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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】内燃機関の電子制御スロットル装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20230412BHJP
   F02D 9/10 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
F02D9/02 351J
F02D9/10 G
F02D9/02 351G
F02D9/02 351M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018207489
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020070791
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】若林 晃行
(72)【発明者】
【氏名】谷川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石田 行夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 真也
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0265447(US,A1)
【文献】特開平3-271528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00-11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルボディと、
前記スロットルボディに軸支された、スロットルバルブを有するスロットルシャフトと、
前記スロットルシャフトの基端部に固定された、前記スロットルボディに配置した電動アクチュエーターからの前記スロットルバルブを開く方向駆動力を前記スロットルシャフトに伝達するためのスロットルギアと、
記スロットルギアと前記スロットルボディとの間に、前記スロットルギアと別体であり、軸線方向に対して所定範囲で回転可能に且つ軸線方向に移動可能に配置された、デフォルト時に前記スロットルボディに係止して回転を規制されるジョイントレバー
前記スロットルシャフトと前記スロットルボディとの間に配置されたシール部材と、
前記スロットルギアと前記スロットルボディとの間に連結された、前記電動アクチュエーターからの駆動力を切断した際に前記スロットルバルブをデフォルト位置に戻すためのリターンスプリングと、
前記ジョイントレバーと前記スロットルギアとの間に連結された、ジョイントレバースプリングと、を備えた内燃機関の電子制御スロットル装置において、
前記リターンスプリングが前記ジョイントレバースプリングの外周に配置されており、且つ前記ジョイントレバースプリングのスラスト方向の荷重が前記リターンスプリングのスラスト方向の荷重よりも大きく設定されていることを特徴とする内燃機関の電子制御スロットル装置。
【請求項2】
前記リターンスプリングは、組み付け時に密着巻きまたはスロットルの回転動作に従って密着巻きになるように設定され、前記リターンスプリングの回転時に前記リターンスプリングのスラスト方向の荷重が前記ジョイントレバースプリングのスラスト方向の荷重よりも大きくなることで前記ジョイントレバーが前記スロットルギアに向けて前記軸線方向に移動することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の電子制御スロットル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関(エンジン)のスロットル装置、特にモーターなどの電動アクチュエーターによってスロットル弁(絞り弁)を駆動する電子制御スロットル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばモーターなどの電動アクチュエーターにより内燃機関のスロットル弁を制御する電子制御スロットル装置が知られている。
【0003】
ところで、この種の電子制御スロットル装置は、基本的にリターンスプリングが備えられたスロットル弁をスロットルセンサからの開度信号を基にECUからの制御信号に基づいて電動アクチュエーターを駆動して開弁することによりエンジンへの吸気を制御するものである。
【0004】
従って、走行中に電動アクチュエーターへの電力供給が不作偽に遮断されるとスロットル弁はリターンスプリングの作用力で全閉位置に戻されてしまい、急激な減速後、走行不能に陥いることになる。エンジン停止時にスロットル弁が全閉状態のまま長期間放置されると吸気管内の燃焼生成物(タールやカーボン)が絞り弁と吸気管内壁との間に付着して両者が接着され、電動アクチュエーターの起動トルクでは開弁できなくなってしまう、という事態となり、電動アクチュエーターでスロットル弁を制御する電子制御スロットル装置では、このアクチュエーターが故障した時の安全保障(リンプホーム)が重大な課題であった。
【0005】
この問題を解決するために、例えば特開2003-370002号公報(特許文献1)などに電動アクチュエーターが故障してスロットル弁がリターンスプリングの作用力で全閉方向に回動された時、スロットル弁が全閉になるのを阻止する保障ストッパを設けたものが提示されているが、これらの保障ストッパは、モーター駆動制御によりリターンスプリングの力を抑制するようにゆっくりと全開位置に戻すものであり、各種のセンサや電子機器が必要であるとともに複雑な制御が必要で且つモーター駆動電源が余分に消費されるとの問題があった。
【0006】
この点について、例えば特開2002-256894号公報(特許文献2)などに、内燃機関用の吸入空気量を制御する電子制御スロットルにおいて、スロットル部にスロットルを戻すリターンスプリングとスロットル全閉から自走可能な開度(デフォルト開度)に戻すデフォルトスプリングの2種のスプリングを備えた電子制御スロットル装置が知られている。
【0007】
ところが、前記従来のデフォルトスプリングを使用する電子制御スロットル装置においては、スロットル弁の閉成時にリターンスプリングによる共振により、隣接する線同士の摩耗やガイドの摩耗が発生し、損傷するという問題があった。
【0008】
そのため、リターンスプリングにおけるガイドのクリアランスを可能な限り狭くして振幅を抑制する手段や線間クリアランスを多くとり、スラスト荷重を高く設定したばね定数の高い圧縮スプリングにより共振点の重なりをなくす手段などが講じられているが、前記従来のリターンスプリングによる共振の防止手段は設計や組み立てが困難であるか高価なスプリングが必要であるという課題があった。
【0009】
一方、例えば高加給エンジンなどではスロットルボディに支持される部分にスロットルシャフトのシール性を担保するために耐圧(高強度)シール部材を用いることが要求されるが、その場合には図6に示すように、シール部材を用いない場合や現行の通常強度のシール部材の場合に比べて開閉時に大きな摩擦力が働くことになり、バルブ開閉ヒステリシス増加に伴い開方向ではモーターの寿命の低下が生じ、閉方向では戻り速度の遅延が生じるという問題があり、一方、シール部材の摩擦力が低下すると高加給エンジンではシール性の悪化により耐久性が劣るという問題があり、特に、前記リターンスプリングとしてばね定数の高いものを使用するとスロットルシャフトは更に大きなトルクを必要とするので耐久性が更に低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-370002号公報
【文献】特開2002-256894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来のスロットルボディに軸支されているスロットルバルブを有するスロットルシャフトの基端部に前記スロットルボディに配置した電動アクチュエーターからの前記スロットルバルブを開く方向に駆動力を伝達するためのスロットルギアを固定するとともに前記スロットルシャフトの前記スロットルギアと前記スロットルボディとの間にデフォルト時に前記スロットルボディに係止して回転を規制されるジョイントレバーを軸線方向に対して所定範囲で回転可能に且つ軸線方向に移動可能に配置し、前記スロットルギアと前記スロットルボディとの間に前記電動アクチュエーターからの駆動力を切断した際に前記スロットルバルブをデフォルト位置に戻すためのリターンスプリングを連結するとともに前記ジョイントレバーと前記スロットルギアとの間にジョイントレバースプリングを連結した内燃機関の電子制御スロットル装置において、使用するシール部材のシール性能に適したばね定数のリターンスプリングを用いることを可能として高耐圧シールを用いた場合にもモーターの寿命の低下を増大することを防止するとともにリターンスプリングの共振による摩耗を低減することにより損傷を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明である内燃機関の電子制御スロットル装置は、
スロットルボディと、前記スロットルボディに軸支された、スロットルバルブを有するスロットルシャフトと、前記スロットルシャフトの基端部に固定された、前記スロットルボディに配置した電動アクチュエーターからの前記スロットルバルブを開く方向の駆動力を前記スロットルシャフトに伝達するためのスロットルギアと、前記スロットルギアと前記スロットルボディとの間に、前記スロットルギアと別体であり、軸線方向に対して所定範囲で回転可能に且つ軸線方向に移動可能に配置された、デフォルト時に前記スロットルボディに係止して回転を規制されるジョイントレバーと、前記スロットルシャフトと前記スロットルボディとの間に配置されたシール部材と、前記スロットルギアと前記スロットルボディとの間に連結された、前記電動アクチュエーターからの駆動力を切断した際に前記スロットルバルブをデフォルト位置に戻すためのリターンスプリングと、前記ジョイントレバーと前記スロットルギアとの間に連結された、ジョイントレバースプリングと、を備えた内燃機関の電子制御スロットル装置において、
前記リターンスプリングが前記ジョイントレバースプリングの外周に配置されており、且つ前記ジョイントレバースプリングのスラスト方向の荷重が前記リターンスプリングのスラスト方向の荷重よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によると、ばね定数の低いリターンスプリングを設定することができるのでスロットルシャフトに掛かるトルクの上昇を防止することができる。
【0014】
また、前記ジョイントレバースプリングのスラスト方向の荷重が前記リターンスプリングのスラスト方向の荷重よりも大きく設定されていることにより前記ジョイントレバーが前記ジョイントレバースプリングの反発力により前記スロットルボディに形成されるスロットルシャフトの軸受に押しつけられてスラスト位置を規制されていることによりリターンスプリングの作動時(戻し時)に生じる共振を抑制する。
【0015】
特に、本発明において、前記リターンスプリングは、組み付け時に密着巻きまたはスロットルの回転動作に従って密着巻きになるように設定され、作動とともに前記ジョイントレバーが可動することにより、リターンスプリングの戻り作動時に生じる共振を吸収して確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、リターンスプリングのばね定数をシール部材の摩擦に合わせて最適な設計とすることを可能とし、スロットル弁の開方向への抵抗を減らしてモーターの寿命を増大するとともにスロットル弁の閉方向への戻りを確実として戻り不良を防止し、更に、閉成時において生じるリターンスプリングの共振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の好ましい実施の形態における分解した状態を示す斜視図。
図2図1に示した実施の形態の縦断面図。
図3図1に示した実施の形態の横断面図。
図4図1に示した実施の形態におけるデフォルト位置とバルブ全開位置との正面図および前記それぞれの位置のリターンスプリング、ジョイントレバー、ジョイントスプリングの状態を示す説明図。
図5図1に示した実施の形態についてのバルブ開度とスロットルシャフトのトルクとの関係図。
図6】従来例におけるバルブ開度とスロットルシャフトのトルクとの関係図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図3は本発明の好ましい実施の形態を示すものであり、アルミニウムなどの軽合金により鋳造されたスロットルボディ1には円筒形で内燃機関(エンジン)の吸気管(図示せず)へ接続される吸気通路11が貫通して形成されているとともに前記吸気通路11に内接して吸気を開閉する円形のスロットル弁2を止めねじ31,31により固着されているスロットルシャフト3が吸気通路11の中心軸線Cに直交して軸着されている。
【0019】
更に詳細に説明すると、前記スロットルシャフト3は先端部32が前記吸気通路11の壁面に形成した軸孔12に軸受13を介して支持されているとともに基端部33が、前記吸気通路11の軸受13に対向する側(例えば前面側)に配置された円柱形のシール部材4およびベアリングである軸受5を介して軸支されて前記吸気通路11に気密状態で且つ円滑に回転可能に支持されている。
【0020】
また、前記スロットルボディ1の前記吸気通路11の下方に形成したケース14にはモーターである電動アクチュエーター6が前面に形成した収納凹部15に回転軸61を露出させた状態で収納されている。
【0021】
更に、前記スロットルシャフト3のスロットルボディ1の前面凹部15に露出している基端部33には、減速ギア62を介して前記電動アクチュエーター6の回転軸61に固着した回転ギア63に噛合する円弧板状のギア部71を有するスロットルギア7が固着されているとともに前記軸受5とスロットルギア7との間に外形が薄型の円筒形を呈するジョイントレバー8が軸線方向に移動可能に嵌挿されている。
【0022】
尚、前記ジョイントレバー8はスロットル弁2の開度がデフォルト位置において前記スロットルボディ1の収納凹部15内に形成された係止突起16に係止してそれ以上の閉方向の回転が規制される係止突片81が形成されている。
【0023】
加えて、前記スロットルシャフト3の基端部33のスロットルギア7の外周囲には、前記スロットルボディ1の前面凹部15と前記ジョイントレバー8との間にリターンスプリング9が連結されているとともに、前記ジョイントレバー8とスロットルギア7との間にジョイントレバースプリング10が連結されている。
【0024】
特に、本実施の形態では前記ジョイントレバースプリング10は前記スロットルギア7のスロットルボディ1側に形成された凹部72に埋没、配置されている。
【0025】
また、本実施の形態では、ばね定数の違いによりジョイントレバースプリング10のスラスト方向の荷重がリターンスプリング9のスラスト方向の荷重よりも大きく設定されており、更に、前記リターンスプリング9は、組み付け時に密着巻き(或いは微少のクリアランス)またはスロットルシャフト3の回転動作に従って密着巻き(或いは微少のクリアランス)になるように設定され、前記回転動作によりジョイントレバー8が可動するように設定されている。
【0026】
以上の構成を有する本実施の形態は、図3および図4に示すように、前記ジョイントレバー8の係止突片81がスロットルボディ1の係止突起16に係止してスロットル弁2の開度が例えばアイドリング時のようなデフォルト位置ではリターンスプリング9は密着或いは微少クリアランス状態にある。また、ジョイントレバースプリング10は初期セット時の付勢力を発揮する長さ状態にあり、そのリターンスプリング9よりも大きく設定されているスラスト方向の荷重よりジョイントレバー8は軸受5側に押圧された状態に位置する。
【0027】
そして、前記デフォルト位置から運転者による操作に基づくスロットル弁2の開方向へのスロットル信号が発せられると、前記電動アクチュエーター6が駆動して回転軸61からの駆動力が減速ギア62を介してスロットルギア7に伝動されてスロットルシャフト3がスロットル弁2を全開する方向に回転する。
【0028】
このとき、前記スロットルボディ1とジョイントレバー8との間に設置されているリターンスプリング9は、ジョイントレバー8の回転に伴って巻き数を増加するとともに密着高さが増加して反転方向の付勢力を発揮する。
【0029】
そのため、リターンスプリング9のスラスト方向の荷重が増加するとともにスロットル弁2を閉じる方向にスロットルシャフト3を回転させるように付勢力を発揮させることになり、そのリターンスプリング9によって、前記ジョイントレバー8はジョイントレバースプリング10のスラスト方向の荷重に抗して縮設することで前記軸受5から離れてスロットルシャフト3の基端方向に移動する。
【0030】
そして、再び運転者による走行停止操作などに基づいてスロットル弁2を前記デフォルト位置へ戻すように前記電動アクチュエーター6に送信されると、前記電動アクチュエーター6からの駆動力が切断されてリターンスプリング9が延長した状態から元の密着巻の状態に復帰する際の戻り力により前記スロットル弁2がデフォルト位置に閉じる方向にスロットルシャフト3を回転させるが、本実施の形態ではリターンスプリング9は適切な低荷重で前記ジョイントレバースプリング10のスラスト方向の荷重力により前記ジョイントレバー8が元のように前記リターンスプリング9を密着させることからリターンスプリング9の共振による損傷を防止することができる。
【0031】
また、本実施の形態では、ジョイントレバースプリング10をスロットルギア7に形成した凹部72に収容するとともにそのスロットルギア7の外周囲にリターンスプリング9の軸線方向の長さが短縮されたことから小型化を図ることが可能で且つ、リターンスプリング9としてよりばね定数の低いものを使用することも可能である。
【0032】
そして、本実施の形態はリターンスプリング9としてばね定数の低いものを用いているので図5に示すように前記図6の従来例に比べてシール部材4として耐圧性の高いものを用いた場合にも、シール部材4を開方向のトルクの上昇ならびに閉方向のトルクの低下が生じない、即ち、スロットル弁2の開方向へのスロットルシャフト3のトルクに伴う電動アクチュエーター6の電流増加による電動アクチュエーター6の寿命の低下、スロットル弁2の閉方向(戻り方向)への速度の遅延や戻り不良を生じないような条件に合致するようにシール部材4を最適化して設定することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 スロットルボディ、2 スロットル弁、3 スロットルシャフト、4 シール部材、5 軸受、6 電動アクチュエーター、7 スロットルギア、8 ジョイントレバー、9 リターンスプリング、10 ジョイントレバースプリング、11 吸気通路、12 軸孔、13 軸受、14 ケース、15 収納凹部、16 係止突起、31 止めねじ、32 先端部、33 基端部、61 回転軸、62 減速ギア、63 回転ギア、71 ギア部、72 凹部、81 係止突片、C 吸気通路の中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6