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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】粘膜付着性経口製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/24 20060101AFI20230412BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230412BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230412BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A61K9/24
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/02
A61K47/28
A61K9/70
A61K38/28
A61K31/56
A61K45/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019526870
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2018023851
(87)【国際公開番号】W WO2019004088
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017125572
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502414389
【氏名又は名称】株式会社バイオセレンタック
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】高田 寛治
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-298063(JP,A)
【文献】特表2014-500258(JP,A)
【文献】特表平10-501816(JP,A)
【文献】特表2015-519403(JP,A)
【文献】特開2006-111558(JP,A)
【文献】特表2009-535397(JP,A)
【文献】特表2002-531394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水不溶性物質から実質的に成る基底層と、(b)基底層の上方に位置し、薬物を含み、粘膜付着性物質を含まない薬物層と、(c)経口製剤の薬物層側の表面の一部に位置し、粘膜付着性物質を含む付着部分とを、有する粘膜付着性経口製剤であって、
付着部分は薬物層側の表面の外周部に位置し、
付着部分は中空の円筒形であり、基底層の表面上の外周部に位置し、円筒の中空部分に薬物層が位置し、
薬物層及び付着部分の表面に、該表面を覆う腸溶性コーティングを有する、小腸粘膜付着用の粘膜付着性経口製剤。
【請求項2】
前記付着部分は粘膜付着性物質から実質的に成るものである請求項1に記載の経口製剤
【請求項3】
水不溶性物質がエチルセルロース、酢酸セルロース、キチン、キトサン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、カルボキシメチルエチルセルロース、結晶セルロース、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、酢酸フタル酸セルロース、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、ケイ酸マグネシウム、コレステロール、水不溶性のグリセリン脂肪酸エステル類から成る群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の経口製剤。
【請求項4】
粘膜付着性物質がカルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸及びその塩、アルギン酸およびその塩類及びアルギン酸プロピレングリコールエステルから成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項5】
錠剤又はフィルム剤の剤形を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項6】
薬物がインスリンおよびインスリン誘導体、GLP-1受動体作動薬、睡眠導入薬、ステロイド薬、及び消炎薬から成る群から選択される少なくとも一種であり、剤形が錠剤である請求項5に記載の経口製剤。
【請求項7】
薬物がインスリンおよびインスリン誘導体、GLP-1受動体作動薬、睡眠導入薬、ステロイド薬、及び消炎薬から成る群から選択される少なくとも一種であり、剤形がフィルム剤である請求項5に記載の経口製剤。
【請求項8】
製剤の全表面を覆う腸溶性コーティングを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項9】
前記腸溶性コーティングは小腸内のpHにて溶解するものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項10】
前記腸溶性コーティングはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はメタクリル酸コポリマーを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項11】
厚さ0.5~10mm及び直径2~20mmの円盤錠剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載の粘膜付着性経口製剤。
【請求項12】
厚さ0.5~10mm、長径2~40mm及び短径1~20mmの楕円錠剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載の粘膜付着性経口製剤。
【請求項13】
厚さ0.05~2mmのフィルム剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載の粘膜付着性経口製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜付着性経口製剤に関し、特に、経口投与後の薬物の吸収率が改善された粘膜付着性経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の吸収機構は、大部分の薬物については単純拡散による受動輸送機構が支配的となっている。特許文献1、2には、吸収機構が単純拡散による薬物の消化管からの吸収率を改善するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)として、消化管粘膜付着性貼付剤(GI-MAPS)が記載されている。また、非特許文献1および特許文献3は粘膜付着性錠剤およびデバイスについて記載している。
【0003】
GI-MAPSは基本的にフィルム剤で三部の層から成り、(a) 水不溶性物質から成る底部の層(基底層)、(b)消化管内での溶解部位を決めるための腸溶性ポリマー物質のフィルムから成る表層、(c)粘膜付着性物質、吸収促進剤、安定化剤と薬物から成る中間層(あるいは薬物層)、の3層構成から成る製剤である。しかし、中間層に薬物とともに配合した、あるいは表層が中間層と接触する面に一面に塗布した粘膜付着性物質は医薬品添加物であるポリカーボフィルに代表されるように水溶性の粘着性ゲルを形成する高分子物質(ポリマー物質)であり、薬物分子が粘膜付着性ポリマー物質のゲル内に閉じこめられるあるいは表層の内側に塗布した粘膜付着性ポリマー物質が存在するために、ゲル内の拡散に時間を要することから粘膜に付着した後の製剤からの薬物分子の放出速度は低く、速い吸収速度を得ることが困難である。実際ポリカーボフィルなどの粘着性ポリマー物質は経口徐放性製剤の主要成分として用いられているからである。
【0004】
また、GI-MAPSは小腸粘膜に付着して低吸収性薬物の吸収率を改善するDDSであるため、服用後に薬効を得るまでには1時間以上の待ち時間lag-timeが生じる。従って、睡眠導入薬や血糖降下を薬効とする糖尿病治療薬のように、服用後に速やかな薬効の発現を必要とする薬物にGI-MAPSを適用しても有効性が低くなる。
【0005】
非特許文献1および特許文献3には、インスリンの経口投与用のDDSが記載されている。インスリンと吸収促進剤と粘膜付着性ゲル形成ポリマー物質などを配合した薄型あるいは突起状錠剤である。服用後、ゲル形成ポリマー物質の機能で小腸粘膜に付着するものの、薬物分子がゲル内を拡散する速度が遅いために高い吸収率が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2002-531394号公報
【文献】特開2006-111558号公報
【文献】特表2015-519403号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Whitehead, Z. Shen and S. Mitragotri, "Oral delivery of macromolecules using intestinal patches: applications for insulin delivery", J. Control. Rel., 98, 37-45, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、薬物の吸収率が高く、薬物の放出速度が早い粘膜付着性経口製剤を提供することにある。
【0009】
本発明は、(a)水不溶性物質から実質的に成る基底層と、(b)基底層の上方に位置し、薬物を含み、粘膜付着性物質を含まない薬物層と、(c)経口製剤の薬物層側の表面の一部に位置し、粘膜付着性物質を含む付着部分とを、有する粘膜付着性経口製剤を提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記付着部分は薬物層側の表面の外周部に位置する。
【0011】
ある一形態においては、前記付着部分は基底層の表面上の外周部に位置し、前記薬物層は基底層の表面上の中央部に位置する。
【0012】
ある一形態においては、前記付着部分は粘膜付着性物質から実質的に成るものである。
【0013】
ある一形態においては、水不溶性物質がエチルセルロース、酢酸セルロース、キチン、キトサン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、カルボキシメチルエチルセルロース、結晶セルロース、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、酢酸フタル酸セルロース、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、ケイ酸マグネシウム、コレステロール、水不溶性のグリセリン脂肪酸エステル類から成る群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
ある一形態においては、粘膜付着性物質がカルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸及びその塩、アルギン酸およびその塩類及びアルギン酸プロピレングリコールエステルから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0015】
ある一形態においては、上記いずれかの経口製剤は錠剤又はフィルム剤の剤形を有する。
【0016】
ある一形態においては、上記いずれかの経口製剤は、薬物がインスリンおよびインスリン誘導体、GLP-1受動体作動薬、睡眠導入薬、ステロイド薬、消炎薬であり、剤形が錠剤である。
【0017】
ある一形態においては、上記いずれかの経口製剤は、薬物が睡眠導入薬、ステロイド薬、消炎薬であり、剤形がフィルム剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の粘膜付着性経口製剤によれば、循環器作用薬などの薬物を速い吸収速度と高い吸収率でもって循環血流中へデリバリーすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の他の実施形態である粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す一部透過斜視図である。
図3】実施例16として製造した本発明の粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す平面図である。
図4】本発明の他の実施形態である粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す平面図である。
図5】in vitro透過実験用のフランツセルを用い実施例10および比較例4のフィルム剤からの薬物のリセプター側への透過速度を比較した結果を示すグラフである。
図6】in vitro透過実験用のフランツセルを用い実施例12および比較例5の製剤からの薬物のリセプター側への透過速度を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の一実施形態である粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す断面図である。図1の粘膜付着性経口製剤の外形は、例えば、円盤形である。また、経口製剤の外形は、底面が楕円形の円盤形でも構わない。この粘膜付着性経口製剤は、(a)基底層1と、(b)基底層の表面上に位置する薬物層2と、(c)経口製剤の薬物層側の表面の一部に位置する付着部分3とを有する。
【0021】
薬物層2は基底層1の表面に接触している必要はない。基底層1と薬物層2の間に中間層が存在していても良い。中間層は、好ましくは水不溶性であるが、水溶性物質で作られていても良い。中間層の具体例としては、粘膜付着性物質を含む層が挙げられる。経口製剤において、粘膜に付着する面の方向を上とした場合、薬物層2は基底層1の上方に位置していればよい。薬物層2は、好ましくは、経口製剤の上面に露出した表面を有する。あるいは薬物層2の上に腸溶性コーティング膜が存在する。
【0022】
付着部分3の位置は、好ましくは、経口製剤の薬物層側の表面の外周部である。そうすることで、薬物層が粘膜の表面に付着し易くなる。しかしながら、薬物の吸収速度を上げて吸収率を高くする効果は、薬物を粘膜付着性物質から分離して配置することで達成されるので、付着部分3の位置はこれに限定されず、経口製剤の薬物層側の表面の一部に配置されていればよい。
【0023】
図2は本発明の他の実施形態である粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す一部透過斜視図である。この粘膜付着性経口製剤では、付着部分3は基底層1の表面上の外周部に位置し、薬物層2は基底層1の表面上の中央部に位置する。
【0024】
図3は、実施例16として製造した本発明の粘膜付着性経口製剤の構造を模式的に示す平面図である。この粘膜付着性経口製剤は、水不溶性塗膜である基底層(非表示)と、基底層の上方に位置する薬物層2と、経口製剤の薬物層側の表面の一部に位置する付着部分3とを有する。
【0025】
(a)基底層
基底層は、本発明の経口製剤が粘膜へ付着した後、製剤内への唾液、胃液、腸液の侵入を阻止して薬物を加水分解などによる劣化から保護するためのバリヤー層を形成する機能を有している。基底層を形成するための水不溶性物質は生体内、特に消化器官内で安定性を有する物質を使用する。
【0026】
経口製剤用の医薬品添加物の中の代表的な水不溶性物質としては、酢酸セルロース、エチルセルロース、キチン、キトサン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、カルボキシメチルエチルセルロース、結晶セルロース、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、及び酢酸フタル酸セルロース等の水不溶性ポリマー賦形剤、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、及びアセチルグリセリン脂肪酸エステル等の高級脂肪酸、ケイ酸マグネシウム、コレステロール、及び水不溶性のグリセリン脂肪酸エステルなどがある。しかし、これらの水不溶性物質に限定されるものではない。基底層の形態は原料粉末を圧縮した薄層、原料から成形されたフィルム、又は原料溶液を塗布乾燥した塗膜であってよい。
【0027】
基底層は、例えば、打錠時に臼の中に最下層として上記の水不溶性物質を充填して形成して良い。あるいは、付着部分及び薬物層を有する錠剤を一旦形成し、その後、酢酸セルロースやエチルセルロースなどの水不溶性物質を溶解したコーティング液を錠剤の片側の底面に塗布することによって基底層を形成しても良い。
【0028】
(b)付着部分
付着部分は、本発明の経口製剤に粘膜の表面へ付着する機能を有している。付着部分を形成するための粘膜付着性物質としては、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸及びその塩、アルギン酸およびその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどの粘着性物質が代表的である。カルボキシビニルポリマーは、例えば、カーボポール、及びハイビスワコーという商品名にて市販されている。粘膜付着性物質は、好ましくは4000~600万の数平均分子量を有する。
【0029】
本発明で使用する粘膜付着性物質はこれらに限定されず、体内の粘膜に付着することができる粘着性物質であれば、使用することができる。付着部分の形態は原料粉末を圧縮した薄層、原料から成形されたフィルム、又は原料溶液を塗布乾燥した塗膜であってよい。
【0030】
粘膜付着性物質は消化管内の水分にふれると膨潤してヒドロゲルを形成して薬物分子の拡散速度を著しく低下してしまう。そのために、粘膜付着性物質を薬物層に含有させたり、薬物層の上部に層をなすように配置すると、薬物の吸収速度を遅くしてしまう。従って、付着部分は、好ましくは、経口製剤の薬物層側の表面の一部に配置する。
【0031】
例えば、付着部分が中空の円筒形であり、基底層の表面上の外周部に位置し、円筒の中空部分に薬物層が位置する場合、かかる構造の経口製剤が粘膜に付着すると、薬物層は、経口製剤が付着する粘膜と付着部分と基底層に囲まれる。その結果、周辺の消化液などの水分が薬物層に浸入して薬物が希釈又は加水分解などで劣化すること、又は薬物が粘膜以外の部分に拡散することが防止される。また、かかる場合、吸収促進剤と薬物が分離、希釈されることなく製剤内の同一空間内に維持され、吸収細胞と製剤との間に薬物分子の高い濃度勾配が形成されることにより、薬物の吸収率が高くなり、特に好ましい。
【0032】
本発明製剤の付着力は消化管粘膜と接触する付着部分の面積に依存するので、例えば、図4に示すように付着部分3の面積を拡大する、即ち、薬物層2の面積に対して相対的に大きくすることにより、付着力を高めることができる。
【0033】
(c)薬物層
薬物層は薬効を奏する薬物を含み、これを放出する機能を有している。薬物層は、経口製剤が付着した箇所で溶解し、そこから放出された薬物分子が粘膜上に存在する吸収細胞に吸収されて全身循環へ移行し、その後、作用部位へ送達されて、薬効を発揮する。薬物の吸収速度を向上させる目的で、薬物層は粘膜付着性物質を含まない。一方、薬物層は、薬物以外に吸収促進剤及び安定化剤等を含んでよい。
【0034】
例えば、吸収促進剤として界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は、溶解性の低い薬物の溶解を促進するとともに粘膜透過性の低い薬物の膜透過性、吸収を促進してバイオアベイラビリティや効果を高める機能を有する。好ましい界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノオレイン酸、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセライドである。
【0035】
本発明で使用できる界面活性剤の代表的な市販品としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマし油誘導体HCO-60、CREMOPHOR RH-40 (ポリオキシ-40水素化ひまし油)、LABRAFIL M 2125 (リノレオイルポリオキシ-6グリセリド)及び1944 (オレオイルポリオキシ-6 グリセリド)、Polysorbate 80、トコフェロイルTPGS、MIGLYOL 812 (カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド)、CAPMUL MCM (中鎖モノグリセリド)、CAPMUL PG-8 (プロピレングリコールカプリリルモノ及びジグリセリド)、CREMOPHOR EL (ポリオキシ 35 ひまし油)、LABRASOL (カプリロカプロイルポリオキシ-8 グリセリド)、TRANSCUTOL P (ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、 PLUROL Oleique CC (ポリグリセリル-6ジオレイン酸エステル)、 LAUROGLYCOL 90 (プロピレングリコールモノラウリン酸エステル)、 CAPRYOL 90 (プロピレングリコールモノカプリル酸)、 MYVACETS (アセチル化モノグリセリド)、 ARLACELS (ソルビタン脂肪酸エステル)、 PLURONICS (プロピレン及びエチレンオキシドのコポリマー)、 BRIJ 30 (ポリオキシエチレン4ラウリルエーテル)、 GELUCIRE 44/14 (ラウロイルポリオキシル-32グリセリド)、及びGELUCIRE 33/01 (脂肪酸のグリセロールエステル)、 LIPOSORB.RTM. P-20 (Lipochem Inc., Patterson N.J.); CAPMUL.RTM. POE-0 (Abitec Corp., Janesville, Wis.)などが挙げられる。
【0036】
本発明で用いることができる吸収促進剤は、例えば、カプリン酸、カプリン酸ナトリウムおよびその誘導体、例えば N-[8-(2-hydroxybenzoyl)amino]caprylic acid (SNAC) および Sodium N-[8-(2-hydroxybenzoyl)amino]decanate (SNAD)、およびクエン酸、酒石酸などの有機酸である。
【0037】
本発明で用いることができる吸収促進剤のさらなる例としては脂肪酸、グリチルリチン、グリチルレチン酸、アミノ酸エナミン誘導体(フェニルグリシンのアセト酢酸エチルエナミン誘導体など)、サリチル酸ナトリウム又はその誘導体などが挙げられる。
【0038】
薬物が唾液や胃液、消化酵素により加水分解を受けやすい場合、安定化剤を添加することにより薬物のより良好な吸収性を得ることができる。例えば、カゼイン、ラクトフェリンなどの天然物由来の蛋白分解酵素阻害剤などが代表的な安定化剤であり、消化酵素の有する加水分解作用に対する阻害作用を示す。しかし、これらの安定化剤に限定されるものではない。
【0039】
好ましい安定化剤は蛋白質またはペプシン阻害剤である。ここでいう蛋白質の具体例は、コラーゲン、カゼイン、ラクトフェリン、アルブミン、卵白である。
【0040】
本発明を適用することが特に望まれる薬物としては以下の範疇に属する薬物があげられるが、これらの薬物に限定されるものではない。
【0041】
(1)睡眠導入薬
睡眠導入薬は不眠症に悩む患者が頓服用として服用する製剤であり、一般的には服用後30分以内に眠りにつけないと効果に満足できない患者が多い。睡眠導入薬の具体的としては、トリアゾラム、ゾピクロン、エスゾピクロン、ゾルピデム酒石酸塩、ブロチゾラム、ロルメタゼパム、リルマザホン塩酸塩水和物、フルニトラゼパム、エスタゾラム、ニトラゼパム、グアゼパム、ハロキサゾラム、フルラゼパム塩酸塩、ラメルテオン、ブロモバレリル尿素などがあげられる。
【0042】
(2)糖尿病治療薬
服薬後のすみやかな血糖降下作用が期待される薬物として、インスリンおよびその誘導体、GLP-1(glucagon-like peptide 1) 受容体作動薬などがあげられる。食後の急激な血糖の上昇を抑制するためには、服薬後の速い吸収速度と高い吸収率が求められる。GLP-1受容体作動薬としては、エキセナチド、リキシセナチド、リラグルチド、ヂュラグルチド、アルビグルチド、セマグルチドなどが知られている。
【0043】
(3)消炎薬
口内炎は口腔粘膜に発症する炎症であり、消炎薬の塗布が有効である。しかし、口中には唾液による洗浄作用以外に舌や口腔粘膜の物理的活動により塗布した消炎薬が炎症部位に長時間にわたり滞留することが困難である。本発明の3部構成の粘膜付着性経口製剤を消炎薬に適用すれば、口腔内の炎症部位に長時間にわたり付着し、炎症部位と製剤内の間において消炎薬の高い濃度勾配を維持でき、炎症部位へ消炎薬を高い効率でデリバリーすることにより優れた薬効を得ることができる。本発明の3部構成の粘膜付着性経口製剤を口腔内局所療法に用いる場合の消炎薬としては、各種のステロイド薬や非ステロイド系消炎薬が相応しい。
【0044】
(4)その他の薬物など
消化管粘膜透過性が低くあるいは消化酵素などによる加水分解で著しく活性が低下する薬物としては、蛋白質、ペプチド、核酸、核酸塩基、多糖類があげられる。例えば,デスモプレッシン、エリスロポエチン、G-CSF、インターフェロン、低分子ヘパリンなどである。これらの薬物に本発明の粘膜付着性経口製剤を適用すれば、消化管粘膜からの高い吸収率が得られるので、経口製剤としての可能性が高まる。天然由来の蛋白質は消化酵素に対する耐性が低く加水分解を受けやすい。しかし、ポリエチレングリコールで架橋した蛋白質、糖蛋白質などの修飾蛋白質、非天然アミノ酸で置換したペプチド/蛋白質はプロテアーゼに対して耐性があるので、本発明を適用する薬物としてより適切である。
【0045】
本発明の経口製剤における有効成分である薬物の含有量は所望の薬効の種類及び強度に応じて適宜調節される。一般的には、薬物の含有量は、経口製剤を基準にして0.01~50重量%、好ましくは0.05~40重量%、より好ましくは0.1~30重量%である。
【0046】
本発明の経口製剤は、例えば、次の方法により製造することができる。すなわち、先ず打錠機の臼の底部に水不溶性物質を充填する。ついで粘膜付着性物質を臼の外周に沿って充填し、最後に薬物と吸収促進剤あるいは場合によっては安定化剤を含む混合物を臼の中央部に充填し、杵で加圧することにより3部構成の錠剤が得られる。
【0047】
あるいは、先ず粘膜付着性物質を打錠機の臼の外周に沿って充填する。次いで、薬物と吸収促進剤あるいは場合によっては安定化剤を含む混合物を打錠機の臼の中央部に充填し、杵で加圧することにより2部構成の錠剤を得る。その後、エチルセルロースあるいは酢酸セルロースなどの水不溶性ポリマーの液を用いて錠剤の底面と側面をコーティングすることにより3部構成の錠剤が得られる。
【0048】
本発明の経口製剤は錠剤に限定されるものではなく、薄いフィルム状の製剤の形態をとることも可能である。例えば、酢酸セルロースなどの水不溶性物質を主たる成分とするフィルム上にポリカーボフィルなどの粘膜付着性物質を溶解した液を輪状に塗布する。中央部に薬物、吸収促進剤、安定化剤などを塗布し、乾燥することによっても3部構成のフィルム剤を製造することができる。
【0049】
また、水不溶性物質を主たる成分とするフィルム上に、粘膜付着性物質で作成した円形のフィルムの中央部をくりぬいた輪状のフィルムを載せて貼り付け、中央のくりぬいた穴の部分に薬物、吸収促進剤、安定化剤などを塗布し、乾燥させることによっても同様に3部構成のフィルム剤を製造することができる。
【0050】
本発明の粘膜付着性経口製剤の形状及び寸法は、経口で服用できるものであれば何ら規定されない。例えば、粘膜付着性経口製剤が錠剤の剤形を有する場合、形状は、一般に円盤状あるいは楕円状になる。その場合、円盤錠剤あるいは楕円錠剤の厚さは0.5~10mm、好ましくは1~5mmになり、円盤錠剤の直径は2~20mm、好ましくは5~15mmになる。楕円錠剤の長径は2~40mm、好ましくは10~30mmになる。楕円錠剤の短径は1~20mm、好ましくは7~15mmになる。また、粘膜付着性経口製剤がフィルム剤の剤形を有する場合、その厚さは0.05~2mm、好ましくは0.5~1mmになる。
【0051】
また、本発明の粘膜付着性経口製剤は、薬物層や付着部分の表面を被覆し、付着することが予定される体内の部位において溶解するコーティングを有しても良い。例えば、腸溶性コーティング剤を用いて薬物層や付着部分を被覆した場合、あるいは腸溶性コーティング剤を用いて三部構造を有する錠剤の全表面を被覆した場合には、粘膜付着性経口製剤を小腸粘膜に付着させて、小腸からの速い速度で高い吸収率を得ることが可能となる。
【0052】
本製剤の複数個をもって1回の投与量とする、いわゆるmultiple-unit systemの場合、異なる腸溶性コーティング剤を用いて個々の製剤のコーティングを行ってもよいし、異種のコーティング剤の混合物を用いてコーティングを行っても良い。また1種の腸溶性コーティング剤ですます場合には、個々の製剤に施す腸溶性コーティングの厚みを変えてもよい。そうすることで、消化管内の同一部位でコーティング層が溶解し、製剤同士が付着する問題が防止される。
【0053】
本発明の粘膜付着性経口製剤の消化管内における標的付着部位を広範囲、例えば小腸上部から小腸下部、にわたり設定したい場合には、1回あたりの本発明の粘膜付着性経口製剤の投与個数を複数個とし、かつ異なる小腸内のpHにて溶解する腸溶性コーティング剤を表層膜に用いることにより解決することができる。代表的な腸溶性コーティング剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(商品名「HPMCP(Hypromellose Phthalate)、信越化学工業株式会社製)は小腸上部、メタクリル酸コポリマー(商品名「オイドラギットL100」、Evonik Rohm GmbH社製、樋口商会販売)は小腸中部、メタクリル酸コポリマー(商品名「オイドラギットS100」、Evonik Rohm GmbH社製、樋口商会販売)は小腸下部などのpHで溶解する。例えば、1回あたりに3個の本発明の粘膜付着性経口製剤で治療するMultiple-unit systemの場合、(1)HPMCP55、(2)オイドラギットL100、(3)オイドラギットS100を各々の表層膜とすることにより解決できる。また、1回あたりに5個の本発明の粘膜付着性経口製剤で治療するMultiple-unit systemの場合、(1)HPMCP55、(2)HPMCP55とオイドラギットL100の混合物、(3)オイドラギットL100、(4)オイドラギットL100とオイドラギットS100の混合物、(5)オイドラギットS100を表層膜とすることにより解決できる。
【実施例
【0054】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。但し、実施例1~9は参考例である。
【0055】
(実施例1)
酢酸セルロースの100mgを打錠機(市橋精機株式会社製単発打錠機「HANDTAB100」(商品名))の直径15mmの臼の底部に薄く均一にいれた。臼の内部形状は円筒形である。CBC社販売のカルボキシビニルポリマー「Carbopol 974PNF」(商品名、製造元Lubrizd Advanced Materials Inc.)の50mgを臼の周辺部に沿って入れた。カルボキシメチルセルロースの93mgを臼の中心部に均一となるように入れ、つづいてニトラゼパムの2mgとクエン酸の5mgの混合物を入れた。約15kNの力で打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する本発明の錠剤を作成した。
【0056】
(比較例1)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に薄く均一にいれた。さらに酢酸セルロースの50mgを臼の周辺部に沿って入れた。ニトラゼパムの2mgおよびクエン酸の5mg、の混合物を臼の中心部に均一となるように入れた。単発打錠機を用いて約15kNの力で打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する錠剤を作成した。
【0057】
(実施例2)
100mLの温水で口の中をすすいだ後に、実施例1および比較例1で作成した錠剤を口中の左右の頬の粘膜に貼り付けた。30分後に口中での位置を確認したところ、実施例1の製剤は同じ場所に付着していたが、比較例1の製剤は他所へ移動していた。3日の休薬期間をおいた後、実施例1の製剤を舌下に付着させて服用したところ、約10分後に眠った。
【0058】
(実施例3)
酢酸セルロースの50mgおよびヒドロキシエチルセルロースの50mgの混合物を打錠機の臼の底部に均一にいれた。Carbopol 974PNF の50mgを臼の周辺部に沿って入れた。プレドニゾロンの2mgとカルボキシメチルセルロース98mgの混合物を臼の中心部に均一となるように入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する本発明の錠剤を作成した。
【0059】
(実施例4)
酢酸セルロース、エチルセルロースおよびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン「ポリソルベート80」(ナカライテスク社製)の混合物を酢酸エチルと塩化メチレンの混液に溶解してポリテトラフルオロエチレン(商品名「テフロン(登録商標)」)板の上に延伸することによりフィルムを作成し、直径約1cmの円形に整形した。Carbopol 974PNFの1gを10mLの精製水で溶解した粘調性の液を約3mmの幅でフィルムの外周に沿って塗布した後、乾燥した。トリアムシノロンアセトニド注射用水性縣濁液40mg/mLの10μLを中心部に滴下した後、乾燥を行うことにより、本発明の口腔粘膜付着性経口製剤を得た。
【0060】
(実施例5)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に均一にいれた。Carbopol 974PNFと炭酸ナトリウムの混合物50mg(重量比1:1)を臼の周辺部に沿って入れた。インスリンの1mg、カプリン酸ナトリウムの5mg、カルボキシメチルセルロース94mgの混合物を臼の中心部に均一となるように入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する本発明の錠剤を作成した。
【0061】
(比較例2)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に均一にいれた。同様に酢酸セルロースの50mgを臼の周辺部に沿って入れた。インスリンの1mg、カプリン酸ナトリウムの5mg、カルボキシメチルセルロース94mgの混合物を臼の中心部に均一となるように入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する錠剤を作成した。
【0062】
(実施例6)
実施例5および比較例2において作成した製剤を用いて胃粘膜への付着性試験を行った。ブタの胃を切開して5cmx5cmの大きさに整えた。アルミニウム製の固定台に外科手術用アロンアルファにてブタの胃の奨膜側を貼り付けた。各製剤の酢酸セルロース製の水不溶性の基底層側をディジタルフォースゲージFGN-2(日本電産シンポ(株)製)の先端に両面接着テープで貼り付けた。フォースゲージを下げ製剤が粘膜に接触した時点で停止し、5分間接触させた。その後、フォースゲージを上げていき、製剤が粘膜から離脱する際の剥離圧を測定した。その結果、実施例5の製剤の剥離力は4.3ニュートン、比較例2の製剤の剥離力は1.1ニュートンであった。付着部分を有する製剤(実施例5)は付着部分を持たない比較例2の製剤よりも強い粘膜付着性を示した。また、実施例5と比較例2で作成した錠剤をブタの胃の表面に5分間貼り付けた。ビーカーに入れた200mLの日本薬局方溶出試験第1液(pH1.2)の中に入れ、5分間浸けた後に取り上げたところ、実施例5の製剤は胃に付着した状態で取り出せたが、比較例2の製剤は胃から剥がれてビーカー内に落下した。付着部分を有する製剤(実施例5)は付着部分を持たない比較例2の製剤よりも強い粘膜付着性を示した。
【0063】
(実施例7)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に薄く均一にいれた。Carbopol 974PNFの50mgを臼の周辺部に沿って入れた。リラグルチド注射剤(商品名「ビクトーザ」)の3mLを分画分子量2000カットの透析チューブに入れ、300mLのpH8のバッファーにて透析を行った後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥品とカプリン酸ナトリウムの10mgおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース85mgの混合物を臼の中心部に入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1mmの円盤形を有する本発明の錠剤を作成した。
【0064】
(実施例8)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に薄く均一にいれた。Carbopol 971P(製造元Lubrizd Advanced Materials Inc., CBC社販売)の50mgを臼の周辺部に沿って入れた。フルオレセインイソチオシアネート標識インスリン(FITCインスリン、自家製)の1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖35mgおよび結晶セルロース35mgの混合物を臼の中心部に入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約2mmの円盤形を有する本発明の錠剤を作成した。
【0065】
(比較例3)
酢酸セルロースの100mgを打錠機の臼の底部に薄く均一にいれた。Carbopol 971P の50mgを臼の周辺部に沿って入れた。FITCインスリンの1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖17.5mg、結晶セルロース17.5mgおよびCarbopol 971P の35mgの混合物を臼の中心部に入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約2mmの円盤形を有する錠剤を作成した。
【0066】
(実施例9)
in vitro透過実験用のフランツセルを用い実施例8および比較例3の錠剤からの薬物のリセプター液への透過量を測定した。リセプター液としてはpH7.4等張リン酸緩衝液を用いた。開始後、1時間にわたってリセプター液からサンプルとして100マイクロリットルを採取した。蛍光検出器付きのHPLC分析装置を用いてリセプター液中へ透過した薬物量を測定して、透過率(%)を求めたところ、次の表1に示す結果が得られた。
【0067】
[表1]
【0068】
ゲル形成粘着性ポリマー物質Carbopol 971Pを薬物層に配合して調製した比較例3の錠剤からリセプター液中への薬物の透過速度は遅く、1時間でわずか約12%であった。しかし、薬物層の周囲に付着部分を配置した実施例8の本発明の錠剤からの薬物のリセプター液中への透過速度は速く、1時間で約90%であり、本発明の錠剤からの速やかな薬物の透過、吸収が認められた。
【0069】
(実施例10)
エチルセルロース550mg、クエン酸トリエチル150mgに塩化メチレン4mlとメタノール1mLを加えて溶かした後、ポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン(登録商標))板の上で均一に延ばして水不溶性の基底膜を作成した後、直径1.5cmの円形のフィルムとした。眼科用診断薬であるフルオレセインナトリウムの50mg、カプリン酸ナトリウムの50mgとカルボキシメチルセルロースナトリウム500mgに精製水1mLを加えて粘稠液とした。粘稠性の薬液の20mgを円形の基底膜の中央部に塗布した。カルボキシビニルポリマー「ハイビスワコー103」(商品名、富士フィルム和光純薬社製)の2g、プロピレングリコールの0.625gに精製水5mLを加えて練って作った5%粘着糊を基底膜の周辺部に塗布した。
【0070】
ついで、オイドラギットL100の1.6gとクエン酸トリエチルの100mgに塩化メチレンの5mLおよびメタノールの5mLを加えて溶かして、テフロン(登録商標)板上に延ばすことにより腸溶性の表層膜を作成した。基底膜と同様に直径1.5cmの円形のフィルムとした後、基底膜にかぶせて真空ポンプで陰圧として脱気と接着を行うことによりフィルム剤を調製した。さらにフィルム剤の外周にエチルセルロース濃厚液を塗布してシールを施すことにより本発明の粘膜付着性フィルム剤とした。
【0071】
(比較例4)
実施例10と同様にエチルセルロースで水不溶性の基底膜を作成し、直径1.5cmの円形のフィルムとした。眼科用診断薬であるフルオレセインナトリウムの50mg、カプリン酸ナトリウムの50mgおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム500mgに精製水1mLを加えて粘稠性の液とした。粘稠性の薬液の20mgを円形の基底膜の中央部に塗布した。実施例10と同様にオイドラギットL100で腸溶性の表層膜を作成し、基底膜と同様に直径1.5cmの円形のフィルムとした。ハイビスワコー103の0.75g、プロピレングリコールの0.625gに精製水5mLを加えて練って作った15%粘着糊を表層膜の全面に塗布した後、基底膜にかぶせて真空ポンプで陰圧にして脱気と接着を行うことによりフィルム剤を調製した。さらにフィルム剤の外周にエチルセルロース濃厚液を塗布してシールを施した。同様にハイビスワコー103で作った20%粘着糊、40%粘着糊を表層膜の全面に塗布したフィルムを用いてさらに2種類のフィルム剤を調製した。
【0072】
(実施例11)
in vitro透過実験用のフランツセルを用い実施例10および比較例4のフィルム剤からの薬物のリセプター側への透過速度を比較した。リセプター液としてはpH7.4等張リン酸緩衝液を用いた。開始後、1時間にわたってリセプター液からサンプルの100マイクロリットルを採取した。蛍光検出器付きのHPLC分析装置を用いてリセプター液中へ透過した薬物量を測定して、透過率(%)を求めたところ、図5に示す結果が得られた。
【0073】
図5を参照して、横軸は透過試験開始後の経過時間(分)を、縦軸は透過率(%)を表す。フィルム剤の外周部に粘着性ポリマー層を形成した実施例10の本発明のフィルム剤(図中の◇)では、薬物の放出速度は速く、1時間以内に100%近い薬物のリセプター液中への透過が認められた。一方、表層膜の全面に粘着性ポリマー層を形成した比較例4のフィルム剤からの薬物の放出速度は著しく低下し、その透過速度は粘着糊中の粘膜付着性ポリマー物質であるハイビスワコー103の含量が増大(×は15%、□は20%、〇は40%)するにつれてより低下した。
【0074】
(実施例12)
Carbopol 971Pの50mgを打錠機の臼の周辺部に沿って入れた。フルオレセインナトリウムの1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖の35mg、結晶セルロースの35mgの混合物を臼の中心部に入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1.0mmの円盤形を有する錠剤を作成した。酢酸セルロース500mg、クエン酸トリエチル100mgをアセトン8mLで溶解して調製した濃厚液を錠剤の底面と側面に塗布して水不溶性膜のコーティングを行って、基底層を形成した。乾燥した後、オイドラギットL100の1.6gとクエン酸トリエチルの100mgを塩化メチレンの8mLおよびメタノールの3mLの混液で溶解した腸溶性コーティング液を錠剤の表面に塗布して乾燥することにより厚さ約1mmの本発明の錠剤を得た。
【0075】
(比較例5)
Carbopol 971Pの50mgを打錠機の臼の周辺部に沿って入れた。実施例12と同様のフルオレセインナトリウム、カプリン酸ナトリウム、白糖および結晶セルロースの混合物に粘膜付着性ポリマー物質であるCarbopol 971Pを約80%、40%、20%、10%となるように添加して臼の中心部に入れた。単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1.0mmの円盤形を有する錠剤を4種類作成した。酢酸セルロース500mg、クエン酸トリエチル100mgをアセトン8mLで溶解して調製した濃厚液を錠剤の底面と側面に塗布して水不溶性膜のコーティングを行うことにより基底層を形成した。乾燥した後、オイドラギットL100の1.6gとクエン酸トリエチルの100mgを塩化メチレンの8mLおよびメタノールの3mLの混液で溶解した腸溶性コーティング液を錠剤の表面に塗布して乾燥することにより厚さ約1mmの4種類の錠剤を得た。
【0076】
(実施例13)
in vitro透過実験用のフランツセルを用い実施例12および比較例5の錠剤からの薬物のリセプター液中への透過速度を比較した。リセプター液としてはpH7.4等張リン酸緩衝液を用いた。開始後、1時間にわたってリセプター液からサンプルとして100マイクロリットルを採取した。蛍光検出器付きのHPLC分析装置を用いてリセプター液中へ透過した薬物量を測定して、透過率(%)を求めたところ、図6に示す結果が得られた。
【0077】
図6を参照して、横軸は透過試験開始後の経過時間(分)を、縦軸は透過率(%)を表す。製剤の外周部にのみに粘着性ポリマー物質Carbopol 971P層を形成した実施例12の本発明の錠剤(図中の〇)では、薬物の放出速度は速く、1時間以内に100%近い薬物のリセプター液中への透過が認められた。一方、粘膜付着性ポリマー物質Carbopol 971Pを薬物層に配合した製剤(比較例5)からの薬物の放出速度は低く、かつ接着性ポリマー物質の薬物層への添加量(■は10%、●は20%、◇は40%、□は80%)が増えると薬物のリセプター液中への透過率は低下した。
【0078】
(実施例14)
フルオレセインナトリウムの1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖の35mg、結晶セルロースの35mgから成る混合物の約60mgを打錠機の臼に均一になるように入れた。Carbopol 971Pの50mgを打錠機の臼の周辺部に沿って入れた。次いでフルオレセインナトリウムの1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖の35mg、結晶セルロースの35mgから成る混合物の約30mgを臼の中心部に入れて単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1.0mmの円盤形を有する錠剤を作成した。酢酸セルロース500mg、クエン酸トリエチル100mgをアセトン8mLで溶解して調製した濃厚液を錠剤の底面と側面に塗布して水不溶性膜のコーティングを行った。乾燥した後、オイドラギットL100の1.6gとクエン酸トリエチルの100mgを塩化メチレンの8mLおよびメタノールの3mLの混液で溶解した腸溶性コーティング液を錠剤の表面に塗布して乾燥することにより厚さ約1mmの本発明の錠剤を得た。
【0079】
(実施例15)
フルオレセインナトリウムの1mg、カプリン酸ナトリウムの20mg、白糖の35mg、結晶セルロースの35mgから成る混合物を臼に入れて単発打錠機を用いて打錠し、直径約15mm、厚さ約1.0mmの錠剤を作成した。酢酸セルロースで作成した直径20mmの基底膜の全面にハイビスワコー103の8g、ポリエチレングリコール400の2.5gに精製水20mLを加えて練って作った粘着糊を塗布し、そのフィルムの中心部に錠剤を載せた。オイドラギットL100で作成した腸溶性の表層膜を作成し、基底膜に貼り付け、真空ポンプで陰圧下、脱気と接着を行うとともに整形してフィルム剤とした。さらにフィルム剤の外周を酢酸セルロース液を塗布して完全にシールを行うことにより本発明のフィルム剤を得た。
【0080】
(実施例16)
市販の000号サイズのカプセルの外径約9.5mm、長さ約26mmの形状に相当する打錠用臼にハイビスワコー103の200mgを入れた。続いてフルオレセインナトリウムの10mg、カプリン酸ナトリウムの100mg、白糖の30mg、結晶セルロースの30mgから成る混合物を、図3に示す2本の線を形成するように入れた。単発打錠機を用いて打錠し、外径約9.5mm、長さ約26mm、厚さ約1.0mmのカプセル形を有する錠剤を作成した。次いで、エチルセルロース液を錠剤の底面と側面に塗布して水不溶性膜のコーティングを行うことにより基底層を形成した。乾燥した後、オイドラギットL100の腸溶性コーティング液を錠剤の表面に塗布して乾燥することにより厚さ約1mmの本発明の錠剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明においては、3部構成を有する製剤としたDDS技術を用いることにより、薬物の吸収速度と吸収率を高めた経口製剤あるいは口腔内疾患用の局所適用経口製剤を開発することが可能となった。
【符号の説明】
【0082】
1…基底層、
2…薬物層、
3…付着部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6