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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】複合型尿流計
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20230412BHJP
   A61B 5/20 20060101ALI20230412BHJP
   G01F 1/00 20220101ALI20230412BHJP
   G01F 1/06 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01N33/493 B
A61B5/20
G01F1/00 Q
G01F1/06 Z
G01N33/493 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018238060
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020101381
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療研究開発推進事業費補助金 橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業」「シーズA115.尿を溜めないで塩分摂取量・深部体温もわかる尿流計」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500035890
【氏名又は名称】株式会社ゼオシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100093894
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 清
(72)【発明者】
【氏名】山末 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】下川 三郎
(72)【発明者】
【氏名】原 智巳
(72)【発明者】
【氏名】倉金 力男
(72)【発明者】
【氏名】河野 英一
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188946(JP,A)
【文献】特開2007-271581(JP,A)
【文献】特開平08-075727(JP,A)
【文献】特開2015-105948(JP,A)
【文献】特開2016-178966(JP,A)
【文献】特開2005-077402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0286559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/493
G01F 1/00
G01F 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採尿者から排尿される尿を採尿する採尿部と、該採尿部により採尿される尿が流れる尿流路を備えた管路体とを有して該管路体の前記尿流路は前記採尿部と連通し、該採尿部から前記管路体に導入されて前記尿流路を通して流れる尿の流量をリアルタイムで検出するための尿流量検出用センサが前記管路体内に設けられ、該管路体には前記尿流量検出用センサの配置位置よりも尿の流れの下流側の部位に前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まる凹部が形成されて、該凹部には該凹部に溜まった尿中の塩分濃度を検出するための尿中塩分濃度検出用センサが設けられていることを特徴とする複合型尿流計。
【請求項2】
前記尿流量検出用センサは、前記管路体を流れる尿の流れによって回転する水車を有しており、該水車の回転情報を検出する回転検出手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の複合型尿流計。
【請求項3】
前記水車と回転軸を同軸とする回転体が前記管路体の外部に設けられ、前記回転検出手段は前記回転体の回転情報を光により検出する回転検出センサを有して形成されていることを特徴とする請求項2記載の複合型尿流計。
【請求項4】
前記回転検出手段は、水車の回転情報を大バルクハイゼンジャンプ現象を生じさせる複合磁気ワイヤを用いた回転検出センサにより形成されていることを特徴とする請求項2記載の複合型尿流計。
【請求項5】
前記管路体は前記水車に対し尿流が縦方向に向けて流れる縦方向の尿流路を有し、前記水車から前記管路体の尿排出部に至るまでの尿流路の出口側は尿の流れを横方向に向かう方向に流路を変換する経路と成しており、前記凹部は前記横方向側に流路を変換した流路の底壁に設けられていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【請求項6】
前記尿中塩分濃度検出用センサは、前記採尿者の尿電導度を検出するための電導度検出用電極と、前記採尿者の尿中のナトリウムイオン濃度を検出するためのナトリウムイオン濃度検出用電極の少なくとも一方の検出電極を有して形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【請求項7】
前記採尿部を長手方向に挟む態様で前記管路体の配設側と反対側に手持ちレバー部が立設されており、該手持ちレバー部の予め定められた基準軸に対する傾き角度を検出するための角度センサと、前記採尿者が採尿するときの前記角度センサにより検出される前記傾き角度が予め定められる適正角度範囲内のときに角度適正状況を知らせるための報知手段とを有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【請求項8】
前記管路体には前記尿流量検出センサよりも尿の流れの下流側の部位に前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まる凹部が形成されて、該凹部に尿の温度を検出することによって前記採尿者の深部体温を検出するための尿温度検出用センサが設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【請求項9】
前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿流量を算出する尿流量算出手段と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿中塩分濃度を算出する塩分濃度算出手段と、尿温度検出センサを有し、該尿温度検出センサにより検出される尿温度の検出情報に基づいて採尿者の深部体温を検出する深部体温検出手段との少なくとも一つが設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【請求項10】
前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報と、尿温度検出センサを有していて該尿温度検出センサにより検出される尿温度の検出情報との少なくとも一つの情報を外部の受信部に向けて発信する情報信号発信部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一つに記載の複合型尿流計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭等の病院外でも容易に用いることができ、尿流量や尿中塩分濃度の測定を可能とするポータブルな複合型尿流計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会において、様々な病気の治療や予防の大切さが重要視されている。高齢化に伴う障害の例として、例えば男性における前立腺肥大等を原因とする排尿障害や膀胱機能障害等の障害を持つ人が増えており、これらの診断や治療を行う上で、尿の流速や量を測定することが重要である。また、塩分の多量摂取は、高血圧や心疾患、腎障害、胃がん、夜間頻尿などに影響するものであり、摂取塩分は大部分が尿に排泄されることから、尿中の塩分量を測定することによって塩分摂取量を推定することも重要であると考えられる。
【0003】
尿流量を測定する尿流計として、従来は、例えば便器に尿流計を設置し、便器の中の水位変化を調べる設置型の尿流計が用いられている。また、尿を容器に貯めて、例えばロードセルを使用して尿の重さの変化を調べるものや、尿を貯めないで尿流量特性を測定する尿流計も提案されている(例えば特許文献1、2、3、参照)。
【0004】
一方、尿中の塩分量測定法としては、例えば24時間尿を、例えばプラスチック製容器や、排尿毎の尿の1/50を比例採尿するユリンメートP(ユリンメートは登録商標:住友ベークライト株式会社製)のような特別な容器に採尿して尿量を測定するとともに、尿中のNa(ナトリウム)イオン濃度を高価な分析機器で測定するか分析機関に分析依頼するかして尿中塩分量を測定する方法があり、尿量と尿中塩分濃度の値に基づき1日の塩分量を推定することが行われる。また、スポット尿から、クレアチニン量とナトリウム量を分析し、年齢、身長、体重のデータから推定される1日のクレアチニン排泄量とナトリウム排泄量との比を利用して、1日の尿への塩分排泄量を推定する方法や、特許文献4のように、夜間尿を1リットルのコップに採取し、その中の塩分量を測り、統計的な演算式から1日の塩分量を推定する方法も知られている。
【0005】
なお、人の体調管理を行う上で、人の深部体温の測定も重要なものであるが、尿は体の核心にある膀胱に蓄積された後に放出されるので、その温度は深部体温を反映すると言われていることから、尿から人の深部体温を的確に測定できれば、体調管理の利用に有効であると考えられる。尿温度を測定する装置として、便器内に検温部を設け、その検温部を通過する尿の温度を測定するものが提案されている(例えば、特許文献5、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5553315号公報
【文献】特開2016-178966号公報
【文献】国際公開WO/2016/152847号公報
【文献】特許第37126396号公報
【文献】特開昭63-171933号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】山末耕太郎 他 著「家庭での塩分、カリウム摂取量測定方の検討」日循予防誌 2004年、39巻 p157-163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記のような便器に設置するタイプの尿流計は、設置に多額の設備費を投入する必要があるといった問題があり、しかも、特定の便器でしか尿流量を測定(計測も)できないといった問題もある。同様に、深部体温を測定する方法においても、特許文献5に記載されているような、便器内に検温部を設けて該検温部を通過する尿の温度を測定する上記のような方法では、特定の便器でしか深部体温を検出できないといった問題がある。
【0009】
一方、尿を容器に貯めて尿量を測定する尿量測定方法は、特定の便器での採尿を必要としないものの、前記のようにロードセルを使用して重さの変化を調べるものは取り扱いがしにくいといった問題があり、尿をコップ等の容器に貯めてから尿量を測定する方法は、臭い等で嫌われることがあった。また、尿を容器にためないで測定するものにおいて、特許文献1に記載されている尿流計は、超音波ドプラー方式を応用した尿流計であるが、指に取り付けて使用されるもので取り扱い性等が悪く、精度も悪いことから実用化されていない。なお、特許文献2、3に記載されている尿流計は、使い勝手が良好であるが、塩分量等の検出はできない。
【0010】
また、従来の尿中塩分濃度測定方法は、それぞれ、以下に示すような問題を有する。例えば容器に貯めた尿のNaイオン濃度を測定する方法においては、Naイオン濃度の測定のためには高価な分析機器を必要としたり、採尿した尿を分析機関に依頼して分析したりする必要があるため、尿中塩分濃度の測定が非常に大変であるといった問題があった。また、採尿される夜間尿等に基づいて1日の塩分量を推定する方法は、夜間尿と24時間尿との関係に個人差があるため精度が不十分で、正確な塩分量推定ができないといった問題があり、スポット尿から1日の尿への塩分排泄量を推定する方法も家庭では測定できず、精度的にも不十分であった。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、排尿時の尿を容器に採尿することなく、その流量や流速を例えば家庭等においても容易に測定できるようにする使い勝手の良好な尿流計で、かつ、尿中塩分濃度も容易に正確に検出可能とし、尿量や塩分量の検出結果を医療用に幅広く利用できるようにする複合型尿流計を提供することにあり、好ましくは、尿の温度を検出できるようにして尿温度の検出結果を医療用に幅広く利用できるような複合型尿流計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成をもって課題を解決するための手段としている。すなわち、第1の発明は、採尿者から排尿される尿を採尿する採尿部と、該採尿部により採尿される尿が流れる尿流路を備えた管路体とを有して該管路体の前記尿流路は前記採尿部と連通し、該採尿部から前記管路体に導入されて前記尿流路を通して流れる尿の流量をリアルタイムで検出するための尿流量検出用センサが前記管路体内に設けられ、該管路体には前記尿流量検出用センサの配置位置よりも尿の流れの下流側の部位に前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まる凹部が形成されて、該凹部には該凹部に溜まった尿中の塩分濃度を検出するための尿中塩分濃度検出用センサが設けられている構成をもって課題を解決するための手段としている。
【0013】
また、第2の発明は、前記第1の発明の構成に加え、前記尿流量検出用センサは、前記管路体の前記尿流路を流れる尿の流れによって回転する水車を有しており、該水車の回転情報を検出する回転検出手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
さらに、第3の発明は、前記第2の発明の構成に加え、前記水車と回転軸を同軸とする回転体が前記管路体の外部に設けられ、前記回転検出手段は前記回転体の回転情報を光により検出する回転検出センサを有して形成されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、第4の発明は、前記第2の発明の構成に加え、前記回転検出手段は、前記水車の回転情報を大バルクハイゼンジャンプ現象を生じさせる複合磁気ワイヤを用いた回転検出センサにより形成されていることを特徴とする。
【0016】
さらに、第5の発明は、前記第2乃至第4のいずれか一つの発明の構成に加え、前記管路体は前記水車に対し尿流が縦方向に向けて流れる縦方向の尿流路を有し、前記水車から前記管路体の尿排出部に至るまでの前記尿流路の出口側は尿の流れを横方向に向かう方向に流路を変換する経路と成しており、前記凹部は前記横方向側に流路を変換した流路の底壁に設けられていることを特徴とする。
【0017】
さらに、第6の発明は、前記第1乃至第5のいずれか一つの発明の構成に加え、前記尿中塩分濃度検出用センサは、前記採尿者の尿電導度を検出するための電導度検出用電極と、前記採尿者の尿中のナトリウムイオン濃度を検出するためのナトリウムイオン濃度検出用電極の少なくとも一方の検出電極を有して形成されていることを特徴とする。
【0018】
さらに、第7の発明は、前記第1乃至第6のいずれか一つの発明の構成に加え、前記採尿部を長手方向に挟む態様で前記管路体の配設側と反対側に手持ちレバー部が立設されており、該手持ちレバー部の予め定められた基準軸に対する傾き角度を検出するための角度センサと、前記採尿者が採尿するときの前記角度センサにより検出される前記傾き角度が予め定められる適正角度範囲内のときに角度適正状況を知らせるための報知手段とを有することを特徴とする。
【0019】
さらに、第8の発明は、前記第1乃至第7のいずれか一つの発明の構成に加え、前記管路体には前記尿流量検出センサよりも尿の流れの下流側の部位に前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まる凹部が形成されて、該凹部に尿の温度を検出することによって前記採尿者の深部体温を検出するための尿温度検出用センサが設けられていることを特徴とする。
【0020】
さらに、第9の発明は、前記第1乃至第8のいずれか一つの発明の構成に加え、前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿流量を算出する尿流量算出手段と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿中塩分濃度を算出する塩分濃度算出手段と、尿温度検出センサを有し、該尿温度検出センサにより検出される尿温度の検出情報に基づいて採尿者の深部体温を検出する深部体温検出手段との少なくとも一つが設けられていることを特徴とする。
【0021】
さらに、第10の発明は、前記第1乃至第9のいずれか一つの発明の構成に加え、前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報と、尿温度検出センサを有していて該尿温度検出センサにより検出される尿温度の検出情報との少なくとも一つの情報を外部の受信部に向けて発信する情報信号発信部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、採尿者から排尿される尿を採尿部により採尿すると、その尿が尿流路を備えた管路体に導入されて前記尿流路を通して流れ、その尿の流量を、前記管路体内に設けられている尿流量検出用センサを介してリアルタイムで検出できるようにすることができる。しかも、本発明によれば、前記管路体には、前記尿流量検出用センサの配置位置よりも尿の流れの下流側の部位に設けられた凹部に、前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まり、その溜まった尿中の塩分濃度を検出するための尿中塩分濃度検出用センサが設けられているので、この塩分濃度検出用センサを介して尿中の塩分濃度(採尿者の深部体温に対応する塩分濃度)もリアルタイムで検出することができる。
【0023】
つまり、本発明は、尿をコップ等の容器に貯めて尿量を測定するのではなく、採尿部により採尿されて管路体の尿流路を通して流れる尿の量をリアルタイムで検出することができるので、尿流計そのものを清潔に保てることに加え、容器に貯めて尿量を測定する場合と異なり、臭いや衛生上の問題を回避できるうえに、尿中塩分濃度検出用センサを介して尿中の塩分濃度も検出することができるので、両者の検出結果を医療用に幅広く利用できるようにする、非常に利用価値の高い複合型尿流計を提供することができる。
【0024】
すなわち、尿流計には、小型軽量で家庭でも使える取り扱い易いものの要求が強いが、本発明の複合型尿流計はこのような要求に応えることができるものであり、例えば高齢者の住宅や施設等に本発明の複合型尿流計を常備しておいて、一定期間、尿流量情報を検出することにより、適切な尿流量情報を得ることができる。そして、その情報に応じて、治療効果の確認や、排尿疾患の早期発見を行えるようにすることができることに加え、大部分の人が自分の塩分の摂取量がわかっておらず栄養士の聞き取りでは精度が悪いことから必要とされていた塩分摂取量の把握にも役立てることができ、高血圧症や心疾患等の、塩分摂取量に関連する疾患の治療や予防に役立てることができる。
【0025】
なお、本発明の複合型尿流計の形状等は特に限定されるものではないが、例えば管路体の配設側と反対側に手持ちレバー部を立設して形成することができ、このようにすることによって手持ち状態で採尿が可能で、使い勝手が良好な複合型尿流計を提供できる。
【0026】
また、本発明において、前記尿流量検出用センサを、前記管路体を流れる尿の流れによって回転する水車を有する構成とすることにより、簡単な構成で尿流量検出用センサを形成することができ、前記水車の回転情報を回転検出手段によって検出することにより、的確な尿流量検出を可能とすることが容易にできる。
【0027】
さらに、本発明において、前記水車と回転軸を同軸とする回転体を前記管路体の外部に設け、前記回転検出手段を、前記回転体の回転情報を光により検出する回転検出センサを有する構成とすることにより、軽量化が可能な簡単な構成で、水車の回転を正確に検出できるようにすることができて、正確な尿流量検出を可能とすることができる。また、前記回転体と前記回転検出センサは前記管路体の外部に設けられているので、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0028】
さらに、本発明において、前記回転検出手段を、水車の回転情報を大バルクハイゼンジャンプ現象を生じさせる複合磁気ワイヤを用いた回転検出センサにより形成することにより、水車が回転することで回転速度に関係なく一定の大きさのパルス電圧を得ることができ、水車の回転数を水車の回転速度に関係なく的確に検出することができる。また、この構成の回転検出手段は超低速回転の検出も可能となるために、極小流量の尿流量も確実に測定できることから、正確な尿流量の測定が可能となる。さらに、センサ自体が電波を発生するためにセンサに電源が不要であることから、流量計を電源に接続すること無く容易に用いることができ、電池等の装置内蔵型や装置取り付け型の電源も不要であることから、流量計の小型化を図ることもできるし、メンテナンスも容易に行うことができる。
【0029】
さらに、本発明において、前記管路体は前記水車に対し尿流が縦方向に向けて流れる縦方向の尿流路を有し、前記水車から前記管路体の尿排出部に至るまでの尿流路の出口側は尿の流れを横方向に向かう方向に流路を変換する経路と成しており、前記凹部は前記横方向側に流路を変換した流路の底壁に設けられているものにいては、以下の効果を奏することができる。
【0030】
つまり、前記管路体は前記水車に対し尿流が縦方向に向けて流れる縦方向の尿流路を有することから尿流が縦方向に流れて水車に適切に当たり、水車を回転させることができるし、前記水車から前記管路体の尿排出部に至るまでの尿流路の出口側は尿の流れを横方向に向かう方向に流路を変換する経路と成して、その横方向側に流路を変換した流路の底壁に、尿中塩分濃度検出用センサを備えた凹部を形成することにより、尿の殆どは尿排出部からスムーズに排出され、一部のみが凹部に溜まって、その凹部に設けられた尿中塩分濃度検出用センサを介して尿中塩分濃度を正確に検出することができる。
【0031】
さらに、本発明において、前記尿中塩分濃度検出用センサは、前記採尿者の尿電導度を検出するための電導度検出用電極と、前記採尿者の尿中のナトリウムイオン濃度を検出するためのナトリウムイオン濃度検出用電極との少なくとも一方の検出電極を有して形成されているものにおいては、電導度検出用電極とナトリウムイオン濃度検出用電極の少なくとも一方の電極を用いて尿中の塩分濃度の的確な検出を可能とすることができる。特に電導度検出用電極は現在においても安価であり、測定毎の校正も不要で寿命も長いので、安価な複合型尿流計の実現を可能とし、メンテナンスも容易となる。
【0032】
さらに、本発明において、前記採尿部を長手方向に挟む態様で前記管路体の配設側と反対側に手持ちレバー部が立設されている構成とすることによって、複合型尿流計を手持ち状態にして利用できる。また、前記手持ちレバー部の予め定められた基準軸に対する傾き角度を検出するための角度センサと、採尿者が採尿するときの前記角度センサにより検出される前記傾き角度が予め定められる適正角度範囲内のときに角度適正状況を知らせるための報知手段とを有する構成とすることにより、利用者に、手持ちレバー部を前記適正角度に傾いた状態にして利用するように促すことができ、採尿や尿流量検出をより一層的確に行えるようにすることができる。
【0033】
さらに、本発明において、前記管路体には前記尿流量検出センサよりも尿の流れの下流側の部位に前記管路体を通して流れる尿の一部が溜まる凹部を形成し、該凹部に尿の温度を検出することによって前記採尿者の深部体温を検出するための尿温度検出用センサを設けることにより、採尿者が複合型尿流計で採尿する毎に、採尿者の深部体温を、尿温度検出用センサを介して検出できるようにすることができる。そして、尿温度検出用センサを介して排尿ごとに採尿者の深部温度を測定できるようにすることで、感染症などの症状をいち早く知ることができる。なお、深部体温は、例えば採尿の経過に伴って立ち上がったピーク温度となった温度を採尿者の深部体温として排尿毎に検出することができる。
【0034】
さらに、本発明において、前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿流量を算出する尿流量算出手段と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報に基づいて尿中塩分濃度を算出する塩分濃度算出手段と、尿温度検出センサを有し、該尿温度検出センサにより検出される尿温度の検出情報に基づいて採尿者の深部体温を検出する深部体温検出手段との少なくとも一つが設けられているものにおいては、複合型尿流計によって尿流量を例えばリアルタイムで求めたり、尿中塩分濃度を求めたり、採尿者の深部体温を求めたりすることができる。そのため、例えばそれらの値を複合型尿流計に表示するように構成することにより、採尿者が尿流量と塩分濃度と深部体温の少なくとも一つの表示される値を複合型尿流計を見て採尿ごとに把握できるようにすることができる。
【0035】
さらに、本発明において、前記尿流量検出用センサにより検出される検出情報と、前記尿中塩分濃度検出用センサにより検出される検出情報と、尿温度検出センサを有していて該尿温度検出用センサによる検出情報との少なくとも一つの情報を外部の受信部に向けて発信する情報信号発信部が設けられているものにおいては、情報信号発信部から発信する情報に基づいて、外部の受信部側に設けた情報解析手段等によって、前記発信される情報に基づいた様々な解析を行うことができる。
【0036】
つまり、利用者が単純に排尿の度に尿流計を用いて排尿するだけで、その尿流量や尿量、尿中塩分濃度、尿の温度に関する少なくとも一つの検出情報を外部に伝えられることができ、その検出情報をもとに、外部で尿流量、尿量、尿中塩分濃度、尿温度の少なくとも一つを把握できるので、例えば医療機関等が利用して治療効果の確認、排尿疾患の早期発見、高血圧の予防、体調管理等に適宜に役立てることができる。また、例えば高齢者施設等において、その後の介護等に役立てることもできるし、より幅広く有効な情報利用を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係る複合型尿流計の一実施例を説明するための模式的な断面図である。
図2】実施例の複合型尿流計に設けられる尿中塩分濃度検出用センサの構成例(a)と、尿中塩分濃度検出用センサの他の例(b)をそれぞれ示す模式的な斜視説明図である。
図3】実施例の複合型尿流計に設けられる尿流量検出用センサの構成を説明するための模式的な説明図である。
図4】実施例の複合型尿流計における手持ちレバー部の傾き角度検出用の基準軸の例と、基準軸に対する傾き角度を検出するための角度センサの配設例を示す模式的な説明図である。
図5】実施例の複合型尿流計により測定した尿流量特性と尿量特性の一例を示すグラフである。
図6】実施例の複合型尿流計により測定した尿流量から求められる尿量と重量法により測定した尿量との関係例を示すグラフである。
図7】実施例の複合型尿流計により測定した尿流量特性例および尿量特性例を示すグラフ(a)と据え置き型尿流計により測定した尿流量特性例を示すグラフ(b)である。
図8】電導度法で測定した尿中塩分濃度とイオン電極法(イオン分析法)で測定した尿中塩分濃度との関係例を示すグラフ(a)と、電導度法で測定後に補正して求めた尿中塩分濃度とイオン電極法で測定した尿中塩分濃度との関係例を示すグラフ(b)である。
図9】電導度法で測定後に補正して求めた24時間尿中塩分量とイオン電極法で測定した24時間塩分量との関係例を示すグラフである。
図10】実施例の複合型尿流計を用いたデータ解析システム例を説明するための模式的なイメージ図である。
図11】尿流量特性において正常者と異常者(疾患がある人)の尿流量パタン例を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【実施例
【0039】
図1には、本発明に係る複合型尿流計の一実施例が模式的な断面図により示されている。同図に示されるように、本実施例の複合型尿流計1は、排尿される尿を採尿する採尿部2と、該採尿部2により採尿される尿が流れる尿流路3が形成された管路体4とを有している。管路体4は途中で屈曲した形状と成しており、図1の縦方向から途中で方向を横方向に変更する態様に形成されている。管路体4内の上端側には、尿が流れる尿流路管20が設けられており、尿流路管20を介して採尿部2が管路体4の尿流路3に連通している。
【0040】
採尿部2の上端側(図では左斜め上側)の尿入口側は、利用者の排尿器官に馴染む態様で排尿器官近傍に配置されるような曲線状(曲面状)に形成されている。採尿部2は、このような形状に形成されることによりヒトの排尿器官(尿の排出部)近傍にフィットさせて採尿するようにすることができ、利用者が男性であっても女性であっても採尿しやすい形状と成し、尿の飛び散りを防ぐ。
【0041】
尿流路管20の下端側の管路体4内には、水車7を備えた尿流量検出用センサ6が設けられており、尿流量検出用センサ6は、採尿部2から管路体4に導入されて尿流路3を通して流れる尿の流量をリアルタイムで検出するためのセンサとして機能する。水車7は尿流路管20を出る尿の流れによって回転するものであり、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等のプラスチック製の8枚の羽根8を有し、例えば30mmφに形成されている。尿流路3は水車7に対し尿流が縦方向(使用状態において例えば床面に対して縦方向)に向けて流れる縦方向の部位を有しており(水車7に対し尿流が縦方向に向けて流れる縦方向の尿流路部位に水車7が設けられており)、水車7から管路体4の尿排出部30に至るまでの尿流路3の出口側は尿の流れを横方向に向かう方向に流路を変換する経路と成している。
【0042】
また、図3に示されるように、管路体4の外部には、水車(羽根車)7と回転軸を同軸とする回転体である円盤9と、該円盤9の回転情報を光により検出する回転検出センサ(光センサ)10とが設けられており、該回転検出センサ10を有して、前記水車7の回転情報を検出する回転検出手段が形成されている。本実施例では、採尿部2で採尿された尿が水車7の羽根8にあたって水車7が回転すると、その水車7の回転と共に回転体である円盤9が回転する。この円盤9の回転に伴い、円盤9のスリット11を通過する光が回転検出センサ(光センサ)10で検出されると、スリット11以外の部分によって遮られる光通過間隔が例えば同図に示されるようなパルス数計測装置12により測定(計測)される。つまり、円盤9の回転情報が回転検出センサ10により検出され、パルス数計測装置12により測定される。
【0043】
例えば、予めパルス数計測装置12による測定値(パルス数)と尿流路3を通過する尿流速度との相関関係を求めておき、実際に尿流量測定時にパルス数測定値12により測定される測定値と前記相関関係とに基づいて、採尿ごとの尿流速度(時間ごとの尿流量)を求めることができる。また、前記測定パルス数を積分することにより、総排尿流量を測定することができる。なお、パルス数計測装置12は、管路体4の外に取り付ける態様として複合型尿流計1の一部としてもよいし、複合型尿流計1とは別に設けて、回転検出センサ10のセンサ情報を無線によりパルス数計測装置12に送信するようにしてもよい。
【0044】
また、パルス数計測装置12を複合型尿流計1に設ける場合に、その測定値から尿流量を算出する尿流量算出手段を複合型尿流計1に設けてもよいし、パルス数計測装置12の測定値を無線によって外部の尿流量算出手段に送信して外部の尿流量算出手段により尿流量を求めるようにしてもよい。さらに、複合型尿流計1とは別に、外部にパルス数計測装置12を設け、尿流量検出用センサ6の水車7が尿流によって回転することに伴って回転検出センサ10により検出される検出情報を、外部のパルス数計測装置12に無線で送信し、そのパルス数計測装置12によりパルス数を測定して、その値に基づき外部に設けた尿流量算出手段により尿流量を求めるようにしてもよい。
【0045】
図1に示されるように、管路体4には尿流量検出用センサ6の配置位置よりも尿の流れの下流側の部位に、管路体4を通して流れる尿の一部が溜まる凹部13が形成されている。凹部13は前記横方向側に流路を変換した流路の底壁に設けられており、凹部13の深さは例えば10mm程度である。図2に示されるように、凹部13には、深さ7.5mmのポリエチレン樹脂のセル14が設けられており、セル14には、凹部13に溜まった尿中の塩分濃度を検出するための尿中塩分濃度検出用センサ15と、尿の温度を検出するための尿温度検出用センサ16とが設けられている。
【0046】
尿中塩分濃度検出用センサ15は、セル14の底部に設けられた基板17に、塩化銀ペーストをスクリーン印刷した対の電極18を有して形成されており、この電極18は、採尿者の深部体温に対応する尿電導度を検出するための電導度検出用電極として機能する。凹部13に尿が溜まると電極18間に電流が流れるので、その電流値から尿電導度が検出される。なお、尿が尿流路3を流れ出してから尿電導度の値(塩分濃度に対応する電導度値)が立ち上がって飽和状態になる時の値が採尿者の深部体温に対応する尿中塩分濃度に対応する電導度値として求められるものである。
【0047】
そして、予め求められている尿の電導度と塩分濃度の関係の式と、排尿1回ごとの電導度値から1回ごとの尿中の排泄塩分濃度を求めることができるものであり、求めた塩分濃度に、水車7の回転に基づいて算出された尿量を積算して排尿1回毎の尿中塩分量が求められる。また、その排尿1回毎の塩分量を1日の値として積算したものが、1日の塩分排泄量として算出される(本実施例の複合型尿流計1は携帯が可能で、排尿毎に尿流量や塩分濃度を検出することが容易にできるものであるから、例えば1日において全ての排尿毎に尿量と塩分濃度を求めて全ての排尿毎の塩分量を求め、その値を全て加えることにより1日の塩分排泄量を正確に求めることができる)。
【0048】
なお、このように電極18間に流れる電流値から尿電導度を求める回路や尿電導度値から塩分濃度を求める回路を複合型尿流計1に設けてもよいが、本実施例では、後述するように、電極18間に流れる電流値を通信により外部に送信し、その電流値に基づいて尿電導度や尿中の塩分濃度を外部の装置で算出するようにしている。
【0049】
また、尿温度検出用センサ16は、セル14の壁の底部に、温度センサとしてのサーミスタを設置して形成されている。複合型尿流計1に温度表示部を設け、その温度表示部に尿温度検出用センサ16の検出値を表示するようにしてもよいし、尿温度検出用センサ16の検出値を複合型尿流計1の外部に設けた温度表示手段に無線により送信し、その温度表示手段により表示してもよい。複合型尿流計1に温度表示部を設ける場合には、例えば図1の符号32で示す部位に設けられる。
【0050】
なお、深部体温は人体の表面温度と異なり、外部環境の影響を受けにくい人体本来の状態を示すパラメータであるので、サーカディアンリズムの測定や体調の確認には好適である。しかしながら、一般に、深部体温測定するには、直腸温や鼓膜温などを測る必要があり、このような測定法では負荷がかかるため、このような測定法に代わる測定法が望まれている。本実施例の複合型尿流計1は、採尿者が採尿する毎に、非常に容易に、尿温度検出用センサ16を介して採尿者の深部体温を検出できるため、前記要望に応えることができるものであり、採尿者の体調管理のために非常に便利である。
【0051】
図1図4に示されるように、採尿部2を長手方向に挟む態様で管路体4の配設側と反対側には手持ちレバー部5が立設されており、本実施例の複合型尿流計1は、手持ちレバー部5を備えた尿流計ホルダ31と複合型尿流計の本体とが一体化して形成されており、電気的にも接続されている(尿流量検出用センサ6や塩分濃度検出用センサ15、尿温度検出センサ16の検出情報が手持ちレバー部5内の回路に加えられ、後述する発信部により外部に発信できるように形成されている)。
【0052】
尿流計ホルダ31には、手持ちレバー部5の予め定められた基準軸(例えば本実施例では図4のX軸とY軸とZ軸)に対する傾き角度を検出するための角度センサ19が設けられている。また、採尿者が採尿するときの角度センサ19により検出される前記傾き角度が予め定められる適正角度範囲内のときに角度適正状況を知らせるための報知手段としてのLED表示部が尿流計ホルダ31の表示部32に設けられており、前記傾き角度が前記適正角度範囲内の時にはLED表示部のLEDが点灯する。なお、基準軸は適宜設定されるものであり、また、報知手段はLED表示部以外の表示部により形成してもよいし、音声により知らせるタイプの手段としてもよい。
【0053】
本実施例では、上記構成により、採尿時の複合型尿流計1の角度によって尿流量特性が変わっても適正角度の範囲内での採尿ができるため、的確に尿流量検出を行うことができる。尿流計ホルダ31は複合型尿流計1から取り外し可能としてもよいが、採尿時には複合型尿流計1と一体化した状態で採尿が行われ、尿流量や尿中塩分濃度、尿の温度がそれぞれ検出されるように構成されている。
【0054】
また、尿流計ホルダ31と複合型尿流計1の本体との接続に際し、複合型尿流計1の本体の高さ位置を段階的に切り換えることができるように形成してもよい。そうすると、利用者の体型や好みに応じて複合型尿流計1の取り付け高さを調整でき、採尿を良好に行うことができる。なお、この高さ調整構成は特に限定されるものではなく、省略することもできるし、連続的に調整可能としてもよい。
【0055】
また、本実施例において、図1図4に示されるように、採尿部2の内周壁には、凸部により形成された回転状流下抑制ガイド35が設けられている。中央に形成された回転状流下抑制ガイド35の先端部は先細状に斜めに形成されており、尿流路管20の尿導入口と間隔を介している。回転状流下抑制ガイド35は、採尿される尿が回転しながら流下せずに(乱流が形成されずに)前記内周壁の上部側から下部側に向けて流下して尿流路管20の尿導入口側に集められて流下するようにするものである。
【0056】
つまり、採尿部2に尿が導入されると、採尿部2の中央側に導入された尿は中央の回転状流下抑制ガイド35に沿うような状態で流下していき、また、採尿部2の中央よりも両サイド側に導入された尿も、それぞれ、回転状流下抑制ガイド35にぶつかってから中央の回転状流下抑制ガイド35に沿って流下する。そして、いずれの場合も(いずれの方向、角度に尿が導入されても)、尿は中央の回転状流下抑制ガイド35の先端側に集められ、先端部の先細形状に沿って流れて尿流管路20の内壁に沿うような状態で尿流管路20に導入され、概ね強制的に垂直に流下させられることで、ほぼ同時期に尿流管路20に導入される。
【0057】
尿流路管20の構成は前記特許文献3に記載されており周知であるため、本明細書においては詳細説明を省略するが、尿流路管20には上端側に羽根状仕切り板24が設けられ、管路先端側は斜めにそぎ落とされて開口部21が形成されたノズル部22と成し、尿流路管20に導入された尿は、ノズル部22に設けられたガイド23にガイドされ、回転せずに流下してノズル部22の先端に対向する羽根8の先端部に垂直または略垂直に当たるようになっている。
【0058】
なお、本実施例において、ノズル部22のガイド23にガイドされずに直接的に水車7に当たる尿もあるが、その尿も水車7の羽根8の先端側に当たる。これは、本実施例の複合型尿流計1は、ノズル部22の開口部21と床面との角度が垂直または垂直に近い角度になるように、手持ちレバー部5を利用者が持つように促される(前記のようにLED表示部の表示を確認することにより適切な角度で持つことができる)ためである。ここでいう垂直に近い角度とは、例えば垂直との角度差が0°~15°程度までの範囲である。
【0059】
ノズル部22の開口部21と床面との角度が垂直または垂直に近い角度になるように配置されると、勢いが大きくてガイド23にガイドされずに直接的に水車7に当たる尿は、直接的に、垂直または垂直に近い角度で水車7の羽根8の先端部に適切に当たる。また、ノズル部22の側周壁側に流下してガイド23にガイドされてノズル部22の先端の噴出口36から噴射(流下)して水車7に当たる尿も、水車7の羽根8の先端部に適切に当たる。つまり、いずれの場合でも尿は水車7の羽根8の先端部にピンポイントで適切に当たる。
【0060】
そして、尿が水車7に当たって水車7が回転し、前記のように水車7の回転情報が前記回転検出手段により検出され、その回転検出情報に基づき尿流量が検出される。つまり、前記の如く水車7の回転と共に円盤9が回転し、その円盤9のスリット11から光が通過し、その光通過のパルス数がパルス数計測装置12により測定され、その値に基づいて尿流量が検出される。
【0061】
図10には、実施例の複合型尿流計を用いたデータ解析システム例を説明するための模式的なイメージ図が示されている。この例は、本実施例の複合型尿流計1において、尿流量検出用センサ6により検出される検出情報と、尿中塩分濃度検出用センサ15により検出される検出情報と、尿温度検出センサ16により検出される検出情報の少なくとも一つの情報(例えば全部の情報)を外部の装置の受信部に向けて発信する情報信号発信部が手持ちレバー部5に設けられている例である。
【0062】
同図において、符号24はプリンタ、符号25はスマートフォン、符号26は無線端末付きタブレット、符号27はパーソナルコンピュータ、符号28はラベルプリンタ、符号29はクラウドをそれぞれ示す。なお、通信方法として、低電力ブルーソース通信を用いている。そして、このように通信機能を持たせると、遠隔医療、在宅医療にも有用となりうるというメリットを有する。
【0063】
本実施例は以上のように構成されており、図5には、本実施例の複合型尿流計1により測定した尿流量曲線と流量特性の一例がグラフにより示されている。同図の特性線aに尿流量特性が示され、特性線bに尿量特性が示されており、同図のsは秒である。また、図6には、本実施例の複合型尿流計1により測定した尿流量から求められる尿量と、重量法により測定した尿量との関係例が示されている。同図において、特性線cは、本実施例の複合型尿流計1により測定した尿流量から求められる尿量と重量法により測定した尿量との相関関数Rが1の直線である。
【0064】
図6に示されるように、本実施例の複合型尿流計1により測定した尿流量から求められる尿量は、重量法により測定した尿量とほぼ一致しており(相関係数Rが1に極めて近い0.98であり)、正確に尿流量を測定できることが実証された。なお、この図は、本実施例の複合型尿流計1の尿流量測定精度を重量法と比較するために、複合型尿流計1を通して排尿した尿を1Lのカップに受けてその尿重量を求め、その重量値を比重1.005 で割って求めた尿量と、本実施例の複合型尿流計1で測定した尿量とを比較したものである。
【0065】
そして、図5に示されるように、尿流量を時系列的に検出することにより流量と共に流速が求まり、また、尿流量曲線(特性線a)に基づき、採尿者が前立腺肥大等を原因とする排尿障害や膀胱機能障害等の障害を持つ人か、それらの障害の疑いはほぼないか、といった状況を把握できるようにすることができる。なお、図11には、尿流量データのパタン例が模式的に示されており、図5に示される例については、前記排尿障害や膀胱機能障害等の障害の疑いがあると考えられる。
【0066】
図7(a)には、本実施例の複合型尿流計1により測定した尿流量曲線と尿量特性の別の例が示されており、図7(b)には、比較例として、既存の据え置き型尿流計により、便器水位の変化によって尿流量と尿量測定した尿流量特性と尿量特性の例が示されている。図7(a)の特性線aには尿流量特性が示され、特性線bには尿量特性が示されている。また、図7(b)の特性線aには尿流量特性が示されている。なお、図7のsは秒である。これらの結果をみると、比較例の測定精度は±10%程度であるのに対し、本実施例の複合型尿流計1の測定精度は±5%程度であり、本実施例の方が比較例よりも測定精度が高く、微細な変化を検出することができる。
【0067】
なお、尿中の塩分濃度を検出する手段としては、非特許文献1に示すように、電導度法とイオン電極法があるが、本実施例では、前記のように、管路体4に形成された凹部13に溜まった尿中の塩分濃度を検出するための尿中塩分濃度検出用センサ15として、前記のような電極18を設けて尿中電導度を求める電導度法を適用している。その理由は、以下の通りである。
【0068】
尿中には、他の電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウム塩など)が含まれており、これらの電解質は、人体において、ナトリウム塩を追い出す方向に作用し、ナトリウム塩と一緒に尿中に排出される。そのため、ナトリウムイオンそのものを検出するイオン電極法による塩分濃度の検出と異なり、尿中の電導度を検出すると、前記電解質の電導度の影響を受けることになるが、以下のように電導度法による測定値の補正を行うことにより、尿中の塩分濃度を的確に検出できる。
【0069】
すなわち、図8(a)の点に示されるように、電導度法で測定した尿中塩分濃度の測定値とイオン電極法で測定した尿中塩分濃度の測定値との相関は、イオン電極法で測定した値をY、電極法で測定した値をXとしたときの相関式(Y=0.61(X)1.05)で表すことができる。そこで、電極法で測定した値をこの相関式で補正することにより、図8(b)の点に示されるように、イオン電極法で塩分濃度を検出した結果と電導度法で塩分濃度を検出した結果とは、相関係数Rが1の特性線cに対し、相関係数Rが0.92の高い相関性を得ることができる。なお、図8(a)、(b)において、pは危険率、Nは塩分濃度検出を行った人数を示している。
【0070】
図9には、188名の成人について、イオン電極法で24時間尿中の塩分量を求めた結果と、電導度法で24時間尿中の塩分量を求めた結果との関係が点により示されており、相関係数Rが1の特性線cに対して相関係数が0.91、平均値は9.9 ±3.9gと9.8±3.6gで、有意差は見られなかった。また、電導度はコストが安く、校正等のメンテナンスが不要というメリットがある。つまり、本実施例は、電導度法により尿中塩分濃度を検出して補正するという方法を適用することにより、的確に尿中塩分濃度を検出でき、かつ、使い勝手も良好で、コストも安い複合型尿流計を実現できる。
【0071】
なお、日本高血圧ガイドラインでは、1日当たりの成人の塩分摂取量の上限値は6gとしており、本実施例の複合型尿流計1によって電導度法で求めた測定結果は、6g未満を起点とした感度が0.977、特異度は0.8であった。つまり、6g未満の人が6g未満とする特異度は十分ではないが、6g以上の人が6g以上とする感度は高く、減塩指導に有効である。
【0072】
また、ナトリウム/カリウム比には個人差があり、中にはこの比が1.5以下の著しく低い値となる人や、この比が8以上の著しく高い人がいる。このようにナトリウム/カリウム比が著しく低い人と高い人の割合は全体の10%以下の低い値であるが、尿中のナトリウムとカリウムの比率を測定する装置が市販されているため、このような装置を使用し、その比率が1.5以下、8以上の人について、本実施例のように電導度法で測定した値を補正すれば、ほぼ正しい塩分濃度を求めることができ、より正しい塩分排泄量を求めることができる。
【0073】
表1には、本実施例の複合型尿流計1で測定した1日の排尿ごとの尿量、尿流量特性、排泄塩分量、尿温度の一例が示されており、この例において、1日の排尿量は1600ml、塩分排泄量は7.2gであった。同時に測定した重量法で量を測定し、イオン電極法で濃度を測定した塩分量とほぼ一致した。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な態様を採り得る。つまり、本発明は、前記実施例の各構成部分を様々に組み合わせて構築されるものである。以下に、その他の実施例をいくつか説明するが、この説明に含まれていない実施例でも、前記のように、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、例えば各請求項の構成を様々に組み合わせて構築する等、様々な態様を採り得る。
【0076】
例えば、前記実施例では、尿中塩分濃度検出用センサ15は、図2(a)に示したような態様に形成したが、例えば図2(b)に示されるように、セル14の互いに対向する側部内壁に設けた基板17に、例えば塩化銀ペーストをスクリーン印刷した対の電極18を有して形成されて、尿中電導度を検出できるようにしてもよい。
【0077】
また、前記実施例では、尿中塩分濃度検出用センサ15は、電導度法を用いて尿中塩分濃度を検出する構成としたが、非特許文献1に示したような平面電極型のイオンセンサを、前記実施例における複合型尿流計1の凹部13内のセル14中に設けて形成し、イオン電極法により塩分濃度を検出するようにしてもよい。なお、イオンセンサとして、非特許文献1に記載されているような、採尿者の深部体温に対応する尿中のナトリウムイオンの濃度を検出するためのナトリウムイオン濃度検出用電極およびカリウムイオン濃度を検出するためのカリウムイオン濃度検出用電極の両方を設けてイオン電極法により塩分濃度を検出すれば、塩分排泄量だけでなくカリウム排泄量(摂取量の70~80%が尿中に排泄されると言われている)も測定可能である。
【0078】
このように、カリウムイオン電極も設けると、尿中のカリウムイオンを検出でき、カリウムは血圧低下に有効なことから、それが多く含まれる野菜や果物などの摂取指導につながる。一方、ナトリウムだけでなく、カリウムなどの電解質をできるだけ減らすことが必要な腎患者の予防、治療にもつながり、透析患者を減らす効果が予想される。そのため、従来は泌尿器科医以外はほとんど使用されていなかった尿流計が、循環器内科、腎臓内科、糖尿病内科、神経内科、産婦人科、総合医などにも使用される可能性が高い。なお、平面電極型のイオンセンサはコストが高く、1日一回の校正も必要であるというデメリットも有していることから、現状では、電導度法を適用するほうが好ましいと考えられるが、将来的に、イオンセンサのコストダウンや性能向上が図れれば、イオン電極法の利用価値も高くなると考えられる。
【0079】
さらに、前記実施例では、凹部13の深さは10mmとしたが、凹部13の深さは特に限定されるものではく適宜設定されるものであり、例えば5mm~10mm程度に形成し、また、凹部13の深さとセル14の深さとを対応させることにより、尿の一部が溜まって尿中塩分濃度が検出できるように適宜形成されるものである。
【0080】
さらに、前記実施例では、水車7の回転を検出する回転検出手段として、図3に示したような円盤9と、円盤9の回転情報を光により検出する回転検出センサ(光センサ)10を有する構成としたが、回転検出手段の構成は特に限定されることはなく適宜設定されるものであり、例えば各種の近接スイッチやホール素子を利用したセンサ等を適用してもよく、様々なものが適用できる。例えば、回転検出手段は、水車の回転情報を大バルクハイゼンジャンプ現象を生じさせる複合磁気ワイヤを用いた回転検出センサにより形成してもよい。この構成は前記特許文献3に記載されていて周知であるため、本明細書での詳細説明は省略するが、例えば羽根8の先端部に磁石を設け、尿流路管20を通る尿の加速度が水車7の回転の角速度に変換され、水車7の回転で発生したパルス回転検出センサで検出し、回転情報に基づき尿流量が検出される構成とすることができる。
【0081】
さらに、本発明の複合型尿流計を利用して尿流量や尿量、尿中塩分濃度、尿温度を検出した際、例えば排尿毎にデータを記録し、起床時刻や就寝時刻を別途設定し(例えば表1、参照)、排尿日誌をデータ処理装置が年月日毎に自動的に形成するようなシステムを形成してもよく、このようにすると、症状や疾患に関する診断指針の作成や、その応用(例えば疾患の治療、介護等への応用)も可能になる。例えば図11に示したような尿流量データ例のパタンを予め蓄積しておき、これらのようなデータ例と複合型尿流計1で測定して得られたデータに基づいて作成される経時的尿流量グラフとを比較することにより、症状や疾患に関する診断指針を作成することもできる。
【0082】
なお、尿流量情報はグラフ化した情報とするとは限らず、テーブルデータとしてもよいし、数値を羅列してものとしてもよく、尿流量や総尿量を求められるものであれば、その態様はどのような態様のものでもよい。また、尿中塩分濃度や尿温度に関しても、データの蓄積により、医療分野や介護分野等に様々な利用の仕方が適用されるものである。
【0083】
さらに、本発明の複合型尿流計において、管路体4内に設けられる尿流管路20やノズル部22の径や長さも限定されるものでなく、適宜設定されるものである。なお、尿流路管20の大きさ等は例えば管路体4の大きさに対応させて適宜形成されるものであるが、尿がよどみなく流れるような尿流路を有する尿流路管20が形成され、その先端側に本実施例に設けたようなノズル部22を形成してノズル部22に開口部21とガイド23を設けると、前記実施例と同様の効果を奏することができるため、望ましい。なお、尿流管路20は省略することもできる。
【0084】
さらに、前記本実施例では、採尿部2に、凸形状の回転状流下抑制ガイド35を設けたが、回転状流下抑制ガイド35は凹部により形成してもよいし、回転状流下抑制ガイド35は省略することもできる。ただし、回転状流下抑制ガイド35を設けることが好ましい。また、複合型尿流計1の採尿部2の形状や大きさは、特に限定されるものでなく、利用者の排尿器官からの尿を良好に採尿できるように適宜設定されるものである。
【0085】
さらに、複合型尿流計1に適用される尿流量検出用センサ6の水車7も前記実施例で適用したものとは限らず、羽根8の枚数や大きさ、形状等は適宜設定されるものである。
【0086】
さらに、前記実施例では、複合型尿流計1は、手持ちレバーを有して手持ちにより用いられるものとしたが、セット台を設ける等して便器に取り付けて用いられるものとしてもよい。座位での排尿は利用者の姿勢が規定された状態となるが、採尿部2の前記曲線状の構成によって、利用者の排尿器官にフィットするように採尿部2を排尿器官近傍に配置する(または排尿器官に接触させる)ことができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、排尿時の尿を容器に採尿することなく、その流量や流速を例えば家庭等でも容易に測定することができ、排尿状態や尿量を容易に繰り返しリアルアイムで検出でき、把握するようにできるため、排尿疾患検出のため等に利用でき、さらに、採尿者の深部体温に対応する尿中塩分濃度もリアルタイムで検出できるようにすることができ、深部体温の検出を可能とするものもある。そのため、泌尿器科を中心に循環器内科、腎臓内科、糖尿病内科、神経内科、産婦人科、総合医などにも使用される可能性が高く、通信機能を設けることにより、遠隔医療、在宅医療にも利用の可能性を高くできる。
【符号の説明】
【0088】
1 複合型尿流計
2 採尿部
3 尿流路
4 管路体
5 手持ちレバー部
6 尿流量検出用センサ
7 水車
8 羽根
9 円盤
10 回転検出センサ
11 スリット
13 凹部
14 セル
15 尿中塩分濃度検出用センサ
16 尿温度検出用センサ
17 基板
18 電極
19 角度センサ
20 尿流路管
21 開口部
22 ノズル部
23 ガイド
24 プリンタ
25 スマートフォン
26 無線端末付きタブレット
27 パーソナルコンピュータ
28 ラベルプリンタ
29 クラウド
30 尿排出部
31 尿流計ホルダ
32 表示部
35 回転状流下抑制ガイド
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