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特許7260875フレキシブルサージ吸収シート、フレキシブルサージ吸収ユニット、フレキシブルサージ吸収装置、およびサージ測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】フレキシブルサージ吸収シート、フレキシブルサージ吸収ユニット、フレキシブルサージ吸収装置、およびサージ測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/10 20060101AFI20230412BHJP
   H01C 7/118 20060101ALI20230412BHJP
   H01C 7/108 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
H01C7/10
H01C7/118
H01C7/108
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019044299
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2019186533
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018069007
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】春日 靖宣
【審査官】西間木 祐紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5393597(US,A)
【文献】特表平10-505462(JP,A)
【文献】特開昭63-43400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/10
H01C 7/118
H01C 7/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維で隙間を構成する布帛と、
該隙間に充填された複数の半導体粒子と、を有し、
前記隙間に対する前記半導体粒子の充填率が、100%未満であることを特徴とするフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項2】
前記布帛が不織布であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項3】
前記半導体粒子が、酸化亜鉛を主成分として含む金属酸化物であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項4】
絶縁性を有する液体を内部に含み、表面が樹脂で覆われていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項5】
前記液体が、変圧器油、エルテル油、またはパーフロロカーボン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロポリエステルを含む液体のうち、いずれかまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項4に記載のフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項6】
一方または両方の主面に、電極を接着するための接着層が形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シート。
【請求項7】
容器またはタンクであって、前記容器またはタンクの側壁が、請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シートを厚み方向に複数重ねてなり、それぞれの中央部に、前記容器またはタンクの収容空間を構成し、前記フレキシブルサージ吸収シートの厚み方向に延びる溝部を有することを特徴とするフレキシブルサージ吸収ユニット。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シートが、ロール状に巻かれてなることを特徴とするフレキシブルサージ吸収ユニット。
【請求項9】
被保護機器に対して着脱可能な構造を有することを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収ユニット。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シート、あるいは請求項7~9のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収ユニットと、
前記フレキシブルサージ吸収シート、あるいは前記フレキシブルサージ吸収ユニットに対して圧力を加える加圧手段と、を備えていることを特徴とするフレキシブルサージ吸収装置。
【請求項11】
請求項4または5のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収シートと、
前記フレキシブルサージ吸収シートを収容する容器と、を備え、
前記容器内において、前記フレキシブルサージ吸収シートと、前記容器の上部容器面との間にガス空間が設けられていることを特徴とするフレキシブルサージ吸収装置。
【請求項12】
前記フレキシブルサージ吸収シートに対して圧力を加える加圧手段を、さらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のフレキシブルサージ吸収装置。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキシブルサージ吸収シートと、
前記フレキシブルサージ吸収シートの一方の主面に形成された、第一電極および第二電極と、を有することを特徴とするサージ測定装置。
【請求項14】
前記フレキシブルサージ吸収シートの他方の主面に、さらに第三電極が形成されていることを特徴とする請求項13に記載のサージ測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルサージ吸収シート、フレキシブルサージ吸収ユニット、それらを備えたフレキシブルサージ吸収装置、およびサージ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷等によるサージ電圧から電子機器を保護する素子として、サージ吸収素子が知られている。サージ吸収素子には、一定値以上の高電圧が印加されたときのみに抵抗値が低くなるような、非線形の電圧電流特性を有することが求められる。サージ吸収素子の材料としては、優れた非線形電圧電流特性を有する酸化亜鉛が、一般的に用いられている。
【0003】
従来のサージ吸収素子としては、樹脂、セラミック等の基材に、酸化亜鉛等のパウダーを埋め込んだ構造のものが知られている。例えば特許文献1では、酸化亜鉛を主成分とするセラミック焼結体からなり、一定の厚みを有する複数のバリスタ小片を、絶縁性樹脂を介して接合した非線形抵抗素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5640249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のサージ吸収素子では、特許文献1で開示されている非線形抵抗素子のように、酸化亜鉛を含む電流パスとなる部分が樹脂等で固められており、形状変化の自由度が低い。そのため、含有される酸化亜鉛同士の距離、すなわち電流パスの長さが変わることはほとんどなく、所望の非線形電圧電流特性が得られるように制御するのは難しい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、非線形電圧電流特性の制御が容易なフレキシブルサージ吸収シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係るフレキシブルサージ吸収シートは、複数の繊維で隙間を構成する布帛と、該隙間に充填された複数の半導体粒子と、を有し、前記隙間に対する前記半導体粒子の充填率が、100%未満である。
この明細書で言う充填率とは、作製したフレキシブルサージ吸収シートの厚さを測定し、使用した布帛(不織布、織物、編物等の主に繊維で構成されるシート状の繊維構造体)の繊維が占める体積を除いた、半導体粒子を充填できる最大体積を計算で求め、これに対し実際に半導体粒子が充填された実際の体積との割合を計算で求めたものである。
充填率=(実際に充填した半導体粒子体積)/(半導体粒子を充填できる最大体積)
=(M/ρr)/(t×1000-m/ρn)
ただし、
M:充填した半導体粒子の質量[g/m
ρr:半導体粒子の真密度[g/cm3
t:フレキシブルサージ吸収シートの厚さ[mm]
m:布帛の質量[g/m
ρn:布帛の材料密度[g/cm3
なお、布帛の表面繊維より外側に形成された半導体粒子層も、表面繊維によりフレキシブル性を有することから、本発明のフレキシブルサージ吸収シートの一部として利用できる。ここで言う「厚さ」とは、市販のマイクロメーターで500g/cmの圧縮荷重下で測定した値を用いる。
【0009】
(2)上記(1)に記載のフレキシブルサージ吸収シートにおいて、前記布帛が不織布であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収シートにおいて、前記半導体粒子が、酸化亜鉛を主成分として含む金属酸化物であることが好ましい。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シートにおいて、絶縁性を有する液体を内部に含み、表面が樹脂で覆われていることが好ましい。
【0012】
(5)上記(4)に記載のフレキシブルサージ吸収シートにおいて、前記液体が、変圧器油、エルテル油、シリコーン油、またはパーフロロカーボン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロポリエステルを含む絶縁性液体のうち、いずれかまたはこれらの混合物であることが好ましい。
【0013】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シートにおいて、一方または両方の主面に、電極を接着するための接着層が形成されていることが好ましい。
【0014】
(7)本発明の一態様に係るフレキシブルサージ吸収ユニットは、例えば図2に示すように、容器またはタンクであって、前記容器またはタンクの側壁が、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シートを厚み方向に複数重ねてなり、それぞれの中央部に、前記容器またはタンクの収容空間を構成し、前記フレキシブルサージ吸収シートの厚み方向に延びる溝部を有する。
【0015】
(8)本発明の他の一態様に係るフレキシブルサージ吸収ユニットは、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シートが、ロール状に巻かれてなる。
【0016】
(9)上記(7)または(8)のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収ユニットにおいて、被保護機器に対して着脱可能な構造を有することが好ましい。
【0017】
(10)本発明の一態様に係るフレキシブルサージ吸収装置は、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シート、あるいは上記(7)~(9)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収ユニットと、前記フレキシブルサージ吸収シート、あるいは前記フレキシブルサージ吸収ユニットに対して圧力を加える加圧手段と、を備えている。
【0018】
(11)本発明の他の一態様に係るフレキシブルサージ吸収装置は、上記(4)または(5)のいずれかに記載のフレキシブルサージ吸収シートと、前記フレキシブルサージ吸収シートを収容する容器と、を備え、前記容器内において、前記フレキシブルサージ吸収シートと、前記容器の上部容器面との間にガス空間が設けられている。
【0019】
(12)上記(11)に記載のフレキシブルサージ吸収装置において、前記フレキシブルサージ吸収シートに対して圧力を加える加圧手段を、さらに備えていることが好ましい。
【0020】
(13)本発明の他の一態様に係るサージ測定装置は、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載のフレキシブルサージ吸収シートと、前記フレキシブルサージ吸収シートの一方の主面に形成された、第一電極および第二電極と、を有する。
【0021】
(14)上記(13)に記載のサージ測定装置は、前記フレキシブルサージ吸収シートの他方の主面に、さらに第三電極が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフレキシブルサージ吸収シートは、その構成材料である繊維と半導体粒子との間に、十分な大きさの隙間を有しているため、形状変化の自由度が高く、圧力を加えることによって容易に変形させることができる。したがって、本発明のフレキシブルサージ吸収シートでは、加える圧力の大きさを調整することにより、含有する半導体粒子同士の距離、すなわち電流パスの長さを変えることができ、非線形電圧電流特性の制御を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートの断面のSEM写真である。
図2】(a)、(b)本発明の一実施形態に係るフレキシブルサージ吸収ユニットについて、その構成例1を模式的に示す斜視図、断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係るフレキシブルサージ吸収ユニットについて、その構成例2を模式的に示す斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートの非線形電圧電流特性を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートの非線形電圧電流特性を示すグラフである。
図6】実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートを適用した、サージ測定装置の側面図である。
図7】実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートを適用した、サージ測定装置の側面図である。
図8】(a)、(b)実施例3のフレキシブルサージ吸収シートの断面、上面のSEM写真である。
図9】実施例3のフレキシブルサージ吸収シートに取り付ける、沿面方向電極の写真である。
図10】実施例3に用いる測定装置の要部を示す写真である。
図11】実施例3に用いる測定回路の図である。
図12】実施例3の測定によって得られるグラフである。
図13】実施例3の測定によって得られるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シート、フレキシブルサージ吸収ユニット、フレキシブルサージ吸収装置、およびサージ測定装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
[フレキシブルサージ吸収シート]
図1は、本発明の一実施形態に係る、フレキシブルサージ吸収シート100の断面のSEM写真である。フレキシブルサージ吸収シート100は、複数の繊維101で隙間を構成する布帛(不織布、織物、編物等の主に繊維で構成されるシート状の繊維構造体)と、この隙間101aに充填された複数の半導体粒子102と、を有している。本実施形態では、布帛として不織布を用いた場合について、例示している。複数の半導体粒子102の中には、集合して粉体(半導体粉体)を形成しているものがあってもよい。
【0026】
繊維同士の隙間101aに対する半導体粒子102の充填率(占有率)は、100%未満である。つまり、半導体粒子102(半導体粉体)と繊維101の間、粉体を形成していない半導体粒子102同士の間のうち、少なくとも一部には空隙が存在しており、形状変化させることが容易(フレキシブル)な構造を有している。
【0027】
そのため、フレキシブルサージ吸収シート100に対して圧力を加えることにより、フレキシブルサージ吸収シート100に含まれる半導体粒子102(半導体粉体)同士の距離を縮め、電流を流れやすくすることができる。したがって、加える圧力の大きさを変えることにより、フレキシブルサージ吸収シート100の電気特性を調整することができる。
【0028】
不織布を構成する繊維101の材料としては、特に限定されることはないが、例えば、ポリエステル、ガラス、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、ビニロン、セルロース、ポリオレフィン等を用いることができる。また、不織布を形成する手法としては、繊維同士を機械的に絡合する方法、繊維を熱等で部分的に融解させて接着させる方法、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアルコール等のバインダーを用いる方法、繊維をコレクターに集積する方法等を用いることができる。不織布の厚さは、フレキシブルサージ吸収シートの厚さに合わせて設計すればよく、0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。不織布の目付(単位面積あたりの質量)は、10g/m以上1000g/m以下であることが好ましい。不織布の空隙率は半導体粒子を効率よく充填でき、半導体粒子間の接点が多くなるように50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0029】
半導体粒子102としては、非線形の電圧電流特性を有するものであればよく、例えば、酸化亜鉛を主成分として含む金属酸化物、SiC、GaN、酸化スズを主成分として含む金属酸化物等を用いることができる。
【0030】
繊維101と半導体粒子102あるいは半導体粒子102同士の間には、半導体粒子102の脱落を防ぐために、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、共重合ポリエステル、共重合ポリアミド、ポリアクリル酸エステル等の粒子や、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド等の水溶性高分子が、バインダーとして含まれていることが好ましい。この場合、繊維同士の隙間101aに対するバインダーの使用量は、体積比で半導体粒子に対して1~20%程度であることが好ましい。
【0031】
フレキシブルサージ吸収シート100は、空気中で用いることもできるが、湿気の影響を受けて電気特性が下がってしまうことがあるため、油等の絶縁性を有する液体中で用いることが好ましい。これを可能とするフレキシブルサージ吸収シート100の構造として、例えば、絶縁性を有する液体を内部に含み、表面が樹脂等で覆われている構造が挙げられる。
【0032】
絶縁性を有する液体としては、例えば、炭化水素を主成分として含む変圧器油、エルテル油(パーム油、ヤシ油、菜種油、胡麻油、大豆油、米油等の植物油)、シリコーン油、またはパーフロロカーボン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロポリエステルを含む液体のうちいずれか、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。表面を覆う樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、変性ポリウレタン、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0033】
フレキシブルサージ吸収シート100は、動作後に発熱するが、形状変化させることが容易であるため、例えば曲げたり凹ませたりすることによって、内部の液体を循環させて冷却することができる。フレキシブルでない従来のサージ吸収シートは、形状変化させることが難しいため、同様の冷却を行うことはできない。
【0034】
フレキシブルサージ吸収シート100は、その主面に電極を載置し、サージ電圧から保護する電子機器と接続することにより、サージ吸収素子として動作できる状態となる。
【0035】
一般に、フレキシブルサージ吸収シート100は、電極の載置面となる主面に凹凸構造を有しているが、フレキシブルであるため、電極を載置した際に、載置面のうち電極の接触部分が、凹凸構造を失いつつ電極に押されて沈み込む。つまり、接触部分の形状が電極の形状に合致するように変形し、その結果として、凹凸構造によらず、電極の載置面に対する電極の密着性を、一様(一律)に高めることができる。したがって、厳密には異なる凹凸構造を表面に有する、複数のフレキシブルサージ吸収シート100のそれぞれを、同時に動作させる場合であっても、それらの電気特性を一定に保つことができる。
【0036】
これに対し、フレキシブルでない従来のサージ吸収シートは、凹凸構造を有する電極の載置面に電極を載置したとしても、載置面が沈み込まず、凹凸構造が維持されるため、載置面と電極の間に隙間が残ることになる。凹凸構造はサージ吸収シートごとに異なるものであるため、隙間の形状もサージ吸収シートごとに異なることになる。複数のサージ吸収シートのそれぞれを、同時に動作させる場合に、それらの電気特性を一定に保つことは難しい。
【0037】
フレキシブルサージ吸収シート100の一方または両方の主面には、電極を接着するための接着層が形成されていてもよい。接着層の材料としては、粘着性を有するものであればよく、例えば、導電性樹脂、導電性ゴム、導電ペースト、導電テープ等を用いることができる。接着層が形成されていることにより、フレキシブルサージ吸収シート100に対する電極の密着性を、さらに高めることができ、フレキシブルサージ吸収シート100を動作させた際に、優れた電気特性を得ることができる。
【0038】
[サージ測定装置]
図6、7は、それぞれ、本実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートを適用した、サージ測定装置130、140の側面図である。
【0039】
サージ測定装置130は、上述したフレキシブルサージ吸収シート100と、フレキシブルサージ吸収シートの一方の主面100aに形成された、第一電極103および第二電極104と、を有する。実施例として後述するように、所定の電源105を用いて、第一電極103と第二電極104と間に電圧を印加することにより、フレキシブルサージ吸収シート100の面内方向にサージ電流を流すことができる。
【0040】
サージ測定装置140では、フレキシブルサージ吸収シートの他方の主面100bに、さらに第三電極106が形成されている。その他の構成は、図6のサージ測定装置130の構成と同様である。サージ測定装置130と同様に、フレキシブルサージ吸収シート100の面内方向にサージ電流を流すことができる。さらに、サージ測定装置140では、厚み方向にバイアス電圧を印加することにより、沿面方向のバリスタ動作電圧(30V/mm以上、好ましくは50V/mm以上)の制御性を向上させることができる。
【0041】
バイアス電源107には、例えば、図7(a)に示すような正極性または負極性の電圧源(直流電源、交流電源)107、あるいは図7(b)に示すようなインバータ109のゲートパルスと同期させた電圧源108を用いることができる。これらのバイアス電源を用いることにより、特定位相または特定パルスに同期して発生するサージ電圧を、効果的に吸収することができる。
【0042】
フレキシブルサージ吸収シートの沿面方向のバリスタ動作電圧を制御する技術は、例えば、ホース、チューブ、除電マット、除電シート、絶縁テープ、電界緩和シート、積層板
等の曲面を有するものに対して貼り付けることにより、有効に活用することができる。
【0043】
[フレキシブルサージ吸収シートシートの製造方法]
フレキシブルサージ吸収シート100は、シート状の不織布に対し、印刷法や含浸法、ドクターブレード法など、公知の技術を用いて半導体粒子あるいは半導体粉体を充填した上で、必要に応じてローラーやプレス装置等を用いて押し固めることによって得られる。ローラーやプレス装置で押し固める際の圧力により、半導体粒子同士の接触度合いを調整することができる。なお、半導体粒子あるいは半導体粉体は、溶媒中に分散させたスラリーとして不織布に加工しても良い。
【0044】
フレキシブルサージ吸収シート100を絶縁性の液体に浸漬し、これを含ませてもよい。この場合、液体が漏れ出ないように、公知の成膜法を用いて、液体を含んだフレキシブルサージ吸収シート100の表面を、樹脂の膜で覆う必要がある。ここでの樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、変性ポリウレタン、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0045】
ローラーで押し固めたフレキシブルサージ吸収シート100に対し、さらに、電極接着用の接着層を形成してもよい。接着層は、例えば、スパッタリング法等の公知の成膜法によって形成することができる。
【0046】
以上のように、本実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シート100は、その構成材料である繊維101と半導体粒子102(半導体粉体)との間に、十分な大きさの隙間101aを有しているため、形状変化の自由度が高く、圧力を加えることによって容易に変形させることができる。したがって、本実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シート100では、加える圧力を調整することにより、非線形電圧電流特性の制御を容易に行うことができる。
【0047】
[フレキシブルサージ吸収ユニット]
上述したフレキシブルサージ吸収シート100は、加工が容易であるため、様々な目的に応じた形状のフレキシブルサージ吸収ユニットを形成することができる。フレキシブルサージ吸収ユニットの構成例1、2を示す。
【0048】
(構成例1)
図2(a)は、フレキシブルサージ吸収ユニット110の斜視図である。図2(b)は、図2(a)に示すフレキシブルサージ吸収ユニット110を、A-A線を含む面で切断した際の断面図である。
【0049】
フレキシブルサージ吸収ユニット110は、容器またはタンクであって、その容器またはタンクの側壁が、複数のフレキシブルサージ吸収シート100A~100Gを厚み方向Tに重ねてなり、さらに、それぞれの中央部に、前記容器またはタンクの収容空間を構成し、前記フレキシブルサージ吸収シートの厚み方向Tに延びる溝部110aを有する。図2では、フレキシブルサージ吸収シートが7枚ある場合を例示しているが、枚数についての制限はない。溝部110aの形状についての制限もない。
【0050】
図2では、溝部110aが、フレキシブルサージ吸収シート100A~100Fを貫通している場合について例示しているが、用途に応じて、さらにフレキシブルサージ吸収シート100Gを貫通していてもよい。貫通させるフレキシブルサージ吸収シートの枚数についての制限はない。
【0051】
フレキシブルサージ吸収ユニット110は、例えば、溝部110aに電子機器を収容した場合に、この電子機器を外部から電気的に絶縁させることができるため、絶縁筒、電力用半導体パッケージ、除電機器等として用いることができる。
【0052】
フレキシブルサージ吸収ユニット110は、複数のフレキシブルサージ吸収シート100を準備し、それらを重ねた上で、中央部を打ち抜いて溝部を形成することによって得られる。溝部の大きさは、収容する電子機器のサイズ等に応じて調整する。さらに熱処理を行えば、重ねた複数のフレキシブルサージ吸収シート100A~100G同士を接合させ、一体化させることもできる。
【0053】
(構成例2)
図3は、フレキシブルサージ吸収ユニット120の斜視図である。フレキシブルサージ吸収ユニット120は、フレキシブルサージ吸収シート100が、空洞部120aの周りに、ロール状に巻かれてなる。フレキシブルサージ吸収シート100の巻き数、巻かれるフレキシブルサージ吸収シート100の枚数についての制限はない。
【0054】
フレキシブルサージ吸収ユニット120は、例えば、空洞部120aに電子機器を収容した場合に、この電子機器を外部から電気的に絶縁させることができるため、絶縁筒、電力用半導体パッケージ、除電機器等として用いることができる。
【0055】
フレキシブルサージ吸収ユニット120の空洞部120aの大きさは、収容する電子機器のサイズ等に応じて調整する。さらに熱処理を行えば、フレキシブルサージ吸収シート100の重なった部分同士を接合させることもできる。
【0056】
フレキシブルサージ吸収ユニットとして、上記構成例1、2以外にも、例えば、被保護機器に対して、カセット式に着脱可能な構造を有するものが挙げられる。一般的な電力ケーブルは、一体で構成されているため、故障した際には全部を取り換える必要があり、大掛かりな作業が発生する。ところが、電力ケーブルの所定の箇所に、着脱可能なフレキシブルサージ吸収ユニットを組み込んでおくことにより、故障が発生した際に、故障箇所を含む一部のみを着脱して作業することができるため、作業自体を簡略化することができる。
【0057】
[フレキシブルサージ吸収装置]
上述したように、本実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートは、加圧によって、電気特性を変えることができる。したがって、フレキシブルサージ吸収シート、あるいはフレキシブルサージ吸収ユニットを単体で用いるよりも、さらに、それらに対して圧力を加える加圧手段を備えたフレキシブルサージ吸収装置を用いる方が好ましい。フレキシブルサージ吸収シートへの加圧は、手動で行うこともできるが、電気的に制御可能な加圧手段を備えた装置を用いることによって、加える圧力の大きさを、より精密に制御することが可能となり、所望のサージ特性を得ることができる。
【0058】
絶縁性の液体を含侵させたフレキシブルサージ吸収シートは、体積膨張して爆発する場合がある。そのような場合に備えたフレキシブルサージ吸収装置として、例えば次の構成を備えたものが有効である。
【0059】
当該フレキシブルサージ吸収装置は、絶縁性の液体を含侵させたフレキシブルサージ吸収シート、あるいはフレキシブルサージ吸収ユニットを容器内に封入するように構成されたものである。すなわち、フレキシブルサージ吸収シート、あるいはフレキシブルサージ吸収ユニットが、容器内に収容されており、容器内において、フレキシブルサージ吸収シート、あるいはフレキシブルサージ吸収ユニットと、容器の上部容器面(上部面)との間にガス空間が設けられている。ガス空間が存在することにより、フレキシブルサージ吸収シートの膨張を吸収し、爆発を防ぐことができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0061】
(実施例1)
上記実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートを作製し、その非線形電圧電流特性の評価を行った。
【0062】
まず、直径10μmの無アルカリガラス繊維を湿式抄造法でシート化した後、繊維交点をエポキシ樹脂バインダーで接着させたシート状の不織布(40mm×40mm×25g/m、0.22mm、空隙率95%)を4枚準備した。次に、平均粒径30μmの酸化亜鉛バリスタパウダー95部とポリビニルピロリドンおよびアクリル酸エステル5部を均一に混合させた水系スラリーを作成し、準備した4枚の不織布に対してドクターブレード法により両面に塗工(塗布)した。次に、塗工された4枚の不織布を150℃のオーブンで乾燥させ、厚さ0.42mm、塗工量860g/m、充填率38%のフレキシブルサージ吸収シートのサンプル1~4を得た。
【0063】
次に、サンプル1~4に対して、それぞれ異なる条件で、直流の電圧電流特性の測定を行った。
サンプル1は、米油中に浸漬し、30kgの荷重を加えた状態で測定した。
サンプル2は、米油中に浸漬し、荷重を加えない状態で測定した。
サンプル3は、空気中に配置し、30kgの荷重を加えた状態で測定した。
サンプル4は、空気中に配置し荷重を加えない状態で測定した。
【0064】
図4は、測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は電流密度(A/cm)を示し、グラフの縦軸は単位厚さ当たりの電圧(V/m)を示している。1000~1200V/mm程度で電流上昇が抑えられる特性となっている。
【0065】
荷重を加えたサンプル3は、荷重を加えなかったサンプル4に比べて圧縮され、含有する酸化亜鉛の粒子同士が近づくため、電流が流れやすくなっている。また、同じ理由により、荷重を加えたサンプル1は、荷重を加えなかったサンプル2に比べて、電流が流れやすくなっている。
【0066】
米油中に浸漬したサンプル1は、空気中に配置したサンプル3に比べて湿気の影響を受けにくく、動作開始の電圧が低くなっているが、動作開始前の電圧における漏れ電流が減り、バリスタ性能がより顕著となっている。また、同じ理由により、油中に浸漬したサンプル2は、空気中に配置したサンプル4に比べて良好なバリスタ性能が得られている。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様に作製したフレキシブルサージ吸収シートのサンプル5~12に対し、それぞれ異なる条件で、直流の電圧電流特性の測定を行った。
サンプル5、9は、米油中に浸漬し、30kgの荷重を加えた状態で測定した。
サンプル6、10は、米油中に浸漬し、荷重を加えない状態で測定した。
サンプル7、11は、空気中に配置し、30kgの荷重を加えた状態で測定した。
サンプル8、12は、空気中に配置し荷重を加えない状態で測定した。
【0068】
図5(a)、(b)は、測定結果を示すグラフである。図5(a)のグラフがサンプル5~8の測定結果に対応し、図5(b)のグラフがサンプル9~12の測定結果に対応している。グラフの横軸、縦軸については、図4と同様である。
【0069】
2つのグラフの比較から、測定条件の同じサンプル同士が、ほぼ同様の特性を示していることが分かる。これは、次の理由による。本発明のフレキシブルサージ吸収シートはフレキシブルであるため、電極を載置した際に、載置面のうち電極の接触部分が、凹凸構造を失いつつ電極に押されて沈み込む。つまり、接触部分の形状が電極の形状に合致するように変形する。したがって、サンプルごとの凹凸構造の違いの影響が軽減され、電極の載置面に対する電極の密着性を一様(一律)に高めることができ、その結果として、サンプル同士の特性が揃うことになる。
【0070】
(実施例3)
上記実施形態に係るフレキシブルサージ吸収シートを用いて、サージ吸収装置を作製し、その非線形電圧電流特性の評価を行った。
【0071】
まず、フレキシブルサージ吸収シートとして、40mm×40mmに切り取った四種類のサンプルB8、E1、E3、E4を作製した。サンプルB8、E1、E3、E4の仕様について、表1に示す。サンプルE4の断面、上面のSEM写真を、それぞれ図8(a)、(b)に示す。ここには示していないが、他のサンプルB8、E1、E3からも同様の断面図、平面図が得られている。
【0072】
【表1】
【0073】
図9は、サンプル(フレキシブルサージ吸収シート)に取り付ける沿面方向電極として、約40mm四方にカットしたアルミテープからなる、第一電極103、第二電極104の対を三種類準備し、約40mm四方にカットしたアクリル板上に固定したものを、並べた写真である。図9(a)~(c)に示すように、第一電極103と第二電極104との間に距離(ギャップ長)G、G、Gを設け、それぞれ2.97mm、3.94mm、5.10mmとした。電流が流れる端の部分の幅については、共通で25mmとした。
【0074】
図10は、サンプルをセットした状態の測定装置111の要部を示す写真である。サンプルの一方の主面(ここでは上面)には、図4に示した沿面方向電極取り付けられ、他方の主面(ここでは下面)が、アクリル板によって支持されている。これらの構成が崩れないように、第一電極103、第二電極104の上に、100g程度の重り108を載せた。
第一電極103、第二電極104に対しては、それぞれ、外部配線に接続されている。
【0075】
図10に示す測定装置にサンプルE4をセットした。図11に示す回路を組み、回路保護用の抵抗50kΩを挿入した上で、サンプルE4に対し、ギャップ長を2.97mm、3.94mm、5.10mmとしたそれぞれの場合において、直流電圧を印加し、沿面方向に流れる電流を測定した。直流電圧の印加は、直流安定化電源(Glassmann製)を用いて行い、電流の測定は、デジタルマルチメータ(KEITHLEY製)を用いて行った。
【0076】
図12は、測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は沿面方向に流れる電流(A)を示し、グラフの縦軸は単位ギャップ長あたりの電圧(V/mm)を示している。いずれのギャップ長においても、ほぼ一致した電圧―電流カーブが得られていることが分かる。
この結果から、沿面方向を流れる電流に、ギャップ長に依存性があることが分かり、また、ギャップ長を考慮すれば、本発明のフレキシブルサージ吸収シートの沿面方向に流れる電流について正しく評価し得ることが分かる。
【0077】
図10に示す測定装置にサンプルB8、E3をセットし、サンプルE4と同様の測定を行った。サンプルのB8、E3、E4の繊維等による充填率については、それぞれ、67%、89%、93%となっていることを確認した。図13は、測定結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸については、図12のグラフと同様である。
【0078】
サンプルB8、E3、E4ごとの電圧―電流カーブを比較すると、充填率と電流量には正比例関係が見て取れる。充填率に比例して電流が増加していることから、本発明のフレキシブルサージ吸収シートは、加工量には影響されず、充填率に依存した電気特性を有していることが分かる。サンプルE1については、一部マイクロバリスタが導通している影響により、この比例関係から外れている。
【符号の説明】
【0079】
100・・・フレキシブルサージ吸収シート
100a・・・フレキシブルサージ吸収シートの一方の主面
100b・・・フレキシブルサージ吸収シートの他方の主面
101・・・繊維
101a・・・隙間
102・・・半導体粒子
103・・・第一電極
104・・・第二電極
105・・・電源
106・・・第三電極
107、108・・・電源
109・・・信号源
110、120・・・フレキシブルサージ吸収ユニット
110a・・・溝部
111・・・測定装置
120a・・・空洞部
130、140・・・サージ測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13