(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】多段培養容器用ハンドマニピュレーター
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230412BHJP
C12M 3/04 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/04 A
(21)【出願番号】P 2018191357
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】517044373
【氏名又は名称】ワケンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】宮川 功章
(72)【発明者】
【氏名】和田 守由
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌治
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138056(JP,A)
【文献】特開2018-139615(JP,A)
【文献】登録実用新案第3184317(JP,U)
【文献】登録実用新案第3168263(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段培養容器を載置するためのバスケットと、
該バスケットに配設されたバスケットからの該多段培養容器の脱落を防止するための脱落防止手段と、該バスケットの左右各側面から該バスケットを回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態で保持するアーム部と、該バスケットを回転自在に保持するアーム部を該バスケットの回転方向と直交する回転方向に回転自在に保持する直立する背面部を有するスタンドと、該バスケット及びバスケットを回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態で保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段と、を備えた多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項2】
バスケットに配設された脱落防止手段が、多段培養容器と多段培養容器を載置するためのバスケットとを上部から覆うカバーと該カバーをバスケットへ固定するカバー固定部材からなることを特徴とする、請求項1に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項3】
多段培養容器を載置するためのバスケットが、コの字型アームであって、その左右の各アームによって多段培養容器を載置するためのバスケットが前後方向に回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態でに2点保持されることを特徴とする、請求項1に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項4】
バスケット及びバスケットを回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態でに保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段が、インデックスプランジャを用いることを特徴とする請求項1に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項5】
バスケット及びバスケットを回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態でに保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段が、インデックスプランジャとそれに接続されたリンクケーブルを用いたものであることを特徴とする、請求項1に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項6】
左右の各アームにそれぞれ備えられたインデックスプランジャにより、左右の各アームによって前後方向に回転自在
かつバスケットと分離不能に一体となった状態でに2点保持される多段培養容器を載置するためのバスケットの回転、位置決め及び固定の操作が独立して行えることを特徴とする、請求項4に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【請求項7】
アーム部及び/又はカバーに操作用ハンドルを備えることを特徴とする、請求項1~請求項6の何れか1項に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段培養容器用ハンドマニピュレーターに関するものである。とりわけ、安全キャビネット内にて10段細胞培養容器などの多段培養容器をバスケットに載置し、該バスケットの向きを手動にて変えながら該多段培養容器への細胞や培養溶液等の投入と、該多段培養容器からの細胞、培養溶液等の排出の作業を簡便に行うための、新たな多段培養容器用ハンドマニピュレーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトから採取した細胞や組織から、各種の組み換え細胞、iPS細胞、ES細胞、およびそれらを分化・誘導した細胞や組織が調製され、患者に投与する細胞治療、再生医療及び免疫医療が行われている。また、研究施設においても、細胞治療、再生医療及び免疫医療の新たな手法を開発するための様々な試験研究が積極的に推進されている。この細胞治療、再生医療及び免疫医療では、高い安全性、品質ならびに医薬としての性能を安定的に確保した細胞や組織を大量に培養することが必須となっていることから、培養工程における標準化された技術を確立するとともに、使用する機器や細胞調製手順の標準化が進めることが求められている。
【0003】
上記で用いられる細胞や組織の大量培養に当たっては、大量培養工程が必要となっている。大量培養を省スペースにて簡便に実施するため、多段培養容器が用いられるようになっている。たとえば、40段の細胞培養容器であれば、175mm3フラスコを144個同時に使用するのと同程度の培養効率を省スペースにて得ることができる。しかしながら、40段ともなれば培養液を8~10Lと多量に使用して重くなるため、インキュベータへの移動のために搬送装置を使用している(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、液体を大量に取り扱うこれら培養工程では、エアロゾル状の目に見えない飛沫が発生しやすく、汚染の発生を防ぐよう、慎重な対応と汚染予防措置が必須のものとなっている。そこで、その対策として、バイオハザード対策などが施された安全キャビネット内にて、細胞、培養液、細胞培養上清などの取り扱いを行うことが求められている。
【0005】
このバイオハザード対策などが施された安全キャビネットは、作業者の安全性を図ることを第一の目的とし、細胞、培養液、細胞培養上清などの安全キャビネット内への封じ込めを図っている。そのため、安全キャビネットの前面のガラスには、傾斜を設けるとともに使用時の開口部高さを200~250mm以下とすることでエアーバリアーを作り、キャビネット内からの空気の流出を防ぎつつ、キャビネット内を流れる空気はHEPAフィルターで濾過滅菌している。
【0006】
このように作業者の安全性を図るために安全キャビネットの大きさ及び安全キャビネットの前面ガラスの開口部高さには限りがあるため、40段の細胞培養容器を用いることは不可能である。そこで、前面ガラスの開口部高さ以内となる10段の細胞培養容器が用いられる。しかしながら、10段の細胞培養容器であっても175mm3フラスコを36個同時に使用するのと同程度の培養効率を得るためには、培養液を少なくとも2L程度使用する必要がある。また、外径寸法も約340×205×210(高さ)mm程度と一般に大きく、高さに限りのある安全キャビネットの前面ガラスの開口部から作業者が安全キャビネット内に手を差し入れて、細胞や培養溶液の投入、交換や排出作業を、安定して行うことが難しく、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、開口部の高さや作業スペースに限りのある安全キャビネット内で10段の細胞培養容器といった多段培養容器を用いての大量培養を行う際に、作業者の熟達度に関わらず、簡便かつ安定して細胞や培養溶液の投入、交換や排出作業を行うことができる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、多段培養容器を載置するためのバスケットと、バスケットからの該多段培養容器の脱落を防止するための脱落防止手段と、該バスケットの左右各側面から該バスケットを回転自在に保持するアーム部と、該バスケットを回転自在に保持するアーム部を該バスケットの回転方向と直交する回転方向に回転自在に保持する直立する背面部を有するスタンドと、該バスケット及びバスケットを回転自在に保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段と、を備えた多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、脱落防止手段が、多段培養容器と多段培養容器を載置するためのバスケットとを上部から覆うカバーと該カバーをバスケットへ固定するカバー固定部材からなることを特徴とする、本発明の第1の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。
【0011】
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段は、多段培養容器を載置するためのバスケットが、コの字型アームであって、その左右の各アームによって多段培養容器を載置するためのバスケットが前後方向に回転自在に2点保持されることを特徴とする、本発明の第1の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段は、バスケット及びバスケットを回転自在に保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段が、インデックスプランジャを用いることを特徴とする本発明の第1の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。インデックスプランジャのノブを操作することでピンの出し入れを行うことで、バスケット及びバスケットを回転自在に保持するアーム部の位置決めと固定を、容易にすばやく行うことができる。
【0013】
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段は、バスケット及びバスケットを回転自在に保持するアーム部の回転をそれぞれ規制して特定の回転位置にて固定するための位置決め手段が、インデックスプランジャとそれに接続されたリンクケーブルを用いたものであることを特徴とする、本発明の第1の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。インデックスプランジャにリンクケーブルを接続することにより、インデックスプランジャの操作部を、作業者が操作しやすい部位や操作ミスを起こさない部位を選んで、自在に設置することが可能となる。
【0014】
上記の課題を解決するための本発明の第6の手段は、左右の各アームにそれぞれ備えられたインデックスプランジャにより、左右の各アームによって前後方向に回転自在に2点保持される多段培養容器を載置するためのバスケットの回転、位置決め及び固定の操作が独立して行えることを特徴とする、本発明の第4の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。多段培養容器を載置するためのバスケットを保持する左右の各アームに回転、位置決め及び固定の操作を行うインデックスプランジャをそれぞれ配設することにより、左右それぞれのインデックスプランジャが規制するバスケットの回転可能範囲や固定箇所を変えることが可能となる。例えば、左側のアーム部に備えられたインデックスプランジャにより多段培養容器の載置時や多段培養容器への細胞や培養液の投入操作時のバスケットの回転可能範囲や固定箇所を規制し、右側のアーム部に備えられたインデックスプランジャにより多段培養容器からの細胞や培養液の排出時のバスケットの回転可能範囲や固定箇所を規制することで、安全キャビネットにおける200mm~250mmの狭く限られた高さのサッシ開口部からの操作を容易にすることが可能となるとともに、細胞や培養液の投入時の操作工程と、細胞や培養液の排出時の操作工程とを別工程にして、誤ってバスケットを細胞や培養液の排出時の位置へと回転させ固定してしまうことにより安全キャビネット内に細胞や培養液をこぼして汚染させるといった事故に繋がる作業工程上のミスを防止することも可能となる。
【0015】
上記の課題を解決するための本発明の第7の手段は、アーム部及び/又はカバーに操作用ハンドルを備えることを特徴とする、本発明の第1から第4の手段の何れか1の手段に記載の多段培養容器用ハンドマニピュレーターである。アーム部及び/又はカバーに操作用ハンドルを備えたものとすることにより、培養溶液を2Lもしくはそれ以上入れて重くなった10段の多段培養容器を載置して操作する場合であっても、安全キャビネットにおける200mm~250mmの狭く限られた高さのサッシ開口部からの操作を容易にすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多段培養容器用ハンドマニピュレーターを用いることで、開口部の高さや作業スペースに限りのある安全キャビネット内であっても、作業者の熟達度に関わらず、簡便かつ安定して、手作業により多段培養容器を操作でき、細胞や培養溶液の投入、交換や排出作業を、汚染の危険性のない状態にて行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの正面図である。
【
図2】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの背面図である。
【
図3】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの右側面図である。
【
図4】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの左側面図である。
【
図5】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの平面図である。
【
図6】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターの底面図である。
【
図7】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットを覆う扉を開けた時の正面、平面、左側面を表す斜視図である。
【
図8】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターに10段培養容器を載せ、L字状の扉で覆い扉固定具によりバスケットに固定した使用状態の様子を示す正面図である。
【
図9】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターにおいて、バスケットが-10度回転した時の正面図である。
【
図10】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-10度回転した時の右側面図である。
【
図11】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-90度回転した時の正面図である。
【
図12】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-90度回転した時の右側面図である。
【
図13】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-90度、アームが左45度回転した時の正面図である。
【
図14】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-90度、アームが左45度回転した時の右側面図である。
【
図15】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-115度、アームが右20度回転した時の正面図である。
【
図16】本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットが-115度、アームが右20度回転した時の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、実施例の記載及び図面を参照して具体的に説明する。なお、本発明は当該記載によって限定して解釈されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1~
図6に示される多段培養容器用ハンドマニピュレーターを、ステンレス鋼板(SUS304)を用いて製造した。多段培養容器用ハンドマニピュレーターの外径寸法は、幅470mm、奥行き345mm、高さ360mmとした。バスケットの内径寸法は、幅338mm、奥行き208mm、高さ190mmとした。
【実施例2】
【0020】
本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターを使用して、以下の手順にて10段の多段培養容器を載置し、細胞を含む培養溶液を10段の多段培養容器内に投入した。
【0021】
以下、正面図におけるバスケットの位置を0度とし、バスケットの手前が下方に回転する場合の角度をマイナスで表す。安全キャビネットにおける200mm~250mmの狭く限られた高さのサッシ開口部から操作できるよう、多段培養容器用ハンドマニピュレーターの第1のインデックスプランジャを操作しバスケットを-10度回転させた位置で固定した。
【0022】
安全キャビネットの開口部から10段の多段培養容器を安全キャビネット内に差し入れる。10段の多段培養容器を-10度回転させた位置で固定したバスケットに差し入れて載置した。回転角度をきつくせずに-10度の回転に留めることで、重量のある10段の多段培養容器がバスケットから滑り落ちることが防止されていた。
【0023】
バスケット上部のカバーを閉め、カバー固定部材でカバーを固定した。この固定作業により、バスケットを回転させても、10段の多段培養容器が脱落しなくなった。
【0024】
第1のインデックスプランジャを操作し、操作用ハンドルを持ちながらバスケットを-90度回転させた位置で固定した。
【0025】
多段培養容器の投入口から細胞と培養溶液を投入した。
【0026】
第3のインデックスプランジャを操作し、操作用ハンドルを持ちながらコの字型アームを左方向へ45度回転させた。
【0027】
第1のインデックスプランジャを操作し、操作用ハンドルを持ちながらバスケットを90度回転させた。
【0028】
第3のインデックスプランジャーを操作し、操作用ハンドルを持ちながらコの字型アームを右45度回転させた。
【0029】
カバー固定部材を外し、バスケット上部のカバーを開け、多段培養容器を取り出した。顕微鏡で確認したところ、多段培養容器の容器内に、細胞及び培養液が容器内に均一に分布していた。
【0030】
多段培養容器内の溶液を排出する作業を行った。多段培養容器を多段培養容器用ハンドマニピュレーターのバスケットに戻した。第1のインデックスプランジャーを操作して操作用ハンドルを持ちながらバスケットを-90度回転させた。次いで、第2のインデックスプランジャーを操作して操作用ハンドルを持ちながらバスケットをさらに-25度回転させた位置まで回転させて固定した。第3のインデックスプランジャを操作して操作用ハンドルを持ちながらコの字型アームを右方向へ20度回転させ、溶液の排出姿勢の状態とし、細胞および培養溶液を排出させた。エアロゾルの原因となる泡の発生もなく、汚染の危険性のない状態にて、溶液の排出が完了した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の手段の多段培養容器用ハンドマニピュレーターを用いて手作業により安全キャビネット内での多段培養容器の取り扱い作業や、多段培養容器への細胞や培養溶液の投入及び排出作業を、、汚染の危険性のない状態にて、作業者の熟達度に関わらず、簡便かつ安定して実施することができ、使用する機器や細胞調製手順の標準化にも寄与するものとなる。
【符号の説明】
【0032】
1 多段培養容器用ハンドマニピュレーター
2 バスケット
3 カバー
4 カバー固定部材
5 多段培養容器
6 アーム
7 第1のインデックスプランジャ
8 第2のインデックスプランジャ
9 第3のインデックスプランジャ
10 リンクケーブル
11 スタンド
12 背面部
13 操作用ハンドル