(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】蛇紋石含有繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 1/10 20060101AFI20230412BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20230412BHJP
D01F 2/06 20060101ALI20230412BHJP
C04B 33/04 20060101ALI20230412BHJP
C04B 33/13 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
D01F1/10
D01F6/92 301M
D01F2/06 Z
C04B33/04 Z
C04B33/13 A
(21)【出願番号】P 2020020215
(22)【出願日】2020-02-08
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】393023145
【氏名又は名称】株式会社ユメロン黒川
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕文
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-219514(JP,A)
【文献】特開2009-072709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/10
D01F 6/92
D01F 2/06
C04B 33/04
C04B 33/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の焼成処理によりクリソタイルが除去され、かつ、微粉末状に粉砕処理された蛇紋石粉末が、繊維素材に含有して繊維状に形成されたことを特徴とする蛇紋石含有繊維。
【請求項2】
蛇紋石粉末の平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の蛇紋石含有繊維。
【請求項3】
蛇紋石粉末が繊維素材に5重量%以上含有されていることを特徴とする請求項1記載の蛇紋石含有繊維。
【請求項4】
繊維素材がポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の蛇紋石含有繊維。
【請求項5】
繊維素材がレーヨンであることを特徴とする請求項1記載の蛇紋石含有繊維。
【請求項6】
蛇紋石を高温で焼成してクリソタイルを除去し、かつ、微粉末状に粉砕して、
この蛇紋石粉末を繊維素材に混入して繊維状に形成することを特徴とする蛇紋石含有繊維の製造方法。
【請求項7】
蛇紋石を1000℃以上かつ60分以上焼成することを特徴とする請求項6記載の蛇紋石含有繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料の改良、更に詳しくは、蛇紋石中のクリソタイルを除去して無害化することができ、かつ、繊維への含有量を大きくしても形態安定性に優れた蛇紋石含有繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
保温性の高い布団やダウンジャケットには羽毛が使用されることも多いが、殺処分や動物アレルギーの問題などがあったことから、遠赤外線放射性を有するセラミック粉末等を含有した人造繊維、及びその人造繊維を用いた繊維製品がこれまでに多数開発されている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
ところで、セラミックス粉末より優れた蓄熱性や遠赤外線放射性を有する天然鉱石として「蛇紋石」が知られており、カンラン岩(フォスライト)が地下深部で水分の作用を受けて変質したものである。
【0004】
カンラン岩は地殻の岩石ではなくマントルを構成する主要な岩石であるため、地表に露出することは稀で、特殊な地域にしか分布しない。カンラン岩は、主にカンラン石と輝石が構成しており、斜長石やスピネルを含んでいることもある。色はカンラン石の色を反映した明るい緑色をしており、粗粒であるために、一つ一つの鉱物がはっきり肉眼で確認できることが多い。カンラン石は変質に弱く、変質すると蛇紋石になる。
【0005】
また、蛇紋石は、クリソタイル、アンチゴライト、リザルダイトの3種類の鉱物が主要構成物であるが、アンチゴライトとリザルダイトは、不定形状、板状の粒子形態であり、繊維状鉱物ではない。これら3種類の鉱物の構成比は、採掘される鉱脈によって異なる。
【0006】
また、蛇紋石は比較的粉砕しやすいことから、製鉄用原料、道路・鉄道・建築用の砕石、土壌改良材や肥料などに現在も用いられている。
【0007】
そしてまた、蛇紋石に含有するクリソタイル(アスベスト)は、耐熱性、耐摩擦性、耐薬品性などの工業的に優れた性質を有する繊維状鉱物であり、建材、摩擦材等の工業製品に長年用いられた。
【0008】
しかしながら、最近になりアスベスト暴露による中皮腫発症が明確となり、2006年には国内では全面使用禁止となっており、蛇紋石粉末中にも、微量(5%未満)ではあるが、クリソタイルが含まれていることが分かっていることから、この蛇紋石粉末を人造繊維などの原料としてそのまま用いることには問題がある。
【0009】
また、通常の蛇紋石粉末では、繊維の形態安定性を維持するために、繊維素材に対して2~3重量%しか含有させることができず、蛇紋石の持つ蓄熱性や遠赤外線放射性などの効果を十分に発揮させることができないという問題がある。
【0010】
さらに、通常の蛇紋石粉末を含有しても繊維の形態安定性が悪く、数cm程度の細切れの短い繊維長にしか成形することできないため、例えば、この繊維を使用した綿状体などを成形することができず、布団やダウンジャケットなどの詰め物としての使用ができず繊維製品の用途が限定されてしまうという不満がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平2-160921号公報
【文献】特開平2-112471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の繊維材料に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、蛇紋石中のクリソタイルを除去して無害化することができ、かつ、繊維への含有量を大きくしても形態安定性に優れた蛇紋石含有繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高温の焼成処理によりクリソタイルが除去され、かつ、微粉末状に粉砕処理された蛇紋石粉末を、繊維素材に含有させて繊維状に形成するという技術的手段を採用したことによって、蛇紋石含有繊維を完成させた。
【0014】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、蛇紋石粉末の平均粒径を0.5μm以下にするという技術的手段を採用することもできる。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、蛇紋石を繊維素材に5重量%以上含有するという技術的手段を採用することもできる。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、繊維素材をポリエステル、あるいはレーヨンにするという技術的手段を採用することもできる。
【0017】
また、本発明は、上記課題を解決するために、蛇紋石を高温で焼成してクリソタイルを除去し、かつ、微粉末状に粉砕して、
この蛇紋石粉末を繊維素材に混入して繊維状に形成するという技術的手段を採用することによって、蛇紋石含有繊維の製造方法を完成させた。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、蛇紋石を1000℃以上かつ60分以上焼成するという技術的手段を採用することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、蛇紋石を高温で焼成してクリソタイルを除去し、かつ、微粉末状に粉砕して、この蛇紋石粉末を繊維素材に混入して繊維状に形成することによって、蛇紋石中のクリソタイルを除去して無害化することができ、かつ、繊維への含有量を大きくしても形態安定性に優れている。
【0020】
本発明の蛇紋石含有繊維は、最終製品ベースで最大12%の含有量であっても、繊維としての高い形態安定性を維持できる。また、従来は鉱物等の添加物の含有量を大きくすると数cm程度の繊維長でしか形態を維持できなかったが、6cmの繊維長でも優れた形態安定性を発揮することができる
【0021】
したがって、本発明の蛇紋石含有繊維を使用して種々の繊維製品に用途を拡大することができ、特に、衣類や寝具類などの高い保温性が要求される物品の詰め物などに使用して繊維製品の用途を拡大することができることから、産業上の利用価値は頗る大きい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の蛇紋石含有繊維は、蛇紋石を高温で焼成してクリソタイルを除去し、かつ、微粉末状に粉砕して、この蛇紋石粉末を繊維素材に混入して繊維状に形成することによって構成されるものである。
【0023】
具体的な製造方法としては、まず、蛇紋石を50~60μm程度の粒径に予備粉砕した後、1000℃以上かつ60分以上焼成する。本実施形態では、1200℃で24時間の焼成処理を行う。こうすることにより、天然の蛇紋石に含まれていたクリソタイルをほぼ完全に除去することができる。この段階で、蛇紋石は結合分子の崩壊によって45~50μmの粒径に細分化される。
【0024】
そして、更に粉砕処理を行うことによって、蛇紋石粉末の平均粒径を0.5μm以下にし、より好ましくは、0.3~0.4μmの範囲にする。粉砕処理には、ロールクラッシャーやボールミル、石臼式の粉挽き装置等を使用して微粉末状に成形する。
【0025】
次いで、本実施形態では、この蛇紋石粉末を繊維素材に5重量%以上含有させる。本実施形態の繊維素材としては、風合いや加工性の良さから、ポリエステルやレーヨンが好適である。
【0026】
繊維素材をポリエステル樹脂にして蛇紋石含有繊維を形成する場合、蛇紋石粉末は、繊維製造工程中において混入することができる。例えば、原料の調整工程、重合工程などで30~40%をバインダー(PBT等)に添加して、含有量の高いマスターバッチを製造し、これを通常のチップに混ぜて溶融紡糸したり、あるいは直接的に紡糸液に混合して湿式紡糸することもできる。
【0027】
ポリエステルを繊維素材として採用した場合における蛇紋石含有繊維の成分および含有量の分析結果を以下に示す。
成分 含有量(%)
酸化マグネシウム 3.3
二酸化ケイ素(シリカ) 2.8
酸化鉄(III) 0.5
酸化カルシウム 0.2
酸化アルミニウム 0.1
酸化マンガン(II) <0.1
酸化銅(II) <0.1
酸化チタン(IV) <0.1
ポリエステル樹脂 約93
その他、微量の金属酸化物を含む。
【0028】
ポリエステル樹脂が約93%であったことから、蛇紋石の主成分が約7%含有されていることが確認された。
【0029】
こうして製造された蛇紋石含有繊維は、最終製品ベースで最大12%の含有量であっても、繊維としての高い形態安定性を維持できることがわかった。また、従来は鉱物等の添加物の含有量を大きくすると数cm程度の繊維長でしか形態を維持できなかったが、本実施形態では、6cmの繊維長でも十分な強度があり、優れた形態安定性を発揮することができる。
【0030】
したがって、本実施形態の蛇紋石含有繊維を使用して種々の繊維製品に用途を拡大することができ、特に、衣類や寝具類などの高い保温性が要求される物品の詰め物などに好適である。
【0031】
また、繊維素材としてレーヨンを採用する場合においては、ビスコースの製造からレーヨンの紡糸までの工程には公知の方法を使用することができる。即ち、パルプやセルロースを苛性ソーダで処理してアルカリセルロースを生成し、二硫化炭素と反応させてセルロース誘導体(セルロースザントゲン酸ソーダ)として、これを希アルカリ溶液に溶解してビスコースを得る。
【0032】
そして、このビスコースに前記のように製造した蛇紋石の微粉末を添加混入して、ミューラー浴(酸性浴)中にノズルから押し出して凝固させることによりレーヨン(本発明の蛇紋石粉末含有繊維)が完成する。
【0033】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、繊維素材は、ポリエステルやレーヨンに限らず、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニル系、ポリウレタン系などの合成繊維や、アセテート系などの半合成繊維などを単独または複合的に採用することもできる。
【0034】
また、焼成温度や焼成時間などの条件や、分量、大きさなども必要に応じて変更することができ、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。