、化成、電着塗装を行い、電着塗膜の焼付の際に、同時に焼き付けを行った。焼付条件は、設定温度170℃のオーブンに30分とした。
【0091】
(CFRPプリプレグ作製工程)
・CFRPプリプレグ1:新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグ1を作製した。
【0092】
なお、粉砕、分級したフェノキシ樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。平均粒子径については、以下のCFRPプリプレグの作製において、同様に測定した。
【0093】
・CFRPプリプレグ2:新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)を200℃に加熱し、疎水性シリカ(AEROSIL社製AEROSIL RY50)を固形分あたり質量比99:1(フェノトート:AEROSIL)で添加し、均一分散し冷却したのち、粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグ2を作製した。
【0094】
・CFRPプリプレグ3:新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)を200℃に加熱し、疎水性シリカ(AEROSIL社製AEROSIL RY50)を固形分あたり質量比92:8(フェノトート:AEROSIL)で添加し、均一分散し冷却したのち、粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグ3を作製した。
【0095】
・CFRPプリプレグ4:一般試薬のナイロン6を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のナイロン樹脂CFRPプリプレグ4を作製した。
【0096】
・CFRPプリプレグ5:新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体(フェノキシ紛体)を作製した。次いで、一般試薬のナイロン6を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体(ナイロン紛体)を作製した。そして、作製したフェノキシ紛体/ナイロン紛体の比率が質量で50/50(フェノトート:ナイロン6)となる比率で混ぜ合わせて撹拌することでフェノキシ紛体が50%含む紛体を作製した。次に炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で作製したフェノキシ紛体を50%含む紛体を粉体塗装した。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のマトリックス樹脂にフェノキシ樹脂を50%含むCFRPプリプレグ5を作製した。
【0097】
・CFRPプリプレグ6:新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)をオーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.30mmのフェノキシ樹脂プリプレグ6を作製した。
【0098】
(CFRP層の形成)
上述のCFRPプリプレグを20mm×80mmに切断し、所定の厚さ、所定の構成となるように組合せ積層し、熱圧着(熱融着又は接着)により、CFRPプリプレグを皮膜層を介して金属板に部分的又は全面に貼り付け、金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体を得た。なお、皮膜層の最表面が熱可塑性樹脂である場合を熱融着とし、皮膜層の最表面が熱硬化性樹脂である場合を接着とした。熱圧着は、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることにより行った。
【0099】
また、CFRP1~5ついては、皮膜層を積層した金属部材上に作製した20mm×80mmの各CFRPプリプレグ1~5を2枚重ね、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで金属部材とCFRPとを一体化して作製した。
なお、CFRPの貼り付けに当たっては、皮膜層を積層した金属板上の中央部にCFPRプリプレグを配置した。
【0100】
各サンプルで用いられたCFRPの種類を表1に示す。なお、表中、CFRPの欄において、CFRP1~5は、使用したCFRPプリプレグ1~5に対応している。
【0101】
CFRP6及び7については、以下のように構成し、熱融着または接着により、CFRPプリプレグを皮膜層を介して金属板に貼り付けた。
・CFRP6:CFRPプリプレグ1、CFRPプリプレグ6を20mm×80mmに切断しCFRPプリプレグ6/CFRPプリプレグ1/CFRPプリプレグ6の順に積層した。
【0102】
・CFRP7:熱硬化性樹脂CFRP(日鉄住金マテリアルズ社製のエポキシパン系CFRP(VF60%、サイズ20mm×80mm、厚み1mm))を用いた。CFRP7は積層せずに皮膜層を介して金属板に張り付けた。
【0103】
(脱脂、表調、化成、電着)
作製した幅80mm×長さ150mm又は幅20mm×長さ80mmのサンプルを用いて、脱脂、表面調整、りん酸亜鉛処理を行った後に電着塗装を施した。脱脂は、日本パーカライジング社製脱脂剤「ファインクリーナーE6408」を用いて、60℃の条件で5分間浸漬して脱脂した。脱脂したサンプルの表面調整は日本パーカライジング社製「プレパレンX」を用いて、40℃の条件で5分間浸漬した。その後に日本パーカライジング社製りん酸亜鉛化成剤「パルボンドL3065」を用いて35℃の条件で3分間浸漬することで、サンプルのりん酸亜鉛処理を行った。りん酸亜鉛処理を行った後は水洗して150℃雰囲気のオーブンでサンプルを乾燥させた。その後、日本ペイント社製の電着塗料「パワーフロート1200」をサンプルに15μm電着塗装し、170℃雰囲気のオーブンで20分焼き付けて金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルを作製した。
【0104】
得られた各金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルの構成を表1及び表2に示す。なお、表1中の複合体の構成については、
図1の構成をA,
図3の構成をB,
図4の構成をC,
図5の構成をD、
図7の構成をEとした。また、表1中の「―」は、該当する項目の樹脂層が存在しないことを示す。
【0105】
【0106】
【0107】
<評価>
1.交流インピーダンス測定用サンプルの作製及び評価
電解液環境下での交流インピーダンス測定用サンプルは、下記のようにして作製した。金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルのCFRPが貼り付けられていない側の電着塗膜、めっきを除去し、鋼板(金属部材)の素地を露出させ、CFRPを貼り付けた側のCFRP上の電着塗膜をダイプラ・ウィンテス社製の表面微細切削装置「SAICAS(登録商標)EN」を用いてCFRP表面の電着塗膜を剥離した。次いで、φ15mmのパンチ金型を用いたプレス式打ち抜き加工機で打ち抜き加工を行い、打ち抜いたサンプルのバリをやすりで除去した。なお、CFRP上の電着塗膜を剥離する際は、CFRP層と電着塗膜との界面からCFRP層側に100μm以内のCFRP層表面を削り、剥離面積は交流インピーダンスを測定するφ15mmの範囲を削り取り剥離した。
交流インピーダンス測定は次のように行った。上記で作製した交流インピーダンスサンプルにおいて、CFRPを貼り付けた側が溶液接触面となるようにサンプルの鋼板露出部側に作用極として取り付けた。その際シリコンゴムパッキンで測定面(電解液との接触面)は1.0cm2となるように調整した。その他として、対極としてカーボン電極、参照極として銀-塩化銀電極を使用した。電解液は、溶存酸素濃度を飽和させた5%NaCl溶液100ml(25℃)を使用した。サンプルを電解液中に60分間静置後、ポテンショスタットを用い、5mVの交流電圧を重畳し、周波数を10mHzから1kHzまで変化させたときのインピーダンスを測定した。
【0108】
周波数1Hzでの金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルの交流インピーダンスが、5×108Ω以上をA、1×108Ω以上、5×108Ω未満をB、1×107Ω以上、1×108Ω未満をC、5×106Ω以上、1×107Ω未満をD、1×106Ω以上、5×106Ω未満をE、1×106Ω未満をFとし、1×109Ω超をXとし、5%塩化ナトリウム水溶液浸漬時の周波数1Hzでの交流インピーダンスが、1×107Ω以上109Ω以下である、A、B、Cを合格とした。
【0109】
2.打ち抜き加工性
上記打ち抜き加工後の金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルの打ち抜き端部において金属部材からのCFRP層の剥離の有無について調査を行った。剥離なしをA、一部剥離をB、全面剥離をCとし、剥離なしのAを合格とした。
【0110】
3.電着塗膜の膜厚測定
得られた金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルを切り出し、樹脂埋め込み、研磨、蒸着を行い、複合体の断面観察が可能な埋め込みサンプルを作製した。作製したサンプルを走査型電子顕微鏡で、2000倍の倍率で、電着塗膜の各部の平均膜厚A、B、Cを測定した。各平均膜厚は、走査型電子顕微鏡で各部ごとに10視野を観察し、各測定視野で任意の箇所での電着塗膜の膜厚を測定し、10視野分の平均値を電着塗膜の各平均膜厚とした。CFRP層端部付近や皮膜層端部付近などの大きく膜厚が変わる領域は膜厚測定対象部位から除外した。具体的には、平均膜厚Cを測定する場合は、CFRP層端部から平均膜厚Aの距離だけ離れた所から、皮膜層端部までの間の領域に存在する電着塗膜の膜厚を測定した。平均膜厚Bを測定する場合は、皮膜層端部から平均膜厚Cの距離だけ離れた所から、金属部材端部までの間の領域に存在する電着塗膜の膜厚を測定した。表2に記載の電着塗膜の各平均膜厚については、各金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルを仮に
図4の金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体11B、に見立て、CFRP層上に形成された電着塗膜の平均膜厚を平均膜厚Aと、第一の領域上に形成された電着塗膜の平均膜厚を平均膜厚Bと、第二の領域上に形成された電着塗膜の平均膜厚を平均膜厚Cと記載した。
【0111】
4.耐食性
得られた電着塗装前後の金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルを用い、サイクル腐食試験(CCT)を行った。CCTのモードは自動車工業規格JASO-M609に準じて行った。サンプルはCFRP側を評価面として、評価面に塩水が噴霧されるように試験機に設置して試験した。
【0112】
試験は240サイクル(8時間で1サイクル)実施し、試験後にサンプル外観を目視観察し、CFRP貼り付け端部からの赤錆発生長さを測定した。なお、金属板がAL板の場合、赤錆は発生しないが、CFRP貼り付け端部付近の塗膜膨れが発生している箇所の長さを赤錆発生長さとし、測定を行った。
なお、CFRPは幅20mm×長さ80mmであるため、最大赤錆長さは、200mmである。
【0113】
赤錆発生長さが0mmをA、0mm超、5mm以下をB、5mm超、10mm以下をC、10mm超、20mm以下をD、20mm超、100mm以下をE、100mm超をFとし、赤錆発生長さが10mm以下の、A、B、Cを合格とした。
以上の結果を表3に示す。表3中の「―」は、該当する項目の電着塗膜が存在しないことを示す。
【0114】
【0115】
以上の結果により、交流インピーダンスが、1×107Ω~1×109Ωである実施例に係る金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルは、耐食性に優れていた。これに対し、比較例に係る金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルは、耐食性に劣っていた。
【0116】
比較例4、5、8、11、17、30~33,39に係る金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルは、交流インピーダンスが1×107Ω未満かつ電着塗膜が1.4μm超であったため、耐食性に劣っていた。比較例15に係る金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体サンプルは、交流インピーダンスが1×109Ω超かつ電着塗膜が0.3μm未満であったため、耐食性に劣っていた。
【0117】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属すると了解される。
【符号の説明】
【0118】
1、1A、1B、1C、1D、1E 金属部材
2、2A、2B、2C、2D、2E 皮膜層
3、3A、3B、3C、3D、3E 炭素繊維強化樹脂材料層
4、4A、4B、4C、4D、4E 電着塗膜
7、7A、7B、7C、7D 第一の領域
8、8A、8B、8C 第二の領域
9A、9B、9C、9D、9E、9F、9G 樹脂層
11、11A、11B、11C、11D、11E 金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体
21 炭素繊維材料
22 マトリックス樹脂
31 シリコンパッキン
32 対極
33 作用極
34 参照極
35 ポテンショスタット