(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】変位センサ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/244 20060101AFI20230412BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01D5/244 D
G01D5/20 A
(21)【出願番号】P 2018195357
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598031224
【氏名又は名称】新光電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】久保山 豊
(72)【発明者】
【氏名】中野 泰志
(72)【発明者】
【氏名】井上 直也
(72)【発明者】
【氏名】川口 真史
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-271204(JP,A)
【文献】特表2007-525673(JP,A)
【文献】特開2010-101741(JP,A)
【文献】特開2001-183106(JP,A)
【文献】特開平5-280921(JP,A)
【文献】特開2003-322546(JP,A)
【文献】特開2008-164518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流を供給することで交流磁場を発生させ、被測定物の位置の変位に応じて前記被測定物に誘導される渦電流に応じた出力を生成するコイルと、
前記コイルの周辺の実温度を計測する温度計測器と、
前記コイルの周辺の温度が所定値のときの前記コイルの出力と、前記コイルの出力から求まる温度補正された前記被測定物の位置の変位を示す補正変位信号と、の相関関係を用いて、前記実温度と前記コイルの出力とに対応する補正変位信号を前記被測定物の位置の変位を示す変位信号として出力する変位信号生成部と、
少なくとも1つの温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との相関関係から、前記温度計測器で計測された実温度に対応する補正変位信号を補間する補間処理部と、
第1温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第1相関関係を格納する第1相関関係格納部と、
前記第1温度とは異なる第2温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第2相関関係を格納する第2相関関係格納部と、を備え、
前記補間処理部は、前記第1相関関係を使用して前記被測定物の位置の変位の計測を行っている間に、前記第1相関関係の補間処理にて前記第2相関関係を生成して前記第2相関関係格納部に格納し、
前記変位信号生成部は、前記補間処理部にて補間された前記補正変位信号を前記変位信号として出力し、かつ、前記温度計測器で計測された温度が前記第2温度に変わると、前記第2相関関係に基づいて前記補正変位信号を生成する、変位センサ。
【請求項2】
交流電流を供給することで交流磁場を発生させ、被測定物の位置の変位に応じて前記被測定物に誘導される渦電流に応じた出力を生成するコイルと、
前記コイルの周辺の実温度を計測する温度計測器と、
前記コイルの周辺の温度が所定値のときの前記コイルの出力と、前記コイルの出力から求まる温度補正された前記被測定物の位置の変位を示す補正変位信号と、の相関関係を用いて、前記実温度と前記コイルの出力とに対応する補正変位信号を前記被測定物の位置の変位を示す変位信号として出力する変位信号生成部と、
少なくとも1つの温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との相関関係から、前記温度計測器で計測された実温度に対応する補正変位信号を補間する補間処理部と、
第1温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第1相関関係を格納する第1相関関係格納部と、
前記第1温度とは異なる第2温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第2相関関係を格納する第2相関関係格納部と、を備え、
前記
変位信号生成部は、前記補間処理部にて補間された前記補正変位信号を前記変位信号として出力し、かつ、前記第1相関関係を使用して前記被測定物の位置の変位の計測を行っている間に、前記温度計測器で計測された温度が前記第1温度から第2温度に変化すると、前記第1相関関係の補間処理にて前記第2相関関係を生成して前記第2相関関係格納部に格納する、変位センサ。
【請求項3】
前記補間処理部は、前記コイルの出力の変化に対して前記補正変位信号が線形に変化するように、前記相関関係を補間して新たな相関関係を生成する、請求項1又は2に記載の変位センサ。
【請求項4】
前記補間処理部は、互いに異なる少なくとも2つの温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との相関関係から、前記2つの温度の間の中間温度における前記相関関係を生成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の変位センサ。
【請求項5】
前記変位信号生成部が実装された基板と、
前記基板の温度を計測する基板温度計測器と、を備え、
前記補間処理部は、前記温度計測器で計測された前記コイルの周辺の温度と前記基板温度計測器で計測された前記基板の温度とに基づいて、前記相関関係を補間する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の変位センサ。
【請求項6】
前記コイルのインピーダンスを利用して発振動作を行って前記交流電流を発生させるとともに、発振信号を出力する自励式発振回路を有し、
前記自励式発振回路の発振レベルは、前記被測定物に発生した渦電流による前記コイルのインピーダンスの変化の影響を受けて変化する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の変位センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物との距離すなわちギャップを非接触で検出する変位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルを利用した変位センサは、コイルに交流電流を流す発振器とともに、コイルのインピーダンス変化による信号変化を検出する回路を備えている。発振器の発振信号は、整流器にて直流信号に変換された後、リニアライザによって、被測定物とのギャップに応じて線形的に変化する信号が生成される(特許文献1、2参照)。
【0003】
コイルは、温度によってインピーダンスが変化することが知られている。このため、特許文献1では、コイルを有する発振器から出力された発振信号の振幅レベルを温度により補正している。また、特許文献2では、リニアライザの出力を、温度に応じた補正値で補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-137888号公報
【文献】特開平8-271204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、整流器で整流する前の段階で温度補正を行っている。しかしながら、整流器にも温度によるオフセット変動があるし、リニアライザの電気特性も温度により変動する可能性がある。よって、特許文献1に開示された技術では、変位センサの出力信号が少なからず温度依存性を持っているおそれがある。
【0006】
また、整流器の前段側は、信号周波数が高いため、浮遊容量の影響を受けやすく、整流器の前段側に温度補正回路を設けると、信号周波数が高いために発熱が生じやすく、温度補正の精度に悪影響を与えるおそれがある。
【0007】
一方、特許文献2は、R-V変換器の出力電圧をリニアライザの出力電圧に加算して補正処理を行っているが、単なる加算処理では、加算処理を行った特定の変位でしか補正処理が行えず、リニアライザの広範囲にわたる入出力特性を線形化させることはできない。
【0008】
また、特許文献2のように、リニアライザの出力に対して温度補正を行う場合、リニアライザには温度補正を行っていない信号が入力されることになる。特に高音域では、整流回路からの信号の減衰が大きくなるため、このような減衰信号が入力されたリニアライザの出力に対して温度補正を行ったとしても、信号減衰分を補償できるほどの温度補正は行えないおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献1も2も、補正処理を電気部品の組合せで行うことを念頭においており、温度等の環境条件や経年劣化による電気特性の変動が生じやすく、また、故障も起きやすいため、保守性が悪いという問題がある。
【0010】
本発明は、部材コストを削減しつつ、温度依存性をできるだけ少なくして、被測定物の変位に対する変位信号の線形性を向上させることが可能な変位センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、交流電流を供給することで交流磁場を発生させ、被測定物の位置の変位に応じて前記被測定物に誘導される渦電流に応じた出力を生成するコイルと、
前記コイル周辺の実温度を計測する温度計測器と、
前記コイル周辺の温度が所定値のときの前記コイルの出力と、前記コイルの出力から求まる温度補正された前記被測定物の位置の変位を示す補正変位信号と、の相関関係を用いて、前記実温度と前記コイルの出力とに対応する補正変位信号を被測定物の位置の変位を示す変位信号として出力する変位信号生成部を備える、変位センサが提供される。
【0012】
少なくとも1つの温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との相関関係から、前記温度計測器で計測された実温度に対応する補正変位信号を補間する補間処理部と、を備え、
前記変位信号生成部は、前記補間処理部にて補間された補正変位信号を前記変位信号として出力してもよい。
【0013】
前記補間処理部は、前記コイルの出力の変化に対して前記補正変位信号が線形に変化するように、前記相関関係を補間して新たな相関関係を生成してもよい。
【0014】
前記補間処理部は、互いに異なる少なくとも2つの温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との相関関係から、前記2つの温度の間の中間温度における前記相関関係を生成してもよい。
【0015】
前記変位信号生成部が実装された基板と、
前記基板の温度を計測する基板温度計測器と、を備え、
前記補間処理部は、前記温度計測器で計測された前記コイル周辺の温度と前記基板温度計測器で計測された前記基板の温度とに基づいて、前記相関関係を補間してもよい。
【0016】
第1温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第1相関関係を格納する第1相関関係格納部と、
前記第1温度とは異なる第2温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第2相関関係を格納する第2相関関係格納部と、を備え、
前記補間処理部は、前記第1相関関係を使用して当該変位センサが計測を行っている間に、前記第1相関関係の補間処理にて前記第2相関関係を生成して前記第2相関関係格納部に格納し、
前記変位信号生成部は、前記温度計測器で計測された温度が前記第2温度に変わると、前記第2相関関係に基づいて前記補正変位信号を生成してもよい。
【0017】
第1温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第1相関関係を格納する第1相関関係格納部と、
前記第1温度とは異なる第2温度での前記コイルの出力と前記補正変位信号との第2相関関係を格納する第2相関関係格納部と、を備え、
前記補間処理部は、前記第1相関関係を使用して当該変位センサが計測を行っている間に、前記温度計測器で計測された温度が前記第1温度から第2温度に変化すると、前記第1相関関係の補間処理にて前記第2相関関係を生成して前記第2相関関係格納部に格納してもよい。
【0018】
前記コイルのインピーダンスを利用して発振動作を行って前記交流電流を発生させるとともに、発振信号を出力する自励式発振回路を有し、
前記自励式発振回路の発振レベルは、前記被測定物に発生した渦電流による前記コイルのインピーダンスの変化の影響を受けて変化してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、部材コストを削減できるとともに、被測定物の変位に対する変位信号の線形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態による変位センサの概略構成を示すブロック図。
【
図2】第1補間処理を行う制御部の内部構成を示す機能ブロック図。
【
図4】第1補間処理の処理手順を示すフローチャート。
【
図5】第2補間処理を行う制御部の内部構成を示す機能ブロック図。
【
図6A】
図5の補間処理部が行う第2補間処理の概要を説明する図。
【
図7】第2補間処理の処理手順を示すフローチャート。
【
図8】第3補間処理を行う制御部の内部構成を示す機能ブロック図。
【
図9A】
図8の補間処理部が行う第2補間処理の概要を説明する図。
【
図10】第3補間処理の処理手順を示すフローチャート。
【
図11】第1の実施形態による制御部の処理動作の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による変位センサ1の概略構成を示すブロック図である。
図1の変位センサ1は、コイル2と、発振器3と、整流器4と、A/Dコンバータ5と、制御部(変位信号生成部)6と、D/Aコンバータ7と、出力アンプ8と、温度計測器9とを備えている。
【0023】
発振器3は、例えば自励式の発振回路で構成されている。自励式の発振回路は、他励式に比べて回路構成を簡略化でき、実装面積および部品コストを削減できる。また、コイルの共振を利用するため、距離の変化に伴う発振信号レベルの変化を大きくできるという利点もある。自励式の発振回路の具体的な回路構成は特に問わないが、例えば、コルピッツ発振回路を適用可能である。
【0024】
発振器3は、コイル2と不図示のコンデンサによる共振回路を内蔵している。コイル2には、共振周波数の交流電流が流れる。よって、コイル2からは交流電流に応じた磁束が発生し、この磁束によって、コイル2の近傍に配置された被測定物に渦電流が発生する。被測定物に渦電流が発生すると、その影響で、コイル2のインピーダンスが変化し、発振回路の発振信号の信号レベルも変化する。このように、コイル2は、交流電流を供給することで交流磁場を発生させ、被測定物の位置の変位に応じて被測定物に誘導される渦電流に応じた出力を生成する。
【0025】
なお、被測定物が絶縁体の場合は、渦電流は発生しないため、
図1の変位センサ1で変位すなわちギャップを検出可能な被測定物は、導電体に限定される。被測定物は、導電体であればよく、非磁性体でも磁性体でもよい。
【0026】
整流器4は、発振器3の発振信号すなわちコイル2の出力を整流して、直流信号に変換する。A/Dコンバータ5は、整流器4から出力された直流信号をデジタル信号に変換する。温度計測器9は、コイル2の周辺の実温度を計測する。
図1の変位センサ1を、例えばエンジンのバルブの位置を計測するために用いる場合、コイル2の周辺の温度が100℃を超えるような高温になるおそれがある。上述したように、コイル2は、温度によってインピーダンスが変化し、変位センサ1の出力信号も変化してしまう。よって、変位センサ1の使用環境下で、コイル2にできるだけ近い場所の温度を計測するのが望ましい。温度計測器9は、コイル2自体の温度を測定してもよいし、コイル2の近傍の温度を計測してもよい。
【0027】
制御部6は、コイル2周辺の温度が所定値のときのコイル2の出力と、コイル2の出力から求まる温度補正された被測定物の位置の変位を示す補正変位信号と、の相関関係を用いて、実温度とコイル2の出力とに対応する補正変位信号を被測定物の位置の変位を示す変位信号として出力する。より具体的には、制御部6は、複数の温度のそれぞれでのコイル2の出力と、コイル2の出力から求まる温度補正された被測定物の位置の変位を示す補正変位信号との相関関係に基づいて、温度計測器9で計測された実温度とコイル2の出力とに対応する補正変位信号を被測定物の位置の変位を示す変位信号として出力する。制御部6は、ソフトウェア処理によって、変位信号を生成するものであり、例えば、プログラム格納部10に格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、上述した信号処理を行って変位信号を生成する。このように、制御部6は、より具体的には、上記プログラムを実行するMCU(Micro Control Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などで構成可能である。
【0028】
制御部6には、相関関係格納部11と補間処理部12が内蔵または接続されている。なお、
図1では、制御部6に相関関係格納部11と補間処理部12が内蔵される例を示しているが、相関関係格納部11と補間処理部12の少なくとも一方は、制御部6とは別個に設けられていてもよい。相関関係格納部11は、コイル2の複数の温度のそれぞれについて、整流器4の出力に対応するデジタル信号と、補正変位信号との相関関係データを格納している。相関関係格納部11に相関関係データを格納するにあたって、コイル2をある温度に設定した状態で、被測定物とのギャップを複数通りに変化させて、各ギャップにおける整流器4の出力信号に対応するデジタル信号を検出し、各ギャップにおける補正変位信号がギャップに対して線形に変化するように、コイル2の出力すなわち整流器4の出力信号と補正変位信号との相関関係データを生成する。このような相関関係データを、コイル2の温度を複数通りに変化させて、それぞれの温度について生成して、相関関係格納部11に格納しておく。
【0029】
なお、制御部6は、相関関係格納部11に相関関係データを格納する代わりに、相関関係を表す関数式を設けて、この関数式に整流器4の出力に対応する入力パラメータを与えて演算処理を行って、補正変位信号を求めてもよい。
【0030】
補間処理部12は、温度計測器9で計測された実温度に対応する補正変位信号を補間する。すなわち、補間処理部12は、相関関係格納部11に格納された相関関係データを、温度計測器9で計測された実温度に基づいて補間する。補間処理部12は、互いに異なる少なくとも2つの温度でのコイルの出力と補正変位信号との相関関係から、2つの温度の間の中間温度における相関関係を生成してもよい。補間処理部12が行う補間処理には、後述するように、複数通りが考えられる。補間処理部12が補間処理を行って新たに生成した相関関係データは、例えば、相関関係格納部11に格納される。あるいは、補間処理部12が新たに生成した相関関係データを、相関関係格納部11とは別個に格納してもよい。
【0031】
制御部6は、補間処理部にて補間された補正変位信号を変位信号として出力する。より具体的には、制御部6は、補間処理部12が補間処理によって新たに生成した相関関係データに基づいて、温度計測器9で計測された実温度での整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を生成する。相関関係データの中に、整流器4の出力信号に対応するデータが含まれていない場合は、整流器4の出力信号に近接したデータを用いて補間処理によって補正変位信号を生成する。
【0032】
次に、制御部6が行う補間処理について詳細に説明する。制御部6内の補間処理部12が行う補間処理には複数通りが考えられる。以下では、代表的な第1~第3補間処理を順に説明する。補間処理部12は、以下に示す第1~第3補間処理のいずれを採用しても構わない。
【0033】
図2は第1補間処理を行う制御部6の内部構成を示す機能ブロック図である。
図2の制御部6は、上述した相関関係格納部11および補間処理部12と、データ出力部14とを有する。データ出力部14は、補間処理部12で補間処理した相関関係データに基づいて生成された補正変位信号を変位信号として出力する。
【0034】
図3A、
図3Bおよび
図3Cは
図2の補間処理部12が行う第1補間処理の概要を説明する図である。
図3Aと
図3Bは相関関係格納部11に予め格納されている相関関係データの一例を示しており、
図3Aは温度T1での相関関係データcor1、
図3Bは温度T2での相関関係データcor2を示している。
【0035】
補間処理部12は、
図3Cに示すように、温度計測器9で計測されたコイル2の周辺の温度に基づいて、
図3Aの相関関係データcor1と
図3Bの相関関係データcor2とを比例配分する補間処理を行って、新たな相関関係データcor3を生成する。
【0036】
制御部6は、相関関係データcor3に基づいて、温度計測器9で計測されたコイル2の周辺の温度での整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を生成する。
【0037】
図4は第1補間処理の処理手順を示すフローチャートである。まず、相関関係格納部11に、少なくとも2つの温度について、整流器4の出力と補正変位信号との相関関係データを格納しておく(ステップS1)。以下では、
図3Aと
図3Bに示すように、互いに相違する第1温度と第2温度についての2種類の相関関係データcor1、cor2が相関関係格納部11に格納されているものとする。また、以下では、第1温度での相関関係データを第1相関関係データcor1と呼び、第2温度での相関関係データを第2相関関係データcor2と呼ぶ。
【0038】
次に、第1温度での第1相関関係データcor1に基づいて、整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を取得するとともに、第2温度での第2相関関係データcor2に基づいて、整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を取得する(ステップS2)。
【0039】
ここで、整流器4の出力信号に対応するデータが第1相関関係データcor1と第2相関関係データcor2のいずれにも存在しない場合、整流器4の出力信号の近傍のデータを用いて補間処理によって、補正変位信号を生成すればよい。
【0040】
次に、第1温度での相関関係データcor1を用いて取得した補正変位信号と、第2温度での第2相関関係データcor2を用いて取得した補正変位信号とを用いて、補間処理によって新たな相関関係データcor3を生成し、この相関関係データcor3に基づいて温度計測器9で計測された実温度に対応する補正変位信号を生成する(ステップS3)。例えば、温度計測器9で計測した温度が第1温度と第2温度の中間の温度であれば、第1相関関係データcor1に基づいて取得した補正変位信号と、第2相関関係データcor2に基づいて取得した補正変位信号との平均値を、温度計測器9で計測した温度での整流器4の出力信号に対応する補正変位信号とすればよい。
【0041】
図5は第2補間処理を行う制御部6の内部構成を示す機能ブロック図である。
図5の制御部6は、相関関係格納部11と、補間処理部12と、データ出力部14とを有し、相関関係格納部11は、第1相関関係格納部11aと第2相関関係格納部11bとを含んでいる。第1相関関係格納部11aは、第1温度での整流器4の出力と補正変位信号との第1相関関係を格納する。第2相関関係格納部11bは、第1温度とは異なる第2温度での整流器4の出力と補正変位信号との第2相関関係を格納する。
【0042】
図5の補間処理部12は、第1相関関係を使用して変位センサ1が計測を行っている間に、第1相関関係の補間処理を行って第2相関関係を生成して第2相関関係格納部11bに格納する。制御部6は、温度計測器9で計測された実温度が第2温度に変わると、第2相関関係に基づいて補正変位信号を生成する。
【0043】
図6Aおよび
図6Bは
図5の補間処理部12が行う第2補間処理の概要を説明する図である。
図6Aの実線は第1相関関係格納部11aに予め格納されている所定温度T3での相関関係データcor4である。
図6Aの破線は、変位センサ1による変位計測を実行中に、所定温度T3からわずかにずらした温度での相関関係データcor5、cor6である。
図6Bの実線は温度変化後の相関関係データcor6、
図6Bの破線は元の相関関係データcor4である。
【0044】
図7は第2補間処理の処理手順を示すフローチャートである。まず、相関関係格納部11に、ある所定温度での整流器4の出力と補正変位信号との相関関係データcor4を格納しておく(ステップS11)。この相関関係データを用いて、変位センサ1による変位計測処理を開始する(ステップS12)。この処理を継続して実行している最中に、相関関係格納部11に格納された相関関係データcor4を用いて、所定温度からわずかにずらした温度での相関関係データcor5、cor6を補間処理にて生成する(ステップS13)。新たな相関関係データcor5、cor6が完成すると、そのデータを相関関係格納部11または別の格納部に格納する(ステップS14)。
【0045】
その後、制御部6は、温度計測器9で計測された実温度がステップS13およびS14で生成した相関関係データcor5またはcor6の温度になると、この相関関係データを用いて、整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を取得する。
図6Bは、相関関係データcor6に対応する温度になった例を示している。
【0046】
図8は第3補間処理を行う制御部6の内部構成を示す機能ブロック図である。
図8の制御部6は、
図5の制御部6と類似の構成を有するが、第1相関関係格納部11aから読み出された補正変位信号がデータ出力部14に入力されることと、第2相関関係格納部11bには1種類の相関関係データが格納されることとが
図5の制御部6とは異なっている。
【0047】
図9Aおよび
図9Bは
図8の補間処理部12が行う第3補間処理の概要を説明する図である。
図9Aの実線は第1相関関係格納部11aに予め格納されている所定温度T4での相関関係データcor7である。
図9Aの破線は、相関関係データcor7に対して第3補間処理を行うことで得られる相関関係データcor8である。
図9Bの実線は相関関係データcor8、破線は元の相関関係データcor7である。
【0048】
図10は第3補間処理の処理手順を示すフローチャートである。まず、第1相関関係格納部11aに、ある所定温度での整流器4の出力と補正変位信号との相関関係データcor7を格納しておく(ステップS21)。この相関関係データcor7を用いて、変位センサ1による変位計測処理を開始する(ステップS22)。この処理を継続して実行している最中に、温度計測器9で計測された実温度が変化すると、第1相関関係格納部11aに格納された相関関係データcor7を用いて、補間処理にて、温度計測器9で計測された実温度での相関関係データcor8を生成する(ステップS23)。新たな相関関係データcor8が完成すると、この相関関係データcor8を第2相関関係格納部11bに格納する(ステップS24)。その後は、制御部6は、入れ替えた相関関係データを用いて、整流器4の出力に対応する補正変位信号を生成する。また、第1相関関係格納部11aに格納されていた相関関係データcor7を削除して、第2相関関係格納部11bに格納された相関関係データを第1相関関係格納部11aにコピーし、上述したステップS21以降の処理を繰り返し実行してもよい。
【0049】
なお、補間処理部12は、第1~第3補間処理を行う際には、コイル2の出力すなわち整流器4の出力の変化に対して、補正変位信号が線形に変化するように補間処理を行うのが望ましい。これにより、整流器4の出力に対して線形に変化する補正変位信号を生成できる。
【0050】
図11は第1の実施形態による制御部6の処理動作の一例を示すフローチャートである。変位センサ1のコイル2を被測定物の近傍に配置すると、コイル2のインピーダンスが変化して、発振器3の発振信号の信号レベルが変化し、それに応じて、整流器4から出力される直流信号の信号レベルも変化する。この直流信号は、A/Dコンバータ5でデジタル信号に変化された後に、制御部6に入力される(ステップS31)。
【0051】
制御部6は、ステップS31の処理に前後して、温度計測器9で計測されたコイル2の周辺の温度を取得する(ステップS32)。次に、制御部6は、コイル2の周辺の温度と、整流器4から出力されてA/Dコンバータ5でデジタル変換されたデジタル信号とに基づいて、補間処理部12が上述した第1~第3補間処理のいずれかを行って生成した相関関係データを用いて、補正変位信号を生成する(ステップS33)。
【0052】
変位センサ1では、コイル2以外の構成部品は共通の基板上に実装され、コイル2だけがこの基板から離れた位置に配置されることが多い。この場合、コイル2の周辺の温度と基板の温度との温度差が大きくなる可能性がある。特に、エンジンのバルブの位置を検出する場合など、被測定物の温度が数百℃を超えるような高温になる場合は、コイル2の周辺の温度と基板の周辺の温度との温度差が大きくなりやすい。上述したように、コイル2の温度によってコイル2のインピーダンスは変化するが、基板の温度によっても基板内の各回路素子の電気的特性が変化し、補正変位信号の信号レベルに影響を与える。
【0053】
よって、コイル2の周辺の温度と基板の周辺の温度とが相違する可能性がある場合には、コイル2の周辺の温度を計測する温度計測器9とは別に、基板の周辺の温度を計測する基板温度計測器13を設けてもよい。
【0054】
この場合、制御部6は、複数の温度での整流器4の出力と補正変位信号との相関関係に基づいて、温度計測器9で計測されたコイルの温度と、基板温度計測器13で計測された基板の温度とに対応する補正変位信号を生成する。
【0055】
これにより、コイル2の周辺の温度と基板の周辺の温度とを考慮に入れて、被測定物の変位に対する補正変位信号を生成でき、コイル2や基板の温度が変化しても、また、被測定物の変位が変化しても、変位に対する変位信号の線形性をより改善させることができる。
【0056】
このように、本実施形態では、複数の温度での整流器4の出力と補正変位信号との相関関係に基づいて、温度計測器9で計測された実温度での整流器4の出力信号に対応する補正変位信号を生成するため、温度計測器9で計測された実温度を考慮に入れて、ソフトウェア処理にて精度よく補正変位信号を生成できる。本実施形態では、少なくとも1種類の温度についての相関関係を用いて、補間処理にて、温度計測器9で計測された実温度に応じた相関関係を求めるため、多数の温度についての相関関係を予め用意する必要がない。よって、広範な温度範囲について、変位信号の生成が可能となる。
【0057】
また、制御部6は、1個のMCUやMPUで構成できるため、ハードウェア構成を簡略化でき、部品コストを削減できる。さらに、制御部6の処理動作は、プログラムを改良することで種々に変更でき、被測定物の変位に対する変位信号の線形性をより改善させるような処理をハードウェアの変更なしに比較的容易に行うことができる。プログラムの置換が容易に行えるように、プログラム格納部10は、電気的に書換可能なフラッシュメモリやEEPROMなどで構成するのが望ましい。特に、本実施形態による変位センサ1を高温下で使用する場合には、高温下でもデータの保持性能の高い不揮発メモリを用いて相関関係格納部11やプログラム格納部10を構成するのがより望ましい。
【0058】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 変位センサ、2 コイル、3 発振器、4 整流器、5 A/Dコンバータ、6 制御部、7 D/Aコンバータ、8 出力アンプ、9 温度計測器、10 プログラム格納部、11 相関関係格納部、11b 第2相関関係格納部、12 補間処理部、13 基板温度計測器