(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】下肢末梢動脈疾患の治療に使用される細胞懸濁液
(51)【国際特許分類】
A61K 35/15 20150101AFI20230412BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230412BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230412BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230412BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230412BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230412BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20230412BHJP
A61M 5/178 20060101ALI20230412BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230412BHJP
【FI】
A61K35/15
A61P9/10
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/36
A61M25/10 550
A61M5/178
C12N5/078
(21)【出願番号】P 2019532186
(86)(22)【出願日】2017-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2017071580
(87)【国際公開番号】W WO2018037134
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-27
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519064621
【氏名又は名称】イサカ イベリア,エセ.エレ.ウ.
(73)【特許権者】
【識別番号】516330321
【氏名又は名称】セルビシオ アンダルーサ デ サルー
(73)【特許権者】
【識別番号】519064632
【氏名又は名称】フンダシオン プブリカ アンダルーサ プログレソ イ サルー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュペレ ヨナタン ロベルト バークレー
(72)【発明者】
【氏名】デ ヨン リースベト
(72)【発明者】
【氏名】ワゲナ エドウィン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】エレーラ アロヨ インマクラダ コンセプシオン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502114(JP,A)
【文献】特表2015-508101(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0157663(US,A1)
【文献】THE LANCET,2002年,360,pp.427-435
【文献】J.Atheroscler Thromb.,2014年,21,pp.1183-1196
【文献】Cytotechnology,2014年12月,68,pp.771-781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢末梢動脈疾患の治療剤又は改善剤であって、ヒト被験体の骨髄に由来する4×10
8個~1.2×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む細胞懸濁液であって、4×10
8個~1.2×10
9個の白血球の総数のうち、
i. 20%~51%がリンパ球であり、3.9%~22.3%が単球であり、
ii. 1.4%~10%がCD34を発現する造血幹細胞であり、
iii. 白血球の総数の25.3%~83.3%が単核細胞であり、
iv. 16.7%~74.7%が顆粒球であり、
v. 白血球の総数の5.4%~38.8%がCXCR4を発現し、
vi. 白血球の総数の0.07%~24.7%がVEGFR2を発現し、
vii. CD34を発現する造血幹細胞の総数のうち、7.7%~55.5%がCD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞であり、0.7%~10.3%がCD34及びCXCR4を発現する幹細胞であり、
viii. 赤血球とロイコサイト細胞との最大比が6.7であり、血小板とロイコサイト細胞との最大比が32である、細胞懸濁液を含む治療剤又は改善剤。
【請求項2】
前記細胞懸濁液において、白血球の総数のうち、32.3%~80.0%がリンパ球、単球及びCD34を発現する造血幹細胞からなるリストから選択される単核細胞であり、20.0%~67.7%が顆粒球である、請求項1に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項3】
前記細胞懸濁液が5×10
8個~1.2×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む、請求項1又は2に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項4】
前記細胞懸濁液が8×10
8個~1.2×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む、請求項1又は2に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項5】
前記細胞懸濁液が9×10
8個~1.1×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む、請求項1又は2に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項6】
前記細胞懸濁液が9.5×10
8個~1.05×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む、請求項1又は2に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項7】
前記細胞懸濁液が9.8×10
8個~1.02×10
9個の自己又は同種異系白血球を含む、請求項1又は2に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項8】
前記下肢末梢動脈疾患が重症下肢虚血である、請求項1~7のいずれか一項に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項9】
前記細胞懸濁液の細胞を、好ましくは約1%HSA及び約2.5%グルコースを含む、5ml~30mlの容量のヘパリン添加生理食塩溶液又は乳酸リンゲル液に懸濁する、請求項1~8のいずれか一項に記載の治療剤又は改善剤。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に定義される治療剤又は改善剤であって、インフレータブルバルーンを遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置し、前記細胞懸濁液を動脈内に注入することによって最大4気圧の低圧血流を得る動脈内投与により下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血を治療する方法に使用される、治療剤又は改善剤。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に定義される治療剤又は改善剤を含むシリンジ又は複数のシリンジ。
【請求項12】
下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血の治療又は改善に使用される、請求項11に記載のシリンジ。
【請求項13】
インフレータブルバルーンを遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置し、前記細胞懸濁液を動脈内に注入することによって最大4気圧の低圧血流を得る動脈内投与により下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血を治療する方法に使用される、請求項11に記載のシリンジ。
【請求項14】
前記懸濁液を1回量として提供する、請求項1~7のいずれか一項に記載の治療剤又は改善剤又は請求項12若しくは13に記載の使用のためのシリンジ。
【請求項15】
低圧血流の誘導を1分間~6分間行い、前記細胞懸濁液の注入を2分間~10分間行う、請求項10又は13に記載の使用のための治療剤又は改善剤又はシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症虚血肢(ischemia limb)の治療又は改善に使用することができる成体骨髄由来細胞の細胞懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢末梢動脈疾患(PAD)は、下肢動脈の構造及び機能を変えるアテローム性動脈硬化過程、血栓塞栓過程及び炎症過程によって引き起こされる様々な血管疾患を含む。しかしながら、PADの主因はアテローム性動脈硬化である。
【0003】
症候性下肢PADは、酸素供給不足を引き起こす不十分な血流に起因する。PADは、心臓血管系及び脳血管系を含む他の血管床のアテローム血栓症と関連する。糖尿病(以下、DM)の存在がPADのリスクを大幅に高め、疾患の進行が加速することで、糖尿病患者は虚血性事象、血管機能の障害、罹患率及び死亡率の上昇、並びに生活の質(QoL)の悪化の影響を受けやすくなる(Thiruvoipati et al,2015年)。実際に、PAD患者は、無症候から間欠性跛行(IC)を有する患者及びCLI(重症下肢虚血)を有する患者までの不均質な患者群とみなされる。CLIは、微小循環及び組織への血流及び栄養が著しく攪乱されるまでに末梢灌流圧が低下する動脈不全状態を指す。軽度の外傷、潰瘍形成及び感染が併発する可能性があり、患部組織の代謝要求を高め、慢性非治癒性潰瘍を引き起こすことが多い。CLIは複数のレベルの疾患、共存症の高い負担及び限られた寿命を特徴とする進行性疾患である。
【0004】
足関節上腕血圧比(ABI)がPADの診断に用いられ、PADの重症度の指標であるが、疾患の臨床的重症度と完全には相関しない。したがって、より広範な臨床症状がPADの重症度を分類するために用いられ、Rutherford及びFontaineの2つの分類体系が実際の臨床に日常的に用いられている(Hirsch AT,2006年)。PADの臨床的重症度は、無症候から切断術を必要とする壊疽及び下肢虚血まで様々である。PADは、病態の重症度が時間と共に増大する進行性疾患である。疾患の進行は、DMを有する患者ではより急速である。
【0005】
PADの症状及びこれらの症状に関与する解剖学的病変の等級付けは、被験体を臨床的に経過観察するための客観的尺度を与え、重要なことには、臨床研究における医療及び介入治療の戦略に比べて一貫性をもたらす。
【0006】
Rutherford分類は、PADを表すために一般に用いられる臨床病期分類体系であり、Fontaine分類に似ているが、血管医学の分野において最近の刊行物により一般に引用される。末梢動脈閉塞性疾患は一般に、Rene Fontaineによって1954年に導入されたFontaine病期のI期(無症候)~IV期(潰瘍形成又は壊疽)に分類される。Rutherfordによって1986年に導入され、1997年に修正された分類は、4つの等級及び0群(無症候)から6群(重症の虚血性潰瘍又は壊疽)までの7つのカテゴリーからなる(表1)。
【0007】
【0008】
CLIは複数のレベルの疾患、共存症の高い負担及び限られた寿命を特徴とする進行性疾患である。Trans-Atlantic Inter-Society Consensus (TASC) Document on Management of Peripheral Arterial Disease II, 2007(TASCII、2007年)では、CLIという用語を客観的に証明された動脈閉塞性疾患に起因する慢性虚血性安静時疼痛、潰瘍又は壊疽を有する全ての被験体に対して用いるべきであると推奨されている。CLIの現在の定義には、2週間を超えて持続する肢部の重度に障害された血流に続発する下肢の安静時疼痛、潰瘍又は壊疽を有する被験体が含まれる。これは、Rutherfordの4群~6群(それぞれ虚血性安静時疼痛、軽微な組織欠損及び大きな組織欠損)又はFontaineのIII度及びIV度に相当する。
【0009】
CLIにおける基礎疾患の唯一の治療は血行再建術である。しかしながら、集団の相当な割合(集団の50%~90%と推定される)が生存血管の欠如、以前の用手血行再建術の失敗又は共存症のいずれかのために用手血行再建術(バイパス手術又は血管内手術)に適さない。CLIを有する多くの患者が、用手血行再建術を受ける妨げとなり得る複数の病態を有する。最終的に、難治性疼痛を管理すること、壊疽の進行を防ぐこと又は感染と闘うことを目的とする切断術が、これらの患者の大部分に対して残った唯一の選択肢であることが多い。したがって、新たな療法が緊急に必要とされている。
【0010】
現在、CLIを有する患者の初期治療は通例、バイパス手術による又は血管内治療(endovascular methods)を用いた血行再建への適合性についての罹患(指標)肢の評価からなる。全ての患者が疾患の既存の症状、特に疼痛、潰瘍及び感染に対して治療を受ける。しかしながら、疼痛管理は効果がないことが非常に多く、虚血性潰瘍が殆ど治癒しないことから、創傷管理は、通常は感染制御、悪化の予防及び患肢救済に重点が置かれる。CLIの全体的な治療目標としては、以下のものが挙げられる:
疼痛制御
創傷治癒
患肢救済
歩行状態の維持を含むQoLの改善
全心臓リスクの低減
【0011】
本発明の細胞懸濁液はCLI患者、特にバイパス手術又は血管内治療を用いた血行再建術の選択肢を有しない、DMを有するCLI患者に特に適応される。これらの患者については、基礎疾患を治療する治療選択肢がないことから、満たされていない必要性が最も高い。これらの患者に用いられる任意の治療は創傷治癒、感染制御及び疼痛管理といった対症的なものである。用手血行再建術に適さないこれらの患者については、疾患が進行するにつれ、進行性壊疽、無制御の感染又は難治性疼痛のいずれかに応じて切断術が唯一の臨床選択肢となる可能性がある。CLIを発症するPAD患者のうち、およそ25%が1年以内に死亡する(NICE,2012年)。CLIの重症度に応じて、1年間の一次切断術率は5%~40%の範囲であり、血行再建術に適さず、神経障害を有する又は歩行不能な患者において最も高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が対処する問題は、下肢末梢動脈疾患(PAD)を患う患者、好ましくはCLI患者、より好ましくはバイパス手術又は血管内治療を用いた血行再建術の選択肢を有しない、DMを有するCLI患者に対して改善された治療法の選択肢を与えることである。このような治療法の改善された選択肢は、下記に言及する態様及び好ましい実施の形態によって規定される自己又は同種異系成体骨髄由来細胞の細胞懸濁液の形態で本発明によって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の第1の態様では、下肢末梢動脈疾患の治療又は改善における使用のための、単核細胞について富化され(細胞懸濁液中に存在する白血球(WBC)の25%超が単核細胞であることを意味する)、
A.
i. リンパ球の集団、
ii. 単球の集団、及び、
iii. CD34を発現する造血幹細胞の集団、
を含む又はそれからなるリストから選択される単核細胞(MNC)を含み、
B. 顆粒球、
を更に含む、好ましくは腸骨稜(crest of the ilium (or iliac crest))に由来する自己又は同種異系、好ましくは自己の成体骨髄由来白血球の細胞懸濁液(以下、「本発明の細胞懸濁液」)に言及する。
【0014】
一般的には、細胞集団A)及びB)が遊走因子SDF1の受容体であるCXCR4を発現する細胞集団を含み、この集団からCD34及びCXCR4を発現する造血幹細胞の亜集団の存在を指摘することが重要であることに留意されたい。加えて、細胞集団A)及びB)は、血管新生及び脈管形成に関与する血管新生因子VEGFの受容体であるVEGFR2を発現する更なる細胞集団を含む。
【0015】
最後に、細胞集団A.のiii)は、初期非拘束(non-committed)造血幹細胞であるCD38を発現しない細胞集団を含む。
【0016】
単核細胞(MNC)が本発明の細胞懸濁液の主要活性構成要素とみなされることに留意されたい。特に、本発明の細胞懸濁液の活性構成要素又は成分は、リンパ球、単球及びCD34を発現する造血幹細胞、特にCD34を発現し、CD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞の亜集団、CXCR4を発現するSDF-1媒介遊走が可能な白血球、CD34及びCXCR4を発現するSDF-1媒介遊走が可能な幹細胞、並びにVEGFR2を発現する血管新生が可能な白血球からなるリストから選択されるMNCである。これらの単核細胞の全てが、好ましくは腸骨稜に由来する骨髄由来細胞である。
【0017】
加えて、本発明の白血球懸濁液が、好中球、好酸球及び/又は好塩基球である顆粒球を更に含むことに更に留意されたい。この点で、実施例において説明される本発明の最終細胞懸濁液生成物が、MNC白血球画分(リンパ球及び単球及び幹細胞)だけでなく、顆粒球も含む生存白血球骨髄由来細胞に基づいて投与されることに留意することが重要である。
【0018】
本発明の第1の態様の好ましい実施の形態では、単核細胞について富化された(細胞懸濁液中に存在する白血球(WBC)の総数のうち25%超が単核細胞であることを意味する)最終配合物中の本発明の細胞懸濁液は、約4×108個~約2×109個の、好ましくは腸骨稜に由来する自己又は同種異系、好ましくは自己の白血球骨髄由来細胞を含み、約4×108個~約2×109個の白血球の総数のうち、
i. 約20%~約51%がリンパ球であり、約3.9%~約22.3%が単球であり、
ii. 約1.4%~約10%がCD34を発現する造血幹細胞であり、
iii. 白血球の総数のうち約25.3%~約83.3%、好ましくは約32.3%~約80.0%が、好ましくはリンパ球、単球及びCD34細胞からなるリストから選択される単核細胞であり、
iv. 約16.7%~約74.7%、好ましくは約20.0%~約67.7%が顆粒球であり、
v. CD34を発現する造血幹細胞の総数のうち、約7.7%~約55.5%がCD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞であり、
vi. 白血球の約5.4%~約38.8%がCXCR4を発現し、
vii. CD34を発現する造血幹細胞の総数のうち、約0.7%~約10.3%がCD34及びCXCR4を発現する幹細胞であり、
viii. 白血球の約0.07%~約24.7%がVEGFR2を発現し、
ix. 赤血球とロイコサイト細胞との最大比が6.7であり、血小板とロイコサイト細胞との最大比が32である。
【0019】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施の形態では、前段落において規定される最終配合物中の本発明の細胞懸濁液は、約4×108個~約1.2×109個の白血球、より好ましくは約5×108個~約2×109個の白血球、更により好ましくは約5×108個~約1.2×109個の白血球、及び上に挙げた各々の値の間の全ての投与量値を含む。
【0020】
或る特定の実施の形態は、最終配合物中の白血球のこれらの値から部分範囲として選択することができる。例えば、特定の実施の形態は、8×108個超~約1.2×109個の白血球の最終配合物中の白血球含量として選択することができる。実施の形態において選択することができる範囲の別の例は、約9×108個~約1.1×109個の白血球の含量の選択である。特定の実施の形態について選択することができる範囲の第3の例は、約9.5×108個~約1.05×109個の白血球の選択である。特定の実施の形態について選択することができる範囲の第4の例は、9.8×108個超~約1.02×109個の白血球等の含量の選択である。
【0021】
選択することができる含量又は投与量(dosed)の実施の形態の範囲の他の例としては、6×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)が挙げられる。別の例は、7×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、8×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、8.5×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、9×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、9.5×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、7×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。このため、本明細書の値から当業者に理解されるように選択することができる全ての投与量範囲が本発明に包含される。
【0022】
上述の各々の細胞集団を測定する方法は、本発明の詳細な説明において明らかに確立される。
【0023】
かかる細胞懸濁液が薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤を含み得ることに留意されたい。
【0024】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施の形態では又はその好ましい実施の形態のいずれにおいて、下肢末梢動脈疾患は重症下肢虚血である。
【0025】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施の形態又はその好ましい実施の形態のいずれかにおいて、細胞を、好ましくは約1%HSA及び約2.5%グルコースを含む5ml~30mlの容量のヘパリン添加生理食塩溶液又は乳酸リンゲル液に懸濁する。
【0026】
本発明の第2の態様では、インフレータブルバルーンを遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置し、上記細胞懸濁液を動脈内に注入することによって最大4気圧の低圧血流を得る動脈内投与により下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血を治療する方法に使用される、本発明の第1の態様において規定される又はその好ましい実施の形態のいずれかの細胞懸濁液に言及する。
【0027】
本発明の第3の態様では、本発明の第1の態様において規定される又はその好ましい実施の形態のいずれかの細胞懸濁液を含む1つ又は幾つかのプレフィルドシリンジに言及する。
【0028】
本発明の第4の態様では、下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血の治療又は改善における使用のための本発明の第3の態様において規定されるシリンジ(プレフィルドシリンジ)に言及する。1つ以上のプレフィルドシリンジを患者1人に用いてもよいことに留意されたい。
【0029】
本発明の第5の態様では、インフレータブルバルーンを遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置し、上記細胞懸濁液を動脈内に注入することによって最大4気圧の低圧血流を得る動脈内投与により下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血を治療する方法に使用される、本発明の第3の態様において規定されるシリンジ(プレフィルドシリンジ)に言及する。
【0030】
本発明の第1~第5の態様の好ましい実施の形態では、細胞懸濁液又はシリンジは1回量として提供される。
【0031】
本発明の第2及び第5の態様の好ましい実施の形態では、低圧流の誘導を1分間~6分間行い、上記細胞懸濁液の注入を2分間~10分間行う。
【0032】
本発明の第6の態様では、以下を含む、本発明の第1の態様又はその好ましい実施の形態のいずれかにおいて規定される本発明の細胞懸濁液の製造方法に言及する:
1. 骨髄(BM)採取を、反復穿刺、好ましくは局所又は全身麻酔下での被験体の後腸骨稜からの反復穿刺によって行う。次いで、BM穿刺液を、好ましくは抗凝血剤溶液、より好ましくはクエン酸デキストロース溶液A(ACD-A)の入った輸送用バッグ内に採取する。
2. 全ての小さな骨片を除去し、その後の工程における閉塞を防ぐために、BMを好ましくは重力により濾過する。
3. 最初のBM容量を、好ましくはSepax 2.0デバイス及び付属の滅菌ディスポSmartReduxキット(CS-490.1)でのSmartReduxプログラムを用いることによって、好ましくは約50mL~100mLまで減少させる。好ましくは約50mL~100mLのバフィーコート生成物を生じる、血漿及び赤血球(RBC)の除去を含む本工程も最終生成物の純度に寄与する。
4. 任意に、処理される出発物質の容量に応じて1回又は2回のサイクルで減容工程を行う。容量が220mLまでのBMサンプルは単一サイクルで処理し、220mLを超えるサンプルは、同じキットを用いた2回のサイクルで処理する。単一及び2サイクルの両方の減容について、最終容量を約50mL~100mLに設定するのが好ましい。
5. 工程3又は工程4において確立される、減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグを自動化密度勾配遠心分離にかけ、続いて、好ましくは生理食塩溶液中の2%~4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄を行う。およそ約45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去する。好ましくは、減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグを、NeatCell密度勾配遠心分離にかけ、続いて、好ましくは生理食塩溶液中の2%~4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄を行う。およそ約45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去する。
6. BM-MNCを、好ましくは50mL容シリンジを用いて生成物バッグから採取し、好ましくは50μmフィルターに通して、好ましくは滅菌ファルコンチューブに濾過する。生成物バッグを洗浄溶液ですすぎ、濾過することで、MNC回収率を改善する。BM-MNC原薬の最終容量を40mL~60mLに調整する。
【0033】
原薬を遠心分離し、ペレットを5ml~30mlの容量の最終配合混合物、好ましくはヘパリンを含む生理食塩水、又は好ましくは1%のHSA及び好ましくは2.5%のグルコースを含む乳酸リンゲル液に再懸濁する。
【0034】
上に前述したように、本発明の第6の態様により得られる最終細胞懸濁液生成物が、MNC画分だけでなく顆粒球も含む生存白血球に基づいて投与されることに留意されたい。MNCは活性構成要素であるため、最終生成物中のMNCのパーセンテージは品質特性とみなされる。
【0035】
本発明の第7の態様では、本発明の第6の態様の方法によって得られる又は得ることができる細胞懸濁液生成物又は生成物容器、好ましくは1つ又は幾つかのシリンジに言及する。かかる細胞懸濁液生成物又は生成物容器を、本発明の第1~第5の態様のいずれかに確立されるように使用することができることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】本発明の細胞懸濁液の投与の3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後のRutherford分類(対照対治療;切断及び死亡を含む;LOCF)を示す図である。
【
図3】本発明の細胞懸濁液の投与の3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後のRutherford分類(3つの漸増用量の影響;切断術及び死亡を含む;LOCF)を示す図である。
【
図4】対照群及び本発明の細胞懸濁液の3つの群(用量)についての3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月のRutherford分類(被験体のパーセンテージ)の改善を示す図である。
【
図5】3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月の時点での患肢における潰瘍数によって分類された被験体の割合を示す図である(左パネル:対照群;右パネル:本発明の細胞懸濁液の群)。
【
図6】生じた24例の脈管形成のうち3例の血管造影画像を
図6にベースラインに対して提示する:動脈の縦成長(
図6A)、新生血管の外観(
図6B)及びその標的皮膚に平行な横成長(
図6C)。
【
図7】本発明の細胞懸濁液生成物の製造方法の流れ図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義
本明細書で使用される場合、「自己」は、ドナー及びレシピエントが同じ個体である細胞調製物を指すものとして理解される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「同種異系」は、ドナー及びレシピエントが同じ個体でない細胞調製物を指すものとして理解される。
【0039】
本明細書で使用される場合、「成体骨髄由来細胞」は、胚性でなく、ヒトドナーから得られる骨髄に由来する細胞を含む調製物として理解される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「細胞懸濁液」は、液体培地中に懸濁された細胞の調製物として理解される。
【0041】
本明細書で使用される場合、「成体骨髄由来細胞の細胞懸濁液」は、液体培地中に懸濁された、胚性でなく、ヒトドナーから得られる骨髄に由来する細胞の調製物として理解される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「CD34を発現する造血幹細胞」は、表面マーカーCD34を発現し、CD34抗体染色及びフローサイトメトリーによってCD34陽性として特定される造血幹細胞として理解される。
【0043】
本明細書で使用される場合、「CD34を発現し、CD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞」は、表面マーカーCD34を発現し、CD34抗体染色及びフローサイトメトリーによってCD34陽性として特定されるが、CD38抗体染色及びフローサイトメトリーによって表面マーカーCD38について陰性と特定される造血幹細胞として理解される。
【0044】
本明細書で使用される場合、「CXCR4を発現する白血球」は、表面マーカーCD45及びCXCR4を発現し、CD45及びCXCR4抗体染色及びフローサイトメトリーによってCD45及びCXCR4に陽性として特定される細胞として理解される。CXCR4は、遊走因子SDF-1の受容体である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「CD34及びCXCR4を発現する幹細胞」は、表面マーカーCD45、CD34及びCXCR4を発現し、CD45、CD34及びCXCR4抗体染色並びにフローサイトメトリーによってCD45、CD34及びCXCR4に陽性として特定される細胞として理解される。CXCR4は、遊走因子SDF-1の受容体である。
【0046】
本明細書で使用される場合、「VEGFR2を発現する白血球」は、表面マーカーCD45及びVEGFR2を発現し、CD45及びVEGFR2抗体染色並びにフローサイトメトリーによってCD45及びVEGFR2に陽性として特定される細胞として理解される。VEGFR2は、血管新生及び脈管形成因子であるVEGFの受容体である。
【0047】
本明細書で使用される場合、「単核細胞」は、円形の核を有する任意の血液又は骨髄の白血球(ロイコサイトとも称される)として理解され、そのため顆粒球は除外される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「下肢末梢動脈疾患」は、心臓又は脳に供給を行う動脈以外の動脈の狭窄として理解される。末梢動脈疾患は一般に肢部を冒すが、他の動脈が罹患する可能性もある。
【0049】
本明細書で使用される場合、「重症下肢虚血」は、病態が客観的に証明された動脈閉塞性疾患に起因する片脚又は両脚の慢性虚血性安静時疼痛(at-rest pain)、潰瘍又は壊疽を特徴とする末梢動脈疾患の下位区分として理解される。
【0050】
数値に関した「約」という用語は、その数値の±20%を意味する。数値に関した「約」という用語は、その数値の±10%も含む。数値に関した「約」という用語は、その数値の±5%も含む。数値に関した「約」という用語は、その数値の±1%も含む。
【0051】
「含む("comprise" and "comprising")」という用語は包括的で、排他的でない(open)意味で用いられ、付加的な要素が含まれ得ることを意味する。「含む」という用語は、「からなる」及び「から本質的になる」という用語も包含し、これらの用語と区別なく用いられる場合もある。
【0052】
本明細書で使用される場合、「成体」という用語は、幹細胞が胚性でないことを意味する。一実施形態では、「成体」は後胚期又は「出生後」を意味する。本発明の幹細胞に関して、「成体幹細胞」という用語は、幹細胞が胚形成期より後の成長段階の動物の組織又は器官から単離されることを意味する。成体幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊という起源によって定義される胚性幹細胞とは異なる。本発明による成体幹細胞は、任意の非胚性組織から単離することができ、新生児、小児、青年及び成体被験体を含む。概して、本発明の幹細胞は非新生児哺乳動物、例えば非新生児ヒトから単離される。本発明の幹細胞は、ヒトから単離されるのが好ましい。
【0053】
「単離された」という用語は、それが指す細胞又は細胞集団が、その自然環境にないことを示す。この細胞又は細胞集団は、周囲組織から実質的に分離されている。
【0054】
本発明において言及される新たな細胞懸濁液生成物のマーカープロファイルは、付加的なマーカーの存在及び/又は非存在、又は存在及び非存在マーカーの組合せの特定のプロファイルによって更に規定することができる。いずれの場合にも、マーカーの特定の組合せが、細胞の集団内の特定のプロファイル及び/又は集団内の個々の細胞上のマーカーの特定のプロファイルとして存在する可能性がある。
【0055】
本明細書で使用される「マーカー」という用語は、その存在、濃度、活性又はリン酸化状態を検出し、細胞の表現型を同定するために用いることができる任意の生体分子を包含する。
【0056】
この場合、本発明の細胞は、或る特定の表現型マーカーについて陽性であり、他のマーカーについて陰性である。「陽性」とは、マーカーが細胞内で発現されることを意味する。発現されているとみなされるためには、マーカーは検出可能なレベルで存在する必要がある。「検出可能なレベル」とは、マーカーを記載のようなPCR、ブロッティング又はフローサイトメトリー分析等の標準的な実験室的方法論の1つを用いて検出することができることを意味する。
【0057】
「発現された」という用語は、細胞の表面上又は細胞内のマーカーの存在を表すために用いられる。発現されているとみなされるためには、マーカーは検出可能なレベルで存在する必要がある。「検出可能なレベル」とは、PCR、ブロッティング、免疫蛍光、ELISA又はFACS分析等の標準的な実験室的方法論の1つを用いてマーカーを検出することができることを意味する。「発現された」は、検出可能なタンパク質の存在、タンパク質のリン酸化状態又はタンパク質をコードするmRNAを指す場合があるが、これらに限定されない。遺伝子は、発現を30回のPCRサイクル後、好ましくは37回のPCRサイクル後に十分に検出することができる場合に(細胞1個当たり少なくとも約100コピーの細胞中の発現レベルに相当する)、本発明の細胞又は本発明の集団の細胞によって発現されるとみなされる。「発現する」及び「発現」という用語は、対応する意味を有する。この閾値未満の発現レベルでは、マーカーは発現されているとはみなされない。
【0058】
詳細な説明
細胞懸濁液生成物
本発明による細胞懸濁液は、改善された治療法の有用な選択肢として、下肢末梢動脈疾患の治療又は改善、特に重症下肢虚血(CLI)の治療、特にバイパス手術又は血管内治療を用いた血行再建術の選択肢を有しない、DMを有する患者における重症下肢虚血(CLI)の治療に適した生成物である。この意味で、驚くべきことに、本発明による細胞懸濁液が、下肢末梢動脈疾患の治療又は改善において使用した場合に、CLI II度(4群)又はIII度(5群)からI度(1群~3群)又は0度(0群)へのRutherford分類の変化、潰瘍についてだけでなく、大切断術についても改善された治癒過程、並びに血管伸長及び/又は血管密度の増大等の多くの臨床的に関連した改善をもたらすことが見出された。上記の利点の全てが細胞懸濁液の単回投与であっても得ることができ、実施例2において明らかに説明される。
【0059】
一般的には、本発明の細胞懸濁液は、
A.
i. リンパ球の集団、
ii. 単球の集団、及び、
iii. CD34を発現する造血幹細胞の集団、
を含む又はそれからなるリストから選択される単核細胞(MNC)を含み、
B. 顆粒球、
を更に含む、自己又は同種異系、好ましくは自己の成体骨髄由来の細胞、好ましくは腸骨稜由来の細胞懸濁液を指す。
【0060】
細胞集団A)及びB)が遊走因子SDF1の受容体であるCXCR4を発現する細胞集団を含み、この集団からCD34及びCXCR4を発現する造血幹細胞の亜集団の存在を指摘することが重要であることに留意されたい。加えて、細胞集団A)及びB)は、血管新生及び脈管形成に関与する血管新生因子VEGFの受容体であるVEGFR2を発現する細胞集団を含む。
【0061】
最後に、細胞集団A.のiii)は、初期非拘束造血幹細胞であるCD38を発現しない細胞集団を含む。
【0062】
したがって、具体的には、本発明による懸濁液は、i)CD34を発現する造血幹細胞、ii)CD34を発現し、CD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞、iii)遊走因子SDF-1の受容体であるCXCR4を発現する白血球、iv)CD34と遊走因子SDF-1の受容体であるCXCR4とを発現する造血幹細胞、v)VEGFの受容体であるVEGFR2を発現する白血球、並びにvi)単球、顆粒球及びリンパ球を含む自己又は同種異系、好ましくは自己の成体骨髄由来細胞の細胞懸濁液である。
【0063】
本発明の最終細胞懸濁液生成物が、単核白血球画分(リンパ球及び単球及び幹細胞)だけでなく、顆粒球も含む生存白血球骨髄由来細胞に基づいて投与されることに留意することが重要である。
【0064】
したがって、本発明の細胞懸濁液は、i)CD34を発現する造血幹細胞、ii)CD34を発現し、CD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞、iii)遊走因子SDF-1の受容体であるCXCR4を発現する白血球、iv)CD34と遊走因子SDF-1の受容体であるCXCR4とを発現する造血幹細胞、v)血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の受容体であるVEGFR2を発現する白血球、並びにvi)単球、顆粒球及びリンパ球を含む自己又は同種異系、好ましくは自己の成体骨髄由来細胞の細胞懸濁液を指す。
【0065】
好ましい実施形態では、単核細胞について富化された(細胞懸濁液中に存在する白血球(WBC)の25%超が単核細胞であることを意味する)最終配合物中の細胞懸濁液は、
約4×108個~約2×109個の、好ましくは腸骨稜に由来する自己又は同種異系、好ましくは自己の白血球骨髄由来細胞を含み、約4×108個~約2×109個の白血球の総数のうち、
i. 約20%~約51%がリンパ球であり、約3.9%~約22.3%が単球であり、
ii. 1.4%~10%がCD34を発現する造血幹細胞であり、
iii. 白血球の総数のうち約25.3%~約83.3%が単核細胞であり、
iv. 約16.7%~約74.7%が顆粒球であり、
v. 白血球の総数のうち約5.4%~約38.8%がCXCR4を発現し、
vi. 白血球の総数のうち約0.07%~約24.7%がVEGFR2を発現し、
vii. CD34を発現する造血幹細胞の総数のうち、約7.7%~約55.5%がCD38を発現しない初期非拘束造血幹細胞であり、約0.7%~約10.3%がCD34及びCXCR4を発現する幹細胞であり、
viii. 赤血球とロイコサイト細胞との最大比が6.7であり、血小板とロイコサイト細胞との最大比が32である。
【0066】
別の好ましい実施形態では、白血球の総数のうち、32.3%~80.0%がリンパ球、単球及びCD34を発現する造血幹細胞からなるリストから選択される単核細胞であり、20.0%~67.7%が顆粒球である。
【0067】
更に別の好ましい実施形態では、前段落において規定される最終配合物中の本発明の細胞懸濁液は、約4×108個~約1.2×109個の白血球、より好ましくは約5×108個~約2×109個の白血球、更により好ましくは約5×108個~約1.2×109個の白血球、及び上に挙げた各々の値の間の全ての投与量値を含む。
【0068】
或る特定の実施形態は、最終配合物中の白血球のこれらの値から部分範囲として選択することができる。例えば、特定の実施形態は、8×108個超~約1.2×109個の白血球の白血球含量として選択することができる。実施形態において選択することができる範囲の別の例は、約9×108個~約1.1×109個の白血球の含量の選択である。特定の実施形態について選択することができる範囲の第3の例は、約9.5×108個~約1.05×109個の白血球の選択である。特定の実施形態について選択することができる範囲の第4の例は、9.8×108個超~約1.02×109個の白血球等の含量の選択である。
【0069】
含量又は濃度の実施形態の選択することができる範囲の他の例としては、6×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)が挙げられる。別の例は、7×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、8×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、8.5×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、9×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。別の例は、9.5×108個超から約2×109個、好ましくは約1.2×109個までの白血球の範囲(その間の全ての投与量値を包含する)の選択である。このため、本明細書の値から当業者に理解されるように選択することができる全ての投与量範囲が本発明に包含される。
【0070】
上述の各々の細胞集団を測定する方法は、本発明の詳細な説明において明らかに確立される。特に、リンパ球、単球、顆粒球、血小板及びRBCの各々を測定する方法は、自動化血液セルカウンター(ABX Pentra 60、Horiba Medical)による総細胞計数及び分化細胞計数を用いて行われる。前駆細胞のパーセンテージ、CXCR4発現細胞のパーセンテージ及びVEGFR2発現細胞のパーセンテージを、フローサイトメーター(MACS Quant Analyzer 10、Miltenyi Biotec)を用いて決定した。
【0071】
かかる細胞懸濁液が薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤を含み得ることに留意されたい。
【0072】
別の好ましい実施形態では、本発明の細胞懸濁液の細胞を、好ましくは約1%HSA及び約2.5%グルコースを含む、5ml~30mlの容量のヘパリン添加生理食塩溶液又は乳酸リンゲル液に懸濁する。
【0073】
本発明は、上で規定される本発明の細胞懸濁液と、任意に薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物も提供する。薬学的に許容可能な担体は、細胞の生存能力及び機能性を支持する培地を含んでいてもよい。かかる培地は、レシピエントにおける免疫応答の誘発を回避するために無血清とすることができる。担体は緩衝化され、パイロジェンフリーである。
【0074】
薬学的に許容可能な担体及び希釈剤としては、生理食塩水、緩衝水溶液及び/又は分散媒が挙げられる。かかる担体及び希釈剤の使用は当該技術分野で既知である。溶液は滅菌され、投与用シリンジの使用を可能にするために十分に低粘度である。
【0075】
薬学的に許容可能な担体とすることができる材料及び溶液の例も当該技術分野で既知である。
【0076】
好ましい実施形態では、本明細書の実施例において説明される細胞懸濁液生成物の最終医薬配合溶液は、ヘパリン添加生理食塩水から構成されたことに留意されたい(表4を参照されたい)。2.5%グルコース及び1%HSAを添加した乳酸リンゲル液(2.7mg/100mLの塩化カルシウム二水和物、320mg/100mLの乳酸ナトリウム、40mg/100mLの塩化カリウム及び600mg/100mLの塩化ナトリウム)を使用することもできる(表2を参照されたい)。
【0077】
本発明の実施例において説明される最終配合培地は、10mLのグルコース(2.5%)及び1mLのHSA(20%)を9mLの乳酸リンゲル液に添加することによって、クラスA BSC内で各バッチについて処理日に新たに調製した。
【0078】
【0079】
したがって、特に好ましい賦形剤は、好ましくはグルコース及びHSAを添加した、乳酸リンゲル液である。
【0080】
別の好ましい実施形態では、本発明の細胞懸濁液又は本発明の医薬組成物は、凍結培地中で凍結することができる。-135℃~-190℃の温度で細胞の生存能力を保つ任意の培地が凍結培地として好適である。例えば、凍結培地は2.5%~10%のDMSOを含み得る。より具体的には、凍結培地は5%~10%のDMSOを含み得る。
【0081】
凍結培地は、本明細書に記載の培養培地又は増殖培地をベースとし、ヒト血清、又は細胞の融解後に細胞の完全性を維持することが可能な任意の他のタンパク質若しくはタンパク質の混合物を更に含んでいてもよい。
【0082】
融解後に、本発明の細胞を洗浄して、投与又は投与溶液への再懸濁の前にDMSO又は他の凍結培地の構成要素を除去することができる。投与溶液は、毒性なしに患者に注射することが可能な任意の生理溶液である。投与溶液は、1%~15%のタンパク質、例えばヒト血清アルブミンを含み得る。
【0083】
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載の治療方法又は治療的使用のいずれかに用いることもできる。
【0084】
前述のように、本発明の細胞懸濁液は、実施例2において説明されるように、新たな及び既存の血管の(再)生成を加速し、既存の血管内での血流を改善する。このため、本発明の細胞懸濁液は、下肢末梢動脈疾患(PAD)、好ましくはCLI、より好ましくはバイパス手術又は血管内治療を用いた血行再建術の選択肢を有しない患者におけるDMを伴うCLIの治療に特に有利である。実施例2は、本発明の第1の態様において規定される本発明の細胞懸濁液の定義に含まれる特定の薬用細胞懸濁液生成物を使用することによって行った。かかる薬用細胞懸濁液生成物は、10mL~30mLのヘパリン添加生理食塩水中に配合したBM-MNC原薬から作製した。かかる薬用細胞懸濁液生成物を種々の投与量で使用したが、好ましい投与量は、約5×108個~約1×109個であった。使用した最終容器は、1本~3本の投与用シリンジであった。この細胞懸濁液生成物に関するデータを、32個の被験体バッチについて第二相研究(CMMo/ICPD/2008)において収集した。下記表2に、WBC及び分化(リンパ球、単球)数を含む、それぞれの被験体についての自動化セルカウンターのデータをまとめる。RBC及び血小板の濃度、並びに顆粒球のパーセンテージを含む生成物関連不純物も各被験体について挙げる。
【0085】
また、同じ生成物の表現型分析を、以下の細胞型の分析を含めて表3に示す:
CD34+ 造血幹細胞
CD34+CD38- 初期非拘束HSC
CD133+ 内皮前駆細胞を含有する細胞集団
CD90+ 初期造血幹細胞
CXCR4+ SDF-1受容体を発現する細胞
VEGFR2+ 血管内皮成長因子受容体2を発現する細胞
CD31+CD146+CD133- 成熟内皮細胞
CD34+VEGFR2+CD133+ 後期増殖内皮前駆細胞
CD34-CD105+CD90+CD73+ MSC
【0086】
原薬から収集したデータを表2及び表3に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
上記表2及び表3において説明される、32個の被験体バッチについて第二相研究(CMMo/ICPD/2008)において収集された結果に基づき、本発明の細胞懸濁液生成物の特性評価を行った。
【0090】
本発明が本発明の細胞懸濁液を含む1本~3本の(プレフィルド)シリンジを更に包含することに留意されたい。
【0091】
加えて、必要に応じて、本発明の細胞懸濁液の細胞は例えば、限定されるものではないが、それらのゲノムにおける遺伝子導入、欠失又は挿入のプロセス等を含む任意の従来の方法によって遺伝子操作されていてもよい。
【0092】
細胞懸濁液生成物の製造方法
本発明の細胞懸濁液生成物は、多数の方法で製造することができるが、製造方法がBM穿刺液中のMNC画分を血漿、血小板、RBC及び顆粒球の除去によって富化することを意図した密度、粒径及び重力に基づく分離工程のみからなることから、本発明の細胞懸濁液が最小限に操作されたBM-MNC(骨髄-単核細胞)生成物であるとみなすことができるように、実施例1において詳述されるように製造するのが好ましい。
【0093】
実施例1に記載される製造方法は、以下のように簡潔にまとめられる:
工程0. 骨髄(BM)採取を、反復穿刺、好ましくは局所麻酔下での被験体の後腸骨稜からの反復穿刺によって行う。次いで、BM穿刺液を、好ましくはクエン酸デキストロース溶液A(ACD-A)抗凝血剤の入った輸送用バッグ内に採取する。
工程1:濾過 - 全ての小さな骨片を除去し、その後の工程における閉塞を防ぐために、BMを、好ましくは重力により濾過する。
工程2:SmartRedux減容 - 最初のBM容量を、好ましくはSepax 2.0デバイス及び付属の滅菌ディスポSmartReduxキット(CS-490.1)でのSmartReduxプログラムを、製造業者の取扱説明書に従って用いることによって約50mL~100mLまで減少させる。約50mL~100mLのバフィーコート生成物を生じる、血漿及び赤血球(RBC)の除去を含む本工程も最終生成物の純度に寄与する。
減容工程は、処理される出発物質の容量に応じて1回又は2回行う。容量が220mLまでのBMサンプルは単一サイクルで処理し、220mLを超えるサンプルは、同じキットを用いた2回のサイクルで処理する。
単一及び2サイクルの両方の減容について、最終容量を約50mL~100mLに設定する。
工程3及び工程4:NeatCell密度勾配 - 減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグを、密度勾配遠心分離にかけ、続いて、好ましくは生理食塩溶液中の2%~4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄を行う。およそ約45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去する。
工程5:BM-MNC濾過 - BM-MNCを、50mL容シリンジを用いて生成物バッグから採取し、50μmフィルターに通して滅菌ファルコンチューブに濾過する。生成物バッグを洗浄溶液ですすぎ、濾過することで、MNC回収率を改善する。BM-MNC原薬の最終容量を40mL~60mLに調整する。
【0094】
最終工程(工程6)は、本発明の最終細胞懸濁液生成物の調製からなる。かかる最終生成物を、MNC画分だけでなく顆粒球も含む生存白血球に基づいて投与する。MNCは活性構成要素であるため、最終生成物中のMNCのパーセンテージは品質特性とみなされる。この意味で、最終生成物の品質特性に影響を及ぼし得る幾つかのプロセスパラメーターが存在する。この点で、生成物の製造に重要であると考えられる、最終生成物中のMNCのパーセンテージに影響を及ぼす可能性がある工程を表5に示す。
【0095】
【0096】
SmartRedux工程 - 本工程は、最初のBM容量をNeatcell手順で処理するのに十分に少ない容量まで減少させることを意図したものである(NeatCellの最大投入容量は120mLである)。加えて、SmartRedux工程はRBC、血漿及びバフィーコート生成物への分画を含み、NeatCell生成物の純度に寄与する。
【0097】
本工程と関連する重要なパラメーターは、BM穿刺液からのMNCの回収率に直接影響を及ぼすことから、遠心分離の速度及び時間である。
【0098】
NeatCell工程 - 用いられる自動化MNC富化方法は製造業者によって設計及び標準化され、BM穿刺液をMNCについて富化することを意図し、したがって重要である。NeatCell出発物質のHctは、MNC精製の効率に影響を及ぼすことから、重要な物質特性である。遠心分離の速度及び時間、並びにフィコール密度及び容量を含む重要なプロセスパラメーターは、NeatCellプログラムでは一定である。
【0099】
MNCコンパートメントにおいては、複数の細胞集団が最終生成物の作用様式において重要な役割を果たすと考えられる。したがって、これらの細胞の存在及び機能性が考慮すべき(considered)品質特性(CQA)である。
【0100】
フィコール密度勾配遠心分離後に得られるMNC画分は、フィコールよりも低い密度を有し、したがって遠心分離中にフィコール層に浸透するのに十分に高密度ではない細胞を含有する。結果として、この方法に用いられるフィコールの密度がMNC集団の組成に直接影響を及ぼすため、重要なプロセスパラメーターと考えられる。用いられる密度は1.077gr/mlである。
【0101】
製造は連続プロセスであり、任意の活性化工程、又はMNC画分中の特定の細胞集団の機能性に影響を及ぼす可能性がある、細胞の他の大規模な操作を含まない。プロセス時間が細胞の機能性に影響を及ぼす可能性があり、したがって、待機時間はプロセスに組み込まれず、プロセス全体がクリーンルーム環境において4時間~5時間以内に完了するのが好ましい。機能性は、被験体の疾患状態及び被験体の全身の生理的変動に影響を受ける可能性もある。
【0102】
上記に基づき、本発明の更なる態様では、以下を含む、本発明の細胞懸濁液の製造方法に言及する:
1. 骨髄(BM)採取を、反復穿刺、好ましくは局所又は全身麻酔下での被験体の後腸骨稜からの反復穿刺によって行う。次いで、BM穿刺液を、好ましくは抗凝血剤溶液、より好ましくはクエン酸デキストロース溶液A(ACD-A)の入った輸送用バッグ内に採取する。
2. 全ての小さな骨片を除去し、その後の工程における閉塞を防ぐために、BMを、好ましくは重力により濾過する。
3. 最初のBM容量を、好ましくはSepax 2.0デバイス及び付属の滅菌ディスポSmartReduxキット(CS-490.1)でのSmartReduxプログラムを用いることによって、好ましくは約50mL~100mLまで減少させる。好ましくは約50mL~100mLのバフィーコート生成物を生じる、血漿及び赤血球(RBC)の除去を含む本工程も最終生成物の純度に寄与する。
4. 任意に、処理される出発物質の容量に応じて1回又は2回のサイクルで減容工程を行う。容量が220mLまでのBMサンプルは単一サイクルで処理し、220mLを超えるサンプルは、同じキットを用いた2回のサイクルで処理する。単一及び2サイクルの両方の減容について、最終容量を約50mL~100mLに設定するのが好ましい。
5. 工程3又は工程4において確立される、減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグを密度勾配遠心分離にかけ、続いて、好ましくは生理食塩溶液中の2%~4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄を行う。およそ約45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去する。より好ましくは、減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグを、NeatCell密度勾配遠心分離にかけ、続いて、好ましくは生理食塩溶液中の2%~4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄を行う。およそ約45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去する。
6. BM-MNCを、好ましくは50mL容シリンジを用いて生成物バッグから採取し、好ましくは50μmフィルターに通して、滅菌ファルコンチューブに濾過する。生成物バッグを洗浄溶液ですすぎ、濾過することで、MNC回収率を改善する。BM-MNC原薬の最終容量を40mL~60mLに調整する。
【0103】
本発明の細胞懸濁液の製造が好ましくは単核細胞の富化を含む連続プロセスであり、プロセスが再処理の選択肢を含まないことに留意することも重要である。
【0104】
原薬の調製に続いて、MNCの遠心分離を760×gで10分間にわたって室温で行うのが好ましい。細胞を最終配合物(好ましくは2.5%グルコース及び1%HSAを添加し、滅菌パイロジェンフリー(non pyrogenic)プラスチックシリンジ(複数の場合もある)に滅菌条件下で移したヘパリン添加生理食塩水又は乳酸リンゲル液)に再懸濁する。
【0105】
最終生成物のうち、2mL~3mLを任意に品質管理(QC)試験のためにバイアルに移してもよく、8mL~12mLを各々の滅菌パイロジェンフリープラスチックシリンジに滅菌条件下で移すのが好ましい。次いで、汚染を防ぐために閉鎖コーンを備えるシリンジを、被験体への投与のための関連する画像下治療ユニットへの輸送のために滅菌使い捨てプラスチックジッパーバッグ及び輸送箱で梱包する。
【0106】
製造方法の概要を図面に示す。
【0107】
細胞懸濁液生成物の適用性
実施例2において明らかに示される結果から、本発明の細胞懸濁液の投与後最初の12ヶ月間で、被験体が、僅か2人(13%)の被験体が応答した対照群と好都合に比較される、Rutherfordの1群~3群(1度)への分類の低下(29人(64%)の被験体)によって実証される臨床的に関連した応答を達成したことが示された。
【0108】
ベースライン来院時に、本発明の細胞懸濁液の注入を受けた治療群の25人(56%)の被験体が非治癒性虚血性潰瘍を示したが、投与の12ヶ月後の経過観察来院までに、18人(75%)の被験体にもはや潰瘍が存在せず(1人が大切断術)、24人(60%)の被験体が、信頼性の高い治癒の予測因子(prediction)であるTcPO2≧40mmHgの増大を示した。脈管形成を本発明の細胞懸濁液の投与の6ヶ月後に評価した。本発明の細胞懸濁液で治療した被験体では、脈管形成が26人(62%)の被験体、それぞれ最低用量群、中用量群、最高用量群の7人、8人及び9人の被験体に見られた。
【0109】
経過観察中の治療時に被験体に予期せぬ重篤な有害反応の疑い(Suspected Unexpected Serious Adverse Reaction;SUSAR)は認められなかった。3例のAEが投与経路に関連すると考えられ、軽微な注射部位反応であった。AEの結果として試験を途中で中断した被験体はなく、被験体に本発明の細胞懸濁液に関連するAEは認められなかった。Rexmyelocel-Tの投与前にSAEは生じず、Rexmyelocel-Tの投与後最初の24時間にSAEは生じなかった。対照群の17例のSAE(9人の被験体)及びRexmyelocel-T治療群の24例のSAE(14人の被験体;低用量 1×108個のBM-MNC:4人の被験体;中用量 5×108個のBM-MNC:4人の被験体;最高用量 1×109個のBM-MNC:6人の被験体)の合計41例のSAEが経過観察期間(12ヶ月)中に23人の被験体によって記録された。2人の被験体が心血管疾患の結果として死亡した。
【0110】
このため、本発明の細胞懸濁液は、下肢末梢動脈疾患(PAD)、好ましくはCLI、より好ましくはバイパス手術又は血管内治療を用いた血行再建術の選択肢を有しない患者におけるDMを伴うCLIの治療に特に有利であることが明らかである。
【0111】
したがって、本発明の更なる態様では、好ましくはヒト被験体における、下肢末梢動脈疾患の治療又は改善における使用のための「細胞懸濁液生成物」と題されたセクションに規定される細胞懸濁液、プレフィルドシリンジ又は医薬組成物に言及する。
【0112】
下肢末梢動脈疾患は重症下肢虚血であることが好ましい。
【0113】
より好ましくは、「細胞懸濁液生成物」と題されたセクションに規定される細胞懸濁液、プレフィルドシリンジ又は医薬組成物は、インフレータブルバルーンを遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置し、上記細胞懸濁液を動脈内に注入することによって最大4気圧の低圧血流を得る動脈内投与により下肢末梢動脈疾患、好ましくは重症下肢虚血を治療する方法に使用される。
【実施例】
【0114】
実施例1. 材料及び方法
1. 細胞懸濁液及びその作製方法
本発明を説明するために、幾つかの成熟細胞型及び造血前駆細胞から構成されるBM-MNCの自己細胞懸濁液で作製される本発明による細胞懸濁液を以下の実施例で使用した。最終生成物の配合は、存在する生存WBCの数に基づくものであった。
【0115】
本発明の細胞懸濁液の特性評価は、自動化血液セルカウンター(ABX Pentra 60、Horiba Medical)による総細胞計数及び分化細胞計数を用いて行った。前駆細胞のパーセンテージ、及び遊走因子SDF-1受容体CXCR4を発現するWBC(CD45+細胞)、又は血管新生因子VEGF受容体2を発現するWBCを、フローサイトメーター(MACS Quant Analyzer 10、Miltenyi Biotec)を用いて決定した。
【0116】
32個の臨床バッチの白血球(WBC)の濃度、リンパ球、単球、顆粒球及び前駆細胞の割合、並びにCXCR4又はVEGFR2を発現する総WBCを表6に提示する。
【0117】
【0118】
本発明の細胞懸濁液をGMP条件下で製造した。全てのプロセス工程をクラスBクリーンルーム内で行い、半閉鎖式操作(スパイク接続及びルアーロック接続)及び開放式操作はクラスA BSC内で行った。
【0119】
簡潔に述べると、骨髄を無菌濾過して骨片を除去し、続いて自動化減容工程を行い、更に処理するのに十分に少ない容量を得た。
【0120】
次に、細胞を、洗浄工程を含む自動化フィコール密度勾配遠心分離に供した。生成物を濾過することで50mLのBM-MNC画分を得て、これを原薬とした。
【0121】
原薬製造方法全体が、スパイク及びルアーロックの接続以外は閉鎖式であった。細胞分離工程は、この方法の標準化を確実にするために自動化システム内で行った。
【0122】
本発明の細胞懸濁液の製造方法の流れ図を
図1に提示する。加えて、製造方法を下に詳細に記載する:
工程0:骨髄(BM)採取を、BM穿刺装置に接続した5mL容シリンジを用いた局所麻酔下での被験体の後腸骨稜からの反復穿刺によって行った。BM穿刺液を、およそ250mL~350mLの容量に達するまでクエン酸デキストロース溶液A(ACD-A)抗凝血剤の入った600mL容の輸送用バッグに採取した。新鮮BMの入った輸送用バッグを取扱説明書に従って梱包し、発送の準備をする。BMを室温(15℃~21℃)でRexgeneroへ即時処理のために1回の発送で発送する。
工程1:濾過 - 全ての小さな骨片を除去し、その後の工程における閉塞を防ぐために、BMを重力により200μmインラインフィルターに通して濾過した。濾過後に、サンプルをインプロセス試験のために採取し、採取バッグを秤量し、質量を体積に換算することで、細胞処理の設定における投入容量を得た。
工程2:SmartRedux減容 - およそ300mLの最初のBM容量を、Sepax 2.0デバイス及び付属の滅菌ディスポSmartReduxキット(CS-490.1)でのSmartReduxプログラムを、製造業者の取扱説明書に従って用いることによって50mLまで減少させた。50mLのバフィーコート生成物を生じる、血漿及び赤血球(RBC)の除去を含む本工程も最終生成物の純度に寄与する。減容工程は、処理される出発物質の容量に応じて1回又は2回行った。容量が220mLまでのBMサンプルは単一サイクルで処理し、220mLを超えるサンプルは、同じキットを用いた2回のサイクルで処理した。単一及び2サイクルの両方の減容について、最終容量を50mLに設定した。
工程3及び工程4:NeatCell密度勾配 - 減容されたBMの入った滅菌中間サンプルバッグをNeatcellキット(CS-900.2)に接続し、製造業者の取扱説明書に従ってSepax 2.0デバイスでのNeatCellプログラムを用いて処理した。本工程は、フィコール1077での密度勾配遠心分離に続く、生理食塩溶液中の2.5%又は4%HSA(どちらも医薬品グレード)から構成される洗浄溶液を用いた単核細胞(MNC)懸濁液の2回の洗浄からなっていた。およそ45mLのBM-MNC生成物を産出バッグに採取し、他の構成要素を廃棄物バッグに除去した。
工程5:BM-MNC濾過 - BM-MNCを、50mL容シリンジを用いて生成物バッグから採取し、50μmフィルターに通して滅菌ファルコンチューブに濾過した。生成物バッグを洗浄溶液ですすぎ、濾過することで、MNC回収率を改善した。BM-MNC原薬の最終容量を50mLに調整した。
【0123】
2. 研究集団の選択
平均年齢64.3(±9.5)歳(範囲:46歳~80歳)の外科的又は血管内血行再建術を受けることができないRutherford II度(4群)又はIII度(5群)のCLI及びDMを有する合計60人の被験体(男性50人(83%)及び女性10人(17%))を登録し、1:1:1:1比で無作為に割り当て、標準ケアに加えて本発明の細胞懸濁液の単回投与を行うか(3つの用量レベル:1×108個、5×108個又は1×109個のBM-MNCのうち1つ;1治療群当たり15人の被験体)、又は標準ケア単独に従って治療した(15人の被験体)。本発明の細胞懸濁液は単回注入で動脈内に投与した。この試験のために、層別ランダム化を適用し、Transatlantic Inter-Society Consensus Document on Management of Peripheral Arterial Disease(TASC II)によれば血管内又は外科的血行再建術の選択肢を有しないRutherford CLI II度及びIII度(4群及び5群)について層を構成した。CLIが両脚に見られる場合には、既に足指より上の脚部に外科的切断術を受けていない限りにおいて、より進行した/重症の疾患を有すると担当医師によって決定された脚に注入を行った。試験被験体はベースライン来院時(来院1)、Rexmyelocel-Tの投与の24時間後及び1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後、12ヶ月後(それぞれ来院3、来院4、来院5、来院6、来院7及び来院8)に評価した。対照群に割り当てられた被験体は、来院2及び来院3に来る必要はなかった。
【0124】
3. 組み入れ基準
被験体は、以下の組み入れ基準の全てを満たす場合に試験組入れの対象であった:
1. 18歳以上かつ80歳以下の男女の被験体。
2. I型又はII型DMの治療を受けている被験体。
3. RutherfordによるCLI II度及びIII度(4群及び5群)。
4. TASC IIによって推奨されるように、外科的又は血管内血行再建術が不可能であること。
5. 2年を超える余命。
6. 組入れ後12ヶ月間に肢部の大切断術が予期されないこと。
7. ロイコサイト≧3000個/mL、好中球≧1500個/mL、血小板≧100000個/mm3、AST/ALT≦標準範囲の2.5倍、クレアチニン≦2.5mg/dLによって規定される正常な生化学的パラメーター。
8. 被験体が試験への参加の書面によるインフォームドコンセントを提出していること。
9. 出産可能な女性は、試験への組入れ時に行われる各病院の標準手順に従う妊娠検査について陰性結果を有しており、試験中に医学的に認められた避妊法の使用に取り組む必要がある。
【0125】
4. 除外基準
被験体は、以下の除外基準のいずれかを満たす場合に試験への参加から除外された:
1. 新生物又は血液疾患(骨髄増殖性疾患、白血病又は骨髄異形成症候群)の既往歴。
2. 管理不良高血圧(2回以上の180mmHg/110mmHgを超える血圧と規定される)を有する被験体。
3. 重症の心不全(ニューヨーク心臓協会ステージIV)。
4. 悪性心室性不整脈又は不安定狭心症を有する被験体。
5. スクリーニング前3ヶ月以内の深部静脈血栓症の診断。
6. Rexmyelocel-Tの投与が計画される日と同日に見られる活動性感染又は壊疽。
7. 高圧酸素療法、血管作動物質、Cox-II阻害剤を含む併用療法。
8. BMI>40kg/m2。
9. 組入れ時にアルコール依存症の診断を有する被験体。
10. 増殖性網膜症。
11. 余命を1年未満に短縮する合併症。
12. HIV感染、B型肝炎又はC型肝炎。
13. プロトコルの全側面に従おうとしなかった又は従うことができなかった被験体。
14. 心不全又は30%未満の駆出率。
15. スクリーニング来院前3ヶ月以内の脳卒中又は心筋梗塞。
16. 貧血(ヘモグロビン<10g/dL)。
17. 白血球減少症。
18. 血小板減少症(100000個/mm3未満の血小板)。
19. 妊婦又は適切な避妊法を用いていなかった出産可能年齢の女性。
20. 本試験のスクリーニング前3ヶ月以内に臨床試験に参加していた被験体。
【0126】
5. 研究からの被験体の排除
被験体は、以下の理由のいずれかのために試験から排除される可能性があった:
ランダム化の結果に基づく細胞懸濁液の最適最終濃度を達成することができないこと。この場合、PIが生成物を投与するか否かを決定すべきである。
インフォームドコンセントから計画投与日までの重篤有害事象(SAE)の存在。
大きなプロトコル逸脱。被験体がプロトコル参加基準を満たすことができないか又はプロトコル要件を忠実に守らず、参加の継続が被験体の健康に受け入れ難いリスクを生じさせることのランダム化後の発覚。
参加の継続が被験体の健康に受け入れ難いリスクを及ぼすことから早期終了を必要とするAE若しくは治療前事象が被験体に認められたか、又は被験体がAE若しくは治療前事象のために継続を望まなかった。
任意離脱。被験体(又は被験体の法定代理人等)が試験からの離脱を望んだ。
追跡不能。被験体が臨床に戻らず、被験体と連絡を取る試みが失敗した。被験体と連絡を取る試みは文書化した。被験体が試験から離脱する場合、可能であれば早期終了来院のために予定された全手順を行った。
【0127】
医薬品の臨床試験の実施の基準(good clinical practice)により、試験から途中で離脱した全ての被験体に代替療法を推奨した。離脱が顕著なAE(有害事象)の発生に起因する場合、被験体は責任医師により完了まで、すなわち、AEが解消されるまで又はそれが恒久的な事象となることが決定されるまでモニタリングされた。試験中断の主な理由をCRFに記録した。
【0128】
6. 実行した治療
治験薬
局所麻酔及び鎮静下で、或る容量のBM(90mL~420mL)を連続穿刺により腸骨稜から収集した。BMは、1:5(BM容量)の比率で抗凝血剤としてACD-A溶液の入った輸送用バッグに採取した(上記の項目1を参照されたい)。
【0129】
BM-MNCの懸濁液を、変更なしに又はその生物学的機能性に影響を及ぼす可能性がある任意の生成物を添加することなく、密度勾配遠心分離によって得た。
【0130】
本発明の細胞懸濁液を以下の1回量で投与した:
1×108個のBM-MNC
5×108個のBM-MNC
1×109個のBM-MNC
【0131】
本発明の細胞懸濁液は、動脈内カテーテルを用いて投与した。標的肢の動脈に、全ての場合において膝より下ではない可能な限り遠位に進めたオーバーザワイヤーカテーテルバルーン(膝窩径に適合する)を経大腿アプローチにより挿管し、通常は遠位大腿又は膝窩動脈で閉塞性血管病変の近位に配置した。この点で、バルーンを膨らませて血流を遮断し、本発明の細胞懸濁液を3分間(min)かけてゆっくりと注入した。投与後にバルーンをしぼませ、順行性血流を回復させた。
【0132】
本発明の細胞懸濁液の投与は、細胞治療ユニットから直接派遣された血管専門医(画像下治療医又は血管外科医)によってBM採取の3時間~5時間後に行われた。
【0133】
全ての被験体を、TASC II治療ガイドラインに記載される膝窩動脈下重症アテローム性血管疾患の現在の標準ケアにより治療した。
【0134】
7. Rutherford分類の変化
重症下肢虚血は、2週間超にわたって持続する患肢における重度に障害された血流に続発する下肢安静時疼痛、虚血性潰瘍又は壊疽を有する患者を含む。被験体のPAD分類は、標準的なトレッドミル運動負荷試験を行わず、軽度、中等度又は重度のICを正式に識別することができなかったことから、Rutherfordのカテゴリーではなく等級を用いた血管専門医の試験により行われた。
【0135】
IC(I度、1群~3群)は、運動によって引き起こされ(歩行又は筋肉活動によって生じる)、CLIを有する患者において持続する安静時の疼痛とは異なり、活動の停止により直ちに緩和される四肢の筋肉痛、不快感又は脱力として規定された。
【0136】
Rutherfordの0度は、症状を有さず、又は単に冷覚を有し、又は閉塞性疾患の臨床兆候を有さず、又は僅かな脈拍減少を有する被験体を特定するために用いられた。
【0137】
非治癒性虚血性潰瘍は、治癒を要する炎症性応答を支持する下肢の不十分な動脈灌流が見られることを示唆する。これと関連して、通常は虚血性安静時疼痛、及びびまん性足虚血(CLI Rutherford III度~IV度、5群~6群)の客観的証拠が見られる。
【0138】
虚血性安静時疼痛は、びまん性足虚血(II度~IV度、4群~6群)を示し、鎮痛薬によって容易に制御することができない。疼痛は前肢及び足指、又は限局性虚血性病変の周辺に局在化する。疼痛は肢部を挙上することによって悪化する。虚血性安静時疼痛を伴うびまん性足虚血は、一般に足関節血圧<40mmHg及びABI<0.8と関連する。
【0139】
被験体を虚血性安静時疼痛(非治癒性虚血性潰瘍を伴う又は伴わない)、運動によって引き起こされる虚血性筋肉痛(IC)又は無症候性疾患の存在に基づいて分類した。試験の被験体を分類するために、ABI(確実に評価することができる場合)の測定により、臨床症状をびまん性足虚血の客観的証拠と組み合わせた。
【0140】
ベースラインから1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月までのRutherford分類の変化を評価した。
【0141】
臨床的改善は、ベースラインからの単一のRutherford等級(カテゴリー)の改善として規定した。臨床的に関連した改善は、Rexmyelocel-Tの投与の3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後又は12ヶ月後のCLI 4群又は5群からIC 3群以下へのRutherford分類の変化として規定した。
【0142】
8. 潰瘍数及び潰瘍サイズの変化
標的下肢の最大の潰瘍のサイズ及び両脚の潰瘍の総数を症例報告書(CRF)に記録した。ベースラインから1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月までの潰瘍治癒及び潰瘍サイズの変化を評価した。
【0143】
9. 脈管形成
脈管形成は、本発明の細胞懸濁液の投与の6ヶ月後に、治療前に行われたベースライン血管造影とRexmyelocel-Tの投与の6ヶ月後に行われた血管造影とを比較することによって独立盲検評価を行う2人の画像下治療医からなる評価委員会によって評価された。
【0144】
既存の動脈の縦成長、既存の動脈の横成長(cross growth)、側副血管数の増加、側副血管のサイズ及び/又は密度の増加、又は主要膝窩動脈下血管のサイズ及び/又は密度の増加が見られる場合に脈管形成が生じていると考えられる。
【0145】
10. 大切断術(標的肢)
大切断術は足関節より上の下肢の切断術と考えた。
【0146】
11. ABIの変化
ABIは、足関節で測定される収縮期血圧と上腕動脈で測定される収縮期血圧との比率として規定される。被験体に、温度19℃~22℃の室内で5分間~10分間、仰臥位でリラックスし、頭部及びかかとを支えて休憩するように指示した。適切なサイズの血圧測定用カフを足関節及び腕の両方の血圧の測定に選択した。足関節及び腕の両方について、直線巻き付け(straight wrapping)法を用いてカフを肢部に巻き付けた。8MHz~10MHzのドップラープローブを使用し、ドップラーゲルをセンサー上に塗布した。ドップラープローブを腕の血圧測定時の上腕血流の検出にも使用した。両腕の上腕収縮期血圧、並びに問題の肢の前脛骨及び後脛骨収縮期血圧を測定した。
【0147】
ベースラインから1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月までのABIの変化を、足関節血圧を確実に評価することができる被験体において記録した。
【0148】
12. 経皮酸素分圧の変化
経皮酸素測定TcPO2は、毛細血管から表皮を通って拡散したO2の量を反映する局所非侵襲的測定である。TcPO2は、TCM3(Radiometer Medical ApS,Copenhagen,Denmark)を用いて測定した。
【0149】
ベースラインから1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月までのTcPO2の変化を記録した。
【0150】
13. 有害事象の定義
有害事象(AE)は、治験薬に関連すると考えられるか否かを問わず、試験中に被験体に生じる任意の望ましくない経験として規定した。したがって、AEは、医薬品(治験薬)に関連していたか否かを問わず、時間的に医薬品(治験薬)の使用と関連する任意の好ましくない意図せぬ兆候(異常な検査所見を含む)、症状又は疾患であり得る。これには、既存の病態若しくは事象の増悪、併発する病気、薬物間相互作用、又は特定の有効性評価下で症例報告書のどこにも記録されていない調査中の適応症の顕著な悪化が含まれていた。臨床的に顕著な増悪又は悪化を示さない研究中の疾患を含む既存の病態の予想される変動は、AEとはみなさなかった。
【0151】
以下のデータを各AEについて文書化した:
症状事象の説明。
「重篤」又は「重篤でない」の分類。
重症度:軽度(被験体が容易に耐えられるAE;僅かな不快感しか引き起こさず、日常活動を妨げない)、中等度(通常の日常活動を妨げるのに十分に不快なAE;介入が必要とされる場合がある)、重度(通常の日常活動を妨げるAE;治療又は他の介入が通常は必要とされる)。
最初の発生の日及び解消の日(該当する場合)。
取った行動:任意の行動、試験治療の恒久的中止、併用薬の投与、非薬理学的治療の管理又は入院/長期入院(SAE)。
因果関係。AEと、もしあればRexmyelocel-Tとの関係を評価するために、責任医師によりあらゆる努力が払われた。因果性は、以下のカテゴリーを用いて評価した:
因果関係を示唆する証拠が殆どなかった場合(例えば、事象がRexmyelocel-Tの投与後妥当な期間内に生じなかった、又は事象の別の妥当な説明(例えば、被験体の臨床病態、他の併用治療)があった場合)、可能性が低い。考え得る因果関係を示唆する証拠がある場合(例えば、他の因子(例えば、被験体の臨床病態、他の併用治療)が事象に寄与した可能性があるが、事象がRexmyelocel-Tの投与後妥当な時間内に生じたため)、可能性がある。因果関係を示唆する証拠があり、他の因子の影響がありそうにない場合、可能性が高い。
因果関係を示唆する明らかな証拠があり、他の因子の考え得る寄与を除外することができる場合、確実である。
因果関係に関する臨床判断を行うのに不十分又は不完全な証拠がある場合、読み取り不能である。
事象の結果(不明、回復、未回復、回復したが後遺症あり、死亡(日付及び原因を報告する))。
【0152】
14. 重篤有害事象の定義
SAEは、以下の深刻な結果の基準の1つ以上を満たすAEとして規定した:
死亡を招いた。
致命的であった。
入院患者の入院又は既存の入院の延長を必要とした。
永続的又は重大な障害又は不能を引き起こした。
先天性異常又は出生時欠損であった。
医学的及び科学的判断に基づき、被験体を危険にさらす可能性を有するか、又は上に挙げた結果の1つを防ぐために介入を必要とした重要な医療事象であった。
【0153】
AEは、事象の時点で被験体に死亡のリスクがある場合に致命的であるとみなした。より重篤であった場合に理論上は死亡原因となった可能性がある事象とはみなさなかった。
【0154】
実施例2. 結果
1. Rutherford分類の変化
ベースライン時、並びに3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後の対照被験体及び本発明の細胞懸濁液で治療した被験体におけるPADのRutherfordカテゴリーの変化を下記表7に提示する。
【0155】
ベースライン来院時に、本発明の細胞懸濁液による治療群の被験体は、CLI Rutherford 4群(II度)又はRutherford 5群(III度)(それぞれ20人(44%)の被験体及び25人(56%)の被験体)と分類された。結果から、最初の12ヶ月間に、本発明の細胞懸濁液で治療した被験体の大部分が改善、すなわち28人(68%)の被験体におけるRutherford 0群~3群(0度及び1度)への分類の低下によって実証される臨床的に関連した応答を達成したことが示された。
【0156】
【0157】
投与の3ヶ月後に、本発明の細胞懸濁液で治療した15人(33%)の被験体、並びに中用量群及び高用量群の12人(40%)の被験体が、もはや安静時疼痛又は組織欠損を患わず、Rutherford 0群~3群(0度及びI度)と分類され、これは投与の6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後にそれぞれ21人(46%)の被験体、24人(57%)及び28人(68%)まで更に増加した。中用量群及び高用量群の被験体については、これは投与の6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後にそれぞれ13人(43%)、15人(50%)及び18人(64%)であった。これは3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後にそれぞれ0人(0%)、1人(8%)、1人(8%)及び2人(18%)の被験体がRutherford 1群~3群(I度)まで改善された対照群と好都合に比較された。
【0158】
対照群に割り当てられた1人の被験体がランダム化後にインフォームドコンセントを取り下げ、1人の被験体が6ヶ月の経過観察来院前に心血管疾患によって死亡し、1人の患者が6ヶ月の経過観察来院前に大切断術を受け、1人の被験体が12ヶ月の来院前に追跡不能となった。より低用量のRexmyelocel-Tを与えた2人の被験体が投与の6ヶ月後に標的肢の大切断術を受けた。
【0159】
11人の被験体のうち9人(82%)が安静時疼痛又は非治癒性虚血性潰瘍の存在(4人(36%)の被験体)を報告した対照群と比較して、本発明の細胞懸濁液による治療群の45人の被験体のうち合計28人(62%)(中用量群及び高用量群では30人のうち18人(63%))が、投与の12ヶ月後に安静時の虚血性疼痛又は虚血性潰瘍を示さなかった。
【0160】
最終観測値による補完(last observation carried forward;LOCF)を適用した場合(肢部大切断術を受けた被験体を除外する;これらの被験体は非応答者とみなされた)、結果から、本発明の細胞懸濁液の投与後最初の12ヶ月間に、治療した全ての被験体のうち28人(64%)、中用量群及び高用量群の18人(63%)でRutherford 0群~3群(0度及びI度)への分類の低下により実証される臨床的に関連した応答が達成されたことが示された(表8及び
図2及び
図3を参照されたい)。
【0161】
Rexmyelocel-Tの投与の3ヶ月後に、Rexmyelocel-Tで治療した15人(33%)の被験体(そのうち12人(40%)が中用量群及び高用量群)が、もはや安静時疼痛又は組織欠損を患わず、Rutherford 0群~3群(0度及びI度)と分類され、これは治療した全ての患者について投与の6ヶ月後及び9ヶ月後にそれぞれ21人(46%)の被験体及び24人(53%)の被験体まで更に増加した。中用量群及び高用量群では、6ヶ月及び9ヶ月の時点でそれぞれ14人(47%)及び15人(50%)の被験体がRutherford 0群~3群と分類された。これは3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後及び12ヶ月後にそれぞれ僅か0人(0%)、1人(8%)、1人(7%)及び2人(13%)の被験体がRutherford 1群~3群(I度)まで改善された対照群と好都合に比較された。
【0162】
【0163】
図4及び表9に、全ての投与後経過観察来院時の本発明の細胞懸濁液による治療群における対照群と比較してより多くの被験体の臨床的に関連した応答を示した。Rexmyelocel-Tの投与の12ヶ月後までに、対照群と比較して、全てのRexmyelocel-T群の被験体の大部分が臨床的に関連した応答を示した:34人(76%)の被験体(最低用量、中用量、最高用量Rexmyelocel-T群のそれぞれ10人、13人及び11人の被験体)対2人(13%)の被験体。
【0164】
【0165】
2. 患肢における潰瘍数の変化
患肢における潰瘍数の変化を表10及び
図5に提示する。ベースライン来院時に、本発明の細胞懸濁液による治療群の25人の被験体(56%)及び対照群の9人の被験体(60%)がRutherford 5群として分類され、非治癒性虚血性潰瘍を示した。被験体の大部分が1個の潰瘍を有し、治療群と対照群とに大きな違いは見られなかった(最低用量、中用量、最高用量の本発明の細胞懸濁液群のそれぞれ5人、7人及び6人の被験体、並びに対照群の6人の被験体)。最低用量、中用量、最高用量の本発明の細胞懸濁液による治療群の4人の被験体(それぞれ1人、1人及び2人の被験体)及び対照群の1人の被験体が3個以上の潰瘍を有していた。
【0166】
本発明の細胞懸濁液による治療群の被験体におけるベースライン時の平均潰瘍サイズは、対照群の被験体よりも大きかったが(治療群及び対照群のそれぞれで39.9±23.0mm対26.3±23.5mm)、潰瘍が治癒しなかった被験体では潰瘍サイズが減少し(29.7±13.5mm)、対照群において平均潰瘍サイズが増大した(43.8±29.3mm)ことが結果から示された(表11)。
【0167】
【0168】
【0169】
3. TcPO2の変化
TcPO2の変化を表12に提示する。
【0170】
ベースライン時に、対照群の6人(43%)の被験体と比較して、本発明の細胞懸濁液による治療群の35人(79%)の被験体がTcPO2<40mmHgを有していた(3つの用量群(それぞれ最低用量群、中用量群、最高用量群)で12人、12人及び11人の被験体)。
【0171】
結果から、12ヶ月の経過観察来院までに、対照群の5人(46%)の被験体と比較して、Rexmyelocel-Tで治療した被験体の大部分(24人(60%)の被験体)でTcPO2レベルが40mmHg以上までに増大したことが示された。
【0172】
【0173】
4. 脈管形成
脈管形成を本発明の細胞懸濁液の投与の6ヶ月後に評価した。本発明の細胞懸濁液で治療した被験体では、脈管形成が26人(62%)の被験体、それぞれ最低用量群、中用量群、最高用量群の7人、8人及び9人の被験体に見られた(表13を参照されたい)。
【0174】
【0175】
生じた24例の脈管形成のうち3例の血管造影画像を
図6にベースラインに対して提示する:動脈の縦成長(
図6A)、新生血管の外観(
図6B)及びその標的皮膚に平行な横成長(
図6C)。